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第 7章 司法書士事務所の実態 1 事務所開業の形態 ~独立開業までに

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第 7章 司法書士事務所の実態 1 事務所開業の形態 ~独立開業までに
第
7 章 司法書士事務所の実態
1 事務所開業の形態 ~独立開業までに準備すべきこと~
試験に合格後、一般的には司法書士事務所などで実務経験を積んだ上で独立開業をすることになり
ます。それまでの社会経験や実務経験の有無等によっても異なりますが、補助者等の実務経験がある
人では、研修後すぐ開業という方もいますが、実務経験がない方で、当初から独立開業を考えている
方は、最低でも1~2年の実務経験を経て開業するパターンが一般的でしょう。
司法書士試験は実務家登用試験とも言われており、実務をする上で必要となる知識は、試験の段階
で身に付けていることが前提となるため、試験に合格をしたということは実務に必要な最低限の知識
は身に付いているという建前になっております。
しかしながら、試験で試される知識と実際の実務上で必要となる知識や技能の要求が一致すること
はむしろ少ないと言えます。試験で試される知識は、法律家として必要最小限の基礎知識でしかあり
ませんので、実際の実務においては、不動産登記法の中でも司法書士試験では出題されない表示登記
に関する知識は不可欠ですし、その他、不動産取引に必要な関連法令の知識も不可欠です。また、金
融取引関連法や信託法、農地法、建築基準法、都市計画法法等の業務に関連する法知識がなければ専
門家としての信頼は得られませんので、合格後に実務の訓練をしながら学ばなければならない法律は
多々あります。また、法律上の知識だけではなく、裁判業務、特に訴訟手続きや成年後見業務では、
実際の現場での取り扱い等の実例を数多く体験し、経験を重ねることが非常に重要になってきます。
また、開業する地方での実務慣習や特殊性などもあり、それらは合格後に実際に実務の経験をしなが
ら徐々に身に付けていくことになります。
司法書士会では、新合格者を対象にして、中央新人研修とブロック会、単位会での新人研修を義務
付けておりますが、それとて、今後実務に就いたときに学ばなければならない必要最小限のガイダン
ス的な研修に止まるものですので、それを修了したからといってすぐに実務家として一人前の知識が
身に付くというものではありませんので、一定の期間は実務の修得をしっかりとしてから開業するこ
とが重要です。浅い知識で開業して一度失敗をすると、それにより実力が無いと評価されて、失った
信用は取り返しがつかないものですので、失敗しない開業準備をすることが必要です。
十分な実務経験を積んだ後には、独立して開業することが可能な職業です。
開業に際して最低限必要となる事務所の設備は、事務机、書棚、来客の応接用の椅子やテーブル等
の什器備品類のほか、パソコンと業務用のソフト、電話(固定と携帯)、コピー、ファックス、書類保
管のための金庫…等。地方であれば移動用の車も必需でしょう。また、各種の業務用の専門書籍も必
要となりますが、新版が次々と出版されますので、一度期に揃えることはせずとも、開業してから必
要に応じて揃えるということの方が適切でしょう。
ここからも分かるように、開業までの準備や負担は、一般的な専門士業の開業とほぼ同様です。賃
料等の大きな出費を抑えるために、軌道に乗るまでは自宅事務所、軌道に乗ったら事務所を借りると
いう方もおりますが、専門家としての評価対象は、まずは外形から判断されることも事実ですので、
独立開業を予定するならば、開業資金をしっかりと準備して、きちんと事務所を構えた方が、対外的
には信用されるでしょう。
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2011 士業最前線レポート 司法書士編
第 7 章 司法書士事務所の実態
⑴ 個人事務所
個人事務所として、一人の司法書士で開業する最もオーソドックスなパターンです。司法書士は一
