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サンプル値制御によるディジタル信号処理

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サンプル値制御によるディジタル信号処理
システム制御情報, 解
説
サンプル値制御によるディジタル信号処理
山本 裕・永原 正章
はじめに
御と通信という つの分野が 底流のところで 間接的に ,
世紀を迎えて,システム理論,制御理論はど こへ進
しかし 強くつながっているということを改めて強く感じ
むのであろうか.まず最初に 世紀の歴史を振り返って
る.現在の情報通信の分野で最大の位置を占めているの
はいうまでもなくイン ターネットとその応用であり,そ
みたい.
世紀以来発展を続けてきた制御系の安定性の理論を
受け,また第 次世界大戦の影響もあり,サーボ 系の研
究が 進展する.また当時最先端であった遠距離電話通信
のためにフィード バックアンプ リファイアが 発明され ,こ
こに制御が新たな役割を見出すことは有意義と思われる.
ここでの中心はディジタル 処理であり,ディジタル 制御
を目的とするサンプル値制御理論がここに対し て何らか
の役割を持つと考えるのはきわめて自然であろう.
実際,近年のディジタル 機器の急速な発展により,さ
れと制御が結びついて 研を中心として電気工学の定
常応答理論と制御工学との関係が 深まっていった.今日
古典制御理論と呼ばれ るものは ,ここを契機とし て発展
したものである.この間の事情は の記念
講演論文 に詳し い.
その後,第 次大戦中に フィルタの理論が 成
まざ まな分野でアナログ 処理からディジタル 処理への移
行が 行なわれている.例えば ,音声信号処理や画像・動
画処理にはディジタル 信号処理が 盛んに用いられ ,また
情報通信の分野においても,携帯電話や に代表さ
れ るようにディジタル化が急速に進展している.
立したことは周知であろう. の理論も古典的伝達
これらのシ ステムに共通することは,連続時間信号と
関数法にモデルの基礎を置いていたが ,一方 次評価規
離散時間信号が混在し ていることである.もともと処理
範に基づく最適化という観点を打ち出し たことでそれ ま
での古典論とはかなり異なっていた.この フィル
タの非定常過程への拡張が 色々な方向で試みられたこと
すべき信号は連続時間信号であるが,ディジタル機器にこ
の信号を取り込むためには ,サンプ リングにより離散時
間信号に変換しなければならない.しかし サンプ リング
½
が ,状態空間法への一つの契機となっている.
年に発表された フィルタリングは,その
理論的な深さと明快さ,何よりもそれ までの古典論と一
によってサンプル点間の情報は完全に失われてし まう.サ
線を画し た定式化の斬新さで制御の世界に衝撃を与えた
ンプル値制御ではこの失われた情報に左右されずに制御
といって過言でない.これ 以後状態空間モデルを中心と
目標を達成し ようとするし ,また信号処理では伝送,保
し たいわゆる現代制御理論が 大きく花開いていく.その
存された情報からもとの情報を復元し ようとする.いず
後の大きなキーポ イント とし ては ,やはり ½ 制御理
れ の場合にも何らかの意味での先見情報が 必要である.
論を中心としたロバスト 制御の発展,それから展開され
制御の場合にはプ ラント モデルであり,信号処理では帯
る数値最適化手法などが大きな流れであろう.サンプル
域制限仮定がそれにあたる.ただこのような仮定は絶対
値制御系の発展もこのロバスト 制御の流れの中で理解さ
のものではあり得ない.例えば 完全帯域制限の仮定はか
れよう.
なり単純なものであり,サンプル点間応答を最適化でき
こうして 世紀の制御の歴史を振り返ってみると,制
る近年のサンプル値制御理論 の立場から見ると
不満な点も多い.
受付
京都大学大学院 情報学研究科 !" #$ %!&"!$ '"!( ! )$
) #$ *
*+,
-./.
