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Untitled - 北海道HIV/AIDS情報

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Untitled - 北海道HIV/AIDS情報
目 次
1.
HIV 感染症の臨床経過
1
2.
HIV 感染症の検査/診断
5
3.
4.
5.
抗 HIV 療法
HIV 薬剤耐性とその検査
HIV 感染症と肝炎
10
22
27
6.
血友病患者の診療
7-1.AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
7-2.カンジダ症
34
37
45
7-3.クリプトコックス症
7-4.クリプトスポリジウム症
7-5.サイトメガロウイルス(CMV)感染症
48
51
54
7-6.非結核性抗酸菌症
7-7.ニューモシスチス肺炎
57
60
7-8.結核症
7-9.サルモネラ感染症
7-10.イソスポラ症
7-11.リンパ球性間質性肺炎(Lymphocytic interstitial pneumonia:LIP)
62
66
68
70
7-12.本邦ではまれな ARC
7-13.HIV-1 消耗性症候群
7-14.原発性リンパ腫
7-15.HIV 脳症
7-16.進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML)
7-17.トキソプラズマ脳症(Cerebral toxoplasmosis)
8.
HIV 感染者の皮膚症状
9.
妊婦および新生児の HIV
10.
小児の HIV 感染症
11.
眼科の HIV 感染症
72
74
76
79
81
83
87
94
103
114
12.
HIV 感染症と精神疾患
117
13.
14.
15.
16.
17.
HIV 感染血友病患者の関節症の治療
HIV 感染症患者のリハビリテーション
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
HIV 感染症患者の心理的支援
HIV 感染症患者の看護
124
131
135
142
152
18.
外科領域での安全対策
165
19.
20.
21.
22.
検査・輸血部領域での安全対策と検査項目
病理診断領域での安全対策
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応
医療福祉制度のてびき
168
173
177
192
23.
24.
25.
HIV 感染症とインターネット情報
相談室について
抗ウイルス薬
202
206
209
26.
国内未販売薬
付 録
244
251
1
1
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症の臨床経過の全体像
HIV(human immunodeficiency virus)感染症の臨床経過は、感染初期(急性期)、
無症候期、 AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)発症期の3期に分けられる。
HIV に感染すると多くの症例では2~3週間後にインフルエンザ様の急性期症状があり、その
後長期間の無症候期に入る。この間に HIV は宿主内で盛んに増殖し、CD4 陽性リンパ球数は
徐々に減少していく。CD4 陽性リンパ球数の減少により細胞性免疫不全が進行していくと、表
在リンパ節が腫脹したり発熱や下痢を繰り返したり、体重の減少がみられるようになる。さらに
CD4 陽性リンパ球数が減少していき、200 個/μℓ以下となると様々な日和見感染症を発症する。
表1に我が国における AIDS 診断の診断基準を示すが、ここにあげた 23 の指標疾患のどれかが
現れたときはじめて AIDS と診断する。
図1 HIV 感染症の経過(模式図)
2
HIV 感染症の臨床症状
 急性期
HIV に感染すると、HIV は宿主内で急速に増殖し、CD4 陽性リンパ球数は一過性に減少す
る。この時期には感染者の約 90%に何らかの急性レトロウイルス症候群の徴候を認めるが(表
2)
、多くの症状はインフルエンザ様で非特異的であるため HIV 感染と認識されないことが多
い。問診などから積極的に HIV 感染を疑い、HIV-RNA の増加が確認できれば「急性 HIV 感
染症」と診断可能である。その後、宿主の免疫反応により血中ウイルス量は低下し、2~3
週間で急性感染の症状は消退する。CD4 陽性リンパ球数も回復し、抗 HIV 抗体が陽性となり
(seroconversion)無症候期に移行する。低下した血中ウイルス量は感染約6ヶ月後にはある
一定のレベルに保たれるようになる(セットポイント)。
HIV 感染症の臨床経過
1
 無症候期
急性期を過ぎた後の症状のない時期をさし、一般に潜伏期とも呼ばれる時期である。この間
も HIV は盛んに増殖を繰り返しているが、宿主の免疫反応により長期間の平衡状態が保たれ
る。CD4 陽性リンパ球数は徐々に減少していくが、その減少スピードは HIV のウイルス量に
依存している。以前は、無症候期の期間は5~15 年と言われていたが、最近では感染から3
~4年で AIDS を発症することもまれではなく、無症候期が短くなってきていると言われて
いる。
 AIDS 発症期
HIV の増殖と宿主の免疫反応による平衡状態が破綻すると急速に HIV-RNA が増加し、
CD4 陽性リンパ球数も減少し細胞性の免疫不全が顕著となってくる。CD4 陽性リンパ球数が
200~500/μℓの時期は細菌性肺炎、肺結核、帯状疱疹、口腔カンジダ症、口腔毛状白板症や
カポジ肉腫などを合併する。更に CD4 陽性リンパ球数が 200/μℓ以下に低下すると消耗が進
行し、様々な日和見感染症、悪性腫瘍や神経症状を合併するようになり(表1)、AIDS と診
断される。AIDS 指標疾患を発症した時の CD4 陽性リンパ球数の中央値は 60~70/μℓである。
AIDS の診断基準を満たす日和見感染症などの症状や診断・治療法については各論に詳述する。
適切な抗 HIV 療法 (ART: antiretroviral therapy) が行われなかった場合、CD4 陽性リンパ
球数が 200/μℓ以下に低下してからの生存期間中央値は 3.7 年、AIDS を発症してからの生存
期間中央値は 1.3 年と報告されている。しかし例え AIDS を発症しても適切な抗 HIV 療法を
行うことにより免疫系の再構築が成され、感染症の回復、社会生活への復帰が可能となってい
る。実際に、ART 後に CD4 陽性リンパ球数を 500/μℓ以上に維持できた患者は、健常者と同
じ生命予後を得ることも報告されている。
表2 急性 HIV 感染症の症状と徴候
症 状
割 合
発 熱
96%
リンパ節腫脹
74%
咽頭炎
70%
発 疹
70%
筋肉痛と関節痛
54%
下 痢
32%
頭 痛
32%
悪心、嘔吐
27%
肝脾腫
14%
体重減少
13%
口腔カンジタ
12%
神経症状
12%
発 疹:顔面及び体幹の他、ときに手掌・足底を含む四肢に病変を有する紅斑性丘疹
ときに口腔、食道または生殖器に及ぶ皮膚粘膜潰瘍を形成
神経症状:髄膜脳炎または無菌性髄膜炎/末梢神経障害または神経根障害/顔面神経麻痺/ギラ
ン・バレー症候群/上腕神経炎/認知障害または精神障害
2
HIV 感染症の臨床経過
表1 AIDS 診断のための指標疾患
A.真菌感染症
1 カンジダ症(食道、気管、気管支または肺)
2 クリプトコッカス症(肺以外)
3 コクシジオイデス症
①全身に播種したもの
②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
4 ヒストプラズマ症
①全身に播種したもの
②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
5 ニューモシスチス肺炎
B.原虫症
6 トキソプラズマ脳症(生後1ヶ月以後)
7 クリプトスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
8 イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
C.細菌感染症
9 化膿性細菌感染症(13 歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下
のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの)
①敗血症 ②肺炎 ③髄膜炎 ④骨関節炎 ⑤中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍
10 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
11 活動性結核(肺結核叉は肺外結核)※
12 非結核性抗酸菌症
①全身に播種したもの
②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
D.ウイルス感染症
13 サイトメガロウイルス感染症(生後1ヶ月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
14 単純ヘルペスウイルス感染症
①1ヶ月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの
②生後1ヶ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの
15 進行性多巣性白質脳症
E.腫瘍
16 カポジ肉腫
17 原発性脳リンパ腫(年齢を問わず)
18 非ホジキンリンパ腫
LSG 分類により
①大細胞型
免疫芽球型
② Burkitt 型
19 浸潤性子宮頸癌※
F.その他
20 反復性肺炎
21 リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13 歳未満)
22 HIV 脳症(認知症又は亜急性脳炎)
23 HIV 消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)
※C 11 活動性結核のうち肺結核およびE 19 浸潤性子宮頚癌については、HIV による免疫
不全を示唆する症状および所見がみられる場合に限る。
HIV 感染症の臨床経過
3
■参考文献■
1 HIV 感染症治療研究会編 . HIV 感染症「治療の手引き」第 15 版.2011 年 12 月
2 Bartlett JG et al. Medical Management of HIV Infection 2009-2010, 15th Edition.
Published by Johns Hopkins University School of Medicine, 2009
3 DHHS. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and
Adolescents. January 10, 2011
4 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の
課題を克服する研究班編 . 抗 HIV 治療ガイドライン. 2011 年3月
5 Lewden C, Chene G, Morlat P, Raffi F, Dupon M, Dellamonica P, Pellegrin JL,
Katlama C, Dabis F, Leport C; ANRS Study Group. HIV-infected adults with a CD4 cell
count greater than 500 cells/mm3 on long-term combination antiretroviral therapy
reach same mortality rates as the general population. J Acquir Immune Defic Syndr.
46: 72-77, 2007.
(血液内科 遠藤 知之 2011.08)
4
HIV 感染症の臨床経過
2
1
HIV 感染症の検査/診断
HIV 関連検査の種類と特徴
 スクリーニング検査
酵素抗体法(ELISA 法)
、粒子凝集法(PA 法)、免疫クロマトグラフィー法(IC 法)によ
り HIV-1 及び HIV-2 に対する抗体を測定または同定する。感度は高いが、特異度は低いため、
0.1~1%程度の疑陽性が生じる。一方、感染してから抗体が検出されるまで通常3~4週間か
かるため(window period (WP))、結果が陰性でも急性感染を否定できない。感染初期数週
間は HIV 抗原(p24 抗原)が上昇し ELISA 法で検出可能となる。WP を短縮するため現在、
北海道大学病院ではスクリーニング用検査として HIV-1,2 抗体価と HIV-1 抗原同時測定検査
(第4世代検査キット、アボット社の HIVAg/Ab Combo, CLIA 法)を使用している。
 確認検査
Western blot 法(WB 法)、間接蛍光抗体法(IFA 法)により HIV-1 と HIV-2 それぞれ
に対する特異的な抗体タンパクの存在を確認する検査である。院内では HIV-1 WB と HIV2 WB の検査が可能。特異度は高いが、感度は低いため、感染初期には検出できない。HIV-1
WB と HIV-2 WB の間には交叉反応が生じるため判定には注意を要する。
 HIV 抗原検査
〈HIV-1 RNA 定量〉
PCR 法と核酸 hybridization 法を組み合わせて HIV-1 の RNA を高感度に検出できる検
査で、従来は Amplicor HIV-1 Monitor v1.5(RT-PCR)を使用していたが、北大病院では
2008 年2月からロシュダイアグノスティクス社のコバス TaqMan HIV-1 オート (TaqMan
PCR 法 ) を導入している。HIV-RNA の定量は急性感染の診断に不可欠であるが、HIV-2 は
検出できない。病勢、治療効果のモニタリングとしても有用である。TaqMan PCR 法による
HIV-1 RNA コピー数の測定範囲は、40-1.0×107 コピー/ml で、従来の Amplicor 法よりも
高感度となっており、さらに 40 コピー/ml 以下の場合に定性法での評価も可能となっている。
しかし、TaqMan PCR 法では従来の方法よりも結果が高値に測定される傾向があると指摘さ
れており、結果の解釈に注意を要する。
〈HIV-1 proviral DNA〉
リンパ球を検体として PCR 法にて細胞内の proviral DNA を検出する検査であり、極めて
感度は高いが、測定系が標準化されていないため普及していない。抗体検査での判定困難例や
WP 時期での感染確認、治療中の潜伏感染ウイルスの評価に用いられる。本邦では母子感染の
早期診断として保険適応がある。
〈p24 抗原〉
HIV-1 のコアタンパクである p24 を ELISA 法で検出する。特異度は高いが、感度が低いため、
感染初期数週間と感染後期にしか検出できない。前述の抗体価測定と組み合わせてスクリーニ
ングで用いられる。
 簡易迅速抗体検査キット
前述の IC 法により抗 HIV 抗体を同定するキット。本邦ではダイナスクリーン・HIV-1/2
が使用されている。15 分で結果が得られるため、即日検査として保健所、各種医療機関で
2001 年以降導入され、自発検査や早期発見、感染不安をもつ人への利便性により普及してい
HIV 感染症の検査/診断
5
る。偽陽性が約1%あるため、結果が陽性の場合、通常のスクリーニング検査と同様に確認検
査の追加が必要である。院内では針刺し等の緊急時にのみ用いられる。
 HIV 薬剤耐性検査
血液中に存在する HIV の抗 HIV 薬に対しての耐性、感受性を調べる検査であり、genotype
検 査( 遺 伝 子 型 解 析 ) と phenotype 検 査( 表 現 型 解 析 ) の 2 種 類 が あ る。 院 内 で は
genotype 検査が可能。検査の詳細については「4.HIV 薬剤耐性とその検査」の項を参照。
2
HIV 感染症診断法の実際
 スクリーニング検査
院内では HIV-1、2 抗体価と HIV-1 抗原同時測定検査(HIVAg/Ab Combo)に加えて、
追加スクリーニング検査としてアボット社のダイナスクリーン・HIV-1/2(IC 法)、バイオラッ
ド富士レビオ社のジェネディア HIV-1/2 ミックス PA(PA 法)の異なる2法を実施。初期ス
クリーニング検査を含めた3法中、2法以上が陰性の場合に「陰性」、2法以上が陽性の場合
に「陽性」と判定する。
〈
「陽性」または「保留」と判定された場合〉
確認検査を行う。
〈
「陰性」と判定された場合〉
感染のリスクが無い場合には「感染無し」と診断する。感染のリスクがある場合や急性感染
を疑う場合には RT-PCR による HIV-1 RNA 定量検査を行う。この結果が「陰性」でも期間
を空けて再検査を行う。
 確認検査
日本エイズ学会では確認検査として HIV-1 WB 法と HIV-1 RNA 定量検査を同時に行うこ
とを推奨している。(表1)
〈HIV-1 WB 法が「陽性」〉
HIV-1 の感染者と判定する。但し HIV-1 RNA 定量検査が陰性の場合は高感度法で再検査
を行う。高感度法でも陰性であれば HIV-2 WB 法を実施し、「陽性」であれば HIV-2 の感染
を否定できない。
〈HIV-1 WB 法が「陰性」または「保留」で HIV-1 RNA 定量検査が「陽性」〉
HIV-1 急性感染者と考えるが、確定診断には後日 HIV-1 WB 法の「陽性」を確認する必要
がある。
〈HIV-1 WB 法が「陰性」または「保留」で HIV-1 RNA 定量検査が「測定感度以下」〉
HIV-2 WB 法を実施し、
「陽性」であれば HIV-2 の感染者と判定。HIV-2 WB 法が「陰性」
または「保留」であれば、2週間後にスクリーニングからの再検査を勧める。
 母子感染の診断
母親から児へ抗体が移行するため、抗体検査は有用でない。HIV-1 抗原(p24 抗原)、HIV1 RNA 定量検査を実施し判定を行う。
6
HIV 感染症の検査/診断
3
HIV 感染者の検査
 進行を把握するための指標
〈CD4 陽性リンパ球数〉
HIV により破壊された宿主の残存免疫力を反映し、病態の進行度や治療開始を考慮する重
要な指標となる。測定はフローサイトメトリーを用いて行われ、健常人では 500~1400/μℓ
であり、HIV 感染者で 200/μℓ未満になると種々の日和見疾患のリスクが高まる。未治療者で
は3~6ヶ月毎、治療中の患者では初期は毎月、その後は2~4ヶ月毎に検査を行う。測定値
の変動が大きいため複数回の検査で評価する。
〈血中 HIV-RNA 定量〉
血中のウイルス量は CD4 の低下速度と相関しており、予後予測の指標となる。また治療効
果を判定するのにも重要な指標となる。男性に比べ女性では低値となる。未治療者では3~4ヶ
月毎、治療開始または変更した患者では開始2~8週後とその後は4~8週毎に測定し、検出
限界以下に到達したら3~4ヶ月毎に測定する。2倍または 0.3 log10 コピー/ml 以上の変動
は有意な変化と見なされる。感度以下に低下しても体内から HIV が消失したことにはならな
い。
 初診時に必要な検査
・末梢血一般(白血球分画も)
・生化学(ART 施行前には空腹時血糖値および血清脂質値)
・T細胞サブセットおよび CD4 陽性リンパ球数
・HIV-1 RNA 定量
・肝炎ウイルスマーカー(HAV 抗体、HBs 抗原、HBs 抗体、HBc 抗体、HCV 抗体)
・梅毒血清反応(RPR、TPHA)
・サイトメガロウイルス IgG、トキソプラズマ IgG、水痘・帯状疱疹ウイルス IgG
・ツベルクリン反応(結核の既往、BCG 接種後の結果が不明の場合)
・胸部レントゲン写真
・子宮頚部 Papanicolau 塗末細胞診(女性のみ)
HIV 感染症の検査/診断
7
表1 HIV-1/2 感染症診断のためのフローチャート
HIV-1/2 感染症の診断法 2008 年版(日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法)
HIV-1/2 スクリーニング検査法1)
ELISA・PA 法など
陽性
保留
※感度が十分に高い検査法であること
陰性
非感染またはウインドウピリオド2)
HIV-1 確認検査法(両法を同時に行う)
WB 法及び RT-PCR
HIV-1 検査結果
WB 法
陽性
保留
陰性
判定・指示事項
RT-PCR
陽性
HIV-1 感染者
検出せず
HIV-1 感染者3)
陽性
急性 HIV-1 感染者4)
検出せず
HIV-2 の確認検査を実施、陰性
時は保留とし2週間後に再検
査5)
陽性
急性 HIV-1 感染者4)
検出せず
HIV-2 の確認検査を実施、陰性
時は保留とし2週間後に再検
査5)
HIV-2 確認試験が陽性の場合は
HIV-2 感染者
両者が陰性の場合は非感染者6)
1 明らかな感染のリスクがある場合や急性感染を疑う症状がある場合は抗原・抗体同時検査法
によるスクリーニング検査に加え HIV-1 核酸増幅検査法による確認検査を行う必要がある
(ただし、現時点では保健適応がない)。
2 急性感染を疑って検査し、HIV-1/2 スクリーニング検査とウエスタンブロット(WB)法が
陰性または判定保留であり、しかも HIV-1 核酸増幅検査法(RT-PCR 法)が陽性であった
場合は、HIV-1 の急性感染と診断できるが、後日、HIV-1/2 スクリーニング検査とウエス
タンブロット法にて陽性を確認する。
3 HIV-1 感染者とするが、HIV-1 核酸増幅検査法(RT-PCR:リアルタイム PCR 法または従
来法の通常感度法)で「検出せず」の場合(従来法で実施した場合は、リアルタイム PCR
法または従来法の高感度法における再確認を推奨)は HIV-2 WB 法を実施し、陽性であれ
ば HIV-2 の感染者であることが否定できない(交差反応が認められるため)。この様な症例
に遭遇した場合は、専門医・専門機関に相談することを推奨する。
4 後日、適切な時期に WB 法で陽性を確認する。
5 2週間後の再検査において、スクリーニング検査が陰性であるか、HIV-1/2 の確認検査が
陰性 / 保留であれば、初回のスクリーニング検査は疑陽性であり、「非感染(感染はない)
」
と判定する。
6 感染のリスクがある場合や急性感染を疑う症状がある場合は保留として再検査が必要であ
8
HIV 感染症の検査/診断
る。また、同様な症状を来たす他の原因も平行して検索する必要がある。
注1 妊婦健診、術前検査等の場合にはスクリーニング検査陽性例の多くが偽陽性反応によるた
め、その結果説明には注意が必要。
注2 母子感染の診断は、移行抗体が存在するため抗体検査は有用でなく、児の血液中の HIV-1
抗原、または HIV-1 核酸増幅検査法により確認する必要がある。
■参考文献■
1 Bartlett JG et al. Medical Management of HIV Infection 2009-2010, 15th Edition.
Published by Johns Hopkins University School of Medicine, 2009
2 日本エイズ学会.診療における HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン 2008(日本エイズ学会・
日本臨床検査医学会 標準推奨法).日本エイズ学会誌 11: 70-72, 2009
3 DHHS. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and
Adolescents. January 10, 2011
4 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の
課題を克服する研究班編.抗 HIV 治療ガイドライン.2011 年 3 月
5 HIV 感染症治療研究会編.HIV 感染症「治療の手引き」第 15 版.2011 年 12 月
(血液内科 遠藤 知之 2011.08)
HIV 感染症の検査/診断
9
3
1
抗 HIV 療法
治療開始時期
現在行われている多剤併用での抗 HIV 療法(antiretroviral therapy=ART)による HIV 増
殖抑制効果は強力であり、治療開始早期に HIV ウイルス量を測定感度以下に押さえ込み、徐々
に CD4 リンパ球数を回復させ、免疫機能を回復・維持することが可能である。しかしながら、
ART の継続によっても HIV の体内からの完全な排除には平均 73.4 年かかると推定されており、
現時点では一度治療を開始すれば、生涯に渡り治療を継続する必要がある。また、十分な服薬遵
守(アドヒアランス)が維持できなければ、薬剤耐性ウイルスが誘導され、結果的に治療の失敗
につながる。また ART の長期継続により軽視できない種々の副作用が出現してくる。以上の理
由から、以前は ART の開始をできるだけ遅らせるという考え方が主流であった。しかし、最近
の大規模試験において、ART を早期に開始することにより、CD4 陽性リンパ球数を高く維持で
きる、HIV 増殖によってもたらされる可能性のある心血管疾患や腎・肝疾患のリスクを減らせ
る、CD4 陽性リンパ球数が高くても発症する可能性のある HIV 関連疾患のリスクを減らせる、
パートナーへの感染を減らせるなど、早期治療のメリットが示され、さらに、飲みやすく副作用
の少ない薬剤が増えたことなどの理由から、治療開始時期は早まる傾向にある。米国保健福祉
省(Department of Health and Human Services = DHHS)のガイドラインでは、「CD4 陽
性リンパ球数 <350/μℓのすべての患者で治療開始をすべきである」となっており、CD4 陽性リ
ンパ球数が 350~500/μℓの患者への治療開始に対しても、専門家の 55%は「強く推奨する」、
45%は「強くはないが推奨する」という意見であった。また、DHHS、International AIDS
society-USA(IAS-USA)、British HIV Association(BHIVA)のガイドラインでは、それぞ
れ初回治療の推奨薬を提示している。治療開始に際しては患者の状態、服薬アドヒアランスへの
意識・理解度、副作用および薬物相互作用なども考慮し、入念なカウンセリングや教育を行った
上で判断を下す必要がある。
〈未治療患者に対する ART 開始基準〉
① AIDS および HIV に関連する重篤な症状がある場合
CD4 陽性リンパ球数・血中ウイルス量の数値にかかわらず → 治療開始
②無症状の場合
CD4 陽性リンパ球数
・ <350/μℓ → 速やかに治療開始
・350~500/μ
ℓ → 治療開始を推奨
・ >500 → DHHS ガイドライン委員間では推奨度合が異なる
(委員の 50%が治療を好ましいとし、50%が開始は任意とした)
CD4 陽性リンパ球数にかかわらず以下の患者では治療開始
・妊婦
・HIV 腎症の患者
・HBV 重複感染者で HBV 感染治療を必要とする場合
10
抗 HIV 療法
〈治療を早期に開始した場合の利点と欠点〉
利 点
欠 点
免疫機能の保持(無症候期の延長)
服薬による QOL の低下、重篤な副作用
他人への伝播のリスクを低下出来る可能性
将来の治療選択肢の範囲が狭まる
CD4>350 でも発症する可能性のある HIV 関
連合併症(結核、非ホジキンリンパ腫、カポ
内服不十分による耐性獲得の危険(耐性ウイ
ジ肉腫、末梢神経障害、HPV 関連悪性腫瘍、
ルス伝播のリスク)
HIV 関連認識機能障害等)のリスクを減らす
ことができる
HIV 増殖により発症・増悪する可能性のある
疾患(心血管系疾患、腎疾患、肝疾患、非
AIDS 関連悪性腫瘍・感染症等)のリスクを
減らすことができる
アドヒアランス維持のために必要な服薬開始
前の準備期間が短くなる
将来さらに強力で低毒性の ART 開発の可能性
2
初回抗 HIV 療法
HIV 感染症の治療は、血中ウイルス量を検出限界以下の抑え続けることを目標に、強力な多
剤併用療法 (ART) を行う。以下に本邦の治療の手引き、DHHS、IAS-USA、BHIVA のガイ
ドラインで推奨される初回治療 regimen を示すが、患者のライフスタイル、合併症、他の薬
剤との薬物相互作用、薬剤耐性検査の結果などを総合して個々の患者に最も適切と考えられる
regimen を選択すべきである。またガイドラインは最新の臨床データに基づいて定期的に更新
されるため、治療も最新の情報に基づいて決定されるべきである。
〈抗 HIV 薬の種類〉
左から略号、一般名、商品名
核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
プロテアーゼ阻害剤(PI)
AZT
zidovudine
レトロビル
IDV
indinavir
クリキシバン
ddI
didanosine
ヴァイデックス
SQV
saquinavir
インビラーゼ
3TC
lamivudine
エピビル
RTV
ritonavir
ノービア
d4T
stavudine
ゼリット
NFV
nelfinavir
ビラセプト
ABC
abacavir
ザイアジェン
LPV/RTV
lopinavir/ritonavir
カレトラ
TDF
tenofovir DF
ビリアード
ATV
atazanavir
レイアタッツ
FTC
emtricitabine
エムトリバ
FPV
fosamprenavir
レクシヴァ
AZT/3TC
コンビビル
DRV
darunavir
プリジスタ
ABC/3TC
エプジコム
インテグラーゼ阻害剤(INSTI)
TDF/FTC
ツルバダ
RAL
raltegravir
非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)
侵入阻害剤(CCR5 阻害剤)
NVP
nevirapine
ビラミューン
MVC
EFV
efavirenz
ストックリン
DLV
delavirdine
レスクリプター
ETR
etravirine
インテレンス
maraviroc
アイセントレス
シーエルセントリ
抗 HIV 療法
11
 HIV 感染症「治療の手引き」(2011 年 12 月版)
好ましい組み合わせ
ベース
NNRTI ベース
キードラッグ
EFV 1)
ATV 2)+RTV
PI ベース
DRV 3)+RTV
INSTI ベース
RAL
バックボーン
+ABC 5)/3TC
+TDF 6)/FTC
+ABC 5)/3TC
+TDF 6)/FTC
+ABC 5)/3TC
+TDF 6)/FTC
+ABC 5)/3TC
+TDF 6)/FTC
服薬回数(錠数)
1日1回(2or 4)
1日1回(2or 4)
1日1回(4)
1日1回(4)
1日1回(4)
1日1回(4)
1日2回(3)
1日2回(3)
バックボーン
+AZT/3TC
+AZT/3TC
+AZT/3TC
+ABC 5)/3TC
+AZT/3TC
+TDF 6)/FTC
+ABC 5)/3TC
+AZT/3TC
+TDF 6)/FTC
服薬回数(錠数)
1日2回(3or 5)
1日2回(4)
1日2回(5)
1日1or 2回(4or 5)
1日2回(5or 6)
1日1or 2回(4or 5)
1日1or 2回(5)
1日2回(6)
1日1or 2回(5)
その他の好ましい組み合わせ
ベース
NNRTI ベース
キードラッグ
EFV 1)
NVP 4)
ATV 2)+RTV
FPV+RTV
PI ベース
LPV/RTV
※妊婦に対する抗 HIV 療法については、本章4-を参照
1 EFV:600mg 錠の場合は 1T、200mg 錠の場合は 3T。妊娠第1期には使用すべきでなく、
妊娠の予定がある、あるいは妊娠する可能性のある女性では使用を避ける。
2 ATV:RTV 併用時は 150mg カプセル 2C。オメプラゾール相当で 20mg/ 日を超える量
のプロトンポンプ阻害薬を投与中の患者では使用しない。
3 DRV:1日1回で投与する場合は 400mg 錠 2T
4 NVP:最初の2週間は 1T、その後 2T。中等度~高度の肝障害(Child Pugh スコアBま
たはC)を有する患者では使用すべきでない。また、治療前 CD4>250/μℓの女性、治療前
CD4>400/μ
ℓの男性では使用すべきでない。
5 ABC:HLA-B5701 を有する患者には使用すべきでない。心血管系疾患のリスクの高い患
者では注意して使用する。血中ウイルス量 >100,000 コピー/ml の患者では、ABC/3TC よ
りも TDF/FTC の方が、ウイルス抑制効果が高いとの報告がある。DRV+RTV、RAL と
の併用については十分なデータがない。
6 TDF:腎機能障害のリスクの高い合併症・併用薬のある患者、および高齢者では腎機能に
注意して使用する。
 DHHS ガイドライン(2011 年1月版)で推奨される初回療法の組み合わせ
○優先療法
NNRTI ベース
・EFV/TDF/FTC
PI ベース
・ATV+RTV+TDF/FTC
12
抗 HIV 療法
・DRV(1日1回)+RTV+TDF/FTC
INSTI ベース
・RAL+TDF/FTC
妊婦の場合
・LPV/RTV(1日2回)+AZT/3TC
○代替療法
NNRTI ベース
・EFV+(ABC または AZT)/3TC
・NVP+AZT/3TC
PI ベース
・ATV+RTV+(ABC または AZT)/3TC
・FPV+RTV(1日1回または2回)+(ABC ないしは AZT)/3TC または TDF/FTC
・LPV/RTV(1日1回または2回)+(ABC ないしは AZT)/3TC または TDF/FTC
 IAS-USA ガイドライン(2010 年 7 月版)で推奨される初回療法の組み合わせ
・2 NRTI + キードラッグを推奨
推奨薬剤
2NRTI
キードラッグ(NNRTI or PI or INSTI)
・EFV(1日1回)
・TDF/FTC(1日1回)
・ATV+RTV(1日1回)
・DRV+RTV(1日1回)
・RAL(1日2回)
代替薬剤
2NRTI
キードラッグ(NNRTI or PI or INSTI)
・LPV/RTV(1日1or 2回)
・ABC/3TC(1日1回)
・FPV+RTV(1日1or 2回)
・MVC(1日2回)
 BHIVA ガイドライン(2008 年 10 月版)で推奨される初回治療の組み合わせ
カラムAとBとCから一つずつ選択
カラムA(NNRTI or PI)
カラムB(NRTI)
推奨
・EFV
・TDF
・ABC
代替
・LPV/RTV
・FPV+RTV
・ATV+RTV
・SQV+RTV
・ddI
・AZT
特定の集団で推奨
・NVP *
・ATV **
*
**
カラムC(NRTI)
・3TC
・FTC
CD4 値が女性で 250/μ
ℓ未満、男性で 400/μℓ未満の場合のみ使用。
心血管合併症の高リスク患者で PI を使用する場合。
抗 HIV 療法
13
 原則として推奨されない抗 HIV 療法
〈推奨されない抗 HIV 療法〉
・NRTI の単剤療法
・NRTI の2剤併用療法
・NRTI3 剤(ABC+AZT+3TC or TDF+AZT+3TC 以外)
→ 何れも耐性を誘導し治療失敗のリスクを高める
〈抗 HIV 療法の一部として推奨されない薬剤または組合わせ〉
・d4T+ddI(末梢神経障害などの毒性↑)
・TDF+ddI(ddI の血中濃度↑)
・AZT+d4T(HIV に対する拮抗作用)
・FTC+3TC(単剤と同じ効果)
・Unboosted DRV(効果不良)
・Unboosted SQV(効果不良)
・ATV+IDV(高ビリルビン血症)
・妊娠初期、妊娠可能な女性への EFV(催奇形性)
・CD4 高値(女性で 250/μℓ以上、男性で 400/μℓ以上)への NVP(急性肝障害↑)
・NNRTI 2 剤併用(副作用を高める)
・ETR+Unboosted PI(ETV により PI の代謝促進の可能性)
・ETR+boosted ATV, FPV(ETV により PI の代謝促進の可能性)
 1日1回療法
血中または細胞内半減期の長い薬剤の開発により、1日1回投与可能な薬剤のみの組み合
わせで ART を組み立てることが可能となり、アドヒアランスの向上さらには患者の QOL
改善が期待されている。しかし、飲み忘れによる耐性誘導のリスクが上昇することが懸念さ
れるため、服薬指導が従来以上に重要となる。
〈1日1回投与が可能な薬剤〉
( )内は投与剤数
2NRTI
・TDF/FTC(1)
・ABC/3TC(1)
・ddI * +3TC or FTC(2)
*
NNRTI
・EFV(1or 3)
PI
・ATV ± RTV **(2~3)
・FPV+RTV ***(3~4)
・DRV+RTV ***(3)
・LPV/RTV(4)
カプセル剤(ヴァイデックス EC)のみ
**
TDF との併用時は ATV の AUC が低下するので RTV 併用が必要。
***
1日1回投与は国内では初回療法のみの適応。
14
抗 HIV 療法
3
抗 HIV 薬の副作用
全ての抗 HIV 薬で副作用が報告されており、治療の変更や中止、アドヒアランスの低下の重
要な要因となっている。副作用の中には継続することで徐々に軽減するものから重篤となり死に
至るものまで様々であるが、各薬剤の副作用の種類と発現時期、その対処法について十分熟知し、
患者にも投薬前に十分説明して理解を得る必要がある。以下に発現時期別に主要な副作用につい
て概説する。個々の薬剤の副作用については「25.抗ウイルス薬」の項を参照。
 開始直後から出現
〈消化器症状〉
AZT、TDF、ddI とすべての PI で悪心、嘔吐、腹痛が出現することがある。また NFV、
LPV/RTV、ddI では下痢の頻度が高い。いずれも継続と共に軽快することが多いので、初
期は制吐剤や止痢剤などで対応する。
〈EFV による中枢神経症状〉
EFV の投薬により半数以上の症例で眠気、不眠、異常夢、めまい、集中力低下が出現するが、
2~4週で減弱消失することが多い。症状が持続する場合には薬剤の変更を考慮する。
〈高ビリルビン血症〉
ATV と IDV の内服により高率に間接型ビリルビンの上昇が認められるが、これは肝臓
でグルクロン酸包合に係わる酵素を薬剤が阻害するためであり、臨床的に問題となることは
ほとんど無く継続投与が可能である。
 開始後数日~数週で出現
〈皮疹〉
NNRTI での発現頻度が高い。PI では ATV、FPV、NFV、DRV で発現頻度が高い。多
くは軽~中等度であるが、稀に Stevens-Johnson 症候群や中毒性表皮壊死症などの重症型
薬疹に進展することがあるため、発熱や粘膜の潰瘍を伴う場合には直ちに投与を中止する。
〈ABC による過敏症〉
投与から6週間以内に高熱を伴う皮疹、全身倦怠感、消化器症状、呼吸困難などを呈す。
発症の中央値は9日目。発現時は全ての抗 HIV 薬を中止し、ABC の再投与は禁忌である。
発症と HLA-B*5701 と関連があると報告されており、日本人ではこの遺伝子型は少ないた
め発症頻度は低いと考えられている。
〈NVP による過敏症・急性肝障害〉
発現時期は投与開始から 16 週以内で、多くは6週以内に出現。症状は消化器症状、黄疸、
発熱、皮疹で、急速に肝壊死が進行し肝不全に至る可能性がある。CD4 値が女性で 250/μ
ℓ以上、男性で 400/μℓ以上で有意に発現率が高いため投与は避ける。発現時は全ての抗
HIV 薬を中止する必要があるが、肝障害が進行する場合もある。再投与は禁忌である。
 開始後数週~数ヶ月で出現
〈AZT による骨髄抑制〉
AZT 投与から数週から数ヶ月後で貧血や好中球減少が認められる。高度の場合は多剤へ
の変更を考慮する。
〈腎障害〉
TDF 投与後に腎尿細管障害が出現することがあり、多くは無症候性だがまれに急性腎不
全を生ずる場合があるため、既に腎障害のある場合は投与を避ける。IDV では薬剤の結晶
により高率に腎結石を生じ、さらに膿尿を伴う腎不全を合併することがあるため、予防的に
抗 HIV 療法
15
1日に 2L 程度の水分摂取の継続が必須となる。
〈膵炎〉
ddI 単独投与で1~7%に合併の報告があり、d4T や TDF との併用では更に頻度が上昇
する。直ちに ddI を中止し、適切な管理を行う。
〈PI による出血傾向〉
すべての PI によって、特に血友病患者で出血傾向増強が認められることがある。凝固因
子製剤の使用頻度を高めるか、高頻度であれば NNRTI への変更も考慮する。
〈免疫再構築症候群〉
厳密には薬剤の直接的な副作用ではないが、ART による免疫回復に伴い、軽快していた
日和見感染症(OI)が逆に増悪したり、新たな OI が顕在化する現象を指す。ART 開始か
ら数ヶ月以内(多くは8週間以内)に発症し、ART 開始前の CD4 数は通常 50/μℓ未満で
ある。頻度の多いものは CMV 網膜炎、MAC 感染症、結核であるがB型やC型肝炎の報告
もあり注意を要する。ART は原則継続し、OI に対する治療と NSAIDs の投与で対応する
が、炎症所見が高度であれば PSL 30~60mg/ 日の併用による過剰免疫の抑制も考慮する。
ART の中止を余儀なくされる場合もある。
 開始後数ヶ月~数年かけて出現
〈乳酸アシドーシス / 肝脂肪変性〉
NRTI によるミトコンドリア障害が原因で、非特異的な消化器症状を前駆症状として呼吸
困難、ギランバレー症候群様の症状が進行する重篤な副作用である。発症頻度は 0.5-1.0%
程度であるが、一度発症すればその死亡率は高い。理論的には全ての NRTI で起きる可能
性があるが、とりわけ d4T と ddI での報告が多い(AZT ではまれ)。血清乳酸値5mM(45mg/
dl)以上では直ちにすべての ART を中止する必要があるが、回復までは4~48 週必要と
される。ビタミン B1、B2 などの投与が有効とする報告もある。但し、無症候性の高乳酸
血症(2mM(18mg/dl)以上)は8~20%に認められるため、ルーチンの測定は推奨され
ない。
〈lipodystrophy/ インスリン抵抗性 / 高脂血症〉
ART の長期継続により引き起こされる代謝異常。体幹と内臓に脂肪は蓄積する一方で、
四肢と皮下の脂肪は萎縮する。更にインスリン抵抗性と高脂血症も合併し、結果的に心筋梗
塞などの心血管イベントのリスクが高まることが報告されている。原因としては NRTI、PI
との関連が報告されているが、その作用は各薬剤間でも異なり、NRTI の中では d4T で脂
肪萎縮や中性脂肪の上昇の頻度が高く、一方 PI では ATV は代謝への影響が少ない。治療
方針は確立していないが、運動・食事療法、薬物療法、影響の少ない治療 regimen への変
更などが有効とされる。
〈骨壊死 / 骨粗鬆症〉
ART の長期継続により 0.08~1.33%に症候性の骨壊死が合併、さらに MRI で確認され
る無症候性の骨壊死は 1.33~4.4%に合併すると報告されている。多くは大腿骨頭病変を有
す。アルコール、高脂血症、糖尿病、ステロイド使用、TDF 使用などの関与が疑われている。
骨密度の低下は ART 導入前の HIV 感染者でも報告がある。
 薬物相互作用について
NNRTI と PI はすべて肝のチトクローム P450(CYP)により代謝を受けるため、抗 HIV
薬同士、または同じ CYP で代謝される薬剤との併用では相互作用が生じる可能性がある。ま
た NRTI でも同様の薬物相互作用が報告されている。代謝低下により抗 HIV 薬の濃度が上昇
16
抗 HIV 療法
すれば、副作用の出現や増強が生じ、一方、代謝促進により抗 HIV 薬の濃度が低下すれば、
十分なアドヒアランスが維持できていても、治療の失敗に繋がる可能性があるため、投薬に際
しては薬物相互作用に十分な注意が必要である。薬物相互作用が疑われる場合には後述する
TDM が有用である。個々の薬剤の薬物相互作用について DHHS guideline の Table 15 を参
照。
 ART の治療中断について
種々の抗 HIV 薬の副作用やその他の理由で ART の中断を余儀なくされる場合には、薬剤
耐性の発現を阻止するために、すべての抗 HIV 薬を原則、同時に中止する。但し、NNRTI
の EFV と NVP は半減期が極めて長いため、同時に中止すると、事実上 NNRTI の単剤治療
を行っていることとなり、NNRTI に対する耐性変異を誘導する結果となる。このため EFV
と NVP 中止時には、NRTI を1週間長く継続してから中止するか、代わりの PI を1週間追
加投与してから、全ての薬剤を中止する方法が推奨される。
ART を計画的に中止したり再開したりすることで、HIV 特異的免疫反応を刺激し、ウ
イルス抑制能を高め、結果的に ART による長期毒性を回避する目的で計画的治療中断法
(Structued treatment interruptions = STI)が試みられてきたが、大規模な study である
SMART study の中間解析では、治療継続群に比較し STI 群で有意に OI 発症率と死亡率が増
加し、試験は中止された。この結果からも、現時点では治療安定期における STI は推奨され
ないと考えられる。急性 HIV 感染症治療後、妊婦における ART 後の治療中断についても有
益性は確立していず、現時点では推奨されない。
4
特別な状況での抗 HIV 薬療法
 急性 HIV 感染症
急性感染期中に治療を開始することによる長期的な有益性は現時点で不明であるため、急性
感染での治療開始は任意と考えるべきである。もし、治療を開始した場合には慢性感染の治療
と同様に HIV-RNA 量を測定限界以下に到達させるのが目標となる。また治療開始前の薬剤
耐性検査の実施を考慮する。急性感染症の適切な治療期間についても明確な結論は得られてい
ない。
 妊婦に対する抗 HIV 療法
児への感染を予防するために、基本的には CD4 数に係わらず全ての妊婦に対して治療を
行う。
HIV 感染妊婦からの母子感染予防は、以下の3つの治療で構成される。
①母体に対する ART による子宮内感染の予防
②分娩中の AZT 点滴投与+選択的帝王切開術による産道感染の予防
③人工栄養による母乳感染の予防と児に対する AZT 投与
妊婦が ART を行っていない場合で、HIV の治療適応がある場合は、緊急性がない限り妊
娠 14 週から AZT を含んだ ART を開始し、分娩中や出産後も継続する。HIV の治療適応が
ない場合でも母子感染予防の観点から妊娠 14 週から AZT を含んだ ART を開始する。分娩
時は抗 HIV 療法を継続するが、出産後は治療継続の必要性を再検討する。妊娠判明以前から
ART を行なっている場合は、一般的に器官形成期の間(妊娠 14 週まで)も ART を中止す
べきではない。妊婦に使用する抗 HIV 薬については以下の表を参照。
抗 HIV 療法
17
〈HIV 感染妊婦に対する抗 HIV 薬の推奨度〉
推奨度
NRTI
NNRTI
PI
・AZT ・3TC
・LPV/RTV
(1日2回)
第二選択
・ABC ・FTC
・ATV+RTV
・IDV+RTV
・NFV
・SQV+RTV
代替薬がない場
合のみ使用可能
・TDF
第一選択
データ不十分
その他
・EFV
・ETR
・DRV+RTV
・FPV+RTV
・RAL
・MVC
具体的な治療方針については「9.妊婦および新生児の HIV」の項を参照。
 HIV と HBV の重複感染時の抗 HIV 療法
抗 HIV 薬の内、3TC、FTC、TDF は抗 HBV 活性も併せ持つ薬剤であり、3TC は単剤で
HBV 治療薬としても使用される。HIV/HBV 重複感染患者に HBV 治療目的に 3TC が単剤
で投与された場合には、2年で 50%に 3TC 耐性が誘導されたと報告されている。このため
HIV/HBV 重複感染患者に ART を行う場合には、3TC、FTC、TDF を単独で含む regimen
は 避 け、TDF+FTC ま た は TDF+3TC を NRTI 2 剤 と し て 用 い る こ と が 推 奨 さ れ る。
3TC、FTC、TDF の単剤使用が避けられない場合には entecavir(バラクルード)の併用を
考慮する。Entecavir、adefovir は HIV に対する活性も有し、重複感染者に単独で使用する
と薬剤耐性を誘導する可能性がある。治療開始時の CD4 数が低値の場合には、免疫再構築症
候群による肝炎の増悪が起きる場合がある。詳細は「5.HIV 感染症と肝炎」の項を参照。
 HIV と HCV の重複感染時の抗 HIV 療法
HIV/HCV 重複感染患者では HCV 単独感染患者に比較し、肝炎の進行が急速であり早期に
肝硬変、肝癌への進展がみられ、主要な死因となっている。このため HIV/HCV 重複感染患
者では肝疾患の進行を阻止するために、より早期に ART を導入することを推奨する意見もあ
る。また、CD4 数が低下していると抗 HCV 療法の有効率が低下するため、CD4 数が 200/μ
ℓ未満では、先に ART を開始し、免疫能を回復させてから抗 HCV 療法を導入する。現在、
ペグインターフェロンとリバビリン(RBV)の併用療法が標準的な抗 HCV 療法であるが、
ddI や d4T は RBV との併用で乳酸アシドーシスや膵炎、急性肝不全などの重篤な副作用の報
告があり、また AZT は RBV による貧血が高度となる可能性があるため、これらの薬剤との
併用は避けることが推奨される。当院では「HIV・HCV 重複感染症診療ガイドライン第4版
(2010 年 11 月改訂)
」を作成しており、詳細はこちらを参照(http://www.hok-hiv.com か
ら download 可能)。
 結核合併時の抗 HIV 療法
活動性結核の合併時には速やかに結核治療を開始する必要があるが、結核では ART による
免疫再構築症候群の合併頻度が高く、また使用薬剤による副作用の発現頻度も高いことから、
結核の治療を先行することが望ましい。DHHS ガイドラインでは CD4 数が 200 未満の場合
に抗結核治療開始から2~4週以内に、CD4 数が 200~500 の場合は抗結核療法開始から2
~4週以内または少なくとも8週以内に、CD4 数が 500 以上の場合は抗結核療法開始から8
週以内に ART を開始することを推奨している。また結核治療に重要な薬剤である rifampicin
18
抗 HIV 療法
は CYP 誘導作用があるため、全ての PI または NNRTI と薬物相互作用を生じる。薬物相互
作用のため rifampicin の使用が困難な場合には、rifabutin への変更を検討する。またこれら
の薬剤の併用時には投与量の調整が必要であり、具体的な投与量については DHHS guideline
の Table 15 を参照。具体的な治療法については「7-8.結核症」の項を参照。
5
治療効果判定と薬剤変更
 治療反応性のモニタリング
〈HIV-RNA 量〉
治療開始時と開始2~8週後に測定する。十分な治療効果とアドヒアランスが維持されて
いれば少なくとも月に 1.0 log10 コピー/ml 以上の減少が期待出来る。その後は4~8週毎
に測定し、開始 16~24 週後に検出限界以下に到達させるのが目標となる。検出限界以下に
到達したら3~4ヶ月毎に測定する。
〈CD4 リンパ球数〉
治療開始時と開始後は初期は毎月、その後は2~4ヶ月毎に測定する。通常は上記 HIVRNA 量と同時に測定する。HIV の抑制が十分であれば通常、年に 100/μℓの割合で上昇が
みられる。
 ART 失敗の定義
〈ウイルス学的失敗〉 ・治療開始 24 週後の HIV-RNA 200 コピー/ml 以上
・一度抑制後に再び2回以上連続して HIV-RNA 200 コピー/ml 以
上に上昇*
* 1000 コピー/ml 未満の一過性の上昇で、治療の変更無く、検出限界以下に戻る一過性の
ウイルス血症の場合は“blip”であり、治療失敗とは関連ないと考える。
〈免疫学的失敗〉 明確な定義はないが以下の様な場合と定義されることがある。
・治療開始後ある期間(4~7年など)に CD4 数がある値(350 あ
るいは 500/μℓ以上など)まで増加しなかった場合。
・特定の期間で治療前よりある値(50 あるいは 100/μℓ以上など)
まで増加しなかった場合。
 ART 失敗時のアプローチ
ART 失敗の原因を究明することが重要であり、以下の評価を行う。
〈アドヒアランス〉
アドヒアランスが不十分な場合にはその根本的な原因(服薬方法、食事の影響など)を特
定し、それに対処する。可能であれば1日1回療法の様な処方の簡略化を行う。
〈副作用〉
副作用が原因でアドヒアランスの低下が生じる可能性も考慮する。
〈薬物血中濃度モニタリング(Therapeutic Drug Monitorig = TDM)〉
服薬時間の非遵守(食後投与など)や薬物相互作用、遺伝学的な個体差などにより抗
HIV 薬の濃度が目標レベルに到達していないことが予想される場合に行う。本邦では「抗
HIV 薬の血中濃度に関する臨床研究」班(ホームページ http://www.psaj.com)を通して
測定が可能である。NRTI については細胞内濃度が重要であり、細胞内濃度と血漿中濃度の
関係が確立していないが、上記研究班では TDF のみ血中濃度測定が可能である。
抗 HIV 療法
19
〈薬剤耐性検査〉
ウイルス学的失敗が認められた患者において、治療方針を決定する際には、特に薬剤耐性
検査が有用である。薬剤非存在下では野生株が優勢となり、変異株が検出されなくなるため、
検査は治療中または治療中止後4週間以内に実施する。HIV-RNA が 1000 コピー/μℓ未満
では実施できない。検査の詳細については「4.HIV 薬剤耐性とその検査」の項を参照。
〈ART 治療歴〉
現在は服用していないが、過去に使用した抗 HIV 薬に対しては、薬剤耐性検査では耐性
が検出されなくても耐性株が存在している可能性があることを念頭に置く必要がある。
 薬剤変更の実際
〈薬剤耐性が認められない場合〉
少数の変異株の存在を完全に否定は出来ないが、アドヒアランスと服薬について再評価を
行い、この結果に基づいて必要があれば薬剤の変更を行う。変更後は早期に薬剤耐性検査を
再検する。
〈薬剤耐性検査の結果と過去の治療歴から少なくとも二つ以上の有効な薬剤が存在する場合〉
少なくとも2種類(可能なら3種類)の薬剤を含んだ治療法に速やかに変更し、これ以上
の耐性変異の拡大を抑え、HIV-RNA を検出限界以下に到達することを目標とする。新規作
用機序の薬剤も考慮する。
〈薬剤耐性検査の結果と過去の治療歴から二つ以上の有効な薬剤が存在しない場合〉
この場合の治療の目標は免疫機能を維持し、疾患の進行を防ぐことである。薬剤の変更は
行わずに、現行の治療を継続し経過観察するのが適切なこともある。治療の中止・短期間の
中断は疾患の進行に繋がるため注意が必要である1種類の有効な薬剤の追加は急速な耐性の
誘導を促すため一般的には推奨されないが、CD4 数が 100/μℓ未満で臨床的進行のリスク
が高い場合には、一時的な効果を期待して行われる場合がある。
〈ウイルス学的には安定だが、免疫学的に失敗した場合〉
免疫学的失敗への対処については一定の見解がない。ウイルス量がコントロールされてい
る状況で治療の変更すべきかどうかは明らかではない。それまでの治療に1剤追加したり、
更に強力な治療に変更したりすることもある。HIV-2、HTLV-1 の重複感染や薬剤毒性な
どの評価も必要である。
20
抗 HIV 療法
■参考文献■
1 Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and
Adolescents(DHHS). January 10, 2011(http://aidsinfo.nih.gov/)
2 Thompson MA et al. Antiretroviral Treatment of Adult HIV infection:2010
Recommendations of the International AIDS Society-USA panel. JAMA 304:321-333,
2010(http://www.iasusa.org/)
3 Gazzard B et al. British HIV Association(BHIVA)guidelines for the treatment of
HIV-1-infected adults with antiretroviral therapy 2008. HIV Med 9:563-608, 2008
(http://www.bhiva.org/)
