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タブレット端末を使用した合唱・鑑賞指導
タブレット端末を使用した合唱・鑑賞指導 川合利幸 タブレット端末を使用した合唱・鑑賞指導 (奈良教育大学附属中学校) 川合 利幸 (奈良教育大学 附属中学校) Music Class Teaching Method of Using Tablet Music Class Teaching Method of Using Tablet Toshiyuki KAWAI Toshiyuki KAWAI (Junior High School attached to Nara University of Education) (Junior High School attached to Nara University of Education) 要旨 :タブレット端末を音楽の授業に使用し、ポピュラー曲の混声三部合唱を指導した経緯と、鑑賞への応用をまとめた。 とりわけ合唱の練習、特にパート練習には多くの時間と労力をかけてきたのが従来の方法であった。本試行ではこ の多くの時間がかかったパート練習をフォルマシオン・ミュジカルのコンセプトのもと、ただ単に音をとることに とどまらず、音楽のさまざまなことを学びながら自分の旋律を正確に歌えるパート練習を考えた。そのためにタブ レット端末の利用を考えた。今回は発声の練習からタブレット端末を使い、姿勢や口の開け方を確認させ、タブレ ット端末の音楽データを使い自分で旋律を歌う練習を行わせるパート練習につなげる方法をとってみた。また、音 楽鑑賞においては、タブレット端末にあらかじめ保存しておいて楽曲を個人的に鑑賞させた。 キーワード : フォルマシオン・ミュジカル 1) Formation musicale 発声 Vocalization タブレット端末 Tablet 三部合唱 Three parts chorus 1. はじめに たフォルマシオン・ミュジカルのコンセプトでタブレット端 末を使用した。また音楽鑑賞においても個人的に何度も同じ 音楽の力で一番基本となる大切なことは、歌うことである。 楽曲や同じ部分を繰り返し聴かせられるという利点を考慮し このことは古くから知られているいわば音楽の常識とでもい タブレット端末を使用させ個人的に鑑賞させる授業を実施し うべきである。本校の音楽の指導においても歌うことを音楽 た。 の基本と考え、時間をかけ丁寧に取り組んできた。 音楽の基礎指導の一つとしてソルフェージュ 2)は大切なこ 2. 生徒の音楽的実態 とと考えているが、ただ単に楽譜を読むという音楽の基礎練 習のみで中学生を対象とする授業が成立するはずがない。ま 本年度の第一学年の生徒は男子76名、女子77名、合計 た教科書に掲載されている教材のみを取り扱うだけでは音楽 153名であり4クラス編成である。約半数の生徒は付属小 に対するモティベーションが下がりがちになることもある。 学校出身であり。残りの生徒たちは県内外の小学校からの生 このようなことを考えフランス式のフォルマシオン・ミュジ 徒たちである。特に外部進学者に関してはそれぞれの出身小 カル(formation musicale)を参考にして、音楽の基礎練習 学校により生徒たちの音楽経験に大きな違いがある。付属小 をかねた合唱指導を行ってみた。本来フォルマシオン・ミュ 学校出身生徒とそれ以外の小学校出身者の音楽経験の差を考 ジカルとは有名な作曲家の作品を教材にして行われる音楽の 慮しながらすすめることが第一学年初期の音楽の指導で重要 基礎指導であるが、これを少し中学生向きにアレンジしてポ だと考えている。 これらのことを考え、 声を出すこと (発声) 、 ピュラー曲の三部合唱を指導することにした。本来の合唱指 歌を歌うこと、フォルマシオン・ミュジカルのコンセプトで 導にプラスして音楽の基礎練習や発声法も取りいれた。また 歌うことや音楽の基礎を学ばせることが大切だと考えている。 発声や各パートの練習時にタブレット端末を使わせてより具 また、音楽の興味関心ということで考えると数多くの生徒た 体的かつタイムリーに生徒同士が自分たちの現状について確 ちが音楽への興味関心が高く、小さいころから音楽の習い事 認し修正できるような機会を数多く設定してみた。