人ですが、最低一人は、補助者を雇うことが賢明です。事務所に連絡したり訪問しても、誰も対応で
きないということは、最低限必要な事務所態勢もとれていないものと看做されて、社会的には信用さ
れません。事務補助のみならず、電話や来客の応対としても補助者は必要です。よく、仕事が軌道に
乗るまでは、事務所も設けず、自宅事務所で一人で頑張るという方もおりますが、むしろ、最初から
きちんと職員を雇って事務所の業務態勢を取った方が社会的に信用され、早く司法書士業務として軌
道に乗せることができているのが実情です。専門家としての信用は、業務知識だけではなく、安心し
て任せられる事務所態勢があるかどうかという観点から評価されることを肝に銘じておくべきです。
補助者は、試験に合格しているが登録はしていない有資格者や受験生なども多いですが、最初に雇
用する人ならば、社会経験があって電話応対や接客がきちんとできる人から選ぶことのほうがベター
でしょう。
⑵ 合同事務所
いわゆる合同事務所といわれるものには、大きく分類して、3つの形態があります。
第1は、先輩司法書士事務所に、司法書士として雇用される「勤務型合同事務所」です。この形態では、
完全に給与だけの場合と、一定部分を固定給与とし、自分の獲得した顧客の業務について一定の割合
の歩合給を得られるという半分請負型の形態もあります。いずれにしても、形式上は独立していても、
実態はボスの司法書士に雇用される形態が主になりますので、「ボス型共同事務所」ともいわれます。
第2に、いきなり個人で開業は不安、経費も抑えたいという場合、複数の司法書士でひとつのテナ
ントを借りるなどして開業することもあります。事務所スペースや光熱費やコピー、ファックス等の
必要経費は共通に按分負担するが、自分の顧客の仕事は自分で処理し、報酬請求等の会計は各自が行い、
独立採算制とする「経費共同型」の形態です。対等でかつ独立した関係ですので、同期や開業時期が
同じ場合には、この形の合同事務所が多いようです。
第3に、経費のみならず、収益も共同する完全に共同経営の合同事務所で、
「収益共同型合同事務所」
です。実際の収益配分は、業務歴や出資の多寡等により異なり様々な形態があるようですが、第2の
経費共同型と異なり、次項で紹介する法人事務所に近い形態です。
いずれの形態でも、合同事務所のメリットは、複数の司法書士がいることで、自分の経験したこと
のない仕事の依頼があった時にも、すぐそばに相談できる信頼できる司法書士仲間がいることは心強
いものです。また、病気休職の場合や、女性の場合では、出産などで休まざるをえない場合には、仲
間に仕事をお願いできるため、クライアントを失うということが少ないといったメリットもあります。
また、司法書士同士の合同事務所だけでなく、税理士や土地家屋調査士、行政書士など他士業との
異業種合同事務所とすることで、依頼者にとっては窓口がひとつで済むという「ワンストップサービス」
を提供することも可能で、他の事務所にはない特色を出すことも出来るので、近年は増加してきてお
ります。
⑶ 司法書士法人
平成 14 年の司法書士法改正により、個人事業の事務所だけでなく、二人以上の司法書士が社員とな
り、法人として事業組織を作ることが出来るようにもなりました。これにより、個人の一代限りの事
務所ではなく、法人として永続性を持った事務所を形成することが可能となり、事務所の事業承継が
2011 士業最前線レポート 司法書士編
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司法書士
可能となり、顧客の維持にも大きな効果を及ぼすようになりました。また、法人事務所は、社員司法
書士を置くことにより、複数の従たる事務所を持つことが可能であるため、同一都市や都道府県内の
みならず、他の都市や他の都道府県においても業務を行うことが可能となり、企業化により仕事の幅
を広げていくことも出来るという事業展開上のメリットもあります。
ただし、組合や合名会社と同様に、法人として仕事を受託することになるため、仮に他の社員司法
書士が業務上のミスをして損害を与えてしまった場合には、無限連帯責任となるので、信頼できる仲
