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がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割

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がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
日 本 公 衆 衛 生 協 会
平成15年度(2003年度)助成
調査研究報告
がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
──介護保険によるがん終末期ケアの可能性──
デイホスピス研究委員会
デイホスピス研究委員会構成
(順不同)
《研究総括者》
加藤 恒夫
かとう内科並木通り診療所院長
《研究アドバイザー》
池上 直己
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授
《研究参加者》
佐藤 涼介
佐藤医院院長
長谷 方人
聖ヨハネホスピスケア研究所
野村 佳代
岡山大学医学部保健学科母子看護学講座
斎藤 信也
高知女子大学大学院健康生活科学研究科、看護学部、教授
田村 里子
東札幌病院診療部部長、MSW課課長
岡 村 仁
広島大学大学院保健学研究科教授
香川 優子
元かとう内科並木通り診療所リハビリテーション科科長
古口 契児
かとう内科並木通り診療所医長(研究当時)
(現 福山市民病院緩和ケア科科長)
荒尾 晴恵
兵庫県立看護大学(研究当時。現 兵庫県立大学看護学部)
《研究協力員》
竹 旬 子
佐藤医院看護師
青木 淳子
佐藤医院看護師
青野 知惠美 かとう内科並木通り診療所ボランティア事務局
赤瀬 佳代
かとう内科並木通り診療所看護師
阿野 幸恵
かとう内科並木通り診療所作業療法士
大野 慶太
かとう内科並木通り診療所医療ソーシャルワーカー
田中 由佳子 かとう内科並木通り診療所看護師
麦田 ちさと かとう内科並木通り診療所看護師
デイホスピス研究委員会
横 田 玲
かとう内科並木通り診療所作業療法士
〒702--8058 岡山市並木町2丁目27 -- 5
横山 幸生
かとう内科並木通り診療所ケアマネージャー
(
内科並木通 診療所内)
Tel: 086--264--8855 Fax: 086--264--8846
Ⓒ Copyright, Dec. 2005 (PDF edition 2)
2 3
デイホスピス研究委員会 調査研究報告
がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
──介護保険によるがん終末期ケアの可能性──
●
目
次 ●
デイホスピス研究委員会構成 ................................................................................................................................................ 3
Ⅴ 通所リハビリテーション利用における.................................................................................................................... 49
謝 辞 ............................................................................................................................................................................................ 6
「がんと非がんのケアミクス」の利用者の心理特性とグループダイナミクス
岡 村 仁 広島大学大学院保健学研究科教授
研究の目的と背景──まえがきにかえて ................................................................................................................... 7
デイホスピス研究委員会総括者 加藤 恒夫
Ⅵ 終末期ケアにおけるリハビリテーション .............................................................................................................. 53
かとう内科並木通り診療所院長
報 告 書 の 総 括 ................................................................................................................................................................ 13
香川 優子 元かとう内科並木通り診療所リハビリテーション科科長
Ⅶ 通所リハビリテーションの職員に対するがん終末期ケアに必用な教育 .................................... 61
デイホスピス研究委員会総括者 加藤 恒夫
古口 契児 かとう内科並木通り診療所医長(研究当時)
(現 福山市民病院緩和ケア科科長)
かとう内科並木通り診療所院長
Ⅰ 通所リハビリテーション利用によるがん終末期ケアの可能性と限界 .................................... 22
Ⅷ 見 学 報 告
医療面: 佐藤 涼介 佐藤医院院長
Ⅷ-1 通所介護事業所が提供するサービス:在宅緩和ケアセンター
社会面: 長谷 方人 聖ヨハネホスピスケア研究所
──通所リハビリテーションとの共通性と相違性
虹 ................................. 65
田村 里子 東札幌病院診療部部長、MSW課課長
Ⅱ 通所リハビリテーションを利用した.................................................................................................................... 27
がん終末期患者の家族に対する面接調査
野村 佳代 岡山大学医学部保健学科母子看護学講座
Ⅲ 岡山県下の通所リハビリテーション事業所における ............................................................................ 34
(がん患者に対する)医療サービスの実態調査
斎藤 信也 高知女子大学大学院健康生活科学研究科、
看護学部、教授
Ⅷ-2 緩和ケア病棟が提供するデイホスピス:坪井病院 ............................................................................ 68
長谷 方人 聖ヨハネホスピスケア研究所
Ⅷ-3 神経内科の通所リハビリテーション:松戸神経内科 ...................................................................... 71
阿野 幸恵 かとう内科並木通り診療所作業療法士
Ⅷ-4 訪問看護ステーションが提供するサービス: パリアン における実践 ...................... 73
──通所リハビリテーションとの共通性と相違性
Ⅳ 介護保険の持つがん終末期ケアにおける限界 ............................................................................................. 47
赤瀬 佳代 かとう内科並木通り診療所看護師
──ケアマネジメントの可能性と限界
田村 里子 東札幌病院診療部部長、MSW課課長
4
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
研究の目的と背景──まえがきにかえて 加藤恒夫
5
研究の目的と背景──まえがきにかえて
謝 辞
デイホスピス研究委員会総括者
加藤 恒夫
本調査研究を開始するにあたり、慶應義塾大学医学部医療
政策・管理学教室の池上直己教授にアドバイザー就任をお願
1 はじめに
いし、ご快諾いただいたところから活動はスタートした。研
究委員会発足当初より幾度も委員会開催地に足を運んでいた
だき、研究計画から最終報告まで全ての過程において的確な
ご指導をいただいた。本調査研究は、池上教授のご指導なし
では成立しなかったといっても過言ではない。報告終了後の
今、改めて池上教授に深く御礼申し上げる次第である。
平成16年7月に公表された厚生労働省の『終末期医療に関する調査等検討会報告書─
─今後の終末期医療の在り方について』によれば、自分が痛みを伴う末期状態(死期が
6カ月程度よりも短い期間)の患者になった場合、多くの一般国民は、自宅療養をした
後で必要になった場合には緩和ケア病棟又は医療機関に入院する(48%)
、あるいは、
なるべく早く緩和ケア病棟又は医療機関に入院することを希望している(33%)
。一方、
おおかたの予想に反して、自宅で最期まで過ごしたいという人は少なかった(11%)
。
この結果は、一般国民が在宅で終末期を迎えるのを望んでいないと解釈するよりも、
家族の負担への配慮や、在宅療養資源へのアクセスの困難さにより、施設での最期を選
んだという見方もできる。同じ報告書で医師や看護師からの回答では、在宅での最期を
また、本調査研究の基礎となる「通所リハビリテーション
における患者の比較検討票」の作成にあたっては、兵庫県立
看護大学の荒尾晴恵氏のご協力を得た。荒尾氏は、調査研究
期間の途中でアメリカに留学されたため、後半の研究活動に
は参加できなかったが、荒尾氏の協力抜きには、本調査研究
は成し遂げられなかったであろう。改めて御礼申し上げる。
希望する比率が高いことも、これら医療の内部にいる者には、利用可能な在宅医療資源
が把握できているからだと考えれば、在宅での終末期ケアを阻害する因子をとりのぞく
ことが、国民のニーズに叶うはずである。
同報告書においても、
「⑴自宅で麻薬製剤を適正に使用して疼痛緩和ができる体制を
推進する、⑵ごく短期間で在宅療養の体制がとれるようにする、⑶終末期のがん患者を
対象とした通所サービスや短期入所(院)など家族の精神的、身体的負担の軽減等の対
策を進める、⑷在宅での緩和ケアができる医師や看護師を確保する、⑸地域において、
診療所、訪問看護ステーション、緩和ケア病棟が連携したシステムを作るといったこと
が実現できれば、家族の負担等も軽減され、より多くのがん患者が在宅で最期を迎える
ことができると期待できる」との提言がなされている。
一方すでに、施行5年目を迎えた介護保険制度のもとで、通所リハビリテーションの
利用者としてがん患者が相当数含まれている可能性がある。すなわち、在宅緩和ケアを
推進する上で、こうした既存の介護保険制度を利用したいわゆる「デイホスピス」とし
ての通所リハビリテーションが有用かどうかについては、大変興味がひかれるところで
ある。
そこで、まず、終末期がん患者の利用があった通所リハビリテーション事業所におけ
る事例の詳細な調査とワークショップ形式の討論により、現行の介護保険制度下でがん
6
研究の目的と背景──まえがきにかえて 加藤恒夫
7
患者が通所リハビリテーションを利用する上での問題点と課題を把握し、それに対して、
や施設を利用したサービス(「高齢者デイサービス」や「通所リハビリテーション」
)
制度の修正で対応可能か、あるいは新しい制度が必要かどうかを検討した。
にがんの終末期ケアを付け加えるかは、医療・介護に投下できる資源が限られている現
さらにこれに加えて、分担研究者により、⑴通所リハビリテーション事業所における
状では、熟考を要する問題である。また、がん以外の疾患で死亡する3分の2の国民と
がん患者の利用実態に関するアンケート調査、⑵通所リハビリテーションを利用したが
の間での、資源配分の衡平性の観点も必要である(衡平性については20ページの参考文
ん患者・家族への面接調査、⑶通所リハビリテーション利用における「がんと非がんの
献3、4を参照)
。
ケアミクス」の利用者の心理特性とグループダイナミクス、⑷介護保険の持つがん終末
期ケアにおける限界:ケアマネジメントの可能性と限界、⑸通所リハビリテーションの
2 -4 緩和ケアの対象をがんのみにとどめるか、それともその他の疾患に拡大するか
職員の終末期ケアに対する意識と今後必用な職員教育、⑹終末期ケアにおけるリハビリ
終末期患者の緩和ケアニーズは、がんのみに限らず、その他の疾患においても幅広く
テーションの意味するもの、⑺参考となる施設の見学・調査報告、の各調査研究を行い
あることは、既に諸外国の調査で認められているところである。そして、ホスピス・緩
総合的な検討を行ったので、以下報告する。
和ケアの流れは、確実にがん以外の疾患をも含める方向で進んでいる。その点からみて
も、フランスの緩和ケア政策のように、既存の施設とケアの体系を使ってがん患者の終
末期ケアを行うことは、単に資源の有効活用という点だけではなく、緩和ケアを着実に
2 がん終末期ケアをめぐる実状と課題
他の疾患にも広げてゆくことに繋がると考える。
2 -1 減少しているかに見える在宅ケアの希望者
2 -5 なぜ、通所リハビリテーションか
日本の緩和ケア施設(以下PCU)は平成2年の診療報酬で緩和ケア病棟入院料が認
上記のような理由から、私たちは、現在の通所ケア体系の中で多職種がチームとして
められて以来、増加の一途をたどり、平成16年4月にはすでに128施設を超えた。しかし、
かかわり、医療との介護の関連性の高い通所リハビリテーションサービスに着目し、そ
PCUを利用できる患者人口は増えているものの、そのうち在宅で最期を迎えることの
こにおけるがん終末期ケア及び非悪性疾患の終末期ケアの可能性について検討した。
できる人たちの人数はむしろ減少傾向にある。また、日本のがん患者の在宅死の割合は
英米に比べて極度に低く、厚生労働省の統計によると、その割合は年を追って減少傾向
にある。しかし、統計の別の見方をすると、約6割の人たちは在宅ケアが実現可能だと
3 調査研究の手法
思えば自宅にいることを選ぶだろうとも考えられる。
3 -1 通所リハビリテーションを利用して終末期を過ごしたがん患者の症例14例の特徴
2 -2 がん患者デイケアは在宅ケアを支援することができるのか
終末期医療の在宅ケアを支援する仕組みの中にはさまざまなものがあるが、今回の調
査研究では「がん患者のデイケア」に焦点をあてることにしている。それは、このケア
を、共通項と個別項に分けて、肉体的、社会・心理的、そして、たましいの問題とそ
れに対する医療・看護の対応方法として、あらかじめ研究協力委員で抽出し、それを
全体討議で比較検討した。
の枠組みは、英国を中心として1990年代に著しく普及し、在宅ケアを支えたとされてい
るものの、日本では、ようやくその必要性が語られ始めたばかりで、まだ実践の段階に
は至っておらず、その効用も未知数といわざるをえないからである。
3 -2 平成16年6月から9月まで、計4回、14例の症例検討を済ませ、研究委員の中で
通所リハビリテーションと終末期がん患者のケアにかかわる共通の理解ができた後、
研究委員及び研究協力者を交えて、
「終末期がん患者の通所ケアの必要性と有効性」
2 -3 新しく終末期がん患者のデイケアの体系を作るのか、それとも既存の資源を利用す
というテーマで自由討論を行った。その議事録の中から、上記テーマにかかわるキー
るのか
ワーズ95項をKJ方により拾い出し、それらをさらにまとめて比較・検討項目のカテゴ
英国の調査によると、ホスピスができるとその周辺地域での在宅ケアの割合が減少す
リーとした。それらは以下の通りである。
るとされている。そして、1980年代末には既に、これ以上のホスピスは必要ないと結論
《最終的に抽出されたカテゴリー》
付けた報告書も提出されている。つまり、その時点での既存の資源を有効に活用すれば、
⑴ ニーズとそれへの提供内容:患者間比較、
がん終末期ケアは十分に可能であるとされていた。
⑵ 人的資源:施設間比較、
わが国においては、施設ホスピスと同様、終末期がん患者のデイケア(いわゆるデイ
ホスピス)においても、新しいがん専用の通所施設を設けるか、それとも、既存の制度
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
⑶ 利用者分布:施設間比較、
⑷ 利用者のQOL、導入時期と方法:患者間比較、
研究の目的と背景──まえがきにかえて 加藤恒夫
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⑸ 利用しているがん患者の症状:患者間比較、
⑹ 提供できる緩和ケア:施設間比較、
⑺ 通所リハビリテーション医師と主治医とは同じか別か:患者間比較。
4 - 3 通所リハビリテーションにおけるがん患者の利用実態に関するアンケート調査
ついで、がん患者が、実際に通所リハビリテーションでどの程度日常的ケア並びに医
療的ケアを受けているのかについて、岡山県通所リハビリテーション協議会の協力を得
て実施した調査の結果を報告する。
3 -3 更に、それをもとに、先行文献を参考にしつつ、全体討論で比較検討表を作成し
4 - 4 介護保険の持つがん終末期ケアにおける限界:ケアマネジメントの可能性と限界
た。
また、本調査研究は、その副題を「介護保険によるがん終末期ケアの可能性」として
3 -4 比較検討表に記入・完成した後に、患者・施設間の共通項と個別の事項を分類・
いるように、がん終末期ケアにおける「介護保険の適応の可能性と課題」について実態
比較し、通所リハビリテーションを利用したがん終末期患者のケアの有用性とそれを
調査の中から浮き彫りにすることも射程に入れており、終末期がん患者のケアの実際に
可能性とする因子を検討した。
かかわる、現状における介護保険がもつ可能性と限界とを、実際に適応した症例の調査
を踏まえて明らかにすることを試みた。
4 調査研究の概要
4 - 5 終末期ケアにおけるリハビリテーションの意味するもの
ついで、リハビリテーションのもつケアにおける普遍性を明らかにし、がん終末期ケ
4 - 1 通所リハビリテーションでがん終末期患者をケアする時に影響する因子
アにおけるその役割を明確にするため、これまでの実例のまとめと文献的考察を行った。
本調査の手法として、あらかじめ調査項目をきめてアンケート調査などを行い、その
それと同時に、今後のがんの終末期ケアに限ることなく、広く全ての終末期ケアにおけ
定量化した集計から患者のニーズを探る方法をとるよりも、むしろ、先述した症例検討
る通所リハビリテーションのもつ有用性・可能性及び限界をこれまでの事例より検討し
により現実がどうなのかを観察し、そこから、利用者の実態に即したサービス提供方法
た。
を考えることが、より現実的な提案ができると考え、以下の手順を踏んだ。検討にあた
っては、末期がん患者のデイケアとしての特徴を浮き彫りにし、政策的な意義を強調す
4 - 6 通所リハビリテーション利用における「がんと非がんのケアミクス」の利用者の心
るため、事例の把握よりも、事例とサービス内容の対応関係、特に医療処置に中心を置
理特性とグループダイナミクス
き、比較するよう以下の点に留意した。
がん終末期ケアを考える際、全国にも多く見られる、さまざまのがんの患者会やピア
カウンセリングの集まりがあることから見られるように、がん患者が他の患者と触れ合
《各事例において》
⑴ 通所の主な目的:本人の希望か介護者の休養(レスパイトケア)か、
うことができるのかどうかが問題となる。通所リハビリテーションには、多種多様の患
⑵ 通所の契機:どういうことばが決め手になったのか、
者が集っており、その中で、どのような相互関係が生み出され、ケアのあり方と個人の
⑶ 通所期間:途中断絶も含めて検討、
あり方・生き様に如何に作用するのか、考察を試みた。
⑷ 通所の頻度:開始期、利用期、利用終了期の時期別に検討、
⑸ 通所中の医療行為、通所でなければ実施困難なサービス、
⑹ 通所中の他の専門的ケア、
4 - 7 通所リハビリテーションの職員のがん終末期ケアに必用な職員教育
通所リハビリテーションにおけるがん終末期患者のケアが広がるためには、職員がそ
⑺ 通所の集団プログラム、
のケアにある程度習熟する必要がある。今のところ、緩和ケアにそれほどの経験がない
