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平成22年度大学機関別認証評価 自己評価報告書

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平成22年度大学機関別認証評価 自己評価報告書
平成 22 年度 大学機関別認証評価
自己評価報告書・本編
[日本高等教育評価機構]
平成 22(2010)年 6 月
京都造形芸術大学
京都造形芸術大学
目 次
Ⅰ
建学の精神・大学の基本理念、使命・目的、大学の個性、特色等 ---------- 1
1
Ⅱ
京都造形芸術大学の建学の精神・理念、大学の個性、特色 --------------- 1
京都造形芸術大学の沿革と現況 ----------------------------------------- 3
1
本学の主な沿革 ----------------------------------------------------- 3
2
本学の現況 --------------------------------------------------------- 4
Ⅲ
基準ごとの自己評価 --------------------------------------------------- 7
基準1
建学の精神・大学の基本理念及び使命・目的 ---------------------- 7
基準2
教育研究組織 ------------------------------------------------ 10
基準3
教育課程 ---------------------------------------------------- 18
基準4
学生 -------------------------------------------------------- 37
基準5
教員 -------------------------------------------------------- 53
基準6
職員 -------------------------------------------------------- 63
基準7
管理運営 ---------------------------------------------------- 68
基準8
財務 -------------------------------------------------------- 73
基準9
教育研究環境 ------------------------------------------------ 77
基準10
社会連携 ---------------------------------------------------- 83
基準11
社会的責務 -------------------------------------------------- 91
Ⅳ
特記事項 ------------------------------------------------------------ 96
1
通信教育課程 ------------------------------------------------------ 96
2
「芸術と社会」をテーマにした学部教育プログラムの展開 ------------- 100
3
研究センターによる「京都文芸復興」の研究と実践 ------------------- 105
4
世界アーティストサミット(ARTISTS SUMMIT KYOTO)の開催 ----------- 109
5
こども芸術大学 --------------------------------------------------- 111
京都造形芸術大学
Ⅰ
建学の精神・大学の基本理念、使命・目的、大学の個性、特色等
1
京都造形芸術大学の建学の精神・理念、大学の個性、特色
本学は、短期大学の開学以来、京都という日本を代表する国際的歴史文化都市に立地す
る芸術大学として、芸術教育による人間精神の復興をめざすことを教育の根幹に据え、芸
術による日本の立国(藝術立国)に寄与することを目的としている。
平成 3(1991)年の京都造形芸術大学の開学にあたっては、次の宣言文を掲げている。
【大学設立の宣言】
この大学は現代文明への深い反省と激しい苦悩の中から生まれた。
新しい世紀を目前にして、私たちは今日、大きな壁の前に立たされている。
科学技術と経済論理によって支配された現代社会は、それ故に、
人類史を貫いてきた精神の尊厳、人間であることの意味を、
根底から問われるに至った。
もはや、いわゆる国際化、情報化という手段のみによっては解決できない。
良心を手腕に運用する新しい人間観、世界観の創造こそ大切ではないだろうか。
私たちは、芸術的創造と哲学的思索によって、この課題に応えたい。
この建学の理念の要諦は、物資的発展の影で人間の尊厳が見失われてきた現代文明の矛
盾に対する深い反省を根底におき、豊かな教養に支えられた芸術的創造力によって、その
克服をはかろうとするところにある。
また、平成 12(2000)年、短期大学の統合による総合芸術大学への再編成を機に、新世
紀に向けたビジョンとして「京都文芸復興」を提唱している。「京都文芸復興」の理念を要
言すれば、国際的歴史文化都市、京都を基盤とした 21 世紀の文化環境の保全と創造であり、
ひいては芸術文化による日本の再生である。そのために本学は、経済や政治を価値軸とす
る現代の社会を、芸術文化を通じて人と人とが豊かに交流し、一人ひとりが創造力を発揮
できる社会へと変革するための新たな拠点となることをめざしている。
平成 10(1998)年の通信教育部の開設は、京都という立地を活かし、まさしく大学自ら
が地域や世代を超えた交流拠点となることによって、分断化された日本の社会に生き生き
とした血流を蘇らせようとする試みにほかならない。その理念は、平成 17(2005)年に開
設された「こども芸術大学」(幼児と母親のための教育機関)にも継承されている。
本学は、いまの日本で「芸術」と呼ばれる諸分野のほとんど全てを教育と研究の対象と
していると言ってよいのだが、それらを単に網羅するのではなく、強固な理念を根底に据
えることによって、日々に親密に連携させて運営しているところに、本学の一つの大きな
特色がある。その本学の制度上の特色、教育理念の特色は、本学の通信教育部の運営にも、
そのまま活かされている。教員組織は通学部と通信教育部との間にへだたりを設けず、ゆ
るやかに交替しながらそれぞれを担当して、両方の経験によって教育効果の向上をはかっ
1
京都造形芸術大学
ている。この芸術大学としての一体性は、本学が京都という世界にも稀有な歴史都市に所
在することの強い自覚に発する「京都文芸復興」、そしてそれを通じての日本の「藝術立国」
という、教職員および学生共有の理念ないし志によって、常に生き生きと裏打ちされ、保
証されている。
京都という世界にも稀有な歴史都市の風土と文化を基盤に、芸術文化の探究と実践を通
して人と人とのつながりを回復し、現代文明の矛盾の克服と平和創造をめざして芸術運動
を展開する大学──それが本学の最大の特色である。
『藝術立国─平和を希求する大学をめざして』
2007 年 1 月
30 周年に際して、これまでの歩みを検証し、
次の新たな 30 年の展望と目標を明示
『京都文芸復興』
2000 年 4 月
総合芸術大学への改組を機に、京都に立地することの意味を再確認し、
新しい世紀に向けたビジョンを提示
『通信による芸術教育の開学にあたって』
1998 年 6 月
通信教育の開設の理念を明示
通信教育が芸術運動の重要な基盤であることが語られている
『まだ見ぬわかものたち─瓜生山学園設立の趣旨─』
1976 年秋
学園設立の理念を明示
集い来る若者達に向かって、学園がめざす大学像が語られている
1991 年に起草された「大学設立の宣言」を冒頭に掲載
2
京都造形芸術大学
Ⅱ
京都造形芸術大学の沿革と現況
1
本学の主な沿革
昭和 52(1977)年 4 月
京都芸術短期大学造形芸術学科設置(入学定員 175 人)
昭和 54(1979)年 4 月
京都芸術短期大学専攻科設置
昭和 56(1981)年 4 月
京都芸術短期大学造形芸術学科収容定員変更(絵画・工芸専攻
入学定員 100 人、デザイン専攻入学定員 180 人)
昭和 58(1983)年 4 月
京都芸術短期大学専攻科を 2 年制に変更
昭和 60(1985)年 4 月
京都芸術短期大学造形芸術学科映像専攻設置、デザイン専攻定
員変更(映像専攻 30 人、デザイン専攻入学定員 180 人→150 人)
昭和 62(1987)年 4 月
京都芸術短期大学専攻科映像専攻設置、専攻名称変更
(映像専攻 10 人、絵画・工芸専攻→美術専攻)
平成 3(1991)年 4 月
京都造形芸術大学芸術学部設置(入学定員 100 人)
京都芸術短期大学造形芸術学科定員変更(入学定員 490 人→440
人)
平成 5(1992)年 4 月
京都芸術短期大学専攻科が学位授与機構の認定校となる
平成 7(1995)年 4 月
京都造形芸術大学芸術学部定員変更(入学定員 100 人→130 人、
編入学定員 15 人)
京都芸術短期大学造形芸術学科定員変更(入学定員 440 人→410
人)
平成 8(1996)年 4 月
京都造形芸術大学大学院芸術研究科(修士課程)設置(入学定
員 15 人)
平成 10(1998)年 4 月
京都造形芸術大学通信教育部芸術学部設置(入学定員 300 人)
平成 12(2000)年 4 月
京都造形芸術大学大学院芸術研究科芸術専攻(修士課程)を募
集停止し、芸術文化研究専攻(修士課程、入学定員 8 人)、芸術
表現専攻(修士課程、入学定員 17 人)を設置
京都造形芸術大学大学院芸術研究科芸術専攻(博士後期課程)
設置(入学定員 7 人)
京都造形芸術大学芸術学部芸術学科、美術科、デザイン科及び
京都芸術短期大学を募集停止し、芸術学部に芸術文化学科、歴
史遺産学科、映像・舞台芸術学科、美術・工芸学科、空間演出
デザイン学科、情報デザイン学科、環境デザイン学科を設置(入
学定員 521 人、編入学定員 50 人)
平成 13(2001)年 12 月
京都芸術短期大学の廃止認可
平成 16(2004)年 4 月
京都造形芸術大学芸術学部芸術文化学科を廃止、芸術表現・ア
ートプロデュース学科を設置
大学院修士課程入学定員変更(芸術文化研究専攻入学定員 8 人
→12 人、芸術表現専攻入学定員 17 人→38 人)
平成 18(2006)年 3 月
京都造形芸術大学芸術学部芸術学科、美術科、デザイン科を廃
止
3
京都造形芸術大学
平成 19(2007)年 4 月
京都造形芸術大学芸術学部に映画学科、舞台芸術学科、こども
芸術学科、キャラクターデザイン学科を設置
映像・舞台芸術学科の学生募集停止
美術・工芸学科を美術工芸学科に名称変更
芸術学部定員変更(入学定員 445 人→655 人、編入学定員を 2
年次と 3 年次に分け、50 人→53 人)
通信教育部芸術学部定員変更(入学定員 300 人→650 人、編入
学定員を 2 年次と 3 年次に 700 人)
京都造形芸術大学大学院芸術研究科(通信教育)芸術環境専攻
(修士課程、入学定員 80 人)を設置
2
本学の現況
(1)大学名
京都造形芸術大学
(2)所在地
京都府京都市左京区北白川瓜生山 2-116(瓜生山校地)
京都府京都市左京区田中高原町 27(高原校地)
京都府京都市左京区北白川上終町 4(上終校地)
(3)構成
①学部の構成
学部
学科
芸術表現・アートプロデュース学科
芸術学部
歴史遺産学科
文化遺産/文化財保存修復
映画学科
舞台芸術学科
美術工芸学科
こども芸術学科
映画監督/映画技術/プロデュース/映画俳優
舞台芸術/演技演出/ダンス/舞台デザイン
日本画/洋画/立体造形/陶芸/染織テキスタイル
こども芸術
アニメディレクション/キャラクターデザイン/CG
デザイン
コミュニケーションデザイン/イラストレーション
/映像メディア/プランニングディレクション/先
端アート
空間デザイン/ファッションデザイン/プロダクト
デザイン
環境デザイン/建築デザイン/インテリアデザイン
/ランドスケープデザイン
キャラクターデザイン学科
情報デザイン学科
空間演出デザイン学科
環境デザイン学科
②大学院芸術研究科の構成
研究科
芸術研究科
コース
芸術表現・アートプロデュース/クリエイティブ・
ライティング
専攻
芸術文化研究専攻(修士課程)
芸術表現専攻(修士課程)
芸術専攻(博士後期課程)
4
京都造形芸術大学
③通信教育部芸術学部の構成
学部
通信教育部
芸術学部
学科
芸術学科
コース
芸術学/歴史遺産/文芸
美術科
日本画/洋画/陶芸/染織/写真/アニメーション
デザイン科
情報デザイン/建築デザイン/空間演出デザイン/ランドスケープデ
ザイン
④大学院芸術研究科(通信教育)の構成
研究科
芸術研究科(通信教育)
専攻
芸術環境専攻(修士課程)
(4)学部及び大学院の学生数
①学部の学生数
学部
芸術学部
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
学科
芸術表現・アートプロデュース学科
歴史遺産学科
映画学科
舞台芸術学科
美術工芸学科
こども芸術学科
キャラクターデザイン学科
情報デザイン学科
空間演出デザイン学科
環境デザイン学科
映像・舞台芸術学科
合計
1 年次
52
41
87
39
173
35
61
131
105
57
―
781
2 年次
43
46
81
43
161
29
59
131
108
66
―
767
在籍学生数
3 年次
4 年次
49
42
46
34
84
65
35
36
167
158
30
26
51
42
121
129
96
91
79
64
―
13
758
700
計
186
167
317
153
659
120
213
512
400
266
13
3,006
備考
※1
※1…映像・舞台芸術学科は平成 19(2007)年 4 月に学生募集停止。
②大学院芸術研究科の学生数
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
在籍学生数
研究科
芸術研究科
専攻
芸術文化研究専攻
芸術表現専攻
芸術専攻
合計
修士課程
1 年次 2 年次
12
11
58
52
70
63
計
23
110
133
③通信教育部芸術学部の学生数
学部
通信教育部
芸術学部
学科
芸術学科
美術科
デザイン科
合計
1 年次
博士課程
2 年次 3 年次
5
5
8
8
6
6
備考
計
19
19
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
1 年次
109
147
160
416
5
2 年次
116
322
141
579
在籍学生数
3 年次
314
352
544
1,210
4 年次
807
1,194
1,266
3,267
計
1,346
2,015
2,111
5,472
備考
京都造形芸術大学
④大学院芸術研究科(通信教育)の学生数
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
在籍学生数
研究科
専攻
芸術研究科
(通信教育)
修士課程
2 年次
60
64
124
60
64
124
芸術環境専攻
合計
備考
博士課程
計
1 年次
1 年次
2 年次
3 年次
計
(5) 教員数
教員数
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
学科・専攻
学部・研究科
芸術表現・アートプロデュース学科
歴史遺産学科
映画学科
舞台芸術学科
美術工芸学科
こども芸術学科
キャラクターデザイン学科
情報デザイン学科
空間演出デザイン学科
環境デザイン学科
芸術教養教育センター
芸術教育資格支援センター
その他(芸術学部所属)
小計
芸術専攻
芸術文化研究専攻
芸術表現専攻
小計
芸術学科
美術科
デザイン科
総合教育科目
小計
芸術学部
芸術研究科
通信教育部
芸術学部
芸術研究科
(通信教育)
教授
9
6
4
3
21
4
5
11
6
13
11
2
13
108
1
0
0
1
0
0
0
0
0
芸術環境専攻
小計
合計(教員実数)
専任教員数
准教授
講師 助教
5
4
0
2
0
0
7
0
0
5
0
0
8
1
0
1
2
0
3
4
0
8
3
0
12
1
0
4
3
0
3
3
0
3
0
0
3
1
0
64
22
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
計
18
8
11
8
30
7
12
22
19
20
17
5
17
194
2
0
0
2
0
0
0
0
0
助手
兼任
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
21
32
34
24
77
26
7
55
64
43
74
20
0
477
0
6
12
18
140
96
150
157
543
2
0
0
0
2
0
32
2
111
0
65
0
22
0
0
2
198
0
0
32
914
※通信教育部芸術学部および芸術研究科、芸術研究科(通信教育)の教員は芸術学部教員が兼担している。
※授業を持たない教員も含む。
(6) 職員数
職員数
職種
事務職員
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
専任職員
75
契約職員
85
6
派遣職員
66
その他
189
合計
415
京都造形芸術大学
Ⅲ
基準ごとの自己評価
基準1
建学の精神・大学の基本理念及び使命・目的(教育の理念・目的・目標、
大学の個性、特色等)
1-1
建学の精神・大学の基本理念が学内外に明示されていること。
《1-1の視点》
① 建学の精神・大学の基本理念が学内外に示されているか。
(1) 1-1の事実の説明(現状)
本学の寄附行為は、建学の理念として「この法人は、教育基本法及び学校教育法に従い、
藝術立国の志によって世界の恒久平和に寄与し、これに資する人材の育成を目的とする」
と定めている。その基本となっているものは、『まだ見ぬ わかものたちに』(学園設立の趣
旨)、『通信による芸術教育の開学にあたって』(通信教育部開設の趣旨)、『京都文芸復興』
(総合芸術大学への再編成の趣旨)、『藝術立国─平和を希求する大学をめざして─』(今
後 30 年の学園のビジョン)である。そこに示された基本理念は、教育研究はもとより大学
が行う全ての事業の根幹をなしている。
それらは冊子にまとめられ、入学希望者、在学生、教職員、学園関係者に配布されてい
るほか、ホームページに掲載、公表されている。また、『京都文芸復興』は、新入生に対し
て朗読を行うことが通例となっている。教職員の採用募集の際にも、それらの文章を読み、
基本理念を理解した上で応募することを条件としている。さらに、これまで数回にわたり、
大学の基本理念を全国紙の意見広告として発表してきた。
(2) 1-1の自己評価
基本理念に関する冊子を教職員、学生、保護者に配布し、またホームページや広報媒体
を通じて公表しており、概ね周知は図られている。
(3) 1-1の改善・向上方策(将来計画)
使命・目的の学内外への周知は、様々な媒体を通じて徹底しており、今後もそれを継続
する。周知度を測る方法として、新入生へのアンケート調査に新たな調査項目を取り入れ
る。その結果を参考に、より深い理解を与えるための方策を立案する。
1-2
大学の使命・目的が明確に定められ、かつ学内外に周知されていること。
《1-2の視点》
1-2-①建学の精神・大学の基本理念を踏まえた、大学の使命・目的が明確に定められ
ているか。
1-2-②大学の使命・目的が学生及び教職員に周知されているか。
1-2-③大学の使命・目的が学外に公表されているか。
7
京都造形芸術大学
(1)1-2の事実の説明(現状)
■使命・目的
本学は「芸術的創造と哲学的思索によって良心を手腕に運用する新しい人間観、世界観
の創造」という高い理想を掲げて設立された。この建学の理念を明確化するため、平成 16
(2004)年に『京都文芸復興から藝術立国をめざして─新五ヵ年計画の策定に向けて』を
発表した。以降、
「学生から支持され続ける大学をめざす」ことを宣言し、教育の目的を「芸
術を社会に活かすことのできる人材の育成」に集約して改革に臨んできた。
芸術教育は、ともすれば自己表現の達成に重点が置かれがちであるが、卒業後に社会で
通用する人材として活動をしていくためには、専門的な能力以上に、社会人として求めら
れる基礎力、人間力を身につける必要がある。そのため、芸術によって社会に貢献する高
い志と意欲をもち、自立した一人の人間として、他者と協調・協働をしながら、芸術的創
造力を展開できる力を養うことをめざし、学生への徹底をはかっている。
また、大学が立地する京都の芸術文化を基盤とし、そこから日本の芸術文化の再生を展
望するという視点は、大学院、芸術学部、通信教育部、いずれの教育活動においても徹底
されている。その主な取り組みは次のとおりである。
①芸術と社会とのつながりを重視した教育課程の編成
通信教育部の設置、こども芸術大学の開設を経て、未就学児ならびに 18 歳から中高年層
に至る芸術の生涯学習体系を構築してきた。平成 19(2007)年には、通信教育課程に修士
課程を設置し、芸術学部では、芸術と幼児教育を領域とする「こども芸術学科」など、社
会における芸術の新たな広がりに対応する学科新設を行って、より広範な芸術文化領域に
ついて教育活動を展開している。
②研究センターによる京都文芸復興の実践
複数の研究センターを設置し、京都の芸術文化資産の保全と再生をはかる研究活動を行
っている。舞台芸術研究センターは学内の大小の劇場を実験装置として、伝統芸能から現
代演劇にわたる日本の舞台芸術の実験研究を推進している。また、日本庭園・歴史遺産研
究センターは地域文化遺産の調査研究と保護に関する研究を推進している。
③「芸術と社会」をテーマにした学部教育プログラムの展開
学生たちが積極的に社会に出て行くために必要な基礎力を養いうために、「頭と手を動
かすワークショップ型初年次教育」を導入している。またプロジェクトセンターを設置し
て実際に地元企業や自治体から受託したプロジェクトを学生参加のもとで進めている。こ
れらの取り組みは、平成 20(2008)年度教育 GP(質の高い大学教育推進プログラム)に選
定された。
④芸術による平和創造への取り組み
平成 17(2005)年から世界アーティストサミットを隔年開催している。世界各国からア
ーティストを招聘して芸術家の創造力によって地球的課題に対する解決策を討議し、芸術
による平和創造の意義を学内外に伝える国際プロジェクトである。また、毎年、「戦争と芸
術」展を学内ギャラリーで開催している。これらの大学の理念発信の取り組みに学生を積
極的にさせ、建学の理念を体験的に理解する機会としている。
8
京都造形芸術大学
■周知・公表方法
本学では、毎年 4 月と 10 月に定例の教職員総会を開催するほか、必要に応じて臨時総会
を開催し、理事長、学長が直接に方針の説明を行っている。その際に、常に大学の使命・
目的の周知がはかられている。また、この直接の機会は、教職員が経営方針を理解する場
ともなっている。学生に対しては、理事長による講義を毎年実施し、本学の創設の経緯や
基本理念、使命・目的について直接語る機会を設けており、学生からの直接の質疑応答も
行われている。その他、季刊の学内広報誌「瓜生通信」を通じて、大学の使命・目的に沿
った活動の紹介を行って、周知をはかっている。さらに、建学の理念に基づく学生教員の
諸活動について、報道関係への情報提供を積極的に行っており、毎年約 700 件の新聞記事
が掲載されている。
(2)1-2の自己評価
建学の理念と同様に使命・目的が冊子としてまとめられている。学生には理事長による
講義として、教職員に対しては教職員総会の場で、直接語る機会を設けている。また、本
学の使命・目的を具現化するための事業を設定して展開し、それらの趣旨や活動状況は学
外に対しても積極的に公表している。本学の活動に関する新聞記事掲載は、大学の使命・
目的に沿った活動の発信に寄与している。
(3)1-2の改善・向上方策(将来計画)
本学では、大学の使命・目的に沿った様々な活動が学生教員によって展開されているが、
それぞれの活動が大学の基本理念を踏まえた使命・目的に沿って展開されていることが明
確になるよう意識して公表するよう努める。そのため、大学全体の諸活動の公開発表を統
括する広報セクションの設置など、大学の使命・目的に沿って全体の視点からトータルに
捉えて公表していくための仕組みを整える。
[基準1の自己評価]
本学は、建学の理念こそ教育の根底にあるべきものと考え、新たな事業に取り組む際の
判断基準は建学の理念に合っているかどうかという観点から行っている。その基本理念と
使命は、冊子にまとめられ、大学の活動のすべてにわたる基本的な拠り所となっている。
なお、本学の建学の理念にもとづく大学運営については、平成 19(2007)年 3 月に私学振
興・共済事業団がまとめた『大学経営強化の事例集』に、経営体制の強化の事例(「ガバナ
ンスによる大学運営」)として取り上げられたことを付記する。
[基準1の改善・向上方策(将来計画)]
建学の理念を教育活動の根幹におく大学運営のあり方を堅持し、基本理念、使命・目的
を学生教職員が共有し続け、またそれらを学外に公表することによって一般に周知をはか
る努力を継続する。なお、平成 22(2010)年 7 月に東京・明治神宮外苑にサテライトキャ
ンパスが整備されることから、東京を拠点とした発信にも努めていく。
9
京都造形芸術大学
基準2
教育研究組織(学部、学科、大学院等の教育システム等)
2-1 教育研究の基本的な組織(学部、学科、研究科、附属機関等)が、大学の使命・目
的を達成するための組織として適切に構成され、かつ、各組織相互の適切な関連性
が保たれていること。
《2-1の視点》
2-1-① 教育研究上の目的を達成するために必要な学部、学科、研究科、附属機関等の
教育研究組織が、適切な規模、構成を有しているか。
2-1-② 教育研究の基本的な組織(学部、学科、研究科、附属機関等)が教育研究上の
目的に照らして、それぞれ相互に適切な関連性を保っているか。
(1) 2-1の事実の説明(現状)
■規模、構成
京都造形芸術大学を設置する瓜生山学園は、昭和 52(1977)年に京都芸術短期大学造形
芸術学科を設置し、「藝術立国」すなわち芸術文化による日本の再生に寄与することをめざ
して、芸術の分野のみを対象として教育研究を展開してきた。
平成 3(1991)年に京都造形芸術大学を設置した後、大学院芸術研究科、次いで通信教育
部を設置し、教育の高度化をはかりつつ、芸術教育の機会拡大をめざして社会人教育への
取り組みに力を入れている。平成 12(2000)年に短期大学を統合して大学の芸術学部の全
面的な改組を行い、京都という地域特性を背景に、美術、デザインに関する学科だけでな
く、歴史遺産や映画、舞台芸術など教育の対象とする領域を広げ、規模ならびに組織構成
の充実を進めてきている。
芸術学部
芸術学部は、芸術の力によって社会に貢献できる人材の育成を目標に、10 学科(芸術表
現・アートプロデュース学科、歴史遺産学科、映画学科、舞台芸術学科、美術工芸学科、
こども芸術学科、キャラクターデザイン学科、情報デザイン学科、空間演出デザイン学科、
環境デザイン学科)を設置している。
学生が、豊かな教養と社会人として求められる基礎力を身につけることができるよう、
学部に共通する基礎教育を重視している。また、専門教育においても、所属学科を超えて
学生が交流し刺激し合い、芸術活動に不可欠なコミュニケーション力と創造力を高めるこ
とができるよう、各学科を横断する教育活動を重視している。そのため、学部の学生数は、
それらの教育活動が効果的に実施できる規模としている。
大学院芸術研究科
大学院芸術研究科は、学部の学科を基礎として、知の核・創造の先端としての大学院を
めざし、各研究センターとも連携を図りながら研究を進めるとともに、公開講座や公開公
演を通じて研究成果を社会にフィードバックしている。修士課程は、芸術に関する様々な
領域の歴史的・理論的研究を行なう「芸術文化研究専攻」と、美術、工芸、デザイン、映
10
京都造形芸術大学
画、舞台芸術等の様々なジャンルの創作活動を行う「芸術表現専攻」から成る。博士後期
課程(以下、博士課程)には「芸術専攻」を設置し、いっそう高度に専門化された研究と
創作を行なっている。
通信教育部、芸術研究科(通信教育)
平成 10(1998)年に、芸術学部の教育課程を基礎に、通信教育部を設置した。通信教育部
は 3 学科(芸術学科、美術科、デザイン科)で構成されている。さらに、平成 19(2007)年
には、大学院芸術研究科(通信教育)芸術環境専攻(修士課程)を設置し、世代、地域を
越えた芸術の生涯学習に取り組んでいる。
学部・大学院の入学定員、在籍学生数は表 2-1-①a・b の通りであり、収容定員数に応じ
て定める大学設置基準上の必要専任教員数を上回る規模になっている。
通信教育部については、通信教育を主として担当する専任教員を 38 人配置して運営にあ
たっている。
表 2-1-a
学部の教育研究組織の規模と構成
学部等
学科等
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
入学定員
芸術表現・アートプロデュース学科
歴史遺産学科
映画学科
舞台芸術学科
美術工芸学科
こども芸術学科
キャラクターデザイン学科
情報デザイン学科
空間演出デザイン学科
環境デザイン学科
映像・舞台芸術学科 ※
芸術教養教育センター
芸術教育資格支援センター
伝統芸術教育センター
その他(芸術学部所属)
2年次編 3年次編
収容定員 在籍学生数 専任教員数 設置基準数
入学定員 入学定員
0
5
150
186
18
6
2
2
150
167
8
6
2
2
270
317
11
7
2
2
150
153
8
6
2
2
590
659
30
9
2
2
130
120
7
6
2
2
210
213
12
6
4
8
488
512
22
8
2
4
334
400
19
7
2
4
274
266
20
7
13
17
5
0
11
-
27
20
33
2,746
3,006
188
95
50
120
950
1,346
※大学全体
200
10
1,820
2,015
でプラス19
300
20
1,780
2,111
4,550
5,472
20
33
2,746
8,478
188
114
35
35
65
35
145
30
50
芸術学部
115
80
65
大学全体の収容定員に応じ定める専任教員数
芸術学部 計
655
芸術学科
140
通信教育部
美術科
300
芸術学部
デザイン科
210
通信教育部芸術学部計
総計
655
※専任教員数に授業を担当しない教員は含まない。
※映像・舞台芸術学科は平成19年度より学生募集停止。
※伝統芸術教育センター及び通信教育部芸術学部の教員は全て芸術学部教員が兼担している。
表 2-1-b 大学院の教育研究組織の規模と構成
研究 科名
芸 術 研究 科
専攻
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
入学 定員
在籍 者数
専任 教 員数
設 置基 準 数
12
24
23
27
6
修士 課程 芸 術 表現 専攻
38
76
110
67
6
博士 後期 課程 芸術 専攻
7
21
19
48
6
57
12 1
152
14 2
18
80
16 0
124
31
80
16 0
124
31
芸 術研 究科 計
芸 術研 究科
(通 信教 育 )
収 容定 員
修士 課程 芸 術 文化 研究 専攻
修士 課程 芸 術 環境 専攻
芸 術 研究 科( 通信 教 育) 計
※ 専 任教 員数 に授 業 を担 当し ない 教員 は 含ま ない 。
11
上 記修 士課 程
合 計+ 12
24
京都造形芸術大学
附置機関
本学は、下表の附置機関を有している。附置研究センターは、これまでも相互に連携し
て研究活動を進めてきたが、連携の強化による研究の促進、進化をはかるため、平成 19
(2007)年度に一部のセンターの統合を行なった。これらのセンターの活動は、それぞれ
の専門領域における高度な研究の実践と社会への還元のみならず、産学官の連携を積極的
に進めている本学にとって重要な役割を果たしている。
表 2-1-c
附置研究機関・共同運営研究機関の設置状況
研究機関の名称
研究活動の内容
舞台芸術研究センター
学内に設けられた京都芸術劇場を実験装置として、舞台芸術の創造過程の総体を研究し、
乖離しがちであった「創造の現場」と「学術研究」とのより有機的な結びつきをはかるべ
く、平成13(2001)年に設立。平成15(2003)年~平成20(2008)年度までは文部科学
省・私立大学学術研究高度化推進事業・学術フロンティアに、平成21(2009)年度は戦略
的研究基盤形成支援事業に採択された。
ものづくり総合
研究センター
商品開発の受託、伝統産業の未来形の模索、高度なデザインオペレーションの提供、まち
づくりをはじめとする様々な環境創造の実践、舞台美術の制作や空間演出デザインなど、
幅広い分野での産学官連携に取り組んでおり、本学が保有する知的、感性的資源を産業界
や行政へ積極的に提供し、すでに多くの実績をあげている。
日本庭園部門は、文化財庭園の保存修復、文化的景観や町家の保存活用等に関する調査・
研究、現地指導を受託する中で最先端の研究成果をあげてきた。歴史遺産部門は、地域の
日本庭園・歴史遺産研究センター 活性化を目的として文化遺産の調査・研究と保護活動の支援、伝世品の調査や埋蔵文化財
の保存処理の受託など、多岐にわたる実践活動を通じて「歴史遺産保全学」の確立を目指
している。
比較藝術学研究センター
人文科学諸分野の細分化の弊を掃い、総合的な人間科学としての芸術学を改めて提言する
べく、国内外の様々な分野から優れた人材を集め、細分化された各研究分野を統合して横
断的比較研究を行なうことを目的としている。
アート・コミュニケーション
研究センター
「みる、考える、話す、聞く」の4つを基本とする鑑賞者同士による対話型の美術鑑賞教育
プログラム(Art Communication Project、略称ACOP)の実践と検証を通してアートの可能
性を多角的に探る研究を行っている。美術館や博物館、中学校などの教育機関と連携して
研究活動を推進している。
芸術教育研究センター
こども芸術大学開設準備のため、平成16(2004)年に設置された。現在はこども芸術大学
の活動評価を行なうことを主たる活動としており、週例会議や定期的な日常活動の視察を
行なっている。その成果は毎年、報告書としてまとめられている。
和太鼓教育センター
「心、技、体」をテーマに和太鼓を教育の場に取り入れる活動を行うことを目的に平成13
(2001)年に設置された。学生には体育の授業、クラブ活動の場で指導を行っているほ
か、一般社会人、主婦、幼児、自閉症等の脳機能障害を持つ方々など約200名を指導してい
る。
社会芸術総合研究所
在学生・教員の中から才能を発掘し、マネージメントを行うほか、優れた作品の管理や紹
介、第一線で活躍するアーティストとの交流、就職の紹介や助言を行うために、東北芸術
工科大学と共同運営している。
東アジア藝術文化研究所
本学、東北芸術工科大学、弘益大學校(大韓民国ソウル)が連携して、日本、韓国及びアジ
ア地域の伝統と現代の芸術文化の比較研究、芸術文化の交流史の研究及び交流促進、並び
に研究者の交流及び訓練養成などを目的に、弘益大學校内に研究所を置き、調査研究及び
成果の普及活動を行なっている。
■組織の関連性
芸術学部は 10 学科から構成され、それぞれに特色ある教育研究活動を進めながら、相互
に関連性を保持し、統合的な運営がはかられている。特に、芸術教養教育センターを設置
し、教養教育の充実、初年次教育の導入や、学科を横断するプロジェクト活動の促進をは
かり、芸術学部としての一体的な教育を推進している。
また、芸術学部代表教授会のもとに教務委員会、学生生活委員会など各種委員会を設置
して運営に係る専門的な事項について審議しているが、これら委員会の委員は、芸術教養
教育センター、芸術教育資格支援センター、各学科から選任されている。
12
京都造形芸術大学
大学院芸術研究科は、学部の学科を基礎として、修士課程 2 専攻、博士課程 1 専攻から
構成され、芸術研究科としての統合的な運営がはかられている。大学院と学部との関連性
も保持されており、そのため学部から大学院へは常に安定した進学者があり、近年、増加
傾向にある。また、芸術学部と芸術研究科の合同代表教授会を開催して、相互に関連する
重要事項を審議している。
通信教育課程においても、学部と大学院は統合的に運営され、その関連性は保持されて
いる。また、通信教育部には主として通信教育部を担当する教員を配置して独自の運営を
行っているが、教員は芸術学部と通信教育部の双方の授業を担当しており、その経験の交
流は、教育の質の向上と教育方法の改善に役立っている。
また、研究センターの活動には大学院生や学部生が参加しているほか、研究センターが
実施する公開講座や公開公演は学生にとって刺激となっており、大学全体の教育活動の活
性化に寄与している。
芸術学部、通信教育部、大学院の方針や課題を共有し大学としての統一的な運営をはか
るため、各責任者をメンバーとする学園協議会を適宜開催している。
図 2-1-d 教育研究組織一覧
芸術教養教育センター
芸術教育資格支援センター
伝統芸術教育センター
芸術表現・アートプロデュース学科
歴史遺産学科
映画学科
舞台芸術学科
芸術学部
美術工芸学科
こども芸術学科
キャラクターデザイン学科
情報デザイン学科
空間演出デザイン学科
環境デザイン学科
芸術文化研究専攻(修士課程)
京都造形芸術大学
芸術研究科
芸術表現専攻(修士課程)
芸術専攻(博士後期課程)
芸術学科
通信教育部芸術学部
美術科
デザイン科
総合教育科目
芸術研究科(通信教育)
芸術環境専攻(修士課程)
舞台芸術研究センター
ものづくり総合研究センター
日本庭園・歴史遺産研究センター
比較藝術学研究センター
アート・コミュニケーション研究センター
芸術教育研究センター
こども芸術大学
和太鼓教育センター
社会芸術総合研究所
東アジア藝術文化研究所
(2)2-1の自己評価
学部、大学院における教育研究の組織の規模、構成は、適切なものである。それらの教育研
究組織の運営にあたって、代表教授会や各種委員会は、全学の組織から選任された教員で構成
