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医療・福祉・介護等の現場を支える機器の創出に挑む

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医療・福祉・介護等の現場を支える機器の創出に挑む
医療・福祉・介護
等の現場を支える
機器の創出に挑む
事例
1
非医療機器からの出発、夢を次世代に託す!
医療機器メーカーへの道のり
エーアンドエー株式会社
市場縮小と新分野の模索
通常、病院は複数人で患者を手術台に乗せたり運び出し
エーアンドエーは、1973 年に電子顕微鏡、X 線関連装置の
たりしますが、「パステム」があれば看護師 1 人でも可能になり
製造で創業し、1990 年代は携帯電話の中継基地局を製造し
ます。他の医療機器メーカーが、すでに同様の製品を販売し
ていました。私は以前から製造業の海外流出・国内空洞化を
ていましたが、競合製品よりも低価格で、高い付加価値を実現
予想し、生き残るために量産品よりも内視鏡を含む精密機器
しました。試作機を近隣の病院に提供し、実際に運用した際
の試作品や単品加工、マグネシウム切削加工など、難易度が
の意見、課題、要望を吸い上げて改良を重ねました。私達は
高い仕事に取り組んできました。2000 年代は半導体製造装置
精密・複雑な機器を設計・製造できるため、開発・製造は苦労
の中核ユニットを手がけ、それを主力事業に育成しました。し
しませんでしたが、安全性の確保には注意をしました。すでに
かし、日本の半導体産業の衰退により、現在は顧客企業が生
販売も開始し、導入病院で高く評価されています。ただし、普
産を海外に移転しつつあります。そのため、重要技術を持つ
通のストレッチャーは 40~50 万円で、それに比べると高額な
私達も顧客と一緒に海外製造し、事業を海外で存続させようと
印象を与えてしまう点が課題です。
考えました。
電動式移乗機「パルチェ」の開発
しかし、日本に残る社員の将来を考えると、自問自答の
日々が続きました。将来の新しい分野を模索する中で、社会
本社の近隣には特別養護老人ホームなど、約 180 の入居
の高齢化が進むと必然的に拡大する市場として、2010 年頃に
型介護施設があります。常々、その市場も重要だと考えていま
医療・介護分野のモノづくりに進むことを決めました。
した。介護は高齢者をベッドから抱き上げるような重労働が多
く、腰を痛める人もいます。それを解決する既存製品を調べる
患者移載搬送装置「パステム」の開発
と、上から荷物を吊り上げるような装置が多くて、高齢者が怖
いと感じて実際は使われることが少ないと分かりました。
最初に開発した製品は、患者移載搬送装置「パステム」で
す。患者に全くダメージを与えず、手術台に乗せたり、搬出で
そこで、私達は高齢者を優しく持ち上げて移乗させる装置
きる優しい装置です。開発当初は医療機器の製造業許可もな
「パルチェ」を考案しました。「パルチェ」はまだ試験運用段階
く、病院が必要とする非医療機器を社内のアイディアで製品
ですが、何台かを施設に貸し出して使用してもらい、現在、意
化しました。駆動部は半導体製造分野で培った技術と独自の
見や課題を反映した新バージョンを開発中です。今後、小型
アイディアを使っています。
化・低価格化を進め、トイレでも使えるようになります。
ゼロからスタートした営業活動
この 3 年間、私達が開発した製品を営業して、勝負を決める
要素は値段と性能だけではないと学びました。製品が病院に
至る商流は複雑で、診療科目や製品カテゴリによる独特の商
慣習があります。「パステム」の販売は、手術台メーカーと連携
した共同展開に注力しています。
私達は、この分野の販売知識・経験はゼロからスタートして
います。展示会に出展し、製品・技術を見た関係者は興味を
示しますが、最初に価格の問題、次に病院に届く商流を理解
「パステム」
「パルチェ」
する必要があり、難しい世界だと感じています。当然、自社だ
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Ⅱ 医療・福祉・介護等の現場を支える機器の創出に挑む
(左から順に) エーアンドエー㈱ 取締役会長 田澤 信之氏、 代表取締役 田澤 直樹氏、
㈱エーアンドエーシステム 企画・業務部 部長 鈴木 靖志氏、 営業部・技術課 課長 小野 一成氏
けの営業力には限界があります。近隣地域は自社販売します
車イスを開発しています。また、新しい診断装置の実用化にも
が、全国展開は代理店体制が必要です。現在、代理店に対
取り組んでいます。X 線を使わずに、児童で増えている側弯
するプレゼンテーション活動を展開しています。
症を測定できる装置です。
介護分野では、多数の施設を訪問し、デモ実演したり、モ
エーアンドエーは、今後、医療機器メーカーを目指します。
ニターを依頼する中で、近隣の介護施設とネットワークを構築
診断機器を事業化するために、製造業許可を取り、今後は製
しました。許容される値段と、機能・性能・付加価値のバランス
造販売業許可を取得する予定です。「パステム」から始まり、
感覚をつかみつつあります。国も医療・介護の問題に焦点を
数多くの困難を走り抜け、診断機器の実用化を睨むところまで
あて、課題解決や産業振興の旗を振りますが、末端の現実は
来ました。半導体の市況を見ると、新事業の展開・育成を急が
厳しいものがあります。居住者が多い大型の介護施設では、
なければなりません。
スタッフは迅速な作業を要求されます。「パルチェ」を使う移乗
製造業の工場は「3K」という言葉の通り、工場も事務所も汚