⑻ 中止の理由と総括、
通所リハビリテーションのスタッフが、がん終末期ケアにあたり、どのような困難を感
じているか、インタビューに基づく考察を行い、今後のスタッフ教育への寄与を試みた。
4 - 2 通所リハビリテーションを利用したがん終末期患者の家族に対する面接調査
本調査の重要事項として、実際にケアを受けた人たちがどのように感じているのかを
面接調査により明らかにすることを試みた。この調査は、面接ガイドに基づくインタビ
ューにより、通所リハビリテーションが、がん終末期ケアに果たした役割について、遺
族の感想を通して明らかにしようとしたものである。
4 - 8 見学・調査報告
付記として、最近モデル事業として試みられている訪問看護ステーションが提供する
サービスと、他の通所リハビリテーションの見学を通じて、考察範囲を拡大した。
①在宅緩和ケアセンター 虹 ──通所介護事業所が提供するサービスの抱える問題
点について(通所リハビリテーションとの共通性と相違性)
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
研究の目的と背景──まえがきにかえて 加藤恒夫
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②坪井病院デイホスピス
③松戸神経内科通所リハビリテーション
④グループパリアン──訪問看護ステーションが提供するサービスの抱える問題点に
報告書の総括
ついて(通所リハビリテーションとの共通性と相違性)
デイホスピス研究委員会総括者
加藤 恒夫
本調査研究は以下の基本姿勢に基づいて取り組んだ。
。
⑴「いたずらに新しい制度的提案をすることを目的とせず、実態調査より判明した現状
(事実)に即して、その延長線上に今後のケア体制の効率的なあり方を考える」
その理由は、わが国における医療・保健・福祉政策をめぐっては、これまで新設され
た諸政策と現実との間に「目的と結果の不均衡」が多数生じていることによる。こうし
た制度設計と社会的実態とのミスマッチを防ぐために、私たちは、制度新設を提案する
のではなく、あえて現行制度下でのケア体制の効率的なあり方を提案する道を選んだ。
たとえば、がん終末期医療の領域をみると、その制度の改定(緩和ケア病棟の診療報
酬上の位置付けや在宅末期総合診療料加算の新設等)にもかかわらず、がん患者の多く
1)
は緩和ケアの専門家にかかわっているケースが少なく 、また、人口動態統計上の死亡
2)
の場所は、ここ10年以上93%前後が病院の一般病棟である 。
現場で患者を診る者の目からは、こうしたミスマッチの原因の一つは、これまでの終
末期ケアに関する政策決定が、具体的なヘルスケアニーズ調査に基づいて行われていな
いためではないかと考えられる。
「現状を変えるには現状に即して」が、本報告書の立
場である。
⑵「がん以外の慢性疾患の人たちと、制度上及びケアの衡平性を保つ」
我が国において、がんは全死亡原因の3分の1を占め、死因の第1位である。しかし、
他の3分の2はがん以外の疾患で死亡している事実が厳然としてある。しかも、ケア資
源は有限であり(たとえそれが、行政の予算であれ、非営利の民間資金であれ、ボラン
ティア等の人的資源であれ)
、それを、必要とする人たちに衡平かつ有効に使われなく
3、
4)
てはならない(ケアの衡平性の保障)
。
上記の立場より、本報告書では、新しい制度が、単にがん終末期患者のみでなく、他
の非悪性腫瘍の終末期患者にも適応されることを目指した。
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
報 告 書 の 総 括 加藤恒夫
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以下本総括内でのみ、通所リハビリテーションを、それを提供する施設ではなくサー
ビスとして表現するために「 」を付けて「通所リハビリテーション」としている。
る狭義のデイホスピスとしての利用者の、2類型が想定される。岡山県では、両者をあ
わせて12%弱の利用者ががんの診断を受けており、また、後者が概算上、全利用者の2
%を占めている。また、医療機能を有している利点を生かして、がん患者のニーズに応
えるサービスを提供している施設が少なくなく、本調査研究の対象となった代表的2施
── 結
論 ──
設における検討結果と併せて、
「通所リハビリテーション」は、岡山県では、がん終末
期ケアサービス提供の場所として既に現実に機能している事実が明らかになった。
1 介護保険適用下の「通所リハビリテーション」によるがん終末期患者のケアは可能
である。
さらに調査から、がん終末期の利用に関しては、
「通所リハビリテーション」が提供
すべき医療機能として、以下が抽出された。
⑴ がんの緩和医療に必要な医療サービスの提供、
「通所リハビリテーション」においては、既に、がん終末期患者が少なからずケア
を受けており、同サービスは今後のがん終末期ケアにおいて一定の役割が期待できる。
⑵ 医療監視下での入浴等生活援助サービスの提供、
⑶ がん患者のニーズにあわせた休息を取り入れたサービスの提供、
⑷ ストマケア、IVH管理、持続皮下注入ポンプの管理等がん支持療法としての医療
本調査研究の中の重要な位置を占めるⅠ「通所リハビリテーション利用によるがん終
末期ケアの可能性と限界」(佐藤・長谷)での2カ所の事例検討によると、通所中の医
機能、
⑸ 限られた予後を自覚している患者・家族に対する心と感情のケア。
療行為のなかで、「通所リハビリテーション」でなければ提供できない特異的なサービ
スはほとんどみられなかったにもかかわらず、「通所リハビリテーション」には、送迎
さらに、サービス提供側の調査に併せて行われた利用者側の調査であるⅡ「通所リハ
や入浴サービスがあり、リハビリテーションの仕組みがある。また、医師、看護師、
ビリテーションを利用したがん終末期患者の家族に対する面接調査」
(野村)についても、
PT、OT、ST、介護福祉士、歯科衛生士、管理栄養士などさまざまな職種がチームと
利用者本人の満足度を家族の面接調査により判断するという限界はありながらも、利用
して活動しており、患者の急変にも相応の対応が可能である。このような現状から考え
者の高い満足度が証明された。
ると、社会資源としての「通所リハビリテーション」を活用することにより、がん終末
期ケアに従来の在宅ケアの仕組みでは提供できなかった「デイホスピス」の選択肢を加
以上の実態調査が示すように、現在のところ、全体的に「通所リハビリテーション」
えることができるようになり、より多くのがん末期の患者が自宅でより長く暮らすこと
を利用しているがん患者はまだ少ないものの、今後の制度的な保障や、現場におけるが
ができる可能性が示唆された。
ん患者をケアしようとする努力や、地域のいろいろな資源との連携により、がん終末期
一方、現状の介護保険制度下では、がん終末期患者の「通所リハビリテーション」利
ケアの場として、今後その役割が更に広がっていく可能性を秘めている。
用によるケアに際しては、必要とされるさまざまな医療的対応が困難であることが判明
した。本調査研究によると、「通所リハビリテーション」が、がん終末期ケアの利用可
2 対 象 の 予 測
能な資源として効果を発揮するためには以下の条件が必要と結論された。
⑴ 介護保険と医療保険の両方のサービスが必要に応じて同時に提供できること、
平成15年度人口動態実態調査によると、悪性新生物による死亡は65歳を超えると著し
⑵ 地域社会のさまざまな非営利民間団体が、がん終末期ケアにかかわること。
くその数が増加する。
さらに、実態調査として施行されたⅢ「岡山県下の通所リハビリテーション事業所に
50∼54歳:1万4338人
55∼59歳:2万0884人
おける(がん患者に対する)医療サービスの実態調査」(斎藤)では、予備的研究とい
60∼64歳:2万9082人
65∼69歳:4万1762人
う意味で対象が一つの県(岡山県)に限られてはいるものの、その回答回収率も調査研
70∼74歳:4万8452人
75∼79歳:4万2535人
5)
80∼84歳:3万7145人
85∼89歳:2万7176人
究としての許容範囲であり、標本数では全国のデイケア施設を対象とした先行研究
と比べても遜色のないデータとなっている。
本調査研究によると、がん患者の「通所リハビリテーション」利用には、⑴主病名は
がんではなく、介護認定の主疾患は他疾患利用者群と、⑵がんが主病名である、いわゆ
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
今回調査した患者の年齢の中央値は80歳である。また、我々の過去5年間における緩
和ケア病棟における入院患者の平均年齢は66歳と、今回の調査対象よりも若いものの、
がん終末期在宅ケアの大半は、65歳以上の介護保険1号被保険者の高齢者である事実を、
報 告 書 の 総 括 加藤恒夫
15
2-3 患者ががん発症前にすでに何らかの障害をもっており、社会活動はできないものの、
施策決定にあたっては重視しなければならない。
ここでは、まず、患者が65歳以上である場合を想定して、ケアのあり方を考えてみる
44 4
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(65歳以下の若年者に関しては、後述するが、実践的資料が無く、今後の試行の中から
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まだ在宅・通所サービスを受けていない場合(Ⅰの佐藤・長谷の報告を参照)
これらの患者の場合には、
「患者のニーズに即して」サービスを提供すれば、比較的
最適なあり様を導く必要がある)。高齢者のがん罹患者が発病時どのような状況におか
集団活動に導入しやすいことが明らかになった。ニーズに即した導入により、入浴など
れているか(元気で社会活動を営んでいるか、何らかの障害があり通所系のケアを受け
の患者の日常生活の維持のための希望がかなえられやすくなり、また家族にとっても、
ているか)、及びその後どのようなケアを何処で受けたかについての具体的な調査(ケ
その時間帯に患者のケアから解放されて、日々の生活の自由度が向上する(レスパイト
アニーズアセスメント)は日本ではまだ無い。
機能)
。
従って、考えられるいくつかの類型を示し、患者のケアに最適な場所について考察す
る。いずれにしても、その評価については、今後の実践とその解析にゆだねられている。
2-4 64歳以下の若年がん終末期患者の「通所リハビリテーション」の利用について
──がんと非悪性疾患終末期患者のケアミクスについては今後の課題
2-1 患者が元気で社会的活動ができている場合
実態調査によると、現行の「通所リハビリテーション」では、64歳以下の患者には、
終末期の場所をどこに選ぶかについては、平成16年『終末期医療に関する調査等検討
6)
会報告書』にある「終末期における療養の場所」が参考になる 。
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自宅で療養して必要になれば医療機関に入院したい ── 21.6%
自宅で療養し必要になれば緩和ケア病棟に入院したい ─ 26.7%
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最後まで自宅で過ごしたい ───────────── 10.5%(以上傍点筆者)
2号被保険者に対して、主として理学療法主体のリハビリテーションサービスが提供さ
れている。そして、
「通所リハビリテーション」が、平成4年「デイケア」として出発
したことが基盤となっているため、当時からのサービスメニューであるレクリエーショ
ンや家族に対するレスパイトケアなどの社会的プログラムも同時に提供されている。
このように、本来は通所によるリハビリテーションを目的とした施設において、死を
その場合、この人たちの「自宅での療養」に、どれほど在宅サービスの援助システム
目前にした「比較的若年者の緩和ケア」を提供するためには、既存の利用者とともにサ
が寄与できるかを提案することが、本調査報告の核心であろう。患者の社会性が保たれ
ービスを受けられるかという点も重要な課題である。しかし、その実践は本邦において
ている前期終末期においては、患者の嗜好により、個別疾患ごとの患者会(たとえば、
はまだ無く、現在では不明な点が多く(岡村の報告、Ⅴ「通所リハビリテーション利用
乳がん患者の「あけぼの会」)やセルフヘルプのグループに癒しの場所を見つけるか、
における「がんと非がんのケアミクス」の利用者の心理特性とグループダイナミクス」
それとも、「通所リハビリテーション」の「がん患者のための個別・集団プログラム」
を参照)
、評価は今後の試行・研究にゆだねられている。
を利用するか、さまざまの選択肢が必要である。ただし、症状が不安定となり患者の社
しかし欧米においては、緩和ケアの対象は、早くよりがん以外の患者にも拡大されて
会性が徐々に損なわれ、医療ニーズが高まる後期終末期においては、前者のような形態
おり、そこにおけるケアミクスの問題が大きな課題となっているという報告は見当たら
でのサービス利用は医療提供ができないため困難になってくる。
ない。
これまでの調査の中から判明したことは、「通所リハビリテーション」はそれが既に
もっている、チームケア(医療)・生活支援(送迎・入浴等)の総合的な機能により、
今後のサービス内容の開発如何では、ある一定の年齢集団(高齢者)の、がん終末期ケ
アの場となる可能性が十分にあるということである。なお、専門的緩和ケアを必用とす
3 「通所リハビリテーション」の終末期ケアにおける役割・機能は今後どのように変え
るべきか
る人たちへの対処については別途検討する。
3-1 「通所リハビリテーション」の本来的役割・機能と終末期ケア提供の環境
2-2 患者ががん発症前にすでに何らかの障害をもっており、既に在宅サービスを受けて
いる場合
──現行の通所系在宅支援サービスの中では最適環境にある
「リハビリテーション」とは非常に広い概念であり、障害をもつ人々に対して行われ
これらの患者の場合は、自然な流れとして、現在の「通所リハビリテーション」に導
る特別な技術だけをさしているのではなく、多くの機関、公的・非公的組織、かかわる
入可能である。その場合は、発病から治療中及び終末期までを通じて、これまでサービ
全ての人々等が協力して行う活動と仕組みやプロセスを意味している。また、
「リハビ
スの提供を受けていた「通所リハビリテーション」でケアと必要な医療を受けることが
リテーション医療は全人間的とらえ方を基本とする患者観やQOL(人生の質)を重要視
できるならば、その患者の医療上の利便性が高まる。また、
「通所リハビリテーション」
するアプローチなど、ターミナルケアと理念的に共通する基盤」をもっている(香川の
利用の効果として、利用者の社会性も充分に保たれることは本調査により明らかにされ
報告、Ⅵ「終末期におけるリハビリテーション」を参照)
。
た。
16
リハビリテーションを捉える時、
「通所リハビリテーション」とは、まさに「地域と
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
報 告 書 の 総 括 加藤恒夫
17
施設と家庭が一体となった」、いかなる障害をもった人たちに対しても「人間性の復権
しかし現在、ケアを担当する職種の中で、これらの苦痛に対処するケア(緩和ケア)
を保障するためのサービスの基本的モデル」と捉えなおすことができる。これまでは、
「リ
の教育を受けている人たちはほとんどいない(わが国におけるその実態調査も無い)
。
ハビリテーションによるADLの改善があって、初めて、利用者のQOLが向上する」と
このことは、単に「通所リハビリテーション」の問題のみではなく、人の終末期をケア
いう認識があったが、終末期におけるリハビリテーションという視点を合わせて眺めて
する可能生のある全ての現場における問題でもある。池上が調査研究で述べているよう
みれば、
「ADLの改善はなくてもQOLの向上はあり得る」という広義のリハビリテーシ
に、職員自身の知識・技術の向上が必要である 。また、患者(利用者)の側でも、終
ョンの概念が見えてくる。そのためには、「通所リハビリテーションは効率的に狭義の
末期に身体的・社会心理的・感情的な特別なケアを必用とするケースはさほど多くはな
リハビリテーションを提供するサービス」という認識を改める必要がある。
い(日本ではその調査はまだ無く、英国の前掲の調査報告書
通所系サービスは、これまでの制度改定でさまざまの必要人員の基準が変更されてき
8)
7)
を参照)
。従って、困難
事例については、地域の専門家に援助を求めることができる連携体制さえ準備されれば、
た。その中で、「通所リハビリテーション」は、医師の配備は必須であり、さらに、先
従来の施設においてがん終末期ケアを行うことは充分可能であろう。
(日本では、既に
述のようにさまざまの職種がチームとして機能している。従って、結果として現行の各
多くのホスピス・緩和ケア病棟が設置されており、そこの専門家たちを、地域の共通資
種通所系在宅支援サービスの中では、「通所リハビリテーション」が最もがん終末期ケ
源として活用することができるよう、今後、人的運用上の工夫が必要となっている
アを提供できる可能性の高い存在となっているといえよう。
10)
9、
)
。
つまり、終末期患者に対して特別なデイホスピスを新設するのではなく、これまでの
3-2 通所リハビリテーションの地域ニーズに合わせた機能分化の保障を
制度改変の積み重ねの結果、終末期ケアのための資源が集積している「通所リハビリテ
しかしながら、在宅がん終末期ケアにはそれなりの知識・技術及び社会資源の蓄積が
必要である(たとえば、在宅終末期ケアを提供する医師・訪問看護師やそれを支援する
ーション」を利用することが、在宅終末期ケアサービスの拡充のための実現可能性の高
い方法といえよう。
経験のあるボランティアの存在等)。従って、全ての「通所リハビリテーション」が、
3-4 リハビリテーションの概念に沿った現介護保険法の改定が必用
今すぐに、がん終末期ケアを提供できるとは考えにくい。
今後の課題は、それぞれの「通所リハビリテーション」固有の特徴を生かしたがん終
──がん終末期患者に対する医療保険と介護保険の併給と介護認定方法の改革を
末期ケアに対応できる仕組みを作り上げることであろう。高齢者ケアのみを提供できる
本研究班の調査報告より考察すると、現行の「通所リハビリテーション」の使途目的
施設があってもよいし、神経難病のケアが得意なところや、がん終末期を含めて広く在
(役割・機能)は、より拡大されてしかるべきである。就中その目的は、
「高齢者の身体
宅終末期ケアを提供できるチームがあってもよい。
機能の回復」のみであっては、そのもてる力を十二分に発揮できるとは言いがたい。現
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実態調査からも明らかなように、個々の「通所リハビリテーション」にはそれぞれの
状から見えてくる「通所リハビリテーション」の実態は、障害をもった高齢者の、がん
施設や地域の事情に根ざした独自性がある。今後、「通所リハビリテーション」に期待
とがん以外の患者をあわせた、終末期ケアをも射程に入れた総合的ケアと日常生活の援
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されることは、その独自性を尊重しつつ、がん終末期ケアなどの新しいケアプログラム
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の開発にあたることができる柔軟性であろう。それにかかわる介護保険の制度と対策は、
その可能性を保障するものであるのが望ましい。
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助の場である。
従来の役割・機能を温存しつつ、さらに、がん終末期ケアも含めて、その機能をより
有効に活かすためには、田村が報告Ⅳ「介護保険が持つがん終末期ケアにおける限界」
で述べているように、
「介護保険と医療保険の相乗り」がなくては不可能である。
3-3 職員に対する終末期ケア教育の必要性が増している
また、がん終末期患者のADLを反映する介護度は当初は低く、ターミナル期に急速
──困難な事例は専門家(チーム)との連携で乗り切れる
に悪化することから、介護保険における認定及び利用方法の見直しと、2号被保険者特
11)
「通所リハビリテーション」を利用してがん終末期ケアを行う場合、その障害となる
