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平成17年度調査 - 石油エネルギー技術センター

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平成17年度調査 - 石油エネルギー技術センター
平成17年度 調査事業成果発表会
資 料 集
平成18年7月21日
財団法人 石油産業活性化センター
Japan Petroleum Energy Center (JPEC)
平成17年度調査事業成果発表会プログラム
(総合司会:児玉企画調査部長)
1.日時:平成18年7月21日(金)10:00~17:00
2.場所:虎ノ門パストラル 新館1階 鳳凰「東の間」
3.プログラム
【午前の部】
10:00~10:10
主催者挨拶:高萩 光紀 石油産業活性化センター理事長
10:10~10:20
来賓挨拶 :高田 修三 経済産業省 資源エネルギー庁
資源・燃料部 石油精製備蓄課長
事業報告
10:20~10:55
(1)
「E3実証研究事業成果と今後のバイオマス燃料への
取り組み」
10:55~11:30
(2)
「新たな統計ニーズに対応した調査事業」
①短期燃料需要予測システムの開発
②新燃料の需給統計の構築
③石油統計デ-タ提供システムの開発
調査成果報告
<セッション1.石油産業の経営基盤強化>
11:30~12:00
(1)セッション概要
(2)「石油産業の経営基盤強化のためのロードマップ策定」に関する調査
12:00~13:15
昼食
【午後の部】
<セッション2.石油産業の環境対応>
13:15~14:15
(1)セッション概要
(2)「欧州における温暖化対策案(NAP)の策定経緯」に関する調査
(3)「製油所におけるCO2回収と高濃度CO2固定化可能性」に関する調査
<セッション3.需給・海外動向>
14:15~15:35
(1)セッション概要
(2)「北東アジア地域の相互協力関係の可能性」に関する調査
(3)「北東アジア地域での石油製品規格共通化と競争力強化」に関する調査
(4)「欧米各国の民生用燃料品質規格と国内外燃焼機器メーカーの技術対応」に関する調査
15:35~15:50
休憩
<セッション4.エネルギー・セキュリティー>
15:50~16:55
(1)セッション概要
(2)「原油価格高騰下における非在来型“フィードストック”の動向」に関する調査
(3)「超重質油処理技術の展開」に関する調査
(4)まとめ
17:00
17:15~19:15
閉会
懇親パーティー
鳳凰「西の間」
以
*都合によりプログラムを変更する場合もあります。
上
目
次
1.E3実証研究事業成果と今後のバイオマス燃料への取り組み ····················1
新燃料部
主任研究員
北 村
卓
2.「新たな統計ニーズに対応した調査事業」の進捗状況について ···················7
統計解析部
上席主任研究員
宮 崎
衛
3.石油産業の経営基盤強化のためのロードマップ策定に関する調査 ···············11
企画調査部
主任研究員
㈱新日石総研
今村
雅一
村上
和見
4.「欧州における温暖化対策案(NAP)の策定経緯」に関する調査 ·················27
企画調査部
主任研究員
㈱価値総研
小野崎
加納
強
達也
5.製油所におけるCO 2 回収と高濃度CO 2 固定化可能性に関する調査 ············· 37
技術企画部
主任研究員
馬場
重夫
出光興産㈱
寺岡
勝美
㈱東芝
森山
英重
6.「北東アジア地域の相互協力関係の可能性」に関する調査 ······················47
企画調査部
主任研究員
㈱新日石総研
横尾
和久
村上
和見
7.「北東アジア地域における石油製品規格共通化に伴う競争力強化の可能性」
に関する調査 ·····························································54
企画調査部
主任研究員
横尾
和久
新日鉱テクノリサーチ㈱
曾我
正美
8.欧米各国の民生用燃料品質規格と国内外燃焼機器メーカーの技術対応調査 ·······62
新燃料部
主任研究員
㈱コスモ総研
加藤
雅行
吉成
知博
9.「原油価格高騰下における非在来型“フィードストック”の動向」に関する調査 ··72
企画調査部
主任研究員
㈱新日石総研
矢 島
高橋
章
力裕
10.超重質油処理技術の展開に関する調査 ·····································82
技術企画部
㈱新日石総研
主任研究員
馬場
長谷川
重夫
宏
1.E3実証研究事業成果と今後のバイオマス燃料への取り組み
新燃料部
主任研究員
北村
卓
E3実証研究事業成果概要
1.背景および目的
バイオマスエタノールの石油製品との混合利用については、総合資源エネルギー調査会石
油分科会石油部会燃料政策小委員会にて、平成14年11月より検討が行われてきた。その
中で、エタノール混合ガソリンについては、自動車エンジン部材および自動車排ガスへの安
全性検証試験の結果、平成15年5月に「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)」
が改正され、3容量%までのエタノールのガソリンへの混合が認められることになった。
一方、当センターにおいて実施した米国におけるエタノール混合ガソリンの製造・流通実
態に関わる調査結果およびエタノールガソリン中の水分量と相分離温度との関係を確認する
ための実験室レベルでの試験結果について、第12回燃料政策小委員会(平成 15 年 10 月 17
日)で審議がなされ、エタノール混合ガソリンの利用に当たっては、現状のガソリン製造・
流通システムをそのまま使用することができず、米国に準じた新たな設備対応の必要性が指
摘された。また、エタノール3%混合ガソリンの場合、温度20℃において0.1容量%程度
の水分混入により相分離が発生する危険性があることが指摘された。
こうした背景の下、当センターでは、経済産業省からの委託を受け、平成16年度から平
成17年度の2カ年に、バイオマスエタノール3%混合ガソリン(E3)の製造・輸送から
給油所における貯蔵・給油に至るまでの品質上ならびに安全上の課題の検証を目的とした実
証研究を実施した。
2.前提条件
(1)米国において導入されているE10の製造・流通の実態に合わせ、以下の対応を
行った。
① ラインブレンド方式による製造・直出荷(製造・出荷
場所は油槽所を想定し、ローリーにてSSまで直配送)
②SS地下タンク(10KL タンク使用)内事前循環清掃によ
るタンク底残存水分・錆等の除去
③SS地下タンク通気管への大気弁設置(空気中の水分混
入の極力の防止)
SS地下タンク通気管
に大気弁設置
④SS地下タンク底水位確認のための配管改造(検水用に
計量口の設置)
⑤SS地下タンク底の水位の毎日の確認
SS地下タンク底水位検査
-1-
(2)流通過程における水分混入による品質変化に関する課
題をより明確に検証するため、付加的に以下の対応を行
った。
①E3製造上の設備対応・水分管理対応
・ サブオクタンガソリンタンクをカバードインナー
フローティングタイプとした
・ エタノール受入れ基準設定(水分:1,000 容量 ppm
以下)、定期的水分測定管理
E3製造所の原料タンク
・ E3製造基準の設定(エタノール濃度の設定値 2.6
容量%)
・ E3出荷管理の徹底(出荷前の密度分析、荷卸し
前のエタノール分析の実施)
②SSにおける設備対応
・ 給油ホースを新品(一般ガソリン用)へ交換
・ 地下タンク周りの配管ガスケットを耐アルコール
性の高いフッ素系に交換
・
受入れE3および地下タンク内E3中の水分およ
びエタノール濃度の定期的測定管理
E3ローリー出荷
(3)平成16年3月3日に消防庁より出された「E3を取り扱う給油取扱所に関する指針」
及び今回の6ケ所のSSを管轄する消防本部からの指導に基づき、以下の対応を行った。
①地下タンクおよび配管の事前漏洩検査の実施
②油分離装置に緊急遮断弁設置
③漏洩時対応としてのE3吸着材の装備
④E3の表示(計量機、遠方注入口)
⑤消火器の追加
3.E3中の水分管理指標
本実証研究事業におけるSS地下タンクでのE3中の水分管理指標として、燃料政策小委
員会での指摘事項を踏まえ、より安全サイドの観点から最高値を800容量 ppm と設定した。
4.SS設備の点検
E3のSS設備に与える影響の確認及び漏れ等の不具合の早期発見のため、SS管理者に
よる日常点検(日次、週次、月次)、設備専門業者による年1回の定期点検を行うなどの厳格
な設備管理を実施した。
-2-
5.試験場所
製造・出荷場所 : 京浜地区
給油サイト
:
1カ所(横浜市)
E3製造・出荷サイト/給油サイト
SSは気象条件の異なる
全国6カ所を選定
(秋田市、市原市、高岡市、尾
秋田市SS
鷲市、河内長野市、北九州市
高岡市SS
各SS)
河内長野市SS
市原市SS
E3製造出荷場所(横浜市)
北九州市SS
尾鷲市SS
E3給油所
6.検証結果
(1)エタノール濃度の設定値2.6容量%での計195回(合計420KL)のE3製造に
おいて、±0.2容量%の範囲内で安定的に製造されていたことを確認した。
(2)製造・出荷場所(E3横浜研究室)から全国6カ所のSSまで計182回のローリー輸
送において、E3中の水分上昇およびそれに伴うエタノール濃度低下等のE3品質の
変化は、エタノール濃度の分析精度0.35容量%および水分の分析精度20~40容
量 ppm の範囲内で、E3品質の変化は認められなかった。
(3)SSでの貯蔵において、地下タンク内の残存水あるいは地下タンク内への混入水によ
り、E3中の水分、エタノール濃度が影響を受ける現象が認められた。
① E3への切替直後、6カ所中2カ所のSSで、E3中の水分が500~600容量
ppm まで上昇する現象が認められた。
水分上昇の原因は、E3への切替直前に実施したタンク清掃後の残存水が最大5L
程度あったことによると推定された。この現象を解析する目的で別途実施したSS
モデル実験での清掃実験により、フィールドSSと同様の清掃を実施した後に残存
水が2L程度残ることが確認できている。
② また、1カ所のSSではE3への切替直後に、油面計の腐食およびその油面計が設
置されていた配管ピット内に雪解け水が浸水し満水の状態になるといった設備管理
上の原因で、200L程度の水が地下タンク内に混入した。その結果、E3中のエ
タノールが水相に移動し、E3中のエタノール濃度が 1.1 容量%まで低下する現象
が認められた。
E3中のエタノールが水相へ移動すると、水相の容量が増加する。したがって、2
00L程度の多量の水分混入があった場合、通常のガソリンの場合に比べて水相を
車両に給油してしまう危険性が高くなることが想定され得る。また、その場合の水
相中のエタノール濃度は30容量%程度になることが確認された。
-3-
③ 切替直後に500~600容量 ppm まで上昇したE3中の水分は、その後E3の入
れ替えが進むにつれて徐々に減少していったが、100~200容量 ppm 程度の安
定値に達するまでにE3を20~25KL程度入れ替えることが必要であった。水
分が安定するまでに、月にE3が8回転(受入6KL/回)するSSで2週間程度、月に
2回転のSSでは2ヶ月程度の時間を要すると考えられる。
④ E3の入れ替えにより、水分が低下し安定値に達した後、通常の貯蔵・給油を行っ
ていた条件下においても、2ヵ所のSSで各一回
E3中の水分が300容量 ppm
程度まで上昇する現象が認められた。水分上昇は数L程度の水分混入によるものと
推定されたが、原因は特定できなかった。
⑤ 給油に伴って地下タンクに混入する大気中の水分を計算したところ、最大でも20
容量 ppm 程度と見積もられ、タンク内の残存水(分離水)の溶解によるE3中の水分
上昇に比べ、影響は小さいと推定された。
(4)実際にE3を使用する場合の実利用条件を考慮した実証試験として、含水率の高い(水
分 10,000 容量 ppm)エタノールを原料にしてE3を製造したところ、E3製造時の振
れ幅に変化は認められなかった。このE3を2カ所のSSに供給して約5ヶ月間品質
の安定性を評価したところ、変化は認められなかった。
また、1ケ所のSSで大気弁を外し、約3ヶ月間、E3中の水分測定を行ったと
ころ、水分上昇は認められず、大気中の水分混入の影響は小さいものと推定された。
(5)エタノール濃度、水分以外の性状については、実証期間中、大きな品質の変動は
認められなかった。
(6)E3製造・出荷設備部材、ローリー部材および給油所設備部材に対するE3の影響に
関しては、1年間の実証試験において実使用上問題となる変化は認められなかった。
しかし、1年間以上の継続的使用の確認はできていないので、実使用にあたっては、
例えば給油機においては、現状の年1回の定期点検管理を月1回程度の頻度で実施す
ることが望ましいと考えられる。
7.実証試験結果の評価
今回の実証試験で得られた結果の評価を以下にまとめる。
(1)SS地下タンク底には清掃後も2~5L程度の水分が残り、E3中の水分濃度は最高
600 容量 ppm 程度まで上昇したが、本実証研究事業で設定したE3中の水分管理指標
である 800 容量 ppm を超えて使用不可となるような品質変化は1年間の実証試験を通
じて起こらなかった。
但し、E3の実使用にあたっては、給油所において、後述する水分管理対応を実施す
ることが望ましいと考えられる。
なお、600 容量 ppm まで上昇したE3中の水分は、E3の入れ換えに伴い徐々に減少
し、100~200 容量 ppm 程度で安定に達した。入れ換えに伴う水分減少は、エタノール
-4-
の持つ吸水性が作用し、残存水あるいは分離水が溶解して取り除かれていったためと
考えられる。
(2)200L程度の雪解け水の混入に関しては、SS設備管理上のトラブルであって、E
3の使用そのものが原因ではなかった。
(3)E3の製造・出荷、ローリー輸送からSS地下タンクにおける貯蔵・給油までの全工
程において、実使用上問題となるE3の品質変化および設備部材への影響変化は、1
年間の実証試験を通じて認められなかった。
8.実証試験に基づくE3実使用上の対応策
今回の実証試験結果は、ラインブレンド方式による製造、製造場所からSSへの直配送
およびSSでのE3切り替え前の事前清掃の実施といった設備対応および水分管理対応を
実施するという前提に基づいている。
したがって、今後E3の実使用にあたっては、給油所における水分管理対応として、以
下の事項を行うことが望ましいと考えられる。
(1)E3切替前
・残存水をできる限り取り除くため、SS地下タンク内の事前清掃を実施する。
(2)E3切替初期
・地下タンク底の水位を毎日確認する。
・E3中の水分が安定に達するまでは、定期的にE3中のエタノールおよび水分を
測定管理する。
(3)通常運転
・予期せぬトラブルによる水分混入リスクの対応として、定期的に地下タンク
底の水位を確認する。確認頻度は1週間に1回程度が望ましい。
なお、前述の検証結果のとおり、SSの大気弁を外したことによる大気中の水分混入の
影響は小さいものと推定されるが、今回は1ケ所のSSのみでの試験結果であることから、
E3の実使用にあたっては、大気弁設置の必要性について、さらに検討する必要があると
考えられる。
9.今後の検討課題
今回の実証は、E3のSSへの直配送を想定し実施した。E3の実使用にあたっては、以
下の課題を更に検討することが必要と考えられる。
(1)エタノールの船、貨車による輸送中の水分変化
(製油所→油槽所にエタノールを輸送し、油槽所でのラインブレンドを想定)
-5-
(2) 水分含有量の高いE3(500~800容量 ppm)の自動車燃料タンク内での相分離
の可能性、およびエンジン部材への影響
(3) バッチブレンドによる製造、タンク貯蔵方式により貯蔵した場合のE3中の水分変化
(通常のガソリン製造、タンク貯蔵を想定)
<今後のバイオマス燃料への取り組み>
1.
ETBE安全性リスク評価事業(H18~H19年度)
ETBE7%混合ガソリンを全ガソリンの2割(年間900万 t、ETBEとして63
万 t)相当量を全国規模で導入した場合に想定されるリスクをETBEの人への暴露量及
び毒性に関わる試験に基づき評価判定し、その削減施策を提示する。
2.
ETBE発癌性試験評価事業(H18~H21年度)
ETBEの発癌性に関わる試験を実施し、ETBEの発癌性に基づくリスクを評価判定
する。
3.
BDF混合軽油の実証研究事業(H18~H19年度)
BDF混合軽油の製造から輸送及び給油所における貯蔵までの実使用を想定した流通過
程での品質上及び安全上の技術的課題の検証を行う。
以上
-6-
2.「新たな統計ニーズに対応した調査事業」
の進捗状況について
「短期燃料需要予測システムの開発」
「新燃料の需給統計の構築」
「石油統計データ提供システムの開発」
統計解析部 上席主任研究員 宮崎 衛
短期燃料需要予測システムの開発
1.短期燃料需要予測システムの開発
<目的>
・主要な燃料油について短期需要予測を
可能とするシステムを開発する
・石油政策担当者が施策立案、対策検討、
政策判断等を実行する際に、必要とする
石油需給に関するベースデータを、
精度高く、提供する
-7-
短期燃料需要予測システムの開発
<計画>
平成18年度
平成19年度
平成20年度
①統計手法の調査
②需要予測式の検討と分析
③需要予測の基礎データの調査
④プロトタイプモデルの開発
⑤プロトタイプモデルによる検討
運用開始
⑥「需要予測モデル」設計・開発
新燃料の需給統計の構築
2.新燃料の需給統計の構築
<目的>
・今後、急速な普及の見込まれる新燃料の
需要動向を把握する
・具体的に統計を実施する際に必要とされる
業務設計を行う
・国内外における新燃料の統計に関する
情報を収集、提供する
-8-
新燃料の需給統計の構築
<計画>
平成17年度
平成18年度
①新燃料統計の調査
(国内、海外)
②新燃料の統計設計
・エタノール、ETBE
・BDF、GTL、DME
水素
③統計設計メンテナンス
・エタノール、ETBE
・BDF、GTL、DME
水素
石油統計データ提供システムの構築
3.石油統計データ提供システムの開発
<目的>
・石油政策担当者、石油統計利用者を
主なユーザとし、PECが取り纏め、
集計している石油関連データを主体とした
データベースを構築する
・データ提供に関し、効率的動線、データに
即した表示法、検索機能、解析機能等を
備えたWebシステムを開発する
-9-
平成19年度
石油統計データ提供システムの構築
<計画>
平成18年度
①「DBサブシステム」
・システム開発
・ハード、ソフト導入
②「アプリサブシステム」
・仕様書作成、システム開発
・ハード、ソフト導入
③「システム運用」
・体制準備
・テスト運用
④本番稼動
-10-
平成19年度 平成20年度
運用開始
3.石油産業の経営基盤強化のためのロードマップ策定に関する調査
企画調査部
主任研究員
(株)新日石総研
今村雅一
村上和見
1.調査の背景・目的
我が国では今後、人口の減少等によりエネルギー消費量がピークを迎えることが予想さ
れ、石油需要は、引き続き我が国の一次エネルギー供給の太宗を占めるものの、他のエネ
ルギーへの転換等により徐々に減少することが見込まれている。
また、将来的な世界のエネルギー需要の増加や原油及び石油製品の供給余力の低下など
構造的な要因を背景とした原油価格の高水準状態は、石油の逼迫した需給傾向が中長期的
に継続するものと見込まれることから今後の価格トレンドとなると考えられる。このよう
に我が国石油産業を取り巻く環境は大きく変化しているが、国民生活の安定及び円滑な経
済活動を支える為には、引き続き石油の安定供給の確保が必要不可欠である。
本調査はエネルギーセキュリティーの一翼を担う我が国石油産業が、今後もその責を全
うするために、産業として如何に持続的に発展していくかという視点で、需要・供給分野
中心で限定的であるが業界の重要課題に対する検討を行い、ロードマップの策定を試みた
ものである。
2.調査の方法
前年度(平成16年度)の調査として、
「石油産業の収益性に影響を与えるリスクとその対応
に関する調査」を実施し、2013年、2030年までおよび2030年以降の各期間別に石油産業が
共通して直面するリスクを40種類の事業リスク(重要課題)として纏めた。
本調査ではその中で特に重要なものを下記(1)~(3),①~⑦件として認定し、今回追加し
た(4)(5)を含め課題領域と定め、これらに対する具体的な対応策やアクションプランを可
能な限り時系列的なロードマップの形で明らかにすることを試みた。
この間、国においては総合資源エネルギー調査会石油分科会に石油政策小委員会が設け
られ、我が国の石油政策に関しての検討が進められたことから、策定過程では小委員会等
での議論も踏まえながら、石油業界を中心とした委員を交えたワーキンググループにおい
て業界のこれからの生き様や対応策について戦略的かつ真摯な討議を行った。
<検討課題>
(1)需要減少に関連する課題
①人口減少、少子化に伴う需要減少
②産業構造転換、空洞化によるエネルギー需要減少
③燃費向上による運輸部門の石油需要減少
④家庭部門におけるエネルギーシフトの進展
⑤国内精製余剰の継続・拡大とマーケットへの影響
(2)国際化・自由化推進に伴う課題
⑥関税撤廃、FTA による競合激化
(3)設備能力の見直しと老朽化に伴う課題
-11-
⑦石油産業の設備老朽化に伴うメンテナンスコストの増大
(4)石油供給セキュリティー問題
(5)石油産業の総合エネルギー産業化への取り組み
図1-5
我が国石油産業の将来の事業環境イメージ
(今回調査対象の課題を中心として)
産業転換
産業空洞化
人口減少
環境対策
原油高
省エネルギー
エネルギーシフト
他エネルギーの攻勢
精製設備余剰発生
設備余剰
FTA、関税撤廃による海外品流入
設備老朽化
石油産業の収入減・コスト増・収益低下
石油製品の需要減
海外移転
継続・拡大
維持費上昇
その他事由
エネルギーセキュリティー
3.調査の内容
ロードマップ策定に当たってのステップを次のように考えて調査を行った。
(1) 需要予測と対応策
国内石油製品の構造的な需要減少量を予測し、石油産業への影響度を財務面も含めて
測定する。その上で対策を油種別に精製・卸販売・流通の各分野に関して国際展開も
含めて検討する。また、国内のエネルギー間の競争に関しては、石油の持つ優位性を
明らかにして効果的な対応策を検討する。
(2) 効果測定
各需要減対策の効果を測定する。
-12-
(3) 精製設備能力の見直し
需要回復策効果に対し需要減少規模の大きいことから発生する余剰設備に関し、より
効率的で国際競争力のある産業への転換の為に、我が国全体の精製設備の高度化や規
模の縮小・集約も検討する。一方、設備の老朽化が進行する視点からの問題点を明ら
かにする。
(4) エネルギーセキュリティーの検討
世界的なエネルギー需要の逼迫状況を背景に課題意識が高まっているエネルギーセキ
ュリティー問題における石油産業のあり方を検討する。
(5) 総合エネルギー産業化の検討
国内石油製品需要の減少により予測される産業規模縮小に対して、我が国石油産業に
はエネルギー供給の担い手として、今後、より強靱な産業に発展していくことが望ま
れているが、その一つの方向として石油のみならず、他のエネルギー産業との連携な
ど、総合エネルギー産業化の取り組みも検討する。
(6) ロードマップの策定
時系列を考慮して産業の課題とアクションプランをロードマップ図の形に纏める。
<アクションプラン例:A 重油対策>
A重油需要減少 各対策のアクションプラン
アクション項目
ア
ジ
ア
の
市
場
開
拓
環
境
対
応
機
器
開
発
主体
業界団体・石油各社の趣旨共有化
連盟等専門団体
アジア地域の将来需要見込調査
連盟等専門団体
現地政府・企業への働きかけ
連盟等専門団体
アジア地域でのA重油・軽油販売開始
石油各社
継続的な市場維持・開拓
石油各社
製造メーカーからのヒアリング
連盟等専門団体
必要性能目標の設定
連盟等専門団体
製造メーカーとの連携
連盟等専門団体
開発コスト算出
機器メーカー
共同機器開発
業界/機器メー
カー
機器販売開始、普及促進活動
連盟等専門団体・
石油各社
2006
2007
-13-
2008
2009
2010
2011
2012
2013
-
-
2030
4.調査結果
4.1ロードマップ総括図
ロードマップ1 我が国石油産業のロードマップ
2006年
2010年
2015年
2020年
2025年
2030年
人口減少、世帯数減少、自動車保有台数減少
産業空洞化
省エネルギー
エネルギーシフト
高油価・原油需給タイト化
事
環
業
境
需要減対策を
行わない場合の需要
2010年度
2004年度比 ▲10~15%
2020年度
2004年度比 ▲18~30%
2030年度
2004年度比 ▲24~45%
2004年度需要レベル
設備集約促進に 需要に見合った効率的な設備規模・構成へ
法規制等見直し要請 (提携強化による製油所横断的な効率的設備能力、等)
設備余剰分
需要減少対策
需要減少量
-短期
(重点地域選定)
需要の維持・回復
(石油機器普及促進)
(環境燃転見直し要請、等)
需
要
減
少
に
関
す
る
対
策
2
0
0
4
年
度
石
油
製
品
需
要
対策による需要
維持・回復量
需要減少対策
中長期対策実施
- 中長期対策準備
(暖房油協会検討)
(暖房油協会による普及促進活動)
(ヒーティングオイル導入)
(環境対応・HEMS対応・BEMS対応機器普及促進)
(ヒーティングオイル検討)
(新機器開発)
他製品への振り替え対策
準備
振り替え実施 (ガソリン → 石化原料)
(灯油 → ジェット燃料、石化原料、灯油輸入削減)
製品需要白油化対策
- 準備 高度化設備活用
ボトムレス装置建設 ボトムレス装置による白油増産・黒油減産
C重油(残渣)発電設備建設 C重油(残渣)利用の発電事業
需要減少対策
- 海外展開準備 海外への輸出拡大
(環境対応型ガソリン・軽油輸出)
(アジア地域への農耕・建設機器用軽油・A重油市場開拓・輸出)
他
エ
ネ
ル
ギ
展
開
老
設
朽
備
化
(輸出・受託精製等の可能性検討)
コンビナート活性化 ・ 既存事業の拡大
(LPG・熱電供給・水素供給・石油化学等)
ー
ー
エ
ネ
総
ル
合
ギ
海外市場の可能性検討
新規エネルギー事業 総合エネルギー産業
- 検討・準備 (新エネルギー・電気・LNG・コジェネ・ESCO・水素・石油化学
等)
耐震性評価
耐震性強化工事
効率的・効果的な補修継続と設備見直し
リ セ
テ キ
ィ ュ
エネルギーセキュリティー確保
(備蓄政策、一次エネルギーに占める石油の比率検証、原油重質化対応、非在来型原油検討
地震等大規模災害対応、製油所の適正地域分布と適正処理能力、等)
-14-
4.2
需要減少予測と対応策
4・2.1
構造的需要減少
構造的需要減少は社会構造要因として、長期的には消費の根底となる人口減少の影
響拡大がある。これと並ぶ社会構造的な要因として産業構造の変化があり、人口要因
と同様に需要そのものが縮小する性質上、直接の対応が困難である。他方では、環境
対応やエネルギーセキュリティー等の国家戦略上の目標部分があり、後者は技術開発
の進捗度合いによって石油需要への影響度が大きく左右されることが考えられる。需
要予測に当たっては総合資源エネルギー調査会需給部会「2030 年のエネルギー需給
展望(答申)」を参考にした。
4.2.2
エネルギー間競争
一方の需要減少の大きな要因である競合エネルギーへのシフトは、環境問題や価格、
需要家や消費者にとっての利便性、業界の戦略・取組姿勢の優劣など複数の要因の基
に起きている。石油産業としては過去の経緯を踏まえた上で、安定供給力やインフラ
の充実など石油の強みを生かし、他エネルギーとの競争への対応に早急に取り組むこ
とが必要である。
2030年の一次エネルギー供給想定
(2000 年比で省エネ進展ケースでは石油は69%、その他は111%が想定されている)
700
原油換算 百万KL
600
500
400
300
天然ガス等
その他
(111%)
200
100
0
2000年
石油
(69%)
2010年
2030年
出典:総合資源エネルギー調査会需給部会「2030 年のエネルギー需給展望(省エネ進展)」
-15-
4.2.3
油種別需要想定方法
将来にわたって需要減少関連各課題が大きな影響を与える、ガソリン・軽油・灯油・
A 重油・C 重油について(燃料油合計の 77%)、2010 年、2020 年、2030 年における
需要予測を行った。予測は需要減少の多い高位ケースと需要減少の少ない低位ケース
の 2 通りとした。
(1) ガソリン需要予測
ガソリン需要のほぼ全てが、自動車によるものであり、消費の土台となる基本部分
(世帯当自動車保有状況・燃費・走行距離)と環境省エネ部分(ハイブリッド車・軽油車・