時間は 1~2 分ですが、その場限りではマンパワーのほうが迅
れて暗いイメージがあります。しかし、医療機器や介護機器を
速です。スタッフがいつ足腰を痛めるか分かりませんが、施設
強化するために、建物も工場も綺麗にしたいと考えました。リ
の経営環境が厳しく、経営者の考え方に左右されます。
ーマンショックの最中、新しい本社工場が完成し、綺麗で明る
病院向け提案活動も簡単ではありません。「パステム」は看
い建屋の入り口は知らずに訪れると工場に見えません。新し
護師の評価が高くても、購入は決定権限を持つ層に PR する
い工場で製造業許可の取得はスムーズに進みました。監査す
必要があります。昨今は病院の予算事情も厳しく、製品カテゴ
る側も人間です。綺麗な工場が優れた製品をつくる、そんな
リによって決定権限を持つ人が異なります。最初はターゲット
解釈があるのかもしれません。
がよく分からず、やみくもに営業してきましたが、ようやく経験・
開発を進める技術の事業化を後継者に託し、事業をうまく
ノウハウを蓄積しつつあります。現場で認められても、その後
継承して欲しいと考えています。医療・介護分野では、私達は
は既存の商流に乗せることを求められることがあり、医療の商
まだ夢を形にしているだけの段階です。この分野で生きていく
慣習にまだ慣れないと感じます。
に値する製品を生み、売っていかなければなりません。私は
間もなく、後継者にバトンを渡します。新しいリーダーと社員で、
夢を継ぐ社員達へ
力を合わせて未来を勝ち取って欲しいと願います。
数年前まで医療や介護は隙間産業でしたが、最近は大企
業の参入が増加しています。大手が雪崩れ込めば、中小企業
エーアンドエー株式会社
は簡単に吹き飛びます。大手が参入できない隙間を探し、ア
【所在地】 〒190-0182 東京都西多摩郡日の出町平井 15-8
【設立】 1973 年 【資本金】 2,000 万円 【従業員】 40 名
【連絡先】 042-588-7966(代)
【事業内容】 半導体関連装置の製造・組立・電気調整、金属・樹脂
の 3D デザインモデルの製作・ワーキングモデル製作、医療・介護機
器製造
イディアで勝負し、身軽さとスピードで先回りすることが重要で
す。現在、在宅ケアに向けた戦略を構想し、在宅の家族に必
要な技術・製品を開発しています。
大学との共同開発も複数展開し、例えば新しいコンセプトの
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医療・福祉・介護
等の現場を支える
機器の創出に挑む
事例
2
いくぞ、メイド イン ジャパン!
光造形技術による臓器モデル「モノロイド」
株式会社ジェイ・エム・シー
光造形技術を医療で活かす
臓器の形状をリアルに再現する点が特長です。
私達ジェイ・エム・シー(以下、JMC)は、1990 年代から光造
厳密には、CT の三次元データだけで人体内部を完璧に再
形サービスに取り組んできた企業です。光造形は金型が不要
現できるわけではなく、例えば臓器の表面は、データだけでは
で、試作品などの小数部品の製造に向きます。2006 年には鋳
分かりません。そこで、CG ソフトウェアを使って手作業で細部
造技術を持つ㈲SKE と合併し、現在、鋳造と光造形で金属、
を再現し、表面も本物に近い形状を実現しています。医師は、
樹脂を問わず、様々なモノの造形に対応しています。
医療モデルで腫瘍、瘤、狭窄など、難しい症例を訓練したり、
術前シミュレーションに使うニーズがあります。そこで、訓練用
光造形サービスを開始した頃、ある医療業界の企業と一緒
の疾患形状をリアルに追加・再現できる点も特長です。
に、手術で欠損した頭蓋骨をふさぐ蓋の造形に携わるようにな
りました。患者の CT データを受け取り、個々にフィットした原
また、臓器が硬ければ、リアルとはいえません。そこで、シリ
型を 36 時間以内に納入する仕事です。顧客は 1 社だけで、
コンで成型し、柔らかく造形します。透明素材を使えばカテー
特に医療を意識しませんでしたが、継続して安定した受注が
テルなどを視認でき、操作の練習に役立ちます。触感が重要
続いてきました。
な場合は、親水性を持つ PVA(polyvinyl alcohol)で造形し、
近年まで、私達は自動車向けの鋳造製品を主力事業として
瑞々しさを再現します。これは例えば穿刺した時、かなり本物
きました。しかし、リーマンショックの影響で仕事が一気に減り、
に近い触感があります。超音波診断装置に実際の臓器と同じ
打開策や新規分野を模索する中で目を向けたのが医療です。
ように映る素材のモデルもあり、超音波画像を見ながら、疑似
医療は景気の影響が小さく、どんな社会にも必ず病気になる
腫瘍を穿刺する生検の訓練などに応用できます。
人がいます。そこに必要な製品はニーズが消えないと考え、
医師が治療技術を訓練する際、従来は動物が使われてき
すでにノウハウを持つ骨の造形を起点に、臓器や血管モデル
ましたが、昨今は動物の使用が厳しくなり、医療モデルの活用
を造形する「モノロイド」を事業化しました。
が増えています。医療機器メーカーが新しい機器や治療技術
を PR する場面でも、「モノロイド」をセットで使うと効果的で、機
JMCがつくる「モノロイド」
器が機能する様子をリアルに見せることができます。今後、こ
「モノロイド」は、私達にとって光造形、鋳造に続く第三の事
の流れは加速していくものと予想され、症例数の多い臓器や、
業です。最終製品を手がけることで、自ら市場を開拓できる商
治療技術のトレンドに注意しながら、対応モデルを充実させた
材となっています。実際の人体の CT データから造形しており、
いと思います。
気づけば、販路を持っていた!