4 Bartlett JG et al. Medical Management of HIV Infection 2009-2010, 15th Edition.
Published by Johns Hopkins University School of Medicine, 2009
5 HIV 感染症治療研究会編.HIV 感染症「治療の手引き」第 15 版.2011 年 12 月
6 Cohen MS et al. Prevention of HIV-1 infection with early antiretroviral therapy. N
Engl J Med. 365:493-505, 2011
(血液内科 遠藤 知之 2011.08)
抗 HIV 療法
21
4
1
HIV 薬剤耐性とその検査
薬剤耐性 HIV はなぜ出現するのか?
抗 HIV 薬剤が効かない HIV を薬剤耐性 HIV という。HIV は逆転写酵素により自身のゲノム
RNA を DNA に変換し、それを宿主細胞遺伝子に組み込むことにより子孫の HIV を作り出す。
その際に働く逆転写酵素は間違った塩基を取り込んでも、それを校正する機能を持たないため変
異 HIV が生じる。複製エラーは高率(10-4~10-5、1回の複製につき1カ所変異する)に起き、
生体内では一日に 109~1010 もの HIV が産生されるため高度の多様性が獲得され、かつ、薬剤
による選択圧により薬剤耐性 HIV が出現する。薬剤耐性 HIV は抗 HIV 薬剤治療中に出現し、
特に不適切な抗 HIV 薬剤の使用により出現する危険性が高い。近年では新規未治療感染者から
薬剤耐性 HIV が検出され、その割合が年々増加していることが報告されている。
2
HIV 薬剤耐性検査とは?
 薬剤耐性検査の特徴と意義
HIV 薬剤耐性検査とは、血液中に存在する HIV がどの薬剤に感受性があるかを推定する検
査であり、適切な治療薬選択の指標となる。その意義については多くのコホート研究で薬剤耐
性検査による治療薬の選択が良い治療効果を得る上で有効であることを報告している。薬剤耐
性検査には genotype 検査(遺伝子型解析)と phenotype 検査(表現型解析)の2種類があり、
それぞれに長所短所がある(表1)。
表 1 genotype 検査と phenotype 検査の特徴
genotype 検査(遺伝子型解析)
方 法
HIV 遺伝子の塩基配列を決
定し、逆転写酵素、プロテ
アーゼ、インテグラーゼ領
域のアミノ酸変異から耐
性薬剤を推定する(表2)。
特 徴
phenotype 検査に比べ検査方法が簡便で、短時間(3~4
日)で結果が得られる。
標的酵素のアミノ酸変異から耐性を推測するには専門的
な知識・経験が必要である。
データ蓄積の少ない新薬などの未知の耐性変異は判定で
きない。
phenotype 検査(表現型解析)
方 法
患者から分離した HIV を培養・増殖させ、
そのウイルスの増殖を阻止するのに必
要な抗 HIV 薬の濃度を測定する方法で、
通常、薬剤に対する感受性はウイルス増
殖能 50%阻止濃度(IC50)等で表現され
る。
22
HIV 薬剤耐性とその検査
特 徴
細菌に対する感受性に類似した判定が行え
る。
交差耐性が確認できる。
検査方法が複雑で検査に長時間を要する。
 genotype 検査(遺伝子型解析)について
genotype 検査は簡便かつ比較的短時間に結果が得られ、薬剤と変異に関するデータベース
も充実しているため世界的に実施されている検査である。薬剤はいくつかの決まった変異を誘
導するため、誘導された変異をみることによって耐性を示す薬剤の推測が可能となる。具体的
な方法は血漿中 HIV より抽出した RNA を RT-nested PCR にてプロテアーゼ、逆転写酵素、
インテグラーゼ領域を増幅し、DNA sequencing により塩基配列を決定し、耐性変異アミノ
酸の有無を調べる。
genotype 検査結果を解釈する際には、以下の事を知っておく必要がある。
1 長期間の薬剤使用により耐性変異が集積された場合、変異同士の相互作用により変異と薬
剤の対応関係が崩れ、genotype 検査による評価と実際の臨床経過の間に乖離が生じる場合
がある。
2 血液中に優位(約 20%以上)に存在する HIV の耐性変異しかみることができない。
3 検査可能なウイルス量の目安としては 1,000 コピー/ml 以上である。
4 抗 HIV 薬投与中止後は野生株が増殖し、薬剤耐性 HIV の割合が減少しているため正確な
結果が得られないことがある。
5 治療継続中であってもかつて投与したことがある抗 HIV 薬に対する耐性株は検出できな
いことがある。
3
薬剤耐性検査をいつおこなうか?
薬剤耐性検査は、抗 HIV 薬剤を変更する際に有効である。しかし、高額な自己負担が生じる(保
険点数:6,000 点)ため、必要以上の検査の実施を防ぎ、適切なタイミングで検査を行うことが
重要である。我が国のガイドラインで示された実施のタイミングを以下に示す。
1 HIV 感染の新規診断時(急性感染症例を含む)
2 治療開始時
3 治療開始後十分な治療効果が認められない時
4 治療中薬剤耐性の出現が疑われた時
5 ウイルス学的失敗以外の理由で薬剤を変更する時
6 治療の中断と再開時
7 HIV 感染妊婦において予防投与を行う時
捕捉:針刺し事故など感染者血液への暴露があった場合の予防的措置
引用:HIV 薬剤耐性検査ガイドライン ver.5(2011 年3月),http://www.hiv-resistance.
jp/index.htm
4
薬剤耐性変異の判定
判定は耐性変異と薬剤との関係が記載されている耐性変異表や薬剤耐性評価アルゴリズムを用
いた WEB での解析を基におこなう。耐性変異表には IAS-USA(International AIDS SocietyUSA) が作成している Drug Resistance Mutations in HIV-1,WEB 解析には Stanford HIV
Drug Resistance Database が広く用いられている。詳細は HP
(IAS-USA: http://www.iasusa.org/、Stanford HIV Drug Resistance Database: http://
hivdb.stanford.edu/)を参照。薬剤耐性アルゴリズムは薬剤耐性検査結果の解釈を容易にする
HIV 薬剤耐性とその検査
23
ためのものであり、上記以外に The Agence Nationale de Recherche sur le SIDA(ANRS)
や REGA が公開されている。これらのアルゴリズムによる主要な耐性変異の判定はほぼ一致す
るが、完全には一致しないため、解釈が困難な場合については専門医に相談することが望ましい。
5
HIV 薬剤耐性検査の依頼方法
HIV 薬剤耐性検査は 2006 年4月1日より保険適用となり、抗 HIV 薬の選択および再選択の
目的で行った場合に、3カ月に1回を限度として 6,000 点を算定できる。依頼は病院情報シス
テムから行う。
 依頼方法
依頼画面は [ 6.感染 ] → [HIV 確認検査 ] → [ 薬剤耐性検査 ]
依頼種は2種類あり、担当医の判断で選択する。
① HIV 薬剤耐性検査(保険適用)
治療薬剤選択および再選択を目的とする場合
② HIV 薬剤耐性検査(受託研究費)
・3カ月に2回以上おこなうとき
・治療選択目的以外でおこなうとき(含初診時)
①②いずれの依頼でも,プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼの3領域を解析する運
用としている。
 検体採取
採血管は EDTA-2Na(紫シール栓、7ml 用)に5ml 以上採血し、採血後はよく転倒混和する。
検査室では HIV RNA 定量検査済の残余検体を検査終了後5年間凍結保存しているので、薬
剤耐性検査の後追い検査が可能である。保存検体で薬剤耐性検査を行いたい場合は遺伝子検査
室(内 5714、藤澤)に連絡する。必要量あることが確認できたら病院情報システムにてオー
ダ入力し、バーコードのみを検査室に提出する。
 検査所要時間と結果参照
薬剤耐性検査には HIV RNA 量のデータが必要なため HIV RNA 定量検査を経てから検査
を実施する。そのため所要時間は HIV RNA 定量検査終了後、約 10 日を要する。ただし所要
日数は短縮できることもあるので、結果を急ぐ場合は遺伝子検査室(内 5714、藤澤)に連絡
する。
耐性判定は IAS-USA と Stanford HIV Drug Resistance Database での判定結果を採用し
ている。検査結果は2通りの方法で参照できる。ひとつは,詳細報告書(PDF 形式の電子報
告書)であり、画像情報システム(PACS)で参照可能である。もうひとつは,簡易報告であり,
薬剤ごとの耐性判定のみ(Susceptible,Low-level resistance,Intermediate resistance,
High-level resistance,Potential low-level resistance の4段階)を通常の検査結果報告画
面で参照することができる。ウイルス量が少ないなど検査ができなかった場合には検査結果報
告画面で「測定不可」の報告のみとなり、電子報告書はない。
24
HIV 薬剤耐性とその検査
表2 薬剤耐性変異リストと見方
核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTIs)
41
62
65
67
69
70
74
75
77 115 116 151 184 210 215 219
AA(WT)
アミノ酸番号
M
A
K
D
T
K
L
V
F
Y
F
Q
M
L
T
K
多剤耐性 (TAMs)
L
N
W
YF
QE
多剤耐性 (69ins)
L
V
W
YF
QE
多剤耐性 (151)
V
R
ins
R
I
L
Y
M
ABC
R
V
F
V
DDI
R
V
FTC
R
VI
3TC
R
VI
d4T
L
N
R
W
YF
QE
TDF
R
E
L
N
R
W
YF
QE
L
-
-
-
-
R
-
-
-
-
-
-
-
W
YF
-
AZT
結 果
変異なし
変異アミノ酸(1文字表記)
野生株のアミノ酸
(1文字表記)
耐性に関わる
アミノ酸変異
検体中 HIV のアミノ酸
2種類の変異アミノ酸が混在
非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTIs)
アミノ酸番号
90
98 100 101 103 106 108 138 179 181 188 190 225 230
AA(WT)
V
A
L
K
K
V
V
E
Y
Y
G
P
M
EFV
I
N
M
I
CI
L
SA
H
ETR
I
G
I
EHP I
SA
NVP
I
N
AM
I
-
-
-
-
20
24
30
32
結 果
-
-
-
-
A DFT CIV
CI CLH A
-
YC
-
L
-
-
-
プロテアーゼ阻害剤(PIs)
アミノ酸番号
10
11
13
16
33
34
35
36
43
46
47
48
50
53
54
F
I
AA(WT)
L
V
I
G
K
L
D
V
L
E
E
M
K
M
I
G
I
ATV+/-RTV
IFVC
E
RMITV
I
I
IFV
Q
ILV
IL
V
L
LY LVMTA
FPV/RTV
FIRV
I
IL
V
V
LVM
DRV/RTV
I
I
F
V
V
ML
IDV/RTV
IRV
MR
I
I
I
IL
V
LPV/RTV
FIRV
MR
I
I
F
IL
VA
V
L
VLAMTS
FI
N
I
IL
NFV
SQV/RTV
IRV
I
V
VL
TPV/RTV
V
V
MR
F
G
I
T
L
V
AMV
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
I
-
-
-
-
-
結 果
HIV 薬剤耐性とその検査
25
アミノ酸番号
58
60
62
63
64
69
AA(WT)
Q
D
I
L
I
H
ATV+/-RTV
E
V
LMV
71
73
A
G
VITL CSTA
74
76
77
82
83
84
85
88
89
90
93
T
L
V
V
N
I
I
N
L
L
I
ATFI
V
V
S
M
LM
FPV/RTV
S
V
AFTS V
M
DRV/RTV
P
V
V
V
IDV/RTV
VT
SA
V
I
AFT
V
M
LPV/RTV
P
VT
S
V
NFV
VT
SQV/RTV
V
VT
S
TPV/RTV
E
K
P
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
結 果
インテグラーゼ阻害剤
アミノ酸番号
AA(WT)
Raltegravir
結 果
Q
RHC HKR
-
V
M
V
DS
M
I
AFTS I
AFTS V
M
LT
D
V
M
-
-
-
V
-
-
-
M
-
変異は major mutations(灰色)と minor mutations に
143 148 155
Y
AFTS Y
H
H
-
分けられます。major mutations とは薬剤特異的に最初
に出現する耐性変異で、耐性化に大きく関わる変異です。
minor mutations とは major mutations に引き続き出現す
る変異で、この変異のみでは明らかな耐性は示しません。
(北海道大学院保健科学研究院 吉田 繁、検査・輸血部 藤澤 真一 2011.06)
26
HIV 薬剤耐性とその検査
5
HIV 感染症と肝炎
ウイルス性肝炎は、輸血後肝炎(血清肝炎)と流行性肝炎(伝染性肝炎)に大別できる。前者
には、B型肝炎・C型肝炎が含まれるが、これらは HIV の感染経路と重複する可能性が少なか
らず存在する。わが国の献血では、1972 年からB型肝炎ウイルス(HBV)、1986 年から HIV
に対するスクリーニングが開始されたが、C型肝炎ウイルス(HCV)が発見され、わが国での
献血スクリーニングが導入されたのは 1989 年である。したがって、1980 年前後から濃縮製剤
を使用されているわが国の血友病患者などでは HIV と HCV の重感染を起こす可能性が高率に
ある。さらに、HCV 感染例では慢性化するものが多いため、HIV コントロールの進歩に伴って、
特にC型慢性肝障害への対策がクローズアップされてきている。また、HBV 重複感染例では、
抗 HBV 作用 / 抗 HIV 作用を合わせ持った薬剤があり、その有効性以外に耐性出現に関する注
意が必要となっている。
わが国では、厚生労働省科学研究費補助金エイズ対策研究事業として、「HIV 感染症に合併す
る肝疾患に関する研究」班により、
「HIV・HBV 重複感染時の診療ガイドライン」
(2009 年)、
「HIV・
HCV 重複感染時の診療ガイドライン」(2005 年)が著わされている。また、HIV 感染症治療研
究会から「HIV 治療の手引き」が毎年改訂されて発行されている。(2010 年に第 14 版)
当院では、
HCV との重複感染症例に関して「HIV・HCV 重複感染症診療ガイドライン」
(2010
年に第4版)が作成されている。
1
慢性肝障害の診断・症候
 慢性肝炎
6か月以上の肝機能障害とウイルス感染が持続する状態である。さらに、組織学的には、門
脈域はリンパ球を中心とした炎症細胞浸潤や線維増生による拡大がみられる。全身倦怠感・食
欲不振 、 肝腫大を認める場合もあるが、一般的には自他覚所見に乏しい。
 肝硬変
病理学的に、慢性の肝細胞障害とそれに引き続く結合組織の増生および肝細胞再生の結果、
線維性隔壁で囲まれた再生結節(偽小葉)が肝全体にびまん性に形成された状態である。自他
覚所見としては、全身倦怠感・食欲不振・腹部膨満感・腹水・浮腫・黄疸・肝性脳症・手掌紅
斑・クモ状血管腫などを認める。
2
慢性肝炎の診断のためのウイルスマーカー検査
 B型肝炎ウイルスマーカー
1 HBV 関連抗原抗体系
a) HBs 抗原:HBV 感染状態を表わす。
b) HBs 抗体:過去の HBV 感染を示す中和(防御)抗体。
c) HBe 抗原:HBV 量や感染力の高い状態を表わす。
d) HBe 抗体:HBV 量や感染力の低い状態を表わす。
e) HBc 抗体:HBV の感染の事実(継続あるいは既往)を表わす。キャリアでは、CLIA
HIV 感染症と肝炎
27
法で cut off index 10 以上のことが多い。
f) IgM HBc 抗体:急性肝炎あるいは慢性肝炎の急性増悪時に陽性となる。CLIA 法では
10 以上の高力価の場合、急性肝炎と考えられる。
g) HBV コア関連抗原:HBV のプレコア・コア遺伝子から転写翻訳される HBe 抗原や
HBc 抗原などをまとめて定量的に測定したもの。肝細胞内の HBV cccDNA を反映する
と考えられている。
2 HBV 核酸検査
a) HBV-DNA 量(real-time PCR 法):測定感度 2.1 log copies/ml
測定感度以下の場合は、HBV-DNA「検出」あるいは「検出せず」と表示される。
b) HBV 遺伝子型:わが国では、genotype C が最も多く、次いで genotype B が多い。(測
定は、2011 年5月から保健適応となった。)
c) HBV プレコア、コアプロモーター変異:それぞれの領域の変異の有無を測定する。
3 抗ウイルス薬の耐性遺伝子検出
a) HBV ポリメラーゼ領域変異:ラミブジン、エンテカビル、アデホビルなどの核酸アナ
ログ製剤に対する耐性変異の測定系があるが、現在は、まだ保険適応外である。
 C型肝炎ウイルスマーカー
1 HCV 関連抗原抗体系
a) HCV 抗体(第2あるいは第3世代)
:HCV 感染の事実(継続あるいは既往)を表わす。
b) HCV 群別判定(グルーピング):抗体測定系を応用したタイプの判別法。
[判定] グループ1:本邦では、通常は type 1b と考えられる。
グループ2:本邦では、type 2a と type 2b の両者の可能性がある。
判定保留:グループ1およびグループ2に対する抗体が共に陽性(mixed
type)の可能性が考えられる。
判定不能:抗体反応が陰性の場合が考えられる。
c) HCV コア抗原定量:HCV のコア蛋白質量の測定系、測定感度 20 fmol/L
2 HCV 核酸検査
a) HCV-RNA 量(real-time PCR 法):測定感度 1.2 log IU/ml
測定感度以下の場合は、HCV-RNA「検出」あるいは「検出せず」と表示される。
b) HCV 遺伝子型:わが国では、genotype 1b が最も多く、次いで 2a、2b の順となる。
3 抗ウイルス薬の効果と関連した遺伝子変異(現時点では保険適応外)
a) HCV コアアミノ酸置換:コア領域の 70 番目と 91 番目のアミノ酸置換の有無を測定。
b) ISDR 変 異:HCV NS5a 領 域 の イ ン タ ー フ ェ ロ ン 感 受 性 決 定 領 域(interferon
sensitivity determining region)のアミノ酸変異数を測定。
3
HIV および肝炎ウイルスの重複感染における臨床的問題点
非加熱血液製剤を投与された血友病患者の多くや STD に伴う HIV 感染患者では、肝炎ウイ
ルスと HIV の重複感染がみられる。なかでも、HIV と HCV との重複感染が多い。
 HBV 感染症と HIV 感染症の相互の関連
それぞれの重複感染における影響の有無は、現段階では明らかではないが、重複感染者にお
ける HBV の増殖や抗ウイルス薬による副作用発現などは HIV 感染症治療に影響を及ぼす。
 HCV の HIV 感染症に対する影響の有無
28
HIV 感染症と肝炎
C型肝炎は HIV 感染の悪化に影響しないとの報告が多い。
 HIV のC型肝炎の進行に対する影響の有無
HIV の重複感染例の方が進行は早く、肝硬変・肝不全への進展率が高い。
 HIV/HCV 重複感染に対する抗ウイルス療法時の問題点
1 抗ウイルス剤の他方への影響・効果
HIV プロテアーゼインヒビターは HCV プロテアーゼへの直接効果は有さない。
2 抗ウイルス療法による肝機能障害
特に HIV プロテアーゼインヒビターでは肝機能障害が高率に認められる。薬物自体の肝
細胞への障害のほかに、肝病変の進展例では薬物血中濃度の上昇も考慮する必要がある。
4
ウイルス性肝炎に対する治療の考え方
B型あるいはC型肝炎に対する治療目標は、
① ウイルスの排除、
② 肝炎の鎮静化、
③ 長期予後の改善、肝病変進展(肝硬変・肝癌)の抑制である。
基本的にはウイルス感染症であり、ウイルスの排除が達成されれば肝炎の治癒が期待でき
る。C型肝炎の場合、インターフェロン治療によりウイルス学的治癒が得られる症例もあ
る。ウイルスの排除が困難な場合には、肝機能の正常化を目指す。B型肝炎の場合には、短
期的にウイルスが消失することは困難であるが、HBe 抗原/HBe 抗体の+/-から-/+
への変化(seroconversion)が、臨床的には肝炎鎮静化に関連する指標となりうる。さらに、
最終的には、HBs 抗原の陰性化も目標となる。結果として、長期的に肝硬変への進展や肝
癌発生を抑制することが最終的な目標となる。
①に関しては、インターフェロン製剤、核酸アナログなどが使用される。インターフェロ
ンはB型肝炎およびC型肝炎に用いられる。B型に対しては6か月まで、C型に対しては1
年以上の長期投与も可能となっている。B型肝炎に対しては、2000 年に逆転写酵素阻害薬
のラミブジン(ゼフィックス®
)が保険適応となり、2004 年にラミブジンに耐性例に対す
るアデホビル(ヘプセラ®
)の併用が使用可能となった。さらに 2006 年からエンテカビル
(バラクルード®)も投与可能となった。C型肝炎に対しては、2001 年からインターフェロ
ンα 2b+ リバビリン(レベトール®)併用療法が可能となり、2003 年からは徐放性があり
週 1 回の皮下投与が可能な、ポリエチレングリコール結合型の PEG-IFN α 2a(ペガシス®)
の使用が認められた。さらに、2004 年からは PEG-IFN α 2b(ペグイントロン®)とリバ
ビリン(レベトール®
)の併用療法が可能となった。
②に関しては、グリチルリチン製剤・ウルソデオキシコール酸などの肝庇護薬が投与され
る。
5
ウイルス肝炎の治療の実際
ウイルス性慢性肝炎・肝硬変に対する治療に関しては、厚生労働省の「肝硬変を含めたウイル
ス性肝疾患の治療の標準化に関する研究」班によりガイドラインが作成され、毎年更新されてい
る。ガイドラインは、日本肝臓学会のウェブサイト
(http://www.jsh.or.jp/medical/index.html)などから参照可能である。
HIV 感染症と肝炎
29
 インターフェロン(IFN)
ウイルス性肝炎の治療に使用される IFN は、IFN- αまたは IFN- βである。IFN- αには天
然型と遺伝子組換え(2a または 2b)型がある。IFN- βは天然型である。現在は、徐放製剤
の PEG-IFN(α 2a とα 2b の2種類がある)もC型肝炎に投与可能となった。
1 B型肝炎に対する IFN 治療
現在は、1日 300 万~900 万単位(製剤・症例により異なる)の6ヶ月間の投与が標準
である。海外では PEG-IFN α 2a の使用、1年間の長期投与なども行われており、わが国
でも導入が予定されている。
2 C型肝炎に対する IFN 治療
1 日 300 万~1,000 万単位(製剤・症例により異なる)を、通常は初期2~4週間連日、
以後週3回投与することが多い。2002 年から投与期間の制限が撤廃された。現在は従来型
の IFN α製剤に限って、自己注射が可能となっている。
3 C型代償性肝硬変に対する IFN 治療
ウイルスの条件が「1型高ウイルス量以外」の代償性肝硬変症例に対しては IFN βの投
与(1回投与量は、開始6週目までは 300 万~600 万単位、7週目以降は 300 万単位)が、
さらに、上記条件または「1型かつ 500KIU/ml 以下」の症例には IFN αの投与(開始2
週目までは連日 600 万単位、以後は 300 万~600 万単位を週3回)が可能となった。
4 C型肝炎に対する PEG-IFN 治療
2003 年から PEG-IFN α 2a(ペガシスR)の単独投与が可能となった。通常は、週1回
180μg の皮下投与であるが、対象や副作用によっては、投与量の減量、投与間隔の延長な
どを考慮する。
5 C型肝炎に対する PEG-IFN・リバビリン併用治療
2004 年 12 月から、1型、高ウイルス量のC型肝炎症例に対する 48 週間併用投与が可
能となった。PEG-IFN α 2b(ペグイントロンR)とリバビリン(レベトールR)は、それ
ぞれ体重により投与量が設定されており、PEG-IFN α 2b は 1 回 60~150μg、リバビリン
は1日 600~1000mg を投与する。その後、「1型高ウイルス量以外」の症例に対する 24
週間併用治療も可能となった。国内の臨床試験における著効(持続ウイルス排除)率は、前
者で 47%、後者で 89%である。その後、2007 年からは、PEG-IFN α 2a(ペガシスR)
とリバビリン(コペガスR)併用治療も可能となった。
さらに、2011 年7月からは、代償性肝硬変症例に対する PEG-IFN α 2a(ペガシスR)
とリバビリン(コペガスR)併用治療も可能となった。
6 C型肝炎に対する PEG-IFN・リバビリン・プロテアーゼ阻害剤の3剤併用治療
2011 年秋から、1型高ウイルス量のC型慢性肝炎症例に対しては、PEG-IFN α 2b(ペ
グイントロンR)とリバビリン(レベトールR)に加えて、プロテアーゼ阻害剤の3剤併用
が導入される予定である。
 核酸アナログ製剤
1 ラミブジン
ラミブジンは、B型慢性肝炎・肝硬変に対してはゼフィックス 100mg 錠の1日1回の経
口投与を行う。抗ウイルス効果に優れているが、投与期間が長くなると耐性株の出現率も高
くなるため、HBe 抗原陽性例に対する投与での seroconversion 率は経時的には必ずしも
上昇しない。腎機能障害および乳酸アシドーシスの出現に注意が必要であり、腎機能により
投与間隔を調節する必要がある。抗 HIV 薬としてのラミブジンには、エピビル錠とコンビ
30
HIV 感染症と肝炎
ビル(AZT/3TC)
、エプジコム(ABC/3TC)などの合剤がある。HBV および HIV のそ
れぞれの耐性出現の可能性を考慮して治療選択をする必要がある。
2 アデホビル
ラミブジン投与中にB型肝炎ウイルスの持続的な再増殖を伴う肝機能異常が確認されたB
型慢性肝炎およびB型肝硬変に対して、ラミブジンと併用する。アデホビル(ヘプセラR)は、
1日1回 10mg の経口投与を行う。腎機能障害および乳酸アシドーシスの出現に注意が必
要であり、腎機能により投与間隔を調節する必要がある。
3 エンテカビル
B型慢性肝炎およびB型肝硬変に対して、1日1回 0.5mg の経口投与を行う。抗ウイル
ス効果はラミブジンよりも強く、少なくとも開始2年までの耐性発現率もラミブジンより低
率である。ラミブジン耐性症例に対する治療では、1回1回1mg を投与する。(後述する
ように、HIV/HBV 重複感染者への単独投与は行わない。)
 肝庇護剤
1 グリチルリチン(強力ネオミノファーゲン C:SNMC)
慢性肝炎では、通常 40ml/ 日を静脈内投与する。反応が不十分な場合は 100ml まで増量
可能である。高血圧・低カリウム血症など、アルドステロン様の副作用に注意が必要。
2 ウルソデオキシコール酸(ウルソ:UDCA)
慢性肝炎には、通常 300mg ~600mg /日の経口投与とする。(C型肝炎は 900mg /日
まで増量可)
6
HIV 感染者に対するウイルス性肝炎治療の実際
 HCV 重複感染例への IFN 治療
1)
C型肝炎に関連して
HIV との重複感染者では若年から肝病変の進展をきたす例が多いため、HIV 感染症の状
況や合併症の有無、肝予備能の評価のうえで、基本的には積極的治療の可能性を考慮すべき
である。ウイルス学的検査成績や肝線維化の程度、副作用の見通しなどを考慮して、治療
計画を策定する。治療効果は、単に抗ウイルス効果のみならず、生化学的有用性(ALT の
改善など)も評価すべきである。また、長期予後における治療の意義も勘案すべきである。
HCV-RNA 陽性で、ALT 異常が3か月以上持続している場合に治療を考慮する。
2 HIV 感染に関連して
CD4 陽性細胞数の減少が必発であり、十分な CD4 細胞数が保持されていることが望まし
い。HAART 導入前の患者では 350/μℓ以上、HAART 開始後の患者では 200/μℓ以上に
安定していることが望ましい。
3 血友病におけるC型慢性肝炎に対する IFN 療法について
(HIV 感染者発症予防・治療に関する研究班 HCV 小委員会、平成8年度報告より)
・皮下注射による出血例の報告はなかった。
・全例で血小板減少を認めた。
・CD4 陽性細胞数は、ほとんどの例で減少した。特に、投与前の CD4 陽性細胞数が少な
い例で急激な減少をきたした例があり、厳重な経過観察を要する。
・IFN 投与により HIV-RNA 量の増加は認めなかった。
4 C型慢性肝炎に対する IFN 療法 HIV 感染症と肝炎
31
ウイルスの遺伝子型・量と、前治療の有無・治療反応性などから、治療計画を立てる。初
回投与の低ウイルス量症例は PEG-IFN 製剤の単独投与(48 週間)、それ以外は PEG-IFN
製剤とリバビリン製剤の併用投与(「1型高ウイルス量例」は 48 週間、それ以外は 24 週
間)が標準となるが、個々の症例の状態を総合的に判断して治療計画を決定する。治療終了
後6か月間、血液中の HCV-RNA が陰性を維持していた場合、ウイルス学的著効(SVR:
sustained virological response)と判定し、ウイルスは排除されたものと判断する。 5 重複感染例に対する抗ウイルス治療の際の注意点
ア リバビリンと ddI などの併用によりミトコンドリア中毒を起こし乳酸アシドーシスを
起こすことがある。事前に HAART 内容を変更するか、併用を避ける必要がある。
イ 一部の逆転写酵素阻害剤や蛋白分解酵素阻害剤には肝毒性の危険があり、肝炎による
肝障害との鑑別が必要となる。
ウ AZT とリバビリンは貧血が増強するため、併用は避ける。
6 当院では、HIV・HCV 重複感染症診療委員会から「HIV・HCV 重複感染症診療ガイド
ライン」が作成されている。(2010 年第4版)
 HBV 重複感染例への抗ウイルス治療
1 治療適応の判断 HIV と HBV の重複感染者に対する治療の必要性については、以下の場合がある。
① 抗 HIV 治療が必要で、抗 HBV 治療は不要
② 抗 HIV 治療は不要で、抗 HBV 治療が必要
③ 抗 HIV 治療、抗 HBV 治療ともに必要
同じ薬剤が、抗 HIV 治療、抗 HBV 治療に使用される場合があること、それぞれのウイ
ルスに対して耐性出現の可能性を有していること、などの問題点がある。
2 ラミブジン(3TC)、エムトリシタビン(FTC)、テノホビル(TDF)には抗 HBV 作用も認める。
B型肝炎の治療薬であるアデホビル(ADV)は TDF と類似構造を有するため、TDF 交叉
耐性発現のリスクもある。
3 さらに、現在の抗 HBV 治療の第一選択薬であるエンテカビルにも、抗 HIV 活性を有す
ることが明らかとなり、重複患者への単独投与は行わない。
4 免疫再構築が起こった症例ではB型肝炎の悪化を認める場合があり、注意が必要である。
5 近年の HBV 急性感染例において、genotype A によるものが増加傾向にある。このタイ
プでは、成人の急性感染にも拘わらず HBV が排除されずに持続感染化する可能性がある。
この場合には、HBV 排除を目的とした抗ウイルス治療の検討も必要である。
6 重複感染者で HIV の治療が不要な場合に、インターフェロン投与が可能であれば、イン
ターフェロン(保険認可後は PEG-IFN)投与を行う。
7 HAART を行う場合には、TDF+3TC あるいは TDF+FTC の2剤を組み入れる。
8 厚生労働省「HIV 感染症に合併する各種疾病に関する研究」班により、「HIV・HBV 重
複感染時の診療ガイドライン」が 2009 年春に報告されたので、以下に示す。
32
HIV 感染症と肝炎
HIV 感染症の
治療の必要性
血中 HBV 量
肝炎活動性
(血清 ALT 値)
治療法の選択
TDF+3TC(または TDF+FTC)両者を含む HAART を行う。
HBV DNA 高値
HAART のレジメンの変更時には注意が必要(抗 HBV 作
(≧ 5 log copies/ml)
用薬を併用する。)
必要
不要
TDF+3TC(または TDF+FTC)両者を含む HAART を行う。
HBV DNA 低値
肝予備能によっては両者を含まない HAART も可能。
(< 5 log copies/ml) TDF+3TC(または TDF+FTC)を含む HAART のレジメ
ンの変更時には注意が必要(抗 HBV 作用薬を併用する。)
IFN (PegIFN)(非 HAART 下では、原則的に B 型肝炎の治
B 型肝炎治療 必要
療に 3TC、ADV、ETV を使用しない。)
( 血 清 ALT 値 異 常 が
B 型肝炎による肝不全の危険性が高い場合は、TDF+3TC
持続)
(または TDF+FTC)を含む HAART の開始も検討する。
B 型肝炎治療 不要
(血清 ALT 値正常)
経過観察
(TDF;tenofovir,3TC;lamivudine,FTC;emtricitabine,ADV;adefovir,ETV;
entecavir)
(第三内科 髭 修平 2011.09)
HIV 感染症と肝炎
33
6
1
血友病患者の診療
血友病患者の病態と症状
 先天性凝固因子欠乏症である血友病には、第 VIII 因子欠乏の血友病 A と、第 IX 因子欠乏
の血友病 B とがある。検査は APTT の延長が特徴であり、出血時間、血小板数、PT は正常
である。ただし、軽症血友病の場合には、APTT が正常のこともあるため注意を要する。
 遺伝形式は X 染色体連鎖伴性劣性遺伝であり、原則として男性にのみ発症し、女性は保因
者になりうる。血友病男性と血友病保因者女性が結婚すると、1/4 の確率でホモ接合体の女
性血友病が生まれ、現在までに 15 例以上の報告がみられる。また、遺伝形式とは無関係に
単独発症する孤発例(遺伝子の突然変異)が、血友病全体の約 30%を占めるといわれる。約
10,000 人の出生に1人生まれ、世界中の患者数は約 40 万人と推定される。2006 年の国内で
の実態調査では血友病 A あるいは血友病 B の生存患者数は、それぞれ 4,100 人、900 人である。
 血友病の重症度は凝固因子欠乏レベルによって分類され、正常人の活性と比較した凝固因子
活性の低下程度により重症度を分類している。近年、血漿 1ml 中に含まれる凝固因子活性を
1国際単位(IU)と定義し、1IU/ml の濃度の凝固因子活性が従来の 100%に相当する。下
表に示すように、血友病における出血症状の重症度は、欠乏している凝固因子のレベルと通常
は良く相関する。
重症度
重症
中等症
軽症
凝固因子
レベル 凝固活性が 1%未満
0.01 IU/ml 未満
1~5%
0.01~0.05 IU/ml
5%~40%
0.05~0.40 IU/ml
出血症状
自然出血、特に関節・
筋肉内出血
時に自然出血、外傷や
手術で異常出血
大きな外傷や手術で
異常出血
 特徴的な出血症状は関節内出血であり、繰り返す出血による関節の硬直変形(血友病性関節
症)を約 80%の患者に見る。その他に頭蓋内出血、筋肉内出血、血尿、外傷性出血などが重
要である。これらの臨床症状は血友病 A と B に共通である。
2
治療:欠乏した凝固因子の補充療法
 標準的投与量
血友病 A の場合:第 VIII 因子製剤を、10~20 単位 /kg 投与する。血友病 B の場合:第
IX 因子製剤を、20~40 単位 /kg 投与する。商業ベースで作られた凝固因子製剤は、遺伝子
組み換え型製剤はもちろん、血漿由来製剤も全て、その製造工程に人および動物由来の蛋白質
が用いられてないか、ウイルス不活化工程を経ている。
 定期的補充療法
関節出血を起こさないように、週2~3回投与を継続する。足関節・膝関節など加重関節の
出血では、凝固因子活性を高めに維持した方がよい。
34
血友病患者の診療
 手術などの緊急時の補充方法、補充療法の目安
出 血 部 位
目標とする凝固活性値
筋肉内、鼻出血、軽度の関節出血
10~20%
血尿、消化管出血
30~50%
大手術、頭蓋内出血、交通事故、抜歯
70~100%
通常患者体重1kg あたり凝固因子1単位を輸注した場合、約1~2%の上昇が得られる。製
剤の血中半滅期は第 VIII 因子製剤で約 12 時間、第 IX 製剤では約 24 時間である。従って大出血・
大手術の場合は、血友病 A では初回に第 VIII 因子製剤を 40~50 単位 /kg 投与し、以後8時
間ごとに 1/2 量の 25 単位 /kg を投与しながら欠乏している凝固因子活性を3日間は 50%以
上に維持する。血友病 B では初回に第 IX 因子製剤を 75 単位 /kg 投与し、以後 12 時間ごと
に 40 単位 /kg を投与する。
3
血液製剤の副作用
 インヒビター(抗体)
:製剤の補充療法中に出血症状の十分な改善が得られない場合には、
インヒビターの存在を疑い、凝固因子に対する自己抗体を検査する必要がある。重症例で補充
療法を繰り返している患者の5~10%にインヒビターが発生する。インヒビターの発生した
場合には、バイパス療法の適応を判断するため、血液専門医に紹介のこと。
 血液製剤関連感染症:HIV に感染している血友病患者の 99%は HCV に重複感染している
ため、HIV 陽性血友病患者の場合には、必ず HCV の検査を要する。HIV・HCV 重複感染者
では HCV 単独感染者に比較して肝炎の進行が早いとする報告もあり、HCV 陽性の場合には
第3内科肝臓グループへ紹介し、その病態を把握し治療の有無について検討する。(肝炎の章
を参照)。
4
予防接種
出血傾向を持つ患者も予防接種を受けるべきである。筋肉内注射でなく、皮下注射で受けるべ
きである。HIV 感染者は、生ワクチンは避けるべきである。また、HIV 感染者は、肺炎球菌菌
ワクチンや毎年のインフルエンザワクチンを受ける必要がある。
5
包括医療、整形外科血友病関節外来の利用
血液専門医、小児科医、整形外科医、リハビリテーション医、看護師、理学療法士、臨床心理
士、ケースワーカー、カウンセラーなどとの協力で、医療チームとしての包括医療が必要である。
特に血友病性関節症、関節拘縮、血友病性偽腫瘍に関する診療は、【整形外科血友病外来】との
連携により、より専門的観点からの診療が可能である。
6
社会福祉関連の利用について
血液製剤により HIV に感染し、健康被害を受けた方の救済等については、HIV 相談室に資料
があるので、相談室の MSW に連絡し(内線 7025)、適切な救済法の検討が可能である。
血友病患者の診療
35
7
プロテアーゼ阻害剤等使用による出血傾向の増悪症状について
HIV 治療目的で投与されるプロテアーゼ阻害剤等による、出血傾向の増悪が報告されている。
詳細は未だ明らかではないが、それまで出血を認めなかった部位における出血の報告もあり、プ
ロテアーゼ阻害剤等使用開始後に血液製剤の使用頻度が高くなった場合には、薬剤変更や減量も
検討する必要がある。報告されているほとんど(平均で投与開始後 22 日に発症)は関節出血や
軟部組織の出血だが一部には重篤な頭蓋内出血や消化管出血もあるため、製剤の使用頻度が多く
なっているような症例にはプロテアーゼ阻害剤等の影響を十分に考慮する必要がある。
■参考文献■
1 血液内科診療マニュアル p197-p201. 日本医学館発行、2004. 6.28 第1版
2 血友病医療のガイドライン . 世界血友病連盟(日本赤十字社翻訳)2005
3 HIV 感染血友病患者における HCV 感染にいて . 日本エイズ学会誌 7: 7, 2005
4 血友病 今昔 . 日本臨床 66:591-599, 2008. 3
5 HIV・HCV 重複感染について . HIV・HCV 重複感染症診療ガイドライン p 2. 北海道大
学病院 HIV・HCV 重複感染症診療委員会発行、2008.11 第3版
6 HIV 感染症「治療の手引き」. HIV 感染症治療研究会発行、2010.12 第 14 版
7 Guidelines for the use of antiretroviral agents in HIV-1-infected aduilts and
adolescents(2011. 1版 )
(第三内科 橋野 聡 2011.07)
36
血友病患者の診療
7-
AIDS 関連症候群
1 (ARC)の診断と治療
1
症候による診断手順
(J.G.Bartlett の「Medical Management of HIV Infection」を翻訳したものである)
 中枢神経(CNS)症状、頭痛
局所徴候、痙攣
精神症状 居所徴候なし、CD4>200/
髄膜刺激症状なし
発熱、髄膜刺激症状
局所徴候なし 髄液(CSF)検査
クリプトコッカス抗原
(髄液、血液)
造影 CT or MRI
本稿参照
発熱あり
発熱なし
副鼻腔炎・他の感染症
FUO の鑑別(本稿参照)
副鼻腔炎・他の頭痛(片頭痛
・筋緊張性頭痛等)の鑑別
診断確定
診断不確定
診断確定
治療
造影 CT or MRI
治療
本稿参照
CSF 所見
蛋白↑± WBC ↑
以下を考慮
結核
神経梅毒
トキソプラスモーシス
悪性リンパ腫
HIV 無菌性髄膜炎
正常 CSF
クリプトコッカス
抗原陽性
造影 CT or MRI
治療
本稿参照
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
37
 HIV 感染進行期、精神症状(性格変化)、痙攣、頭痛または局所徴候
トキソプラズマ抗体,STD 検査
血清クリプトコッカス抗原
造影 CT or MRI
トキソプラズマ
非典型病変
多発造影病変あり
トキソプラズマ脳炎の
empiric treatment
脳室周囲病変
急性発症
髄液検査で CMV の所見
があれば CMV 治療
2週間以内の
臨床症状 or MRI
所見の改善なし
その他
髄液検査
髄液一般、細胞診
神経梅毒、結核
クリプトコッカス抗原
PCR(トキソプラズマ、
HSV、VZV、CMV、
JCV、EBV)
脳生検
病理組織
PML の場合 JCV の蛍光抗体染色
ウイルス培養(CMV、HSV)
など
38
異常所見なし
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
PML の場合
HAART 開始
 咳嗽、発熱、呼吸困難
正常X線所見
異常X線所見
CO 拡散能<80%
PaO2 <80mmHg
LDH 上昇
Ga シンチ集積
間質性陰影
気胸
喀痰採取
正常
Chest tube
PCP 治療
(empiric)
その他
次ページへ
異常
PCP 陽性
TB 陽性
Cryptococcus
陽性
陰性 or
採取不能
PCP 治療
(empiric)
鑑別診断
副鼻腔炎
気管支炎
結核
M. AVium
Cryptococcus
治療
気管支鏡
CMV アンチゲネミア陽性
PCP
Ganciclovir
治療
反応無し
No PCP
TBLB
CT
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
39
異常X線所見(続き)
胸水
局所浸潤影
喀痰 TB 塗末×3
胸水採取
塗末培養
(
細菌+抗酸菌)
肺実質病変の確認
急性
結節影/空洞病変
慢性
血液培養
喀痰塗末培養
(細菌±レジオネラ)
静注薬物使用
喀痰塗末培養
(細菌+抗酸菌
+ノカルジア+真菌
No
Yes
血液培養
陰性
確定診断
診断不定 確定診断
治療
胸膜生検
陽性
陰性
治療
画像評価
40
治療
診断不定
抗菌剤投与
PCP 治療
(empiric)
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
確定診断
診断不定
陽性
治療
気管支鏡
±TBLB
治療
 急性下痢
薬剤・食事・精神面の評価
CD4>300/㎜3
CD4<300/㎜3
陽性
抗生物質使用歴
(3 週以内)あり
vancomycin
metronidazole
CD チェック
軽症下痢
重症下痢
下痢の持続
発熱・血便
体重減少
脱水
陰性
経過観察
なし
下痢持続
軽症下痢
重症下痢
下痢の持続
発熱・血便
体重減少
脱水
脱水なし
発熱なし
体重減少なし
水様便なし
便培養
便鏡検
抗酸菌検査
血液培養
CD チェック
経過観察
(±止痢剤)
診断確定
下痢持続
Fecal leukocytes
便鏡検
診断確定
No
治療
経過観察
No
No
Yes
大腸内視鏡
腹部 CT
治療
便培養:Salmonella
Shigella,C.jejuni,
Aeromonas,Vibrio
Yes
陰性
陽性
大腸内視鏡
腹部 CT
経過観察
治療
下痢の持続
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
41
 慢性下痢(CD4<300/mm3)
原因薬剤の除外、血液培養(一般細菌、抗酸菌)
便検査(培養、鏡検、抗酸菌検査、CD チェック、Microsporidiaassay)
便培養
Salmonella
Shigella
C.jejuni
抗生剤投与
CD チェック陽性
metronidazole
or vancomycin
M. avium 陽性
治療
Isospora
Cyclosporia
E.histolytica
Giardia
抗生剤投与
Microsporidia
Fumagillin,Albendazole
Cryptosporidium
paromomycin
Blastocystis hominis
metronidazole
CD4<100
であれば
HAART
症状持続・悪化
便検査陰性
内視鏡検査
痙攣性症状、発熱、膿性便、血便
あり
なし
下部消化管内視鏡
上部消化管内視鏡
生検:HE 染色、Giemsa 染色
CMV 染色
生検:HE 染色、Giemsa 染色
CMV 染色
EM:Microsporidia の確認
小腸液吸引・定量培養
診断がつかないとき
42
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
 不明熱(FUO)
あり
顆粒球減少 (<500/mm3)
抗生剤+G-CSF 投与
なし
なし
局所所見
あり
熱型の確認と原因薬の除外
初期検査
本稿、
下痢
呼吸器症状
本稿
頭痛±神経症状
or 髄膜刺激症状
本稿、
CBC、生化学
尿検査、血液培養
結核・抗酸菌検査
血清クリプトコッカス抗原
胸部X線
血液ガス分析
IV ルート
血液培養、ルート抜去
抗生剤投与
軟部組織の炎症
組織検査、CT
リンパ節腫脹
リンパ節生検
腹痛
肝機能検査、CT
初期検査異常
2 次検査
1.血球減少
骨髄穿刺・生検
2.胸部 XP 異常 or 低酸素血症
本稿
3.クリプトコッカス抗原陽性
腰椎穿刺
1.尿・喀痰の TB 培養
2.胸部、頭部、腹部 CT
3.尿・血液ヒストプラスマ抗原
4.脳脊髄液検査
4.肝機能異常
CT、echo、ERCP
肝炎ウイルス検査、肝生検
5.副鼻腔・歯科領域の検索
6.ガリウムシンチ
5.非抗酸菌検出
治療
7.骨髄穿刺・生検
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
43
■参考文献■
1 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2001-2002 Edition.