されており、統合的な運営が行なわれている。また、芸術学部、通信教育部、大学院にまたが
る事項を協議する学園協議会が設置されている。教育課程においても、それぞれに関連性をも
ったカリキュラムを構成している。附置研究機関も、建学の理念に沿った特色ある研究活動を
推進している。
13
京都造形芸術大学
(3)2-1の改善・向上方策(将来計画)
現在の社会状況に対応して、より高度な人材育成をはかるため、学士課程と大学院課程との
いっそうの関連性をもたせたカリキュラムの構築をはかる。また研究センターと連携した大学
院の研究指導体制の整備を進める。
芸術学部においては、芸術と社会との繋がりを重視した教育課程の改編、学科の新設等につ
いて継続的に検討しており、プロダクトデザイン学科、マンガ学科の開設準備に入っている。
2-2
人間形成のための教養教育が十分できるような組織上の措置がとられていること。
《2-2の視点》
2-2-① 教養教育が十分できるような組織上の措置がとられているか。
2-2-② 教養教育の運営上の責任体制が確立されているか。
(1) 2-2の事実の説明
■教養教育を担当する組織
本学は「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」を教育目標として掲げており、
その実現のために平成 19(2007)年度より教育課程を構造化している(教育課程の構造化
の内容については基準 3 で詳述する)。この教育構造の中で芸術を学ぶための基礎教養教育
を中心となって担う組織として、芸術学部に芸術教養教育センターを設け、17 人の専任教
員と 2 人の事務担当職員を置いている。また、資格課程(教職課程、学芸員課程)の運営
を担う組織として芸術教育資格支援センターを別途設け、5 人の専任教員と 1 人の事務担
当職員を置いている。これは専門教育を担う学科と同じ編成で、センター長は学科長と同
様に代表教授会のメンバーとなっている。
本学の教養教育は上記センターが学生への履修指導を含めたカリキュラムの実質的な運
営を行なうが、学科所属の教員も授業を担当するなど、大学全体で教養教育にあたってい
る。平成 19(2007)年度の教育課程の再編により導入したワークショップ型初年次教育の
運営には各学科の専任教員が授業担当者として加わるなど、教養教育組織と専門教育を担
う学科が連携をとりながら、大学全体をリソースとして、学生にとって最大限に有効な教
養教育を提供できる組織体制を敷いている。
■教養教育の運営上の責任体制
教養教育の運営は芸術教養教育センターが行なっているが、教育内容の基本方針につい
ては大学の最高意思決定機関である理事会や常任理事会の決定事項を踏まえた上で芸術学
部の教務委員会や代表教授会で審議、決定されている。そのため、大学全体の芸術教養の
運営上の責任は芸術学部長が負い、芸術教養教育センター長がカリキュラムの実質的な運
営責任者となっている。
14
京都造形芸術大学
(2)2-2の自己評価
本学では教養教育を中心となって担う専門組織を置き、専門教育を担う学科と同様の組
織体制をとって運営にあたっている。また、カリキュラムの運営にあたっては学科とも連
携をとりながら全学的な体制で教養教育に取り組んでおり、本学の教育課程全体が教養教
育を構成している。これは本学の理念を実現するための教養教育の組織として適切である
と判断している。
(3)2-2の改善・向上方策(将来計画)
現状の教養教育の運営組織や責任体制に特段の問題点はなく、引き続き芸術教養教育セ
ンターと各学科がそれぞれの役割を十分に果たしつつ、連携を図り、学生にとって最善の
教養教育を提供できる仕組みを維持する。
2-3
教育方針等を形成する組織と意思決定過程が、大学の使命・目的及び学習者の
要求に対応できるよう整備され、十分に機能していること。
《2-3の視点》
2-3-① 教育研究に関わる学内意思決定機関の組織が適切に整備されているか。
2-3-② 教育研究に関わる学内意思決定機関の組織が大学の使命・目的及び学習者の要
求に対応できるよう十分に機能しているか。
(1)2-3の事実の説明
■学内意思決定機関の組織
教育研究に関わる学内意思決定機関として、通学課程、通信教育課程ともに学部には教
授会、研究科には研究科委員会を置いている。教授会は「京都造形芸術大学教授会規程」
に則って運営されており、学部の教学活動に関わる最終意思決定を行なっている(但し、
学科改編などはさらに理事会に諮っている)。また、教授会規程に則って、教授会の下に教
授会構成員のうちの一部の者をもって構成される代表教授会や教務委員会、キャリアデザ
イン委員会等の専門委員会を置いている。これらの組織は主に教授会審議事項の予備討議
を担当するが、教授会の委任をうけそれぞれの専門とする事項に関して決議を行なう場合
もある。専門委員会での決議事項は教授会(または代表教授会)で報告され、共有されて
いる。また、通学課程、通信教育課程それぞれの学士課程、大学院課程の両方に関連する
事項を検討、決議するために合同代表教授会を置いている。さらに、全ての課程に関わる
全学的事項を議論するため学園協議会を設置している。学園協議会では全学的な教育研究
活動の方針決定を行うほか、複数の教育課程間の調整を行なっており、円滑な教学運営を
実現している。
なお、本学では大学の代表者としての学長を補佐する者として、現在副学長を 2 人置い
ている。2 人の副学長はそれぞれ教学担当と社会連携担当として役割を分担しており、学
長不在時の学長代行者として迅速な対応ができるようになっている。
15
京都造形芸術大学
図 2-3-a 学内意思決定機関の組織図
芸術学部教授会
芸術教養教育センター会議
芸術教育資格支援センター会議
芸術表現・アートプロデュース学科会議
芸術学部代表教授会
教務委員会
学生生活委員会
卒展委員会
【通学課程】
合同代表教授会
キャリアデザイン委員会
入試出題委員会
入試連絡会議
歴史遺産学科会議
映画学科会議
舞台芸術学科会議
美術工芸学科会議
こども芸術学科会議
キャラクターデザイン学科会議
情報デザイン学科会議
空間演出デザイン学科会議
評議員会
環境デザイン学科会議
研究科委員会
理事会
学園協議会
専攻長会議
芸術専攻会議
芸術文化研究専攻会議
芸術表現専攻会議
常任理事会
通信教育部芸術学部教授会
【通信教育課程】
合同代表教授会
通信教育部代表教授会
教務委員会
FD委員会
卒展委員会
雲母編集委員会
芸術学科会議
美術科会議
デザイン科会議
総合教育科目会議
学生自主創作・研究活動支援委員会
イベント実施運営委員会
研究科(通信教育)委員会
芸術環境専攻会議
■大学の使命・目的及び学習者への対応
本学では、現在、学長のほか副学長、芸術学部長、芸術研究科(通信教育)芸術環境専
攻長等の教学責任者が理事に就任している。また、学内理事に加え、通信教育部長、大学
院研究科長補佐をメンバーとする常任理事会を月 1 回開催し、大学全体の経営方針や目指
すべき方向性を常に確認し、その決定事項を教育研究活動に反映させている。
一方で教育現場からの意見や問題点は、各学科の会議で検討された後、各種委員会を経
て教授会へと集約され、現状を把握した上で改善等の対応を行なっている。また、学生の
意見や要望は、日々の教育研究指導や日常業務の中から教職員が把握し、学科会議や各種
委員会へ提起して解決や対応をはかっている。特に教育内容については、半期ごとに学生
に対して実施している授業改善アンケートによって意見や要望を汲み取り、教育計画に反
映させている。
(2)2-3の自己評価
教育研究に関する学内の意思決定は、教授会の機能が適宜、代表教授会や専門委員会に
委任されることによって迅速な対応が可能となっている。また、学長不在時にも副学長が
学長代行者として機能することで、遅滞なく意思決定を行なうことができており、現状の
意思決定組織の構成に問題はないと考える。
学習者の意見を汲み上げ、それに対応する点については、授業改善アンケートの利用に
より教育内容に関する意見・要望の聴取から改善・対応へのプロセスは完成されている。
学習環境や学生支援体制等については、少人数のゼミ等の教育指導の場で個別に学習者の
16
京都造形芸術大学
意見を汲み上げる態勢ができているが、意識調査やアンケート調査といった定期的、数値
的把握の仕組みが組織として確立されていない。
(3)2-3の改善・向上方策(将来計画)
教育研究に関わる学内意思決定は現時点において適切に機能しているが、教授会機能の
委任を受けた代表教授会の重要性が増している。代表教授会と各専門委員会は、現在はい
ずれも教授会の下部組織であるが、両者の関係を見直し、意思決定のプロセスの整理を行
なう。
また、学習者の意見を収集する仕組みが現在は授業改善アンケート以外になく、授業以
外の事項についての意見を把握する仕組みが用意出来ていない。平成 23(2011)年より学
生生活アンケートなど授業以外の事項に関して学生の意見を定期的に把握する方法を導入
し、教育研究と学習環境の両方で学生の満足度を高められる仕組みを構築する。
〔基準2の自己評価〕
本学の教育研究組織は、いずれも法令の定めるところに従い、規模、構成ともに適切な
ものである。これは時代の要請に応えつつ、学科の改組や収容定員増、新たな教育課程の
開設といった教育組織の改革を行なってきた結果である。これらの教育研究組織は相互に
密接な関係性を持ちつつ、それぞれの目的に応じた教育研究活動を展開している。
また、教養教育に関しても専門の組織を中心に全学的な体制で運営にあたっている。
教学に関する意思決定については、学園協議会と教授会、研究科委員会、その下に設置
されている各種専門委員会と学科会議、専攻会議がボトムアップとトップダウンの双方向
で情報共有や意見交換を行いつつ、迅速な意思決定を行なっている。一方で、組織は整っ
ているものの学習者の要求を汲み上げる仕組みが十分ではない状況である。
〔基準2の改善・向上方策(将来計画)〕
今後も社会の要請に応え、更なる教育研究組織の充実をはかるため、必要に応じ教育研
究組織の改組や規模の変更を行なっていく。現在は平成 23(2011)年度からの芸術学部プ
ロダクトデザイン学科、マンガ学科の開設を目指し、文部科学省への届出と収容定員増の
認可申請を行なっているところである。
教養教育の運営組織についても常に教育効果の点検を行い、学生の動向や社会のニーズ
を踏まえた上で、よりよい体制作りを目指す。
教育研究組織の意思決定についてはそのプロセス自体に問題はないが、学習者の要求を
汲み上げる仕組みを組織的に整備し、意思決定に反映できる仕組みを実現する。
17
京都造形芸術大学
基準3
教育課程(教育目標、教育内容、学習量、教育評価等)
3-1
教育目的が教育課程や教育方法等に十分反映されていること。
《3-1の視点》
3-1-① 建学の精神・大学の基本理念及び学生のニーズや社会的需要に基づき、学部、
学科又は課程、研究科又は専攻ごとの教育目的が設定され、学則等に定められ、
かつ公表されているか。
3-1-② 教育目的の達成のために、課程別の教育課程の編成方針が適切に設定されてい
るか。
3-1-③ 教育目的が教育方法等に十分反映されているか。
(1)3-1の事実の説明(現状)
■教育目的
本学は平成 12(2000)年に新世紀に向けたビジョンとして「京都文芸復興」を提唱し、
短期大学を統合し総合芸術大学へと再編成すると同時に大学院博士後期課程(以下、博士
課程)を開設した。本学における研究教育活動は、人間精神の復興をめざす芸術生涯教育
の展開、伝統と現代、芸術と産業との連携による都市活性化、日本とアジアを結ぶ新たな
芸術創成に要約される。京都造形芸術大学学則第1条および大学院学則第2条においては、
この建学の精神を軸に、学士課程、修士課程、博士課程の教育目的を以下のとおり定めて
いる。
学士課程
学術の中心として広く知識を授けると共に深く芸術学、デザイン諸学、造形芸術に関
する専門の学芸を教授研究し、芸術的感性豊かな社会人の育成を以って、我国芸術文
化の復興と発展に寄与することを目的とする。
修士課程
広い視野に立って精深な学識を授け、芸術文化における研究能力または高度の専門性
を要する職業等に必要な能力を養うことを目的とする。
博士課程
自己の専門性、専門領域をより普遍的、総合的な観点から意義づける能力を養い、芸
術文化の深化発展に貢献しうる、真に創造的で革新的な研究者・制作者を養成する。
創設以来一貫して掲げてきた「京都文芸復興」の理念は本学教育の柱として根付いてい
る。学生が多様化し社会が変化する中でも、個々の学生が、自ら行ない得る「京都文芸復
興」とは何かを問い続け、「生きるとは何か」「芸術とは何か」の問いかけを繰り返すこと
で、自身の人生の目標や生きる意味を考え、見出し、行動に移してゆくことが本学の教育
研究達成の最終目標ともいえる。
18
京都造形芸術大学
表 3-1-a 学部・研究科の構成
芸 術学部
芸術表現 ・アートプロデュース学科
歴史遺産 学科
映画学科
舞台芸術 学科
美術工芸 学科
こども芸術学 科
キャラクターデザイン学科
情報デザイン学科
空間演出 デザイン学科
環境デザイン学科
芸術文化 研究専攻(修 士課程)
芸 術研究科 芸術表現 専攻(修士課 程)
芸術専攻 (博士後期課 程)
芸術表現・ アートプロデュース クリエイティブ・ ライティング
文化遺産 文 化財保存修復
映画監督 映 画技術 プロデュース 映画俳優
演技演出 舞 台デザ イン ダンス
日本画 洋画 立 体造形 陶芸 染織 テキス タイル
こども芸術
アニメディレクション キャラ クターデザイン CGデザイン コミュニケーションデザイン イラストレーション 映像メディア プランニン
グディレクション 先端アート
空間デザイン フ ァッションデザイン プロダク トデザイン
建築デザイン インテリアデザイン ランドス ケープデザイン
■学士課程の編成方針等
本学では、平成 16(2004)年 10 月に『京都文芸復興から日本の藝術立国をめざして-新
五カ年計画の策定にあたって』を発表した。以降、教育の目的を「芸術を社会に活かすこ
とのできる人材の育成」に集約して学士課程の編成方針を打ち出してきた。芸術教育にお
いては、ともすれば自己表現の達成に重点が置かれがちであるが、卒業後に社会で通用す
る人材として活動をしていくためには、専門的な能力以上に、社会人として求められる基
礎力、人間力を身につける必要がある。そのため、学士課程で身につけるべき力を本学独
自に定義し、1)芸術によって社会に貢献しようとする高い志と意欲をもち、2)自立した一
人の人間として、3)他者と協調・協働しながら、4)芸術的創造活動を展開できる力を養う
ことをめざし、教育課程の編成を行い、学生への徹底をはかってきた。また、それらの力
を総合して表現活動を行なうことができることを学位認定の方針とし、最終年次の卒業研
究についてはプレゼンテーションを課すことによって、求められる力が身に付いているか
どうかの確認を行なっている。
前述の力を学生が年次を追って着実に身につけることができるよう、下図のように教育
課程の構造化をはかっている。
表 3-1-b 学士課程の構造化
「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」を目指して
社会へ
学科(専門教育)
個別制作(卒業制作)
就職活動
サポート
社会に成果を発表
(合評など)
個人面談
3
年
個別専門教育
生
【学科】(全10学科)
社会で通用する専門教育
1
年
生
【芸術教養教育センター】
芸術を学ぶための基礎教育
多様な新入生
19
初年次教育
芸術教養教育センター
キ
リ
ア
基
礎
教
育
キャリアデザイン
カード
リアルワーク
プロジェクト
プロジェクトセンター
リ
ア
デ
ザ
イ
ン
セ
ン
タ
ー
専門教育の基礎教育
特別プロジェクト
ャ
2 共通専門教育
年
生
【プロジェクトセンター】
社会人として必要な能力を習得する
リアルワーク教育
キャリアガイダンス
キ
ャ
4
年
生
【キャリアデザインセンター】
学生と社会をつなげるキャリア教育
京都造形芸術大学
教育課程の構造化における特色は次の 5 点である。
①芸術を志す学生のための初年次教育:全新入生を対象に専門教育を受容する基盤形成と
学習動機の喚起を目的としたワークショップ型の初年次教育を開発、実施している。
②芸術教養教育の編成:従来の教養科目を、芸術を学び深めるための教養に再編成し、教
養を学ぶ目的・意義を学生が認識できるよう「芸術教養科目」として編成を行なってい
る。芸術教養科目は 4 年間を通して履修できるよう配当されている。
③学習成果の公開発表を重視した専門教育の再編成:3 年生後期には学習成果を社会に発
信できるよう、学科ごとに到達目標を明確化して専門教育を編成している。
④リアルワークプロジェクトによるキャリア教育:「芸術と社会の関係の認識」「社会人と
しての必要な能力の習得」を目的に実体験型のキャリア教育を実施している。
⑤構造化された教育課程を運営する体制整備:専門教育を担う学科組織に加えて、芸術教
養教育センター、プロジェクトセンター、キャリアデザインセンターを設置して、それ
ぞれに専従の教職員を配置している。
このように構造化された教育課程において、「必修科目」を段階的に配置し、同時に学生
の主体的な学習を促す「選択科目」を多数開講している。
また、本学では「芸術を学ぶ意欲と社会貢献をめざす高い使命感をもった学生の受け入
れ」をアドミッション・ポリシーとして定めており、各学科の専門領域における表現技術
の優劣だけにとらわれず多様な学生の受け入れを行なっている。そのため、学科間の移動
に弾力的に対応する取組として、2 年次および 3 年次進級段階で学科変更を希望する学生
に応える転学科制度を構築している。
■学士課程の教育目的の教育方法等への反映
教育の理念、目的については、学生に対しては入学式、ガイダンスにおいて、教職員に
対しては年 2 回、各期の初めに行なわれる教職員総会や学内の研修会等において周知して
いる。また、年度ごとに各学科において策定される「教育計画書」には、学士課程共通の
理念に即して各学科の教育目的が記載され、それに基づいて教育方法の改善をはかってい
る。
教育目的を教育方法に反映させるための方策としては、次の点が本学の特色となってい
る。
○芸術教養における初年次教育として配している科目はいずれも少人数のクラス編成とし、
きめ細かく学生のレベルや資質に応じた教育を行なっている。指導にあたっては、本学
の教育目的の伝達と 4 年間の学習への動機付けをめざしている。
○「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」という教育目的に鑑み、各学科におけ
る専門教育では、修得した知識や技術を使って構想力、造形力、表現力を培う課題を設
定した演習科目を重点的に配置している。演習の過程では、本学の教育目的に即した創
作や研究への考え方、また問題に直面した際の取り組み方を伝え、芸術を社会に活かす
ための力や姿勢を育成している。
○専門教育の各演習科目では、芸術教養科目における初年次教育と同様に、少人数のゼミ
方式の演習を多く組み込んでいる。
○演習科目の設定に際しては、各学科とも社会と連携した課題を取り入れるよう工夫して
20
京都造形芸術大学
いる。また演習科目への取り組みの集大成として、各学生のプレゼンテーションに対し
て複数の教員が講評を行なう「合評」を導入し、合評の公開や課題作品の公開展示等、
成果を社会に向けて発信する取組を重視している。
■大学院芸術研究科
本大学院芸術研究科は、芸術文化による日本の発展を担う人材(研究者、作家、職業人)
の養成機関として、修士課程2専攻(芸術文化研究専攻、芸術表現専攻)における芸術諸領
域研究の深化、発展に立脚し、これを博士課程において高次に融合(理論と制作、現代と
古典等)させることを目指している。現代文明を構成する様々な文化状況が大きな転換期
にさしかかり、新しい秩序を模索していることが明らかとなっている中で、芸術文化の現
代社会における意義を学術的に普遍化し、相対化し得る学術研究者、大学教員、制作者の
輩出は社会からの負託でもある。芸術文化の価値は、新たな文明のパラダイムを構築する
原動力となりうることを、理論研究と制作により明らかにしようとするものである。以下
に述べる教育課程、学位授与、指導態勢のいずれも、こうした理念を実現すべく設計され
ている。
芸術文化研究専攻(修士課程)
学士課程で学んだ芸術に関する理論的基礎の上に、文化的活動の一環として芸術を位置
づけ、比較文化的視点や歴史的視点など、芸術文化を多角的な視点から検証し、これから
の芸術文化が切り開く可能性を探究することを目指す。また、文化財に関する研究領域で
は、文化財の保存修復に必要な様々な技術を統合し、文化財を構成する素材や技法の分析
研究から、それらの背景にある歴史や文化交流の足跡までを解明できる専門知識と分析技
術をもった人材の育成をはかる。
芸術表現専攻(修士課程)
芸術の表現形式は多様であり、自由で豊かである。その表現行為は人間のあらゆる精神
活動、存在するすべてのものに及んでいる。本専攻では、美術・工芸、デザイン、映像、
舞台芸術、また、これらの諸領域を横断しうる新たな表現分野の実践的創作活動ならびに
研究を対象とし、学士課程の基礎制作をふまえて学生各自の表現領域を構築し造形思想を
深める。
修士課程が育成を目指している人材は、伝統芸術と現代芸術が融合された概念を文化の
発展に活用しようとする者である。このことを基盤にした上で、芸術文化研究専攻で学ん
だ者は研究者及び専門的職業に就くものであり、芸術表現専攻で学んだ学生は、高度の専
門的職業の一種である作家や芸術的手法を駆使する企業人を目指す。
芸術専攻(博士課程)
本大学院修士課程の理念である「芸術諸領域の比較研究の方法論獲得とその実践」の実
現は、既存の芸術領域はもとより、さらにそれを普遍化し、相対化しうる幅広い思想を獲
得することなしにはありえない。本学博士課程では、新しい時代の芸術と文化を創り出す
21
京都造形芸術大学
運動の先頭に立つ機関として、それらのより高次な社会還元や提示能力を有した研究者の
輩出を目指す。本課程では、比較文化的視点、歴史的視点、造形史的視点、精神史的視点
から修士課程での研究活動を拡張深化させ、日本の芸術文化の固有性と普遍性について明
らかにする。
芸術を文化の視点から捉え直し、芸術の意義を人間の創造的営み全体の中に学術的論理
性や作品という具体性をもって位置づけられる者、すなわち、今後の芸術文化を主導する
理論と方法を身につけた研究者、大学教員、第一級の制作活動者、また、高度な専門知識
をもつ学芸員、総合プランナーなど、芸術文化領域における専門的職業人を育成する。
なお、学士課程、修士課程、博士課程の教育目的は学則に定められ、シラバスおよびホ
ームページなどで公開している。
(2)3-1の自己評価
学士課程の教育目的は、本学の建学の精神・基本理念に基づいて定められている。
学士課程において重要な役割を担っているワークショップ型の初年次教育および実体験
型のキャリア教育は、それぞれ「頭と手を動かすワークショップ型初年時教育」「リアルワ
ークによるキャリア教育」として平成 20(2008)年度の文部科学省教育 GP(質の高い大学
教育推進プログラム)に採択された。このことは、本学がめざした教育課程の構造化およ
びそこで行なわれている教育内容が、外部の客観的評価を受けた証左であるといえる。
「専門科目」には、各学科の教育目的に沿った科目が適切に配置されている。また「自
由選択科目」には、学生のニーズや社会的需要に応じた多彩な科目が用意されている。
修士課程においては、理論と実践の両面から高度な専門性を学ぶ方法をとっている。さ
らに、高度な専門的能力を身につけるには「広範で精深な学識」が必要であるとする点が
本大学院の重要な教育理念である。必修科目「芸術文化論特論」は、すべての学生がその
専門領域にかかわらず受講すべき科目であり、芸術文化に関わる広範な学識を養う。さら
に「原論」科目群は、知識の伝達にとどまらず、学生の研究能力の育成に必要な研究の視
点・方法論を講ずるものであり、教育目的の達成のために適切な科目である。
博士課程においては、芸術文化の普遍性と個性を広い視野から概観する「比較芸術文化
論特論」が、学生がそれぞれの専門分野を学際的観点から客観的にとらえる機会となって
いる。演習科目である「研究」および「制作」は 3 年間の継続履修によって、研究、制作
成果の着実な蓄積を実現している。
(3)3-1の改善・向上方策(将来計画)
学士課程では、平成 23(2011)年度に、「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」
という教育目的の達成のため学部改編を行ない、マンガ学科、プロダクトデザイン学科を
設置する計画を進めている。これらの学科が対象とする教育研究領域はいずれも本学にお
いて取り組んできたものであり、志願者の動向や社会の要請によりそれらの教育内容をさ
らに発展・進化させる必要があると判断したためである。プロダクトデザイン学科は既存
の空間演出デザイン学科のプロダクトデザインコースに礎を置きつつ、それを発展させ、
次代に貢献できる“モノ創り”のプロフェッショナル・デザイナー育成を教育目的として
22
京都造形芸術大学
専門性獲得に特化した教育を行なう。また、マンガ学科では、これまで情報デザイン学科
やキャラクターデザイン学科において行なってきたマンガに対する取組を一層高度化させ、
日本が世界に誇る文化のひとつである漫画を社会に発信することのできる人材を育成する
計画である。
あわせて既存の学科においても平成 22(2010)年度中に専門教育カリキュラムの内容・
方法の評価・見直しを行ない、平成 23(2011)年度以降の教育計画に反映させる。評価の
際には、特に学科ごとに定めている教育目標が専門教育の中で有機的に実施され効果をあ
げているか、また学生のニーズや社会的需要に即したものとなっているかを点検し、学生
の学習意欲の向上をはかりつつより質の高い専門教育を提供するための教育内容・方法へ
と改善する。それにより「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」をさらに実効力
のあるものとして具現化する。
修士課程においても、学士課程と同様に教育目的に沿ったカリキュラムの点検を実施す
るが、職業等に必要な能力面の強化から教育課程が構築されているか、キャリアデザイン
の項目に比重をおいて重点的に見直す。
博士課程では引き続き充実した研究指導を継続し、有為な人材の輩出に努める。
23
京都造形芸術大学
3-2 教育課程の編成方針に即して、体系的かつ適切に教育課程が設定されていること。
《3-2の視点》
3-2-① 教育課程が体系的に編成され、その内容が適切であるか。
3-2-② 教育課程の編成方針に即した授業科目、授業の内容となっているか。
3-2-③ 年間学事予定、授業期間が明示されており、適切に運営されているか。
3-2-④ 単位の認定、進級及び卒業・修了の要件が適切に定められ、厳正に適用されて
いるか。
3-2-⑤ 履修登録単位数の上限の適切な設定など、単位制度の実質を保つための工夫が
行われているか。
3-2-⑥ 教育内容・方法に、特色ある工夫がなされているか。
3-2-⑦ 学士課程、大学院課程、専門職大学院課程等において通信教育を行っている場
合には、それぞれの添削等による指導を含む印刷教材等による授業、添削等
による指導を含む放送授業、面接授業もしくはメディアを利用して行う授業
の実施方法が適切に整備されていること。
(1)3-2の事実の説明(現状)
■学士課程
芸術教養科目
本学では、「芸術による豊かな人格」と「芸術を通しての世界への眼差し」を学生が修得
できるよう、一般教養科目を「芸術教養科目」として編成している。
芸術教養科目では、とくに「芸術の専門教育を受容する基盤形成と学習動機の喚起を目
的とした初年次教育の充実」および「教養を学ぶ意義・目的を学生が認識でき深い教養と
豊かな人格を自ら育むことのできる科目内容の設定」に意識的に取り組んでいる。
初年次教育のために開講されている科目は、きめ細かな双方向の対面指導を実現するた
め可能な限り少人数のクラス編成としており「ベーシックワークショップ」「グループワー
クショップ」では約 30 人、「ことばと表現」では 15 人 1 クラスを定員としている。また、
これらの科目を、芸術教養教育センター所属の教員だけが担当するのではなく、各学科か
ら推薦された学科所属の教員も担当として配置することにより、専門教育との橋渡し機能
の強化をはかっている。
芸術教養科目は、学生たちが学士の学位にふさわしい教養を身につけて卒業するよう指
導する役割を担っている。本学では、現代における教養を、将来にわたる自己啓発の基盤
となる知識と捉え、芸術文化、思想、哲学、社会、自然、環境等に関する科目を幅広く用
意している。あわせて将来の進路に沿った履修計画を立てられるよう履修モデルを提示し
ている。
専門科目
専門教育を担う各学科は、「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」という本学の
教育目的の具現化のため、卒業後の進路への準備が本格化する 3 年次後半での到達目標を
明確に設定しており、この時期には教育の成果を社会に発信できるレベルまで高めること
24
京都造形芸術大学
をめざしたカリキュラムを構築している。専門科目はこの目標達成に向け、年次を追って
着実に力をつけていけるよう体系的かつ段階的に組み立てられている。
芸術表現・アートプロデュース学科では、芸術を社会化する力の修得を重視し、1 年次
では芸術に関する基礎的理解を深め、2 年次では現代美術、工芸、写真等、領域ごとの理
論や知識を学ぶ。あわせてキュレーションやメディアリテラシー等、芸術の社会化という
行為の基本となる考え方を学んで 3 年次のゼミ演習では展覧会企画・運営、イベント実施、
文芸誌やビジュアルマガジンの出版といった具体的な成果に結実させる。4 年次ではそれ
らの取り組みを卒業研究へと高めていく。
歴史遺産学科ではフィールドワークに重点を置き、学外授業で寺院や社寺、歴史的街区
に出かけ、伝統行事や文化遺産を継承する現場を体感、問題点を共有し、その解決方法を
模索する教育を行っている。そのため、1 年次では京都市内の歴史遺産の所在を広く認識
することに重点をおき、2 年次ではフィールドワークにおける記述の方法・技術を習得す
る。その結果を 3 年次でのフィールドワークに結びつけ、学年を重ねるごとに調査内容が
確実に深化するよう、科目を配置している。
映画学科ではあらゆる映画を教育領域として扱い、自主独立の精神を備え映画界で生き
抜いていける人材の育成をめざしている。映画の製作は、監督、撮影、音響、プロデュー
サー・俳優など、完成に至るまで大勢の人員が関わるため、専門教育においてもチームに
よる製作を重視した科目編成を行なっている。1、2 年次では映画論、映画史、作品研究な
どの理論とあわせ、シナリオ、撮影、録音、演技などの技術や技法の基礎を学ぶとともに、
3、4 年次生が主となるチーム制作の一員としてコミュニケーション力や判断力、問題解決
能力などを養う。3、4 年次ではゼミ形式で自らの表現を深め、1、2 年次生をチームのメン
バーとして牽引しながら作品を継続的に生み出していく。
舞台芸術学科も映画学科と同様に、舞台監督、舞台美術、照明、音響、プロデューサー、
俳優、ダンサーなど様々な役割を担う人たちが関わってひとつの作品を作り上げることが
基本となる領域を対象としている。そのため、舞台芸術学科のカリキュラムは、映画学科
と同じく、1、2 年次では舞台芸術論、舞台芸術史、作品研究などの理論とあわせ、スタッ
フワークや演技などの技術や技法の基礎を幅広く学ぶともに、チーム制作の一員としてコ
ミュニケーション力や判断力、問題解決能力などを養う。3、4 年次ではゼミ形式で自らの
表現を深め、卒業研究へと高めていく。
美術工芸学科では、美術基礎科目でそれぞれのコース特性に合った基礎演習を行い、素
材に対する知識と経験を習得するとともに、異なる分野の技術や創作の基礎概念を学び、
学生の視野拡大をはかっている。それらの経験を通して自らの表現についての自覚を促す
ことが、3 年次後半での到達目標となっている。
こども芸術学科は、芸術を通してこどもと関わることのできる人材の育成をめざす学科
であり、指定保育士養成施設の認可を受けている。こどもに対する理解に関する科目は保
育士養成のカリキュラムに沿って年次ごとに配置されており、芸術に関する科目について
は、1、2 年次に絵画、彫刻等の基礎科目を配している。また、保育と芸術を横断的に捉え
る科目を 1 年次から 4 年次まで段階的に開講し、3 年次からは少人数ゼミでの指導を行な
い、学科の教育目標の達成をはかっている。
キャラクターデザイン学科は、日本の文化として世界的に認知が進んでいるキャラクタ
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京都造形芸術大学
ーアニメーション制作を学ぶ学科である。1 年次ではアニメーションの基礎理論、発想や
アイデアを生み出す技術、アニメーション制作に求められる基礎技術を修得できるようカ
リキュラムを編成し、2 年次ではそれらをさらに深めるとともに、作品をプロデュースし
て社会に送り出すために必要な理論を学ぶ構成となっている。3 年次では技術の向上とと
もに、キャラクターアニメーションをビジネスとして捉える視点を養うために理論科目の
内容と演習科目の課題設定を工夫している。4 年次では各自の表現を卒業研究に集約する。
情報デザイン学科は、デザインの狭い領域のなかのスペシャリストではなく、デザイン
全般に関わる幅広い知識と能力を有し、デザインという領域を俯瞰的に捉えることのでき
るゼネラリストを養成することを教育目標としている。そのため、1 年次ではまずデザイ
ンの基礎を学び、2 年次は 1 年次で学んだことを基盤としつつ実験的な表現に挑戦するよ
う科目を設定している。3 年次は社会に対する提案力を重点的に育成し、4 年次の卒業研究
へとつなげ、段階的にデザイン全般に関する考え方、知識、技術を教授するよう科目を配
置している。
空間演出デザイン学科は、身体とそれを取り巻く空間全体を視野にいれながら、生活全
般を対象としたデザインを学び、これからの生活空間のあるべき姿を提案できる人材の育
成を教育目的としている。この目的の達成のため、1 年次では空間演出デザインをめぐる
基礎的理論科目および表現技術の基礎の修得をめざす演習科目を開講し、2 年次ではファ
ッション、プロダクトといった領域別の理論科目および多種多様な素材を体験するための
科目を配置している。3、4 年次では各自の表現を深める科目を配置しているが、課題は常
に社会との連携を意識できる内容とし、デザイナーの果たすべき社会的責任を体感できる
よう配慮している。
環境デザイン学科では、インテリア、建築、都市、ランドスケープそれぞれのデザイン
領域の専門性に依拠しつつ、環境デザインをトータルに提案することのできる技術力・企
画力・デザイン力の獲得を目標に、2 年次前半まではコース横断的に環境デザインの基礎
となる科目を全学生が履修し、2 年次後半から各コースの専門領域を深化させ、3 年次に発
展的な課題に取り組む。
このようにいずれの学科においても、3 年次後半に学習成果を社会に発信することを目
標に、1、2 年次では専門的知識と技能の基礎を身につけるための理論科目および演習科目
を配置し、3 年次以降は各自のテーマに応じて少人数のゼミにおいて表現や研究を深める
カリキュラム体系が基本となっている。
自由選択科目
「自由選択科目」は、プロジェクトセンターが開講するリアルワークによるキャリア教
育に関する科目や所属学科以外の学科で開講されている専門科目の履修、あるいは「大学
コンソーシアム京都単位互換制度」による他大学開講科目の履修などにより充足される科
目である。学生が他学科、他大学、社会へと目を向け、幅広い視野と知見を獲得すること
をめざして科目を編成している。
以上のように、学士課程では教育目標に沿って、また、学生が個々人の資質や能力に応
じて主体的に学習を進めることを重視して、段階的、体系的に教育課程を設定している。
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京都造形芸術大学
■年間学事予定・授業期間
年間学事予定については、授業計画立案時(例年 7 月頃)に次年度の学事予定および授
業期間を明記した学年暦を作成している。この学年暦をもとに授業期間を定めた上でシラ
バスを作成している。学年暦は学生全員に配布される冊子『履修要項』に記載され、あわ
せて大学の Web 上で公開される。
授業期間に関しては、補講(2 日)、合評期間(3 日)、前後期試験(5 日)、試験予備日
(1~2 日)、追試験日(1~2 日)等をあらかじめ設定した上で、入試による休講日を勘案
して大学設置基準第 22 条、23 条、大学院設置基準第 15 条の要件を満たした授業時間が確
保されるよう調整している。
■進級・卒業要件、履修科目の上限
単位認定の要件としては、『履修要項』にあらかじめ「評価方法」を項目として設け、成
績評価の根拠を明示している。基準となるのは出席、試験、小テスト、レポート、平常点
等で、これらが成績にどの割合で加点、評価されるかを示すものである。
進級要件および卒業・修了要件に関しては、学生が所属する学科・専攻ごとに定めてい
る。判定は、学士課程は代表教授会、大学院は研究科委員会において年 1 回を原則として
実施しているが、前年度末に卒業不可と判定された学生が前期終了時に卒業要件を充足し
た場合はその段階で特例として卒業判定を実施し、半期での卒業を可としている。
学士課程における進級判定では平成 21(2009)年度在籍者のうち、1 年生 27 人、2 年生
42 人、3 年生 43 人が要件を充足せず、留年と判定された。卒業判定では平成 21(2009)
年度対象者 544 人のうち、495 人が卒業可と判定された。要件を充足せず卒業不可となっ
た 49 人のうち、42 人は留年、7 人は退学を選択した。
履修登録単位数の上限設定は、現時点では行なっていない。平成 19(2007)年度の GPA
(Grade Point Average)制度導入時に検討した結果、導入から 4 年程度は GPA に基づく個
別履修指導を徹底し、成績不振の学生には履修登録科目(単位)を絞り込んで集中して取
り組むよう指導する一方、成績優秀な学生には幅広い学習を奨励することとしたためであ
る。
現在は、履修計画作成時に、4 年間の修業期間中に段階を追って適切に単位を取得する
よう全員に指導するとともに、成績不振者と優秀者に対する個別指導を行なっているが、
