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第4章 外資導入政策 - JBIC 国際協力銀行

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第4章 外資導入政策 - JBIC 国際協力銀行
第4章 外資導入政策
I. 外資に対する基本姿勢
ベトナムは、1988 年の外資導入政策を開始以降、ASEAN 加盟国間による域内貿易自由
化実現を目指すアジア自由貿易地域(AFTA)への本格参加(1996 年)に続き、世界貿易
機構(WTO)への加盟を 2007 年に実現させ、アジア域内諸国に留まらず世界との貿易を
活発化させている。また、2010 年 11 月には環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に係る
協議への参加を公式に表明している。さらに、米越通商協定締結(2000 年)、日越共同イニ
シアティブ(2003 年)、など 2 国間との貿易自由化や経済協力関係の強化も同時に進めて
いる。
2000 年に改正された外国投資法では、外資系企業は国有化されないこと、外国投資家の
資産も没収されないことを保証するなど、外国投資家に対しベトナムへの積極的な参入を
促しており、ベトナム市場開放に向けて着実な実績を積み上げている。2009 年までに通算
12,500 余りのプロジェクトに対して 1,944 億ドル以上の外資を受入れた。2006 年には内資
企業と外資企業が同一環境下で投資事業展開出来ることを目的とした共通投資法・統一企
業法が発効している。ベトナム政府は、今後も、引き続き外資を受入れ活用していくこと
を長期開発戦略の最優先課題としている。
1.日本との二国間協定
日本との関係においては、2003 年 4 月、日本企業の投資を促進することを目的に、「競
争力強化のための投資環境改善に関する日越共同イニシアティブ」(いわゆる「日越共同イ
ニシアティブ」
)を立ち上げ、同年 12 月に、第 1 フェーズとして 44 項目からなる投資環境
改善のための具体的な行動計画を策定した。その後、2006 年 7 月から第 2 フェーズ、2008
年 11 月から第 3 フェーズがそれぞれ始動し、2010 年末に前フェーズが終了したことを受
け、2011 年以降は第 4 フェーズの検討が開始される。
また、2003 年 11 月には、日越投資協定を締結し、ベトナムに投資する日本企業に対す
る最恵国待遇・内国民待遇の付与及び一連のパフォーマンス要求の廃止について同意し、
日本企業の権利の保護を約束している。
さらに、2005 年 12 月の日越首脳会談で EPA に関する検討会合立ち上げに合意した後、
2007 年 1 月以降交渉が開始された。その後 2008 年 9 月に開催された日越 EPA 交渉で大筋
が合意され、2009 年 10 月に日本・ベトナム経済連携協定(JVEPA)が発効された。
(1) 日越共同イニシアティブ
日越共同イニシアティブは、2003 年 4 月の小泉・カイ(当時の日越首相)会談の合意に
基づき、外国投資促進戦略の構築・実施、投資関連規制の見直し、投資関連政府機関の能
32
総論
力向上、投資関連ソフトインフラの改善、経済インフラの開発等を目的として署名された
もので、44 項目(うち項目 40 と 41 は継続協議案件)からなる(図表 4-1)
。同イニシアテ
ィブにより、ベトナム政府は、日本の支援の下で投資関連規制の見直し、投資関連ソフト
インフラ等の整備、物流等経済インフラの整備、成長を支える人材の育成、国有企業改革、
中小企業・民間セクターの振興などの諸改革に取り組んできた。
2004 年 12 月、第 1 フェーズの全 44 項目(細目 125 のサブ項目)の実施状況にかかる確
認・評価が行われ、概ね 70%にあたる項目が実施済み、ないしはスケジュールどおりに進
捗が認められるとの評価を受けている。