「モノロイド」の顧客は、約 9 割が医療機器メーカーで、機器
開発における機能・性能の検証などに使われます。「モノロイ
ド」があれば、内視鏡やカテーテルが目的位置に届き、狙い
通りに機能するかどうかを検証できます。新製品の営業提案
の場面でも活躍しています。
いきなり医療業界に新規営業しても、顧客獲得は難しかっ
透明な心臓モデル
たと思います。しかし、JMC は光造形事業で、多数の医療機
代表取締役の渡邊大知氏の
CT データから造形した頭蓋骨
モデル
器メーカーの試作品づくりに協力してきた歴史がありました。
つまり、「モノロイド」を製品化した時点で、必要な顧客基盤を
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Ⅱ 医療・福祉・介護等の現場を支える機器の創出に挑む
持っていたわけです。
日本の大手医療機器メーカーは、世界に販路を持ちます。
外資系メーカーの日本法人も私達の顧客です。そのネットワ
ークに乗り、「モノロイド」が海外に広がりつつあります。特に欧
州は動物実験が厳しく、今後、需要拡大が期待できます。現
在、海外の展示会にも積極的に出展し、現地での販促活動に
注力しています。最初の海外出展で具体的な成果が得られな
かったため、昨年からは現地の代理店や人材と連携し、商談
につなげる流れに変えました。今後、これらの努力が具体的
な成果につながると思います。
現在、「モノロイド」の売上は、ほぼ全てが顧客の用途・要望
に合わせたオーダーメード製品です。これでは従来の受託製
㈱ジェイ・エム・シー 取締役 CFO 上杉 北斗氏
造事業と同じなので、もっと製品ラインナップの強化に取り組
約 6 割を占めた自動車向け事業は、現在、売上全体の 3 割以
む必要を感じています。
下に抑えています。医療事業の売上はまだ小さい状況ですが、
海外に出よう!
利益率はよく、実績も昨年の約 2 倍に急成長しています。
私達は、積極的に海外展開しなければ生き残れないと考え
「モノロイド」の営業は小数精鋭でこなしている状況です。
ています。現在、特にドイツ市場を重視しています。海外の医
Web サイト経由の受注が多く、目下、自社サイトに掲載する製
療機器市場は、米国とドイツの規模が大きく、本当は両方とも
品情報の充実に注力しています。事業開始時点では、すでに
攻略したいのですが、体制・リソースに制限があります。米国
顧客基盤を持つことが功を奏しました。今後、さらに飛躍する
市場は、米国の企業の日本法人を通じたリーチがあります。
ための戦略を考え、実行していきたいと思います。
私自身、日々、医療について勉強している状況です。医師
一方、ドイツの医療は世界でいち早く新規技術が認可される
は生体をリアルに再現する方法や、治療の担い手に役立つア
特性があります。
日本の中小製造業は、経営者が 1 人で営業する場合が多
イディアを知っています。内視鏡外科学会への出展をきっか
いと思います。経済が好調で、次々仕事が来る状況では、製
けに、現在は医師との人脈が充実し、最新の治療技術の情報
造に注力してもよいでしょう。しかし、今後はそんな時代が再
などが得られるようになりました。
来するとは考えにくく、製造業も営業力なくして生き残れない
「モノロイド」があれば、研修医も最新の手技をリアルに練習
時代になりました。日本の中小製造業は、積極的に海外で営
でき、医療の発展と、安全・安心に貢献します。従来、開胸・
業展開するべきだと思います。日本製品の品質・信頼は、まだ
開腹手術で治療した病気も、内視鏡やカテーテルによる低侵
輝きを失っていません。海外の展示会で、日本の企業だと伝
襲治療にシフトしています。医師は急速に進歩するこれらの機
えるだけで、具体的な商談に進んだ経験もあります。カントリ
器を、常に熟練の手さばきで使いこなす必要があります。その
ーリスクが高い国の企業に対して、信頼して図面を開示できな
訓練の場で、今後も「モノロイド」の活躍シーンを増やしていき
い不安があるようです。日本企業はもっと海外に出れば、本来
たいと思います。
は絶対に勝てる技術があるはずで、国全体で盛り上げていく
気運が重要です。
株式会社ジェイ・エム・シー
【所在地】 〒222-0033 神奈川県横浜市港北区新横浜 2-5-5
【設立】 1992 年 【資本金】 6,300 万円 【従業員】 27 名
【連絡先】 045-477-5757(代)
【事業内容】 樹脂部門(光造形モデル作成、 医療用モデル作成、デ
ザイン受託業務、3D データ作成、プラスチック設計受託、各種表面処
理、試作金型、樹脂金型、真空注型、粉末造形モデル作成、モックア
ップ)、鋳造・金属部門(光造形焼失鋳造 Q-TAC、精密砂型鋳造、鋳
造全般、ショープロセス鋳造、各種後処理)
医療の発展と、安全・安心のために
リーマンショックの経験を踏まえ、特定業界に依存する事業
構造は危険だと考えるようになりました。現在は医療も含めて、
様々な分野に分散することを心がけています。かつて売上の
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医療・福祉・介護
等の現場を支える
機器の創出に挑む
事例
3
先端素材で最新理論を実現!