Published by Johns Hopkins Medicine Health Publishing Business Group,2001
2 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2004 Edition. Published
by Johns Hopkins Medicine Health Publishing Business Group,2004
(血液内科 後藤 秀樹 2011.08)
44
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
7-2
カンジダ症
カンジダは口腔内、消化管に常在し通常は病原性を発揮しない。しかし、HIV 感染後の免疫
不全状態で CD4 リンパ球が 250/μ
ℓ未満の患者では、多臓器に渡る深部(肺、心内膜、脳、髄膜、
腎、眼など)及び表在性(口腔、食道、胃、腸、膣、気管支、皮膚など)感染症の原因となりう
る。HAART 療法施行後、発症頻度は以前に比較して著明に減少した。侵襲性カンジダ症は患
者転帰に重大な影響を及ぼすとともに、医療費増加の大きな原因となるので、診断後速やかに治
療する。
1
臨床症状(感染臓器により異なる)
 消化管:本邦の HIV 患者の約 50%に合併する。
口腔咽頭カンジダ症:紅斑を伴う白斑・白苔(初発症状に多い)。白苔は舌圧子などで容易
に除去出来る。口角炎や舌炎を来すこともある。HIV 感染者に併発
する日和見感染症として最も頻度が高い。味覚異常を来すこともある。
食道カンジダ症:嚥下痛、嚥下困難、胸焼け、胸骨下痛。
 呼吸器
気管支炎カンジダ症:咳、痰を伴う慢性気管支炎。
肺炎:肺膿瘍に移行することもある。
 腎、尿路系
腎盂腎炎:発熱、側背部痛。
膀胱炎:頻尿、血尿。
膣カンジダ症:免疫能の低下とはあまり関連がなく、免疫能が十分に保たれている HIV 患
者にも見られる。
 心内膜炎:発熱、心雑音、脾腫を認め、血栓塞栓症を合併しやすい。
 髄膜炎、脳炎:頭痛、項部硬直、うっ血乳頭、神経症状。
 敗血症:悪寒、高熱、ショック症状。
 カンジダ性眼内炎:高度の視力障害。
2
診断方法
 主として Candida albicans による感染症で、分離培養検査で診断する。分離されても、それ
が病因であると診断できない場合が多い。分離同定後、追加で抗真菌剤の感受性試験(MIC
の測定)が院内検査・輸血部で施行可能。
臓器別診断法
口 腔 内:発赤と白苔を確認し、KOH 処理で鏡検する。毛状白板症と異なり、白苔は
容易に剥離できる。
食 道:内視鏡検査で、孤立性または融合性びらんと、粘膜面のクリーム状の白苔。
白苔表面に潰瘍形成を認めることもある。
胃 :偽膜形成や多発性小潰瘍を認め、生検にてカンジダ菌を証明。
呼 吸 器:口腔内常在菌のため、喀痰にての検出のみでは不十分で、TBLB なども時
カンジダ症
45
に必要。
腎、尿路系:膀胱鏡下生検や、腎生検、膿汁吸引が必要の場合がある。
中枢神経系:髄液検査にてカンジダの証明。
敗 血 症:血液培養で診断するが、50%は陰性である。
眼 内 炎:眼底検査で、硝子体に綿球様変化。
 カンジダ抗原検査:院内で可能(カンジテック)。
 β-D グルカン:院内で可能(カンジダ感染に特異的ではなく、他の真菌感染症やニューモシ
スティス肺炎等でも上昇する)。
3
治療法
フルコナゾール耐性の C. albicans や non albicans Candida 属(C. glabrata, C. krusei など)が
問題になりつつあり、注意が必要である。
 口腔/食道炎などの表在性感染症(口内炎では7~14 日間投与、食道炎では 14~21 日間投与)
1 フルコナゾール 50~200mg/1x ~2x 内服:副作用が少なく、長期投与が可能。
2 アムホテリシンBシロップ 400mg(4ml)を含んだ滅菌水含嗽液(1日3~4回)のうがい。
3 クロトリマゾール・トローチ 5T/5x:HIV 感染における口腔カンジダ症(軽症・中等症)
にのみ保険適応。
4 イトラコナゾール内用液 20ml/1x:口腔・咽頭・食道にも直接作用し、主として消化管
から吸収。薬剤性胃腸障害で服用継続が困難な場合もある。
口腔咽頭カンジダ症は、抗真菌薬投与により速やかに改善するが、再発率は高い。
 呼吸器感染症/カンジダ血症などの深部感染症
1 アムホテリシンBリポソーム製剤 2.5mg/kg/day 点滴静注:アムホテリシンBと同等の
有効性を有し、アムホテリシンBより腎機能障害・低カリウム血症・発熱などが少ない。
2 フルコナゾール 100~400mg/1x 内服またはホスフルコナゾール 100mg/day 点滴静注
1日1回:時に不整脈。
3 ボリコナゾール 300~400mg/2x 内服または3~4mg/kg/ 点滴静注1日2回:時に副
作用で羞明・霧視・視覚障害。
4 ミカファンギン 50~300mg/1x 点滴静注
深在性カンジダ症または難治性カンジダ症に対してイトラコナゾールやボリコナゾールを長期
間(4週間以上)投与している患者では、薬物血中濃度モニタリングが有用である。特にイトラ
コナゾールでは患者間の血中濃度の変動が大きい。イトラコナゾールの血中濃度の測定は必ず定
常状態到達後(投与開始から2週間以上)に行うべきである。血中濃度を測定することで、十分
吸収されているかどうかを確認するとともに、用量変更の影響や相互作用を有する併用薬の影響
を調べ、アドヒアランスも評価すべきである。
4
予 防
CD4 陽性細胞数の減少により開始する予防を一次予防と呼び、これに対し発症後に開始する
予防を二次予防として区別している。カンジダ症は、ニューモシスティス肺炎や MAC 感染症と
46
カンジダ症
異なり、日和見感染症予防についてのガイドラインはないので、基本はあくまで早期発見・早期
治療である。ただ、食道カンジダ症は、ニューモシスティス肺炎に次いで AIDS 発症指標疾患の
第二位であるため、日常診療においては注意深い問診と身体所見の観察が必要である。また、反
復性食道カンジダ症に対する維持療法としてフルコナゾール 100~200mg/ 日の内服を推奨す
る報告もあるが、長期のアゾール内服や CD4 リンパ球が 50/μℓ未満の進行期患者では、耐性菌
の発育に注意を払う必要がある。
■参考文献■
1 治療学 HIV 感染症(2001. 1)
2 日本臨床 HIV/AIDS 研究の進歩(2002. 4)
3 2005-2006 Medical management of HIV infection
4 HIV 感染症とその合併症:診断と治療のハンドブック . HIV 研究班(2005. 3)
5 The Sanford guide to HIV/AIDS therapy 2006-2007(2006. 7)
6 日本化学療法学会 一般医療従事者のための深在性真菌症に対する抗真菌薬使用ガイドライ
ン(2009. 1)
7 Clin Infect Dis 48:503-535, 2009(2009. 3)
8 カンジダ症 プライマリ・ケア医が出会う HIV/AIDS 75-81(2010.10)
(第三内科 橋野 聡 2011.07)
カンジダ症
47
7-3
1
クリプトコックス症
概説
クリプトコックス症は、Cryptococcus neoformans という酵母状真菌の感染によって、髄膜
炎、肺疾患、皮膚病変などを呈する真菌感染症である。この真菌は鳥糞の豊富な土中に認められ、
ほこり等とともに体内に入り感染する。免疫能の正常な患者では、感染は局所的にコントロー
ルされるが、CD4 100/μℓ以下である HIV 患者では、肺を通って侵入した後に全身に播種し、
髄膜炎を合併することが多い。このため HIV 患者で肺病変を認めた場合には、例え無症状であっ
ても血液・髄液の検索が必要となる。治療が行われない場合の死亡率は 100%であるが、適切
な治療が行われた場合の死亡率は 10%以下である。
2
臨床症状
 肺クリプトコックス症
発熱、咳嗽、呼吸困難、体重減少などの非特異的な症状を呈するのが一般的だが、無自覚に
経過することも多い。
 クリプトコックス髄膜炎
初発症状は軽度の頭痛、発熱、倦怠感である。本症のほとんどが髄膜脳炎を主な臨床病型
とする。病型が完成すれば、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害などの脳圧亢進症状、項部硬直、
Kernig 徴候などの髄膜刺激症状を示す。精神症状、髄液圧の上昇がある症例では有意に予後
不良と報告されている。
 皮膚症状
本症の 10%以下にみられる。病変は 0.2~1.0cm の肌色(または白色)の丘疹で、顔面に
多発することが多い。膿疱病変、潰瘍病変を呈することもある。
3
診断方法
鏡検・培養検査法と、血清クリプトコックス抗原検出による血清学的診断法(菌体夾膜多糖体
の主要成分であるグルクロノキシロマンナンをラテックス凝集反応で検出する)がある。後者は
結果が判明するまで3~5日間かかる。(クリプトコックス・ネオフォルマンス抗原(ラテック
ス凝集法))
 肺クリプトコックス症
喀痰の鏡検・培養で本菌を確認できる頻度は低く、本症を疑うときは BAL(気管支肺胞洗浄)
や TBLB(経気管支肺生検)を施行する。胸部X線では中下肺野、胸膜直下に直径2~3cm
の孤立結節影が認められることが多い。空洞形成、多発結節影、浸潤影、粟粒陰影、リンパ節
腫脹が認められる場合もある
 クリプトコックス髄膜炎
髄液所見として圧の上昇(75%で 200mmH2O 以上)、単核細胞数の増加、蛋白の増加 (50
~150mg/dl)、糖の正常~軽度減少などが認められる。確定診断には髄液の培養検査 (95%
以上で陽性 ) と共に墨汁染色 (60~80%で陽性 ) が有用である。95%以上で髄液と血清のク
48
クリプトコックス症
リプトコックス抗原も陽性となる。軽度の頭痛でも症状の経過によっては積極的に髄液検査を
施行する以外、本症の早期発見はない。
 皮膚病変
皮膚生検の組織診と培養で診断する。
4
治療法
クリプトコックス髄膜炎の初期治療の第一選択薬は Amphotericin B(ファンギゾンR)と
Flucytosine(アンコチルR)の併用である。併用療法は Amphotericin B 単独治療に較べ再発
率を低下させる。Liposomal amphotericin B(アンビゾームR)も初期治療で Amphotericin B
単独治療よりも良好な成績の報告がある。治療を中止すると 65~85%が再燃するため、維持療
法が必要となる。維持療法は髄液移行性の良好な Fluconazole(ジフルカンR)が Itraconazole
(イトリゾールR)や Amphotericin B よりも再発率が低く、第一選択薬として使用される。
Micafungin sodium(ファンガードR)は髄液移行性が不良であり、選択すべきではない。髄液
圧亢進が持続する場合は予後不良であるため、積極的に圧を低下させる処置が推奨される。
髄膜炎以外のクリプトコックス感染症の場合は、Fluconazole による初期治療が一般的である。
維持療法の必要性は確立していない。
【初期療法】
推 奨 療 法 Amphotericin B 0.7mg/kg/day 点滴(0.25mg/kg から開始し、
徐々に増量)
Flucytosine 100mg/kg/day/4× 内服
上記2剤を2週間投与後、Fluconazole 400mg/day を8週間または髄液が
無菌化するまで内服した後、維持療法に移る。
代 替 療 法 ① Amphotericin B 0.7~1.0mg/kg/day 点滴 または Liposomal amphotericin B 4mg/kg/day 点滴
を2週間投与後、Fluconazole 400mg/day を8~10 週間内服した後、維
持療法に移る。
代 替 療 法 ② Fluconazole 400~800mg/day 内服
Flucytosine 100mg/kg/4× 内服
上記2剤を6~10 週間投与後、維持療法に移る。
※ Flucytosine 長期内服による副作用(骨髄抑制、消化器症状)に注意が必要
頭蓋内圧亢進の管理
初回の髄液圧が 250mmH2O 以上の場合は 200mmH2O 以下あるいは初圧の
50%以下に圧を低下させる(明らかな脳圧亢進症状がある場合は施行しない)
。
髄液圧上昇が持続する場合は腰椎穿刺を反復する。
治療抵抗性または髄液圧 400mmH2O 以上の場合は持続ドレナージまたは
V-P シャントを考慮する。
【維持療法】
免疫能が回復しない状況では基本的に生涯継続する。但し HAART により
6ヶ月以上 CD4 が 100~200/μℓ以上を維持しており、初期治療を完遂し
無症状であれば、維持療法を中止して良い。
推 奨 療 法 Fluconazole 200mg/day 内服
代 替 療 法 Fluconazole 無効または副作用で使用できないときに
クリプトコックス症
49
Itraconazole 400mg/day 食後内服
【髄膜炎以外の治療】
腰椎穿刺を施行し髄膜炎の合併を否定する必要がある。治療抵抗性の肺・骨
病変に対しては外科的切除を考慮する。
推 奨 療 法 Fluconazole 200-400mg/day 内服
免疫能が回復するまで継続。
代 替 療 法 Itraconazole 400mg/day 食後内服
または Amphotericin B 0.6~1.0mg/kg/week 週1回 or 2週に一回点滴
【ART 開始時期と免疫再構築症候群】
クリプトコッカス髄膜炎の患者において、ART 開始時期と免疫再構築症候
群(IRIS) と の 間 に 関 係 は 無 い が、Cryptococcal antigen(CrAg)titer
が高い症例においては IRIS 発症のリスクが高まると報告されている。
5
感染予防
クリプトコックスは自然界に広く存在し、特にハトの糞からは高率に検出されるが、ハトの糞
への暴露がクリプトコックス症の感染リスクを増大させるという確証はない。原則的にはクリプ
トコックス症の発症予防を目的とした抗真菌剤の予防投与は推奨されないが、CD4 数が 50/μℓ
以下の患者で、他の真菌症の予防も必要と考えられる場合には Fluconazole 100~200mg/day
の予防内服を行う。
■参考文献■
1 Spach DH, Hooton TM. 矢野邦夫監訳 . HIV マニュアル . 日本医学館 , 1997
2 Bartlett JG et al. Medical Management of HIV Infection 2007 Edition. Published by
Johns Hopkins Medicine Health Publishing Business Group, 2007
3 Saag MS et al. Practice guidelines for the management of cryptococcal disease.
Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 30:710-718, 2000
4 Benson CA et al. Treating Opportunistic Infections Among HIV-Infected Adults and
Adolescents. Recommendations from CDC, the National Institutes of Health, and the
HIV Medicine Association/Infectious Diseases Society of America. MMWR Recomm
Rep 53(RR-15):1-112, 2004
5 Kaplan JE et al. Guidelines for preventing opportunistic infections among HIVinfected persons--2002. Recommendations of the U.S. Public Health Service and the
Infectious Diseases Society of America. MMWR Recomm Rep 51(RR-8):1-52, 2002
6 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の医療体制の整備に関する研
究班編 . 診断と治療ハンドブック 第二版(2006 年3月改訂版)
7 Sunqkanuparph S et al. Cryptococcal immune reconstitution inflammatory
syndrome after antiretroviral therapy in AIDS patients with cryptococcal meningitis:
a prospective multicenter study. Clin Infect Dis. 49:931-934, 2009
(血液内科 後藤 秀樹 2011.08)
50
クリプトコックス症
7-4
1
クリプトスポリジウム症
概説
クリプトスポリジウム症は、Criptosporidium (C.parvum 他)の感染によって、激しい水
溶性下痢と腹痛をきたす原虫感染症である。この原虫は、多くの哺乳類の小腸に寄生し、糞便と
いっしょにオーシストと呼ばれる形で体外へ排出され、他の個体へ飲料水や食品を介して経口感
染する。
HIV 感染者で、CD4 陽性リンパ球数が低下している場合に、持続性で強い下痢を起こし、難
治性である場合にはイソスポラ症と本症を疑う。免疫不全状態の患者では、下痢が長期間持続し
て死亡することも稀ではない。
2
臨床症状
潜伏期間は4~10 日。激しい水溶性の下痢と嘔吐、腹痛が主症状で、約 1/3 で発熱を伴う。
血便はない。免疫能が正常であれば大半は1~2週間で自然治癒するが、免疫不全患者では、下
痢が長期間持続し、吸収不全による低栄養、消耗、体重減少を伴って死に至ることも少なくない。
AIDS 患者での病像パターンは不顕性感染(4%)、2ヶ月以内に自然軽快する下痢症(29%)、2ヶ
月以上持続する慢性下痢症(60%)、1日2L以上に及ぶ致死的下痢症(8%)と報告されている。
また、免疫不全患者では、慢性的腸症状に加えて胆嚢・胆管炎、膵炎、呼吸器症状を併発するこ
ともある。
3
診断方法
糞便虫のオーシストの検出で診断する。クリプトスポリジウムのオーシストは4~6μm と小
型である。通常の原虫・虫卵検査法では検出できず、簡易迅速ショ糖浮遊法、ショ糖遠心沈殿浮
遊法により集オーシストを行った後に、抗酸染色法、直接蛍光抗体法などで検出する。そのため
本症を疑った場合には、“クリプトスポリジウム症疑い”と明記して検体を提出する必要がある。
また、原虫は便中・腸管粘膜などに付着し、間欠的に便に出るため、特に軽症例では複数回の検
査が必要である。腸生検の HE 染色標本でも診断可能である。
4
治療法
現在、このクリプトスポリジウム症に対して確実に奏功する薬剤はないことから、輸液など
の対症療法で脱水症状の改善や栄養補給を図ることが中心となる。CD4 数 100/μℓ以下で、下
痢が持続する場合には HAART により免疫力を回復させることで症状の改善が期待できるた
め、HIV 患者では本症の初期治療として HAART の開始を第一に考慮すべきである。治療薬
としては、Paromomycin(HumatinR)や Azithromycin(ジスロマックR)がある程度有効
とする報告もあるが、否定的な報告もあり有効性は確立していない。Nitazoxanide(AliniaR)
は、成人と小児を対象とした複数の臨床試験で有効性が確認されており、現在、米国 FDA によ
り小児への使用が認可されている。Paromomycin、Nitazoxanide は国内で販売されていない
クリプトスポリジウム症
51
が、
「熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬の輸入・保管・治療体制の開発研究」班から入
手可能である(http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/parasitology/orphan/index.html)。但し、
Paromomycin の適応疾患は赤痢アメーバ症である。
処方例① Paromomycin 2000mg/4×または 2×
14~28 日間内服し、その後 1000mg/2× で内服
処方例② Nitazoxanide 1~2g/2× 14 日間内服
処方例③ Paromomycin 2000mg/2×
Azithromycin(600mg)1T/1×
上記2剤を4週間内服した後、Paromomycin 単独でさらに8週間内服
処方例④ Azithromycin(600mg)
初日のみ 4T/2×、その後 2T/1×で 27 日間内服した後 1T/1×で内服
5
感染予防
クリプトスポリジウムのオーシストは、水中では低温で長期間生存するが、熱や凍結には弱い
ため、食中毒予防の一般的な原則がクリプトスポリジウムの感染予防にも役立つとされている。
水道水のクリプトスポリジウムによるエイズ患者等の感染防止対策について、平成9年8月、厚
生省保健医療局エイズ疾病対策課から、以下の文書が各ブロック拠点病院長あてに配布された。
HIV 感染者/AIDS 患者の皆様へ
エイズ患者さんを含め、特に免疫力の低下している状態の方は、クリプトスポリジウムの
感染予防について、以下の点に注意を払われるようおすすめします。
1.手を良く洗うこと
2.性行為の際は便等に触れないよう注意すること
3.畜産動物をさわらないこと
4.ペットの便をさわらないこと
5.野菜などの生ものはよく洗うか熱をとおして食べること
6.湖、川、プール等で泳ぐときには水を飲まないように注意すること
7.より安全な水を飲むこと
飲み水については、煮沸したものを飲むことが最も良い方法です。また、煮沸後時間をお
かずに飲むことが重要です。
(出典)米国 CDC のインターネットホームページに掲載されていた情報に基づき作成した
ものです。
(http://www.cdc.gov/ncidod/diseases/crypto/hivaids.htm)
52
クリプトスポリジウム症
■参考文献■
1 Spach DH,Hooton TM.矢野邦夫監訳. HIV マニュアル.日本医学館,1997
2 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2007 Edition.Published by
Johns Hopkins Medicine Health Publishing Business Group,2007
3 Benson CA et al.Treating Opportunistic Infections Among HIV-Infected Adults
and Adolescents.Recommendations from CDC,the National Institutes of Health,
and the HIV Medicine Association/Infectious Diseases Society of America.MMWR
Recomm Rep 53(RR-15):1-112,2004
4 Kaplan JE et al.Guidelines for preventing opportunistic infections among HIVinfected persons-2002.Recommendations of the U.S.Public Health Service and
the Infectious Diseases Society of America. MMWR Recomm Rep 51(RR-8):1-52,
2002
5 Farthing MJ.Treatment options for the eradication of intestinal protozoa.Nat Clin
Pract Gastroenterol Hepatol 3:436-45,2006
6 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の医療体制の整備に関する研
究班編.診断と治療ハンドブック 第二版(2006 年3月改訂版)
(血液内科 後藤 秀樹 2011.08)
クリプトスポリジウム症
53
7-
サイトメガロウイルス(CMV)
5 感染症
日本人の 90%以上が既感染で、体内に潜伏感染しているが、通常は正常な免疫能でコントロー
ルされている。HIV 感染後の免疫不全による再活性化や新たな感染により、重篤な病変(肝、脾、
リンパ節以外)を惹起する。CMV 感染の早期診断、治療はきわめて重要であるが、AIDS にお
いてはいずれも非常に困難であるのが現状である。HAART 療法そのものにも CMV 血症の抑
制効果がみられることが報告されている一方、HAART 施行後免疫機能の回復に伴い、一気に
重度の炎症が惹起される場合があることも報告されている(免疫再構成症候群)。
1
臨床症状
初発症状は、網膜炎(エイズ患者の約 20~30%が罹患し、失明率が高い)や間質性肺炎が多
いが、食道炎、腸炎、脳炎なども見られる。
CMV 消化器感染:食道、胃、小腸、大腸等の感染により、疼痛、下痢、発熱、食欲不振、大
量出血等が出現する。深い潰瘍を形成しうるため腸管穿孔のリスクがある。
CMV 肺炎:間質性肺炎の形で発症し、発熱、頻呼吸、呼吸困難、乾性咳嗽等が出現する。P.
carinii 肺炎との合併が多い。副腎皮質ステロイドホルモンを長期使用すると発症
リスクが高い。
CMV 脳炎:神経障害、知能低下等が出現し、HIV 脳症との鑑別が重要である。
CMV 網膜炎:初期は無症状であるが、まれに暗点や視野欠損、視力低下。
血液やその他の検体から CMV 再活性化が確認されるが臨床症状を伴わない CMV 感染(CMV
infection)は、臨床症状・異常所見を伴う CMV 感染症(CMV disease)から区別して扱う。
2
診断方法
網膜炎:眼底検査で特徴的な網膜血管に沿った病変(コッテージチーズとケチャップ像)。
消化器感染:GIS、CS による病変部の組織診断、ウイルス学的検査。
肺炎:ペンタミジンの予防投与にもかかわらず出現する間質性肺炎の時に疑う。BAL や
TBLB などが必要。
脳炎:髄液からのウイルス分離、PCR 法による診断。
CMV アンチゲネミア:院内検査・輸血部を通じて外注。CMV アンチゲネミアは、感度・特異
度とも高く、定量性もある点から、CMV 感染症のモニタリング、抗
ウイルス剤の効果判定及び中止時期の指標として広く用いられてい
る。CMV アンチゲネミアは肺炎以外の CMV 感染症では先行性があ
まり期待できず、また発症時でさえも陽性化しない症例が散見され、
その評価には注意が必要である。造血細胞移植領域と異なり、CMV
アンチゲネミアがあれば直ぐ治療が必要というわけではないが、抗原
価が高かったり定量 PCR で 103 コピー/ml 以上の場合は、臓器病変
が明らかでなくても抗 CMV 薬による治療が始められる傾向にある。
54
サイトメガロウイルス(CMV)感染症
3
治療法
臨床症状があって、活性化された CMV がその原因と考えられる場合は、速やかに抗ウイルス
剤を投与する。逆に、生体内から CMV を完全に消滅させることは不可能なので、CMV アンチ
ゲネミアの推移や臨床的改善度などを参考にして、治療の効果判定と抗ウイルス剤の減量・中止
を判断する。CD4 リンパ球数が 50/μℓ以下の患者の場合は維持療法が必要であるとする報告も
見られる。
 ガンシクロビル点滴静注用 5mg/kg を1日2回点滴静注(2~3週間)
*現時点で、CMV 感染症に対して効果の認められる最も強力な抗ウイルス剤である。
* CMV アンチゲネミアなどを参考にして、必要であれば再発予防に1日1回でさらに維持投
与する。
*主たる副作用は、骨髄抑制と腎障害(ガンシクロビルの骨髄抑制による好中球減少に対して:
G-CSF 50~100㎍ sc が有効)。
 ホスカルネットナトリウム 90mg/kg を1日2回点滴静注(2~3週間)
* CMV 網膜炎に対し保険適応。
*腎機能障害が現れやすいので、水分補給を十分に行い尿量を確保する。
 CMV 高力価γグロブリン
*中和抗体価の高いものを選択する。
 バルガンシクロビル塩酸塩錠 1800mg/2x
* CMV 感染症に対し、初期治療として外来でも使用可能。
*維持療法・再発予防は 900mg/1x
*ガンシクロビルのプロドラッグ化。
 シドフォビア 5mg/kg を1日 1 回点滴静注(国内未発売)
4
予 防
一次予防に関しては、確立したガイドラインはない。早期発見が重要なので、CD4 が 100/μℓ
以下になったら、定期的な眼底検査を行うべきである。二次予防は CD4 が 100~150/μℓを6ヶ
月以上維持した場合に中止することが多いが、50/μℓ以下で CMV 網膜炎が再燃することが多い
ので、CD4 が 50~100/μℓ以下になったら二次予防を再開すべきである。
サイトメガロウイルス(CMV)感染症
55
■参考文献■
1 AIDS Clinical Care 12:54, 2000
2 AIDS 14:173, 2000
3 治療学 HIV 感染症(2001. 2)
4 日本臨床 HIV/AIDS 研究の進歩(2002. 4)
5 2005-2006 Medical management of HIV infection
6 HIV 感染症とその合併症:診断と治療のハンドブック . HIV 研究班(2005. 3)
7 The Sanford guide to HIV/AIDS therapy 2006-2007(2006. 7)
8 みんなに役立つ造血幹細胞移植の基礎と臨床(2008. 9)
9 日本臨床 HIV/AIDS- 最新の治療の進歩 -(2010. 3)
(第三内科 橋野 聡 2011.07)
56
サイトメガロウイルス(CMV)感染症
7-6
非結核性抗酸菌症
HIV 感染者の非結核性抗酸菌症の感染部位は、主に肺と腸管だが、全身播種型をとることも
多い。最も多い肺病変の発症様式は、肺結核のそれと異なり、HIV ウィルス感染のために免
疫能低下が進行した後、新たに非結核性抗酸菌の感染が成立し発症に至ると考えられている。
AIDS に伴う感染症の中では、ニューモシスチス、サイトメガロウイルス、カンジダに次いで多い。
起炎菌の圧倒的大多数は、Mycobacterium avium-intracellulare complex (MAC) で、HIV 非
感染者の非結核性抗酸菌症の内訳とは若干異なる。HIV 感染症の病初期から合併してくる結核
症とは異なり、MAC 症は病気が進行し免疫能が低下(CD4 陽性Tリンパ球数が 100/μℓ以下)
した状態で高頻度に合併する。
1
診断のアプローチ
 どのようなときに疑うか
持続する発熱、咳嗽、喀痰、下痢、腹痛が出現したとき。
 胸部X線写真にて中下葉の非特異的浸潤影、リンパ節腫大など。典型的な肺尖・背部の分布
を示すことは稀で、空洞形成も比較的稀。他の日和見感染症との鑑別は困難なことが多い。肺
結核との鑑別も困難である。一方で他の肺感染症を合併することもある。
 胸部 CT 検査では、多彩な浸潤影、不整形陰影。リンパ節腫大や胸水の貯留が確認しやすい。
腹部 CT では、後腹膜・腸間膜リンパ節の腫大、肝腫、脾腫、腹水。MAC による消化管病変
が最も多いのは十二指腸であり、小白色結節が特徴である。
 喀痰、胃液、血液、便の抗酸菌塗抹、培養、時に骨髄液、髄液の培養が必要である。培養後
コロニーが形成されたら、本院では DDH マイコバクテリア法により、抗酸菌種の同定が行わ
れる。迅速な診断には、PCR 法を用いる。血液培養の場合は、専用の容器(胸水の場合にも
感度が上がる)を用いて提出する。専用容器は細菌検査室に常備している。MAC 以外の非結
核性抗酸菌の PCR 法による検査は、現在のところ実施できない。
 気管支肺胞洗浄(BAL)により、病巣部より回収した液の抗酸菌塗抹・培養。
 経気管支肺生検(TBLB)あるいは消化管内視鏡により、病巣の組織学的検索と抗酸菌染色・
培養。
 上記の方法で診断がつかない場合、診断的治療として薬を投与し、症状の改善や陰影の変化
を観察する。
補) 播種性 MAC 症について
CD4 陽性Tリンパ球が 50 未満の患者で注意が必要である。長期にわたる発熱が必発で、体
重減少を伴う。腹痛や下痢を訴える患者もいる。貧血を伴うことが多く、多くの患者でヘマト
クリットは 25%未満である。診断は血液培養によって行われるが、MAC の菌血症は持続性
であり、一回の血液培養検査の感度は 90%近い。
非結核性抗酸菌症
57
2
治 療
HIV 感染者における非結核性抗酸菌症のほとんどは、各種の抗結核薬に抵抗性がある MAC
であり、その治療法は現在も種々試みられている。感受性検査の結果から、ストレプトマイシン
(SM)
、
カナマイシン(KM)、エタンブトール(EB)、イソニアジド(INH)、エチオナマイド(TH)、
サイクロセリン(CS)、リファンピシン(RFP)の中から4剤を選び併用する。また一般の抗菌
薬の中では、アミカシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、スパルフロキサシン、シプ
ロキサシンなどに感受性を示す。プロテアーゼ阻害剤使用中であれば、リファンピシンをリファ
ブチン(RFB)に変更する必要がある(結核の項参照)。
・MAC 感染症に対し
処方例①
リファジン(RFP)
1日量 450mg、分1、朝食前内服
クラリス(CAM)
1日量 800mg、分2、内服
エブトール(EB)
1日量 15mg/kg、分1、内服(結核症より
投与期間が長期に及ぶので視力障害の発生に
より注意する)
硫酸ストレプトマイシン
3)
1日量 15mg/kg 以下を(年齢による)
、筋
注(週2回または週3回)
治療期間は菌陰性化後1年以上。
米国では AIDS 患者の MAC 菌血症に対し、以下の治療法の有効性が報告されている。
処方例②
リファブチン(RFB)
1日量 300mg、分1、内服
エブトール(EB)
1日量 15mg/kg、分 1 または分2、内服
クラリス(CAM)
1日量 1000mg、分2、内服
RFB 特有の副作用であるブドウ膜炎に注意する(結核の項参照)
RFB は CAM と併用した場合、血中濃度が 1.5 倍以上に上昇し、ブドウ膜炎の頻度も高くなる。
従って、CAM 併用時の RFB 初期投与量は1日量 150mg とし、6ヶ月以上の経過で副作用が
ない場合は 300mg まで増量する。
・播種性 MAC 症の予防:CD4 陽性細胞が 50/μℓになった時点で開始する。
処方例①
ジスロマック(AZM)
週1回 1200mg、分1、内服
処方例②
クラリス(CAM)
1日 1000mg 分2、内服
本邦では、①のみ予防投与として保険適応である。
M.kansasii 症は非結核性抗酸菌症の中で抗結核薬による化学療法が最も有効な感染症である。
処方例
リファジン(RFP)
1日量 450mg、分1、朝食前内服(蛋白合成
阻害剤内服患者では、リファブチン 300mg、
またはクラリス 800mg/ 日)
エブトール(EB)
1日量 15mg/kg、分 1-2、内服
イソニアジド(INH)
1日量 400mg、分 1
治療期間は 18ヶ月(ただし、少なくとも培養陰性が 12ヶ月続くこと)。
58
非結核性抗酸菌症
■参考文献■
1 N Engl J Med 1996;335:384-91
2 非定型抗酸菌症の治療と予後、結核(第2版)、久世文彦、泉 孝英 編、258-262 ページ、
医学書院、1992 年、東京
3 結核・非結核性抗酸菌症診療ガイドライン、米国胸部疾患学会、医学書院、2002.
