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横浜市内止水域における外来種侵入状況について~2池における魚類

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横浜市内止水域における外来種侵入状況について~2池における魚類
横浜市内止水域における外来種侵入状況について
∼2 池における魚類、エビ・カニ類の変遷∼
○ 七里浩 志、市 川竜也 、渾川 直子、 堀美智 子、村 岡麻衣 子(横 浜市環 境科学 研究所 )
岩崎美佳(環境創造局 大気・音環境課)、本田昌幸(環境創造局 全国都市緑化フェア推進課)
横 浜 市 内 2 池 に お い て 、魚 類 、エ ビ・カ ニ 類 の 調 査 を 行 い 、過 年 度 調
査 結 果 と の 比 較 を 行 っ た 。外 来 種 で あ る ブ ル ー ギ ル や オ オ ク チ バ ス の
増 加 に よ り 在 来 種 の モ ツ ゴ が 見 ら れ な く な っ た 池 が あ る 一 方 、か い ぼ
り 等 を 実 施 し な く て も 、長 期 間 、モ ツ ゴ が 確 認 さ れ 続 け て い る 池 も あ
り、環境条件等の違いにより生物相が異なることが示された。
1
はじめに
横 浜 市 で は 、 40 年 近 く に わ た り 、 河 川 域 に お け る 生 物 相 調 査 を 実 施
し、生物相の変化把握、生物指標による水質評価を行ってきた。一方
で 市 内 の 公 園 池 、 た め 池 、 遊 水 地 な ど の 止 水 域 に お け る 調 査 は 、 1994
∼ 1 9 9 7 年 に 8 0 地 点 1 ) 、2 0 1 0 年 に 4 地 点 2 ) な ど で 実 施 し て い る が 、定 期
的なモニタリングを行う体制は構築されていない。
今回、市内2池において、魚類、エビ・カニ類の生息調査を実施し
たので、過年度調査結果と併せて報告する。
2
対象地域と調査の方法
調査を実施した市内2池の概要は次のとおりである。
2.1 も え ぎ 野 公 園 池 ( 横 浜 市 青 葉 区 )
鶴見川流域に位置する農業用ため池であった
が 、 現 在 は 、 近 隣 公 園 ( 1990 年 開 園 ) の 池 と し
て 管 理 さ れ て い る 。池 面 積 は 、7 , 0 0 0 ㎡ で あ っ た
も の を 開 園 の 際 に 埋 め 立 て 、4 , 0 0 0 ㎡ と な っ て い
る ( 図 1 )。
図1
もえぎ野公園外観
2.2 二 ツ 池 ( 横 浜 市 鶴 見 区 )
鶴 見 川 流 域 に 位 置 す る 農 業 用 た め 池 で あ っ た が 、昭 和 4 5 年 に た め 池
としての機能は終了し、現在では県内でも有数の貴重な水生生物が生
息 す る 池 と し て 知 ら れ て い る 。水 生 植 物 の 多 い 獅 子 ヶ 谷 池( 1 0 , 4 8 8 ㎡ )
と 、 開 放 水 面 が 広 く 富 栄 養 化 の 進 ん だ 駒 岡 池 ( 12,672 ㎡ ) が 細 い 堤 を
隔 て て 隣 接 し て い る ( 図 2 )。
2.3 調 査 方 法
も え ぎ 野 公 園 池 で は 、2 0 1 5 年 1 月 に 池 の 水 を 抜 き( か い ぼ り を 実 施 )、
投 網 や タ モ 網 に よ る 捕 獲 を 行 っ た 。 二 ツ 池 で は 、 2014 年 9 月 に 投 網 、
タモ網、カゴ罠による捕獲、目視確認を行った。
両池とも過年度にほぼ同様の捕獲用具を用いたかいぼりや捕獲調査
が実施されており、それら調査結果との比較を行った。
獅子ヶ谷池
駒岡池
図2
二ツ池外観
3
結果と考察
2池で確認された魚類、エビ・カニ類の結果を過年度結果と共に表
1、2に示す。二ツ池の獅子ヶ谷池と駒岡池については、隣接するも
のの、景観、水質等が異なるため分けて示した。
表1
目名
コイ
もえぎ野公園池において確認された魚類、エビ・カニ類
科名
コイ
備考 注3
調査年 調査月日
種名
コイ
イロゴイ
ゲンゴロウブナ
ギンブナ
キンギョ
フナ属
タイリクバラタナゴ
コクレン
オイカワ
ソウギョ
ウグイ
モツゴ
タモロコ
ニゴイ
ドジョウ
ドジョウ
ナマズ ナマズ
ナマズ
ダツ
カダヤシ
カダヤシ
スズキ サンフィッシュ ブルーギル
オオクチバス
ハゼ
クロダハゼ
トウヨシノボリ
ヨシノボリ属
タイワンドジョウ カムルチー
エビ
ヌマエビ
カワリヌマエビ属
ヌカエビ
テナガエビ
テナガエビ
スジエビ
アメリカザリガニ アメリカザリガニ
モクズガニ
モクズガニ
魚類
エビ目
【かいぼり】 【再放流】
1994
6/6
Cyprinus carpio
Cyprinus carpio
Carassius cuvieri
Carassius auratus langsdorfii
1997
8/27
1
2
1997
12/14
++
++
+
++
1998
7/5
100
Carassius carassius
Carassius sp.
