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日本繊維筋痛症学会第2回学術集会(2010年11月13日
講演 Ja pa n Co lle ge of Fi br om ya lg ia In ve st ig at io n 2 1 講演 ペインビジョンを用いることでの 慢性痛に対する評価の広がり 線維筋痛症の痛みの Pain Visionによる評価 順天堂大学医学部 麻酔科・ペインクリニック講座 井関 雅子 先生 聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター 岡 寛 先生 痛みは、患者にとって大変煩わしいものであり、世界疼痛学会 今回、我々の施設で多数の慢性疼痛患者における患者の痛 線維筋痛症(以下FM)は、全身性の慢性疼痛疾患で全 の低下は認められなかった。図に、 FM患者ならびにRA患 において「他人とは共有することができない不快な感覚と情動 み度とVAS値をPain Visionを用いて測 定したところ、同じ 身に激しい痛みが発症する。痛みの程度に個人差はあるも 者の最小感知電流の各症例分布を示した。 RA群でやや高 体験」と定義されているように、客観的に評価することが難し VAS値でありながら、疾患が異なることにより患者痛み度が のの、軽度なものから重度のものまであり、患者にとって耐え い値を示している症例が多く観察された。性別と年齢をマッチさ い感覚である。痛みの測定・評価法には現在いくつかの方 違った症例も認められ、疾患が異なれば客観的な痛みも異な 難く患 者QOLを著しく損なう。痛みの種 類は鈍 痛、激 痛、 せた正常人に比較した値においても、FM群の女性では平均 法が臨床応用されているが、なかでも「痛みの強さ」の評価は ることが示唆された。また、マクギル疼痛質問表(MPQ)と 刺すような痛み、焼けるような痛みなど、非常に多彩である。 7.56μAであったが、RA群の女性では平均9.22μAと、 RA群の 治療を行う上で欠かすことができない。最もポピュラーな痛み VASおよび患者痛み度との関係を慢性疼痛患者900例(神経 しかし、患者が痛みをいくら訴えても、その痛みは第三者に 女性の方が高値を示した(図) 。痛み度は、FM群において男 の 強さの 評 価 法としては、VAS(visual analogue scale) 障害性疼痛512例、身体性疼痛318例)を対象に検討した。 は理解しがたく、正確な評価はできていないのが現状である。 性297.99、女性458.40とRA群に比較してともに高かった。また、 やfaces rating scaleなどがあるが、これらは主観的な評価法 その結果、変化率に差はなかったものの「痛みの性質」の数 現 在、痛みの強さを評 価する方 法で最も頻 用されている FM群における痛み度を女性だけで比較すると、FM群がRA であり、患者間の痛みの強さを比較することはできない。 が増えるほど、患者痛み度およびVASはともに有意に大きくなっ VAS(visual analogue scale)は、FM患者では痛みが 群およびCWP群よりも高値を示していた(表1) 。そして、FM ニプロ株式会社のPain Visionは、嶋津により考案された知覚・ ていた。また、 「痛みの性質」と治療前のVAS値、患者の痛 強いため、FM患者の主観的な記入によりVASスケールが の女性群では、痛み度が500を超える症例が35.7%も存在し、 痛覚定量分析装置であり、患者に痛みを伴わない異種感覚を み度を検討したところ、いかにも痛いと思われる表現では、 振り切れてしまう(100を超える)こともあり、患者間の比較 なかには1000を超える症例も散見された。また、FMはCWP 与えて、患者の痛みの強さを測定するため、客観的に患者間 VAS、痛み度ともに高値が多かったことから、痛みの質による ができないなどの問題点も生じている。そこで、今回、米国 と比較して、閾値の低下と痛み度の上昇という病態が進行し の痛みの強さの比較、および、症例毎のlong-termにおける痛 痛み度の評価にも役立つことが示唆された(表) 。さらに、 リウマ チ 学 会 の1990年 の 基 準を満 たすFM患 者118例 た状態であることが示唆された(表2)。 みの経時的変化を観察・比較することが可能である。 VASが100を超える症例でも痛みの評価が可能であると思わ (男性20例、女 性98例)を対 象として、Pain Visionを用 以 上のことから、Pain Visionにより、FM患 者の最 大の主 Pain Visionの原理は、患者の有する痛みの強さを、痛みを伴 れた。以上のことから、Pain Visionは慢性疼痛に対する痛み いて、電流知覚閾値(最小感知電流:痛みの閾値)と痛 訴である痛みを定量化することが可能となり、特に女性では、 わない電気刺激による感覚の大きさと比較し、痛みに対する感 の評価を施行する際に、痛み度とVASを照らしあわせながら、 み度を測定した。対照として、有痛性の関節リウマチ患者 閾値の低下と痛み度が1000を越え、VASを振り切るくらい重 覚の大きさを刺激電流値として定量化する。すなわち、皮膚 最終的に患者の痛みを評価することが可能であると思われた。 (以 下RA)24例、慢 性 疼 痛 症 患 者(以 下CWP)69例を 度で激しい痛みを有する症例も存在することが明らかになっ に痛みを発生させないパルス状電流波を与え、刺激量を徐々 Pain Visionは痛みではない異種感覚を測定に用いているた 測定し比較した。 