定疾病への組み込みが急務である 。また、時間のかかる現行の介護認定のあり方自体
のは職員の末期がんケアに対する困難感であろう。確かにがん終末期ケアにおいては、
も見直される必要がある。現介護保険法下での認定方法では、がん患者は、重症化して
それ特有の症状緩和の知識と技術が要求される。しかし、多くの場合、それらはがん終
動けなくなるまで受給の対象とならない。そして、ひとたび悪化すると、急速に心身機
末期ケアに特有のものばかりではない。
能が悪化するが、認定変更に時間がかかるため、必要な在宅や通所サービスを受ける対
英国ホスピス・専門的緩和ケアサービス協議会報告書によると、がん以外であっても、
7)
象になりにくい。また、たとえ認定がなされたとしても、多くの場合、患者自身は既に
人生の終末期には痛みや呼吸困難などの多くの苦痛が伴う 。従って、これらの苦痛に
集団に参加する心身の力が尽きている(柏木らが示しているように、自分で排泄や食事
対処できる準備がされていることは、終末期ケアを提供する可能性がある全てのサービ
ができなくなってからの余命は、数日である
スにおいて是非必要である。
18
12)
)
。
このような事情から考えると、がん終末期の診断がなされれば(現行の医療上の共通
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
報 告 書 の 総 括 加藤恒夫
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認識としては死の前6カ月)、何らかの介護認定が必要と思われる(たとえば、無条件
で要介護1∼2と認定する)。そうしなければ、現行の介護保険法下では、サービスを
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9)松岡宏明・加藤恒夫:入院緩和ケア施設とプライマリケア医との連携に関する質的調査(在
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宅緩和ケアに携わるプライマリケア医の技術的困難感及び職業的満足度)
、平成11年度笹川医学
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医療研究財団補助研究
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料を支払った年月に対して、サービスの受給がまったくできないか、たとえできたとし
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究機構、平成15年
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受けることは困難である。このことは、別の見方をすれば、がん終末期患者が介護保険
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8)池上直己:特別養護老人ホームにおける終末期の医療・介護に関する調査研究、医療経済研
4
ても期間があまりにも短く、「がん以外の人たちとの間で、保険給付の不公平が生じて
いる」といえる。
しかし、がん終末期患者に要する給付総額は利用期間が短いため、それほど高額では
ないことが予測される。「保険制度として、国民全体でリスクをシェアし将来の安心を
確保する」という本来の理念からすれば、がんに罹患しても介護保険を利用して自宅で
10)加藤恒夫:緩和ケア岡山モデル──肺癌在宅ケアにおける緩和ケア専門チームの役割、日本
胸部臨床 64(1): 12 21、2005
11)横山幸生・加藤恒夫:在宅緩和ケアにおける介護保険制度の活用、第28回死の臨床研究会、
平成17年
12)柏木哲夫・石谷邦彦:緩和医療学、三輪書店、1997年
終末期を過ごせる可能性を高めることは、国民に希望を与えることができ、また、施策
上の費用対効果は高いと考えられる。
3-5 これからの終末期ケアに対応できる介護保険サービスを
この問題は、今後、患者(利用者)の終末期の場所の選定とも深く関連することであ
ろう。つまり、医療サービスの同時提供ができない現行の介護保険制度下では、個人と
家族にとって重要な「人生の終末期ケア」の提供はできないといっても過言ではない。
従って、現状では、介護サービスを受けている利用者が合併症を併発するか臨死期にな
ると、施設側としては、必然的に(利用者や家族の意向にかかわらず)介護療養施設か
ら医療施設に患者(利用者)を移さざるを得ない。このことは、日本が世界的にみても
病院死の多い原因の一つと考えられ、「死の医療化」というわが国の社会現象とも深く
関連する問題であろう。
以上、本調査研究により「通所リハビリテーション」が、終末期ケアにも有用な役割
を果たす可能性を示唆できたことは、今後の制度修正に一つの根拠を与えたと考えられ
る。
参考文献
1)恒藤暁・志真泰夫・森田達也:ホスピス・緩和ケア病棟の現状と展望、厚生科学研究「緩和
医療提供の拡充に関する研究」班、2001年
2)平成15年人口動態調査、厚生労働省大臣官房
3)蓼沼宏一:公共政策の評価基準──効率性の改善と衡平性の改善、フィナンシャル・レビュ
ー第53号(2000年4月号)
、大蔵省財政金融研究所(現・財務省財務総合政策研究所)
4)蓼沼宏一:効率と公正、日本経済新聞(やさしい経済学)、2001年11月28日∼12月5日
5)川越雅弘・阿部崇・斎藤正身:通所リハビリテーション事業所の運営実態に関する調査研究、
日医総研ワーキングペーパー No.41、2001年
6)終末期医療に関する調査等検討会報告書、厚生労働省、平成16年
7)Reaching Out: Specialist Palliative Care for Adults with Non-malignant Diseases, National Council
for Hospice and Specialist Palliative Care Services, 1998
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
報 告 書 の 総 括 加藤恒夫
21
と技術、態度が準備されていれば、デイケアがデイホスピスとして機能することもでき
よう。
Ⅰ 通所リハビリテーション利用によるがん終末期ケアの可能性と限界
また、この主治医がデイケアの開設者でなかったりホスピス緩和ケアに習熟していな
くとも、近隣にあってホスピス緩和ケアに習熟し信頼のおけるところへの紹介がなされ
るような連携関係が構築されていれば、そこでデイホスピスとしてのサービスが提供さ
れるであろう。
医療面: 佐藤 涼介 佐藤医院
社会面: 長谷 方人 聖ヨハネホスピスケア研究所
しかし、がん治療の経過の中で主治医との信頼関係が崩れてしまっていれば、ここに
述べたようなケアの連続性が保障されず、困難な在宅ケアを強いられる患者とその家族
をつくりだしてしまうかもしれない。その時には、まず信頼関係の崩壊の修復作業を担
う機能を準備しなければならない。その修復作業の中で、修復作業を担う機能が発揮さ
⑴ 調査対象の事業所背景:2つの診療所附属の通所リハビリテーション
れ通所施設の利用の契機を探り当てる役割が果たされるとするならば、この機能はケア
プランの立案実行に組み込まれる必要があると考えられる。
⑵ 事例の比較検討から得た症例の共通点
これらの機能が、介護保険がカバーするサービスに当たるなら、がん終末期患者のケ
対象患者:上記施設でケアした15名のがん終末期患者
アに介護保険を利用するということも考えられるのではないだろうか。
Ⅰ-1 通所の主な目的
Ⅰ-3 通所期間
本人か介護者休養か
通所期間はどのくらいか
まず、通所の目的の前に、がん患者は在宅か入院かを、本人及び家族は決定しようと
がんを発病後、治癒不能になってから利用し始めた場合、肺がん、膵がんなどの進行
する。在宅生活の継続を選択しようとした時、この度の症例比較表から見えてきたがん
がんでは、1∼6カ月ぐらいの比較的短期の事例が多く、前立腺がん、膀胱がんなどの
終末期患者の通所主目的は、12人中、ADLの維持向上が4名、入浴が3名、認知症の
場合、比較的に治療が奏効しやすいため、1∼2年ぐらいの中期の場合が多い。
進行予防が3名、リハビリが1名、全身状態管理が1名とまさに、医療の支援体制下に
おいて本来のデイケアの本人のための機能を目的にしている場合がほとんどで、副目的
としては、半数に介護負担軽減という介護者休養が認められた。
《社会面》
病気の経過や病態は個別的である。当然、通所期間に差異が生じる。とすれば、デイ
ホスピスケアの提供期間を一律に設定して制限することを最初から規定することは、利
用者の実態にそぐわないことになろう。
Ⅰ-2 通所の契機
Ⅰ-4 通所の頻度
どういうことばが決めてか
良好な信頼関係が確立している主治医から「医療体制のある、デイケアへ行ってお風
呂に入ったり、リハビリをしたり、ゆっくりお話をしたりしに行きましょう」。
当初・途中・終わりの時期別に週何回
短期の症例では、既にがんの終末期になっている症例が多く、体力的限界もかなりあ
《社会面》
り、ほぼ週1∼2回の場合が多い。
まず、がん終末期の方が在宅生活を継続できる条件としては、かかりつけ医、往診の
中期の症例の場合、平均週3回が多く、リハビリと入浴が多くの場合の目的である長
できる主治医との関係が良好で信頼関係ができているということがほぼ必須条件であろ
期の場合は、ケースバイケースではあるが、週4∼6回と比較的頻回利用者が多く、ほ
う。その時、主治医がデイケアの開設者でもあれば、上記のような言葉かけも日常の診
とんどの場合、時期別に大きな頻度の差は認められなかった。
療の中で自然にかけやすくなるだろう。さらに、この主治医にホスピス緩和ケアの知識
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅰ 通所リハビリテーション利用によるがん終末期ケアの可能性と限界 佐藤涼介/長谷方人
23
《社会面》
《社会面》
通所の頻度は、介護保険制度下では介護度による月ごとのサービス限界との相関が考
各地区医師会において、各専門科開業医の中で往診可能な診療所名を問い合わせれば
えられる。サービス調整にあたるケアマネージャーの力量にも依存することが考えられ
公表されるのが一般的と思われるので、各地区での連携可能な機関リスト作成とその広
るので、ホスピス緩和ケアを知るケアマネージャーの養成が求められよう。それは、一
報活動を推進する必要があると考えられる。
般のディケアではなかなかサービスしきれない専門的なケア(臨床心理士やスピリチュ
アルケアの提供者からのサービス)が潜在的にはサービスニーズがあると想定されるに
もかかわらず、必要とする利用者の実態を広範囲に調査した報告がなされていないよう
Ⅰ-7 通所の集団プログラムと個別プログラム(将棋への参加や読書など)
である。調査の必要があるのではないだろうか。
もし、これまで気付くことの少なかった潜在的なサービスが確認された場合、これま
⑴ 集団プログラム──集団体操、歌、レクレーションなどがあるが、がん患者の
でに築かれた医療・福祉の公的な基盤とそのパラダイムで規定されているサービスとそ
参加率は極めて低い
の経済性での限界があるとすれば、これまでの基盤の上にプラスアルファされる地域の
⑵ 個別プログラム──リクライニング車椅子やベッドに臥床して、スタッフとお
人的資源活用を可能にする新しい支援のパラダイム構築をも必要とするかもしれない。
話しする。特浴による入浴、自分で用意してきた執筆活動、
歩行訓練等のリハビリ、読書。
Ⅰ-5 通所中の医療行為、通所でないと実施困難な内容(在宅でできないリハを含む)
《社会面》
ホスピス緩和ケアにあっては集団プログラムが馴染みにくい(自分の死が身近にある
医師による診察、各種検査(画像も含む)、酸素吸入、輸血、抗生剤の使用、
ときの個別的な心理として、集団行動より自分だけの時間を持ちたいという傾向。もち
補液、胃瘻の消毒、褥瘡の処置、各種ストーマの処置、PTCDチューブ等各種チ
ろん、集団プログラムの利点もある)ので、個別プログラムを多用する準備が必要であ
ューブの管理、帯状疱疹の処置、血糖測定、リハビリ(平行棒その他を利用した
る。個別プログラムは多様になり、その一つ一つを有用に実行するにあたってすべてを
歩行訓練、このうち、通所でないと実施困難なリハビリは、平行棒その他の器具
常勤職員で賄うことはきわめて難しい。パートや地域の有用な人(有償や無償にかかわ
を利用した訓練のみ)。
りなくボランティア活動のできる人)を掘り起こして協働する必要を考える。たとえば、
一週間のうち5日間は一般のデイケアを提供している通所施設が、あとの2日間はがん
上記のように、がん終末期の通所ケアにおいては極めて多様な医療サービスも提供さ
終末期ケアのために利用されるといったタイムシェアをして、がん終末期ケアを受け持
れており、在宅ケアを推進する医療施設併設型の通所施設でケアが提供されるならば、
つスタッフはボランティアとパートタイムの専門家が担当する、といった運営形態も一
在宅ケアの期間が延長されることが予測される。加えて、そこで提供されるケアの内容
考ではないだろうか。
は医療ニーズの高いがん終末期の患者と家族の「少しでも長く、できれば最期まで家で
過ごしたい」という国民的には諦めかけている要望を、今一度支援し直すことにも繋が
Ⅰ-8 特殊なニーズ:入浴と送迎
ると予測される。
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今回の症例比較表の内で、12名中6名と半数の利用目的が入浴であったことは特記す
Ⅰ-6 通所中の他の専門的ケア:歯科など専門医によるもの)
4
べきことである。また、通所を可能にするためには、送迎手段の確保が重要となる。こ
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れらのサービスの整備には極めて高額の資金が必要である(床面積、施設、人員、車両
あらかじめ、在宅医療に積極的に取り組む皮膚科、歯科医、整形外科医などと連携し
など)
。従って、これらのサービスを、公的サービスとしてがん患者のみのために新し
ておき、激しい帯状疱疹やひどい褥瘡時には皮膚科医往診、食事摂取困難時の歯科医往
く作ることは、かなり偏った資源配分となる恐れがあるため、他のサービスと共用のほ
診による義歯作成や口腔ケア、膝関節疼痛時や骨折、脱臼疑い時等に整形外科医往診を
うがより有効な資源の活用と考えられる。
依頼することにより、従来、入院すべきと判断されたところを在宅及びデイケアでのサ
ービスで乗り切ることが可能になると思われる症例が多い。この度の12名中では、歯科
往診が3名、皮膚科往診が1名であった。
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅰ 通所リハビリテーション利用によるがん終末期ケアの可能性と限界 佐藤涼介/長谷方人
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Ⅰ-9 中止の理由
ほとんどの症例が、死の数日ないし1∼2カ月前になり、通所困難あるいは入浴が困
Ⅱ 通所リハビリテーションを利用したがん終末期患者の
家族に対する面接調査
難となったため通所目的がなくなるという理由で、在宅ホスピスケアに移行(一部緩和
ケア病棟又は一般病棟に入院)して死亡。
《社会面》
野村 佳代 岡山大学医学部保健学科
ホスピス緩和ケアにあっては、遺族ケアを考える。遺族ケアは、医療保険に馴染みに
くく、日常生活圏などでの日常的な社会支援を必要とし、さらにプログラム化された専
門的なケアを必要とする場合には、Ⅰ-7でも述べた通所施設のタイムシェア利用や行
Ⅱ-1 はじめに
政が運営する地域センターなどの有効活用で場所を確保し、専門家の活動を支援する必
要もあると考えられる。
既存の通所リハビリテーションを、在宅ケアにおけるがん終末期ケアの場としての利
用可能かどうかについて検討するため、指標の一つとして、実際に通所リハビリテーシ
ョンを利用した終末期患者とその患者・家族の満足度を調査したので、報告する。
Ⅰ-10 総括
通所中の医療行為のなかで、通所リハビリテーションでないと実施困難なものはほと
Ⅱ-2 調査方法
んどなかった。それにもかかわらず、送迎・入浴サービスがあり、リハビリ体制があり、
専門医の対応を含めたさまざまな医療行為が身近にあり、急変にもそれなりの対応がで
き、医師、看護師、PT、OT、ST、介護福祉士、歯科衛生士、管理栄養士などさまざ
まな職種が対応可能な通所リハビリテーションでは、在宅医療、在宅ケアのみでは不可
Ⅱ-2-1 対象者
がんの終末期に通所リハビリテーションを利用しながら在宅ケアを実施した患者の家
族とする。
能ながん終末期ケアを「がん終末期患者のデイケア」として活用可能になり、多くのが
但し、がんの種類は問わない。
ん末期の方の在宅生活が延長可能になることが、この度の調査で明らかになった。
対象者は原則として主たる介護者とする。
現在のシステムにおいては、介護保険のみのサービスでは、がん末期の方に必要なさ
まざまな医療的対応ができないので、「がん終末期ケアの場」として効果を発揮するた
めには、次の条件が必要と考えられる。
⑴ 介護保険と医療保険の両方のサービスを組み合わせることができること、
⑵ 地域社会にあってのさまざまなサークルを形成しているコミュニティが、がん
終末期ケアにかかわることができること。
結
Ⅱ-2-2 倫理的配慮
対象者の選定にあたっては、精神的に落ち着いており、調査の趣旨を説明し調査への
参加の同意を得ていることとする。
調査協力依頼にあたっては、協力は対象者の自由意思に基づくものであり、途中の辞
退も可能であること、協力を拒否しても特に不利益が生じないことを約束する。また、
対象者のプライバシーの保護と匿名性を厳守する。
Ⅱ-2-3 データ収集方法
論
まず、電話にて対象者に調査の目的と方法を説明し、参加への承諾を得る。承諾を得
た対象者に対して、調査者が訪問した際に、改めて調査の目的と方法を説明し、調査へ
通所リハビリテーションを使った、がんの終末期ケアの可能性は高いと確信するが、
さまざまな医療処置の保障がなされ、この分野での地域社会の活性化が、その条件にな
の協力と録音に対する同意を得る。録音への同意が得られない場合には記述することと
する。
ると思われる。
26
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅱ 通所リハビリテーションを利用したがん終末期患者の家族に対する面接調査 野村佳代
27
Ⅱ-2-4 データ分析方法
本人の困ったこと
調査終了後、録音した面接内容を逐語録とする。逐語録から、通所リハビリテーショ
通所リハビリテーションに参加するに際しての本人の困ったことについては、ほとん
ンの利用に関する内容を抽出してコード化する。コード化した内容を比較分析して、内
どの人が特に何も言っていなかったと答えている。しかし2人については、帰宅後疲労
容ごとにカテゴリーに分類する。
感が増大している様子について述べている。1名はその後中断し、1名は中断していな
いため、疲労感の増大が直接中断の理由となるとの評価は困難と考える。
Ⅱ-3 結
果
本人にとっての通所リハビリテーションの役割・よい点
“話し相手がいる”──
Ⅱ-3-1 対象者の概要
「家でじーっとしているよりかは、通っていって、お友達とお話ができるっていうこ
対象となるがんの終末期に在宅でデイケアを利用した患者は、男性9名、女性5名の
とがあるでしょ。知った人がこられることもあるし。それは楽しみに行ってました」と、
計14名で、面接対象者は、妻8名(内1名は娘同席)、娘3名、娘婿1名、孫1名であ
家族以外の人たちとの交流をもつことに対して、通所リハビリテーションの有用性を挙
った。
げている。ただし、女性の場合は集団プログラムへの参加が好まれる傾向があるが、男
疾患別では大腸がん2名、結腸がん1名、肺がん3名、乳がん1名、膵がん1名、咽
頭がん2名、食道がん1名、悪性リンパ腫1名、不明2名であった。
性の場合は「集団プログラムに対しては、しましょうか言うても、そんな年齢じゃない、
僕はまだそこまではいっておりません言うて」と集団プログラムに抵抗を示す傾向があ
る。このため話し相手とは、同じデイケアへの参加者に限らず、スタッフとの交流を含
Ⅱ-3-2 通所リハビリテーションへの参加に対する本人の満足度
参加当日の本人の様子
んだ話し相手であることを示している。
“気分転換になる”──
面接対象者が家族であるため、本人の満足度については評価しがたい。そこで、本人
