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ASAKURA 経済レポート

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ASAKURA 経済レポート
第 001 号(2015年6月1日)(全7ページ)
朝倉 慶の隔週レポート Vol.001
ASAKURA 経済レポート
株購入へ舵を切った生保業界
こんしん
今回より(株)ASK1 から毎月2回皆様へお送りする経済レポート。朝倉慶が渾身の力をこめて、独自
の視点、切り口で今の経済をズバリ解説していきます。どうぞよろしくお願いいたします!
第1回の今回は、ついに長い沈黙を破って資産運用の舵を「株」に切り始めた生保業界の投資に関
する動きについて詳しくお伝えしていきます。また、今後投資家の姿勢を大きく変えることになると思わ
れる「スチュワードシップ・コード」についても解説します。しっかり押さえておきましょう。
生
保の投資姿勢がついに変わってきました。
ち続け、受益者に約束した利回りを支払うことができ
しつよう
今までは「リスク回避」ということで執拗 に
ませんでした。さらにバブル崩壊後は委縮した投資ス
株売却を推し進めてきて、この株売却をおよそ 20 年
タイルとなって、持っていた貴重な株式資産を日経平
以上にわたって続けてきましたが、ここにきてさすが
均 1 万円割れという歴史的な安値で売り続けたので
に時代の流れというか、デフレからインフレへの波を
す。
感じてやっと重い腰を上げてきたようです。
生保業界自体が規制に縛られ、国家に「無リスク」
私は一貫して日本の機関投資家の投資スタイルを
と認定されている国債に投資せざるを得なかったとい
批判してきました。膨大な運用資産を持ちながら稚拙
う事情もあったでしょう。しかしながら「国の指導」とい
な資産運用で受益者である日本国民の資産を増やし
う隠れ蓑に安住し、ただ流れに任せるままに巨大な
ていくことにまったく寄与してこなかったからです。こ
資金運用において利回りを確保することができず、受
の 20 年以上にわたって、日本の機関投資家は日本
益者を泣かせ続けたのです。
の低金利をいいことに国債運用だけに固執し「安全
【やっとたどり着いた株式投資】
第一」ということで、株などのリスク資産を売りまくって
きました。
生保業界は 1980 年代後半「ザ・生保」と言われ、膨
現在、生保各社はここにきての株高、不動産高によ
大な日本株と不動産の含み益を持ちながらその資産
って含み益が拡大し、今まで以上にリスクが取れる体
ひん
かじ
を高値で売ることもなく、ただバブル崩壊に瀕 して持
制ができたということで、これから株式投資に舵を切
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るということです。
とです。今後、日本の機関投資家は株式投資につい
日経平均 1 万円以下で徹底的に売り切った日本株
を、今度は 2 万円の上になったこの時点から「買い出
ては数年どころか、数十年単位で積極的な購入を続
ける可能性が高いということです。
動」するわけです。
動き出すのはのろいが、一度動き出すと、その方
まことに皮肉なことですが、生保業界は株を売り続
向に一気に押し進んでゆくというのが日本人全体、お
けたものの、残った株式が大きく上昇したためにその
よび日本の機関投資家の資金運用手法の特徴でも
含み益が大きくなって、ここにきてリスクを取れるよう
あるわけです。
になったので、今度は一転して株を購入することにし
【生保が「横並び」で進む方向とは?】
たというのです。
たた
そんなことなら株を 1 万円割れの安値で叩き売らず
にじっくり保有していれば、今は相当な含み益を有し
ていたはずです。経済や相場の流れを正しく読んで
さて、長く眠っていた生保業界の劇的な株式投資開
始の実情をみてみましょう。
いれば受益者に多額の配当を渡せていたはずなの
です。
まず、今までまったく株式投資を嫌ってきた生保業
界が「例外なくどの会社も株式投資に舵を切ってきた」
今では日本株に買い出動した年金基金(GPIF)など
ということを抑えておく必要があります。
べた
もそうですが、総じて日本の機関投資家は運用下手
日本の生保業界は主要 9 社、日本生命、第一生命、
かみ
です。ただ「お上 の意向に沿って投資していれば、い
明治安田生命、住友生命、大同生命、太陽生命、富
ざとなった時にお上が助けてくれる」という思いの下、
国生命、三井生命、朝日生命とありますが、――いつ
なら
リスクはまったくとらないで「右へ倣え」という姿勢を貫