0 デ ィジタル信号処理,マルチレ ート 信号処理,音
このサンプル値制御理論をデ ィジタル 信号処理やディ
ジタル通信へ応用する研究は !" の研究 に
始まり,現在にいた るまで様々な研究が 積み重ねられて
いる .本稿ではこの研究の一部を紹介し ,
声復元,サンプ リング 定理
##
シ ステム制御情報 第 巻 第 号 での周波数応答のコピーが 繰り返し 周期的に
また設計例を示し て,従来のデ ィジタル 信号処理での手
る -
法との相違点およびディジタル 信号処理にサンプル値制
現れ るという現象が 生じ る.これ を防ぐ ため,ディジタ
御理論を応用することの有効性について述べる.
ルフィルタで ()*"+ 周波数以上の帯域をシャープに遮
断し ,最後に
ディジ タル信号処理の諸問題
例えば など のデ ィジタル音声メディアから $ コ
ンバータによって音声を復元するような場合を考えよう.
付近で緩やかに 動作するアナログ
フィルタを挿入し て $ 変換を完了するというのがオー
バーサンプ リング 型 $ 変換である .ここではアナ
ログ フィルタが 可聴帯域をはるかに越えたところで動作
現在の のフォーマットはサンプ リング周波数 %%&'
するために ,その減衰特性は緩やかなものでよく,その
で記録されている.後で詳し く述べるが ,人間の可聴帯
ため必要帯域内での位相歪が少なくてすむという利点が
域の高域限界が ' とされていることから,%%&'
あった.またこれを可能にするためのディジタルフィル
に対応する ()*"+ 周波数 &' が ' に対して
タは ,アナログ フィルタと異なり線形位相推移特性を持
, 程度のマージンを持つように規格が決められたもの
たせるのが容易なため,位相歪に対して有利であった.
と考えられ る.
このようにもとのサンプ リング 周期を変化させること
初期の 再生装置はこれをほぼそのまま 次ホール
によって,より柔軟な処理を行うのがマルチレート フィル
ドし てアナログ 信号に変換し ていたようである.しかし
タバン クの主題であり,現在盛んに研究されている.そ
これではサンプル点上で信号が切り替わるときに 階段状
の一般的な形とし ては ,
サンプルされた信号をディジタルフィルタにより
の不連続性が生じ ,相当の不要高域が 信号にのることに
なるので ,それを除去するため $ コンバータの後段に
帯域分割し ,
分割された信号をダ ウン サンプルし てサンプル信
アナログ フィルタを挿入する必要があった.しかもこれ
をシャープ に遮断し なければならないので ,相当高次の
号の無駄を省き,
フィルタが 必要となり,結果とし てターン オーバー周波
0 それを伝送あるいは記録し ,
数付近の位相歪が 増えてし まう.これを避けるために導
% 再生側ではアップ サンプルし てもとのサンプ リン
入されたのが ,アップサンプ ラと組み合わせて使うディジ
グレートに戻し て,
さらにディジ タルフィルタに よってもとのサンプ
タルフィルタであった.これは次のような原理に基づく.
でサンプルされた信号を とし よう.このときサンプル点間に 個の を挿入
することによってサンプル周期を仮想的に 倍する.
-. それ以外
もとのサンプル周期
ル信号を復元する
の場合の構成を図 に
というような構成をとる.
示す.ただしここで
は
-. で定義され るアップ サンプ ラの双対作用素で,ダウンサ
これがアップ サンプ リングである.
( 図 参照.
)
ンプ ラ( あるいはデシ メータ )と呼ばれ る.アップ サン
プ ラとは逆に信号を間引いて ,サンプ リングレート を下
げ る働きをする.上に述べたオーバーサンプル型 $ コ
第図
これにより帯域は
アップ サンプ ラ 1 第図
倍に 拡が り,()*"+ 周波数は
マルチレ ート フィルタバンク
-
/". となる.し かし サンプ ル 点間に を挿
ンバータはこのフィルタバン クの退化した場合であるこ
入し ただけで,もとの( 失われてし まった )サンプル値
とが 分か る.またこの考え方は 120 など による音声圧
を復元し たものではないので ,帯域が 本当に拡がったわ
縮などに用いられている.
