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博物館だより No.76 2010.

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博物館だより No.76 2010.
岐阜市歴史博物館
博物館だより
76
№
「鴛鴦 (おしどり)」加藤栄三
19
65年(昭和40年)・第14回五都展
47.
0×74.
5(20号)・紙本彩色・額装
美術商組合が東京・京都・大阪・名古屋・金沢で開催する五都展
への出品作。
鴛鴦はガンカモ科の鳥で、夏は雌雄ほとんど同色ですが雄の冬羽
が美しいので有名です。
晩秋になると、岐阜市内の松尾池にも飛来し馴染みの深い鳥で
す。
栄三は野鳥をこよなく愛し多くの花鳥画を描いていますが、生命
の尊さを大切にした栄三ならではの名作です。
(企画展「栄三・東一と生き物たち」で展示)
2
01
01
.
1
さて、本年は1
2月から2月末まで開催いたし
企画展
ます。この期間は年越し、正月、節分、そして
雛祭の直前となります。そこで、これらの伝統
ちょっと昔の道具たち
的な年中行事に関わる飾り物や食事を時期に合
わせて順次会場内に展示し、伝統的な季節感を
体感していただきます。
2010.
12.
7
(火)~ 2011.
2.
27
(日)
また、土曜、日曜、祝祭日には、各種イベン
トを開催いたします。恒例となった「新春独楽
今年度で15回目を迎える展覧会。昨年度まで
まわし&南京玉すだれと腹話術」
「和みの唄会」
に累計1
9万9千人余りの観覧者を迎えました。
をはじめ、今年度も「おもちゃ作り教室」
、
「も
本展は小学校3、4年生が学ぶ社会科単元「古
のしり博士のわくわくワークショップ」
、
「糸つ
い道具と昔のくらし」と連動し、
「具体物を通し
むぎ&綿くり体験」
、メンコ・お手玉・ベーゴマ
て」学習する場を提供し、ハンズオンによる体
の各大会など、ご家族で楽しめるイベントを用
験やジオラマ式の展示を取り入れ、「五感で楽
意 し て い ま す。ま す ま す パ ワ ー ア ッ プ す る
しく」学ぶことを、当初から目的に据えていま
「ちょっと昔」で、楽しいひと時をお過ごしくだ
す。開催にあたっては、毎年岐阜市小学校社会
さい。
科研究会の先生方と展示内容等について協議を
し、よ り 良 い 学 習 効 果 が 得 ら れ る よ う に リ
ニューアルを重ねてきました。
展示コーナーは児童の生活に関連した「学校」
「まちかど」
「家のなか」
「家のまわり(遊びのコー
ナー)
」の4コーナーを設けています。「学校」
「家のなか」は、「おじいさん、おばあさんが子
どものころ(90~60年くらい前)」、
「まちかど」
「家のまわり」は、「おとうさん、おかあさんが
子どものころ(50~30年くらい前)」の時代設定
とし、展示品及び各種体験用資料を陳列してい
だがしやさんコーナー
くじ引き体験
(中学生以下対象)
ます。また、「道具の変化を時系列でビジュア
関連行事
ルに見たい」という要望から、
「道具のうつりか
わり」コーナーを昨年新設し、「水をくむ道具」
など14のテーマを設けて資料を紹介していま
す。さらに、会場内ではボランティアの「もの
しり博士」が常駐し、解説や体験活動の補助を
おこない、毎年ご好評をいただいています。
「道具のうつりかわり」コーナー
節分の飾り物
<一般来館者向け >
◆新春独楽回し&南京玉すだれと腹話術
1月10日(月祝)・11:00・1
3:00・1
5:00
◆和みの唄会
1月10日(月祝)・10:00・1
4:00・1
6:00
◆昔のおもちゃ作り教室(各日11:0
0~,14:00~)
「うぐいす笛」
[200円]1月9日(日)
・親子でチャレンジ「布でつく
るフクロウ」
[500円]
1月16日(日)
・
「からくり鬼」
[400円]1月2
3
日(日)
・
「都どり」
[500円]
2月6日(日)
・
「布でつくる富有柿」
[40
0
円]2月13日(日)
・
「まゆびな」
[400円]
2月20日(日)
※[ ]内は材料費、定員各回先着20名(「布でつくるフクロウ」は