の満足度を評価するために、デイケアへ参加する際の様子について明らかにする。
“楽しみにして待っていた”──
「家にじーっと居るよりは何時間か外へ出て,みんなと話したり、見たり聞いたり歌
うたり、食事さしてもろうたりして、そいで帰ってくる。非常にそういうことを楽しん
でおりましたなあ」としていることから、家にいても、一人で過ごすことが多いため、
「もう時計見て、8時ごろが来たら、車椅子に乗ってじーっと待ってるんです。手を
家族以外の人との交流が気分転換になると考えているといえる。また、
「家に居ればパ
振ってみたりあれしてみたりね。車が来ると喜んで。そりゃあ楽しみにしてたんです」
ジャマですけど、
(参加するには)そういう訳にはいきません」というように、家から
としている。このことは、送迎の車が来るのを待ち構えるほど、楽しみにしていること
出かけることで身なりを整えるなどの気分の変化にもなると考えている。
を示している。
以上のことから多くの場合、通所リハビリテーションの参加については、楽しんでい
ることが多く見られるが、嫌がっていないとの評価にとどまることもある。
“嫌がらなかった”──
「嫌がってるふうはなかったです。かといって、喜んでるってふうでもなかったけど。
嫌な顔するとか、行かないってことはなかったと思います」としていることから、拒否
Ⅱ-3-3 通所リハビリテーションへの参加に対する家族の満足度
の姿勢を示していないことが、喜ぶほどではなくても否定的には捉えていないと考えら
通所リハビリテーションの感想について、
「本当によくしていただきましたからね。
れる。また「あまり言う人じゃなかったんで、けっこう我慢強い人なんで、口には出さ
その点は本当に感謝しています。通所リハビリテーションのサービスがなかったらとて
ないですよね」など本人が言わないことなどによって、様子がわからないということも
もじゃないけど、これまでは私ではできません。床擦れ一つできたわけじゃないしね。
ある。
食べるのも三度三度きちんとよく食べましたしね」としていることから、ほとんどの対
象者が、家族にとって通所リハビリテーションはありがたい存在であり、在宅ケアにお
“元気になる”──
「ちょっと心の問題やろうね、あれ。痛いとかそんなじゃなしに心が晴れやかになる
んかな、向こうに行ったら。だから帰っても良いし、食事もよく食べたしね、年齢的に。
いてなくてはならないものであり、デイケアがあったからこそ、家で看ることができ、
寝たきりにならないなどの評価につながっていると考える。
おいしいおいしい、言うて」としていることから、デイケアに参加することで気分転換
となり、家でも食事が進むなど元気になっていることを示している。
本人へ通所リハビリテーションへの参加を勧めた内容
“入浴介助してくれる”──
「家のお風呂に入りたい言うてたけど、家では支えられんから、転んでも困るからね」
28
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅱ 通所リハビリテーションを利用したがん終末期患者の家族に対する面接調査 野村佳代
29
としていることから、家族での入浴介助を困難に感じている。特に「酸素吸いながらお
困った点
風呂へ入らせるというのは、私も不安やったし、本人も不安になったし」と酸素吸入な
通所リハビリテーションへの参加での困った点については、
「困ったこととかは、な
どがある場合には、特に家での入浴に不安を感じている。このため医療スタッフによる
いですね。お世話になっているから。母親が困ったいうことは言ったことがないしね。
入浴介助が不安解消につながっていることを示した。
我慢強いからね。少々のことは何にも言わないんですよ」としている。通所リハビリテ
“一人でおいておくわけにはいかない”──
「
(留守の間に)何が起きるかわからんから。そいで心配だからと思うて」としている。
ーションへの参加について感謝を述べることが多く、困ったことはないとしているが、
これは本人の拒否がないことも要因であることを示している。
このことは、家族が留守の際に何かあったらという心配につながるため、安心して家を
留守にすることができることにつながっていることを示している。
Ⅱ-3-4 がん終末期患者のデイケア
がん終末期患者のデイケアとしての役割
家族にとっての通所リハビリテーションの役割・よい点
“関係ない”──
がん発症後の通所リハビリテーションへの参加についての変化についての質問に対し
“安心感”──
「預けてから4時に帰ってくるまでの6∼7時間は、全然気にならなかったもん。商
て、
「なってからも、私は同じことだったんじゃないかと思いますけれども、ええ。そ
売しよるからね、うちは」としている。これは、家族が通所リハビリテーションに参加
れがあるからどうのこうのということもないし」と、ホスピスとしての通所リハビリテ
している間の本人の様子について注意を払う必要がないため、商売などの仕事に安心し
ーションの役割については特に考えておらず、発症以前の生活と変化がないことを評価
て集中できることを示している。
している。がん発症後の参加であっても、本人の身体的疲労のために参加拒否があるが、
家族が安心できる所としての存在のため、ホスピスとしての存在を認識してはいない。
“自由な時間ができる”──
「一緒におると、やりかけたところで、おいーって呼ばれて、思うようにかたづかん
通所リハビリテーション参加を早期に中断したり、参加しなかった理由として、
「動
ですよ。だけども朝の9時に出て、そいで4時には帰ってくる、そういう間隔でぱーっ
きたくないというのか、じっとしていたいというか……本人が痛かったからそれがあっ
て用事ができて、いろいろできるでしょ。だもん、ほんまによかったですわ」としてい
たのかなと思うんですけど」があげられている。同時に、
「もう少し早かったら行って
る。このことから、本人が家に居ると自由に家の用事ができないという状況を作り出す
たのかなとは思うんですけど」としているように、身体的に参加困難な状況を理由とし
が、通所リハビリテーションへ参加中は家事一切を行ったり、仕事に出たり、出かけた
ており、身体的に参加可能な状況であれば参加していた可能性が見られることから、が
りと、家族の自由に使える時間ができるということがいえる。
ん終末期患者のデイケアとしての参加を検討しているわけではないことを示している。
これは、家族にとっての通所リハビリテーションの参加による家族への影響と同様の
結果となった。
あえて在宅ケアを選択した理由
“本人の希望”──
入院ではなく、在宅ケアを選択した理由について、
「病院に居たい? それとも家が
家族の活動内容への関心
ええ? と言うたら、わしゃ家がええのうと話したことがあって、それなら最後は入院
“詳しくは知らない”──
通所リハビリテーションでどのような活動をしていたかについては、「歌ったり踊っ
じゃなくて家のほうで介護」としている。これは在宅ケアが本人の希望であることを示
たりしてるって言うてましたけど、それが。詳しい話はあまり知らんけど、うちの人は
している。家族の介護能力範囲で本人の希望をかなえるための手段として、通所リハビ
あんまりしなかったんやないかと思うよ」と本人の通所リハビリテーションでの活動内
リテーションを利用している。
容については、あまり関心を示していないことを示しているが、様子を伺ったりしてい
このため、
「本人が家に帰りたい言うても、家に帰ってからいつ何時どんなことがあ
ることから、全く関心がないわけでもない。しかし家族にとっては、通所リハビリテー
るか分からんし、そりゃ不安ですよね」と在宅ケアに対して家族の不安が強い場合には、
ションへの参加に対して焦点が当たることから、日々の活動内容についてはあまり興味
入院を希望することとなる。また、家族の介護能力を超える(病状の悪化)と判断する
を示していない。デイケアの行事に参加したりする場合には、「誕生日会とかいろいろ
と、入院するなどの対処をしている。
あって、その時に私も行って一緒に歌ったりとか、そんな思い出がありますなあ」と一
緒に行事に参加したことを覚えている。
30
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
以上のことから、家に居たいという本人の希望をかなえるための手段として通所リハ
ビリテーションへの参加に対する満足があると考えられる。
Ⅱ 通所リハビリテーションを利用したがん終末期患者の家族に対する面接調査 野村佳代
31
Ⅱ-3-5 施設のサービスへの満足
“家の中からの送迎”──
Ⅱ-3-8 そのほか
通所リハビリテーション参加時の本人の様子に対して、家族が印象を強くうけたのは
通所リハビリテーションのサービスの評価の一つとして、車での送迎をあげている。
どんな時点かについては、一施設では、本人が元気に通所リハビリテーションに参加し
さらに、
「小さかったから、だんだん痩せてきてましたからなあ、最後は。じゃから、
ていた頃の話が多く、明るい思い出を話すのに比べて、もう一施設では、疲労感が強く
誰でも男の人なら抱いてくださるから、それで」と、単なる車での送り迎えとしてでは
なってからの辛い時期の思い出を話している。これは、通所リハビリテーションへの参
なく、2階以上に住居がある場合には、送迎担当者は背負ったりして階段の上り下りを
加が、がん発症以前からの場合と発症後の場合の違いによるものと考えられる。
していることを示している。このため家族は歩行が困難でも、負担なく通所リハビリテ
ーションへ送り出すことができることを評価している。
“連れて行ってくれる”──
同じ在宅ケアでも、訪問看護の利用ができるが、通所リハビリテーションを選択した
理由について、「そりゃあ、行ってくれるほうが楽なん。洗濯も、ベッドもきれいに掃
除せないかん。家に居ったらそれができんと思う」としている。このことから、家族の
満足と同様に、家から連れ出してくれることに有用性を見出していることがわかる。
その他、
「女としては家の中が片付いてないと恥ずかしいじゃないですか」と、訪問
看護では家の中を見られることに抵抗を感じていることも示している。
Ⅱ-3-6 なぜ中断なのか
“行けなくなった”──
通所リハビリテーション長期参加の場合、家族にとっての参加中断理由は、「最後ま
で行ったんよ。朝行って、そこで倒れたわけじゃけんな」としている。この事例は、そ
の直後入院となっている。このことから、通所リハビリテーションに参加しないことは、
死亡や入院などの物理的な参加不可能によるものであり、中断したという考えは持って
おらず、最後まで参加したと考えているといえる。
また、早期に中断した場合の理由としては、「最初のカラオケ行ったときでね。大分
わかってたみたいな感じでした。自分が行って初めて何となく最後になるかもわからん、
みたいなことは書いてあったから」としているように、身体的疲労感の増大をあげてい
る。これは、身体的症状の出現が通所リハビリテーションへの参加の有無や早期中断を
決定していることを示しているといえる。
Ⅱ-3-7 通所リハビリテーションの特定理由
数ある施設から調査対象となった2施設を選択した理由について、一施設では、「○
○先生のほうはもう、デイサービス岡山県で一番ぐらいじゃないんかな? 全てのこと
からして、私もまあ感心したことがたくさんあったよ、たぶん」となり、もう一施設で
は、
「○○先生が好きなんよ。もう前から診てもらって長いから」としている。これは
一施設では通所リハビリテーションの有用性への印象が強いのに対し、もう一施設では
診療所あるいは診療所の医師に対する信用などの印象が強いことが示された。これは、
サービスの有用性だけでなく、医療機関の医師の信用度も重要であることを示している
といえる。
32
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅱ 通所リハビリテーションを利用したがん終末期患者の家族に対する面接調査 野村佳代
33
図表Ⅲ-1-2 一事業所あたりの職種別従業者数
また、リハビリテーション関連職種と
しては、理学療法士は1.2人(常勤0.5人、
非常勤0.7人)
、常勤換算従業者数は0.7
Ⅲ 岡山県下の通所リハビリテーション事業所における
人。作業療法士は1.1人(常勤0.6人、非
(がん患者に対する)医療サービスの実態調査
常勤0.5人)
、常勤換算従業者数は0.7人。
言語聴覚士は0.15人(常勤0.05人、非常
勤0.10人)
、常勤換算従業者数は0.08人
であった。言語聴覚士に関しては、
常勤・
斎藤 信也 高知女子大学大学院健康生活科学研究科
非常勤を問わずそのサービスを提供して
いた施設は6事業所(1病院、2診療所
調査の概要
〔無床〕
、3介護老人保健施設)であった。
平成16年11月に岡山県通所リハビリテーション協会と共同で、協会に加盟している県
下の通所リハビリテーション施設(108事業所)に対してアンケート用紙を送付し、49
⑶ 併設事業の実施状況
施設種類別に各種併設事業の実施率(事業所数に占める当該サービス実施事業所数の
事業所から回答を得た(回収率45.4%)。
なお、以下の本文中で「リハビリテーション」を「リハ」などと略して表記したとこ
割合)をみると、病院では、
「訪問看護」92.9%、
「居宅介護支援事業」85.7%、
「訪問
リハ」50.0%、
「短期入所療養介護」50.0%、
「訪問介護」28.6%といった順で事業を併
ろもある。
施していた。
(図表Ⅲ-1-3)
第1部 通所リハ事業所における医療サービス提供の実態調査
次に有床診療所では、
「居宅介護支援事業」71.4%、
「訪問看護」57.1%、
「訪問リハ」
57.1%、
「短期入所療養介護」57.1%、
「訪問介護」28.6%といった順であった。無床診
療所では、
「居宅介護支援事業」85.7%、
「訪問看護」57.1%、
「訪問リハ」50.0%、
「「訪
Ⅲ-1-1 事業所のプロフィール
問介護」21.4%といった順であった。
以下、回答を得た49事業所の平成16年10月におけるプロフィールを示す。
図表Ⅲ-1-3 施設種類別にみた同一法人での併設事業の実施率
(n=49、複数回答)
次に、介護老人保健
施設では、
「居宅介護
支援事業」78.6%、
「訪
⑴ 種類別に見た事業所数
問 看 護 」64.3%、
「短
図表Ⅲ-1-1 種類別に見た事業所数(n=49)
49事業所を種類別に見ると、
「病院」
期入所療養介護」
14事業所(28.5%)、
「診療所(有床)」
64.3%、
「訪問介護」
7事業所(14.5%)、
「診療所(無床)」
28.6%、
「訪問リハ」
14事業所(28.5%)、「介護老人保健施
14.3%といった順であ
設」14事業所(28.5%)であった。(図
り、訪問リハが少なく、
表Ⅲ-1-1)
短期入所療養介護が多
いのが特徴であった。
⑵ 従業者の状況
一事業所あたりの従業者数は、総数で17.4人(常勤12.2人、非常勤5.2人)、常勤換算
従業者数は14.3人であった。うち、医師は1.7人(常勤1.2人、非常勤0.5人)、常勤換算
Ⅲ-1-2 事業所の活動状況
従業者数は1.5人, 看護師は2.2人(常勤2.0人、非常勤0.2人)、常勤換算従業者数は2.2
人であった。つぎに、介護職員は7.1人(常勤5.4人、非常勤1.7人)、常勤換算従業者数
は6.3人であった。(図表Ⅲ-1-2)
34
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
⑴ 営業日数
営業日数は、平均5.5日で、5日のものが52%と最も多かったが、6日のものも40%
Ⅲ 岡山県下の通所リハビリテーション事業所における(がん患者に対する)医療サービスの実態調査 斎藤信也
35
あった。
(図表Ⅲ-1-4)
図表Ⅲ-1-4 営業日数(n=48)
図表Ⅲ-1-9 標準実施時間(n=49)
⑷ 標準実施時間
施設種類別に営業日数を比較してみる
標準実施時間は「6時間以上8時間未
と、 無 床 診 療 所( 平 均5.2日 ) は 大 半
満」が26事業所と最も多く、これに、複
(78.5%)が5日の営業であったのに対し
数単位でサービスを行っている事業所で
て、病院(平均5.6日)、有床診療所(平
単位別に実施時間を変えているところで
均5.3日)
、老人保健施設(平均5.4日)は、
「6時間以上8時間未満」のサービスを
6日や7日営業のものも多く見られ、事
行っている9事業所を含めると、
「6時
業所本体の営業形態と関連が深いと思わ
間以上8時間未満」の実施時間は35事業
れた。
(図表Ⅲ-1-5)
所(71.4%)にのぼった。
(図表Ⅲ-1-9)
図表Ⅲ-1-5 施設種類別にみた営業日数
(n=48)
⑵ 提供体制の状況
⑸ 1カ月あたりの利用者数
49事業所の提供体制をみると、「食事
平成16年10月の1カ月間の利用者数は、平均77.7人(16∼315人、中央値65.5人)で
提供体制」と「送迎体制」は100%行わ
あった。
れ て い た。 さ ら に、「 一 般 入 浴 」 が
この利用者を施設種類別にみると、病院が平均62.8人(16∼111人、中央値63.0人)
、
87.8%、
「特別入浴」が55.1%、「時間延
有床診療所が平均64.7人(41∼107人、中央値49.0人)
、無床診療所が平均62.1人(25∼
長」が26.5%であった。(図表Ⅲ-1-6)
109人、中央値54.0人)
、老人保健施設が平均113.5人(34∼315人、中央値84.5人)であ
り、老人保健施設の利用者が多い傾向が見られた。
⑶ 通所リハ定員
さらに、施設種類別に利用者の階級度数分布状況をみたところ、病院は65人以上75人
通所リハの定員数は、20(15事業所)
と40(16事業所)が最も多かった。平均
図表Ⅲ-1-6 提供体制の状況(実施率 n=49)
未満の階級が多く(5事業所)
、診療所は有床・無床ともに45人以上55人未満の階級が
最も多く(4事業所)
、一方、老人保健施設は135人以上という階級が最大(5事業所)
は、34.0(10∼100)人であった。(図表
であった。老人保健施設の場合は、診療所と変わらない利用者数のグループと多数の利
Ⅲ-1-7)
用者を抱えるグループに二分される傾向が見られた。(図表Ⅲ-1-10)
次にこれを施設種類別にみると、40人
図表Ⅲ-1-10 利用者数の階級別事業所数分布(n=48)
を境に仮にそれ未満を小規模、それ以上
を 大 規 模 と 称 す る と す れ ば、 病 院
(53.8%) と 老 人 保 健 施 設(57.1%) に
大規模なものが多い傾向が見られた。こ
れも、事業所の経営規模を反映している
可能性が示唆された。(図表Ⅲ-1-8)
図表Ⅲ-1-7 通所リハ定員数(n=46)
36
図表Ⅲ-1-8 施設種類別の通所リハ定員数
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅲ 岡山県下の通所リハビリテーション事業所における(がん患者に対する)医療サービスの実態調査 斎藤信也
37
⑹ のべ利用者数
人保健施設」での「要支援」∼
「要介護2」の構成割合は73%であり、施設種類間に大き
平成16年10月の1カ月間ののべ利用者数は、平均581.3人(72∼3125人、中央値418人)
な差は見られなかった。
(図表Ⅲ-1-13)
であった。
図表Ⅲ-1-13 介護度別利用者数(施設種類別)
同じく、のべ利用者を施設種類別にみると、病院が平均446.9人(72∼725人、中央値
432.5人)
、有床診療所が平均457.8人(232∼863人、中央値363.0人)、無床診療所が平
均468.1人(260∼864人、中央値402.0人)、老人保健施設が平均922.4人(170∼3125人、
中央値668人)であり、やはり、老人保健施設が利用者が多い傾向が見られた。
さらに、施設種類別に利用者の階級度数分布状況をみたところ、病院と診療所は1000
人以下に分布していたが、老人保健施設は1150人以上という階級に4事業所が分布し、
利用者数と同じ傾向が見られた。(図表Ⅲ-1-11)
図表Ⅲ-1-11 利用者数の階級別事業所数分布(n=48)
⑻ 送迎サービス
送迎サービスの1回平均距離は、各施設の平均では14.4km(1.5∼55km)であった。
送迎の距離制限を設けているところは、距離にして5∼10km、あるいは時間にして30
分以内のものがみられた。また、地域制限に従うとしたところも見られたが、回答数が
少なく、比較は困難であった。
⑼ 入浴サービス
浴室を備えている施設は49施設中46施設(93.8%)であり、浴室数は1カ所という施
設が最も多かった(30事業所)が、平均は1.6カ所(1∼4カ所)であった。
⑺ 要介護度分布
全利用者3735人の要介護度の状況を見ると、
「要介護1」が最も多く1447人、次いで「要