けではない.ここでの効果は離散時間領域でより速く動
作するホールド 要素
が 使えることにある.ただ
し ,アップ サンプ リングによって イメージング と呼ばれ
離散時間領域でのフィルタバン クの研究はかなり整備
されており,ある程度の信号の伝送遅れを許せば ,完全
に原信号が復元可能であることなどが 知られている .
##
山本・永原:サンプル値制御によるデ ィジタル信号処理
しかし これらは純粋に離散時間領域での話であり,実際
しかし ,実際はサンプ リング 定理には次の2つの問題点
にはホールド 要素による歪やもとの連続時間信号に対す
がある.
現実の信号にたいし て完全帯域制限の仮定 0 は成
り立たない.
復元公式 % は因果的でない.
る復元性能が問題にされねばならない.この問題に対す
る研究はディジタル 信号処理の分野ではまだ 殆んど 行わ
れていないのが 現状である.
以下では最近筆者らが 研究しているサンプルレ ート 変
例えば すでに 述べた よ うに オーデ ィオ では サン
換器に 対し てアナログ 特性を 最適化するような変換器
プ リング 周波数は %%&' で あり,()*"+ 周波数は
の設計法を紹介する.サンプルレート 変換器は ,例えば
&' となる.ここで,人間の可聴帯域は通常 '
$3 のフォーマット である %4' から フォーマッ
から ' までという仮定から ,' 以上の高周波
トである %%&' への変換など ,ディジタル信号処理の
は聴えないものとし て,帯域制限条件 0 が 満たされて
多くの場面で必要になるだけでなく,この処理の基本技
いると仮定している.しかし ,実際の楽音の周波数特性
法となっているものである .
はこの ()*"+ 周波数以上まで分布していることが多く,
サンプ ル 値制御によるディジ タル 信号
処理
また &' 以上の高周波が 人間に まったく聴えない
ということも立証されているわけではない .
また,復元公式 % の因果性に関し ては ,実際には 信
本節ではまず基本的な問題として,信号復元問題を説
号の復元に遅れを許し ,無限級数展開を有限で打ち切る
明し ,その後にサンプル値制御理論によるサンプルレ ー
ことによって近似的な復元を行っている.しかし ,この打
ト 変換器の設計法を与える.
ち切りによって 9::" 現象など の問題点が 新たに 生じ ,
¿º½
信号復元問題
を考える.ディジタル 信号処理では ,
この連続時間信号 からサンプ リングによって離散時間
信号 ½
½ へと変換し ,さまざ まなディジタル
連続時間信号
設計は複雑になる.例えば ,この 9::" 現象をおさえる
ために窓関数法が 知られているが ,窓関数にはさまざ ま
な種類があり,その窓の選択は設計者の経験にゆだねら
れ る場合が多い.
以上より現実の信号復元問題にサンプ リング 定理をそ
処理の後,連続時間信号に戻す操作を行なうことが多い.
ここで,ディジタル 信号処理におけ るもっとも基本的な
問題は,サンプルされた離散時間信号
らもとの連続時間信号
る.当然,信号
½ ½ か
が復元できるかという問題であ
に何も仮定をおかなければ ,この問題
は 56"
であり一意的な復元は 不可能である.なぜ
ならサンプル点間には無限の自由度があり,ある一つの
サンプル信号列にたいし て,これを生成する関数は無限
に存在するからである.し たがって, になんらかの仮
定をおき,問題を 756"
にする必要がある.すなわ
ち,復元すべき信号に先見的な条件を付加して,その条
件のもとで問題を議論し なければならない.