ものことでもあるのですが――これら 9 社の経済や株
いてきたのです。それでも日本の生保各社は、生保
式、為替相場の見通しはほぼ一致していて似通って
業界という巨大なシステムの上に乗ることで日本全
いるのです。会社の名前は違っていますが、その経
国から資金をまんべんなく集めることに成功し、受益
済や市場に対する見方はほぼ一致していて、独自な
者の利益を犠牲にして存続してきました。
見方など存在していません。例えば 9 社の株式市場
おおむ
その生保もやっと日本株投資にまでたどり着いてき
に対する見通しは、「 概 ね穏やかに上昇していく」と
たというわけです。こうして日銀の買い付け、年金基
いうもので、9 社の 2016 年度末の日経平均の値段予
金の買い付け、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の買い付
想は 20,000 円から 22,000 円の間に集中しています。
け、そして最後は生保業界の買い付けと、日本の機
「日本経済は緩やかに回復していく、株価も緩やかに
関投資家は例外なく株式市場に参画する流れができ
上昇し続ける」という見解です。
てきたのです。
また、為替についても 9 社のほとんどが 2016 年末
歴史的に見て日本人の意識や行動様式の変化は
のドル円の予想値を 120 円から 125 円の間と想定し
短時間で進みことはありません。日本の変化はゆっく
ています。同じく金利についても、概ね長期金利が
り進みますが、その一方で日本の場合は一度変化す
0.5%前後の水準と想定しているのです。
ると簡単には流れは変わりません。投資スタイルなど
も、そうした流れの最たるものです。
ぼ一緒です。独自の見方があるということはなく、た
ここで重要なポイントは、これら日本の機関投資家
の投資スタイルが今、完全に変化しつつあるというこ
かように判で押したように、どの会社の見通しもほ
だ大勢の見方に少しの調整を加える程度ということで、
あまり突出することなく無難な予想の下、「他社と同じ
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ような資産運用を行っていこう」という保守的な姿勢
投資家として企業に積極的に建設的な対話を求めて
が見受けられます。これは日本の機関投資家の持つ、
いく「スチュワードシップ・コード(※2)」を取り入れるこ
一種の生存本能なのかもしれません。
ととなるのです。今では日本の主要な機関投資家、
こ
「株式市場が上昇し、金利は低金利のままで、為替
が円安方向」という予想となれば、株式市場に資金を
180 を超える企業や機関がこの「スチュワードシップ・
コード」を導入することを決めています。
投入して、円安という読みの下、外国の債券や株式
具体的には企業に対して ROE(株主資本利益率)
に資金を投入し、低金利ということであれば国内の債
の改善や、配当性向(配当に向けられた比率)の拡
券(いわゆる国債)投資からは撤退していこう、という
大を迫り、企業価値を高めるための対話も行っていく
ことになります。
ことになるのです。そして、改善がみられない企業に
そして生保 9 社はほとんど例外なく「株式を購入、外
ついては株主総会で議案を否決するとか、役員の再
国の株式、債券を購入、そして今までやってきた為替
任に反対するとか、今までは欧米の株主が当然のこ
ヘッジを外し、さらに国債投資は控える」という新しい
ととして行ってきた株主の権利要求を堂々と行うこと
投資パターンが出来上がってきたのです。
となるのです。
さらに株式投資に関しては今までの「物言わぬ株主」
住友生命は企業価値向上が期待できる 200 社と話
から、積極的に投資した会社に注文をつけるように変
し合いを持ち、話し合いの状況を踏まえて株主総会
身するというわけです。
の議決案への賛否を決めるといいます。太陽生命や
これは拙著『株、株、株! もう買うしかない』でも詳
大同生命では同じく株主総会でその企業の ROE に基
しく指摘したのですが、現在日本はデフレからインフ
づく独自の基準を決めて議案に対する賛否を判断す
レへの波を受けて、日銀も年金も、銀行も生損保も株
るそうです。第一生命も大株主として、株を長期保有
式投資を行うように国が誘導している関係で、株主重
する立場から、株主還元に対して意見を言う、という
視の姿勢に変化する過渡期になっています。
わけです。
これらのことは欧米の株主には当然のことですが、
【投資家に求められる変化】
やっと日本の株主全体も欧米並みの株主意識を持つ
ようになっていくでしょう。生保も時代の流れを感じて、