GPA 制度導入から 4 年目を迎える今年度には履修登録単位数の上限設定に関する制度設計
を進め、平成 23(2011)年度から実施する計画である。
■特色ある教育内容・方法
ワークショップ型初年時教育(詳細は特記事項に記載)
1 年生全員が履修する科目であり、専門教育を受けるための基盤形成を入学後に集中的
に行なうために設計された。「ベーシックワークショップ」(前期月曜日 4 講時連続開講)
と「グループワークショップ」(9 月に約半月間の集中開講)の 2 科目からなり、以下の特
色を持つ。
○学部1年生全員を対象とし、10 学科 31 コースの新入生が約 30 人×24 クラスの中で完全
に混ざり合うよう、学科横断型のクラスを編成している。これにより、専門領域の異な
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京都造形芸術大学
る学生たちが、他者との関わりを理解しながらコラボレーションするための土壌を育む。
○「ベーシックワークショップ」を前期月曜日開講とする。学生は、週のはじめにクラス
の仲間や担当教員と顔をあわせることで、1週間の通学・学習への弾みをつけることが
できる。
○学習者の立場に立った教育内容・方法を実現するため、2 年次以上の学生と協同でプロ
グラム開発・運営にあたる。
○グループワークショップでは青森の「ねぶた」の技法を取り入れてクラス全体で大きな
作品を作り、協同で問題解決にあたる力、提案や説得を行ないつつチームワークを生か
して課題に取り組むためのコミュニケーション力などを磨き、社会性の大切さに学生自
らが気づくことをめざす。
リアルワークによるキャリア教育(詳細は特記事項に記載)
商品開発やイベント企画・運営といった、実際に行われることを前提とした産官学連携
の課題を教育プログラム化し、キャリア教育の場としている。このプログラムは次の特色
を備えている。
○プログラム化にあたっては、社会人となったときに必要となる、PDCA(Plan-Do-Check-Act)
サイクルや組織と個人の関係性を、プログラムの進行に沿って学べる構成とする。
○低学年の参加を基本とすることで、早期から社会参画の動機付けを行なう。
○学年、学科を越えたグループ編成を基本とすることで、専門領域の異なった学生がそれ
ぞれの専門能力を活かしつつ協働する社会組織体験を大学内で実現する。
○学生たちが経験を自らの力に転換できるよう、プロジェクト開始から終了に至る過程で
様々なサポートプログラムを実施する。
専門教育における実践型演習
「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」という教育目的に鑑み、各学科での専
門教育では、知識や技術を身につけるだけではなく、修得した知識や技術を使って課題制
作を行なう演習科目を重点的に配置している。演習科目の内容は学科の特性に応じて多様
であるが、各学科とも社会と連携した課題を取り入れるよう工夫している。
代表的な例として、キャラクターデザイン学科では平成 21(2009)年度に専門科目「キ
ャラクターアニメーションⅠ・Ⅱ」の課題として、東名阪ネット 6(テレビ神奈川、テレ
ビ埼玉、千葉テレビ、三重テレビ、KBS 京都、サンテレビ)と提携して「キャラディのジ
ョークな毎日」と題した連続短編アニメーションを制作、平成 21(2009)年度 1 年間にわ
たってこの 6 局で実際に毎日放映された。
映画学科では映画製作の現場を大学に持ち込むことを特色としており、専門科目「映画
製作」において、映画監督である専任教員の指導のもと、実際に映画館での上映を前提と
して、プロと学生が協働でキャスト、スタッフをつとめる映画を毎年 1 本撮影している。
また、こども芸術学科では、「こども芸術研究Ⅲ」において、地域の小学校と連携した小
学生対象のワークショップを開催しており、空間演出デザイン学科では「空間演出Ⅰ・Ⅱ」
において、京都の百貨店からの委託を受けてウィンドウディスプレイを制作し、いずれも
市民から好評を得ている。
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京都造形芸術大学
「合評」の公開
各学科では専門の演習科目への取り組みの集大成として、各学生のプレゼンテーション
に対して複数の教員が講評を行なう「合評」を導入し、課題が完成するごとに実施してい
るが、前期・後期の各最終週には全学科が同時期に合評を行なう期間を設定し、広く学内
外に周知して公開している。
平成 21(2009)年度は、各学期末にそれぞれ 3 日間の期間を設け、前期 108 科目、後期
100 科目の合評が実施されており、参加学生のアンケートからは「自分の制作や研究の参
考になった」「普段聞けない意見が聞けた」「普段と違う雰囲気が刺激になった」など、幅
広く人の目に触れることで良い刺激を受けていることがうかがえる。また、教員にとって
も、他学科の合評に出席することは貴重な FD(Faculty Development)の機会となってい
る。
少人数ゼミ
とくに 3、4 年次の専門教育においては、芸術大学の特色として、数名程度の少人数のゼ
ミによる指導が中心となっている。担当教員が学生各自の状況をきめ細かく把握すること
が可能となるため、学生各自のテーマに応じた課題制作指導や専門知識、技法の指導のほ
か、キャリア指導や個別の履修指導、さらに生活指導に至るまで、学生の学習・生活全般
にわたる指導の場として機能している。
■芸術研究科
修士課程
必修科目である「芸術文化論特論」は芸術文化研究専攻、芸術表現専攻に共通する必修
科目であり、第一線で活躍している研究者、作家、デザイナー、伝統芸術の継承者等を特
別講師として招聘し、オムニバス方式で展開することが特色である。それにより、学生の
研究、創作活動への刺激となるほか、ディスカッションを通じて問題の発見と探求および
創出能力の伸長をはかっている。
「原論」は、専攻を問わず、それぞれの学生に必要な研究能力の基礎を養う科目であり、
本大学院の芸術文化研究の支柱である「比較文化、歴史、造形史、精神史、映像史、身体
論的研究」という視点からそれぞれに対応する 6 つの科目を開講している。これらは講義
科目ではあるが、知識を体系化して講義するということよりも、その視点から芸術文化の
現状を概観して課題を見出し、その課題を解決するための研究方法を講じることに重点を
置いている。
例えば「芸術文化原論 I」は「思想としての芸術」をテーマとし、芸術を理論的・歴史
的なパースペクティブからとらえなおし、自他の作品を主観的感想の域を超えて批評的・
理論的に語る能力を身につけることを到達目標として設定し、シラバスにも明記している。
講義では思想(特に美学)の歴史と芸術の歴史を概括し、比較論的視点を導入しながら現
代思想と現代芸術が切り結ぶ場面まで説き及ぶ。講義は教員からの一方通行ではなく、質
疑応答や討論が重視されるセミナー的な運営で行われ、それぞれの学生の研究テーマやト
ピックスが取り上げられる。この教育方法(授業運営)は、本科目群すべてに共通して行
29
京都造形芸術大学
われているものであり、修士論文あるいは研究ノート執筆に反映されることを期待してい
る。
「分野特論」は、各専門領域に対応して、より高度な専門的学識を養うための体系的な
講義である。学生は、これら科目群の中から自身の専門領域に関する科目が必修指定され
る。芸術文化研究専攻では7科目、芸術表現専攻では 10 科目が開講されている。講義内容
は年度ごとのテーマが設定され、弾力的に運営されている。これらの「分野特論」は専攻
を超えて、自由に履修が可能である。
「演習」は1年次履修科目であり、主に問題意識の啓発とその研究展開をはかることを基
本とする一方、2年次開講科目である「研究」では、1年次からの継続性を重視した綿密な
研究指導を行うとともに、研究課題の設定とその手法の獲得に主眼を置く。芸術文化研究
専攻における「演習・研究科目」には、「芸術史・芸術論研究」「歴史文化研究、庭園文
化研究」「文化財保存修復研究」の3領域、芸術表現専攻においては「日本画、染織、陶芸」
「洋画、版表現、立体造形」「情報デザイン、写真、映像、アニメーション」「環境デザ
イン、空間演出デザイン」「舞台芸術、複合表現領域」の5領域に対応する科目が設置され
ている。大学院における研究指導は、基本的に院生と指導教員の一対一の対応であるが、
院生が偏狭な視野に陥ることがないよう、1年次では複数指導体制を充実させている。ま
た、いずれの専攻にも「総合演習」「総合研究」を設け、附置研究センターにおける指導
によって、研究成果を具体的な提言や企画提案としてまとめる手法を学ぶことができる。
1年次生が履修する「演習」には、各指導教員による研究、制作指導のほか、複数指導体
制による「オープンゼミ」が設置されている。年度ごとに設定されたテーマによって進行
し、所属専攻、専門領域を超えて自由に履修できる。
修士課程では、必修科目 4 単位を含む講義科目 16 単位以上、演習科目 8 単位以上、研究
科目 8 単位以上、合計 32 単位以上を修得し、かつ必要な研究指導を受けた上で芸術文化研
究専攻においては「修士論文」、芸術表現専攻においては「修士制作・研究ノート」の審査
及び試験に合格することを修了要件としている。
博士課程
博士課程科目は、必修科目である「比較芸術文化論特論」(4 単位)と、「研究 I~VI」「制
作 I~IV」(各 12 単位)で構成されている。「研究」では学生の多様な研究テーマに対応す
るため、比較文化的研究、歴史的研究、美術史的研究、精神史的研究、造形計画、身体表
現研究に関する科目を開設している。
芸術を文化(社会)のなかに位置づけ、芸術創造の根本課題を探求することが博士課程
の教育、研究の目的であることから、学生 1 人に対して論文指導教員 1 人を配し、1 年次
は各自の研究課題に応じた歴史的、思想的背景を認識し、研究テーマを確立していくため
の指導を主体としている。2 年次、3 年次は、学生各自のテーマに沿った理論研究を推進さ
せ、博士論文の提出に至るための研究指導を行っている。また、博士論文に加え、制作に
よっても研究深化を目指す学生に対しては、制作指導のための科目として「制作」を開講
している。この場合、学生 1 人に対して論文指導教員 1 人と制作指導教員 1 人を配し、両
者の緊密な連携のもと、制作と理論研究の高次の融合をはかっている。
博士課程では、必修科目 4 単位、「研究 I~VI」から 1 科目 12 単位(3 年間継続履修)、
30
京都造形芸術大学
合計 16 単位を修得し、かつ必要な研究指導を受けたうえで、博士論文の審査および試験に
合格することを修了要件としている。
■通信教育課程
本学では平成 10(1998)年に通信教育部芸術学部を設置し、また平成 19(2007)年度に
大学院芸術研究科(通信教育)芸術環境専攻(修士課程)を設置した。学士課程、修士課
程ともに、印刷教材等による授業と面接授業およびインターネットを利用した授業を併用
している。またそれに加えて特別講義など、さまざまな課外の学習機会を設けている。各
授業方法は以下のとおりである。
①印刷教材等による授業
本学では「テキスト科目」と称し、添削指導にあたる教員のほか、専門の職員 12 人を配
置している。テキスト科目ではレポートに加え、作品制作も課題として設定されており、
その添削のための施設(482 ㎡)に、複写や撮影のための機材を整備している。
平成 21(2009)年度は 3,208 件のレポートおよび課題作品の提出があり、その添削指導
を 462 名の教員が担当した。添削指導に際してはひとつの科目に複数の教員が関わるこ
とから、各科目に科目責任者となる教員を配し、指導方法や評価基準の共有のための統
括の役割を担っている。
②面接授業およびメディアを利用した授業
芸術分野の通信教育であるため、面接授業については少人数の演習科目が中心となって
いる。開講に当っては、同一科目を複数回分散させて年間を通じ開講することにより学
生の選択肢を増やし、また、土曜日、日曜日を活用した日程とすることによって、社会
人学生の利便性を高めている。さらに在学生の 42.3%が関東に在住していることから、
京都に加え東京においても多数授業を開講している。
③インターネットを利用した授業
インターネットを利用した授業については、平成 14(2002)年度から一部の科目で取り
組み始め、徐々にその数を増やしてきている。平成 21(2009)年度には 48 科目開講し、
681 人が受講した。教授法には印刷教材による添削講評の経験を反映させて、学生と教
員のコミュニケーションの円滑化を目指し、「WEB サテライト」という遠隔指導のツール
を開発した。
なお、通信教育についての詳細は、特記事項にまとめて記載している。
(2)3-2の自己評価
■学士課程
学士課程は「芸術教養科目」「専門科目」「自由選択科目」の 3 つの科目群によって構成
され、有機的に結合している。また、教育目的を達成するため、それぞれに多くの科目が
設置され、適切に編成されている。いずれの科目群においても領域横断的に幅広く学習で
31
京都造形芸術大学
きる機会を設け、体系的、段階的に科目を履修することができるよう編成されている。
平成 19(2007)年度の学部改編に伴う教育課程改革では、3 年次後半に学習成果を社会
に発信することを目標に、ワークショップ型初年次教育やリアルワークによるキャリア教
育の導入と、各学科の教育目標に沿った「専門科目」の体系的かつ段階的な設定により、
効果を上げてきた。しかし一方で、履修登録単位数について、個別指導はしているものの
制度として登録単位数の上限を設定していないため、1 年間に集中的に単位を修得するこ
とも可能となっており、年次ごとに適切な単位数を履修登録していないケースも見られる。
また、大学全体の教育目的の達成のため学科・コースを超えた教育課程の構造化に取り
組んで指導にあたってきた結果として、4 年間の集大成である卒業研究においては、所属
学科・コースを越えた幅広い視野のテーマを設定することを希望する学生が増加している。
こうした学生が意欲的に卒業研究に取り組むことのできる環境の構築が課題となっている。
■修士課程・博士課程
大学院では特に、教員の研究、制作、社会活動と教育が密接に関わっている。
修士課程における「原論」では、各担当教員が現在取り組んでいる研究課題を示し、学
生と議論を交わしつつ行われている。学生は、自らの修士論文あるいは研究ノートの執筆
における方法論に応じて、「原論」科目群の中から1科目以上を選択履修する。本科目で学
んだ研究の視点・方法論が、学生自らの研究に直結していく。「分野特論」は、専門領域ご
との講義科目であり、1 科目を 2 人から 3 人の教員が分担することによって最先端の研究
成果を授業内容に反映させている。この科目においても一方通行的な講義ではなく、セミ
ナー的要素が取り入れられ、当該年度の学生の研究テーマや習熟度に応じて授業が運営さ
れている。「演習」「研究」では大学院における研究指導法が問われる。一般化、画一化さ
れた指導法から脱却し、学士課程と同様にさまざまな学生を受け入れることを可能とする
ために、学生の研究計画作成指導から進捗状況の確認、方向性に関する示唆、学内外での
報告手法や学会参加、展覧会等、成果発表の方法まで、各教員がそれぞれの手法を開示し
合うとともに、専門の異なる複数の教員による指導機会を設けることで、それぞれの長所
を活かしながら、領域横断的な教育研究の場を提供している。「演習」におけるオープン
ゼミでは、複数指導体制によって直接の指導教員以外とのコミュニケーションが活性化し、
異なる専門領域の学生同士の交流も促進され、学生の授業アンケートにおいても一定の評
価を得ている。
大学院における研究活動を社会へと還元するため、年に数回、大学院の独自企画による
公開講座を実施しているが、附置研究センターが共催となることによって、内容は一層充
実したものとなった。課外における講座開催についても、学生の日常的な研究、創作活動
との良好な関連性が保たれている。
博士課程では、1 年次に必修科目を履修し、併せて「研究」科目において指導教員によ
る個別指導を受け、研究テーマを早期に確立させている。「研究」は 3 年間の継続履修で
あり、同じ教員から継続的な指導を受けることができる。このことは研究成果の着実な蓄
積につながっている。また、学生の研究の進展状況は公開中間発表会で報告され、多くの
教員による多角的な助言を得る機会となっている。さらに、制作を併行する学生によって、
芸術大学の特長を反映した研究テーマがうまれている。
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京都造形芸術大学
■通信教育課程
本学の通信教育課程において積極的に評価できる教育手法とその効果については、「芸
術・デザイン教育ならではの印刷教材による授業と面接授業を組み合わせて構築したこと」
「社会人学生の利便性を高めたこと」「学生個々の生活環境に応じ問題関心を育てたこと」
と認識している。一方で、新たなメディアを用いた教育手法の開発は遅れている。
(3)3-2の改善・向上方策(将来計画)
学士課程においては、平成 23(2011)年度の学部改編に向け、教育内容・方法のさらな
る充実をはかる。
現在、次の改革案について実施に向けた検討が進んでいる。
語学の修得とキャリア支援に重点を置いた教育改善として、「ベーシックワークショッ
プ」と「グループワークショップ」および語学科目の授業時間数と単位数の見直しや、3
年次でのキャリアガイダンスを目的とした共通科目の設置等を行なう。
また、初年次教育の導入によって、1、2 年次における履修の促進がはかられたが、一方
で年次ごとに適切な単位数の修得を行なっていない場合がある。そのため、履修登録単位
数の上限については、GPA 制度の導入結果を検証して制度設計を行ない、平成 23(2011)
年度入学者より適用する。
さらに、学生が領域横断的なテーマでの卒業研究を希望した際に対応できるよう、新た
な科目を設定し適切に担当者を配置することにより、芸術教養教育センターおよび所属学
科以外の教員による卒業研究指導の仕組みを作り、平成 23(2011)年度より導入する。
修士課程においては、科目編成の基本的枠組みは、平成 12(2000)年度の大学院改組の
際に編成され、その後必要に応じて科目数や内容については適宜改廃を進めてきた。現在、
この科目編成は一定の効果を挙げており、大きな改善の必要は認められないが、従来の専
門領域にとらわれない新たなジャンル、視点からの研究制作への取り組みを推奨している
ため、現在の「原論」や「分野特論」の編成を点検し、平成 23(2011)年度に科目の改編
を行なう。「必修特論」は、「比較藝術学研究センター」との連携を推進し、より専門的な
内容を取り入れた科目とする。また、学士課程の平成 23(2011)年度の改編から、今後新
たな領域の設定が大学院においても求められることとなる。「原論」「分野特論」「演習・研
究」に関しては、この学士課程の改編を念頭に置き、段階的に内容の再編成を行なう。
通信教育課程に関しては、これまで蓄積してきた教育手法を本学通信教育部の教育理念、
教育目標に照らして精査し、既存手法の整理と洗練を継続すると共に、今後の活用が見込
まれる新たなメディア(電子教材)を用いた教育手法の開発を推進する。
33
京都造形芸術大学
3-3
教育目的の達成状況を点検・評価するための努力が行われていること。
《3-3の視点》
3-3-① 学生の学習状況・資格取得・就職状況の調査、学生の意識調査、就職先の
企業アンケートなどにより、教育目的の達成状況を点検・評価するための努
力が行われているか。
(1)3-3の事実の説明(現状)
■学士課程
学士課程では、教育目的の達成状況の点検・評価のため、次のような方策を実施してい
る。
単位修得状況の把握
平成 19(2007)年度に実施した教育課程の構造化により、学生の状況がどのように変化
したか把握するため、また平成 23(2011)年度より導入予定の、履修登録単位数の上限に
関わる制度設計のため、以下の視点から平成 21(2009)年度末の全学生の学習状況の分析
を進めている。
・ 学年別修得単位数および合格者における成績分布
・ 学科別の履修登録に対する合格状況
・ 3 年次終了時点での累積取得単位数
GPA のフィードバック
GPA は、半期ごとに各学生にフィードバックされるとともに、学科別のデータを半期ご
とに各学科に通知している。各学科はこのデータを基に、学科全体のカリキュラムや課題
の設定の妥当性を検証するとともに、学生別に半期ごとの変化を把握し、個別指導に役立
てている。また GPA の値と進路決定率に相関関係が見られることを受け、GPA の分析と進
路指導を関連付ける方策の検討を進めている。
退学、除籍者の調査と情報共有
当該年度の在籍者数が 4 月末に確定するため、5 月に実施する代表教授会にて退学・除
籍者の調査結果を共有し、原因の分析と対策の検討を行なっている。
就職に関する調査
学生の就職に関する調査は、ゼミを中心に個別面談を行ない、ゼミで得た学生の状況を
学科全体で共有する仕組みをとっている。1 年次と 2 年次では、前期に 1 回、後期に 1 回
(年 2 回)、担当教員が面談を実施する。3 年次と 4 年次は、1 年次 2 年次と同様の面談を
実施すると同時に、就職活動量の調査を実施している。3 年次生は 6 月、10 月、1 月に、4
年次生は 4 月、6 月、10 月、12 月に、それぞれどの程度就職活動を行っているかを調査し、
就職担当部署であるキャリアデザインセンターが大学全体の状況をとりまとめ、問題点を
抽出し、さらに個別面談や開催講座を検討する等対応している。
卒業時には、全卒業生を対象に、就職先の企業や、就職活動の活動量等の調査を実施し
ている。キャリアデザイン委員会では、この調査結果に加えて個々の学生の指導状況やゼ
34
京都造形芸術大学
ミ単位での進路決定率の違いについても共有化している。また、就職活動量を調査し、内
定者と未内定者との活動量や行動傾向の違いを次年度の学生指導の参考資料としている。
先の GPA のフィードバックで記したとおり、GPA と進路決定プロセスの関連については
現在検討を進めている。
「合評」への外部講師の参加
基準 3-2 の教育内容・方法の特色の項で述べたように、学習状況の達成度を把握するた
め、学科の別なく教職員・学生が自由に講評に参加できる合評期間を、前期・後期それぞ
れの終了時期に設定して公開している。合評の実施に際しては、可能な限り美術館学芸員、
企業のデザイナー、作家等を招聘しており、合評後には、学生のプレゼンテーションや学
内の教員のコメント等が「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」という本学の教
育目的に適うものであるかどうかを問うためのアンケート調査を実施している。アンケー
ト結果はすべて学科へフィードバックされている。
■大学院
学生の学習状況については、定期的な面談によって各指導教員が把握に努めている。ま
た、研究計画書、研究報告書の提出を義務づけ、その内容をもとに複数教員による面談を
実施し、教育目的の達成状況を点検し、問題の共有をはかっている。
(2)3-3の自己評価
学士課程では、平成 19(2007)年度の変更点については、教養教育とプロジェクト型授
業の充実、卒業要件の変更を受け、当初の計画通りの結果となっている。GPA や単位修得
状況の把握に基づく学生の学習状況調査、ゼミにおける就職状況の調査などは適切にきめ
細かく行なわれているが、一方で学生の意識調査、就職先の企業アンケート等は、制度と
して実施がされておらず、状況の数値的な把握が不足していると考えている。
大学院においては、研究計画書、研究報告書の提出、および面談による学生の状況把握
が開設当初から実施されており、制度として定着しているため、有効に機能している。
(3)3-3の改善・向上方策(将来計画)
学士課程においては、未実施となっている学生意識調査を平成 23(2011)年度に全学
生を対象として実施し、本学で行なわれている教育や学生支援について、網羅的、客観的
な把握と分析、課題の抽出および対策の立案を行なう。課題が認められた点に対する対応
は、平成 24(2012)年度の実施計画に反映させる。
大学院では、教育目的の達成状況を点検する手がかりとして、平成 23(2011)年度から、
修了生の状況を把握するための追跡調査を実施する。
〔基準3の自己評価〕
本学では、開学以来、建学の理念とそれに基づく教育目的の共有については意識的に行
なわれており、教職員・学生に浸透している。教育課程の再編等の改革を行なう際には、
時代の要請や学生の動向のみにとらわれず常に理念に立ち返って教育目的を点検しつつ改
35
京都造形芸術大学
革案を立案実施している。
各教育課程は、大学全体の教育目的を踏まえつつ、専門領域の状況に応じた教育目的を
設定し、ガイダンスやゼミ指導の機会に学生に伝達している。また、年 1 回教育計画の点
検と改善を行なうことが定着しており、教育目的の達成のために適切な教育課程の編成方
針が立てられているか、その方針に沿った課程編成となっているのか、また教育目的が教
育方法に反映されているかについての検証と改善実施が行なわれている。
従来より、本学では、少人数編成のクラスやゼミ単位での教育指導の場がきめ細かく用
意されている。そのため、学生の学習状況、就職活動状況など、教育目的の達成状況に関
する学生の側に立った検証・把握は、このような教育の仕組みの中で対面指導、面談によ
り行なわれており、それに基づく分析、改善策検討が中心となってきた。一方で、数値的・
客観的な調査を組織的に遂行することが課題となっている。
〔基準3の改善・向上方策(将来計画)〕
学生の意識調査、学生の就職先の企業アンケート等、現在は対面でのヒアリングや情報
交換に基づき行なわれている状況把握について、数値的・客観的な調査分析の仕組みをつ
くり組織的に取り組む。いずれも、平成 22(2010)年度に制度設計と実施計画の立案を進
め、平成 23(2011)年度に調査を実施する。
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京都造形芸術大学
基準4
学生(入試・入学、学習支援、学生サービス、就職支援、学生からの要望
処理システム、卒業・進路指導、国際交流等)
4-1
アドミッション・ポリシー(受け入れ方針・入学者選抜方針)が明確にされ、
適切に運営されていること
《4-1の視点》
4-1-① アドミッション・ポリシーが明確にされているか。
4-1-② アドミッション・ポリシーに沿って、入学者選抜等が適切に運用されているか。
4-1-③ 教育にふさわしい環境の確保のため、収容定員と入学定員及び在籍学生数並び
に授業を行う学生数が適切に管理されているか。
(1)4-1の事実の説明(現状)
■アドミッション・ポリシー
芸術学部
本学は教育目的を「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」としている。そのた
め、これを実践できる基本的素養を備えた「芸術を学ぶ意欲と社会貢献をめざす高い使命
感をもった学生の受け入れ」をアドミッション・ポリシーとして定めた。そのため、表現
技術の優劣だけにとらわれず、評価基準の異なる複数の入学試験を実施して多様な学生を
選抜している。
大学院
本学における知的・創造的な研究活動の中核として位置づけられる大学院では、芸術・
デザイン分野における真に創造的で革新的な人材を育成するため、入学希望者には次のよ
うな資質・能力を求めている。
○研究対象の専門分野に対して、問題意識、研究・制作意欲が明確にあること
○本大学院での研究・制作の基礎となる知識・技能を備えていること
○教員の指導を注意深く吸収するのみならず、それを乗り越えて独自の研究や創作を成し
遂げうる「独創性」「社会性」を志向していること
■周知方法
建学の理念や学部・研究科の組織、教育内容の特色等を、ホームページなどの広報媒体
や、全国各地で開催される入試相談会や大学説明会において周知をはかっている。
■学部の入試制度
コミュニケーション入学(アドミッション・オフィス型入学試験)
夏期および秋期の 2 回実施。それぞれ 2 日間の授業と、6 ヶ月にわたる入学前学習プロ
グラムを通じて、「やる気」「伸びる力」「発想力」を見ると同時に、受験生に本学の教育内
容を理解してもらうためのプロセスとしている。本学を第一志望とし、入学後リーダーシ
ップを取れる学生を求めている。また、入学前学習プログラムに「国語」「英語」を課すこ
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とで、実技だけでなく学力面も重視している。
公募制推薦入学試験
基礎教養の資質を見る「国語・英語」(学科試験)、全学科共通の実技試験「共通デッサ
ン」、各学科の専門試験を課している。受験生は得意科目を選択でき、学力の高い学生、専
門実技力の高い学生、学力・実技のバランスの取れた学生を選抜している。
小論文特別選抜試験
姉妹校である東北芸術工科大学と共同で、共通科目「小論文」による選抜試験を実施し
ている。多様な学生を受け入れるという方針に基づき、高等学校および普通予備校でも指
導を行なっている「小論文」を試験科目とすることで、表現技術を学んでいない受験生も
受験できるようになった。
デッサン特別選抜試験
姉妹校である東北芸術工科大学と共同で、共通科目「デッサン」による選抜試験を実施
している。「デッサン」という表現技術の基本となる科目に真摯に取り組み、基礎的な描写
力、構成力、観察力など持った学生を選抜している。
海外帰国生徒入学試験
日本国籍を有し、外国における正規の学校教育を受けた者を対象としている。試験科目
は「面接」とし、表現技術、学力のみならず、海外での活動、経験、語学力等も評価の対
象としている。
大学入試センター試験利用入学試験
大学入試センター試験科目のうち、高得点の上位 2 科目を採用する方式で判定している。
基礎的な学習を積み重ねた、学力の高い学生を選抜している。
一般入学試験
基礎教養の資質を見る「国語・英語」(学科試験)、全学科共通の実技試験「共通デッサ
ン」、各学科の専門試験を課している。受験生は得意科目を選択でき、学力の高い学生、専
門実技力の高い学生、学力・実技のバランスの取れた学生を選抜している。
プレゼンテーション入学(アドミッション・オフィス型入学試験)
大学から提示された課題または日頃取り組んでいる活動成果や制作してきた作品などを、
プレゼンテーションを通じてアピールしてもらう内容としている。日々の努力と、その成
果・考えを明確に説明できる力を評価している。
外国人留学生入学試験
日本学生支援機構が実施する日本留学試験「日本語」受験を必須とし、作品・資料の審
査を伴う面接試験を課している。これらに加え、出身学校の成績や出席状況等も含め総合
38
京都造形芸術大学
的に評価している。
編入学試験(2 年次、3 年次)
学科ごとに設定した小論文試験、実技系専門試験および作品・資料をもとに面接を行っ
ている。また、出身学校の成績も含めて総合的に評価している。
■大学院の入学要件・入学試験方法
修士課程では一般入学試験を各専攻で 2 回実施している。選考方法は、芸術文化研究専
攻、芸術表現専攻両課程ともに小論文、英語、面接を中心に試験科目を設定している。出
願にあたっては、論文あるいは作品の提出を義務付けており、大学院教育を受けるにふさ
わしい能力や適性などを総合的に判定し、合格者を決定している。博士課程については、
修士論文あるいは作品評価に加え、小論文(日本語、英語要旨)の提出を課し、口述試験
も加えこれらを総合的な見地から判定し、合格者を決定している。
■入学試験の実施体制
統括責任者である学長のもと、入試部長が教員セクションの責任者となり、アドミッシ
ョンオフィスを事務セクションの責任部署として各入学試験を実施している。
入試制度の検討は、学園協議会で原案を策定し代表教授会にて決定している。入学試験
問題の作成は、「国語・英語」「共通デッサン」の全学共通科目については学科から選任さ
れた入試出題委員会が担当し、各学科専門科目については各学科教員が行なっている。入
学願書の受付から入学試験問題の印刷や管理は、アドミッションオフィスが行なっている。
試験当日は入試部長や事務局長はじめ、入試出題委員、各学科入学試験問題作成者が待
機し、不測の事態に備え、アドミッションオフィスの運営のもと、円滑な試験の実施に努
めている。
なお、採点については、全学共通科目は入試出題委員が、各学科専門科目は各学科担当
教員が必ず複数で行ない、合否判定は、学科ごとの判定結果をもとに、学長、副学長、学
部長、学科長で構成する「入試判定会議」の審議を経て最終的に学長が合格者を決定して
いる。
また、受験生に対して、合否結果通知と共に素点や合格基準点を公開している。
■入学定員・在籍学生数
入学試験ごとの志願者比率や入学率データ、辞退者データをもとに、他大学の状況等も
加味しながら合格者数を算出している。編入学試験については、退学者数および学科間の
異動による学生数の増減を受け、適正な編入学生数を確保している。結果、表 F-4 に示す
とおり、平成 22(2010)年 5 月 1 日現在の芸術学部における収容定員 2,746 人に対し、在籍
学生総数は 3,006 人となっており、収容定員超過率は 1.09 倍と、授業運営に問題のない範
囲で学生の受け入れが行なわれている。
大学院は、平成 22(2010)年度の修士課程の収容定員超過率が 1.33 倍となっている。
博士課程に関しては、収容定員超過率は 0.90 倍と適正な受け入れを行なっている。
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京都造形芸術大学
■授業を行なう学生数の適切な管理
芸術教養科目において、少人数教育である、「ベーシックワークショップ」「グループワ
ークショップ」「ことばと表現」については、履修年次の在学生全員が履修できるクラス数
を開講している。その他の講義科目は、履修者数に一定の制限を設け、適正規模で授業運
営を行なっている。さらに、履修希望者が大幅に増加した科目については、複数クラスを
設けるなどの措置を講じている。また、各学科の開講する専門演習は、各年次に開講する
科目の到達目標に則って、適正な学生数により授業運営を行なっている。いずれの学科も
4 年次の専門教育において少人数によるゼミ分けを行ない、卒業研究に臨める体制をとっ
ている。
修士課程の収容定員超過率が 1.33 倍となっているが、全ての学生に対して制作研究施設
を整備し、指導教員を適切に配置している。
(2)4-1の自己評価
アドミッション・オフィス型入学試験(以下、AO 型入試)である夏期および秋期コミュ
ニケーション入学において体験授業方式を採用しており、受験生一人ひとりとじっくり向
き合うことで、芸術を学ぶ意欲を見ることができ、アドミッション・ポリシーに添った学
生を確保することができている。また、AO 型入試では学力考査を課していないが、入学前
学習プログラムの導入によって、基礎学力を備えた状態で入学できる仕組みを整えている。
AO 型入試で選抜したリーダーシップを備えた学生と、他の入学試験で入学した、表現技術
に秀でた学生、学力の高い学生、留学生等がお互いに刺激しあいながら切磋琢磨すること
によって、学部教育の活性化がはかられている。一方で、アドミッションポリシーが募集
要項に明記されていない。
また、修士課程の収容定員超過率が高い値となっている。
(3)4-1の改善・向上方策(将来計画)
アドミッション・ポリシーを平成 22(2010)年度より募集要項に掲載する。入学前学習
プログラムについては、入学後の初年次教育との接続を考慮し、さらに改善充実をはかる。
修士課程については、合格者数の調整による収容定員超過率の適正化をはかるとともに、
専攻ごとの定員について見直しをする。
40
京都造形芸術大学
4-2
学生への学習支援の体制が整備され、適切に運営されていること。
《4-2の視点》
4-2-① 学生への学習支援体制が整備され、適切に運営されているか。
4-2-② 学士課程、大学院課程、専門職大学院課程等において通信教育を実施している
場合には、学習支援・教育相談を行うための適切な組織を設けているか。
4-2-③ 学生への学習支援に対する学生の意見等を汲み上げる仕組みが適切に整備さ
れているか。
(1)4-2の事実の説明(現状)
■学習支援体制
事務局に教学事務室を設置し、36 人の職員(専任職員 16 人、契約職員 14 人、派遣職員
6 人)を配置しており、キャリア支援、教学支援、国際交流の 3 つのグループが一体的に
学習支援にあたっている。また、各学科、芸術教養教育センター、芸術教育資格支援セン
ターに、学科事務担当 13 人、副手 28 人、技術員 3 人が配置され、学習支援にあたってい
る。
教授会のもとに教務委員会、国際交流委員会を設け、学習支援策の検討と実施、改善に
努めている。
ガイダンス・履修相談
毎年度はじめに学生全員と学科所属教員との面談を行ない、学習、進路、学生生活全般
にわたる学生の就学状況を把握している。授業期間中は、オフィスアワーを設定して恒常
的に学生が教員とのコミュニケーションを取りやすい環境づくりを行なっている。また、
各学科、芸術教養教育センター、芸術教育資格支援センターに事務担当と副手を配置する
ことによって、教員が学生への指導に注力できる環境を整備している。また、教員相互、
教員・職員間の情報共有をはかり、学生の指導・サポートにあたっている。
履修指導については、教学事務室による全体ガイダンス、教員による学科別ガイダンス、
さらに学科内のコース別ガイダンスを実施している。個別相談も、各学科と教学事務室の
双方で受け入れており、個々の学生に対する細かな対応ができる体制としている。教学事
務室では、相談窓口をすべてローカウンターとし、椅子を用意して、学生と対面で時間を
かけて相談が行える態勢をとっている。事務局は窓口休止時間を設けず、9 時から 18 時ま
での間、職員が交替で常に学生相談にあたっている。
退学の相談に関しては、学科所属教員が個別面談を行ない、所属学科・コースに対する
不適合や進路変更が原因の場合は転学科・転コースを、肉体的・精神的に負担がかかって
いる場合は休学を、経済的な理由で学習継続が難しい場合は経済支援策をアドバイスし、
なお困難な場合には通信教育課程へ転籍を勧めている。
平成 19(2007)年度より導入した進級制度は、高年次での退学を防ぐ効果があるが、一
方で 1、2 年次で進級できなかったため退学を選択するケースも生じている。単純な履修登
録ミスにより進級不可とならないよう、履修登録の際には 3 回の確認期間を設けて相談に
