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スイスの小学校で行われている事例〜(PDF)

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スイスの小学校で行われている事例〜(PDF)
究
研
子どもたちが作品へ入りこむ
体験型音楽鑑賞教育
〜スイスの小学校で行われている事例〜
2 ジュネーヴ州の学校コンサー
ト「コンサート・ジュネ」
ジュネーヴ州では、およそ 年
前から州内の小学校へ通う児童全
員へコンサート・ジュネ(
賞曲のCDが子どもたち全員にプ
レゼントされる。子どもが負担す
る 費 用 は、 僅 か 4 ス イ ス フ ラ ン、
他に州から補助として1スイスフ
ランが追加されているのみで、こ
の企画は長年運営されている。コ
ン サ ー ト・ ジ ュ ネ は、 毎 年
月、
2 月、 4 月 に 定 期 的 に 開 催 さ れ、
Concert
:若者のためのコンサー
Jeunes
ト)と呼ばれる学校コンサートの
演奏時間は、子どもたちの集中力
分程で構成されてい
と っ て 貴 重 な 機 会 と な っ て い る。
どを直に味わえる、子どもたちに
大さや日本の伝統芸能の奥深さな
スを肌で感じ、オーケストラの壮
プロの演奏家によるパフォーマン
演 奏 を 鑑 賞 す る 音 楽 鑑 賞 教 室 は、
やコンサートホールへ赴き、生の
の需要が高まってきている。劇場
近年日本では、アウトリーチや
芸術鑑賞教室など学校コンサート
品へ入り込む体験型音楽鑑賞教育
事例を取り上げ、子どもたちが作
ている学校コンサート事前学習の
ジュネーヴ州公立小学校で行われ
あろうか。本研究では、スイス・
なアプローチがなされているので
では、海外では具体的にどのよう
発したことと推察されるが、それ
芸術教育普及プログラムから端を
る。このような取組みは、欧米の
音楽鑑賞スタイルへの転換であ
自らが演奏に加わるという体験型
う 従 来 の 受 動 的 な ス タ イ ル か ら、
るためのマナーも同時に学んでい
うとともに、コンサートを鑑賞す
歴史ある劇場で一流の音楽を味わ
ア・ホール、子どもたちは荘厳で
894年に建てられたヴィクトリ
の契機となっている。会場は、1
たって愛好する心情を育むひとつ
らの記憶に残り、音楽を生涯にわ
後もこの時のコンサート体験が彼
権利が保障されており、成長した
は全員このコンサートを鑑賞する
る。ジュネーヴ州内の子どもたち
ド管弦楽団によって提供されてい
るオーケストラ、スイス・ロマン
こで目にした授業は、マヌエル・
習授業を目にする機会を得た。そ
れるコンサート・ジュネの事前学
学校を訪問した際、2月に開催さ
筆者は、2013年1月、スイ
ス・ジュネーヴ州の複数の公立小
学習を行っている。
導書と附属の音源を用いて、事前
ネーヴ州公教育課で作成された指
劇場でのコンサート鑑賞に先立
ち、小学校の音楽科授業ではジュ
鹿児島大学 准教授
機会を継続的に設けている。この
を鑑みて、
しかし、この学校コンサートの取
のあり方について考察し、日本の
る。 ま た コ ン サ ー ト 鑑 賞 後 に は、
今 由佳里
学校コンサートはスイスを代表す
組みについて、現在日本では変化
鑑賞教育へ示唆をもたらすことを
3 事前学習のための教材と授業
概要
る。
の兆しが見え始めている。
それは、
デ・ファリャ( Manuel de Falla,
1 はじめに
12
スイス・ロマンド管弦楽団から鑑
50
目的にしている。
研究 ⃝036⃝ 子どもたちが作品へ入りこむ体験型音楽鑑賞教育
30
客席で静かに演奏を鑑賞するとい
R E S E A R C H
房 は 思 い 通 り に い か ず、 代 官 は
横恋慕するが、しっかりものの女
いる代官が、美しい粉ひき女房に
三角帽子を被って威張り散らして
められていく。権威の象徴である
3人の登場人物によって歌劇が進
婦とその地を管理する代官という