さらに、2006 年 7 月に開催された合同委員会では、
細目 125 項目のうち 85%の達成が確認された。同時に、2007 年末までに実施すべき 46 項
目の行動計画が合意された(図表 4-2)。2007 年 11 月に実施された第 2 フェーズの最終評
価では約 93%の項目において達成が認められた。解決されずに残った「輸出入禁止・制限
品目の公表」
「中古車輸入の基準設定」等の項目については、第 3 フェーズに組み込まれる
ことが確認された。
第 3 フェーズでは、工業団地の住環境改善、食品安全、マクロ経済、税制、知的財産、
裾野産業、電力、道路港湾、通信、交通などをテーマに 37 項目(細目 62 のサブ項目)の
行動計画が策定され、2008 年 11 月から始動した(図表 4-3)
。その後 2010 年 12 月、ハノ
イで開催された合同評価促進委員会において、81%の項目で達成が認められた。また、あ
わせて第 4 フェーズに向け、人材育成、裾野産業育成、電力を含めたインフラ整備などの
項目について検討された。なお、次フェーズは 2011 年半ばまでに始動することで合意され
た。
日越共同イニシアティブのこれまでの成果として、日本からの短期滞在ビザの免除、個
人所得税の最高税率の引き下げ(50%から 40%へ)
、電源開発の民間参入促進のほか、国際
間陸路輸送の 24 時間通関体制、知的財産権侵害の取締強化及び罰則の強化、融資の貸出上
限規制の緩和、PPP(官民連携)スキームの導入など、が実現した。
33
総論
図表 4-1 日越共同イニシアティブ第 1 フェーズ要求 44 項目
項
目
項
目
項
目
1)裾野産業の育成・誘致・活用
2)外資系企業向けの法人税優遇
措置の明確化
3)個人所得税の改善
4)外国投資促進活動の拡大(ワ
ンストップ・サービスなど)
5)主要産業の発展戦略と M/P
の策定
6)短期滞在ビザ免除の導入
7)市場参入スケジュール(日越
投資協定)の遵守及び外資系
商社への市場開放
8)不当な投資ルールの廃止
9)100%外資が認められる分野の
明確化
10)労働法
11)土地法
12)部品・原材料などの輸入計画
申請制度の廃止
13)技術移転の促進
14)広告宣伝費などのキャップ制
度の廃止
15)30%以上出資の合弁企業の入
札方式義務付けの廃止
16)金融機関の資金・資産の海外
運用規制の廃止
17)資本規制の廃止
18)固定資産輸入に関連して起こ
る総投資資本の定義の問題
19)税関実務の透明性・信頼性・
調和化・迅速化・簡素化など
20)税務行政の適正な執行
21)知的財産権業務改善
22)知的財産権権利執行の強化
23)汚職撲滅
24)不正輸入の規制
25)法規範の適正化
26)法執行の適正化
27)法曹人材育成
28)競争法整備
29)国際会計基準への移行
30)手形・小切手決済制度の整備
31)工業標準・計量制度の整備
32)人材育成(IT 人材、職業訓練
など)
33)経済統計の整備
34)都市交通・都市機能
35)運輸の効率化
36)電力分野
37)通信環境の改善
38)廃水処理・産業廃棄物処理
39)経済インフラへの JBIC 国際
金融の積極活用
40)四輪産業育成
41)二輪産業育成
42)電気産業および電子産業の育
成
43)セメント JV 追加投資時最低
出資比率規制(40%)の廃止
44)ベトコンバンクの長期延滞債
権問題
(出所)在越日本国大使館ホームページより作成
34
総論
図表 4-2 日越共同イニシアティブ第 2 フェーズ(要求 7 分野 46 項目および評価)
項
目
項
目
投資促進
①取締役会の決議ルールの改善
②合弁企業の入札に関する意思決定の改善
(6 項目)
③投資に関する制限の明確化
④FS が企業活動を制約しないことの明確化
(◎)
⑤外国投資家による株式保有の円滑化
⑥外国投資の窓口機関の強化
税制
①優遇税制改正時の意見聴取
②法人税の損金項目の拡大
(11 項目)
③移転価格税制の改善
④個人所得税(外国人)の引下げ
⑤個人所得税所得控除制度の導入