応じている。
41
京都造形芸術大学
情報リテラシー支援
芸術文化情報センターでは、学術情報リテラシーに関するガイダンスを実施している。
ガイダンスをゼミや授業科目と連動させた結果、ガイダンス参加者が増加した。
芸術教養教育センターでは、大学で初めてレポートを書く学生のために、「ことばと表
現」の科目の中で共通テキストを使用してレポートの書き方を解説している。
またキャリアデザインセンターでは、作品のポートフォリオ制作やプレゼンテーションに
関する指導を行なっている。
GPA(Grade Point Average)制度の活用
平成 19(2007)年から導入した GPA 制度は、平成 22(2010)年に全学生が対象となる。
そのため、教員は学生個々人の学習達成度を把握し、よりきめ細かい個別指導が可能とな
る。学生に対しては、前期末、後期末に GPA を通知し、また GPA 成績上位者 10%を表彰し
ている。教務委員会では、データの分析とそれに基づくカリキュラムや成績評価の検証を
行なっている。
海外への留学支援
平成 20(2008)年 4 月より教学事務室に国際交流グループを設置し、学習意欲を高める
方策として、学生が海外で学ぶ体験を提供する様々なプログラムやサポートを実施してい
る。国際交流グループの相談窓口には、平成 21(2009)年度には 66 人(大学院生 4 人を
含む実数)の学生が相談に訪れている。またチューリッヒ芸術大学(スイス)、ジュネーブ
造形芸術大学(スイス)、グラスゴー美術学校(イギリス)の 3 校と協定を結び、短期留学
制度を実施している。平成 21(2009)年度には本学から 3 人の学生を派遣し、3 人の留学生
を受け入れた。その他に、ラ・プリマヴェーラ賞(受賞者には海外一都市での約 2 週間の
研修の機会を提供)、海外研修ツアー、留学経験者や海外で活躍する人を招いた国際交流レ
クチャーシリーズ、海外留学のためのガイダンスを実施している。
海外からの留学生に対する支援
本学は、東アジア各国を中心に留学生の受け入れに力を入れており、グループ校である
京都文化日本語学校(各種学校正規課程、日本語教育振興協会認定校)と連携して、留学
生の支援にあたっている。留学生課では、大学生活や授業に関することや奨学金や保険に
関すること、在留資格等に関することなど、留学生が日本で留学生活をより有意義なもの
とできるよう支援を行っている。
学習支援・表彰制度
学生の学習意欲を高める方策として、様々な奨励制度や表彰制度を実施している。
42
京都造形芸術大学
表 4-2-a:奨励制度・顕彰制度
制度名
奨励制度
GPA 上位者顕彰制度
卒業研究・制作
顕彰制度
蒼山会(保護者会)
創作・研究補助制度
蒼山会(保護者会)
対外文化活動補助
制度
内容
対象:学部 4 年生
選考基準:研究、制作に秀でた優秀な学生
授与額:10 万円
対象:学部 2~4 年生
選考基準:前年度の GPA 成績上位者約 10%
対象:学部 4 年生
選考基準:卒業論文・作品における優秀者上位約 20%
対象:学部 1~3 年生、特に人数を定めず
選考基準:長期的・計画的かつ独創性のある創作研究に取り組
む学生
授与額:申請金額に応じて決定
平成 21 年度実績
対象:学部全学年、対外的に研究や制作の発表を行なった学生
補助金額:活動に要した費用の 5 割。上限 50,000 円
20 人
147 人
119 人
6人
58 人
■通信教育課程における学習支援・教育相談
通信教育部における遠隔教育という特性から、学習支援・教育相談の手段は郵便・FAX・
電子メール等、文字を媒介とする対応を主としている。あわせて電話受付と窓口直接対応
も実施している。このため、受付業務に専従する職員を配し、学生からの問い合わせを一
元的に管理することによって、対応漏れの防止と迅速な回答を実現している。
通信教育は、学習を進める上で事務手続きの占める比重が大きいため、通信教育部生専
用のホームページ「サイバーキャンパス」では、各種申請書式のダウンロードを可能とし
ている。サイバーキャンパスではこの他にも、シラバスの検索・閲覧機能や、普段直接会
う機会の少ない通信教育部生の交流の場として、テーマ別の掲示板を設け、自宅学習の利
便性向上に努めている。また、各コース主催による「学習相談会」を京都・東京両キャン
パスで定期的に開催する他、全国各地域で、学生たちが組織している「学習会」(自主的な
勉強会)に、教員を派遣する制度を設けている。(通信教育の詳細は特記事項に記載)
■学生の意見等を汲み上げる仕組み
授業評価アンケートの実施
前後期末に全教員(専任・非常勤)、全授業を対象に授業評価アンケートを実施し、ホー
ムページ上で結果概要を公開している。全体分析、学科・分析、個人分析の結果を教務委
員会で検討し、授業改善に役立てている。
成績確認
成績評価方法と成績評価基準については、シラバスの記載に基づき行なっている。各教
員が授業を実施し、その基準に基づき評価する。成績評価は、S:100~90 点
点
B:79~70 点
A:89~80
C:69~60 点の 4 段階評価である。履修者数の増減や実際に授業を行な
った状況により、担当教員は授業開始一ヶ月以内に到達目標と評価基準を必要があれば修
正することができる仕組みとなっている。
また、成績確定後に成績確認期間を設け、当初の成績評価基準と合致しないと思われる
評価に関する学生の疑義照会に応じている。この制度によって、シラバスの記載内容の改
善がはかられている。
43
京都造形芸術大学
(2)4-2の自己評価
■学習支援体制
ガイダンスや履修相談、情報リテラシーや海外留学に対する支援、授業評価アンケートの活
用、学生にからの個別相談への対応については、体制面、運用面ともに十分に整っている。GPA
制度が全学年に適用されたことにより、活用が行なわれている。
■通信教育課程の学習支援体制
窓口対応専従者の配置をはじめ、学習相談会の実施、学習会の支援、サイバーキャンパ
スの整備などにより、学習支援体制は整っている。
■学生の意見を汲み上げる仕組み
学生との個別相談によって把握された問題点は、教務委員会にあげられ、改善する仕組みが
できている。しかし、全学生を対象とする定期的な調査の導入と、対応結果や調査結果等を外
部へ公開する仕組みをさらに整備する必要がある。
(3)4-2の改善・向上方策(将来計画)
学生の学習支援に対する要望を数値的に把握できるようアンケート調査を実施する。ま
た、学生相談の対応結果、アンケートの調査結果等を公開する仕組みを設計する。
通信教育課程については、動画教材のインターネット配信を開発・導入し、遠隔地の学
習者に対して、より一層の学習効果と利便性の向上をめざしていく計画である。また、学
生の窓口の体制を引続き整備し、学生の学習支援を充実させる。
44
京都造形芸術大学
4-3
学生サービスの体制が整備され、適切に運営されていること。
《4-3の視点》
4-3-① 学生サービス、厚生補導のための組織が設置され、適切に機能しているか。
4-3-② 学生に対する経済的な支援が適切になされているか。
4-3-③ 学生の課外活動への支援が適切になされているか。
4-3-④ 学生に対する健康相談、心的支援、生活相談等が適切に行われているか。
4-3-⑤ 学生サービスに対する学生の意見等を汲み上げる仕組みが適切に整備されて
いるか。
(1)4-3の事実の説明(現状)
■学生サービスの組織
学生生活に関する全学的な事項を審議するために、教授会のもとに学生生活委員会を設
置している。学生生活委員会は、委員長を兼ねる学生部長が主催し、各学科から選出され
た 11 人の教員と 2 人の教学事務室職員で構成され、会議を月1回程度開催し、厚生補導、
奨学金などの経済的支援、課外活動援助、学生自治会支援について検討を行なっている。
また必要に応じて学生と意見交換し、学生へ指導、アドバイスを行なっている。
学生サービスにあたる事務組織として、教学事務室に教学支援グループ(職員 7 人)を
設けている。教学支援グループでは、学生生活に関する支援(課外活動、福利厚生、奨学
金案内など)、学修に関する支援(履修登録、証明書発行、履修相談、成績照会など)、そ
れらを管理する業務(学費管理、学籍管理、成績管理など)などの、学生の大学生活全般
にわたる手続き管理および個別相談を行っている。
留学生支援のための事務組織として、留学生課を設置している。
心身の健康に関して支援にあたる組織として、保健センターを設置し、平日は 3 人の職
員(看護師 2 人、カウンセラー1 人)が常駐している。また、土曜・日曜も通信教育課程
のスクーリング授業や劇場での公演などのため大学施設が開かれており、その際は非常勤
職員(看護師)2 人を配置している。看護士以外にも、業務を委託している学校医(内科
医 1 人、精神科医 1 人)と連携して、心身両面での相談とケアにあたる体制を整えている。
さらに、それら専門の職員と教職員で構成する保健センター運営会議を設置し、学生の健
康等の状況について情報交換を行なって、全学的に学生の相談に応じる体制を整えている。
■経済的支援
経済的支援については、日本学生支援機構や各自治体・財団等による育英事業のほか、
保護者会の援助を得ながら本学独自の奨学制度も設けている。それらの奨学金の受給状況
は下表のとおりである。そのほか、通信教育課程では、学内奨学金(授業料の 3 割減免)
を受給している学生が 1,243 人、日本学生支援機構奨学金を受給している学生が 9 人いる。
45
京都造形芸術大学
表 4-3-a:奨学制度受給状況
平成 22(2010)年 3 月 1 日現在
制度の名称
学費減免制度
提携教育ローン
学資奨学金
蒼山会(保護者会)奨学金
特待生(修士課程)
特待生(博士後期課程)
外国人留学生授業料免除
外国人留学生奨学金
日本学生支援機構奨学金
民間育英財団奨学金
内容
減免額 20 万円
利子補給
無利子貸与、年間学費の半額が上限
無利子貸与、年間学費の半額を上限とする
授業料の半額免除
授業料の全額免除
学費 30%減免
成績等に応じて支給
種別による
給付または貸与
平成 21 年度の
採用人数
60
6
3
1
5
3
112
57
1,130
16
■課外活動支援
本学には、学生自治組織である学生自治会があり、学生生活の向上や学生同士の交流促進と
親睦のために、学園祭などの各種イベントの実施、クラブ活動の支援、留学生の交流会などを
行なっている。 学生の自治活動の強化をはかるため、大学をあげて学生自治会の再編成を
支援することとし、平成 21(2009)年度は準備段階として学生自治会との対話の機会を多
く持った。新たな学生自治組織は 4 学年 31 コースから選出された代議員により構成される
予定である。
大学の公認サークルは体育会系 11 団体、文化系 21 団体の合計 34 団体を数え、専任の教
職員がその顧問として活動をサポートしている。公認サークルにはクラブ室(30 室)を設
置している。
本学の保護者会「蒼山会」の財政支援を受けて、学生個人またはグループの自主的な創
作・研究活動の活動費用を補助する「対外文化活動補助制度」や「創作・研究補助制度」
を設け、学生の主体的な学習創作活動を支援している。また教室、廊下、ラウンジなど校
舎内のスペースを学生が発表の場として使用できる環境を整え、自主的な制作発表活動を
支援している。
■健康相談、心的支援、生活相談
平成 21(2009)年度の保健センター利用者数(のべ数)総計は年間 6,176 件であり、こ
のうち学部および大学院生の利用者数(のべ数)は 4,470 件である。また、保健センター
内に設置した学生相談室におけるカウンセリング件数は 334 件であった。学生相談室での
相談内容は、学業面での相談と保健・医療面の相談件数がほぼ同数であり、次いで対人関
係での相談が高い割合を占めている。
本学敷地内では喫煙場所を制限し分煙を徹底するとともに、学生に禁煙を推奨している。
また、学内での飲酒は全面的に禁止としている。新年度を迎える時期の履修ガイダンス時
には、薬物乱用やカルト宗教への注意喚起を行なっている。
学生の生活相談には、教学事務室と各学科の教員がそれぞれ応じている。その情報は学
生生活委員会を通じて共有され、教職員一体で問題解決にあたっている。また、人間関係
委員会を設置して、キャンパス・ハラスメントの相談窓口を開くとともに、ハラスメント
防止のためのガイドラインの制定や教職員の啓蒙に努めている。
46
京都造形芸術大学
外国人留学生の生活や学修相談には留学生課が対応している。また留学生同士の交流促
進を目的に、教職員も参加して留学生懇談会を開催している。
■その他の支援
芸術大学の特殊性により作品制作に必要な素材や道具は多種多様である。そのため、購
買部を設置してそれらを幅広く揃え、市場より安価に提供することで学生の創作活動を支
援している。購買部では物販のみならず、下宿の斡旋・自動車運転免許取得の案内などの
サービスも行なっている。
また、「京都造形芸術大学 在学生専用サイト」(WEB サイト)による学生サービス情報の
提供、携帯電話メールによる災害等による緊急時の連絡手段を整備している。
■学生の意見等を汲み上げる仕組み
本学では、学生の窓口相談を重視しており、個々の学生の意見・要望を、直接教職員が
時間をかけて聴取しており、それらの意見・要望を、学生生活委員会で取り上げて対応し
ている。また早急に解決が求められる問題については、学部長の指示のもとに対応をはか
っている。このように学生の意見、要望に迅速に対応するシステムが機能している。
(2)4-3の自己評価
カウンセラー1 人が常時学生のカウンセリングに対応していること、保健センターと学
生相談室に各 1 人の専門医が配置されていることによって、健康相談、心的支援の体制は
整っている。「学費減免制度」においては 60 人の募集に対して 2 倍以上の応募があり、経
済的支援を拡充する必要性が認められる。学生生活委員会と教学事務室、各学科研究室と
の連携により、学生支援は適切になされている。学生の意見、要望は、個々の相談窓口を
通じて汲み上げられ適切に対応できているが、学生の要望を定期的、数値的に把握する仕
組みが整えられていない。
(3)4-3の改善・向上方策(将来計画)
学生サービスの組織については、現在の体制を継続していく。WEB サイトの活用による
学生サービス情報は、内容の充実をはかっていく。経済的支援については、給付型奨学金
の採用枠拡大をはかる。学生の要望や意見を定期的かつ数値的に把握するため、紙媒体ま
たは Web 上でのアンケートを実施する。
47
京都造形芸術大学
4-4
就職・進学支援等の体制が整備され、適切に運営されていること。
《4-4の視点》
4-4-① 就職・進学に対する相談・助言体制が整備され、適切に運営されているか。
4-4-② キャリア教育のための支援体制が整備されているか。
(1)4-4の事実の説明(現状)
芸術大学は、一般大学と比較すると卒業時の就職決定率が低いという傾向がある。平成
15(2003)年度における本学の就職決定率 63.6%は、全国の大学平均 93.1%に対し、30
ポイント程度低い結果となっている。
しかし本学は、「芸術を社会に活かすことの出来る人材の育成」を教育目標に掲げている。
これは、学生が 4 年間の正課、課外などの学習、学生生活を通じ進路を決定し、その進路
を具現化することで、初めて評価の対象となる教育目標である。この考えに基づき、平成
17(2005)年度にキャリアデザインセンター(以下、CDC)を設置し、学生の進路決定のた
めのキャリア支援の強化に取り組んでいる。
CDC において過年度のデータを詳細に分析・検証し本学の学生の課題を抽出した結果、
具体的な目標として「就職活動量の増加」「就職活動の早期化」「進路決定の早期化」を設
定した。これらの目標を達成するために、ゼミ担当教員が学生の進路決定を促し、学生の
決定した進路実現に向けた支援を継続的に行う一方、CDC では実践的な就職活動支援を行
うこととした。これを基本方針として、以下の相談・助言体制、およびキャリア教育の支
援体制を整備し、就職決定率の改善を目指している。
■進路・就職に対する相談・助言体制の整備
学生の個別指導をベースとするゼミ担当教員によるキャリア支援
芸術大学である本学は、従来から作品制作を指導するにあたって、学生の個別指導が徹
底しており、全ての学科で4年次は少人数のゼミ制が敷かれている。そのため学生と教員
のコミュニケーションが密にはかられ、多くの学生は担当教員に様々な相談を行なってい
る。この学生と教員のコミュニケーションを基盤として、平成 21(2009)年度よりゼミを
進路指導の最小単位と位置づけ、日々の学生の活動状況の把握や指導を行なうこととした。
ゼミ担当教員一人当たりの指導学生数は 1~10 数人であり、このゼミ体制により、学生に
日常的に進路決定を促し、就職希望者の継続的な活動を支えることが可能となった。
また、進路指導の全体統括を学部長が担い、その下に就職部長(キャリアデザインセン
ター長)を配し、キャリアデザイン委員会を編成している。委員会のメンバーは各学科の
コース教育を取りまとめているコース主任とし、情報共有と活動方針の統一をはかってい
る。
学科と CDC の連携
CDC には 7 人の教職員を配置し、各学科のゼミ担当教員と協力して学生指導に当たって
いる。就職活動支援に特化した CDC では、履歴書作成指導、面接指導、ポートフォリオ作
成指導、企業開拓、キャリア科目設計、資格取得講座設計などを担っている。ゼミ担当教
48
京都造形芸術大学
員は就職を希望する学生に、CDC が実施する就職支援プログラムの活用を促すと共に、就
職希望者の活動状況を CDC にフィードバックし、それを受けて CDC は個々の学生の活動状
況に応じたきめ細かいキャリア支援を行なっている。なお、海外留学(進学)については、
平成 21(2009)年度に設置された「国際交流グループ」が相談窓口となり、役割を分担し
ている。
図 4-4-a:就職・進学指導の体制と役割
進路決定及び就職活動の支援
・進路に対する意識付けを促す進路ガイダンス
早期に進路決定を促すため、従来は 3 年生のみに実施していた進路ガイダンスを、1・
2 年生も対象に加え、学年毎に新年度開始直後に実施している。3 年生は学科別に年 3 回
実施し、学生の参加促進と学科の状況に合わせた情報提供を行なった。平成 21(2009)
年度の 3 年生進路ガイダンスの参加状況は、1回目(713 人中)475 人、2 回目 208 人、
3 回目 502 人であった。
また就職希望者の活動の動機付けのため、全ての学科で前期と後期にそれぞれ 1 回ず
つ、卒業生を講師とする講演会、企業担当者や専門家を招いての説明会などを実施した。
49
京都造形芸術大学
・就職活動の早期化と就職活動強化月間
平成 21(2009)年度は就職活動の早期化を目指し、これまで 4 年生進級前の 3 月であ
った活動開始期の目標設定を、多くの企業の採用活動が開始される 3 年生の 10 月に変更
した。これは、近年の就職状況に対応した側面もあるが、本学の学生の進路が、単純に
作家・専門職だけでなく、一般企業・総合職へも広がってきており、その進路の多様化
に対応するためでもある。
それにあわせ、10 月を 3 年生対象の「就職活動強化月間」と設定し、企業説明会、学
科別ガイダンス、SPI 模擬試験、企業エントリー講座、メイクアップ講座、スーツ着こ
なし講座、履歴書写真撮影会、就職活動強化合宿、話し方講座、時事問題講座、ビジネ
スマナー講座、マスコミ講座、学外就職セミナー団体参加、学内企業セミナー等を実施
した。この時期の企業説明会は初めての試みであったが、大手企業を中心に 25 社がブー
スを設け、352 人の学生が参加し就職活動早期化の一助となった。
・学生ごとの活動状況把握によるきめ細かい指導
本学では、教員による全学生の個別面談を実施している。その記録としてキャリアデ
ザインカードを作成し、4 年間を通じて学生個人の状況の継続的な把握に活用している。
さらに、具体的な就職活動状況の把握のため、3 年生は年 3 回、4 年生は年 4 回の進路
調査を実施している。就職活動状況は、各学生のエントリー数や面接受験数などの活動
状況に応じて S・A・B・C・D の 5 段階にランク付けし、ゼミ単位で視覚化し、キャリア
デザイン委員会で全体共有をはかっている。
・就職関連の情報提供
これまで、就職・進学情報の掲示や進路に関する図書の貸し出しを行なってきたが、
平成 21(2009)年度は新たに「学生全員に配付される『学生手帳』に就職・進学支援に
関する情報を掲載」「就職・進学支援に関するガイドブックを作成」「学生への携帯メー
ルでの情報発信」「従来滞りがちであったホームページの定期更新」を実施した。特に携
帯メールでの情報発信は、4 年生の約 75%、3 年生の約 50%の学生が登録・活用してお
り、情報伝達の効率があがり、イベント参加率の向上につながった。
・企業訪問
関西エリアだけでなく、関東エリアの企業を含め、平成 21(2009)年度は 51 社を訪
問し、説明会への参加依頼や求人開拓を行なっている。
・他芸術系大学との合同による支援
近隣の芸術系大学 4 校(京都精華大学、京都嵯峨芸術大学、成安造形大学、大阪成蹊
大学)と協力し、就職・進学に関する情報交換や、合同企業説明会、東京への合同企業
訪問などを実施している。合同企業説明会は毎年 3 月に実施している。今年度は 5 大学
で計 497 人の学生が参加し、本学からは 128 人参加した。また合同企業訪問に今年度は
5 大学で計 94 人の学生が参加し、本学から 25 人が参加した。
■キャリア教育のための支援体制の整備
社会に出るモチベーションを高める授業群
本学では、社会人としての基礎力を身につけるために、1 年次から卒業後の進路を考え
るきっかけとなる授業を展開している。
50
京都造形芸術大学
1 年次では、毎回多彩なゲストによる勉学や将来への意欲を高めるための授業「百科学」、
コミュニケーション力や論理的思考、論述力を高めるためのゼミ授業「ことばと表現」を
開講している。また、1年生全員が参加するワークショップ型授業「ベーシックワークシ
ョップ」「グループワークショップ」や、産学官連携で行われる「プロジェクト演習科目」
も、社会人としての基礎能力を身につけつつ、芸術が社会でどう活かされているかを実際
的に学ぶ機会となっている。また、学科の専門科目においても、社会との接点をテーマと
した授業を数多く導入している。これらの授業を通じ、具体的な将来イメージの醸成をは
かり、キャリア教育を総合的に進めている。
就職活動にあたって求められる能力を身に付けるための授業「キャリアデザインⅢ」は、
3 年生の前期(4 年生も受講可)に開講し、平成 21(2009)年度は、3 年生 713 人中 325 人
が履修した。
インターンシップの推進
インターンシップへの参加を積極的に推進しており、平成 21(2009)年度は以下の通り、
合計 63 人の学生が参加した。
表 4-4-b:平成 21(2009)年度インターンシップ参加状況
1 年生
2 年生
3 年生
4 年生
合計
芸術表現・アートプロデュース学科
0
1
1
3
5
歴史遺産学科
0
1
2
0
3
映画学科
0
3
4
─
7
舞台芸術学科
0
1
3
─
4
美術工芸学科
0
2
1
4
7
こども芸術学科
0
0
0
─
0
キャラクターデザイン学科
0
0
0
─
0
情報デザイン学科
0
1
18
4
23
空間演出デザイン学科
0
1
6
3
10
環境デザイン学科
0
0
1
0
1
─
─
─
3
3
0
10
36
17
63
映像・舞台芸術学科
合計
資格取得講座、SPI 対策講座、SPI 模擬試験
正課授業外の特別講座として、各種資格取得講座と SPI 講座を実施している。
資格取得講座では、「色彩検定講座」、「Photoshop 講座」、「Illustrator 講座」、「Word 講
座」、「Excel 講座」、「PowerPoint 講座」、「TOEIC テスト対策講座」、「TOEFL テスト対策講
座」、「漢字検定講座」など 13 の講座を開講し、延べ 258 人が受講した。SPI 対策講座は、
50 講座を実施。SPI 模擬試験は、3 年生を対象に 10 月の学科別ガイダンス時に実施するこ
とによって、なるべく多くの学生が受験できる仕組みとし、3 年生 713 人中 537 人が受験
した。模擬試験の結果は 3 年生全員にフィードバックし、また解説講座を 3 回実施した。
以上の取組によって、昨年度に比して就職活動時期が早期化し、活動も増加した。その結
果、平成 21(2009)年度の就職決定率は、前年比 3.1 ポイント増の 68.1%となった。ちな
51
京都造形芸術大学
みに全国の大学平均は 91.8%と昨年度より 3.9 ポイント減少し、企業説明会を共同開催し
ている芸術系 4 大学の就職決定率は 47.1~67.3%となっている。
(2)4-4の自己評価
学部長の統括の下、教員と CDC が連携し、就職・進路に対する支援体制が整備され、学
生はきめ細かく適切な相談・助言を受けることができている。
全国平均と比較すると、依然として就職決定率が低い結果となってはいるが、全国平均
の就職決定率が前年度より減少している中、若干ではあるが昨年度を上回る結果を出せた
こと、また同系統の他大学より高い決定率となっている点は、支援策の効果と捉えている。
さらに、大学院進学率が 12.9%と前年比 2.7 ポイント上昇した。これは本学大学院への
進学者数が 9 人増加したことによるものであり、就職決定率・進学率の上昇はゼミ担当教
員による個別指導の成果といえる。
(3)4-4の改善・向上方策(将来計画)
同系統の大学との結果比較からも、本学のキャリア教育の成果は出てきていると言える。
しかしながら、一般大学と比較すると、依然として就職決定率は低い。
平成 21(2009)年度の卒業生における、就職を希望していながら卒業時点で内定に至っ
ていない学生を仔細に分析したところ、①活動を継続的に続けているにも関わらず内定が
得られない、②卒業時点までに希望進路を決めきれない、という二つのパターンに集約さ
れた。これらの課題解決に向けて、平成 23(2011)年度には、2 年生必修のキャリアガイ
ダンス科目を開講し、進路決定への意識付けの早期化を計る。また、ゼミ単位での個別指
導を、全ての学科で 3 年生から実施できるよう強化し、学生の就職活動における問題点の
早期把握や、進路決定への意識付けに取り組み、課題の解決を目指す。
〔基準 4 の自己評価〕
建学の理念から導かれるアドミッション・ポリシーの実現を目指し、多様な学生を受け入れ
ると同時に、入学前教育を充実させることによって、入学後の学習へスムーズに移行できる仕
組みが整っている。入学後は、教員と学生の距離が極めて密接な各所属学科を主体として、学
生の学習支援に取り組む体制がとれている。また、保健センターによる充実した厚生補導、学
習支援も適切になされている。
就職・進路支援については各学科ゼミ担当教員が進路指導の窓口となり、学習支援と一
体となった支援を行ない、同系統の大学と比して一定の成果を出すことができている。
このように、アドミッション・ポリシーの運用、学生への学習支援、学生サービス、就職・
進路支援における個々の取り組みは、学生本位の制度設計、運用などにより成果をあげている。
〔基準 4 の改善・向上方策(将来計画)〕
個々の取組において一定の成果が確認されているが、今後は入学前から卒業まで、一貫
した視点による学習支援や学生サービスを提供できるよう、「入学前教育と初年次教育」
「正課における学習支援と正課外の学生サービス」「キャリア教育とゼミ指導」を密接に連
携させ、多様化する学生に対応する。
52
京都造形芸術大学
基準5 教員(教育研究活動、教員人事の方針、FD(Faculty Development)等)
5-1
教育課程を遂行するために必要な教員が適切に配置されていること。
《5-1の視点》
5-1-① 教育課程を適切に運営するために必要な教員が確保され、かつ適切に配置され
ているか。
5-1-② 教員構成(専任・兼任、年齢、専門分野等)のバランスがとれているか。
(1)5-1の事実の説明(現状)
■ 教員配置
本学の教員組織は下記の表の通りである。
表 5-1-a:教員配置(人数)
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
性別
学部・学科、
研究科・専攻、
附置研究機関
芸術学部
芸術表現・アートプロデュース学科
歴史遺産学科
映画学科
舞台芸術学科
美術工芸学科
こども芸術学科
キャラクターデザイン学科
情報デザイン学科
空間演出デザイン学科
環境デザイン学科
芸術教養教育センター
芸術教育資格支援センター
伝統芸術教育センター ※2
その他(芸術学部所属)
年齢
職位
設置基
専任
兼任
準上必
31
41
51
61
准
講 助
教員数
(非常勤 男 女
71 教
要専任
~ ~ ~ ~ ~
教
師 教
※1
~ 授
教員数) 性 性
30 40 50 60 70
授
教員数
18(7)
8(2)
11(0)
8(0)
30(9)
7(0)
12(0)
22(4)
19(4)
20(8)
17(4)
5(0)
0(0)
11(0)
6
6
7
6
9
6
6
8
7
7
27
芸術学部計
188(38)
95
芸術学科
18(11)
大学全
通信教育部
美術科
24(10)
体で+
芸術学部
デザイン科
37(13) 19
総合教育科目
16(4)
95(38)
-
通信教育部芸術学部計
学部計(実数)
188
114
芸術文化研究専攻(修士課程) 27(0)
6
芸術研究科
芸術表現専攻(修士課程)
67(0)
6
芸術専攻(博士後期課程)
48(1)
6
芸術研究科計
142(1)
18
21
32
34
24
77
26
7
55
64
43
74
20
0
13
6
11
5
22
4
10
20
15
18
11
3
0
10
5
2
0
3
8
3
2
2
4
2
6
2
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
477
140
96
150
157
543
914
6
12
0
18
148
13
17
32
11
73
148
19
56
42
117
40
5
7
5
5
22
40
8
11
6
25
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
32
24
7
0
5 7 4
0 2 3
0 5 6
0 5 2
1 9 16
3 1 2
6 3 1
3 11 5
4 6 6
4 9 4
2 8 5
0 1 4
0 0 0
1 0 9
1
3
0
0
3
1
1
2
3
3
2
0
0
1
1
0
0
1
1
0
1
1
0
0
0
0
0
0
67
6
15
5
5
31
67
7
25
16
48
20
2
1
6
3
12
20
5
7
7
19
5
1
1
1
0
3
5
1
2
2
5
4 12 12
2
9 5
6 2
4 7
3 5
21 8
4 1
5 3
11 8
6 12
13 4
11 3
2 3
0 0
8 3
4
0
0
0
1
2
4
3
1
3
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
64 21
4 3
6 1
13 5
5 2
28 11
64 21
11 0
23 1
11 0
45 1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
大学全体の収容定員に応じ定める専任教員数
芸術研究科
(通信教育)
芸術環境専攻(修士課程)
31(2)
修士必要数
に+12
29
3
1
10
1
15
29
1
5
1
7
67
6
6
15
7
34
67
13
28
22
63
103
11
17
19
9
56
103
16
43
37
96
1 22
6
3
0
31(2)
24
32
24 7 0 4 12 12 2 1 22 6 3 0
芸術研究科(通信教育)計
附置研究機関 舞台芸術研究センター
6
5
5 1 0 0 2 1 2 1 5 1 0 0
ものづくり総合研究センター
4
1
4 0 0 0 1 1 2 0 3 1 0 0
日本庭園・歴史遺産研究センター
14
4
12 2 0 0 6 4 4 0 10 4 0 0
比較藝術学研究センター
8
7
5 3 0 5 1 1 1 0 6 2 0 0
アート・コミュニケーション研究センター
2
0
1 1 0 1 0 1 0 0 1 0 1 0
芸術教育研究センター
2
0
0 2 0 0 1 1 0 0 1 1 0 0
和太鼓教育センター
1
2
0 1 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0
社会芸術総合研究所
1
0
1 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0
東アジア藝術文化研究所 ※3
0
0
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
計
38
19
28 10 0 6 12 10 9 1 28 9 1 0
※1…専任教員数は授業を担当しない教員は含まず、兼担を含む。
( )内の数値は以下の通り。
芸術学部:
( )は通信教育部主担当教員数(内数)
通信教育部芸術学部:
( )内は通信教育部主担当教員数(内数)
芸術研究科:
( )は芸術研究科専任教員(内数)
芸術研究科(通信教育)
:( )は芸術研究科(通信教育)専任教員(内数)
※2…伝統芸術教育センターは全て兼担のため、本表上の専任教員数は 0 となる。
※3…東アジア芸術文化研究所は研究内容に応じ専任教員が兼担で研究に加わるので本表上の人員配置は 0 である。
53
京都造形芸術大学
専任教員の大半は芸術学部に所属し、芸術研究科、通信教育部芸術学部、芸術研究科(通
信教育)を兼担する配置となっており、全ての学部、学科において設置基準を上回ってい
る。また芸術学部専任教員のうち 38 人を通信教育部主担当教員として配置するほか、大学
院専任教員を 2 人、芸術研究科(通信教育)専任教員を 2 人配置し、附置研究機関にも兼
担として 38 人の専任教員をおいている。なお、教養教育や特に初年次教育の実施にあたっ
ては、芸術学部だけでなく大学院や通信教育部主担当教員も参画しており、所属組織にと
らわれない柔軟な教育体制を敷いている。
■教員の構成
平成 22(2010)年度における芸術学部の非常勤講師は 477 人である。人数的には専任教
員の倍以上となっているが、実際の担当授業数の専兼比率は芸術学部全体としてはほぼ 1:
1 となっている。
男女別の専任教員構成は、女性教員が学部全体で 42 人(21.2%)となっている。また、
年齢構成については、約 7 割の教員が 40~50 代に集中しており、教育研究に実績のある年
齢層の教員が中心となって教学活動を担っているため、大学全体として安定した教育研究
活動を実現することが出来ている。職位別の教員数については、教授の割合が 56.1%、准
教授及び専任講師の割合がそれぞれ 32.8%、11.1%となっている。
(2)5-1の自己評価
本学では芸術学部、芸術研究科、通信教育部、芸術研究科(通信教育)の 4 つの課程が
並存しており、教員は一つの課程の運営に責任を持ちつつ授業担当や教育指導では他の課
程も兼担する体制を敷いている。これにより運営上の教員の役割分担が明確化され、相互
の連携体制も確保されていることから、学生本位の柔軟な教育指導が可能となっている。
専任と兼任の構成は、人数で見ると 1:2 以上であるが、実際の授業担当状況ではほぼ 1:
1 程度となっている。これは特定分野を専門とする非常勤教員による授業を幅広い領域に
わたって開講しているためであり、特に芸術教養科目においてその傾向が強い。多様な領
域に関し豊富な科目を展開することは学生の視野を広げることに役立っており、専任教員
が担当する主要科目とあわせて高い教育効果をあげている。
大学院については大半が芸術学部との兼担となっているが、内部進学者が多数を占める
本大学院においては一人の教員が学部と大学院教育の両方を担当することで、学生にとっ
て指導の継続性が確保され、より高い教育効果を得ている。
また、通信教育部については、38 人の通信教育部主担当教員を配置し、適正な運営が行
なわれている。
年齢構成は前述の通りであり、現時点の年齢構成としては問題ないと考えているが、若
手が少なく高齢化の傾向にある。専任教員のうち教授の割合が高いのは、芸術系の教員の
業績は必ずしも年齢に比例するわけではなく、特に本学においては若手であっても研究業
績と教育力のある教員を積極的に評価、登用しているためである。
(3)5-1の改善・向上方策(将来計画)
教員が複数の課程の授業を担当する体制は前述の通り、学生本位の柔軟な教育指導が行
54
京都造形芸術大学
なえる一方で、教員にとって過負荷となる懸念もある。今後は現状の利点を活かしつつも
3 課程以上を兼担することがないように調整をはかる。
また、教員の年齢構成については高齢化の傾向にあるため、次代の教育運営を担う 20~
30 歳代の教員の配置を積極的に行なう必要がある。そのためにも若手教員の採用を計画的
に実施し、教員の円滑な世代交代をはかる。
5-2教員の採用・昇任の方針が明確に示され、かつ適切に運用されていること。
《5-2の視点》
5-2-① 教員の採用・昇任の方針が明確にされているか。
5-2-② 教員の採用・昇任の方針に基づく規程が定められ、かつ適切に運用されている
か。
(1)5-2の事実の説明(現状)
教員の採用・昇任は、「京都造形芸術大学
教員任用規程」に基づいて運用されている。
採用にあたっては、教育研究実績に加え、本学の建学の理念への共感と教育者としての資
質を重視している。そのため、選考にあたっては、大学設立の趣意書や関連資料の熟読と
志望動機の陳述を必須としている。
採用は原則として公募制をとっている。学科会議を経たうえで学科長からの推薦も認め
ているが、その場合でも公募の手順を踏み、採用選考を行なっている。これにより、広い
範囲からの公平な人材登用が行なわれている。
また、特別任用教員制度を導入し、通常の専任教員とは異なる出講形態や任期つきの教
員も採用可能としている。特別任用教員は下表のいずれかに該当する場合に任用が実施さ
れている。
表 5-2-a
教員の職位と採用区分
平成 22(2010)年 5 月 1 日現在
職位
区分
(単位:人)
教授
准教授
講師
助教
合計
62
20
0
0
82
専任
特任①
定年を超えて採用する者
5
0
0
0
5
