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~世界の中古スマートフォン流通市場の実態を探る~

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~世界の中古スマートフォン流通市場の実態を探る~
2016 年 12 月 6 日
オークネット総合研究所
~世界の中古スマートフォン流通市場の実態を探る~
第 11 回:新しいフェーズに入った MVNO ビジネスにおける端末が果たす役割
オ ー ク ネ ッ ト 総 合 研 究 所 ( 所 在 地 : 東 京 都 港 区 / 代 表 理 事 : 山 内
良 信 /URL :
http://www.aucnet.co.jp/aucnet-reseach/)は、BtoB ネットオークションを主軸とした情報流通サービスを提供す
るオークネットグループが運営し、独自の調査レポートなどを発表しています。昨年 10 月からは、昨今注目される中古
スマートフォン市場に関し、モバイル研究家・木暮祐一氏に取材・調査を依頼し、その実態をニュースレターとして配信
しております。
前回のレポートでも報告したように、公正取引委員会は『携帯電話市場における競争政策上の課題について』という報
告書を公表し、市場の健全化に向けた指針を示しました。とくに MVNO の新規参入促進という観点から「中古端末の流
通促進」についても踏み込んでいます。では、国内の主要な MVNO はスマートフォン端末の取扱いについてどのような
特色を打ち出して差別化を図ろうとしているのでしょうか。また中古スマートフォンの流通に関してどのような認識なの
でしょうか。主要な MVNO を訪問しお話を伺ってきました。
1. MVNO ビジネスが新たなフェーズにシフトし始めた
モバイルビジネスにおける健全なサービス競争を促し市場の発展に貢献する手段の 1 つとして、
MVNO の躍進が期待されている。MVNO とは、Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事
業者)の略で、自ら基地局等の通信設備を開設せず、NTT ドコモや KDDI といった MNO(=Mobile
Network Operator、移動体通信事業者)からそれら設備を借り受け、独自のブランドで通信サービス
を提供する事業者のことである。
わが国では、2001 年に当時のウィルコムの通信設備を借り受けて通信事業に参入した日本通信(サ
ービス名称は「b-mobile」
)が MVNO の古参とされている。2007 年には総務省において開催された「モ
バイルビジネス研究会」にて MVNO の新規参入を促進させるための議論も行われ、これを受けて NTT
ドコモは 2009 年に MVNO 向けのレイヤー2 接続(パケット中継装置などの終端装置を MVNO 側に置
く接続)を開始したことで、その後多数の MVNO が参入を果たしている。
また、MVNO がより手軽に事業参入できるよう、MNO と MVNO との間に介在して MNO との交渉や
通信・課金設備の構築、運用、端末調達等を支援する役割を果たす、MVNE(=Mobile Virtual Network
Enabler、仮想移動体サービス提供者)という事業形態も存在する。初期から事業参入していた大手
MVNO[日本通信、NTT コミュニケーションズ(OCN)、インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)
、
NTTPC コミュニケーションズ(InfoSphere)、フリービットなど]がその役割を果たすようになって
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いる。
その MVNO をめぐるビジネス環境が、今まさに大きな変革のタイミングに差し掛かっている。IIJ は
8 月 30 日、NTT ドコモに対して加入者管理機能(HLR/HSS)の連携の申し込みを完了し、ドコモより
承諾書を取得したと発表。これを受け、2017 年下期を目途に HLR/HSS の解放・独自運用によるサー
ビスの多様化や独自 SIM の発行など、
「フル MVNO」としての商用サービス開始を目指すという。
