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人 間 工 学 研 究 と 看 護 学 ― 見直されるべき看護

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人 間 工 学 研 究 と 看 護 学 ― 見直されるべき看護
◆教 育講 演◆
人 間 工 学 研 究 と 看 護 学
― 見直 され るべ き看護技術 一
千葉大学看護学 部
看護実践研究指導 セ ンター看護管理研究部
松
岡
淳
夫
司会 み さと健和病院臨床看護学研究 所
川 島
み どり
ち,技 術 の科学 と言 える。従 って,「 看護学 は実践の
は じ め に
今 日,看 護 の科学 として,看 護学 は目覚 しい発達発
展 の過程 にある。 この事 は,数 多 くの学会や研究会 に
科学」 と言 う, と考え る。
看護学 は看護 の実践 の科学故 に,特 殊性 をその科学
見 るように,看 護 の解明 を進める活発 な研究活動が行
に唱え るものもいるが,看 護学 の発達 の過程が,他 の
われ, これを礎 に看護学 は発達 して いると考 える。
諸学 と全 く異 なる過程 では在 り得 ないと考える。
この看護 の解明の過程 は,諸 科学 を活用 した応用科
また, この技術 とい う言葉が,看 護 の中で,必 ず し
学 として,看 護事象を網羅 した原理原則を解明 し,看
も意識的に用 い られているとは言えず,行 われる手技,
護学 を綜合科学 とし体系化す る努力が積み重ね られて
手段 を,総 称 して技術 とす るもの も多 いよ うである。
熟練工の持 つ優れた技能 に対 して も,一 般 では用 い
い る。
この過程 を 「
応用科学である」 と断 じた場合, この
られ るが, この技術 の定義 によると,そ の 自然法則 の
言葉 の持つ主体性 の ニ ュア ンスカヽ 社会的 に看護 の主
知識体系を基 に,判 断,工 夫 された実践手段を言 い,
体性 を強 く主張す る立場か ら,違 和 を唱え る向 きも少
言 い替えれば,そ の科学知識 の応用活用 による実践的
な くない。
行動手段である。即 ち,看 護が技術 として成立す るに
科学 が 目的 とする領域 に対す る,実 証 された真理や,
は,看 護 を, この看護学 に依拠 した援助行動 として組
客観化普遍化 された法則性 の,領 域知識体系 とその方
み立て る,知 識 および,意 識 の体系化 が絶対条件 と言
法, と定義 されるが, この知識領域 は,更 に,そ の持
える。 そこに技術学 およびその教育が成立す る。
つ方法論 で,諸 科学応用 の錯綜 の中 に,新 知識 を加え
て,発 展,発 達 の勢 いを力日
速 して い る。
医学 が,人 間 の生物科学 を起点 に,諸 科学応用 の上
看護 の技術化 のために現在,太 古以来 の経験 に集積
された介護行為 の伝承 を離れ,ま た,そ の伝承 を教育
に言 い替 えた,単 に先達者 の直覚的 な判定 による,手
に基礎医学,臨 床医学 を発達 させ,数 学,物 理,化 学
順 を羅列 した看護認 本 による,そ の熟達を求 める立 場
か ら工学 の基礎が生 まれて建築学,土 木工学等,そ の
を脱 して,看 護学 は,看 護 の客観的概念を確立 し, こ
領域科学を成立 させている。
れを基 に,諸 科学 を応用 して客観化,法 則化 した看護
の基礎知識 (基礎看護学)を 起点 とした,そ の技術 の
1.看 護 に つ い て
体系化を目指 し,綜 合科学 として発達 していると考 え
1)看 護学 と技術 の科学
る。
この様 に見 た場合,看 護学が実践 の科学 と言 う以前
2)看 護 の力学的構造
に,看 護学 は,「 人 の健康 に関わる生活 の諸問題」を
私 は看護管理を学問領域 として看護学 に係わ るが,
起点 に,そ の解決 のため,「 その生 活 に関わる意図的
管理 の対象 は,看 護婦 が行 い,提 供す る看護の質,即
な介入 として行 われる,直 接,間 接的 な援助,対 処 の
ち看護 の効果を基礎 に,そ の効果的 な看護 の量 と,そ
方法」 の科学であ り, これを基礎 に,そ の実践化,即
の看護を取 り巻 く環境を制御す ることと考えて い る。
日本看護研 究学会雑誌 Vol.13 No l 1990
人 間工学研究 と看 護学
そこで,看 護効果を生 じる機構 を,構 造的 に要約 し
方法論を教育工学 とするのときわめて似通 った見方 と
て,考 える必要 に追 られ る。
私 は,管 理の対処 は,図 に示す, システム構造 の作
用力学 と考えている。 (図 1)
図 1
言 え る。
.