アイドリングストップの普及と他燃料へのシフトとして燃料電池車)により予測。なお、
バイオ燃料等についてはガソリンとの混合で販売数量(売上・収益)面での構造的な
影響はないため含まず(軽油も同じ)。
(2) 軽油需要予測
運輸部門が 85%と大部分を占めており、運輸部門を旅客部門と貨物部門に分けて中
心的に予測。消費の土台となる基本部分(旅客輸送 (人キロ) 貨物輸送 (t キロ))と環
境省エネ部分(軽油乗用車保有台数動向・燃費向上・アイドリングストップ・重量車
燃費基準達成レベルと他燃料へのシフトとして燃料電池車)により予測。
(3) 灯油需要予測
需要の 50%を占める家庭用を中心に需要想定。
省エネ・環境・利便性などからの影響で、省エネ基準に基づく省エネ住宅の普及、こ
れに伴う開放型の石油暖房機等の減少、機器・システムの革新に伴う電気・ガスへの
シフトが起こっている。これらの影響を想定し需要を予測。
(4)A.・C 重油需要予測
A・C 重油ともに、産業・民生・運輸等の各部門の最終消費エネルギー動向を把握
し、更に他エネルギーへのシフト状況を想定した。
その結果、油種毎の国内需要の 2030 年までの長期予測では、主要燃料(ガソリン・
灯油・軽油・A 重油・C 重油合計)は、需要減少の低位ケースで 24%減少し, 高位ケ
ースでは 45%の減少が見込まれ、総じて白油化傾向が拡大すると想定された。
<参考>本調査後の 2006 年4月に(財)日本エネルギー経済研究所から「我が国
の長期エネルギー需給展望」が発表され、その中で 2030 年の一次エネルギー国
内供給見通しが述べられているが、石油供給に関してはレファレンスケースで
2004 年比▲22.7%、技術進展ケースで▲32.1%とされている。
-16-
石油製品の需要減少量
油種
参考単価 2004年度数量 2004年度売上
(円/KL)
(千KL)
(十億円)
ガソリン
軽油
43,160
44,920
灯油
42,040
A重油
29,333
一般
C重油
22,064
電力用
C重油
C重油
計
22,064
22,064
重油計
61,469
38,203
27,977
29,100
17,195
9,362
26,557
55,657
計
183,306
ケース
2,653 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
1,716 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
1,176 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
854 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
379 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
207 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
586 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
1,440 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
6,985 低位ケース
(減少量少)
高位ケース
(減少量大)
数量
2010年度
売上
57,673
2,489
(▲ 3,796)
(▲ 164)
57,092
2,464
(▲ 4,377)
(▲ 189)
33,986
1,527
(▲ 4,217)
(▲ 189)
33,521
1,506
(▲ 4,682)
(▲ 210)
26,000
1,093
(▲ 1,977)
(▲ 83)
23,800
(▲ 4,177)
1,001
増減率
-6%
-7%
-11%
-12%
-7%
-15%
(▲ 176)
数量
54,895
2,369
(▲ 6,574)
(▲ 284)
49,087
2,119
(▲ 12,382)
(▲ 534)
32,361
1,454
(▲ 5,842)
(▲ 262)
29,495
1,325
(▲ 8,708)
(▲ 391)
22,400
942
(▲ 5,577)
(▲ 234)
18,200
(▲ 9,777)
26,028
763
(▲ 3,072)
(▲ 90)
23,054
676
(▲ 6,046)
(▲ 177)
15,105
333
(▲ 2,090)
(▲ 46)
13,572
299
(▲ 3,623)
(▲ 80)
6,041
133
(▲ 3,321)
(▲ 73)
4,059
90
(▲ 5,303)
(▲ 117)
21,146
467
(▲ 5,411)
(▲ 119)
17,631
389
(▲ 8,926)
(▲ 197)
47,174
1,230
(▲ 8,483)
(▲ 209)
40,685
1,065
(▲ 14,972)
(▲ 374)
164,833
6,339
(▲ 18,473)
(▲ 646)
155,098
6,036
(▲ 28,208)
(▲ 949)
-11%
-21%
-12%
-21%
-35%
-57%
-20%
-34%
-15%
-27%
-10%
-15%
2020年度
売上
増減率
765
-11%
-20%
-15%
-23%
-20%
-35%
(▲ 411)
数量
52,620
2,271
(▲ 8,849)
(▲ 382)
35,460
1,530
(▲ 26,009)
(▲ 1,123)
31,021
1,393
(▲ 7,182)
(▲ 323)
24,031
1,079
(▲ 14,172)
(▲ 637)
19,100
803
(▲ 8,877)
(▲ 373)
14,000
(▲ 13,977)
23,093
677
(▲ 6,007)
(▲ 176)
18,691
548
(▲ 10,409)
(▲ 305)
13,304
294
(▲ 3,891)
(▲ 86)
11,261
248
(▲ 5,934)
(▲ 131)
4,455
98
(▲ 4,907)
(▲ 108)
2,430
54
(▲ 6,932)
(▲ 153)
17,759
392
(▲ 8,798)
(▲ 194)
13,691
302
(▲ 12,866)
(▲ 284)
40,852
1,069
(▲ 14,805)
(▲ 370)
32,382
850
(▲ 23,275)
(▲ 589)
150,508
5,834
(▲ 32,798)
(▲ 1,151)
129,164
5,059
(▲ 54,142)
(▲ 1,926)
-21%
-36%
-23%
-35%
-52%
-74%
-33%
-48%
-27%
-42%
-18%
-30%
2030年度
売上
増減率
-14%
-42%
-19%
-37%
-32%
589
-50%
-24%
(▲ 588)
22,013
646
(▲ 7,087)
(▲ 208)
16,858
494
(▲ 12,242)
(▲ 359)
11,756
259
(▲ 5,439)
(▲ 120)
9,334
206
(▲ 7,861)
(▲ 173)
3,285
72
(▲ 6,077)
(▲ 134)
1,455
32
(▲ 7,907)
(▲ 174)
15,041
332
(▲ 11,516)
(▲ 254)
10,789
238
(▲ 15,768)
(▲ 348)
37,054
978
(▲ 18,603)
(▲ 462)
27,647
733
(▲ 28,010)
(▲ 707)
139,795
5,445
(▲ 43,511)
(▲ 1,540)
101,138
3,931
(▲ 82,168)
(▲ 3,053)
-42%
-32%
-46%
-65%
-84%
-43%
-59%
-33%
-50%
-24%
-45%
需要減少に伴う精製設備余剰能力の見通し
(千 BD)
低位ケースで130万 BD、高位ケースで210万 BD の余剰見通し
4,500
4,000
低位ケース
合計需要
3,500
高位ケース
合計需要
3,000
2,500
高位ケース
余剰能力
2,000
1,500
低位ケース
余剰能力
1,000
500
0
2004年度
2010年度
2020年度
-17-
2030年度
4.2.4
需要予測と石油産業の収益見通し
石油産業全体では 2004 年には財務的にも ROE9.1%と他産業に遜色ない、健全な状
態であった。しかし、需要減となる 2030 年では、マージンを 2004 年レベルに据え置
きの前提において、減少が低位ケースの試算で ROE2.4%となり、さらに減少が高位
ケースの試算では業界全体で▲17 百億円強の当期純損失となった。需要減少から過当
競争状況となり、前提としたマージンが縮小していくならば、この見通しは更に厳し
い状況となり、放置すれば産業の存続が危ぶまれる状況となることが危惧される。
石油需要減少に伴う
石油産業業績変化見通し
10億円
20,000
2004年度モデル
18,585
売
上
高
2030年度
需要減少低位ケース
15,000
14,794
売
上
高
2030年度
需要減少高位ケース
11,448
10,000
(
目
盛
幅
拡
大
)
4.3
700
600
500
400
300
200
100
0
-100
-200
-300
売
上
高
経常利益
経常利益
純利益
経
常
利
益
-174
需要回復策と効果測定
4.3.1
油種別対応策
(1)自動車燃料(ガソリン・軽油)
急速に需要が拡大しかつ環境問題の対応に迫られているアジアの自動車燃料市場へ
の日本の高品質な自動車燃料の輸出(北京・上海市を想定)。
(2)灯油
①家庭用は特に電気・都市ガスと同一レベルの顧客対応が喫緊の課題である。
-18-
・
密閉型機器等、配送・集金システムの開発普及、機器点検・補修体制構築が必要。
・
密閉型機器の普及に伴い、軽油留分を主体とするヒーティングオイルの導入。
・
北海道・東北地域については、関係業者の横断的組織(暖房協会)は有効。
②産業用は BEMS 対応システム開発、ヒーティングオイル導入。
③その他
・ジェット燃料輸入分の 50%を灯油からシフト
・灯油輸入低減
・ 石化原料への振替(ガソリン需要減少と合わせ)
(3) A 重油
①コジェネ・ボイラーの都市ガスや電気へのシフトが発生し、厳しい状況。
・環境対応機器・BEMS の開発普及促進。
・公正な競争を阻害する、石油から他燃料への燃料転換補助の見直し。
・ヒーティングオイル(灯油減少対策に同じ)の導入による A 重油のクリーン化。
②需要増加が見込まれるアジアの農業・建設需要市場の開拓
・日本の石油製品規格に合った市場を創設できれば、国内需要対策となり得る。この
ためには詳細な検証や関係業界等の総合的な取組みが必要。
(4)C 重油
①ボトムレス化による需要の白油化対応(将来的な軽重格差の縮小の場合の投資採算
難リスクがあり、また最終残渣の利用もあわせて決定する必要がある)
・規模のメリットを出すための事業の共同化。
・軽重格差などリスクを抱える事業に対する助成制度の要請。
②C 重油(残渣分)を利用した発電事業(採算や環境面での制約がある前提)
・規模のメリットを出すための発電事業の共同化。
・電気のみならず蒸気・ガス・水素等を供給するユーティリティーセンターの事業化。
・IGCC の導入と水素・DME・GTL 製造の技術開発動向注視。
・C 重油の余剰対策としての設備投資・操業の助成制度の要請。
4.3.2
需要対応策効果
需要減対応策は、喫緊の課題である国内の競合エネルギーからの需要の回復、石化
原料など輸入から国内生産へのシフトを中心に効果数量を想定した。C 重油について
は制約レベルが高いため数量は想定していない。
減少対策では国内需要回復や石化原料振替が大きなウェートを占めるが、これらの
各種対策実施が実現すれば、2030 年時点の減少低位ケースでは減少想定数量の 50%
を回復することが可能との見通しとなった。
-19-
2030年時点の増販効果(減少低位ケース)
対策
ガソリン
灯油
ガソリン
軽油
A 重油
千 KL/年
C 重油
(合計)
灯油
6,400
国内需要回復
2,000
1,400
製品輸出
8,400
1,300
2,700
1,500
ジェット輸入分振替
1,500
8,200
石化原料振替
8,200
1,000
輸入低減
(対策合計)
1,400
8,900
04 年度数量
61,469
△8,849
(減少低位数 量)
1,000
8,200
1,300
2,000
21,800
27,977
38,203
29,100
26,557
183,306
△8,877
△7,182
△7,082
△11,516
△43,511
2030年時点の増販効果(減少高位ケース)
対策
ガソリン
灯油
ガソリン
軽油
A 重油
千 KL/年
C 重油
(合計)
灯油
6,400
国内増販
1,400
製品輸出
9,100
1,300
2,700
1,500
ジェット輸入分振替
1,500
17,000
石化原料振替
17,000
1,000
輸入低減
(対策合計)
1,400
8,900
04 年度数量
61,469
△26,009
(減少高位数 量)
4.4
2,700
1,000
17,000
1,300
2,700
31,300
27,977
38,203
29,100
26,557
183,306
△13,977
△14,172
△12,242
△15,768
△82,168
海外展開
石油エネルギーは、特に製品面において、FTA など貿易面の影響を強く受ける可能
性が高いが、FTA は最近、我が国の取組みも加速する傾向にある。また、産油国やア
ジアでは精製設備増強の動きが強化されており、今後日本市場への製品流入もあり得
ることも念頭に置く必要がある。更に平成 18 年度以降6年間で段階的に実施される
石油製品の輸入関税引き下げによって、石油製品の国際競争は一層厳しくなることが
予想される。それらへの対応として、石油産業と各企業はより一層の競争力の向上を
追求、実行して、アジア圏をはじめとする海外との貿易の活発化に備えるべきである。
4.4.1
FTA・関税撤廃について
我が国が締結済みの FTA 相手国は、シンガポールとメキシコであり、さらに現在、
我が国政府は、韓国・マレーシア・フィリピン・ASEAN・オーストラリア等、多国
との間で、FTA を交渉、検討中である。
これまで締結された FTA では石油製品が対象品目に入っていないため、我が国石油
産業には影響は殆ど無いと考えられるが、交渉中の FTA も多く、今後は石油製品が
-20-
FTA の対象品目となり我が国石油産業に影響を及ぼす可能性もある。
また、これとは別に石油製品の輸入関税は、2006 年度から 2011 年度までの間に段
階的に引き下げられる。特に従来、ガソリンや灯油・軽油と比較して高額となってい
た C 重油については大幅な引き下げとなり、海外からの輸入の増加が予測される。
4.4.2
対策
海外の石油製品との競合に関しては、我が国石油産業は従来以上にコスト削減を図
り、競争力強化に尽力して国際競争に備える必要がある。
他方、PEC が今年度行った北東アジアの石油需給関連調査では、中長期的(2010
~2030 年)には、現在、石油製品を輸出している韓国の輸出余力は少なくなると見ら
れている。また需要の伸びている中国においては大幅な設備増強を行わなければなら
ないという結果も出ている。従って、FTA・関税撤廃は輸入増加の脅威でもあるが、
一方では、今後、我が国石油産業にとって、輸出・受託精製において中長期的にメリ
ットをもたらす可能性もある。2006 年5月の石油政策小委員会報告においても、輸出
による供給余力の有効活用の検討の必要性が指摘されている。
4.5
精製設備能力の見直し
4.5.1
余剰設備問題と設備の高度化
需要減少に伴い、精製設備を中心とした供給インフラが縮小方向に向かうことは、
経済合理性から自然の流れであり競争力のないインフラは淘汰されて然るべきである。
中長期的視野にたった規模縮小、設備集約は必要であろう。
並行して、エネルギーを取り巻く環境が数量・価格・品質の各面で大きく変化し、
産業として質的転換を迫られている中、精製の重質化対応、高度化による付加価値の
増大を図っていく必要がある。質的転換の観点からは、また、コンビナートにおける
企業横断的な一体運営なども選択肢として有効であり、それらによって推進される製
油所精製設備等の高度化実現のためには公の環境アセスメント等の諸制度の制約を整
備し、当該地域に貢献するコンビナートとして活性化させていくことが重要である。
4.5.2
精製設備余剰能力の見通し、各種対策と追加対策必要量
下表は、需要減少低位ケースおよび高位ケースにおける精製設備能力余剰見通し、
ならびに増販、輸出、石化への振替え等の、油種別個別対策量、および対策実施後に
も更に余剰となる精製能力(トッパーレベル)を示したものである。現状規模の操業
を維持するための有望な追加対策として、受託精製、石化への振替え、追加輸出が考
えられるが、設備集約・廃棄と併せて検討していく必要がある。
-21-
精製設備能力余剰見通しと対策
単位:千 BD
低位ケース
2010 年度
2020 年度
高位ケース
2030 年度
2010 年度
2020 年度
2030 年度
余剰能力-1
819
1,115
1,328
1,022
1,544
2,106
油種別個別対策合計
124
280
358
167
319
539
要対策余剰能力-2
676
793
916
830
1,177
1,486
中国を主体とする受託精製、石化への追加振替、追加輸出、設備集約・廃棄
4.5.3
現状維持のための追加対策の可能性について
(1)中国を中心とした受託精製
中国では国内需要の急増に対し、製油所新増設で対応しているが、今後の供給対策
については海外製油所への委託の意向を示している。同国では、既発表の増強計画に
加えて 2020 年までに更に 250 万 BD、2030 年までには 600 万 BD 以上の追加増強が
必要と推定されることから、今後我が国政府、石油産業が協力して中国に働きかける
ことにより、中長期的にはかなりの規模の受託精製が可能と思われる。
(2)石化原料への追加振り替えの可能性
個別対策として、ガソリンから石化用ナフサへの 1,700 万 KL の振替えを織り込ん
でいるが、現在我が国は、年間 2,500 万 KL~3,000 万 KL の石化用ナフサを輸入して
いるため、今後、最大 1,000 万 KL 程度(約 17 万 BD)までの追加振り替えの可能性が
残っている。
(3)追加製品輸出の可能性
我が国の精製コストは周辺諸国に比べ依然として割高ではあるが、石油産業各社の
合理化努力によってその格差は縮小してきている。また、昨今の原油価格高騰下、ア
ジア地域においては比較的に分解設備比率が高い我が国石油産業は、原油の軽重価格
格差拡大による製品マージン増加で収益上の競争力は上がってきている。
我が国石油産業においては、2010 年以降に向けて輸出のためのインフラ整備を行い、
今後、国際市場において需要増加が予測される環境対応型高品質品を中心に製品輸出
を行うことによって、稼働率向上と収益増が期待できるものと考える。
4.6
エネルギーセキュリティーと石油産業
4.6.1
エネルギーセキュリティーを考慮した設備集約・廃棄の検討の必要性
エネルギーセキュリティーは、国の安全保障にかかわる問題であり、エネルギー資
源確保、備蓄、製造能力、供給インフラなどサプライチェーンすべてが関係し、一つ
-22-
の齟齬もあってはならない。国においては、エネルギー調達確保はセキュリティーの
根幹であり、競合関係にある石油と天然ガスの双方の動向を注視つつ、そのバランス
確保に努めなければならない。
石油はこれまで備蓄努力等により安定供給に万全を期しており、他の主要エネルギ
ーである電力や都市ガスの供給セキュリティーに対するバックアップシステムとして、
石油がコスト負担をしながら国を支える構造をとってきたとも言える。この点で、石
油の利便性や安定供給力、高い緊急対応能力等に関し、広く国民の間に理解と協力を
得ることが重要であり、将来的にも必須のエネルギーである石油の位置付け向上の点
での国民的合意が必要である。
日本の石油需要が構造的に減少するという今まで経験の無い時代に向かう中、2006
年 5 月に発表された「新・国家エネルギー戦略」では自由化の進展に伴う競争激化か
ら、国内のエネルギー企業において中長期的な投資が減退し、その結果、供給設備余
力や危機対応余力が低下する懸念が指摘されている。石油の全エネルギーにおける構
成比をどの水準で維持するのか、その水準維持のための民間の石油企業の役割と、国
の果たすべき役割を明確にした国家方針の確立が是非とも必要である。
4.6.2
集約化を進める中での二次装置強化への対応
設備の集約化を進める中で、石油産業には今後の需要の白油化に対応した二次装置
の強化が求められ、また、競争力強化のためにはスリムで効率的な、付加価値の高い
生産体制が必要となる。
更に、既存の二次装置などの効率的活用の方策として、先に述べたように隣接製油
所間の企業横断的な精製機能の一体化による高度化や石油化学との連携も重要であり、
実現に向けては地域の環境規制緩和など諸制度の整備も求められる。
先の石油政策小委員会報告では、エネルギー・セキュリティーの観点からも、重質
原油処理能力の強化や、白油得率の向上の為に、精製設備の高度化に取り組むことを
石油精製業に求めるとともに、国においてもコンビナート内の高度統合と相互連携の
推進、技術開発の重点化などを通じた支援の強化が必要としている。
4.6.3
設備老朽化問題
石油産業の設備は既に相当年数を経過しているものが多く、精製能力の余剰問題を
抱える一方で、将来的に製油所全体の老朽化への対応も重要課題である。今後の需要
減少対応として高度化された存続設備ですら 2030 年までには設備更新の必要性が高
まる可能性が高い。また、将来の新規導入必要設備の発生可能性等を考え合わせれば、
石油産業各社における対応と並んで、制度面や法規制からの対応も検討が必要である。
例として、現在顕在化している設備投資必要案件に 2018 年までのタンク耐震性強化
改修がある。大規模地震に備えるためには止むを得ないことではあるが、この件に関
しては大きなコスト負担となることが想定されるため、将来的に石油産業にとってど
れほどの投資額となるかの把握が必要である。社会的、法的要請に起因するものであ
ることから、エネルギーセキュリティー上、国として石油産業の必要投資額を測定し、
それが各石油企業の経営に与える影響度を評価して、有効な支援を検討することも必
要と考える。
-23-
4.7
総合エネルギー産業化の可能性
我が国石油産業は今後、国内石油の需要減少を受け、その中でも需要獲得への対策
を打ち、並行して設備高度化及び集約化を検討することが必要となるが、より効率的
で競争力のある産業として、我が国のエネルギーの担い手としての位置付けをより確
固としたものにしていくことが重要である。
「総合エネルギー産業化」は基本的に企業毎の意思決定によるものであるが、大きな
流れとして国内の石油需要の減少が確実であることから、石油政策小委員会報告にお
いても石油産業が総合的な観点で様々な可能性や選択肢を検討していくことは、エネ
ルギーセキュリティー上も有効であるとして検討を求めている。
我が国石油産業が総合エネルギー産業化を目指すべき理由として、以下のことが考
えられる。
・顧客のエネルギー選択の多様化への対応。
・売上・顧客等業界規模の維持により業界の健全な発展を継続。
・石油産業の既存資産(インフラ、技術、販売ネットワーク等)の活用。
4.7.1
政府の新エネルギーに対する考え方
2004 年 6 月、経済産業省「新エネルギー産業ビジョンについて」(自立した持続可
能な新エネルギー産業の発展に向けて)では、新エネルギー事業について、以下の通
り述べている。
新エネルギーを産業として捉え、産業政策的な視点から、競争力のある、自立し
たものにしていくことにより新エネルギーの普及導入を図っていく
また、資源エネルギー庁「新エネルギーの導入拡大に向けて」(2004 年 5 月)では、
新エネルギーを以下の通り定義している。
新エネルギーの定義
新エネルギーとは
<供給サイド>
発電分野
太陽光・風力・廃棄物・バイオマス
熱分野
太陽熱・廃棄物・バイオマス・雪氷・温度差エネルギー、発電・熱
廃棄物燃料製造・バイオマス燃料製造
<需要サイド>
電気自動車(ハイブリッド含む)、天然ガス自動車、メタノール自動車
天然ガスコージェネレーション、燃料電池
4.7.2
総合エネルギー産業化の例
「既存石油事業分野」
(1)石油・ガス資源開発:
メジャーが利益の大半を稼ぐ。下流部門との収益補完。
中国・インドを始めとする資源獲得競争。
(2)タンカー事業: 世界の石油需要の伸びは、タンカー輸送増加に繋がる可能性。
-24-
(3)エンジニアリング事業:
設備建設・保全の技術・ノウハウの活用。
(4)技術供与・コンサルティング事業:
(5)石油化学事業:
海外の環境対応・製油所高度化への対応。
製品の多様化・販売量の増加。石油精製との統合。
「新規事業分野」
(1)GTL 事業:
現在の燃料に代わるクリーン燃料。
(2)天然ガス・(LPG 事業):
需要増の見込み。
(3)電気、コジェネレーション事業、ESCO 事業:
(4)FC 事業:
(5)石炭事業:
発電の技術・ノウハウ活用。
将来の水素社会。現在のエネルギーの代替。
エネルギーの中で、コスト優位性。世界の需要は伸びる見込み。
(6)新エネルギー、再生可能のエネルギー事業:
環境面での優位性。
一方、上記産業への参入にハードルとなる点として、①大きな資金投入(およびハ
イリスク)、②専門技術・ノウハウの必要性、③インフラ整備の必要性、④採算性の不
透明等が考えられ、今後の検討が急がれる。
総合エネルギー事業について
表中央から離れるほど、難易度が高
資源開発
資金
海外事業
タンカー
技
術
・
ノ
ウ
ハ
ウ
GTL
エンジニアリング
FC
新エネ・再生可能エネ
4.7.3
石化
輸出・受託精製
LPG
電
気
・
ガ
ス
イ
ン
フ
ラ
・
規
制
石炭
収益性
総合エネルギー産業化へ向けてのアクション候補
(1)我が国石油産業の資産を最大限に活用できる事業への注力
石 化 、 LPG、 電 気 ・ コ ジ ェ ネ 、 ESCO 事 業 が 挙 げ ら れ る 。 石 油 系 コ ジ ェ ネ や
ESCO 事業に関しては、業界を挙げた普及活動を行うことも検討しても良いと思
われる。石化に関しては、精製との統合を念頭とした事業の開始もしくは拡大が
考えられる。
(2)製油所の総合エネルギー事業拠点化
候補としては、LNG 受入、LPG 受入、GTL 設備、発電設備、石化事業等が考
えられる。また、再生可能エネルギー・新エネルギーの事業地を製油所内に建設
するという選択肢もある。油槽所敷地の有効活用も選択肢となる。
-25-
(3)業界間および異業種との提携
複数社の提携は、資金面・技術面等を補完し合うと思われる。必要資産(イン
フラ・技術等)を使用するためには、異業種との提携も選択肢となる
(4)総合エネルギー・社会貢献からの SS の有効活用
SS は将来、定置式燃料電池の普及を見据えた場合には、地域の総合的なエネル
ギー基地としての可能性を有していると思われる。これが実現できると災害等な
ど停電時の燃料供給・電力供給など社会貢献が可能である。また、SS はホームエ
ネルギー基地などとしての活用も有効と思われる。
5.まとめと今後の課題
本調査では我が国石油産業が、需要が減少していくという、かつて経験のしたことのな
い構造的課題に直面する中、産業として如何に持続的に発展していくかの視点で検討した。
時間的な制約の中、対象領域として需要・供給・収益分野が中心となったが、産業のロード
マップとしての一つの方向性は、一定程度示せたものと考える。
内容や結果は試行的であるため、今後の環境変化等を踏まえ逐次見直しを付加し、具体
的アクションプラン等の肉づけをおこなっていくべきもの、ととらえている。
ロ-ドマップ図に見られる通り、本調査の力点は、
「構造的な国内需要減少を受け、それへの
対策(油種別/精製・卸し・流通)に本腰を入れて取り組み、並行して規模縮小や設備集約を検討。
経済合理性や需要構造変化から産業としての絶対規模は縮小するであろうが、より効率的で競
争力のある、かつ総合的に魅力のある産業に転換していく中で、我が国エネルギ-供給の担い
手としての位置付け(国民各界の理解)をさらに強固なものにしていく」ことに置いた。
本調査の成果が、同時期に検討された総合資源エネルギー調査会石油分科会石油政策小委員
会報告等と、多くの点で一致を見たことは、本調査で示した方向が国の石油産業に対する期待
や将来のあり方とベクトルを一にすることを意味する。