4 結核 Up to Date、毛利昌史ほか編、南江堂、1999 年、東京
(第一内科 今野 哲 2011.09)
非結核性抗酸菌症
59
7-7
ニューモシスチス肺炎
従来カリニ肺炎と呼ばれていた疾患は、正式にはニューモシスチス肺炎(Pneumocystis
Pneumonia:PCP)と呼称されることになった。これは、病原体の名前が Pneumocystis carinii
から Pneumocystis jiroveci と名称が変更になったことに伴うものである AIDS 患者における PCP
は、幼小児期の不顕性感染の再燃の形で発症し、経過中約 70~80%の患者に見られ、最も多い
合併症のひとつである。CD4 陽性T細胞が 200 個 /μℓ以下になると発症することが多い。
1
診断のアプローチ
 どのようなときに疑うか
体動時の息切れ、咳嗽、発熱、呼吸困難が出現したとき。胸部X線写真の陰影が出現する以
前に、肺拡散能や動脈血酸素分圧が低下することもある。これらはその後の経過をみる上でも
鋭敏な指標である。
 胸部X線写真では、症状が出現してもごく早期では陰影を認めないことがある。その後淡い
間質性陰影が出現し、次第に肺門中心の網状、粒状、索状陰影となり、さらに進行すると広汎
なスリガラス状陰影および濃い浸潤影を呈してくる。時に限局性陰影、空洞、気胸を呈する。
肺門・縦隔リンパ節腫脹、胸水は通常認めない。
 確定診断は Pneumocystis jiroveci の証明である。高張食塩水ネブライザー吸入後採取した喀
痰や、
気管支肺胞洗浄液(BALF)を用いてグロコット染色(シストを染色)か Giemsa 染色(栄
養体を染色)にて証明する。ニューモシスチス肺炎では高張食塩水を用いても喀痰が得られな
いことも多く、患者の状態が許せば気管支肺胞洗浄による検体採取が望ましい(第一内科に依
頼)
。ただし、BALF 検体におけるグロコット染色、Giemsa 染色においても、診断率は5割
に満たない程度であることは、留意する必要がある。
 PCR 法(保険適応外)は非常に感度が高く、喀痰検査でも十分に検査が可能であるが、免
疫抑制状態では、肺炎の発症が見られない場合でも陽性になることがあり(感染未発症と考え
られる)
、PCR 法のみでの診断は危険である。PCR 陰性の場合には、PCP 否定の根拠として
有用である。
 血清β -D グルカンは、PCP でも高値となり参考になる。
 経気管支肺生検(TBLB)では、肺胞腔内の好酸性泡沫状の浸出物に混じってニューモシス
チス嚢胞が認められる(グロコット染色)。
2
治 療
PCP は全身感染症の要素も含むので、治療は全身投与が原則。選択薬として ST 合剤(バクタ、
バクトラミン)とペンタミジン(ベナンバックス)がある。CD4 陽性細胞が 200 個 /μℓ以下となっ
たときや、PCP の既往がある場合には必ず予防策を講ずる。
処方例① バクタ1日量 12.0g 分3、経口。21 日間連続投与し、その後予防投与に移行するの
が標準投与法。皮疹、発熱、白血球減少、肝障害などの副作用に注意。投与が長引く場
合にはロイコボリン3~5mg/ 日、または葉酸 4mg/ 日を併用する。
中等~重症例(PO2 < 70torr)では、ステロイドを併用する。プレドニン 80mg 分2
60
ニューモシスチス肺炎
を5日間、40mg 分1を5日間、20mg 分1を 11 日間が標準。
ステロイドの併用は以下の処方例も同じ。
処方例② 注射剤(バクトラミン)を用いる場合は経口剤の 3/4 量程度とする。
バクトラミン1日量 9A(45ml)分3、毎回1~2時間かけて点滴静注(1A あたり
125ml の5%ブドウ糖液に混合し、1~2時間かけて投与する)
処方例③ ベナンバックス 3mg/kg/ 日 1日1回
注射用蒸留水 5ml に溶解後、250ml の5%ブドウ糖液溶解し、1~2時間でゆっく
り点滴静注
処方例④ ベナンバックス吸入 300mg、1日1回
注射用蒸留水、または生理食塩水 10-20ml に溶解し、超音波ネブライザーにて 30
分間で吸入。エロゾルが到達しにくい上葉の病巣には効きにくい。副作用として気道刺
激。
予防投与
処方例①(予防)バクタ1日量 2.0g 分2を週3回または 1.0g 分1を毎日
処方例②(予防)ベナンバックス 300mg、2~4週に1回吸入。気道収縮の誘発や肺内分布の
差異など問題が多い。
ニューモシスチス肺炎の既往が無く、ART 導入により CD4 数が上昇し 200 個 /μℓ以上を3
~6ヶ月以上維持できている患者では、HIV-RNA 量が良くコントロールされている場合予防投
薬を終了して良い。
■参考文献■
1 HIV 感染者発症予防・治療に関する研究班、班長山田兼雄、HIV 治療マニュアル、p66-68
2 味澤 篤、ニューモシスチス・カリニ肺炎、治療 78 巻増刊号、標準処方ガイド’96、p875877
3 1999 USPHS/IDSA Guidelines for the Prevention of Opportunistic Infections in
Persons Infected with Human Immunodeficiency Virus
(http://www.cdc.gov/epo/mmwr/preview/mmwrhtml/rr4810a1.htm)
4 レジデントのための感染症診療マニュアル 医学書院 2007、p1156-1157
(第一内科 今野 哲 2011.09)
ニューモシスチス肺炎
61
7-8
結核症
HIV に感染することにより、肺結核の発症率は約 100 倍になると言われており、HIV 非感染
者が結核菌に感染した場合の生涯発病率は5~10%であるが、HIV 感染者では年間に5~10%
の率で結核を発病する。AIDS に伴う感染症の中では、ニューモシスチス、サイトメガロウイル
ス、カンジダ、非結核性抗酸菌症に次いで多い。他の感染症と異なり、HIV 感染後比較的早期で、
CD4 陽性細胞があまり減少していない時期(300-400/μℓ)にも発症し、AIDS 発症に先立つこ
とも多い。従って他の日和見感染症が目立たない時期にも、原因不明の発熱がある場合には本症
を疑う必要がある。肺結核の発症様式は、既感染の再燃の形が多いとされている。しかし免疫能
が高度に低下した患者では、たとえ治療中でも多剤耐性菌による外因性の再感染がありうる。ま
た、肺外結核が多いのも HIV 感染の特徴である(非 HIV 感染者に対して2倍)。
1
診断のアプローチ
 どのようなときに疑うか
持続する発熱、咳嗽、喀痰が出現し、胸部X線写真で異常影を認めたとき。肺外結核も多く、
消化器、泌尿器、神経系の症状にも留意する。
 病変は多彩で、CD4 陽性細胞数が保たれている時は通常の結核のように上肺に結節性病変
の散布を認める程度であるが、免疫能が低下した状態では、病変は経気道性に肺内に広がって
下肺の広範な浸潤病巣など非典型像を示す。
 胸部X線写真にて中下葉の非特異的浸潤影、リンパ節腫大など。典型的な肺尖や背側部の分
布をとらず、空洞形成も比較的まれで、他の日和見感染症との鑑別は困難なことが多い。リン
パ節結核や播種型の肺外結核頻度が高い。また他の肺感染症を合併することもある。
 胸部 CT 検査では、多彩な浸潤影や不整形陰影が主体である。またリンパ節腫大や胸水の貯
留を認めることもある。
 喀痰、気管支肺胞洗浄液、胃液、血液の抗酸菌塗抹と培養、時に骨髄液、髄液の培養が必要
である。本院では、液体培地にて2~4週間後に増殖がみられたら小川培地に移し、さらに増
殖した後(約1週間)、
DDH マイコバクテリア法により、抗酸菌 18 種の同定が行われる。また、
液体培地で増殖した菌を直接用いて簡便法にて結核菌の同定が可能である(キャピリア TB)。
迅速な診断には、PCR 法を用いる。経気管支肺生検(TBLB)により、病巣の組織学的検討
と抗酸菌染色・培養。組織では典型的な類上皮細胞肉芽腫が形成されにくいので、やはり抗酸
菌の検出が最も重要である。
 ツベルクリン反応は、CD4 陽性T細胞が減少していると陽性とならないことが多く、診断
の参考としにくい。最近、末梢血リンパ球を結核特異抗原で刺激し、インターフェロンγの産
生をみることによって結核感染を判定するクオンティフェロンが臨床にて利用可能になった
が、HIV 陽性患者における有用性は定かではないが、本邦の検討で、70~80%程度の感度と
の報告がある。免疫が正常な活動性結核患者での感度は約 90%であり、HIV 陽性患者におい
ても、クオンティフェロン検査はある程度有用であろう。ただし、CD4 陽性細胞数の影響は
わかっておらず、解釈の際には注意が必要である。さらには、免疫正常者においても、クオン
ティフェロン検査は活動性結核と潜在性結核を区別する目的としては有用性が低く、HIV 陽
性者においても同様である。
62
結核症
 上記の方法で診断がつかない場合、診断的治療として抗結核薬を投与し、症状の改善や陰影
の変化を観察する。
 臨床症状や画像所見のみより、正確に非結核性抗酸菌症と鑑別することは不可能である。菌
の同定結果を待つ必要がある。
2
治 療
抗結核療法開始後、早期に ART を開始すると免疫再構築症候群を合併しやすく、また抗 HIV
薬や抗結核薬には副作用が多いので、副作用が生じた場合に原因薬物特定が困難になることか
ら、結核の治療と HIV の治療を同時に開始することは勧められない。しかしながら、活動性結
核を有する患者に早期に抗 HIV 療法を開始することにより生存率が改善することも示されてい
る。抗結核療法開始後の抗 HIV 療法の開始時期の目安は、CD4 数が 200/μℓ未満では2~4週
以内、CD4 数が 200~500/μℓでは2~4週以内または少なくとも8週以内、CD4 数が 500/μ
ℓ以上では8週以内とされている。
検体の抗酸菌塗抹や PCR 法の結果が陰性でも、臨床的に結核症が疑わしい場合には、培養の
結果(通常4~8週間)を待たずに治療を開始する。結核の治療薬は、抗 HIV 薬との相互作用
が問題となるものが多いため注意が必要である。リファンピシン (RFP) は肝臓のチトクローム
P450 を誘導し、これらの薬剤の代謝を速め、血中濃度を著しく低下させる。また逆にプロテアー
ゼ阻害剤は RFP の代謝を阻害し、その副作用を増強する。従って RFP とこれらの薬剤の併用
は禁忌とされる。また、RFP は抗 HIV 薬のラルテグラビルの血中濃度を低下させる可能性があ
るため、併用の際にはラルテグラビルの増量を考慮する必要がある。INH を使用する場合には、
神経傷害を防ぐためにビタミン B6 を1日量 25~50mg 投与する。抗 HIV 療法を開始した際に、
発熱や一過性の胸郭内病変の悪化が見られることがある。これは抗ウイルス療法により CD4 陽
性細胞の機能が回復した結果の反応で、免疫再構築症候群とよばれ、軽症であれば対症療法の
みで良いが、重篤な反応の場合には、一時的に副腎皮質ステロイド剤を使用する。INH または
RFP が耐性や副作用などの理由で使用できないときは、少なくとも全治療期間を 18ヶ月あるい
は排菌陰性化後 12ヶ月間とすべきである。また、AIDS 患者では薬剤の副反応が起こり易いの
で注意が必要である。
・プロテアーゼ阻害剤を使用しない場合
処方例①
イスコチン(INH)
1日量 200-500mg 分1~3内服
リファジン (RFP)
1日量 450mg 分1、朝食前内服
エタンブトール (EB)
1日量 750-1000mg 分1~2内服
ピラマイド (PZA)
1日量 2.0g 分2、内服
上記を2ヶ月間毎日、その後 INH と RFP のみを毎日7ヶ月間。(CDC、日本結核病学会とも
に、原則として非 HIV 患者と同様の治療で良い(計6ヶ月)としているが、CDC は空洞を有す
る肺結核、肺外結核の合併は計9ヶ月の治療が望ましいとしている。日本結核病学会は免疫低下
を考慮して3ヶ月間の延長が望ましいとしている。よって、HIV 陽性者の結核治療については、
全例合計9ヶ月間の治療とするのが実用的であろう)
・プロテアーゼ阻害剤を使用する場合もしくはすでに使用している場合
以下のいずれかを選択する。
結核症
63
1 結核治療の間はプロテアーゼ阻害剤を他剤に変更し、処方例①を行う。
2 初期強化期間の2ヶ月間プロテアーゼ阻害剤を他剤に変更する。その後の治療期間を処方
例①の INH、RFP ではなく、INH、EB とする。
3 処方例②
イスコチン(INH)
1日量 200-500mg 分1~3内服
リファブチン (RFB)
1日量 5mg/kg 分1、1日最大量 300mg、
朝食前内服
(併用する抗 HIV 薬によって適宜 RFB の増減が必要。※下記参照
エタンブトール (EB)
1日量 750-1000mg 分1~2内服
ピラマイド (PZA)
1日量 2.0g 分2、内服
上記を2ヶ月間毎日、その後 INH と RFB のみを毎日7ヶ月間(計9ヶ月間、または排菌陰
性化後6ヶ月間の長い方)。
※抗 HIV 薬と RFB 投与量
・インジナビル (IDV)、ネルフィナビル (NFV)、リトナビル (RTV) 併用ホスアンプレナビ
ル (FPV) → RFB150mg 連日または 300mg 週3回
・アタザナビル (ATV)、RTV 併用サキナビル (SQV)、カレトラ (LPV/RTV)
→ RFB150mg 隔日または週3回
・RTV 併用ダルナビル (DRV) → RFB150mg 隔日
・エファビレンツ (EFV) → RFB450~600mg 連日または 600mg 週3回
リファブチンの副作用であるブドウ膜炎については特に注意が必要である。ブドウ膜炎の症状
は、充血、目の痛み、飛蚊症、霧視、視力の低下、物がゆがんで見える、視野の中心部が見えづ
らいなどであり、EB の視神経炎の症状とは区別可能である。多くの報告では、RFB 投与開始後
2ないし5ヶ月で発症が見られている。発症機序はアレルギー性ではなく中毒性とされ、発症頻
度は体重あたりの投与量に依存する。発症した場合は薬剤の中止、ステロイド点眼薬などの投与
にて軽快する。
3
予防的投与
HIV 感染者で、結核患者との接触歴などより結核に感染した可能性が高い場合には、以下の
予防的投与を行う。なお、HIV 患者では播種性の M.bovis 症を合併した症例があるので、BCG
による予防は禁忌である。
処方例 イスコチン(INH)1日量 300mg 分1~3内服、12ヶ月毎日
■参考文献■
1 結核・非結核性抗酸菌症診療ガイドライン、米国胸部疾患学会、医学書院、2002.
2 永井英明:AIDS/HIV 合併結核の現状と治療、日本医師会雑誌 121:365-368,1999.
3 Prevention and treatment of tuberculosis among patients infected with human
immunodeficiency virus: principles of therapy and revised recommendations. Centers
for Disease Control and Prevention. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 47(RR-20):1-58,
1998.
64
結核症
4 結核診療ガイドライン 南江堂、2009
5 CDC 勧告(MMWR 45 巻 42 号) http://www.jata.or.jp/rit/rj/yoshiyama.htm
(第一内科 今野 哲 2011.09)
結核症
65
7-9
サルモネラ感染症
成人 HIV 感染者におけるグラム陰性細菌による腸管感染症の発症率は一般人口の 20~100 倍
である。Salmonella enteriditis と Salmonella typhimurium による胃腸炎や菌血症が多く、移植患者
や免疫抑制剤投与患者にも見られる日和見感染である。欧米では、HIV 感染者の急性下痢の5
~15%がサルモネラ菌による。サルモネラ菌による敗血症の再発は AIDS 定義疾患のひとつで
あり、長期抑制療法を必要とする場合もある。
1
臨床症状
発熱を初め、水様下痢、全身倦怠感、食欲不振、体重減少など非特異的症状が主体。赤痢菌と
異なり、血性下痢は少ない。サルモネラ菌のキャリアでは再燃を繰り返すものが多い。
2
診断方法
菌血症:血液培養
腸炎(急性下痢の定義は3日間以上持続する1日3回以上の下痢)
:便培養(感度は 90%程度)
3
治療法
①シプロフロキサシン 300mgx2 DIV もしくは 600mg/3x の経口
②ピペラシリンナトリウム 2gx2 DIV
③ホスホマイシンナトリウム 2gx2 DIV
④イミペネム・シラスタチンナトリウム 0.5gx2 DIV など
以上を軽症や菌血症でないものは1~2週間、CD4 リンパ球が 50/μℓ未満の患者や菌血症の
ある患者は4~6週間継続する。下痢のある場合は、初期治療として輸液と電解質補給も大切で
ある。稀ではあるが、シプロフロキサシン耐性の場合は、ST 合剤を投与する。AZT は多くの
サルモネラ菌に対して有効で、予防薬として作用している場合がある。
4
治療失敗への対処方法
治療失敗とは、推奨された期間の適切な抗菌薬治療を終了しても臨床症状が改善せず、糞便や
血液からサルモネラ菌が持続的に検出する場合を指す。治療は、培養分離株の薬剤感受性検査の
結果に従って実施すべきである。治療失敗に関与していると考えられる要因(経口抗生物質の吸
収不良、孤立した感染巣、抗菌作用を阻害する医薬品使用、他の最近感染の合併など)について
検討することも重要である。
5
再発予防
サルモネラ敗血症が再発した患者には、二次予防として抗生物質治療を6ヶ月以上実施す
べきとする考えもあるが、長期抗生物質暴露のリスクと比較してまだ評価が定まっていない。
66
サルモネラ感染症
HAART が奏効した患者の二次予防は中止して良い。家族など、HIV 感染者と接触のある人が
無症候性にサルモネラ菌を保菌していないかどうか調べることも必要である。
■参考文献■
1 J Infect Dis 179:1553, 1999
2 Clin Infect Dis 32:331, 2001
3 N Engl J Med 344:1572, 2001
4 2005-2006 Medical management of HIV infection
5 The Sanford guide to HIV/AIDS therapy 2006-2007(2006. 7)
6 成人および青少年 HIV 感染者における日和見感染症の予防法と治療法に関するガイドライ
ン(2009.11)
(第三内科 橋野 聡 2011.07)
サルモネラ感染症
67
7-10
1
イソスポラ症
概説
イソスポラ症は、寄生性原虫 Isospora belli が小腸上皮細胞に感染し、下痢を引き起こす原虫
感染症である。汚染水や感染動物、あるいは感染しているヒト由来の cyst を経口摂取すること
により感染する。熱帯・亜熱帯地域で広く流行するが、国内での発生例は少ない。免疫不全患者
や海外旅行者の下痢症の原因として重要である。
2
臨床症状
水様性下痢、腹痛、発熱、嘔吐、倦怠感などの症状のあるときは糞線虫症、クリプトスポリジ
ウム症、CMV 腸炎などとともに本症を疑う。健常人が感染した場合は2~3週間の一過性の下
痢で自然治癒するが、AIDS 患者では重篤かつ持続性の下痢から吸収不良症候群を呈し死亡する
こともある。イソスポラ症では末梢血での好酸球増多を認める場合が多く、クリプトスポリジウ
ム症との鑑別上参考になる。
3
診断
集卵法により採取した糞便中にイソスポラの特徴的なオーシスト oocyst を検出することで診
断する。糞線虫症、クリプトスポリジウム症との鑑別が必要であるが、抗酸染色変法あるいはヨー
ド染色により 30×15μm 大の長楕円形の特徴的な oocyst が確認できれば診断は容易である。
4
治療
イソスポラ症は Sulfamethoxazole/Trimethoprim 合剤(ST 合剤)によく反応し2~3日で
軽快する事が多いが、再発が多いので維持療法が必要である。症状の改善、再発防止のために
HAART の導入も推奨される。HAART により3~6ヶ月以上 CD4 が 200/μℓ以上を維持でき
れば、維持療法を中止して良い。
【初期治療】
推 奨 療 法 ST 合剤(バクタR)
4T/2×(4g/2×) または 8T/4×(8g/4×)、10 日間
代 替 療 法 ① Pyrimethamine 50~75mg/day
Folinic acid(ロイコボリンR) 5~10mg/day、 10 日間
② Ciproflaxin(シプロキサンR) 1000mg/2×、 10 日間
【再発予防】
推 奨 療 法 ST 合剤(バクタR) 2-4T または 2.0-4.0g/1×、 連日または週3回投与
代 替 療 法 ① Pyrimethamine/Sulfadoxine 合剤
(ファンシダールR)
1T/1×, 週1回投与
② Pyrimethamine 25 mg/day
Folinic acid(ロイコボリンR) 5mg/day、 連日
68
イソスポラ症
■参考文献■
1 Spach DH,Hooton TM.矢野邦夫監訳.HIV マニュアル.日本医学館,1997
2 神谷晴夫.イソスポーラ症.別冊 日本臨床 領域別症候群シリーズ No.24 感染症症候群Ⅱ:
431-433,1999
3 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2007 Edition. Published
by Johns Hopkins Medicine Health Publishing Business Group,2007
4 Benson CA et al.Treating Opportunistic Infections Among HIV-Infected Adults
and Adolescents.Recommendations from CDC,the National Institutes of Health,
and the HIV Medicine Association/Infectious Diseases Society of America.MMWR
Recomm Rep 53(RR-15):1-112,2004
5 Gilbert DN et al.The Sanford Guide to HIV/AIDS Therapy,17th edition,2009
(血液内科 後藤 秀樹 2011.08)
イソスポラ症
69
7-11 (Lymphocytic interstitial pneumonia:LIP)
リンパ球性間質性肺炎
1
LIP とは
LIP は、原因不明の間質性肺炎の一型として Liebow らによって提唱された病態である。組織
所見に特徴があり、肺の間質にびまん性で密なリンパ球主体の細胞浸潤がみられる、という形態
学的定義によって規定された概念である。疾患が認識されるにつれ、LIP にはシェーグレン症候
群、自己免疫疾患などの背景疾患をもつものが少なくないことが知られるようになってきた。背
景疾患の多くは免疫異常症であることから、LIP の発生に何らかの免疫異常が関与しているので
はないかと考えられている。
2
病 因
LIP 患者の多くは、免疫学的な異常や、異常蛋白血症、ウイルス感染(とくに HIV 感染)といっ
た異常を背景に発症する。
原因疾患:間接リウマチ、シェーグレン症候群、橋本病、悪性貧血、慢性活動性肝炎、全身性
エリテマトーデス (SLE)、自己免疫性溶血性貧血、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、低γ
グロブリン血症、重症複合免疫不全
以下小児 HIV 患者に発症した LIP について
3
頻 度
HIV 患者では、特に幼少時とアフリカ系患者に多く、米国では小児 HIV 感染患者の肺疾患の
22~75%を占めるが、成人の HIV 関連の肺疾患では3%程度にすぎないとされている。母子感
染小児(HIV 垂直感染)の約 40%に発症し、生後1~2年が最も多く、報告例は5か月から5
歳に集中している。
4
臨床症状
たまたまレントゲン検査で見つかることがあり初期は無症状である。発症は潜行性であり、咳、
ばち状指、低酸素血症が緩徐に進行する。予後が比較的良く、LIP のみられる患者では CD4 陽
性Tリンパ球の減少が緩やかで、LIP のみられない患者よりも生存期間が長い。診断からの平均
生存期間は6年といわれている。LIP に関連した臨床症状、レントゲン所見、呼吸機能などは、
HIV 感染の進行度や重症度とは独立して、時間の経過と共に著しい改善をみることがある。年
長になるにつれ、細菌、真菌、CMV などによる二次感染がおこり、一部は慢性肺疾患や気管支
拡張症へと進行する(ニューモシスチス肺炎の合併はまれ)。
70
リンパ球性間質性肺炎(Lymphocytic interstitial pneumonia:LIP)
5
診 断
確定診断は肺生検であるが、臨床的には胸部X線で両側性の網状小結節状の間質性肺陰影が2
か月以上認められ、病原体が同定できず、抗生物質療法が無効の場合は LIP/PLH complex と
診断する。
胸部X線:両側に網状、小結節状の陰影がびまん性にみられる。
進行とともに肺門、傍気管リンパ節腫大がみられるようになる。( 正常の時との比較
が重要 )
胸部 CT: びまん性に網状、小結節陰影がみられる。
気管支肺胞洗浄(BAL)
:診断的価値は小さいが除外診断上有用である。
6
治 療
無症状の場合の治療は不要。
症状が見られるときは対症療法(喘鳴に対する気管支拡張剤、ステロイド吸入、低酸素血症に
対する酸素吸入など)や免疫抑制療法(主にコルチコステロイド)が必要なことがある。併存す
る細菌感染症に対して抗菌療法を行う。ジドブジンの投与や HAART 療法により LIP の症状が
改善する例もある。
■参考文献■
1 呼吸器症候群Ⅰ 日本臨床社、2008
2 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き 南江堂 2011
(第一内科 今野 哲 2011.09)
リンパ球性間質性肺炎(Lymphocytic interstitial pneumonia:LIP) 71
7-12
本邦ではまれな ARC
以下の2疾患は本邦においては、極めてまれな ARC であるので、概説のみにとどめる。診断・
治療法については成書を参照されたい。
1
コクシジオイデス症
米国南西部、中米、メキシコに発生する風土病のひとつで、二形態真菌である Coccidioides
immitis の分節型分生子の吸入で感染する。ヒトからヒトへの伝播は起こらないが、初感染か
ら数ヶ月後に発症することも稀ではないため、流行地域への渡航歴が重要である。米国 CDC に
よると、流行地域の土ほこりが生じるところで行動する際には、0.4μm 以上の粉塵を通さな
い 防 塵 マ ス ク の 使 用 を 推 奨 し て い る (http://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook /2012/
chapter-3-infectious-diseases-related-to-travel/coccidioidomycosis.htm)。本邦では本症は 4
類感染症に定められており、診断した場合は直ちに保健所へ届け出る必要がある。国内で 1999
年から 2007 年までに 22 例の報告がある。CD4 が 250/μℓ以下では限局性の肺炎と全身播種性
のどちらの病像も来すが、HIV 感染患者では全身播種性または髄膜炎を呈するのが一般的であ
る。以下の症状を有する場合に本症を疑う。
①呼吸器症状としては、ニューモシスチス肺炎と同様、発熱、咳嗽、呼吸困難がみられ、両者が
合併することもまれではない。胸部X線像では約 60%にびまん性網状結節影、約 40%に局所
的浸潤影がみられる。胸部X線上、肺門リンパ節の腫脹があれば本症の可能性が高い。ニュー
モシスチス肺炎とサイトメガロウイルス肺炎では肺門リンパ節の腫脹はまれである。
②呼吸器以外の症状
1 全身リンパ節腫脹
2 皮膚結節・潰瘍を伴った腫瘤の多発融合(コクシジオイデス肉芽腫)
3 進行性嗜眠状態(髄膜炎:髄液中リンパ球増多、糖<50 mg/dl、蛋白正常~軽度増加)
4 肝障害
5 骨・関節炎(HIV 患者ではまれ)
診断は培養、組織診断、血清・髄液抗体価の測定により行われる。
治療はびまん性肺病変や全身播種性には Amphotericin B 0.5~1mg/kg の点滴静注が第1
選択である。軽症例では Fluconazole 400~800mg/ 日、Itraconazole 400mg/ 日の内服を行
う。Azole 系薬剤と Amphotericin B を直接比較検討した報告は無いが、急速に病勢増悪する
場合には Amphotericin B の投与を考慮する。髄膜炎例には Fluconazole 400~800mg/ 日の
投与を、難治例には Amphotericin B の髄腔内投与を追加する。再発が高率なため長期に渡り
Fluconazole や Itraconazole の予防内服を必要とする。
72
本邦ではまれな ARC
2
ヒストプラスマ症
コクシジオイデス真菌症と同様、一種の風土病であり、二形性真菌である Histoplasma
capsulatum の胞子の吸入で感染する。米国中央部(オハイオ、ミシシッピ河川流域)、メキシコ、
カリブ海、アフリカなどが汚染地域であるが、非汚染地域でもこれらの汚染地域に在住した既往
がある人に発症がみられ、本邦でも本疾患の発症が報告されている。CD4 が 150/μℓ以下であ
る HIV 感染症患者ではほとんどが全身播種性の病態を呈する。
全身播種性のヒストプラスマ症では多くの場合、発熱、疲労感、体重減少のみが主症状となる。
咳や呼吸困難などの呼吸器症状は 50%にみられ、20~30%で肝脾腫を呈す。敗血症性ショック、
口腔内潰瘍や皮膚の多発性紅斑性結節、消化器病変、髄膜炎や脳膿瘍などの中枢神経浸潤がそれ
ぞれ 10%以下の症例に合併する。また副腎に感染し、副腎不全を呈することがある。血液検査
では骨髄抑制と肝酵素、LDH、フェリチンの上昇がみられる。
診断は血液・骨髄液・BAL 液の培養、尿や血清・髄液中の抗原同定、組織診断、抗体価の測
定により行われる。β-D グルカンも上昇すると報告されている。
全身播種性あるいは髄膜炎に対しては Amphotericin B または Liposomal amphotericin B
の点滴静注を3~10 日間(髄膜炎では 12~16 週)行い、その後 Itraconazole の内服治療を
12 週間行うのが効果的である。Fluconazole には耐性の場合が多く、Itraconazole と比較し明
らかに治療効果が不良である。維持療法として Itraconazole の内服治療を長期に継続する必要
がある。1年以上の治療を継続し、HAART で CD4 が 150/μℓ以上に回復し、尿・血清の抗原
が低下した症例では維持療法を中止できる。
■参考文献■
1 Spach DH,Hooton TM.矢野邦夫監訳.HIV マニュアル.日本医学館,1997
2 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2007 Edition.Published by
Johns Hopkins Medicine Health Publishing Business Group,2007
3 James M et al.Coccidioidomycosis.Mayo Clin Proc.83:343-349,2008
4 Benson CA et al.Treating Opportunistic Infections Among HIV-Infected Adults
and Adolescents.Recommendations from CDC,the National Institutes of Health,
and the HIV Medicine Association/Infectious Diseases Society of America.MMWR
Recomm Rep 53(RR-15):1-112,2004
5 Ampel NM.Coccidioidomycosis in persons infected with HIV type 1.Clin Infect
Dis 41:1174-8,2005
6 Wheat LJ.Histoplasmosis: a review for clinicians from non-endemic areas.
Mycoses 49:274-82,2006
(血液内科 後藤 秀樹 2011.08)
本邦ではまれな ARC
73
7-13
1
HIV-1 消耗性症候群
臨床症状
体重減少は HIV 感染者でよく見られる症状である(30%程度といわれている)。ここでは、
合併する日和見感染や悪性腫瘍によらない、10%以上の不自然な体重減少、30 日以上続く慢性
の発熱、30 日以上続く1日2回以上の下痢症状を呈することを HIV-1 消耗性症候群と定義する。
または、過去において HIV 感染症によると考えられる体重減少が認められ、BMI が 20 未満の
患者を指す。この消耗症候群の臨床像から、以前は AIDS のことを「痩身病」とも言われていた。
2
原 因
食事摂取量の低下、代謝異常、栄養吸収の低下、下痢などが挙げられている。特に性腺機能低
下や内分泌代謝異常が重要と考えられており、HIV 感染に起因する生体の慢性炎症(特に IL-1、
IL-6、TNF αなどの炎症性サイトカイン)が関与している。
3
診断方法
合併する感染症や腫瘍の否定:特に鑑別を要する疾患として、クリプトスポリジウム、MAC
感染症、結核、ヒストプラズマ、カポジ肉腫、非ホジキンリンパ腫などが挙げられる。
4
治療方法
経腸栄養剤:エレンタール6~8袋 / 日
エンシュアリキッド6~9缶 / 日
止 痢 剤:タンニン酸アルブミン3~4g / 日
ロペラミド塩酸塩2C / 日(6Cぐらいまで増量して有効な症例もある)
遺伝子組み換え型ヒト成長ホルモン製剤:セロスティム 5mg/ 日 連日皮下注 12 週間
作 用 機 序:窒素バランスの改善、蛋白同化作用、脂肪異化作用
臨 床 成 績:除脂肪体重の増加、体脂肪の減少による患者 QOL の改善
臨床的意義:治療後の体重及び除脂肪体重増加とエイズ発症率・死亡率との関連は不明
副 作 用:体液・Na 貯留により浮腫・関節痛・筋肉痛・高血圧が見られることがある。
欧米ではこれら以外に、合成プロジェスティン・アナボリックステロイドや炎症性サイトカイ
ンである TNF αを抑制するサリドマイドも試みられている。
74
HIV-1 消耗性症候群
■参考文献■
1 Ann Intern Med 129:18, 1998
2 AIDS 13:1195, 1999
3 Clin Infect Dis 36:S69, 2003
4 Clin Infect Dis 36:S74, 2003
5 2005-2006 Medical management of HIV infection
6 The Sanford guide to HIV/AIDS therapy 2006-2007(2006. 7)
(第三内科 橋野 聡 2011.07)
HIV-1 消耗性症候群
75
7-14
原発性リンパ腫
HIV 感染後に起こる原発性リンパ腫は AIDS 関連リンパ腫といわれ、持続性全身性リンパ節
腫脹(PGL)との鑑別が必要で、種々の画像診断と病理組織診断が重要である。HIV 感染それ
自体は直接的な発癌性はないと考えられているので、EBV、HHV8 など種々のウイルス再活
性化やサイトカインの産生異常、あるいは癌遺伝子の活性化が、病因の一つに考えられている。
AIDS 関連非ホジキンリンパ腫の発生頻度は、HIV 感染者では一般人に比較して 60~200 倍高
いとされ、AIDS 患者の生涯で約5~20%に合併するため、患者の長期予後を規定する最重要因
子といえる。他の日和見疾患は HAART 採用後その発症頻度が減少してきたが、非ホジキンリ
ンパ腫の発症は減少していないとする報告が多い。また、HAART の導入以来、欧米では非ホ
ジキンリンパ腫の合併率は低下しているが、国内ではむしろ報告が増加している。HAART に
よる HIV 感染者の長期予後の改善が HIV 関連リンパ腫の増加につながっている可能性がある。
HIV 感染の診断がされておらず AIDS 関連リンパ腫で発症して病院を訪れる「いきなり AIDS」
症例もあるが、施設当たりの症例経験数が少なく、難治性かつ再発性で、AIDS 特有の合併症も
多く、標準的治療の早期確立が望まれている。
1
臨床症状(AIDS 関連リンパ腫の特徴)
 臨床的特徴
1 悪性リンパ腫で頻用される Ann Arbor 分類の、B症状(発熱、盗汗、体重減少)を呈す
ることが多い(75~85%)
。HIV 感染者で見られる原因不明の熱では、悪性リンパ腫のB
症状を鑑別に挙げる必要がある。
2 節外性リンパ腫(中枢神経系、消化器系、呼吸器系、生殖器系、骨髄浸潤など)の形態を
とるものが多く、診断時に stage IV のものが多い。
3 中枢神経リンパ腫が高頻度にみられ、しかも無症状のものも多い。また、画像上トキソプ
ラズマ症との鑑別が困難である。
4 予後不良因子として① CD4 陽性リンパ球数 <100/μℓ、② stage III あるいは IV、③年齢
35 歳以上、④ PS 不良、⑤ AIDS 発症、⑥麻薬常用者、⑦ LDH 高値、⑧ HAART への反
応不良、などが挙げられている。
 病理学的特徴
1 リンパ腫細胞の帰属が、B細胞性のものが多い。
2 組織学的には、immunoblastic、diffuse large B-cell(DLBCL)、Burkitt に分類される、
悪性度の高いものが 70~90%と多い。稀ではあるが、ホジキンリンパ腫や MALT リンパ
腫などが発症することもある。
3 HIV 感染者に特徴的なリンパ腫として、原発性中枢神経リンパ腫、原発性滲出液リンパ腫、
口腔内を好発部位とする形質芽細胞性リンパ腫なども見られる。
2
診断方法
画像診断(X-P、CT、MRI、US、GIS、CS、67Ga-Scinti、FDG-PET など)と病理組織診断(腫
瘍生検、骨髄生検)、細胞診(腰椎穿刺・胸水穿刺など)が主体となる。髄液中の EBV の存在は、
76
原発性リンパ腫
原発性中枢神経リンパ腫を示唆する感度・特異度ともに極めて高い傍証となる。
3
治療方法
 治療の原則
1 治療することによる骨髄抑制・免疫不全の進行が原疾患に与える影響と、治療困難な中枢
神経原発が多いことが問題となる。
2 多剤併用化学療法を施行する場合、dose attenuation や G-CSF の使用などに工夫が必要
である。
3 日和見感染予防対策を、十分に並行して施行する必要がある。
4 HAART:HAART 導入により化学療法後の骨髄抑制や日和見感染症がコントロールし
やすくなり、結果として AIDS 関連リンパ腫の完全寛解率が有意に上昇した。化学療法併
用時の HAART 薬剤選択には、抗腫瘍薬の血中濃度に影響を与える CYP3A 阻害作用が少
なく、骨髄障害の弱いものを組み合わせるとよい。骨髄抑制の強い AZT、末梢神経障害の
多い d4T/ddI、抗腫瘍剤の血中濃度が上昇するプロテアーゼ阻害剤、抗腫瘍剤の作用を減
弱させる EFV/NVP、過敏症の起こりやすい ABC 等をなるべく避け、TVD+RAL などが
初回治療として検討されている。その際は、化学療法による嘔吐・嘔気による服薬困難を考
え、十分な制吐剤の投与を考慮する。
 治療の実際
CHOP 療法(3~4週間毎に4~6サイクル)
CY 750 mg / m2 iv day 1
ADM 50 mg / m2 iv day 1
VCR 1.4 mg / m2 iv day 1
PSL 60 mg / m2 po day 1~5
1 DLBCL では CHOP 療法がスタンダードレジメンと考えられるが、HIV 非感染者と異なり、
高度免疫不全状態では潜在的な骨髄機能が低下しており、上記の薬剤をそのまま使用できな
いことが多い。標準的な CHOP 療法での完全寛解率は 45~65%となっている。欧米から
の良好な成績に倣って、本邦でも DA-EPOCH 療法で好成績が得られつつある。
2 non-AIDS で CD4 陽性細胞が 200/μℓ以上であれば通常量を、AIDS の状態もしくは
CD4 陽性細胞が 100/μℓ以下であれば減量を考慮し、日和見感染の既往歴のあるものは、
さらに減量する。
3 DLBCL では、非 HIV 感染者における R-CHOP といった標準的治療が確立しておらず、
rituximab は CD4 陽性細胞が 50/μℓ以下の場合には治療関連死亡が生じやすくなるので使
用しない場合が多いが、HAART により HIV 感染が良好にコントロールされている場合に
は、rituximab 併用により良好な成績が期待出来る。
4 中枢神経原発のものは、40 Gy 程度の放射線照射がファーストチョイスのことも多い。
5 自家末梢血幹細胞移植:初回治療後の再発や難治症例では自家末梢血幹細胞移植が試みら
れ、一定の成績を上げている。
6 Burkitt リンパ腫:DLBCL に有効な化学療法では有効性が乏しく、非 HIV 感染者同様、
CODOX-M/IVAC、hyperCVAD などの強力な化学療法が推奨されている。
原発性リンパ腫
77
4
予 後
HAART 時代に入って、AIDS 関連リンパ腫の予後は幾分改善し、平均生存期間の中央値は
2年となった(HAART 導入以前は1年以内)。治療抵抗性あるいは再発症例に対しても、自家
末梢血幹細胞移植により長期寛解を得られる症例がある。原発性中枢神経リンパ腫治療後の長期
生存例では高次脳機能の低下が問題となる。
■参考文献■
1 治療学 HIV 感染症(2001. 1)
2 Br J Haematol 112,863, 2001
3 Blood 101:4653-4659, 2003
4 J Clin Oncol 22,1491, 2004
5 HIV 感染症とその合併症 診断と治療のハンドブック . HIV 研究班(2005. 3)
6 医学のあゆみ AIDS 治療:2005-2006(2005.6.4)
7 2005-2006 Medical management of HIV infection
8 J Clin Oncol 24:4123-4128, 2006
9 Blood 107:13-20, 2006
Br J Haematol 136:685-698, 2007
10)
11) Cancer 113:117-125, 2008
12) エイズ関連非ホジキンリンパ腫(ARNHL)治療の手引き ver 0.9. HIV 研究班(2008.11)
13) 日本エイズ学会誌 11:108-125, 2009
14) HIV 感染症を悪性腫瘍 医薬の門:50:49-51, 2010
15) 日本臨床 HIV/AIDS- 最新の治療の進歩 -(2010. 3)
16) HIV 感染症と AIDS の治療:1:No2:31-35, 2010
(第三内科 橋野 聡 2011.07)
78
原発性リンパ腫
7-15
HIV 脳症
認知機能障害、運動および行動の異常を中核とし、亜急性ないしは慢性に進行し、末期には
四肢麻痺、高度の認知障害を呈する脳症である。AIDS dementia complex、HIV-1 associated
cognitive/motor disorder などと呼ばれることもある。本症の病態には HIV-1 が直接関与し
ている。日常生活に支障をきたす程の重度な認知機能障害・行動障害を認め、小児においては
行動上の発達障害がみられる。本症においては特異的検査所見に乏しく、診断は除外診断とな
り、HIV-1 感染以外に説明可能な他の疾患や原因がみられないときに HIV-1 脳症と診断され
る。AIDS 診断時にすでに認知機能障害がみられ、HIV 脳症を合併している症例もある。近年、
HAART (highly active antiretroviral therapy) が HIV 感染の治療として導入され、HIV 脳
症の発生数を減少させた。しかし、HAART の導入による免疫力の改善により免疫再構築症候
群 (immune reconstitution inflammatory syndrome) と呼ばれる病態が問題となることがあ
る。
1
症 状
初期には動作や言葉遣いが緩慢となる。初期の神経学的診察では、知能検査で異常が見出せな
いこともあるが、問いかけなどに対する反応スピードが遅いのが特徴的である。神経学的には、
病初期には運動失調や錐体路徴候がみられ、進行すると認知機能障害や行動障害をきたす。健忘、
集中力の低下、せん妄も高頻度にみられ、運動失調は高度となり、歩行困難となる。無関心、無
気力になりうつ病と誤診される症例もある。これらの精神、神経症状は緩徐に進行するが、なか
には急速に進行するものもある。急速進行例の過半数は全身疾患、特に低酸素血症を合併するこ
との多い呼吸器系の日和見感染症(ニューモシスチス・カリニ肺炎など)の際にみられる。
2
診 断
 脳脊髄液検査
細胞数(単核球)や蛋白の軽度増加がみられる。髄液 HIV-1 RNA 定量値は増加している。
 画像診断
CTや MRI では大脳皮質の萎縮や脳室の拡大など萎縮所見が主であるが、時に広汎な白質
脳症の所見を呈する。小児では基底核の石灰化を認めることがある。脳血流 SPECT では大脳
皮質びまん性の血流低下を認める。
 脳波
基礎波が進行性に徐波化する。一方、局所性や突発性の変化はあまりみられないのが特徴で
ある。
 確定診断
HIV-1 脳症を確定診断することのできる特徴的な検査所見はなく、あくまで除外診断であ
る。従って、代謝性脳症(薬物の副作用を含む)、クリプトコッカス髄膜炎、中枢神経原発悪
性リンパ腫、トキソプラズマ脳症、神経梅毒、サイトメガロ脳炎、進行性多巣性白質脳症を除
外診断することが重要である。
HIV 脳症
79
3
予 後
一旦発症すると症状は増悪進行し、重度の認知機能障害や他のさまざまな神経症状(錐体路症
状、パーキンソン症状、運動失調)を呈する。また認知障害は高度となり、動作も極端に遅くな
る。このような重度の状態になると平均2ヶ月、長くとも6ヶ月以内に死に至るとされる。
4
治療法
HIV-1 脳症の治療法は未だ確立されてはいないが、HAART 導入により HIV 脳症に改善が認
められる症例が増加してきている。また、HIV 脳症自体も HAART 導入により減少している。
HAART による HIV 脳症改善例では、脳 MRI での白質異常信号の改善を認めることがある。
薬剤の選択においては、中枢神経移行性の良い薬剤が望ましいとの報告もある。また、HAART
による免疫力改善に伴って免疫再構築症候群とよばれる病態が出現することがあるので注意
が必要である。HIV 脳症の認知機能障害に対する治療については複数の RCT(randomized
controlled trial) が報告されているが、いずれも有効性を示すことができず、今のところ有力な
治療法はない。
■参考文献■
1 鎌田憲子 : HIV 脳症 . 小児科診療 3:497-504, 2009.
2 上平朝子、白阪琢磨 : AIDS の治療 -HIV 脳症 . 綜合臨床 . 50(10):2738-2746, 2001.
3 Uthman OA, Abdulmalik JO: Adjunctive therapies for AIDS dementia complex.
Cochrane Databese Syst Rev. 16(3):CD006496, 2008.
4 Enting RH, Hoetelmans RM, Lange JM, et al. Antiretroviral drugs and the central
nervous system. AIDS 12(15):1941-1955, 1998.
5 Price RW: Neurological complications of HIV infection. Lancet 348:445-452, 1996.
(神経内科 佐久嶋 研 2011.07)
80
HIV 脳症
7-16
進行性多巣性白質脳症(Progressive
maultifocal leukoencephalopathy;PML)
進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy;PML)は JC ウイ
ルスによる中枢神経の日和見感染症であり、slow virus infection の一つである。JC ウイルス
は常在ウイルスであり、ヒトに不顕性感染しており、特に腎臓に持続感染している JC ウイルス
が宿主の免疫能低下によりゲノム調節領域に変異を生じた結果、中枢神経親和性を獲得する。こ
の変異した JC ウイルスが oligodendrocyte に感染することにより、その蛋白合成を阻害し、二
次的に脱髄病巣を多発するものと考えられている。
1
疫 学
HIV-1 感染者における PML の合併頻度は 0.5~4.0%程度。HIV-1 感染者に合併した PML28
例の分析によれば、発症年齢は 22~58 歳(平均 39 歳)で男性 25 例(多くは homosexual)、
女性3例と報告されている。また、HIV-1 感染者以外の基礎疾患に合併した PML 多数例の分析
では、性差はなく、40 歳以上で好発し 20 歳以下の発症はまれと報告されている。
2
臨床症状
HIV-1 感染者が進行性の神経症状を呈した場合に本症を疑う。AIDS 関連 PML では非 AIDS
関連 PML に比較して前頭葉・頭頂葉病変が多く、初発症状は運動障害が多い。
 主な初発症状
視力障害、片麻痺、認知機能障害の頻度が比較的高く、さらに言語障害、人格変化、歩行障
害、意識障害、頭痛などがあげられる。
 経過中の主要症状
臨床症状は多彩であり、片麻痺~四肢麻痺、失語、失行、認知機能障害、視覚障害(半盲~
全盲)などを認める。
3
診 断
 一般臨床検査
特徴的な所見はない。
 脳脊髄液検査
ほとんど異常はみられず、細胞数の増加も認められない(蛋白量は軽度増加を示すことがある)
。
 脳 波
特徴的な所見はなく、非特異的な徐波をみる。
 血清 JC ウイルス抗体価
成人の 70%以上は JC ウイルス不顕性感染を起こしており、血清抗体価の測定に診断的価
値はない。また、髄液 JC ウイルス抗体価は上昇しないと報告されている。
 画像診断
PML では主として大脳の皮質下白質に大小不同の、融合して不整な形状の病巣が多数認め
られる。この所見は脳 MRI T2 強調画像や FLAIR 画像にて確認される。この MRI 病巣は通
進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML) 81
常ガドリニウムでは造影されない。
 確定診断
診断的価値が最も高い検査は脳生検であり、得られた脳組織において、PML に特徴的な病
理組織像と組織内に JCV 抗原またはゲノムの存在を確認することにより確定診断される。髄
液における JCV ゲノム解析が PML の確定診断に有効であるとも報告されている。これは、
JC ウイルスゲノムの調節領域を含む部位を PCR にて増幅し、得られた PCR 産物より調節領
域をシークエンスすることにより、PML 型 JC ウイルスであることを確認するものであり臨
床診断の一助となる。本方法は北海道大学医学研究科分子細胞病理学分野にて施行可能である。
鑑別疾患として、HIV-1 脳症、悪性リンパ腫、脳腫瘍などがあげられる。
4
経過と予後
神経症状はいったん発症すると亜急性に進行し、多くは、発症後1年以内に死亡する。
5
治 療
現在のところ PML に対して確立された有効な治療法はなく、対症療法が主である。その中
で、高活性抗レトロウイルス療法 (highly active antiretroviral therapy;HAART) は PML
に対しても一定の効果が期待できる治療法である。JC ウイルスに対する抗ウイルス薬としては、
cytarabine と cidofovir があるが、治療成績の報告は一定しておらず、無効例の報告も多い。
■参考文献■
1 川杉和夫、松田重三:進行性多発性白質脳症(PML)、松田重三編、HIV 治療マニュアル、
HIV 感染者発症予防・治療に関する研究班(班長 山田兼雄)p69-70
2 越智博文、小林卓朗:神経系の感染症:診断と治療の進歩 Ⅳ.重要な神経系の感染症 8.
