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ヒト顔面皮膚におけるAGEsのFT-IR分析
ヒト顔面皮膚におけるAGEsのFT-IR分析 岐阜大学 工学部 生命工学科 生命情報工学第二講座 吉田(敏)研究室 野尻 奈央 背景・目的 AGEs (Advanced Glycation End Products:最終糖化産物) carboxymethyllysine(CML) pyrraline pentosidine crossline 糖尿病の非侵襲的な診断への応用 間接的に生体内現象を知る! タ ー ン オ ー バ ー 皮膚表面での物質代謝を分析 etc… CISME※アダプターを装着したFTIR-ATR装置 (※Corneum Infrared Spectrum for Metabolic Experiment) ① ② ③ 顎部を水道水で10回洗浄する。 10分間室温で乾燥させ、顎部の表面温度を計測する。 CISMEの検知部に顎部を押し当て、赤外スペクトルを測定する。 測定時間:9:00~20:00(起床7:00、朝食7:30~7:45、昼食12:10~12:50) 期間:2011年5月~2012年1月(n=29) 顎部 ▲CISMEアダプター 赤外スペクトルの分析と評価 官能基Aの ⊿intensity 官能基Bの ⊿intensity (比) 顎部表面における1400cm-1成分の分析 (被験者:22歳女性) ▼季節性変動 0.6 0.6 0.5 0.5 0.4 0.3 0.2 0.4 0.3 0.1 0 0 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 Month y = 0.002x + 0.4045 R² = 0.0401(n=9) 0.2 0.1 5月 ▼測定日の気温との相関 0.7 Ratio(⊿1410/⊿1643) Ratio(⊿1410/⊿1643) 0.7 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 Temp. in Gifu City(Ave7:00-9:00)/℃ 測定日の気温に依存しない季節性変動がある 30.0 テープストリッピング法 テープストリッピングで 採取した角質層 a. 溶媒+ガラス管 b. a+ストリップしていないテープ c. a+9時にストリップしたテープ d. a+13時にストリップしたテープ e. a+18時にストリップしたテープ ▼FT-IR 測定 ①蒸留水(n=28) ②エタノール(n=8) ▼DART-MS エタノールで抽出した顎部角質層の2次微分スペクトル [CM-DPPE]―[DPPE] 2nd Derivative エタノール抽出物 Wave number(cm-1) ―CH2-COOH CM-DPPE* DPPE※ *参考文献:Naoki Shoji et al., Journal of Lipid Res.,51,2445-2453(2010). ※1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero -3-phosphoethanolamine エタノールで抽出した顎部角質層のFT-IR分析 0.5 y = 0.9019x R² = 0.8399 (n=9) 0.4 脂質成分に付加する カルボキシメチル基が存在 0.3 0.2 0.1 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 [CM-DPPE]-[DPPE] のピーク強度比 Ratio(各⊿intensity/⊿1467) エタノール抽出物のピーク強度比 エタノール抽出物のピーク強度比 Ratio(各⊿intensity/⊿1467) 0.6 ▼DPPE ▼CML 0.6 -1 0.6 0.4 0.4 0.4 0.2 0.2 0.2 0 0 -2 ▼CMA 0.6 0 1 -10 -5 0 0 5 各ピーク強度比 10 15 -4 -2 0 2 DART -MSの測定方法 ※ (※Direct Analysis in Real Time) DARTイオン源 ① ② ③ ④ エタノール抽出物のDART-MSスペクトル分析 205 233 m/z 205m/z=[CML]+[H+] 233m/z=[CMA]+[H+] Carboxymethylarginine (CMA) intensity intensity 762 706 m/z 706m/z=[CM-DPPE]-[-COOH]+[H+] 762m/z=[CM-DSPE]-[-COOH]+[H+] CM-1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine (CM-DSPE) エタノール抽出物のDART-MSスペクトル分析 205 233 m/z 205m/z=[CML]+[H+] 233m/z=[CMA]+[H+] intensity intensity 762 706 m/z 706m/z=[CM-DPPE]-[-COOH]+[H+] 762m/z=[CM-DSPE]-[-COOH]+[H+] -COOH Carboxymethylarginine (CMA) CM-1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine (CM-DSPE) まとめ 顎皮膚表面におけるAGEsの代謝は季節性変動を示す。 