本ロードマップにより、中長期的な石油産業共通の課題認識とその対応方向性を一定程度示
せたことは、業界全体のこれからのあり方への問題提起となり、業界が一致して諸施策を展開
していくことへの一助となると考える。
また、国の産業政策において、エネルギー・セキュリティーの担い手としての石油産業
の育成・支援を検討していく上で、一定の参考材料となることを期待したい。
併せて、ロードマップ描写に行き着くまでの調査過程において、産業としての課題や将
来像に関して業界関係者間で本音を交えた議論が展開できたことは、石油各社の将来経営
計画にとっての目標設定、諸施策検討に資するものであり、今後さらなる深い議論を各社・
業界が展開する中で当成果の活用に繋げていきたい。
以上
-26-
4.「欧州における温暖化対策案(NAP)の策定経緯」に関する調査
企画調査部
主任研究員
(株)価値総合研究所
小野崎
加納
強
達也
1.調査の背景・目的
地球温暖化の防止策として、1997 年に開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議において
所謂「京都議定書」が採択され、2004 年 11 月にロシアがこれを批准、2005 年 2 月 16 日に発効し
ている。我が国においては、2005 年 4 月に閣議決定された「京都議定書目標達成計画」により、
京都議定書の目標達成に向けた取組が強力に推進されている。
我が国の石油産業も、環境自主行動計画に則った温暖化対策を進めており、同計画における、
「2010 年度の製油所エネルギー消費原単位を、1990 年度比 10%削減する」という目標は既に前
倒し達成しており、製油所からの CO2 排出原単位も 10%程度の削減を達成している。しかし、温
室効果ガス(GHG)は、我が国全体で 1990 年度比 8%排出増加(2003 年度環境省実績値)しており、
我が国石油産業においても石油需要の増加と製品の軽質化、製品の環境対応などによって、排出
総量ベースでは 1990 年度比 30%程度増加している。
一方、EU(欧州連合)では、2005 年 1 月より「排出量取引制度(EU-ETS:EU-Emission Trading
Scheme)」が開始した。これに合わせて、国別の排出総量にあたる「国家割当計画(NAP:National
Allocation Plan)」が各国で策定された。京都議定書において削減数値目標を有する国の総排出
量の 50%を占める巨大な市場である EU-ETS は、世界初の大規模なキャップ・アンド・トレード方
式1による排出量取引制度である。
「京都議定書目標達成計画」では、目標達成に必要な費用を極力軽減し環境保全と経済発展を
同時に達成するために、複数の政策オプションを組み合わせ活用する「ポリシーミックス」の考
え方を示している。オプションの一つとして、「国内排出量取引制度」も挙げられており、「他の
手法との比較やその効果、産業活動や国民経済に与える影響等の幅広い論点について、総合的に
検討していくべき課題である」と位置づけている。
石油業界には、エネルギーの安定供給責任があるため、排出総量をベースとした温暖化対策議
論は馴染まないと考えられているが、エネルギー安定供給と地球温暖化対策をいかに両立させて
ゆくかが、石油会社にとって今後ますます重要な課題となってきている。
以上の観点から、EU における NAP の策定合意に至るまでの経緯や制度開始後の状況等は、今後
の我が国の温暖化対策を検討する上でも、重要な示唆を与えるところが多いと考えられる。この
ため、特に EU-ETS 及び NAP の各利害関係者の対応や見解を整理することとした。
2.調査の内容
本調査では、既存文献や Web 情報に留まらず、欧州政府/石油産業関係者等へのヒアリングなど
1
排出量取引は大きく「キャップ・アンド・トレード」と「ベースライン・アンド・クレジット」という 2 つの型
に分類される。キャップ・アンド・トレードは、GHG の総排出枠を設定し、これを何らかの方法で各主体に排出枠
を割当て(allocation)、排出枠の移転/取引を認める制度である。ベースライン・アンド・クレジットは、BaU
(Business as Usual)の排出量などをもとにベースラインの排出量を設定し、ベースラインから下がった枠をク
レジットとして認証し取引する制度である。JI(共同実施)や CDM(クリーン開発メカニズム)は、ベースライ
ン・アンド・クレジット方式を採用している。
-27-
を実施することで、出来る限り実態の状況を把握することに努めた。
2.1
各国のエネルギー需給・GHG 排出の状況調査
温暖化問題と表裏一体の関係にある、一次エネルギーと電力源別構成比を整理した(図 2.1-1、
図 2.1-2)。ドイツでは国産エネルギーである石炭の割合が高く、電源種別では 50%を占めるエネ
ルギー源となっている。英国でも、90 年代に北海からの安価な天然ガス供給を背景に、石炭から
天然ガスへの転換が進んだものの、依然として石炭が電源の 30%を占めている。フランスは、発
電源別の原子力と水力の合計比率が 90%となっており、CO2 排出量の少ない産業構造となってい
ると考えられる。
ドイツ
ドイツ
石炭
英国
英国
石油
フランス
フランス
石炭
石油
ガス
原子力
水力
再生可能エネ・その他
スウェーデン
フィンランド
デンマーク
ガス
原子力
スウェーデン
水力
フィンランド
再生可能エネ
ルギー・その他
デンマーク
オランダ
ノルウェー
ノルウェー
オランダ
イタリア
イタリア
日本
日本
0%
20%
40%
60%
80%
0%
100%
図 2.1-1 各国エネルギー供給源別構成比
20%
40%
60%
80%
100%
図 2.1-2 各国電力源別構成比
(上段;2002 年 中段;2000 年 下段;1990 年)
(出典:OECD/IEA Energy Balances of OECD Countries
2005 Edition、日本はエネルギー経済統計要覧などより)
各国の全 GHG 排出量の推移を表 2.1-1 に示した。ドイツ・英国は、1990 年から比較して大きく
減少しており、既に議定書目標(バーデンシェアリング2)をほぼ達成している。
表 2.1-1 各国温室効果ガス排出量の推移(単位:Mt-CO2)
全GHG(1990年) 全GHG(2000年) 全GHG(2002年) 90-00変化率(%) 90-02変化率(%)
京都目標
ドイツ
1,248.3
1,016.6
1,015.4
-18.6
-18.7
-21.0
英国 751.4
651.6
643.7
-13.3
-14.3
-12.5
フランス
567.5
561.1
557.7
-1.1
-1.7
0.0
72.3
67.3
69.5
-7.0
-3.9
4.0
スウェーデン フィンランド
70.5
70.2
77.3
-0.3
9.6
0.0
デンマーク
71.0
69.7
70.4
-1.8
-0.8
-21.0
オランダ 213.1
214.0
213.5
0.4
0.2
-6.0
ノルウェー
51.2
53.8
53.5
5.1
4.6
1.0
510.5
551.4
555.0
8.0
8.7
-6.5
EU15ヶ国 4,252.8
4,101.3
4,127.4
-3.6
-2.9
-8.0
日本
1,237.0
1,336.2
1,330.0
8.0
7.5
-6.0
イタリア
(出典:UNFCCC
National Inventory Submissions2005 Common Reporting Format)
次に、各国のエネルギー効率の状況を示すものとして、対 GDP 一次エネルギー供給量を図 2.1-3
に示す。また、国全体の CO2 排出原単位として、対 GDP エネルギー起源 CO2 排出量を図 2.1-4 に示
2
EU については「EU 全体」として-8%という目標を達成すれば良い(所謂「EU バブル」
)ことになっており、こ
れを達成するための域内の国別配分(=「バーデンシェアリング:負担の再配分」
)を、京都議定書の枠組みとは
別の域内の取り決めによって定めている。
-28-
す。ドイツ、英国は、先に示した燃料転換と合わせて、エネルギー効率を改善することで大幅な
CO2 排出量の削減を実現した。ドイツは、旧東独地域のエネルギー効率改善が大きく寄与したもの
と考えられる。但し、エネルギー効率が世界最高水準にあるとされる我が国と比較すると、エネ
ルギー効率、排出原単位はともに総じて高く、EU には、十分な省エネルギーの余地が依然として
残されていると考えられる。
445.6
446.2
ドイツ
183.3
183.7
ドイツ
152.6
162.0 187.4
196.8
195.8
209.0
214.0
202.3
英国
フランス
スウェーデン
英国
230.4
フィンランド
121.4
122.8
142.0
デンマーク
207.9
204.4
オランダ
ノルウェー
イタリア
EU15ヶ国
109.6
111.4
108.4
日本
0.0
50.0
100.0
165.8
154.5
185.6
158.1
160.8
161.3184.0
185.7207.5
150.0
200.0
199.4
195.9
スウェーデン
257.4
320.4
320.4
デンマーク
2002
2000
1990
オランダ
186.8
180.8
222.3
ノルウェー
EU15ヶ国
247.5
244.7
255.2
日本
0.0
350.0
407.6
439.5
432.6
403.1
408.1
435.0
395.0
398.3
イタリア
300.0
502.7
458.7
539.1
フィンランド
287.4
275.2
293.0
239.4
250.0
499.7
279.5
289.5
335.5
フランス
241.9
639.7
353.0
365.9
100.0
200.0
300.0
400.0
2002
2000
1990
533.3
493.4
500.0
600.0
700.0
kg-CO2/1000米ドル年価格
石油換算トン/100万米ドル年価格
図 2.1-3 一次エネルギー供給対 GDP
図 2.1-4 エネルギー起源 CO2 排出対 GDP
(出典:OECD/IEA Energy Balances of OECD Countries 2005 Edition、UNFCCC National Inventory
Submissions Common Reporting Format)
1990 年と 2002 年の付属書 B 国の温室効果ガス排出量から、京都目標までの過不足量をまとめ
た(図 2.1-5)。2004 年に EU に加盟した中東欧 10 カ国と、ロシアなどの経済移行国に余剰排出枠
(所謂「ホットエアー」
)が存在している。反対に、EU15 カ国と非 EU 先進国が排出超過となって
いるが、数字の上では、拡大 10 カ国の余剰排出枠を EU10 ヶ国に移転させ、ロシアなどのホット
エアーを他の先進国に移転させることで、全体としての排出量はバランスすることになる。
2,000.00
1,803.18
1,500.00
Mt-CO2
1,000.00
270.86
500.00
277.11
0.00
-500.00
過不足量
-214.84
-1,000.00
-1,500.00
-1,596.51
附属書B国合計
非EU経済移行国合計
非EU先進国合計
拡大EU10ヶ国合計
EU15ヶ国
-2,000.00
図 2.1-5 主要地域の全 GHG 排出量過不足量(2002 年)
(出典:UNFCCC National Inventory Submissions National Inventory Report)
(ロシア、中東欧諸国等の今後の経済成長のシナリオは考慮されていない。)
2.2 EU-ETS と NAP の制度概要整理
EU では、1992 年~1997 年にかけて共通炭素税の導入が検討されたが、事業者等の反対が大き
く結果的に導入が見送られた。この共通炭素税の代替案として EU-ETS の導入が議論された。対象
-29-
設備は、定格熱入力 20MW 以上の燃焼設備、鉱物油精製設備、コークス炉などのエネルギー設備や、
セメント、石灰、セラミック、ガラス、紙などの産業設備が対象となる。2005 年から 2007 年ま
でを第一期間、2008 年から 2012 年までの京都議定書約束期間と同じ期間を第二期間としており、
対象ガスなどに若干の違いがある(表 2.2-1)。
表 2.2-1
EU-ETS 実施期間の特徴
第一期間(2005-2007)
第二期間(2008-2012)
対象ガス
CO2
全 GHG
排出枠
95%を無償配布
90%を無償配布
ペナルティ
40 ユーロ/EUA、超過分は次期持越
100 ユーロ/ERU、超過分は次期持越
NAP によって設定された排出枠は、グランドファザリング方式3で、EU-ETS 専用の排出単位であ
る「EUA(European Union Allowances)」として各事業者に無償配布される。対象事業者は、初期
割当量からの過不足 EUA を、マーケットやブローカーなどを通じて調整することになる。また、
吸収源を除く CDM や JI のクレジットを排出枠として利用できることになっている(=リンキング
指令)。但し、一旦 EUA 化された CDM や JI のクレジット(CER、ERU)は、京都議定書上のクレジ
ットには戻らないため、中東欧の余剰排出枠は EU 域内にストックされ易い状況が生まれる。NAP
の割当排出量は EU 委員会が一律に決めるものではなく、参加各国の裁量で国内排出設備のキャッ
プを独自に決定し、最終的に EU 委員会の承認を受けて決定される。このことから、各国の経済政
策の思惑によって、許容排出枠量の感じ方に相違が出ることになる。また、NAP 排出枠の決定に
当たっては、幾つかのオプションが用意されており、各国の状況にあった運用がされている(表
2.2-2)。
表 2.2-2 排出枠割当のオプション
オプション
定義
主な利用国
早期実施の扱い
NAP 作成以前に排出削減を行った設備に対する排出割当量の優遇
ドイツ、オランダ等
新規リザーブ
新規参入設備に配分するためにリザーブしておく枠
全ての国で設定
バンキング
第一期間での余剰排出枠を第二期間に持ち越す措置
フランス等
適用除外
国内政策により EU-ETS と同等の削減が見込める場合のみ、該当設
オランダ、英国、ポ
(Opt-out)
備の EU-ETS 参加を除外できる、第一期間に限り認められた制度
ーランド等
追加適用
該当設備ではない設備を参加させる制度
フィンランド、スウ
(Opt-in)
2.3
各国の NAP データ調査
(1)
全体の割当状況
ェーデン等
EU-ETS 参加 26 ヶ国の NAP 策定状況を調査した。EU-ETS 割当総量は 6,562MtCO2、対象設備数
は 11,479 施設である。また、全 GHG に占める EU-ETS 割当量は約 4 割である。ドイツ、英国など
3
キャップ・アンド・トレードにおける、排出枠割当方法には、
「グランドファザリング」と「オークション」が
代表的である。前者は、過去の排出実績をもとに排出枠を交付する手法である。過去の省エネ努力が不利に働く
可能性がある。後者は、排出枠を入札方式で交付する手法で、排出枠確保にコストがかかる。
-30-
を除く殆どの国で、過去の排出量を上回る排出枠が設定されており、全体的に京都議定書までの
試行期間と位置づけられている感がある(表 2.3-1 には独英仏の割当量を示す)。大幅な削減を見
込んだ英国は、対象部門全体で 9.6%削減とする割当量を設定しているが、産業別で見ると電力
会社に全ての削減負担を求めている(表 2.3-2)。
表 2.3-1 独英仏の過去排出量実績と割当量
国別
ドイツ
英国
フランス
EU-ETS部門過去排出量 割当量年平均
MtCO2/年
MtCO2/年
501.0 (2001-2002年)
499.0
271.6 (2003年)
245.4
118.7 (2003年)
156.5
表 2.3-2 英国の部門別割当量
部門別
増減
-0.4%
-9.6%
31.8%
過去排出量(2003年) 割当量 2003年との変化率
(%)
MtCO2/年
MtCO2/年
発電所
174.37
136.9
リファイナリー
18.03
19.8
+9.8
オフショア
17.47
19.1
+9.1
鉄鋼業
19.85
23.7
+19.4
9.71
11.2
+15.7
化学工業
9.41
10.4
+10.0
パルプ・製紙業
4.53
5.1
+11.6
飲食・タバコ産業
3.95
3.9
-1.3
非鉄金属
2.80
3.1
+9.1
石灰石
2.22
2.7
+20.3
セメント業
(2)リファイナリー部門への割当量
殆どの国のリファイナリー部門では、過去の排
-21.5
出量より多くの排出枠が割当されている(表
ガラス工業
1.92
2.2
+13.9
2.3-3)。但し、実質的な排出目標達成までの難易
サービス業
その他天然ガス等
2.03
2.1
+1.6
1.92
1.9
+1.5
度は、過去排出量との比較によるものではなく、
セラミック
1.79
1.8
+3.4
自動車産業
1.19
1.3
+8.6
今後の経済成長や他の増加要因を考慮した、排出
その他
0.38
0.4
+4.7
271.55
245.43
-9.6
量見通し(BaU)との比較によって計られるべきも
合計
のである。後述するが、サルファ対応や製品の軽質化等に伴う排出増加シナリオが、割当量に考
慮されていないとされるドイツにおいては、設定された割当量に対する国内のリファーナリー事
業者の不満が大きいようである。
表 2.3-3 各国のリファイナリー部門割当量
国名
ドイツ
英国
フランス
オランダ
イタリア
オーストリア
デンマーク
アイルランド
ギリシャ
フィンランド
ポルトガル
スウェーデン
スペイン
ベルギー(フランドル地方)
ポーランド
ハンガリー
リトアニア
チェコ
スロバキア
スロベニア
ノルウェー
過去排出量 過去排出量 第一期間合計 第一期間平均
MtCO2/年
基準年
MtCO2
MtCO2/年
19.40
2001
73.32
24.44
18.00
2002
59.4
19.8
18.19
97~01
58.08
19.36
-
-
41.04
13.68
23.29
2000
71.28
23.76
2.85
98~01
8.30
2.77
-
-
3.12
1.04
0.37
02~03
1.21
0.40
3.59
2003
10.30
3.43
1.81
2003
6.32
2.11
2.75
2002
8.76
2.92
-
-
8.83
2.94
15.03
00~02
47.91
15.97
5.49
2001
19.74
6.58
6.83
99~02
30.61
10.20
1.23
2003
4.26
1.42
-
-
6.63
2.21
4.61
2000
17.91
5.97
-
-
6.87
2.29
-
-
0.10
0.03
-
-
5.73
1.91
合計
489.73
163.24
(3)主要各国の NAP 策定方法
①ドイツの策定方法
ドイツにおいては、始めに、京都議定書の目標達成を基準として全体の排出枠を決定し、過去
の排出量実績に基づいて各設備へ配分していくトップダウンアプローチによる方法で排出枠を決
めている(図 2.3-1)。京都目標の達成を前提に過去の排出量から割当量を決めているため、今後
-31-
の経済成長などを考慮した排出予測は考慮されていない。そのようなことから産業界からの不満
が大きく、多くの訴訟がおきている。早期実施設備に対しては、遵守係数を“1”とする特例もあ
り、天然ガスへの転換が進んだ発電事業者などに適用されている。
一律の調整係数(遵守係数)=0.976
EU-ETS対象排出枠
=
EU-ETS過去排出量
全体の排出目標値
×
全体の過去排出量
図 2.3-1 ドイツのトップダウンアプローチによる排出枠算定方法
②英国の策定方法
石油精製、電力などのエネルギー業界に対しては、英国経済省(DTI)が予測した、エネルギー
予測モデル(UEP:Updated Energy Projection)の 2005 年から 2007 年の予測排出量で割当量が
決定される(=トップダウンアプローチ)。これを設備別の過去排出量の割合で配分する(図
2.3-2)。他業界は設備別の過去排出量に生産量の伸び率などを乗じて排出枠を算出し、これを積
み上げて部門別の総排出枠が決まる(=ボトムアップアプローチ)。
UEPモデル(2005年-2007年)
エネルギー部門の割当量
過去平均排出量の割合で配分
各設備
各設備
各設備
図 2.3-2 英国のトップダウンアプローチによる排出枠算定方法(エネルギー部門のみ)
UEP には低サルファ対応や経済成長による増加シナリオが考慮されており、リファイナリーの
排出枠は過去を上回る量となっている。電力は UEP モデルにおいて、天然ガスなどへの転換が予
測されており、これによる厳しいアロケーションとなっている(表 2.3-4)。
表 2.3-4 英国 UEP による発電源構成の見通し(単位:TWh)
2000
Coal
2005(target)
2010(target)
111.9
116
90
Oil
2.1
2
2
Gas
127.0
135
145
Nuclear
78.3
80
65
Renewables
10.1
15
40
Imports
14.3
10
8
2.6
2
2
346.3
361
352
Pumped storage
TOTAL
③オランダの策定方法
オランダに特徴的なのが、ボトムアップアプローチの基本式がベンチマーク協定4を考慮して、
4
オランダのベンチマーク協定は、2012 年までに世界最高のエネルギー効率(世界トップレベル水準の 10%以内)
を達成することを目的として 1999 年に導入された。対象者は、年間 0.5PJ 以上のエネルギーを使用する業種を対
象としており、セメント、化学、発電、ガラス、鉄鋼、非鉄金属、石油精製、製紙、製糖、醸造業などがこれに
あたる。世界のトップレベルのエネルギー効率達成を約束することで、政府側から追加的な規制や税などは課さ
れないことが約束されている。
-32-
この原単位に基づいていることである(=ベンチマークアプローチ)。図 2.3-3 にオランダの算定
方法の概略を示す。協定参加者は約束した水準を達成すると、上限 10%の追加的割当を受ける。
リファーナリーは生産成長率が 2.5%と設定されている。
ベンチマーク比率
各施設排出枠
=
過去排出量
× 業種別過去排出量 ×
世界最高水準のエネルギー消費
自社のエネルギー消費
図 2.3-3 オランダのベンチマークアプローチによる排出枠算定方法(概略)
2.4
欧州各機関へのヒアリング調査
各国政府機関、業界団体及び石油会社を中心に EU-ETS、NAP 策定経緯等に関するヒアリング調
査を行った5。ヒアリングで指摘された、NAP 策定状況や諸課題について列挙する。
〔NAP 策定状況に関して〕
〇欧州の産業界は、環境税か ETS かの二者択一の中で、経済効率的である等の理由から ETS を選択した。
ETS は必ずしもベストな手段とは言えないが、京都議定書遵守のためには止むを得ないとの認識。
〇英国では、早い段階から十分な時間をかけて産業界と NAP に関する話し合いの場を設けてきた。逆に、
不満が大きく多くの訴訟がおきているドイツでは、トップダウンで決められたという印象が強い。
〇英国では、発電部門に削減の負担が集中した。逆にドイツでは、石炭火力の発電割合が高い発電事業
者に比較的有利なアロケーションが設定されている。背景には、各国の産業政策などの違いもあるのか。
〇Shell や BP などは、ETS に早くから賛同し、むしろ新たなビジネスチャンスの一環として捉えている。
Exxon Mobil は ETS に反対してきた。石油会社の中でも議論の過程では見解の違いはあったようである。
〇石油会社は、より多くのアロケーションを獲得するために、低サルファ対応による増加シナリオの配
慮などを、政府との話し合いの中で強く主張した。
〇全体的に試行期間との位置づけもあり、緩いアロケーションであった(英国電力業界を除き)
。石油産
業のアロケーションも緩く、ドイツを除いて石油会社は、これに概ね満足しているようである。
〔諸課題〕
〇英国では、石油産業を取り巻く環境変化の諸要因が概ね考慮されているが、ドイツなど不満の大きい
国では考慮されていないなど、ベースラインの設定方法に各国でバラツキがある点に不満が多い。
〇モニタリングと検証の仕組みが複雑で、事業者のコストの負担が大きいものになっている。
〇厳しいアロケーションを設定された電力部門の電力価格が著しく上昇しており、産業界からは企業経
営への影響を懸念する声が大きくなっている。⇒市場での EUA 取引も電力会社によるものが殆ど。
〇新規参入についても、設備の国外移転(カーボンリーク)もありうるとの指摘もある。
〇ベースライン算定の期間が短い国ほど、早期実施者には不利になるようである。但し、ベンチマーク
方式であれば、効率の高い設備への配慮も可能であるとの指摘もあった。
5
ヒアリング訪問先は、(政府機関)欧州委員会、英 DTI、英 DEFRA、蘭 MINEZ、独 BMU、独 DEHST、仏環境省、バ
イエルン州政府、(産業界)Shell、Total、Exxon Mobil、中堅石油某社、欧州石連、(その他)ICF コンサル な
ど合計 16 機関。
-33-
3.まとめ
3.1
~今後に向けて~
各国の状況整理
以上の調査結果を踏まえて、主要 4 カ国の NAP 策定に関する特徴をまとめる。
(1)ドイツの状況整理
ドイツでは京都議定書目標達成からの逆算によるトップダウンアプローチにより NAP が決定さ
れた。このため、排出増加が見込まれる業種からは大きな不満が出ている。また、ヒアリングに
よると、政府との対話が十分でなかったとの指摘も有り、多くの訴訟も起きている。業種別に見
ると、発電燃料の天然ガスへの燃料転換が進んでいるものの、依然として、国産エネルギーであ
る石炭による発電比率が 50%と高いドイツの発電所は、天然ガスへの転換による早期実施割当を
受け、更に今後も燃転による多くの削減ポテンシャルを有していることから、有利な割当量を獲
得していると言える。石油業界に対しては、低サルファ対応、軽質化に伴う排出増加シナリオが
考慮されていないようである。このことで、ドイツの石油会社はリファイナリーへの割当量には
不満を表明している。
(2)英国の状況整理
英国の NAP 策定経緯においては、政府と産業界で十分な対話がなされたようである。割当状況
としては、全体として、2003 年の排出量から-9.6%となる割当量であったが、殆どが発電部門に
負荷がかけられている。エネルギー業界については、DTI の UEP モデルを用いてベースラインが
設定された。ヒアリングでは、発電部門は天然ガスへの転換が進むと見られている上に国際競争
にさらされずコストを価格転嫁しやすい環境にあるため、大きな負担がかけられたとされていた。
他の産業界の削減負荷は総じて低く、増加要因や経済成長等を考慮した十分な割当を得ているこ
とから、不満は少ないようである。石油業界は、英国 NAP 策定においては公平に扱われたとの認
識である。早くから英国政府に対し、低サルファ等の対応を求めており、その成果として、英国
におけるリファイナリーへの割当量は、1998~2003 年平均比と比較して 6.7%増で設定されてい
る。但し、セルフモニタリングに関しては、コスト面や方法論への不満があるようである。
(3)オランダの状況整理
オランダにおいては、国内の自主協定であるベンチマークコブナント及び長期省エネルギー協
定の目標を NAP 策定に用いて割当量を設定している。自主協定は、EU-ETS の策定以前から産業界
で実施されており、これら自主協定締結に参加する産業界との協議によって NAP を策定している。
また、ベンチマークを既に達成した設備に対する優遇措置(上限 10%)をとった。リファイナリ
ー部門では、政府の厳しい環境規制があり、低サルファに力を入れている。ベースラインシナリ
オには、低サルファ対応等を見込んで CO2 増加が 2.5%とされている。オランダの割当量に対して
は、石油会社は概ね不満はないようである。
(4)フランスの状況整理
フランスは、全体として過去の排出量を上回る割当を行った。発電源別の原子力と水力の合計
比率が 90%程度であり、既に、単位あたりの CO2 排出量の少ない産業構造となっている。全 GHG
に占める、エネルギー産業・その他産業界からの CO2 排出割合が、25%程度と他国と比較して低
-34-
い(図 3.1-1)。フランスの石油会社は、NAP 策定過程において公平に扱われているとの認識であ