HLR/HSS とは「Home Location Register/Home Subscriber Server」の略で、スマートフォン(以
下、スマホ)等に挿入して利用する SIM カードの情報を一元管理するデータベースのこと。これまで
SIM カードと通信サービスの加入者を紐付ける情報(加入者情報)は NTT ドコモなどの MNO が一元
的に管理してきた。今回の IIJ と NTT ドコモの合意は、これまでのレイヤー2 接続よりもさらに踏み込
んで、この加入者情報の管理までを MVNO である IIJ 自身で管理できるようにするというものとなる。
これにより IIJ 自ら SIM カードの発行を行うことができ、より自由度の高いサービスの提供が可能にな
る。たとえば加入者情報を IIJ 自身が管理することで、IIJ が独自に海外キャリア(MNO)や海外の MVNO
と契約して国際ローミングサービスを提供できる、などのメリットが出てくる。あるいは物理的な SIM
カードの差し替えをせずに SIM カードの情報を書き換えることができる eSIM を採用し、契約者の選択
で端末上から接続する MNO を選ぶといったサービスも提供できよう。eSIM を使えば遠隔で契約情報
を書き換えることも可能になるので、たとえば IoT サービスでの活用でも柔軟性が出てくる。あらかじ
め機器に通信機能を搭載した上で出荷し、通信が必要になったときに遠隔でアクティベートしたり契約
解除手続きをするといった使い方などが考えられる。
<図 1>MVNO の事業範囲(IIJ 報道発表資料より)
日本通信は 11 月 7 日、MVNO の U-NEXT との協業について合意したことを発表した。同社のコン
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シューマ向け通信サービス(b-mobile)の提供を実質的に U-NEXT に委ね、BtoB 事業となる MVNE
に専念していくということになる。MVNO の古参として業界そのものを長年に渡って牽引してきた同社
が、いわば個人向け通信サービスから撤退することを意味する。また、フル MVNO を目指す IIJ も、た
だちにコンシューマ向けにフル MVNO のサービスを提供するというわけではなく、IIJ が MVNE として
の立ち位置でコンシューマ向けにサービスを提供する MVNO へ IIJ のネットワークサービスを提供する
形で展開していくと考えられる。
すなわち IIJ も、日本通信も、より MNO の立場に近づいた MVNE の役割を果たしながら、他の MVNO
にネットワークやサービスを提供する立場を目指していくようだ。日本通信は MVNE に代わる立場とし
て、あえて MSO(Mobile Service Operator)という名称を使っている。こうした動きから感じること
は、今後は MVNE の立ち位置で MVNO 向けに BtoB 事業を展開する事業者と、よりコンシューマに近
いポジションで独自のマーケットやサービスを有効活用して BtoC 事業を展開していく MVNO とに事業
形態が明確に分かれていく転換期に差し掛かって来たといえる。
MVNO というと、とかく「格安サービス」というイメージがつきまとってきたが、すでに多数の MVNO
がひしめいている中で価格競争ばかりに傾注していると各社が共倒れになりかねない。そんな中で、IIJ
や日本通信の動きを見ていると、今後は自社の特色をいかに打ち出して他社と差別化を図るか、あるい
は独自のマーケティング戦略を打ち出していくかが勝負どころとなっていく新たなフェーズに入って
きたと感じる。まさに MVNO は黎明期から本格普及期に差し掛かったタイミングといえよう。
では、MVNO が独自性を打ち出して勝負を仕掛けて行く場合に、どのような戦略が求められていくだ
ろうか。その手法は様々であるが、本稿では特に「端末の取扱い」という観点から主要 MVNO の取り
組みを見ていきたい。というのは、わが国では長年に渡って通信サービスと端末をセットで提供し、そ
うしたスタイルが一般のユーザーに広く浸透してきた。通信サービスの入り口という観点で「端末」は
重要なものとされてきたからだ。以下では、スマホ端末のラインアップに工夫を凝らしている MVNO
を中心に取材を行った。
2. フルラインアップ戦略をとる MVNO