テープストリッピング法により、顎表面の角質層から カルボキシメチル化した成分の抽出が可能。 糖尿病の非侵襲的な診断への応用 補助資料 AGEsの構造 AGEsの生体内での合成経路 グルコースなど還元糖のカルボニル基がタンパク質やアミノ酸のアミノ基と反応すると、シッフ塩基を形成 する。本段階は不可逆的な反応であるが、引き続きエナミノールを経て、アマドリ転位によって安定なアマ ドリ化合物になる。 アマドリ化合物は、脱水、加水分解、炭素間の開裂により、グリオキサール、メチルグリオキサール、3-デ オキシグルコソンなど、分子内に二つのカルボニル基を有するα-ジカルボニル化合物を生成する。 その後、生体内ではα-ジカルボニル化合物、シッフ塩基やアマドリ化合物の分解、脂質過酸化反応由来 のアルデヒド、糖の自動酸化や分解などによりAGEsが生成する。 初期のAGEs測定には蛍光特性を利用した蛍光測定法(主に、Ex: 370nm、Em: 440nm) が用いられてきた。しかし蛍光波長の異なるAGEs(ペントシジン:ex335nm, em385nm)や 蛍光特性を持たないAGEs(ピラリン、CMLなど)が確認され、AGEsの総量を測定すること は蛍光測定法では困難である。また、CISMEアダプターは角質層の~1μmを測定するた め、より表面をピンポイントで測定できる。 糖尿病患者 健常者 健常者 CML/リジン ペントシジン/リジン 糖尿病患者 年齢 年齢 皮膚コラーゲン中のAGEs蓄積量が加齢と共に増加すると、糖尿病患者で の蓄積量が同年齢の健常者よりも多いということがわかるが、加齢か糖尿 病か、どちらの影響によるものなのか区別するのは困難である。 そこでFT-IRを用いて、年齢とは相関性を示さず、糖尿病患者のみに相関性 を示す波数やRatioを構築することにより、両者を区別できるようになる。 Ratio(⊿1410/⊿1643) vs Temp.in Gifu City Ratio(⊿1410/⊿1643) ▼2ヵ月前 0.7 0.7 0.6 0.6 0.6 0.5 0.5 0.5 0.4 0.4 0.4 0.3 0.3 0.3 y = 0.009x + 0.2684 R² = 0.6155 0.2 y = 0.0076x + 0.2942 R² = 0.6464 0.2 20.00 30.00 y = 0.0067x + 0.3282 R² = 0.4603 0.1 0 10.00 ▼1ヵ月前 0.2 0.1 0.1 0 0.00 0 10 20 30 40 0 0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 30.00 Temp.in Gifu City(Ave7:00-9:00)/℃ 0.7 Ratio(⊿1410/⊿1643) ▼1.5ヵ月前 0.7 0.6 ヒト顔面皮膚は露出が多いため、気温の影響 を受けやすい。また、ターンオーバーは約1ヵ 月のサイクルで行われる。測定日の1~2ヵ月 前の気温が皮膚内部の細胞に影響を及ぼし、 AGEsの合成に関連していると考えられる。 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 Month Ratio(⊿1410/⊿1643) vs Humidity in Gifu City ▼測定日当日 0.7 0.6 Ratio(⊿1410/⊿1643) Ratio(⊿1410/⊿1643) 0.6 0.5 0.4 0.3 y = 0.0044x + 0.1135 R² = 0.2324 0.2 0.5 0.4 0.3 0.2 y = 0.0022x + 0.2798 R² = 0.0322 0.1 0.1 0 50.0 60.0 70.0 80.0 0 60.00 90.0 Humidity in Gifu City(AVE7:00-9:00)/% 80.00 90.00 ▼2ヵ月前 0.7 Ratio(⊿1410/⊿1643) 0.6 0.5 0.4 y = 0.0008x + 0.3806 R² = 0.0193 0.3 70.00 Humidity in Gifu City(AVE7:00-9:00)/% ▼1.5ヵ月前 0.7 Ratio(⊿1410/⊿1643) ▼1ヵ月前 0.7 0.2 0.1 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 y = 0.0029x + 0.2228 R² = 0.1174 0.1 0 40 60 80 Humidity in Gifu City(AVE7:00-9:00)/% 100 0 50.00 60.00 70.00 80.00 90.00 100.00 Humidity in Gifu City(AVE7:00-9:00)/% 2nd Derivative DPPE(標品)と[CM-DPPE]-[DPPE]の比較 Wavenumber(cm-1) 1220cm-1付近は様々な官能基のピークが重なっ ているが、その一つにC-Nのピークがある。 上図よりややシフトしていることが確認できる。 これはDPPEのN原子にCMが付加し、振動に若干 の変化があったと考えられる。 1223cm-1⇒1217cm-1にシフトした PEの糖化反応 PEは有利のアミノ基 を有するため、糖化 の対象となる。