そしてこ 等を家庭教育として経験してきた生徒はどのクラスにおいて れらの合唱練習の過程が各パートの生徒たちの合唱に取り組 も多い。しかしながら声を正しい方法で出すことに関しては む物語になり得るのではないかと考え今回の試行を計画した。 不得意な生徒も多く存在する。このような生徒の実態を考え 本来音楽の基礎練習であるソルフェージュをさらに推し進め 正しい姿勢での発声練習、楽曲を使った音楽の基礎練習をグ 311 川合 利幸 ループで行うことにより付属小学校出身生と外部入学者の音 トの指導や練習に費やした。ハーモニーをともに作り音楽を 楽経験の違いを少しでも均一化することにまず手をつけなけ 楽しむという喜びは共有されるが、様々な場面で教師の労力 ればならない現状である。次にポピュラー作品の混声三部合 を費やし、時には生徒たちにスパルタンな指導さえ行われた 唱への簡単な編曲作品を使い各パートでの練習の後声でハー ケースも見受けられた。このことが果たして音楽の本来のあ モニーを作る練習が必要となる。特に声が重なりハーモニー り方を考えたとき教師も生徒も疑問を持つこともあった。し になる美しさを体験させ、よりよいハーモニーを作る工夫を かし今日 ICT を音楽に取り入れることにより、教師も生徒た 生徒たちのグループで模索させることを継続して、声でハー ちも楽しみながら混声合唱練習できる様々な方法が選択でき モニーを作り出す楽しさを体験させながら音楽の基礎練習に る。 もなってゆくことを目指すことが本校の生徒の実態を考えた 今回試行したのは タブレット端末を使用して合唱練習を 指導の第一歩として大切だと考えている。 行うことである。発声の指導でタブレット端末を使用するこ また音楽鑑賞においては小学校でも指導された可能性のあ とにより生徒たちのモティベーションがかなり高まったこと るシューベルト作曲「魔王」をドイツ語版、日本語版を聴き を考えてみても、合唱練習にこれを使用することにより従来 比べさせ、自分の気に入ったほうを選ばせ、その選ぶ過程と とは違った効率的なパート練習が行えると期待できる。また 結論を発表させることを考えた。 パート練習で生徒たちのセッションの場面も少し取り入れら れる可能性もある。このように考えて合唱指導を計画した。 3. グループ発声 4.2. 男子が変声期を迎える中学生、特に1,2年における合唱 ICT を利用したパート練習 今回はパート練習の方法を従来とはかなりかけ離れた方法 の編成は混声三部にすることが多い。男子で未だ変声期を迎 をとった。以下のような手順である。 えていない生徒と、変声途上の生徒、変声がほぼ終わりに近 づいている生徒というように多様性があるからである。しか ・ 三部合唱の音源をファイル化する し今回のように中学1年段階前半では変声期を迎えていない ・ 各パートのピアノ伴奏付き音源の作成 男子が圧倒的に多く、同声二部でも十分であるが、音楽経験 ・ 音源をファイル化しタブレット端末に送信する の幅を広げたり、ハーモニーの美しさを体験させるためには ・ ファイルを開く 混声三部の編成が有効である。発声について全体指導をした ・ 持参したイヤフォンで三部合唱の音源を聴く 後、男女それぞれ二つのグループに分けて発声を自分たちの ・ 次に自分のパートの音源を聴く グループで行わせる。この機会を取り上げて生徒個々の姿勢、 ・ 楽譜を見、音源を聴きながら各自のパートを歌う練 呼吸法(腹式呼吸ができているか) 、口の開け方等を、タブレ 習をする ット端末を使い写真や短い動画をとらせてすぐに確認させる ・ 各パートみんなで練習をする ことを行う。また動画を自分で確認させて自分自身でよりよ ・ 全体で混声三部合唱をする くなるように改善する資料とする。また写真や動画をもとに 自分たちのグループでセッションをさせるなど従来以上に興 このような手順でパート練習を行わせた。 フォルマシオン・ 味を持って発声練習をさせることを試みた。発声練習では男 ミュジカルということを考慮して自分のパートを歌うことに 子に関しても女子と同じ音域を使用した。このように一斉指 自信が持てるまで個人練習をさせる。この時、旋律の歌い方 導の後、自主的に発声に関する様々なことを確認させながら を事前指導しておく。そして三部で合唱する時にはハーモニ 行い画像を通じて自分自身の様子を確認させることで意欲は ーの美しさや、それぞれのパートの旋律の動きに着目させ音 向上すると考えられる。