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地方自治体による地域経済の再生化。

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地方自治体による地域経済の再生化。
共貨 WG 杉山 彰 編集
地方自治体による地域経済の再生化。
「共貨に準じる前払証票発行と、その流通」に係る、提案レポート、その1。
地方自治体が地方債を発行すると「食い逃げ効果」が働く。地方自治体は地域住民の出
入りが自由なボーダレス政府である。従って、地域住民は、地方債の起債により公共サ
ービスの利益を享受し、地方債の償還時に財政が破綻し、増税等の施策が実施された瞬
間に、その地域から逃げ出してしまうことができる。
中央政府は、金融政策と連動させて国債を管理する能力を保有しているが、中央銀行の
信用にアクセスできない地方自治体は、金融政策と連動させて地方債を管理することが
できない。そのために、地方財政では、均衡財政を厳しく守ろうとする力学が働く。
そのため、先進諸国では、少なくとも地方財政の赤字を低い水準で抑え込んでいるが、
日本における地方財政の赤字は、異常ともいえるほど突出して高い。その理由は、
「決
定は中央政府、執行は地方自治体」という集権的分散システムが存在するからである。
定は中央政府、執行は地方自治体」
「集権的分散システム」のもとでは、地方自治体は財政の自己決定権が奪われている。
地方財政に自己決定権が無いために、地方財政が赤字の危機に陥っていくパターンは2
つある。
①:「強制型」危機
②:「誘導型」危機
①:「強制型」危機とは、
地方自治体が中央政府から歳出を強制されることによって生じる財政危機。
②:「誘導型」危機とは、
地方自治体が中央政府によって歳出を誘導されてしまうことによって生じる財政危機。
「強制型」危機は、都道府県が陥りやすい罠である。
その理由は、都道府県は、警察費と義務教育国庫負担金を抱え、その 50%の人件費を負
担しているにもかかわらず、警察官や義務教育の教員を配置する基準は中央政府が決め
ているのである。地方自治体は、中央政府から義務づけられた経費の比率が高いにもか
かわらず、都道府県税の基幹税は、「法人事業税」と「法人住民税」という、法人の利
益に課税される法人2税で構成されている。
法人 2 税は景気変動によって激しく変動する。従って、経費削減はできないのにもかか
わらず、税収が激しく変動するため、都道府県は「強制型」危機に陥っていくことにな
るのである。そして、そのために機能しているのが税収分配による交付税である。
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共貨 WG 杉山 彰 編集
「誘導型」危機は、市町村が陥りやすい罠である。
その理由は、仕事が中央政府に義務づけられ、強制されている仕組みに従わざるを得な
いからである。また、「誘導型」危機は、都道府県においても同時共時に陥っていく問
題である。そして、そのために機能しているのが国庫支出による特定補助金等である。
いずれにせよ、都道府県が「強制型」危機に陥り、市町村が「誘導型」危機に陥ってい
く原因は、地方自治体に「歳出の自治」と「歳入の自治」が無いためである。
⇒「強制型」危機は地方自治体に「歳出の自治」が無いために生じる問題である、
⇒「誘導型」危機は地方自治体に「歳入の自治」が無いために生じる問題である。
日本の自治体には、「歳出と歳入の自治」が無い。それが一つの結論である。
中央政府が、地方自治体から「歳出の自治」を奪う最も強力な武器は「機関委任事務」
である。「事務」とは政府の実施する仕事である。機関委任事務とは、知事や市町村長
などの地方自治体の「機関」に委任する国の事務のことである。機関委任事務において
は、国から委任された事務を実施する限り、地方自治体は、中央政府の「機関」の一部
と見なされてしまう。そのため、機関事務委任では、委任された後も、その事務はあく
まで中央政府の事務となる。機関委任事務では、地域住民が決定に参加する余地は無い。
なんと、1991 年の地方自治法の改正が為される前までは、中央政府による代執行や、
知事、あるいは市町村長などを罷免することもできた。しかし、2000 年 4 月に施行さ
れた「地方分権一括法」によって、
「機関委任事務」は廃止され、①:法定受託事務と、
②:自治事務とに区分された。
①:「法定受託事務」とは、
事務の性質上、その実施が国の義務に属し、国の行政機関が直接執行すべきであるが、
