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古都の歴史と郷の暮らしに 出会える街
古都の歴史と郷の暮らしに 出会える街 富田 清一 第 13 回 訪ねてみたい 街 ◎茨城県石岡市 ◆セイショウ建築事務所(茨城会) ❶ ガイド 茨城県 石岡市 高浜から筑波山を望む ↑水戸 都々一坊扇歌堂 ❻ 国分寺跡 ❼ 旧千手院山門 旧水戸街道 km、東は霞ヶ浦高浜入り江から西に関東の名峰筑波 山の東山麓まで❶を有し、約 1,300 年前の奈良時代 八間道路 には国府が置かれ、常陸国の中心地として栄えていた 石岡駅 歴史ある街で、市内各所にはそれを物語る多くの建築 線 常磐 ❹❺ 石岡は茨城県のほぼ中央に位置し、都心から約 70 52 看板建築群 常陸國總社宮 常陸国の中心地だった石岡 物や遺 跡が残されています。JR 常磐線石岡駅から、 号 道6 国 正面に伸びる八間道路を 5 分程歩き、旧水戸街道と の T 字路を左に折れると、昭和レトロな看板建 築群 水戸駅から石岡駅まで、JR常磐線上野行で約30分(特急で約20分) ❷が見えてきます。東日本大震災ではこれらの建物も、 屋根瓦や外壁の一部崩落等大きな被害を受けました が、現在は復旧されています。 ❷ ❸ 中町通りの看板建築群 38 「石岡のおまつり」常陸國總社宮例大祭 2015.8 ❹ ❺ 常陸國總社宮拝殿 ❻ 常陸國總社宮神楽殿 看板建築 看板建築とは、関東大震災後、東京や関東周辺の 国分寺跡の都々一坊扇歌堂 ❼ し残っていま す。 平成 16 年 商店建築に広まった建築様式です。具体的には、木 (2004) には、 造 2 階建ての店舗兼住宅で、道路に面した壁面を垂 減り続ける筑 直に立ち上げ、そこにモルタルやタイル、銅板などで西 波山麓の茅 洋の様式や意匠を模した装飾を施したもので、地元の 葺 き民 家 を 職人たちにより在来の技法や技能を駆使して造られま 後世に伝えよ した。石岡では昭和 4 年(1929)の大火によって、中 うと、茅葺き民家の家主、茅葺き職人のほか、賛同す 心市街も含め多くの建物が焼失しました。看板建築の る多くの人々により、 「やさと茅葺き屋根保存会」が結 多くはその後の復興時に建設されたものです。 「十七屋 成され、茅材の確保、若手職人の育成、技術の継承 履物店」 「久松商店」 「すがや化粧品店」 「森戸文四郎 など、保存に向けたさまざまな活動を続けています。 商店」などが現存し、看板建築ではないものの、 「丁 旧千手院山門 64 子屋」 「府中誉」等の国の登録有形文化財を含む歴 ンとして、毎年 9 月に 3 日間開催される「石岡のおまつ り」常陸國總社宮例大祭❸は、関東三大祭りの一つと 神輿や絢爛豪華な山車、独特な幌獅子が 40 数台市 内を巡行し、市街は祭り一色となります。 42 綿引邸 (上曽地区) 64 7 140 42 羽鳥駅 西光院 150 ゆりの郷 140 42 42 茨城県フラワーパーク 7 64 常磐線 され、期間中は県内外から数十万人が訪れ、伝統ある 常 磐 自 動 車 道 史的建造物が多く残っています。 (p.41 で紹介) この看板建築のある旧水戸街道と八間道路をメイ 茅葺き民家 140 7 138 木崎邸 (上青柳地区) 64 355 石岡駅 看板建築を堪能した後は、徒歩で常陸國總社宮❹・ ❺、常陸国分寺跡(国指定特別史跡) ・都々一坊扇歌 堂❻、旧千手院山門❼など、市内の古刹や古社・史 跡を巡る歴史探訪もお勧めです。 八郷地区の茅葺き民家を訪ねる 看板建築・歴史探訪の後は、車なら 20 分程で、八 郷 地区の茅葺き民家を訪ねることができます。八郷 地区は、紫峰「筑波山」の東山麓に位置し、都心から 100km 圏内にありながら、 「にほんの里 100 選」に選 綿引邸(上曽地区) ばれ、現在でものどかな日本の原風景を保っています。 かつて旅籠を営んでいた珍しい 2 階建ての茅葺き民家で この地域は、豊かな自然と温暖な気候に恵まれ、梨・柿・ す。築年度は江戸期とされ、道路に面する屋根は、出桁化 蜜柑などが盛んに栽培されており、特に富有柿は献上 も施されています。キリトビには本家を表す文字が描かれ、 品として有名です。現在も地区内には筑波流茅手の技 によって葺かれた貴重な茅葺き民家が、70 軒程散在 粧の軒に 6 本のトオシモノ、小口を白く塗られた竹「くだ」 周りにカラクミトミと呼ばれる、竹の小口を色付けした装 飾が施されています。 2015.8 39 第 13 回 訪ねてみたい 街 古都の歴史と郷の暮らしに出会える街 ガイド 木崎邸(上青柳地区) 棟に青漆喰が際立つ鏝絵が 施された重厚な門をくぐる と、左側に池を配する手入 れの行き届いた庭が広がり、 築年度は江戸期とされる茅 葺きの主屋と離れがありま す。