看護 CARE― DYNAMICSの
R=a巨
言 う語意を考 えている。 この見方 は,教 育学 での教育
構造
(N,C)
2 . 人 間工 学 につ いて
一方,工 学 の領域 では早 くか ら,人 と機械や道具 と
の関係, または,人 と空間,環 境 との作用関係 を人間
工学 の領域 として解明 して きて いる。
ボデ ィーメカニ ックと言 う言葉 が,人 間工学 と,殆
N
ClientのNeed
C
看護 の Care技 術
E
取 り囲む諸環境因子
ど同義語 と して,看 護 で もよ く使 われる。 これは人 の
a
等号 を成立 させ る為 の関係係数
動 きや,働 きについて,解 剖生理学的 な構造機能 を動
(松岡 :実験看護学成立のために ;日看研誌V-11982)
力機械 として,そ の機械的能率を明 らかにする領域で,
この中で,看 護技術 (C)は ,看 護す る技術者 が行
人間工学 の中の,人 に係わる 1つ の領域である。
その人間工学 は,テ ー ラーの工程課業管理 (1885)
うもので あるが,看 護学 をその内面で作動 し (看護 プ
に於 ける作業研究 として,時 間研究 や,そ の流れの中
ロセス),援 助行動を出力す る機能体 と言え る。 │
にある,ギ ル ブレスの動作研究 (1885)の理論や方法
即 ち, この機能体 が,中 にある看護学 に依拠 した,
観察,評 定診断,計 画 のプロセスを経 て,そ の意志決
がその基礎 をな し, これ ら研究 の発展 に,更 に諸科学
領域 が加わ って人間工学が生 まれ, この人間工学 とい
定 で生 み出され る看護行動 を,対 象 に生 じた ニ ー ド
う用語が広 く用 いられ,学 問領域 としての確立 は1950
(N)に ,適 正に出力す ることで看護 が成立 す ると考
年以降,今 世紀後半 と言 える。 (図 2, 3, 4)
える。
この為 に,確 認 された看護 ニー ドと, それに対す る
人間工学 とは,人 間 の作業能力 とその限界を知 っ
看護援助 との予 め確認 された適合関係 が,明 白でな く
て,仕 事を人間の解剖,生 理,心 理学的な諸特性
て はな らない。
にさせてゆ く科学 である。
(小原二郎 :建 築 ・室内 。人間工学 よ り)
この適合関係 の基礎か ら実践 に至 る法則性の,体 系
化 された知識 が看護学 と考え る。
私 はこの適合関係 の実践 に於ける状態 レベルを,看
護 の効率 と呼んでいる。
効率 は,機 械工学 での用語 であるが,効 率 の高 い機
米 国 :工 学 に於 ける Human Factors
→ Human(Factors)Engineering
欧 州1:医 学 よ り派生 した,人 ―
機械系 での,人
の出す力 の法則
→ ErgonOmlcus
械 が,そ の工程効果 を向上す るように,効 率 の高 い看
護技術 (C)の 出力 は,看 護効果 を向上す る。 この場
合,機 械 と人 の技術行為 を,同 一視 で きない と言 う直
(大島正光 :人 間工学 より)
覚的 な誹謗を受 けると思 うが,看 護婦 の行 な う技術を
抽象化 して, 目的効率 を生み出す機能 システ ムと見 る
図 2 人 間工学 の定義
ことが便利である。 この様な,ニ ー ドと看護技術 の効
≪作業研究 の領域 ≫
テイラーに始 まる課業管理 に於 けるの作業 の時
率関係 に,更 に,至 適な環境 (E)を 与え ることで,
看護効果をよ り高 め,確 実 とする事 が出来 る。
即ち, この図式 システ ムの効率関係を,外 的 に コン
トロール して,夫 々の効率向上を図 って,看 護効果 を