特任②
出講日数や勤務形態が特殊な者
32
16
3
0
51
特任③
任期が定められている者
12
29
19
0
60
特任④
れる者
上記以外で通常の専任の条件から外
0
0
0
0
0
111
65
22
0
198
合計
特に②の採用形態により、第一線で活躍するデザイナーや作家、企業人の任用が可能と
なり、教育の活性化に資する結果を生んでいる。
55
京都造形芸術大学
(2)5-2の自己評価
採用や昇任の手続きは規程に定められており、それに基づいて適切に運用されている。
5-1 でも述べたが、本学の場合は専任教員に占める教授の割合が高くなっており、これは
教育研究業績を重視した人事評価の結果である。
また、特別任用教員制度は余人をもってかえがたい研究業績を持つ教員の任用や社会の
第一線で活躍している人材の任用に役立っている。特にキャリア教育が重視される昨今に
おいては、社会と密接な繋がりを持った教育を提供することが求められており、特別任用
教員制度はその点においても重要な役割を果たしている。
(3)5-2の改善・向上方策(将来計画)
現状の採用や昇任の手続きに問題はないが、よりよい教育を実現するためには教員の教
育研究に対するモチベーションの向上と維持が不可欠であり、教育研究業績の適切な評価
および昇任等の処遇への反映はその一つの方策である。詳細は基準 7 の項で述べるが、平
成 21(2009)年度より専任教員の教育研究活動に対する点検評価方法を見直し、一方的な
評価ではなく評価者と被評価者のコミュニケーションの中で評価を行なう双方向型の点検
評価方法を取り入れた。今年度は導入 2 年目であり、制度の見直しをはかりつつ運営を行
なっているところであるが、将来的にはこの点検評価の結果を処遇に反映させる仕組みと
し、専任教員の教育研究活動の活性化に繋げる。
5-3
教員の教育担当時間が適切であること。同時に教員の教育研究活動を支援する体
制が整備されていること。
《5-3の視点》
5-3-① 教育研究目的を達成するために、教員の教育担当時間が適切に配分されている
か。
5-3-② 教員の教育研究活動を支援するために TA 等が適切に活用されているか。
5-3-③ 教育研究目的を達成するための資源(研究費等)が、適切に配分されているか。
(1)5-3の事実の説明(現状)
■教員の教育担当時間
本学の専任教員は専任教員規程により週 7 講時相当の授業担当を基準とし、週 4 日以上
の出勤を原則としている。具体的な担当時間は各所属学科等の教育計画策定時に決定され
る。教育計画の策定にあたっては、学科運営などの業務量も勘案し、特定教員に負荷が偏
ることがないよう各学科内で調整している。
■ TA(Teaching Assistant)等の活用
「ティーチングアシスタント内規」をもとに、年度当初に採用計画を立て、大学院長の
承認を得た上で大学院生(博士後期課程)を中心に TA を採用し授業補助にあてている。平
56
京都造形芸術大学
成 21(2009)年度 TA 採用実績は 3 人 15 科目である。
また、授業補助にあたる副手、技術員を配置して教員の負担軽減をはかっている。
■教育研究目的を達成するための資源(研究費等)の配分
本学では専任教員に対して個人研究費として 30 万円を支給している。また全学の専任教
職員を対象とした特別研究制作費助成制度を設けている。平成 22(2010)年度は 38 件の
申請があり、24 件 1,199 万円が採択された。この研究助成に採択された場合、次年度に研
究成果報告書と成果物の提出を義務付けているほか、大学紀要での積極的な研究成果の公
開を推奨し、研究成果の共有をはかっている。また、各自の研究・制作に対して第三者か
らの評価を受けるという観点から、競争的研究資金の獲得を推奨しており、平成 22(2010)
年度は 14 人の教員が研究代表者として科学研究費補助金の給付を受けている。ほかに学内
公募制のサバティカル制度を設けているが、過去 5 年間の採択実績は 3 人に留まっており、
昨年および一昨年の申請件数はゼロであった。
教育研究目的を達成するための資源として、研究室の整備があげられるが、本学では学
科単位の共同研究室を基本としている。これは、学科所属教員相互の連携による学生支援
の強化を最も重要な方針として位置づけているためである。
教員の研究活動については、専門分野の特性に応じた支援を行なっている。デザイン・
映像分野においては、各教員の実社会における活動が最先端の研究と位置づけられる。そ
のため映画学科では劇場公開される映画を教員と学生が共同で製作する撮影スタジオを整
備している。キャラクターデザイン学科では、実際に放映される作品が制作できる 3D 映像
制作設備を整えている。劇場設備もこれに該当し、舞台芸術学科の教員が制作した作品が
商業上演されている。美術工芸の分野では、ウルトラファクトリーなどの特殊制作工房を
整備し、教員が制作できる環境を整えている。理論系では各研究センターを設置し、当該
領域分野の研究活動を支援している。
(2)5-3の自己評価
本学では、社会と密接な繋がりをもった教育を実現するため、第一線で活躍している作
家やデザイナーを特別任用教員として採用しており、これにより教育担当時間数の少ない
教員が存在する。しかしこれは芸術・デザイン教育にとっては不可欠であると判断される
ため今後も継続する。
専任教員の研究支援策としては、意欲ある教員や重点的に研究費を必要とする研究・制
作について支援を行なっている。また、平成 12(2000)年より事務局内に研究助成情報の
提供や申請事務の補助を行なう担当を置いて競争的研究資金獲得を支援しており、成果を
あげている。
(3)5-3の改善・向上方策(将来計画)
平成 23(2011)年度に、芸術学部に新たな学科の設置を計画し、6 月に文部科学省に届
出を行なった。この計画においても、本学全体や新学科が掲げる教育目標の実現のために
専任教員の適切な配置を計画している。特に、大学での学習内容を卒業後にどのように活
かすかがさらに重視される中、前述の特別任用教員制度を更に活用し、社会と繋がった学
57
京都造形芸術大学
生本位の教育を実現できる体制を維持する。
研究費については、前述の通り競争的研究資金獲得のための支援体制が定着しており、
一定の成果を挙げているため、今後も引き続きこの体制を維持する。一方で競争的研究資
金の獲得が困難な研究領域もあるため、特別研究制作費助成制度の予算増額を行なって審
査時に配慮するなど具体的な方策を採る。
58
京都造形芸術大学
5-4
教員の教育研究活動を活性化するための取組みがなされていること。
《5-4の視点》
5-4-① 教育研究活動の向上のために、FD 等の取組みが適切になされているか。
5-4-② 教員の教育研究活動を活性化するための評価体制が整備され、適切に運用され
ているか。
(1)5-4の事実の説明(現状)
■FD(Faculty Development)等の取組み
FD 活動
本学における本格的な FD 活動は、平成 14(2002)年から始まった。同年 2 月の中央教育
審議会答申「新しい時代における教養教育のあり方について」を受けて、全学科目研究室(現
芸術教養教育センター)では、「京都文芸復興」、「藝術立国」、「平和創造」を建学の理念とす
る本学にふさわしい「芸術教養教育」のあり方について、教育組織と教育内容(カリキュラ
ム)の改革について議論し、改革案を練り上げた。
この成果は、平成 19(2007)年度の新カリキュラムにおける「百科学」の新設や「こと
ばと表現」の充実などに反映された。また、その際に提案された「合評週間」は平成 19(2007)
年度に実現した。これは、全学科・全学年の学生が課題制作や研究の成果を一堂に発表す
る場である。学生・教職員は自由にすべての合評を参観することができるので、教養教育
担当教員も積極的に参加し、教養教育と専門教育の接続について専門教育担当教員と意見
交換をはかっている。さらに、平成 20(2008)年度からは授業公開日を設け、学内ばかりで
なく学外にも公開している。
「芸術教養教育」の充実と同時に、18 歳人口の長期的減少と高校教育の多様化に対応する
ために、アーティキュレーションの充実をはかることとした。文教政策の動向や新入生の
実態に見合った効果的な教育方法について学習するために、平成 16(2004)年 4 月、全学
に開かれた FD 研究会を発足させた。当初は、他大学から講師を招聘して FD の基礎を学ぶ
とともに、東北芸術工科大学の教養教育・初年次教育担当者と「日本語教育」に関する合同
研究会を、京都と山形で合計 4 回開催して、相互研鑚をはかった。平成 18(2006)年度以
降は、教員相互に授業改善の工夫や実践例を報告し、ノウハウを共有している。
FD 研究会と並行して、学外で実施される各種の FD 研究会・教育研修などに、組織的に
参加した。代表的なものは、財団法人大学コンソーシアム京都主催の「FD フォーラム」、
近畿地区大学教育研究会、IDE 大学教育教育関西支部セミナー、ガイダンス教育研究会な
どである。平成 19(2007)年 11 月には、第 45 回ガイダンス教育研究会を本学で開催した。
また、平成 20(2008)年4月には関西地区 FD 連絡協議会に加入し、カリキュラム研究に
相応しい講師の紹介などを依頼している。
平成 21(2009)年度より、FD 活動を全学的に推進するため、副学長、学部長、各学科の副
学科長・芸術教養教育センターおよび資格支援センターの副センター長、教学事務室によ
り構成される教務委員会が、FD の中心的役割を担うこととした。基本方針の策定、学生に
よる授業評価、教員同士による授業点検(ピア・レビュー)、教育方法研鑽のための情報交
換等、FD に関わる事項を審議するのみならず、実践例や活動体験を報告しあうなどして、
59
京都造形芸術大学
委員会自体を FD の実践の場としている。
平成 21(2009)年度には、各学科およびセンターにおいて授業内容や教育手法に関する工
夫や改善策を積極的に抽出し、委員会において報告した。これにより、各学科等における
個々の教員の創意工夫と組織全体の実践を共有することができた。この内容は報告書とし
てまとめ、各学科等に配布している。
また、基準 3 で述べたように、「芸術教養科目」における「ワークショップ型初年次教育」
のファシリテーターや「百科学」のコーディネーターを各学科の教員が担当しており、初
年次教育と専門教育の接続に関する FD 活動としても効果を上げている。
学生による授業評価アンケート
平成 8(1996)年度より実施しているが、その書式は、より学生の意向を汲み取りやすい
ように数回改善した。結果は各科目担当教員へフィードバックしている。また、平成
21(2009)年度からは、本学ホームページ上で結果(抜粋)を公開している。学生からの意
見や要望は、当該学科等の掲示板で回答している。
教員による授業点検シート
平成 17(2005)年度より、教員が自らの授業を自己点検するための「授業運営アンケート」
を実施してきた。これは授業の質的向上をはかるために重要なものであり、FD にも関連す
ることから、平成 21(2009)年度より所管を教務委員会に移行し、内容の改善を行なうとと
もに名称を「授業点検シート」に変更した。各教員が所属する学科等に保管し、授業改善
に活用している。
■教育研究活動の評価体制
専任教員の教育研究業績は、年度末に指定書式で提出し、これを自己点検・評価委員会
が評価し、2 年ごとに個人面談を実施してきた。平成 15(2003)年からは、教員の業績を
一定の基準で数値化することで、業績の可視化(量的把握)を試みた。しかし、多様な学
問領域や表現領域が存在する本学では、それぞれの業績に対する数値基準の設定が困難で
あり、期待した効果を得ることができなかった。そのため、平成 20(2008)年度に教育研
究活動の評価方法の見直しをはかり、平成 21(2009)年度実施分(対象は平成 20(2008)
年度の教育研究活動)より新たな評価方法を導入した。
新しい方法では、年度末の提出書類(業績報告書)に自己点検評価欄を加えた。教員自
身の教育研究活動に対するより自覚的な自己点検評価の機会とするためである。その自己
点検評価に対して学内の複数の教員(同一学科教員および学部長等の大学運営に携わる役
職者)による第三者評価を行い、その後、評価者と被評価者が面談して、評価内容(現状
確認と今後の改善点や更に伸張を期待する点など)に関して直接確認と意見交換を行なっ
ている。
(2)5-4の自己評価
FD 活動に関しては、学科運営の要となる副学科長・副センター長をメンバーとする教務
委員会が担うことにより、FD マネージメントの執行体制が整い、芸術大学の実状に即した
60
京都造形芸術大学
FD 活動の全学的な取組みが可能となった。
合評週間と授業公開は、多くの学科教員は担当する合評や授業の時間と重なるため、他
学科の合評や授業を参観できない状況にある。2~3 年のサイクルで、全員が参観できる方
策を検討する。学生による授業評価アンケートは、書式の改善を重ねた結果、学生の意向
を汲み取りやすいものになった。回収率を高める工夫とともに、この結果を教員の教育研
究活動の改善や質的向上につなげるための取組みを継続する。教育研究活動評価について
は、新しい方式に変更して現在 2 年目であり、今年度は昨年度の試行を踏まえて本格導入
した初年度となる。教員の教育活動の一環として今まで以上に教育研究活動の改善と向上
に繋げることができる仕組みとしていく。
(3)5-4の改善・向上方策(将来計画)
今後は、以下のとおり段階的に学士課程教育の構築をはかる。
表 5-4-a:学士課程教育構築のプロセス
第 1 段階
従来の成果の確認
と展開
現状の把握と点検および授業改善の試行
平成 21(2009)年度に抽出した特色ある授業について、教員相互の授業参観を行う。参観
にあたっては「参観の手引」を参照して、授業の工夫や取り入れたい教授法などを積極
的に抽出する。その結果を教務委員会で報告する。6 月に教務委員会メンバーを主体に
試行した結果、特に新任教員については参観する側も参観される側にとっても有効であ
ることが確認できた。なお、合評週間や授業公開日については、多くの教員が他学科の
合評や授業を参観できるよう、運営方法を検討していく。
FD 推進担当者の研
修
教務委員会メンバーは、近畿地区で開催される FD 研究会や研修などに積極的に参加し
て、現在の FD 活動の実態を把握する。また、学内でも解決すべき問題に関する研究会を
開催する。本年 7 月には、関西地区 FD 連絡協議会の援助を受けて、
「カリキュラム改革」
に関する研究会を開催する。
教職員間にある意
識的なギャップの
克服
学生の成長・発達の要因は、教員の授業、個人指導だけでなく、職員によるところも大
きい。教員と職員が、日常業務を通じて、互いをどのように認識しているのかを知るた
めに、意見交換の場を設ける。具体的には、9 月末と 10 月中旬に本学の久美浜セミナー
ハウスを利用して教職員合同研修会(一泊二日、40 人×6 回)を実施する。
業績自己点検・評
価に対するエンパ
ワーメント
教員の教育活動の自己点検・評価を、個々の教員をエンパワーメントするための基礎資
料として活用する。すなわち、個々の教員が強みとしている側面を伸ばし、弱みとして
いる側面を補強するためのアドバイスを、大学側から組織的に提供して、教員の成長を
支援する仕組みを考える。
第 2 段階
学科ごとの3つの
ポリシーの設定
教育目的の設定と学士課程教育の点検
各学科は、それぞれの教育目的に沿って、①どのような学生を求めて(アドミッション
ポリシー)
、②どのように育成するのか(カリキュラムポリシー)、③どのレベルを達成
目標とするのか(ディプロマポリシー)を、学科長のリーダーシップの下で設定する。
各学科および芸術教養教育センターは、明文化した3つのポリシーに照らし合わせて、
教えるべき内容を過不足無くかつ順序立てて教えているか、それぞれのカリキュラムを
点検する。そして、シラバスに科目の内容と達成目標が明示されているかどうか点検し、
必要があれば改善する。
教務委員会で、現在の接続教育と教養教育の位置づけを見直し、それぞれの目的と目標
が全学的な教育理念と教育目標と整合性を保っているかどうかを点検し、カリキュラム
を改善する。
学士課程教育(カ
リキュラム)の点
検
接続教育(初年次
教育)と教養教育
に関する全学的な
検討
授業方法などの改
善(狭義の FD)
合評期間、授業公開、授業の相互参観および初任者研修の充実などを通じて、本学の授
業の質を総体として高める。
61
京都造形芸術大学
第 3 段階
学生満足度調査に
よるカリキュラム
改革
学生に対するアン
ケートとヒアリン
グによる現状点検
在学生・卒業生に
よる大学評価
カリキュラム改革への学生の参加
学生生活満足度アンケート調査を学生自治組織の協力を得て実施し、カリキュラム改革
への学生参加を促す。
教員の工夫と努力が学生にどのように受け止められているかを確認するために、教員は
独自に、開講期間の中盤にアンケート調査を行ない、学生の声を聞いて授業方法や授業
内容を修正する。開講期間の終了時に受講生にヒアリングやアンケート調査を行なって
いるが、実践の達成度を点検することを計画している。
学科・コース別に、在学生と卒業生を対象にして、1)授業、2)学生指導、3)学内行事
などについて、満足度と改善案、全体的な提言などをアンケート調査やヒアリングによ
って調査して、在学生と卒業生の大学に対する評価を把握することを計画している。
本学の理想像を追求するには、学長がリーダーシップを発揮して、FD マネージメントを
確立する必要がある。すなわち、①本学の理念と目的(社会的存在価値)を明示して、教
職員・学生と共有し、②FD と SD(Staff Development)を通じて教職員に自己成長の機会
を提供すると共に、③学生を教育改革に呼び込むことである。そのため、平成 22(2010)
年 4 月、FD 担当部長を任命した。FD 担当部長は教務委員会と連携し、前記の 3 段階により
学士課程教育の改善を目指す。
〔基準5の自己評価〕
全体として制度面で必要な事項は整備されている。しかし、運用の面では、教育担当時
間や課程運営の負担が増加傾向にあり、特定の教員への偏りがみられる。教員構成につい
ては前述の通り高齢化の傾向があり、現状には問題はないが、将来を担う若手教員の採用、
育成による年齢構成の改善が課題である。また、科学研究費等の競争的研究資金獲得への
サポート体制は整っているものの、学内の特別研究制作費助成制度の拡充や、サバティカ
ル制度を利用しやすい教員体制の構築などの改善が必要である。
〔基準5の改善・向上方策(将来計画)〕
本学の教育理念と教育目標の観点から、FD 活動を計画的かつ継続的に実施していく。また、
授業担当時間数や大学運営業務の教員間の平均化をはかり、負担の著しい偏りの是正に努める。
教員構成については経営的側面からの判断も必要な事項であるため、教育現場の意向を反映し
た判断を理事会で行なうことができるよう現状の仕組みを維持するとともに、教育研究活動の
今後の展開に即して中期人事計画を策定する。特別研究費助成制度ならびにサバティカル制度
については、充実と改善をはかる。
62
京都造形芸術大学
基準6
職員(教育研究支援、職員の人事の方針、SD(Staff Development)等)
6-1
職員の組織編成の基本視点および採用・昇任・異動の方針が明確に示され、かつ
適切に運営されていること。
≪6-1の視点≫
6-1-① 大学の目的を達成するために必要な職員が確保され、適切に配置されているか。
6-1-② 職員の採用・昇任・異動の方針が明確にされているか。
6-1-③ 職員の採用・昇任・移動の方針に基づく規程が定められ、かつ適切に運用され
ているか。
(1)6-1の事実の説明(現状)
■組織編成
本学では「学校法人瓜生山学園就業規則」に基づき職員を雇用し、専任職員 160 人(正
職員 75 人、契約職員 85 人)、臨時職員 189 人、派遣職員 66 人を配置している。そのほか
に必要に応じて臨時職員を雇用している。
事務局の組織編制は、下図のとおりである。
図 6-1-a:事務局の組織編制
法人企画課
法人企画部
秘書課
法人資料調査室
総務課
施設課
経理課
アドミッションオフィス
事務局長
事務局次長
教学事務室
入学広報課
キャリアデザインセンター
キャリア支援グループ
プロジェクトセンター
国際交流グループ
ウルトラファクトリー
教学支援グループ
事務担当
芸術研究科
芸術教養教育センター
芸術教育資格支援センター
各学科
学務グループ
通信教育部事務室
教務グループ
瓜生山エクステンションセンター
東京事務所
留学生課
芸術文化情報センター
保健センター
こども芸術大学企画運営室
韓国事務所
学生支援を効果的に遂行できるよう教学事務室を設け、学生の就職進路支援を担う「キ
ャリア支援グループ」、留学や海外活動を支援する「国際交流グループ」、学習支援および
生活支援を担う「教学支援グループ」の一体的な運営を行なっている。キャリア支援グル
ープはリエゾン機能およびプロジェクトセンターの管理運営業務を所管し、学生のプロジ
ェクト活動への支援とキャリア支援の一体化をはかっている。
63
京都造形芸術大学
また、より個別的な学習支援を行なうため、学部の各学科ならびに大学院芸術研究科等
に事務担当職員(以下、事務担当)を置き、その下に副手や技術員を配置している。その
職員数は 49 人(専任 4 人、契約 40 人、派遣 5 人)である。
通信教育については、独自の事務室を設けて 58 名(専任 14 人、契約 8 人、派遣 36 人)
の職員を配置し、教育研究支援および管理運営にあたっている。
法人の適正な管理運営、業務の多様化に対応した方針管理の徹底、役員に対する業務支
援を行うため、法人企画部を設けている。
■採用・昇任・異動方針
大学全入時代を迎え、受け入れる学生の多様化が予測される中、大学の理念に沿った人
材を一人でも多く育成することが本学の責務である。事務局職員にも教員同様に、本学の
建学の理念に基づく人材育成という高い目的意識が求められるため、職員採用に関しては、
大学の理念に共感できること、人材育成に対する強い自覚を持っていることを条件として
いる。採用試験においては、大学設立の趣意書や関連資料の熟読と志望動機の陳述を必須
としている。在職中の職員に対しても、教職員総会や課長会議、職員会議などの各種会議
をはじめ、年始の挨拶や親睦会といった職務外の集まりにおいても、目指すべき職員像に
ついて語られ、全職員への浸透がはかられている。
毎年策定される事務局の方針は事務局長より示達され、その具体的な業務執行は各課長
の責任の下で行なわれている。課長には、スタッフ構成の立案、業務計画の立案・遂行、
予算策定・執行に関して広い裁量権が与えられている。このため、課長への昇任にあたっ
ては、高度な業務遂行能力や管理能力だけではなく、大学の理念に基づく中長期的な方針
を理解して自部門の業務を立案・遂行できる能力を求めている。
職員の異動については、各職員の経験や能力を拡充するため毎年春と秋に定期的に実施
しているが、欠員が生じた場合や新たな課題が生じた場合など、不測の事態に対して迅速
に対処できるよう、必要に応じて随時行なう場合も多い。
■採用・昇任・異動の運用
「学校法人瓜生山学園就業規則」に基づき、人事管理を行なっている。採用については、
理事会で決定された経営計画に対応して採用計画を立案している。
また、職員の年齢構成の適正化をはかるため、新卒採用を中心に若い人材の確保と育成
に取り組んでいる。採用にあたっては、事務局全体でチームを作り、求める人材像の共有
化をはかり、選考作業までを分担して実施している。
昇任や異動に関しては、事務局長・次長が職員とその上長に対して行なうヒアリング結
果を勘案し、適性と人員計画に基づいた適切な配置ができるよう配慮している。最終的に
は理事長および専務理事に承認を得て実施している。
(2)6-1の自己評価
本学の事務組織は、学生に対する学習支援を重視した組織編成を行ない、迅速な意思決
定と機動的な対処が可能な人員配置となっている。採用・昇任・異動についても適切に運
用されている。
64
京都造形芸術大学
(3)6-1の改善・向上方策(将来計画)
採用、昇任や異動については就業規則および職員昇・降格に関する内規にもとづいて運
用されている。法令遵守を基本に、採用・異動・昇格に関する考え方や手順を再整理し、
運用に関する規程として整備する。
6-2
職員の資質向上のための取り組みがなされていること。
≪6-2の視点≫
6-2-① 職員の資質向上のための研修(SD 等)の取り組みが適切になされているか。
(1)6-2の事実の説明(現状)
本学職員の基本姿勢については、大学の理念をまとめた小冊子の配布や、教職員総会や
課長会議などの各種会議の場における、理事長や学長からのメッセージの伝達によって徹
底されている。
職員の能力開発については、各業務の内容に応じて、日本経営協会による学校法人会計
研修会や私立大学情報教育協会による情報化研究講習会など、各団体が主催する研修会を
活用している。本学は大学コンソーシアム京都に加盟しており、各大学との情報交換をは
じめ、職員対象の研修会にも参加している。姉妹校である東北芸術工科大学をはじめ他大
学に職員を適宜派遣し、交流と情報交換を行なっている。各個人の研修を支援するため、
職員研修費、職員個人研究費を予算化している。
(2)6-2の自己評価
本学独自の定期的な SD(Staff Development)研修会は行なっていないが、各種研修会
への派遣、ならびに姉妹校の東北芸術工科大学や他大学の職員との交流や情報交換は、職
員の能力開発につながっている。
(3)6-2の改善・向上方策(将来計画)
職員の職務がより高度化・専門化しているため、職務遂行の能力向上や情報収集を目的
とした外部研修会への参加を積極的に促す。また、多様化する学生への学習支援および生
活支援に対応するため、年 2 回を目処に独自の研修会を実施する。さらに FD セミナーに職
員を参加させ、教職員一体となった教育力向上をはかる。
65
京都造形芸術大学
6-3
大学の教育研究支援のための事務体制が構築されていること。
≪6-3の視点≫
6-3-① 教育研究支援のための事務体制が構築され、適切に機能しているか。
(1)6-3の事実の説明(現状)
■教育支援
本学は開学以来、職員と教員が対等な関係のなかで、学生のためにそれぞれの役割を果
たすことを基本としており、その精神は今日に至るまで継承されている。そのため、各会
議や委員会においても、教員と職員が強い信頼関係のもとに常に意見を交換し、業務を進
めている。そうした環境を基盤に、学生に対してより手厚い教育サポートを行うため、教
育、学生生活支援の分野を特に強化している。
学部の各学科ならびに芸術研究科等に配置された事務担当、副手、技術員は、学科運営
全般のサポート、教育予算の管理と執行事務、所属学生並びに教員の事務処理の円滑化、
履修状況管理、授業運営支援にあたっている。事務担当は、学科の所属教員と連携して学
生の支援にあたるとともに、教学事務室と常時情報を共有しながら業務を遂行している。
これにより、学生に対するきめ細かな個別的な支援が可能となっている。事務担当は事務
局長の直轄とし、迅速に問題解決にあたっている。
教学事務室は、教学支援、キャリア支援、国際交流・海外留学支援の 3 つのグループで
構成され、学生を中心に置いた総合的な観点から、一体的に学生支援を行なっている。留
学生支援については、グループ校である京都文化日本語学校(各種学校正規課程、日本語
教育振興協会認定校)との連携により専門的知識・語学力を備えた専門職員が対応してい
る。
■研究支援
科学研究費補助金
教員の科学研究費補助金の申請、執行管理については研究機能を統括する大学院の事務
担当及び経理課の職員が担当し、適正な運用をはかるとともに、申請や取り扱いに関する
説明会の開催、各種研究助成の情報提供を行なっている。また併せて、学内の特別研究制
作費助成制度の運用に関する業務を行なっている。
受託研究
企業の受託研究窓口としてものづくり総合研究センターを設置している。企業からの要
望の聞き取りから始まり、教員への橋渡し、経費管理を全て担当し、受託研究を推進して
いる。
研究センター
舞台芸術研究センターなどの各研究機関に職員を配置し、研究員の支援と適切な補助金
の執行を行なっている。
66
京都造形芸術大学
(2)6-3の自己評価
教育支援、研究支援ともに適正な職員配置がなされている。特に、教育支援については
事務担当を配置し、教学事務室と協力しながら手厚い学生支援体制を整備している。また
同時に、教員が教育研究活動に注力できるよう、教員の事務作業の軽減をはかっている。
学生が充実した大学生活を送り、達成感をもって社会に出て活躍できるように支援する
ことが大学としての責務であり、その責務を果たせるよう体制を整えている。
(3)6-3の改善・向上方策(将来計画)
学科や事務局各課が連携とり、きめ細やかな対応を行なっており、これを継続していく。
〔基準6の自己評価〕
事務組織の編成ならびに職員配置は、学生の学習支援を中心に適切に整備されている。
また職員相互ならびに教職員間の連携も確保され、それによって学生へのきめの細かい支
援が実現できている。職員の採用、昇任、異動についても、現行の制度により適切に行な
われている。
しかし、職員の能力向上については、体系的な研修活動が行なわれていない。また、職
員の年齢構成に偏りが見られる。
〔基準6の改善・向上方策(将来計画)〕
外部の研修機会を今後も積極的に活用しながら、学内においても職員研修を実施する。
また、教職員合同による FD(Faculty Development)
・SD(FD セミナー、教育力向上セミナ
ー等)を計画し、教職員の資質向上をはかる。年齢構成、任期付採用を視野に入れながら、
採用計画、人事計画を策定し、実施する。
67
京都造形芸術大学
基準7
等)
管理運営(大学の管理運営体制、設置者との関係、設置者の管理運営体制
7-1
大学の目的を達成するために、大学及びその設置者の管理運営体制が整備されて
おり、適切に機能していること。
《7-1の視点》
7-1-① 大学の目的を達成するために、大学及びその設置者の管理運営体制が整備され、
適切に機能しているか。
7-1-② 管理運営に関わる役員等の選考や採用に関する規程が明確に示されているか。
(1)7-1の事実の説明
■管理運営体制
管理運営体制については理事会、評議員会、常任理事会から成り立っている。
理事会
本学における最高意思決定機関であり、理事 17 人、監事 3 人によって構成される。平成
22(2010)年 6 月現在、姉妹校である東北芸術工科大学(学校法人東北芸術工科大学)の
理事や弁護士、有識者など 6 人の外部理事を含む体制となっている。
また、監事 3 人は常任監事 1 人と非常勤監事 2 人からなり、理事会、評議員会(常任監
事は常任理事会にも出席)に出席し、審議状況や運営状況、財務状況について把握し、助
言を行なっている。
評議員会
理事会の諮問機関であり、大学長 1 人、法人職員 12 人、卒業生 6 人、学識経験者 16 人
の合計 35 人で構成される。事業計画や事業報告をはじめとする学校法人の重要事項につい
ては評議員会での諮問や報告を行なった上で理事会審議を行なっている。
常任理事会
法人及び法人の設置する学校の日常業務について迅速に意思決定を行なうため「学校法
人瓜生山学園 寄附行為施行細則常任理事会規則」に基づき、理事会のもとに常任理事会を
置き、毎月 1 回定例開催をしている。常任理事会は、理事長、学長、専務理事、常務理事
ほか常勤の理事によって構成されており、必要に応じ教員、事務局各部署の責任者、担当
者も陪席することができる。主に、経営戦略・方針の策定、人事案件、教学に関する諸問
題について審議を行ない、議決するほか、理事会提出議案の予備検討などを行なっている。
また、平成 19(2007)年度より姉妹校の東北芸術工科大学と共通する理念の具現化をは
かるために、それぞれの法人の専務理事(東北芸術工科大学にあっては常務理事)及び事
務局長が相互の常任理事会に出席し、大学運営に関する連携体制の強化をはかっており、
学生募集や就職支援、その他経営方針に関わる事項について適宜情報交換を行なっている。
なお、法人事務局として法人企画部を置いている。法人企画部は、法人企画課、秘書課、
法人資料調査室からなり、法人の管理運営業務にあたっている。
68
京都造形芸術大学
■役員の選考・採用等
本学寄附行為に以下の通り定めており、適切に運用を行なっている。
役職
理事長
専務理事
常務理事
理事
監事
選任方法
理事のうち一人を理事長とし、理事総数の過半数の議決によ
り選任する
理事長以外の理事のうち一人を専務理事とし、理事総数の過
半数の決議により選任する
理事長及び専務理事以外の理事のうち三人以内を常務理事
とすることができ、理事総数の過半数の決議により選任す
る。
第 1 号 京都造形芸術大学学長
第 2 号 評議員のうちから評議員会において選任した者
第 3 号 学識経験者のうち理事会において選任した者
この法人の理事、職員または評議員以外の者であって、理事
会において選出した候補者のうちから、評議員会の同意を得
て、理事長が選任する。
人数
1人
任期
-
現員
1人
1人
-
1人
1~3 人
-
1人
1人
6人
10 人
3人
2年
1人
6人
10 人
3人
2年
(2)7-1の自己評価
大学の建学の理念を実現するための管理運営体制は前述の通り整備され、理事会、評議
員会、常任理事会がそれぞれの役割を果たし、適切に機能している。特に常任理事会は原
則毎月開催しており、状況に応じた日々の課題に迅速に対応するための意思決定を行なう
ことが出来ている。
また、役員の選任については寄附行為に定められており、適切に運用されている。
(3)7-1の改善・向上方策(将来計画)
私立学校法の定めに従い、理事・監事・評議員の権限や役割を明確にした上で、三者が
協力して運営を行なっているが、経営のよりいっそうの健全性確保の観点から、監事機能
の強化をはかる。
69
京都造形芸術大学
7-2
管理部門と教学部門の連携が適切になされていること。
《7-2の視点》
7-2-①
管理部門と教学部門の連携が適切になされているか。
(1)7-2の事実の説明(現状)
「建学の理念」に基づいた大学運営の維持、発展のためには、管理部門と教学部門がそ
れぞれの役割を果たしつつ、連携をはかる必要がある。そのため、日常的な意思決定を行
なっている常任理事会では大学設置以降、以下の事項が申し合わせとして明文化されてい
る。
①理事会側と教学側とが問題意識を共有し、相互の意志が学園運営に反映されるよう留
意すること。
②その趣旨に則り、必要と認めたときにはその他の教職員に出席を求めることができる
こと。
この申し合わせに従って、常任理事会には、学長、副学長、芸術学部長、研究科長、通信
教育部長、研究科(通信教育)長が常に出席し、教学の意思を反映した学園運営を日常的
に行なっている。
また、全学的審議機関として、学園協議会が設置され、芸術学部、芸術研究科、通信教
育部、芸術研究科(通信教育)に共通する教学上の課題に関する方針決定と、複数の課程
に関係する取組みについての調整が行なわれている。このほか、年数回行なわれる教職員
総会では理事長、学長が大学の今後の方針や展望について直接全教職員に対して語る機会
が設けられており、教職員はこの場で質疑応答することができるようになっている。これ
により、教職員は経営方針や事業計画を十分理解した上で日々の業務にあたっている。
(2)7-2の自己評価
常任理事会、学園協議会など、管理部門の責任者と教学部門の責任者が意見交換や議論
を行なう場を定期的に設けているほか、常任理事会の内容については教授会や事務局の課
長会議で適宜報告されており、運営の透明性と情報共有がはかられている。これにより管
理部門と教学部門の連携は適切になされている。
(3)7-2の改善・向上方策(将来計画)
今後も常任理事会と学園協議会を定期的に開催し、管理部門と教学部門の適切な連携を
維持する。
70
京都造形芸術大学
7-3
自己点検・評価のための恒常的な体制が確立され、かつその結果を教育研究をは
じめ大学運営の改善・向上につなげる仕組みが構築されていること。
《7-3の視点》
7-3-① 教育研究活動をはじめ大学運営の改善・向上を図るために、自己点検・評価の
恒常的な実施体制が整えられているか。
7-3-② 自己点検・評価の結果を教育研究をはじめ大学運営の改善・向上につなげる仕
組みが構築され、かつ適切に機能しているか。
7-3-③ 自己点検・評価の結果が学内外に適切に公表されているか。
(1)7-3の事実の説明(現状)
■自己点検・評価活動等の取組み
教育運営の基本となる教育計画は、前年度及び当該年度前期の教育研究活動の検証を行
ったうえで、学部長および研究科長より毎年 7 月に提示される次年度方針に則り、各学科
および各専攻において策定される。策定された教育計画は 11 月に提出され、学部長及び研
究科長の承認を受けた上で、具体的な設計作業を行なう。
教育計画の具体的な設計は、各教員の前年度教育研究活動報告書に基いた面談結果や、
学生による授業評価アンケートの結果、ゼミごとの就職実績などさまざまな情報の分析を
反映させた上で行なわれる。そのため、教育計画は自己点検評価報告書といえる内容とな
っている。
同時に、事務局においても、同様のプロセスを採り、事務局長より提示される次年度方
針に則り、前年度および当該年度前期の検証を行なった上で、次年度計画の策定を行う。
検証によって開示される業務の分析結果については、教育計画を策定する各学科および各
専攻と共有し、その実質化をはかっている。
各学科および専攻、事務局によって策定された次年度計画を総合して、学園全体の次年
度事業計画および予算案が策定され、理事会及び評議員会で審議決定される。この一連の
活動が PDCA(Plan-Do- Check-Act)サイクルとして機能している。
教育研究活動の点検評価は、京都造形芸術大学自己点検・評価委員会規程および教育活
動点検評価実施規程に従って実施している。なお、自己点検・評価の結果については平成
19(2007)年度分より大学ホームページ上で公開している。
(2)7-3の自己評価
従来から本学では自己点検・評価に取り組んでおり、教育研究や業務運営の改善に役立
ててきた。しかし、問題点の抽出から改善に至るプロセスが学内で十分に共有されていな
かった。
(3)7-3の改善・向上方策(将来計画)
自己点検・評価委員会の機能を強化し、代表教授会との連携を密にすることで、改善プ
ロセスを共有する。
71
京都造形芸術大学
〔基準 7 の自己評価〕