各回10名)
、開始30分前より整理券を配布します。
◆ものしり博士のわくわくワークショップ (各日10:0
0~12:
00,1
3:00~15:00)1月8日・15日・22日・2
9日、2月5日・
12日・1
9日・26日(各土曜日)
◆糸つむぎ&綿くり体験(各日13:00~16:00)2月5日・12日・
19日・26日(各土曜日)
◆みんなあつまれ!お手玉大会 1月30日(日)・13:30~
◆みんなあつまれ!メンコ大会 2月11日(金祝)・13:3
0~
◆みんなあつまれ!ベーゴマ大会 2月27日(日)・13:3
0~
<学校団体向け>
◆学校利用説明会(小学校教諭対象)
1月6日(木)・10:00~・
14:00~
◆たぬきの糸車 SPECI
ALDAYS
2月22日(火)・23日(水)・24日(木)・25日(金)
※都合により内容・時間等が変更になる場合があります。
※学校団体見学の申し込みは、随時受け付けております。ご希望
の見学日時が満員となる場合もありますので、お早めに博物館
までご相談ください。
― 2 ―
加藤栄三・東一記念美術館
生命の尊厳
栄三・東一と生き物たち
ても優しい人でしたね。
小鳥の具合が悪くなると、一日中、口を利か
ないくらい悲しがるのね。死んじゃう死んじゃ
うって大変で、寒い時には、自分の懐に入れて
温めてあげたりしていました。
」
2010.10.5
(火)~ 2011.
2.13
(日)
加藤栄三・東一作品に共通しているテーマは
「生命の尊厳」であると思います。
二人とも絵を描くとき、全ての生き物に、あ
る時は師として、ある時は友人として一期一会
の精神で接し、生きる喜びを込めて描きまし
た。
栄三・東一は鵜飼を描くとき、鵜匠と鵜を結
「鯛」
東一
ぶ手縄(たなわ)を描かなかったという逸話は
よく知られています。これは絵の中まで鵜を
また東一は次のように語っています。
縛っておくのは可哀そうだという思いから、絵
「絵とは何か、生きるとはどういうことか、生
の中では鵜を自由に泳がせたいという優しさか
があれば絶対に死がある。だから逆説的かも知
らです。 れないけど、生きる意味は死があって初めて出
栄三夫人はある対談の中で次のように語って
てくるものではないでしょうか。
」
います。
特に東一は兄栄三の不幸な死に接し、生と死
「小鳥の籠だけでも 2
0くらいあったかしら、
を強烈に意識するようになり「生命の尊厳」を
野鳥ですね。あらゆる野鳥を飼いまして面倒を
テーマに内面性の高い作品を発表してゆきま
みていましたね。
す。
本展では、収蔵作品の中から、両画伯が魚・
鳥などの生き物を描いた作品に焦点をあて 3
2
点を展示しました。
栄三作品としては「鴛鴦」
「静物(鯛)
」「海
鳥」など本画(完成作品)1
1点、
「きびたき」
「雀」
「牛」などの素描(スケッチ)1
1点。
東一作品は本画「海老」
「鮒」2点、
「兎」
「鵜」
など素描 8点を展示しました。
特 に 東 一 の「雉(き じ)
」
「鯉」
「に わ と り」
「静物(鯛)
」
栄三
「兎」は初めて公開する作品で興味ある素描で
主人は旅から帰ってきて、子供は大丈夫かと
す。
いう前に、小鳥は達者かって言うんです。人に
展示作品から、
「生命の尊厳」を感じとってい
対してもそうでしたけど、小さな鳥や花に対し
ただければと思います。
― 3 ―
加藤栄三・東一記念美術館
絵画制作の舞台裏
日展出品作と下絵展
には細すぎると感じたのでしょう。足の太さを
どうすればよいか、最後までこだわったため多
くの素描が必要になったのです。
東一が日本芸術院賞を受賞した「女人」は、
「人間の業」を描いた代表作です。
2011.2.15
(火)~ 4.24
(日)
この作品
を描くため
日本画の制作は絵具の定着剤に「膠(にかわ)
」
に、東
一
を使う関係上、スケッチ現場で作品を完成させ
は、様々な
ることは不可能です。そのためスケッチをもと
ポーズの裸
にアトリエで作品を仕上げます。
婦デッサン
その制作過程も、スケッチ→下絵→本画(完
を百数十枚
成作品)と様々な方法で、作者の意図する作品
も描いてい