⑥自動車の部品輸入関税(トラックのみ△)
⑦電機電子部品の税制
⑧決済制度の整備(◎)
⑨税法・会計法の法令遵守(◎)
⑩法人税申告書類の提出期限の延長
⑪個人所得税申告書類の提出期限の延長(◎)
労働
①違法ストライキに対する厳正な対処
(6 項目)
(◎)
②外資企業および国内企業の最低賃金統一(◎)
③外国契約者の最低賃金廃止(◎)
④時間外労働の上限拡大
⑤強制無期限労働契約の廃止
⑥賃金テーブルの登録情報の適正な扱い(◎)
税関・物流
①輸入計画登録制度の廃止(◎)
②通関書類の簡素化
(11 項目)
③保税貨物の通関手続きの簡素化
④合理的な貨物検査の導入
⑤通関手続きに関する見解の統一
⑥国際間陸路輸送の円滑化措置
⑦物流基幹道路の安全性向上
⑧国際貨物ターミナルの改善(△)
⑨輸出入禁止・制限品目の公表(P)
⑩不正輸入の防止
⑪中古車輸入の基準設定(P)
法整備・法執行
①環境規制の適切な執行
②技術移転契約の基準の明確化(◎)
(4 項目)
③知的財産権侵害の取締強化(◎)
④法律相談窓口の強化
産業
①電子産業マスタープランの策定(P)
②裾野産業マスタープラン・二輪車産業マスタ
(4 項目)
ープランの策定(◎)
③自動車産業発展のための計画策定
④製造業で活躍出来る技術者の養成(△)
インフラ整備
①通信サービスの向上(◎)
②電力供給の安定(◎)
(4 項目)
③電源開発への民間参入促進(◎)
④都市内交通の安全性の向上
個別事項
①商社活動の拡大
②完成車輸入販売の外資開放
(6 項目)
③物流事業の外資開放
④合弁企業のパートナーとの意見の不一致
⑤鉱業権の付与
⑥ベトナム船籍取得の船齢 15 歳制限の廃止
35
総論
(注)2007 年 11 月に開催された合同委員会最終評価において、評価が高かった項目(◎)
、評価が低かっ
た項目(△)
、日本側とベトナム側で認識の不一致があった項目(P)を下線で記した
(出所)在越日本国大使館ホームページより作成
図表 4-3 日越共同イニシアティブ第 3 フェーズ(7 分野 37 項目)
大項目(項目数)
WT1
小項目
法制度・投資環境(7) ①取締役決議ルールの改善、②外国投資窓口機能の強化、③ワーカーの生活
環境インフラ整備、④食の安全確保、⑤報道被害の予防対策、⑥流通業規制
の緩和、⑦マクロ経済の安定化
WT2
税務・会計(5)
①法人税損金項目の明確化、②短期滞在者免税手続きの改善、③VAT インボ
イスの公正な運用、④戦略的投資家の選定と譲渡価格の決定方法、⑤貸出上
限規制の緩和と適正水準のプライム・レートの設定
WT3
労働(7)
①不適法なストライキへの対処、②同発生後の対応、③最低賃金改定案の意
見交換、④給与体系表および昇給ルールの見直し、⑤時間外労働拡大、⑥強
制無期限労働契約、⑦人材育成の支援策
WT4
物流・税関(2)
①国際間陸路輸送円滑化、②国際貨物ターミナル改善
WT5
知的財産権(3)
①知的財産権侵害の取締強化、②同制度改善、③同啓蒙活動
WT6
産業(3)
①裾野産業育成、②自動車産業育成、③ベトナム政府と日本自動車工業会
(JAMA)会合の定期開催
WT7
インフラ整備(10)
①電力(5 項目。電源開発の促進、IPP、BOO・BOT 案件の促進、PPP ス
キームの導入など)
、②港湾・道路(3 項目。整備、改善など)
、③通信サー
ビス向上、④都市内交通の安全性・利便性向上
(出所)在越日本国大使館ホームページより作成
(2) 日越投資協定
日越投資協定(2003 年 11 月調印、2004 年 12 月発効)は、日本の投資家、投資企業保
護の法的裏付けとしての意味を持っており、本協定では、①内国民待遇および最恵国待遇
の原則供与、②パフォーマンス要求(輸出義務、現地調達義務、役員の国籍制限、技術移
転制限、等)の原則禁止、を定めている。また、知的財産権の保護や紛争解決のための手
続きが規定されているほか、通信、金融、タバコ等の例外分野もこの協定に盛り込まれる
など、ベトナムへの投資促進に向けて高いレベルの内容になっているとの評価がある。