管理部門および教育部門ともに、建学の理念が十分に浸透していることから、方針がぶ
れることなく、一体的な運営が実現できている。
管理運営についての必要な規程や体制は整備されており、運用上も特に問題はない。自
己点検・評価に関しては、取り組み自体は開学以来継続して続けてきており、学内に定着
しているが、今後は全学的な取り組みとして継続する必要がある。平成 12(2000)年の自
己点検・評価委員会の設置や平成 21(2009)年の「京都造形芸術大学 自己点検・評価委
員会規程」の制定に伴う運用の見直しなど、実施方法の見直しを行いつつ、本学に相応し
い自己点検・評価の方法を模索しているところである。
〔基準 7 の改善・向上方策(将来計画)〕
前項の自己評価の通り、管理運営については現状の運営で問題はないが、教育機関を取
り巻く環境がいっそう厳しくなる中で本学の役割を十分に果たすためには、現状に甘んじ
ることなく、管理部門と教学部門が常に連携して大学の建学の理念の具現化をめざさなけ
ればならない。また、本学が掲げる「京都文芸復興」だけでなく、姉妹校である東北芸術
工科大学の掲げる「東北ルネサンス」と呼応し、協働するなかで「藝術立国」を為すため
にも、両大学の管理運営面、教学面の両方において連携体制を強化する。既に開始してい
る常任理事会の相互出席のほか、平成 22(2010)年 7 月に新たに開設する東京キャンパス
での合同事業など具体的な協働活動を実施する。
また、今回の大学機関別認証評価受審を契機として大学全体で高まった自己点検・評価
への意識高揚を継続し、教育研究活動の改善と水準の向上を図るために、引き続き自己点
検・評価を実施する。そのためにも教職員の意識改革を徹底し、自己点検・評価委員会の
主導としつつも教職員一人ひとりが主体的に自己点検・評価に取り組み、教育研究活動や
業務の改善および水準の向上を実現する。
72
京都造形芸術大学
基準8
8-1
財務(予算、決算、財務情報の公開等)
大学の教育研究目的を達成するために必要な財政基盤を有し、収入と支出のバラ
ンスを考慮した運営がなされ、かつ適切に会計処理がなされていること。
《8-1の視点》
8-1-①
大学の教育研究目的を達成するために必要な経費が確保され、かつ収入と支
出のバランスを考慮した運営がなされているか。
8-1-②
適切に会計処理がなされているか。
8-1-③
会計監査等が適正に行われているか。
(1)8-1の事実の説明(現状)
■経費の確保・収入と支出のバランス
本学は、収入の多くを学生生徒納付金収入と補助金収入に依存している。帰属収入に対
する割合は、平成 21(2009)年度でそれぞれ 84.5%、9.7%で合計 94.2%となっている。
学生生徒納付金比率は同系統の大学 76.5%、全国の平均値 73.0%と比して高い値となって
いる。
収入の基盤となる学生生徒納付金は平成 17(2005)年度に比べ 3 億 940 万円の増加とな
っており、安定して推移している。また、平成 19(2007)年度に収容定員増を実施してお
り、収容定員増後の学生確保も順調に推移していることから、平成 22(2010)年度まで学
生生徒納付金収入は増加する見込みである。
支出については、教育研究経費の充実に力点を置き、帰属収入に対する割合は平成 21
(2009)年度で 37.6%と、同系統の大学 29.9%、全国の平均値 31.0%と比して極めて高
い値となっている。一方、管理経費比率は 9.4%と同系統の大学 10.4%、全国の平均値 9.9%
より低く抑えられている。
平成 12(2000)年の総合芸術大学への再編成時に 100 億円を超える設備投資を行ない、
その大部分を借入金で調達したことから、総負債比率が 36.8%と極めて高い値となってい
る。しかしながら、その資金は日本私立学校振興・共済事業団から期間 20 年の固定金利で
調達している良質なものであり、計画どおり順調に返済が進んでいる。また、耐震上問題
のあった校舎建替工事の支払資金の一部 6 億円を平成 20
(2008)年度に調達し平成 21
(2009)
年度に返済済み、また平成 21(2009)年度に借用していた校舎を購入し、その支払資金7
億 1,400 万円を返済期間 3 年で調達したが、総負債比率は減少を続けている。一方で、負
債率を圧縮するために、できるだけ手元資金による設備投資を続けているため、平成 21
(2009)年度の前受金保有比率は 77.7%となっている。
予算編成にあたっては、各部署から次年度計画と予算要望書が提出され、事務局長、事
務局次長、法人企画課長および経理課長によるヒアリングを行なった上で、学園中期計画
との整合性を保ちながら、全体の資金の範囲で適切に予算の配分をおこない、最終的には
理事会の承認を受けている。予算の執行については、コンピュータ上の予算執行システム
に予算データを反映させ、各部署が予算を簡便に管理できるようにするとともに、経理課
の管理下で予算の範囲内における執行を厳守している。
73
京都造形芸術大学
■会計処理
学校法人会計基準に準拠した会計処理を行なっており、会計処理における疑問点、問題
点については、日本私立学校振興・共済事業団や常任監事に相談しながら、最終的には公認
会計士に確認し、適切な処理を行なっている。
■会計監査
平成 21(2009)年度も例年同様に、公認会計士による会計監査が 12 日間実施されてい
る。また、常任監事 1 人が週 3 日間出勤しており、日常的な経理業務の監査のほか、常任
理事会及び事務局課長会議に出席することで、大学の状況を把握し監査を行なっている。
これにより、公認会計士より会計処理が適正であるとの監査報告を得ている。
(2)8-1の自己評価
平成 12(2000)年度の大型投資以降、本学の財務状況は計画通り推移している。収容定
員の増加などにより学生生徒納付金も増加していることから、教育研究活動に高い比率で
資金を投入しながらも、借入金の返済が順調に進んでいる。また、教育研究環境の充実を
はかるため、校舎、機器備品の整備を積極的に行っている。そのため繰越消費支出超過額
が増加する傾向にあるが、学生にとって魅力ある教育研究を実施するための前向きな投資
によるもので、これらが評価された結果、学生数が増加しているものと判断している。
しかし一方で、総負債比率が平成 21(2009)年度で 36.8%と、同系統の大学 11.0%、
全国の平均 14.7%と比して極めて高い値になっている。総負債比率の早急な改善は困難で
あるが、計画どおりの返済により改善が進んでいる。また、前受金保有比率が 77.7%と同
系統の大学 294.2%、全国の平均 318.6%と極めて低い値になっており、前受金保有比率は
退職給与引当預金率とあわせ早急に改善する必要があると認識している。
本学はもともと特別な支援団体などがなく、開学から短期間に教育環境の整備拡充をは
かってきたことにより、資金調達による先行投資が続き、結果として貸借対照表関係の財
務比率が、他大学と比して悪い傾向にある。一方で、それら先行投資による数々の施策が
評価された結果が、今日の成長に繋がっていると考えている。
(3)8-1の改善・向上方策(将来計画)
本学の財務の問題点は、総負債比率の高さと、前受金保有率(期末現預金)の低さに顕
著に現れている。総負債比率の早急な改善は難しいながら、日本私立学校振興・共済事業団
からの安定した調達となっていることから、計画通りの返済を進め、総負債比率を減少さ
せる。また、期末現預金については、平成 25(2013)年度には前受金保有率を 100%以上
とし、その翌年度に退職給与引当預金率を 60%にすることを目指す。これは、平成 22(2010)
年度までは平成 19(2007)年度の収容定員増により学生数が増加し、さらに平成 23(2011)
年度に収容定員増をはかる予定であることから、今後 5 年間は学生生徒納付金収入の増加
を見込めるため、実現可能と判断している。
74
京都造形芸術大学
8-2
財務情報の公開が適切な方法でなされていること
《8-2の視点》
8-2-①
財務情報の公開が適切な方法でなされているか
(1)8-2の事実の説明(現状)
閲覧については、経理課に法人の概要、事業報告書、財産目録、貸借対照表、資金収支
計算書、消費収支計算書、監事による監査報告書を備え付けており、請求に応じて閲覧に
供している。平成 19(2007)年度より、広く社会に公開することを目的として、ホームペ
ージ上で法人の概要、事業報告書、財産目録、貸借対照表、資金収支計算書、消費収支計
算書、監事による監査報告書の開示を行なっている。また、大学の広報誌である「瓜生通
信」に事業報告書、財産目録、貸借対照表、資金収支計算書、消費収支計算書を掲載し、
学生、保護者、教職員、学園関係者に配布している。
(2)8-2の自己評価
現在は必要書類一式を閲覧に供し、ホームページ上及び広報誌での公開などにより、財
務の情報を適切に公開している。しかしながら、学校法人会計基準が通常の法人のそれと
異なることから、一般の方にとって一次情報のみで本学の財務状況を把握するのは困難で
あると思われる。
(3)8-2の改善・向上方策(将来計画)
平成 23(2011)年度には、一次情報の公開のみならず、例えば学生一人当たりの納付金
の使途が具体的にどのようになっているのか、一般の方でもわかりやすい情報に加工する
ことで、本学の財務状況を広く理解してもらうようにする。
8-3
教育研究を充実させるために、外部資金の導入等の努力がなされていること
《8-3の視点》
8-3-①
教育研究を充実させるために、外部資金の導入(寄付金、委託事業、収益事業、
資産運用等)の努力がなされているか
(1)8-3の事実の説明(現状)
寄付金については、平成 19(2007)年度に開学 30 周年記念として、校舎建替え資金の
寄付金募集を行なった。本学としては、周年行事に関連させて校舎建替え資金の寄付金募
集活動を行なったのは初めての試みであり、結果 3,879 万円の寄付金を集めた。しかしな
がら、比較的歴史の浅い大学であることから、卒業生に対する積極的な寄付募集活動は行
なっていない。一方で、社会的意義の高い事業を実施するときは、協賛金を募る努力をし
ており、平成 21(2009)年度に実施した第三回世界アーティストサミットでは、企業協賛
金を 280 万円獲得した。
補助金については、特別補助金など積極的に申請し、平成 20(2008)年度質の高い教育
推進プログラムに 2 つの取組が選定されるなどしている。また、舞台芸術研究センターで
75
京都造形芸術大学
は平成 21(2009)年度私立大学戦略的経営基盤形成支援事業に選定されたことにより、平
成 13(2001)年度の開設以来継続して補助金の獲得に成功している。
資産運用については、元本割れのリスクのない定期預金での運用が中心であることから、
収入に対する寄与はきわめて低いものの、安定したものとなっている。
受託研究については、日本庭園・歴史遺産研究センターおよびものづくり総合研究セン
ターが中心となり、それぞれ平成 21(2009)年度で 18 事業 3,800 万円と、23 事業 3,400
万円の受託収入を得ている。 この他、科学研究費補助金の獲得にも積極的に対応しており、
平成 21(2009)年度には 11 件 1,240 万円(間接経費を含む)の科研費を獲得しており、
これは芸術系大学においては東京芸術大学、東京工芸大学、京都市立芸術大学に次ぐ実績
となっている。
公開講座については、「瓜生山エクステンションセンター」と称し 1994 年度より継続し
て実施し、平成 21(2009)年度は 52 講座を開講、3,190 万円の収入を得ている。
(2)8-3の自己評価
補助金、受託研究、公開講座については積極的に対応しており、実績も上がっている。
なお、補助金比率が同系統の大学と同水準になっているのは学生生徒納付金収入に比して
補助金収入比率の低い通信教育課程が、収入の一定比率を占めているためである。資産運
用については、借入金残高が多いことや現在のマーケット環境を鑑みると、現状方針が妥
当である。寄付金については現状の水準では財務への寄与が少ない。
(3)8-3の改善・向上方策(将来計画)
補助金、受託研究、公開講座については今後も積極的な対応を続けていく。補助金につ
いては、職員による関連情報の収集を強化するとともに、その情報を教員と共有すること
で、補助対象事業の抽出と獲得を目指す。また、受託研究は教育還元を推し進めることで、
関わる教職員数を増やし、強化をはかる。公開講座については、所管セクションを社会人
教育を担う通信教育課程に移管し、相乗効果を狙い拡充をはかる。寄付金については、卒
業生のネットワーク強化や、保護者のより積極的な教育への関わりをはかるなどの施策に
よって増加をめざす。資産運用については、借入金残高も多いことから、現状の預金運用
を基本に継続していく。
〔基準8の自己評価〕
本法人は、借入金による先行投資によって帰属収入の増加を維持してきた。特に平成 13
(2001)年度に実施した 100 億円の大型投資が、現在の借入金残高のほとんどを占めてい
る。これら先行投資によって一定の帰属収入を得るに至ったことから、今後はストックの
健全性を獲得することが不可欠である。
〔基準8の改善・向上方策(将来計画)〕
継続して帰属収入の増加が見込まれることから、今後 5 年間の収入増加期間で前受金保
有比率を早急に改善し、特定預金などストックを充実させることで、新たな投資を自己資
金で実施できる財務基盤を構築する。
76
京都造形芸術大学
基準9
9-1
教育研究環境(施設設備、図書館、情報サービス・IT 環境等)
教育研究目的を達成するために必要なキャンパス(校地、運動場、校舎等の施設
設備)が整備され、適切に維持、運営されていること。
《9-1の視点》
9-1-① 校地、運動場、校舎、図書館、体育施設、情報サービス施設、附属施設等、教
育研究活動の目的を達成するための施設設備が適切に整備され、かつ有効に活
用されているか。
9-1-② 大学研究活動の目的を達成するための施設設備等が、適切に維持、運営されて
いるか。
(1)9-1の事実の説明
■校地、校舎、施設設備等の整備状況
校地・校舎
本学は京都市東部東山連峰に連なる瓜生山の麓にあり、3 つのキャンパスとグラウンドで
構成されている。瓜生山キャンパスは、敷地面積が約 66,000 ㎡で正面が幹線道路に面し、
水景を配した大階段と柱を配したファサードで、開放的なピロティを有する。上終キャン
パスは、瓜生山キャンパスと幹線道路を挟んだ向かい側にあり、敷地面積は 546 ㎡で 2 棟
の校舎がある。高原キャンパスは、瓜生山キャンパスから西方に約 500m 離れた場所に位置
し、敷地面積は約 1,900 ㎡、4棟の建物は専用の撮影スタジオを備える映画学科の施設で
ある。岩倉グラウンドは大学から約4km 北に位置して敷地面積は約 18,500 ㎡である。校
地面積は合計 87124.10 ㎡で大学設置基準の約 3.1 倍にあたる。また校舎については専用で
63491.81 ㎡を保有し、大学設置基準の約 2.7 倍である。
芸術文化情報センター(図書館)
芸術文化情報センター(図書館)は、閲覧席数 459 席の図書館と、約 100 人収容の映像
ホール、児童図書館「ピッコリー」から成る。活字資料のみならず、映像メディア資料の
収集も進んでおり、館内には OPAC 検索端末 11 台、データベース専用端末 4 台、貸出用ノ
ートパソコン 52 台とその周辺機器、学内 LAN 環境を用意して利用者の利便性を高めている。
Web 上での資料検索、郵送貸出やネット貸出、平日夜間および日祝日の開館など、通信教
育で学ぶ学生にも対応したサービスを行っている。また、奈良本辰也(故人、歴史学者)
文庫の設置、豊原國周の浮世絵データベースの構築など、学術情報の公開にも取り組んで
いる。平成 21(2009)年度末現在の大学図書館の資料数は図書 135,253 冊、視聴覚資料 21,496
点である。来館者数の実績は、平成 19(2007)年は 179.840 人、平成 20(2008)年は 182,775
人、平成 21(2009)年は 162,500 人となっている。
情報サービス施設
瓜生山キャンパスの中心にある人間館が本学の情報発信基地であり、1F ラウンジ周辺と
ピロティに掲示板・情報装置が集約されている。また、館のエントランスから3ブロック
77
京都造形芸術大学
を展示施設として整備し、各学科の教育成果の展示・発表の場としている。また、各階廊
下や主たる教室に展示設備を設けている。
情報設備としては、学内 LAN が全施設に敷設されているほか、ラウンジ、図書館、主要
教室では無線 LAN サービスを提供しており、個人持込のノートパソコンの学内 LAN 接続が
可能である。学内のコンピュータ端末の設置台数は 1,200 台を超え、うち約 900 台が学科
に、200 台が学部共通のコンピュータ室に設置されている。これらの端末には、コンピュ
ータ基礎教育システム、一般デザイン演習用システム、映像編集システム(ノンリニア編
集、サウンド制作、デザイン制作)を導入し、基礎及び専門技術の修得に供している。
体育施設
体育館は約 980 ㎡で、バスケットコート2面、バレーボールコート2面を有している。
体育の授業だけでなく、初年次教育におけるワークショップ授業、学生のクラブ活動、大
学行事に使用している。運動場は、瓜生山キャンパスから約 4km 離れた北部に位置し、更
衣室・道具保管室を設置している。
共通工房
平成 19(2007)年 3 月の至誠館の完成により、共通工房であるウルトラファクトリーが
整備された。ウルトラファクトリーは、金属加工および樹脂成型を扱う工房 700 ㎡と、木
材加工を扱う工房 250 ㎡で構成される。旋盤、フライス盤、溶接機、パネルソー、横切盤、
昇降盤等の特殊加工機材を備え、多様な学科を横断して集まった学生の、制作技術や思考
能力の向上を目的とした教育を実施している。平成 22(2010)年 4 月から、それまで情報
デザイン学科の施設であった写真スタジオを、学部に共通する写真工房として位置づけ、
学科を越えて学生が写真技術の習得と応用をはかることのできる環境が整った。
学内展示設備
本学では、学内にギャラリーや博物館相当施設を整備しているほか、学生ラウンジや実
習室、廊下等に展示設備を整えて、学生の制作発表活動を活性化する取り組みを進めてき
た。これをさらに大学のキャンパスプランと関連付けて総合的に推進するため、平成 22
(2010)年度から美術館大学構想委員会を設置した。美術館大学構想は、教育・制作現場
である大学全体を美術館と考え、自然に作品に触れられる環境をつくり、社会に開かれた
教育の場とすることを目的としており、この観点から、現在、既存施設等の改善を進めて
いる。
附属施設
本学は、美術やデザインだけでなく、映画、舞台芸術など多様な学科を擁しており、そ
れらの教育活動に資する附属施設を整備している。
78
京都造形芸術大学
表 9-1-a:属施設一覧(表中の利用者数は平成 21(2009)年度の実績)
京都芸術劇場
春秋座・studio21
芸術館
ギャルリ・オーブ
(Galerie Aube)
久美浜セミナーハウス
(京都府京丹後市)
黒田村アートビレッジ
(京都市右京区)
康耀堂美術館
(長野県茅野市)
東京サテライトキャン
パス(東京都中央区)
春秋座(大劇場)
本格的な歌舞伎公演が実施できる舞台機構と 852 席の観客席を擁し、現代劇
やオペラ等の上演、映画上映にも対応した劇場。○公演日数 190 日(公演 100
日/授業 68 日/大学行事 22 日)、来場者数 2 万 2,026 人
studio21(小劇場)
現代演劇やダンス、パフォーマンスなど、舞台表現の実験を行う小劇場。自
由度の高いユーティリティ劇場であり、様々なスタイルの公演に対応する。
○公演日数 83 日(授業関連公演 66 日、外部団体公演 17 日)
、来場者数 3,523
人
博物館相当施設。一般に公開されているほか、学芸員課程の博物館実習の場
として活用されている。企画展示室(通称ギャラリーRAKU)では、展覧会お
よびパブリックプログラムを開催し、社会に開かれたアートの現場を視野に
運営を行っている。○展覧会数 20、開館日 225 日、来館者数 1 万 2,420 人
人間館の構内にある多目的ギャラリー。学生・教員作品展、国内外の作家の
展覧会など多種多様な展覧会を開催し、一般にも開放している。一部の展覧
会は企画から展示まで学生が運営に関わる教育実践の場としても活用されて
いる。○2009 年度展覧会数 12 、来場者数 約 2 万 7,000 人
学生、教職員のための宿泊研修施設。
登り窯、電気窯、ろくろの設備を備えた宿泊可能な実習施設。
蓼科高原の入り口にあり、敷地面積 1 万 6,861 ㎡、建物面積 1,308 ㎡の美術
館。近現代の日本画・洋画作品 300 点あまりを収蔵し、学生の美術研修や通
信教育部の学芸員課程の博物館実習に利用されている。来館者数 5,230 人。
東北芸術工科大学と共同で運営する施設。通信教育スクーリング、履修相談、
各種説明会、学生の学習会などに活用されている。平成 22(2010)年 7 月か
ら、新たに完成する外苑キャンパス(東京都港区)に機能が移される。
■施設設備の維持管理
建物の竣工年度にばらつきがあることから、管理計画を作成してメンテナンス・保守を
実施し、学習環境の維持に努めている。日常的な清掃については外構部を含む全般を専門
業者に委託して良好な状態を保っている。また、本学は敷地の大部分が風致地区となって
おり、専門家たる本学教員の管理指導のもと、年間を通して専門業者による保全管理に努
めるなど、隣接する山林の維持管理も積極的に行なっている。
本学は教育上の特性から施設設備に特殊なものが多いため、施設課に専従スタッフを置
いて、その指示の下、専門業者による維持管理を行なっている。施工管理、電気、機械設
備の各業者が学内に常駐しており、緊急時に迅速に対応できる体制を整えている。なお、
ネットワークやPCの維持管理には情報システム室を設置して対応している。
(2)9-1 の自己評価
主たる校地面積は合計 87,124.10 ㎡、校舎については専用で 63,491.81 ㎡を保有して大
学設置基準を満たしている。原則として実習棟単位で各学科の実習室、演習室を配置し、
それぞれ専門分野に分かれた制作活動を行なえるように設置しているだけでなく、ウルト
ラファクトリーや写真工房などの共通工房を設け、学科を横断した教育活動に活用されて
いる。
芸術文化情報センター(図書館)は、利用実績に照らして、十分に機能している。利用
者数が微増、微減を繰り返しているのは、通信教育課程学生に対する郵送貸出やネット貸
79
京都造形芸術大学
出サービスの充実により、来館の必要性が減じていることによる。
体育館については、授業だけでなく課外活動にも積極的に活用されており、夜間は 22 時
まで使用可能なこともあって利用率は高い。グラウンドについては、周辺設備も含めた整
備を実施し利用の活性化に努めている。
情報サービス施設については、情報伝達の確実性、効率が確保できており、学内コミュ
ニティーの活性化に寄与している。発表(情報発信)機能としての館内展示設備の充実に
より、学生の積極性や意識改革に好影響をもたらしている。ネットワーク環境および情報
システムサポートについては、学生の PC 保有率の高まりにあわせた対応を取り、遅れるこ
となく現段階では支障なく利用に供していると判断している。
学内の劇場、複数のギャラリー、美術館は、年間を通して一定水準の活動が行なわれて
おり、社会に開かれた施設、また、より実践的な教育の場として十全に機能している。そ
れら展示施設の充実とともに、共通工房の整備が進んだことによって、学生の制作活動と
その社会的発信がいっそう活発化している。
老朽化してきている建物、設備等は、不具合の出始めた箇所から順次メンテナンスを行
なっている。清掃は、増改築により対象面積が増えたことを踏まえ、清掃員を増員し、良
好な環境の維持管理に努めている。
(3)9-1の 改善、向上方策
平成 23(2011)年に学科増が予定されていることから、それを機に教室利用の見直しと
再配置、改修計画、老朽化しはじめている設備機器類の更新計画を策定する。また、ギャ
ラリーを含む大学全体を展示装置と考える「美術館大学構想」を推進するため、各施設の
基本機能と教育上の利便性をあわせて再点検する。
芸術文化情報センター(図書館)については、今後更に多様な利用者に対応するという
観点から考察した場合、限られたスペース、図書予算の中で最大の効果を上げるために、
センター内のみならず研究センターなど大学内各所に配備されている資料情報を再構成し
て Web 上にカテゴリー毎のヴァーチャル書架を構築し、利便性を高める。これは平成 23
(2011)年より4年計画で実現する。
老朽化の目立つ設備に関して、エネルギー効率や安全性を高めるために入替計画を策定
し、順次更新を実施していく。
80
京都造形芸術大学
9-2
施設設備の安全性が確保されていること。
《9-2の視点》
9-2-① 施設設備の安全性(耐震性、バリアフリー等)が確保されているか。
(1)9-2の事実の説明(現状)
現在本学の最も古い建物は昭和 49 年(1974)年築のもので、それ以外に昭和 56(1981)
年に改正された建築基準法施行令(新耐震基準)の対象外の建物が2棟存在する。新耐震
基準対象外の3棟のうち2棟は建替えを検討中であり、残る1棟は耐震補強工事を実施す
る予定である。吹き付けアスベストについては、平成 17(2005)年に調査した結果、現存
の建物には使用されていないことが判明している。
防火防災については、担当消防署と連絡を密にし、随時指導を仰ぎながら日常点検を実
施している。また、自動火災受信設備を設置し、年2回の法定定期点検を専門業者により
実施している。
特殊機械については、各実習棟において様々な用途に応じた工具、工作機械を導入して
いるが、その使用に際して担当教員による安全教育を実施し、使用規定を設け、専門の技
術員を配することで安全に配慮している。
バリアフリーについては、本学の立地上、斜面に沿うように校舎を配置しているため、
完全なバリアフリー化は困難である。しかし隣接道路水準からの迂回路設置、縦導線確保
のためのエレベーター増設、最上部校舎までの連絡道路およびスロープの勾配・段差修正、
バリアフリートイレの設置など、可能な範囲での改善を行なっている。
(2)9-2の自己評価
施設、設備の安全性については専門業者と保守契約を締結し、日常点検、定期点検、法
定点検を実施して不良箇所の早期発見と修繕を行ない、安全で良好な状態を維持している。
防災管理においては、平成 22(2010)年度より防災管理者の設置が義務付けられたため、
資格取得者を選任し、京都市消防局に消防計画とあわせて防火管理者と共に防災管理者選
任届けを提出している。また、同時に義務化された防災管理点検も実施している。
バリアフリーに関しては、立地上、完全なバリアフリー化が困難であるが、事実の説明
で述べたとおり可能な範囲での整備が進んでいる。
(3)9-2の 改善、向上方策
施設設備については、その耐用年数、耐震基準に照らして修繕、建替計画を進める。バ
リアフリーについては、特に移動経路上の負荷軽減と安全確保のために建物間、スロープ
の段差修正を継続して行なっていく。
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京都造形芸術大学
9-3
アメニティに配慮した教育環境が整備されていること。
《9-3の視点》
9-3-①
教育研究目的を達成するための、アメニティに配慮した教育研究環境が整備
され、有効に活用されているか。
(1)9-3の事実の説明(現状)
快適な就学環境の維持については、施設課の監督指導の下、委託業者が授業等の利用に
合わせて清掃を実施している。講義室、実習室、共有部(外構部含む)は日祝日を含め毎
日清掃を実施しているほか、長期休暇期間中には床の洗浄、ワックス施工を行って清潔な
環境の維持に努めている。なお、施設仕様はその使途にあわせた床材、壁材、部材が選ば
れ、換気装置・空調設備を適切に備えている。
学生の施設使用は、通常授業期間中、月~金曜日は午前 9 時から午後 8 時、土曜日は午
前 9 時から午後 5 時を基本としているが、届け出によって平日は午後 10 時まで、日曜日、
祝日は午前 9 時から午後 5 時まで使用することができる。なお、教員、事務担当など監督
者がつく場合は 24 時間使用可能である。
(2)9-3の自己評価
特殊工作機械等を設置した教室が増えているため、安全確保のため専門技官を置くなど
の監督体制を一層強化する時期にある。また、快適性の維持については適切に運用されて
いると判断している。
(3)9-3の改善、向上方策
各施設の快適環境維持のため、適宜改修、修繕、機能追加を次年度計画策定作業にあわ
せて進める。また、携帯電話メールによる教学情報提供サービスを充実させるため、その
コンテンツと提供方法について一両年を目処に見直しを行なう。
〔基準 9 の自己評価〕
校地、校舎については大学設置基準を満たし、また主要な付属施設とあわせ、教員・学
生の教育研究活動に資する整備がなされている。メンテナンス、保守は専門業者に委託し
遺漏なく行われているが、一部に古い施設があり、修繕・改修を計画的に進める。バリア
フリーについては、本学の立地から可能な範囲で取り組んでおり、アメニティに配慮した
教育環境も整備されていると判断している。
〔基準 9 の改善、向上方策〕
修繕・改修を要する施設については計画的に対処するとともに、教育実態と年次計画に
あわせ改善していく。
82
京都造形芸術大学
基準10
10-1
社会連携(教育研究上の資源、企業、地域社会等)
大学が持っている物的・人的資源を社会に提供する努力がなされていること。
《10-1の視点》
10-1-① 大学施設の開放、公開講座、リフレッシュ教育など、大学が持っている物的・
人的資源を社会に提供する努力がなされているか。
(1)10-1の事実の説明(現状)
本学は、「京都文芸復興」「藝術立国」という建学の理念のもとに、京都という立地を活
かし、大学自らが地域における芸術文化の交流拠点となることをめざしている。そのため、
大学施設の開放や公開講座など、大学の物的・人的資源の社会への提供を積極的に行なっ
てきた。その活動は、平成 13(2001)年に大劇場、小劇場、ギャラリー、芸術文化情報セ
ンターを備えた人間館が完成したことにより、ますます盛んに展開されるに至っている。
■公開講座
平成 6(1994)年に「瓜生山エクステンションセンター」を開設し、公開講座の運営を
行なっている。平成 21(2009)年度の講座開講数は 52 講座、受講者数は 1,467 人であっ
た。また、臨床美術(アートセラピー)士の育成をはかる臨床美術士取得講座を平成 20
(2008)
年より実施している。そのほか、各研究センター主催のセミナーやシンポジウムも年間を
通じて開催されている。
表 10-1-a:瓜生山エクステンションセンター公開講座
資格・リカレント教育講座
庭園学講座 16 世界遺産の普遍的価値を問う
芸術文化教養講座
講座日本芸能史
街道を行く(文学と歴史の道)・現地学習
芸術表現特講
大塚国際美術館「西洋美術史まるごと鑑賞」
芸術と文化のワークショップ
日本画の基礎と表現探求
アクリル絵の具で描く
銅版画に親しむ
古典絵画研究
書
表装の基礎:裏打ち
アニメーション講座:専門・就職対策コース
アニメーション講座:基礎コース
京野菜一汁一菜
平成 21(2009)年度
臨床美術士取得講座「4 級」「5 級」
京都学-京都のものづくりの真髄に触れる
「煎茶」の世界への誘い
クリエイティブ・ライティング特講
描くことが楽しくなる油絵教室
人体デッサン教室
人体クロッキー教室
古美術研究─仏像の技法を学ぶ
水墨研究講座Ⅰ~Ⅲ
篆刻学:初級
クレイアニメーションの作り方、動かし方
ブロムオイルプリント
ピンホール写真講座
展覧会の開催
本学の学内には、ギャルリ・オーブ、ギャラリーRAKU、芸術館の 3 つの展示施設があり、
これを利用して企画展を積極的に開催している。また、長野県茅野市にある附属美術館(康
耀堂美術館)でも企画展や収蔵作品の展示公開を行っている。
83
京都造形芸術大学
表 10-1-b:ギャルリ・オーブで開催した主な展覧会
会期
7/17-8/30
9/28-10/12
10/16-11/2
1/20-2/6
3/24-4/18
平成 21(2009)年度
タイトル・出展者
「マイ・アートフル・ライフ-描くことのよろこび-」
出展:石山朔/塔本シスコ/丸木スマ
「戦争と芸術Ⅳ展-美の恐怖と幻影-」
出展:草間彌生/横尾忠則/杉本博司/AES+F/ヤノベケンジ(本学教授)/マーティン・クリー
ド Mr./名和晃平(本学准教授)/佐藤愛/田上穂波/三松由布子(本学学生)
「地球の上に生きる」 DAYS JAPAN 5 周年記念フォトジャーナリズム写真展
「サンドロ・キア展 『夢見る田園』」
出展:サンドロ・キア
「瓜生山 春の顔見世:本学デザイン系学科教員作品展」
出展:本学デザイン系学科所属教員
表 10-1-c:ギャラリーRAKU で開催した企画展
会期
平成 21(2009)年度
タイトル・出展者
4/12-4/26
「Yoda Red Point Project」
4/29-5/24
「企画展1「会田誠『MONUMENT FOR NOTHING Ⅱ』共同制作展」
5/30-6/7
「image color:Seko Marin solo exhibition」
6/24-7/5
「W ?」
7/8-7/19
7/22-8/2
9/30-10/11
出展:豊田智子
出展:会田誠
出展:世古真倫
出展:和泉芳/伊藤歳華/浜野絵里奈/ユイ・ステファニィー
「ネオ・テキスタイル 第一部 テキスタイルのジレンマ」
出展:本学大学院生:このみ愛子/清水裕美子/池辺祥子/上野彰子
本学卒業生:高田智美
「ネオ・テキスタイル 第二部 テキスタイルのあれこれ」
出展:本学教員:大高亨/高木光司/久田多恵/仁尾敬二/八幡はるみ/岡博美/川野美帆/羽毛
田優子/西岡桂子
「MEGAHOUSE 都市を使い切るために」
新たな都市生活のあり方を提案するプロジェクト
10/14-10/25
「内観-introspection
10/28-11/8
過去に存在した(美術教育の)未来:木水育男の児童画教育の例
出展:木水育男
Ryota SAKAI Exhibition」
11/11-11/22
「end of the world:世界の果て
11/26-12/6
「教育普及的視点から見た関西の美術館・博物館の教育普及事業-草創期を探る」
世界の終わり」
出展:坂井良太
出展:堀端麻美/大野紅
12/9-12/20
「YOKO ONO EXHIBITION 『天上問答』」
1/13-1/24
「神のサンプル」
出展:竹内義博/石川幸祐/牛尾純貴/岡瀬由加里/細川華子/松原成孝
出展:小野瑶子
1/27-2/7
「ミチミチル
3 つの視点と 100 の感性」
2/12-2/28
「小泉明郎展
A LOVE SUPREME 至上の愛」
出展:佐薙真由/鈴木渉/山本麻衣子
出展:小泉明郎
表 10-1-d:芸術館で開催した企画展
会期
平成 21(2009)年度
タイトル・出展者
10/8-11/15
「one piece gallery No.1『箱写真』」
出展:日下部一司
11/17-12/15
「one piece gallery No.2『野生の記憶』」
出展:安藤栄作
12/17-1/31
「one piece gallery No.3『建築物ウクレレ保存計画』」出展:伊達伸明
※上記以外の期間は常設展示
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京都造形芸術大学
表 10-1-e:附属康耀堂美術館(長野県茅野市)で開催した展覧会
会期
4/21-6/14
タイトル
春季展「春のひととき─花の香りといのちの気配」
平成 21(2009)年度
収蔵作品展
6/18-8/10
夏季展「生命の美─描かれた自然の恵み」
収蔵作品展
8/18-10/12
夏秋展「光の記憶─太陽と月をみつめて」
収蔵作品展
10/20-11/30
秋季展「刻のうつろい─原風景を求めて」
収蔵作品展
■劇場公演
学内に併設された劇場(大劇場「春秋座」、小劇場「studio21」)では、舞台芸術研究セ
ンター主催の実験公演、一般公演、学生の授業公演を行っている。また、地域主催の催し、
外部団体や大学主催のシンポジウム、学会大会などにも活用されている。平成 21(2009)
年度の劇場の来場者数は、2 万 5,549 人であった。
表 10-1-f:主な劇場公演(平成 21(2009)年度)
市川猿之助・芸術監督復帰を記念して 春秋座歌舞伎舞踊公演
出演:市川段治郎、市川笑也、藤間勘世、市川右近、藤間爽子、市川寿猿
語りの系譜 (1) 樋口一葉 作 『たけくらべ』
出演:後藤加代
「三つの芸能で楽しむ<お軽・勘平>」
出演:豊竹呂勢大夫/鶴澤清二郎/坂東寿子/坂東勝友/坂東温子/尾張万歳保存会
「コンサート ジェネシス(始源)・Ⅳ」
-古代エジプトの楽器やジョン・ケージの楽譜を-日本ヴァージョン(日本の解釈)として展開)
企画公演 「春秋座 -能と狂言-」
出演:茂山七五三、丸山やすし、観世銕之丞、梅若晋矢、殿田謙吉、亀井広忠、大倉源次郎、
藤田六郎兵衛
企画公演 「春秋座狂言立ち合い」
野村萬斎、野村遼太、野村万作、一噌幸弘、茂山千五郎、茂山逸平、茂山茂、茂山童司、杉信太朗、大
倉源次郎、亀井広忠
「現代最高の鬼才ピアニスト アファナシエフ氏を迎えて~詩とピアノの夕べ~」
出演:アファナシエフ
「次世代のための伝統芸能観賞会」
出演・友情出演:坂東温子、花柳寛十郎、花柳双一郎、楳茂都梅英、美月志保、東峯会社中
「寺内タケシとブルージーンズ キャンパスコンサート」
出演:寺内タケシ、信田和雄、松森英雄、中村真也、村松充昭、杉田孝弘、岩澤あゆみ
「ミュージカル・レビュー ダウンタウン・フォーリーズ Vol.6」
出演:島田歌穂、香寿たつき、玉野和紀、吉野圭吾
ミュージカル「葉っぱのフレディ-いのちの旅-」 Freddie the Leaf*
企画・原案:日野原重明
地球環境メッセージソング「緑の詩」作詞・作曲:河村隆一
出演:宝田明、小田切美織、他
バリ芸能「スダマニ&ウロツテノヤ子」 ~古典的ガムラン演奏・伝統舞踊・新作影絵~
出演:スダマニ、ウロツテノヤ子
京劇青少年劇場 2009 「北京京劇院訪日公演」
出演:北京京劇院梅蘭芳京劇団
国立サンクトペテルブルク・アカデミー・バレエ「くるみ割り人形:全幕」
芸術監督:ユーリー・ペトゥホフ
尹東柱 逝去 65 周年記念「尹享柱コンサート」