タブレット端末を使用することによ 楽の仕上げ方を考えさせる。このようなパート練習は一人一 り、音楽により興味を持たせることができると思われる。ま 人が自分の音源を持つことができて始めて可能である。ここ た様々な異なった音楽経験を持つ生徒たちを一定レベルで出 に音楽に於ける ICT の価値を見いだせる場面ではないかと 発点にたたせることができるのではないかとも考えられる 考えられる。 4.ICT 時代の三部合唱 4.3. 具体的な練習 合唱指導 のポピュラー混声三部合唱を指導した。タブレット端末を使 今回は「チェリー」 「空も飛べるはず」 「少年時代」の 3 曲 4.1. 過去音楽の授業で合唱を指導する方法は数多くまた多種多 用したパート練習に関しては、ただ単に楽曲全体を何度も繰 様に試みられてきた。そしてどの方法も多くの時間を各パー り返し行わせるという方法は効果が半減するように見受けら 312 タブレット端末を使用した合唱・鑑賞指導 れた。個人的に何度も自分の不得意な箇所を繰り返し練習さ せることにタブレット端末を使用する利点があると感じた。 音取りのナラ 各自一人一人の自分が受 また、タブレット端末から流れてくるパートの模範歌唱に自 ティブアプロ け持つパートの音取りを 分の声を重ねた練習ができることもとても役立ちさらに時間 ーチ しながら、自分が音取り の節約にもなった。次に練習の様子の写真を紹介する。 を次第にできることでの 物語を考えさせる 各パートでの 各パートでの合同パート 練習 練習を行わせる (一人ではなく同じパー トの人全員で) まとめ 全体合唱 最後にピアノ伴奏で合唱 練習を行う (ここでは ICT 機器は使 用しない) この指導では ICT を活用する部分と、従来のように全体合 唱の指導や 2 パートずつ合わせる指導を行う場面とが混在す (タブレット端末を使い自分のパートを練習している様子) る。指導においてはこの二つのバランスを考え指導を行う。 また各パートで自分が受け持つ合唱パートの練習の過程で、 4.4. 指導過程 概要(一例) 自分の練習物語を考えさせることも指導する。このように個 人的な音楽的成長の様子を語らせることが、音楽におけるナ 指導過程 導入 学習内容 指導事項 (生徒) (教員・ICT) 本日の学習内 合唱活動について丁寧に 容確認 理解させる ラティブアプローチのひとつになり得ないかと考えている。 5.生徒の変容 本日の ICT の活用につい 今回タブレット端末を使用して合唱の各パート全体の練習 ての説明を行う の前段階として個人練習を行わせた。このことが生徒達にど のような心の変化が起きていたかをナラティブアプローチの 展開 各自タブレッ 事例として紹介する。 パートの決定 ト端末を使用 した個人練習 1年女子(A) 各パートを、タブレット 端末を使いイャーフォー 私は歌うことはそんなに得意ではありません。曲のメロ ンで模範歌唱を聞かせる ディーに自信が持てないことが多いので、大きい声で歌 (数回) うことは恥ずかしいので考えられませんでした。でも音 イャーフォーンで模範歌 楽を聴くことは好きです。今回 Pad を使った個人練習を 唱を聞きながら個人的パ 何回も何回も自分のペースで行いました。次第に自分の ート練習を行わせる 受け持つアルトのパートの音がとれるようになりつつあ りました。声を出すということに対する今までの何かわ だかまりのような、コンプレックスのようなもやもやし たものがすこし、少なくなっていくような気持ちになり 313 川合 利幸 ました。自分のテンポで個人的にアルトパートの音を取 る練習ができたことにより少し自信がついて今までより 大きな声を出して歌うことへの抵抗がなくなったような 気がしました。 1年男子(B) Pad を使って合唱の男子パートの練習をするのはなん だかゲーム感覚です。イャーフォーンから聞えてくる男 子パートのメロディーを何回も聴きました。そして小さ な声で自信が持てるまでくり返し練習しました。今まで あまり大きな声で歌ったことが少なかったです。でも今 (男子の合同パート練習の様子) 回は自分の歌う男声パートに少し自信が持てるような気 分になりました。個人練習のあとで、男子パート全員で 合わせたときに他の人も、そこそこ音が取れていていつ もより大きな声で歌っていました。