MVNO 事業者の中でも、スマホ端末のラインアップにとくに力を注いでいるのが FREETEL ブランド
でサービス提供を行うプラスワン・マーケティング株式会社である。多くの MVNO が取り扱うスマー
トフォン端末は国内外のメーカーブランド端末をそのまま、あるいは若干独自の仕様にカスタマイズす
るなどしてラインアップする中で、FREETEL の場合は自社ロゴを冠したオリジナルモデルを積極的に
投入している。また、販売戦略においても MNO が従来から展開してきた王道モデルともいうべき量販
店店頭での積極的な販売や、自社の看板となるタレントを起用した積極的なプロモーション戦略などを
踏襲している。量販店での展開という点では、ヨドバシカメラの旗艦店で、その玄関口に販売コーナー
を設置し多くの来客に FREETEL のブランドとスマホラインアップを訴求している。またタレントの
佐々木希を起用したテレビコマーシャル展開は、同社のブランドを幅広い消費者に認識させることに成
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功している。
FREETEL の端末は「フルラインアップ戦略」を狙っている。老若男女問わず、ウケる端末を狙い、
攻めていくという方針を打ち出す。取り扱う端末の OS も、Andorid と Windows 10 Mobile を揃える
ほか、中古の iPhone も会員限定で取り扱っている。
「2012 年 12 月の創業時から、端末を中心に展開するビジネスを考えていた。端末ラインアップは重
要なものと考えておりフルラインアップ戦略を目指す。買っているユーザーは男性が多いが、老若男女
問わずウケる端末を企画していきたい。これまでのわが国のスマートフォン端末は選択肢が数ないので
はと考えていた。しかもハイエンド端末ばかり。服が多様なように、端末も選択肢がたくさんあって良
いはず」
(プラスワン・マーケティング株式会社 常務取締役・大仲泰弘氏)
フルラインアップ戦略をとりながらも、やはりスマホを購入していくユーザー層は男性が多かったと
いう。そこでラインアップに加わったのが女性ユーザーを意識したスマホ「REI」である。狙いは当た
り、佐々木希のテレビコマーシャルの効果もあって多くの女性に FREETEL のブランドを認識させ、REI
の販売に結びつけた。
FREETEL と同様に、フルラインアップ戦略を目指しているのが「楽天モバイル」を展開する楽天株
式会社だ。楽天モバイルも同様に積極的なテレビコマーシャルの展開や充実したスマホ端末のラインア
ップを揃える。11 月 15 日現在スマホ 15 モデル、タブレット 4 モデルのほか、モバイルルータや通信
機能付きノートパソコンを提供している。また 12 月中にはスマホ 1 モデル、折りたたみ式携帯電話端
末 1 モデルが追加される予定である。楽天モバイルでは MNO が販売店で配布しているものと同等の製
品サービスカタログも用意しており、主要都市に出店している直営店舗や量販店、携帯電話併売店等に
設置し、契約受付や商品受け渡しを行っている。
「現在、全国 106 カ所(11 月 14 日現在)で楽天モバイルを取り扱っている」(楽天株式会社 楽天モ
バイル事業 チーフプロダクトオフィサー・黒住吉郎氏)
楽天モバイルでは、取り扱う端末の価格帯も 1 万円台から約 6 万円のモデルまでバランスよくライン
アップしている。
「普及価格帯からハイエンドモデルまで用意している中で、ユーザーにそれぞれの用途や好みにあった
端末を選んでいただいている。楽天モバイルの取扱店では、実際に手に取って製品の質感などを比べて
もらうことができる。防水やワンセグなど国産メーカーならではの機能を求めるユーザーも多く、国産
メーカーの端末をラインアップしている。一方で、HUAWEI や ASUS などの海外メーカーの端末を選
ぶユーザーも多い。エントリーモデルからハイスペックまで幅広く品揃えがあり、さらに日本のメーカ
ーではできないことができているというのが要因ではないかと考えている。MVNO によっては売れ筋の
端末だけにラインアップを絞っているところもあるが、楽天モバイルの場合は MNO 同様に豊富に揃う
ラインアップから選ぶ楽しさというものも提供していきたいと考えている」
(楽天株式会社・黒住氏)
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3. グループ企業とのシナジーをいかに打ち出すか