を完成させてゆきます。
ます。いか
私たちが美術館や画廊で鑑賞する作品は、そ
にこの作品
のほとんどが本画(完成作品)ですが、一つの
に自分の強
作品が完成する裏には、多くの素描・下絵と
い思いを込
いった“おびただしい作品以前の作品”が隠さ
めて取り組
れているのです。
んだか、そ
当館は、栄三・東一両家のご遺族より多くの
の意気込み
素描・下絵をご寄贈いただき、一つの作品が完
が多くの素
成するまでの制作過程を系統的に知ることがで
描から伝わってきます。
きるユニークな美術館となりました。
また数枚の下絵から、いかにモチーフと対峙
「女人」
東一
し試行錯誤を繰り返しながら作品を完成させて
いったか、その息づかいや作者の眼差しを感じ
取ることができます。
絵を描くということは、単に形だけを表現す
るではなく、
「生(いのち)
」を描くのだという
ことが、制作過程を系統的にみていただくこと
によって感じ取っていただけると思います。
栄三「フィレンツェの夜明け」「城門の町」、
東 一「達 陀(だ っ た ん)」
「生(い の ち)」
「山
「ジャワ野牛」
(下絵)
栄三
(金華山)
」などの制作過程も公開します。
完成作品だけでは見られない、絵を描くこと
本展では、収蔵作品の中から日展出品作を中
の喜び・苦労・ためらいといった心の動きを、
心に本画・下絵・素描を展示し、その制作過程
本画・下絵・素描といった制作過程を鑑賞する
を公開します。
ことによって感じとっていただければと思いま
栄三がジャワ野牛を描いた「BANTI
NG」の
す。
下絵には沢山の足のみの素描があります。これ
は見たままの足の太さでは、重い胴体を支える
― 4 ―
唖娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃阿
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
哀
愛娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃娃挨
博物館ニュース
歴博セレクション
博物館のかくれた名品
博物館への寄付がありました
今年4月20日、岐阜市内の浄土真宗寺院・光明
寺の御住職・大洞龍明様より博物館の運営費に当
ててほしいと1
00万円の寄付があり、これに対し
て市長から感謝状が贈呈されました。(写真)
博物館は、昭和60年の設立以前より現在まで多
くの市民の皆様から様々な歴史・民俗・美術資料
などの寄付を頂戴してまいりました。今回の寄付
も、御住職が「生まれ育った岐阜への恩返しをし
たいと思うと同時に、故郷の歴史を明らかにし、
また伝えていくことに貢献したい」との思いから
寄付をしていただいたものです。
博物館では、運営費のうち資料購入費に当てさ
せていただく予定です。ありがとうございまし
た。
3月1
1日(金)~
当館は、これまでに文献・美術・民俗・考古な
ど各分野の資料を収集してきました。そして、
テーマを設定して展覧会を開催し、公開してきま
した。しかし、展覧会のテーマに合わなかった
り、展示室のスペースに限りがあるなど、様々な
理由で展示できなかった資料も多くあります。
そこで、今回の歴博セレクションでは、太田宿
本陣の什器、三好長慶書状、相撲のぼり、西南戦
争を描いた明治
時代の錦絵、馬
のはにわなど、
これまで紹介す
る機会がなかっ
たり、あるいは
新たにご寄贈を
うけた各分野の
資料を一挙公開
します。
群馬県伊勢崎市出土 はにわ
寛干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干幹
患
患
■分館 加藤栄三・東一記念美術館の展示■
患
患
患 本誌3・4ページで紹介した以外の、分館展覧会は以下のとおりです。
患
患
患
患 ~2月1
患
3日(日)まで
「創立2
5周年記念 岐阜日本画協会選抜展」
患
患
5日(火)~2月2
7日(日)
「神戸 峰男 彫刻展」
患 2月1
患
患
患
3月1日(火)~4月
2
4
日(日)
「山田 大作 水墨画展」
患
患
患
患
患
患
■特集展示(2階 総合展示室内)■