本協定により、不透明とされてきたベトナムの投資規制運用が明確になることが期待さ
れている。
(3) 日越経済連携協定(JVEPA)
日越経済連携協定(2008 年 12 月調印、2009 年 10 月発効)は、物品およびサービスの
自由化および投資の円滑化、人の移動、知的財産等の分野における協力について二国間で
締約した協定である。本協定の発効により、物品の貿易に関しては最終的に 2006 年当時の
貿易総額の 92%相当分の関税が撤廃される見込みである。
具体的には、日本側は輸入額の 95%を 10 年間で無税化する。また、ほぼすべての鉱工業
36
総論
製品につき即時関税撤廃、農産品は 7 年間で撤廃などのほか、水産品では、えびや同加工
品は即時、冷凍たこなどは 5 年間でそれぞれ関税を撤廃する。
同様に、ベトナム側は輸入額の 88%を 10 年間で無税化することになる。電気製品では、
フラットパネル及び DVD 部品は 2 年間、デジタルカメラは 4 年間、カラーテレビは 8 年間
でそれぞれ関税を撤廃する。農林水産品の多くの品目は即時、または 10 年間で関税を撤廃
する。
2.米国との二国間協定
米国との関係においては、1994 年に経済制裁解除後、1995 年 7 月米越国交正常化が実
現した。2000 年 10 月には米国クリントン大統領が初めてベトナム訪問し、米越二国間通
商協定3が 2001 年 12 月発効したが、米越間の真の通商取引正常化には、1974 年通商法・
ジャクソン-ヴァニック修正条項の撤廃4について米国議会の承認が必要であった。2006 年 5
月、米国通商代表部(USTR)とベトナム商業省は、ベトナムの WTO 加盟交渉を契機とし
て、工業製品、IT/サービス、農産品の各分野で関税・非関税障壁の撤廃ないし大幅削減、
通信・金融・流通サービスを含む投資自由化・環境整備による市場アクセス改善や知的所
有権保護など二国間合意に達した(図表 4-4)
。
その後、2007 年に公表された同協定の 5 カ年評価の中で、両国間貿易の前進が認められ
た。また、同年の WTO 加盟も大きく評価されたことを受け、ベトナムは最恵国待遇
(Permanent Normal Trade Relations)を享受できるようになった。
図表 4-4 米越二国間合意内容(抜粋)
(1)農業分野
項目
関税率引下げ
内容
現行
WTO 加盟後
平均関税率 27%
同 15%(対象品目は綿花、牛肉、豚肉、骨なし牛肉、乳
製品等米国からの全食糧輸入品 3/4 以上)
WTO 基準に則した食品衛生検査の手法を導入。米国との
関係では、ベトナムは米国の食品安全検査システムを同等
と認め、新しい食品衛生基準や技術を導入するに際し、米
国に事前相談する等。
食品衛生検査
(2)工業分野
項目
内容(WTO 加盟後)
関税率引下げ
米国からの工業製品輸入の 94%以上の品目について、WTO 加盟後 15%以下への
3
4
モノ、サービス、投資、財産権など包括的な内容を含むもの。
市場経済が導入されていない、或いは人権抑圧的な特定の国との正常な通商関係を禁止するもの。米国
大統領はこの条項適用を免除する権限があり、ベトナムについては 1998 年以降毎年免除適用を繰り返し
てきた。
37
総論
関税率引下げを実施。
製品(例)
IT 製品
関税率ゼロとする。
化粧品、医薬品
化粧品に関して現行 44%から 17.9%まで直ちに引下げ。
医薬品に関して 5 年以内に 2.5%まで引下げ。
民間航空機
民間航空機とエンジンについて 7 年以内に関税撤廃。
航空機部品に関して 7 年以内に関税率を 9%以下まで引下げ。
自動車および部品
米国の自動車、特に SUV に関する関税率の 50%引下げを実施。
自動車部品に関し、現行 19%から 13%まで引下げ。
大型バイクに関し、56%引下げ、バイク部品に関して 32%まで引下げ。
国営企業
国営企業は、国際取引においては商業ベースの売買を行うことを確認。
(3)サービス分野
項目
内容