出演:尹享柱
パルコ・プロデュース公演「なにわバタフライN.V.」
作・演出:三谷幸喜
出演:戸田恵子
第 9 回「春秋座」招待公演「演じる高校生」
出演:「高校演劇コンクール近畿大会」の出場校 2 校
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京都造形芸術大学
(2)10-1の自己評価
瓜生山エクステンションセンターで行われる公開講座は、受講者の人気も高く、半数近
くの受講生がリピーターであり、市民の間に定着している。各研究センターも、それぞれ
の設立趣旨に沿った研究活動だけではなく、広く市民参加の公開講座・公演を展開してい
る。これらは重要な芸術普及活動であり、本学の使命を果たす諸活動となっている。
(3)10-1の改善・向上方策
公開講座を開講している瓜生山エクステンションセンターは、平成 22(2010)年度より、
管轄部署を通信教育部事務室局に移管した。同じ社会人を対象とする通信教育とエクステ
ンション事業が一体化することにより、より幅広い講座展開をはかる体制を整える。その
最初の取組みとして、平成 22(2010)年に外苑キャンパス(東京都港区)、大阪サテライ
トキャンパス(大阪府大阪市)の開設に伴い、両キャンパスでもエクステンション事業を
展開し、充実をはかる。
10-2
教育研究上において、企業や他大学との適切な関係が構築されていること
《10-2の視点》
10-2-① 教育研究上において、企業や他大学との適切な関係が構築されているか
(2) 10-2の事実の説明(現状)
■企業との関係
本学は、基本理念である「京都文芸復興」「藝術立国」のもと、芸術による社会貢献の柱
として、大学と産業界との結びつきを重視している。そのため、平成 13(2001)年に産学
官連携・受託研究窓口として、リエゾン担当者を置いた。以後、様々な分野の企業や地元
銀行、京都商工会議所、財団法人京都産業 21(中小企業の経営支援を目的とする財団法人)
と連携し、学生を活動に参加させながら、大学と社会との連携を深めてきた。平成 17(2005)
年には、学生の社会人基礎力の養成を目的として、プロジェクトセンターを設置し、大学
と社会との連携を教育活動に直接活かす仕組みを整備した。これによって、学生参加によ
る社会活動が活発化している。
また、平成 19(2007)年に、既設の研究センターを統合して、ものづくり総合研究セン
ターを設置し、企業等の要望に柔軟に応えることのできる体制を整え、受託研究を推進し
ている。平成 21(2009)年度の受託研究実績は、ものづくり総合研究センターが 25 件 3,406
万円、日本庭園・歴史遺産研究センター(歴史遺産研究部門・日本庭園研究部門)が 26 件
3,072 万円となっている。
■他大学との関係
本学は、平成 12(2000)年度に東北芸術工科大学との単位互換制度を開始した。また、
京都市内を中心に 50 校の大学・短大が加盟する大学コンソーシアム京都にも当初より加盟
し、単位互換制度、インターンシップ、図書館共通閲覧システム、高大連携事業、産学連
携事業、学まちコラボ事業、京都国際学生映画祭、芸術系大学作品展、京都学生祭典等に
86
京都造形芸術大学
参加している。また、平成 21(2009)年度より芸術系 6 大学(京都造形芸術大学・京都市
立芸術大学・京都精華大学・京都嵯峨芸術大学・成安造形大学・大阪成蹊大学)が連携し、
社団法人京都産業会館の支援を受け、大学のまち・学生のまち京都の魅力向上に寄与する
ことを目的に、合同の学生デザイン作品展を開催している。さらに、学生の就職支援のた
め、京都近郊の芸術系大学 5 校(京都造形芸術大学、京都精華大学、京都嵯峨芸術大学、
成安造形大学、大阪成蹊大学)が協力し、合同企業セミナーの開催、合同企業訪問、就職
関連情報の交換などを行っている。
姉妹校である東北芸術工科大学とは、それぞれの特色ある自立した運営をはかりながら、
共通する理念のもとに連携して各種事業を行なっている。
表 10-2-a:東北芸術工科大学(姉妹校)との主な連携事業
年度
平成12年度 単位互換制度の制定
事業等
平成13年度 東京サテライトキャンパスを共同開設
平成14年度 交歓留学制度を開始
平成15年度 韓国事務所(ソウル市)の共同運営を開始
「こども芸術大学」を両校に開設
平成17年度 京都造形芸術大学「世界アーティストサミット」と東北芸術工科大学「第12回全国高等学校デ
ザイン選手権大会」との協力連携を開始
「東アジア藝術文化研究所」を開設(京都造形芸術大学、東北芸術工科大学、韓国・弘益大学
平成18年度 の三校共同事業」
「社会芸術総合研究所」を共同開設
平成19年度 「第2回世界アーティストサミット」にて「第14回全国高等学校デザイン選手権大会」の上位3
校が参加・発表
世界銀行東京開発ラーニングセンターの「Orphan Meets Artist」プログラムからの呼びかけ
平成20年度 のもと、東北芸術工科大学副学長の宮島達男教授指導により、ウガンダのエイズで親を亡くし
たこどもたちにアート・ワークショップを実施
平成21年度
「第3回世界アーティストサミット」にて「第16回全国高等学校デザイン選手権大会」の上位3
校が参加・発表
(2)10-2の自己評価
■企業との関係
受託研究については、企業からの要望も多く積極的に取り組んでいる。連携した企業か
らも学生のレベルの高さや発想力に評価を得ており、プロジェクトへの参加が就職に繋が
った例もある。また、企業等からの受託研究は研究活動の質の向上と活性化に役立ってい
る。
■他大学との関係
京都では、全国に先駆けて平成 10(1998)年に財団法人大学コンソーシアム京都が発足
し、大学連携組織が出来上がった。また、同一地域内の 5 つの芸術大学の連携は、様々な
情報収集や事業実施あたってスケールメリットをもたらしており、特に就職支援において
有効である。姉妹校である東北芸術工科大学との連携は、教育研究の面でも、大学の管理
運営の面でも、成果をあげている。
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京都造形芸術大学
(3)10-2の改善・向上方策(将来計画)
■企業との関係
受託研究については一定の成果をあげている一方で、プロジェクトとして取り組む件数
には限りもあるため、今後取り組み方法の改善や担当指導教員の増員によって受託件数の
増加をはかる。また、各学科と企業との連携については、学科の教育内容の違いにより偏
りがあるため、全学科において企業との連携を教育活動に活かす方法の改善と工夫を行な
い、社会で求められる人材をより多く輩出する取組みを推進する。
■他大学との関係
全国で初めて形成された大学コンソーシアム京都との良好な関係を維持し、学生参加の
事業に積極的に参画する。また、京都近郊の芸術系 5 大学ともさらに連携を強化し、1大
学では実行することができない事業を展開していく。さらに、姉妹校である東北芸術工科
大学とは、外苑キャンパス(東京都港区)を活用して、共同で教育研究活動を実践し、両
校連携による全く新しい大学運営の姿を示しながら、芸術による日本再生の運動の展開を
めざす。
10-3
大学と地域社会との協力関係が構築されていること。
《10-3の視点》
10-3-①大学と地域社会との協力関係が構築されているか。
(1)10-3の事実の説明(現状)
■学生を主体とする地域活動
本学は、芸術を社会に活かすことのできる人材の育成を教育の目的としている。そのた
め、社会と関係付けた教育に力を入れており、学生を主体とする地域活動が活発に行われ
ている。プロジェクトセンターでは、平成 21(2009)年度に 38 件のプロジェクトを実施
した。地元の祭りを再生させる「粟田神社・夜渡り神事プロジェクト」、郷土芸能を通じ島根
県温泉津町の地域振興を探る「温泉津プロジェクト」など、 数多くの地域活性化プロジェク
トが実施されており、その活動は 京都府下に留まらず、近畿圏、島根県、岡山県など、遠隔
地にも及んでいる。また、平成 21(2009)年度は、京都府立医科大学附属病院との連携により、
小児科病棟通路に壁画を制作し病棟空間の改善をはかるホスピタルアートプロジェクトを実
施し、平成 22(2010)年度も継続が決まっている。
■京都文芸復興倶楽部の組織化
本学が中心となり、文化や芸術を通して京都の産業を活性化させることを目的に、平成 13
(2001)年度に産学官交流組織「京都文芸復興倶楽部」を組織した。平成 22(2010)年 4 月現
在、企業 59 団体、自治体および NPO 法人 37 団体に加え、文化庁政策課文化広報・地域連携室
と近畿経済産業局がオブザーバーとして加盟している。本学に事務局を置いて活動を続けてお
88
京都造形芸術大学
り、自治体、地元企業、大学の密接なネットワークにより、本学の知的資源を有効に活用し、
地域の活性化を促進する役割を果たしている。
■京都教育懇話会への参画
平成 20(2008)年度に、企業の業態や小・中学校、高校、大学の違い、公立と私立、学
校と塾などの違い、教職員と学生・院生などの立場の違いを乗り越え、共に集い、学び、
情報発信する場づくりを目指す京都教育懇話会が設立された。本学は、設立構想の段階か
ら運営委員会団体としてこの活動に加わった。平成 21(2009)年度に行われた第 8 回教育
懇話会「食と芸術」(会場:本学京都芸術劇場)では、本学が企画運営を行なうなど、積極
的に活動を支援している。
■その他の地域社会との連携
毎年多くの高校で本学の教員が授業を行なっており、平成 21(2009)年度は 78 校で実
施し、美術教育及び芸術普及への貢献を果たしている。児童図書館「ピッコリー」は、児
童文学・児童文化に関する資料約 17,000 冊の閲覧や貸出のほか、子どもと本をつなぐ催し
として週2回のおはなし会、毎週開催の工作会など、地域のこども対象の諸活動を実施し
ている。平成 17(2005)年に開設されたこども芸術大学では、平成 21(2009)年度は、34
組 68 名の地域のこどもと母親を受け入れた。平成 19(2007)年度開設のこども芸術学科
では、福祉施設や小学校等でのワークショップ等に参加している。
平成 21(2009)年度に設立されたアート・コミュニケーション研究センターは、芸術表
現・アートプロデュース学科と連携し、教育一般や福祉分野など美術分野に留まらない活
動を始めている。平成 21(2009)年度は、日本バプテスト看護専門学校にて、看護師を志
す学生へのトレーニングの一環として、対話型美術鑑賞の手法を用いた全 4 回のプログラ
ムを実施した。また、京都大学総合博物館と連携して、アート、科学、歴史という、それ
ぞれの専門を異にする本学、京都大学、京都府立大学の学生、研究員が合同で、展示品鑑
賞者に対するサポートのトレーニングを行なった。
(2)10-3の自己評価
地域社会には、近隣住民、こどもたち、地元企業、自治体、小中学校や高等学校をはじ
めとした教育機関など幅広い対象が想定される。学内における教育活動に留まらず、各種
センターが地域社会との連携活動に取り組んでいる。社会人教育を担う瓜生山エクステン
ションセンター、産学官連携を担う各研究センター、学生の社会参画を促すプロジェクト
センター、こどもへの芸術普及及び教育支援を行う児童図書館「ピッコリー」やこども芸
術大学、また、それらの活動をバックアップする様々なネットワークなど、地域社会との
幅広い協力関係が構築されている。
(2)10-3の改善・向上方策(将来計画)
各センターや組織は、十分に機能し社会貢献を果たしているが、社会の変化に合わせて、
その担うべき役割は変化していく。例えば、今後の日本の問題として、高齢化や福祉があ
げられる。アート・コミュニケーション研究センターで行なわれた看護学校での教育、プ
89
京都造形芸術大学
ロジェクトセンターで実施した小児病棟の一部をアート化するホスピタルアートプロジェ
クト、エクステンションセンターの臨床美術士取得講座は、医療、福祉分野と芸術との新
しい関係を探るものとなっている。また、産業界に目を向けても感性価値やデザインの重
要性が叫ばれて久しい。京都の伝統産業に目を向けても、職人文化に根ざしているが故に、
時代に即したデザイン不在の状況が多く見られる。そうした社会状況の変化や、将来の社
会のあるべき姿を見据え、必要に応じて組織の改編を行ない、芸術による社会貢献を進め
ていく。
〔基準10の自己評価〕
大学施設の開放、公開講座を通じた大学の知的資産の提供、企業や他大学との適切な関
係の構築、地域社会への貢献活動が、積極的に実施されている。また、それらの社会活動
と学部学科の教育を連携させる仕組みも整備されており、芸術を社会に活かす人材の育成
という教育目的の達成に寄与している。
〔基準10の改善・向上方策(将来計画)〕
本学の理念である「京都文芸復興」を具現化し、より一層推し進めるため、今後は京都
市域だけに留まらず、東京や大阪における社会人教育(エクステンション講座)の展開を
積極的に推進する。また、芸術教育の分野だけでなく、医療や福祉分野とのコラボレーシ
ョンを進め、社会が抱える問題解決への貢献をめざす。
90
京都造形芸術大学
基準11
11-1
社会的責務(組織倫理、危機管理、広報活動等)
社会的機関として必要な組織倫理が確立され、かつ適切な運営がなされている
こと。
《11-1の視点》
11-1-① 社会的機関として必要な組織倫理に関する規定がされているか。
11-1-② 組織倫理に関する規定に基づき、適切な運営がなされているか。
(1) 11-1の事実の説明(現状)
■組織倫理に関する規程
「学校法人瓜生山学園職員就業規則」の第 34 条第 1 項において、本学教職員は以下の各
号を遵守しなければならない旨、規定している。
(1)住所、経歴、その他学園に申告すべき事項及び各種届出事項について虚偽の申告
を行わないこと
(2)許可なく職務以外の目的で大学の施設、物品等を使用しないこと
(3)職務の権限を超えて独断で行動しないこと
(4)大学の内外を問わず、在職中または退職後においても、学園が保有する個人情報
その他の情報やデータを第三者に開示、漏えい、提供しないこと
(5)勤務時間中は職務に専念し、みだりに職場を離れたり私事の用務を行わないこと
(6)学園の許可なく、大学構内及び関連施設において政治活動、宗教活動、物品の販
売、勧誘活動、募金、署名、文書配布等業務に関係のない活動を行わないこと
(7)職場の風紀秩序を乱さないこと
(8)セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント又はこれらに相当する行為によ
り、他の職員ないし大学の学生に不利益を与えたり、職場の環境を悪化させない
こと
(9)酒気を帯びて車両等を運転しないこと
(10)過労、病気及び薬物等の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれ
のある状態で車両等を運転しないこと
(11)つきまとい等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏、名誉、行動の
自由等が著しく害される不安を覚えさせないこと
(12)学園の許可なく他の業務に従事しないこと、また自ら営利企業を営まないこと
(13)その他学園の命令、注意、通知事項を遵守すること
(14)大学の名誉又は信用を毀損する行為をしないこと
(15)学園の職員としてふさわしくない不適切な行為をしないこと
また組織倫理として、別途「京都造形芸術大学ハラスメント防止に関するガイドライン」や「個
人情報保護の基本方針」を定めている。
■運営
「就業規則」に基づき、教職員は大学の建学理念を具現化するために職務に臨んでいる。
91
京都造形芸術大学
ハラスメントについては、平成 14(2002)年に「京都造形芸術大学セクシュアルハラスメ
ント防止に関するガイドライン」を定めた後、平成 21(2009)年 7 月に「京都造形芸術大
学ハラスメント防止に関するガイドライン」として、セクシュアル・ハラスメントのみなら
ず、アカデミック・ハラスメントやパワーハラスメント等を含めた内容に改訂した。なお、
平成 13(2001)年にキャンパス・ハラスメントに対応する「人間関係委員会」を設置し、
委員長の下に教職員からなる委員と相談員を配置し、啓蒙・啓発活動並びに組織内の問題
解決に取り組んでいる。同委員会が発行するリーフレット『STOP SEXUAL HARASSMENT:セ
クシュアルハラスメントを防止するために』は全学生、全教職員に配付して周知に努めて
いる。
個人情報保護については平成 16(2004)年に大学としての基本方針を定め、大学が関わ
る個人情報の収集と管理についての責務を明確にするともに、各種契約締結時には、個人
情報管理について契約に盛り込まれているかを法人企画課が点検する仕組みを構築し、事
故防止に努めるとともに、肖像権や人権に関わる啓蒙活動を行っている。
科学研究費等公的研究費の取り扱いについては、「京都造形芸術大学における競争的資
金等の取扱いに関する規則」「公的研究費の責任・管理体制」「京都造形芸術大学における
物品購入等契約に関する取引停止等の取扱要項」を平成 19(2007)年に策定した。これら
の内容は、全教員に周知すると共に、大学ホームぺージ上にて公開している。
(2)11-1の自己評価
法律を遵守し、良心と倫理に基づいて適切な大学運営を行っている。最高学府である大
学として組織倫理に反する事項はなく、社会的責任を果たしている。
(3)11-1の改善・向上方策(将来計画)
今後とも法律を遵守し、適切な大学運営を行っていく。
11-2
学内外に対する危機管理の体制が整備され、かつ適切に機能していること。
《11-2の視点》
11-2-① 学内外に対する危機管理の体制が整備され、かつ適切に機能しているか。
(1)11-2の事実の説明(現状)
■災害危機管理、防犯管理
「京都造形芸術大学危機管理対策本部」を組織し、種々の対策にあたっている。本対策
本部は、専務理事統括の下、学長、学部長、事務局長等で組織し、対応策の決定や、対策
本部の召集、対外部局との協議を行なう。その下部に「自衛消防隊」「報道対応担当」が編
成されており、対策本部で策定された対応策は、既定の情報伝達網により、速やかに学生・
教職員へ伝達されると共に、各所の被災状況等が危機管理対策本部へフィードバックされ
る仕組みとなっている。なお、緊急時の学生個々への連絡のために、全学生を対象とした
携帯メール一斉送信システムを整備している。
92
京都造形芸術大学
学生・教職員への事故・災害への備えとしては、危機管理マニュアル「命を守る―事故・
災害に備えて―」を作成し、全学生へ配布すると共に、研究室や事務局各部署へ配備して
いる。
また防犯管理については、警備員が 24 時間体制で常駐しており、日中は不審者、危険物
のチェックのため定時巡回を実施し、夜間早朝は施錠確認と防火防犯を兼ねた巡回を行っ
ている。また、構内各所に非常電話を設置し、受話器を取るだけで警備室、事務局に繋が
る体制をとって学生の安全確保に努めている。
■緊急対応等
万一に備え、AED(自動体外式除細動器)を学内全域に 11 台設置し、また実際に対応が
できるよう、教職員や学生を対象とした AED 講習会や救急救命講習会を定期的に開催して
いる。
教職員は労働災害に対して、業務災害総合保険に加入し、労働災害が発生した場合に企
業賠償責任補償が受けられるよう備えている。また保険付設の 24 時間電話健康相談サービ
スやメンタルケア・カウンセリングサービスを提供している。
学生が正課の授業中に大学内外で怪我を負った場合、学生教育研究災害障害保険が適用
され、治療した日数に基づき補償される。正課の授業のほか、課外活動、インターンシッ
プ、ボランティア活動、及び通学中の傷害も対象となる。また、正課の授業中に大学の施
設内において、他人に怪我を負わせたり、他人の物を壊したりするなど法律上の賠償責任
を負った場合、学生教育研究災害障害保険の付帯賠償責任保険(学研災付帯賠償責任保険)
が適用となり、補償される。なお、重大事故、自然災害発生時に備え「重大事故、災害発
生時の安否確認と被害者、罹災者支援等に係る内規」を平成 16(2004)年に制定し、大学
としての対応を明確にしている。
■社会危機管理
学生に関わる個人情報、教職員に関わる個人情報を扱う基幹システムについては、関連
部署(内容によっては責任者レベル)のみにアクセス権を制限し、ID とパスワードで管理
している。各部署共有ファイルサーバへのアクセスは、ID とパスワードによるログイン及
び、アクセス権管理で対応している。ユーザーエンドにおいて定期的なパスワードの変更
や画面ロックをデフォルト設定しているほか、ネットワーク機器による非提供通信経路の
遮断、アンチウイルスソフトウェアの導入、サーバ室への入出管理、各サーバの動作ログ、
アクセスログ等の取得を行なっている。各サーバにおいては複数のハードディスクによる
データ保管を行うとともに、定期的なバックアップにて安全性を確保している。また、重
要書類・文書保管に際しては施錠、安全を確保できるロッカーや金庫を用意している。
(2)11-2の自己評価
平成 21(2009)年の新型インフルエンザ流行時の対応、学内における学生の突然の心停
止への対応をはじめ、現行の危機管理体制は十全に機能していると判断している。
なお防犯に関しては、開かれた大学であるために、キャンパス内への立ち入りを厳密に
管理・制限することが事実上不可能であり、故に日常的に教職員や学生の警戒意識を啓蒙
93
京都造形芸術大学
し、警備員の増員や巡回回数を増やすことで対応している。
(3)11-2の改善・向上方策(将来計画)
現行の体制が適切かつ、迅速、効果的に機能するよう錬度向上をはかる。現在十全に機
能しているものの、未知の災害・危機に対しての対応を求められることもあるため、現行
システムの点検・改善を「京都造形芸術大学危機管理対策本部」を中心に怠りなく実施し、
それに伴う危機管理マニュアルの更新を行う。なお、防犯面では、非常ボタンや非常電話
の設置を増やすとともに、外フェンスの張替や延長を行ない、更に安全確保に努める。
11-3
大学の教育研究成果を公正かつ適切に学内外に広報活動する体制が整備されて
いること。
《11-3の視点》
11-3-①
大学の教育研究成果を公正かつ適切に学内外に広報活動する体制が整備さ
れているか。
(1)11-3の事実の説明(現状)
大学全体の教育研究活動は、大学広報誌「瓜生通信」を年 3 回、合計 3 万部発行し、大
学関係者だけでなく美術館等の関連機関、教育機関に広く配布するとともに、ホームペー
ジ上で公開して受験生や一般社会人にも発信している。一方、教員個々の研究活動は大学
紀要「Genesis」を年1回発刊するとともに、それ以外の著作や展覧会活動、発表活動につ
いてホームページ上で紹介している。
年間を通じて附置研究機関や学科、大学院が主催する公開講座や講演会が多数ある。ま
た平成 13(2001)年の開設以来、平成 21(2009)年度末までの 9 年間に 16 万 2,924 人が
来場した京都芸術劇場(春秋座・studio21)をはじめ、学内のギャラリーや附属美術館(康
耀堂美術館<長野県茅野市>)では多数の展覧会、イベントを開催している。社会人向け
にエクステンションセンターが公開講座を用意し(平成 21(2009)年度 52 講座)、すべて
一般に開放されている。
平成 20(2008)年度教育 GP(質の高い大学教育推進プログラム)に選定されたワークシ
ョップ型授業の成果発表の場である「京造ねぶた」も毎年一般公開するとともに報告書を
作成して成果を公開している。以上のような活動の結果、大学の教育研究活動がマスメデ
ィアに取り上げられることが非常に多くなっており、平成 21(2009)年 6 月~平成 22(2010)
年 5 月の 1 年間に完全な記事として扱われた件数は 655 件にのぼる。
本学最大の教育研究成果発信の場は卒業・修了制作展であり、キャンパスを美術館と見
立てた京都本部での展示に加え、東京でも毎年、選抜展として「混沌から躍り出る星たち」
展を開催し、広く社会に公開してその批評・評価を得ている。
こうした教育研究成果の発信については入学広報課が実務を担い、コンプライアンスに
ついて法人企画課が点検するという体制で臨んでいる。但し、瓜生通信については副学長、
学部長を含む瓜生通信編集委員会が、大学紀要については紀要委員会が所管している。
94
京都造形芸術大学
(2) 11-3の自己評価
教育研究活動の発信は大学広報誌と大学紀要、ホームページが担い、大学の持つ知的財
産を地域や社会に還元する活動として、公開講座やシンポジウム、作品展覧会などさまざ
まな手法によって公開・広報しており、十分な成果を得ていると判断している。
(3) 11-3の改善・向上方策(将来計画)
京都からの発信に加え、平成 22(2010)年に運営が始まる外苑キャンパス(東京都港区)
を基点とした広報活動を行うなど、より多角的な広報展開を行なっていく。また、英文ホ
ームページの充実など、広く海外にも教育研究成果を公開する準備作業を進める。
〔基準11の自己評価〕
社会的機関として必要な組織倫理は規程として明文化されており、それらの規定に基づ
いた運営が行われている。危機管理体制についても組織整備や必要な方策を講じており、
十分機能することが確認されている。教育研究成果はウェブや広報誌、様々な活動そのも
のを通じて随時公開している。
〔基準11の改善・向上方策(将来計画)〕
組織倫理については、教職員すべてが組織倫理を理解した上で適切な行動を取れる組織
として在り続けられるよう、現行規程を適切に運用するとともに社会情勢の変化等に応じ
適宜見直しを図り、形骸化することがないよう努める。
危機管理の面では平成 21(2009)年度に組織として災害危機管理、健康危機管理が問わ
れるケースがあり、いずれも適切に対応することができたが、現実に直面して初めて気づ
くことができた軽微な問題点や修正点もあり、それらの改善を図る。
また、教育研究成果については引き続き大学の活動を社会に強く発信し続けてゆくが、
国内のみならず海外への発信に取り組む。
95
京都造形芸術大学
Ⅳ
特記事項
1
通信教育課程
■設置の経緯と現状
「芸術的創造と哲学的思索によって良心を手腕に運用する新しい人間観、世界観の創造」
という理想を掲げ、本学は設立された。その運動を全国へ展開させることを目指し、平成
10(1998)年に 4 年制芸術大学としては日本で初めて通信教育を開設した。平成 22(2010)
年度現在 5,472 人の学生が在籍し、平成 13(2001)年度の完成年次から平成 21(2009)年
度までの 9 年間で 3,097 人の卒業生を輩出し、芸術分野の生涯教育を先駆的に展開してき
た。またこの間、平成 19(2007)年度には、大学院芸術研究科(通信教育)芸術環境専攻
(修士課程)を開設し、社会人を対象とした高等教育としての体系を整えるに至った。
■教育課程の特徴
芸術教育は作品制作などのプロセスを学生と教員が共有することから、通信教育への展
開が困難といわれていた。このため、教育課程の編成を工夫し、印刷教材による授業や面
接授業、メディアを活用した授業それぞれに対し、独自の教育手法を開発してきた。また、
それを支える運営組織も通学課程から独立させることで、学生の学習支援を充実させ、さ
まざまな課題に対して迅速に対応しながら教育カリキュラムを構築し、運営体制を整えて
きた。
①印刷教材等による授業
a
学士課程
◇教材
教材に関しては、通信手段による芸術の大学教育が日本で初めてであったこともあり、
開設当初に講義系・実技系の教科書 79 種を自主開発した。もともと、徒弟制度に近い
美術教育を、教科書を作成するプロセスを通じて体系化し文字化したことにより、通
信教育への展開が可能となった。さらにその学習を支えるシラバスについても、図版
を多用するなど、教科書との機能分化をはかり、美術に初めて取り組む学生でも、ス
ムーズに学習がスタートできるようにした。
◇印刷教材等による授業の施設・備品
本学では「テキスト科目」と称し 264 科目を開講し、その添削指導にあたる教員の他、
専門の職員 12 人を配置している。テキスト科目ではレポートに加え、作品制作も課題
として設定されており、その添削のための施設(482 ㎡)に、複写や撮影のための機
材を整備している。レポートや課題作品の送受手段は運送会社や郵便局と協力して確
保し、さらに添削講評のためにインターネット上に「サイバーキャンパス」を設け、
学生のレポート提出や履修状況把握の便に供している。
◇指導体制
平成 21(2009)年度は 264 のテキスト科目に 415 課題が設定され、3,208 件のレポー
トおよび課題作品の提出があり、その添削指導を 462 名の教員が行っている。添削指
導に際してはひとつの科目に複数の教員が関わることから、各科目に科目責任者とな
る教員を配し、指導方法や評価基準の共有のための統括の役割を担っている。科目責
96
京都造形芸術大学
任者はシラバスに授業概要、課題趣旨、評価観点、単位修得試験に向けた学習の指示、
参考文献を明記することで、成績評価基準の統一をはかっている。さらに、添削の質
の向上を目的とした本学独自の添削指導評価マニュアルを毎年作成している。添削担
当教員はシラバスおよび添削指導評価マニュアルに基づいて指導を行い、教員の添削
講評は科目責任者と事務局の確認を受けてから学生に戻される。このテキスト科目に
おける添削指導の学生の提出から返却までのプロセスは、1 ヶ月で完結するシステム
が構築されている。学生からの質問や評価の疑義照会を受け付ける方法は全学生に配
布される「学習ガイド」に明記され、郵便、ファックス、電子メールを用いて受け付
けている。
b
修士課程
添削指導のための施設や組織については学士課程と同じ運用としている。教材に関して
は、各々の研究領域の専門図書に加え、芸術環境専攻の教育目的をわかりやすく伝える
ための教科書として、大学院担当教員の編著になる『芸術環境を育てるために』を制作
し、共通必修科目の教材として使用している。
②面接授業およびメディアを利用した授業
a 学士課程
◇開講規模と施設
面接授業については芸術分野であることから少人数の演習科目を中心とした授業を開講
している。開講に当っては、同一科目を複数回分散させて年間を通じ開講することで学
生の選択肢を増やし、さらに土曜日、日曜日を活用した日程とすることで、社会人学生
の利便性を高めている。さらに在学生の 42.3%が関東に在住していることから、京都に
加え東京においても多数授業を開講している。
施設面では京都では通学課程との共用教室だけでなく、専ら通信教育課程生の授業に供
するための教室を常時確保しており、また東京では通信教育の面接授業に特化した東京
サテライトキャンパス(東京都中央区)1,689 ㎡を設けている。この東京サテライトキ
ャンパスを、平成 22(2010)年 7 月に新設する、外苑キャンパス(東京都港区)3,124
㎡に移転させ、学習環境を充実させる。さらに、平成 22(2010)年 11 月に大阪梅田駅
前に大阪サテライトキャンパス(大阪市北区)467 ㎡を整備する。
◇運営体制
面接授業の計画および運営のために専従の職員を配し、個々の授業で要する専門的な備
品や配付物などの準備や、事前事後の学生連絡を標準化したスケジュールのもとで年間
を通じて行っている。面接授業でも複数の教員が同一授業を担当することがあるため、
印刷教材による授業と同じく、科目責任者がシラバスに授業概要、評価観点、授業進行
計画、事前の学習準備について明記している。
◇インターネットを利用した授業
インターネットを利用した授業については、平成 14(2002)年度から一部の科目で取り
組み始め、徐々にその数を増やし、平成 21(2009)年度には 48 科目開講し、681 人が受
講した。教授法には印刷教材による添削講評の経験を反映させて、学生と教員のコミュ
97
京都造形芸術大学
ニケーションの円滑化を目指し、「WEB サテライト」という遠隔指導のツールを開発した。
◇本学独自の取組
本学の教育理念に基づき、学生のそれぞれの生活の場において芸術を役立ててほしいと
いう考えから、京都や東京での授業のほかに、全国各地の芸術遺産や文化的伝統を教材
とし、それを専門や年齢、職業の別を越えてともに学ぶことで相互に刺激を与え合うと
いう面接授業を多く設けている。これは文部科学省の特色 GP(特色ある大学教育支援プ
ログラム)に通信教育としてはじめて選定された教育手法であり、現在も岩手県(花巻)
や岐阜県(飛騨)、沖縄など多く開講している。
b
修士課程
大学院では一教員あたり 3.43 人の少人数でのゼミ指導など、密度の高い教育を実現して
いる。このほか、芸術環境専攻の美術・工芸領域では通常の授業時間以外にも専用の指
導室を確保して対面による制作研究の相談を実施している。また芸術環境研究領域と環
境デザイン領域ではインターネット上に学生の研究指導のためのサイトを設け、そこか
ら教材のダウンロード、課題の提出、講評などを受けることができる。
③課外の特別授業
本学では、通信教育課程であるからこそ、学生間、学生と教員との間の交流を重視して
いる。このため、各学科、大学院の各領域の主催で公開講座や特別授業を実施するほか、
各地で学生が主体となって開催する学習会に教員を派遣している。
■組織体制
◇教員体制
先にも述べたが、社会人学生に対する充実した教育カリキュラムの提供、きめ細かい学
習支援を実現するために、通信教育部芸術学部を主担当とする専任教員を 38 人配置して
いる。主担当教員は学科の下におかれるコースに所属し、それぞれのカリキュラムに責
任を負い、多くのスクーリングおよびテキスト科目担当教員のコーディネートを行い、
教育レベルの維持向上に努めている。
◇職員体制
通信教育は、学生との連絡を主として書面で行うことから、必然的に事務量が多くなり、
同時に教員と職員の密接な連携なくして成立しない。そのため、通信教育部事務組織に
は 58 人(専任職員 14 人、契約職員 8 人、派遣職員 36 人)の職員を配置し、教員の事務
作業の軽減と教職員の連携のため、各コースにも事務担当者を置いている。また、事務
室に「課」を設置せず、グループ運営とすることで、情報の共有をはかり、学生に対し
て迅速で一元的な対応をしている。
◇委員会
通信教育課程には具体的な方針を定めて実施する組織として、職員と教員が協同して運
営する委員会組織を設置している。委員会には、教務委員会、大学院教務委員会、授業
アンケートの結果を取りまとめて教職員へフィードバックする FD 委員会、年 10 回学生
に送付する学習補助教材(冊子)『雲母』を作成する「雲母編集委員会」、学生の自主的
98
京都造形芸術大学
な創作・研究活動を助成し芸術による社会貢献を促す「学生創作研究助成金委員会」、学
生や卒業生の展覧会の企画運営や、年に数回地方に出向き地元在住の学生と共に地域の
風土や歴史を学ぶ課外活動を実施する「イベント委員会」がある。また、広義の学習支
援・教育相談にあたるものとして、学生間・学生教職員間の人間関係のトラブルに対処
する全学組織「人間関係委員会」にも通信教育部担当教員が加わっている。
■学生支援
通信教育部における遠隔教育という特性から、学習支援・教育相談の手段は郵便・FAX・
電子メール等、文字を媒介とする対応を主としている。あわせて電話受付と窓口直接対応
も実施している。このため、受付業務に専従する職員を配し、学生からの問い合わせを一
元的に管理することで、対応漏れを防ぐほか、迅速な回答が可能となっている。
通信教育は、学習を進める上で事務手続きの占める比重が大きいため、通信教育部生専
用のホームページ「サイバーキャンパス」では、各種申請書式のダウンロードを可能とし
ている。サイバーキャンパスではこの他にも、シラバスの検索・閲覧機能や、普段直接会
う機会の少ない通信教育部生の交流の場として、テーマ別の掲示板も設け、自宅学習の利
便性向上に努めている。また、各コース主催による「学習相談会」を京都・東京両キャン
パスで定期的に開催する他、全国各地域で、学生たちが組織している「学習会」(自主的な
勉強会)にも、教員を派遣する制度を設けている。
■今後の展開
今後、本学の特長を活かした芸術教育の更なる普及を目指し、「教育の質の向上と高度
化」、「対象領域の拡大」、「社会人学生がより学びやすい仕組み」を視点として、以下の改
革に取り組む。
◇双方向性を確保した web 授業の導入
スクーリング科目の更なる受講促進を図るべく、少人数で双方向性の確保された Web 授
業を導入する。現在、数科目で試験運用を行なっており、平成 24(2012)年度から本格
導入をはかる。
◇入学前教育事業の展開
毎年、本学への入学を断念した社会人にその理由をアンケート調査している。それによ
ると、「費用が高い」「面接授業の日程が合わない」という理由が最も多い。一方で、入
学後の学生は面接授業の満足度が非常に高いことから、一部の面接授業科目を一般の社
会人に開放し、外苑キャンパスにおいて平成 22(2010)年 10 月から授業を実施する。
◇新しい教育手法の開発
さらに、既存の枠組みにとらわれない新しい教育手法を開発したいと考えている。既に
さまざまな新しいメディアが登場し、「学習」に対する認識も大きく変わりつつある中で、
真に社会人が学びやすい芸術教育とは何か、という原点に返り、新しいメディアを積極
的に教育に取り入れていきたいと考えている。
99
京都造形芸術大学
2
「芸術と社会」をテーマにした学部教育プログラムの展開
「芸術と社会」をテーマに、以下に挙げる本学独自の取組みを行っている。「頭と手を動
かすワークショップ型初年次教育」では、学生達が積極的に社会に出て行くために必要な
基礎力を養い、「プロジェクトセンターとウルトラファクトリー」では、実際に地元企業や
自治体から受託した案件をプロジェクト化し、学生中心に取組んでいる。これらはいずれ
も「教育 GP(質の高い大学教育推進プログラム)(平成 20(2008)年度)」に採択されてい
る。
「頭と手を動かすワークショップ型初年次教育」
■目的と特色
①専門教育への橋渡しとなる初年次教育の開発
本学では「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」を教育目標として掲げており、
学生たちが積極的に社会に出ていく環境を整えながら目標の達成を図っている。一方で、
高等学校までの学校教育において芸術の時間が極めて限られており、学部の教育の質の維
持、向上を図るには、芸術を学ぶために必要な基礎力と社会性を育成することが求められ
ている。このような状況を受け、本学では平成 19(2007)年度から芸術学部1年次生全員
を対象とした初年次教育の開発と実施に取り組んできた。