運動が「楽しくなる」介護予防機器の開発
竹井機器工業株式会社
研究データと評価基準へのこだわり
筋力トレーニングは、日本の健康増進・介護予防の大きな
竹井機器工業(以下、竹井機器)は、1927 年、ウソ発見器
柱の 1 つです。プロジェクト発足当時、介護予防用の筋力トレ
の国産化をきっかけに東京で創業し、その後、事業を様々な
ーニング機器は、重り方式の 4 機種の指定があり、急速に普
実験機器に拡大しました。太平洋戦争中に、軍部の命による
及し始めていました。しかし、4 機種では多様性に乏しく、機能
工場疎開で新潟県に移転しました。当初は縁もゆかりもない
にも不足感があります。コンソーシアムで新しい機器の姿を模
土地でしたが、戦後もこの地域に根づき、心理学実験機器の
索し、利用者に応じて設定を自動で行うなど、運動をガイドで
事業を再開しました。その後も適性検査技術・機器などを開発
きるロボット技術を応用することになりました。
し、運転適性検査の関連製品は、現在も全国の運転免許セン
実はこの段階で、竹井機器はまだプロジェクトに参加してい
ターで正式採用されています。東京オリンピックが開催された
ませんでした。コンソーシアムで理論構築・検証が進み、具体
1964 年、文部省(当時)の委託を受け、体力測定機器を開発
的な試作機を開発する段階になって、この分野の技術に強い
し、運動やスポーツ科学分野へと事業を拡大しました。
新潟県の企業として竹井機器が選ばれたのです。
私達は人間の能力計測と、計測後の能力伸長を重視し、手
2009 年に試作機がいったん完成し、NEDO 事業は終了しま
がける技術や製品群を「人間工学実験機器」と総称していま
した。その後、事業化を正式に決定し、日立製作所の協力を
す。確固たる研究データと評価基準の確立にこだわり、研究
受けながら、竹井機器のブランドで製品化することになりまし
用途をはじめ、トレーニングやリハビリテーションなど、健康・医
た。そして、約 3 年の開発期間を投じて 2011 年 6 月に「スマー
療・介護の世界にも様々な形で関わっています。
トトレーナー」として製品化を達成しました。
開発プロジェクト始動
磁気粘性流体の応用
2004 年、新潟県の「健康ビジネス連峰」構想のもと、当時の
当初、高齢者の健康増進・介護予防用途を想定し、最初の
新潟県知事が㈱日立製作所に打診したことがきっかけとなり、
試作機が発生できた負荷は数十㎏程度でした。この数値では
新しい機器開発のプロジェクトが始まりました。新潟県と日立
用途が狭いという意見がある中で、磁気粘性流体を研究する
製作所を中心とする産学連携コンソーシアムが発足し、(財)に
横浜国立大学の森下信先生が開発に参加し、負荷 200 ㎏の
いがた産業創造機構を代表機関として、新潟大学をはじめと
性能を実現しました。これで、用途が健常者にも広がります。
する県内外の研究機関・教育機関が参画しました。そして、プ
磁気粘性流体を使うことで、200 ㎏の負荷が発生しても、危
ロジェクトが NEDO 事業に採択され、介護予防分野の新しいト
険を回避できます。重りを使う原理では、持ち上げた後に戻る
レーニング機器を開発することになりました。
力が発生し、その重量を支えながら下げる運動は高齢者には
危険です。磁気粘性流体を使えば、負荷に抵抗しながら持ち
上げた後、そこで止めることが可能になり、勝手に戻ってきま
せん。動いた分だけ抵抗が発生し、非常に安全です。
磁気粘性流体は、見た目は黒い液体で、磁力で粘性が変
化します。実用化には課題や未知の部分が残り、まだ応用例
が少ない素材です。磁気粘性流体をシーリングしたアクチュエ
ータは、形状が油圧シリンダーに似ており、基幹部品として竹
井機器が開発しました。内部にピストンやコイル構造があり、
「スマートトレーナー」
電流で抵抗負荷を制御できます。磁気粘性流体は瞬時に応
36
Ⅱ 医療・福祉・介護等の現場を支える機器の創出に挑む
答し、200 ㎏の負荷を実現しながら、サイズは非常にコンパクト
です。欠点はコストが高い点で、使用中に熱が発生するなど、
取り扱いにも難しさがあります。使わなければ沈殿が起こり、負
荷を一定にする工夫も必要です。いずれにしても、まだ新しい
技術といえます。
最新の運動理論と、楽しさの融合
「スマートトレーナー」の最大の特長は、九州大学病院の高
竹井機器工業㈱
取締役 製造部・総務部 部長 高頭 静夫氏(左)
営業本部 副部長 堀 幹雄氏(右)
杉紳一郎先生の研究成果を応用し、世界で初めて脚のフル
コンセントリック運動を実現しました。コンセントリック運動とは、
筋肉が縮みながら力を発揮する運動で、階段を上る時の運動
が代表例です。それに対し、階段を下りる時は、筋肉が伸び
います。機器購入の気運が冷えて、この制度変更で甚大な影
ながら力を発揮し、エキセントリック運動と呼びます。一見、階
響を受けた企業もあると聞きます。
段を下りるほうが楽そうですが、エキセントリック運動は筋肉痛