る。ベースラインの設定のシナリオでは低サルファ対応だけではなく、CGS 設備の増設、軽質化
に伴うハイドロクラッキング設備の増設といった各種環境技術の現状や、その法規制等に関して
も考慮されているようである。
全GHGに占める部門別CO2排出割合
エネルギー産業
21.9%
14.4%
21.1%
17.1%
25.4%
イタリア
産業
15.9%
26.0%
23.6%
オランダ
運輸
16.7%
17.9%
民生
フランス
6.7%
29.7%
ドイツ
0%
20.4%
20.5%
24.6%
英国
18.7%
20%
31.9%
17.8%
25.4%
18.2%
40%
16.6%
その他
16.7%
17.8%
17.4%
17.5%
60%
80%
100%
エ ネルギ ー産業・ 産業は
主な EU- ET S対象部門
図 3.1-1 全 GHG に占める部門別 CO2 排出割合
注)その他は、CH4,N2O,フロン類及びエネルギー起源以外の CO2 排出を示す。)
(出典:CO2 EMISSION FROM FUEL COMBUSTION(2004 Edition)
3.2 EU-ETS/NAP の今後の予定
EU-ETS 第二期間のアロケーションが、予定では 2006 年 6 月に提出され、12 月までに確定する
こととなっている6。全体として試験運用的な意味合いもあった第一期間より、議定書達成を意識
した、ややシビア(全体で-6%程度になる見込み)なアロケーションになると見込まれている。
なお、日本と同様に増加傾向の顕著な民生部門や運輸部門へのアロケーションは、アロケーショ
ン自体が困難であり、削減効果も不明であることなどにより、排出枠の設定は見送られる見込み
のようである。
3.3
欧州と日本の相違点の認識
~欧州の制度を参考にする上で~
これまで調査した EU-ETS/NAP から我が国の温暖化対策の方向性を考える上では、幾つかの事情
の違いを前提として理解しておく必要がある。欧州は、「EU バブル」方式をとっており、各国の
経済状況などを柔軟に考慮した負担配分が可能である。燃料転換による削減余地の高い国が多く、
且つ、中東欧における削減プロジェクトによる排出枠取得が比較的容易である。エネルギー効率
が世界トップレベルにあり、追加的な削減が難しい状況にある我が国とは状況が異なる。また、
精製中心の日本の石油会社とは違い、欧州の石油会社はアップストリームを多く所有しているた
め、オフショアでの削減などによって、リスクを分散することが出来る。更には、経営が多国間
にまたがっており、国毎の状況の違いを調整し易いことなどが、欧州と日本の相違点として挙げ
6
ドイツ新 NAP は 1 千万トン削減となる見込みとの情報もある。フランスなど 6 月の締め切りに間に合わない国
が多いのが現状のようである。(ポイントカーボン 6/16、6/22)
-35-
られる。図 3.3-1 に、これらの前提条件の違いを整理した。
日本
欧州
京都目標達成の前提条件
京都目標達成の前提条件
●エネルギー効率が世界トップレベル
●EU域内でのJIは、西欧に比べ、地理
的、政治的に不利
前提条件の違い
●1カ国のみでの京都目標達成
⇒負担が一手にかかる。
●EUバブルでの京都目標達成
⇒負担分担
●エネルギー効率改善の余地のある
国が多い
●中・東欧諸国へのJIへのアクセス
が有利
石油会社の前提条件
石油会社の前提条件
●石油精製のようなダウンストリーム
専業
●多国間にまたがり、アップストリー
ムを所有
図 3.3-1 欧州と日本の温暖化対策における主な前提条件の違い
3.4
今後に向けて
これまでの調査結果を踏まえて、今後に向けた温暖化対策のあり方を整理する。
[EU-ETS の継続的なレビュー]
EU-ETS は、温暖化対策の一つの方法論であり、社会実験的な意味も持っている。ヒアリングで
は、既にいつかの課題が指摘されたが、制度が開始して間もないこともあり現時点ではその評価
は時期尚早である。今後も EU-ETS の動向を継続的に注視し、そこから浮かび上がる成果や問題点
を把握することによって、我が国の温暖化対策の検討に役立てていくべきである。また、2006 年
6 月までに提出されることになっている、EU-ETS 第二期間の NAP の動向に関しても注目すること
が望まれる。
[我が国に適した温暖化対策の検討
~これまでの温暖化対策の着実な推進]
温暖化問題と表裏一体の関係にあるエネルギー需給状況によって、国ごとに選択すべき温暖化
対策のオプションは異なるものであると考えられる。欧州 ETS の状況を参考にしつつも、我が国
の実情に最も適した温暖化対策を検討していくべきである。我が国の石油産業においては、これ
までも、経済団体連合会と歩調をあわせ、環境自主行動計画の確実な達成を柱とした積極的な温
暖化対策(製油所の省エネ、消費段階対策、技術開発、海外協力など)を進めてきた。今後もこ
れらの取組を着実に進めていくことが必要である。
欧州ヒアリング調査では、安定供給と温暖化政策の“Harmonization”(調和)と、議論の
“Transparency(透明性)”の確保が重要である旨、多くの関係者が指摘していた。我が国石油産
業においても、環境と経済の両立という非常に難しい命題に取り組みつつ、政府や国民、電力会
社等の他のエネルギー企業等と議論を行い一層協調していくべきである。
以上
-36-
5.製油所におけるCO2回収と高濃度CO2固定化可能性に関する調査
技 術 企 画 部
主 任 研 究 員
馬 場 重 夫
出光興産㈱
寺岡勝美、吉本昌雄、瀬瀬満、益子明
㈱東芝
森山英重、山田和矢、秋吉正寛
1. 調査の背景と目的
京都議定書の発効に伴い、わが国産業界では、サバイバルにむけた国際競争力強化にあわせて、
CO2負荷低減が緊急の課題となっている。石油業界も「地球環境保全自主行動計画」を策定し
省エネルギーに積極的に取り組んで来た結果、世界トップクラスのエネルギー原単位にあり、省
エネルギーを通じてのCO2排出削減は限界に近い状況にある。
従って、今後、大幅なCO2排出量削減のためには、更なる省エネルギーとともに、現在大気
放出されているCO2を大規模回収・固定化することが必要になる。
現状の製油所のCO2排出源は、加熱炉、ボイラー等から大量に排出される10~15%低濃
度・低圧CO2と水素製造装置の水素精製過程で副生される100%に近い高純度のCO2の2
つに大別される。
熱炭カリ法(炭酸カリウム)による高濃度CO 2 回収活用は、既に実用の域にある。低濃度
CO2に関しては、アミン水溶液による回収、地中等への圧入による固定化の組合わせが主流で
あるが、必要エネルギーの2/3以上が回収のために費やされる。従って、このプロジェクト企
業化の成否は低エネルギーCO2回収技術にかかっているといえるが、未だ、有効な技術が見出
されていない状況である。
アミン水溶液による回収に代わる方法として、炭酸塩法があり、当該法は、吸収工程と脱離工
程の調和技術の開発(中間貯留槽、減圧脱離、晶析プロセス等)をすることにより、低エネルギ
ーでのCO2回収が期待できる。
石油コンビナートでは、早くから、ドライアイス・液化炭酸等でCO2を活用しており、最近
では規模は小さいながらも高級アルコール原料化等、化学産業とのCO2有効活用インテグ基盤
も少しずつ構築され始めている。このようなインフラをベースに製油所を核として、CO2を回
収利用、固定化へと逐次展開していくことにより、わが国における、低コストCO2回収固定化
モデルの実現も期待できる。
本調査では、水素製造装置から排出される高濃度CO2の固定化可能性と製油所燃焼排ガス
等、低濃度CO2の低エネルギー分離・回収・固定化技術の可能性を調査し、石油精製に最も
有利な低エネルギー型CO2回収技術開発と固定化の方向をまとめた。
2. 最近のCO2回収動向
CO2の回収技術には、旧来からアミン等の吸収剤を利用する吸収法、ゼオライトなどの吸着
剤による吸着法などがあり、特に吸収法は天然ガス中や合成ガス中のCO2の回収に古くから工
業的に利用されている。しかしながら、CO2排出量の太宗を占める加熱炉排ガス中CO2につ
いては、低圧であることから回収に必要なエネルギーが膨大でコストも多大であるという欠点が
あり、より低エネルギー消費の回収を目指し、吸収法の改良、高分子膜法やこれと吸収を組み合
わせたハイブリッド法などの開発が各機関、企業で行われている。
-37-
3. CO2固定化システム、地中固定化
3.1
CO2の固定化の概要および地中固定
固定化には大別して生化学反応を利用する生物的固定、化学反応により有用な化学物質として
固定する化学的固定、地中・海中への固定化があるが、前二者は大量の固定化に適する方法がな
く、大幅なCO2の削減の観点では海中・地中への固定化が主流となる状況である。
図1に、海中・地中への固定化の概念を模式的に示した。このうち、海中への貯留では海水
の酸性化、生態系への影響に対する懸念が強く、地中への固定化に期待が集まっており、各所
で実証テストが行われている。
④
②
吸収塔(2 本)
油田
③
①
図1
3.2
地中・海中への固定化
地中固定化
CO2の地中固定化は、地下の構造性または非構造性のガスが拡散しにくい帯水層内に貯留
するものである。前者は石油、天然ガス等の地下資源の採掘井を利用するもので、耐圧性の高
いガス非透過の岩盤(キャップロック)に囲まれた閉鎖部分にCO2を封じ込めるコンセプト
であり、後述する北海のスレイプナーなどで実証が行われている。
3.3
非構造性地層への固定化
図2に構造性地層と非構造性地層を示す。地層の構造面から考えれば、CO2はキャップロ
ックを有する構造性地層への固定化が理想的であるが、非構造性地層も、難浸透性の泥岩層、
透水性の帯水層が多重に積層した地層の中では、CO2の拡散が阻害されCO2が有効に貯留
される可能性があることが見いだされている。「堆積盆の地質学的複雑系に依存したCO 2地
中溶解技術に関する先導研究」(H17年3月、NEDO、石油資源開発(株))
図3に日本周辺の帯水層分布を示す。日本国内の帯水層の構造性は4%しかなく残りは非構
造性であること、構造性帯水層はCO2大量排出地域から遠く、非構造性は千葉地区などの大
量発生地域近くに存在することから、現実的に排出源ベースで考えれば非構造性に期待すると
ころが大きいと考えられる。
-38-
3.4
図2
構造性帯水層と非構造性帯水層
図3
日本周辺の帯水層分布
北海のガス田等の事例調査
既に、欧州では商業規模でCO2固定化プロジェクトが進んでいる。図4に北海のガス田で
の実施事例であるスレイプナーを示す。スレイプナーは北海のガス田であり、これは、世界最
初の海上での大(商業)規模のCO2の分離、帯水層への地中隔離の事例である。1996年
から運転し、これまでに、7百万トンのCO2を地中隔離している。25年運転する計画であ
るので、25百万トン貯留する計画である。
-39-
海水層 80m~100m
帯水層
海底1000m下
長さ400km
巾50-100m
厚さ50-250m
本体
アミン法回収
プラットホーム
ガス層 海面下2500m
図4
スレイプナー
固定化の背景としては、天然ガスには4.0%~9.5%のCO2含まれているため、販売規格
の2.5%以下を満足させるために、CO2の除去をせざるを得ない。このため、大規模な海上
CO2捕集設備(Sleipner T platform)を設置して、海上でCO2の分離をおこない、1百万トン
/年のCO 2を帯水層に注入している。ノルウエーではガス田のCO 2に税金が320NOK/トン
(40$/トン)かけられており、その税金が推進力になっている。
スタットオイル社は、商業規模の内陸のガス田であるインサラガス田(アルジェリア)のプ
ロジェクトやLNGのスノービットのプロジェクトも推進している。
図5にスタットオイル社の提唱するCO2チェイン(CO2 value
chain)の概念を示す。
CO2源は、工場(製油所含む)の排ガス中のCO2、プロセスから発生するCO2および天然
ガス中のCO2、発電所の排ガス中のCO2である。これらを回収して、船もしくはパイプライ
ンで輸送して油田でのEOR活用もしくは帯水層への貯留を行う概念である。スタットオイル
社はCO2チェインの要素技術は基本的に既存技術の組み合わせで可能性は高いとしている。
輸送
CO2源
CO2隔離
工場、製油所
船
油田
EOR
天然ガスの精製
・回収経済計算例をポンチ絵で作成して入れてください。
ビジネスモデル例として
パイプライン
発電所
図5
CO2チェイン
-40-
帯水層へ隔離
4.炭酸塩法によるCO2回収・固定化システム
4.1
製油所からのCO2排出
製油所の加熱炉からの排ガスは、単独で排出するものと多数の加熱炉の燃焼排ガスを共通の
排ガスダクトで、集合煙突から大気に排出するものがある。本節の検討では、20万 BPD 規
模製油所の50%の排ガスを排出する大規模の集合煙突の排ガスを検討の対象とした。
4.2 製油所燃焼排ガスの特徴と低エネルギー型回収の課題解決策
対象製油所燃焼排ガスは集合後の温度が170℃以上と高いため、炭酸塩法では、その排熱を
回収して吸収液の再生に利用することが考えられる。また、CO2濃度が10~15%と低いた
め、CO2回収率を適度に抑えることが、回収量当りの消費エネルギー低減につながると考えら
れる。
アミン法による製油所燃焼排ガスのCO2回収システム案1)(図6)では、DeSOx装置の
導入が検討されたが、炭酸塩法では、DeSOx装置省略の可能性がある。減圧再生を用いた米
国テキサス大学のアドバンスド炭酸塩法2)(図7)では、再生塔の圧力を負圧にして吸収塔およ
び再生塔の温度を近づけている。
吸収塔(2 本)
DeSOx装置(4 台)
図6 アミン法による製油所燃焼排ガスの
CO2回収システム案(斜視図)1)
図7 米国テキサス大学の
アドバンスド炭酸塩法2)
低エネルギー化の観点から有効と思われる炭酸塩法の8つの課題解決策を3つに絞り込んだ。
その絞り込んだ課題解決策を表1に示す。
表1 絞り込んだ炭酸塩法の課題解決策
狙い
課題解決策
再生温度を下げ、排熱を再生に利用
減圧状態(負圧)で炭酸塩水を再生する
再生塔における水蒸気の還流量を低減
炭酸塩水の転化率を高める
SOx、O2によるCO2吸収阻害を抑制
有機物であるCO2吸収促進剤を添加しない
5.炭酸塩法による製油所排ガスCO2回収の予備試験とプロセス解析
5.1 予備試験
充填塔モデルと減圧装置を組み合わせた吸収・再生試験装置(図8、図9)を用いた。再生塔
の圧力は、減圧装置の到達圧力50kPaとした。濃度25%、転化率50%のK2CO3水を吸収・
再生試験装置に循環した結果、CO2の吸収および放出が持続した。
-41-
吸収塔(充填
搭モデルS)
再生塔(充填
搭モデルG)
減圧装置
図8 充填塔モデルと減圧再生装置を
組み合わせた吸収・再生試験装置
図9 吸収・再生試験装置の構成
5.2 プロセス解析
炭酸塩水溶液の再生に要するエネルギー(熱負荷)は、①吸収塔の操作温度から再生塔の操
作温度に吸収液を昇温するための顕熱、②KHCO3の分解反応熱、③再生塔において、CO2
を放散する際に水を蒸発させるための潜熱、の合計となる。
気液平衡関係および再生塔モデル(図 10)を用いて再生塔でのCO2放散挙動を評価した。
その結果、熱負荷は、循環液流量にはあまり影響されず、再生塔トップおよびボトムでの
K2CO3転化率に影響を受けることが分かった。
理論段を仮定し、
逐次、気液平衡計算
CO2 55%
加熱量
80℃
吸収塔より
α=60%
リボイラでの水蒸気発生量
1段目:
CO2放散量、温度、凝縮量
最上段:
CO2放散量、温度、凝縮量
CO2 2%
99℃
α=20%
CO2放散量が
所定値か
リボイラ
No
Yes
終了
図 10
再生塔でのCO2放散量評価モデル
再生塔の操作圧力を16kPa(0.16atm)として、吸収塔を出た吸収液の全量を再生塔へ
供給し再生するプロセス(図 11)の熱負荷などを評価した。炭酸塩法では、CO2回収率を5
0%程度に抑え、排熱を回収し、再生塔圧力を16kPa と負圧にすることにより、CO21トン
当りの回収に要するエネルギーが、アミン法の場合と比較して30%程度小さくなった(表2)。
今後の減圧再生の最適化により更なる低エネルギー化の可能性がある。
-42-
図 11
炭酸塩による燃焼排ガスからのCO2回収プロセスフロー
表2 炭酸塩によるCO2回収プロセスの評価結果まとめ
*:NEDO平成 14 年度調査報告書02004342-0,02004343-03)より
6.製油所CO2回収・固定化技術開発モデル
6.1
炭酸ガスの需要および有効活用
CO2の用途としては液化炭酸(ドライアイス含む)、化学品原料、その他に大別される。
国内で液化炭酸ガス工場は36箇所、合計の能力は約153万トン/年である。最近、石油精製、
化学関係起源のCO2に原料転換されており、石油精製や化学の工場起源の高純度CO2の活用
の比率が高い。日本の市場規模は約80万トン/年でほぼ一定である。
化学品原料としてのCO2の有効活用としては、古くから尿素、重曹、サリチル酸は炭酸ガ
スからの製造が一般的であった。近年、加えて高級アルコール、ブタノール、オクタノールで
商業化され、実際に有効活用されている。またポリカーボネート等の高分子分野は炭酸ガスか
らの製造法が一部確立し、商業化を開始した分野である。図 12 に炭酸ガスの利用の可能性を示
す。現状の化学品原料としてのCO2有効利用量は全体で年間10万トン程度である。将来、
需要の伸びが期待できるポリカーボネートにおいてCO2原料法が従来製造法を代替できれば、
有効利用量は年間7万トン程度大きく増加する可能性がある。
-43-
高級
サリチル酸 <1万t
アルコール
高級
アルコール
サリチル酸<1万t
1万t
1万t
重曹
ソーダ灰
尿素
重曹
ソーダ灰
高分子
(ポリカーボネート)
4万t
年間10万t
年間17万t
以上
5万t
4万t
7万t以上
尿素
5万t
現状
図 12
将来予測
国内製品市場規模から推定した炭酸ガスの利用の可能性
化学品原料、生物化学的な有効利用の可能性は、現状では量的にポテンシャルとして最大限
の可能性を考えても、20万トン/年弱で、地球温暖化対応の商業規模をまかなうことができる
量ではない。しかし、経済性の観点から付加価値を上げることのできるCO2の有効活用は当
然推進すべきことであり、この分野では、ポリカーボネート以外にもCO2とエポキシドの共
重合、CO2とエポキシド以外のモノマーとの共重合等、高分子合成が多く研究されており、
高純度CO2の活用のために、更なる発展が期待される。
6.2
千葉コンビナート製油所におけるCO2回収有効活用
CO2の回収・固定化の千葉コンビナートモデルの概念図を図 13 に示す。
各製油所125万トン/年~217万トン/年 合計 約700万トン/年
CO2回収
煙突
煙突
CO2回収
装置
煙突
煙突
CO2回収
CO2回収
CO2回収
瀬瀬さん 1~4枚で、字体を本原稿にセットしてください。 装置
装置
装置
CO2
CO2
CO2
加熱 炉排ガ ス
加熱 炉排ガ ス
加熱 炉排ガ ス
製油所
製油所
CO2
加熱 炉排ガ ス
製油所
製油所
・千葉コンビナート製油所におけるCO2回収地中隔離モデル例
水素製造
水素製造
水素製造
A製油所
80%活用
80%活用
25%活用
・千葉コンビナート製油所におけるCO2回収海水溶解モデル例
高濃度CO2
有効活用
液化炭酸ガス
化学原料
液化炭酸ガス
ドライアイス
(化学原料)
B製油所
液化炭酸ガス
化学原料
液化炭酸ガス
化学原料
C製油所
D製油所
各製油所11万トン/年~ 31万トン/年 合計 約60万トン/年
図 13
千葉コンビナートモデル
主として、回収・固定化の検討対象は加熱炉排ガスと考えられる。加熱炉排ガスを対象とし
た場合、発生源が多数に及ぶため、どの加熱炉を対象とし、加熱炉排ガスのCO2回収をどの
レベルまで行うのかは課題として残されている。単純に考えれば、4節で検討対象とした排ガ
スが量的に集められている大規模集合煙突の優先順位が高いと言えよう。
千葉コンビナート地中隔離モデルを図 14aに示す。製油所の排ガス対象の回収設備はかなり
巨大なものであるので、回収設備は各製油所に設置することになる。隔離装置(圧縮機他)は
-44-
パイプラインで集めるCO2の集中隔離設備とするか、製油所毎の個別の分散型にするかは、
現時点で確定することはできない。運転性、設備費を考慮して最適な設備とすることが将来の
課題である。ただし、非構造性地中貯留については更なる精査が必要である。
千葉コンビナート海洋溶解モデルを図 14bに示す。海洋固定については、課題が多い。海洋
貯留の場合、付帯の設備としては液化のための設備と出荷設備が必要である。搬送は共通の搬
送船を用い、海上で固定化船に積み替えて、海洋固定を行うモデルが考えられる。海洋貯留で
は法的整備、国際的合意、アセスメントが課題である。搬送船による移送であるから、適用が
千葉コンビナートに限定されず、汎用性を持たせやすいシステムであると言える。
検討課題
技術の確立
法的整備
環境アセスメント
搬送船による
国際的合意 他
瀬瀬さん 1~4枚で、字体を本原稿にセットしてください。 海上輸送
①低純度CO2回収
集合煙突から優先的に回収 量の確保、ダクト既設
②回収装置を各製油所に設置
瀬瀬さん 1~4枚で、字体を本原稿にセットしてください。 液化CO2搬送
検討課題 隔離装置を集中型または、分散型設置
製油所
製油所
CO2回収
装置
パイプライン
搬送船
数千m
各製油所
海洋固定
移動集荷
製油所
・千葉コンビナート製油所におけるCO2回収海水溶解モデル例
海底
CO2回収
CO2地中
分散型隔離装置
装置 ・千葉コンビナート製油所におけるCO2回収海水溶解モデル例
隔離装置
製油所
低純度CO2固定化
図 14a
液化装置
出荷装置
・千葉コンビナート製油所におけるCO2回収地中隔離モデル例
製油所
製油所
CO2地中
隔離装置
固定化船
製油所
CO2回収
・千葉コンビナート製油所におけるCO2回収地中隔離モデル例
CO2地中
装置
隔離装置
CO2回収
装置
搬送船
低純度CO2固定化 ・千葉コンビナート製油所におけるCO2回収固定化モデル例(スタート)
CO2回収
CO2地中
集中型隔離装置
・千葉コンビナート製油所におけるCO2回収固定化モデル例(スタート)
装置
隔離装置
東京湾
泥岩層
CO2回収
装置
液化装置
出荷装置
CO2回収
装置
液化装置
出荷装置
海底
製油所
砂岩層
泥岩層
CO2回収
装置
地中隔離モデル
液化装置
出荷装置
図 14b
海洋溶解モデル
7.CO2 回収固定化の方向検討と今後の課題
本調査では、製油所水素製造装置から排出される高濃度CO2の有効活用の拡大と製油所燃焼
排ガス等、低濃度CO2の低エネルギー分離・回収・固定化技術の可能性を調査・検討した。ま
た、各社の主力製油所とエチレンセンターが連なる千葉地区を対象に、本調査の結果を現業とリ
ンクすることにより、例えば、足元の段階では、製油所水素製造装置から排出される高濃度
CO2の有効活用拡大、更に将来的には、低濃度CO2の低エネルギー分離・回収とコンビナー
ト近接非構造性地相への隔離固定化モデル等を提示した。図15に、製油所におけるCO2回収固
定化の方向性と今後の課題を示す。
今回の調査検討を踏まえて、今後、本テーマを成功裡に進めていくために考えられる要件を
以下に提案する。
(1)モデル地域の設定と、固有な目指す絵姿とロードマップの策定
○現業の中長期計画と連動でき、息の長いシナリオを段階的、着実に調査検討
していくために、初期段階における絵姿の設計とそれにむかっていける具体的
な計画を用意しておく。
○石油精製のように、大規模水素製造装置からまとまった高純度CO2発生源を
有する部位を特定し、LNG冷熱利用によるCO2回収、化成品転換技術開発等
で地域関連企業との連携で固有のCO2回収チェーン構築をめざすことで、
初期成功裡なスタートを可能とする。
-45-
○コンビナート水素供給チェーン構築と連携し、ロードマップを統合開発すること
により、低環境低負荷将来像およびビジネスモデルを構築する。
○地中隔離等のCO2固定化の現実的なソルーションを早い段階で得るために、
CO2集中発生回収、地中隔離に適切な地層が近接する等の有望な条件を有す
地域を重点的にモデル開発し、各業界地区に展開していく。
○対象地域のCO2発生部位と効率的な回収可能部位を詳細調査、マップ化する
ことにより、具体的な回収固定化の設計に進める。
⇒例えば、千葉および水島コンビナート製油所群を対象
(2)新規吸収溶媒による排ガス中低濃度CO2の高効率分離回収技術開発を力点に、
対象箇所に適用調査検討 ⇒例えば、炭酸塩法等のプロセス化可能性検討
(3)異業種とのインテグにより、幅の広い回収モデルの設計
(4)先行の調査機関、各専門分野との融合検討開発により、生産活動とリンク
した現実的な開発、ビジネスモデル策定
○東京湾などの堆積層は非構造性帯水層で、近接の主要コンビナート群の巨大な
CO2貯留槽として有望である。先行の調査機関、各専門分野との融合開発に
より、生産活動とリンクした現実的な開発、ビジネスモデルをめざす。
(5)CO2回収固定化までの、各種ビジネスモデルの考案にも軸足を置いた調査検討に
より、初期は別にして助成金だよりの開発から、ビジネスとしてを当初から定めて
おく。 ⇒多面的ビジネスモデル検討
図 15
製油所におけるCO2回収固定化の方向性と今後の課題
引用文献
1)P. Hurst and G. Walker, Post-Combution Separation and Capture Baseline Studies for the
CCP Industrial Scenarios, Carbon Dioxide Caoture for Storage in Deep Geologic Formations,
Volume 1, D. C. Thomas and S. M. Benson ed (Elsevier Ltd.), 2005 P117
2)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、(財)地球環境産業技術研究機構 「DOE炭素隔
離ロードマップに於ける二酸化炭素分離回収技術に関する調査研究」平成15年9月
3)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、平成 14 年度調査報告書 02004342-0,02004343-0
-46-
6.「北東アジア地域の相互協力関係の可能性」に関する調査
企画調査部
主任研究員
㈱新日石総研
横尾和久
村上和見
1.調査の背景・目的
我が国石油産業を取り巻く環境は、石油製品の軽質化と総需要の減少という国内需
要構造の変化にあり、一方では、高い経済成長による中国の石油製品需要の急増とい
う状況を抱えている。
こうした内外の環境変化から、我が国石油産業の進むべき方向として国内精製設備
を活用した北東アジア地域における石油製品貿易の拡大が考えられる。
この製品貿易の拡大は域内の経済合理性を高め、生産設備やエネルギー資源の有効
活用にも繋がり経済発展に大きく寄与するものとも考える。
当 企 画 調 査 部 で は 平 成 15 年 度 か ら 北 東 ア ジ ア 地 域 の 石 油 製 品 需 給 動 向 に つ い て 継 続
的に調査を行っている。今年度は北東アジアの石油製品需要と精製能力の推移の見通
しから中国からの受託精製、製品輸出の可能性について検討した。
加 え て 昨 年 10 月 に 公 表 さ れ た 中 国 の 第 11 次 5 ヵ 年 計 画 の 内 容 を 石 油 需 要 見 通 し に
織り込むみとともに、これにもとづく中国の石油供給方針についても言及した。
2.調査の内容、結果、成果
2.1
北東アジアにおける石油需要見通し
本 調 査 に お い て 想 定 し た 2020 年 ま で の 北 東 ア ジ ア 各 国 の 石 油 需 要 を 図 - 1 に 示 す 。
我が国の石油需要は緩やかな減少をたどるのに対し、中国の石油需要は大幅な増加が
見 込 ま れ 、 2020 年 に は 現 在 の 約 2 倍 に 達 す る も の と 推 定 さ れ る 。 ( 図 - 1 )
図 -1
北東アジア国別石油内需見通し
単位;千BD
12,000
10,000
中 国
8,000
6,000
日 本
4,000
韓 国
2,000
台 湾
0
2000年
2003年
2005年
2010年
2015年
2020年
IEA、エネ研 、新 日 石 等 想 定
-47-
2.2
中国の油種別需要見通し
製品別にはガソリン、ガスオイル、石化原料油の伸びが大きく、3油種を合わせた
構 成 比 は 2003 年 の 56% か ら 2020 年 に は 70% と な る 。特 に 石 化 原 料 は 2020 年 に は 2003
