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障害者に関するエビデンスの構築(1)

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障害者に関するエビデンスの構築(1)
本稿は申込に際して著者が提出したものであり,大会発表の要件を満たしたもののみが正式に発表と認められます.
会期終了後に「大会発表論文集データベース」で公開されるものをご確認下さい.
障害者に関するエビデンスの構築(1)
障害者の社会適応度と関係流動性認知
〇佐藤剛介(名古屋大学障害者支援室、名古屋大学学生相談総合センター)
キーワード:障害、自尊心、幸福感、関係流動性
自尊心尺度 10 項目
(Rosenberg, 1965)
、
目は、
障害の有無 1、
人生満足感尺度 5 項目(Diener et al., 1985)
、友人・家族
関する法律、いわゆる障害者差別解消法が施行された。こ
、シ
の法律の特徴は、1)障害者の定義に、ここでも従来の身体 関係満足度各 1 項目、TIPI-J10 項目(小塩ら, 2012)
、関
障害等に加え、精神障害と発達障害が加えられたこと、2) ーハン機能障害評価尺度 3 項目(Sheehan et al., 1996)
係流動性尺度 12 項目(Yuki et al., 2007)
、自己の流動性尺
全ての事業者に対して、不当な差別的取り扱いの禁止が義
2
務化されたこと、3)国や地方公共団体には、障害者に対す 度 12 項目 などと、デモグラフィック要因である。
結果と考察 ここでは調査結果の一部を報告する。障害
る合理的配慮の提供が義務化されたこと、である。詳細は
177 名、
障害のない者は 1468
法律を参照頂きたいが、この法律の最も重要なことは、
「障 があると自己申告した者は、
名、わからないと回答した者が 95 名いた。この 177 名は
害」の定義として「障害の社会モデル(social model of
disability)
」
(Oliver,1990)が採用されている点にある。この 調査対象者の 10.8%であり、WHO(2011)による、世界
人口の15%程度になんらかの障害があるとする推計より
社会モデルは、従来採用されてきた障害問題の原因と責任
を障害者に還元させる「障害の個人モデル(individual model も低い。t 検定の結果、自尊心や人生満足感といった社
of disability)
」
、ないしは「障害の医学モデル(medical model 会適応に関連の強いとされる項目において、障害あり群
の方が、障害なし群よりも低いことが示された。また 2
of disability)
」の考え方ではなく、障害問題の原因と責任を
種類の流動性を被験者内要因、障害の有無を被験者間要
社会や社会環境に帰属させるものである。これまで、障害
因とした ANOVA により、流動性×障害の有無の交互作
は医学的な治療や機能向上の対象となる impairment の問題
用が有意傾向であり(p = .055)
、両主効果が有意であっ
であり、その原因も、そして対処も個人ないしは個人の努
力に帰属されてきた。しかし、この社会モデルでは、“dis”- た。以上の結果は障害者の社会適応度が障害のない者よ
りも低い可能性を示す。今後は障害種や個々人の
“able” か否かは、社会環境の中にある社会的障壁の有無に
impairment レベルも考慮した上で、こういった差異が
よって定義される。例えば、エレベーターがある生活環境
とない環境では車椅子利用者の障害問題の大きさは異なる。 何によって生み出されるか社会生態学的要因も含めたさ
らなる検討が必要である。
社会モデルでは、この時の障害者の社会適応度は、環境に
よって調整されており、それも踏まえて障害が定義される。
問題 障害の社会モデルを採用した法律の整備は、人々
の障害に対する概念を転換し障害者の権利保障を推進す
る上で重要である。しかし一方で、諸外国(特に北米や
欧州)と比較して日本には、その具体的方法論、すなわ
ち障害者がどういった社会的障壁に相対しているか、そ
してどうそれを取り除くか、また障害者の取り巻かれる
環境をどのように整備・調整していくべきかという現実
問題に関する科学的データはほぼ無い。
本研究 障害者自身の、また障害者が取り巻かれている
社会環境に関する定量的データが極めて少ない現状を鑑
み、
障害者に関する包括的エビデンスの構築に着手する。
方法 調査対象者は、
(株)クロス・マーケティングの 1 項目は「あなたには何かしらの障害がありますか。※本調査における「障害」とは、視
web 調査に任意で登録した 18〜69 歳の男女 870 名ずつ、 覚障害、聴覚障害、肢体不自由、精神障害、発達障害、知的障害、内部障害や疾病等によ
る障害(難病等も含む)のことを指します。
」であり、
「1:ある」
、
「2:ない」
、
「3:わからな
合計 1,740 名である(Mage = 46.14, SDage = 11.36)
。質問項 い」の3 択で回答を求めた。
背景 2016 年 4 月、障害を理由とする差別の解消の推進に
2 関係流動性尺度12 項目の主語「あなたの周囲の人々には」を、
「私には」に変更して使
用した。
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