進行性多発性白質脳症(PML)、日本内科学会雑誌 855:79-83,1996
3 矢野雄三、根岸昌功:AIDS の神経症状、神経内科 39:12-21,1993
4 平野朝雄、馬原孝彦:AIDS の神経病理、伊藤正夫・楢林博太郎編、神経科学レビュー 7:
13-26,1993
5 Sugimoto C, et al: Amplification of JC virus reguratory DNA sequences from spinal fluid:
diagnostic value for progressive multifocal leukoencephalopathy. Arch Virol 143:249-262,1998
6 松井尚子 他:進行性多巣性白質脳症と考えられた症例の拡散テンソル画像による経時的検
討。臨床神経 46:555-560,2006
7 Epker JL, et al: Progressive multifocal leukoencephalopathy, a review and an extended
report of five patients with different immune comprom. Eur J Intern Med. 20: 261-267, 2009
8 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 プリオン病および遅発性ウイルス感染
に関する調査研究班:進行性多巣性白質脳症(PML)の診断および治療ガイドライン
http://prion.umin.jp/guideline/guidelina_PML.html 進行性多巣性白質脳症 (PML) の診
断および治療ガイドライン http://prion.umin.jp/guideline/guideline_PML.html
(神経内科 廣谷 真、 矢部 一郎、佐々木 秀直 2011.08)
82
進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML)
7-17 (Cerebral toxoplasmosis)
トキソプラズマ脳症
トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)は人畜共通感染症で、Toxoplasma gondii(T.gondii)の感
染によって発症する。T.gondii は胞子虫類に属する細胞内寄生性の原虫である。ネコ科の動物の
腸上皮で有性生殖を行い、糞便中に排出されたオーシスト(oocyst)あるいは食肉中の嚢子の
経口摂取から感染が起こる。T.gondii 感染は通常無症候性感染であるが、先天性感染や免疫不全
状態では様々な重篤な症状を引き起こす。AIDS 患者の場合、大部分は CD4 陽性リンパ球数が
100/μℓ未満に低下したときに、慢性潜在性に感染していた T.gondii が再活性化して発症する。
T.gondii は中枢神経系においてもっとも再活性化しやすく、AIDS 患者でみられる中枢神経系の
日和見感染症のうち、もっとも頻度が高いものがトキソプラズマ脳症である。
1
臨床症状
発症の様式は、急性のものから亜急性、慢性の経過をとるものまで様々である。初発症状も様々
だが、頭痛、意識障害および発熱の頻度が高く、それぞれ 55%、52%、47%であったとの報告
がある。このような非局在症候の他、局在症候としては片麻痺、小脳性運動失調、脳神経麻痺の
頻度が高く、その他、感覚障害、失語症、視野障害、複視、けいれん、人格変化、錐体外路症候
などの症候が病変部位に応じて出現する。神経放射線学的異常があるにも関わらず、神経徴候を
まったく認めない症例も報告されている。ほとんどの AIDS 患者のトキソプラズマ症は脳に限
局するが、脳以外の臓器では眼と肺が侵される率が高い。
2
診 断
 血清学的検査
免疫能正常者では、2回の検査で IgG 抗体価が4倍以上に上昇した場合や1回の検査でも
IgM 抗体が陽性であれば、急性感染と考えられる。しかし、AIDS 患者の場合は本症を発症し
ていても抗体陰性の患者が存在し、臨床的および病理学的に本症と診断された患者のうち、そ
れぞれ 16%、22%が IgG 抗体陰性であったとする報告がある。したがって、IgG 抗体価の上
昇が見られない場合や IgM 抗体が陰性の場合でも、本症を否定することは出来ないため注意
が必要である。なお、当院ではトキソプラズマ IgG および IgM(EIA 法)を BML、トキソプ
ラズマ抗体(PHA 法)を SRL にそれぞれ委託している。
 脳脊髄液検査
脳脊髄液中の蛋白は軽度から中等度上昇、糖は正常から低下する傾向を示す。多くの例で
細胞数は単核球優位に軽度増加する。脳脊髄液中の抗体価測定は本症の診断に有用である。
PCR 法による脳脊髄液中の T.gondii DNA の検出については報告により様々であるが、いずれ
も感度は低いものの診断に対する特異度は 100%と高い。保険適応外であり当院では外注(三
菱化学 BCL)になるが、海外(米国)に委託しているため検査日数が2~3週間かかること
及び検査費用が問題となる。
 画像診断
病巣の検出には CT より MRI の方が感度が高いので、本症を疑った場合 MRI を施行すべ
きである。また、CT、MRI いずれにしても、造影/増強が必要である。病変は3分の2の症
トキソプラズマ脳症(Cerebral toxoplasmosis) 83
例で多発性であり、約 90%の症例でリング状の造影または増強効果がみられる。病変は浮腫
及び占拠効果を伴い、皮質、皮質 - 髄質境界部、基底核などに認められることが多い。また、
T1 強調画像において高信号を呈する症例も複数例報告されている。AIDS 患者においてこの
ような画像所見を呈する疾患としては本症の他、クリプトコッカス症 cryptococcosis、ヒス
トプラズマ症 histoplasmosis、アスペルギルス症 aspergillosis、結核症 tuberculosis、トリ
パノゾーマ症 trypanosomiasis などの感染症、原発性および転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫な
どを鑑別に挙げる必要がある。そのうち本症と中枢神経系の悪性リンパ腫の頻度がもっとも
高く、それぞれ 50%、30%であったとする報告があり、特にこれらの鑑別が問題となる。
AIDS に伴う悪性リンパ腫の場合、CT または MRI にてリング状の造影または増強効果を呈し
本症の所見と類似するが、悪性リンパ腫の場合は病変が単発性のことが多い点が参考になる。
201
Tl SPECT では、早期像にて 201Tl の集積亢進がなければ悪性リンパ腫は否定的である。早
期像にて 201Tl の集積亢進があり、さらに retention index も高い場合は悪性リンパ腫、早期
像にて 201Tl の集積亢進があっても、retention index が低い場合は本症を含む非悪性病変の
可能性が高いとされている。
 確定診断
確定診断は脳生検による病理学的検討によるが、生検に伴う合併症の危険性もあり、全例に
行われるわけではない。抗 T.gondii 抗体陽性、予防薬の投与を受けていない、画像上脳内に多
発性のリング状に造影/増強される病変を認める、という三点を満たす場合、90%の可能性
で本症と考えられ、本症として治療を開始するのが一般的とされている。保険適応検査ではな
いが、IgG avidity や髄液 nested PCR を用いて診断した症例の報告もある。
3
治 療
AIDS 患者では本症と悪性リンパ腫との鑑別が困難な例が多いが、上述のように本症を疑った
場合、まず本症として積極的治療を行う。本症の場合、通常治療開始後2週間以内に 90%以上
の症例で臨床的および画像上の改善が得られるが、改善がみられない場合は脳生検が推奨される。
治療は一般にピリメタミン pyrimethamine とスルファジアジン sulfadiazine(サルファ剤)
の併用経口投与が行われる。いずれも本邦では発売されていない薬剤だが、厚生労働科学研究費
補助金創薬基盤推進研究事業 国内未承認薬の使用も含めた熱帯病・寄生虫症の最適な診療体制
の確立に関する研究班における薬剤使用機関において、投薬可能である。詳細は同研究班のホー
ムページ(http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/parasitology/orphan/index.html)を参照され
たい。
具体的には、初期治療としてピリメタミンを初日 200mg/1x、2日目から 50~75mg/1x、
スルファジアジン4~6g/4x、葉酸 10~20mg/1~2x を6週継続し、その後維持療法として
ピリメタミン 25~50mg/1x、スルファジアジン2~4g/4x、葉酸 10~25mg/1x を投与する
のが標準的である。サルファ剤に対するアレルギーなどで使用できない場合には、スルファジア
ジンをクリンダマイシン 2,400mg/4x に変更してもよい。本症の場合、通常治療への反応は良
好であるが、皮疹、骨髄抑制(好中球減少、貧血、血小板減少)、嘔気・嘔吐、発熱、肝障害、
腎障害などの副作用のために、薬剤の変更や治療の中断を余儀なくされることが多い。けいれん
の既往のある場合には抗てんかん薬を、脳浮腫が強い場合にはステロイドを併用する。
84
トキソプラズマ脳症(Cerebral toxoplasmosis)
4
予 防
HAART(highly active antiretroviral therapy) が行われるようになってから、本症も含め
た日和見感染症の頻度は激減したが、CD4 陽性リンパ球数 100/μℓ未満および抗 T.gondii IgG
抗体陽性者は、ST 合剤 trimethoprim-sulfamethoxazole (TMP-SMX) 倍力価錠1錠 (160mg
TMP/800mg SMX)/1x 内服にて一次予防を行うことが推奨されている。一次予防投与は、
HAART を受けている患者で CD4 陽性リンパ球数 200/μℓ以上を3ヶ月間維持できる場合、安
全に中止できる。また、二次予防(上述の維持療法)については、以前は生涯継続することとさ
れていたが、最近の報告では一次予防と同じ基準で安全に中止可能とされている。
血清学的に T.gondii 陰性の免疫不全者の場合、トキソプラズマの暴露を最小限にするため、ネ
コの糞の処理や庭仕事のとき、食肉を扱うときには手袋をする、肉は良く加熱したものを食べる
などの予防策が必要である。
■参考文献■
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86
トキソプラズマ脳症(Cerebral toxoplasmosis)
8
HIV 感染者の皮膚症状
HIV 感染者では、様々な日和見感染症、薬疹、悪性腫瘍などの多彩な皮膚症状が高頻度に出
現するため、HIV 感染者に出現しやすい皮膚病変を理解することはとても大切である。以下に、
HIV 感染者の皮膚症状を1.HIV 初感染時の皮膚症状、2.皮膚・粘膜感染症(性感染症を除く)、
3.性感染症、4.薬疹、5.悪性腫瘍、6.その他の皮膚病変に分け概説する。
1
HIV 初感染時の皮膚症状
HIV 感染が成立した初期(初感染後2~4週)に、発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹、関節痛、
下痢などとともに、紅斑丘疹性の発疹が、全身、左右対称性に約 75%の患者に生じる。口内炎
などの粘膜疹を生じることもある。これらの皮疹は、他の急性ウイルス感染症と視診上は鑑別困
難である。しかも、通常、急性症状発症から数週後に抗 HIV 抗体が陽転するため、皮疹出現時
には抗 HIV 抗体が陰性であることが多い。
診断:皮疹出現時には、抗 HIV 抗体が陰性であることが多いため、診断は困難であるが、皮
疹軽快後に、抗 HIV 抗体を再度チェックするとよい。
治療:ステロイド剤外用。通常、2~3週間以内に皮疹は自然消退する。
2
皮膚・粘膜感染症(性感染症を除く)
HIV に感染すると、細胞性免疫が低下し、免疫不全が徐々に進行していくため、種々の感染
症を生じる。
 口唇ヘルペス
口唇ヘルペスは、主に HSV-1 による感染症で、口唇や口囲に、紅斑や小水疱を形成する。通常、
数日の経過で、徐々に水疱は痂皮化していくが、HIV 感染者のように細胞免疫能が低下すると、
水疱の痂皮化が起きず、深い潰瘍を形成して激痛を伴いやすい。
診断:多くの場合、既往歴と臨床所見から診断は可能であるが、他のウイルス疾患との鑑別
が困難なこともある。そのような場合、水疱内容液、潰瘍底ぬぐい液をとり、Tzank
test を行い、巨細胞や空胞細胞を確認する。また、HSV-1 および HSV-2、VZV は特
異抗原検査法 (FA 法 :SRL で施行 ) による検出も可能である。本法は極めて特異度が
高く、しかも簡便である。この他、血清抗体価も参考にする。
治療:バルトレックスⓇ 1,000mg 2X 内服(5日間)。アラセナ A Ⓡ軟膏外用。3~5日間で
効果を評価し、治癒傾向があれば、完全に治癒するまで継続。治癒傾向がない場合はバ
ルトレックスⓇ 3000mg 3X に増量または、アシクロビル持続静注 1-2mg/kg/ 時間投
与して、5~7日間治療する。さらに再評価して、治癒傾向がない場合は、TK( チミ
ジンキナーゼ ) 活性を欠損する遺伝子変異である ACV 耐性の TK 欠損株 (ACV 耐性
株の 90%を占める ) を考慮して、ホスカルネット (PFA) の使用を考慮する。再発を
繰り返す症例には、バルトレックスⓇの予防投与 500-1000mg 1-2X 内服(毎日)が推
奨される。
 水痘・帯状疱疹
水痘・帯状疱疹ウイルスに HIV 感染者が初感染すると、重篤な水痘となる。その後、水痘・
HIV 感染者の皮膚症状
87
帯状疱疹ウイルスが再活性化すると帯状疱疹となるが、健常人で発症した場合と比べ、全身皮
膚への汎発化など、重症化しやすい。また、潰瘍化しやすく、疱疹後神経痛を残しやすい。帯
状疱疹は、HIV 感染症の帯状疱疹は CD4 陽性リンパ球が保たれていても発症するが、300/
以下になると発症しやすくなるとされる。
診断:臨床所見から診断は容易である。水痘では、全身にかゆみを伴う紅斑、小水疱、痂皮を
生じ、新旧混在した皮疹を認める。帯状疱疹は、神経分節に沿って、通常は片側性に、
浮腫性紅斑と集簇した小水疱、潰瘍を認め、疼痛を伴う。汎発化した場合、水痘に似る。
治療:バルトレックスⓇ 3,000mg 3X を7日間内服。あるいは、ゾビラックスⓇ 250mg を1日
3回、7日間点滴。外用は、水痘ではカチリⓇ、帯状疱疹ではバラマイシン軟膏Ⓡを用
いる。治癒が遷延する場合や重篤化した場合は1週間を超えても痂皮化するまで治療を
続ける。2回以上の再発などアシクロビルに耐性が疑われる場合は、ホスカルネット
40mg/kg 1日3回点滴静注または 60mg/kg 1日2回の使用を考慮する。また同様
の作用機序でビダラビンやシドフォビルが効果的である場合もある。
 サイトメガロウイルス潰瘍
頻度は少ないが、難治性肛門周囲潰瘍のときに疑う。
診断:皮膚生検にて、封入体と巨細胞を確認し、抗サイトメガロウイルス抗体での染色性を確
認する。また、採血で C7HRP 陽性を確認する。
治療:デノシンⓇ点滴。
 伝染性軟属腫
伝染性軟属腫は、ポックスウイルスによる感染症で、皮疹は半米粒大までの淡褐色ないし
常色の丘疹で、典型例では中心臍窩を認める。通常は健康な乳幼児の体幹に好発するが、HIV
感染者(特に CD4 +細胞が 100 個以下の場合)では、年齢を問わず発症し、顔面や陰部など
体幹以外にも好発する。また、重症化して、ときに皮疹が数百個に及ぶこともあり、治療に難
渋することが多い。
診断:通常、視診にて容易に診断でき、トラコーマ摂子で圧すると、白色の粥状物が排出され
るのが特徴である。クリプトコッカス症など他疾患との鑑別が困難な場合には皮膚生検
を施行する。
治療:トラコーマ摂子で摘出する。健康な小児では自然治癒を期待して、経過観察することも
あるが、細胞性免疫低下を伴う場合、自然治癒はほとんど期待できず、放置することで
多発することが予想されるため、積極的に摘出したほうがよい。液体窒素による凍結療
法を行うこともある。
 尋常性疣贅
尋常性疣贅は、ヒトパピローマウイルス感染によって生じ、HIV 感染者では多発しやすく、
治療に難渋することが多い。皮疹は、手足に好発する、灰色ないし褐色で、表面が乳頭腫状の
丘疹ないし結節を特徴とする。
診断:視診により、診断は容易である。メスで削ると易出血性であることも診断の一助となる。
治療:液体窒素による凍結療法を行い、病変が厚い部分はメスで削る。ヨクイニンエキスの内
服を併用することもある。
 口腔毛状白板症
口腔毛様白板症は、EB ウイルス関連の粘膜病変で、舌側縁の毛状の白色斑として観察され
る。通常、無症候性であるが、軽度の疼痛や灼熱感を生じることがある。HIV 感染者に特異
性が高い症状であり、また、HIV 感染の比較的早期から出現するため、見逃してはならない
88
HIV 感染者の皮膚症状
疾患である。
診断:真菌検査を行い、口腔内カンジダ症が除外されれば、臨床所見から診断は容易。
治療:通常、無症候性で、自然消退もあるため、無治療で経過を見ることが多いが、痛みなど
の自覚症状が強い場合や整容的に問題となる場合には、液体窒素を用いた凍結療法など
を考慮する。海外では、アシクロビルなどの抗ヘルペス薬も使用されている。
 口腔内カンジダ症
免疫不全の進行した患者で頻発し、口腔内に白苔を認める。また、食道カンジダ症を合併す
ることも多く、口腔内カンジダ症のある HIV 患者が嚥下困難や嚥下痛を訴えた場合、食道カ
ンジダ症の存在が強く疑われる。
診断:白苔の直接鏡検(KOH 法)でカンジダの胞子や仮性菌糸を証明する。
治療:フロリードゲルⓇ外用、ファンギソンシロップⓇ含嗽、イトラコナゾール ( イトリゾー
ルⓇ ) 内服液の口腔内塗布やうがいで治癒することが多い。難治例ではフルコナゾール
(ジフルカンⓇ)やイトラコナゾールの短期内服も考慮する。ただし HIV 患者においては、
イトラコナゾールは HAART に用いる薬剤と併用注意が多いので、実際の現場ではフ
ルコナゾールが選択されることが多い。うがい薬は通常は含嗽後吐き出させるが、食道
カンジダ症を併発している際には、外用ないし含嗽後に嚥下させる。
 白癬症
白癬症は HIV 感染者ではかなり高率に認められ、難治性のことが多い。
診断:直接鏡検法での菌要素の確認が必須である。菌要素を確認できない場合は、原則として
抗真菌剤は用いない。
治療:抗真菌剤外用。爪白癬や角質肥厚型の足白癬では抗真菌剤内服(ラミシールⓇないしイ
トリゾールⓇ)を行う。
 その他の感染症
毛嚢炎、せつ、膿痂疹、蜂窩織炎、結核、非定型抗酸菌症などの細菌感染症、真菌では、ク
リプトコッカス症、ヒストプラズマ症、コクスジオイド症などが皮膚に出現することがある。
3
性感染症
近年、
異性間あるいは同性間の性交渉による HIV 感染者が増加している。このような患者では、
他の性感染症も高率に認めるため、代表的な性感染症を理解しておく必要がある。
 梅毒
梅毒は、梅毒トレポネーマの感染により発症し、そのほとんどが性感染である。梅毒トレポ
ネーマは性交時に皮膚、粘膜の微小な傷口から進入し、まず感染局所に特有の病変をきたし(第
1期梅毒)、やがて血行性に全身に広がり(第2期梅毒)、その後、諸臓器を侵すようになる(第
3期梅毒、第4期梅毒)。
診断:特徴的な臨床症状と梅毒血清反応検査(STS、TPHA、必要に応じて FTA-ABS をオー
ダーする)により診断は比較的容易である。病期ごとの臨床像は以下の通りである。
第1期梅毒:感染後3週頃にトレポネーマが進入した局所に初期硬結を作り、速やかに潰瘍化
する(硬性下疳)。臨床像と比して、痛みは少なく、無痛性横痃と呼ばれる所属
リンパ節腫脹を併発することが多い。
第2期梅毒:感染後3ヶ月頃(トレポネーマが全身に広がる頃)から梅毒性バラ疹、梅毒性丘
疹、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛、粘膜疹を生じる。
HIV 感染者の皮膚症状
89
第3期梅毒、第4期梅毒:無治療で経過した場合、感染後数年してからゴム腫、心血管梅毒、
神経梅毒を発症することがある。しかし、抗生物質の投与が広く行われている昨
今、このような病期の梅毒を見ることは少ない。
治療:ペニシリン系抗生剤を通常4週間投与するが、HIV 感染者の場合、神経梅毒の投与量
に準じて、通常の3倍量とし、8週間投与するのがよいとする報告もある。なお、治療
開始後に、Jarisch-Herxheimer 反応と呼ばれる一過性の発熱を生じることがある旨、
患者に説明しておくとよい(急激にトレポネーマが死滅するためと考えられている)
。
治療後の経過観察、治癒判定には STS を用いる。
 疥癬
疥癬は、ヒゼンダニが皮膚の角質に外寄生感染した結果、生じる。性感染症の一つであるが、
現在は、高齢者入所施設内での感染のほうが多くなっている。寄生するヒゼンダニの数が少な
い通常型の疥癬と、ダニが無数に寄生するノルウェー疥癬の2つがある。HIV 患者では、重
症で感染力の強いノルウェー疥癬を発症しやすいため、注意が必要である。
診断:そう痒の強いステロイド抵抗性の丘疹に加え、指間に線状皮疹(疥癬トンネル)を認め
た場合、本症を強く疑う。ノルウェー疥癬では、通常の疥癬と比して桁違いのヒゼンダ
ニが寄生し、厚い鱗屑や痂皮が全身の広い範囲に付着する。指間などの疥癬トンネルを
切除し、直接鏡検法にて疥癬虫や虫卵を証明する。
治療:イベルメクチンⓇ内服。オイラックス軟膏Ⓡやγ BHC(白色ワセリン軟膏と混合して1%
にしたもの)の外用を適宜併用する。なお、通常の疥癬であれば、隔離は不要であるが、
感染力が極めて強いノルウェー疥癬の場合は、個室隔離する必要がある。
 性器ヘルペス (genital herpes:GH)
性器ヘルペスは、HSV による感染症で、外陰部や肛囲に、紅斑や小水疱を形成し、HIV 患
者では、口唇ヘルペスの場合と同様、難治性潰瘍を形成しやすい。何度も再発を繰り返すこと
が多い。
現在では HIV 感染症における GH の再発抑制療法が一般的となり、その有効性を示すエビ
デンスも多い。
診断:口唇ヘルペスと同様、多くの場合、既往歴と臨床所見から診断は可能である。水疱内容
液、潰瘍底ぬぐい液をとり、Tzank test を行い、巨細胞や空胞細胞を確認し、血清抗
体価を参考にする。
治療:バルトレックスⓇ錠 1,000mg 2X 内服(5日間)。アラセナ AR 軟膏外用。3~5日間
で効果を評価し、治癒傾向があれば、完全に治癒するまで継続。治癒傾向がない場合は
バルトレックス 3000mg 3X に増量または、アシクロビル持続静注 1-2mg/kg/ 時間投
与して、5~7日間治療する。さらに再評価して、治癒傾向がない場合は、TK( チミ
ジンキナーゼ ) 活性を欠損する遺伝子変異である ACV 耐性の TK 欠損株 (ACV 耐性
株の 90%を占める ) を考慮して、ホスカルネット (PFA) の使用を考慮する。再発を
繰り返す症例には、バルトレックスⓇの予防投与 500-1000mg 1-2X 内服(毎日)が推
奨される。
 尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、主に HPV-6/11 感染により発症する、外陰部の疣贅状病変を特徴と
する性感染症である。HIV 感染症に伴う場合、男性同性間の性的接触、とくに肛門性交が感
染のきっかけとなるため、肛門管内に病変を伴う場合が多いため、肛門鏡での観察が重要であ
る。
90
HIV 感染者の皮膚症状
診断:臨床症状から診断は容易であるが、診断に迷う場合は皮膚生検を施行し、免疫酵素抗体
法で HPV 陽性を確認する。
治療:液体窒素を用いた凍結療法、電気焼灼療法、レーザー蒸散、外科的切除、三塩化酢酸ま
たは二塩化酢酸などの外用、インターフェロンの局所注射などのさまざまな治療がな
されているが、いずれの方法にも再発率が高く、治療に難渋する疾患である。2007 年
12 月よりわが国でも保険適応となった5%イミキモドクリーム(ベセルナⓇクリーム)
は通常の尖型コンジローマには切除や電気焼灼をしのぐ治療効果が報告されているが、
HIV 合併例では健常人ほどの治療効果は得られないことが多く、粘膜への使用は禁忌
であるため、肛門管内の病変においては従来の治療法を行っている。
 ケジラミ症
ケジラミ症は、ケジラミが陰毛や肛囲の毛に寄生して生じる性感染症の一つである。
診断:ケジラミの虫体、虫卵を検鏡で確認する。
治療:スミスリンパウダーⓇ、あるいは、スミスリンシャンプーⓇ を薬局で購入してもらい、
数日おきに塗布する(スミスリンは虫卵には効果がないため、孵化する頃に再度塗布す
る)。剃毛は必ずしも必要ではない。
 軟性下疳
軟性下疳は、ヘモフィリスによる性感染症の一つで、外陰部に疼痛の強い潰瘍を生じ、有痛
性リンパ節腫脹(有痛性横痃)を伴う。硬性下疳と違い、硬結を触れない。
診断:上記臨床症状に加え、培養でヘモフィリスを同定すれば、診断は確実であるが、培養で
検出されないことも多く、確定診断に苦慮することがある。
治療:CDC のガイドラインでは、アジスロマイシン1g経口単回、セフトリアキソン 250mg
筋注単回、シプロフロキサシン1g分2、経口7日間、エリスロマイシン2g分4、経
口7日間などが推奨されている。
 淋病
淋病は、淋菌感染により発症し、尿道炎、女性では子宮頚管炎、子宮内膜炎などを発症し、
不妊の原因にもなる。通常、感染機会から数日後に急性尿道炎を発症し、膿の排泄、排尿時痛
などを認める。
診断:問診、臨床症状、尿沈渣中の白血球の証明、グラム染色(淋菌はグラム陰性双球菌)な
どにより確定診断される。
治療:キノロン耐性淋菌が増えており、セフェム系が推奨されている。
 非淋菌性尿道炎
非淋菌性尿道炎は、クラミジア感染によるものがほとんどであり、淋菌性尿道炎と比べると
潜伏期間が1~3週と長く、排尿痛も軽いことが多い。
診断:問診、病歴、尿沈渣所見(白血球は認めるものの、グラム陰性双球菌(淋菌)は認めな
い)などから確定診断する。
治療:テトラサイクリン、マクロライド、キノロンを用いる。
4
薬疹
HIV 感染者は免疫能の異常のため、種々の薬剤による薬疹を生じやすい。なかでも最も多
いのはカリニ肺炎の治療に用いられる ST 合剤(バクタなど)で、ほぼ半数に中毒疹を起こす。
多くは紅斑丘疹型薬疹であるが、重症型の多形紅斑型薬疹や中毒性表皮壊死症(TEN)の報
HIV 感染者の皮膚症状
91
告もある。また、抗 HIV 薬に特徴的な副作用を認めることがあり、例えば、プロテアーゼ阻
害薬によるリポジストロフィー、ジドプシンによる爪甲の色素沈着などが挙げられる。
治療:被疑薬の中止とステロイド剤外用。重症例では、ステロイド内服を併用。
5
悪性腫瘍
 カポジ肉腫
全身のあらゆる部位に発生し、多中心性に発生するが、初発は下肢に多く認められる。初め
は、数㎜程度の紫紅色から黒褐色の斑が生じ、次第に隆起、増大して腫瘤を形成する。皮膚以
外にも消化管、リンパ節、肺にも発生する。発症には HHV-8 が関与する。
診断:皮膚生検により確定診断する。
治療:症状が軽度である場合、抗 HIV 療法で経過を見る。症状が強い場合や肺病変などの全
身病変を認める場合には、放射線療法や化学療法を考慮する。
 非 Hodgkin リンパ腫
非 Hodgkin リンパ腫のうち、B細胞由来のことが多く、節外浸潤を高率に認め、中枢浸潤
も多いとされる。
治療:化学療法、放射線療法を行うが、AIDS による免疫力低下を伴っており、治療に苦慮す
ることが多い。
6
その他の皮膚病変
 脂漏性皮膚炎、乾癬
HIV 感染者では、脂漏性皮膚炎や乾癬が重症化しやすく、治療に抵抗することが多い。
脂漏性皮膚炎については、HIV 感染者では皮膚常在菌であるマラセチアの増殖による発症
が知られており、非 HIV 感染者の脂漏性皮膚炎の有病率が3~5%であるのに対して、HIV
患者では 30~83%と高率に認められる。
治療:脂漏性皮膚炎の治療についてはステロイド外用薬およびケトコナゾールクリーム ( ニゾ
ラールクリームⓇ ) の外用が主流である。HIV 感染者の脂漏性皮膚炎はマラセチアの過
度な増殖が発症に関与していることより、非 HIV 感染者に比べて抗真菌薬が奏功しや
すい。
乾癬ではステロイド外用薬に加えてビタミン D3 製剤外用が有効。成書には、紫外線療
法は in vitro の実験で HIV 複製を促すことが確認されているため、慎重に考慮するよ
う記載がある。
 好酸球性毛包炎
好酸球性毛包炎は、従来比較的稀であったが、HIV 患者に多く見られることが報告されて
いる。通常の好酸球性毛包炎(eosinophilic pustular folliculitis:EPF)とは臨床像が異なる
ため、HIV-associated eosinophilic folliculitis:HIV-AEF) と呼ばれる。個疹は、直径数㎜大
のかゆみの強い毛孔一致性丘疹で、体幹、上腕、顔面、頚部に多発、皮疹の融合傾向は認めない。
診断:皮膚生検で、毛包への好酸球の浸潤を証明する。HIV-AEF の病理組織像は毛包への
CD8 陽性リンパ球と好酸球の浸潤である。通常の EPF に見られる毛包内の好酸球膿瘍
や脂腺の崩壊所見は必ずしも必須ではない。
治療:インドメタシン内服、外用、ステロイド外用など。
92
HIV 感染者の皮膚症状
 その他
HIV 患者では、そう痒性丘疹、結節性痒疹、アトピー性皮膚炎様皮疹、光線過敏性皮膚炎、
晩発性皮膚ポルフィリン症、環状肉芽腫、毛孔性紅色粃糠疹、アフタ性口内炎、血管炎、持久
性隆起性紅斑、血小板減少性紫斑病、脱毛症、色素沈着、露光部に見られる尋常性白斑など、
多彩な皮膚病変の報告があるが、HIV 感染との関連の詳細は不明である。
(皮膚科 山根 尚子 2011.08)
HIV 感染者の皮膚症状
93
9
1
妊婦および新生児の HIV
わが国における HIV 感染妊婦の現状
日本国籍女性の異性間性的接触による HIV 患者数は、ここ数年は横這いである。一方母児感
染による HIV 感染の発生数は HIV、AIDS ともに1%以下に留まっている。これは多くの産科
施設で妊娠中に HIV 検査が行われ、陽性の妊婦に対し有効な母児感染予防対策が講じられるよ
うになった結果であると思われる。病院施設では、平成 19 年度には 97.2%が妊婦の抗体スクリー
ニングを行っており、個人診療所でも 90%以上の施設で行われるようになって来ている。
平成 21 年度産科・小児科統合データベースによると HIV 感染妊娠は累積で 642 例、うち同
一感染者が複数回妊娠している例があり、現在感染が確認されている妊婦 539 名のうち、81 名
が HIV 感染を認識した上で複数回の妊娠をしている。出生児数は双胎を含め 434 名となって
いる。妊婦の国籍別では、日本 37.9%、タイ 28.2%、ブラジル 7.8%、フィリピン4%の順で、
タイ国籍症例は著減している一方で、日本国籍症例の割合が増加している。平成 11 年以降毎年
報告されている HIV 感染妊婦の半数近くは日本国籍である。
2
現時点での日本における HIV 母児感染予防の原則
わが国においては「表1」で示した母児感染予防対策を完全に施行すれば、HIV 母子感染を
ほぼ防止できる状態である。1997 年以降「表1」の全ての感染予防対策が、確実に行われた症
例から母児感染が成立したという報告はない。
表1 HIV 母子感染予防対策
1.HIV 検査(妊娠初期)
2.母児に対する抗ウイルス療法
(ART: antiretroviral therapy)
妊娠中の ART
分娩時の AZT の投与
児への AZT の投与
3.帝王切開による分娩
4.断乳(人工栄養)
まず第一に妊娠初期の HIV 検査を 100%の妊婦に対して実施すること。検査をしない事には
感染防止対策を取りようがない。2009 年度において全ての都道府県で 97%を上回る HIV 検査
実施率を達成したが、100%には達していない。HIV 母児感染をゼロにするためには、妊婦全例
の HIV 検査が必須となる。
現在でも母児感染が散見されているが、これらは医療機関への適切なアクセスがなかった症例
である。
94
妊婦および新生児の HIV
3
妊婦 HIV 検査
 妊婦 HIV 検査の意義
産科小児科統合データベースにおける全国調査では、平成 21 年までに累計で 48 例の母児
感染症例が報告されている。この中の1例を除いて妊娠中から母児感染予防対策が取られてい
なかった。現在では治療法の進歩により、母児感染は適切な感染防御対策を講じることで、感
染率を1%以下にまで抑制する事が可能となっている。
従って HIV 母児感染予防を確実に行うためには、まず妊婦の HIV 検査により感染妊婦を確
実に見つけ出す事が必要となる。
 妊婦 HIV 検査前の説明
治療効果を高めるとともに感染の拡大を抑制するためには、医療従事者は患者らに対し、十
分な説明を行い理解を得る様に努めなければならない。とくに、HIV スクリーニング検査では、
一定の割合で偽陽性が生じる事を踏まえ、確認検査の結果が出ない段階での説明方法について
十分に工夫するとともに、検査前および検査後のカウンセリングを十分行うこと、プライバシー
の保護に十分配慮する事が重要である。
<妊婦 HIV 検査の説明に関する要点>
a.検査の流れ
「一次検査(スクリーニング検査)」と「二次検査(確認検査)」があり、一次検査陽性で
も二次検査が終了するまでは結果が確定しないことを十分理解してもらう。
b.結果の意味
一次検査 → 陰性:おそらく感染していない
→ 陽性:確認検査が必要 → 二次検査 → 陰性:感染していない
→ 陽性:感染している
(注)検査実施前2か月までの結果を保証。
それ以降、現在までに感染の可能性のある行為があった場合は、2か月後に再検査
が必要
 検査結果の説明
HIV 一次検査の結果は、検査を受けた全員にもれなく通知する事。
a.一次検査の結果が陰性の場合
恐らく HIV に感染していない事、および検査前2か月間に感染した場合は、感染初期の
ため今回の検査では陰性になる可能性があること (window period) を説明し、この間に
感染するリスクがあった場合には、2か月後の再検査を勧める。
b.一次検査の結果が陽性の場合
一次検査の陽性的中率(一次検査が陽性であった場合、真に感染している確率)は極めて
低く、一次検査陽性者のうちの、ほんの数%にすぎないことを伝え、「確認検査の結果が出
るまでは感染しているかどうか分からない」が「確認検査で感染していなかったことが分か
る事がほとんどである」ことを明確に伝えて置く。
c.二次検査(確認検査)で陽性の場合
HIV 感染診断のための検査法の基準は 2008 年に日本エイズ学会が示した診断法のガイ
ドラインである。ELISA 法や PA 法によるスクリーニング検査とウェスタンブロット法お
妊婦および新生児の HIV
95
よび RT-PCR 法の同時測定による確認検査の組み合わせにより確定診断が行われる。
一般の HIV 検査受検者以上に、ショックや混乱、心理的外傷のような離断感、さらにパー
トナーへの告知、妊娠継続の判断、抗 HIV 薬の服用など、もともと妊婦は特殊な身体状況
と不安定な精神状態であるため、一層細やかな対応が必要となる。また妊娠週数を考慮し短
時間で告知を行わなければならない場合も多い。
d.未受診妊婦における HIV 緊急検査の必要性
わが国は諸外国に比べ妊婦健診を定期的に受診している比率が非常に高いが、しかし妊婦
健診を受診せず、分娩が開始してから突然医療機関を訪れる、いわゆる未受診妊婦(飛び込
み分娩)が少なからず存在する。未婚者が多く、来院から分娩までの時間も極端に短い例が
多い。そして HIV を含めた母体感染症例が多いことが分かっている。しかし分娩までの時
間的余裕が無いため、HIV 緊急検査は重要である。
イムノクロマト法による静脈血での検査キットが存在し、血液採取後 15 分程度で結果が
判明する(通常の抗原抗体検査よりも疑陽性率がやや高い)。
4
妊娠中の対応
妊婦の HIV 感染が判明した場合、まず初めにすべきことは「妊娠を継続するか否かの自己決定」
である。
医療従事者は HIV 感染者自身が、HIV 感染症の病態や治療の概要を理解し、今後の療養の見
通しの元に妊娠を継続するか否かを自己決定出来るよう支援しなければならない。
 HIV 感染妊婦に必要な妊娠初期検査
妊娠継続を選択した場合には、以下の項目について検査を行う(下線は HIV 感染症特有)
血液検査:血算(白血球分画を含む)、CD4%、CD8%、HIV ウイルス量、
凝固系
生化学(腎機能、肝機能、血糖、脂質系)
他の感染症(STS、TPHA、HBs 抗原、HCV 抗体、トキソプラズマ抗体、
HTLV-1)
抗 CMV-IgG
血液型、HIV ウイルス耐性検査
尿検査一般
子宮頚部腟部細胞診
膣分泌物培養
クラミジア検査
淋菌検査(必要時)
胸部X線写真
眼底検査(CMV 感染症の検査として)
※ HIV 薬剤耐性検査は、治療前の全ての感染妊婦に施行する事が勧められている。
※すでに抗 HIV 薬が投与されていてもウイルス量がコントロールされていない症例は、薬
剤耐性検査を施行する。
96
妊婦および新生児の HIV
※耐性検査結果を待つ時間が無い場合もあるので、一般的な治療を先行して開始してもよい。
 抗ウイルス療法
a.概 説
1996 年に発表された AZT を用いた Pediatric AIDS Clinical Trial Group (PACTG)
076 が初めて抗ウイルス薬を用いて母子感染率を低下させた臨床研究で、安全性の面から
も信頼できる成果が得られている。母子感染予防を行うにあたっては、PACTG に沿った
治療(表2)が基本であり、可能な限り AZT を含んだ治療薬を選択するのが望ましい。米
国では現在は薬剤耐性の観点から HIV 感染者には原則的に多剤併用療法 (Highly active
antiretroviral therapy: HAART) が施行されており、HIV 感染妊婦に対しても AZT 単剤
療法ではなく、児に対する安全性の懸念はあるものの、多剤併用療法が行われているのが現
状であり、わが国においても同様で、近年の報告では抗ウイルス療法をされた例のほとんど
で多剤併用療法が施行されている。
表2.PACTG076 AZT 療法
投 与 方 法
分娩前
妊娠 14~34 週に処方開始。全妊娠期間を通じて継続。
オリジナルは AZT 500mg 分 5 だが、現在は 600mg 分 2 で投与。
分娩中
分娩開始とともに静注用の AZT 2mg/kg を 1 時間で静脈内投与し、引き続き出
産まで 1mg/kg/h で持続的に静脈内投与する。
分娩後
出産後 8~12 時間までに、新生児に対して AZT シロップ 2mg/kg を 6 時間毎に
投与し、生後 6 週間まで続ける。経口できない時は、1.5mg/kg を 6 時間毎に静
脈内投与する*
* AZT は 400mg 分2でもよい
* 30~35 週未満の早産児では、1.5mg/kg 静脈内投与または AZT シロップ 2mg/kg を
12 時間毎の投与を行う。その後2週間後から8時間毎に投与する。
* 30 週未満で出生した早産児では、1.5mg/kg 静脈内投与または AZT シロップ 2mg/kg
を 12 時間毎の投与を行う。その後4週後から8時間毎に投与する。
AZT 単剤投与と多剤投与療法との比較を以下に示す。
表3.AZT 単剤投与と多剤併用療法の比較
(HAART と比較した)
AZT 単剤投与の
長 所
児に対する安全性の評価が HAART より高い
欠 点
感染母体に対する治療効果が低い
血中ウイルス量が減少しにくい
薬剤耐性ウイルスが出現しやすい
(AZT 単剤投与と比較
した)HAART の
長 所
感染母体に対する治療効果が高い
血中ウイルス量が速やかに減少
薬剤耐性ウイルスが出現しにくい
欠 点
児に対する安全性の評価が AZT 単剤投与ほど高くない
重篤な副作用が報告されている
妊婦および新生児の HIV
97
b.抗 HIV 薬の選択
抗 HIV 薬は以下の機序により母子感染を防ぐ。
・分娩前の母体血中ウイルス量を減少させる
・HIV 曝露前と暴露後の児への予防投与
従って母児感染予防には、分娩前、分娩中、分娩後の投与が必要である。
現在の治療は、米国の HIV 母子感染予防ガイドライン (Recommendations for Use of
Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women for Maternal Health and
Interventions to Reduce Perinatal HIV transmission in the United States, May 24.