58
52
++
+
+
+
+
+++
+
10
7
2015
2015
1/22∼23 2/10∼4/6
14
3
74
注4
外来種
○
○
22 注6
○
○
2
要注意
○
○
○
?
40
43
14
193
95 注7
○
1
○
1
+
1
2
68
○
特定
10
37
++
++
+
4
10
20
1
1
384
92
6
特定
特定
6
52
21
+
要注意
5
Paratya compressa improvisa
Macrobrachium nipponense
Palaemon paucidens
Procambarus clarkii
Eriocheir japonicus
2010
7/15
●
2
Gnathopogon elongatus elongatus
Hemibarbus barbus
Misgurnus anguillicaudatus
Silurus asotus
Gambusia affinis
Lepomis macrochirus
Micropterus salmoides
Rhinogobius kurodai
Rhinogobius sp. OR
Rhinogobius sp.
Channa argus
Neocaridina sp.
2
3
2001
9/6
174
Rhodeus ocellatus ocellatus
Aristichthys nobilis
Zacco platypus
Ctenopharyngodon idellus
Tribolodon hakonensis
Pseudorasbora parva
【かいぼり】 【再放流】
1998
8/27
5
18
+++
10
2
8
2
9
○
?
3
9
●
5
5
○
?
6
2
要注意
2
3目3科4種 2目3科5種 3目5科16種 2目2科4種 2目3科5種 2目3科5種 2目3科5種 2目3科8種 2目2科3種
-
1科1種 1科1種 1科1種 1科1種 1科1種 2科3種 2科3種 4科4種 2科2種
-
注1)種名および分類は、中坊 編(2013)日本産魚類検索 全種の同定 第三版 および過年度報告書を参考とした。
過年度に記録されているトウヨシノボリは、上記文献で定義されるクロダハゼにあたると考えられる。
注2)過年度結果について
1994∼2001年 : 樋口文夫・福島悟・水尾寛己・倉林輝世(2002)
池改修による魚類・甲殻類(十脚目)相の変化に関する研究.横浜市環境科学研究所報,第26号,38-46,横浜市環境科学研究所.
2010年 : 横浜市環境科学研究所(2011)横浜の池の生物.