向上 させ るのが看護管理 と考 えている。
このシステムカ学的,即 ち工学的な考えの中 に,私
は看護管理 に,看 護 工学,Nursing―Engineeringと
間研究 (1881),
ギル ブレスの,工 程分析 の流れ に於ける動作研
究 (1885)
これ ら作業研究の方法 と理論が基礎を築 いた。
《医学領域 か ら≫
日本看護研究学会雑誌 Vol.13 No l
人 間工学研究 と看 護学
解剖学,生 理学,衛 生学が古 くか ら,人 間 の係
わ りの分析 の基礎的領域
特 に,運 動生理学,神 経生理学,人 体計測
私 はこの様 な考 え方 で,私 の グル ニプと行 うて きた,
人間工学的な研究 と,そ れに関連 した研究を紹介 しな
が ら,看 護技術 の体系化へ の研究 の道筋 と,考 え方 を
学 は重要 な柱
述 べ たい。
≪実験心理学 の領域か ら≫
1)洗 髪 とその看護用具
戦時中軍事上,兵 器 の設計 に実験心理学 の研究
高価 な洗髪車 は,ケ リーパ ッ ト (K.P)と
共 に臥
が必要 とな った。
床洗髪 の看護用具 とされ,看 護技術教本 で も,便 利 な
時間,空 間等人間 の能力を超える機械 の設計 に
用具 とされているが,患 者 か らは,洗 髪車洗髪 は好 ま
この研究が必要 とな った。
れな い様 である。
製品 の利用 において この領域 の研究が重要
な位置づ け。
人間工学的実験 として,条 件 を統一 した臥床洗髪を,
用 いて行 い,両 者 にお け る被験 者 の
1'2)。
関連諸筋 の筋電図を比較検討 した
洗髪車,K.Pを
《制御工学領域 ≫
自動制御,手 動制御機器 の基礎 は,人 間工学 に
於 て,最 も重要 な工学的基礎 である。
洗髪車 の場合,K.Pに
較 べ胸鎖乳突筋及 び腹 直筋
に洗髪前 の 3∼ 5倍 の筋電図波棘 が見 られ,強 い筋緊
張がみ られた。 これは,被 験者 の実感調査 と同 じであ
《環境工学,安 全工学,労 働科学,産 業衛生学,
る。即 ち,洗 髪車 の構造が頭部 の固定を不安定 とし,
公衆衛生学等か ら≫
安定維持 のための被験者 の緊張 と考える。
洗髪車 は一見,温 水 シャヮーの備わ った移動性 の洗
≪ イ ンダス トリアルデザイ ン領域か ら≫
単 に美観や商業主義的な ものか ら,利 用者 の立
場 に立つ研究領域を築 いた。
図 3 人 間工学成立 母体 とな った学問分野
髪槽 は施行者 の便利性 はあるが,患 者 にとって,不 安
定性やそれ による苦痛 に対す る看護的,人 間工学的検
討 の未熟 な看護用具が看護 の中では推賞 されて いたと
いえ る。
,
これに対 し,古 典的 なK.Pは ,構 造 の見掛 けや,
人間 の特性 を取 り入れ た,
1)安 全性 の確保
2)疲 労 の軽減
3)信 頼性 の向上
4)使 い良 さの確保
5)快 適 さの確保
6)能 率 の向上
水 はけはともか く,患 者 にとってよ り安楽,合 理的な
ことを, この結果 か ら明 らかにされる。
一方, この実験 に同時 に測定 したエネルギー代謝や
脈拍 の変化 か ら,洗 髪車 の場合 に負荷 が多 くなる傾向
がみ られた。
これ らの一連 の人間工学的実験 は洗髪技術 の効果 に
関す る重要 な基礎成績 を提供 して い る。
2)包 交車,手 術機械台
7)経 済性
│
外科 などで広 く用 い られる包交台や処置台,機 械台
8)保 全性
については,作 業台 としての機能 と,物 品材料 を清潔
(大島正光 :人 間工学 より)
図 4 人 間工学 の目標
不潔領域 を明確 に区分 して整理収納 して移動設置す る
機能 を持つ用具である。 これが現場 の工夫 によって仕
