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地理学を生かしたランドスケイプデザイン #5 Geography
100029 地理学を生かしたランドスケイプデザイン #5 岐阜県飛驒古川における盆地霧発生を環境指標とした農村環境デザイン政策を例として Geography-based landscape design #5 In case of rural environmental design policy using basin fog as indicator of good environmental condition in Hida-Furukawa, Gifu Prefecture 廣瀬俊介 (東京大学空間情報科学研究センター協力研究員)*・野村久徳 (飛驒市財政課長) Shunsuke HIROSE (Cooperative research fellow of the Center for Spatial Information Science at the University of Tokyo)*, Hisanori NOMURA (Director for Hida City Division of Finance) キーワード: 地理学、景観生態学、ランドスケイプデザイン、農村景観管理、生態経済学 Keywords: geography, landscape ecology, landscape design, rural landscape management, ecological economics I はじめに IV 風土像「朝霧たつ都」を総合計画目標に ランドスケイプデザインは、都市の近代化に伴い発生し 筆者らは 2000 年に当地の風土性調査に着手し、 「飛驒の た諸環境問題への対処を目的に、19 世紀半ばよりアメリカ 匠」や雅びな家並みを擁する地域文化が自然と共に在るこ 合衆国で確立されてきた環境形成技術である。筆者はこれ とを風土像「朝霧たつ都」として表現した。 「朝霧」すなわ を地理学 (景観生態学) の実証研究過程と位置づけて、飛驒 ち当地の盆地霧に可視化される地域生態系と物質循環が保 古川では農村景観管理への応用を試みてきている。 たれて、固有の文化と健全な生業・生活の継承ひいては「市 民の共同の家計 II 飛驒古川の概観 4」 」たる地域経営が成るとしたこの風土像 は同年、旧古川町第五次総合計画の目標に採択されている。 飛驒古川 (現飛騨市。旧吉城郡古川町) は面積 98.11m2、 人口 15,216 人 1)で、地形は標高約 490m の古川盆地とこれ を囲む山々からなる。気候は内陸性で気温の較差が大きく、 V 政策展開 盆地霧発生を環境指標とする同目標の達成に向けて、旧 冬季の降雪量が多い。また、近世の飛驒国は元禄 5 年 (1692) 古川町は諸政策方針を「朝霧に学ぶ」「水をやしなう」「食 の江戸幕府収公以来、ご用木の生産地とされてきた 。 を守る」 「土をつくる」 「健やかに生きる」 「結を伝える」と 2) 設定し、自然災害への防備と水源涵養や生物多様性回復を III 農村環境デザイン政策 旧古川町農林課は、1999 年制定の食料・農業・農村基本 法に基づき進めていた中山間地域等直接支払制度や地域営 兼ねる森林管理の公益性の評価から所得補償を行うなど、 生態環境再生型公共事業と目せる新たな雇用増、地域内で の富の循環を図る策を起案し実行するなどしてきた。 農組織の育成などを 2000 年に地域経営の基盤政策と見直 これは、大きくは農村景観管理とも見なせ、地域資本・ し、地域資本・資産の把握の上にその適正な管理と充実を 資産の適正な管理と充実から風土像「朝霧たつ都」を保つ 図ろうとランドスケイププランニングの応用を試みてきた。 ことによる、観光業に含まれる旅館業や飲食業等、農林業 同課は、これを農村環境デザイン政策 3)と称している。 の他の生業の総合的振興を意図してもいる 5) 。こうした農 村環境デザイン政策は、現飛驒市に引き継がれている。 VI 今後の課題 飛驒市の人口は 2000 年 (合併以前) の 30,421 人から 15 年後の 2014 年に 25,036 人へ約 5,000 人減少し 6)、財政基 盤の縮小・不安定化が危惧される。その中で、地域資本・ 資産の管理と充実、つまり土地・資源の持続利用という人 間生存の条件を充足すべく同政策の調整を図る必要がある。 注 1) 平成 22 年国勢調査 確報値 (飛驒市人口・世帯数) 飛驒市ウェブサイト 2) 高橋伸拓『近世飛驒林業の展開』岩田書院、2011 年、10 頁 3) 飛驒市、廣瀬俊介「飛驒古川朝霧プロジェクト説明資料」飛驒市、2006 年 4) 神野直彦『地域再生の経済学』中央公論社、2002 年、10 頁 図 1 旧古川町が総合計画で環境指標と定めた盆地霧。安峰山で写す 5) 廣瀬俊介『共存学』弘文堂、2015 年、19-27 頁 6) 岐阜県環境生活部統計課「統計からみた飛驒市の現状」2014 年、2 頁