患
患
患
患
2階の総合展示室内の一角に特集展示コーナーを設置し、1~2ヵ月ごとにテーマを分けて資料を公開し
患
患
患 ています。これからの日程は次のとおりです。
患
患
患
2月19日(日)まで
「法華寺・養教寺の織豊期文書」
患 ~1
患
患
患
1
2
月
2
3
日(木・祝)~2月6日(日)
「幕末・岐阜の茶人-大野木訥庵コレクション-」
患
患
患 2月1
患
1日(金)~3月2
1日(月・祝) 「鋳物の世界-梵鐘を造る-」
患
患
3月
2
5
日(金)~
「縄文・弥生時代のくらし」
患
患
患
患
患
患
患
患
■柳津歴史民俗資料室の展示■
患
患
5 もえぎの里2階)では、1
1月から3月まで、 患
患 分室:柳津歴史民俗資料室(岐阜市柳津町下佐波西1-1
患
患
患 次の日程で展示をおこないます。観覧は無料です。
患
患 1
患
1月16日(火)~1
2月1
9日(日)
「須恵器の世界」
患
患
2月21日(火)~2月6日(日)
「博物館の兎大集合!」
患 1
患
患
患
2月8日(火)~3月
1
3
日(日)
「~蚕の成長を願って~ 美江寺土鈴」
患
患
患 3月1
患
5日(火)~
「ちょっと昔の小学生」
患
患
感干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干干慣
― 5 ―
研究ノート
の大洪水があったことが確認できる。
長良川
「古川」
「古々川」
の
名称について
項に斎藤道三が鷺山城への水路として造成し、
古々川は、同じく『濃州徇行記』中福光村の
筧 真理子
慶長年間(1
5
9
6~1
6
1
5)の洪水で大川となった
としるす。洪水の年代については、同書中に慶
長1
6年ともする。延宝3年(1
6
7
5)成立の「中
島両以記文」
(
『岐阜市史 史料編近世一』所収)
3本の川筋の成立
には、5
0~6
0年以前(1
6
2
0年前後にあたる)の
長良川は現在、岐阜市内を1筋に流れている
大水で河原になって小川が北にでき
「中野渡り」
が、昭和14年(19
39)の締切工事以前には3本
(古川筋の早田村北にあった)
の渡船が止まった
に分流していた。最も南を流れるのが現在の川
と述べるが、これがその洪水にあたるだろう。
筋で、さらにその北に2筋があり、地名辞書な
1
7世紀初頭にはたびたび大洪水がこの地域を
どでは北から古々川・古川・井川とされている。
襲っており、いずれの洪水か特定できる史料は
最も古いのは、方県郡・厚見郡の境となって
ない。
いる古川である。井川は天文3年(15
34)の洪
川筋の成立順では、古川→井川→古々川とな
水(枝広水)によって井水口が押し破られて大
るが、名称が示す年代はそれとは相違する。な
きくなったと伝える。これは180
0年頃に成立し
お、
『濃州徇行記』の早田村の項にも3筋の成立
た『濃州徇行記』の今泉村の項に、かつて長良
経過を述べるが、記述が混乱しており意味が通
川は「岐阜山の麓を西へ流れ早田村裏今の古川
じにくい。江戸時代にすでに、3筋の成立経過
へ流れしが、天文年中の洪水に用水杁井口吹破
があやふやになっていたことを示している。
れ井水とほり大河となれり」とあり、また同村
の西野天神社が「天文三年甲午九月六日の大洪
明治中期以前における各川筋の名称
水(世に条広の洪水と云)」で破損したとの記載
それでは、江戸時代から明治中期までの絵図
が元になっていると思われる。しかし天文3年
や史料に3筋はどのような名称でしるされてい
の洪水は同時代には記録がなく、翌4年に2度
るだろうか。管見の限り古々川という名称は見
当たらず、およそ次の3
パターンに分けること
ができる。
①3筋すべてを長良川
とする。
②古川・古々川をともに
古川とする。
③3筋をそれぞれ別の
名称で呼ぶ。
長 良 川 全 体 の 名 称 も
江戸時代には一定して
いるわけではないが、お
およそ長良の上流あた
りまでは郡上川、それよ
り下流は長良川とする
ものが多い。①は、この
締切工事竣工記念絵はがきの附図
― 6 ―
長良川が分流するのだ
から全て長良川とするわけである。また②は、