間同士でないと法人化は難しいという問題はあります。
上述のようなメリットのほかに、法人化により、社員司法書士のほかに多くの勤務司法書士を雇用
して、多様な専門性を持った司法書士の合同化をやり易くできるので、司法書士法人は、都市部では
近年確実に増えておりますし、今後は、地方都市にも設立されていくことが予想されています。
また、依頼人の側から見ても、法人事務所内に複数の専門性を有する司法書士がいることによる安
心感があるでしょう。個人事務所であれば、長期の旅行などは難しいですし、その司法書士に病気等
の事故か何かあれば、途端に業務が滞ってしまうことになりますが、法人であればそのような危険が
回避できるメリットもあるのです。他にも、特定人の財産管理を行う成年後見業務の場合や、遺言執
行者の予諾を受ける場合など法人での受託であれば、1人の司法書士に万が一のことがあった場合で
も、他の司法書士が管理・対応してくれるため安心です。
2 地域特性
どのような形態の事務所にするか、ということとともに、事務所を設置する場所をどこにするか、
という点はとても重要です。都会で開業する場合と郊外で開業する場合のメリット・デメリット、田
舎でも開業して事務所が成り立つのかなど、事務所の地域特性を見てみましょう。
⑴ 都心
東京や大阪、名古屋など、大都市の都心部で開業する場合、メリットとしては住人や会社が多くあり、
仕事の絶対量が多数あることがあげられます。交通の利便性も高いので、周辺地域からも取り込める
こと、および、上場企等は大都市に集中して会社法人数が多いので、企業向けの業務が豊富にありま
すし、大規模な不動産開発事業に参加する機会も多くあります。但し、人口だけで見ると、東京の千
代田区・中央区・港区・新宿区などの都心では、司法書士1人当たりの人口は 1,000 人を下回っています。
また、業務量に比例して、司法書士数が非常に多いため、競争も極めて激しいと言えます。業務特性
に合わせて、扱う業務分野の利用者にとって利便性の高い場所で開業すべきか、自分が先方へ出向い
て対応するので多少不便な場所で開業しても良いか。幅広く何でも対応する事務所が良いのか、特定
分野に強みを持ち専門特化したほうが良いのか、競争が激しい地域であり、生き残りのために様々な
工夫が必要です。特定分野に高い専門性・強みを持つことによって成功している事務所も多くあります。
新規参入には、十分な開業準備と、数年間事務所を維持するための経費確保等の覚悟が必要です。
⑵ 郊外
都市の郊外で開業する場合、都心で開業するのと比べて大きく異なるのは、会社法人数が少ないこ
とです。したがって、企業・会社向けの業務より、個人(個人商店)向け・街の不動産屋さん向けの
業務が中心となります。不動産登記をベースにしつつ、成年後見・相続・裁判など、個人向けの業務
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2011 士業最前線レポート 司法書士編
第 7 章 司法書士事務所の実態
を幅広く対応します。特に、地域に根ざした事務所運営となります。
⑶ 地方
地方で開業する場合は、地方都市でも県庁所在地などで開業する場合には、上記(1)にやや近い傾
向にありますが、大都市の都心部ほど競争が激しくない分、仕事の量も大都市と比べれば少なくなり
ます。
全国の市区町村数 1750 のうち、司法書士が存在する市区町村は 1351 で、カバー率約 77%となって
います(平成 22 年 11 月1日現在 日本司法書士会連合会調べ)。司法書士が全くいない市区町村は
399 あります。
日本司法書士会連合会は、司法書士が0名または1名程度しか存在しない市町村、司法へのアクセ
スが困難な地域において、司法サービスの提供に積極的に取り組む司法書士及び司法書士法人を支援
しています。具体的には、司法過疎対策の一環である「司法過疎地開業支援事業」により、一定の要
件の下、当該地域において期間内に開業または開業予定の司法書士等に対し、開業貸付金及び定着貸
付金を貸与するなど、財政的な支援を行っています。
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