は、スペインに住む若い粉屋の夫
) 作 曲、 オ ペ ラ《 三 角
1876-1946
帽子》の鑑賞である。
《三角帽子》
楽に合わせて演技していた。粉屋
になるかをイメージさせながら音
うに回すか、またどのような表情
学び、重くて大きい石臼をどのよ
粉ひきが重い石臼であった歴史を
イムしたり、粉屋の役では、昔の
のメロディーに合わせてパントマ
衣服を身につけていく様子を主題
的象徴であった立派な三角帽子や
る代官になりきって、当時の権威
た。例えば、登場人物の一人であ
学校音楽科教員が持ち回りで担当
いる。作成は、ジュネーヴ州の小
グラムごとに毎年企画・作成して
は、ジュネーヴ州公教育課がプロ
いて事前学習を行う。この指導書
が独自に作成している指導書を用
コンサートを劇場で鑑賞する前
に、音楽の授業ではジュネーヴ州
である。
鑑賞教育」という印象を持ったの
録されている。
時に利用できるリズム練習など記
ロディーや特徴的なリズムの学習
ィーを抜粋した1、2分の短いメ
5 授業の概要
いる。音源には、テーマのメロデ
ダウンロード出来るようにされて
ームページの教員専用サイトから
なお、この指導書に対応した音
源も同様に作成され、公教育課ホ
散々な目に遭い退散していく、と
の妻が踊るシーンでは、教師が手
本節では、2013年1月 日、
ジュネーヴ州のシャルミーユ小学
ちが作品の登場人物になりきって
するのみにとどまらず、子どもた
ある。授業の内容は、楽曲を鑑賞
す手助けを教師は担っているので
する様々なクエスチョンを引き出
ジネーションを尊重し、作品へ対
はなく、子どもたちの自由なイマ
えている。解釈を押し付けるので
ための幾つかのヒントを教師は与
ージを膨らませ、能動的な鑑賞活
て、子どもたちの中に楽曲のイメ
形で作品に働きかけることによっ
アプローチし芸術分野を総合した
た。音楽に対して様々な角度から
ンの踊りを踊っている姿も見られ
リズムにのって、情熱的なスペイ
きってスペインの民俗舞踊ホタの
りやすく伝え、踊り子の役になり
ン舞踊の特徴を子どもたちにわか
ワークシートも所収され、教師は
シート、劇場画や登場人物を描く
に児童用ワークシートや自己評価
体的に記述されている。また同時
俗的なリズムの指導方法など、具
まり、ボディパーカッションや民
者の紹介、楽器編成の解説から始
応している。内容は、作品や作曲
もたちの実態に応じて弾力的に対
授業時数は2~3時間程で、子ど
この事前学習にあてる小学校での
持ったか、なぜそのような音楽に
ある。音楽からどのような印象を
クターの動きを考えていく活動で
場人物の印象を答え、そのキャラ
る。聴き取ったメロディーから登
つかむ学習が中心に行われてい
1時間目は、登場人物3人のキ
ャラクターと音楽表現との関係を
2時間分記述する。
コンサートの事前授業の様子を全
ンタナ氏が4年生に実施した学校
校で音楽専科教員マリオン・フォ
研究 ⃝037⃝ 子どもたちが作品へ入りこむ体験型音楽鑑賞教育
4 事前学習のための指導書
いうストーリーである。
授業では、
し、 頁前後でまとめられている。
パントマイムや演劇、ダンスをテ
動へと繋げる方法がとられてい
必要に応じてコピーし、子どもた
なったか、登場人物の性格や生活
の仕草や足のステップなどスペイ
ーマのメロディーに合わせて表現
た。 言 い 換 え れ ば、「 子 ど も た ち
ちへ配布して利用している。
子 ど も た ち が 作 品 と「 語 り あ う 」
し、音楽を様々な角度から吟味し
自らが作品に入り込む体験型音楽
31
て学習が行われているものであっ
40
ムを手拍子で練習する活動も導入
現している。スペインの民俗リズ
や演劇、ダンスで音楽を身体で表
内容と身体の表現との関係を深め
ディーに合わせて表現し、音楽の
を、その登場人物のテーマのメロ
2時間目は、前時に考えた3人
の登場人物のパントマイムなど
のような学習を動機付けとして行
ャーを用いて回答させている。こ
もたちに楽器演奏の際のジェスチ
音色を聴き分ける活動では、子ど