のまま適用するのには問題があることがわかる.そこで,
完全帯域制限という厳し い条件をゆるめて ()*"+ 周波
数以上の周波数成分も許し ,また % の完全復元のかわ
りに 復元誤差をできるだけ小さくするという問題設定が
考えられ る.実際,この問題はサンプ ル値
½ 制御理
論で定式化され ,解法が得られている .そこでは,完
全帯域制限の条件 0 のかわりにもとの信号がローパス
によって帯域制限され たものとし ,ま
た最適化の評価規範とし て連続時間入力 から 連続時
間誤差信号 までの誤差系の 誘導ノルムを用いてい
る.これは前述のリフティングを用いてサンプル値 ½
フィルタ
この問題の良く知られた解答は,先見的な条件とし て
制御問題とし て定式化され る.この研究以降,ディジタ
信号の完全帯域制限を仮定し た次の のサンプ
ル信号処理の諸問題にサンプル値制御理論を応用する研
リング 定理 である.
が完全帯域制限,
すなわちある が 存在し て, の !* 変換
8 にたいして
8 0
【 定理
】( )
信号
½
"
½
応用の一つとし てサンプ ル値
½ 制御理論によるサン
プルレート 変換器の設計 について述べる.
¿º¾ サンプル値制御によるサンプルレート 変換
器の設計
サンプルレ ート 変換とは ,離散時間信号のサンプル周
期を
と仮定すると,次式が 成り立つ.
究がなされてきている .次節では ,その
倍 , は既約な自然数 する変換である.
最近の研究参考文献 2 ではこのような超高域が脳の活動
%
に影響があるという報告もある.
完全帯域制限の条件は
ることに相当する.
#0#
を理想ローパスフィルタとす
シ ステム制御情報 第 巻 第 号 第 3図
サンプ ルレ ート 変換器
第 図
倍する変換器は イン ターポ
サンプ ルレ ート 変換器 特に ,サンプ ル 周期を レ ータと 呼ばれ ,
倍する変換器はデシ メータと呼ば
れる .このサンプルレ ート 変換は ,上で述べた
ようなオーデ ィオ のデータ( 周波数 %%&' )から
$3 のデータ( 周波数 %4 )への変換やディジタル画
像の拡大/縮小変換,さらにディジタルデータ圧縮での
マルチレ ート フィルタバン クで使用され ,ディジタル 信
号処理における基本的な操作である.
第, 図
さてこのレ ート 変換はそれほど 簡単な 操作ではない.
サンプ ルレ ート 変換器の分割
単に信号を間引いたり,あるいはアップ サンプ ルし たり
し ただけでは,不要成分が 信号に加わりさらに必要な信
号の欠落が起こったりするのである.もっとも単純な方法
4
は ,$ コンバータを通し て一度アナログ 信号に戻し た
ものを再び 別のレ ートでサンプルする方法であるが ,ア
ナログ 信号に戻すときの歪が 加わる上に ,もう一度サン
プルするのであるからアナログに変換するのはいわば 余
第* 図
分な操作である.これを介さずに直接ディジタル 信号同
インターポレ ータ設計の誤差系
士で変換できることが望まし い.
通常のサンプ ルレ ート 変換器はアップ サンプ ラ,ダ ウ
に構成され る.
従来のサンプルレ ート 変換器の設計は のサ
ンサンプラおよびディジタルフィルタを用いて図 0のよう
4
ンプ リング 定理を基礎においた離散時間領域での設計で
あり,そのディジタルフィルタ設計は理想フィルタを何ら
かの手法で近似する手法が 用いられ る .しかし
この手法は ,もとの連続時間信号に完全帯域制限条件を
仮定した上での議論である.元信号のアナログ 特性を考
慮し た,より自然な変換を実現するためには,前節で述
べたようにサンプル値系とし て問題をとらえ直す必要が
第 図
デシ メータ設計の誤差系
よりも低くすることができる.さらに,も
し 整数 と がそれぞれ と の次数を
とに分解することができれば ,これらの整数に対応する
要素を図 のように インターポレ ータとデシ メータに 分
ある.この観点から文献 ではサンプルレート 変換器を
割し ,それぞれを縦続に接続することにより大きな比率
周期時変系で構成し ,サンプル 値
のサンプルレ ート 変換器が構成できる.
