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Bestopia
ト ピ ア Bestopia < 2015 年 5 月 > 古賀 順子 遠藤秀平パラモダン 暖冬で早い春を迎えたパリですが、5 月は冷たい雨 で始まりました。 晴れ間と小雨が交互する 5 月 6 日、6 区ボナパルト 通りにあるパリ・マラケ大学で、建築家遠藤秀平氏の 講演が行われました。 「遠藤秀平パラモダン 25/25」と 題したパリ展覧会の一環です。大阪北区に「遠藤秀平 建築研究所」が創立されて 25 年。25 年間の建築活動 を代表する 25 のプロジェクトが、コンセプト模型の 形で展示されています。期間は 4/25-5/30 (火曜日から 土曜日の 12 時-19 時)。会場は、サン・ドニ門近くの ギャラリー「AA[n+1]」(96, rue de Cléry 75002 Paris) です。 1960 年生まれの遠藤秀平氏は、 戦後のモダニズムを 再検討し、若い世代の現代日本建築家として、 「パラモ ダン」という造語を提唱、新たな形態のモダニズムを 模索、実践しています。コルゲート鋼板という安価な 土木建材を好んで選び、曲げたり、ねじったり、折っ たり、自由で開放的な形を作っています。帯状に伸び ていくコルゲート鋼板の構造体が、壁、床、天井など、 これまで不動と思われていた建築要素を再定義し、独 自の建築形態を実現しています。 特徴的なのは、建材だけではありません。無人駅の ホーム (ハーフテクチャーF)、待合室、公衆トイレ(ス プリングテクチャーH) など、小規模の公共プロジェ クトを多く手掛けています。最近では、新潟県柏崎市 にブルボン本社ビル(グローテクチャーB) が完成して います。プロジェクトの規模を問わず、建築の目的と 経済観念を考慮し、デザインやコンセプトだけが一人 歩きをしない、環境に即した建築と言えます。 ポンピドゥー・センターの建築部長で、遠藤氏の建 築を高く評価する建築批評家フレデリック・ミゲルー 氏は、今回の展覧会に際して、次のような批評を書い ています。 「遠藤秀平氏は、初期プロジェクトの時代から、明確 「 パリ通信 41 号 」 http://jkoga.com/ 平成二十七年五月 ス 第四十一号 ベ な類型学に則して建築を進めてきた。建築という言葉 自体が問題であるかのように、建築をアーチから解放 し、設立や登録といった建築の固定概念を覆そうとす る。遠藤秀平氏にとって、空間とは予め記載可能な領 域ではなく、一つの物、彼に託されたプログラムを完 了する一つの実体を置くための領域なのである。各作 品を通して試みているのは、彼が進めるプログラムに 固有の空間性を浮上させることだろう。建築本来の本 質を見出し、配置の芸術として成立するものでなけれ ばならない。建築は、空間を拘束するのではなく、置 くこと、配置することだ。遠藤氏の建築全体は、この 配置の力学追求に対応している。分離や隔離といった 建築語彙を受け入れず、建築の存在そのものとして義 務付られてきた壁を廃するかのように、シンプルな位 相手段を用いている。U-House (1988)の曲線の壁、循 環する開口部を有するこの曲線の壁こそ、遠藤氏が分 離の理論の行き詰まりを打開する解決策であった。柔 かく、柔軟性のある建材を使用することよって、壁と 覆いを区別することなく繋ぐことに成功した。(・・・) 、 遠藤秀平氏は、分割に力学的役割を与えることによっ て、建築史上最も確固たるものと考えられてきた分割 の概念を変貌させた。分割とは、内と外という絶対的 な区分を意味していた二つの空間性を分かつことでは なくなった。逆に、繋ぐための手段となり、空間全体 を明確化し、平面、床、壁、屋根を構成するだけでな く、複雑な形を形成する総称的な手段に変化する。遠 藤氏は、形態形成の近代化、および、本当の意味で総 称の建築を目指している。 」(『連続の形態学』より) 内部と外部、表と裏、相反すると思われる要素を「繋 ぐ建築」 。スプリングテクチャー、ルーフテクチャー、 ハーフテクチャー、グローテクチャー、ループテクチ ャーなど、 「規則性と多様性」をコンセプトとし、今後 も新たな建築が展開されていくに違いありません。 「遠藤秀平パラモダン 25/25」展は、ヨーロッパを巡 回しています。2014 年 6 月ミラノを出発し、スツッ トガルト、パリ。パリの後は、6 月 23 日からロンドン の「TOTO ギャラリー」で開催予定です。 ―― 平成 27 年 5 月 パリ通信 41 号 ―― ―― 平成 27 年 5 月 パリ通信 41 号 ――