安全で、きわめて運動効果が高い機器が完成しましたが、
が起きやすくなり、高齢者には不向きです。
「フルコンセントリック運動」の説明がやや難しい点が販促上の
重りを上げ下げする運動は、コンセントリック運動とエキセン
課題です。すでに実績を持つ製品の改良・進化版は理解され
トリック運動が必ず交互になります。「スマートトレーナー」は、
やすいのですが、革新的な機器は特性・メリットの説明が難し
磁気粘性流体を使うことで、腕も脚も常にコンセントリック運動
い場合があります。サイズも大きいため、運搬・デモ展示も簡
になり、筋肉痛が少なく、高い運動効果が得られます。そして、
単ではありません。現在、新潟県のビックスワンスタジアムに耐
脚でフルコンセントリック運動を実現した機器は世界で初めて
久試験をかねて無償で提供しています。実際に使った人には
です。脚は「蹴り」と「曲げ」で力が 3~4 倍異なり、どちらかの
好評で、体験すれば違いを実感できます。
負荷に合わせると、両立しません。「スマートトレーナー」は、
このプロジェクトを通じて、磁気粘性流体の応用ノウハウを
磁気粘性流体の負荷を瞬時に調整することで、その問題を解
蓄積しました。基幹部品が現在の姿に至るまでに、相当な数
決しています。
の試作品を作製しており、苦労の結晶です。今後、エルゴメー
トレーニング機器にゲームの要素を追加した点も特徴です。
ターをはじめとした様々な機器に応用できると思います。
これも高杉先生のアイディアで、運動習慣がない人に継続し
すでに県外自治体の介護施設や運動施設、民間フィットネ
てもらうため、楽しさの要素を強化しました。ゲームは「パックマ
スクラブにも導入され、2012 年の年末から受注が増え始めて
ン」の開発で有名な東京工芸大学の岩谷徹先生に本格的な
います。医療機関にもリハビリテーションやメディカルフィットネ
コンテンツを考えて頂きました。
ス用途で導入実績ができました。近隣の購入希望施設が導入
施設を見学する動きもあり、そこから実績が広がっていくと期
超高齢社会に向けた技術の応用
待しています。
介護予防は、高齢化が進行し、医療費や介護費用が膨ら
む日本にとって重要であることは間違いありません。効率的・
竹井機器工業株式会社
効果的な技術やツールは、今後、多くの介護施設に必要です。
【所在地】 〒956-0113 新潟県新潟市秋葉区矢代田 619
【設立】 1952 年 【資本金】 7,000 万円 【従業員】 95 名
【連絡先】 0250-38-4131(代)
【事業内容】 心理学実験機器、適性検査機器、体力測定機器および
トレーニング機器の製造・販売、医療機器の製造・販売、その他、一
般精密科学機器の製造・販売
開発当初は、介護予防用機器の市場が立ち上がり、これから
拡大・発展する期待がありました。しかし、制度が改正され、機
器への補助が消えて、現在、支援対象はサービスに絞られて
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医療・福祉・介護
等の現場を支える
機器の創出に挑む
事例
4
1枚の絵から全てが始まった
腕時計型行動記録計「ViMスポーツメモリ」
マイクロストーン株式会社
1枚の絵から全てが始まった
医療分野でも、ある企業から依頼があり、人体の動きを精密に
大手企業の研究所勤務を経て、研究テーマだったセンサを
計測する小型装置の共同開発に取り組みました。その後、顧
事業化するために独立しました。1999 年、自宅の 6 畳間で創
客企業はその装置をパーキンソン病のデータを取得する医療
業、資金はありませんでしたが、辞めた職場の上司や同僚、
機器として製品化しています。
知人らが奔走し、1,000 万円をかき集めてくれました。会社を
腕時計型センサ「ViMスポーツメモリ」
登記する時に県に相談すると、助成事業の案内を受け、その
時に描いた 1 枚の絵から現在の事業が全て始まっています。
マイクロストーンの強みはセンシング技術にあり、顧客がデ
構想図には、腕時計型デバイスで人間の行動を計測・記録
ータを有効に活用できる専用ソフトウェアを提供しています。
し、データをネットワークに送信・蓄積して自宅で管理したり、
最初の構想に描いた腕時計型端末は、現在、「ViM スポーツ
必要に応じて医師、介護事業者、保健師などが情報を共有し、
メモリ」という製品名で販売しています。「ViM スポーツメモリ」
在宅ケアに活用する仕組みを描きました。この構想は、創業
は、加速度センサとジャイロセンサを搭載し、人間の 1 日の行
前に父が入院した時に考えました。病床で終日寝たきりとなり、
動記録を詳細・精密に計測・記録する装置です。データは専
1 日 1 回、医師が診察し、看護師が簡単に状況を聞き、あとは
用ソフトウェアで管理・解析できます。計測データを処理する
点滴と放置です。その状況に疑問を持ち、病院内外の患者の
アルゴリズムにノウハウがあり、記録データからデスクワーク、
状況を把握できる仕組みを考えていました。