させている。音楽を聴き、楽器の
理論的な学習に展開している。
属に関する知識や音楽形式という
った後、作品中に用いられる楽器
表2:2時間目の授業概要
されている。
の背景を考えながらパントマイム
表1:1時間目の授業概要
研究 ⃝038⃝ 子どもたちが作品へ入りこむ体験型音楽鑑賞教育
に向かわせるきっかけをつくって
が子どもたちを積極的に音楽鑑賞
されているものであり、この活動
の出会いの演出とアレンジが工夫
れはつまり、作品と子どもたちと
ではなかったかと考察される。そ
徴を体験から感じ、学ぶ鑑賞授業
ャラクターの性格と音楽表現の特
本授業は、自らがオペラの登場
人物になりきることによって、キ
く音楽を味わうことを可能にする
つくりだすことによって、より深
ズムを意図的に子どもたちの中に
染みがある音楽やメロディー、リ
アプローチは、このような耳に馴
にも覚えがあるだろう。体験型の
持てるようになった経験は私たち
耳に馴染み、その楽曲に親しみを
に流れているメロディーがあると
ビのCM等で、ある一定期間頻繁
を持つ傾向がある。しかし、テレ
子どもたちは、耳に馴染みのな
い音楽を鑑賞することに苦手意識
有効な「しかけ」となっている。
ではなく、学習者が積極的に音楽
賞教育とは、一方向の知識伝達型
が身につくようになる。体験型鑑
さがわかり、音楽を吟味できる力
り返すことで次第にその音楽の良
いて表現したり、リズム練習を繰
マのメロディーを自らの身体を用
かし、使用されている楽器やテー
い域まで達することは難しい。し
では、子どもたちが音楽理解の深
る音楽をただ漠然と聴き流すだけ
あった。鑑賞の授業では、流され
ルクローズの影響を感じるものが
表現が結びついた活動が多く、ダ
た。また、ジュネーヴ州で独自に
インタビュー調査に協力いただい
シミリアン・フェロー氏に詳細な
本研究に際し、ジュネーヴ州公
教育課音楽・リトミック科長マキ
謝辞:
感しているのである。
容や解釈の読み取りの楽しさを実
って、子どもたちは作品の表現内
と転換させている。この体験によ
想像力を掻き立てる体験型活動へ
込 む と い う 発 想 の 転 換 に よ っ て、
を、子どもたち自らが作品へ入り
音楽同様、本来受動的な鑑賞活動
研究 ⃝039⃝ 子どもたちが作品へ入りこむ体験型音楽鑑賞教育
6 作
品へ入り込む体験型音楽鑑
賞教育の効果
いた。また、鑑賞活動と相互には
作品へ関わることを促し、理解を
作成されている指導書(音源含む)
表現内容の理解を促すため、黒く
についても特別に提供いただい
深めるものであった。
ものであった。
7 おわりに
た。ここに記して、感謝の意を表
(
パリのルーブル美術館では、子
どもたちの美術鑑賞力を伸長する
たらきかける表現活動の
「しかけ」
という点も挙げられる。特徴的な
リズムを自分自身がリズム表現を
して体感し、オーケストラ演奏に
ジュネでは、事前学習で練習した
四角い暗幕を背景にして、子ども
する。
スペインの民俗的リズムを、手拍
)が教鞭を執った地であるた
1950
め、彼の音楽教育思想はプライベ
たち自らが絵画の登場人物になり
た め「 子 ど も の た め の ア ト リ エ 」
子でオーケストラと共演するとい
ー ト な 音 楽 教 育 機 関 の み な ら ず、
きり、同時に果物や衣装などの小
ジュネーヴは、リトミック教育
の創始者ジャック・ダルクローズ
う場面を設けている。このような
ジュネーヴ州の学校音楽教育にも
道具を用いて、構図や表現内容を
参加する活動である。
コンサート・
機会は、自分もオーケストラ演奏
大きな影響を与えている。この鑑
考 え る 美 術 教 育 が 行 わ れ て い る。
を開催している。ここでは絵画の
に参加しているという実感と会場
賞授業においても、音楽と身体の
Émile Jaques-Dalcroze, 1865-
全体の一体感を味あわせるための
▲筆者
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