様 が多様 で,車 台天盤 の高 さも種 々 とな り,作 業台 の
高 さの標準 は工 業規 では75cmのものが,時 には95cmの
3.看
護 技 術 と人 間 工 学
もの もある。 また手術室などで高 さに差がある状態で,
看護学 に於 て,人 間工学研究 として先ず考え られる
複数 の機械台 を用 いて手術介助 が行われている。
ものは,看 護用具や患者 の療養生活用具 の;患 者,看
護婦 の使 い勝手 に関す る,合 理性,安 全性や,便 利さ,
包交車 の高さ,作 業台 の高 さの差 による作業 への影
響を,画 像解析 による作業姿勢研究 として行 ってきた。
安楽 さ,疲 労 の軽減 に関する研究 になると思 う。
この天盤 の高 さが,そ の作業 に不適合 な場合, また,
日本看護研 究学 会雑誌 Vol.13 No l 1990
人間工学研究 と看護学
その組合せによる高 さの差 は,台 上 の物品材料 の取 り
更 に進めて,褥 創予防具 の円座 と体圧 の関係を同様,
出 し操作,特 に無菌的操作 に影響 を及ぼ し, これを避
けて,意 識的,無 意識的に努力操作 とな り疲労 に連 な
体圧測定 と容積脈波 を測定 して,円 座内圧 との関係 を
実験的 に検討 した6)。
る事 となる。 日常,不 特定多数 の看護婦 による病棟で
円座 の内圧が高 い状態では,そ の ドーナ ッツ中心部
の介助 の場合 の包交処置台 は勿論,手 術介助で の 2枚
の体圧 は軽減 されるが,円 座 の支持部での体圧 は高 く
掛 け, 3枚 掛 け機械台が併用 される場合 の問題 として
3,4)。
考察す る必要 がある
なり,20mmhgに 近 い値 とな った。 この皮膚血流脈波
この様 な平易運動域を超える運動や,固 定 した位置
り,末 梢血管抵抗 の増大 または,細 動脈管伸展抵抗 の
での姿勢 の変動 は,そ れが重なることで,疲 労 に連な
増大 による血液流出速度 の低下が窺われる。 これ と皮
には,波 高 の低下,波 頂上部 の平坦化をみるものがあ
り,行 為 の誤操作を生 じる事 となる。看護管理上,看
膚細静脈圧が12mmhg,と 言 われてい ることか ら, そ
護婦 の疲労 が重要 な問題 とな ってい るが,看 護 に於 け
れ以上の体圧 が円座 によって皮膚 に加わ り,細 静脈 が
る技術 の作業研究 は乏 しく,疲 労原因 の改善 の根拠 の
圧平 され,欝 血 の状態 が生 じたと考え る。
得 られないまま看護婦 はそれ らを受 け入れ,耐 えてい
日常,褥 創 が発生 し,円 座を使用 した場合,周 辺 の
ると言える。
浮腫が進み,褥 創 の進行に遭遇することが あるが, こ
3)褥 創看護 の基礎
の場合,看 護技術 と して,円 座 の及 ぼす影響 とこの発
患者 の 日常生活 の場 であるベ ッ ドと,臥 床について,
同様研究 の対象 とし,そ の一 つに,褥 創 の形成 とその
生す る機序 を留意す る必要 がある。
予防具 について検討 した
い 5)。
先ず,褥 創予防 の基礎研究 として,畳 上 を基準 に,
スプ リングマ ッ ト上, 日本式木綿布団上 での臥床時,
ベ ッ ド寝具 と体 の間 に生 じる体圧を測定 した。 これと,
これ らは,褥 創看護 の基礎 として,皮 膚加圧装置 を
作 り,家 兎 の耳翼皮膚 に 1∼ 4時 間 の圧迫を加えた阻
7),圧
血実験で
迫部 の組織像 に早期 か ら強度 な浮腫像
がみ られたことに一致する。 また, この家兎耳翼 によ
る実験で は,阻 血圧 を境界域圧 (20mmhg), 中 等度
実験的 に仙骨部,膝 蓋骨部 に加重 し,骨 との間 に挟 ま