た。また、Pain visionによる測定は、症例毎の長期的な痛 に増やしながら痛みと刺激感覚の大きさを比較する。図に示 め患者に優しい測定器となっており、麻酔科、神経内科、整 最 小 感 知 電 流の測 定では、FM群で男性8.46±2.22 μA、 みの経過観察を可能とし、多くのFM患者データを集積する す如く、痛みの大きさに相当する感覚を与えた電流値を「痛み 形外科、リウマチ科のほか、歯科など痛みを主訴とする患者を 女性7.56±2.16 μAと性別と年齢をマッチさせた正常人に比 ことによって、患者毎の認知療法にも好影響を及ぼす可能 対応電流値」と定義し、この電気刺激を最初に感じた値を「電 診る診療科で臨床使用できる。大きさもB5サイズで重量も約 較して低値であったが、RA群とCWP群では最小感知電流 性があると考えられた。 流知覚閾値」 (患者の電気刺激に対する閾値)と定義し、痛 2.5kgとコンパクトで持ち運びがしやすく、保険点数も認められ み度「100×(痛み対応電流値−電流知覚閾値)/ 電流知覚 ている。今後Pain Visionがさらに普及し、痛みの客観的測 閾値」を設定する。 定法として定着することを期待したい。 図 表 測定 7) 痛み評価のための指数 痛みの大きさを表す指標として「痛み度」という値を算出する 痛み度=100× (痛み対応電流値−電流知覚閾値)/電流知覚閾値 痛み対応電流値 感覚刺激の大きさ もともとある痛み 電流知覚 閾値 実際に感じてる 痛みの大きさ 痛みの 大きさ 感じてない 刺激の大きさ 時間の経過 図 表2 RAの女性 FMの女性 FMSの最小感知電流(n=98/女性) 25 16 痛みの性質と治療前の痛み度・VAS(痛み度の高い順) 痛みの性質 恐ろしくなるような 耐え難い 気分が悪くなるような 割れるような 鋭い 心身ともにうんざりするような 突き刺されるような 食い込むような ギクッと走るような ズキンズキンと脈打つ さわると しめつけられるような 焼け付くような 重苦しい うずくような n 治療前痛み度平均 治療前VAS平均 61.6 422.27 154 60.4 372.34 293 57.6 345.59 308 65.0 330.79 113 54.2 327.17 402 54.7 313.02 514 53.6 308.38 428 54.7 304.79 315 53.1 296.57 382 53.3 296.26 414 53.1 292.08 397 53.9 288.15 398 54.4 282.50 237 49.9 277.29 568 50.5 270.60 556 各痛みの性質が「ある」と答えた人の、治療前の痛み度・VASの平均と人数を示したもので ある。 痛み度が大きい方から順に並べてある。 「ある(+) ∼ (+++) 」を合計したものに等しい。 「恐ろしくなるような」 「耐え難い」から順に強い痛みを表現していると考えられる。 n=900 (延べ数、 心因性データ含まず) 痛みの性質はマクギル疼痛質問表 (MPQ) 日本語版15項目 Pain Vision RA 24例 RAの最小感知電流(n=22/女性) 14 20 8 6 2 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 0 平均年齢: 男性60.5歳 女性60.6歳 全体60.6歳 Pain Vision CWP 69例 4 5 平均年齢: 男性60.5歳 女性60.6歳 全体60.6歳 男性 12.20 ± 3.25 (正常人:11.5) 女性 9.22 ± 3.82 (正常値:8.55) 全体 9.47 ± 3.81 10 10 症例数24例: 男性2例(8.3%) 女性22例(91.7%) 最小感知電流:平均 ±SD 12 15 Pain Vision RA 24例 症例数24例: 男性2例(8.3%) 女性22例(91.7%) 症例数69例: 女性69例 平均年齢:女性41歳 平均年齢:女性41歳 女性 7.63 ± 2.21 (正常人:7.60) Pain Vision FMS 118例 表1 疾患 3疾患の女性患者の比較 N F RA 24 22 CWP 69 69 FM 118 98 平均年齢 60.6 41.0 50.4 最小感知電流 (年齢対比正常人値) 9.22(8.55) 7.63(7.60) 7.56(8.35) 平均年齢 651.47 217.46 458.40 Pain Vision CWP 69例 症例数69例: 女性69例 最小感知電流:平均 ±SD 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 痛み度:平均 ±SD 男性 347.20 ± 389.05 女性 351.47 ± 424.04 全体 351.12 ± 413.23 痛み度:平均 ±SD 女性 217.46 ± 239.14 Pain Vision FMS 118例 症例数118例: 男性20例(16.9%) 女性98例(83.1%) 症例数118例: 男性20例(16.9%) 女性98例(83.1%) 平均年齢: 男性42.8歳 女性50.4歳 全体49.1歳 平均年齢: 男性42.8歳 女性50.4歳 全体49.1歳 最小感知電流:平均 ±SD 男性 8.46 ± 2.22 (正常人:9.20) 女性 7.56 ± 2.16 (正常人:8.35) 全体 7.71 ± 2.19 痛み度:平均 ±SD 男性 297.99 ± 264.89 女性 458.40 ± 564.58 !! 全体 431.21 ± 528.50