介護2」の675人、次いで「要支援」の608
人であり、以下「要介護3」の479人、「要
図表Ⅲ-1-12 介護度別利用者数
⑽ 個
室
休息を必要とする利用者や集団プログラムに参加しない利用者のために、個室が整備
されているほうが良いという意見もあるが、今回の調査では、
「個室あり」と回答した
介護4」の332人、一番少ないのが「要介
ものは5事業所(10.2%)に過ぎず、中には「何のための個室か?」という質問もあっ
護5」の178人であった。(図表Ⅲ-1-12)
た。
次に施設種類別にみると、
「病院」では「要
支援」∼
「要介護2」の構成割合が75%であ
り、
「診療所(有床)」では同じ区分が69%、
同じく
「診療所(無床)」で74%であった。
「老
38
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅲ 岡山県下の通所リハビリテーション事業所における(がん患者に対する)医療サービスの実態調査 斎藤信也
39
回答もあった。また、ストーマ交換を挙げた施設もあったが、後述するがん患者の通所
リハ利用という観点から、興味深いものがあった。
Ⅲ-1-3 通所リハにおける医療サービス
Ⅲ-1-4 通所リハにおけるリハビリテーションサービス
⑴ 医療サービスの提供体制
通所リハにおける医療サービス提供については、併設の外来部門で行っているもので
はなく、あくまでも通所リハ利
用時に同時に提供可能な医療サ
ービスという観点から回答を求
図表Ⅲ-1-14 医療サービスの提供状況 (n=49、数字は実施事業所数)
めたところ、酸素吸入、輸液、
通所リハの本来の目的であるリハビリテーションサービスについて、その実施状況は、
図表Ⅲ-1-16 リハビリサービスの提供状況 (n=49、数字は実施事業所数)
理学療法が42事業所(85.7%)
、
作業療法が33事業所(67.3%)
、
言語療法が10事業所(20.4%)
であった。
(図表Ⅲ-1-16)
経管栄養が約3分の1の施設で
提供可能であった。また、創処
これを、やはり各施設種類別
置に関しては約3分の2の施設
に比較したところ、施設種類間
で提供可能との回答であった。
でとりたてて差は見られなかっ
これに対してIVH(中心静脈栄
たが、病院・診療所では「理学
養法)が可能と回答したのは1
療法>作業療法」であるのに対
事業所のみであった。( 図表Ⅲ
し、老人保健施設では作業療法
-1-14)
の提供事業所数が理学療法のそ
⑵ 施設種類別に見た医療サービスの提供体制
図表Ⅲ-1-17 施設種類別リハビリサービスの提供状況 (n=49)
酸素吸入、輸液、創処置ともに有床診療での実施率が高かった。一方、経管栄養に関
しては、病院と老人保健施設で
は高く、診療所では低い傾向に
あった。特に老人保健施設では
れよりも多いことが特徴的で
あった。
(図表Ⅲ-1-17)
さらに、自由回答方式で求め
たその他のリハビリテーショ
図表Ⅲ-1-15 施設種類別医療サービスの提供状況 (n=49)
ンサービスとしては、音楽療法
を挙げたものが5事業所あっ
輸液が17.3%、経管栄養が42.9
た。また、最近注目を集めてい
%であるのに対し、有床診療所
るパワーリハビリを行ってい
では輸液が42.9%、経管栄養が
る事業所が2カ所あったこと
14.3%と好対照をなしていた。
が目を引いた。
これは、事業所本体の医療機能
の特徴をよく現していると考え
Ⅲ-1-5 通所リハにおける他職種の参加
られた。
(図表Ⅲ-1-15)
医師、看護師、介護職員、リハビリテーション関連職種以外に通所リハに参加してい
⑶ その他の医療サービス
る職種では、栄養士が25事業所(常勤20、非常勤5)と群を抜いて多かったが、これは、
自由回答方式で求めたその他の医療サービスとしては、介護に密接に関連するものと
本体施設の栄養職員がリハプログラムに参加していることを示していると思われた。
して、浣腸・摘便・導尿といった排便・排尿に関するもの、軟膏塗布といった皮膚の処
MSW(医療ソーシャルワーカー)が参加しているのは6事業所であったが、臨床心理
置、湿布といった疼痛処置、さらには吸引を挙げる施設もあった。
士の参加がある事業所は見られなかった。理容師・美容師の参加もほとんどがボランテ
また、医学的要素の強いものとして、関節注射、血糖測定、インスリン注射といった
40
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
ィアベースではあるものの6事業所で見られた。ユニークなものでは、エステティシャ
Ⅲ 岡山県下の通所リハビリテーション事業所における(がん患者に対する)医療サービスの実態調査 斎藤信也
41
ンやアロマテラピストの参加も
図表Ⅲ-1-18 他職種の参加状況 (記号1つがその参加がある1事業所を示す)
見られた。
介護施設における口腔ケアの
第2部 通所リハビリテーション事業所におけるがん患者利用の実態
重要性の認識は高まっているが、
Ⅲ-2-1 通所リハにおけるがん患者利用の実態
歯科医の参加する事業所は6カ
所、同じく歯科衛生士が参加す
る事業所も6カ所あった(図表
⑴ がん患者の利用のある通所リハ事業所
Ⅲ-1-18)
。
回答のあった49施設のうち、過去も含めてがん患者の利用があった事業所は36、現在
図表Ⅲ-2-1 がん患者の利用経験のある通所リハ事業所数
がん患者の利用がある事業所
が28、さらにがん患者のため
の特別なプログラムを有して
Ⅲ-1-6 ボランティアの参加
いる事業所が4あった。
(図
表Ⅲ-2-1)
通所リハプログラムへの(一般)ボランティアの参加については、参加「あり」が26
がん患者の利用がある事業
事業所、
「なし」が23事業所であった。参加「あり」とした施設全部からの回答はなか
所を、施設種類別に比較する
ったが、登録ボランティア数は1∼400人、1日平均の参加者数は1∼5人であった。(図
と、過去も含めて利用の経験
表Ⅲ-1-19)
のある施設では、各施設種類
ボランティアにより提供されるプログラムとしては、代表的なものとして華道(4)
、
図表Ⅲ-2-2 がん患者の利用の経験ある通所リハ事業所数
全 体 に 対 す る 割 合 が、 病 院
茶道(4)、音楽(14)、絵画(3)、茶話会(4)があった。また、その他にちぎり絵、
78.6%、有床診療所71.4%、
朗読、書道、詩吟、手芸、陶芸、将棋が挙げられていた。(図表Ⅲ-1-20)
無床診療所78.6%、老人保健
図表Ⅲ-1-19 ボランティアの参加の有無
(n=49)
施設64.3%と、老人保健施設
図表Ⅲ-1-20 ボランティアにより提供されるサービス
でやや低いもののそれほど差
はみられなかった。
( 図表Ⅲ
-2-2)
また、現在、がん患者の利
図表Ⅲ-2-3 現在がん患者の利用がある通所リハ事業所数
用がある事業所を同じく施設
種類別に比較すると、同様に
各施設種類全体に対する割合
が、病院64.3%、有床診療所
28.6%、無床診療所64.3%、
老人保健施設57.1%であり、
有床診療所で少ない傾向がみ
られた。
(図表Ⅲ-2-3)
⑵ がんの治療状況
現在利用中のがん患者の内訳は、主病名が「がん」であるものが82人(58.6%)
、主
病名が「がん」以外のものが58人(41.4%)であった。
主病名が「がん」の利用者82人のうち、
「がん」が治癒しているものが25人、治療中
42
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅲ 岡山県下の通所リハビリテーション事業所における(がん患者に対する)医療サービスの実態調査 斎藤信也
43
図表Ⅲ-2-4 通所リハを現在利用中のがん患者の内訳
医療ニーズを有する重症者ということで、看護師が同伴する送迎、医療スタッフ監視下
の入浴というサービスが行われていた。
⑵ がん患者が通所リハビリテーションを利用する上での問題点
アンケートの自由回答の一部を以下にそのまま記す。
「目に見えて体重の減少あるいは体力低下のおりは、まわりの人が心配するが、いた
わりの気持ちが生まれ、何の問題もなくできている」
のものが27人、治癒の範疇には入らないが、現在治療を行っていないものが30人であっ
「急変した場合、利用中受診となりご家族に連絡がとりにくくなることがある」
た。
(図表Ⅲ-2-4)
「本人は胃がんということを認識していないのであまり問題はない」
今回の調査で回答のあった49事業所の通所リハの定員数の合計は1563であることから、
単純に計算して、11.5%の利用者が既往を含めてがん患者であると推定された。また、
「ストーマ使用の人は、見られたくない、あるいは匂うということで、利用を躊躇し
がちである」
利用者のうち主病名が「がん」であるものの割合は5.0%ということになり、さらに、
「がん性の痛みを訴え、プログラムに参加できない」
現在そのがんの治療中である利用者を狭義のデイケア利用のがん患者と捉えると、その
「がんの治療は他院で行っているため、通所リハ利用には問題はない」
割合は全利用者の1.7%と考えられた。
「重症の場合は、どうしても特別扱いとなりますが、できるだけ区別しないでやって
また、治療を行っていないという範疇に入る利用者は、手術後のフォローアップ患者
いる」
が主とは思われるが、さらに狭義の緩和ケア患者もここに含まれる(いわゆるデイホス
「がん患者のために安静を取り入れた特別プログラムを準備している」
ピスとしての利用)と考えられ、その割合は1.8%と考えられた。
「がんの主治医と連絡をとり、その指示に従うようにしている」
「(がん患者には、一般利用者と異なり)安静時間の導入が必要と考える」
⑶ 事業所ごとのがん患者利用頻度
現在がん患者の利用がある事業所(n=28)における利用頻度は平均7.2回/月(2∼
14回/月)であった。
「本人が強い気持ちを持っていても体力が及ばず、起立性低血圧や貧血を起こす危険
がある」
「ターミナル期の一時的な利用であったが、家族は『デイケアがあり在宅療法させて
やれた。デイケアの助言で死の間際、再入院させてやれた』と感謝のことばをもら
⑷ 利用時間
った」
がん患者の利用時間は回答があった8事業所のうち、3∼4時間が1事業所、4∼6
時間が5事業所、6∼8時間が2事業所と、4∼6時間の利用が最も多かった。
「コバルト治療の副作用で失明の患者が2名いる。視力の点のみデイケア・メニュー
プログラムにおいて配慮している」
「身体面においては観察のみ実施している」等。
Ⅲ-2-2 がん患者に対する通所リハ事業所における医療サービス
がん患者の病気のステージにより当然、通所リハの利用形態も異なると思われるが、
がんによる不都合が生じていない利用者は本人が希望すれば、他の利用者と同じプログ
⑴ 医療サービスの種類
ラムでよいはずであるし、それに必要な医療サービスを付加するという形態で問題はな
第1部で検討した通所リハ施設における医療サービスに包含されるものが大半である
が、アンケートでは、がん患者に対する医療行為としてあらためて記入をもとめたとこ
ろ、当然他の疾病を有する利用者と共通の医療行為が多いが、がん患者に特徴的なもの
いと考えられる。
一方、緩和・ターミナル期の利用に関しては、狭義のデイホスピスが備えるべき医療
機能として、
として、疼痛管理のための持続皮下注入(CSC)挿入中の患者の針の交換や、モルヒネ
⑴ がんの緩和医療に必要な医療サービスの提供、
の服薬管理、ストーマの管理があげられていた。
⑵ 医療監視下での入浴等デイケアサービスの提供、
また、がん患者と関連の深い医療サービスとしては、24時間酸素吸入患者の酸素管理、
酸素飽和度の測定、I VH(中心静脈栄養)の管理、輸血、精神的ケアがあった。さらに、
44
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
⑶ がん患者のニーズにあわせた休息を取り入れたサービスの提供、
⑷ ストーマケア、I VH管理、持続皮下注入ポンプの管理等がん支持療法としての医
Ⅲ 岡山県下の通所リハビリテーション事業所における(がん患者に対する)医療サービスの実態調査 斎藤信也
45
療機能、
⑸ 限られた予後を自覚している患者・家族に対する精神的ケア、
等の提供が必要と考えられた。
Ⅳ 介護保険の持つがん終末期ケアにおける限界
──ケアマネジメントの可能性と限界──
なお、Ⅲ -2-1の⑶における2カ所の通所リハビリテーション事業所を対象とした詳
細な検討結果とこのⅢ -2-2の調査結果を踏まえて、通所リハビリテーション施設にお
ける緩和・ターミナル期のがん患者の利用に際しての、現行の診療報酬制度・介護報酬
制度下での問題点と課題については、現在検討中である。
田村 里子 東札幌病院診療部
Ⅳ -1 はじめに
社会福祉基礎構造改革の流れに伴う介護保険制度の制定は、がん患者の終末期ケアに
ついても、在宅療養の可能性をひろげていく上で大いに寄与したことは疑いがない。こ
とに日常生活支援用具の準備や介護力不足の課題が、在宅療養の選択を困難にしていた
場合などには、介護保険のサービスが在宅生活への糸口をもたらしてきた。
しかしながら、要介護状態の高齢者が在宅に過ごすための支援を想定した介護保険サ
ービスは、終末期のがん患者にとっては使い勝手の悪い部分があることも否めない。
そこで、さらに介護保険の諸サービスが終末期ケアに適応されていくために、現状か
ら、介護保険の限界と可能性、そして課題について考察したい。
Ⅳ -2 介護保険のがん終末期への適応を考えたとき、一番の壁となるのは、なんと言っても
介護保険制度の年齢制限枠である。がんは高齢者に多いが、いうまでもなく高齢期に限
った疾病ではない。しかしながら、高齢者の要介護者へのニーズに対応した介護保険は、
特定疾病をのぞいては、対象者を65歳以上に限定している。それが、がん終末期ケアに
おける介護保険の活用を考える際に、限界をもたらしている。
介護保険に該当しない要介護状態での在宅支援の場合、障害認定が可能な状態であれ
ば身体障害者手帳の申請を行い、支援費制度の活用を検討することになる。たとえば、
65歳未満のがん患者で、骨に転移のある等で身体障害者手帳の該当となる場合などであ
る。
この場合、制度活用に関すること、つまりサービスの選定と活用は、患者と家族の申
請行為が不可欠となる。これは、自立支援を目指した制度設計からの所以であるが、実
際に介護負担による疲労や、病状の変化に心労が重なる終末期のがん患者家族にとって
は、こうしたことが非常に大きな負担となる。
両制度の活用上からの大きな違いは、支援費制度においては利用者にとってケアマネ
ージャーが不在なことである。介護保険制度とは異なり支援費制度は、
「実際にどのよ
うなサービスが必要か? どうすることが妥当か」を判断することが、すべて利用者側
の責任においてなされる。
46
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅳ 介護保険の持つがん終末期ケアにおける限界──ケアマネジメントの可能性と限界 田村里子
47
多くの終末期がん患者の家族は、困惑と予期悲嘆の中で、時間に追われつつ役所に出
向き、役所の担当者との「いかにサービス枠を認めてもらえるか」のやりとりに腐心惨
憺し、心労する。そこから、支援費制度活用は、困難感をもたらし、在宅療養の選択を
はばむものとなる。
こうした点でもいろいろな批判はあるが、介護保険制度のケアマネジメントのしくみ
Ⅴ 通所リハビリテーション利用における「がんと非がんの
ケアミクス」の利用者の心理特性とグループダイナミクス
は、終末期がん患者とその家族にとっての利点といえる。介護保険制度の在宅支援のた
めのケアマネージメント等のシステムは、まだ十分とは言えないまでも、2000年の介護
保険制度開始以来、在宅療養の支援資源として整備されてきた。現在の既存のサービス
岡 村 仁 広島大学大学院保健学研究科
体系では、日本においてはある意味で唯一無比ともいえるものであろう。
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そこで、がんを特定疾病に加えて、対象年齢枠を広げることで、終末期ケアへの適用
Ⅴ -1 心理特性
は大きく広がるものと考えられる。
Ⅳ -3 通所リハビリテーションを利用する終末期がん患者の心理特性、特に通所リハビリテ
がんの終末期においては、医療サービスの必要は言うまでもないが、急激なADLの
低下の中にあっても、本人が望んだ場合に在宅生活の継続が可能になるためには、在宅
ーションを利用することによる心理的有用性についての検討を、文献的考察ならびに事
例検討に基づいて行った。
において十分な介護支援が可能な体制であることが求められる。
すなわち介護の重症化に伴い、要介護度の変更申請を行う必要が生じる。しかしなが
ら、こうした病態の変化にともなういわゆる介護保険の区分変更は、終末期がん患者の
場合、申請が要介護度の重度化には追いつかないことは、日常的に経験することである。
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Ⅴ-1-1 文献的考察
終末期がん患者に対する通所リハビリテーションあるいはデイホスピスは、近年、急
速な広がりをみせているものの、そのケアの内容についてはさまざまなのが現状である
そこで終末期がん患者の場合、区分変更については医師の診断書により決定されるこ
(Higginson, et al, 2000)
。このため、通所リハビリテーションの評価や有効性を実証的
と、つまり区分変更まで期間が短縮されることで、制度の活用の適応は大きいと考えら
に示した報告は乏しく、今後の研究の必要性が強調されている(Douglas, et al, 2000,
れる。 Spencer, et al, 1998)
。
がんの終末期の場合、介護体制を支援することのニーズは、開始時には想定されなか
こうした背景の中、心理的側面について検討された報告もほとんどないが、その数少
ったような展開が生じる。つまり患者のみならず、家族が在宅支援を継続するための援
ない報告の中では、気分の安定化、自己価値観の向上、孤立感の軽減といった、通所者
助の意味も大きい。がん末期の対象者には、医療的な対応が求められることは論外であ
に対する心理的有用性が示されている(Hopkinson, et al, 2001)
。
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るが、介護ニーズも変化する。こうした点からも、介護保険と医療保険の盛り合わせの
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Ⅴ-1-2 事例検討
自由度の拡大も課題である。
本研究班で行われた、通所リハビリテーションを利用する7例の事例検討を通して、
Ⅳ -4 おわりに
通所者の心理的特性を明らかにすることを試みた。
がん終末期ケアにおける介護保険の限界そして可能性と課題について、考察した。介
護保険制度は末期がん患者にとっても有効な資源である。さらに有効な資源となるべく、
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終末期がん患者への適応に可能性を広げるため、がんを特定疾病に認定すること、区分
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変更については医師の診断書により決定可能とすること、介護保険と医療保険の盛り合
わせの自由度の拡大等の改正が求められる。
方法は、事例検討に用いられた「症例整理シート」の「精神面」に関する記述から、
通所者の心理的体験および自覚している心理的効果を取り上げ、まとめることとした。
その結果、通所前は、身体面あるいは集団に入ることへの不安感を有しているものの、
通所後はスタッフとのかかわりの中で、
「気分転換ができた」
「楽しむことができた」と
いった発言がみられるなど、気分の安定化が図られていることが示唆された。しかし一
方で、
「他の人と合わせるのがつらい」と感じ、通所を拒否した例もみられた。
以上の結果より、通所リハビリテーションは通所者の気分の安定化や孤立感の軽減を
図るといったメリットがある反面、他人と接することでの心理的負担も生じる可能性が
48
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅴ 通所リハ利用における
「がんと非がんのケアミクス」
の利用者の心理特性とグループダイナミクス 岡村 仁
49
示唆された。しかし、通所リハビリテーションが及ぼす心理的側面については未だ不明
の点が多く、今後更なる検討が必要と考えられる。
れること
9「実存的因子」──人生や生活の限界に直面して引き受けること