(40mmhg)高 度圧 (60mmhg)と し,圧 迫時間及び,解
れて生 じた皮膚血流 の変化を,容 積脈波計 を用 いて計
放時間 の関係 を検討 したが,時 間経過,圧 迫強度 に関
測 し,脈 派 の消失 までの変化 と加重を換算 して,体 圧
連 して,組 織 に炎症細胞の浸潤が進み, これは解放 1
と血流の関係を求 め, これを基 に褥創好発部位 の意味
時間後 では全 く修復 しないことが明 らかになった。看
を検討 した。
護技術 での, 2時 間を限度 とした体位交換は,単 純 に,
褥創好発部位 の体圧 は,畳 上での40∼120mmhgの 高
圧が,布 団, ス プ リングマ ッ トの順 に低下するが,尚 ,
体重 の限局的支点 となった後頭部,仙 骨部,臀 部,踵
部 では,尚 高 い体圧 が残存 し, これ らは加重実験で の
血流脈波 の消失 した加重か ら換算 した局所体圧,208
∼25 9mmhgを遥かに超え るものであ った。
体位交換 のみで は, こ の非回復性 の組織変化が反復累
積す ることとな り,妥 当性 に乏 しく,局 所の循環刺瓶
マ ッサー ジ,温 湿布 の併用が不可欠 といえる。
私達 は, この褥創看護 の研究 の一連 に,市 販 の波動
型褥創予防用 エアーマ ットの特性を,同 様 の人間工学
看護成書では,私 の見 た限 りでは,褥 創好発部位 の
記載 と, そ の部位 に加わる圧の軽減のため,良 質のベ ッ
的研究方法 で明 らかに しその問題点を,看 護研究学会
8,9)。
及び医療機械学会 に報告 したい
また,寝 具 メーカーの予防 マ ッ ト新案 に協力 して,
ドの使用や,パ .ントや円座の使用や,特 殊 につ くられ
その素材や構造の確立 に必要 な資料 を, この実験方式
た空気 マ ッ ト等 の勧 めに終始 してお り, ま た, 2時 間
を超えな い頻回 の体位変換 の必要性 と,局 所 の血行刺
激,清 潔維持 に, ア ルコール清拭や,温 湿布 の有効性
で,繰 り返 し行 なって提供 し,そ の成果 について も同
Ю)。
様学会 に報告 してい る
4)看 護技術 の シュ ミレー ション
について,手 技 として説明されているに過 ぎない。そ
これ らの成果 は,単 なる応用で はな く,境 界領域研
して,褥 創発生 に関す る診断的根拠 としての,体 圧 に
ついての記載 はもとよ り,そ の測定器 として既 に市販
究 として,人 間工学領域 に重要な資料 を提供す ると共
に, シ ュ ミレー トされた看護 の 目的が らは,看 護学 に
されてい る体圧計 について触れた ものはない。
技術記載 に重要 な知見を提供 してい る事 が分 か ったと
日本看護研 究学 会雑誌 Vol.13 No l
人 間工 学研究 と看護学
で,あ えて私 の研究を羅列 したのは,10年 前, この学
思 う。
更 に進 めて,看 護 が看護婦,即 ち,技 術機能体 の出
会 シンポジウムで,「 実験看護学成立 のために」 と題
力 とみて,そ の性能,出 力 と患者 との影響関係 として,
して,実 験計画 には,対 象 とす る事象の,看 護 におけ
この実験研究 の組立 が適用 で きる。
る座標位 置 を明確に した枠組み に従 って展開 しな くて
熟練看護婦 を被験者 に,頸 椎術後等 で頸部 の安静固
はな らないと述 べ た。 これに従 って行 って きた人 間工
定患者 に行 う便器挿入時の,介 護技術を シュミレーショ
ン実験 し,そ の影響 を検討 したH)。
学的 な研究を示 し,研 究 の方法 の系列 を述 べ たか った
頭頸部運動 に関与す る胸鎖乳突筋,頭 板状筋,僧 帽