年 の 約 4 倍 と な り 2 百 万 BD に 達 す る 。 ( 図 - 2 )
中国の石油内需推移見通し
単位:千BD
図 -2
14000
12,166
12000
9,943
2667
8099
2389
1238
2134
1121
2653
1006
1949
10000
8000
6000
5,872
1724
4000
807
2000
933
1777
0
1434
2858
2388
3434
560
1155
1660
2176
2 0 0 3年
2 0 1 0年
2 0 1 5年
2 0 2 0年
その他
重油
ガソリン
ガスオイル
石化原料
出 典 ::IEA 見 通 しをベースに、現 地 ヒアリングを参 考 に新 日 石 総 研 で想 定
中 国 の 石 化 向 け 原 料 自 給 率 は 現 在 約 40% 前 後 で 推 移 し て お り 、 今 後 も 現 状 並 み で 推
移する可能性が高い。石化需要は石油需要を上回る伸びが予測されているが、水素化
分解装置の増強により原料油を確保する方針である。
2.3
中 国 の 「 第 11 次 5 ヵ 年 計 画 」
2005 年 10 月 に 2006 年 か ら 2010 年 の 5 ヵ 年 を 対 象 と す る 「 第 11 次 5 ヵ 年 計 画 」 の
基本方針が党中央委員会で了承された。
今回は「省エネルギー、エネルギー利用の効率化、環境対策」に関し、積極的、具
体的な目標を掲げている。これら政策目標については以下のとおりである。
( 1 ) 生 産 ・ 建 設 ・ 流 通 ・ 消 費 の 各 面 で 資 源 利 用 効 率 を 大 幅 に 引 き 上 げ 、 単 位 GDP 当
り の エ ネ ル ギ ー 消 費 を「 第 10 次 5 ヵ 年 計 画 」の 終 了 時 よ り 20%前 後 引 き 下 げ る 。
( 2 )資 源 の 有 効 利 用 を 促 進 す る 法 律・法 規 の 制 定 、改 正 を 急 ぎ 、各 基 準 を 整 備 す る 。
(3)エネルギー多消費型及び高汚染業種の新事業については、エネルギー・水資源
の消費、土地・環境保護の面から、厳格な新規参入基準を定め、製品の強制効
率規格の制定を急ぐ。
( 4 )主 要 エ ネ ル ギ ー 消 費 業 種 の 省 エ ネ 設 計 基 準 、建 築 省 エ ネ 基 準 を 改 正・整 備 す る 。
(5)水・電力・石油・天然ガスなどの市場価格化を速め、また資源の希少度を反映
した価格形成メカニズムを確立する。
-48-
2.3.1
石油関連分野
石油関連分野については輸送用燃料を中心とした省エネルギー、燃料多様化、クリ
ーン化を進める。既に自動車代替燃料については各都市、各省で導入の試みがおこな
われている。(図-3)
図 -3
代替燃料自動車の地域分布図
哈尔滨
乌鲁木齐
吉林
长春
3、天津市
天津
山西 河北山东
银川
4、上海市
青岛
济南
河南
湖北
LPG試点都市
安徽
5、四川省
6、海南省
江苏
西安
成都
1、重庆市
2、北京市
北京
凡 例
黑龙江
7、乌鲁木齐市
上海
8、西安市
9、哈尔滨市
重庆
10、长春市
CNG試点都市
11、广州市
西気東輸プロジェクト路線
12、济南市
エタノール混合ガソリン試点8省
广州
13、青岛市
深圳
メタノール混合ガソリン試点1省
海口
出 典 :上 海 交 通 大 学 エネルギー研 究 院 提 供
14、银川市
15、廊坊市
16、濮阳市
これら省エネ対策を含む石油関連分野の具体的政策内容は以下のとおりである。
(1)輸送用燃料及び石化原料油の安定供給
・国内生産による供給を原則とする精製設備増強
・特に石化原料油確保のための水素化分解装置増強
(2)環境対応製品の早期市場展開
・輸送用燃料のクリーン化推進
→ 2010 年 に 全 土 で EURO4 相 当 基 準
→ 北 京 で は 2005 年 か ら オ レ フ ィ ン 18%規 制 開 始
→ LPG 車 、 CNG 車 、 エ タ ノ ー ル 車 、 ハ イ ブ リ ッ ド 車 、 電 気 自 動 車 の 導 入 促 進
・石炭液化実用化推進、天然ガスへのシフト促進
(3)効率化・省エネ推進
・製油所の効率配置、二次装置充実、排ガス・廃熱の有効利用
・省エネルギー技術の海外からの輸入
(4)エネルギー安全保障
・輸入先の分散化(ロシア、アフリカからの調達)
-49-
・備蓄基地の増強
→ 現 在 、 大 連 、 黄 島 、 鎮 海 、 舟 山 の 4 基 地 建 設 中 → 完 成 後 は 30 日 備 蓄 能 力
→ 最 終 的 に は IEA の 基 準 値 90 日 備 蓄 を 目 標
2.3.2
最新の石油需要の見通し
PIRA や DOE 等 、 米 国 系 調 査 機 関 の 中 国 の 長 期 石 油 需 要 見 通 し は 高 い 伸 び を 想 定 し て
いる。(図-4の点線グラフ)
今回の 5 ヵ年計画での需要抑制策を織り込んだ需要見通しが中国国内の各機関によ
り な さ れ た 。( 図 - 4 の 赤 線 グ ラ フ )こ れ に よ る と 2020 年 に お い て は 従 来 の 想 定 か ら
130~ 160 万 BD 需 要 を 削 減 で き る と し て い る 。
中国の石油内需見通し
図 -4
各種想定比較
千BD
16,000
14,000
PIRA想定
12,000
DOE想定
能原研HC
PEC 想定
10,000
8,000
能原研LC ,
Sin o pe c ,
政府目標
6,000
4,000
上海交通大学
2,000
0
2000年
2.3.3
2003年
2005年
2010年
2015年
2020年
新 5 ヵ年計画にもとづく新たな石油供給方針
中国の石油製品供給方針は従来、国産または輸入原油を国内で精製し供給する消費
地 精 製 主 義 を 原 則 と し て お り 、 2010 年 ま で の 製 油 所 の 新 増 設 計 画 が 公 表 さ れ て い る 。
新 5 ヵ年計画では国内精製の他、近隣国への委託精製、産油国からの製品輸入につい
ても取り組む方針を打ち出している。
2.4
精製能力からみた需給バランス
中国の国内石油需要推移とそれに見合う精製必要能力、及び製油所増強計画からの
精製能力の推移を示す。(図-5)
製 油 所 の 新 増 設 計 画 は 2010 年 以 降 に つ い て は 公 表 さ れ て い な い 。需 要 抑 制 策 を 含 め
先の石油供給方針から製品輸入、委託精製などの対応が取られる可能性が高い。
-50-
中国の国内石油需要推移および製油所増強見通し
単位:百万BD
図 -5
12.0
CDU必要能力
増強計画
10.0
8.0
6.0
国内需要
(原油換算)
4.0
2.0
0.0
2000 2002 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2015 2020
図-6は、北東アジア各国の国内需要に対する精製能力の推移を示す。
2010 年 時 点 で は 北 東 ア ジ ア 全 域 で 精 製 能 力 の 不 足 は 見 ら れ な い が 、中 国 で は 2010 年
以 降 の 製 油 所 増 強 計 画 が 不 透 明 な た め 、仮 に 増 強 が 無 い 場 合 は 2015 年 以 降 の 能 力 不 足
が 顕 著 と な る 。一 方 、日 本 の 精 製 余 力 は 増 加 を 続 け 2020 年 で は 100~ 150 万 BD に 達 す
る。
北東アジアにおける
図 -6
製油所能力過不足見通し(CDUベース)
単位:千BD
2,000
日本(H)
1,500
1,000
韓 国
日 本
日 本
日本(H)
日 本
韓 国
500
中国(目標)
0
-500
-1,000
-1,500
中 国
韓 国
中 国
5年
200
台 湾
台 湾
0年
201
5年
201
0年
202
中国(目標)
-2,000
-2,500
中 国
-3,000
出 典 : FACTS、Sinopec、CNPC、能 源 研 究 所 等 と の ヒアリング、紙 誌 ・WEB 情 報 に 基 づ き 新 日 石 総 研 に て 作 成
な お 、日 本 の 需 要 見 通 し は 、本 調 査 の 北 東 ア ジ ア 国 別 見 通 し( 図 - 1 )と 17 年 度 PEC
調 査「 石 油 産 業 の ロ ー ド マ ッ プ 策 定 」で 想 定 し た 需 要 減 少 高 位 ケ ー ス (日 本 H)を そ れ ぞ
れ用い、中国の需要は従来の見通し(図―1)と省エネルギー目標が達成できたケー
-51-
ス(中国・目標)をそれぞれ用いた。
2.5
市場開放について
中 国 で は 2004 年 12 月 に WTO 加 盟 に よ り 石 油 製 品 の 小 売 市 場 が 外 国 企 業 に 開 放 さ れ
た 。 外 国 企 業 は SS30 ヵ 所 以 内 の 設 置 に つ い て は 出 資 が 100% 認 め ら れ た が 、 そ れ 以 上
の設置の場合は中国企業との合弁で、かつ出資比率のマジョリティは認められない。
石 油 製 品 の 輸 入 権 も 認 め ら れ ず 、し た が っ て 国 営 石 油 会 社( CNPC、Sinopec)か ら 製 品
供給を受ける。
卸 売 市 場 に つ い て は 、2006 年 12 月 に 開 放 さ れ る 。原 油 、石 油 製 品 の 取 り 扱 い を 自 由
化し、またマジョリティを持つことも可能とされているが、完全自由化については不
透明である。輸入枠についてはインフレ防止、国内経済保護の観点から、実質的に残
される可能性が高い。
2.6まとめ
以上の調査結果を踏まえ、我が国の精製設備を活用した中国との製品貿易の検討を
進めるべきと考える。
輸出型の構造を持つ韓国石油産業は既に中国への製品輸出と受託精製を進めており、
我が国国内の一部の企業でも中国との受託精製を実施している。
今後は各企業において経済性、実効性の評価をし、我が国石油産業の事業展開の重
要な選択肢として捉えるべきである。
国 全 体 の 設 備 能 力 規 模 に つ い て 、中 国 と 我 が 国 の 状 況 は 今 後 10 数 年 、対 極 的 な ポ ジ
ションとなり、北東アジア域内においては補完関係にあると言える。(図-6)
今後の課題としては、中国の経済成長と国内市場の開放がある。
経済成長については、これまでのところ予想を上回る伸びを見せており、新 5 ヵ年計
画 で は 、 一 人 あ た り の GDP を 2010 年 ま で に 2000 年 実 績 の 約 2 倍 に 引 き 上 げ る こ と を
掲げている。
一 人 あ た り GDP の 目 標
2000 年 実 績
846 ド ル
( 参 考 : 2005 年 実 績
→
2010 年
1,700 ド ル に 相 当
1,456 ド ル )
注 ) 00 年 、 05 年 実 績 の 出 所 : 世 界 の 統 計 2006 年 版
ただし懸念材料として原油価格の高騰と中国国内の環境問題の深刻化がある。
市 場 開 放 に つ い て は 、WTO 加 盟 後 、輸 入 枠 や 価 格 統 制 、出 資 制 限 な ど の 規 制 は 段 階 的
に緩和されるとみる。最近では石油製品の供給不足による社会不安の高まりから価格
統制に対する批判が中国国内では強くなってきており、経済成長維持のためには、石
油市場における統制の撤廃など市場経済原理にもとづく制度の早期導入を求める動き
もでてきていて、いずれは海外市況にリンクにした製品供給体制に移行していくと考
える。
我が国の課題としては、実オペレーション上の製油所の桟橋や出荷能力の増強、国
-52-
内 供 給 と の バ ラ ン ス 、輸 出 向 け の 保 税 機 能 の 強 化 な ど が 個 々 の 課 題 と し て 考 え ら れ る 。
これらを含めた総合的な競争力の強化により、海外市況にリンクした製品貿易を拡
大できる可能性は充分あると考える。
以上
-53-
7.「北東アジア地域における石油製品規格共通化に伴う競争力強化の可能性」に
関する調査
企画調査部
主任研究員
新日鉱テクノリサーチ(株)
横尾和久
曽我正美
1.調査の背景
我が国では、石油製品需要の軽質化が進み、その対策として重油留分の各種分解装置が増強
されてきている。主要な分解装置(水素化分解装置を除くFCC及び熱分解装置)は一般に低セ
タン価の軽油留分(分解軽油とも言われる) を併産し、現在この分解軽油は主にA重油もしくは
C重油のブレンド基材として使用されている。
分解装置の増強に伴い低セタン価の軽油留分は増産傾向にあり、一方では重油製品の需要は
減少していくため、この低セタン価の軽油留分の新たな活用先の検討が必要となっている。
欧米では軽油留分については、高セタン価・高品質の自動車用軽油と低セタン価・低価格の
ヒーティングガスオイル(我が国のA重油に相当)という2種類の製品があり、これらが製品体
系として確立されている。
欧州11ヶ国では2000年頃から石油製品体系が統一され、供
給効率の向上や CO2 削減のための効果的研究(図‐1)が行われている。
図―1
欧州各地域間における石油製品・石油製品基材の経済的融通研究
出典)W.Bosch・V.A.Corso・G.CrociAni 等:EU oil refining industry costs of chAnging gAsoline And
diesel fuel chArActeristics, CONCAWE(欧州石油連盟)研究調査報告 1999
我が国の軽油留分は3種類(軽油及び高低硫黄のA重油)の製品があり、これに対して、他の
アジア地域の軽油留分は、用途別の製品分類がなく自動車用にも使用可能な高品質・高価格な軽
油留分が他用途へも流通し広く使用されている。
-54-
アジア地域においても欧米のような製品体系を確立し、製品規格の共有化がなされれば、広
範囲な貿易を促進することが可能となり、効率的な石油製品の供給を行うことができると考え
る。
2.調査の目的
本調査では、我が国で余剰となりつつあるセタン価の低い軽油留分(分解軽油)をアジア市
場へ製品として販売するために域内の製品体系、規格の共有化を検討することとした。
具体的
には石油製品需要が急増している中国向けについて検討を行い、併せてベトナム、インドネシ
アの需要についても調査をした。
また、欧米市場にみられる石油製品価格と原油ネットバック価格の関係から、将来的にアジ
アにおけるこの軽油留分の取引拡大が域内で購入する中東原油価格決定に影響することにも触
れた。
3.調査の内容
3.1中国向け輸出について
(1)需要について
この分解軽油は性能的に燃焼用、もしくは低セタン価の軽油相当品となる。
中国の各種用途別軽油需要量の推移(図―2)から、ボイラー用等の燃焼用軽油の需要量は
年間31百万KL程度で、農林業用トラクターや漁業・運送用の中小型船舶用の低中速回転
ディ-ゼルエンジンに使用される低セタン価の軽油需要量は年間37百万KL程度ある。こ
れら合わせて年間68百万KL程度の需要量となる。この需要量は今後さらに増加すると予
想されている。(これらを図表ではA重油需要領域として示す)
図-2
中国の軽油需要に関する用途別需要量の把握
出典)IEA統計(ENERGY STATISTICS OF NON-OECD COUNTRIES 2002-2003)
(2)中国向け製品規格について
①セタン価
中国の軽油の規格には、一般用軽油と自動車用推奨規格とがあり、一般用軽油が自動車用
にも使用される。この分解軽油を燃焼用として用途限定で販売しても、自動車用に使用される
可能性があるため、クレームを避ける上で中国の一般用軽油の規格であるセタン価 45 以上と
した方が良い。分解軽油のセタン価は 27 程度なため、分解軽油を基材として用い、実質的な
-55-
セタン価が 49 程度のLSA重油を候補として検討を進める。
②硫黄分
中国の一般用軽油の硫黄分の規格は 2000ppm 以下であるが、平成16年度「中国の石油製
品需給動向に関する調査」では、供給されている軽油の硫黄分は、1500ppm 程度と推定され
た。我が国において現在供給されているLSA重油の硫黄分は平均値として約 700ppm である。
これらの状況を勘案して、中国向けの硫黄分は 1000ppm 以下とする。
③品質の具体的な提案内容
我が国のA重油は、税法上で軽油と区分をするため、残炭調整剤とクマリンの添加が義務
付けられている。しかし、今回の検討対象油種は、中国への輸出品であるため、税法上の問
題はなく、残炭調整剤とクマリンを添加しないこととする。
なお、製油所での生産、出荷設備等の関係から、製品タンクを国内の LSA重油と共用す
る場合には、残炭調整剤とクマリンを添加した製品となる。この対応等については今後の課
題とする。
従って、中国向けの製品としては、LSA重油をベースとして、セタン価 45 以上、硫黄分
1000ppm 以下とした。(表―1オフロード軽油・ヒーティングガスオイルの品質規格(案)
参照)
表―1オフロード軽油・ヒーティングガスオイルの品質規格(案)
項目
色度
号 m ax
蒸留
50% v/v
℃ m ax
90% v/v
℃ m ax
95% v/v
℃ m ax
酸化安定性
全不溶分
m g/100m l m ax
密 度 (15℃ )
kg/m 3
密 度 (20℃ )
kg/m 3 m ax
k g / m 3 m in
硫黄分
% m /m m ax
10%残 留 炭 素 分
% m /m m ax
灰分
% m /m m ax
銅 板 腐 食 ( 5 0 ℃ 、 3 時 間 ) C la s s m a x
水分
% v/v m ax
機 械 的 コンタミ
動 粘 度 (50℃ )
m m 2/s
動 粘 度 (40℃ )
m m 2 / s m in
m m 2/s m ax
動 粘 度 (20℃ )
m m 2 / s m in
m m 2/s m ax
流動点
℃ m ax
引 火 点 (密 閉 式 )
℃ m in
セタン価
m in
セ タ ン 指 数 (新 )
m in
中国一般
軽油規格
3 .5
提案
300
355
365
300
355
365
我 が 国 の 低 硫 黄 A重 油
平均
M AX
M IN
2 8 4 .3
3 4 4 .3
-
326
400
-
252
304
-
2 .5
860
820
0 .2
0 .3
0 .0 1
1
n il
n il
859
881
822
(8 5 3 )
(8 7 4 )
(8 1 8 )
0 .0 6
0 .3 6
0 .1
0 .7
0 .0 1
0 .2 1
2 .7
4 .3
1 .9
( 3 .8 )
( 6 .0 )
( 2 .8 )
60
- 2 0 .6
82
0
108
- 4 7 .5
60
45
49*
860
820
0 .1 0
0 .3
0 .0 1
1
n il
n il
2 .7
6 .2
3 .0
8 .0
10~ -50
45~ 55
45
出典)我が国の性状は、石連内部資料による。
図表中の「*セタン指数(性状例)」は、「PEC-2000R-06」による。
-56-
(3)我が国からの輸出の可能性について
中国の石油製品価格は、国際市況に連動するようになっていたが、現在は海外の市況に対し
て低く抑えられており、我が国からの輸出については経済性に欠ける状況となっている。また
輸入手続についても煩雑さが見受けられる。
これまでの中国の軽油輸出入量の推移を見ても、変動幅が大きく、安定的な輸出先としては
現段階では難しいと考える。
ただし中国国内では、価格統制による石油製品の供給不足から市場開放の要求もでてきてい
る。
したがって、中国向け輸出については今後の市場経済制への移行を注視しつつ継続して検討
すべきと考える。
図-3
中国の軽油輸出入量の推移
3.2 他のアジア諸国への輸出の可能性について
(1)ベトナムについて
経済成長が著しいベトナム及びインドネシアの用途別軽油需要量及び軽油輸出入量について
調査をした。
ベトナムの燃焼用軽油の需要量をIEAの統計をもとに推定すると、2003年で100万
KL以上あると見込まれる。また、軽油の輸入自体も年々増加している。(図―4)
2009
年 2 月に国内最初の製油所(140 千 BD 前後)が稼働予定で、あるが、当面の輸出対象先と考え
る。
-57-
図-4
ベトナムの用途別軽油需要量及び軽油輸出入量
(2)インドネシアについて
インドネシアについては、燃焼用軽油の需要量を同様に推定すると800万KL以上あり、
低セタン価の軽油の需要量も500万KL程度と見込まれ、さらに増加が予想される。また、
軽油の輸入量も増加傾向にある。
図-5
インドネシアの用途別軽油需要量及び軽油輸出入量
出典)IEA統計(ENERGY STATISTICS OF NON-OECD COUNTRIES 2002-2003)
(図-4も同様)
ベトナム、インドネシア等における軽油の輸入価格は、シンガポール市場価格(MOPS,Gas Oil
0.5%S 分)リンクである。我が国からの輸出については、性能面から軽油価格より安く重油価
格より高い評価となる。
経済性の評価としてはこの水準と国内重油価格との比較になる。
ただし、アセアン諸国への供給拠点であるシンガポールが近いため、実際の輸出については
製品ロットの大型化などの効率化をはかり競争力の強化に努める必要がある。
3.3
我が国の低硫黄A重油輸出可能量の推計
我が国の石油製品の需要減少傾向と、実勢の石油製品輸出入状況及び各種石油精製装置保有
状況等を勘案して 2010 年における石油需給バランスを試算したところ、各種の主要石油製品の
国内需要を満たした上で、さらに 24 百万KL程度のLSA重油が増産可能との結果であり、大
-58-
きな製品交易ができる可能性はある。
4.調査の結果
我が国石油産業が余剰となるセタン価の低い軽油留分(分解軽油)をアジア地域に輸出でき
る可能性は充分にあると考える。 中国については規格をLSA重油相当品としたが、市場の
開放度合いから具体的な輸出については継続して検討をすることとした。
ベトナム、インドネシアについては需要も見込め、さらに調査を進め具体化するべきと考え
る。
直接的には我が国石油産業にとって、この製品輸出は需給調整の選択肢を増やし、また重油
需要減少に対応した分解装置の経済性向上に寄与すると考えられる。
5.今後の検討課題
次の課題をアクションプランとしてとりまとめた。
(1)国内規格との整合性
この分解軽油の製品貿易が本格化した場合、国内石油製品の品質及びJIS規格等の国内
製品規格との整合性を確保する必要がある。
詳細調査を進め、石油連盟等において検討の
うえ、業界内の合意・認定が必要となる。
(2)中国での問題点
中国については我が国からのLSA重油(残炭調整剤及びクマリンが無添加のもの)の輸
入実績がないため、中国側の理解は不可欠であり、関係各方面に対する提案・説明を継続す
る必要がある。
(3)輸出対象国の拡大
ベトナム、インドネシア等のASEAN諸国に対する輸出も有望であると考えられ、より
大きな製品貿易を実現するために対象国を拡大していくことが必要である。
今後は、ベトナム、インドネシア現地での使用実態を含めたフィールドサーベイをおこな
い要求品質について詳細に把握する。
また、製品の市場への浸透をはかる有効なマーケティング方法についても検討を進める。
(4)国際取引市場への上場と製品規格の統一
国際取引市場(シンガポール市場)に上場されることで、アジアにおける製品体系の確立が
促されると考える。
当該製品の取引が拡大し、市場関係者から指標価格の要求が高まることで国際取引市場(シ
ンガポール市場)へ上場される。したがって上場のために、あえて製品規格の統一をはかる必
要はなく、当該製品の取引拡大に努めることが先決となる。
6.原油ネットバック価格への影響
アジア地域でこの新製品の取引が拡大し流通するようになれば、石油製品貿易価格の指標で
あるシンガポール国際市場で、現在の軽油価格より低価格の新製品市場が形成されることが想
定される。
1986 年以来原油価格は石油製品市場において評価される価値(ネットバック価値と言われて
いる)に強く影響を受けるようになった。この年にサウジアラビアがネットバック価値に基づく
-59-
価格で原油FOB価格を欧米向けに決定し始めたからである。
1987 年以降アジア向けを含め現在も、石油製品市場において原油価値評価に用いられる各種
石油製品価格と原油価格には相関関係がみられ、これらの石油製品価格と原油価格は連動した
動きをみせる。
図-6
世界3大石油市場における各種原油価格とネットバック価値との関係
欧米市場の傾向をみると近年米国製油所がハリケーンによって操業を制約されこのため石油製
品価格が上昇すると原油価格は押し上げられる傾向が顕著にみられた。
欧米における原油のネットバック価値はヒーティングガスオイル価格等(我が国のA重油相
当品)を活用し次図に示す原油からの石油製品得率を乗じて算定されている。アジアにおける
この新製品の市場化は従来の自動車用軽油と比較して低価格の軽油留分と評価され、原油に含
まれる軽油留分(中東原油の軽油留分は約20%)の価値をより低くする。このことは原油のネ
ットバック価値を下げFOB価格をより低くする可能性もある。
-60-
上述のようなアジアでの製品市場の形成がなされた場合、これまでの欧米市場の傾向から、
中東原油のネットバック価値を 1 ドル/バレル程度低くできると推計される。 これによる原油
代削減効果は、我が国にとって年間15億ドル程度となり、また、アジア地域(中東を除く)全
体としては年間60億ドル程度と試算される。
図-7
各種原油価格のネットバック価値算定に用いた各種石油製品特率
欧州における低セタン価低価格のヒーティングオイル(我が国のA重油相当品)の存在は、
今後益々自動車用軽油需要が拡大し、かつその高品質化による高コスト・高価格化の傾向の中
で、原油ネットバック価格を抑え、経済的な原油価格の実現に効果的とみる。
北東アジア地域の自動車用軽油も中国を中心に拡大しさらに高品質化が進んだ場合、アジア
地域向け原油ネットバック価格を押し上げ、原油価格を高くする可能性がある。欧米のような
ヒーティングガスオイル貿易をアジア地域で実現し、ネットバック評価に繋がるようになれば、
これを抑制する効果も期待できる。
以
-61-
上
8.欧米各国の民生用燃料品質規格と国内外燃焼機器メーカーの
技術対応調査
新燃料部
主任研究員
㈱コスモ総合研究所
加藤
雅行
吉成
知博
1.調査の目的・背景
地球温暖化防止に向けた京都議定書が 2005 年 2 月に発効され、我が国では温室効果ガスの
6%削減が法的拘束力のある約束として定められ、国はこの目標を達成すべく地球温暖化対策
推進法に基づき、京都議定書目標達成計画を策定した。
この中で、業務用および家庭用の民生部門は現状の省エネ対策に加え、今後更に 9.3%の温
室効果ガス削減対策を目安とした目標が定められ、この実行対策として機器の高効率化技術開
発とその普及が求められている。特に、電気機器では暖房給湯の分野で高効率エアコンや CO2
冷媒ヒートポンプが、またガス機器でも潜熱回収型給湯器やガス発電・給湯暖房システムとい
った省エネ機器開発がトップランナー方式で進められている。
一方、これまで灯油・A 重油といった中間留分は、価格競争力のある民生用燃料として利用
されてきたが、現在の原油高騰が今後も続くのであれば、石油製品の価格競争力は他のエネル
ギーと比べて相対的に低下し、中間留分の消費減少につながる恐れがある。従って、連産品で
ある石油製品の特性上、効率の良い石油利用を図るためには、新たな暖房給湯機器およびそれ
らを用いた石油システムなど石油製品中間留分の利用機器の開発、さらにはそれら中間留分の
輸出入をも視野に入れた検討が必要となる。しかしながら、灯油・A 重油は我が国独特の品質
規格を持っており、世界的には特異な燃料と言える。民生部門の石油機器メーカが機器開発を
する場合、これまでは国内の灯油・A 重油品質を念頭に置いたものであったが、今後、GTL 灯
油といったグローバル品質の製品の国内流入も想定されるため、高効率燃焼機器の開発にはこ
れら国内外の燃料品質の動向を把握する必要がある。
また、これまで燃焼機器については国内での販売が中心であったために、各国の燃焼用燃料
品質規格や省エネルギーに関連する燃焼機器に対する規制動向は、あまりまとめられていない。
環境対応への関心の高まりは世界的な流れであり、欧州の家電リサイクル法における「RoHS
規制」などに見られるように、日本から欧州へ輸出される燃焼機器に影響が及ぶことも考えら
れる。小型貫流ボイラは日本の法規制に基づく製品だけに、輸出自体、実施している会社はあ
るが、その数は決して多いとは言えないものの、石油ファンヒーターに関しては欧州を中心に
かなりの数が輸出されてきている。これらをきっかけに欧州の状況が徐々に日本に影響を及ぼ