2010 http://AIDSinfo.nih.gov/ContentFiles/PerinatalGL.pdf) を元に行われている。
わが国では、これまで AZT、3TC、NFV あるいは AZT、3TC、LPV/RTV の組み合わ
せが多く見られたが、現在は AZT、3TC、LPV/RTV の組み合わせが多い。
c.抗 HIV 薬の開始時期
<抗ウイルス薬を内服したことのない HIV 感染者が妊娠した場合>
本人の治療は必要が無いが母子感染予防のために治療が必要な場合は、胎児に対する
影響を考慮して妊娠 14 週までは抗 HIV 薬を内服せずに待ち、それ以降に AZT を用いた
HARRT を開始する。AZT 単剤療法については議論があるところだが、無治療でウイルス
量が 1000 copy/mL 未満の症例では単剤投与を検討してもよい。抗 HIV 薬開始後も免疫
状態が良好であれば、出産後に抗 HIV 薬を中止可能である。
本人の治療が必要な場合、すなわち成人の標準的な治療基準(エイズを発症しているか、
CD4 < 350/μL)が現在の治療の開始基準)を満たす場合は、多剤併用療法 (HAART) を
開始する。内服期間が長い方が母児感染予防効果が高いので、妊娠 14 週目以降すぐに、遅
くとも 28 週までには開始する事が望ましい。もし妊婦の免疫状態が悪い場合く早急に治
療が必要な場合には、器官形成期であってもエファビレンツ (EFV) 以外の薬剤で開始する
(EFV は中枢神経系の催奇形性が報告されている)。ネビラピン (NVP) は CD4 > 250/
μL の症例に用いると肝機能障害や皮疹といった副作用発症のリスクが高くなる。
<抗ウイルス薬を内服している HIV 感染者が妊娠した場合>
現在投与中の抗 HIV 薬にてウイルス量がコントロールされている場合には、薬剤は器官
形成期であっても継続する。ただし器官形成期中のエファビレンツの使用は避ける。ウイル
ス量がコントロール出来ていない場合は、HIV ウイルス耐性試験を必ず行い有効な薬剤へ
変更を検討する。ネビラピンを含んだ抗 HIV 薬を内服中で効果があるならば、CD4 数に関
らず継続する。
d.ウイルス量コントロールが失敗した場合
治療が成功している場合には抗 HIV 薬を開始後4週目までに HIV ウイルス量が少なくと
も 1/10 以下に低下し、初回治療の場合には 16~24 週後に検出限界以下に低下するはずで
ある。
このように十分にウイルス量が制御できない場合には、薬剤耐性の有無と内服状況を評価
し、投薬を再評価しなければならない。
 分娩時期と分娩方法
a.分娩時期
・陣痛発来前が望ましい
・妊婦の分娩出産歴、切迫徴候、児の発育状況などを考慮しながら決めるが、一応の目安
98
妊婦および新生児の HIV
を 37 週頃として分娩時期を決定する
※わが国では当初、子宮収縮に伴う母児間輸血により胎内感染を来たすリスクを回避する
目的で可能な限り早期に児を娩出することが望ましいと考えられ、以前は妊娠 36 週以
降を目安としていた。
しかし、欧米では妊娠時期を早めに設定していないにも関らず、母児感染率は約 1%と、
わが国と同等の成績であること、36 週以前に帝王切開術にて出生した新生児が、沐浴
による低体温、出生時の処置による呼吸障害、AZT シロップの経口摂取困難などの問
題が認められた事から、むしろ児の未熟性の回避を第一とすべきであると考えが修正さ
れた。
従って現時点では、陣痛発来や破水などのリスクが少なく、かつ児の未熟性も回避でき
ると考えられる 37 週を一応の目安として推奨する。但し 37 週を推奨するエビデンス
は存在しない。
b.分娩方法
陣痛発来前の選択的帝王切開が望ましいが、ウイルス量が検出感度以下であれば、経腟分
娩でも選択的帝王切開と母児感染率は変らないとのデータもある。しかし、わが国の産科診
療の現状では、分娩の準備にかかる人的物的リソースの制約から、選択的帝王切開が望まし
いと考えられる。
c.切迫早産・前期破水の対応
現在までに明らかになっている事実は以下のとおりである。
・陣痛発来前および破水前の予定帝王切開は AZT 投与の有無に関らず、母児感染率を下
げる
・破水後4時間以上経過すると、分娩方法に関らず母児感染率が増加する
・投薬の有無に関らず、破水後 24 時間以内では1時間に2%ずつ母児感染率が上昇する
これらを踏まえて判断する事になるが、34 週未満の児の場合には児の未熟性による問題
が大きくなり容易に帝王切開に踏み切れない場合が出てくる。これらに関しては欧米も含め
て一定の見解はでていない。
破水の有無に関らず、十分な投薬が行われウイルス量がコントロールされていた群では母
子感染が発生しなかったという報告もあり、十分な投薬が行われている前期破水の症例では、
保存的療法を選択する事も良いと思われる。わが国で頻用されている塩酸リトドリンに関す
るデータは諸外国では用いられていないため報告がない。しかし使用しても問題は無いと考
えられている。
 胎内感染のリスク
母乳を与えない場合の母児感染の約7割は分娩時に、約3割は胎内感染であると言われてお
り、胎内感染の時期は分娩に近い時期に多い様である。胎内感染のリスクとして最も重要なも
のは母体のウイルス量であると考えられており、HIV 感染妊婦の治療もウイルス量を下げる
事を目標とする。
その他に HIV 感染者には、B型、C型肝炎ウイルス、結核などの他の感染症を合併する頻
度が高い。これらについても合わせて注意が必要である。
妊婦および新生児の HIV
99
 分娩時の対応
a.帝王切開に使用する薬剤
・PACTG076 のプロトコール(表2)に従い、妊娠中の抗 HIV 療法の種類・有無に問わず、
全ての HIV 感染妊婦に対して AZT 点滴を行う。
・分娩前に投与していた抗 HIV 薬は、分娩中や予定帝王切開にスケジュールを合わせて
できる限り内服を続ける。
・AZT を含んだ多剤療法を行っている場合には、分娩中 AZT は点滴で投与し、他の薬
剤は内服で継続する。
・AZT の耐性があり AZT を含まない抗 HIV 薬を投与している症例でも、分娩中は AZT
の点滴を行い、児には AZT を経口で投与する。
 新生児の受けとり・処置(低体温にならないように注意)
・防水ガウン、フェイスシールドマスク、足袋、手袋(2重)を装着する。
・児を受けとったら安全にインファントウォーマーに移送する。
・児の状態を確認し、必要時は蘇生を行いつつ清拭を行う。吸引に際しては粘膜損傷を起さ
ないように注意する。
・すばやく全身の血液を拭き取り、温蒸留水で清拭(洗浄)、温オリーブオイルで胎脂の除
去を行う。
生理食塩水で眼、耳の洗浄を行う。
・皮膚に傷があるときは、傷口をイソジンで消毒する
・臍帯は長めに切断(臍静脈カテーテルを挿入する可能性がある場合)する。
・児の状態が落ちついている事を確認後、母児対面し、新生児室へ搬送する。
 分娩後の対応
a.児への対応
・出生後の管理は通常の帝王切開により出生した新生児の保育方法に準じる。母児感染
の診断の為の採血は状態が安定していれば、出生 48 時間以内に RT-PCR による HIVRNA 定量を行う。
・全ての出生児に AZT 単独あるいは AZT を含めた併用療法を6週間投与する。
< AZT シロップ投与法>
生後6~12 時間までに AZT の経口投与(シロップ 2mg/kg を6時間毎)を開始し、生
後6週間まで継続する。シロップの内服が不可能な児では、AZT 注射薬 1.5mg/kg を6時
間毎に経静脈投与する。
< 36 週未満の早産児に対する投与法>
早産児ではグルクロン酸抱合が未熟なため、正期産児よりもさらに AZT の半減期は延長
する。
・30 週以上 36 週未満の早産児に対しては、内服 2mg/kg(静注 1.5mg/kg)の AZT を
12 時間毎の投与で開始し、生後2週間を過ぎてから、8時間毎に変更する。
・30 週未満の早産児に対しては、内服 2mg/kg(静注 1.5mg/kg)の AZT を 12 時間毎
の投与で開始し、生後4週間を過ぎてから、8時間毎に変更する。
< AZT 投与による副作用>
AZT 投与による副作用として貧血が報告されている。貧血の程度によりエリスロポイエ
100 妊婦および新生児の HIV
チン投与や輸血を考慮する。HIV の母児感染予防対策(妊娠・分娩中の母体と新生児へ抗
HIV 薬、選択的帝王切開術、母乳禁止の全て)が実施された場合の感染率は1%未満であ
る事、および生後4週頃までに繰り返された採血で HIV の PCR が陰性であった場合、非
感染である確率が 100%に近い事から、AZT による重篤な副作用が懸念される場合は、そ
の投与期間を4週間程度に短縮する検討が可能である。
<新生児・乳幼児における診断基準>
母児感染予防対策としての出生児に対する生後6週までの抗 HIV 薬投与を行いつつ、感
染の有無を診断するためのウイルス学的検査 (RT-PCR による HIV-RNA 定量 ) を進める。
・RT-PCR は生後 48 時間以内、生後 14 日、生後1~2か月、生後3~6か月の計4回
行う。さらに HIV 非感染を確定するために、生後 18 か月にウイルス抗体検査を行う(移
行抗体が消えた頃)。
・感染の成立は、2回の異なる時期の血液検査が陽性の場合(但し臍帯血を除く)とする。
検査結果が陽性であった場合には、直ちに新たな検体を用いて再検し診断を確認する。
生後 48 時間以内の陽性は胎内感染を示唆する。
・非感染の診断は、生後1か月以降に行った2回以上の PCR( 1回は生後4か月以降)
が陰性であった場合、HIV の感染はほぼ否定できる。生後 18 か月で低γグロブリン血
症がなく、HIV-IgG 抗体陰性で、かつ HIV 感染による症候がなくウイルス学的も陰性
の場合、感染は完全に否定できる。
b.母体への対応
分娩後に抗 HIV 薬を継続するか否かの判断は、いままでの CD4 の最低値や臨床症状な
ど適応がないかにより決定する。
<断乳の必要性>
母乳中には多量の HIV が含まれるため、母乳を与える事で時に感染が及ぶ危険性が極め
て高い。この事を両親へ説明し断乳を行う。
<母乳緊満への対処>
わが国で止乳に使用されている薬剤は、いずれも HIV プロテアーゼ阻害薬との併用によ
り副作用が増強する危険際が高いため、可能であれば薬剤を使用せず乳房の冷却のみでの止
乳を目指す。止乳困難な例には、投与量を少なくするなどの配慮が必要である。
c.未受診妊婦(飛び込み分娩)の対応
わが国では現在は妊婦健診を受けている 99%以上の妊婦が妊娠初期に HIV 検査を受ける
ようになり、これらの妊婦において HIV 母児感染はほとんど見られなくなった。しかしな
がら未受診妊婦も少なからず存在するのが現実であり、現実にその中で HIV 母児感染が散
見される。これらの未受診妊婦が分娩前の HIV 一次検査で陽性となった場合が問題となる。
以下に未受診妊婦の問題点を列挙する。
・飛び込み分娩の多くは受診後、短時間で分娩に至る場合が多い。従って専門医療病院へ
紹介する余裕や帝王切開をする時間的余裕が無い場合が多い。
・真の HIV 陽性者はスクリーニング陽性の数%に過ぎない。
・真の HIV 陽性者(確認検査で陽性)か否かを分娩までに知る事がほとんどの場合でき
ない。
・AZT などの抗 HIV 薬を常備している施設は限られ、実際に投与できる機会が無い。
現実にはほとんどの場合において積極的な HIV 母児感染予防対策をとることがないまま、
経腟分娩を選択せざるを得ない場合が多いと思われ、スタンダート・プリコーションの徹底
妊婦および新生児の HIV 101
と、真の陽性であった場合には専門医療機関に紹介するなど、その後の速やかな対応が肝要
となろう。
本文の内容は「平成 22 年度 HIV 母子感染予防対策マニュアル第6版」から抜粋した。非常
に良くまとまってる冊子であり、詳細については別途参照されたい。
(周産母子センター 盛一 享徳、長 和俊 2011.09)
102 妊婦および新生児の HIV
10 小児の HIV 感染症
1
小児の抗 HIV 治療において考慮すべき重要項目
・小児の感染の大部分は周産期に起きる。妊娠女性が HIV に感染しているか否かを早期に発見
することが、母子感染をできる限り予防するためにも、感染小児に対する治療を適切に開始す
るためにも重要である。
・周産期感染児の多くは、子宮内や出産時 / 出産後に ZDV(AZV) 等の抗ウイルス薬への暴露を
受けている。
・周産期の感染は免疫系の発達過程において起こるので、免疫・ウイルスマーカーの動きや臨床
症状が成人とは異なる部分がある。
・発育への影響や神経系の異常などに注意を払う必要がある。
・成長に応じて薬の体内動態(分布・代謝・排泄)に変化が生じるので、薬の用量や毒性を個々
に評価する必要がある。
・投薬の際には、治療薬の剤形が小児に適切かどうかも考慮する必要がある。
・アドヒアランスの維持には保護者も含めて十分な教育が必要となる。小児の精神的成長がアド
ヒアランスの変動に影響しやすいことにも注意を要する。
2
HIV 感染児の臨床経過と症状
小児の HIV 感染はほとんどが周産期に起きるので、妊婦の HIV 感染を発見することが重要で
ある。これにより母子感染の予防を行うこと、感染児の早期診断・治療を行うことが可能となる。
HIV に感染した小児は成人より症状の進行が速く、早期診断・治療は重要である。
日本では両親の感染が判明していない場合、児の日和見感染症の遷延に伴い初めて診断される
可能性が高い。初期症状としてリンパ節腫脹、肝脾腫、発育不良、慢性下痢、リンパ性間質性肺
炎、鵞口瘡の遷延など、特に小児では繰り返す細菌感染(敗血症、重症肺炎、髄膜炎など)、慢
性の耳下腺腫脹、リンパ性間質性肺炎、早発の進行性神経障害が特徴的である。
これら小児の HIV 感染症は、N群(無症候)、A群(軽症)、B群(中等症)、C群(重症)に
臨床分類される(表1)
。また、CD4 陽性Tリンパ球数による免疫学的ステージング(表2)と
組み合わせることで、12 段階に細分類される(表3)。
表 1 小児 HIV 感染症の臨床分類(CDC,1994)
N群(無症候)
HIV 感染によると考えられる症候がない児
またはA群の症状のうち1つしかない児
以下の症状のうちの2つ以上を示すが、B群またはC群の症状を欠く児
・リンパ節腫脹(2か所以上で 0.5 ㎝以上。対称性は1か所とみなす)
・肝腫大
A群(軽 症) ・脾腫大
・皮膚炎
・耳下腺炎
・反復性または持続性の上気道感染、副鼻腔炎、中耳炎
小児の HIV 感染症 103
A群またはC群以外の症状を示す児。
以下は症状の例示であり、これのみに限定されない
・30 日以上続く貧血(<8g/dl)、好中球減少症(< 1000/μ
ℓ)、または血
小板減少症(< 10 万 /μ
ℓ)
・細菌性の髄膜炎、肺炎または敗血症(1回)
・6か月以上の児で2カ月以上続く口腔、咽頭カンジダ症
・心筋症
・生後1か月以前に発症したサイトメガロウイルス感染
・反復性または慢性の下痢
・肝炎
B群(中等症) ・反復性単純ヘルペスウイルス口内炎(1年以内に2回以上)
・生後1か月以前に発症した単純ヘルペスウイルス気管支炎、肺炎または
食道炎
・2回以上または2つの皮膚節以上の帯状疱疹
・平滑筋肉腫
・リンパ性間質性肺炎(LIP)または肺のリンパ過形成(PLH)
・腎症
・ノカルジア症
・1か月以上続く発熱
・生後1か月以前に発症したトキソプラズマ症
・播種性水痘
C群(重 症) AIDS の診断基準に含まれる症状(LIP を除く)
表2 年齢に応じた HIV 感染小児の CD4 陽性 T リンパ球数
(全リンパ球に対する比)による免疫学的ステージング(CDC,1994)
児の年齢
1歳未満 /μ
ℓ(%)
1- 5歳 /μ
ℓ(%)
6-12 歳 /μ
ℓ(%)
≧ 1500(≧ 25)
≧ 1000(≧ 25)
≧ 500(≧ 25)
500-999(15-24)
200-499(15-24)
< 500(< 15)
< 200(< 15)
カテゴリー1(正常)
カテゴリー2(中等度低下) 750-1499(15-24)
カテゴリー3(高度低下)
< 750(< 15)
表3 小児 HIV 感染症の分類
臨 床 分 類
免疫学的分類
N(無症候)
A(軽症)
B(中等症)
C(重症)
カテゴリー1(正常)
N1
A1
B1
C1
カテゴリー2(中等度低下)
N2
A2
B2
C2
カテゴリー3(高度低下)
N3
A3
B3
C3
104 小児の HIV 感染症
3
小児における HIV 感染症の診断
新生児のウイルス学的検査の中では、サブタイプBを検出する DNA PCR のデータが確立さ
れており、生後 48 時間以内に約 40%の症例で DNA PCR が陽性となり、1週目の検出率は同
レベルにとどまるものの、2週目になると検出率が上昇して、生後 14 日目には 90%以上の感
染児の診断が可能となる。生後すぐに行った検査が陰性だった場合は、生後 14~21 日目にも検
査を行うことが勧められる。RT-PCR による RNA 検査も DNA PCR 検査に近い感度があるこ
とが示されているので、RT-PCR 検査を行ってもよい。
HIV に感染した母から生まれた新生児は、①生後 48 時間以内、②生後 14 日~21 日③生後
1~2か月④生後4~6か月の4ポイントでウイルス学的検査を行うことが推奨される。母体血
による汚染がありうるので、臍帯血を用いて検査を行ってはならない。
ウイルス学的検査で陽性と判定された場合は、速やかに2度目の検査を行い確認することが
必要である。一方、生後 14~21 日目および1か月以降の2回以上の検査が陰性であれば、HIV
感染症の可能性はかなり低いと考えてよい。さらに、1か月目以降と4か月目以降の2回の検査
が陰性であれば、HIV 感染をほぼ否定できる。その場合にも、生後 12~18 か月の抗体検査で
陰性を確認することが望ましい。
血清学的検査は、母親からの移行抗体があるため感染スクリーニングには使えないが、生後6
か月以降で1か月以上間隔をおいた2回以上の HIV IgG 抗体検査が陰性であり、臨床的にもウ
イルス学的にも感染を示唆する所見がなければ、HIV 感染はほぼ否定できる。抗体陰性が確認
できない場合は、母親からの移行抗体が消失する生後 12 か月以降に検査を行うが、生後 12 か
月でも陽性と出る場合は、さらに生後 15~18 か月で検査を行う。生後 18 か月以降の抗 HIV
抗体陽性は、HIV 感染を示唆する。
4
小児における HIV 感染症のモニタリング
HIV 感染症のモニターとして、免疫状態の指標となる CD4 陽性Tリンパ球数(%)および
HIV 感染症の進行速度の指標となる血中ウイルス量(HIV RNA 量)がある。
① CD4 陽性Tリンパ球数
小児の CD4 陽性Tリンパ球数の正常値は年齢によって異なる(表2)。幼少児の CD4 陽性
Tリンパ球数は一般に成人よりも多く、6歳までに徐々に減少して成人レベルとなる。5歳
未満では絶対数よりも年齢によるばらつきの少ない CD4 陽性Tリンパ球パーセントを免疫学
的マーカーとして用いるほうがよい。HIV 感染が確認されたら直ちに CD4 陽性Tリンパ球数
(パーセント)を測定し、その後も3~4か月毎に測定することが勧められる。
② HIV RNA 量
小児では成人に比べて一般に HIV RNA 量が高い。周産期に感染した場合、通常出生時は
低いが
(< 10,000 コピー/ml)、その後生後2か月目まで急速に増加し ( 多くは 100,000 コピー
/ml 以上となる )、1歳以後の数年間でゆっくり減少してセットポイントに落ち着く。HIV
RNA 量が高い児のほうが病期の進行が速い傾向にあるが、12 か月未満では病気進行リスク
を示す HIV RNA 量の閾値を決めることは難しい。12 か月以降では 100,000 コピー/ml 以上
が高リスクと考えられている。
小児の HIV 感染症 105
5
HIV 感染児の治療の方針
平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV 感染症及びその合併症の課
題を克服する研究班」の抗 HIV 治療ガイドラインを引用する。なお、性感染が問題となる思春
期以降は成人のガイドラインが適応となる。
 抗 HIV 療法の開始時期
小児においても多剤併用治療は効果的であり、ウイルス増殖を抑制し免疫系の破壊を食い止め
て、日和見感染や臓器障害のリスクを減少させることができる。しかしながら、抗ウイルス薬に
は短期的あるいは長期的な副作用の問題があり、さらに小児に対する投与量や安全性に関する十
分なデータがあるとはいえない。また、治療に当たってはアドヒアランスの維持が確保できるこ
とが絶対条件であり、治療薬に対して耐性のウイルスがひとたび出現すれば、将来の治療法の選
択が制限されることも認識しておく必要がある。
ヨーロッパと米国の8つのコホートと9つの臨床試験によるメタアナリシスによれば、1歳を
越えてからは CD4 パーセントが 25%以上であれば1年以内の AIDS 発症は 10%未満にとどま
り、死亡率も2%未満となっているが、1歳以下の乳児の AIDS 発症・死亡のリスクは CD4 パー
セントが 25%以上あってもかなり高い。また、全ての年齢層で、CD4 パーセントが 15~20%
以下となると、AIDS 発症のリスクが高まる。
1歳未満の乳児では病気の進行が速く、また検査値から病気進行のリスクを明確に予測できな
いことから、検査値にかかわらず治療が考慮される。1歳以上の児では年齢層によって治療開始
判断の根拠となる検査値が異なってくる。
〈12 か月未満の乳児に対する抗 HIV 治療〉
病気進行のリスクは1歳以下の乳児で明らかに高いことが分かっているものの、この年代の乳
児の病気進行リスクを判断するための信頼性のある検査値がないのが現状である。CD4 パーセ
ントが低く、HIV RNA 量が高いほど進行が速い傾向はあるものの、進行群と非進行群のあいだ
にはかなりの重なりがみられることから、これらの検査値から一概にリスクを判断することはで
きない。
全体に AIDS 発症や死亡のリスクが高いことを考慮すれば、1歳未満の小児に対しては、臨床
症状や免疫学的ステージング、HIV RNA 量にかかわらず、診断がなされたら直ちに抗 HIV 治
療を開始すべきだと考えられる。1歳未満で治療を開始し、リスクの高い乳児期を乗り切ったあ
とに、戦略的な治療中断が可能かどうかに関しては、現時点ではデータがない。
〈12 か月以上の小児に対する抗 HIV 治療〉
1歳を越えると、AIDS の進行は1歳以下の乳児よりも遅くなってくるので、治療を遅らせる
というオプションが考慮される。臨床症状を伴う場合は、免疫学的・ウイルス学的パラメーター
の如何にかかわらず治療を行うのが一般的であるが、小児でどの程度の症状が出現したら治療が
必要かの明確な判断材料はない。現在の米国のガイドラインでは、AIDS の症状を有する(臨床
分類C群)か、中等症の HIV 関連症状を有する(臨床分類B群、ただし LIP と1回のみの細菌
感染症を除く)場合には治療を開始するとしている。免疫学的パラメーターに関しては、5歳未
満では CD4 パーセントが 25%未満、5歳以上では CD4 数が 350/μℓ未満での治療が推奨され
ている。CD4 パーセントが 25%以上では、HIV RNA 量が 10 万コピー/ml を超えない限り治
106 小児の HIV 感染症
療を待機する。
小児に対する HIV 療法では、服薬が遵守されているかどうかに細心の注意を払う必要がある。
幼少児は服薬にあたって保護者に依存する。処方内容をよく理解させるため、治療を決定するプ
ロセスに保護者と患児をいっしょに参加させ、アドヒアランスの重要性をよく説明し、治療開始
後も頻回に服薬状況を観察する必要がある。
表4 小児 HIV 感染症の治療開始の適応基準
年 齢
基 準
治療推奨
1歳未満
臨床症状や免疫・ウイルスマーカーの如何に関わらず
治療
AIDS もしくは HIV 関連症状のB群(注1)/ C群
治療
症状の如何に関わらず、CD4 < 25%
治療
無症状か軽微な症状(注2)で、
CD4 ≧ 25%であるが、
VL ≧ 100,000 コピー/mL
治療
無 症 状 か 軽 微 な 症 状( 注 2) で、CD4 ≧ 25 % か つ
VL<100,000 コピー/mL
考慮または待機 ( 注3)
1歳以上
5歳未満
5歳以上
AIDS もしくは HIV 関連症状のB群 ( 注1)/ C群
治療
無症状か軽微な症状(注2)で、CD4<350/μ
ℓ(注3)
治療
無症状か軽微な症状(注2)で、CD4 ≧ 350/μ
ℓであるが、
VL ≧ 100,000 コピー/mL
治療
無症状か軽微な症状(注2)で、CD4 ≧ 350/μ
ℓかつ
VL<100,000 コピー/mL
考慮または待機 ( 注3)
(注1)重篤な細菌感染症が1回のみかリンパ球性間質性肺炎 (LIP) は除く
(注2)表3のA群、N群、あるいは、B群でも重篤な細菌感染症が1回のみかリンパ
様間質性肺炎のみ
(注3)臨床所見・検査所見は3~4ヶ月ごとにフォローする
 治療薬の選択と小児用量
小児 HIV 感染症においても抗 HIV 薬3剤以上の併用療法を行い、ウイルスの複製をできるだ
け抑え込むのが基本である。現在の初回治療の原則は、成人と同様、バックボーンの NRTI 2
剤に NNRTI もしくは ritonavir でブーストした PI をキードラッグとして組み合わせる3剤併
用療法である。
AZT の単剤投与は、HIV 感染の有無が不明の生後6週未満の新生児感染予防に限るべきであ
り、ひとたび感染が確認された場合は直ちに多剤併用治療を開始すべきである。治療を遅らせる
場合でも、AZT 単剤投与は中止すべきである。米国では治療開始前の小児が薬剤耐性ウイルス
を持っている頻度が上昇してきており、初回治療を開始する前から薬剤耐性検査を行うことが推
奨されている。
表5に現在推奨される治療薬の組み合わせ、表6に各治療薬の小児用量、留意点などをまとめ
たものを示す。
小児の HIV 感染症 107
表5 小児 HIV 感染症の初期治療に推奨される治療薬の組み合わせ
〈推奨される治療〉
非核酸系逆転写酵素阻害薬 (NNRTI) を含む組み合わせ
推奨処方:2NRTIs(*)+EFV(3歳以上)
2NRTIs(*)+NVP(3歳未満)
代替処方:2NRTIs(*)+NVP(3歳以上)
プロテアーゼ阻害薬 (PI) を含む組み合わせ
推奨処方:2NRTIs(*)+LPV/r
代替処方:2NRTIs(*)+rtv ブーストの ATV(6歳以上)
2NRTIs(*)+rtv ブーストの DRV(6歳以上)
2NRTIs(*)+rtv ブーストの FPV(6歳以上)
特別な事情でのみ選択される組み合わせ
2NRTIs+ブーストなしの FPV(2歳以上)
2NRTIs+ブーストなしの ATV(13 歳以上かつ 39kg 以上の未治療の青少年のみ)
2NRTIs+NFV(2歳以上 )
AZT+3TC+ABC
(*)核酸系逆転写酵素阻害薬 (NRTI) の組み合わせ方
推奨処方:ABC+(3TC or FTC)、ddI+(3TC or FTC)、AZT+(3TC or FTC)
(Tanner Stage 4 以降 / 思春期以降では TDF+(3TC or FTC) も)
代替処方:AZT+(ABC or ddI)
特殊な事情でのみ選択:d4T+(3TC or FTC)
〈推奨できるだけのデータがないもの〉
NRTI+NNRTI+PI
ETR、MVC、RAL、ENF
〈推奨されないもの〉
ダブル PI、ダブル NNRTI、SQV、IDV、RTV(full dose)、妊娠第1三半期または妊娠する可能
性のある女性における EFV
思春期後で CD4 > 250 の女子と CD4 > 400 の男子における NVP(重篤あるいは致命的肝障
害のリスク)
2歳以下での NFV
単剤治療(例外として、ウイルス検査が陰性の HIV 曝露新生児に、感染予防として6週間の
みの使用は可)
Tannner Stage I-III での TDF
ブーストなしの SQV、DRV、TPV
以下の NRTI 単独治療
TDF+ABC+(3TC or FTC)、TDF+ddI+(3TC or FTC)
以下の組み合わせを含むレジメン
3TC+FTC、AZT+d4T
108 小児の HIV 感染症
表6 小児の抗 HIV 治療薬
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
国内で
薬剤名(商品名) 利用できる
小児用剤形
ジドブジン
(レトロビル)
AZT,ZDV
注射薬*
シロップ*
小 児 へ の 投 与 量
〈未熟児(30 週以前)〉
1.5mg/kg IV を 12 時間毎、あるいは 2mg/kg PO を 12 時間毎、
生後4週以降は同量を8時間毎
〈未熟児 (30 週以後 )〉
1.5mg/kg IV を 12 時間毎、あるいは 2mg/kg PO を 12 時間毎、
生後2週以降は同量を8時間毎
〈新生児(生後6週まで)〉
2mg/kg PO を 6 時間毎、あるいは 1.5mg/kg IV を6時間毎
〈小児(生後6週から 18 歳〉
240mg/㎡PO を1日2回あるいは 160mg/㎡ PO を1日3回、注
射薬の場合は 120mg/㎡ IV を6時間毎か 20mg/㎡/h で持続投与
*体重換算の用量調節も可能:4-9kg では 12mg/kg、9-30kg
では 9mg/kg、30kg 以上は 300mg を1日2回 PO
ジダノシン
(ヴァイデックス) 粉末*
ddI
〈新生児/乳児 ( 生後2週~8か月 )〉
100mg/㎡を 12 時間毎となっているが、4ヶ月以前につい
ては 50mg/㎡を 12 時間毎でよい
〈小児(8か月以降)〉
120mg/㎡を 12 時間毎
*6~18 歳の体重 20 ㎏以上の児でヴァイデックス EC を飲め
るようになったら、体重 20-25kg は 200mg を 1 日 1 回、体
重 25-60kg は 250mg を 1 日 1 回、体重 60kg 以上は 400mg
を1日1回
ラミブジン
(エピビル)
3TC
〈新生児 ( 生後 30 日まで )〉
2mg/kg を1日2回
〈小児〉
4mg/kg を1日2回(体重 14kg 以上の児では 150mg 錠を
半割使用などでの投与換算も可能)
液剤*
エムトリシタビ
生後3か月未満の児への投与は現在認められていない
ン
(米国では 小児(3か月以降)6mg/kg を1日1回(最大 240mg まで)
( エムトリバ )
液剤あり)
*体重 33kg 以上では 200mg cap.1日1回
FTC
〈新生児(生後 13 日目まで)〉
0.5mg/kg を1日2回
スタブジン
〈小児(14 日以降)体重 30kg 未満〉
(ゼリット)
液剤*
1mg/kg を1日2回
d4T
〈小児(14 日以降)体重 30kg 以上〉
30mg を1日2回
アバカビル
(ザイアジェン)
ABC
テノホビル
(ビリアード)
TDF
液剤*
生後3か月未満の児への投与は現在認められていない
〈小児(3か月以降)〉
8mg/kg を1日2回(最大 300mg を1日2回まで)
*思春期には 300mg を1日2回(成人用量)でよい
*HLA-B * 5701 の検査をしてからの使用を米国では推奨
18 歳未満での使用は現在認められていない
(2~8歳で 8mg/kg、8歳以上で 210mg/㎡を1日1回での
研究が進行中)
*小児でのデータは不十分
小児の HIV 感染症 109
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
国内で
薬剤名(商品名) 利用できる
小児用剤形
ネビラピン
(ビラミューン )
NVP
小 児 へ の 投 与 量
〈新生児(14 日未満)
〉
母子感染予防のために使用する場合は生後3日までに 2mg/kg
を1回のみ
〈小児(15 日以降)〉
150mg/㎡( 最 大 200mg) を 1 日 1 回 で 14 日 間、 つ い で
150-200mg/㎡を1日2回(最大 200mg を1日2回)(最初の
シロップ*
2週間は半量で開始し、皮疹などの副作用がないことを確認
後にフルドーズに上げる)
*150mg/㎡を 12 時間毎が標準的だが、8歳以下ではより高
用量を要するかもしれない。ただし1日量が 400mg を超え
てはならない
新生児・乳児では投与を認められていない
〈小児(3歳以上)〉
10kg 以上 15kg 未満:200mg を1日1回
15kg 以上 20kg 未満:250mg を1日1回
20kg 以上 25kg 未満:300mg を1日1回
25kg 以上 32.5kg 未満:350mg を1日1回
32.5kg 以上 40kg 未満:400mg を1日1回
40kg 以上:600mg を1日1回
エファビレンツ
(ストックリン)
EFV
デラビルジン
(レスクリプター)
DLV
小児への投与は認められていない
プロテアーゼ阻害薬(PI)
国内で
薬剤名(商品名) 利用できる
小児用剤形
RTV ブーストが必要
小児での使用は認められていない
16 歳以上では成人用量での使用を考慮可
サキナビル
(インビラーゼ)
SQV
1歳未満での使用は認められない
〈小児(1歳以上)〉350-400mg/㎡を 1 日 2 回
(嘔吐の副作用を避けるため 250mg/㎡で始めて、5日間かけ
て増量)
リトナビル
(ノービア)
RTV
インジナビル
(クリキシバン)
IDV
ネルフィナビル
(ビラセプト)
NFV
ロピナビル ・
リトナビル配合剤
(カレトラ)
LPV/r
小 児 へ の 投 与 量
小児での使用は認められていない
粉末*
2歳未満では薬剤血中濃度に個人差が大きいため推奨されない
〈小児(2歳から 13 歳)〉
45-55mg/kg を1日2回、あるいは 25-35mg/kg を1日3回
(薬剤血中濃度の個人差が大きいことに注意)
液剤
〈乳児(14 日以上6ヶ月未満〉LPV で 300mg/㎡を1日2回
(EFV、NVP、FPV、NFV との併用はデータがなく勧められない)
〈小児(6か月以上 18 歳以下〉
LPV で 230mg/㎡を1日2回(最大量 400mg を1日2回)
*NPV、EFV、FPV、NFV を 併 用 す る 場 合 は、LPV 換 算 で
300mg/㎡を1日2回(最大量 600mg を1日2回)
110 小児の HIV 感染症
6歳未満の小児への適切な投与量のデータは不十分。また、
3か月未満では高ビリルビン血症のリスクのため使用すべき
ではない。
〈小児(6歳以上 18 歳以下)〉下記を1日1回食事とともに
15kg 以上 25kg 未満:ATV 150mg+RTV 80mg
25kg 以上 32kg 未満:ATV 200mg+RTV 100mg
32kg 以上 39kg 未満:ATV 250mg+RTV 100mg
39kg 以上:ATV 300mg + RTV 100mg
(13 歳以上かつ 39kg 以上の小児の初期治療では、RTV を服用
できない場合、ATV400mg も可だが、RTV 併用を推奨する)
アタザナビル
(レイアタッツ)
ATV
ホスアンプレ
ナビル
(レクシヴァ)
FPV
新生児 / 乳児では使用を認められていない
〈小児(2- 5歳)〉30mg/kg(最大 1400mg)を1日2回
〈小児(6-18 歳)〉
米国には
初 回 治 療:30mg/kg( 最 大 1400mg)を1日2回 あ るい は
液剤あり
18mg/kg(最大 700mg)+RTV 3mg/kg(最大 100mg)を1日2回
初回以外:18mg/kg(最大 700mg)+RTV 3mg/kg(最大
100mg)を1日2回
ダルナビル
(プリジスタ)
DRV
米国には
75mg 錠あ
り
6歳以上かつ 20kg 以上の児では、75mg 錠を組み合わせて1
日2回での投与が可能
*は厚生労働省エイズ治療薬研究班より入手可能
 治療薬の変更
治療変更が考慮されるのは、治療の失敗、副作用や服薬困難、他のレジメンの方が現在のレジ
メンよりも優れているという新しいデータが示された場合などである。
このうち治療の失敗は、ウイルス学的・免疫学的・臨床的の3つの指標から判断され、通常は、
まずウイルス学的失敗が最初に起き、続いて免疫学的な指標の低下が起きて、最終的に臨床的な
失敗へとつながる。しかし小児では、ウイルス学的失敗の判断が成人以上に難しい。これは、小
児(特に乳児)の HIV RNA 量が成人と比べると高く、ウイルス量の減少に時間を要することと、
強力な治療を行っていても血漿中 HIV RNA 量を検出感度以下にできないことがしばしばある
ことによる。HIV RNA 量が 1,000 から 50,000 コピー/ml で検出され続けている治療児でも、
高い CD4 パーセントを保てて、臨床的に良い経過をたどっていることもある。しかし、ウイル
スの複製を十分に抑えきれていなければ、耐性変異の獲得リスクは高まると考えられ、どの程度
のウイルス量が持続して残存することまでを許容するかに関しては、専門家のあいだでもまだ議
論がある。
表7に現在の米国のガイドラインが提唱する治療変更の判断指標を示す。治療失敗の判断は慎
重に行う必要があり、1回の検査値だけで判断してはならない。
小児の HIV 感染症 111
表7 小児 HIV 感染症において治療変更を考慮する場合
ウイルス量による判断
(1週間以上の間隔をおいた
2回以上の検査値を見て判
断する)
免疫学的側面からの判断
(1週間以上の間隔をおいた
2回以上の検査値を見て判
断する)
臨床的側面からの判断
・治療によるウイルス量の低下が不十分
治療開始8-12 週後においてもウイルス量がベースラインか
ら 1.0log10 以上減少しないか、治療開始後6ヶ月してもウイ
ルス量が 400 コピー/ml 未満にまで減少しない場合。
・ウイルス量の再上昇
いったん検出感度以下にまで減少した HIV RNA が、たびた
び検出されるようになった場合。
ときに 1000 コピー/ml 未満の低いウイルス量が検出される
ことはよくあるので、ウイルス学的失敗と考えなくてもよ
いが、1000 コピー/ml を超えるウイルス量が続けて検出さ
れたときはウイルス学的失敗を疑う(ただし、5000 コピー
/ml 以下の上昇にとどまっている場合、とりわけ治療の選
択肢の限られている児では、慎重に経過をみることもある。
繰り返し HIV RNA が検出されたり、値が上昇したりすると
きは、耐性ウイルスの出現やアドヒアランス不良を疑う)。
・治療による免疫の改善が不十分
高度の免疫低下(5歳未満では CD4 < 15%)がある患児で、
最初の1年間の治療で CD4 陽性Tリンパ球%が5%以上改
善しない場合(5歳以上では、絶対数で 50/μ
ℓ以上の改善
が最初の1年でみられない場合)。
・免疫低下の持続
5%以上の CD4 陽性Tリンパ球の減少が持続する場合(5
歳以上では、CD4 陽性Tリンパ球の絶対数が治療前のベー
スラインよりも低下する場合)。
・進行性の神経発達遅延。
・栄養が十分なのに成長障害(体重増加速度の持続的低下)
が認められる場合。
・AIDS 指標疾患の再燃・持続や、他の重大な感染症が見られ
る場合。
 変更する治療薬の内容
治療が失敗した場合には、アドヒアランスの不良、体内の治療薬濃度が適切な値に達していな
い、使用している薬がウイルスを抑えられなくなっている(薬剤耐性ウイルスの出現)などの原
因が考えられ、何が原因なのかをまず検討することが必要である。アドヒアランスの不良は、治
療がうまくいかない場合に第一に検討すべき事項であり、最も多い原因でもある。小児では薬の
体内レベルの個人差が大きいことも原因となりえる。可能ならば、薬剤の血中濃度をモニターす
ること(TDM)も考慮したい。
副作用や服薬不良が原因で治療薬を変更する際には、異なる副作用の薬剤を選ぶ。服薬が良好
であるにもかかわらず治療効果が十分でないときは、効果が不十分な原因と今までに使われた薬
の種類を検討し、薬剤耐性検査を行ったうえで新たな治療薬を選択することになる。新たな処方
も、できるかぎり有効な薬剤を併用することで、ウイルス量をしっかり抑えるようにすべきであ
る。多剤耐性により治療が困難となり、臨床的な病期も進行している場合には、患児の QOL も
考慮して治療内容を話し合うことも必要となる。
治療薬を変更する際は、再度保護者も含めて処方内容を遵守についてよく話し合う必要がある。
また、変更後も頻回に服薬状況を確認する必要がある。
112 小児の HIV 感染症
 ニューモシスチス肺炎予防
HIV 感染乳児だけでなく、HIV に感染した母親から生まれた児は生後4~6週でニューモシ
スチス肺炎の予防を開始し、HIV 感染が完全に否定されるまで継続する。感染が判明した場合
には年齢と CD4 陽性Tリンパ球の数または%により継続の是非を判断する。
1歳未満:CD4 陽性Tリンパ球数(%)にかかわらず全例
1~5歳:CD4 陽性Tリンパ球数(%)< 500/μℓまたは< 15%
6歳以上:CD4 陽性Tリンパ球数(%)< 200/μℓまたは< 15%
ST 合剤を TMP として 150mg/㎡/ 日(最大 320mg/ 日)、分2(3投4休または連日)で
内服する。なお、母子感染予防として AZT 投与中の児に対しては白血球減少の増悪を考慮し、
AZT 中止後の ST 合剤投与が推奨される。
 ガンマグロブリン補充療法
1年に2回以上の重症細菌感染症を繰り返す症例やガンマグロブリン低値(IgG < 400mg/
dl)の症例では,2次感染予防目的でのガンマグロブリン補充療法が推奨される。400mg/kg
を2~4週間毎に投与する。
 HIV 感染小児の予防接種
原則として生ワクチン(ポリオ、BCG)は接種しない。米国ではポリオは不活化ワクチンを
接種し、麻疹・風疹・ムンプスは MMR(measles,mumps,rubella)の形で1歳以降に高度
免疫低下(免疫学的ステージング3)の児以外に接種している。水痘ワクチンも1歳以降に高度
免疫低下(免疫学的ステージング3)の児以外に3か月間をあけて2回接種している。
全ての不活化ワクチン(3種混合(DTP)ワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワ
クチン、Hib ワクチン等)は HIV に感染していない児と同様に通常のスケジュールで接種して
よい。
麻疹・水痘接触時には、予防接種の有無に関わらず免疫グロブリン投与による発症予防を行う。
(感染制御部:石黒 信久 2011.08)
小児の HIV 感染症 113
11 眼科の HIV 感染症
1
サイトメガロウイルス網膜炎
HIV 感染症・AIDS における日和見感染症の中で、サイトメガロウイルス網膜炎が最も合併率
が高い(20~40%)と言われている。20~50%が両眼性である。末期、特に CD4 陽性リンパ
球数が 50/μℓ以下での発症頻度が高い。放置すると進行し、失明率も高い。従って、HIV 感染
症の治療経過中には、無症状であっても定期眼科受診が必須となる。初診時に CD4 陽性リンパ
球数が 200/μℓ以下ならばできるだけ早期の眼科受診が必要である。
末梢血 CD4 陽性細胞数による眼科受診のめやす
CD4 陽性細胞数
細胞数定期眼科受診検査
CD4 < 50/μ
ℓ
毎月一回
50/μ
ℓ< CD4 < 100/μ
ℓ
2カ月毎
100/μ
ℓ< CD4 < 200/μ
ℓ
3カ月毎
200/μ
ℓ< CD4
6カ月毎
 診断
特徴的な眼底所見に加えて、前房水、硝子体液からの PCR 法によるサイトメガロウイルス
DNA の検出
血液中のサイトメガロウイルス抗原(C7-HRP など)の検出(アンチゲネミア)
 治療法
1 全身投与
a)
ガンシクロビル点滴静注
初期導入療法 5mg/kg を1日2回、2~3週間
維持療法 2.5~6mg/kg を1日 1 回、週に5~7日間
副作用:骨髄抑制など
b)
バルガンシクロビル内服
初期導入療法1回 900mg(450mg 錠2錠)を1日2回、2~3週間
維持療法1回 900mg(450mg 錠2錠)を1日1回、週に5~7日間
副作用:骨髄抑制など
c)
ホスカルネット点滴静注
初期導入療法 60mg/kg を1日3回、2~3週間
維持療法 90mg/kg を1日1回、継続
副作用:腎障害
2 局所療法
全身投与の補助療法としておこなう。全身投与のみでは効果不十分な症例、全身投与が副
作用により継続困難となった症例におこなわれる。眼内で有効な薬剤濃度が得られるため有
効性が高い。単独では、他臓器または僚眼への CMV 感染症の発症予防、治療効果が望めない。
副作用:網膜剥離、硝子体出血、感染性眼内炎
a)
ガンシクロビル硝子体内注入
114 眼科の HIV 感染症
ガンシクロビル 200~400 /100μℓを1~3回/週
b)
ホスカルネット硝子体内注入
ホスカルネット 1200~2400 /100μℓを1~3回/週
c)
徐放性ガンシクロビル眼内埋植
一度の眼内埋植で約8カ月間一定の濃度が維持される。日本ではおこなわれていない。
2
免疫再構築症候群(IRS)
HAART 療法(Highly Active Anti-Retroviral Therapy)により CD4 細胞数の増加、免疫
系の回復が見られようになったが、その過程で潜伏していた病原体に対して強い免疫反応を示す
症候群である。眼科的には主に網膜に感染しているサイトメガロウイルスに対する免疫反応とし
て免疫再構築ぶどう膜炎としてみられ、硝子体混濁、嚢胞様黄斑浮腫を生じうる。
治療はサイトメガロウイルスに対する抗ウイルス剤に加えてステロイド薬の全身・局所投与を
行うが、確立されたものはない。重症な場合には一時的に HAART 療法を中断する必要がある。
3
梅毒性ぶどう膜炎
多彩な炎症所見を示し、それらは非特異的である。従って眼所見から梅毒を疑うことは難しい。
血清学的検査の結果からこの疾患を疑い、ペニシリン系抗生物質への反応性から診断する。
アモキシシリン内服 1回 500mg を1日3回 4~8週
重症例では
ベンジルペニシリンカリウム 点滴静注 1回 200~400 単位を1日6回 10 日~2週
4
進行性網膜外層壊死(PORN)
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の日和見感染によって生じる。
霧視、視力低下が主訴であるが、初期には自覚症状がないことも多い。
両眼に発症することも多く、眼底周辺部の網膜深層、やがて網膜全層に白色~黄白色斑が多発
し、進行とともに癒合拡大していく。
急速に進行し治療に抵抗性で、高率に網膜剥離を合併して失明に至ることが多い。
診断:前房水、硝子体液からの PCR 法による VZV DNA の検出
治療法:有効な治療手段は確立されていない。以下の治療をおこなうが抵抗性である。
 アシクロビル全身投与
初期療法 30mg/kg/day、24 時間持続点滴、2~3週間
維持療法 4000mg/5x 内服
 ガンシクロビル局所投与
硝子体内注入:ガンシクロビル 200~400 /50μℓを硝子体内へ注入
眼科の HIV 感染症 115
5
カポジ肉腫
性状:眼瞼;平坦な深紅色の腫瘍、結膜;赤色の粘膜下腫瘤
症状:無症状のことが多い。
鑑別:粘膜下出血、肉芽腫、霰粒腫。病理組織学的検査が必要である。
治療:放射線照射、化学療法
表1. HIV 感染者にみられる眼病変
1.微小網膜血管障害
網膜綿花様白斑、網膜出血、網膜毛細血管瘤
2.日和見感染
サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、結核、カンジダ、クリプトコッカス、トキ
ソプラズマ、梅毒、カリニ肺炎
3.悪性腫瘍
カポジ肉腫、バーキットリンパ腫
4.神経眼科学的異常
眼球運動障害、視野欠損、瞳孔異常、乳頭浮腫、視神経萎縮
(眼科 南場 研一 2011.09)
116 眼科の HIV 感染症
12 HIV 感染症と精神疾患
1
HIV 陽性者に認められる精神障害について
HIV 陽性者 /AIDS 患者では、精神障害の合併は服薬アドヒアランスを低下させる因子として
重視されている。HIV 感染者では心理社会的ストレスに起因する精神障害をしばしば認めるが、
それに加えて、以前より存在する気分障害などの精神障害、HIV 感染の中枢神経系への直接的
影響、抗 HIV 薬による精神症状などを適切に評価する必要がある。以下に HIV 陽性者で認めら
れる精神障害について概説する。
 適応障害
適応障害は感染告知、抗 HIV 薬服薬開始、耐性ウイルス出現、AIDS 発症などのストレス
を原因として引き起こされることが多く、その中でも感染の告知は HIV 陽性者 /AIDS 患者に
とっては危機的な状況となることに留意すべきである。しかし、治療法の発展による予後の改
善に伴い、抗体陽性の告知による衝撃、死への恐怖などがストレス因子となることは減少した。
多くの感染者は通院治療が可能となり、社会との接点も増加したが、この結果、外来通院治療
での厳密な服薬や、学校・職場での対人関係における悩みなど、慢性疾患を抱えながら社会生
活を送る患者としてのストレスが増大して来ている。
HIV 感染者は、がんの告知などとは明らかに異なる心理・社会的特殊性を持っている。そ
の一例として、HIV 陽性者 /AIDS 患者が感染者であると同時に感染源であることによる近親