いつものようにピア ノを使ってパート練習するよりみんな興味を持っている 様でした。自分としては時代に合っているように思いま す。 上に紹介した例はほんの二名分であるが多くの生徒は従来 のピアノのみを使ったパート練習に比べて目新しく一人一人 自分のやり方でデータにアクセスして練習できるので効果が (女子の合同パート練習の様子) あったという印象を持っている。単純に考えれば個人個人で 音源にアクセスして自分の好きなように練習しているだけに 6.鑑賞指導 見えるかもしれないが、それは大人の発想であるように感じ られた。 6.1. 指導の概要 生徒の変容については合唱の練習、特に各パートの練習へ の積極性が多く見受けられた。個人での練習時に口を大きく 今回行う音楽鑑賞は従来の方法で実施するのではなくタブ あけ歌っている様子を見て、さらに観察すると意欲的に取り レット端末を使用する。教室全体に音楽を流すのではなくタ 組んでいる様子がうかがえた。目新しいことも手伝ってかも ブレット端末にデータとして入れた楽曲を、個人的に鑑賞さ しれないが、事前に考えていた以上に大きな声で練習してい せる方法である。楽曲はフランツ・ペーター・シューベルト る生徒も多かった。また同じパートで合わせたときに以前よ 作曲、歌曲「魔王」を取り扱った。この曲を鑑賞させる方法 り声も大きく音程もしっかりしていた。 としてよく行われていたのは主に原語であるドイツ語で鑑賞 学びについては模範音源を自分の音楽にすることに注目し させるか、日本語訳で鑑賞させるかというように、どちらか た。音程がしっかり取れて旋律を正確に歌えるようになれば の言語で鑑賞させることが多かったようである。それぞれ一 自分なりの抑揚を音楽につける段階に進める。つまり自分な 長一短がある。音楽的なことを考えれば原語のドイツ語で鑑 りの旋律の歌い方を模索できるようになる。このことは音楽 賞させるのが好ましい。一方ゲーテの作詞した「魔王」の詩 に於ける大きな学びへと近づける大切な段階の一つである。 の意味に価値観をおけば日本語訳の演奏を取り扱った。しか 模範音から自分の音楽に近づけるという意味の学びを提案で しどちらかにする判断は指導する教師に任されていた。しか きると考えている。次にタブレット端末を使って個人練習を し、 今後の音楽教育のあり方を見通せば、 原語のドイツ語版、 した後の合同パート練習の様子を紹介する。 日本語訳版どちらも同じ条件で楽曲を鑑賞させるという条件 のもと、最終的に生徒がどちらを丁寧に鑑賞するかを選ばせ 314 タブレット端末を使用した合唱・鑑賞指導 ることも大切だと考えた。音楽を鑑賞する方法はさまざま考 6.2. 指導計画 第 1 時 ・楽曲についての指導 えられ今後この選択肢はより多くなると思われる。そして音 楽鑑賞という題材のもと、自分が選んで丁寧に鑑賞した楽曲 ・機器を使い視聴方法のシミュレーション について意見交流をさせることが重要であると考えられる。 (スクリーンショットの有効な使用) 第 2 時 ・原語版バージョン、日本語版バージョンの聴 授業の中ではタブレットを個人で使わせながらミュージック の授業用プレイリストの中から原語、日本語訳の両方のバー き比べ ジョンの「魔王」を鑑賞させて、次に自分の判断で原語版、 ・自分のお気に入りの版を決定する 日本語訳版を選び時間をかけ自分のペースで鑑賞させた。最 ・自分の聴いた言語の「魔王」について、スク 後にプレゼンテーションを設定するというやり方での、歌曲 リーンショットも使い意見や感想をまとめる 「魔王」の鑑賞指導を考えてみた。 第3時 ・まとめ(プレゼンテーション) 以上は今回の指導の大まかな計画を示した。 6.3.指導過程 (一例) 学習活動 指導事項及び留意 評価 点 ICT 支援 員 導入 (タブレット端末の画面) ・作曲者シューベル 楽曲について トと「魔王」につい 知識に の理解 ての確認 ついて 展開 ・日本語訳版の「魔 楽曲の鑑賞 楽曲の決定 タブ 王」を丁寧に鑑賞 鑑賞の レット させる 様子 端末 ・どちらのバージョン の使 が気に入ったかを 用の 考える 補助 ・曲についてのメモ を取らせる ・物語のスクリーンシ ョットも参考にさせ る (タブレット端末を用いた授業風景) まとめ ・自分の鑑賞した曲 ナラテ について自分で ィブア 選んだスクリーン プロー ショットを参考にし チによ て自分がどうして る生徒 選んだかを物語ら の変化 せる 以上は今回の指導過程の概要を示した表である。