す可能性も考えられる。
これらのことを背景に、本調査は我が国における今後の高効率民生用石油利用技術開発およ
び民生用燃料油性状研究開発の指標を得ることを目的として、欧米各国の燃焼用燃料品質規格、
環境規制・省エネルギー規制動向と国内外燃焼機器メーカの技術開発戦略の調査を実施した。
2.調査の内容
京都議定書の発効および原油価格高騰、電気・ガスの技術革新等の環境変化に対して、欧米・
日本の民生用燃料および燃焼機器に関する動向を把握し、他機器との競合、対抗状況、規制対
応等の取りまとめ、また開発の位置づけを明確化するための基礎調査として、日本と欧米にお
-62-
ける以下の項目を実施した。
①需要・品質動向を把握し、置かれている立場を明確にする。
②環境・省エネルギーの規制動向を把握する。
③燃焼機器メーカの最新の技術動向を把握し、日本への適用可能性を追求する。
3.調査の結果
3.1 民生用燃料油の需要・品質動向
3.1.1 需要
欧米の民生用燃料油はヒーティングオイルが使用されるが、天然ガスパイプライン網が整備され
ていることで、主要な民生用燃料は天然ガスとなっている。図 1 に欧米のヒーティングオイル
需要の推移を示すが 1)、欧州では天然ガスへの燃料転換が進んでおり、最大消費国のドイツでも
石油ボイラの更新時に約半数が天然ガスに燃料転換している現状から、今後も需要低下の傾向
は続くと考えられる。米国では 1970 年代に天然ガスパイプラインが発展し、その後石油燃料
は急速に消費が減少して、ピーク時の 1976 年(90 百万 kl)に比べて需要がほぼ半量となってい
る。この 10 年間は、横ばいに近い推移を示す米国の石油燃料需要は、EIA(Energy Information
Administration)の予測によると、主に使用するのはパイプライン網の敷設が遅れているニュー
イングランドを中心とした米国北東部に限定され、これを除く地域では既に燃料転換が進んで
いるため、全体的には今後も穏やかな減少になると明述している。
欧州
ドイツ以外
米国
Germany
百万kl
百万kl
140
120
100
80
60
40
20
0
家庭
業務
農業
60
50
40
30
20
10
0
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
2
00
4
1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002
図 1 欧米のヒーティングオイル需要の推移
日本では、業務用、家庭用の暖房用途で石油燃料が主に消費されており、欧米に比べると石
油燃料の位置づけは遥かに高く、消費量もほぼ横ばいで推移してきた
石油燃焼機器販売台数を見てみると減少傾向となっており
2)。しかし、シェア面や
3)、中でも、給湯器は電力式ヒート
ポンプ給湯器『エコキュート』が 2001 年の販売開始以降急速にその台数を伸ばしている。こ
れまでは横ばいで来た消費量も今後は減少に転じると考えられ、特に A 重油のブレンド基材で
ある LCO の需要減が懸念されるので、その対策が必要である。
3.1.2 品質
欧米の民生用燃料品質規格の詳細を参考資料としてまとめて示したが、欧米では JET 燃料、欧州で
はさらにディーゼル軽油も需要が高く、中間留分の中でも重質な留分が適用されている。欧州各国の
規格値を比べてみると、密度や硫黄分など多くの項目がドイツを基準にしてほぼ統一化されているが、
低温性状は気候や自国内の FCC(接触分解装置)や水素化分解装置等の二次装置装備率 4)の違いから各
国独自のものになっていると思われる。米国規格値は欧州に比べて重質、かつ高サルファーである。
-63-
密度と蒸留性状について、欧州規格と日本の LS AFO 市場性状を比較して図 2~3 に示したが、密
度的には平均的な LS AFO 性状で欧州規格をクリアする。一方、蒸留規格は欧州が所定の留出温度
で留出ボリューム範囲を規定しているので直接比較はできないが、蒸留曲線を算出することで比較が
可能となる。LS AFO の 10%、50%、90%留出温度を折れ線で近似した蒸留カーブで適合性を見てみ
ると、LS AFO の中でも一部の重質な試料は蒸留性状で欧州規格を満足しないと判断される。米国規
格についても、密度は欧州に比べて重いものが規定されており特に障害とならないが、282~338℃
で 90vol%の規格を考えると、欧州と同様に平均的な LS AFO 性状では当てはまるが、重質な試料で
は満足しないと判断される。
LS AFO平均
0.900
450.0
0.880
400.0
0.860
350.0
LS AFO max.
LS AFO min.
留出温度(℃)
密度(g/cm3)
@250℃主要EU規格
0.840
@350℃主要EU規格
300.0
250.0
0.820
200.0
フランス
イタリア
ベルギー
スロベニア
ルーマニア
ハンガリー
ドイツ
クロアチア
スイス
オーストリア
クロアチア
参考 LS AFO
0.800
150.0
0
20
40
60
80
100
留出vol%
図 2 欧州各国の密度規格と日本の LS AFO 性状 図 3 欧州の蒸留規格と我国の LS AFO 性状
品質動向としては、潜熱回収型ボイラのための 50ppm レベルの低サルファー化、京都議定書温暖
化ガス削減へ向けたバイオ燃料導入検討が主だった動きとして挙げられる。低サルファー化について
は、ドイツ、オーストリア、ベルギーが既に低サルファーヒーティングオイルの規格を設けている。
日本で油焚き潜熱回収型ボイラを導入する場合には、灯油はサルファーフリー化が完了しているが、
業務用にまで展開するには LS AFO の更なる低サルファー化を計る必要がある。
バイオ燃料については、フランス、イタリアが混合を認めている。フランスは混合上限を 20%と
している。バイオ混合燃料導入時には、基本的な物性に加え長期実証テスト、貯蔵安定性、低温性能
等の多くの検証が必要であり、日本も今から準備に入る必要がある。
3.2 民生用石油燃焼機器に係わる規制、奨励策
3.2.1 規制
(1)環境規制
(イ)基本法
欧州は 2001 年の CAFÉ(Clean Air for Europe)で、大気に関する全体的なレビューを実施し
ているが、固定発生源のパティキュレート規制が燃焼機器に適用される可能性がある。米国も
2002 年の Global Climate Change Initiative で、GDP 当たりの GHG 排出量を 18%削減しよ
うとしており、その中で、エネルギースター制度が有効に機能している。日本では、第 3 次環
境基本計画が本年 4 月 7 日に閣議決定され、機器のエネルギー効率向上が要求されている。
(ロ)ボイラ等の規制
表 1 に欧米日のボイラ NOx 環境規制値を比較して示す。規制値の単位が各国それぞれ異な
るので、比較できるように酸素濃度 0%における数値を右辺に記した。この結果、米国カルフ
ォルニア州の特殊な規制を除いてほぼ同一なレベルにあり、油焚きはガスに比べて高い値が設
定されていることが分かる。欧州には、EU 基準として排ガス規制値があり 5)、各国毎にさらに
-64-
厳しい規制を設定しているが、最新の機器技術はこれら規制値をクリアするレベルに達してい
る。米国では、連邦法による工業用ボイラの排ガス規制値
6) の他に、地区単位の
AQMD(Air
Quality Management Districts)が小型ボイラ等の規制値を決め、連邦がこれを承認している。
日本では、大気汚染防止法により燃料種とボイラ
規模で規制値が決められている。大気汚染防止法
に該当しない未規制ボイラは、小規模燃焼機器の
NOx 排出ガイドラインによる規制値があり 7)、一
部地方自治体では上乗せ基準が設けられている。
具体的には、東京都が認定した低 NOx燃焼機器
には認定シールが貼られる。また、横浜市のよう
に、燃料制限を実施している自治体もある。
表1 ボイラのNOx環境規制値比較
国名 法規 ボイラ
(EN 303-3グレード) 規模
ドイツ
1.BlmSchV
(1998)
規制値
≦120 kW
120mg/kWh
~410,400 Btu/h (80mg/kWh)
@O2% 0
67.8 ppm
(45.2 ppm)
オーストリア KFA-Verordnung(§15a)
≦350 kW
35 ng/J
(1995,1998)
~1,197,000 Btu/h (30 ng/J)
71.2 pm
(61.0 pm)
スイス Luftreinhalteverordnung 4~400kW
124 mg/m3
(1992) (≦350 kW ) (80 mg/m 3)
~1,197,000 Btu/h @O2% 3
70.1 ppm
(45.0 ppm)
米国 カルフォルニア州
400,001~1,000,000
なし
South Coast Rule 1146.2
Btu/h
(30ppm未満) (25.5 ppm)
@O2% 3
日本 ガイドライン
(2)省エネルギー規制 8)
NOx値 , 油焚き(ガス焚き)
50 L/h未満 80 ppm以下
80 ppm
~1,900,000 Btu/h (60 ppm以下) (60 ppm)
@O2% 0
(イ)基本法
欧州は、“Intelligent Energy for Europe”で省エネプログラムを実施中である。2005 年に
EuP(Eco-Design of Energy-using Products)指令が発表され、ライフサイクルコストを考慮し
た環境評価システムを 2007 年に法制化しようとする動きがある。米国では、Energy Policy Act
of 2005 を実施中である。この中には、エネルギー効率改善・省エネなどにエネルギー優遇税
制を盛り込んでいる。日本は 2002 年 12 月施行の改正省エネ法により、一部の燃焼機器に基準
エネルギー効率を設定している 9)。
(ロ)エネルギー消費効率基準とラベリング制度
欧州では、EU 指令(92/42/EEC)により、給湯器、ボイラに消費効率基準を定めており、ボイ
ラは標準、低温、熱回収型の 3 種について、定格出力により数値が設定されている。ラベリン
グは、EU 指令に基づくものと、国や地域独自のものが存在する。米国では、連邦最低効率基準
により、給湯器、炉、ボイラに基準値が設けられているが、基準値は給湯器が Energy Factor
値、ボイラが AFUE(Annual Fuel Utilization Efficiency)値と機器によって異なる。ラベリン
グについては、エネルギーガイドラベル制度により、機器性能(年間エネルギー消費量、効率等)
を機器に貼付する必要がある。日本では、改正省エネ法により、ストーブ、石油・ガス温水器に
ついて、基準エネルギー効率がそれぞれ設定されおり、この規制は 2006 年度から有効となる。
その他に、米国 EPA が主体となって 1992 年から開始し、1996 年からは DOE との協力に
より運用されているエネルギースタープログラムがある。ボイラでは AFUE 値が 85%を超え
るものはエネルギースター適合品としてラベルが貼付される。日本もこのプログラムに参加し
ており、経産省の代行として省エネセンターがその運用を担当している。
3.2.2 奨励策
欧州は奨励策に統一基準を持たず、各国が独自の対策をとっている。英国は Clear Sky
Policy10)で住宅の改修、太陽熱給湯器、BDF 等に補助金を出しており、ドイツでは省エネリフ
ォーム支援として、復興金融公庫の融資制度を実施したことがある 11)。ベルギーでは、高性能
ボイラ交換時に補助金を出したことがある
12) 。米国では、Federal
Tax Credits for Energy
Efficiency として、住宅の改修(高効率冷暖房システムの設置を含む)、太陽エネルギーシス
テムや燃料電池の設置等に連邦税額控除が開始された 13)。日本では、天然ガスへの燃料転換や
各種の高効率機器に補助金が支給されている。
-65-
3.3 民生用石油燃焼機器の技術開発動向
3.3.1 欧米の技術開発動向
(1)Heating Oil 関連の団体・組織
欧州では日本の石油連盟にあたる Europia と燃焼機器メーカも加わる Eurofuel、Cedicol が
石油燃焼機器の普及を促進する立場にあり、Eurofuel が販売促進、Cedicol は技術的な活動に注
力する。Eurofuel の配下にはドイツ・オーストリアの IWO(Institut fur Wirtschaftliche
Oelheizung)、英国の OFTEC(Oil Firing Technical Association)等の各国ヒーティングオイル
協会が所属するなど、民間主導型の組織形態となっている。対して、米国は政府主導型の形態
を取り、DOE が 2001 年に低サルファー化を指向するロードマップを策定し、それに沿った形
で政府機関の NORA (National Oilheat Research Alliance)や BNL(Brookhaven National
Laboratory)が民間企業と共同してヒーティングオイル関連の技術開発を推進している。
(2)Heating Oil 関連の技術開発
米国 NORA はカナダや欧州の研究機関を混じえて毎年技術シンポジウム 14)を開催しており、
この内容で現状の Heating Oil に関する技術開発動向が読み取れると考えられるため、以下に
シンポジウム内容を含め、欧米の開発状況を分野毎に整理して、技術動向を示す。
(イ)省エネルギー技術
省エネタイプの潜熱回収型給湯器は、日本ではガス焚きが国の補助金助成もあって「エコジ
ョーズ」として普及を広めるが、欧州では、潜熱回収型油焚きボイラが 1990 年に英国 Yorkpark
社より 90%前後の高効率のものが市販された経緯を持ち、潜熱利用が比較的早期に取り上げら
れ、製品が市販されている。現在、この種のボイラは売上全体の約 10%前後とそれほど多いも
のではないが、英国で 13 社、ドイツでも 11 社がこの種のボイラを製造、販売している。一例
として、図 4 に独 Rotex 社の一体型二次熱交換器を配したオイルボイラを示すが、バーナ以外
はガス焚きと全く同一の仕様が適用されている。また、二次熱交換器の形状や材質には、各社独
自の工夫が見て取れる。
表 2 は発熱量に関する石油とガスのパラメータ比較を示している。構成する H/C(水素/炭素)
比の違いから、油焚きの場合はガスに比べて発生水蒸気量(0.86 l/kWh)が少なく、また露点温度
も 47℃の低温を必要とするので、潜熱回収による効率アップのメリットはガスに比べて小さい。
また、潜熱回収型とすることで約 700 ユーロ/台のコスト高となり、投資回収に 8~12 年を要する
が、利用者には、ボイラ寿命を 20~30 年と考えると導入メリットはあると認識されているよ
うである。
Rotex社(独)
アルミ壁とSUSパイプの接合
表2 発熱量に関する石油とガスのパラメーター比較
Unit
kWh/l or per Nm 3 10.6
Net calorific value
kWh/l or per Nm3
Density
油焚きは3タイプ
12-20kW, 20-27kW, 25-35kW
4659, 5097, 5698/ユーロ
図4 一体型の熱交換器を配した
潜熱回収型オイルボイラー
Oil
Gross calorific value
Ratio of gross to lower heating value
Amount of condensate
Dew point temperature (based to lambda
of 1.2 and 50% humidity)
-66-
Gas
11.1
10.0
10.0
kg/l or kg/ Nm
0.85
0.754
[/]
1.06
1.11
l/kWh
0.86
1.63
°C
47.0
56.3
3
その他の省エネルギー技術要素として、小型熱電併給システムに各種エンジンを配した
Micro-CHP(Cooling Heating and Power Generation,図 5)や High and Low の Two stage 運転
で高いエネルギー消費効率とターンダウン比の獲得を目指した燃焼システム等の開発が挙げら
れる。
(ロ)環境関連技術
石油需要には、NOx の排出抑制が他のエネルギー間の競争に重要な位置を占めると考えられ、
NOx 削減に係わる研究開発が精力的に推進されている。バーナシステムとして、再循環バーナ
や多孔質体ラジアントバーナの開発(図 6)、さらには水エマルジョン燃焼による低 NOx 化等を
検討し、欧米の規制値を満足する性能がそれぞれ達成されている。
Balanced flue
Supplementary
burner
スターリングエンジンによる発電・空調システム
燃焼性向上による低NOx、低CO化
Heat
exchanger
Ceramic radiant burner(30kW)
Stirling engine
And alternator
Oil flame inside
Combustion fan
図6 低NOx放射バーナの開発
図5 スターリングエンジンの実用化例
Micro-CHP [Cooling Heating and Power Generation] – BG GroupのMicrogen社
NOx – How Low is Achievable with Oilheating Combustion Systems
(ハ)バイオ燃料・燃焼技術
バイオ関連の研究開発は、欧米ともにプロジェクトの体制で行われることが多い。欧州では
2001~2005 年にバイオ混合燃料仕様の 2~20kW 級バーナ燃焼システム開発を実施している。
民間 5 社と 4 大学の各国共同体制で行われ、メチル化された植物油や回収調理油等のバイオ燃
料を通常のヒーティングオイルと 5~20%混合調製したバイオ混合燃料を使用する際のバーナ
システムの開発が実施された。部分酸化燃焼して気化させる Vaporizer のあとで、気化ガスと
二次空気を混合させて、Al2O3 と SiC 製フィルタを備えた2段ポーラスバーナに導き、低 NOx
と低 CO 燃焼させ、その後 Condensing zone に導かれて、排ガス中の水蒸気を凝縮水にまで冷
却して潜熱回収する流れになっている。好適な Vaporizer 設計によりバイオ燃料でも 1:10 のタ
ーンダウン比を可能にしている。
一方、
米国では NORA や BNL がカナダの CANMET Energy Technology Center を交えて、
バイオ混合燃料の品質、燃焼および排ガス特性に関するデータ採取を精力的に実施している。
ブレンド比率についてはほぼ検証できたとして、今後は寒冷地での冷温テストや安全性を含め
た実用性能チェックが計画されている。
3.3.2 国内の冷熱源器の技術動向
表 3 に、ガス・電気を駆動源とする省エネルギー指向の民生用冷熱源機を示すが、これまで
暖房は灯油、給湯はガスが独占していた給湯暖房機器の勢力分野に、ヒートポンプや熱電併給
するコージェネレーション等のガスや電気機器が次々と開発・商品化される現状に対して、石
油燃焼機器の商品化が遅れている。灯油需要低下の要因解析として、灯油、都市ガス、電気の暖
房価格を比較して見ると、昨今のエアコンは COP(Coefficient of Performance)は 6 を超えるも
-67-
のも市販されている。COP 4 以上の電気機器に対しては、現状の灯油価格では暖房コストが不
利と試算され、高効率石油燃焼機器の開発が急務である。
図 7 は冷暖房、空調、給湯器の開発の流れを模式化して示しているが、省エネルギーを指向
するヒートポンプやコージェネレーションに共通して係わる蓄熱技術が重要な位置づけにある
ことに気づく。
「エコキュート」は安価な夜間電力を利用して温水貯蔵するもので、電力を顕熱
蓄熱する電力平準化技術とも言える。また、
「エコジョーズ」はこれまで活用されていなかった
排熱の潜熱を回収する技術である。相変化を伴う潜熱を利用する熱貯蔵技術は、すでに、氷蓄
熱による冷房空調や酢酸ナトリウム等の蓄熱体による床暖房が実用化されているが、給湯に係
わる 60~90℃の温度域で有効に機能する蓄熱システムは開発されていない。設置場所に制約を
受ける民生用冷熱源機にとって、貯蔵槽の小型化が期待されるこれら技術は将来の水素燃料電
池にとっても魅力的な技術要素と考えられ、今後の技術開発の重要な指針を与えるものと判断
される。
表3 省エネ指向の民生用冷熱源機
ガ ス 省エネルギー指向
ヒートポンプ
電 気
ヒートポンプ 冷熱 潜熱回収型 ヒートポンプ ガスエンジン スターリング
エンジン 給湯器
源機 給湯器 冷凍機
コージェネ
「エコジョーズ」 「エコウィル」 コージェネ
「エコキュート」
圧縮式 (EHP,GHP,KHP)
蓄熱技術
吸収式
吸着式
様式 ・吸収式 ・吸着式 熱負荷平準化技術
・圧縮式(CO2)
コージェネレーション
顕熱蓄熱
潜熱蓄熱
(相変化に伴う潜熱を用いた熱貯蔵)
メーカ
・リンナイ ・デンソー
・本田技研
・リンナイ
・デンソー
・パロマ ・本田技研 ・長府製作所 ・アイシン
・三菱電機
・高木産業 ・三洋電機 ・ノーリツ ・三洋電機
・コロナ
・ノーリツ ・矢崎総業 ・日立金属
・東芝 ・三洋電機
・ガスター ・日立空調 ・リンナイ ・三菱電気
・ダイキン工業
・荏原冷熱 ・長府製作所
・日立空調システム
・積水化学工業 ・松下電気産業
ディーゼルエンジン
ガスエンジン
スターリングエンジン
燃料電池
図7 冷暖房、空調、給湯器の開発流れ
表 4 は民生用石油燃焼技術の開発として、項目毎に分野、対象技術および開発ポイントを、
また表 5 には各冷熱源機の技術課題をまとめて示している。熱利用分野では先行するガス燃焼
技術の後追いになるが、これらの石油利用技術の早期対応策は不可欠であり、それらに付随す
る蓄熱技術の構築も欠かせない。環境対応技術ではバーナや触媒燃焼技術等にかなり進展が認
められるものの、ターンダウン比の向上や長寿命ハニカム触媒の開発、さらには燃焼状態を監
視・管理する高感度センサ開発も高効率燃焼システムの確立に向けて必要である。
表5 民生用石油系冷熱源機の技術課題
表4 民生用燃焼技術の開発
課 題
項目 分野 対 象 省エネルギー
吸収式冷凍機 ・H2O-LiBr系は水冷媒なので氷点下のブライン取り出しに難。
・システムが複雑となる二重効用、三重効用での機器コストの低減
・冷媒の凝固点を下げる共沸冷媒の開発 開発ポイント 熱利用技術
給湯暖房 潜熱回収型 凝縮水の中和、耐腐食 中和システム
冷房・冷凍 ヒートポンプ(吸収式) 移動媒体
共沸化合物
(吸着式) 吸着材 高速吸脱着
コージェネ
ディーゼルエンジン NOx、ばいじん スターリングエンジン 高温側熱交換器
燃焼技術
環境
蓄熱
潜熱蓄熱 高温蓄熱材 触媒脱硝システム
小型、低コスト化
60-90℃、低コスト
バーナ 低NOxバーナ 微墳油粒径、高圧噴霧 ターンダウン比 気液混合 触媒燃焼 ハニカム触媒、長寿命 活性金属量の低減
センサ 青炎センサ、COセンサ 紫外線検知センサ 高感度UV検知能 将来に繋がる技術開発
吸着式冷凍機 ・水吸着質では氷点以下の冷熱出力が出来ない。
・吸着材充填層の有効熱伝導率の向上
・吸着材ー伝熱面間の接触抵抗の低減 潜熱回収型給湯機 ・希硫酸耐性、低コスト、小型コンパクトな2次熱交換器の開発
・低コストな中和システム ・ドレン材質、廃水処理
ディーゼルエンジン ・排ガス浄化用後処理触媒技術の開発 スターリングエンジン ・製作コストの安価なエンジン開発。エンジンの小型軽量化 潜熱蓄熱 ・数分オーダで高放熱出力でき、低コストな高温蓄熱システム開発。
・温水貯湯槽として、70-85℃の蓄熱材の開発
適用事例:CGSの低温排熱駆動で、氷点下のブラインが供給できれば、低温空調を必要と
する食品加工、流通業、倉庫業等にも展開が可能となる。
-68-
4.調査の成果
4.1 民生用燃料油を取り巻く環境と業界の取り組み
欧米では、天然ガスパイプライン網の発達により、すでに石油系燃料は主燃料としての立場
を失っており、欧州は暖房需要の 20%強、米国では 10%弱を占めるに留まり、一次エネルギー
の主体は天然ガスとなっている。その中で、パイプライン未整備地域や石油専焼ボイラ保有建
物を中心に需要を賄ってきた。
このような環境にあって、欧州ではこれまで、ヒーティングオイル業界団体が、Eurofuel/
Cedicol を中心に燃焼機器メーカを巻き込んで普及活動を行ってきた。また、各国にはドイツ
の IWO、英国の OFTEC 等の団体が設立され自国内の普及にあたっており、潜熱回収型ボイラ
等の高効率機器の普及活動、エンジニア教育、市場調査、ユーザー啓蒙活動等を展開している。
米国においても、ヒーティングオイル需要減に対する危機感が強まり、2001 年に小売業者の
団体として NORA が設立され活動を展開している。その活動資金は加盟メンバーの売上の一
部を拠出する形で運営されている。しかしながら、石油燃料の退潮に歯止めをかけるまでには
至っておらず、現在の活動は普及よりむしろ燃料転換阻止に向けた活動を展開しているように
感じられる。
我が国の民生用エネルギーを見渡すと、家庭用給湯分野では、電力ヒートポンプ給湯器『エ
コキュート』の攻勢の前に他のエネルギー機器は後塵を拝している感がある。これに対し、ガ
ス業界は潜熱回収型給湯器、ガスエンジン給湯器を立ち上げて何とか対抗する姿勢を示してい
る。他方、石油業界は家庭用については対抗手段を持てていないのが現状と云わざるを得ない。
現在まで横ばいできた需要も減少に転じる可能性が高く、原油高騰はその傾向に拍車をかける
ことになることも考えられる。これらを防止するためには欧米の対応を参考に対策を講じる必
要があり、我が国においても、機器メーカを巻き込んだ普及推進体制も考慮すべきと考える。
欧州では、京都議定書の目標達成に向け温室効果ガス削減を最優先課題として、環境負荷の
少ない高効率燃焼機器開発、天然ガス、バイオ、ソーラーシステム等の導入に積極的に取り組
んでいる。我が国の石油業界においても、最新省エネ技術を生かした製品を市場に送り出すこ
とが急務である。
4.2 提言
欧州においては、ガスおよび石油を利用する潜熱回収ボイラは近年高い比率で設置されるよ
うになっている。我が国においても、
『住宅・建築物高効率エネルギー推進事業』の補助金制度
を活用しガス潜熱回収給湯器は既に市販されており、石油系潜熱回収給湯機の早期製品化が必
要と考える。さらには、吸収式、吸着式ヒートポンプ、スターリングエンジン等の高効率機器
の開発に着手する必要がある。これらの技術は基本的な性能を発揮できる段階には達している
が、市場に投入するまでには、小型化、利便性向上、効率アップ、およびそれらに伴うコスト
低減等、クリアしなければならない課題が残されている。吸収式についてはガス機器が市販さ
れており直ちに開発に着手できるが、その他については事前に深堀調査を行い、効率限界、投
資規模等を確認することが必要である。また、蓄熱技術についても重要な開発テーマと考えて
いる。これは、熱発生と熱負荷を平準化するもので、熱電併給型コジェネ、温水・冷凍機、CO2
ヒートポンプ等の様々な熱利用分野で活用可能なものであり、将来的には、燃料電池にも展開
できる。
燃料品質面からは、欧米では既にバイオ混合燃料について既に規格化、もしくは研究段階に入って
-69-
おり、我が国においても対応が必要となる可能性がある。実用化までには、低温性能、貯蔵安定性、
輸送、実機での実証テスト、環境性能等、多くの項目を確認する必要があり、現時点から対応を考慮
すべきである。
最後に、既存技術についても実用性能を向上させるための研究が不可欠である。石油産業活性化セ
ンターは低 NOx バーナの開発で実績を持つが、その機能充実が必要である。欧州においては、CAFE
において大気に関する全体的なレビューが行われており、車に適用されているパティキュレートに関
する規制が燃焼機器にまで拡大される可能性もあるので、低 PM バーナの開発も望まれるところであ
る。低エアー比の省エネバーナ、触媒燃焼技術、低負荷運転時の燃焼制御についても取り組む必要が
あると考えられる。また、ガソリンと中間留分との需要ギャップにより余剰になることが想定される
LCO の影響を把握しておくことや青炎センサを開発もしくは廉価に調達する方策等も検討が必要と
なる。
引用文献
1) Eurofuel H.P. (http://www.euro-fuel.net). Energy Information Administration,
“International Energy Annual 2003”, H.P. (http://www.eia.doe.gov/).