自転車、ジョギング、ウォーキング、ラジオ体操など、様々な動
2000 年、NEDO 事業の予算を獲得でき、コンソーシアムに
作の種類を判定できます。
信州大学医学部・工学部と、多数の大学や病院が参加し、ハ
ソフトウェアでは、1 日の生活に占める運動を種類ごとに合
ードとソフトを開発できました。その後も予算に恵まれ、システ
計時間や構成比率を把握可能です。起きてから寝るまでの行
ム開発が進み、加速度センサやジャイロセンサを製品化、大
動を振り返ったり、歩数や消費カロリーも算出できます。デー
学などの研究用途に販売しました。以前の職場の部下達も会
タを週単位、月単位で蓄積すると行動スタイルが分かり、行動
社に合流し、現在の会社の基礎ができました。
変容を促す健康指導に応用されています。ダイエット用のソフ
センサ製品の購入者から要望が寄せられ、データ蓄積装置、
トウェアも開発し、運動データ、食事データ、日々の体重や
無線通信機能、記録の大容量化などに取り組み、センサ製品
BMI から目標達成をシミュレートできます。記録や分析結果を
や管理システムは大手企業の工場などに採用されています。
グラフなどで分かりやすく表示し、共通プラットフォームとして、
地域の健康増進活動などに利用されるようになりました。
現在、さらに小型化を進めた新型端末を開発しています。
研究用途、メタボ指導、アスリートクラスのトレーニング用途を
想定しています。腕のセンサによる運動の計測は、アルゴリズ
ムを工夫すれば、心拍計や腰装着型の活動量計よりも正確で
多項目のデータを取得することが可能です。
センシング技術と製品の広がり
マイクロストーンは、産業分野やヘルスケア分野にセンサ製
品やシステム/ソフトウェアを提供しています。製品群は全て
マイクロストーン㈱ 代表取締役 白鳥 典彦氏(左)
取締役 営業部 部長 畠山 稔氏(右)
「動き」に注目したものです。動作を検出・記録するセンサと、
38
Ⅱ 医療・福祉・介護等の現場を支える機器の創出に挑む
解析・活用するソフトウェアを提供します。計測端末のファーム
ウェアや管理ソフトウェアを自社で内製できる点が強みです。
これらの製品群は、工場の製造装置の振動計測から人体
の動作・運動計測まで、幅広い分野で導入されますが、いず
れもニッチな分野です。大手では採算が合わず、数量が少な
くてもジワジワ拡がる市場を選んでいます。
医療分野では、例えば大手医療機器メーカーの X 線診断
「ViM スポーツメモリ」
装置向けに 3 軸加速度センサを納入しています。既存製品は
「光るウチワ」
加速度とジャイロの 6 軸センサでしたが、2013 年 3 月に 3 軸
地磁気センサを追加した 9 軸センサを製品化しました。分解能
企業ロゴ
は 16 ビットと、従来製品の 64 倍の感度を誇ります。
「ViM スポーツメモリ」は、例えば、自治体の高齢者向け健
康増進活動に採用され、生活・運動の把握や、保健指導に活
ンサートに投入されたり、アテネオリンピックの閉会式で日本
用されています。リハビリテーション分野では、理学療法の前
選手全員の手にも渡りました。この商品をきっかけに、12 年前
後の下肢の動作計測に使う事例があります。スポーツ科学分
に中国進出を果たしています。現地の企業と懇意になり、現
野でも採用実績が多く、大手スポーツ用品メーカーがゴルフ
在、製造面で協力関係があります。
やバットのスイング解析に応用しています。
企業ロゴに込めた夢
自動車分野では、センサ製品が衝撃・衝突を検知する用途
で購入されています。ジャイロセンサの耐久力は 200G を誇り、
今後もマイクロストーンは、人間の動作計測に取り組み、生
衝突時の瞬間的な回転を計測できます。これを自動車がスピ
活を豊かにする製品を開発します。実は、人間の動作は未解
ンした時の姿勢制御に応用する研究もあります。
明なことだらけです。歩数計や活動量計で得られる情報も人
現在、マイクロストーンは消費者向け大量販売を目指してい
間の動作のごく一部に過ぎず、一方、腕に装着するセンサは
ません。そして、自社による顧客への直接販売にこだわってい
様々な計測が実現する可能性があります。現在はスマートフォ
ます。顧客と常に近い距離にいることが大切だからです。それ
ンがセンサとして重要デバイスですが、やがて、シンプルなリ
によって信頼が獲得でき、顧客の紹介を通じて仕事を増やし、
スト型装置に回帰する時代が来ると予想しています。
購入者の意見を商品の企画・開発に活かしてきました。営業
現在、大手企業と競争する市場は選ばないようにしていま
活動による情報収集は、研究開発に直結する最も重要な情報
す。中小企業にまだ大手と戦う資本力はありません。大手では
です。事業は情報収集と企画力で決まると考えています。
採算が合わないテーマを選び、常にニッチ市場を探し、顧客
と一緒に新しい世界を築いています。
ファンタジー事業「光るウチワ」
創業時に考えた企業ロゴは、小さな石を並べた石垣のイメ