10「グループの凝集性」──グループやグループメンバーの魅力に気付いて意味あ
る関係を形成すること
Ⅴ -2 グループダイナミクス
11「対人学習」──対人的相互作用を探求すること
である。また、これらの「治療的因子」に当てはまらないものは「その他」に分類した。
複数の人間の間に、共有したり共通する態度が形成された時にグループが生まれる。
形成されたグループは、グループを構成している各個人の行動にさまざまな影響を及ぼ
全ての感想を各カテゴリーに分類した後、カテゴリー毎に全ラベル数を分母とした割
合を百分率で示した。
す。この作用が グループダイナミクス といわれる。
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通所リハビリテーションを考えた時、通所サービスを利用しているのはがん患者だけ
その結果、グループ療法参加者の主な参加理由は、
「同病者と話し合いたい」
(17名/
でなく、さまざまな疾病をもった患者が集まってくる。その中で、がん患者とがん以外
60.7%)
、
「グループ療法がよさそう」
(11名/39.3%)
、
「精神的サポートが欲しい」
(8
の患者が同一のグループを形成し、効果的なグループダイナミクスが形成されるのであ
名/28.6%)であった。
ろうか? しかし、この疑問に答えるような先行研究や書物での記載は見当たらなかっ
た。そこで今回、上記の疑問に対する回答を導き出すための予備的検討を行った。
また、グループ参加の感想を分析した結果、参加者らの感想は144のラベルに区分け
され、そのうち108(75%)が治療的因子を示し、その内訳は「情報の伝達」63(43.8%)
、
「希望をもたらすこと」21(14.6%)
、
「普遍性」11(7.6%)
、
「カタルシス」4(2.7%)
、
「実
実際に通所リハビリテーションを利用している患者を対象に検討するのは困難であっ
存的因子」5(3.5%)
、
「凝集性」4(2.7%)であった(表Ⅴ -1)
。
たため、ここでは、我々が実施した再発乳がん患者を対象としたグループ療法の結果か
ら検討することとした。
以上の結果のように、グループへの参加の理由、グループがもつ治療因子として最も
本研究の対象は、国立病院四国がんセンターにて、組織学的に乳がんと診断され、組
織学的および/または臨床的に再発が認められる20歳以上の女性患者で初再発の者のう
表Ⅴ -1 治療因子の発現率(対象者らの感想の分析から)
ち、再発の診断後3カ月以上1年以内で再発の情報開示が行われており、全身状態が重
篤でない者とした。適格条件を満たし、文書にてグループ療法参加への同意が得られた
28名に対し、対象者4∼8名とリーダー2名(男性精神科医1名と女性看護師1名)を
1グループとして、毎週1回90分/計6回の心理・社会的グループ療法を行った。
評価のひとつとして、グループ療法への参加理由についての聞き取り調査を行うとと
もに、介入参加者が記述した感想を、Yalomが同定しているグループの「治療的因子」
に沿って区分けし分類した。
「治療的因子」として同定されている11のカテゴリーとは、
1「希望をもたらすこと」──他者の成熟が自分の成熟の希望になること
2「普遍性」──他者も自分と同じ問題を抱えていることを知って安心すること
3「情報の伝達」──他者からの助言や指示によって生活や行動の変容が促される
こと
4「愛他主義」──他者に役立つこと
5「社会適応技術の発達」──基本的な社会生活を学習すること
6「模倣行動」──他者の行動様式を観察し真似ること
7「カタルシス」──強く深い感情を表出し感情的安堵感を得ること
8「初期家族関係の修正的繰り返し」──育成期の初期の葛藤が修正的に繰り返さ
50
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅴ 通所リハ利用における
「がんと非がんのケアミクス」
の利用者の心理特性とグループダイナミクス 岡村 仁
51
強かったのは、同病者とのコミュニケーションや情報伝達であった。このことから、異
なった疾病を有する患者がひとつのグループを形成し、サポートを受けるのは容易では
ないことが推察される。
Ⅵ 終末期ケアにおけるリハビリテーション
しかし先述したように、実際に異なった疾病を有する患者でのグループに関する報告
がこれまでないなど、実証的な検討や報告に乏しいこと、通所リハビリテーション自体
がまだ発展途上であることを考えると、がん患者とがん以外の患者とが通所リハビリテ
ーションの中で同一のグループを形成するための工夫を行っていく余地は、あるであろ
香川 優子 元かとう内科並木通り診療所
う。
リハビリテーション科
そのためには、上記の結果も踏まえると、
⑴ 「QOLの維持・向上」という目標を共有できるようにする、
⑵ 心理的サポートを取り入れる、
Ⅵ -1 はじめに
⑶ いつでも自由に参加できるような状況を設定する、
⑷ 疾患によらない共通のリハビリテーションプログラムをいくつか作成する、
といったことを考慮する必要があると思われる。
わが国で終末期のリハビリテーション(以下、リハと略す)が本格的に論じられるよ
うになったのは、平成12(2000) 年4月、介護保険が施行され、維持期リハにリハ職が
今後は実践の中で、問題点の抽出も含め、がん患者とがん以外の患者とが通所リハビ
多く関るようになってからである。それまでのリハは急性期リハ、回復期リハこそがリ
リテーションの中で同一のグループを形成できるかどうかを検証していきたいと考えて
ハの役割と考えられ、一部のがんの緩和ケアや神経難病のリハは論じられていたが、維
いる。
持期や終末期、緩和的なリハは切り捨てられた感があった。現在でもその感はぬぐえな
い。平成16年1月に高齢者リハビリテーション研究会が出した答申においても、予防的
リハ(身体機能の低下を防ぎ、機能向上を目的とする内容)へ重点が置かれる内容にな
っており、終末期のリハについては、全く触れられていない。
がんの一部を含む進行性疾患や老化に伴う心身の機能低下を防ぐことは、現在の医学
では困難であり、近い将来に死は避けられない現実として受け入れなければならない。
平成16年7月に出された厚生労働省『終末期医療に関する調査等検討会報告書(今後
の終末期医療の在り方について)
』の中で、
「大切なのは、生活する人の視点で、安心で
きる医療や介護の提供体制をどのように作っていくかであり、この方向での終末期医療
体制の整備が、今強く求められている」とある。リハビリテーションの理念や技術は、
真に「生活する人の視点」に立ち、終末期特有のさまざまな症状や障害、ADL(日常生
活動作)上の問題、対象者の最期のおもいや希望を受け止め、安らかな看取りを迎えら
れるよう「生活の質(QOL)
」の向上のための大きな役割を担うと考えられる。
なお、本稿でいう終末期とは、
「病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な最
善の治療により病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、近い将来の死が不可逆と
なった状態」
(日本老年医学会)として論じたいと思う。
Ⅵ -2 病気と障害
Ⅵ-2-1 砂原の分類
砂原
52
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
1)
は、障害は本来病気と表裏一体であるとして、実際的な立場から3つに分類
Ⅵ 終末期ケアにおけるリハビリテーション 香川優子
53
している。
① 独立した障害──先天性障害(サリドマイド児など)、精神遅滞
② 病気と共存する障害──慢性疾患(循環器、呼吸器、腎臓など)
Ⅵ -3 リハビリテーションとは
③ 病気のあとにくる障害──ポリオ、外傷による切断など
現代は、慢性疾患の増加、老年期の退行性疾患、進行性の病変や、医療の進歩により、
Rehabilitateとは、habilis(適した)というラテン語からでたhabilitareという動詞に、
3)
生命が延長されたために、②の「病気と共存する障害」、つまり「病気と障害をもちな
re(ふたたび)という接頭辞がついてできた言葉であり、医学用語ではなかった 。
がら生活する」人たちが大幅に増加している状況といえる。リハビリテーションは主に
Rehabilitateは、⑴一度失った位階、特権とか財産とかを回復すること、⑵一度失った
障害に対応するが、②の患者の増加により、その対象がひろがっている。終末期の患者
名誉をとりかえすこと、⑶良好な状態に返すこと、⑷治療や訓練によって身体的、精神
はこの中に含まれると考えられる。
的にもと通り健康な状態に回復すること(ウエブスター英語辞書)である。つまり、
「人
間であることの権利、尊厳が何かの理由で否定され、人間社会からはじき出されたもの
Ⅵ-2-2 国 際 生 活 機 能 分 類(International Classification of Functioning, Disability
and Health:ICF)
が復権するのがリハビリテーションである」と述べている。また、上田
4)
は「全人間
的復権」
、病気がなおらなくても「人間らしく生きる権利を回復すること」がリハビリ
2)
世界保健機構(WHO)の国際分類
では、健康状態(病気〈疾病〉、変調、傷害など)
テーションの理念と述べている。
は主に国際疾病分類(ICD-10)によって分類され、それは病因論的な枠組みに立った
ものである。健康状態に関連する生活機能と障害はICFによって分類される。
I C F の最も大きな特徴は、単に心身機能の障害による生活機能の障害を分類するとい
Ⅵ -3-1 リハビリテーションの定義
リハの定義は国内外を問わず、時代や社会状況、定義する組織によって少しずつ異な
う考え方でなく、活動や社会参加、特に環境因子の重要性をあげ、医学モデルと社会モ
り変遷しているが、WHOと厚生労働省の定義をあげてみる。
デルの統合に基づいて
WHOの定義(1981年)
いることである。そし
図表Ⅵ -1 I C F による終末期リハの枠組み
「リハビリテーションは能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成す
て、疾病や障害をもっ
るためのあらゆる手段を含んでいる。さらにリハビリテーションは障害者が環境に適応
た人やその家族、そし
するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促すために全体としての環
てそれらにかかわる人
境や社会に手を加えることも目的とする。そして、障害者自身、家族、彼らが住んでい
たちが、リハビリテー
る地域社会が、リハビリテーションに関係するサービスの計画や実行に関りあわなけれ
ションを遂行する上で
ばならない」
重要な概念的枠組みと
厚生白書(1981年)
なっていることである。
「リハビリテーションとは障害者が一人の人間として、その障害にもかかわらず人間
終末期のリハをI C F
らしく生きることができるようにするための技術及び社会、政策的対応の総合的体系で
4
4
4
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からみると、本人の希
あり、単に運動障害の機能回復訓練の分野だけを言うのではない」
4
望に基づいて、終末期
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Ⅵ -3-2 リハビリテーションの領域
の症状(心身機能・身
4
4
4
体構造)を緩和しなが
4
① 医学的リハビリテーション
4 4 4
ら、どこまで活動・参
② 職業的リハビリテーション
4
加できるかということ
③ 社会的(心理的)リハビリテーション
であり、背景因子であ
このようにリハは非常に広い概念であり、障害をもつ人たちに対して行われる特別な
4
4
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4
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4
4
る環境因子と個人因子
技術だけをさしているのではなく、多くの機関、公的・非公的組織、かかわる全ての人
の与える影響が大きな
たちが協力して行う活動または体系・プロセスを意味している。
ものとなる(図表Ⅵ -1、
本稿では特に医学的リハに焦点をあてながら、述べたいと思う。
参考文献2より)。
54
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅵ 終末期ケアにおけるリハビリテーション 香川優子
55
海外においては、1980年、Dietz
8)
によると、がんのリハプログラムのステージを、
①予防的リハ(priventive rehab.)
、②治療的(回復的)リハ(restorative rehab.)
、③
Ⅵ -4 終末期のリハビリテーション 支持的リハ(supportive rehab.)
、④緩和的リハ(palliative rehab.)として、緩和的リ
ハについて次のように定義している──「寿命を延ばすことはできないが、何もしない
Ⅵ -4-1 わが国の終末期のリハビリテーションの歴史
わが国では、終末期のリハについて3つの流れがある。一つ目は1960年代から1970年
で自然経過のなかで死を迎えるよりは、リハによりたとえ数ヶ月でも受身でなく身体的
にも精神的にもあるいは社会的にもQOLの高い生活が送れるよう援助すること」
。
以上、終末期のリハの目的を整理すると、図表Ⅵ -2 のようになる。
代、国立療養所が結核病床空床化によって再編成された時代に、重症心身障害児や進行
性筋萎縮症の入院病棟が国立療養所に新設され、そこで重症心身障害児や神経難病のリ
図表Ⅵ -2 終末期リハ・緩和的リハの目的
ハがなされた。二つ目は緩和ケア病棟が多く認可されるようになった1990年代、がんの
緩和ケアの中で緩和的リハが施行されはじめた。三つ目は2000年介護保険が施行され、
維持期のリハとして、多くのリハ職が高齢者にかかわるようになったことである。
しかし、臨床現場では、終末期のリハにかかわることはあっても、医学的リハ関係の
雑誌で終末期のリハの特集が組まれることは少なく、従って、これを正面から論じた文
献は非常に少ない。2002年に初めて大田
5)
によって「終末期リハビリテーション」の
定義が提唱されている。
1967年、C. Saundersによって英国で建設されたSt. Christpher Hospice は近代ホスピ
ス・ムーブメントのさきがけとなったが、わが国の医療制度に組み込まれたのは、1990
年であった。緩和ケア病棟の設立は、緩和的リハの発展への基となってきており、その
考え方は介護保険の領域にも影響をみせはじめたところである。
緩和ケアと治療の関係についての一般的な考え方に、リハ(太線)を重ねてみると、
図表Ⅵ -3 のようになる。
Ⅵ -4-2 終末期のリハビリテーションの考え方 大田
5)
は終末期リハの定義を、「加齢や障害のため自立ができず、自分の力で身の安
図表Ⅵ -3 治療・緩和ケア・リハビリテーションの考え方
全をなしえない人々に対して、最後まで人間らしくあるように医療・看護・介護ととも
に行うリハビリテーション活動」とし、従来からのリハの区分である、急性期リハ、回
復期リハ、維持期リハに続いて「終末期リハ」を提案している。そして目標を「最後ま
で人間らしさの保証」としている。
また、ターミナルケアのリハとして、郷地ら
6)
は、「リハ医療は全人間的とらえ方を
基本とする患者観やQOL(人生の質)を重要視するアプローチなど、ターミナルケアと
理念的に共通する基盤を持っている」といい、ラスクのリハ医学の目標と対比させなが
ら、
「第3の目標として、残存する(すなわち、もはや回復の余地のない)身体障害を
もっている人をして障害の制約内において彼の能力を最大限に活用して生活し、仕事を
することができるよう援助することである」に対して、「癌をもちながらも生きる患者
の人生の質を高める援助をすること」とし、「ターミナルケアを人間最後の成長期ある
いは完成期の援助と考えた時、全人的ケアやQOLの向上というパラダイムの拡がりが
リハ医療の理念と大きく重なってくる」と述べている。
また石田
7)
広井
9)
は、通常の慢性疾患(糖尿病、心臓疾患、がんなど)と比して、老人の退行
は、「リハ治療を、疾病の治癒(cure of disease)から苦悩の軽減(relief
性疾患について、
「やみくもに治療というかたちで対応しようとすることは、かえって
of suffering)への治療パラダイムシフトと広くとらえれば、緩和ケアのなかにリハの
その 生活の質(QOL) を低めることになる場合がある。つまり、 医療モデル に対
要素が含まれても不思議ではない」と述べている。
する 生活モデル 、あるいは 疾病 でなく 障害 ととらえたうえで、残された機能
56
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
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とで警戒心が解かれた。車椅子に簡易座位保持クッションを設置して座位の安定を図り、
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食事は座位でとることを提案、看護部との連携を図る。三食可能となり、夫と院内、庭
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を積極的に生かしなが
図表Ⅵ -4 ケアモデルとリハビリテーション
ら生活全体の質を高め
ていく、という幅広い
4
ケアが求められるので
軽い関節可動域訓練とストレッチを施行し、受動的なリハによる安心感と快感を得るこ
の車椅子散歩も受け入れるようになった。
ある」
(傍点筆者)と
夫婦の笑顔が見えはじめたところで、上肢機能と認知機能の評価を目的に、書写、模
述べている。通常の慢
写、自画像を描く。
「俳句を詠まれますか?」と問うと、夫が笑顔をみせ、夫の俳句と
性疾患の終末期におい
妻の絵の模写の合作が創られていった。妻は日記を書くようになり、夫が妻の気持ちを
ても、同様なことがい
俳句にして妻が絵を添える日々は、死亡1週間前まで続けられた。作業療法開始3週間
えるのではないか。そ
後には、T字杖歩行で夫と散歩が可能となる。
して、広井のいう「幅
在宅移行への検討のため退院前訪問を行い、介護保険を申請しデイケアも検討された
広いケア」とは、まさ
が、退院5日前より右側胸部痛、呼吸困難感が増強し、がん性リンパ管症のため死亡。
〔考察とその後の経過〕
予後の限られた患者が、病気と障害を同時に受け止めること
に「リハビリテーション」の根幹を述べている。
図表Ⅵ -4 は、
「ケアのモデル」の全体的な見取り図(広井による)に、リハ(太線)
の分野を加えて示したものである。
は、大変困難を伴う。Gさんは、夫の俳句と暖かいまなざしが大きな支えとなった。サ
イバーナイフの施行とリハにより、セルフケアや移動、ベッドから離れて散歩ができる
生活の獲得ができ、
心身機能・身体構造の改善がなされた。高齢で子供のいない夫婦(環
Ⅵ -4-3 緩和ケア病棟でのリハビリテーション
境因子)にとって、日々の希望を見出すことは難しいことであったが、夫婦が共有でき
筆者が関与したK病院の緩和ケア病棟において、4年4カ月間に入院した患者数484
名の内、リハ処方された患者は、82名(17%)であった。
る活動(個人因子)をとおして、終末期の日々の希望を見出すことができたと考えられ
る。在宅復帰はかなわなかったが、夫婦の合作の絵と俳句・日記は大切な遺品となった。
処方内容別に分類(重複処方あり)すると、身体機能維持(移動・移乗動作に関する
独居のGさんの夫は、3年後「ここで死にたい」とK院デイケアを利用し、同時に が
もの)64名(78%)、心理的サポート50名(60%)、在宅・ベッド周囲及び環境調整16名
んの患者と家族のためのクラブ (ボランティア組織)に遺族会員として参加している。
10)
(20%)
、拘縮予防・疼痛・浮腫11名(13%)であった
。
身体疾患が重症化するにつれて抑うつを合併する頻度は増加するといわれるが、がん
11)
患者では軽度を含めると30∼40%といわれている
。また、リハ処方患者82名の内、脳
転移・骨転移などにより運動障害を合併している患者は50名(60%)を占めている。
リハを施行するにあたっては、心身両面からのアプローチが重要になってくる。処方
内容からも60%に心理的サポートが要求されている。