すべての クラスを全く同じように行ったのではなく大筋で上に示した ような展開をした。 (授業とプレゼンテーションの様子) 315 川合 利幸 6.4.生徒の感想 授業であっても、ほとんどの生徒は違和感を持たずに取り組 ・タブレット端末を使った鑑賞は普段の鑑賞より集中して めていた。特に男子は従来の全体で音楽を鑑賞するよりタブ 聴くことができた。 レット端末を通して個人的に鑑賞することで集中できるので ・タブレット端末を使うと同じところを何回も聴き直すこ 好ましいと感じている生徒が大半であった。このことからも とができた。 学校での音楽鑑賞の実施の方法について考え直す時期にさし ・個人的に何回も聴けるので楽しかった。 かかっているような印象を強く持った。 ・ドイツ語と日本語とどちらが適しているかを判断するの 音楽の聴き方は急激に変化している。合衆国では「どうし てまだ日本では CD が売れているのか」と不思議ととらえる に今回のようにやればいいと思った。 ・やはり今までのように全体で聴くのがいいように思った。 のが一般的な今の考え方である。音楽の配信サービスにおい ・いつも音楽を聴いている感覚で授業を受けられた。 てストリーミングが日本でも始まっている。アジア全域にス トリーミングサービスが広がることは、きわめて近い将来で 以上は生徒の感想の抜粋であるが、多くの生徒たちはタブレ あろう。この様な音楽の現状の中学校での音楽の聴かせかた。 ット端末を使いとても好んで音楽を鑑賞した。この事実は今 音楽の教科としての取り扱い方は大きく変化することがすぐ 後の音楽教育でのタブレット端末使用の可能性を大きくする 前にせまっている。この様な音楽の現状変化は、他教科で音 と思われる。 楽を聴かせるときに参考になると考えられる。音楽指導に於 ける ICT の使い方の提案が生徒への音の提供の方法の選択 7.まとめ 肢の一つとなってほしいということも考え今回の試行を行っ た。単純なタブレット端末の使用の時代は過ぎ去ろうとし、 今回の試行は ICT を音楽の指導に活用できるかというこ たとえばアイチューン配信で学校の音楽教材をダウンロード とが出発点である。さまざま考えをめぐらせた結果 ICT のア できる時代は目前に迫っているのではないだろうか。ただ単 イティムの一つとしてタブレット端末を使うことを選択した。 にタブレット端末を使い指導を行うのではなく音や画像も含 タブレット端末の使い方はさまざま考えられるが合唱練習の めて、総合的な ICT を音楽の授業に使うことを今後も目指し 中のパート練習に使えないかと思考を重ねた。また音楽での たい。 使用の延長線上に他の教科で使用するヒントになれば良いと 思った。フォルマシオン・ミュジカルの手法を少しアレンジ 注 して、生徒たちがよく知っている楽曲を使用し、それをパー 1)フランスで行われている大作曲家の作品を教材にした音 ト練習という形でソルフェージュの練習に取り入れた。この ことは生徒たちにソルフェージュの練習も兼ねているという 楽の基礎訓練であるソルフェージュのこと。 ことは伝えず、自分でパート練習を行うということのみ伝え 2)楽譜を読むことを中心にした音楽の基礎練習 た。しかし合唱曲のパート練習を個人的に行わせる中で、ソ ルフェージュの力はついてきたように思えた。その結果とし 参考文献 てハーモニーを奏でるということを楽しんでいる様子が見受 けられた。またナラティブということに関しては自分が次第 野村誠(2010)、授業がもっと楽しくなる音楽づくりのヒ に自分のパートの旋律を歌えるようになる過程で、自分が音 ント、音楽之友社、pp.29-46. 楽を作っていくことを物語れた生徒が何人もいた。そして今 標準音楽事典(1969)、音楽之友社. までの自分にはなかった音楽との出会いを語れた生徒もいた。 川合利幸(2014)、「新しい音楽鑑賞指導」、奈良教育大 学教育実践開発研究センター研究紀要、第 23 号、 一方、音楽鑑賞において生徒たちはタブレット端末を使用 pp.151-154. しイヤフォン等を使い個人的に鑑賞することに対してきわめ て自然体で受け止めている。たとえ集団で行う中学の音楽の 316