マイクロストーンには「ファンタジー事業」と呼ぶ活動もありま
ージです。これは世界 6 大陸で事業を展開する想いを込めま
す。この事業の「光るウチワ」は、実はマイクロストーンで最も販
した。社名の“Stone”を分解すると“St. One”になります。「聖な
売数量を記録したヒット商品です。文字通り、光るウチワです。
る 1 番」「業績 1 番」「心の美しい 1 番」という意味を込めました。
レンズを工夫し、1 個の LED から全体に光を伸ばし、暗闇でほ
すでに、主要各国でロゴを商標登録しています。将来は世界
のかに美しく輝きます。当初、センサの性能を理解してもらうた
各国の空港に降りると、社名とロゴがすぐ目に入り、街にも
めのアイディアとして開発しました。現在はセンサを省き、低価
人々が持ち歩くものにもマイクロストーンの商標がある、そんな
格化しています。
企業を目指します。
私は実際に自分で「光るウチワ」を店頭で販売したり、飛び
込みで六本木のクラブを訪問して販売した経験があります。目
マイクロストーン株式会社
の前で飛ぶように売れ、「これは売れる!」と実感し、テレビ局
【所在地】 〒385-0007 長野県佐久市新子田 1934
【設立】 1999 年 【資本金】 9,957 万円 【従業員】 17 名
【連絡先】 0267-66-0388(代)
【事業内容】 モーションセンサ、センシングシステムなどの企画・開
発・製造・販売
にもアポなしで持ち込み、報道番組で放映されました。実は、
この経験から直販を重視するようになりました。「光るウチワ」は、
これまで約 300 万本を販売しています。人気アーティストのコ
39
医療・福祉・介護
等の現場を支える
機器の創出に挑む
事例
5
アイディアを迅速に形にする!
「看取り」と向き合う離床・見守りセンサー
株式会社メディカルプロジェクト
現場ニーズを素早く形にする
ーザブル製品は存在しませんでした。当初、私達も売れる確
メディカルプロジェクトは、新生児・小児、麻酔・呼吸、看護・
信はなかったのですが、現場ニーズから製品化を決断し、最
介護などの分野で、海外からの輸入製品と、自社で開発・製
初 200 個だけ製造しました。売れなければ撤収と考えていまし
造した製品を国内で販売している企業です。長年、製造部門
たが、現在、月に数万個売れる製品になりました。
と商社部門で事業展開してきましたが、2010 年からはメーカ
現在、全国約 750 社の代理店と提携し、取り扱う製品は病
ーとしての事業に専念しています。取り扱う製品はクラス 1 の
院や介護施設など、約 4,500 施設で使われています。懇意に
医療機器や非医療機器が中心です。特に医療事故を防ぐ安
する施設や、東海地域の施設に対しては、現場ニーズを把握
全用途の製品に強みを持ちます。
するために直販しています。
小さな会社ですが、ニッチな分野に特化し、現場ニーズを
「離床・見守りセンサー」開発プロジェクト
俯瞰しながら、新しいアイディアを迅速に製品化する力があり
ます。先日発表した「バイトセーフ」は、気管挿管時に患者が
今後、日本は世界でも例のない少子高齢化社会が到来し
チューブを噛み切るのを防ぐプラスチック製カバーです。これ
ます。介護を必要とする高齢者人口は増加し続けており、入
は医師のニーズを製品化しました。プラスチック技術を持つ自
居型介護施設では、ターミナルケアや看取り加算が算定され
動車分野の企業と共同で開発し、発表したばかりですが、大
るようになりました。ケアの現場では、看護師・介護士の負担が
きな反響が寄せられています。
急増しています。夜間は介護士 1 人が 20 人の高齢者に対応
新生児・小児分野では、小児ベッド用の柵と上部カバーを
する状況です。そして、夜間は転倒事故が増えます。それら
製品化しました。これは特殊なエアークッションをベッド周囲の
の課題や業務効率化ニーズに対して、介護施設ではベッドマ
柵や上部カバーに用いて、転倒・転落を防ぐ製品です。特に
ットレス上やベッドサイドにセンサーを設置し、離床・徘徊を検
怪我・出血が深刻な血液疾患の子供の治療に貢献します。こ
知・警報するシステムが普及するようになりました。メディカル
の製品は、日本医科大学と共同開発し、わずか 1 年で製品化
プロジェクトも、すでに様々な離床センサーを製品化していま
を実現しました。
す。
乳幼児・幼児の点滴を固定するシーネの製品化も、私達の
2012 年 12 月、新製品として「離床・見守りセンサー」を発売
成功ストーリーの 1 つです。それまで、国内に同様のディスポ
しました。この製品はマットレスの下に設置し、ベッド上の患
者・高齢者の体動・心拍・呼吸を非拘束でセンシングし、異変
を判定すると警報するシステムです。現在、病院の病棟看護
や介護施設用途に提案しています。
開発は、2009 年に静岡県工業技術研究所富士工業技術
支援センター、㈱富士セラミックスと地元企業とのプロジェクト
として開始されました。実は当初、私達は参画していませんで