½ 制御理論を用い
てアナログ 特性を最適化するサンプルレ ート 変換器を設
インターポレ ータおよびデシ メータ設計の誤差系を図
が問題設定に
計し ている.しかし ,この手法では設計問題の次数が 少
;および 図 に示す. ここで元信号の連続時間特性
なくとも
が考慮され ,さらに信号処理の時間遅れ
となり,先ほど 述べた と $3 の変
0 では数値計算の規模が 非常に大きくな
換
り設計ができない.
そこで,設計問題を簡単な問題に分割することを考え
る.すなわち 図 0のサンプルレ ート 変換器を図 %のよう
にインターポレータ
とデシ メータ 組み込まれている.この遅れ 要素のため,問題は無限次
元問題となるが ,高速サンプル高速ホールド 近似
の手法を用いることにより,精度よく解くことができる
詳細は文献 < を参照.
に分割し ,それぞれ 別々に設計するのである.このよう
に設計を分割することによって,フィルタ
と #%#
山本・永原:サンプル値制御によるデ ィジタル信号処理
Frequency response
Frequency response
10
20
0
0
-10
-20
Gain [dB]
Gain [dB]
-20
-40
-60
-30
-40
-50
-80
-60
-100
-120
-70
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
-80
3.5
0
0.5
1
Frequency [rad/sec]
第+ 図
インターポレ ーション フィル タ
のゲ イン 特性:
サンプ ル値設計 "!,等リプルフィルタ "
¿º¿
第 2図
設計例
0
% の 変 換比を 持つレ ート 変換 器を 設 計
し よう.アンチエイリアスフィルを 4 =
4 = ととり,許容する時間
遅れを とする. は の < で採用し たもの
で, など の音声復元におけ るエネルギ ー分布を考慮
したものとなっている.直流から ' までフラット,そ
れ 以後 /
で減衰し ,さらに ' 以上では
%
/
で減衰するような分布で,それを に等
2
2.5
3
3.5
Frequecy response
デシ メーションフィルタ のゲ イン 特性:サンプ
ル値設計 "!,等リプルフィルタ "
−20
−30
−40
Gain [dB]
1.5
Frequency [rad/sec]
−50
−60
価変換したものである.
−70
サンプル値設計によって得られたフィルタは 従来のも
のとは 非常に異なる特性を示し ている.図 ;の誤差系か
ら得られた インターポレ ーションフィルタ
−80 −2
10
のゲ イ
−1
10
ン特性を図 4に,図 の誤差系から得られたデシ メーショ
ンフィルタ
のゲ イン 特性を図 に 示す&
比較のた
第 図
めディジタル 信号処理でよく用いられ る等リプルフィル
タ を同時に示した.従来の特性にくらべ,サン
数 付近の減衰は急峻ではない.
プ ル値設計によって得られたフィルタは カット オフ 周波
0
10
Frequency [rad/sec]
1
10
の 周波数応答0 サンプ ル 値
"! 等リプルフィルタ "
誤差系
2
10
½ 設計
たときの出力波形をそれぞれ図 ( サンプル値設計)と
図 ( 従来法)に示す.サンプル値設計による矩形波応
これらのフィルタを用いて 図 %のようにサンプ ルレ ー
答では矩形波がよく復元されているが ,等リプルフィル
ト 変換器を構成する.このときの連続時間入出力を考慮
タによる矩形波応答にはリンギングが見られる.この現
し た誤差系
象は ,等リプルフィルタの急峻な減衰特性により生じ た
の周波数応答を図 に 示す.比較のた
めに従来法である等リプルフィルタの誤差応答も示した.
9::" 現象と考えられ る.従来は急峻な特性のフィルタ
図 より,特に低周波域と高周波域において従来法より
が 良いとされていたが ,アナログ の入出力までを考慮し
約 の改善がサンプル値設計で得られていることが
た場合は必ずし も良いとはかぎらないことがこの設計例
わかる.つぎ にサンプルレ ート 変換器に矩形波を入力し
よりわかる.このリンギングを打ち消すには ,より高周
波の成分が 必要である.実際サンプル値設計では ,前提
イン ターポレ ーション フィルタの場合は
3 5"6,
5"6 である.