②少人数の学科横断型クラス編成
クラスを編成するにあたっては、学部全 10 学科 31 コースの学生を完全にシャッフルし、
1学年が約 30 名×24 クラスに分かれて受講する形態をとっている。
③頭と手を動かすワークショップ型カリキュラム
本取組は、「ベーシックワークショップ」(前期月曜日 4 講時連続)と「グループワークシ
ョップ」(9 月に約半月間の集中開講)の 2 科目からなり、入学から 9 月末までの間に集中
的に行なわれるカリキュラムである。
【ベーシック ワーク ショップ・グループワークショップ の流れ】
■ベーシックワークショップ( BW)
夏 期休暇
前期月曜 4講時連続
・個 人で完結する内容
↓↑
・数 名程度のグループ
で行なう内 容
GWの準備
・ デザイン案作成
・ 設計図製作
など
■グループワークショップ(GW)
9月 集中開講
・1ク ラス(約3 0人)全 員
で 一つの 作品を作 り上 げ
る
専 門教 育
○ベーシックワークショップ
頭と手をバランスよく動かすワークショップ型の教育手法を採用することとし、ワークシ
ョップ案を考案、掲載した教科書を本取組のために新たに編集した。各クラスの担当教員
は教科書から 10 数本のプログラムを選んで実施する。
○グループワークショップ
各クラスでの組織的な成果の達成に重点を置いた科目。クラス全員で一つの作品を作り上
げる過程で、他者と関わりコミュニケーションすることの大切さに学生自らが気づくこと
を目的としている。
100
京都造形芸術大学
④教員と学生(上級生)の協同によるプログラム開発と運営
本取組の成果をあげるためには学習者の立場にたった検証がなされることが重要であるた
め、プログラム開発と運営には1年生と年齢や立場の近い上級生の力を最大限に活かすこ
とを試みている。各クラスに1名ずつ、上級生をサポーターとして配置し、授業時の補助
業務にとどまらず、情報交換のためのブログへ書き込みなどの役割を与えている。また、
毎年実施される教科書改訂、デザイン、編集は上級生が中心となって行なう。
⑤“月曜日”に全1年次生が集う
ベーシックワークショップは開講日を月曜日と定めた。これは、入学直後から週の初めに
全1年次生が集い、同級生や担当教員、上級生とともに過ごすことで一週間の学習に弾み
をつけ、通学の習慣の維持をはかるためである。
■取組の成果
ベーシックワークショップでは、実施日ごとに各ワークショッププログラムの評価や
学生の満足度、達成感を検証するためにアンケート調査を実施し、各プログラムの教育
効果の測定と課題の抽出・改善を図っている。また、全クラス担当教員による意見交換
会を定期的に実施し、各プログラムの改善点を共有し、今後同一プログラムを実施する
他クラスへの引き継ぎを行なっている。さらに、授業実施時の映像および経験豊富な教
員が作成した指導要領(プログラムの趣旨、事前準備、導入から修了までの流れとタイ
ムスケジュール、注意点等を記載)から成るアーカイブ化を随時進め、担当教員の指導
力の向上をはかった。
【年度の流れ】
年度末
■トライアル
・入 学予定者30 人(1ク
ラス)、次 年度担当予定
の教員、上級生 サポー
ターが参加 して のトライ
アル実施→問題 点の抽
出と改善
前期~集中(9月)
■実 施
・ベーシックワーク ショップ→グ
ループワークショップの実施
■日々 の 評価 →改 善
・毎回実 施のアンケート、グループ
ミーティング、ブログからの 情報等
による問 題点の抽出と改善
後期
■半 期の 評価 → 改善
・プログラムの 教育効果
測定~新規プログラム開
発~次年度の プログラム
を策定~ 教科書改訂
次年度へ
・運営体制 の評価と改善
■今後の展望
学生たちが芸術を学ぶための根源的な学習動機や目的意識を各自のうちに強固に持つこ
との重要性に自ら気づくことを促すという点で、入学前教育と初年次教育の目的には共通
する部分が大きい。本学では多様な入試を実施しており、「コミュニケーション入学」「プ
レゼンテーション入学」という2つのアドミッション・オフィス型入試の合格者に対して
は、各学科が課題を設定し入学まで継続的に入学前教育プログラムを既に実施している。
今後は既に行なっている「トライアル」を充実させ入学前教育と重ねて計画・実施する
ことにより「入学前から初年次までを対象とするプログラム」へと発展させる。
101
京都造形芸術大学
「プロジェクトセンターとウルトラファクトリー」
■目的と特色
プロジェクトセンターは、平成 16(2004)年策定の「新五ヵ年計画」に定められた教育
目的「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」の達成のため実施された全学的なカ
リキュラム改革の一環として平成 17(2005)年に設置された、学科横断の教学組織である。
プロジェクトセンターは、本学独自のキャリア教育の確立を目指し、以下の 4 つの目標
を掲げている。①芸術がどのように社会と関わり、社会的な役割を果たしているか、その
関係を学ぶ。②組織と個人の関係性を学ぶ。③組織活動にとって必要な能力(PDCA サイク
ルや社会人基礎力等)を育成する。④自己の社会的活動能力の特徴を理解し、自らの成長
につなげる力を身につける。
また、教育カリキュラムの特色としては、①産学官連携の受託案件等、社会への成果発
信が前提であるプロジェクトテーマである。②学科、学年を超えたグループによる取組を前
提とし、個人では成しえない社会的芸術活動に参加することで、他者への共感により自律
性・社会性を獲得することをめざす。③自らが体験したことを言語化すること、現場で触
発されたことを経験として定着できるように、振返り(リフレクション、省察)を重視し
たカリキュラムである。などが挙げられる。
プロジェクトは年間 35 本程度が毎年実施されており、年間 500 人程度が参加している。
平成 22(2010)年 3 月卒業生においては、卒業生の半数以上がなんらかのプロジェクトの
経験者であった。
平成 20(2008)年度には、より高度な取組みに対応するために、工房「ウルトラファク
トリー」を設置した。指導者として第一線で活躍するアーティストやデザイナーを迎え、
実社会においてもハイレベルなアウトプットを求められるテーマに取組み、参加する学生
の飛躍的な成長を目指す「ウルトラプロジェクト」を実施している。同工房設置当初から
現在まで、現代アーティストであるヤノベケンジ教授がディレクターを務めており、毎年
高度なプロジェクトを実施している。
■具体的な活動内容
平成 21(2009)年度は、年間で 35 本のプロジェクトを実施した。実施テーマも、商品
開発・空間演出・イベント企画・ワークショップ・舞台演出・出版編集など多岐にわたり、
地域活性に繋がるものが多い。
プロジェクトの目的であるテーマにより、プログラムの進行は異なるが、リーダー・副
リーダー・役割を分担した小グループなどの組織体制を整え、学生の責任を明確している。
またスケジュール管理と共有の方法など、組織活動の進め方も指導している。
平成 21(2009)年度は、カリキュラムの改善を目指して、学生評価基準の見直しを行な
った。その背景には、プロジェクト参加者が、「十分にプロジェクト経験を自分の中で整理
(言語化)しきれていない」という事があった。そのため事後の「振返り」の評価基準を
明文化し、配点も明確にした。また、学生評価基準をより明確にする事で、学生指導やカ
リキュラム改善の方向性を示すこととなった。
102
京都造形芸術大学
表特記 a:2009 年度実施プロジェクト一覧
参加
人数
名称
近代産業遺産アート再生プロ
ジェクト
提携先
参加
人数
名称
12 大学企画
岩絵の具の新しい活用について
29 上羽絵惣
提携先
アート&クラフト
4 江寿
マンデープロジェクトテキスト
10 いろは出版
京都ーパリものづくり
7 大学企画
二条城ライトアップ2010
24 京都市観光協会
17 京都・花灯路推進協議会
kyoohoo
25 京都産業21「kyoohoo」
花灯路2009
カルー陶プロジェクト
12 河合紀陶房
附設ギャラリーの新しい活用
6 清課堂
コカコーラプロジェクト2009
11 コカコーラ
きものフォトコンテストワーク
ショップ
6 田の字地区活性化委員会
大原チルドレンズ・アート・
ミュージアム
17 大原美術館
ロボットプロジェクト
8 豊橋技術科学大学
天若湖アートプロジェクト
12
天若湖アートフェスタ実
行委員会
アートフェスタin大山崎町
2009
23
アートフェスタin大山
■ウルトラプロジェクト
崎町実行委員会
温泉津海神楽
21 大学企画
名和晃平プロジェクトⅡ「ULTRA
×KNA」
ホスピタルアート
13 京都府立大学病院
ヤノベケンジ展覧会
粟田神社・夜渡り神事(ねぷ
た)
12 粟田神社
水都大阪ラッキードラゴン
アーティストサミット・フォー
ス
18 大学企画
石橋義正監督作品 映画セット製
作
造形大オークション
13 大学企画
ファクトリーデザインラボ
45 関西テレビ
ファクトリー「プレス」
6 ファクトリー
アレッシワークショップ
14 アレッシ
名和晃平プロジェクトⅢ「ULTRA
×KNA」
2 名和晃平
造形大大学案内
10 いろは出版
パパタラ凱旋公演プロジェクト
2 劇団パパタラフマラ
藤井大丸
25 藤井大丸
二足歩行バイク制作プロジェク
ト
7 高橋智隆
造形大クリスマスイルミネー
ション
17 大学企画
CANADIAN
SPIRIT
制作
合計
18 名和晃平
8 豊田市美術館
10 水都大阪2009
6 石橋義正
11 ファクトリー
481
表特記 b:学生評価基準(概要)
活動評価
教育目標
活動中の態度やパフォー
マンスを評価する
①芸術がどのように社会と関わり、社会的な
役割を果たしているか、その関係を学ぶ
②社会人として必
要な能力を身につ
ける
個人としての行動(プ
ロセスに対する視点)
組織メンバーとしての
パフォーマンス(結果
に対する視点)
30
リフレクション
(振返り・省察)評価
活動に対する振返りとそ
の表現力を評価する
配点
20
20
20
50
30
30
配点
60
103
40
100
京都造形芸術大学
■成果と今後の展望
プロジェクト経験者の就職決定率は、非経験者の決定率より 9.8%高い結果となった(平
成 20 年度実績)。昨今の経済状況の中、全体の就職決定率は下がっているが、プロジェク
ト経験者数の増加にも関わらず、平成 18(2006)・19(2007)年度に引き続き、決定率の
差が保てている。その他、初回参加年次、参加回数、成績(GPA(Grade Point Average)
スコアに換算)等、様々な関係を検証しているが、その中では参加回数が多いほど、就職
決定率が高い・GPA のスコアが高い、などの傾向が見られる。プロジェクト経験が、進路
決定や、普段の学業への取組みに深く影響している表れであると言える。
表特記 c:プロジェクト経験者と非経験者の就職決定率
90%
80%
45%
83.9%
78.4%
74.4%
40.5%
72.0%
70.6%
70%
40%
35%
60.8%
30%
60%
50%
23.6%
20%
40%
30%
25%
15%
13.9%
20%
10%
10%
5%
0%
0%
2006 年度
2007 年度
2008 年度
経験者の就職決定率(左軸)
非経験者の就職決定率(左軸)
卒業生に対する経験者比率(右軸)
前述の通り、参加学生が、十分にプロジェクト経験を言語化しきれずに活動を修了して
いる状況もある。そのため、平成 22(2010)年度より TA 制度の導入およびプロジェクト
を経験した 3 年次生を対象とした、フォロープログラムの実施を行なう。
104
京都造形芸術大学
3
研究センターによる「京都文芸復興」の研究と実践
京都の芸術文化資産の現代化の実践を進め、日本の芸術文化の再生をめざす活動を、本
学に設置された各種研究センターが行っている。「京都芸術劇場/舞台芸術研究センター」
では、伝統芸能から現代演劇にわたる日本の舞台芸術の実験研究を、「日本庭園・歴史遺産
研究センター」では、地域文化遺産の調査研究と保護を、「ものづくり総合研究センター」
では、伝統産業と現代のデザインとの融合研究を行っている。
「京都芸術劇場/舞台芸術研究センター」
■目的と特色
京都は、能・狂言、歌舞伎、京舞など、日本の代表的な伝統芸能が豊かな歴史を育んで
きた都市である。「京都文芸復興」を掲げる本学は、そのような京都にふさわしい芸術系大
学として、他大学には類例のない本格的な劇場施設「京都芸術劇場※1」を平成 13(2001)
年から有してきた。その運営は、大学附置研究機関である「舞台芸術研究センター」が統
括しつつ、年間を通じて、「研究」「教育」「地域社会への貢献」のために活用している。
舞台芸術研究センターは、京都芸術劇場の開設に合わせて、平成 13(2001)年 4 月に発
足した。舞台芸術における創造の現場と研究・批評の現場のあいだの有機的な結合を目指
し、研究員は日本の舞台芸術の第一線で活躍するアーティストや技術スタッフ、批評家・
研究者などから構成されている。
■具体的な活動内容
舞台芸術研究センターによる研究プロジェクト「劇場を活用した日本の舞台芸術の時空
間構造とその変容に関する実験的研究」が、文部科学省の「私立大学学術研究高度化推進
事業・学術フロンティア」に採択された(平成 13(2001)年度~平成 17(2005)年度およ
び平成 18(2006)年度~平成 20(2008)年度)。
その後、平成 21(2009)年 4 月より、渡邊守章が舞台芸術研究センター所長に就任し、
これまでの研究成果をふまえて立ち上げた新たな研究プロジェクト「複合体としての「大
学の劇場」を用いた舞台芸術の創造的場の構築」が、文部科学省「私立大学戦略的研究基
盤形成支援事業」に採択された(平成 25(2013)年度までの 5 ヵ年)。平成 21(2009)年
度は、そのスタートとして、以下のようなプログラムが開催された。
① 春秋座・狂言立合い
和泉流の人間国宝・野村万作、野村萬斎の一座と、京都の大蔵流・茂山千五郎家の一
座を、「春秋座」という歌舞伎劇場に迎え、神聖な祝祭舞台『翁』の「三番叟」(和泉流)
と「三番三」(大蔵流)、および「蝸牛」という同一演目をそれぞれが競って上演する。
② 京都におけるフランス月間
フランス演劇の伝統と現在を包括的に検証すべく、(a)映画「アヴィニョン演劇祭の
60 年」上映、(b)演劇上演「神の曲芸師」、(c)演劇上演「ブラスティッド」の三つ
の企画をシリーズで開催した。
105
京都造形芸術大学
③ 路上1・2・3連続上演
本学舞台芸術学科長で、劇作家・演出家の川村毅の演劇作品「路上 1~3」を、連続上
演する企画。
○教育活動、および地域への社会貢献
劇場開設以来、舞台芸術を学ぶ学生は、studio21 を中心としてほぼ毎日のように活用し
ており、教育効果があがっているだけでなく、全学生対象の授業や公開講座などにも積極
的に活用されている。また、劇場を使用した「大学主催公演」では、京都市内を中心とし
た一般の観客に広く良質の舞台芸術を提供する機会として位置づけている。平成 21(2009)
年度、京都芸術劇場「春秋座」では、59 の公演・シンポジウムが行われ、22,026 人の来場
者があった。また studio21 では、卒業制作公演 5 本、授業発表 5 本、研究公演 6 本、その
他企画 8 本に 3,523 人の来場者があった。
【註】
※1
劇場施設の規模
大劇場「春秋座」:観客席・舞台ともに本格的な歌舞伎スタイルを基本としながら、
他の伝統演劇や現代演劇などの上演にも対応できる設計がなされている。歌舞伎の
ための花道、廻り舞台、鳥屋などを設置する一方で、オペラなどのためのオーケス
トラピットを設け、各種の舞台表現に活用できる。
小劇場「studio21」:現代演劇やダンス、パフォーマンスなど、さまざまな舞台芸
術の実験を行うための空間である。移動可能な舞台調光設備や音響装置を備え、天
井のグリッドには機材や美術装置が自由に吊れるようになっているほか、客席も移
動式でスペースの多様な活用が可能である。
「日本庭園・歴史遺産研究センター」(歴史遺産研究部門・日本庭園研究部門)
■目的と特色
日本庭園・歴史遺産研究センターは、それぞれの部門の研究・教育内容の蓄積を基にし
て、さらに学際的な調査・研究を推し進めることを目的としているセンターである。これ
までも独自に学内外の専門家や研究機関との連携を積極的に行ないつつ、共同研究やその
成果の公表において相互交流をはかっている。
■具体的な活動
①歴史遺産研究部門
歴史遺産部門では、地域の活性化を目的として文化遺産の調査・研究と保護活動の支援、
伝世品の調査や埋蔵文化財の保存処理の受託など、多岐にわたる実践活動を通じて「歴史
遺産保全学」の確立を目指している。その成果をワークショップ・シンポジウム等で広く
社会に還元している。主な研究内容としては、無形文化財関連の調査・新出資料の整理を
含めた文書類調査・美術工芸品調査(材質調査・保管環境調査等)・埋蔵文化財調査(材質
調査及び保存処理、保存処理法の開発)・災害時における歴史資料の保全(地震や火災時
106
京都造形芸術大学
の絵画・文書・生活資料等の保全)・歴史資料のデジタルアーカイブ化による管理研究等が
ある。平成 21(2009)年度の受託研究実績は、7 件 424 万 5,000 円であった。
表特記 d:平成 21(2009)年度受託研究実績
受託内容
国立民族学博物館「標本資料の材質・
状態調査」
虎屋所蔵襖資料委託調査
芸術文化情報センター所蔵浮世絵資料
保全処置業務
左京区内の伝統行事についての調査
「室生犀星家族写真」修復処置
収蔵作品(10102535)の修理
「ろうけつ染技法等に関する調査」
委託者
国立民族学博物館
内容
調査・報告書
株式会社 虎屋
京都造形芸術大学
芸術文化情報センター
京都市左京区役所
財団法人金沢文化振興財団
財団法人東京都歴史文化財団
(財)元興寺文化財研究所
調査・報告書
保全
調査・報告書
修復
修復
調査・報告書
②日本庭園研究部門
日本庭園部門では、文化財庭園の保存修復のほか、文化的景観や町家の保存活用等に関
する調査・研究、現地指導を受託する中で最先端の研究成果をあげてきた。また、専門性
の高い「庭園学講座」「人間性と創造講座」をはじめ、海外の研究者・技術者を対象として
「インテンシブセミナー」を毎年開催するなど、さまざまな形で日本の庭園文化の理解と
普及啓発に努めている。主な研究内容としては、庭園の実測調査・発掘調査・遺物の保存
処理、史跡整備計画・設計、庭園の景観管理・保存修復、公開講座の開催、研究会・講習
会の開催等がある。平成 21 年度受託研究実績は、19 件 2,647 万 8,000 円であった。
表特記 e:平成 21(2009)年度の主な受託研究実績
業務名称
玄宮園植栽整備委託業務
楽々園庭園植栽整備委託業務
名勝庭園管理アドバイザー委託業務
名勝会津松平氏庭園護岸石垣積替及び修復記録
玉里邸庭園修復整備実施設計業務委託
名勝慶雲館庭園基本計画策定業務
市内名勝・庭園調査業務委託
名勝柴田氏庭園保存整備基本計画(案)策定
万博日本庭園修景管理指導業務
名勝竹林寺庭園石材調査業務
旧島津氏玉里邸庭園黒門部材調査業務委託
検討委員会の運営に関わる指導業務
時国氏庭園保存修理事業庭園設計監理業務
旧島津氏玉里邸庭園修復整備整備現場管理
彦根城内・金亀児童公園樹木剪定
杉本家の庭の実測調査
庭園文化遺産防災調査業務
南丹市巨木調査
堀川院跡の園池の一部復原・整備業務
委託者
彦根市
彦根市
彦根市
会津若松市
鹿児島市
長浜市
足利市
敦賀市
阪神造園建設業共同組合
五台山・竹林寺
鹿児島市
本山 立本寺
時国信弘
鹿児島市
彦根市
京都市
学校法人立命館
南丹市
京都市
107
内容
剪定指導・記録
剪定指導・記録
剪定指導
修復・記録
実施設計
計画・報告書
調査・報告書
計画・報告書
剪定指導
調査・報告書
調査・報告書
委員会指導
設計監理
現場監理
施工(剪定)
測量・調査
調査・報告書
調査・報告書
調査・報告書
京都造形芸術大学
「ものづくり総合研究センター」
■目的と特色
ものづくり総合研究センターでは、「人と自然」「人と人」「人ともの」のより深化した関
連性を築くために、ものづくりやデザインがどうあるべきかに主眼をおいて活動している。
商品開発の受託、伝統産業の正しい未来形の模索、高度なデザインオペレーションの提供、
デジタルアーカイブの蓄積、まちづくりをはじめとする様々な環境創造の実践、舞台美術
の制作や空間演出デザインなど、幅広い分野での産学官連携に取り組んでおり、本学が保
有する知的、感性的資源を産業界や行政へ積極的に提供し、多くの実績をあげている。
■具体的な活動内容
平成 21(2009)年度は、25 件 3,406 万 5,000 円の受託研究を実施し、参加学生は 200 人
を超える。受託案件以外にも、和雑貨企業の商品デザインコンペや、老舗ホテルの周年記
念ロゴ・キャラクターコンペの実施、地域活性化イベントへの学生協力などを、プロジェ
クトセンターの協力のもと、数多く実施している。
表特記 f:平成 21(2009)年度主な受託研究実績
受託名
委託者
内容
平成 20(2008)年度に、粟田神社の祭礼行事である「世渡り
神事」に参加し、この神事を 180 年ぶりに「アートで復活」
させるため「大燈呂」を制作
コカコーラ社主催の社会貢献事業でのワークショップ企画。
身近な素材を用いて親子で造形を楽しむをコンセプトに、学
生がワークショップを考案し、当日の運営も担当
同協会の雇用した「行商人」に対する研修会のコーディネイ
ト
粟田神社・夜渡り神事プ
ロジェクト 2009
粟田神社
コカコーラ親子ワークシ
ョップ
テ ィ ー ・ツ ー ・
アール
行商人研修
海士町観光協会
創生館レリーフ制作
御 池 ア ート フ ェ
スタ実行委員会
御池アートフェスタ開催時に、店舗正面壁面に掲げるレリー
フ作成。店舗の業種に合わせて、9点を作成
kyoohoo
財 ) 京 都産 業 2
1
和雑貨「Kyoohoo」ブランドの構築を目指し、参加企業の資源
を活用した統一感のある新デザインの試作品開発を行う。ア
メリカで行われた世界最大のギフトショーに出品
岩絵の具の新しい活用
上羽絵惣
岩絵の具の新しい配色による、画材セットの開発
カルー陶用途開発
民 博 企 画 展 CANADIAN
SPIRIT 制作
藤井大丸ウインドウ・デ
ィスプレイ
パパタラフマラ美術セッ
ト制作
㈱河合紀陶房
関西テレビ
㈲ケイ
二条城ライトアップ 2010
京都市観光協会
松江武者行列
松江市
新開発されたカルー陶(軽い陶器)をテーマにした用途開発
2009 年 9 月から国立民族学博物館で開催された特別展に関す
る大型オブジェの制作。
毎年恒例となった、クリスマス向けのウインドウ・ディスプ
レイの制作と展示。
世界的にも評価の高い、劇団パパタラフマラの舞台用の美術
セット制作。
毎年桜の時期に行われるライトアップイベントの、足元灯及
びオブジェのデザイン・制作を担当。更に運営スタッフとし
て学生が参加。
市民が参加する「武者行列」の演出・振付のコーディネイト
を担当。当日の運営にも携わり、本学学生も行列に加わった。
また「武者行列」で使用する甲冑(鎧・兜)及び装束制作を
ワークショップ形式で実施。
㈱ケー・ディー
㈱サイ
108
京都造形芸術大学
4
世界アーティストサミット(ARTISTS SUMMIT KYOTO)の開催
■ 目的と特色
世界アーティストサミット(以下、ASK)は、芸術で平和を実現することを目指した国際
プロジェクトである。優れたアーティストは、卓越した「創造・想像力」を身に備え、他
分野の専門家とは異なった視点から世界の問題解決に寄与できるという考えに基づき、平
成 17(2005)年 11 月にアーティスト 7 人と第 1 回を行った。その後、平成 19(2007)年
12 月に 6 人、平成 21(2009)年 12 月に 6 人、計まで 19 人のトップおよび新進気鋭のアー
ティストが第二次世界大戦の戦禍を免れた京都に集い、戦争、貧困、教育、食糧、人種、
宗教など、現代の世界が直面する深刻な問題について話し合い、解決策を提案してきた。
ASK の特色としては次の 3 点が挙げられる。
まず1つは、ASK では、アーティストは作品を制作することではなく、一人の人として
世界の問題解決について考え、直接他のアーティストや人々と接し、解決策を提案し、実
現へ行動を起こすことを求められる点である。
2 点目は、ASK は教育プログラムでもあることである。学生は、ASK に参加しアーティス
トと直接コミュニケーションすることで、芸術を通して社会に関わり、行動を起こすモチ
ヴェーションを持つきっかけを得ることができる。
3 点目は、ASK が学内に閉じておらず、広く社会に開かれていることである。第 1 回より、
ASK は「京都から世界」へ芸術の力を発信するために、京都市、京都府、京都商工会議所
と共催で実施され、京都、関西の企業・機関に支援されてきた。産学官が連携することで、
ASK はより広く一般に公開され、芸術の力と社会に果たす役割を伝える機会を提供してい
る。
■具体的な活動内容
平成 17(2005)年に第 1 回を行って以降、2 年に一度プログラムを実施している。
① 第 1 回 ASK(平成 17(2005)年)【総参加者 のべ 1,486 人】
「コアミーティング」を軸に、「公開シンポジウム」「関連プログラム」「フォースプロジェ
クト」という4つのプログラムを実施した。
表特記 g:平成 17(2005)年プログラム
参加アーティスト
【7 人】
ジェーン・アレキサンダー(現代美術家、南アフリカ)、蔡國強(現代美術家、中国)、アン・
ハミルトン(現代美術家、アメリカ)、カチョー(現代美術家、キューバ)、李禹煥(現代
美術家、韓国)
、トーマス・シュトゥルート(現代美術家、ドイツ)、椿昇(現代美術家、日
本)
コアミーティング
【参加者 112 人】
公開シンポジウム【参加者
679 人】
関連プログラム
【6 プログラム、参加者
670 人】
フォースプロジェクト
【参加学生 25 人】
世界トップクラスのアーティストを招聘し、彼らが世界の問題解決について長時
間話し合い、解決策を提案した。
選抜高校生によるデザインで社会を良くするプレゼンテーション、有識者による
パネルディスカッション等を行なった。
学生作品講評、レクチャー、ワークショップ等を実施し、学生が ASK に多角的に
関わる機会を提供した。
来日するアーティストのサポートや ASK の広報、運営サポートを学生が行なった。
109
京都造形芸術大学
②第 2 回 ASK(平成 19(2007)年)【総参加者のべ 1,803 人】
プログラムの構成は基本的に第 1 回と同様の形を取ったが、第 1 回目の成果を検証し、
下表のようにプログラムの改良を行なった。
表特記 h:平成 19(2007)年プログラム
参加アーティスト
【6 人】
ジャールパッチャ・アーチャバサミット(タイ、ファッションデザイナー)、ギュルスン・
カラムスタファ(現代美術家、トルコ)イングリッド・ムワンギ(現代美術家、ケニア/
ドイツ)、坂本龍一(作曲家、日本/アメリカ)、クシシュトフ・ヴォディチコ(現代美術
家、ポーランド/アメリカ)、ユック・クンビョン(現代美術家、韓国)
コアミーティング
【参加者 178 人】
議論により広がりと現実性をもたらすよう、デザイン、音楽など異なる表現メデ
ィアのアーティストも招聘した。
コアミーティングの聴講者数を増やし、また聴講学生から質問を受け付けること
で、より主体的に議論を聴講するようにした
会場からも質問を受け付けることで、より主体的に議論を聴講するようにした
公開シンポジウム
【参加者 706 人】
関連プログラム
【9 プログラム、参加者
904 人】
フォースプロジェクト
【参加学生 15 人】
京都市立銅駝美術工芸高校、横浜中華学校、東京藝術大学にもアーティストを派
遣し、関連プログラムを実施した。
フォースプロジェクトは、教員の指導の下、アーティストサポート、ASK 広報、
運営、関連プログラム企画実施を約 10 ヶ月間行なった。
③第 3 回 ASK(平成 21(2009)年度)【参加者数のべ 2,397 人】
未来を担う若者に対する教育プログラムの側面をより強調するプログラム変更を行なっ
た。また、プログラムは4つのカテゴリーから構成された。
表特記 i:平成 21(2009)年プログラム
参加アーティスト
【6 人】
ハーヴェイ・ボテルス(ファッションデザイナー、オランダ/ベルギー)
、ナリン・チャミ
ンダ・ミーマナゲ(映画監督、スリランカ)、ピチェ・クランチュン(舞踏家、タイ)、ケ
ン・シャレム(映画監督、イスラエル/アメリカ)
、上田麻希(現代美術家、日本/オラン
ダ)
、マリエット・ウェッセルス・ボア(オランダ、パブリックデザイナー)
アーティスト・イン・レジ
デンス【プログラム数 37、
参加者のべ 1,435 人】
ASK2009 未来との対話【参
加者 702 人】
トップアーティストではなく、30 代までの若手アーティストを推薦・公開コンペ
形式で選抜した。アーティストたちは約 2 週間大学に滞在し、世界の問題解決提
案につながるワークショップを実施した。
アーティストによる AIR 報告、高校生のプレゼンテーションに加え、大学生もア
ーティストとしてプレゼンテーションを行うスチューデントアーティストプロ
ジェクトを、姉妹校の東北芸術工科大学と実施した。
アーティストによる問題解決プランのプレゼン、コアミーティング、招待講演、
パネルディスカッションを行なった。
自立した先鋭的アーティスト予備軍となる学生育成を目的としてフォース・プロ
ジェクトを実施した。
ASK2009 明日への跳躍【参
加者 242 人】
フォースプロジェクト
【参加学生 17 人】
■活動成果と今後の展望
① これまでの 3 回の ASK 活動成果は出版、映像、ウェブサイト、メディアを通して、広く
社会へ発信されている。各種メディアを利用した情報発信は、今後も継続して行ってい
く必要がある。
②過去のアーティストの提案を実現できていないため、本学学生だけでなく、多くの人々
を巻き込み、アーティストの提案を実現し、大学の理念をさらに具体的に社会とつなげ
る仕組みを作っていきたいと考えている。
③高校生の時に ASK に参加し、大学に入りフォースプロジェクトに参加するなど、継続し
たプログラムとしての成果も現れている。今後は、参加学生、特にフォースプロジェクト
への参加学生の追跡調査を行い、プログラムの検証を行うことが必要であると考える。
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京都造形芸術大学
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こども芸術大学
こども芸術大学は、平成 17(2005)年に本学キャンパス内に開設した、幼児と母親のた
めの教育機関である。3 歳から小学校就学前の子どもたちが通学するが、幼稚園や保育園
との大きな違いは、芸術を柱にした教育を提唱し、子どもだけでなくその親も一緒に学ぶ
システムとなっているところにある。子どもを中心に考えられてきた学校教育と、大人を
中心に考えられてきた社会教育の交差する地点に、子どもと大人の相互主体的な生活と学
びの新しい関係性を模索しようとするものである。持続可能で平和な社会づくりのための
教育を、子どもと大人の参画によって創り上げていくプロセスのダイナミズムこそが、ま
さに芸術的であり、こども芸術大学の特徴といえる。
多地域多世代の社会人が学ぶ通信教育課程とともに、生涯学習に先駆的に取り組んでき
た本学の教育理念を体現する存在であると考えている。
■理念―母なる大地の回復を願って
本学は、平成 12(2000)年に、新世紀に向かうビジョン「京都文芸復興」を提唱してい
るが、その末文は「新しい世紀は、人類と自然への深い愛情に満ちた哲学を生み出すこと
から、はじめなければならない」と結ばれている。それに対する一つの回答として、平成
12(2000)年7月に「こども芸術大学設立の宣言-『母なる大地の回復を願って』」が書き
起こされた。そこには次のように語られている。「いかにして新しい生命に対する深い愛情
を取り戻し、私たちの心の中に『母なる大地』を回復するか。人類の未来はこの一点にか
かっているのです。」この一文は、環境としての「母なる大地」の回復にとどまらず、むし
ろ一人ひとりの心の中に、生命を慈しみ、あたたかく育む気持ちが芽生えるよう活動する
ことこそが、この「こども芸術大学」の使命であることを示している。わが子の成長を願
い、親として成長するだけでなく、子どもも大人も、一緒に通う他の子どものことをも思
い、そして活動のフィールドである瓜生山に生息するたくさんの動物や自然を思う。その
ような生活の積み重ねが、「こども芸術大学」の活動の基軸となっている。
■教育目標
こども芸術大学における教育の目標は、①感じる力を育てる、②工夫する力を育てる、
③伝える力を育てる、の3点である。感じる力は他者理解、工夫する力は創造、伝える力
はコミュニケーションにつながる。こども芸術大学は、芸術の英才教育をめざすものでは
なく、芸術教育の本質は感性や表現に基づく人間教育にある、という考えを基本としてい
る。
■規模と運営体制
入学者は、3 歳から小学校入学前までの子どもとその母親である。平成 22(2010)年は
13 組を迎え入れ、卒業生はこれまでに 33 組を送り出した。なお、入学した子どもに弟や
妹がいる場合には、一緒に通ってくることも認めている。
こども芸術大学は校長、教務部長の他、保育スタッフ「芸術教育士」(幼稚園教諭、保育
士、野外活動のアクティビティ等に長けたスタッフ)6 人と事務スタッフ 1 人で運営され
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京都造形芸術大学
ている。「芸術教育士」は、こども芸術大学の独自の呼称で、子どもの保育を担うだけでな
く、親の気づきを促すファシリテーターとしての役割も負っている。また、創作活動には
本学の教員が指導にあたっているほか、芸術教育研究センターを組織し、こども芸術大学
の教育活動の観察を行い、年間活動報告書を発行している。
■活動内容
親子は月曜から金曜まで、毎日 9 時から 14 時半まで(木曜は午前中)通う。
こども芸術大学の 1 週間の活動を下表に示す。
時間
09:00
10:30
月
創作の時間【母と子】
(年間で 7 つの
プログラム)
11:30
13:00
~
14:30
火
水
木
遊びと学びの時間【母と子】
(火、水は芸術教養科目の受講可能【母】)
対話の時間【母と子】
(火、水は芸術教養科目の受講可能【母】)
昼食【母と子】
おやつ【子】
創作の時間【母と子】
遊びと学びの時間【母と子】
振り返りの時間【母】
振り返りの時間【母】
金
行事、お誕生会
など【母と子】
昼食【母と子】
遊びと学びの時
間【母と子】
(母は瓜生山セ
ミナーなど)
(補足)母親の活動
*瓜生山セミナー:子育てや人生のヒントになる講座
*気づきの時間:グループで誕生会などの行事に取り組む活動や、スケッチ、玩具作りの計画、環境問題の
調査学習、季節の料理など、年間を通した自主的活動
*芸術教養科目:母親は芸術学部の講義を受講することもできる
こども芸術大学の一日は、午前中は「遊びと学びの時間」(自由遊び)、体操と出欠、「対
話の時間」(設定保育)と過ごし、「お昼の会」をはさんで、午後からは「遊びと学びの時
間」(工夫と展開)、掃除、おやつ、そして下校で構成される。
親は保育を通して多くの気づきを得るが、午後に展開される母親ミーティングや 14 時か
ら毎日行われる「振り返りの時間」で子どもたちの様子や活動内容の共有を行い、一年間
かけて、その成果を各人がまとめ発表を行う。
本学教員による「創作の時間」が、月に 1 プログラム(月曜に 2 週連続で 10 時から 14
時まで実施)展開される。この「創作の時間」では、造形に固執することなく、創作に至
る感じる心を育む体験活動や、創作活動のプロセスで行われる親子の感動、葛藤、躊躇、
挑戦など様々なコミュニケーションを大切にしている。
また、親向けのプログラムとして、本学芸術学部の授業の聴講制度や、心豊かに子育て
を楽しめるよう、暮らしや子育てについての講座「瓜生山セミナー」(平成 21(2009)年
は 12 回実施)がある。
芸術学部こども芸術学科のゼミでは、毎週 1 回、こども芸術大学の活動に加わり、こど
もと学生が学び合う機会を設けている。また、その他の学科の学生についても、自主的な
見学や研修を受け入れている。さらに、子どもを対象とする作品制作や商品企画を行う際
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京都造形芸術大学
に、こども芸術大学で聞き取り調査、作品の試作・試用を行うケースもある。
■成果と今後の展開
こども芸術大学の大きな特徴は、母親が一緒に通うところにある。母親が子どもと一緒
に過ごし、活動に参加することによって、保育を通して親も学べる場が形成されている。
そのなかで、他者理解につながる母親同士のコミュニケーションが生まれ、母親たちの自
主的な活動が広がっている。
こども芸術大学の保育の中心は、「遊びと学びの時間」と「対話の時間」で構成される。
他に、月に 2 日ほどは本学教員がコーディネーターとなって親子が一緒に創作・発見をす
る「創作の時間」が行われる。教員は一方的に教える立場ではなく、親子が自らの力でプ
ログラムテーマを体得できるよう演出するコーディネーター、ファシリテーターとしての
役割が求められる。専門授業の FD(Faculty Development)にも活かすことのできる可能
性を秘めた取り組みであり、今後は、これまでに関わった教員による教育効果を検証しつ
つ、活動に参加する教員の拡大をはかっていく。
学生の教育研究活動にとって、こども芸術大学の意義は、子どもへの理解を深め、専門
性に活かすということにある。こども芸術大学への学生の関わりには、大きくふたつがあ
る。ひとつは、子どもをエンドユーザーとする制作物の実証、検証の場として、もうひと
つは、実際の子どもの様子に触れることによって、子どもの世界観を知り、子どものいる
生活に対するイメージを獲得するということである。さらに、自由に活動する母と子の姿
に触れることは、表現活動に取り組む学生たちにとって、創造の原点を確認する機会とな
っている。
今後も引き続き、子どもと母親、教職員、学生が学び合い、他者理解を深め、未来のあ
るべき社会イメージを創出する場としていきたい。
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