ハ平水通セス稍出水ノ時ハ新川ヱモ水通シ中水
古々川は古川から分流するため、2筋を合わせ
以上ハ古川ヱモ水行アリ洪水ニハ三川トモニ漲
て古川とする。
溢セリ」と、通常は井川筋にのみ水が流れ、増
③については、北から「新川・先年大川・井
水のときには古々川(文中では新川)
、ついで古
水川」「長良川・古川・上ヶ門川」
「新川・古川・
川筋に水が通じる状態を記録している。
井川」「前川・古川・長良川」「北川・中大川・
井川」「裏川・表川・本川」などがある。最後の
「古々川」の名称の登場
例は尉殿堤の南を流れる川を表川、北を裏川と
古々川という名称の初見は、今確認できる限
表現したものである。
りでは、明治2
6年(1
89
3)の方県郡・本巣郡2
6ヵ
村から貴族院・衆議院への請願書である。これ
主流の変化
は、本流の川底上昇にともなって出水時には古
3筋のうちの主流も時期によって変化した。
川筋に水が流入し、伊自良・鳥羽・板谷川への
『濃州徇行記』では、井川筋が16世紀の大洪水で
逆流が被害をもたらすことを訴え、墨俣より上
大河になったと述べるが、おそらくそののちも
流の河川改修を請願したものであった。その文
主流は古川筋であったと思われる。長良川の水
中に「長良古川古々川通関係ノ重キモノハ方県
運をチェックする川役所は、古川南岸の早田村
郡則武村他二十五ヶ村」
(『四ヶ村輪中水防史考』
馬場から、やや上流の分派口南岸に位置する中
所引)と述べている。
河原に寛永13年に移転した。これは「川瀬替り
明治2
0年代は、木曽三川の下流改修工事が始
候ニ付」きと理由が述べられる(18世紀末ころ
まった時期で、引き続いて実施されるべき上流
の「長良川役銀等に付返答書」、『岐阜市史 史
改修についての運動も活発化した。それにあ
料編近世一』所収)が、井川筋の水量が増えた
たって、分派する長良川それぞれを木曽三川流
ことへの対応と考えられる。元禄5年(16
9
2)
域のなかで個別化し、改修全体に位置付けるた
の「鵜飼屋嘉右衛門所有絵図写」(崇福寺所蔵、
めには、かつての前川・北川といった小地域内
横山住雄氏「長良川の流路変遷と土岐氏枝広館
の位置関係による名称では不都合なため、古々
について」[
『郷土研究岐阜 創立30周年記念論
川が採用されたのであろう。しかし、なぜ従来
集』所収]掲載)には水量の7~8割が古々川
(図
も使われていた新川ではなく古々川としたのだ
中では長良川)、残る2~3割が井川(同じく
ろうか。明治3
0年には古々川筋に沿って位置す
上ヶ門川)に流れているように読みとれる。前
る則武村・正木村地内の川筋を「元長良川」と
掲の「長良川役銀等に付返答書」には「元禄十
呼んでおり
(
「則武輪中水害予防組合総代人選挙
一寅年古川通ニ高砂付、井川通ニ河瀬かはる」
規程」
、岐阜県歴史資料館所蔵)
、あるいは古川
と記載され、このころに井川筋が主流となった
に対して「元長良川」であることから古々川と
らしい。しかし、それが固定されたわけではな
したのかとも思われるが、推測の域を出ない。
く、安政6年(1859)には「近年長良古川口へ
このとき現れた古々川という名称はそののち
水勢相傾」くために中河原の川役所前の洲浚い
内務省にも採用され、大正9年(1
92
0)の木曽
願いが出されている(「上城田寺村等八か村岐阜
川上流改修計画(
『岐阜県治水史 下』所引)に
中河原役所前洲浚願書」、『岐阜市史 史料編近
「長良川ハ、岐阜市附近ニ於テ古川及古々川ノ
世二』所収)。
両川ヲ分派シ…今回両派川ヲ締切ルモノトス」
各川筋を流れる水量は大きな洪水のたびに若
と明記された。分派口の締切工事は昭和1
4年に
干変化したかもしれないが、傾向としては井川
竣工し、それを記念した巨大な石碑が建てられ
筋が主流となっていった。明治中期の『往昔以
た。その威容は現在も岐阜都ホテルの裏の堤防
来木曽川流域河状之変換』
(『濃飛河川資料Ⅱ』
沿いに見ることができるが、そこにも古々川の
所収)には「平水ハ井川ヲ通シ古川新川ノ二流
名称が刻まれている。
― 7 ―
おのえ きく ご ろう
しに え
四代目 尾上 菊 五 郎 の 死 絵 大判錦絵(2枚続き)
3
5.