した。プロジェクト推進をさらに加速するために、介護・医療機
器に精通した企業の参加が必須と考えられ、面識があった研
究者から依頼を受けて参加するようになりました。2010 年 7 月
から参加し、まず全体像を明確にしたいと考えました。そこで、
離床センサーのノウハウを活用しながら、センサー込みの試作
㈱メディカルプロジェクト 取締役 本部長 小林 信明氏(左)
取締役 部長 一言 貴則氏(右)
品を製作し、ベッドサイドの見守り用途を提案しました。その後、
40
Ⅱ 医療・福祉・介護等の現場を支える機器の創出に挑む
微小な動きを 5 段
階の青色 LED レ
ベル表示
「離床・見守りセンサー」
センサーマット
小児ベッド用エアーベッド柵と上部カバー
開発体制が刷新となり、メディカルプロジェクトを幹事団体とし
要があり、独特の難しさを感じます。引き合いが来ても、すぐ販
て、㈱富士セラミックス、静岡県工業技術研究所富士工業技
売するのではなく、最初にしっかり説明し、使用してもらい、納
術支援センターのコンソーシアムで静岡県産業振興財団の助
得を得てから販売するようにしています。
成事業に採択され、特別養護老人ホーム「みぎわ園」の協力
在宅ケアの時代に向けて
も得て、研究開発を進めました。特別養護老人ホーム「みぎわ
園」を中心に、介護施設現場で 1 年以上使用試験を行い、改
「離床・見守りセンサー」は病院や施設向けに開発した製品
良を重ねることによって、現場で利用できる離床・見守りセン
ですが、今後は在宅ケアに向けたニーズに対応します。医療
サーを開発し、製品化しました。
や介護の場も、今後施設から在宅に移行します。リスクマネジ
メントの技術と製品も在宅で広がります。おそらく、販売は介護
「看取り」と向き合う製品
事業者や訪問看護事業者を経由してレンタルする形になると
思います。具体的なスキームはこれから考えますが、少なくと
現在、「離床・見守りセンサー」を病院や介護施設に提案し、
実機を運用して評価を行っています。実際の売上になるのは
も消費者向け販売ではなく、業務用途に限定して提供するこ
来年度以降の見込みです。
とになると思います。
このプロジェクトでは、簡便に運用でき、非拘束で体動・呼
この技術は、センサーとしても有望で、様々な発展の可能
吸・心拍を検出する安価なセンサーが実現しました。センサー
性を秘めています。在宅用途では、通信ネットワークと融合す
はエアー層になっておりマットレスの下に設置することでわず
れば、新しいシステム・サービスに進化します。応用範囲は広
かな圧変化を検出し、心拍や呼吸の停止を高精度に判定で
く、Web サービスやスマホアプリで運用すれば様々な用途に
きます。使用したエアー層は、小児ベッド用製品の技術を投
広がります。現在、通信業界の企業や大手家電メーカーから
入しました。このエアー層は静岡県の企業と共同開発したもの
も提携の引き合いがあります。
医療・介護分野における新規技術の開発は、薬事法対応
で、自動車が乗っても空気が抜けません。
や現場での運用が見えないまま、試作品を完成させて終了す
装置として、呼吸や心拍の動きを青色 LED で表示し、夜間
でも一目で安否が分かります。ベッド上の呼吸や心拍を検出
るものが多いと感じています。製造現場だけでものを考えても、
しない状態は、離床、または心肺停止を意味します。患者や
市場はなかなか見えてきません。
高齢者が施設のベッドで亡くなり、看護師や介護士が確認し
私達はまだ小さな会社ですが、現場ニーズを熟知し、販売
て初めて気づくことは多いと思います。夜勤で若い看護師や
に精通し、そして迅速に製品化につなげる技術とノウハウを持
介護士が 1 人で死に直面するとショックを受けます。この製品
ちます。スピードとフットワークのよさを活かし、一気に製品化
で気づくことができれば、複数名で確認に行くことができるでし
を実現する力があります。今後も常に挑戦する姿勢で、高齢
ょう。性能は高く、実機を評価する目的で貸し出した際にも、
化する日本に新たな価値と製品を提案し続けます。
本当に異変を発見しました。
プロモーションは慎重さが求められます。性能が高く、価格
株式会社メディカルプロジェクト
【所在地】 〒420-0026 静岡県静岡市葵区大鋸町 1-12
【代表】 森 典昭 【設立】 1982 年 【資本金】 3,700 万円
【従業員】 17 名 【連絡先】 054-252-1141(代)
【事業内容】 医療機器の販売・修理、医療用品にともなう消耗品の販
売、医療機器の製造販売・輸入販売および修理、ヘルスケア商品の
販売 …ほか
も抑えており、実際に現場で役立つのですが、人生の最期、
つまり「死」と関わるため、私達も販売代理店も導入現場も戸
惑いがあります。既存製品の改良・進化版と異なり、今までな
い製品です。プロモーションも「死」を連想する言葉を控える必
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