楽天モバイルの場合、楽天市場を中心に事業展開する楽天グループとのシナジーを打ち出す。楽天モ
バイルの利用により楽天スーパーポイントを貯めることもできれば、ポイントを端末やアクセサリーの
購入や料金支払いにも利用できる。楽天グループのサービスを利用しているユーザー層が幅広いという
ことからも、楽天モバイルが端末ラインアップを充実させなくてはならない理由としてうなづける。ま
た楽天モバイルの端末には、楽天市場をはじめ、楽天の主要サービスを利用可能なアプリがプリインス
トールされており、こうしたところでグループのシナジーを一層高めているようだ。
一方、端末ラインアップを最小限に抑えながら特色ある機能を備えて展開しているのが「TSUTAYA
のスマホ」で知られるトーンモバイル株式会社の「TONE」である。トーンモバイルはもともと、MVNE
も展開しているフリービット株式会社の MVNO 事業として立ち上がった「フリービットモバイル」が
前身となる。のちにフリービットモバイル株式会社として独立するが、フリービット社と TSUTAYA を
運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブグループ(以下、CCC)との戦略的提携により、2015
年に CCC グループ傘下に入りトーンモバイル株式会社に商号変更し現在に至っている。
都心部や地方中核都市にある TSUTAYA への出店を進めており、2017 年 3 月までに全国主要の
TSUTAYA、200 店舗への展開を目指している。「TSUTAYA のスマホ」としてブランディングを進めて
おり、TSUTAYA の顧客層の中でも小学生の子どもがいる親子で安価にスマホを使いたいというユーザ
ーやはじめてスマホを使うユーザーを中心にターゲットとして絞り込んで、端末をラインアップしサー
ビスの磨き込みをしている。
端末は現在、LTE 対応の最新モデル「TONE m15」
(29,800 円、税別)の 1 モデルのみ。フリービ
ットモバイル時代から数えても「TONE m15」は 4 代目の端末だ。いずれも本体色はホワイトの一色
のみという極めてシンプルな構成である。
「日本のスマホユーザーのほとんどの方は、カバーを装着して使っているはず。専用カバーも用意して
いるほか、端末から画像をアップロードするだけでオリジナルのカバーを作ることができるサービスも
用意している」
(トーンモバイル株式会社 取締役 事業統括本部長・中村礼博氏)
<図 2>TONE モバイル「TONE m15」
<図 3>オリジナルカバー制作サービス
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トーンモバイルの場合「40 代で親子でスマホを使うユーザー」や「はじめてスマホを使うユーザー」
と明確にターゲッティングした上でサービスを展開する。ユーザーサポート機能へのこだわりは特筆す
べきもので、スマホの化粧箱には IC タグが埋め込まれており、端末の電源を入れた状態で背面を下に
して箱の中に入れると専用の診断アプリが起動し、端末の自己診断が行われる。インターネットにつな
がらない、通話ができないなどといったスマホ初心者がちょっとした設定変更で陥ってしまうようなト
ラブルに対して、端末自身が解決策を表示してくれるような機能となっている。さらにそれで解決でき
ない場合は、そのまま同社のお客様センターに通話発信できるようになっている。
また、親子で利用する場合の管理機能も充実している。子ども側の端末で、何らかのアプリを追加し
たい場合には、子ども側端末でアプリをダウンロードしたのちに、管理アプリである「TONE ファミリ
ー」で登録されている親側端末に利用許可申請を出し、許可を受けなければアプリが起動できない。ま
た親側端末で許可を得て利用可能になったアプリでも、後から利用停止にすることもできる。たとえば
子ども側が約束をやぶってアプリで遊んでばかりいるという場合に、アプリが起動できないように遠隔
操作できる。このほかにも、子ども側端末の利用時間を設定したり、位置情報を使って特定のエリアに
入った場合に通知が届く「ジオフェンス機能」、歩きスマホを検知してメールで通知してくれる機能な
ども備えている。
4. 端末の保守にどう取り組むか、そして中古端末の取扱いは?