6 月からはコーポレートガバナンス・コード(※1)が
今後株式投資を再開するとともに、今までとは 180 度
施行され、企業は株主に対して今まで以上の説明責
変わって「株主としての立場を最大限に主張して企業
任を負い、企業価値を最大限に生かして、株主に報
側に要求を行うようにする」というわけです。
いる政策を推し進めるようになっていきます。
こうした一連の流れは、日本政府が機関投資家に
これとともに、投資する企業側、特に生保や年金な
対して「スチュワードシップ・コード」の導入を迫る行政
どの巨額な資金を運用する大手の投資家については、
指導の中で生まれてきました。そして、日本国がデフ
※1 コーポレートガバナンス(企業統治)の強化に向けて企業が尊重すべき事項を定めた「規範」のこと。2人以上の独立
取締役の確保や、持ち合い株が一定以上に達した場合の保有理由の説明義務化などを尊重すべき事項として挙げられている。
規範は義務ではなく、あくまで任意での適用。ただし、順守しない場合はその理由を開示する義務を負う。
※2 受託者責任を果たすための行動規範。2014 年 2 月、金融庁に設置された有識者検討会が「責任ある機関投資家の諸原
則(日本版スチュワードシップ・コード)
」として策定・公表した。法的拘束力はないが、取締役会に対し企業価値極大化の
責務があることを認識させる「外圧」として機関投資家の役割を明確にするものと位置付けられる。
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レからインフレへと変わるこの過渡期において、株式
かように現在の日本ではあらゆる分野で「株主重視」
投資を活性化させるための、国による投資に適した
の流れが始まり、制度化されつつあります。生保業
環境作りの一環なのです。生保業界もこうした国の
界も遅れはしましたが、ここにきてデフレからインフレ
「株主重視の政策」を理解して、自らが変わろうとして
への投資に完全に舵を切った体制に変化しつつある
きたわけです。
わけです。
(朝倉慶)
朝倉慶の「相場見とおし」
株式市場は続伸へ
日本株の上昇が止まりません。日経平均は先週末まで 11 日連続高という 27 年ぶりの記録
達成となりました。1988 年以来ということですが、このような記録が出るということ自体、今回
の日本の株式市場の大相場を予感させるものです。
故・舩井幸雄先生は物事が変化するときは「びっくり現象」が起こると話していましたが、ま
さに今の日本の株式市場は「びっくり現象」の出現によって新たな大相場の入り口に入ったと
みていいでしょう。
一般的に考えると「11 日連続高」といっても大きなこととは思えないかもしれません。しかし
相場というものは毎日上げ続けるということは極めて難しいことなのです。ある日は行き過ぎ
ることがありますし、行き過ぎた翌日には必ず反動が訪れます。そして日本の株式市場も日
本だけの要因で動くのではなく、欧米の株式市場や為替市場や商品市場などさまざまな要
因で動くわけです。それにもかかわらず、米国株が急落した日でも引けてみればしっかり前
日比プラスで終わり続けたことは脅威です。
また最近の傾向は、株式市場が最高値を取っているのに売買金額が少ないということで
す。普通であれば日経平均 2 万円を達成して今世紀の最高値を取り続けているわけですか
ら市場が人気化するのが当然なのです。
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(つづき)
ところが拙著でも書いてきましたが、世間の冷めた雰囲気は驚くほどです。日本全般、この
株高が他人事のようで利益も得ていなければ関心も薄く、「いずれまた下がる」というくらいに
しか感じていないようです。
このような「過熱感なく 11 日連騰が起こる」ということは、市場には継続的な買い手が存在
する一方で売り手が極端に少なくなっているから起こる現象と思われます。
日銀、年金基金、ゆうちょ銀行などからの株の吸い上げとともに企業の自社株買いも断続
的に入ってきます。それに直近では特に欧州からの日本株の買い付けが目立ってきました。
継続的に売っているのは日本の個人投資家だけであり、個人投資家もだんだんと売り物が
少なくなってくることでしょう。
売買代金がこれだけ少なくても確実に上げ続けるという異常事態をしっかり認識する必要
があります。持 ち株 は決 して売 るべきではないと思 います。これまで一 貫して主張 してき
たように、日 本 の株 式 市 場 に関 しては強 気 一 辺 倒 で投 資 すべきです。今 後 相 場 は多