国民の利便性、または事務処理の効率性の観点から、法律、またはこれにも基づく政令
の規定により、地方公共団体が受託して行うこととされる事務である。
②:「自治事務」とは、
地方自治体が自主的に実施する法定受託事務以外の事務である。しかし、自治事務とい
えども、中央政府は地方自治体に法令によって仕事を義務づけ執行させることができる。
機関委任事務は、2000 年 4 月に施行された「地方分権一括法」によって廃止されたと
いえ、中央政府が決定した歳出を地方自治体に強制する仕組みは残っているのである。
中央政府が、議会、つまり法律、省令、政令によって、地方自治体に歳出を強制する仕
組みが残っているからである。
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共貨 WG 杉山 彰 編集
従って、地方自治体にとっての当面の課題は、「歳入の自治」の確保として、
2000 年 4 月に施行された、「地方分権一括法」の最大有効活用である。
「地方分権一括法」により、有体に言えば、たとえば法定外税を創設するにあたって、
その法定外税が国税と重複課税になっていなくて、地域住民が決定しさえすれば自由に
創設可能になったのである。その結果、「税収があることを課税目的としない地方税」
⇒「税収があがらないほうが望ましい地方税」を創設する途が開けたのである。
法定外税には、①:「法定外普通税」と、②:
「法定外目的税」の2税がある。しかし、
現実としては、税収性に富む基幹税に関して言えば、中央政府が税源利用の可能性を掌
握している。しかも、国税と重複する独自課税は認められていないという事実が、厳と
して存在する。
自主財源である地方税に中央政府から課税統制が加えられると、地方自治体の課税自主
権が奪われてしまうのである。その結果、地方自治体は、新規に企画した事業の財源を、
新税や増税によって調達するこが困難になるのである。
そこで、地方自治体は、新規に企画した事業の財源を調達するために、「地方債の起債」
を行うに至るのである。しかし「地方債の起債」は、従来、中央政府の厳格な統制(許
可制)が加えられてきた。「地方分権一括法」は、
「地方債の起債の許可制」から、「地
方債の起債の事前協議制」、それも中央政府の合意を必要としないの事前協議制への移
行を実現した(2006 年以降)。
ここに至って地方自治体は、
中央政府が、金融政策と連動させて国債を管理する能力を保有しているように、
地方自治体も、金融政策と連動させて地方債を管理する能力を保有し、
「決算上の赤字」に陥る危機を回避し、
なおかつ、
「実質的収支の赤字」による起債制限、
すなわち「財政再建団体」へ陥る危機を回避することが可能となったのである。
その可能性の裏に存在する事実は、
「ペイオフ施策」の実施である。
一連のペイオフ施策の実施により、地方自治体は公的資金の、預金先金融機関の選別の
必要性に迫られている。一方、預金先金融機関は、公的資金の預金先金融機関の指定を
継続するための何らかのアンチ・ペイオフ施策を打つ必要がある。ここに一つのバータ
契約が可能になるのである。
金融機関は、地方債を引き受ける代わりに預金先金融機関の指定、もしくは継続を要求
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共貨 WG 杉山 彰 編集
する。地方自治体は、預金先金融機関の指定、もしくは継続を応諾する替わりに地方債
の引き受けを要求する。
地方自治体はペイオフのリスクヘッジを地方債との相殺で諮り、金融機関は地方債の償
還におけるリスクヘッジを預金との相殺で諮る。地方自治体が、地域金融機関と共に、
金融政策と連動させて地方債を管理する能力を保有しえるのである。
※「決算上の赤字」・
「実質的収支の赤字」
・「財政運用上の赤字」について。
「実質的収支の赤字」とは「決算上の赤字」のことである。決算上の赤字とは「地方予
算の歳入」のことであり、地方債という借金に依存することとは区別しなければならな
い。地方債で借金することを「財政運営上の赤字」と呼んでおくと、「決算上の赤字」
は「財政運用上の赤字」と区別されるのである。また、「財政運用上の赤字」は、家計
にたとえれば、借金によって自転車操業的に家計を運営しているようなものである。そ
れに対して、「決算上の赤字」は、月末に家計を決算してみたら、現金が足りず、借金
をすることもできずに、一家心中に陥らざるを得ないような状況を言う。
※地方自治体は、なぜ、公共事業に走るのか?