2) 日本エネルギー経済研究所, エネルギーバランス基本表 2005.
3) 日本ガス石油機器工業会, H.P. (http://www.jgka.or.jp/)、日本冷凍空調工業会, H.P.
(http://www.jraia.or.jp/).
4) OGJ Worldwide refining (http://ogj.pennnet.com/datastats/worldref)
5) C.Hübner、R.Boos、Vienna, Oktober 1998、”Emissions of Oil and Gas Appliances and
Requirements in European Standards”, http://www.verbraucherrat.at /download/
gasoil.pdf
6) RULE 411, NOX FROM BOILERS, PROCESS HEATERS AND STEAM
GENERATORS Adopted 02-02-95(Amended 11/7/96, 01/09/97, 7/22/99, 10/27/05)
7)
H13 年度版環境白書, http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/img/213/tb2.1.1.12.gif
8) 省エネセンター、
「海外における機器のエネルギー消費効率の法的基準に関する調査報告書
(2005 年 3 月)) http://www.eccj.or.jp/world/standard/05/0-00.pdf
9) ECCJ 省エネ法令集 http://www.eccj.or.jp/law/index.html
10) L.D.Shorrock, Housing Centre, BRE Environment “Reducing Carbon emissions from
the UK housing stock”.
11) 日本政策投資銀行フランクフルト駐在員事務所資料、2005 年 8 月、
「ドイツにおける運輸・
民生部門の温暖化対策」
12) JPEC,2005,「家庭用先進型石油機器システムの経済性および技術開発に関する調査報告
書」
13) Energy Star H.P
http://www.energystar.gov/index.cfm?c=product
14) NORA H.P http://nora-oilheat.org/PDF/24273.pdf ;
http://www.pubs.bnl.gov/documents/25281.pdf;
http://nora-oilheat.org/PDF/2004Symposium.pdf
-70-
参考資料
表
欧米における民生用燃料品質規格
-71-
9.「原油価格高騰下における非在来型“フィードストック”の動向」
に関する調査
企画調査部
主任研究員
㈱ 新 日 石 総 研
矢島
章
高橋力裕
1.調査の目的・背景
原油価格の高止まりと中東地域の原油増産余力への疑問、特に軽質原油の安定的調達に
対する懸念等を背景に、カナダのオイルサンド、ベネズエラのオリノコタール等いわゆる
非在来型原油と、原油・天然ガスの生産増加に伴い今後世界的に増産が見込まれるコンデ
ンセートが注目を集めている。
現在、我が国製油所において通常フィードストックとして利用していない非在来型原油
について改めてその利用可能性を検討し、利用上の課題を整理することにより、我が国石
油精製業のフィードストック調達の選択肢拡大、中長期的な原料調達のコンティンジェン
シー戦略に資するものとする。
また、カナダのオイルサンドから生産される合成原油などは、その導入のために巨額の
資金が必要となることも考えられ、行政との協調体制を通じて国際協力銀行などの金融支
援制度の利用を検討するために、本調査結果が活用されることが見込まれる。
なお、非在来型フィードストックの開発・生産が原油需給・価格動向に大きく影響され
ることから、調査の前段で現状高油価の要因を分析し、需給と価格の中長期展望を行う。
昨年度は、環境対応型石油関連調査事業として、
「世界の劣質原油の供給安定性と活用方
法に関する調査報告書」(PEC‐2004P‐02)がとりまとめられた。これに今回の調査を
合わせることで、我が国製油所で従来処理していなかったフィードストックの動向につい
ての調査を完了することとなる(図 1.1)。
図 1.1 調査対象原油
平 成 16年 度 調 査 実 施 済 み
高 全 酸 価 原 油:TAN 0.5 超
高 硫 黄 原 油 :硫 黄 分 3%超
問題原油
超重質原油
API 25°未 満
現 状 我 が国 で処 理している原 油
タール類
・オイルサンド
・オリノコタール
・オイルシェール
NGL・コンデンセート
合成原油
本調査対象
-72-
2.調査の内容・結果・成果
2.1
現状高油価の要因分析と需給・価格の中長期見通し
2.1.1
現状高油価の要因分析
今回の原油価格高騰は、白油を中心とした石油製品需給のタイト化と、原油、特に軽質
原油の需給タイト化見通しによると考えられる。具体的には図 2.1-1 のとおりであるが、
これらの要因が油価高騰の相場観を形成し、投機資金の集中的投入によって増幅されたも
のと言える。
図2.1-1 原油価格高騰の要因分析
需要増大
(白油中心)
分解設備装備拡大
原油需要増加
(軽質中心)
原油処理増加
環境規制強化
精製能力拡大遅延
製油所稼働率上昇
精製マージン下落懸念
精製余力縮小
軽重格差拡大
原油生産増加
経済性最優先
2.1.2
産油国の投資不足 産油国の消極的な
外資への鉱区開放
原油価格上昇
原油生産余力縮小
原油生産能力拡大遅延
投機資金
在庫圧縮
精製能力による限界
原油需給タイト化
(見通し)
製品需給タイト化
製品価格上昇
地政学的要因
原油ネットバック価格上昇
メジャー等の上流投資不足
利益の株主還元を優先
(配当・自社株消却)
中長期需給・価格見通し
白油を中心とした石油製品需要は輸送部門に牽引されて今後も拡大する一方、製品需要
に見合う精製能力の拡大については環境規制や石油会社の精製マージン下落懸念による投
資に対する慎重姿勢などが改善されなければならないが、今後の見通しは不透明であり、
厳しい状況と思われる(図 2.1-2)。
図2.1-2 部門別石油消費見通し
図2.1-3. 石油供給見通し
百万BD
百万B
140
120
120
100
10.2
100
80
輸送部門
産業部門
業務部門
家庭部門
60
40
20
80
2.2
60
32.3
40
15.2
20
0
2002
2010
2015
2020
2025
11.4
出所:EIA International Energy Outlook 2005
16.3
16.4
20.2
13.5
2004
2030
-
年
プロセスゲイン
非在来型原油
OPEC
発展途上国
市場経済移行国
OECD
57.2
年
出所:IEA World Energy Outlook 2005より作成
-73-
原油需給についても中東情勢等地政学的リスクが拡大する中、中東依存度の拡大、産油
国の鉱区開放に対する消極的な姿勢、石油会社の株主への利益還元優先姿勢等から、今後
も大幅な緩和は見込めず、中長期的に見て原油価格が現状から大幅に下落する可能性は低
い(図 2.1-3)。
今後原油価格は中東情勢、ハリケーンなどの自然災害、季節要因、投機資金の動きなど
により短期的には大きく振れる可能性もあるが、2030 年頃まで 50$/B 台(WTI 現在価
値)を中心として推移するものと考えられる。
2.2
NGL・コンデンセート
2.2.1
NGL・コンデンセートとは
「NGL・コンデンセート」は天然ガスの生産・処理及び原油処理に随伴する常温・常圧
で液体の炭化水素であり、実質的に超軽質原油の一種である。従って、我が国の石油精製
及び石油化学工業でも既にフィードストックとして使用しており、非在来型原油とはその
位置づけが異なる。
なお、我が国では通常 NGL とコンデンセートという用語は特に区別されていない。
2.2.2
コンデンセートの性状
コンデンセートの特徴は、ナフサ留分が50%含まれており比重が軽い点にある(図
2.2-1)。
図 2.2-1
コンデンセートの品質の特徴
製油所での
生産油種構成(日本)
原油
コンデンセート
100%
80%
ナフサ留分
灯油留分
軽油留分
重油留分
残渣留分
60%
40%
分解精製
20%
0%
A/ Lからの各留分得率
生産油種構成(日本)
Sou th Pars Cond.
からの各留分得率
新日石総研作成
2.2.3
輸入・利用状況
日本のコンデンセート輸入量は、2004 年実績で約 13 万 BD であるが、これは総原油輸
入量の約3%に過ぎない(表 2.2-1)。輸入先は中東湾岸地域が約 80%を占めており、特に
天然ガスの開発に注力しているイラン・カタールからの輸入量が多い(図 2.2-2)。
石油各社は製油計画の製品バランス、経済性により購入を決定し、特にナフサが不足す
る場合に使用している。現在価格は軽質原油にプレミアムを乗せたものとなっている。
-74-
なお、一部金属や硫黄分等が問題になるコンデンセートがある。
表 2.2-1
2000年
輸入量
輸入地域
[百万KL] [千BD]
中東湾岸
3.0
52
アジア
0.9
16
大洋州
0.8
13
アフリカ
-
-
合計
4.7
81
内 石化用
(石化/合計)
<参考>
原油輸入
図 2.2-2
日本のコンデンセート輸入実績
構成比
64%
20%
16%
0%
100%
2004年
輸入量
[百万KL] [千BD]
6.0
104
0.5
8
0.3
4
0.6
11
7.4
127
2004 年
構成比
オマーン
1%
81%
6%
3%
9%
100%
1.9
33
( 40%)
1.7
30
( 23%)
250.6
4,318
-
243.4
4,194
-
出所:石油連盟「石油資料月報」
2.2.4
コンデンセートの日本向け輸出国
南方
6%
大洋州
3%
アフリカ
9%
イラン
34%
サウジアラビア
7%
UAE
8%
カタール
32%
出所:石油連盟「石油資料月報」
供給見通し
中東湾岸諸国では、膨大な規模の天然ガス開発計画が進行しており、随伴するコンデン
セートについても生産数量の増大が見込まれている(表 2.2-2)。
表 2.2-2
スエズ以東のコンデンセート生産と輸出余力
(単位:百万BD)
生 産
輸出余力
出所:FACTS
2.2.5
2001
2002
2003
2008
2013
実績
実績
実績
見通し
見通し
1.5
0.4
1.6
0.5
1.8
0.6
3.8
1.3
6.0
2.1
フィードストックとしての利用上の課題
今後とも NGL・コンデンセートをフィードストックとして利用するに当って、次のとお
りまとめることができる。
①
品質的には、ナフサ留分を多量に含む「超軽質原油」であり、ガソリン・石化原料
ナフサの需要の伸びに伴い進む「需要の軽質化」に適合する性状である。
②
大生産国では、コンデンセート・スプリッターを設置し、石油製品に加工し、輸出
する動きもある。
③
需要に適合する原油であるため軽質原油にブレミアムを乗せた価格となり、経済性
に問題がある。今後とも価格動向に注視する必要がある。
④
コンデンセートには重油・潤滑油等の原料となる重質分が含まれていないため、使
用量には限度がある。また、現状での経済性も考慮すると、使用できる量は、原油
処理量の数パーセント程度と考えられる。
-75-
2.3
オイルサンド
2.3.1
オイルサンドとは
「オイルサンド」はカナダ西部アルバータ州の北方に位置する Athabasca、Cold Lake、
Peace River の3地域に多く賦存する重質・高粘度の油分(ビチュメン)を含む砂であり、
石油を含んだ油層が地殻変動で地表近くに移動し、地下水との接触や生化学反応によって、
軽質分を失ったものと考えられている。
確認埋蔵量は 1,780 億バーレルと推定され、サウジアラビア(2,640 億バーレル)に次
ぐ世界第2位の埋蔵量である。この確認埋蔵量は初期埋蔵量(1 兆 6,330 億バーレル)の
11%に過ぎず、今後採掘技術が進歩することによって更に増加する可能性を秘めている。
2.3.2
オイルサンド原油の生産状況・供給見通し
(1)ビチュメンの生産量
現在のオイルサンド開発の主流は露天掘りであり、2004 年のビチュメン生産量約 99 万
BD のうち、3分の2が露天掘りで開発されている。しかし、確認埋蔵量のうち露天掘り
で採掘可能な量は 20%であるため、残りの 80%を採掘するには油層内回収法の技術が必
要とされている。AEUB(Alberta Energy and Utilities Board)は、2014 年の露天掘りと油
層内回収合わせて、255 万 BD のビチュメンが生産されると予測している(図 2.3-1)。
(2)合成原油の生産量
現在、合成原油を生産しているのは、Suncor、Syncrude 及び Shell Canada の3社で
あり、カナダ国内と米国向けに販売されている。AEUB によれば、2004 年の合成原油出
荷量は 58.5 万 BD であり、2015 年の合成原油の出荷量は 88.9 万 BD と推定されている(図
2.3-2)。
図2.3-1 全ビチュメン生産量と予測
図2.3-2 合成原油の生産量予測
3,000
1,800
実績 予測
1,600
2,500
合成原油として出荷
1,400
2,000
露天掘り
1,500
千b/d
油層内回収
千b/d
希釈剤としてブレンド
1,200
1,000
800
600
1,000
400
500
200
0
0
2001
2003
2005
2007
2009
2011
2013
2001
2015
2003
2005
2007
2009
2011
2013
2015
出所:CAPP (Canadian Association of Petroleum Producers), Canadian Crude Oil Production and
Supply Forecast 2005-2015
2.3.3
オイルサンド原油(合成原油・希釈ビチュメン)の性状
アラビアンヘビー原油と比べて、合成原油の硫黄分は非常に少ないが、希釈ビチュメン
(ビチュメンをコンデンセート、または合成原油で希釈したもの)の硫黄分は多い。軽油
留分のセタン価は合成原油、希釈ビチュメンともに低く 40 前後である。
また、合成原油は減圧残油がほとんどないが、軽油留分と減圧軽油留分が多い(表 2.3-1)。
-76-
表2.3-1 各種原油の性状比較
油 種
API比重
硫黄分
軽油のセタン価
FCCフィード
窒素分
残渣油
金属分、Ni+V
収率
~C4
軽質ナフサ
重質ナフサ
灯油留分
軽油留分
減圧軽油
減圧残油
希釈ビチュメン アラビアン
DilBit
ヘビー
22
28
3.5
2.8
39
51
合成原油
wt%
33-34
0.2
42-43
wt%
0.081
0.119
0.05
ppm
vol.%
42-56
520
240
0.8
13.2
10.1
8.1
5.7
28.3
34.2
1.9
6.5
12.3
13.9
8.4
29.3
28.0
1.6
6.9
15.1
18.5
13.0
41.5
3.8
出所:森田裕二,杉浦友紀:IEEJ,2004 年 10 月
2.3.4
我が国の輸入の可能性
太平洋岸から出荷すべく P/L 建設計画がいくつかあり、2010 年完成予定の Enbridge 社
GatewayP/L 計画が有力である(表 2.3-2)。40 万 BD(将来 83 万 BD)の容量を予定して
おり、2010 年には、そのうち 30 万 BD が東アジア方面に輸出される可能性があり、うち
20 万 BD については中国が覚書を調印している。
2015 年のオイルサンド原油の生産量増加分(2005 年比較)は、170 万 BD と見込まれ、
その内の半分が輸入可能と仮定すると 80 万 BD に上るが、輸入可能量は P/L 建設による
ところが大きい。
表 2.3-2
計画されている太平洋岸からの輸出用パイプライン
容
Enbridge (Gateway)
Terasen (TPTM TMX 1) Phase 1, Phase 2
Terasen (TPTM TMX 3 Southern Option)
Terasen (TPTM Northern Option)
量(千 BD)
400
40
400
550
完成予定時期
2010 年
2008 年
2010 年
2010 年
出所:CAPP (Canadian Association of Petroleum Producers), Crude Oil Pipeline Expansion Summary,
February 2005
2.3.5
フィードストックとしての調達上・品質上の課題
合成原油を輸入した場合は、セタン価、煙点が問題になり、混合量を限定して処理する
か、芳香族核水添処理が必要となる。また、希釈ビチュメンを輸入した場合は、合成原油
と同じ課題に加えて残油の分解処理が必要となる。
-77-
2.4
オリノコタール
2.4.1
オリノコタールとは
「オリノコタール」とはベネズエラにおける石油資源の内、オリノコ川流域の通称「オ
リノコオイルベルト」で産出される API 比重 10 以下の超重質油(Extra-Heavy Crude)
を総称している。
確認埋蔵量はサウジアラビアに匹敵する 2,360 億バーレルと推定されている。性状的に
は API 比重 8~10 で、カナダのオイルサンドとほぼ同様又は若干重質であるが、油層深度
が 500~1,000m と深いため、油層温度が 50℃と高く、加温無しで生産可能である。
ベネズエラにおける原油生産は、今後埋蔵量の多いオリノコベルトの超重質油への依存
を高めざるを得ない状況が推察され、同国政府にとってもオリノコタール開発が重要政策
となってくるものと思われる。
2.4.2
生産・開発状況
現在、表 2.4-1 に示す 4 プロジェクトで合成原油を生産し、各プロジェクトを推進して
いる石油会社の製油所等で処理されている。
表 2.4-1
オリノコタール既存プロジェクトの概要
プロジェクト名
Sincor
Petrozuata
Cerro Negro
Hamaca
(展開地域)
(Junin)
(Junin)
(Carabobo)
(Ayacucho)
PDVSA(38)
PDVSA(49.9)
PDVSA(41.7)
PDVSA(30)
Total(47)
Con.Phillips(50.1)
EM(41.67)
Con.Phillips(40)
P.Canada(16.67)
Chevron(30)
参加企業
(出資比率)
Statoil(15)
可採埋蔵量
24 億 bbl
14 億 bbl
16 億 bbl
21~24 億 bbl
15.5 万 BD
10.6 万 BD
10.8 万 BD
※18.0 万 BD
2000 年 12 月
2001 年 1 月
2001 年 5 月
2003 年 5 月
42 億ドル
24 億ドル
20 億ドル
40 億ドル
API 比重
32
20/25
16
25
粘度(cst)
<10
50
50
<10
硫黄(wt%)
<0.5
3.5
3.5
<0.5
一般市場
自社で精製
自社で精製
一般市場
生産量(改質原油)
生産開始時期
投資額
合成原油の性状
合成原油供給先
出所:新日石調査資料他
2.4.3
生産見通し
DOE ではオリノコタール(超重質原油)生産コストについて 10~15$/B と想定
しているため、今後の原油価格動向に拘わらず、大きな増加を予測している(図 2.4-1 )。
なお、新規開発に向けて現在7件のプロジェクトが検討されているが、いずれも米国企
業は関与していない。
-78-
図 2.4-1 DOEによる超重質油(オリノコタール等)生産見通し
単位:百万BD
3.5
3.0
2.5
低値ケース
2.0
基準ケース
1.5
高値ケース
1.0
0.5
0.0
2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年
2.4.4
オリノコタール・合成原油の性状
オリノコタールからの合成原油の生産方式は、油田から生産後軽質ナフサで希釈され、
ディレイドコーカーで熱分解し、軽質化後必要に応じ水素化処理される。既存4プロジェ
クトの合成原油の比重、粘度、硫黄分は表 2.4-1 のとおりであるが、一般に熱分解で製造
された石油製品は、芳香族含有量が高いため、ガソリン留分のオクタン価には有利に働く
が、灯油留分の煙点や軽油のセタン価には不利に働く。公表されている Sincor のデータで
は、灯油煙点 16(WTI、Brent 等は 22)、軽油セタン価 39(WTI、Brent 等は 50 以上)
と低い数値を示しており、需要サイドでの対応が必要となる。
2.4.5
フィードストックとしての調達上・品質上の課題
(1)調達上の課題
ベネズエラでは現在反米姿勢が強まるとともに、資源ナショナリズムが高まっている。
これに伴い外資に不利な法規制、税制、ロイヤルティーの見直しが行われている。
カナダのオイルサンドに比べれば、地政学上のリスクが高い。また、今後油価の上昇及
びその結果生ずる世界各国の非在来型フィードストックに対する需要の増加次第では、税
率やロイヤルティーが更に引き上げられる可能性が考えられるため、生産地から遠距離に
位置する我が国における経済性について十分検討する必要が有るものと思われる。
(2)品質上の課題
オリノコタールから製造される合成原油を輸入した場合は、カナダのオイルサンドから
製造される合成原油同様、セタン価、煙点が問題になり、混合量を限定して処理するか、
芳香族核水添処理が必要となる。
2.5
オイルシェール
2.5.1
オイルシェールとは
「オイルシェール」とは、石油・天然ガスの根源物質とされるケロジェンを多量に含む
堆積岩の総称であり、多くの場合、淡水又は海水性の藻類の遺物が泥の中に蓄積されて形
成されたものである。
-79-
石油は通常、有機物と土砂の堆積、ケロジェンの生成、熟成・石油の生成、石油の移動・
堆積の 4 段階の過程で生成されると考えられているが、オイルシェールは埋没深度が浅か
ったために地熱を十分受けられず、生成過程の第2段階で留まっているものである。従っ
て、第3段階以降の加熱・分解処理(乾留)を人工的に実施して初めて石油として利用可
能となる。乾留して得られた石油はシェールオイルと呼ばれる。
2.5.2
賦存・生産状況
オイルシェールの埋蔵量は石油換算で 2.6 兆バーレルであり、米国、ブラジル、ロシア、
豪州、中国等世界中に幅広く分散している。IEA は、この内 50%を利用可能とし、これに
含まれる 75%のケロジェンを石油に転換可能との前提に基づき、可採埋蔵量を約 1 兆 600
億バーレルとしている(表 2.5-1)。これは、在来型原油の確認可採埋蔵量約 1.2 兆バーレ
ルにほぼ匹敵する規模であり、2004 年の世界の石油消費量約 8,000 万 BD の 36 年分に相
当する。
表2.5-1 オイルシェールの賦存状況
(単位:10億バレル)
可採埋蔵量
シェア
米国
ブラジル
ロシア
コンゴ
豪州
カナダ
欧州
中国
その他
計
58.5%
28.3%
3.8%
3.8%
1.4%
1.4%
1.4%
0.9%
0.5%
100.0%
620
300
40
40
15
15
15
10
5
1,060
表2.5-2 オイルシェール生産見通し
(単位:千BD)
ロシア
米国
カザフスタン
中国
豪州
エストニア
ブラジル
モロッコ
2005
1
1
5
3
1
3
トリニダード・トバゴ
計
出所:IEA Resources to Reserves
14
2015
50
50
20
50
50
5
10
5
10
250
出所:EI 「High Oil Prices : Causes and
Consequences」(2005)
オイルシェールは石油供給が逼迫し、石油価格が上昇する都度石油代替燃料として開発
検討対象とされてきたが、石油価格の低下等で開発が中断するなど、現時点では本格的な
商業生産に至っておらず、オイルシェールが賦存する数カ国で、エネルギー政策から利用
されているのみである(表 2.5-2)。
2.5.3
生産見通し
豪州の Stuart プロジェクトでは商業生産に向けて実証プラントを建設したが、計画を
上回る投資コストが原因で、オペレーターの Southern Pacific Petroleum NL (SPP 社)
の財務状況が悪化し、倒産した。
米国におけるオイルシェールの開発は、20 世紀初頭から米軍の緊急時の燃料確保を目的
に検討されてきた。2004 年 3 月に DOE が「Strategic Significance of America’s Oil Shale
Resource」と題する調査報告書を改めて公表し、石油の輸入依存度を下げ、自国のエネル
ギー需要を上回る供給を目指すには、ユタ、コロラド、ワイオミングの3州に膨大に賦存
するオイルシェールの開発を進めるべきとしている。
-80-
このほか中国、エストニア、ヨルダンなどで利用拡大の検討が行われている。
しかし、オイルシェールは原油価格が 70$/B 程度でなければ商業生産に耐えないと言わ
れており、DOE のシェールオイル生産見通しでも 2030 年で 50 万 BD にも達しない(図
2.5-1、2.5-2)。
図 2.5-2
DOEによるShale Oil 生産見通し
単位:百万BD
0.6
0.5
低値ケース
0.4
基準ケース
0.3
高値ケース
0.2
0.1
0.0
2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年
2.5.4
シェールオイル(粗シェール油)の性状
米国西部の粗シェール油は、残渣を含まず硫黄分は少なくて良好なものの、窒素分・酸
素分、ワックス分が多い。
また、豪州の粗シェール油は、米国西部のものとほぼ同様に残渣を含まず、硫黄分が低
いものの、窒素分が非常に高く、Jet 留分の煙点や軽油留分のセタン指数が低い。
2.5.5
フィードストックとしての調達上・品質上の課題
オイルシェールは非在来型原油の中で生産コストが最も高く、豪州で商業化を目指して
いた Stuart プロジェクトは投資コスト高騰を原因としてオペレーターが倒産し、今後の
見通しが不明である。また、米国をはじめ賦存国は自国のエネルギー・セキュリティー政
策上、国内向けとして研究・開発を推進しようとしており、現段階では粗シェール油を我
が国製油所のフィードストックとして検討を進めるべき状況にはないと言わざるを得ない。