デシ メーションフィルタの場合は
としたアンチエイリアスフィルタ
##
の特性によりこの
シ ステム制御情報 第 巻 第 号 となっている.ここで述べた方法の利点は ,完全帯域制
1.5
限というような非現実的な仮定を置くことなく最適フィ
ルタが設計できることにあり,これはサンプル値
1
½ 制
御理論のように信号モデルを仮定し てそれに対して最適
化を行うような理論があって初めて可能になったことで
0.5
あるといえる.
0
アナログ モデルの確立とそれに基づいた設計はシ ステ
ム制御理論が 長年取り組んできた問題であり,これを信
−0.5
号処理のような他分野に応用するのは極めて可能性に満
ちた挑戦であろう.本稿がそのための契機の一つとなる
−1
ことを強く願っている.
−1.5
0
5
10
15
参 考 文 献
第 図
矩形波応答 サンプル値設計
1.5
1
( 7 80 9:);< !"$ ! /$!
" 8)$ . 2 2*
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石 井 山 本0 マ ル チ レ ート ?. 変 換 器 の サ ン プ ル 値
½ ½ 設計E システム制御情報学会論文誌 ,+,,2 22+
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22
, 山本 原 藤岡0 サンプル値制御理論 シ ステム/制御
/情報 3*3 ,*,*+ **
**+ 222 ++* 33 33*33 0.5
0
−0.5
−1
−1.5
0
5
第 図
10
15
矩形波応答 等リプルフィルタ
ような高周波成分までが 復元され ることが要求され ,結
果とし て図 に 示すような良好な応答が 得られている.
これは従来の信号処理の手法では得られない結果であり,
サンプル値制御理論をディジタル信号処理系の設計に応
用することの有効性を示す好例であると言える.
おわりに
サンプル値制御理論を用いることによって,アナログ
特性を最適にするディジタル 信号処理の一端について紹
介し た.ディジタル処理の重要性は今後ますます高まる
であろう.しかし 忘れられが ちであるが ,この際重要な
のは 原信号のアナログ 特性であり,これをディジタル 側
だけで最適化しては大事な情報の損失を招いたりあるい
は過度に速いサンプルレ ートを採用し なければならなく
なったりし てし まう.サンプ リング 定理に基礎を置く現
在のディジタル 信号処理は ,アナログ モデルを殆んど 仮
定し ない所から出発し ており,そのため効率の悪い処理
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山本・永原:サンプル値制御によるデ ィジタル信号処理
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22
著 者 略 歴
やま もと
ゆたか
山 本 裕 正会員
2,
年 3 月 2 日生.2+ 年 + 月フロ
リダ 大学理学部数学科博士課程修了.同
年 月京都大学工学部助手,2+ 年 , 月
同助教授,22 年 + 月 同教授.シス
テム・制御理論,ことに実現理論,むだ時
間系の制御,学習・繰返し 制御,モデ リン
グ,サンプ ル値制御系など の研究に従事.
2+, 年椹木記念賞論文賞,2+ 年計測
自動制御学会論文賞,22
年計測
自動制御学会著述賞,22* 年 >>> @ A .M:$
F"!A / .D,22 年計測自動制御学会武田賞
を受賞.>>> フェロー.
なが はら まさ あき
永 原 正 章 学生会員
2 年 月 + 日生.22+ 年 3 月 神
戸大学工学部シ ステム工学科卒業,
年 3 月 京都大学情報学研究科,複雑系科
学専攻修士課程修了,現在同博士課程在
学中.サンプル値制御理論とそのディジタ
ル信号処理への応用の研究に従事.
年計測自動制御学会学術奨励賞受賞.本
会,計測自動制御学会の会員.
##
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