地方自治体が予算を編成したときには、地方税であろうと地方債であろうと、歳出を歳
入で賄うことができるはずである。ところが年度途中で不況が深刻化すれば、地方税の
収入が予算に計上したとおりに調達できない場合が生じる。そうなると、歳入に不足が
生じる。しかし、歳出のうち、公共事業などに支出される資本的経費の比重が高ければ、
歳入不足を地方債の追加増発で賄うことができる。ところが、資本的経費の比重が少な
く、地方債で基本的経費を賄ってもなお、歳入不足が生じた場合には、地方債で財源を
調達するわけにはいかない。赤字地方債の発行はできないからである。これが「決算上
の赤字」である。そのため地方自治体は、資本的経費のウェイトを高めておこうとする。
経常的経費のウェイトが高ければ、地方税の収入が減少すると、ただちに「決算上の赤
字」が生じる危険があるからである。美濃部都政が好例である。福祉サービスを充実さ
せ、経常的経費を高めたため、石油ショックで税収が落ち込むと、ただちに財政再建団
体に転落する危機に見舞われたのである。
従って、地方財政を危機に陥れないようにするためには、資本的経費のウェイトを高め
ておけばいい。もし地方税収入が減少したとしても、資本的経費であれば地方債を追加
増発することができ「決算上の赤字」に陥らずに済むからである。それだからこそ、日
本では、地方自治体が「ハコものづくり」に走りたがるのである。
ところが、こうした財政運営にも落とし穴がある。資本的経費のウェイトを高めるため
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共貨 WG 杉山 彰 編集
に、地方債の発行で公共事業を実施すれば、いずれは公債費という経常的経費を高めて
しまうことになるからである。
そこで、地方財政を危機に陥らせないようにするためには、積立金を積みたてて、公共
事業を実施して資本的経費を高めればいい。つまり、積立金を積みたててスタンバイし
て待ち、中央政府が景気対策として公共事業を実施するため、補助金を交付すると言え
ば、それに乗じて積立金を取り崩し、公共事業を実施すればいい。循環型不況であれば、
積立金を崩し終える前に、つまり 3 年もたてば景気が回復した。ところが、今日の不況
は構造型不況である。それも長期にわたる不況である。積立金を崩し終えても、景気は
回復しない。
そして、公共事業にひとたび着手すれば、途中で打ち切るわけにはいかない。地方債を
増発して公共事業を継続していかざるをえない。ところが地方債を増発して公共事業を
継続すると、同じように、やがて公債費を高め、経常的経費が膨張し、結局、「決算上
の赤字」に結びつく。
こうした景気対策に誘導されたために生じる地方財政の危機が、「誘導型」危機である。
補助金という甘い誘惑に負け、景気対策に動員されるために生じるのである。地方自治
体に「歳入の自治」が無いからである。
抜本的税制改革へのシナリオは「歳出の自治」と「歳入の自治」を地方自治体が確立す
ることが前提であり、地方財政の自己決定権を中央政府から取り戻さなくてはならない。
「歳出の自治」を回復するシナリオでは、
地方分権一括法の施行による「機関委託事務」の廃止が鍵となる。しかし、自治事務で
あろうとも、中央政府が法令で仕事を義務づける仕組みが残っていることは暗黙の了解
の事実である。
「歳入の自治」を回復するシナリオでは、
「機関委託事務」の廃止に伴う、国税から地方税への税源移譲が鍵となる。地方政府を
誘惑する特定補助金を縮減・廃止してしまうことである。そして、特定補助金を縮減して、
一般財源主義からの改革シナリオを実行するのである。以上のシナリオは、地方分権化戦
略として地方税という自主財源ではなく、中央政府からの使途指定の無い一般財源の移
転の拡充を前提とする。
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共貨 WG 杉山 彰 編集
一般財源が、地方自治体には歳入面での自己決定権が無い中央政府からの移転財源であ
っても、歳出面では、自己決定権が認められており,地方財源として望ましいものとす
る主張である。地方自治体に、「歳入の自治」が無くても、
「歳出の自治」が成立すると
考えていいということになる。一般財源主義が「歳入の自治」を認めようとしないのは、
地方税という自主財源を強化すれば、地方自治体間の財政力格差が激化してしまうと考
えているからである。
本レポートでは、地方債の起債による「地方都市再生のシナリオ」の提案とするため、
地方分権化戦略としての地方税・自主財源に関する記述は、次の機会に譲るものとする。
地方自治体が、地域金融機関と共に金融政策を連動させて地方債を管理する・・・。
ここに一つの事実がある。「内国債で破綻した国は無い」という事実である。中央政府
が、これまでにやってきた公共事業のための財政出動などの影響で、累積国債発行残高
は 400 兆円を超えている。国際的な格付け機関による日本国債の格付けも下がっている。
しかし、この事実は、はたして、本当に危機的状況なのだろうか。内国債による国家の
借金は、いわば家族が家族から借金していると見なしてもいい。裏から見れば、国民は
誰に借金しているかというと、同じ国民に借金しているわけである。いい換えれば、国
民は大尽になっているということであり、国民の借金が 400 兆円にも増えているという
統計は、逆にいうと、国民の財産が 400 兆円にも増えているという統計と同じ意味なの
である。日本は、将来世代に対して莫大な借金を残したかもしれないが、同時に将来世