注3)備考欄に【かいぼり】と示したものは、かいぼりを伴う調査結果、【再放流】と示したものは、かいぼり実施後に再放流した種、個体数の記録である。
注4)外来種について
特定 : 「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」における特定外来生物。
要注意 : 環境省が指定する要注意外来生物。
○/? : 特定外来生物、要注意外来生物に指定されていないが、当該池において外来種と考えられる種(○)、その可能性があると考えられる種(?)。
注5)各生物種の行の数値は捕獲数を示す。●は目視確認等により数不明、+∼+++は個体数の多寡を示す。
注6)2015年確認、放流のゲンゴロウブナ、ギンブナについて
形態による同定、ゲンゴロウブナ(ヘラブナ)とギンブナが混在している可能性があり、1行にまとめて表記した。
注7)モツゴの放流について
市内止水域を代表する魚と考えられるモツゴは、2015年3∼4月に近隣の公園池2カ所から合計95個体を捕獲、放流した。
2012年2∼3月に、近隣の藤が丘公園でかいぼりを実施、捕獲したモツゴ等の小魚をもえぎ野公園へ放流。モツゴは1000∼2000匹だったとのことである。
3.1 も え ぎ 野 公 園 池 ( 横 浜 市 青 葉 区 )
調 査 実 施 時 季 が 異 な る が 、 確 認 さ れ た 生 物 種 数 は 、 魚 類 3∼ 16 種 、
エ ビ ・ カ ニ 類 1∼ 4 種 で あ っ た 。 過 年 度 優 占 し て い た モ ツ ゴ は 、 2015
年には 1 個体も確認されず、代わって優占種となったブルーギルやオ
オクチバスの増加に伴い、全滅したものと考えられた。
一方、モツゴ同様にブルーギルやオオクチバスの影響を受けると考
えられるエビ・カニ類については、テナガエビが過年度同様確認され
たほか、外来種であるカワリヌマエビ属の一種やアメリカザリガニが
確認された。ヌカエビやスジエビは、市内では通常、在来種として扱
っ て い る が 、 確 認 さ れ た の は 限 定 的 で あ り 、 当 該 池 で は 、 2000 年 前 後
( 1998∼ 2001 年 ) に 持 ち 込 ま れ た 可 能 性 が 考 え ら れ る 。
3.2 二 ツ 池 ( 横 浜 市 鶴 見 区 )
確 認 さ れ た 生 物 種 数 は 、 獅 子 ヶ 谷 池 で 魚 類 2∼ 7 種 、 エ ビ ・ カ ニ 類 1
∼ 4 種 、 駒 岡 池 で 魚 類 5∼ 9 種 、 エ ビ ・ カ ニ 類 2∼ 3 種 で あ っ た 。
駒 岡 池 で は 、 1996 年 の 時 点 で す で に ブ ル ー ギ ル 、 オ オ ク チ バ ス が 確
認されており、かいぼりのようにこれらがほとんどあるいは完全に除
去 さ れ る よ う な こ と は な か っ た と 考 え ら れ る が 、1 8 年 が 経 過 し た 現 在 、
モツゴやテナガエビが確認され続けている。タイリクバラタナゴやヌ
マ チ チ ブ 、ス ジ エ ビ は 、今 回 、比 較 的 多 く の 個 体 が 確 認 さ れ た が 、1 9 9 6
表2
二ツ池において確認された魚類、エビ・カニ類
池名
目名
コイ
科名
コイ
種名
コイ
ゲンゴロウブナ
ギンブナ
キンギョ
フナ属
タイリクバラタナゴ
モツゴ
コイ科
ドジョウ
ドジョウ
スズキ
サンフィッシュ ブルーギル
オオクチバス
ハゼ
クロダハゼ
トウヨシノボリ
ヨシノボリ属
ヌマチチブ
タイワンドジョウ カムルチー
ポリプテルス ポリプテルス
ポリプテルス属
エビ
テナガエビ
テナガエビ
スジエビ
アメリカザリガニ アメリカザリガニ
モクズガニ
モクズガニ
魚類
エビ目
調査年度
調査月
獅子ヶ谷池
1996
5
2003
2010
6・8・11・2 6・8・9・1
Cyprinus carpio
Carassius cuvieri
1
10
Carassius auratus langsdorfii
1
Carassius carassius
Carassius sp.
41
8
38
14
Rhodeus ocellatus ocellatus
Pseudorasbora parva
Cyprinidae Gen. sp.
Misgurnus anguillicaudatus
Lepomis macrochirus
Micropterus salmoides
Rhinogobius kurodai
Rhinogobius sp. OR
Rhinogobius sp.
Tridentiger brevispinis
Channa argus
Polypterus sp.
Macrobrachium nipponense
Palaemon paucidens
Procambarus clarkii
Eriocheir japonicus
駒岡池
2014
7・8・9
1996
5
8
5+
5+
2003
3
1
1
16
2010
6・8・11・2 6・8・9・1
2
1
655
1
1
1
20
42
2014
7・8・9
1
2
5
1
1
6
10
3
11
3
2
17
1
95
1
10
15
11
○
5
8
要注意
○
10
1
428
27
34
4
136
58
32
3
3
5
28
16
○
○
1
5
16
31
注3
外来種
7
221
4
15
21
1
1
19
79
11
5
1
13
特定
特定
?