市場開放
業種(例)
現行
WTO 加盟後
銀行・証券
外国銀行は支店設置
を認められているが、
現地法人は 49%まで
のマイナー出資しか
認められていない。
外国証券は駐在員事
務所の開設のみが認
められている。
保険
外国の保険会社は支
店設置を認められて
いない。現地法人設立
は J/V 形態のみで、各
種制限がある。
①2007 年 4 月 1 日時点、米国及び他の外国銀行は 100%出資
の現地法人設立が認められる。当該現地法人は完全な内国民
待遇を得る。
②WTO 加盟時、外国証券は 49%までの出資による J/V 設立が
認められる。さらに、5 年後には 100%出資の現地法人設立
が認められる。
③銀行証券以外の金融分野の外資系現地法人は内国民待遇を
得る。
④国際金融資本取引は OECD 加盟国並もしくはそれ以上の水
準とする。
①外国保険会社 100%出資の現地法人設立が認められる。5 年
後には生命保険以外の保険業務を扱う支店設置が認められ
る。
②外国の保険会社が行う業務は法令に定められた分野のみだ
が、1 年後には業務制限を撤廃する。
③外国の保険会社は完全な内国民待遇を得る。
テレコミュニケ
ーション
外資マジョリティの現地法人設立を許可。該当分野は①基本的
な固定電話、移動電話、②インターネットサービスのデータ処
理、③衛星通信サービス、④地下ケーブル通信サービス等。
エネルギー
国内市場を開放し、米国企業が石油ガス探査、開発、コンサル
タント、技術検査と分析、修理補修等の分野で活動出来ること
とする。
外国のエネルギー関連会社の J/V 設立を認め、3∼5 年後には
100%出資の現地法人も認める。
国際宅配便
まず J/V 設立を認め、5 年後に 100%出資の現地法人設立を
許可。
運輸
まず J/V 設立を認め、5 年後に 100%出資の現地法人設立を
許可。
(出所)米国通商代表部(USTR)ホームページより作成
38
総論
3.その他二国間協定締結状況
上記日本と米国の他に、アジアの周辺国のみならず欧州、南米、中東、アフリカなど他
地域に跨って二国間の通商協定・投資協定の締結を行っている。また、ASEAN の一員とし
て、ASEAN が独自に締結する二国間協定が日本(AJCEP)の他に、ASEAN 中国包括的
経済協力枠組み協定(ACFTA)と ASEAN 韓国包括的経済協力枠組み協定(AKFTA)が
あり、それぞれ 2015 年と 2016 年までの関税撤廃が予定されている。
ACFTA を控え、ベトナムと華南経済圏と結びつきが強化されることから、日本企業の関
心も高まっている。北部は投資環境の良好さに加え、部品調達先、そして消費市場として
の中国への期待もあり、2001 年頃から本格的な大型製造業の進出が相次いでいる(詳細は
各論「北部」を参照)。
4.地域・多国間協定の締結状況
WTO 加盟前後で主要貿易国と二国間での通商協定締結を進めてきたが、多国間の通商協
定については、これまでのところ ASEAN 域内での FTA である AFTA 加盟のみに限定され
ている。ただし、ベトナム政府は 2010 年 11 月、米国やシンガポールなど 6 カ国が協議を
進める環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の正式加盟に向けた交渉入りを表明している。
TPP 加盟により、米国企業の進出増による輸出拡大やそれに起因する経済成長が期待さ
れる半面、既進出企業にとっては競争激化によるデメリットも想定される。
図表 4-5 ベトナムの FTA 締結状況
<主な二国間協定>
<ASEANとしての協定>
2010年ACFTA発効
ベトナムは2015年
までに関税撤廃
2004年投資協定発効
2009年EPA発効
中国
日本
<AFTA(ASEAN自由貿易地域)>
2003年枠組協定締結
2016年までにFTA確立
2001年通商協定発効
2007年TIFA締結
インド
米国
2008年AJCEP発効
ベトナムは経済成長
に応じて関税削減