この様 に検証す ると, うかつに も未知な こと,更 に
筋 の筋電図を測定 しなが ら,教 本 に従 った便器挿入を
理解を深めた事等,多 くの知識が獲 られ, この知識 の
1名 及 び 2名 介助 で行 わせ,そ の間 の諸筋 の緊張状態
を見 た。予 め介助者 は体 の力を抜 き,首 を絶対 に動 か
か らである。
集積 が看護を技術 を確立す る基礎 となる。
私達 が看護技術 とす るものの中 には,未 知 の部分が
さないことを指示 したが,腰 の介助挙上時 には,各 筋
に,そ の 自由運動時 のほぼ2/3強の筋活動電位が,腰 挙
看護独 自の もののみな らず,看 護 の環境 や,看 護 に介
上 の高 さとは関係な く, ま た,肘 を曲げた場合,及 び
在す る医療用品 について,ま た,援 助対処す る方法 に
山積 している。特 に,看 護 に関わる器具,物 品では,
2人 介助 の場合 に,諸 筋 の緊張 が増 した。被験者 の暗
ついて もその関わ りの中に,多 くの問題点や,技 術的
黙 の協力意志 によるもの と考える。被験者が このシュ
ミレー ションの,理 解 で きた看護婦であ り, こ の筋緊
未知 な部分 が多 い。
張 の出現 は,患 者 に対 しては,漫 然 とした説明による
りF便介助では,頸 部安静固定 に影響 を及 ぼすことが考
性 だけでそれを行 な う看護を,科 学技術 と考え ること
は,看 護 の一人 よが りの謗 りは免れない。 この解明 と,
え られ,術 前 の指導や便器挿入訓練等 の必要性 に連な
技術化を進 める場合,人 間工学的思索 は,ひ とつの応
る。
用す る学 問領域 と言える。
人間工学で作業心理 の動 きの指標 に用 いる,視 線運
動,瞬 き,注 視 の測定を コ ミュニケー シ ョン要素 の測
もし, これ らを解明 しないまま漫然 と関わ って,感
人間工学 は,機 械,道 具や工程での人 の能力関係を
中心 に,諸 科学 の境界領域 を集束 した学問領域である。
定 に使 って装置 し,看 護婦 の面接位置の検討を行 って
い る12,13,ll)。
築計画学 に於 いて,最 も新 しい趨勢 と聞 いている。 こ
ベテラ ン看護婦 での シュ ミレー シ ョン実験での,諸
の人間工学 に於 いて,最 も不足するのは患者 の療養生
病院設計に,病 室空間の患者中心的な再検討が,建
看護行動 の効率解析 の可能性を示唆 している。
活 に於 ける態度の科学的な情報 で, これは当然看護学
が提供すべ きものと言える。看護の概念 のない,工 学
4.ま
における調査か らは, また,再 び現在見 られて い る病
と
め
人間工学 と看護 という大変 な主題で,そ の関係 の道
標 べを述 べて きたが,各 々の学問領域 には,そ の領域
院 の再現 に連なると考 える。
概念 による方法論 で体系 が積 み上 げ られてお り,そ の
これに協力す る看護 の研究者 も見 られるが, これは看
関係などはうかつに述べ ることは許 されない。
護 の概念か らは程遠 い,看 護 の研究者 とは言 えない者
そこで,必 要か ら,人 間工学 を垣間見 た知識 で,看
護 の技術 の一端 について,そ の効率を検証する研究 を
たちと考える。
“
進 めていることか ら,副 題を 見直 され るべ き看護技
"と
したが,現 行 の看護技術 が間違 ってい る等 と言
術
うつ もりは,更 々ない。技術化 への視点を考えたいの
目指すあまり,諸 科学 の学際を恐れ, 目を覆 って逃退
食 い的な活用 しようとするものがいる。頭 の中で, 自
である。
分 に言 い聞かせ るには十分ではあるが,諸 科学 の中 に