電子製品であるスマホ端末は、ともすれば破損や故障を伴うこともある。購入したユーザーがこうし
たトラブルに遭遇した場合、MVNO 各社はどのような対策を用意しているのであろうか。かつて携帯電
話の時代には、各 MNO とも販売店(キャリアショップ)で故障修理対応できるようにしていたが、端
末の多機能化や販売店の業務合理化の流れに乗って店頭での保守はやめ、端末を預かりメーカーに戻し
て修理や交換等の対応を取る形態に変わっていった。その後、スマホにラインアップが置き換わった現
在も、端末の保守はメーカーに戻すというのが主流だ。
多様な端末メーカーの製品を扱う楽天モバイルの場合も同様に、故障や破損の修理はメーカーで対応
してもらうという方針を貫く。
「NTT ドコモや au などの MNO は従来、販売店(キャリアショップ)で修理を行っていた。このやり
方はユーザーにはわかりやすく、何度も足を運ばずに済むので親切な対応といえるが、やはりこのやり
方では大きなコストが掛かってしまう。MVNO ではなおさらのこと、コストとのバランスが重要となっ
てくる。ユーザーに安価に使って頂くためには、そこにコストを掛けてしまうのは難しい。iPhone の
台頭により、販売店ではなくメーカーでの修理に対する抵抗も弱くなっていると考えており、ユーザー
に対して適切な対応を行うことはもちろんとして、端末の修理はメーカーに依頼している」(株式会社
楽天・黒住氏)
これに対し、自社ブランドで端末をラインアップする FREETEL は、自社自体が端末メーカーでもあ
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るとの意識の上で、修理対応も自社でしっかり引き受ける体制を持つ。端末リペアセンターも設置し修
理対応に当たっているという。またトーンモバイルも同様に、販売するスマホ端末は自社ブランドとい
う考え方で、このため故障等が発生した場合は、同型端末に交換するという対応をとる。
一方、取扱店を FC 方式で全国に広げるという営業手法をとる「もしもシークス」を展開しているエ
ックスモバイル株式会社は、一部の FC 店が独自にスマホ修理事業を行い即日修理に対応している。
「現在、東北から沖縄まで各地にショップを展開している。それらは各地域で不動産事業であったり事
務用品店など、本来の本業をお持ちの地場の企業が FC 加盟してくださり、当社の看板も掲げ SIM カー
ドや端末を販売してくれている。そうした FC 店の中には、端末修理の研修などを受けて技術を習得し、
自社事業の一つとしてスマホ修理事業を行っているところもある。当社の回線を利用してない一般のユ
ーザーの修理にももちろん対応する。修理で立ち寄ってくださったユーザーが当社の MVNO サービス
を知って、回線契約を乗り換えてくださるというケースもある」
(エックスモバイル株式会社 代表取締
役 CEO・木野将徳氏)
かつて携帯電話が故障した際などは、一部のドコモショップや au ショップなどのキャリアショップ
でも即時修理を行っていたのだが、店頭での修理対応はコストが掛かるという事情から既存 MNO は撤
退してしまった。MVNO の多くもそうした対応を行っていない中で、もしもシークスの場合は修理事業
そのものも代理店の収益につながり、さらに集客に効果をもたらすという点で第三者修理事業に前向き
な印象であった。
MVNO 各社は本来、回線契約を増やしていくことで安定した収益を得ていく事業体である。しかしわ
が国では長らく回線契約と端末販売がセットで提供される形態をとってきたために、SIM カードのみの
販売はなかなか振るわない。このため、各 MVNO がスマホ端末のラインアップに力を入れることにな
るのだが、わが国の人気端末は依然として iPhone が君臨する。しかしながら MVNO が iPhone を販売
したくても、これが実現できていない。他方で、中古端末として iPhone が一部流通している。こうし
た中古 iPhone を取り扱う MVNO も出てきている。
FREETEL はメルマガ会員登録をしているユーザーを対象にしたオンラインセレクトショップを通じ
てスマホのアクセサリーや FREETEL 端末の限定アウトレット販売などを行っている。このセレクトシ
ョップでは、中古 iPhone の取扱いも行っており、同社の回線契約とのセット商品として販売を行って
いる。また、FREETEL 自ら iPhone の買取事業も行う。
さらに割賦販売契約した顧客が半年ごと(1 年に 2 回まで)に残額の支払い無しで最新機種に変更で
きる「とりかえ~る」の提供を開始し、新たな料金プランと併せて「スマートコミコミ」というサービ
ス名称で 11 月 21 日から提供開始している。この端末機種変更の利用条件としては購入から半年が経
過していること、交換元端末および保証書を返却すること(端末は画面破損・水濡れがなく電源が入る
こと)などが求められるが、残額の支払いが免除で新しい端末に変更できる。同一の端末の利用が 1 年
以上継続していれば、ディスプレイ割れなど破損していても残額の支払いなしで最新モデルへ交換可能
である。FREETEL は、このプランで返却されてきた端末は整備(リファービッシュ)の上、再生品あ
るいは中古端末としてセレクトショップにて再販していくことを目論んでいるようだ。中古スマホ市場
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の活性化に一石を投じる注目しておきたい取り組みの一つといえる。
<図 4>FREETEL のオンラインストアで展開されるアウトレットセール。
今後、中古端末等のラインアップが充実していくものと思われる
5. 公正取引委員会の指摘で中古端末流通が変わるか?