要注意
○
6
48
?
要注意
1目1科2種 2目5科7種 2目3科6種 2目2科3種 2目3科5種 2目4科9種 3目5科9種 2目3科8種
-
1科1種 3科4種 2科3種 1科1種 2科2種 2科3種 1科2種 1科2種
-
注1)種名および分類は、中坊 編(2013)日本産魚類検索 全種の同定 第三版 および過年度報告書を参考とした。
過年度に記録されているトウヨシノボリは、上記文献で定義されるクロダハゼにあたると考えられる。
注2)過年度結果について
1996年 : 樋口文夫・水尾寛己・福嶋悟・前川渡・阿久津卓・梅田孝(2002)
横浜市内の池における水環境と魚類相,甲殻類(十脚目)相の調査報告.横浜市環境科学研究所報,第26号,22-37,横浜市環境科学研究所.
2003年 : 横浜市環境科学研究所(2004)二ツ池(鶴見区)生物調査報告書.179pp.
2010年 : 横浜市環境創造局・日本環境株式会社(2011)二ツ池生物生息環境調査委託報告書.163pp+資料.
注3)外来種について
特定 : 「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」における特定外来生物。
要注意 : 環境省が指定する要注意外来生物。
○/? : 特定外来生物、要注意外来生物に指定されていないが、当該池において外来種と考えられる種(○)、その可能性があると考えられる種(?)。
注4)各生物種の行の数値は捕獲数、確認数を示す。+は目視確認等により数不明。
年には確認されておらず、数が増加したのはそれ以降と推察される。
アメリカザリガニは水生植物への影響(食害)も指摘されるが、継
続的に確認されている獅子ヶ谷池では、外来の水草を含め、水生植物
が繁茂している。開放水面の広い駒岡池では、前述のようにテナガエ
ビやスジエビが比較的多く確認されているものの、アメリカザリガニ
は近年、捕獲されていない。隣接する獅子ヶ谷池からの移動、侵入は
容易と考えられるが、爆発的に増えているということはないようであ
る。
ブルーギル
図3
オオクチバス
モツゴ
テナガエビ
主な確認生物(いずれも二ツ池にて捕獲)
4
おわりに
市内2池では、都市部の止水域という立地条件を反映してか、多く
の外来種が確認されており、生物相は短い間に変化し、不安定な状態
と言える。ブルーギルやオオクチバスは、他の生物に与える影響が大
きいことが指摘されているが、その程度は池の形状や水質に加え、か
いぼりや外来種防除の実施、新たな生物の移入などといった人為的攪
乱の有無などの条件によって大きく異なると考えられる。
ウシガエル(外来種)の防除によりアメリカザリガニが増加した事
例 や 、 オ オ ク チ バ ス と ア メ リ カ ザ リ ガ ニ は 共 存 し な い と い う 報 告 3)、
モ ツ ゴ ( 在 来 種 ) が ブ ル ー ギ ル の 増 加 を 抑 え て い る 事 例 4)な ど も 知 ら
れ、閉鎖的で人為的影響を受けやすいと考えられる止水域において外
来種の防除や環境の改変を行うにあたっては、科学的データの集積に
よ る 生 物 相 変 化 の 把 握 や 予 測 、状 況 に 即 し た 対 応 が 重 要 と 考 え ら れ る 。
引用文献
1) 樋 口 文 夫 ・ 水 尾 寛 己 ・ 福 嶋 悟 ・ 前 川 渡 ・ 阿 久 津 卓 ・ 梅 田 孝 ( 2002)
横浜市内の池における水環境と魚類相,甲殻類(十脚目)相の調査
報 告 、 横 浜 市 環 境 科 学 研 究 所 報 、 第 26 号 、 p22-37、 横 浜 市 環 境 科 学
研究所.
2) 横 浜 市 環 境 科 学 研 究 所 ( 2011) 横 浜 の 池 の 生 物 .
3) 高 村 典 子 ( 2003) た め 池 の 保 全 を 考 え る 、 水 環 境 学 会 誌 、 26( 5)
p269-274.
4 )赤 木 光 子( 2 0 1 3 )都 市 公 園 池 に お け る ブ ル ー ギ ル の 衰 退 と そ の 原 因 、
Rio 豊 田 市 矢 作 川 研 究 所 月 報 、 No.176、 p1-3.
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