者への感染の恐れ、感染の原因となった行動に対して自責的となったり家族やパートナーに対
して他罰的となったりすること、家族や学校、職場などで感染を打ち明けにくいことなどが挙
げられる。このため HIV 陽性者 /AIDS 患者は心理・社会的サポートを受けにくく、医師、看
護師、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどの医療スタッフからのサポートが必要である。
診断に際しては、第一に身体症状の影響を考慮し、これを除外する必要がある。無症候性の
HIV 感染あるいは CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以上の患者の場合には、適応障害の評価と
診断は比較的容易であるが、HIV 感染症が進行し、症候性 HIV 感染あるいは CD4 陽性リン
パ球数が 500/μℓ未満となった場合には、可能性のある二次性の原因を考え、慎重に診断を見
極めなければならない。HIV 感染症の症状は、呼吸困難・下痢・めまい・吐き気・発汗・振
戦など自律神経症状と重複することがあり、薬物の副作用によって時に不安障害と診断される
ような焦燥感・不安・身体不定愁訴を引き起こすこともある(表1)。代謝性障害、特に貧血・
低酸素血症・低血糖は不安を引き起こす。
治療については、ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬の短期間の使用は急性ストレス障害や適
応障害に有効であるが、HIV associated dementia(HAD)や頭蓋内器質性疾患、あるいは
せん妄がある場合には、ベンゾジアゼピンの高用量使用で認知機能、運動機能における副作用
を起こす危険性がある。
 物質関連障害
本邦では、HIV 感染者における物質関連障害、パーソナリティ障害の頻度は低いとされるが、
物質関連障害に伴う行動上の問題は、HIV 感染者に対する適切な医療ケアを難しくしたり妨
げたりすることがある。物質関連障害の診断や治療は、患者が物質使用を否定したり、中毒や
HIV 感染症と精神疾患 117
離脱症候群が他の精神障害と症候学的に重複していたりするために困難なこともある。また、
物質関連障害は以前から罹患している精神障害、HAD、せん妄、大うつ病、睡眠障害、疼痛
症候群などを悪化させることがある。
物質関連障害を認める HIV 感染者の治療や管理では、臨床的に離脱症候群の出現が予測さ
れれば予防や治療を行う必要がある。物質への依存や乱用、中毒が認められた場合は、患者に
回復を促す必要があり、包括的依存症治療プログラムへの参加が必要とされることもある。物
質関連障害から回復している場合でも、入院のストレスから物質再使用に至ることもあるので、
寛解の維持に焦点を当て注意していかなければならない。但し、疼痛コントロールに関しては
適切に行われるべきであり、物質中毒患者であっても麻薬系鎮痛薬の使用を躊躇すべきではな
い。
 パーソナリティ障害
パーソナリティ障害とは、その人の置かれた社会・文明の中で、一個の人格として期待され
る適切な人間関係が持続的に保てず、社会的機能ないし職業への従事に顕著な制約が長期間続
き、社会不適応に陥るものである。本人に問題意識がなく、周囲を悩ませることもあるため、
問題化することが時に見られるが、HIV 感染に関連した症状性・器質性精神障害やその他の
精神障害においても、一時的あるいは反応性にパーソナリティ障害様の状態を呈することがあ
り、診断には慎重を期すべきである。患者の横断像つまり現在の状態だけから診断することは
出来ず、注意深い縦断的観察が不可欠となる。
パーソナリティ障害への対応に際しては、正しい理解のもと適度に肯定的に関わる姿勢、互
いの意図、役割、目標を明確にし、共同作業を心がけること、チームやネットワークによる治
療・援助などが重要と考えられる。薬物療法は補助的または併存症への対症療法に過ぎず、抗
精神病薬や気分安定薬、抗うつ薬、抗不安薬などが使用されるが、過量服薬や依存の問題、衝
動性を高めるリスクも考慮し、特に抗不安薬の安易な処方は避けるべきである。
 気分障害
(うつ病)
無症候性の HIV 感染者あるいは CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以上ある患者においては二
次性の気分障害は除外できるが、HIV 感染が症候性となり CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ未
満になると大うつ病の診断は複雑化する。
不眠・倦怠感・食欲不振など大うつ病による自律神経系の症状と HIV による症状は重なる
部分があり、また薬剤の副作用(表1)や HIV 合併症・HAD などによる二次性の気分障害
の可能性も考慮されるので、薬剤の影響や HIV の病期を評価する必要がある。進行した HIV
感染に伴って生じる内分泌・神経系の障害には、二次性の気分障害を引き起こしたり、病前
からの気分障害を悪化させるものがあり、症候性 HIV 感染あるいは CD4 陽性リンパ球数が
500/μℓ未満の場合には、血液学的検査、電解質、空腹時血糖、肝機能、甲状腺機能、ビタミ
ン B12、遊離テストステロン、血清学的梅毒検査などが必要である。
うつ病と診断し、抗うつ薬を使用する場合には、HIV 治療薬との薬物相互作用に十分な注
意が必要である(表2)。薬剤選択に当たっては、過鎮静や認知機能障害を起こしやすいもの
は避ける必要があり、現状ではセルトラリンやエスシタロプラムなどが推奨されるが、実際の
処方に際しては精神科への相談が望ましい。
118 HIV 感染症と精神疾患
(躁 病)
HIV 感染者において新たに発症した躁病は、二次性のものを疑うべきである。病期や CD4
陽性リンパ球数に関係なく、二次性躁病の原因として考えられるものは、薬物中毒と離脱、抗
HIV 薬の副作用である(表1)。症候性 HIV 感染者あるいは CD4 陽性リンパ球数 500/μℓ未
満の患者における二次性躁病の原因としては、HAD、トキソプラズマ脳症・クリプトコッカ
ス髄膜炎・非ホジキンリンパ腫など中枢神経系への日和見感染症と腫瘍、薬物の副作用などが
挙げられる。二次性のものが疑われた場合には、脳画像検査や脳脊髄液検査の実施を検討する
必要がある。
抗精神病薬や炭酸リチウムによる薬物療法は、HIV 感染者における躁病に有効であるが、
脳萎縮などの器質的異常がある場合には副作用が起こりやすいことが指摘されている。炭酸リ
チウムを投与する場合には、HIV 感染症では脱水・下痢などを来しやすいため、リチウム中
毒を防ぐために慎重な血中濃度測定が必要である。抗精神病薬の使用に際しては、進行した
HIV 感染患者では錐体外路系の副作用が出現しやすく、また意識混濁や過鎮静の危険性も高
いため注意を要する。抗精神病薬の中では、オランザピンが副作用などの点から比較的使用し
やすい薬剤と考えられるが、糖尿病やその既往がある場合には禁忌であるため注意を要する。
バルプロ酸を使用する場合には、肝機能および血小板数のモニタリングを行う必要がある。
 睡眠障害
睡眠障害は HIV 感染者の 30~40%に見られ、それらは HIV 感染症の進行度、持続的な疼痛、
心理社会的問題などと関連がある。その他には睡眠時無呼吸、うっ血性心不全、発作性夜間呼
吸困難、胃食道逆流、多尿、せん妄、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害なども不眠の原
因となり得る。抗ウイルス薬、インターフェロン、精神刺激薬、抗うつ薬、気管支拡張薬など
の薬剤やアルコール、カフェイン、ニコチンなどの使用も睡眠に影響を及ぼす可能性がある。
また、うつ病、不安障害、適応障害、急性ストレス障害などの精神障害や、ライフイベントに
直面した際にも正常な睡眠は障害され得る。加えて、失業などによる生活リズムの乱れや午睡
などによって、睡眠覚醒リズムの昼夜逆転に陥ることもある。
不眠の改善を目的とした向精神薬の使用に際しても、薬物相互作用(表2)や身体状況に配
慮した選択が必要であり、特にトリアゾラムは多くのプロテアーゼ阻害薬との併用が禁じられ
ており使用は控えるべきである。
 せん妄
せん妄は、入院中の AIDS 患者に良く認められる合併症である。無症候性の HIV 感染者あ
るいは CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以上ある患者においては、HIV に関連してせん妄が引
き起こされることは稀であり、この時期には薬物中毒や離脱によるせん妄を強く疑うべきであ
る。AIDS を発症した進行期にある感染者または CD4 陽性リンパ球数が 100/μℓ未満に低下
した患者では、HIV に関連する身体疾患や薬剤による副作用がせん妄の原因として最も多い
が、薬物中毒と離脱がせん妄に関与する可能性は依然として高い。
せん妄の管理で最も重要なことは、原因を同定し治療することである。病歴や診察結果に基
づいて必要と思われる脳画像検査、脳波検査、脳脊髄液検査、血液検査などを行わなければな
らない。もし、せん妄が薬物の副作用として出現しているのであれば、原因薬物を中止し、別
の薬物に切り替える必要がある。
せん妄の治療においては、非定型抗精神病薬の使用が第一選択とされるが、HIV 感染症で
HIV 感染症と精神疾患 119
は抗精神病薬の使用により錐体外路症状が出現しやすいとされ、投与に当たっては症状をコン
トロール出来る必要最小限の量に留めるべきである。
2
精神科紹介のタイミングとその見極め方
睡眠障害や軽度のうつ状態、適応障害、せん妄の初期対応を行っても症状の改善が見られない
ときには、精神科へのコンサルトを検討すべきである。物質関連障害、パーソナリティ障害、躁
症状に関しては、対応に苦慮する場合が多いため、早期に精神科紹介を考慮することが望ましい。
その他には、希死念慮が出現したとき、受療行動が不規則でその理由が不明であるとき、家族な
ど周囲のサポートが得られず孤立しているときも精神科受診の適応と考えられる。いずれにして
も必要以上に抱え込むことなく、判断に迷ったときには速やかに精神科へコンサルトすることが
望ましい。
3
精神科受診に抵抗を示す患者への対応
患者が精神科受診に抵抗を示した場合には、受診を拒む患者の意見を尊重した上で理由を把握
する。その際、「精神科の受診を勧められると、受診をためらわれる方も多い」などと、精神科
受診への抵抗感を標準化することで、患者がより話しやすい環境を作ることにつながることもあ
る。理由を確認し、『重い精神病の患者のみが治療の対象となる』『受診したことが周囲に知られ
る』
『精神科の薬を飲み始めるとやめられなくなる』などの誤解があれば訂正が必要である。
頑なに拒否する場合、いつでも受診できることを伝えておくと共に、機会を改めて再度勧めて
みることも必要である。不眠や食欲低下など精神障害に良く認められる身近な症候や生活機能の
低下を指摘し、改善のための援助や助言を求めるために受診を勧めるとうまくいくこともある。
受診を説得する努力を重ねてもなおうまくいかない時には、必要に応じて精神科医に事情を説明
し、その程度に応じて、電話相談、カルテを見ながらの相談、カンファレンスの参加など、間接
的に関わってもらうことが有効な場合もある。
4
おわりに
治療上の進歩は HIV との共存を可能にし、HIV 感染症を難治性致死性感染症から慢性感染症
へと変化させた。それにより我々も、HIV 感染症をかつての様な致死的疾患ではなく、あくま
でも種々の慢性疾患の一つとして扱う必要が生じてきたと考えられる。患者の苦悩に十分に配慮
し支持的な対応を心掛けながらも、無条件の支持を与えることなく適切な距離を保ち、患者の自
立性を削いでしまわないこと、悪性の退行を引き起こさないことが重要であると思われる。
120 HIV 感染症と精神疾患
表 1 HIV 感染および AIDS の治療薬で生じる精神神経系副作用
薬 剤
核酸系逆転写酵素阻害剤
ジドブジン
ジダノシン
ザルシタビン
スタブジン
ラミブジン
アバカビル
エムトリシタビン
テノホビル
非核酸系逆転写酵素阻害剤
ネビラピン
デラビルジン
エファビレンツ
エトラビリン
副 作 用
頭痛、落ち着きのなさ、興奮、不眠、躁状態、
抑うつ、易怒性、せん妄、傾眠、末梢神経障害
不眠、躁状態、末梢神経障害
末梢神経障害
躁状態、末梢神経障害
ジドブジンに類似
頭痛
頭痛
頭痛
頭痛
頭痛
異常な夢、興奮、不眠、多幸、抑うつ、希死念慮、
傾眠、混乱、精神病症状、頭痛、疲労感
頭痛
プロテアーゼ阻害剤
インジナビル
リトナビル
サキナビル
ネルフィナビル
アンプレナビル / ホスアンプレナビル
ロピナビル / リトナビル合剤
アタザナビル
ダルナビル
頭痛、無気力、霧視、めまい、不眠
口囲・末梢の感覚異常、無気力、味覚異常
頭痛
頭痛、無気力
頭痛
無気力、頭痛、不眠
頭痛
頭痛
侵入阻害剤
マラビロク
不眠
インテグラーゼ阻害剤
ラルテグラビル
頭痛
その他の抗ウイルス薬
アシクロビル
ガンシクロビル
抗菌薬
トリメトプリム-スルファメトキサゾール
イソニアジド
抗寄生虫薬
メトロニダゾール
ペンタミジン
抗真菌薬
アムホテリシン B
ケトコナゾール
フルシトシン
その他
ステロイド
シタラビン
頭痛、興奮、不眠、涙もろさ、混乱、知覚過敏、
聴覚過敏、離人症、幻覚
興奮、躁状態、精神病症状、易怒性、せん妄
頭痛、不眠、抑うつ、食欲低下、アパシー、
せん妄、緘黙、神経炎
興奮、抑うつ、幻覚、妄想、記憶障害
興奮、抑うつ、せん妄、痙攣
低血糖、低血圧、混乱、せん妄、幻覚
頭痛、興奮、食欲低下、せん妄、複視、不活発、
末梢神経障害
頭痛、めまい、羞明
頭痛、せん妄、認知機能障害
多幸、躁状態、抑うつ、精神病症状、混乱
小脳症状を伴うせん妄
HIV 感染症と精神疾患 121
表 2 チトクローム P450(CYP)を介した薬物動態学的相互作用
CYP の分子種
基質
酵素阻害
酵素誘導
1A2
アミトリプチリン
カフェイン
フルボキサミン
イミプラミン
ミルタザピン
オランザピン
ゾルピデム
フルボキサミン
リトナビル
リトナビル
喫煙
2B6
エファビレンツ
ネビラピン
エファビレンツ
ネルフィナビル
リトナビル
ネビラピン
2C9/19
アミトリプチリン
エスシタロプラム
イミプラミン
リトナビル
エファビレンツ
モダフィニル
ネルフィナビル
リファンピシン
2D6
アミトリプチリン
アンフェタミン
アリピプラゾール
アトモキセチン
βブロッカー
コデイン
デュロキセチン
トラゾドン
ハロペリドール
イミプラミン
インジナビル
ミルタザピン
ネルフィナビル
ノルトリプチリン
オキシコドン
パロキセチン
ペルフェナジン
リスペリドン
リトナビル
トラマドール
デュロキセチン
パロキセチン
ペルフェナジン
リトナビル
セルトラリン
知られていない
3A3/4
アルプラゾラム
アンプレナビル
アリピプラゾール
カルバマゼピン
クロナゼパム
デキサメタゾン
ジアゼパム
インジナビル
イトラコナゾール
ミダゾラム
モダフィニル
ネルフィナビル
ネビラピン
クエチアピン
リトナビル
サキナビル
シルデナフィル
トリアゾラム
デラビルジン
グレープフルーツジュース
インジナビル
イトラコナゾール
ケトコナゾール
リトナビル
サキナビル
フルボキサミン
アンプレナビル
エファビレンツ
カルバマゼピン
デキサメタゾン
エファビレンツ
モダフィニル
ネビラピン
リファブチン
リファンピシン
セイヨウオトギリソウ
122 HIV 感染症と精神疾患
■参考文献■
1 平林直次:今日の HIV 診療 精神科の役割.Modern Physician 22:367-369,2002-3
2 山脇成人ら:リエゾン精神医学とその治療学,中山書店,2009
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Saunders,2010
4 Tiziano Colibazzi et al:Human Immunodeficiency Virus and Depression in Primary
Care:A Clinical Review.Prim Care Companion J Clin Psychiatry 8:201-211,2006
5 吉川信一郎:パーソナリティ障害.診断と治療 95:2187-2193,2007
6 三角順子,針間博彦:拒否する患者の入院を受け入れる側からのリクエスト.精神科 16:
565-568,2010
7 日本サイコオンコロジー学会:The PEACE Project M-7a 精神症状(気持のつらさ).
http://www.jspm.ne.jp/gmeeting/peace3/M-7a.pdf
(精神科神経科 河合 剛多、田中 輝明 2011.10)
HIV 感染症と精神疾患 123
13
1
HIV 感染血友病患者の
関節症の治療
はじめに
血液製剤により多くの血友病患者が不幸にも HIV に感染した。基本的に HIV 感染血友病患者
の関節症治療は HIV 感染を伴わない血友病患者に対する治療と変りはない。ただし人工関節置
換術などの大手術を行なう場合には感染症や免疫系への手術の影響が危惧される点が問題とな
る。HIV 陽性患者に対する大手術の適応は CD4 陽性Tリンパ球数が 400/μℓ以上ある症例とす
るという意見が多かったが、最近では 200/μℓ以上とする報告も見られる。さらに最近では HIV
陽性であっても AIDS を発症していない患者においては CD4 陽性Tリンパ球数が 200/μℓ以下
であっても手術を行なう施設が本邦でも増えてきている1)。これらのことをふまえ、本稿では血
友病患者の関節症治療に関して中心に述べ、HIV 感染者に関する一般的取り扱い、手術器具・
手術機器等の汚染物に対する取り扱いに関しては他の項にゆずる。
血友病患者における最も一般的な出血症状は関節内出血であり、血友病患者の 80%以上が経
験している。関節内出血のうち最も頻度の高いのは足関節、次いで膝関節、肘関節の順である。
関節内出血の3主徴は疼痛・腫脹・運動制限である。関節内出血の初発年齢は2歳から6歳の間
にあり、初期症状として手足を動かすと嫌がったりする。年長児や、成人の場合には「何か引っ
かかる感じがする」、「何となくおかしい」、「何となくむずむずする」といった自覚症状を訴える
ことが多い。進行していくと腫脹や疼痛を訴えるようになる。同一関節に出血を繰り返すことに
より、滑膜および関節軟骨にさまざまな程度の変性や変形、破壊が混在した変形性関節症、すな
わち血友病性関節症となる。幼児期から学童期に起こった関節症で骨の変形、軟骨下骨の嚢腫形
成などは関節の成長によってある程度改善が見込めるが、成人の変形性関節症ではほとんど改善
は期待できない。血腫は治療により消失させることができるが、再発を繰り返すことも多い。こ
の血腫の治療と予防が血友病性関節症の進行の防止であり、関節機能障害の予防である。
2
関節症の評価方法
関節症の評価方法はX線所見による DePalma の分類や Pettersson らの評価方法が用いら
れている。DePalma の分類は日本では桧山の改定分類として多く使用されている(表1)。
Petterson score は関節面の不整や骨粗しょう症の有無など8項目を0~2点、合計 13 点で評
価する方法で、World Federation of Hemophilia における血友病患者の評価に用いられている。
3
血友病性関節症へのアプローチ
血友病患者に関節症が起こらないようにすることが理想であり、その手段として重症例では低
年齢(1~3歳)より週3回の定期的補充療法が推奨されているが、すべての症例に行うことは
困難である。したがって、日頃から筋力強化運動などの理学療法により関節支持組織を強化し、
関節出血を予防することも重要である。図1に関節内出血に対するフローチャートを示す2)。急
性関節出血に対しては早期の十分な補充療法と関節の冷却と安静が基本である。この際に用いる
凝固因子製剤の量は第 VIII 因子では 10~20U/kg、第 IX 因子なら 30~50U/kg を注入する。
すでに関節内出血が進行し腫脹・疼痛が強い場合には穿刺・排液が必要となる。この場合には凝
124 HIV 感染血友病患者の関節症の治療
固因子製剤注入後 30 分の時点で関節穿刺を行う。急性期を過ぎれば、できるだけ早期に牽引や
理学療法を行い関節拘縮や筋力低下を予防する。進行例では術後感染症発症等合併症のリスクと、
手術によって得られる QOL の改善の程度を十分に考慮した上で次項に述べるような観血的治療
を行なう。
日常生活における注意事項として、運動をきっかけに出血する場合には、スポーツを制限する
必要がある。表2に米国赤十字および米国血友病協議会の示す血友病患者に対するスポーツ指導
を示す。基本的にスポーツを行なうことにより関節周囲の筋肉を強化し、関節内出血を減少させ
る効果があるので、むやみにスポーツを禁止すべきではないと考える。
表1.DePalma の改定X線分類(桧山、1974)
Grade
Grade 1
X線所見
関節周囲軟部組織の陰影増強
Grade 2
骨端部の骨萎縮と過成長
Grade 3A
3B
3C
下記①~⑤のうち1~2項目
下記①~⑤のうち3~4項目
下記①~⑤のうち5項目すべて
① 骨端部の変化 ②関節裂隙狭小化
③ 軟骨下嚢胞形成 ④骨棘形成
④ 関節裂隙の部分消失
Grade 4
関節裂隙の完全消失
DePalma の Originai では Grade 1~4に分類されているが、桧山分類では Grade 3をさら
に細分化し、臨床的に評価しやすくなっている。
急性関節出血
即刻,
第Ⅷ因子または
第Ⅸ因子製剤で
治療
止血
日常生活を再開
症状の改善がゆっくりである
か,理学所見の発現
出血を繰り
返している
関節に見ら
れた再出血
抗体のチェッ
ク.繰り返す
外傷が原因と
なっていない
かを調べる
初回投与の第Ⅷ因子また
は第Ⅸ因子製剤の投与時
期をチェック.12 時間ご
との投与を36時間続ける.
短期間の副木も考えよ
症状の
改善.日
常生活
の再開
第Ⅷ因子または第Ⅸ因子
製剤の投与量を増加する.
予防的投与を考慮する
出血ごとに 10 日間の夜間
副木を指示する
治癒
再々
出血
筋力が正常になるまで機能訓練
を続ける
良肢位になるように副木を当て,
第Ⅷ因子または第Ⅸ因子製剤を
集中的に投与するために,5 日
間の入院,理学療法を開始する.
退院後 10 日間は夜間の副木
治癒
再発
何もしない
滑膜切除術
を考慮する
出血を繰り返す関節にみられる急性関節出血
即刻,第Ⅷ因子ま
たは第Ⅸ因子製剤
で治療,
日常生活の再開.
10 日間の夜間副木
治癒
再発
関連筋の筋力をチェック,日常生活の再開
抗体のチェック.繰り
返す外傷が原因とな
っていないかを調べる
第Ⅷ因子または第Ⅸ因子
製剤の投与量を増加する.
予防的投与を考慮する
治癒
理学療法を行い,発症前の機能
を回復する
再発
予防的投与をすでに試みたあと
か,あるいは予防的投与が不可
能ならば,入院して集中治療を
行ったあと,滑膜切除術を考慮
慢性関節症
無痛性の腫脹が持
続する
関連筋の筋力をチェック,筋力・関節可動域ともに正常
ならば,何もしなくてよい
X線写真上,著名
な変化がみられ,
急性出血も起こら
ない,末期的関節
痛みがなく,ある程度の機能を保持している
活動不能の慢性的痛み,または他の関節に対して著しい
影響のある場合
何もしない(長期の圧迫包帯は筋肉の萎
縮をまねきやすいことに注意)
整形外科的処置
図1.関節出血に対する対応のフローチャート(2)
HIV 感染血友病患者の関節症の治療 125
表2.血友病患者とスポーツ(米国赤十字および米国血友病協議会 1994 年改定版)
カテゴリー
種目
カテゴリー1
大部分の患者に推奨される
水泳(飛び込みは避ける)、ゴルフ、卓球、ウォーキング、
セイリング、アーチェリー
カテゴリー2
身体的、社会的あるいは心
理的利益が危険を上回ると
考えられる場合に推奨され
る多くの患者に可能
野球、バスケットボール、サッカー(ただしヘディングは
避ける)、バレーボール、テニス、ボーリング、ジョギング、
サイクリング、体操、アイススケート、ローラースケート、
水上スキー、フリスビー、バドミントン、ウィンドサーフィ
ン
カテゴリー3
すべての患者で、利益より
危険が上回ると考えられる
ゲレンデスキー、アメリカンフットボール、ラグビー、ボ
クシング、アイスホッケー、レスリング、自転車レース、
スケートボード、ロッククライミング、相撲、柔道、空手、
剣道、スノーボード、ハンググライダー
4
HIV 感染の疑いのある患者に対する整形外科手術のアプローチ
図2に HIV 感染の疑いのある患者が来院した場合のアプローチをフローチャートに示す3)。
もし患者が HIV 感染であれば、その病期を判断し、CD4 陽性Tリンパ球数またはウイルス量で
抗 HIV 療法を開始するか否かを決定する。もし患者に抗 HIV 療法が必要であれば、免疫状態が
改善するまで手術を待機することが望ましい。HIV 感染に伴う低栄養状態は改善可能である。
待機手術の適応となる患者では Major surgery か Minor surgery かを評価する。緊急手術が
必要な場合は可能な限り全身状態の改善を図り、手術を行う。Major surgery では minimally
invasive surgery を考慮する。治療に当たっては患者が手術で得られるメリットを一番に考え
なくてはならない。
HIV 陽性患者に対する major surgery の適応は CD4 陽性Tリンパ球数が 500/μℓ以上ある
症例とするという意見が多い。Bahebeck らは人工関節置換術における術後の感染症発生率は
CD4 陽性Tリンパ球数が 500/μℓ以上であれば、HIV 非感染患者と変わりがないと報告してい
る4)。一方、最近ではその適応を 200/μℓ以上とする報告も見られる。さらに HIV 陽性であっ
ても AIDS を発症していない患者においては CD4 陽性Tリンパ球数が 200/μℓ以下であっても
手術を行なう施設もある1)。現時点では有効な抗 HIV 療法が報告されており、その治療も CD4
陽性Tリンパ球数が 350/μℓ以下で考慮することから考えると、著者は臨床症状がなく、CD4
陽性Tリンパ球数が 350/μ
ℓ以上であれば、手術は問題ないと考える。
実際の手術にあたっては血液や体液による HIV 感染は十分に気をつけなければならない。特
に外傷や implant 手術では power tool を使用するため飛沫感染のリスクが高い。これを予防す
るためにフード付きの術衣やディスポーザブルのブーツ、針刺し事故の予防には針に対しラテッ
クスに比べ 30 倍以上の強度を持ち、万一針を刺した場合でも 99.86%の血液を低減させる皮革
部分のある手袋の使用を考慮すべきである。また手術室のスタッフは全員眼球の防御にゴーグル
を着用することを徹底しなくてはならない。
126 HIV 感染血友病患者の関節症の治療
手術適応の評価
HIV 検査の承諾
HIV 感染
検査拒否
非感染
HIV stage の評価
全身状態の評価
抗 HIV 療法の考慮
手術適応あり
待機手術
・HIV stage の評価
・全身状態の評価
・免疫状態改善まで手術を待機 / 手術の変更
抗 HIV 療法の考慮
緊急手術
全身状態の評価
・全身状態の改善
・可能ならば免疫状態改善
Major surgery
HIV 関連疾患
Minor surgery
偶発症
手 術
Major surgery
Minor surgery
・全身状態の改善
・可能であれば Minimally invasive surgery の考慮
・免疫状態改善まで手術延期
手術・HIV の治療
図2.HIV 感染の疑いのある患者に対する整形外科手術のアプローチ
5
整形外科手術時の補充療法
出血の予防や処置を行なう場合と異なり、手術時に行なう凝固因子補充療法は、投与の量や期
間が変わってくる。一般的に手術に際して、血中凝固因子レベルは 50%以上、術後の出血予防
には 20%以上に保つ必要がある。間欠的に投与を行なう場合、次回投与前(いわゆるトラフレ
ベル)で前述した活性レベルを維持する必要性があり、ピーク時には 100%を超える活性を示す。
厚生省の血友病研究班の基準では、人工関節置換術などの大手術では目標凝固因子レベルを術当
日・術後1日は 100%、術後2~7日は 50~100%、術後8日以降は 50%に維持することを推
奨している。
著者らは第二内科血液グループと共同で決定した以下のプロトコールで第 VIII 因子製剤を補
充しつつ手術を行なっている。具体的には、まず術前に注入試験として VIII 因子製剤 50U/kg
を静注し、術後 30 分、1、2、3、4、6、12、24 時間後の VIII 因子活性を調べる。手術当
日は手術1時間前に VIII 因子 50U/kg+ αを静注する。αの量は注入試験の 30 分後の VIII 因
子活性の結果が 80%以下の場合、80%以上になる量を計算する。術中から術後3日はシリンジ
ポンプを使用して VIII 因子製剤を 2.5U/kg/hr で持続注入する。出血 500ml あたり 500U の
VIII 因子製剤を術後に追加し、術直後および術後3時間で注入試験の結果を参考に VIII 因子活
性が 80%以上となるように追加輸注する。術後3~7日は VIII 因子製剤を 0.8 × 2.5 U/kg/
hr、術後7~14 日は VIII 因子製剤を 0.6 × 2.5 U/kg/hr で持続注入する。術後 14 日目からリ
ハビリを開始し、週3回の 2000U の間欠的投与を行なう。リハビリ2週後の術後 28 日目で凝
固因子活性を測定し、局所所見で出血の兆候がなければ、凝固因子の間欠投与を漸減し、術前の
補充レベルに戻す(表3)。
HIV 感染血友病患者の関節症の治療 127
表3
術前
注入試験を行いⅧ因子製剤 50U/kg を静注、30 分、1、2、3、4、
6、12、2時間後の第Ⅷ因子活性を調べる。
手術当日
1時間前に第Ⅷ因子 50U/kg+ αを静注αの量は注入試験 30 分
後のⅧ因子の結果が 80%以上になるよう計算
術中~術後3日
シリンジポンプを使用し第Ⅷ因子製剤を 2.5U/kg/hr で持続注入
出血 500ml あたり 500U のⅧ因子製剤を追加
術直後、術後3h
注入試験の結果を参考に第Ⅷ因子の活性が 80%以上になるよう
追加
術後3~7日
第Ⅷ因子製剤 0.8X2.5U/kg/hr
術後7~14 日
第Ⅷ因子製剤 0.6X2.5U/kg/hr
術後 14 日~
週3回の 2000U 間欠的投与、ニーブレース除去、CPM、荷重歩
行訓練開始
6
血友病性関節症に対する手術
 滑膜切除術
慢性の滑膜炎を呈し、関節内出血を繰り返す関節に対して一般に適応となる。関節破壊が進
んでいても、疼痛よりは繰り返す関節内出血が問題となる症例では滑膜切除が行われる。その
方法としては、化学的滑膜切除術、関節鏡視下滑膜切除術、そして外科的滑膜切除術があげら
れる。化学的滑膜切除術には、リファンピシン、オスミウム酸、198Au、186Re、90Y が関節症
変化の少ない症例に使用されているが、血友病患者の早期滑膜炎は学童期を含む若年者が対象
となることが多く、これらの薬剤の軟骨や染色体に与える影響の可能性を考え、当科では行っ
ていない。関節鏡視下滑膜切除術や外科的滑膜切除術に関しては、関節症のさまざまな段階で
行われ、関節内出血に関しては有効であるが、関節症の進行に対する抑制効果に関しては不明
である。
 関節固定術
関節固定術は主に足関節の末期関節症に対して行われている。これにより疼痛はほとんど消
失し、関節出血もなくなり、良好な成績が報告されている。しかし血友病性関節症は多関節罹
患であり、固定した関節の隣接関節の関節症が進行するため、関節機能温存という見地からそ
の適応は限られている。
 人工関節置換術
末期関節症に対しては、現在人工関節置換術が多く行われている。人工股関節置換術(THA、
図3)や人工膝関節置換術(TKA、図4)は術後、疼痛や関節内出血が抑えられることによ
り生活レベルが向上するので患者の満足度は高い。しかし、術前にすでに関節拘縮の程度が
強い症例が多いため関節可動域の改善に関しては乏しいことが問題点として指摘されている
5)
。末期関節症に対する人工関節置換術は関節滑膜切除も同時に行うことで、関節内出血の抑
制もでき、疼痛も軽減されるため有効な治療法であるが、一般的な変形性関節症患者に比べる
と若年の患者に行わなくてはならない点が問題となる。人工関節は生体にとって異物であるか
ら、implant の破損や骨との界面での緩みが避けられない問題として指摘されているからであ
る。人工関節の survival rate は股関節の場合術後 20 年で 90%6)、膝関節の場合術後 12 年
で 96.8%7)と報告されている。したがって若年者に対して人工関節を行う場合には再置換術
128 HIV 感染血友病患者の関節症の治療
が必要となる。一般的な変形性関節症に対する人工関節置換術後深部感染発生率は股関節の場
合 0.8%8)、膝関節の場合 0.62%9)と報告されており、implant 手術では少ないながら発生率
をゼロにするのは非常に困難な合併症と言われている。これに対し、血友病関節症に対する人
工膝関節置換術後の感染の発生率は欧米では 13~16%と非常に高率である 10、11)。幸いにし
て当科では 14 例の血友病性関節症に対して人工関節置換術を行っているが、最長7年の経過
において現時点で術後感染を発症した例はない。しかし HIV を基礎疾患に持つため、免疫状
態が通常の患者より低いことが予想されるため、手術後感染には十分な注意が必要である。荷
重関節における人工関節の感染を根治させる場合には、多くは一度コンポーネントを抜去して
感染を沈静化させる必要があるため、その治療は患者に対して大きな負担をかけることになる。
HIV 感染患者で免疫力が低下している場合には感染の危険が増加するため、人工関節置換術を
行なって得られる benefit と合併症の risk を十分に勘案して手術を行なわなくてはならない。
図3 人工股関節置換術 当院で行った症例の術前(左)および術後(右)のX線写真
図4 人工膝関節置換術 当院で行った症例の術前(左)および術後(右)のX線写真
HIV 感染血友病患者の関節症の治療 129
5
おわりに
血友病はその症例数が少なく、一般に整形外科医が接する機会がすくない。しかし、関節内出
血を起こした早期の段階で適切な整形外科的処置をおこなうことは関節症の進行を遅らせ、ひい
ては若年者の人工関節置換術を減らすことができると考える。
補充療法が進歩した今日でも四肢の複数関節に障害を持つ患者が多く、それぞれの関節がお互
いに影響を与えるため、個々の症例ごとに総合的な判断で血友病性関節症の治療を行なうことが
重要である。
■参考文献■
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2 Jones P: Hemophilia management. A physician’s guide to the treatment of
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Should It Affect Surgical Decision Making? World J Surg (2009) 33:899-909
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asymptomatic carriers: Management and early outcome. Injury. 40: 1147-50, 2009
5 竹谷英之 他:血友病性関節症に対する人工関節置換術。臨床血液 41: 97-102, 2000
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A-75: 961-75, 1993
7 Ritter MA et al.: Long-term survival analysis of a posterior cruciate-retaining total
condylar total knee arthroplasty. Clin Orthop 309: 136-45, 1994
8 Kreder HJ et al.: Relationship between the volume of total hip replacement
performed by providers and the rate of postoperative complications in the state of
Washington. J Bone Joint Surg. A-79: 485-94, 1997
9 石井隆雄 他:人工膝関節置換術後の危険因子と治療法 整形外科 55: 1015-21, 2004
10)
Silva M, Luck JV Jr : Long-term results of primary total knee replacement in patients
with hemophilia. J Bone Joint Surg Am. 87(1):85-91, 2005
11) Norian JM, Ries MD, Karp S, Hambleton J. Total knee arthroplasty in hemophilic
arthropathy. J Bone Joint Surg Am. 84-A(7):1138-41, 2002
(人工関節・再生医学講座 眞島 任史 2011.06)
130 HIV 感染血友病患者の関節症の治療
14
1
HIV 感染症患者のリハビリ
テーション
はじめに
2007 年、北アメリカ、西ヨーロッパおよび中央ヨーロッパの HIV 感染者数は 2,100,000 人
と推定され、そのうちの 78,000 人は過去1年間に新たに HIV に感染した人々であるとされる。
最近の HIV に対する研究、治療法の進歩により、HIV 感染症の生命予後は改善され、AIDS に
よる死亡者数は推定 32,000 人である。これは長期生存者・障害者の増加を意味する。したがっ
て、今後 HIV 感染者に対するリハビリテーションの重要性がますます増加するものと思われる。
ここでは HIV 感染症に対するリハビリテーションアプローチについて解説する。
2
HIV 陽性者と運動
無症候性 HIV 陽性男性の 31%および女性の 53%が疲労による運動活動に支障をきたしてお
り、また、症候性 HIV 陽性者では男性では 52.6%および女性では 62.3%が疲労による運動活動
に支障をきたす。さらに AIDS を発症した患者では男性では 70%および女性では 80%が易疲労
性による機能障害を有する。HIV 陽性者は HIV 陰性者の年齢ごとの最大酸素摂取量の予測値を
15%から 40%下回ると報告され、前述の HIV 陽性者の易疲労性および機能障害は有酸素系能
力の低下によるものと考えられている。また、無酸素作業閾値も HIV 陽性者は HIV 陰性者に比
し低値であり、3-4METS 程度の軽作業において無酸素作業閾値が認められる。以上の有酸素能
力の低下は後述の筋障害、心血管系障害、貧血、呼吸器系障害、廃用などの種々の因子によるも
のと考えられている。HIV 陽性者に対する有酸素系運動の効果に関しては 2010 年に Cochrane
review にて meta-analysis が行なわれている。その結果では週3回の4週間以上にわたる有酸
素系動は免疫能(CD4 数やウイルス量)には影響はなく、最大酸素摂取量を有意に増加させる
としている。体組成に関しては体重、BMI あるいは腹囲に関しては有意の効果は認められなかっ
たが、体脂肪率は有意の減少(95% CI:-2.18%~-0.07%)をもたらす効果があることを報告
している。さらに週3回の4週間以上にわたる有酸素系動は精神的状態の指標である Profile of
Mood Status Scale(POMS) を有意に改善させる(95% CI:-13.47 点~-1.90 点)。したがって、
有酸素系動は免疫能の低下をもたらすことなく、心肺系機能を向上させ、精神的な状態を改善さ
せるという高いエビデンスがある。
また、漸増抵抗運動の効果に関する meta-analysis では、強度 50-80% 1-RM、4~18 回1
~5セットを週3回6~16 週間にわたって行った漸増抵抗運動は無症候性 HIV 陽性例者の免疫
能(CD4 数やウイルス量)には影響はなく、体重増加(荷重平均 4.2kg)に有意の効果があり、
同漸増抵抗運動あるいは漸増抵抗運動および有酸素運動のコンビネーションは上腕および大腿周
径増加(荷重平均 7.9cm)に有意の効果を認めたとしている。また、有意差は認めないものの、
同漸増抵抗運動あるいは漸増抵抗運動および有酸素運動のコンビネーションは submaximal
heart rate や訓練可能時間などの心肺機能を改善させ、筋力を増加させる効果を有することを示
唆する知見が報告されている。したがって、漸増抵抗運動は特に筋萎縮や体重減少が過剰な場合、
筋肉量増加による体重を増加させるのに有用である。
HIV 感染症患者のリハビリテーション 131
3
神経障害のリハビリテーション
広汎性中枢神経障害:HIV 脳症は末期では高率に認められ、剖検例の 90%に達する。記憶障害、
気分の変化、うつ症状、不安神経症などではじまり、その後言語障害、運動障害、痴呆や認知障
害などの高次脳機能障害を起こす。またサイトメガロウイルス脳炎も高頻度で、予後は不良であ
る。クリプトコッカス髄膜炎は再発例が多く広汎性中枢神経障害に至る。予後不良とされたこれ
らの脳症は、治療薬の進歩で生存例にさまざまなステージの脳症が障害として残存する。これら
の障害に対しては脳炎のリハビリテーションに準じ、詳細な評価に基づいて、リハビリテーショ
ン治療計画の作成を要する。移動動作、上肢機能、高次機能、嚥下などのあらゆるリハビリテー
ションアプローチが動員されることになる。カウンセリングや介助者の訓練、介護量の軽減のた
めの社会資源の動員も必要となる。
占拠性中枢神経障害:トキソプラズマ脳症、HIV 脊髄症は病巣部位によりさまざまな巣症状
を呈するが、治療薬の進歩で生命予後が比較的良く、片麻痺、対麻痺、四肢麻痺、運動失調、失
認、
パーキンソン症候群などの不随意運動、脳神経障害などの障害を残す。リハビリテーションは、
脳卒中片麻痺や脊髄損傷など障害に応じたアプローチが必要となる。このリハビリテーションプ
ログラムは確立されている。関節可動域訓練、筋力訓練、歩行訓練、上肢機能訓練、車椅子・杖、
装具、自助具の処方、家屋改造などの理学療法・作業療法からのアプローチが施行される。筋緊
張亢進・痙性に対しては神経ブロックが行われる。失語・構音障害・嚥下障害には言語療法も必
要となる。
末梢神経障害:末梢神経障害は末期ではほぼ全例にみられ、その原因は多彩である。HIV 原
疾患による末梢神経炎は四肢遠位性対称性に出現する。初期にはしばしばギランバレー症候群様
の脱髄性多発神経炎も急性・再発性に認められる。帯状疱疹ウイルスやサイトメガロウイルスも
末梢神経障害を起こし、また多くの HIV 治療薬副作用としても末梢神経障害は高率で鑑別診断
が必要となる。リハビリテーションは、疼痛に対しては温熱療法、電気療法 (TENS など ) の物
理療法やマッサージが行われる。浮腫に対しては患肢挙上や弾性包帯を処方する。筋の再教育訓
練や関節可動域訓練を行う。下垂足には短下肢装具による歩行訓練などを行う。
4
呼吸器系・循環器系リハビリテーション
カリニ・サイトメガロウイルス、結核などの肺炎のほかリンパ腫、間質性肺炎が認められる。
それぞれの薬物治療に加え、肺痰、肺理学療法(胸郭可動域の改善、呼吸筋強化、スクィージング、
呼吸法指導)などのリハビリテーションアプローチがある。心合併症の頻度は少ないが、長期臥
床による廃用症候群に対しては、廃用の予防となる関節可動域訓練や筋力訓練が必要となり、心
機能低下例には心不全に準じた低レベル運動療法を加えていく。
5
運動器障害のリハビリテーション
HIV の関節症状として、乾癬性関節炎、ライター関節炎に類似した移動性多発性関節炎が認
められ、再発を繰り返す。多発性筋炎と類似の病理所見を呈する筋炎も認められ、近位筋優位の
筋痛・筋力低下をあらわすこともある。また筋炎は HIV 治療薬の副作用としても起こり鑑別を
要する。これらのリハビリテーションとしては急性期には安静や温熱・アイシングなどの物理療
法を行う。また、廃用による筋力低下や関節可動域低下を予防する。筋炎に対しては CPK をモ
132 HIV 感染症患者のリハビリテーション
ニターし過用とならないよう関節炎や筋炎に準じた愛護的なリハビリテーションプログラムを施
行する。
6
血友病のリハビリテーション
わが国の HIV 感染は血友病患者に多い。近年、凝固因子補充療法の自己注射の普及により、
血友病患者の ADL が改善したが、繰り返し関節内出血を起こし多発性下肢関節症にいたる例も
なお多い。
急性関節内出血:幼児期以降の血友病では関節内出血と筋肉内出血の頻度が高く、特に関節内
出血を繰り返し関節拘縮 ・ 変形などの障害に至ることが多い。関節内出血の部位は膝・足・肘関
節での頻度が高い。関節内出血の治療は、早期止血と、関節可動域低下の予防、筋力低下の予防
である。急性関節内出血は関節腫張・疼痛・関節可動域制限の症状を呈するが、患者により予兆
としての関節の違和感などが自覚され、予兆の段階で濃縮製剤の輸注が望ましい。関節内出血を
認めたならば、急性期である1~2日では患肢の安静を保つ。下肢の重症出血の場合は牽引療法
も検討する。冷湿布は疼痛を緩和し血管収縮を促し止血を促す。ギプスシーネや sling を用い機
能的肢位での外固定が必要な場合もある。長期の外固定では筋力低下や間接拘縮の原因となるの
で完全固定は避け、安静から運動のタイミングに配慮する。安静時疼痛が消失したならば、等尺
性筋運動の指導が必要である。止血後は、自動運動を主体とした関節可動域訓練を開始し、徐々
に徒手・重錘を利用した抵抗運動を行う。早期の歩行では免荷のための杖や免荷装具を使用し、
平行棒内の歩行訓練、プール内の歩行訓練が望ましい。
血友病関節症:治療は出血の慢性化を防止し関節の不安定性を改善し図1の悪循環を立つこと
である。慢性関節リウマチの理学療法と同様の以下のリハビリテーションが必要である。
免荷:歩行の機会を減らす。関節の荷重を減らす歩行パターンの獲得、免荷用装具(膝、足)、
サポーターなど装着し、杖などの歩行用補助具の利用を検討する。また体重減少を目指す。
等尺性筋力訓練:関節の安静は、廃用による可動域制限・筋力低下をもたらし不安定歩行の原
因となりこれが逆に関節病変を増悪させる要因となる。等尺性筋力増強訓練は、関節動作をさせ
ず筋収縮させる方法でこれを習熟させる。関節運動を伴わないので関節症が存在していても可能
である。最大筋収縮を1回5~6秒 ( 具体的には 10 数えさせるとよい ) を数回、週5、6日で
十分な効果をもたらす。筋力が弱い ( 徒手筋力テストで3レベル ) ときは、臥床で下肢を浮かせ
る姿勢保持訓練でも十分であり、筋力増強にしたがい徒手による抵抗や、重錘・ゴムバンドなど
を使用して、その強度を増加させる。
水中運動:血友病関節症の通常歩行訓練は、上記の等尺性筋力増強訓練に比しほとんど筋力増
強効果がなくむしろ関節破壊をもたらすことに注意すべきである。歩行は就業や日常生活に応じ
た必要最小限で、さらに杖などの免荷の配慮がのぞましい。しかし一方糖尿病がある場合や体重
減少・持久力向上を目的とする場合 20 分以上の持続的な運動療法が必要である。水治療は慢性
関節リウマチに対し温泉療法として古くから行われていたものであるが血友病関節症にも有用で
ある。水中では浮力のため下肢関節が免荷され、四肢の運動は水の抵抗により陸上歩行時よりエ
ネルギー消費を伴う筋力訓練となる。また中等度強度の運動を長時間することは糖代謝・脂質代
謝から有用である。
HIV 感染症患者のリハビリテーション 133
7
今後の展望
HIV 感染症は、治療法がなお確立されず、完全治癒の困難な疾患であり、多くの障害を引き
起こす。これらの障害を評価しさまざまなアプローチするのがリハビリテーション医学である。
積極的なリハビリテーションアプローチは即座に疼痛緩和や、運動能力の改善、ADL の自立、
QOL の向上に結びつくものと考えられる。
■参考文献■
1 S.F. Levinson and S. M. Fine: Rehabilitation of the Individual with human
immunodeviciency virus. In J.A. DeLisa, eds : Rehabilitation Medicine, 3rd ed,
Principles and Practice, Lippincott, pp1319-1336, 1998
2 O'Brien K, Nixon S, Tynan AM, Glazier R.:Aerobic exercise interventions for adults
living with HIV/AIDS. Cochrane Database Syst Rev. 2010 Aug 4;(8):CD001796.