これまで当レポートでは、MNO が端末の下取りを大規模に実施するようになったものの、そこで取
得した端末は一部が修理等の代替機として利用されるほかは大部分が海外で販売され、国内の中古端末
市場に流通することはほとんどないことに触れてきた。また、公正取引委員会は 8 月 2 日、MVNO の
新規参入促進の観点から「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を出してい
るが、この中でも「中古端末の流通促進」について指摘を行っている。
公正取引委員会の報告書の中で次のように触れられている。
中古端末の処分に関連して、下記の行為を行う場合、MVNO の新規参入を阻害することにもつ
ながり、独占禁止法上問題となるおそれがある(不当高価購入、取引妨害等)。
・端末メーカーが、MVNO に対し、MNO が下取りを行った端末を国内で再び流通させること
を禁止するなど、MNO による中古端末の流通を制限する行為(拘束条件取引、取引妨害等)
・MNO や端末メーカーが、自ら下取りした端末を第三者に販売するに当たり、第三者に対し
国内市場での販売を制限する行為(拘束条件付取引等)
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公正取引委員会がここで触れている“端末メーカー”は Apple であることが類推できる。実際に、主要
MVNO に話を聞くと、iPhone を取扱いたいという声がたくさん聞こえてくるが、実際には取扱えずに
もどかしさを感じているという印象であった。中古でも良いので iPhone をラインアップしたいという
声も聞こえてきたが、買取された iPhone が国内で再流通するルートは限られている。
一方 Apple は、海外では何らかの理由で回収した端末を整備し、端末筐体やバッテリー、アクセサリ
ーなどを新品にしてメーカー認定「整備済製品」
(CPO=Certified Pre-Owned)として再流通させてい
る。これは Apple の保証(12 カ月)もあり、もちろん AppleCare にも加入できる。しかしながら、わ
が国では iPhone の CPO 品は販売されていない(iPad は取扱いされている)
。こうした点からも、公正
取引委員会が指摘するように何らかの流通上の制約がなされていることが推察できる。
<図 5>世界では iPhone の CPO 品も流通している。わが国では iPad だけが取扱われている
しかし公正取引委員会の指摘を受け、今後はわが国でも中古スマホや CPO の流通に何らかの変化が
起きてくると考えられる。新たな中古スマホ等の流通経路が生まれることは、MVNO にとっては事業の
さらなる活性化の追い風になるものと考えられ、引き続きこのあたりの業界の動向を注視しておく必要
がある。
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著者:木暮祐一(こぐれゆういち)
モバイル研究家・青森公立大学経営経済学部准教授
1967 年、東京都生まれ。黎明期からの携帯電話業界動向をウォッチし、2000 年に(株)アスキー
にて携帯電話情報サイト『携帯 24』を立ち上げ同 Web 編集長。コンテンツ業界を経て 2004 年独立。
2007 年、
「携帯電話の遠隔医療応用に関する研究」に携わり徳島大学大学院工学研究科を修了、博士(工
学)。スマートフォンの医療・ヘルスケア分野への応用をはじめ、ICT の地域社会での活用に関わる研
究に従事。モバイル学会理事/副会長、IT ヘルスケア学会理事。近著に『メディア技術史』
(共著、北樹
出版)など。1000 台を超えるケータイのコレクションも保有している。
<オークネット総合研究所
概要>
当総合研究所は、1985 年に世界初の中古車 TV オークション事業をスタートし、以来 30 年にわたり
オークションを主軸とした情報流通サービスを提供するオークネットグループが運営。これまで培った
実績とネットワークを活用し、専門性、信頼性の高い情報を発信することで、更なる業界発展に寄与す
ることを目指しています。
所在地:〒107‐8349 東京都港区北青山二丁目 5 番 8 号 青山 OM スクエア
代表理事:山内 良信
U R L:http://www.aucnet.co.jp/aucnet-reseach/
-------------------------------------------<本件に関するお問合せ>
株式会社オークネット 広報担当:降旗(フリハタ)
TEL:03-6440-2530
E-MAIL:[email protected]
※本資料を利用される際は、オークネットにご一報の上、提供元を「オークネット総合研究所」と明記
して、ご利用ください。
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