なお、導入する場合は品質上の対応が必要である。残渣を含まないため熱バランス上、
在来型原油と混合処理することとなり、混合量の検討が必要である。また、脱窒素、灯軽
油留分のセタン価、煙点について改善する工夫が必要となる。
2.6
まとめ
今般調査並びに期間中のオイルサンド調査団の現地調査を通じ、我が国のエネルギー・
セキュリティーの確保、石油資源調達の多様化の観点からオイルサンドが幾つかの課題を
残しながらも利用可能性が高いとの認識を得た。今後は更なる情報収集や対応策の検討に
向け、関係業界や行政が協力して推進すべきものと考える。
以
-81-
上
10.超重質油処理技術の展開に関する調査
技術企画部
主任研究員
(株)新 日 石 総 研
馬場
長谷川
重夫
宏
1.調査の背景・目的
石油需要の急増、原油生産量伸び率の鈍化など種々の要因によって原油価格が高騰して
いるおり、我が国の原油ソースの多様化および中東への過度の依存からの脱却という観点
から、オイルサンド、オリノコタールなどの超重質な非在来型石油資源が注目されている。
なかでもカナダのオイルサンド(ビチュメン)の埋蔵量は、サウジアラビアに次ぐ世界第
2位の埋蔵量を有しており、ここ数年来特に脚光を浴びている。油価が高騰してオイルサ
ンド原油(合成原油と希釈ビチュメンの総称)の競争力が増したことにより、オイルサン
ド開発のプロジェクトが目白押しに急増し、今後オイルサンド原油の生産が飛躍的に伸び
ると推計されている。一方、カナダではオイルサンド原油の市場拡大を図るため、東アジ
ア市場を狙ったパイプライン建設計画が具体化しており、2010 年完成を目指した 40 万
BD のパイプライン計画が推進されている。カナダという国のカントリーリスクの低さ、
埋蔵量の多さおよび生産量の急増などにより、日本もオイルサンド原油の利用を早急に検
討すべき時期が到来していると思われる。
このような状況を踏まえ、オイルサンド原油を我が国に輸入するに当たっての技術的な
問題点を明確にするとともに今後の技術的な課題に対する対策を検討した。
オイルサンドから回収したビチュメンは高粘度で流動性がないことから、パイプライン
で輸送するために、コンデンセート等で希釈して希釈ビチュメンにするか、分解し軽質化
して合成原油とする方法がとられている。その粘度や API 比重など見かけ上の性状は在来
型原油とほぼ同等になっているが、蒸留性状や組成は大幅に異なるため、在来型原油とは
一部異なる精製処理が必要となってくる。合成原油の場合は,残渣油を含まないため残油
分解の必要はない。しかし、煙点やセタン価が低いこと、軽油留分に比べてガソリン留分
が少ないこと等の問題があり、日本の燃料油規格に適合させるためには各精製プラントに
合った処理条件を検討する必要がある。希釈ビチュメンを利用する場合も合成原油と同じ
問題を抱えているほか、残油処理の問題があり在来型原油との混合処理比等を検討する必
要がある。一方、我が国では、重質油のアップグレーディング技術に関して豊富な経験を
有しており、また高活性触媒や超臨界水熱反応によるアップグレーディング技術など新規
な技術開発も進めている。
本調査においては、カナダのオイルサンド開発の現状を調査しオイルサンド原油のアベ
イラビリティを明らかにすると共に、オイルサンド原油を我が国に導入することを前提に
して、輸入するオイルサンド原油の望ましい形態、すなわちどこまでカナダ現地でアップ
グレードして我が国へ持ち込むかにつき評価・検討を行った。また、日本の製油所で合成
原油または希釈ビチュメンを処理するにあたっての技術的課題を抽出した。さらに、オイ
ルサンド原油を安定的に確保するための一環として、カナダのオイルサンド開発、とりわ
けアップグレーディング技術に関して日本が協力できる技術についても言及した。
-82-
2.調査の内容・結果
2.1
オイルサンドの現状と将来
2.1.1
オイルサンドの概要
オ イ ル サ ン ド は 、 図 2.1-1 に 示 す よ う に カ ナ ダ 西 部 ア ル バ ー タ 州 の 北 方 に 位 置 す る
Athabasca、Cold Lake、Peace River の3地域に多く賦存する。このオイルサンドは、け
い砂、シルト及び粘土を主体とした粒子の表面に 3~5%の水と 10~12%のビチュメンがコ
ーティングされた状態で存在し、一般的には未固結状で脆くて手で容易に崩れやすい物質
である。このビチュメンは、一般的には超重質原油に分類され、賦存状態の地中温度が低
いために流動性を有しない半固体状である。
オイルサンドの確認埋蔵量は 1,780 億バレルと推定され、サウジアラビア(2,640 億バレ
ル)に次ぐ世界第2位の埋蔵量である(図 2.1-2)。この確認埋蔵量は初期埋蔵量(1 兆 6,330
億バレル)の 11%に過ぎず、今後採掘技術が進歩することによってさらに増加する可能性
を秘めている。
図 2.1-1 オイルサンドの賦存地域
出所:National Energy Board “Canada’s
:
Oil Sands : A Supply and Market
Outlook to 2015”, October 2000
図 2.1-2 世界の原油の確認埋蔵量
2,640
Bitumen
2500
2000
Conventional oil
1,780
1,320
1500
1,150
1000
1,020
922
797
600
500
391
359
214
183
-83-
Ch
in
a
US
A
Ni
ge
ria
Li
by
a
ia
Ru
ss
it
Dh
ab
i
Ve
ne
zu
ela
Ab
u
Ku
wa
Ira
q
Ira
n
Ca
na
da
Ar
ab
ia
0
Sa
ud
i
確認埋蔵量, 億バレル
3000
出 所 : O&GJ 誌 , Dec. 19,2005
2.1.2
オイルサンドの開発状況
(1)オイルサンドの開発手法と問題点
オイルサンドを開発する方法は大別して露天掘りと油層内回収の2通りある。
露天掘りは、現在のオイルサンド開発の主流であって、2004 年のビチュメン生産量約
99 万 BD のうち、3分の2は露天掘りで開発されている。しかし、確認埋蔵量の内露天掘
りで採掘可能な量は 20%であるため、残りの 80%を採掘するには油層内回収法の技術が
必要とされている。油層内回収法には多くの技術があるが、現在 SAGD 法(図 2.1-3)が
実用化されており今後のビチュメン生産の主流になると思われる。各種開発手法の比較を
表 2.1-1 に示す。
油層内回収法では現在 SAGD 法がほぼ唯一の採掘方法であるが、ビチュメンの回収には
大量のスチームが必要となる。そのスチーム製造のエネルギーとして大量の天然ガスが使
用されており、カナダ北部の天然ガス生産量が低下している中、現地での天然ガス価格が
高騰してオイルサンド開発のコストアップに大きな影響を与えている。また、クリーンな
エネルギーを大量に消費することに対して問題視されており、スチームを使用しない採掘
方法として、VAPEX ( Vapour Extraction;油層内有機溶媒回収法)や THAI (Toe-to-Heel
Air Injection;油層内燃焼回収法)などが研究・開発されつつある。また、アップグレーダ
ではプロセスの1つにガス化プロセスを設けて残油から水素ガス及び合成ガスを製造し、
スチームを製造する計画もある。
現在主流である露天掘りは、開発規模が大きいことからオンサイトでのアップグレーデ
ィングに適しており、現在生産されている合成原油の大部分は露天掘りによるものである。
SAGD 法では、OPTI/Nexen が唯一合成原油生産を計画している。
また、ビチュメンは常温で半固体状のためパイプラインによる輸送ができない。オンサ
イトでアップグレーディングする場合は採掘現場から直接パイプライン輸送が可能となる
が、油層内回収法特に現在主流の SAGD 法では、開発規模が小さいためオンサイトでのア
ップグレーディングが難しく、採掘現場から出荷ターミナルまでビチュメンを加熱溶融状
態でトラック輸送し、そこで希釈剤を混合してパイプライン輸送している。オイルサンド
開発が急激に進む現在、現地では希釈剤としてのコンデンセートが不足し価格が高騰して
図 2.1-3
SAGD (Steam Assisted Gravity Drainage) 法
出所:石油資源開発(株)
-84-
いる。そのため、今後増産される合成原油の大半はコンデンセートに代わって希釈剤とし
て利用されるものと思われ、2015 年には生産される合成原油 109BD のうち 43BD が希釈
剤として使用されるものと推定される。2015 年における出荷量予測は、合成原油、SynBit、
DilBit、それぞれ 66 万 BD、95 万 BD、81 万 BD である。このように、コンデンセート
が不足する一方、アップグレーディングが追いつかない状況が今後も続くものと見られる。
表 2.1-1
オイルサンドの開発手法:既存の技術と開発中の技術の比較
既存の技術
露天掘り
CSS
SAGD
VAPEX
THAI
油層内回収
油層内回収
油層内回収
油層内回収
75m 以 浅
75m 以 深
75m 以 深
75m 以 深
75m 以 深
90% 以 上
25% 程 度
25% 程 度
-
-
対象鉱脈
回収率
開発規模
開発中の技術
大:5~50 万 BD
小:1~15 万 BD
小:3~25 万 BD
on-site のアップグレ
SAGD とほぼ同 等
SAGD とほぼ同 等
規 模 が小 さいことから、on-site での
ーディングが有 利
アップグレーディングに不 利
対象埋蔵量
330 億バレル
エネルギー
スラリー用 ・抽 出 用 の
スチーム製 造 に
スチーム製 造 に
SADG に比 べて大
採 掘 時 に燃 料 を殆
温 水 に必 要
大 量 に必 要
大 量 に必 要
幅 に削 減
ど使 用 しない
環 境 保 護 団 体 の攻 撃 今 後 、 新 た な 開
露天掘りに次ぐ
システムが機 能 す
システムが機 能 す
対 象となる。
今 後 の主 流 。
るか懸 念 される。
るか懸 念 される。
備 考
1,420 億バレル
発 計 画 はない。
(2)オイルサンド開発の主なプロジェクト
Fort McMurray 地域では、現在商業生産している Syncrude、Suncor、Albian Sands
Energy が拡張を計画しているほか、Shell Canada、Canadian Natural Resorces、Imperial
Oil/ExxonMobil などが露天掘りで数十万 BD という大規模開発を計画している。また、同
地域で Petro-Canada、EnCana、ConocoPhillips、OPTI/Nexen は SAGD 法により開発
の計画を進めている。さらに、日本企業の JACOS も SAGD 法により 3~3.5 万 BD の商
業生産を計画している。
Cold Lake 地域では、Imperial Oil、EnCana が 25~33 万 BD の開発の計画を進めてい
る。
Peace River 地域は、鉱区の規模が小さく、Shell Canada、BlackRock Ventures が数万
BD 程度の規模で生産を開始あるいは計画を進めている。
2.1.3
オイルサンド原油の種類と性状
(1)ビチュメンの性状
オイルサンドから抽出したビチュメンの性状は、アルバータ州でも産出する地域によっ
て多少異なっている。表 2.1-2 に3地域で産出したビチュメンの性状を示す。API 度は 5
~10 程度、硫黄分は 4.4~4.8wt%程度であり、アラビアンライトの減圧残油の API 度 9.48
と比較してほぼ同等である。
-85-
表 2.1-2
ビチュメンの性状
アラビアンライト
減圧残油
5.6
9.48
3.93
0.22
1.44
78.6
12~15 万
11.1
21.0
54.7
Athabasca Cold Lake Peace River
API 比重
硫黄
窒素
H/C
金属(V+Ni)
動粘度,40℃
アスファルテン分
飽和分
芳香族分
8.2
4.57
0.40
1.49
9,000
16.9
18.3
35.7
wt%
wt%
-
wt.ppm
cSt.
wt%
wt%
wt%
10.2
4.4-4.70
0.23-0.45
1.49
270
6,400
15.3
21.3
36.3
出所:Gray, et. al. Canadian Journal of Chem. Eng., vol.69, 833-843, 1991 他
(2)オイルサンド原油の種類と性状
ビチュメンそのものは常温では流動しないので、パイプラインで輸送するためには希釈
剤を混合するかまたはアップグレーディングして低粘度化する必要がある。オイルサンド
原油には、大別して表 2.1-3 に示す4種類がある。
オイルサンド原油の性状を表 2.1-4 に示す。大まかに言えば、希釈ビチュメンの API 度
は、在来型の超重質原油並みであり、合成原油の API 度は在来型の軽質原油程度である。
表 2.1-3
呼
オイルサンド原油の種類
称
希釈剤
DilBit
SynBit
DilSynBit
SCO(合成原油)
表 2.1-4
70:30
55:45
70~50:30~50
コンデンセート
合成原油
コンデンセート,合成原油
(アップグレーディング)
オイルサンド原油の性状
DilBit
生産者/銘柄
API 比重,
度
硫黄,
wt.%
金属,Ni,
V ,
動粘度,30°C,
Shell
AlbianHeavy
SynBit
EnCana
Christina
Lake
19.7
19.8
2.51
mg/L
mg/L
蒸留試験,初留点, ℃
終 点, ℃
33.5
77.1
35
714
cSt
出所:http:/crudemonitor.ca,
2.1.4
ビチュメンと希釈剤の比
79.3
2.89
41.5
108.9
36
718
82.8
合成原油
Shell
Premium
Suncor
SyntheticA
35.1
33.2
31.1
0.12
0.20
0.11
0.9
3.1
0.3
0.3
0.4
0.2
43
614
35
576
2.95
http:/www.enbridge.com 他
オイルサンド原油のアベイラビリティ
(1)ビチュメンおよびオイルサンド原油の供給量と今後の見通し
-86-
Syncrude
SSB
4.27
35
599
5.09
ビチュメンの生産量は、2010 年には露天掘りが 102 万 BD、油層内回収が 113 万 BD と
なり、合計で 2005 年の 2.2 倍の 215 万 BD になると予測されている(表 2.1-5)。
オイルサンド原油は、2005 年には合成原油が 50 万 BD 供給され、希釈ビチュメン(DilBit,
SynBit)が 76 万 BD 供給された。2005 年を基準とした 2010 年の合成原油の供給増加量
は 17 万 BD、希釈ビチュメンは 100 万 BD、その内 SynBit は 86 万 BD となり、合成原油
の多くは SynBit の希釈剤として使用される。DilBit は、コンデンセートの入手難から 2005
年以降 14~42 万 BD 程度の供給増に留まると予測される。
表 2.1-5
ビチュメンとオイルサンド原油の生産実績と予測(万 BD)
2005 年
2010 年
2020 年
ビチュメン
99.0
215
399
露天掘り
55.2
102
227
油層内回収
43.8
113
172
125.1
242
オイルサンド原油
(117)
合成原油
49.5
66 ( 17)
希釈ビチュメン
75.6
176 (100)
DilBit
66.9
81 ( 14)
SynBit
8.7
95 ( 86)
注)カッコ内数値は、2005 年基準の出荷増加量を示す。
425 (300)
169
255
109
146
(120)
(179)
( 42)
(137)
出 所:CAPP, Canadian Crude Oil Production and Supply Forecast 2006-2020, May. 2006
(2)パイプライン建設計画
現在、オイルサンド原油はカナダ国内で消費する他アメリカ合衆国へ輸出されているが、
価格維持を図るために東アジア方面の市場も検討されている。エドモントンからカナダ西
海岸までの既存のパイプライン(Trans Mountain Pipe Line)は輸送能力が小さく輸出余
力はない。そのため、現在東アジア方面へ輸出するためのパイプライン建設計画が2つあ
り、そのうちの1つが Enbridge 社の Gateway Pipeline 計画である。この計画は、40 万
BD の輸送能力を持ち 2010 年に完成する計画で、40 万 BD のうち 30 万 BD が東アジア方
面に向けられるが、このうち中国は既に 20 万 BD のコミットメントを表明している。
Gateway Pipeline 計画は、輸送能力を 85 万 BD までアップすることも考慮しているとい
う発表もあるが、現在の計画通りに進めば、物理的には 2010 年には最大 10 万 BD 程度の
オイルサンド原油を我が国に輸入することが可能になる。
(3)我が国への輸入の可能性
表 2.1-5 に示すように、2010 年の合成原油および希釈ビチュメンの出荷増加量はそれぞ
ぞれ 17 万 BD および 100 万 BD であり、いずれもパイプラインの輸送余力 10 万 BD を上
回る量の出荷増が見込まれ、量的には合成原油・希釈ビチュメンのいずれも最大 10 万 BD
まで輸入の可能性がある。この量は、我が国の 20 万 BD の処理能力のある製油所6箇所
で、在来型原油と平均約 8%の混合処理を行うことに相当する。
-87-
2.2
アップグレーディングの現状と技術開発
2.2.1
アップグレーディング技術
(1)既存の技術
ビチュメンのアップグレーディングは在来型原油の重質分・蒸留残渣油の処理と本質的
には大きな差はない。現在 Syncrude、Husky、OPTI/Nexcen などで実施又は建設中のビ
チュメンの処理方法を以下に示す。
・残渣の熱分解
:Delayed Coker,Fluid Coker
・残渣の水素化分解
:H-Oil,LC-Fining
・残渣(アスファルテン分)の分離
・残渣分の利用
:SDA(溶剤抽出法)
:ガス化(水素ガス製造・熱・電力の製造)
(2)計画中の技術
建設計画中のプロセスでは、次のような新規なプロセスも組み込まれており、効率化が
図られている。
・Husky Energy
:Coker, H-OIL による熱分解・水素化分解
・BA Energy
:ADC TM (Accelerated De-Contamination)による脱瀝、
USP TM (Ultra Selective Pyrolysis)による熱分解
・OPTI/Nexcen
:SAGD との一体化での SDA、ガス化分解
・North West Upgrading
:(HC)3 TM による水素化分解,ガス化分解
・Synenco
:SDA、Coker、ガス化分解
(3)研究段階にある技術
超臨界水熱分解を利用したプロセス(日立、三菱マテリアル、中部電力、東北大学など
で研究されている)、あるいは、油溶性触媒・スラリー懸濁床触媒・活性炭担持触媒・新規
ゼオライト触媒の開発が行われている。
2.2.2
アップグレーディングのプロセス比較
ビチュメンのアップグレーディングにおいて考慮すべきポイントは;
・液体石油製品を最大限生産する
・エネルギー源・水素源を天然ガスに頼らない
・製油所でのクリーンな輸送燃料の生産にできるだけ沿ったものであること
・炭酸ガスの発生抑制、あるいは炭酸ガスの分離・貯蔵への展望があること
の4点であり、稼働中のプロセスおよび計画中のプロセスを比較した結果、次の2プロセ
スが現状では最適のプロセスといえる。
(1)OPTI/Nexen(建設中)
アップグレーダと SAGD が一体になっており、最終残渣をガス化し、水素ガスを製
造するとともに、発生した熱でスチームを製造し SAGD に必要なスチームを賄うとい
-88-
う方法。
(2)North West Upgrading(計画)
ビチュメンを常圧・減圧蒸留して減圧残油を分離し、DAO は Hydrocracker で分解
する。減圧残油は(HC)3 TM (スラリー床の水素化分解プロセス)で水素化精製する。
この装置の残渣をガス化し、水素ガス製造・エネルギーとして使用するという方法。
2.2.3
アップグレーディングと課題
アップグレーディングには、山元(採掘現場)から製油所に至る間のどこでアップグレ
ーディングするかによって課題が異なる。
(1)山元における課題
スチーム製造のエネルギーを安価にするために、天然ガスに代わってアップグレーディ
ングのプロセスに残渣のガス化分解装置を組み込むことが計画されているが、排煙脱硫・
脱硝が課題となる。
ビチュメンをパイプライン輸送するために希釈剤として合成原油を多く用いており、単
に輸送だけを考慮した部分アップグレードという考えは必要ない。ただ、超臨界水熱分解
による部分アップグレードは最終残渣が削減できるので1ステップとして取り組む価値が
ある。
(2)アップグレーダの課題
多くのアップグレーダが直面している課題には、次の3つがある。
・天然ガス価格高騰対策
・CO 2 の削減対策
・コークス・硫黄の用途開発
いずれの課題も残渣のガス化が対策の鍵となる。天然ガスの代わりに残渣をガス化分解
すると CO 2 の発生量は増加するが、ガス化プロセスの CO 2 は濃度が高いので分離・回収・
貯蔵に適しており、今後、残渣のガス化分解プロセスは重要な役割を担うことになると思
われる。
(3)アップグレーディングの立地条件
ビチュメンをアップグレードする立地は、大きくわけて次の3箇所が考えられる。
・ビチュメンの採取とアップグレーディングが一体化
・アップグレーディングと製油所が一体化
・山元と製油所の中間のどこか(パイプラインターミナル等)
また、アップグレーディングの立地条件の検討項目は以下の4項目にまとめられる。
・ユーティリティ設備の共有
・製油所等同類の装置と近接
・製品の取り扱い
・排出物処理
-89-
以上の条件を考慮すると、
「ビチュメンの採取とアップグレーディングが一体化」又は、
「アップグレーディングと製油所が一体化」の両者が効率的であるといえるが、さらにど
ちらが良いかはパイプライン等のインフラ、その他の様々な条件で決まる。
いずれにしても、経済的に成立するためには一定規模の大きさが必要で、ユーティリテ
ィ設備を共用できる位置にアップグレーディングの装置を建設するのが効率的である。
2.2.4
ビチュメンの最適な処理フロー
ビチュメンの最適な処理とは、残渣を最少にし、多くの石油製品を生産することである。
研究段階にある超臨界水熱分解の残渣の得率がどの程度であるか今後の開発を待たねばな
らないが、「減圧蒸留 → 残渣のSDA処理 → ピッチの超臨界水熱分解 → 残渣のガス
化」というフローが一つの有力な候補として提案できる。
現在実施されているアップグレーディングと比較すると図 2.2-1 のようになる。
図 2.2-1
既
ビチュメンの最適な処理フロー
存
提
案
ビチュメン
ビチュメン
減圧蒸留
減圧蒸留
留出油
留出油
残 油
残 油
水素化分解
水素化分解
または
または
SDA
SDA
留出油/DAO
留出油/DAO
残油/ピッチ
残油/ピッチ
コーカー
超臨界水熱分解
コークス
留出油
留出油
残 油
天然ガス
2.3
ガス化分解
水 素
水 素
熱・電力
熱・電力
日本におけるオイルサンド原油の処理
2.3.1
オイルサンド原油の精製処理における課題
我が国で希釈ビチュメンを在来型原油と混合処理する場合、例えばアラビアンライト原
油に希釈ビチュメンを 10%程度混合油処理する場合、大きな問題はない。しかし、希釈ビ
-90-
チュメンを 50%程度混合処理する場合には、Jet・LGO 留分の芳香族分の増加及び VR 留
分の得率の増加が問題となる。Jet・LGO・VGO 留分をアップグレーディングするには芳
香族を水素化・開環することが必要であるが、このような水素化精製装置は日本ではほと
んど導入されておらず、芳香族の水素化開環のための触媒開発が今後の課題となる。また、
VR 留分の増加については重質油分解装置で処理することになる。
合成原油を混合処理する場合、例えば Syncrude の合成原油は、残油がなく LGO 留分の
硫黄分・窒素分は通常の原油より低いため現状の処理技術で対応すれば問題ない。ただし、
軽油 中の 芳 香族 分が 多 いた め混 合 比率 を限 定 する こと が 必要 であ る 。し かし 、 Syncrude
社以外の合成原油を混合処理する場合には性状が大きく異なることが予想され、性状を把
握して対応する必要がある。
2.3.2
日本でアップグレーディングする場合の課題
・減圧残渣の分解処理に必要なエネルギー源はカナダであれば自国産のものがあるが、
日本は輸入エネルギーとなりコストは割高になる。
・分解処理しなければならない減圧残渣を日本まで輸送するエネルギーが余分にかかる。
・日本での分解残渣の処理はカナダと同等以上の問題を持っている。
この3点から、DilBit・SynBit という形で輸入したオイルサンド原油は、在来型重質原
油に置き換えて日本で少量処理する可能性がないとは言えないが、大量に処理することは
ほとんどあり得ないと考えられる。
2.4
オイルサンド原油の生産・処理における我が国の課題と提言
オイルサンドビジネスに対し、我が国が今なすべきことをまとめると以下の通りである。
(1)我が国へオイルサンド原油を導入する場合の精製上の具体的対応策の検討
・在来型原油との混合処理量の検討
・製品性状の評価
・脱硫・脱窒素触媒の評価
・煙点、セタン価への対応
・ナフサ、灯油、軽油等、製品バランスの検討
(2)ビチュメンのアップグレードに適用可能な技術開発の推進
・油溶性の分解触媒の開発
・超臨界水熱分解によるビチュメンの分解技術の開発
・留出油中の芳香族を水添・開環する高活性の触媒の開発
(3)カナダにおける共同研究/技術協力
・触媒開発の協力(油溶性の分解触媒、芳香族を水添・開環する高活性触媒)
・石油開発企業/石油精製企業の共同研究による超臨界水熱分解反応等を利用したビ
チュメンのアップグレード技術開発
-91-
平成17年度
調査事業成果発表会
資料集
平成18年7月
発
行
財団法人
石油産業活性化センター
東京都港区虎ノ門4丁目3番9号
電話
住友新虎ノ門ビル
03(5402)8500
無断転載・複製を禁ず
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