《事例》
Gさん77歳。女性。肺がん・骨転移・脳転移。告知されている。家族は夫(85歳)。
子供はいない。
9)
「残された機能を積極的に生かしながら生活全体の質を高めていく 」ことは、遺さ
れた家族のグリーフケアとなり、安らかな看取りを導くことができる。終末期ケアにお
けるリハの最も大きな目標は、患者の自立と尊厳を守ることはもちろん、家族に大きな
12)
トラウマを遺さないことである。このことは、
「健全な地域社会の育成
」のために、
大きな力となるに違いない。終末期ケアにおけるリハは、その遺族のリハビリテーショ
ンと捉えなおすことができるのではないだろうか。
Ⅵ -4-4 終末期ケアのリハビリテーションとは
「疾病や障害、高齢のために死が不可逆となった人、自立ができず身の安全をなしえ
ない人が、家族と共に住み慣れたところでできうる限り、肉体的、精神的、社会的福祉
〔入院後の経過〕
サイバーナイフ施行のため緩和ケア病棟(以下PCUと略)より他
の状態(well-being)をたもち、尊厳ある最期を迎えられるように医療、保健、福祉機関、
院に転院しリハを受けるが、約1週間でPCUに戻ることを希望。抑うつ状態、不安、イ
組織、地域の人々とともに行うリハビリテーション活動をいう。さらに、遺された家族
ライラ、不眠、終日ベッド臥床。全介助。「リハがきつかった」という。
が健康な状態を取り戻すためのリハビリテーション活動をも含んでいる」
〔リハ処方〕
精神的サポートと身体機能の回復(座位、ポータブルトイレ移乗)
〔リハ経過〕
訪室するとベッド臥床、顔色不良、閉眼のまま「眼をつむっているほう
がいいようです」と言い、声も小さい。夫はやや離れた所で表情も硬く挨拶もなく、G
Ⅵ -5 おわりに
さんの身体に触れると、眉間に皺をよせた。他院での積極的なリハとGさんの心のギャ
ップによる抑うつ状態と判断し、リラクゼーションから導入した。音楽をかけながらの
58
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
本研究の課題である、通所リハでの終末期リハの臨床現場を考えてみると、幅広く多
Ⅵ 終末期ケアにおけるリハビリテーション 香川優子
59
様な利用者(年齢、疾患、病期、障害の重軽など)を抱える通所リハでの終末期リハ・
アプローチは、人(多職種のチームワーク、ボランティア、家族、地域住民など)、も
の(利用者のニーズを満たせる活動)と場(個、集団、選べる場面、環境)が整備され
ることが重要である。2003年4月より個別リハ加算が制度化されたことは、個別のニー
Ⅶ 通所リハビリテーションの職員に対する
がん終末期ケアに必要な教育
ズに対応でき、その可能性を広げる意味で重要かつ有用と考える。
しかし、個別リハがかなり限定された条件(機能の向上の可能性があること。ADL
に限定されていること)の基にあることは、終末期リハを推進する上での大きな障害と
古口 契児 かとう内科並木通り診療所
(研究当時)
(現 福山市民病院緩和ケア科)
なっている。ここへの改定、または「終末期加算」の新設の必要性を強く感じる。
通所リハビリテーションにおいてがん終末期ケアが広がるためには、職員がある程度
参考文献
1) 砂原茂一編:リハビリテーション概論、医歯薬出版、2001年
そのケアに習熟しておく必要があり、そのためには教育が必須である。しかしこの教育
2) 世界保健機構:国際生活機能分類──国際障害分類改定版、中央法規出版、2002年
は、がん終末期ケアだけを対象とした特別なものではなく、がん以外の慢性疾患患者の
3) 砂原茂一:リハビリテーション、岩波新書、1980年
4) 上田敏:リハビリテーションの思想(第2版)、医学書院、2002年
5) 大田仁史:終末期リハビリテーション、荘道社、2002年
6) 郷地秀夫他:ターミナルケアとリハビリテーション、ナースプラスワン5月臨時増刊号、
1992年
7) 石 田 暉: 緩 和 ケ ア と リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン、Journal of Clinical Rehabilitation, Vol.10 No.7,
終末期ケアにも共通したものであるべきと思われる。すなわち、終末期ケアを提供する
可能性のある全ての施設において、ケアを担当する全ての職員に対して教育がなされる
べきである。
このような観点から、通所リハビリテーションの職員に対して必要な教育について考
察を加えた。
2001
8) Dietz JH: Adaptive rehabilitation in cancer, Cancer Rehab. 68, 1980
9) 広井良典:ケア学、医学書院、2000年
10) 香川優子:緩和ケア病棟をもつ病院での実践と緩和ケアシステム、作業療法ジャーナル
Vol.36 No.1、2002
11) 山脇成人監修、内富庸介編集:サイコオンコロジー、診療新社、1997年
12) 香川優子:ターミナルケアにおける作業療法の役割と課題、作業療法ジャーナル Vol.33
No.12、1999
Ⅶ -1 通所リハビリテーション職員に対するアンケート結果
通所リハビリテーションにがん終末期の患者が参加する場合の問題点について、アン
ケート調査を施行した。その結果、問題点は以下のように大別できた。
⑴ ハード面に関する問題点
▪個別対応には人員確保が必要。
▪落ち着いて過ごせる環境が必要であり、ベッド数・個室の確保が必要。
▪急変時に対応できる医療体制が必要。
▪送迎時の急変にも対応できる体制が必要。
⑵ ソフト面に関する問題点
▪集団リハビリのプログラムが主であるため、個別対応しにくい。
▪他の利用者への悪影響が懸念される(不安を与える、異質に映るなど)
。
▪がん終末期患者さんを特別扱いせずに対応することが難しい。
▪がん終末期患者さんのQOLを本当に向上させるプログラムを提供できるのか疑問
がある。
▪スピリチュアルケアのできる職員が必要である。
▪チームアプローチが重要であるが、そのための十分なケースカンファレンスができ
60
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅶ 通所リハビリテーションの職員に対するがん終末期ケアに必要な教育 古口契児
61
るかどうか疑問がある。
主要項目として、
「痛
図表Ⅶ -2 STASの特徴と使い方(日本語版STAS)
▪通所リハビリテーション参加が診療や治療の手段として利用される場合は、参加目
的が不自然となる。
・日本語版STASは患者の身体的症状について(2項目)
、患者の
情緒的なことについて(2項目)
、家族または身近な介護者につ
アンケート結果としては、通所リハビリテーションにがん終末期の患者が参加するこ
とに対する現実的な対応に関する問題点が多く、ニーズのレベルまでは職員個人の問題
意識が掘り下げられていない印象を受けた。
この現状を考えると、教育的立場からは、高齢者の終末期における緩和ケアの意義を
啓蒙したり、各職員にその必要性を意識付けることが必要と思われる。そのためには、
教育カリキュラムを用いた動機付けや、評価表を用いた意識付けが有効ではないかと思
われた。
いて(2項目)
、コミュニケーションについて(3項目)の計9項
目からなる。
・各項目は0∼4の5段階からなり、各段階につけられた説明文
を見て、最も近いものを選ぶ。
・0が症状が最も軽い(問題が小さい)
、4が症状が最も重い
(問
題が大きい)
ことを意味する。
・患者や家族自身でなく、ケアを提供しているスタッフが記入す
る。そのため、患者の身体状態にかかわらず、緩和ケアを受け
ている全患者さんに実施することが可能である。
Ⅶ -2 ホスピス・緩和ケア教育カリキュラム(多職種用)の活用
・スコアリングは、できればチームカンファレンスでの話し合い
をもとに記入する。また、プライマリーナースなど、同じ人が
みのコントロール」
「症
状が患者に及ぼす影響」
「患者の不安」
「家族の不
安」
「患者の病状認識」
「家
族の病状認識」
「患者と
家族のコミュニケーショ
ン」
「医療専門職間のコ
ミュニケーション」
「患
者・家族に対する医療専
門職とのコミュニケーシ
ョン」の9項目よりなり、
他者評価という方法をと
っている。
2、
また、STAS日本語版
継続して記入することが望ましい。
このカリキュラム
1)
は、全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会(現、日本ホスピ
ス緩和ケア協会)の教育研修専門委員会が作成し、2001年12月に公表されたものである。
このカリキュラムは図表Ⅶ-1に示すように4つの要素より構成されており、個別行動目
標(SBOs)として7つの項目が提示さ
れている。このうち、疼痛マネジメント
図表Ⅶ -1 カリキュラムの概略
はある程度がん終末期に特有な内容で
1.ホスピス・緩和ケアの定義
あるかもしれないが、他の6項目は全て
2.ホスピス・緩和ケアスタッフの資質と態度
の終末期ケアに共通する内容と思われ
3.一般目標(GIO)
る。
4.個別行動目標(SBOs)
このカリキュラムに基づいて、それぞ
れの施設において職員の教育プログラ
ムが作成されることが望ましい。なお、
このカリキュラムは、日本ホスピス緩和
ケア協会のインターネットサイト
(http://www.angel.ne.jp/ jahpcu/) よ
りダウンロード可能である。
・スコアリングの結果は、カルテのチャート
(温度板)
や専用の表
に記載するのがよい。
3)
は2004年 3 月 よ り 公
表 さ れ て お り、http://
・スコアリングするのは入院時、その後はだいたい1∼2回╱週
plaza.umin.ac.jp/stas/ よ
である。ただし、患者や家族の状態によって評価回数を調整し
りダウンロード可能であ
てもかまわない。
る。 図 表 Ⅶ-2にSTAS日
・日本語版STASでは、項目はそれぞれ個別に解釈される。全項
目を合計して総得点を出すというような使い方は推奨されない。
本語版の特徴と使い方を
示した。
STASを使用すること
は、緩和ケアに関する教育・トレーニングとしても有効であると期待できる。
①疼痛マネジメント
②症状マネジメント
③心理社会的側面
④霊的側面
⑤倫理的側面
⑥チームワーク
⑦行政・法的問題
Ⅶ -4 緩和ケア専門チームによるサポート
通所リハビリテーションの職員に対する教育プログラムに対し、地域の緩和ケア専門
チームによるサポートがあれば、さらに質の高い教育が期待できる。全国にはすでに多
くのホスピス・緩和ケア病棟や緩和ケアチームが立ち上げられており、そこの専門家た
ちを地域の共通資源として活用することは可能と思われる。このような動きがあれば、
緩和ケアをがん以外の慢性疾患の終末期に広げていくことにも役立つと思われる。
Ⅶ -3 STAS(Support Team Assessment Schedule)の活用
以上、通所リハビリテーションの職員に対して必要な教育について、緩和ケア医の立
STASは1990年代初めに、英国のHigginsonによって開発された、緩和ケアにおける
評価尺度の一つである。当初はがん患者をケアする在宅チームのために作られたが、よ
り広い領域で使われるようになり、広く使用経験が報告されている。
62
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
場より考察を加えた。
最後に、この教育はがん終末期ケアのために必要なのではなく、全ての慢性疾患の終
4)
末期ケアのために必要であることを今一度強調しておきたい 。そして、そのような終
Ⅶ 通所リハビリテーションの職員に対するがん終末期ケアに必要な教育 古口契児
63
末期を迎えた利用者の多いことが予想される通所リハビリテーションにおいては、職員
教育として必須であると思われる。また、この教育は既存のツールや資源を利用するこ
とにより、すぐにでも始めることができることを付記したい。
Ⅷ 見 学 報 告
参考文献
1)木澤義之:多職種教育カリキュラムのねらいと課題、ターミナルケア 12(3): 177−182、2002
年
2)宮下光令他:自己評価の実際──クリニカル・オーディットとSTAS、ターミナルケア 13(2):
109−114、2003年
3)志真泰夫他:厚生科学研究費補助金 医療技術評価総合研究事業「緩和医療提供体制の拡充
に関する研究」
、平成13年度総括・分担研究報告書、2002年
4)ターミナルケア編集委員会編:非悪性疾患の緩和ケア、ターミナルケア 14(11月増刊号)、
Ⅷ-1 通所介護事業所が提供するサービス:
在宅緩和ケアセンター 虹
──通所リハビリテーションとの共通性と相違性──
2004年
田村 里子 東札幌病院診療部
Ⅷ-1-1 概要
現在、医療機関の在院日数の短縮から、医療依存度の非常に高い状態で、在宅に戻
る患者が増えた。患者とその家族は、大きな不安を抱えたままでいわば医療への高いニ
ーズを丸投げされた形で引き受け、在宅での生活を始めなければならない状態になる。
そうした患者を取り巻く医療の現状のなかで、在宅緩和ケアセンター 虹 は、自宅
で療養する患者と家族へ、看護活動をとおして、不安の軽減と安定した療養生活のため
のパートナーとなることを大切にしている。再発転移をすごす緩和ケアの中期を支える
視点である。
特徴は、持ち主の好意によって格安に賃貸された民家(二階建て)を一部改装し、家
庭の雰囲気のなかでそのまま施設として活用している点である。住宅地の一角にあり、
広い日本庭園風の庭が自然との和みの環境となっている。参加者は、庭で野菜づくりな
ども行っている。
「もうひとつの我が家」というテーマを具現した非常に高いアメニテ
ィが、特筆される。
多くの通所の諸施設に見られるような新建材の箱ものの建物ではなく、木、畳、ふ
すま、欄間などがふんだんに用いられた上質な日本家屋の特有の造りを活かし、家庭的
でくつろげる空間となっている。また、家屋の間取りを多く残した構造は、部屋ごとに
利用者のニーズにあわせ個別的な過ごしかたをも保障する、ゆったりとした空間を提供
することを可能にしていた。さらに食事、入浴などの一連のサービスも、家の台所から
そのまま運ばれる食事、こじんまりと一人ずつ入浴できる木の香の自宅風呂、という家
庭そのままのありかたで提供されるものになっていた。
64
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅷ -1 見学報告 通所介護事業所が提供するサービス:在宅緩和ケアセンター“虹 田村里子
65
Ⅷ-1-2 現在の活動
とう内科並木通り診療所 や 佐藤医院 、そして、 在宅緩和ケアセンター虹 といった、
⑴ 対象者
各々の機関の持つ特色が反映されたものである可能性が高いと思われる。そうした限ら
利用者は5名。がん1名(介護保険対象)
、神経難病3名(支援費対象)
、その他
1名(実費で対応 一日3500円)
⑵ 実際の活動: がんと難病のデイサービス
れた知見の中からではあるが、両者について検討したい。
両者は同じく、在宅で療養中の日常生活が閉塞しがちな患者にとっての「集う」こ
とのできる場、交流の場であり、がん患者の家族にとっては、気が抜けない介護生活に
・何かを一斉に行うのではなく、個々のニーズに合わせたデイサービスを行う。
おける一時の休息、レスパイトとなる。また、QOLの視点からの取り組みも共通のも
・入浴(民家の元の浴室をそのまま使用、一人ずつ入浴でき、くつろげる空間となっ
のである。
ている)
異なる点としては、各種専門職によるチームアプローチの取り組みについてである。
・レクリエレーション
通所リハビリテーションにおいては、通常さまざまなリハビリテーションのスタッフに
・作業療法(絵画、書道など)
より多角的なチームアプローチが提供される。一方、通所介護事業所が提供するサービ
・気分転換法(看護師、ボランティアによる本人の気分の安定や気力保持を意図した
スにおいては、看護活動が中心となり、リハビリテーションのプログラムについても、
ケア)
看護の一環として提供される。
・昼食の提供
医療的なニーズについては、通所介護事業所では、対象者を中心にし担当医師との
信頼関係を築きつつ連携協働を行っていく。通所リハビリテーションについては医療機
⑶ 経済・経営運営面の課題
経営に関してはかなりきびしい状況の中、経営的な活動理念と見合う事業を多角
的に展開しようとさまざまな工夫を行ってきた。
・介護保険: デイサービスの収入
関で行う場合、医療保険との乗り合わせは認められておらず運用上に課題は大きいが、
診療所の受診を行いつつ両面でのアプローチをしていく可能性がある。
在宅緩和ケア支援センターは、始動を開始してまだ間もない状況であり、活動の形
・教育活動: がん看護研修会等の看護師への教育活動は一方で、通所介護事業所が
態もまさに創始期といえる。その活動は、コミュニティーづくりという視点からも、通
提供するサービス、緩和ケア支援センターについての啓蒙活動をも担っている。
所介護事業所が提供するサービスという枠組みにとどまらない展開が予感される。患
・助成金の応募: さまざまの活動に必要な資金として、研究補助金・活動補助資金、
県の看護事業等に働きかけ、積極的な資金活動を行ってきた。
者・家族の視点に立てば、地域にさまざまなサービスが生まれ選択の幅が広まり、利用
者にとって使い勝手のいいものに洗練淘汰されていくことが求められよう。
通所リハビリテーションと通所介護事業所が提供するサービスの相違についての明
⑷ 現在働いているスタッフ
・看護師: 中山代表と非常勤の看護師2名
快な議論については、創始期の現時点では無理があることは否めない。今後活動が明確
・栄養士: ボランティア1名
になる中での論点の明確化に期待したい。
・送迎ボランティア: 1名(状況にあわせて看護師が付きそう)
・地域住民のさまざまなボランティア: 単に人員不足の解消のためではなく、個人
の特色ある活動が提供されている(法律家無料法律相談など)
。
参考文献
・宮城在宅がん・難病支援事業検討委員会:平成14年度社会福祉・医療事業団長寿社会福祉基金
⑸ 設備しているもの
・在宅酸素濃縮器、サクション、血中酸素測定器、電動ベッド
⑹ 現在の課題
助成事業「在宅がん・難病療養者と家族のためのデイサービス事業」社団法人日本がん看護協
会研究事業報告書、平成15年3月
・啓蒙活動・PR(医療機関に勤務する医師、医療相談室のソーシャルワーカーを訪
問予定)
・経営面: 安定した運営のための経済性の安定
Ⅷ-1-3 通所リハビリテーションと通所介護事業所が提供するサービスの相違点
筆者が見学したのは、通所リハビリテーション、通所介護事業所が提供するサービ
スとも、実践場数としては少ない。
「通所リハビリテーション」と「通所介護事業所が
提供するサービス」の相違点というよりは、通所リハビリテーションを行っている か
66
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅷ -1 見学報告 通所介護事業所が提供するサービス:在宅緩和ケアセンター“虹 田村里子
67
⑵ 何処でデイホスピスを行っているのか
「病院5階のホスピス病棟で、そのとき空いている場所を使っています。病室が開い
Ⅷ -2 緩和ケア病棟が提供するデイホスピス:坪井病院
ていれば病室を使うこともある」
⑶ なぜ、デイホスピスを始めたのか。
「一般外来看護と訪問看護から発展してホスピスに結びついていった過去の経緯があ
長谷 方人 聖ヨハネホスピスケア研究所
ります。一般外来では、 待ってもらうことへの反省と、看護師としてもっとコミュニ
ケーションの時間をとりたかった し、訪問看護では、 13年前に在宅で入浴すること
ができなくなった患者さんの入浴は、病院へ呼んで入浴してもらった。入浴にかかわる
人件費やシャンプー・石鹸・タオル類はすべて持ち出しとなり、そのときの収入はゼロ。
デイホスピスの先駆的実践の訪問調査レポート
一計を案じ、入浴時に医師の診察も受けてもらい、収入に結びつけた こともありまし
た。外来看護婦と訪問看護婦の連携から、ホスピスやその中のデイケアが誕生しました。
訪問先: 財団法人慈山会医学研究所附属坪井病院 ホスピス
患者からは、 外来で待たなくてすむのがいい という評判。患者や家族の愚痴を聞き
面談者: ホスピス師長 清水千世氏
やすくなった」
訪問者: 長谷方人
⑷ 誰をケアしているのか
「患者、家族」
Ⅷ-2-1 背景
福島県郡山市の人口は約30万人。坪井病院は福島県内のがんセンター的役割を指向し
ている。デイホスピス利用者のほとんどは市内在住。
⑸ どのようにケアしているのか
「突然。不定期。定期。
」
すると、個々のリクエストに応じて、ということですか?