代に対して莫大な財産も残しているのである。第二次世界大戦末期、日本は、今よりも
っと大量の国債を発行し国民に借金をした。その借金は、戦後、
「財産税」という形で、
リカードの理論どおりのキャピタル・レビューを行い、赤字国債を一挙に償却した。
さらに金融機関との連携においても、地方自治体の金融政策に不可欠な地域金融機関は
国際的な活動をすることを必要としない金融機関である。従って、自己資本比率に関す
る国際的な統一基準である BIS 規制8%以内は、必ずしも保つ必要の無い施策である。
従来の 4%以内で、貸しはがしや、不良債権処理等に奔走することなく、従来どおりの
積極的な融資政策を展開できるわけである。
本レポートの提案主旨は、共貨に準じる自家発行型前払証票の原資の融資を「地方債の
起債」という形によって地域金融機関に引き受けてもらい、介護保険料納付の 10%に相
当する金額、そして、介護サービス利用料金の利用者負担分に相当する全額を前払証票
で無料給付(市町村特別給付)しようとする施策である。
無料給付された前払証票は、地域商店街で日用品の購買に使用される。もしくは正規の
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共貨 WG 杉山 彰 編集
介護サービスメニューではカバーしきれない「善意の介護サービス」、もしくは「さま
ざまな社会サービス」の支払いに使用される。一度、商店街、もしくは何らかのサービ
スに使用された前払証票は、地域金融機関で現金との交換を可能とする。もちろん、前
払証票を無料給付される住民は、当該地域に住民票を移している住民であり、前払証票
を受け取ることができる住民も、当該地域に住民票を移している住民に限るのである。
地域商店街は、当該地域に法人事業税、法人住民税等の納税法人に限られているため、
地域で発行された前払証票は、域外に流出することなく何回も相互に交換されスパイラ
ル循環する。あたかも、前払証票所有者である地域住民間で資本移動が頻繁に行われ、
驚異的な成長率を実現することも不可能なことではない。
前払証票によって現金化された現金は、域外に流出しないか? 答えは否である。
前払証票の域外流出を止める手立ては無い。しかし対策案はある。共貨に準じる前払証
票を各種サービスの提供によって得たものを地方所得税とみなし、現金との換金を要求
した前払証票所有者に一律 50%を課税するのである。これを、所得が発生した地域では
支払賃金や利潤という発生した所得に比例的に課税する「所得型付加価値税」⇒「事業
税の外形標準化」を実現する。一方、地域商店街で使用された前払証票は、所得が支出
されたと見なして「消費型付加価値税」として、一律 10%を内税として課税する。前払
証票を受け取った地域商店街の経営者が現金に換金するとき、この「消費型付加価値税」
相当分を差し引かれるため、法人事業税に係る課税は免除するものとする。現在、地域
の多くの商店街で行われている共通商品券、もしくはクーポン券等の割引利率は 10%前
後であるため、「消費型付加価値税」の納税は大きな負担にはならないはずである。
新たに創出された「所得型付加価値税」、
「消費型付加価値税」は、自家発行型前払証票
を地方債と見なして起債した地方自治体において、償還時のリスクヘッジとして機能す
るようになる。起債した前払証票が現金化される時点で、個人に流れた前払証票⇒現金
化の 50%は地方税(所得税)として還流し、地域商店街に流れた前払証票⇒現金化の 10%
も地方税(消費税)として還流するのである。
さらに、前払証票が使用される各種サービスが充実し、各種サービスを受ける側に快適
なサービスとしてフィードバックされれば、前払証票が現金化される率は減少し、償還
時のリスクヘッジは大幅に改善されるわけである。また、地方自治体にとっては、地域
住民が必要とする各種社会サービスを創造し、その各種社会サービスを、NPO を通じて
普及させることが、最大使命として際立ってくるのである。
「他人の成功が、自分の成功になる社会になる」
、
「失敗を恐れずにチャレンジできる社
会になる」、「お金を使わないで暮らせる社会になる」、「女性の参加が活発な社会にな
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共貨 WG 杉山 彰 編集
る」、「生涯現役を貫ける社会になる」、「人が活き活きと働く社会になる」
「本当に豊か
な社会になる」・・・。このような社会が実現すれば、地方自治体こそが“希望の島”
を目指すための発信源としての役割を担い、やがて日本が、真の“希望の島”として、
再度“Look East”の国として見直されるに違いない。
以上
※<注>:
本レポートは、東京大学大学院 神野直彦教授が著された「痛みだけの改革 幸せにな
る改革(PHP)
」、「地域再生の経済学(中公新書)」
、
「希望の島への改改革(NHK Books)」
、
「二兎を得る経済学(講談社+α新書)」、
「人間回復の経済学(岩波新書)」
、「システム
改革の政治経済学(岩波出版)」
、
「財政学(有斐閣)」からの引用にもとづき、整理・一
部加筆したレポートである。引用・整理にあたって神野直彦教授の許諾は得ていない。
「共貨に準じる前払証票の発行と、その流通」の企画は、神野直彦教授が著述された多
くの書籍を知り得なければ考案できなかったものである。その意味において、お礼の言
葉もありません、感謝に絶えません。
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