本学会での研究報告 の多 くは夫 々,看 護 に科学 のメ
工学系 の人間工学 か ら看護 ロボ ッ トの発想 もあり,
′
また,看 護学 の研究者 の中には,看 護独 自の科学 を
き,そ の利用で きると考える部分 のみ,勝 手 につ まみ
独 自性 の確立 はおろか,看 護 の学問的孤立性 のみを拡
スを加え,技 術 として客観的知識化する研究の集積で,
大す る事 となると考 える。看護学 における研究 には,
私が紹介 した もの以上 に立派 な もの と考える。 その中
その思索を境界領域 に求 めて拡大す ることが,逆 に看
日本看護研 究学会雑誌 Vol.13 No l
人 間工 学研究 と看護 学
護独 自の科学 の充実発達 に連なる事 と考え る。
日看研誌 Vo1 6-3,82,1983
謝辞 :こ の教育講演 の機会 を与 え られた,本 学会会長
8)川 □孝泰,金 子裕行,永 井祐子,上 野義雪,松 岡
内海滉教授,司 会 の労を頂 いた川島みどり先生 に心か
淳夫 :褥 創好発部位 における寝具 の温湿度変化 に関
ら感謝 します。
す る検討, 日看研誌 Vo1 7 4,40,1985
9)川 口孝泰,松 岡淳夫 :褥創予防具 RBエ アーマ ッ
トの実験 的検討,医 器学会誌 V0156-3,12,
参 考 文 献
1)望 月美奈子,中 村喜代美,松 岡淳夫 :洗髪機器 に
於 ける人間工学的考察 (第 1報 ), 日 看研誌 Vol
1986
10)加 藤美智子,川 口孝泰,松 岡淳夫 :褥創予防用マ ッ
トレスに関す る実験的検討, 日看研誌 Vol 10-3,
7-3, 27, 1983
2)中 村喜代美,望 月美奈子,松 岡淳夫 :洗髪機器 に
於 ける人間工学的考察 (第 2報 ), 日 看研誌 Vol
19_2, 82, 1983
24, 1987
11)皆 川尚子,松 岡淳夫 :腰挙上 が頸部固定 に及ぼす
影響, 日看研誌 Vol 12 3,52,1989
の高 さについて, 日看研誌 Vol 10 1,80,1987
12)渡 辺英俊,川 口孝泰,加 藤美智子 松岡淳夫 :ベ ッ
ドサイ ド面接場面 における対人距離 。相対角度 の検
4)横 山はるみ,松 岡淳夫 :手術直接介助時 の器械台
と2枚 台高 さと姿勢 ―高 さの差の影響 について 一,
13)伊 井直美,川 口孝泰,松 岡淳夫 :ベ ッドサイ ド面
3)伊 藤すず子,松 岡淳夫 :包 交時看護作業 と回診車
討, 日看研誌 Vo1 10 1,81,1987
日看研誌 Vol ll-1, 2,21,1988
接場面 にお け る対人距離 の検 討, 日看研誌 Vol
lする基礎的研
素 卿,松 岡淳夫 :褥創予防 にl■
一
究 (第 報),千 葉大学教育学部紀要 30巻 2号 ,
12_臨増,101,1987
5)陳
14)大 前旬子,川 口孝泰,松 岡淳夫 :ベ ンド間隔が個
人空間 の意識 に及 ぼす影響, 日看研誌 Vol 12_臨
293, 1981
6 ) 鈴 木 とよ子, 松 岡淳夫 : 円座使用時 の局所 に及 ぼ
す影響 ―特 に中心部血流 につ いて 一, 日看研 誌
た
ヽ
ol ll-1-2, 32, 1987
7 ) 川 口孝泰, 松 岡淳夫 : 褥創予防 における体位変換
時間 の検討 一家兎耳翼加圧 による組織変化 よ リー,
増,137,1987
15)川 口孝泰,松 岡淳夫 :病室 におけるテ リトリー ・
プライバ シーに関す る検討, 日看研誌 Vol 12 1,
74, 1987
日本看護研究学会雑誌 Vol.13 No l
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