Ⅷ-2-2 インタビュー
「そうです。オリエンテーションは、外来・入院中に行っています。ホスピスは最期
⑴ 誰がデイホスピスにかかわっているのか
「受付の事務担当者から調剤薬局まで幅広いかかわりがあります」
特に、かかわりの深いのはどんな人たちですか?
「ホスピス師長、主任看護師、ホスピスの訪問ナース(ホスピス病棟のナースの配置〔訪
の場所と考えられている現状にあって、たとえば、体験入院的なホスピス病棟への入院
に際しては、 症状が緩和した後はデイホスピスを利用できる といった具合に説明し
ています。また、入院中の患者に対しては、必要時にカンファレンスで検討し、デイホ
スピスの利用を提案することもあります」
問看護担当を含む〕:師長含め15名〔ベッド数14。当日は満床〕)、各診療科の主治医、
ケアの流動性にあわせて勤務の調整をすることや、場所の遣り繰りは、大変でしょ ?
ホスピス専任医師(往診も担当)、MSW(在宅訪問も行っている)、ボランティア(デ
「確かに。師長が直接ケアに当たるとか、急に訪問看護担当者に動いてもらったり、
イでの絵手紙制作やマッサージなど)
あいている部屋をしつらえたりすることはあります」
たとえば、平成15年度デイケア実績のH J 氏は、まず症状マネジメントのためにホス
ピスに入院。下肢麻痺状態で退院。後のフォローは、定期的な訪問看護のみを希望。介
⑹ そこではどんなことを実現しているのか
護保険による入浴サービスを嫌がり、家族の介助で通院となる。要望は、病院へ通って
「在宅期間を延ばすことに貢献していると思われます。病棟への通所で顔見知ったス
受けるケアや処置をきっちり1時間でやって欲しい。外来での待ち時間は耐え難い。1
タッフとのつながりを確認できて、 安心して在宅で過ごせる という患者・家族の感
時間の内容は、診察・処置、介助入浴、持続皮下注のチェック、調剤薬局で薬を受け取
想を聞いています。この関係では、患者がケアのアレンジャーになり、スタッフは何処
ることなど。
までそのアレンジについていきながらケアを提供できるか、スタッフは何処まで患者や
団地住まいで周りの住民の目が気になるなどのため、往診や訪問看護を希望せず、デ
イケアのみで在宅療養を継続するケースも多い」
家族の 道具 になることができるか、患者や家族はその道具を道具として使ってくれ
るのかという、チャレンジの連続に思えます」
その結果として、愚痴や本音を聞くことができ、
「待たずに利用できる」という快適
68
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅷ -2 見学報告 緩和ケア病棟が提供するデイホスピス:坪井病院 長谷方人
69
さを実現しているということか?
「そうだと思います」
⑺ 何に困っているのか
「送迎手段。デイに通っていただくことが患者の生活の一部になるときがあります。
Ⅷ -3 神経内科の通所リハビリテーション:松戸神経内科
そこでの送迎サービスは、ばかにできません。 わざわざ送ってもらうのは迷惑をかけ
るから、行かない ということを防ぐためにも、たとえば、介護保険でカバーされたら
阿野 幸恵 かとう内科並木通り診療所作業療法士
いいのにと思います。また、患者がいつでも休めるベッド付きスペース(部屋)を確保
したい」
Ⅷ-3-1 事業所の形態
医療法人社団 松戸神経内科
Ⅷ-3-2 事業所の規模
診療関連の職員は常勤医師4名、非常勤医師2名、常勤看護師4名、非常勤看護師1
名である。通所リハビリテーションの職員総数は17名であり、OT 5名、PT 3名、ST
4名、介護職員4名、MSW 1名がかかわっている。リハビリテーションスタッフは通
院リハビリテーション、通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションに兼務とい
う形をとっている。ボランティアは週2回、2名ずつかかわっている。
Ⅷ-3-3 事業の特徴
松戸神経内科は神経内科専門クリニック、通所リハビリテーション、訪問看護・訪問
リハビリテーション、通院リハビリテーションからなる。
⑴ 通所リハビリテーション ふれあい広場 は、友達の家にくるようなアットホーム
な雰囲気・空間の中で、個別のニーズに応えたリハビリテーションの提供や書道・絵
画・手工芸・将棋・囲碁等々の趣味活動、おしゃべりを行っている。また ふれあい
広場 では、毎月いろいろな行事も提供している。
診察は行っていないが、医師が交代で、昼食後にお茶当番として通所の利用者の様
子を見に行っている。
⑵ 訪問看護・訪問リハビリテーションは、PT・OTによる定期的な訪問により、生活
に合わせたリハビリテーションに力を入れると同時に、看護師による全身管理も組み
合わせた訪問に力を入れている。
⑶ 通院リハビリテーションでは、自宅や施設で生活されている方に、通院でのリハビ
リテーションを提供している。PT・OT・STがそれぞれ専門的な訓練を明るく開放
的なリハビリ室で行っている。
Ⅷ-3-4 事業の形態、対象
通所リハビリテーションの定員は30名である。認知症の方は対象としていない。介護
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅷ -3 見学報告 神経内科の通所リハビリテーション:松戸神経内科 阿野幸恵
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度は要支援、要介護1・2。年齢層は60歳代の方からと若年層の利用者、そして男性の
利用者が多い。プログラムは、個別ニーズに沿ったアプローチ、個別リハビリテーショ
ン、個別作業(Activity)を中心としている。
Ⅷ-4 訪問看護ステーションが提供するサービス:
集団ではなく、4∼5名の小グループを基本単位としている。STが中心となった失
パリアン における実践
語症の小グループや、パーキンソン病の利用者の方への食事前のSTによる口腔ケアな
──通所リハビリテーションとの共通性と相違性──
ど、利用者の疾患に焦点をあて、アプローチを行っている。入浴サービスの提供も可能
だが、入浴動作のリハビリテーションを行うという位置づけで、家庭用の浴槽という環
境である。現在、利用希望者はない。
赤瀬 佳代 かとう内科並木通り診療所看護師
Ⅷ-3-5 経営状況
成り立っている。
Ⅷ-4 -1 概要
Ⅷ-3-6 今後の終末期ケア、がん終末期ケアへの有効性
厚生労働省は平成15年度より未来志向研究プロジェクトを開始し、その一つに「介護
通所リハビリテーションに来ることができない状態の人については、訪問看護・訪問
事業所における小規模多機能化事業(通所看護等)の検証」がある。研究事業における
リハビリテーションのサービスへと切り替え、サービスを提供し、在宅での生活を支え
通所看護とは、訪問看護ステーションの利用者に対して、通所により、訪問看護の延長
ている。
線上で、よく状態を把握した看護師が専門的・継続的看護を提供することによって、重
度者の状態改善と安定化、家族など介護者のレスパイトを促し、在宅生活の継続を援助
Ⅷ-3-7 今後の課題
するものである。
現在、認知症の利用者の受け入れは行っていない。利用者の方に認知症の症状がみら
訪問看護パリアン では、在宅ホスピスケアの一環として、がんの終末期患者を対
れた場合の対応については、今後の課題としている。また、介護保険の改定に伴い、今
象としデイホスピスを実践している。その背景には、既存のデイサービス、デイケアで
後、通所サービスを利用することができなくなると考えられる要支援・要介護1の利用
は、がんの終末期患者を受け入れにくい現状もある。また、介護保険適応とならない若
者の受け皿について、別のグループを作ることも検討されている。
い人にもサービスを提供している。
Ⅷ-3-8 その他
Ⅷ-4 -2 事業所の形態・規模
松戸神経内科医院での研修を通して、当院の通所リハビリテーションと比較・検討す
る機会を得ることができた。
⑴ グループパリアン: 末期がん患者の「できるだけ家で普通に過ごしたい」という
思いを、専門家の立場で援助するホームケア支援グループ
当院は介護度、年齢層も高く、認知症の利用者も受け入れている。スタッフについて
・ホームケアクリニック川越(内科、医師1名、看護師7名、入院施設なし)
は、看護師4名、音楽療法士1名が所属し、ボランティアが介入している。また、環境
・訪問看護パリアン(訪問看護、リハビリテーション、デイホスピス)
面としては、横になって休息できる場所として個室があること。歩行器があり、杖レベ
・ケアマネジメントパリアン
ルから車椅子レベルへの移動手段の変更ではなく、歩きたいという利用者の希望に沿う
・ボランティアの会
ことができること。また、全員の食後の口腔ケアの誘導などケアを大切にしていること、
・研究部門
などの特徴が浮かび上がった。
課題として、当院のリハ職は現在、個別リハを中心としたかかわりが主となっている。
⑵ 訪問看護ステーションが提供するサービス
個別リハの時間内でのリハビリテーションの提供だけではなく、利用者が通所で過ごさ
・定員: 5名
れる時間の中に、リハビリテーションの視点を、スタッフを通して落とし込む必要性を
・対象者: がん末期患者、家族
感じた。また、看護師が4名所属しているという点からも、利用者の病状を認識し、意
・職員: 3∼4人(看護師1名、心のケア担当者、ボランティアコーディネーター
識したかかわりへも繋げていきたい。
など)
・ボランティア: 6∼7名(登録者30名)
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅷ -4 見学報告 訪問看護ステーションが提供するサービス: パリアン における実践 赤瀬佳代
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・サービス提供日: 毎週水曜日、10∼14時
・送迎: 本人の希望時間に、個々に送迎を行う
利用者の制限として、本人が来たいと望めば、どれだけの医療行為を必要としても制
・料金: 参加費300円
限はないという。医療依存度が問題なのではなく、パリアンの現在の課題は、動けなく
・食事: ボランティアが軽食を用意
なった人の受け入れにある。身体介護はあまり目的としていないため、車椅子での送迎
・内容: 語り合い
の送迎車、車椅子トイレなど環境上の問題はある。しかし一般的に、ぎりぎりの時期ま
ボランティアとの作品づくり
で症状コントロールがとれている利用者が多く、全身状態が不良となったときに自宅で
囲碁、将棋など
のサービスに切り替えている。自宅にもボランティアがスタッフと共に訪問し、関係を
季節ごとのイベント
途絶えさせないよう継続性も保っている。
・提供している医療行為: 輸液、酸素療法、浣腸
(在宅末期医療総合診療料算定内で実施)
連携については、訪問看護師がデイホスピスを担当する看護師に情報提供し、ボラン
ティアにも指導している。会議、学習会にはボランティアも参加し、チームの一員とと
Ⅷ-4 -3 経営状況
らえている。通所後には、参加した人すべてで、一人一人の利用者について話し合い、
モデル事業「厚生労働省補助」の研究資金、ホームケアクリニック川越からの援助に
次回サービスにつなげている。
より、運営されており、訪問看護ステーションが提供するサービスでの経営は難しい現
状がある。ボランティアの力が大きく、地域行事の中で、ボランティアがつくった作品
を販売したりして活動資金を集めている。
訪問看護ステーションが提供するサービスの効果として、モデル事業の報告でも以下
の効果が述べられている。
⑴ 介護者も安心した時間の確保ができた。
Ⅷ-4 -4 今後の終末期ケア・がん終末期ケアへの有効性
パリアンでは在宅ホスピスケアの一環として、訪問看護ステーションが提供するサー
ビスを実践している。したがって対象者は、がんの末期患者とその家族のみである。し
⑵ 病状の変化に対する早期対応ができ、入院までいたらず、在宅療養を継続できた。
⑶ 受診や入院以外に外出でき、他者との交流や残存機能をいかした楽しみを持つこ
とができ、QOLの向上につながった。
かし、介護保険適応外の患者のケアにもあたっている。平均67歳と、年齢層も比較的若
これらからも、訪問看護ステーションが提供するサービスは今後の終末期ケアに有効
い。同じ病気をもった人たちで語り合い、通所が利用者同士の死の教育の場となり、思
といえる。しかし、既存の施設では、がんの終末期患者を受け入れづらいという現状が
い出づくりの場となっている。一般の高齢者と、死に直面している終末期の利用者は異
あり、その実態も明らかにしていく必要がある。
質なものととらえ、終末期の利用者に焦点をあてケアを提供している。
訪問看護ステーションが提供するサービスのイメージとして、医療依存度の高い、重
Ⅷ-4 -5 訪問看護ステーションが提供するサービスと通所リハビリテーションの相違
度の人が対象と思っていたが、比較的症状コントロールができている人がほとんどであ
訪問看護ステーションが提供するサービスと通所リハビリテーションの共通性につい
った。また、点滴など医療処置を行っている利用者もいるが、個室で行われており、メ
て、輸液など、医療行為を提供していること以外は、どの施設においても望まれること
インフロアには、医療が提供されている雰囲気はなく、一つのコミュニティーのような
に大きな違いはないと思われる。利用者が望むのは、できる限り、自宅で生活しながら、
穏やかさがあった。医療が主体ではなく、あくまで生活を主体ととらえたケアを提供し
個別性が尊重されたサービスが受けられることにある。
ている。
パリアンにおいては、終末期にある人が、個別的なサービスが提供され、満足してい
る。看護、リハの区別は関係なく、その施設でどういったポリシーをもちサービスを提
その原動力となっているのがボランティアである。登録者30人。うち、1回の参加者
は6∼7名。ボランティアのかかわりが、個別性を生み出しているように感じた。また、
供するのか、そのことが明らかになっていれば、そこに、共感する利用者、スタッフ、
ボランティアが集まってくる。それにより、質も高まっていく。
ボランティアのメンバーはほとんどがご遺族である。ケアされたものが、同じような境
遇にある人たちのお手伝いをしたいという思いで、参加されている。ボランティアの人
当院の場合、がん、非がんに関係なく緩和的援助を行いながら、できる限り、自宅で
たちもとても生き生きとされていた。少ないスタッフでも、個別的なケアを提供するに
その人が望むような援助を行っていこうとしている。訪問看護ステーションが提供する
は、ボランティアの力が必要となる。利用者、ボランティアの満足のいくサービスを提
サービスの効果についての報告と同様な効果を得られているケースもある。通所リハビ
供できているために、よい循環が生まれている。
リテーションの中で、長く通所を利用してこられた方を、最期まで看ていくことは可能
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調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
Ⅷ -4 見学報告 訪問看護ステーションが提供するサービス: パリアン における実践 赤瀬佳代
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な事例も報告されている。
しかし、パリアンのように、最期の時期になると、通所を利用する人へのサービスに
は限界がある。そこには、個別的なケアの充実を目指して開始した訪問看護ステーショ
ンが提供するサービスと、集団でのケアを主に行ってきた既存の施設の背景の違いが影
響しているかもしれない。
通所サービスの利用に、ある程度の症状コントロールが図られている必要があること、
個別的なケアの提供にはボランティアの力が大きく働くことなどは、訪問看護ステーシ
ョンが提供するサービスと通所リハビリテーションのあいだにおいて相違はない。終末
期の患者を看ていくには、どの施設においても、専門医療機関との連携、個別ケアは重
要となる。
一般的に現状では、訪問看護ステーションが提供するサービスでは個別ケアは提供さ
れているが、採算がとれていない。通所リハビリテーションでは訪問看護ステーション
が提供するサービスほどの個別ケアは提供されづらい。それぞれの実践報告をまとめて
いくことで、それぞれの長所・短所を明らかにし、よりよいサービスについての検討を
重ねる必要がある。
参考文献
・平成15年度厚生労働省未来志向型プロジェクト「小規模多機能化事業(通所看護等)の検証」
報告
76
調査研究報告 がん患者の終末期ケアにおける通所リハビリテーションの役割
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