屋根は、トオシモノと 呼ばれる縞模様が 7 層施さ れ、葺厚は約 1 m、軒先の 出は 2 mほど。ぐしにはキ リトビと呼ばれる寿の文字 細工、離れのぐしには、シュ ロで「大 名ぐし」と呼ばれ る装飾が施されています。 筑波流茅手とは 峰寺山西光院 筑波流茅手と他の茅葺き方法との違いとして、軒先 八郷地区吉生集落の北端、峰寺山の中腹に、「関東 と棟の納め方が、特に技巧的で装飾的なことだといわ の清水寺」 と言われる天台宗西光院❽があります。平 れています。1 番下に藁、その上に古茅と新茅を交互 安時代初期の大同 2 年(807) 、徳一大師の開基と伝 に 5 ∼ 7 層に葺いて、美しく刈り込んで仕上げた軒は、 えらており、現在の本堂は寛政 3 年(1791)築とされ、 芸術的な縞模様(トオシモノ)を見せています。ぐし 京都の清水寺に代表される「懸造り」となっています。 (棟)は主に竹簀巻で、ぐしの両端には、家の繁栄を 回廊からは右に筑波山、眼下に広大な里山風景を堪 願う「松竹梅」 「寿」や、火除けとして「龍」 「水」など 能できます。また、観音堂には平安時代末の製作とさ の絵柄、縁起文字、厄除け文字などを施し、手の込 れる、高さ約 6 mの桧材寄木造の立木観音菩薩像❾ んだ仕上げとなっています。 が祀られています。マナーをわきまえない旅行者が多 茅葺き民家のほとんどは個人の住宅で、現在も居住 し生活されており、観光目的での公開は行っていませ ん。見学や写真撮影などを希望する場合は、必ず住 いとのことで、残念ながら境内は現在撮影禁止となっ ています(団体での見学は事前の連絡が必要です) 。 八郷 地区には 茨城 県フラワーパーク もあり、 民の方に了解を得ることはもちろん、良識ある行動を 四季折々華麗な花を見ることができます。ここから程 お願いします。 近い所に、リピーター客の多い日帰り温泉施設 ゆり ❽ ❾ の郷 があり、ゆったりと湯に浸か りながら疲れを癒すこともできます。 今回紹介できませんでしたが、 ゆり の郷 から車で 10 分ほど足を延ば し、桜川市真壁の重伝建地区の散 策もお勧めです。 西光院 40 立木観音菩薩像 2015.8 茨城県フラワーパーク 八間道路 森戸文四郎商店 すがや化粧品店 線 常磐 石岡駅 十七屋履物店 久松商店 丁子屋 旧水戸街道 ︵中町通り︶ 石岡市・ 中 町 通 り の 看 板 建 築 府中誉 すがや化粧品店 平松理容店 昭和 3 年の建築。翌年の石岡の大火では難を免れています。正面外 壁はモルタル洗い出し。石岡で多くの看板建築を手がけた左官職人 「土屋竜之助」が最初に手がけたものとされています。店舗内の床は 三和土に大鋸屑を混ぜた仕上げで、今では貴重なものです。漆喰仕 上げの天井に古代ギリシャ風、コリント様式風のアカンサスの葉の 天蓋が取り付けられ、理容鏡、流しなど当時の物が残されています。 平松理容店 昭和 5 年頃の建築。正面外壁はモルタル洗い出し。屋号を冠した「ペ ディメント」が配され、柱型はイオニア・コリント様式風の柱頭飾 りなど、重厚な外観はこの地区における秀逸な看板建築です。 看板建築と趣の異なる歴史的建造物 森戸文四郎商店 昭和 4 年の大火による焼失を免れた建物で、江戸時代末期の建築。 一見平屋に見えますが、木造 2 階建の商家建築で屋根は瓦葺、正面 は寄棟造、裏側は切妻で下屋庇付。外壁は黒漆喰の土蔵壁です。元々 は染物屋でしたが、現在は観光施設「まち蔵藍」として、物産品の 販売や喫茶施設となっています。 府中誉︵府中酒造︶ 十七屋履物店と久松商店 十七屋履物店(左) 昭和 5 年の代表的な木造 2 階建の看板建築。正面外壁は、鮮やかな クリーム色のモルタルリシン掻き落し。2 階は持送風の柱頭飾り付 柱型を中心として縦長の連窓を左右に配し、軒下にはロンバルディ ア帯をあしらっています。昭和 4 年の大火後、この地区で最初に再 建されました。 久松商店(右) 昭和 5 年頃の建築。正面外壁は銅板張り。左右の柱型はタイル張り。 中央に半円飾りを配し、そこから左右に帯状のコーニスと呼ばれる 装飾が施されています。 丁子屋 昭和 5 年頃の建築。木造 2 階建で正面外壁はモルタル洗い出し。両 端の柱型は褐色タイル張り。2 階部分は柱型レリーフ間に 3 本の縦 型窓を配し、窓枠上部のレリーフ装飾が特徴で、全体にアールデコ 調の外観となっています。 安政元年(1854)創業の造り酒屋で、敷地内の建物は、明治初期か ら昭和初期の建築。主屋は明治 2 年の建造と言われ、大黒柱は 1 尺 梁は 2 尺程で、外壁は 1 階 2 階とも道路面が土壁。関東の灘といわ れる石岡の地酒は、日本酒が好きな方にはお勧めです。 2015.8 41