インドネシア
タイ
フィリピン
マレーシア
ブルネイ
TPP
2010年交渉参加表明
日本
2010年AKFTA発効
ベトナムは2016年
までに関税撤廃
シンガポール
韓国
2010年1月1日付けで関税撤廃
オーストラリア
2010年FTA発効
ニュージーランド
カンボジア
ミャンマー
ラオス
FTA交渉中断中
個別国との間で
交渉開始予定
ベトナム
2015年までに関税撤廃予定
EU
(出所)JETRO、MPI 等各種資料より作成
39
総論
5.WTO 加盟に伴う投資環境の変化
ベトナム政府は、WTO 加盟に伴い、国内法を順次改正している。ベトナムへ既に進出し
た外資系企業、およびこれから進出する外資系企業に関連する主な項目として、次の 3 点
が挙げられる。なお、WTO 加盟に伴う法改正や、今後の優遇措置については次章(第5章)
を参照のこと。
①輸出加工企業(Export Processing Enterprise、以下 EPE)に対する優遇
従来、EPE に対しては、輸出実績に応じて様々な税制上の優遇措置を提供してきた。
しかし、WTO 加盟後は、こうした優遇措置は廃止の方向にある5。
②関税
WTO 加盟に伴い、多くの輸入原材料や部品の税率が減少する方向にある。業種や製
品によっては、上記の二国間および多国間の各種協定で定められるインセンティブも享
受できる。
③サービス分野の開放
今後、金融・商業・運輸など多くのサービス分野が外資系企業に開放される計画であ
る。
2009 年 1 月以降、外資 100%での小売流通業への参入が可能となった。それに
伴い、ドイツのメトロ、フランスの Big C、マレーシアのパークソン、台湾のユニマー
ト、韓国のロッテなどが相次いで進出している。日系では、ファミリーマートが 2010
年 1 月に日系コンビニエンスストアとして第 1 号店をホーチミンに出店した。また、100
円均一で知られるダイソー(ベトナムでは 40,000 ドン均一)も展開を開始した。
5
例えば、繊維・衣料業界の EPE に対する優遇措置は既に撤廃されている。
40
総論
II. 改善が進むベトナムの投資受入れ環境
許可手続の迅速化
・投資許可証発給までの期間は、以前は申請から1年程度
を要するのが通例であったが、最近では 15 営業日以内に
許可することが定められており、おおよそ 1 週間∼10 日
間程度の迅速な対応が可能になった。
規制緩和の進展
・外国投資法改正、投資許可に係る事業登録制度の新設、
外資系企業の地場銀行からの外貨購入権、銀行借入れ時
の土地使用権の担保化、外資系企業による国内企業買収
等の容認(2000 年)
。
・固定上限金利制度の廃止、市場連動型貸付金利導入等の
金融面の規制緩和(2000 年)
。
内外企業の無差別化
・法人所得税法改正、外資系企業の税率を国内企業の税率
と同じ 28%に統一(2004 年)
。
・労働法改正、外資系企業も労働者の直接雇用が可能に
(2002 年)。
・共通投資法、統一企業法の制定(2006 年)。
地方への権限委譲
・省市人民委員会の投資許可権限の拡大( 3,000 億ドン未満
で条件付きでない分野へ投資する場合は、省レベル人民委員会
あるいは輸出加工区・工業団地管理委員会への投資登録により
投資証明書の取得可能)
(2006 年)
市場経済の国際化
・米越通商協定の発効(2001 年)
・AFTA の最終関税率(0∼5%)の実現(2003 年)
・日越投資協定の発効(2004 年)
・ASEAN 中国包括的経済協力枠組み協定(2004 年)
・ASEAN 韓国包括的経済協力枠組み協定(2006 年)
・WTO 加盟(2007 年)
・国連・安全保障理事会非常任理事国に選出(2008 年∼、
任期 2 年)
・日本・ASEAN 包括的経済連携(2008 年)
・日越経済連携協定の発効(2009 年)
・TPP 交渉参加表明(2010 年)
41
総論
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