ひけつ
少の揺れもあるでしょうが、動じることなく株を持ち続けることが勝利の秘訣 です。
為替市場ですが 5 月 22 日の FRB(連邦制度準備理事会)のイエレン議長の発言から一気
にドル高模様となり、円相場も 2007 年 6 月の 124 円 14 銭の安値を抜いて一気に 12 年ぶり
の円安に突入してきました。「株高トレンドと円安トレンドの基調は変わらない」と一貫して述
べてきましたが、予想どおりの動きです。
円相場に関しては今回それほど大きな円安に動いていくとは思いません。ただ FX などドル
投資を行っている場合、気を付けることは決して円高に賭けるような投資は行わないことで
す。円安に投資すれば、基調が円安模様ですからたとえ投資のタイミングを間違ったとしても
時間の経過とともにどこかで今回のように円安に動いてくるものです。
基本的にはドルを保有したままじっくりと待機して大きな利益を取るように心がけること
が重要 でしょう。円売りのポジションを早くから持っていれば相場に多少の揺れがあってもび
くともしません。繰り返しますが株高、円安の基調は絶対的なトレンドと思いますからしっかり
とこのトレンドに乗って大きな果実を得ることが肝要です。
(次のページにつづく)
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(つづき)
円相場も節目を抜いてきましたので、しばらく今回の円安の上限を試しに行く展開と思いま
す。日本の個人投資家、「ミセスワタナベ」は今回の円安相場に完全に乗り遅れています。
しかしミセスワタナベは対応も早く、このように円安方向にブレイクしたとなると、今度は押し
目の円売りに投資方法を転換することでしょう。今後円高に振れる局面ではミセスワタナベの
円売りが円高方向への動きを抑えると思われます。しばらくはまだ円安が続 き、どこまで円
安が進むか見極める段階と思われます。
商品相場ですが WTI の原油相場は 60 ドルを挟んだ動きになっています。シェールオイルの
リグ(油田掘削機)の稼働は一時より 60%減少して米国では原油在庫が減少し始めていま
きざ
す。一方で OPEC(石油輸出国機構)やロシアにまったく減産の兆しはありません。ゴールドマ
ン・サックスは「原油相場は再び 40 ドルに向かって下落し始めるだろう」と予想していますが、
私もしばらく 60 ドル近辺の往来があって、その後 40 ドルに向かって下落していくと思います。
世界経済の減速とドル高が進むことが原油安を引き起こしてくるでしょう。しかしまだ当分は
60 ドル近辺で大きな動きはないでしょう。
金相場ですが、常に指摘しているように相場は下降トレンドの中にあり、そのリバウンドで多
少の上下があるだけです。米国の金利引き上げについてはイエレン議長が「年内」と発言して
いますが、金相場をみる場合、この利上げが現実に日程に上ってきた段階から新たな下値模
索は始まることとなるでしょう。来年金相場は 1 トロイオンス 1,000 ドル割れとなっていくでしょ
とぼ
う。しかし現状での動きは乏しく、しばらくはまだもみ合い状態と思います。
債券市場ですがまだ 3 月末から始まった欧州の債券安(金利高)の余波が収まっていませ
はさ
ん。日本国債 10 年物も 0.4%を挟んだ動きで年初に比べれば安い(金利高)になっています。
この水準について日銀はまったく気にかけていないように思えます。
金利自体は 1 月の 0.195%から 0.4%台にまで大きく動いて振れが拡大しています。しかし
絶対水準が極めて低い 0.5%割れのところでの推移ですから、日銀としても問題があるとは思
っていないでしょう。むしろ年初のように 2 年国債から 5 年国債までマイナス金利となって国債
に金利がつかなくなる方が困っていたと思います。
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そういう意味では、若干でも金利がある現在の状態の方が年初の異様な低金利よりも望ま
しいと考えていると思います。以上のような観点から国債の相場は当面、問題ないと考えて、
しゅくしゅく
相場の動きに任せて大きな介入もせずに粛 々 と決まった額の国債を買い続ける政策は変わ
らないでしょう。
これも再三指摘してきたように、国債市場に問題が発生するのは本当にインフレ目標の達
成が見えてきたときからです。それまで国債市場は金利だけみると荒れているようですが、基
本的に問題のない水準での値動きと思っていいでしょう。
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