5センチ ×4
8.
9センチ
木版多色摺 万延元年(1
8
6
0)
死絵とは、人気の高い人が没した直後に、
その似顔絵に没年月日・辞世句などを添えて
出版された浮世絵です。ここに紹介するのは
万延元年6月28日に没した四代目尾上菊五郎
のもので、絵師の名はしるされていません。
四代目菊五郎(180
8~18
60)は大坂生まれ
で、天保2年(18
31)に三代目菊五郎の娘婿
となって江戸へ移りました。安政3年(18
5
6)
に四代目菊五郎を襲名し、女方として幕末の
舞台で活躍しました。数珠をもつ菊五郎の視
線の先には2羽の蝶が飛んでいますが、大き
な蝶は菊五郎、小さな蝶は同じ日に没したという妻の魂を表したものでしょう。左上部には菊五郎
まがき
た
の法名・享年・菩提寺などとともに、辞世の和歌「ひがしなる籬の菊を心なく 西のみくにゝ誰が
うつしけむ 梅婦」、その下には「香は菊にはなれて匂ふ夕べかな 梅幸」に続けて手向けの句が7
し かん
句あります。菊五郎は俳諧をたしなんで梅婦・梅幸などの俳名をなのり、続く7名も中村芝翫・片
岡仁左衛門らの役者たちです。
この絵で注目されるのは、菊五郎の姿が映し出された提灯です。背景には藍色で菊が描かれ、内
部の灯りにほんのり照らされるようすがぼかしで表現されています。江戸の町では1
9世紀初頭に盆
提灯として「薄き紙にて美しき細画を用」いた「岐阜提灯」が流行していました。そこには、現在
も名産品である岐阜提灯の特徴がすでに備わっています。この絵は、出版されたのが盆のころであ
ることともあいまって、岐阜提灯にともされた灯に導かれて菊五郎の霊が宿ったようすをデザイン
したものと考えられます。
*********************************************************
利用の御案内
■ 開館時間 午前9時~午後5時
(入館は午後4時30分まで)
■ 休 館 日 毎週月曜日と祝日の翌日
・家庭の日(毎月第3日曜日)に入館する中学生以下の方に
同伴する家族(高校生以上)の方(特別展を除く)
・市内小中学生の方(特別展を除く)
(月曜日が祝日の場合は翌日)
企 画 展 常設展料金で御覧いただけます。
※年末年始(12/
27~1/
3)
■ 交通案内 JR岐阜駅・名鉄岐阜駅から岐阜バスにて長良方
■ 観 覧 料(団体は20名以上)
歴史博物館常設展、加藤栄三・東一記念美術館
高校生以上 300円(団体240円)
小・中学生 150円(団体 90円)
面行きに乗り、「岐阜公園・歴史博物館前」で下車、すぐ東に
歴史博物館があります。
公園内ロープウェイ乗り場すぐ隣に加藤栄三・東一記念美
術館があります。
両館共通で観覧される場合
高校生以上 500円(団体400円)
小・中学生 250円(団体150円)
◎次の方は無料で入館していただけますので、手帳等をご提
示ください。
・市内70歳以上の方
・市内の身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育
手帳の交付を受けている方、及びその介護の方
・家庭の日(毎月第3日曜日)に入館する中学生以下の方
博物館だより №76 2010.11
編集・発行 岐阜市歴史博物館
〒500-8003 岐阜市大宮町2-18-1 緯058
(265)
0010
(分館)加藤栄三・東一記念美術館
〒500-8003 岐阜市大宮町1-46
緯058
(264)
6410
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