3 O'Brien K, Tynan AM, Nixon S, Glazier RH.:Effects of progressive resistive
exercise in adults living with HIV/AIDS: systematic review and meta-analysis of
randomized trials. AIDS Care. Jul;20(6):631-53, 2008
4 半沢直美、奥住成晴:小児のリハビリテーション . 血友病 . 総合リハビリテーション
27:419-423,1999
5 渡 部 一 郎 .Underwater exercise の 生 体 へ も た ら す 反 応 .J. Clinical Rehabilitation:7,
688-695,1998
(リハビリテーション部 遠山 晴一 2011.09)
134 HIV 感染症患者のリハビリテーション
15
1
HIV 感染症の口腔病変と歯科
治療
HIV 感染症に対する歯科治療の基本的事項:HIV/AIDS 患者の歯科治療における社会的および倫理上の責任
1 すべての歯科医療従事者は HIV 感染者を治療する職業上の責任がある。
2 歯科医療を提供することで患者の QOL の向上に寄与することができる。
3 歯科医療従事者が内科主治医やその他すべての関係者と協力して診療にあたることは患者に
とっても歯科医療従事者にも利益をもたらす。
4 歯科医療従事者はすべての患者との間で、お互いの信頼関係を確立しなければならない。法
に決められているように、患者の同意がなければ他の歯科医療従事者にも HIV に関する情報
を提供することはできない。
5 歯科医療従事者は患者が自分で意志決定できるように援助すべきである。
6 歯科医療従事者は自身が得た知識や情報を基に感染拡大の防止に貢献することができる。
2
歯科・口腔外科領域における HIV 感染症
HIV 感染症の治療法の進歩は HIV 感染者により長期の、かつ健康的な生活をもたらした。そ
の結果、感染者の健康維持の一環として包括的な歯科管理が重要となってきた。HIV 感染者に
対する口腔管理の原則は他の歯科患者と同じであり、単に HIV に感染しているというだけで口
腔健康管理や治療内容を変更する必要はないが、下記に示すような HIV 感染者に対する配慮は
必要である。
すなわち、
1 口腔は全身の免疫状態を写す鏡であり、口腔の健康は全身の健康に影響し、すでに免疫
系の機能が低下していても齲蝕や歯周炎等がなければ細菌感染のリスクは減少する。
2 そのためには、治療にもまして予防に重点をおく必要がある。
3 口腔衛生の管理は、経口摂取を継続的に可能にし、QOL の維持に必須である。
4 多剤併用抗ウイルス療法(HAART)の導入で口腔症状は減少したが、今後も口腔症状
を観察する必要もある。
5 HIV 感染者は病状が変化することがあり、全身状態のよいときに積極的に治療を行う
方がよい。
6 治療に耐えられないなど数回の治療が困難な場合は、できるだけ一回で終了するような
処置が望ましい。
7 抗 HIV 療法は経済的負担も大きく、患者の経済的問題も配慮して事前に相談したほう
がよい場合がある。
8 プライバシーの保護は最優先事項のひとつである。
HIV 感染症に関連する口腔症状は少なくとも 40 個以上が報告されている(WHO)。以前から
HIV 感染と関連する3大口腔症状として口腔カンジダ症、毛状白板症、カポジ肉腫が挙げられ
てきたが、毛状白板症とカポジ肉腫は日本での発現頻度はさほど多くなかった。その他ヘルペス
等のウイルス感染症、
、難治性口内炎、唾液腺症状として唾液の分泌低下(口腔乾燥症)および
大唾液腺の腫大などがある。さらに、
HIV 感染者における免疫能の低下および唾液の分泌低下は、
齲蝕および歯肉・歯周炎(細菌感染症)の増悪因子となる。口腔の感染症の大部分は口腔常在菌
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療 135
による内因感染である。口腔常在菌による感染症としては、齲蝕あるいは歯髄炎に続発する根尖
性歯周炎や辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)のように、歯が介在する歯性感染症が最も多くみられる。
口腔感染症は一般に慢性の経過をとるが、生体の抵抗力が低下すると急性化する。口腔常在菌に
よる感染症は、生体の抵抗力を修飾する因子によって大きく影響をうける。AIDS/HIV 感染者
では細胞性免疫が高度に障害されることがあり、口腔常在菌による感染症が発症あるいは増悪す
ることが知られている。HIV 感染者では、潜伏感染しているエプスタイン・バール・ウイルス
(EBV)の再燃としての口腔毛状白板症が CD4 陽性リンパ球数 300/μℓで出現し、CD4 陽性リ
ンパ球数 400/μℓ前後で口腔カンジダ症が出現するとの報告がある。また、歯肉炎・辺縁性歯周
炎の原因は嫌気性グラム陰性桿菌等を主体とする細菌感染であるため、好中球が減少する AIDS
末期に歯肉炎・辺縁性歯周炎が増悪する場合が多い。以下に真菌・ウイルス感染症、悪性腫瘍、
唾液腺症状、口腔粘膜疾患および歯性感染症について概説する。加えて HAART 開始後の口腔
症状の変化についても簡単に述べる。
3
真菌・ウイルス感染症
1 口腔カンジダ症 ( 真菌症 )
カンジダ菌は口腔常在菌(真菌)で、口腔カンジダ症は HIV 感染症において最も頻繁に観
察される症状の一つである。臨床所見は従来のカンジダ症と同様で偽膜性、紅斑性カンジダ症
およびカンジダ性口角炎が見られる。急性経過をとる口腔カンジダ症は、頬粘膜、舌、歯肉な
どに白色ないし乳白色または黄色の苔状物が生じ、次第に拡大すると口腔粘膜全体に及ぶ。初
期には苔状物を比較的容易に剥離することができるが、病変が進むにつれて固着性になる。周
囲の粘膜は発赤、腫脹し、ときに糜爛状態を呈することもある。剥離後も赤色、潰瘍または易
出血性の粘膜が見られ灼熱感を訴える場合がある。慢性に経過すると白色被苔は厚くなり、剥
離しにくくなる。上皮肥厚が著明になり、白板症様の外見を示すようになる。自覚症状の無い
場合も多いが、口腔カンジダ症、口角炎は HIV 感染の初発症状として診断に重要である。青
年期、壮年期の口腔カンジダ症は HIV 感染の可能性を考慮する必要があるといわれている。
診断は臨床所見および真菌の培養検査で容易に行える。治療は抗真菌剤(アムホテリシンB、
ミコナゾール、イトラコナゾールなど)の使用によるが、抗 HIV 薬との併用に注意が必要な
場合がある。
2 ウイルス感染症
 ヘルペス性口内炎・口唇ヘルペス:AIDS/HIV 感染者では、生殖器、肛門周囲ヘルペス
と同様に、口腔ヘルペス感染症も比較的多く認められる。通常単純ヘルペスウイルス(HSV1)を原因とする感染症で、発赤した粘膜上に小水泡が出現し、発熱や倦怠感に加えて頸部
リンパ節の腫脹や疼痛をともなう。小水泡が破れると潰瘍が形成され、自発痛、接触痛が出
現する。免疫機能が保たれている人では 10 日から2週間で症状は消退して治癒するが、頻
回な再発や癒合した病変は HIV 感染症の進行期に見られる。AIDS 患者では治療に難渋する。
 帯状疱疹:HIV 感染者、特に CD4 陽性リンパ球数 400/μℓ以下の免疫能が低下した患者
に発症することがある。顔面では三叉神経第1枝、第2枝に多く、第3枝の場合は口腔内に
片側性の大きな潰瘍を形成することもある。HIV 感染者では水疱が破れた後、細菌による
難治性の二次感染に注意する必要がある。帯状疱疹ウイルス(VZV)は CD4 陽性リンパ球
数が比較的保たれている時期に発症するので HIV 感染の指標として重要である。壮年期に
136 HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
帯状疱疹を発症したら HIV を疑う必要がある。
 口腔毛様白板症(Oral hairly leukoplakia:OHL):EBV との関連が報告されており、
男性同性愛者グループによくみられる舌の白色病変として報告されている。毛状白板症の表
面は皺が著明に入り組み、ときには毛髪に似た様相を呈する。白板症、カンジダ症、扁平苔
癬等との鑑別を要する。本病変は EBV の活性化と関連すると考えられている。CD4 陽性リ
ンパ球数 300/μℓ以下に低下した場合の免疫抑制の早期指標となる。口腔カンジダ症との鑑
別が難しいこともあるが、臨床的には抗真菌剤で消失せず、擦過しても除去できないので診
断は可能である。OHL は AIDS の進展マーカーになるが、日本の発現頻度は欧米に比較し
て低い。日本では EBV サブタイプAが多く、欧米ではサブタイプBが多いことが関係して
いるといわれている。
 サイトメガロウイルス感染症(CMV):サイトメガロウイルス感染症の口腔症状は CD4
陽性リンパ球数 100/μ
ℓ以下で発症する。CMV に関連する口腔症状は非特異的潰瘍である。
 ヒトパピローマウイルス感染症(HPV):欧米では HAART の普及以来、頻度が増加し
ている(Oral Warts)
。
3 悪性腫瘍
カポジ肉腫および悪性リンパ腫:カポジ肉腫は AIDS の診断を意味し、口腔病変は本疾患の
初発症状の場合がある。CD4 陽性リンパ球数 200/μℓ以下に低下するとみられる。AIDS 患者
では5~10%に認められると報告されている。口腔に単独に出現することは少なく、皮膚等
の他部位と併発することが多い。口腔カポジ肉腫は帯青色、黒色または赤色の斑状病変として
出現し、初期は通常平坦である。進行するにしたがい色は濃くなり隆起し、しばしば多葉性に
なり潰瘍を形成することもある。口腔カポジ肉腫は口蓋および歯肉に好発し、エプーリス様の
症状を呈することもある。カポジ肉腫の原因としてヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)が
関連しているといわれている。
非ホジキンリンパ腫はほとんどが節外性でB細胞型である。発生頻度は1~4%であり、
CD4 陽性リンパ球数は 100/μ
ℓ以下で出現する。
4 唾液腺症状
AIDS/HIV 感染者では唾液の分泌量が低下し、口腔乾燥症状を呈することが多い。これら
の患者では、唾液腺にシェーグレン症候群様の組織学的変化が認められることが報告されてい
る。また、大唾液腺、特に耳下腺が腫脹する場合がある。腫脹の原因は、非腫瘍性病変では耳
下腺リンパ節腫大、多発性耳下腺嚢胞およびリンパ上皮性嚢胞や白血球浸潤による耳下腺の
腫脹などがある。また HIV 感染者の口腔乾燥の最大の原因は薬剤の副作用ともいわれている。
逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤などの多くの抗レトロウイルス剤は唾液分泌を減少さ
せる。
治療法は非腫瘍性病変に対しては対症療法で対応する。口腔乾燥症に対しては唾液分泌刺激
療法、あるいは人工唾液・口腔保湿剤(オーラルバランス ®、サリベート ®等)を用いる。腫
瘍性病変に対しては全身状態を考慮して治療法を選択する。
5 細菌感染症(歯性感染症)
一般的にはあまりみられない歯周炎、歯肉炎が HIV 感染者にはみられることがあり、帯状
歯肉紅斑(LGE)、壊死性潰瘍性歯肉炎(NUP)、壊死性潰瘍性歯周炎(NUG)が有名である。
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療 137
 帯状歯肉紅斑(LGE)
:HIV 非感染者にはあまりみられない歯肉炎で、近年カンジダ菌の
関与も指摘されている。歯肉辺縁に沿って1~2㎜幅のバンド状発赤を呈する。一般に歯垢
(口腔細菌とその生産物の集塊)の沈着、潰瘍形成もなく、歯周ポケットは浅く、歯肉のア
タッチメントロスも伴わない。疼痛等の臨床所見にも乏しい。歯肉炎・辺縁性歯周炎が進行
すると歯肉の発赤・腫脹が増悪するとともに、歯肉が退縮し、歯槽骨が吸収され、歯牙が動
揺してくる。AIDS の病期の進行とともにこれらの症状が増悪すると考えられ、CD4 陽性
リンパ球数 100/μℓ以下に低下した場合、重篤な免疫抑制と共に壊死性潰瘍性歯肉炎(NUP)
および壊死性潰瘍性歯周炎(NUG)が見られる場合もある。症状が進行する前に原因を除
去することが重要である。主たる原因・増悪因子である歯垢・歯石が沈着しないように口腔
清掃指導を徹底することが必要で、定期的な歯科医師・歯科衛生士による専門的口腔ケア・
クリーニングが有効である。また口腔清掃を妨げる不適合な補綴物(冠・義歯など)の調整
および再製作等が必要になることもある。歯周炎やう蝕の進行症例では抜歯等が必要になる。
急性辺縁性歯周炎および壊死性潰瘍性歯肉炎・歯周炎に対しては抗菌薬による消炎療法も用
いる。
 根尖性歯周炎:齲蝕あるいは歯髄炎に続発し、患歯の根尖部に慢性炎症病巣を形成する。
根尖性歯周炎は一般に慢性の経過をとるが、全身状態の低下等が誘因となり急性転化し、患
歯を中心とした疼痛および腫脹等が出現する。さらに顎骨炎あるいは顎骨周囲炎等に進展す
ることがある。治療は原因歯の根管治療あるいは抜歯を行う。急性期には全身状態の改善と
共に抗菌薬・消炎鎮痛剤による消炎療法も行う。
6 アフタ性口内炎
一般にアフタ性口内炎は1~2週ほどで治癒するが HIV 感染者では治癒が遅れ、数週間~
数か月に及ぶこともある。径6㎜以上の大型アフタは CD4 陽性リンパ球数 100/μℓ以下で多
くみられる。
7 HAART と口腔症状
一般に免疫力が回復すると口腔症状は消失する。成人で HAART を施行している患者で
は、過去に報告されてきた口腔症状(口腔カンジダ症や口腔毛様白板症など)は減少したとい
う報告が多い。HAART の普及によりカンジダ症が1/10 になったという報告もある。一方
HAART 導入後、口腔症状として HPV 感染症(口腔乳頭腫など:Oral Warts)、唾液腺腫脹、
口腔悪性腫瘍 ( 扁平上皮癌、リンパ腫など ) が増加しているという報告がある。抗 HIV 薬に
より口腔潰瘍、口腔乾燥症、味覚異常、舌炎、口腔周囲の感覚異常などがみられることも報告
されている。HAART による免疫再構築症候群としての歯周炎などが今後の HIV 感染者の重
要な口腔症状になるともいわれている。
4
AIDS/HIV 感染者の歯科治療および口腔衛生管理
AIDS/HIV 感 染 者 で は 病 期 の 進 展 に と も な い 全 身 状 態 が 低 下 す る こ と が 多 か っ た が、
HAART の普及により、HIV 感染者の生活スタイルや口腔症状も変化している。しかし限局性
の慢性炎症病巣であっても、体調不良時や免疫力の低下時に急性転化する可能性がある。さら
に、
全身状態が高度に低下した時期には抜歯等の治療ができなくなる可能性が高い。したがって、
AIDS/HIV 感染者では、病期が進行する前に口腔内診査、口腔清掃指導および必要な歯科治療
138 HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
を受けることが望ましい。口腔衛生管理としては、未治療の齲蝕および歯性感染病巣を治療する
ことも必要であるが、良好な口腔清掃状態を保つことが重要である。齲蝕や歯性感染症は予防で
きる疾患であり、また、初期の齲蝕あるいは歯性感染症であれば短期間で治療可能である。口腔
衛生に目をむけることにより、齲蝕や歯性感染症といった口腔機能を損なう状況から感染者を解
放することができ、さらに、重篤な歯性感染症の発症を予防することも可能である。AIDS/HIV
感染者の QOL を考えると、歯科治療のみならず口腔衛生管理にも充分に留意する必要がある。
“痛
くなる前に歯科で診てもらう”ことが、感染者では非感染者以上に重要である。そのためにも、
6か月毎の定期健診が望ましい。北海道大学歯科診療センターではスタンダードプリコーション
の概念に沿って AIDS/HIV 感染者の歯科治療のみならず口腔衛生指導も行っている。一般的に
は単に患者の HIV 感染の状態によって、歯科治療の内容を変えることは不要である。現在の患
者の状態(最新の CD4 陽性Tリンパ球数、ウイルス量、内服薬、現在の健康状態)を知ること
は重要であるが、CD4 陽性リンパ球数が 200/μℓ以上であればほとんどの歯科治療は患者に危
険を及ぼすことはない。通常歯科治療時の局所麻酔(浸潤麻酔)が禁忌になることはないが血友
病患者の下顎孔伝達麻酔は原則禁忌である。また HIV 感染者への無差別的な抗菌薬の使用はカ
ンジダ症などの日和見感染症を引き起こす危険がある。
5
医療従事者の感染予防対策
歯科・口腔外科診療においては、局所麻酔下の抜歯・切開等の外科的処置および歯周療法等の
観血的な処置を行う頻度が高い。HIV 感染予防対策としては、基本的には後述の外科系の対応
と同じである。しかし、歯科・口腔外科診療では局所麻酔の頻用、歯牙の切削、探針やスケーラー
などの鋭利機具の使用、印象採得(歯あるいは歯槽堤の型をとること)等の他科領域にはない治
療器具や治療法がある。当歯科診療センターでは、CDC のスタンダードプリコーションの概念
に沿って治療を行っている。この予防策は本来感染症の有無にかかわらず、すべての患者に適用
することが重要である。また、局所麻酔の針のリキャップの回避、ワンハンドテクニック(片手
で針のキャップをすくい上げる)の応用や切削バーの着脱を直接指で行わずピンセットや着脱器
を使用する、などの工夫も必要である。より安全な器具の使用や針刺し事故などが起こった時の
連絡系統を準備するなどの対策も重要である。以下、これらの治療法および治療機器に関する感
染予防対策を概説する。歯科治療時の HIV の暴露時の感染のリスクは一般に高くないが、血中
ウイルス量が 10000 コピー/μℓ以上では、針刺し事故の可能性や感染防御体制などを十分考慮
する。
1 歯牙の切削
診療に際しては必ず手洗い後にマスク、手袋を着用する。歯科治療ではエアタービン、エン
ジン(歯牙および骨の切削機器)
、スプレー等を多用し、これらの機器使用時には術者の顔に
血液、唾液の混在した飛沫粒子を浴びることが多い。したがって、これらの機器を使用する場
合には、ゴーグル、マスクあるいはフェイスシールドおよびガウン等を着用する。ラバーダム、
口腔外バキュームの使用は院内感染予防に有効である。
2 デンタルチェアーおよびユニット(歯科用診療椅子)
デンタルチェアーおよびユニットは、ラッピングテクニックが応用可能な部分は実施が勧め
られる。応用が困難な場合は、診療後消毒用アルコール等で清拭する。ハンドピース等は患者
ごとに滅菌済みの器具を使用する。
3 印象採得、咬合採得および口腔内に試適した補綴物など
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療 139
印象物(歯および歯槽堤の型をとったもの)、咬合採得材料(咬み合せの記録媒体)や口腔
内に試適した補綴物(義歯や冠など)には血液や唾液が付着しているので、口腔外から撤去し
た直後に流水で水洗(印象材の種類によるが、アルジネート印象では 120 秒)し、0.1%ピュー
ラックス液 ® に 60 分間浸す。また、印象材は印象表面の荒れ、寸法変化が考えられるので、
アルギン酸系印象材よりラバー系印象材を用いる方が良い。
6
北海道の歯科医療体制について
歯科診療が可能なエイズ拠点病院として北海道には3つのブロック拠点病院(旭川大学病院歯
科口腔外科、札幌医科大学附属病院歯科口腔外科、北海道大学病院歯科診療センター)、1つの
中核拠点病院(釧路労災病院歯科口腔外科)、6つの拠点病院(市立札幌病院歯科口腔外科、市
立函館病院歯科口腔外科、旭川赤十字病院歯科口腔外科、市立旭川病院歯科口腔外科、釧路赤十
字病院歯科口腔外科、市立釧路総合病院歯科口腔外科)が常時 AIDS/HIV 感染者の歯科診療を
行っている。患者さんが自分の生活圏で自分の都合の良い時間に安全な歯科医療サービスを受け
られることを目的に、北海道大学病院歯科診療センターでは北海道保健福祉部からの委託事業と
して「北海道 HIV 歯科医療ネットワーク構築事業」を展開している。この事業は、拠点病院以
外の病院歯科ならびに歯科診療所の中から、感染者の歯科治療を積極的に受け入れる歯科診療機
関(北海道 HIV 歯科医療協力医)のネットワークを構築して患者に適切な歯科診療機関を紹介
するものである。
・北海道 HIV 歯科診療協力医とは
エイズ拠点病院の歯科以外に道内に、病院歯科:3機関、歯科診療所:16 機関の計 19 機関
の HIV 歯科診療協力医の登録がある(平成 23 年8月 31 日現在)。協力医のネットワークのリ
ストは非公開であるが、エイズ拠点病院、各保健所、北海道歯科医師会に常備されているので、
患者はかかりつけの拠点病院などの内科医師、拠点病院の歯科医師、看護師、ソーシャルワーカー
などに受診の希望を伝えた後、紹介された協力医の歯科医療機関に予約の電話を入れて診療を受
けることができる。
7
歯科治療に関する問い合わせ
北海道大学病院歯科診療センター歯科事務室
電話:011 - 706 - 4330
140 HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
■参考文献■
1 木村 哲:エイズと日和見感染症に関する臨床研究.厚生省科学研究費補助金エイズ対策研
究推進事業 平成7年度研究報告書
2 Michael Glick、
他:Oral manifestations associated with HIV-related disease as
markers for immune suppression and AIDS. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 77, 344349, 1994
3 小森康雄:歯科領域におけるエイズ.アークワークス・歯科出版局 1998
4 池田正一:HIV 感染者の歯科治療 厚生労働省エイズ対策研究事業 2002
5 池田正一:HIV/AIDS 歯科診療における院内感染予防の実際(改訂版) 2003
6 池田正一:HIV 感染症の歯科治療マニュアル(2006)
7 前田憲昭:HIV 感染者の口腔衛生管理ノート 2008 - HAART 導入後の変遷を考える-
(2008)
8 HIV 感染者の口腔衛生管理ノ-ト 2009 - 2010 第3版:平成 21 年度厚生労働科研費
補助金エイズ対策研究事業
(歯学研究科口腔病態学講座口腔診断内科学
佐藤 淳、杉浦 千尋、 北川 善政 2011.09)
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療 141
16 HIV 感染症患者の心理的支援
1
医療者が対応する際の心がまえ
医療者は、専門的な立場から、患者の治療や健康管理について積極的に助言・指導する必要が
あるが、個々の患者の状況に配慮した対応が求められている。
一般的に、医療者が以下の視点を持っておくことは重要である。
 HIV 検査結果説明時の原則
患者本人に結果を伝えることが原則である。患者以外の家族 ・ パートナー等に医療者から伝
える必要がある場合には、患者本人の承諾を得なければならない。また、結果説明時だけでな
く、診察時などに患者以外の同席者がいる場合も注意が必要である。
→ p143 「3 HIV 検査時の基本的な姿勢」参照
 患者の心理的状況
1 現在 HIV 感染症は慢性疾患として位置づけられるようになっているが、依然「死」と結
びついたイメージを持つ患者も多く、死への恐怖感を抱きやすい。
2 病気を抱えたことにより、人生計画や目標を持ちづらくなる。
3 否定的にとらえられやすい性感染症であり、社会的偏見や差別を恐れたり、後悔や自責感、
自分に対する嫌悪感などによる自己評価の低下をまねきやすい。
4 家族 ・ パートナーや友人などに病気を伝えるか否かをめぐり葛藤する。
5 病気を伝えないことを選択した場合、病気を隠すことや本当のことが言えない状況のため
に、後ろめたさや罪悪感などを持ちやすく、孤立感を深めやすい。
6 感染を契機に以前から抱えていた問題が表面化し、心理的危機状態に直面する場合がある。
→ p145「4 心理的状況と支援」参照
このような状況において、配慮に欠けた対応(医療者の思い込みを押しつける、医療者の陽性
結果に対する驚きや混乱をそのまま患者に伝えてしまう、病気についての十分な説明をしないま
ま拠点病院への転院を言い渡す、等)は医療への不信感を抱かせる。
したがって、支援者となる医療者が公正かつ誠実に対応することは最も重要なことである。公
正かつ誠実な対応は、患者‐医療者の信頼関係につながり、安心して受療できる、療養生活上の
不安について相談がしやすいなど、患者の療養生活を支えるものとなる。また、その患者が属す
るサブグループ(血友病患者、セクシャルマイノリティ、女性、外国人など)の背景、環境や文
化に配慮した対応も重要である。
2
医療者が備えておきたいコミュニケーションの方法
患者への対応の際に、カウンセリングマインド(カウンセリング的な考え方、接し方)を取り
入れていくことは有益である。カウンセリングマインドとは、「援助を求める人の気持ちに寄り
添い、その人の自己決定を尊重する姿勢」といえる。「いかに相手の話を素直に聞けるか」とい
うことと、「相手に対し、どのような情報の送り方が有効か」を常に工夫することが大切である。
142 HIV 感染症患者の心理的支援
一般には以下のような方法が用いられる。 1 よく相手の話を聴く(傾聴。受容的かつ共感的に)。
2 相手の語った事柄と感情をどのように理解したか、伝え返す。
3 相手を尊重し、自分の価値観を押しつけない / 持ち込まない(中立性)。
4 相手の受け入れる準備に応じて、説明の内容と表現の仕方を決める(専門用語など相手に
なじみのない言葉をわかりやすく言い換えたり、口頭での説明だけでなく視覚的な資材を用
いる、等)。
5 相手が説明をどのように受け取ったか、どんな気持ちになっているか、確認しながら話を
進める。
6 相手に質問をする際には、侵襲的にならないよう注意する(問い詰めるような表現を避け
る、等)。
同じ状況におかれたとしても、個々の患者によって感じ方や考え方、対処の仕方は多様である。
患者は、自分の気持ちを言葉で表現することもあれば、表情や行動で表現する場合もある。言葉
と行動の両方に重点をおく対応が求められる。
また、医療者が自分でも気づかないうちに表情や仕草、ふとした言葉によって、患者の気持ち
や考えに対して、否定的なメッセージを伝えている場合もある。医療者自身が自分の持つ価値観
に気づいておき、自らの行動の傾向を意識しておくことも重要である。
3
HIV 検査を実施する際の基本的な姿勢
HIV 感染症に関連する心理的反応は、感染の疑いを持ちだしたときから始まっている。受検
を決定するまでの迷いや検査の場所へ赴く緊張感、結果への不安など、受検者はさまざまな心理
的負担を経験している。
また、自ら検査を希望した場合と診療上の必要性から検査を勧められた場合(他の疾患に伴う
検査、エイズ発症に伴う検査、妊婦検診、手術前検査、等)とでは、検査に対する気持ちの準備
が大きく異なる。検査に対する気持ちの準備が十分でなければ、検査を受けることや結果への不
安も大きくなることが予想されるため、十分な支援が必要である。
 検査前
検査前説明の重要性
受検者が、自分が今から受ける検査の意味や、結果の意味を受け止め理解することは、結果通
知を受け止める前準備になるため、検査前説明は、検査を安全に進める上でとても重要である。
以下に検査前説明のポイントを記す。
検査前対応のポイント
1 プライバシーと人権の保護に十分に注意するが、特別扱いはしない
2 HIV、AIDS、検査に関する全般的な説明を行い、理解を確かめる
3 検査を受ける不安、恐れを受けとめ、軽減するように配慮する
4 感染経路やプライバシーにかかわる質問は慎重に行う
5 陽性の場合におこることを、あらかじめ知らせ、考えてもらう
①「感染=死」ではない(慢性疾患としての位置づけ)
HIV 感染症患者の心理的支援 143
②医師の指導をうけながら、基本的には、今までどおりの生活ができる
③サポート資源がある
④その人にとって一番問題になること、心配なことは何か
6 結果を受け取るまでは、感染予防の行動をとってもらう
7 結果を待つ間、不安が高まる場合が多いので、相談可能な連絡先を伝える
8 結果を受け取る日を確認し、結果を聞く準備ができないときには日時の変更ができること
や、結果を聞く準備ができないことについても相談できることを伝えておく
 検査結果説明時
1 結果説明前の確認事項
結果を伝えるにあたっては、受検者本人に結果を伝えることが原則である。また、受検者は
結果を聞く準備が整っているか、特に陽性結果を知らせる場合には、受検者を支える人がいる
か、結果を知った後に自損行為をする可能性がないかなどを検討する必要がある。
2 陰性時
陰性時は、陽性時とは異なり、受検者、医療者双方が安心する場面である。自ら検査を希望
した場合、受検者は、自ら検査の予約をしその時間に出向くという、すでに行動を起こしてい
る状態であり、HIV に何がしかの関心を向けているため、この場を今後の予防に向けて活用
していくことはとても大切である。一方、診療上の検査であっても、受検者の感染リスクに応
じて、感染予防行動について考えるための時間を持つことは、有益である。
陰性時対応のポイント
①受検者本人に結果を知らせる
②結果の理解を確かめる
③今回の経験から得たものについて話し合う
④個々が実行可能な感染予防の方法について話し合う
⑤感染しなかったことを喜びすぎない
3 陽性時
陽性判明時の体験(多くは医療者の対応によってもたらされる)が、その後の受診行動や病
気との向き合い方に大きな影響を及ぼすことが、調査により明らかとなっている。また、陽性
と伝えられた前後の説明は、動揺や混乱のために頭に残らないことが多いと言われている。そ
のため、陽性結果通知後の対応は、より具体的な内容が求められ、利用者の気持ちをしっかり
受け止めることが重要になってくる。受検者、医療者双方が緊張する場面ではあるが、医療者
側は受検者と一緒に不安・混乱に陥るのではなく、以下に示す3点のポイント、①今後の見通
しがあること、②今後について一緒に考えていける場所が確保されていること、③誰でも混乱
・ 衝撃を受ける体験であり、陽性判明時の感情や反応はごく自然であることを受検者の反応を
見ながら伝え、さらに、下記のポイントを押えていくことは重要である。
陽性時対応のポイント
①受検者本人に結果を知らせる
②精神的ショックの緩和をはかりながら事実を明確に伝え、過度のなぐさめをしない
144 HIV 感染症患者の心理的支援
③病気の経過や診療目標、治療方針について説明し、理解を確認する
④今後の生活について具体的な情報を伝える(定期的な通院が必要となること、周囲に病気
を伝えるか否かについて、基本的には今までと変わらず生活できること、医療者による支
援体制、セーファーセックス等)
⑤わかりやすい言葉で、丁寧に不安や疑問、あるいは誤解を解消していく
⑥患者の気持ちに十分耳を傾ける
⑦当面一番心配なこと、患者自身が問題と考えていることを整理し、対応の計画を立てる
⑧利用できる社会資源(カウンセリング、福祉制度、ボランティア団体、患者会、等)を紹
介する
⑨後で確認することのできる資料を渡す(同居者がいる場合などは扱いの注意も伝える)
感染の事実を受け入れ、病気を理解するには時間が必要となるため、繰り返し情報を伝え、受
検者と話し合うことが必要になる。信頼関係をつくり、次の受診(面談)につなげることを優先
する。
4
心理的な状況と支援
以下には、感染判明時からの各経過における患者の心理的な状況と、医療者に求められる対応
を示す。
なお、一般的な事柄を示すものであり、個々の状況を重視した対応が求められる。
 HIV 感染判明直後
患者は、HIV 感染を知らされたことによって衝撃を受け、動揺や混乱―知らせを受け取る
たった今まで自分がいた世界から隔絶された感覚を持ち、事実の否認、怒り、恐れ、不安、絶
望、罪悪感、抑うつ、そして希望といった多様な心の状態を交互に体験する(個々によって体
験の差は大きい)。
このように気持ちが揺れ動くときに、適切な判断をすることは難しい。また、これから何を
すればよいのか、体調が急激に悪化するのではないか、すぐに服薬を始めないといけなくなる
のではないかなど、今後の見通しを持ちにくいために不安が高まりやすい。
対応:言葉や態度に十分配慮し、次の受診につながるよう支援する。
医療者は、患者の気持ちに寄り添い、患者の反応を客観的にアセスメントしながら、
自殺のリスクや精神科医との連携の必要性を正確かつ迅速に判断することが重要であ
る。
不安の軽減には、具体的に今後の方針を示すことや適切な情報提供が役立つことも多
く、患者のペースに合わせて繰り返し説明を行う必要がある。また、重要な決断をする
にはしばらく時間をおいた方がよいことを伝え、時に医療者には、患者の決断が後に後
悔をもたらさないかなど客観的な視点を提供する役割が求められる。
帰宅してから急に気分の変化や不安が襲ってくることもあり、連絡方法を伝えること
も大切である。
HIV 感染症患者の心理的支援 145
エイズ発症に伴って HIV 感染が判明した場合には p147「エイズ発症」も参照。患者に
は身体症状のつらさに、感染を知ることによる心理的負担が加重される。身体状況に応じて支
援を行っていく必要がある。
 治療(抗 HIV 薬)開始時
治療開始は、患者にとって感染の事実や病状の進行を改めて意識させ、病気への否認、動揺
や混乱が再燃することも考えられる。これらの気持ちや薬を飲むことへの不信感によって、服
薬アドヒアランスの維持が困難になる場合がある。
「毎日、忘れずに飲めるだろうか」「どの程度の副作用があるのだろうか」「仕事に支障はな
いだろうか」「他人に薬を見られたらどうしよう」といった、さまざまな不安を抱える。
対応:患者自身が治療の意義や副作用を十分に納得して服薬を開始できるよう支援する。
治療開始が目前であると告げられたことによって喚起された病気に対する気持ちに寄
り添いつつ、開始までの準備を患者とともに整えていくことが重要である。福祉制度の
紹介や副作用や飲み忘れに対してなどあらかじめ起こりうることへの対処を考えておく
ことは負担の軽減に役立つ。
自らの力で継続できるよう、個々の生活パターンに合わせた服薬スケジュールを立て
ることは必須である。
→ p158「服薬支援」参照
 長期にわたる療養生活において
事実を受けとめ、安定を取り戻しても、生活の変化、人間関係の変化、体調の変化などさま
ざまな状況の変化で不安定になることもある。特に人間関係(性行為を伴う親密な人間関係も
含め)においては、他者に感染を伝える / 伝えないをめぐり葛藤する、伝えないことを選択し
周囲から距離をおいて孤立を深める、伝えたことで相手との関係がぎくしゃくする、性的パー
トナーへ感染させてしまうのではないかとの不安から性生活を制限するなど、さまざまな局面
がある。
患者には、HIV 感染の事実が人間関係に密接にかかわってくる閉塞感や、体調がいつ変化
するかわからない不確かさなど、常に根底に心理的負担を抱えながら生きる苦しさが存在する。
また、これまでの日常生活との変化や制限に対し、通院が不定期である、二次感染予防が十分
でない、薬の飲み忘れが多いなどの場合もある。それらの場合には、必要性の理解が不十分で
あったり、医療者と患者との間で優先事項の考え方に隔たりがあったり、心理的な葛藤が行動
として出現していることが考えられる。
一方、長期にわたって体調を維持し、生活を続けることができているという事実は患者の支
えとなる。
対応:
「その人らしい生活」を模索する過程への支援をしていく。
患者の生きる苦しさを念頭に置き、さまざまな変化のときを見逃さないことが求めら
れる。変化に伴う心理的負担は苦痛を増大させやすく、表情や言動の変化などに留意す
る必要がある。
記憶力や集中力の低下がみられる場合もあり、認知機能のアセスメントを行うなど脳
器質的な変化にも留意しなければならない。行動が十分でない背景に、認知機能の低下
146 HIV 感染症患者の心理的支援
が存在する場合がある。不安定さや体調の維持に必要な行動への関心の低さに対し、カ
ウンセリングの導入や精神科 ・ 神経内科受診を含めた対処を考えていくことが重要であ
る。
また、性生活への支援も大切である。プライベートな部分を医療者に話すことへの患
者の戸惑いに配慮しつつ、患者に性についても話すことができることを伝え、患者自身
が実践できる感染予防の方法を具体的に考えたり、より豊かな性を実現できるよう支援
していくことが望まれる。
 感染を伝えること
身近な人(家族 ・ パートナーや友人など)に感染の事実を伝える / 伝えない、について考え
ることは多大な心理的負担となる。伝えることによって、身近な人間関係を失うのではないか
との不安は深刻である。身近な人からの拒絶は、患者の孤立感をより深めることになる。また、
受け入れられたとしても、身近な人へ心理的あるいは経済的負担をかけることに対して罪悪感
を持つ場合もある。
しかし、患者にとって、家族 ・ パートナーや友人から理解され、受け入れられることは強い
心の支えとなる。
対応:医療者は正しい情報(性的パートナーへの HIV 検査の必要性や二次感染予防について、
等)を伝え、患者の不安や逡巡の気持ちを十分に受けとめながら支え、時には感染を伝
えることを促し続けることが大切である。
家族やパートナーの十分な理解が得られない場合には、患者-家族・パートナー関係
などの人間関係への支援も必要となる(医療者から家族 ・ パートナーへ、病気の性質 ・
経過の見通し ・ 治療内容 ・ 二次感染防止の知識 ・ 支援の必要性などについて説明するこ
とができることを患者へ伝える、感染を知らされ動揺が強い場合にカウンセリングを導
入する、等)。
 ライフサイクル上の心理的課題と HIV 感染
ライフサイクル上の課題は、HIV 感染を契機とした心理的課題と重なり、錯綜して現れて
くる。たとえば、身体的衰えに伴う自己の限界の認識や死を、いかに自分の生に組み入れてい
くかという課題は、一般には中年 ・ 老年期のテーマと考えられやすいが、HIV 感染症患者の
場合、感染を機に若いうちからこの課題に直面させられる。発症など、病状の変化がこの課題
への直面を余儀なくさせる場合もある。また、若い患者の場合、病気による身体的・社会的制
限を受けながら、他者との親密な関係構築や職業選択といった青年期の課題に取り組むことは、
心理的に大きな負担になりやすい。これらの課題への取り組みを意識して支援すること、それ
に加えて、その人固有の人生の課題への取り組み・生き方の選択を支援する視点も重要である。
 エイズ発症
死がより身近なものとして感じられる時期である。
多くの場合、治療によって体調の改善が見込まれる。体調の悪化によって賦活された死への
恐れや気分の落ち込みは、体調とともに回復することが多いが、そのまま持続することもある。
また、改善した体調がいつまで維持されるのかという不確かさを抱える。
命の有限性に直面し、発症が生き方の変化の契機となる場合もある。
HIV 感染症患者の心理的支援 147
対応:病状等について正確な情報を提供し、患者が自己決定できるよう支援する。
身体的な苦痛や治療に対する不安などの気持ちに寄り添いながら、患者が望むときに
はともに死のテーマに向き合うことが重要である。
病状によっては、精神神経症状を合併することがあり、なるべく早期より神経内科、
精神科との連携をはかる必要がある。
また、患者を取り巻く人々への支援も大切である。
~において現れてくるテーマは、いずれも患者が病を抱えながら「生きる」うえで大変
重要なものである。これらの時期に、患者自身が自分のさまざまな気持ちと向き合いながら、
より納得できる選択をすることや本人なりの対処、解決の方法を見つける過程を支援していく
ことが求められる。
患者の希望があった場合だけでなく、医療者からカウンセリングを勧めることが必要なとき
でもある。
5
カウンセラーの役割とカウンセリング
さまざまな心理的負担により苦痛が生じているときや気持ちが混乱したときなどに、カウンセ
ラー
(臨床心理士等の心理職)とのカウンセリングを導入することは有益である(睡眠の変化など、
状況によっては精神科医との連携も考慮しなければならない)。カウンセラーは、患者とともに、
HIV 感染をめぐるさまざまな出来事をどう受けとめ、どのように対処していくかを考えながら、
患者が自らの人生をより自分らしく生きていけるよう支援していく。
患者は HIV に感染することによってさまざまな状況におかれ、種々の心理的負担を体験する
こととなる。それらによって苦痛が増大する前に、患者にどの時点においてもカウンセリングが
利用できることを紹介したり、実際に担当者と会っておくことを勧めることが望まれる。
→ p207「24. 相談室について 4 カウンセラーの役割」参照
 目的
HIV 感染をめぐるさまざまな出来事や問題について、心理的負担が軽減するよう対処方法
を考えたり、患者が自分の気持ちに向き合える場を提供し、それまで気づかなかった自分の気
持ちに気づくことや自分への理解を深めることを通して、患者自身が自らの力で病気との自分
なりのつき合い方や問題解決の方法を見出していく過程を支援する。
 方法
十分な時間をかけて相手の話に耳を傾け、ともに考えていくことを重視する。指示したり、
特定の解決策に誘導することはしない。
カウンセリングには、情報提供や教育的関わりを中心としたガイダンス的内容から、日々の
よりよい適応を目指す心理カウンセリング、相談者の内面の変容を支援する心理療法まで諸相
があり、その目的に応じて用いる技法が異なる。
 必要な準備と配慮
カウンセリングの実施に際しては、患者が安心して十分に気持ちを表現できるような場の確
保など、以下のような準備・配慮が必要である。
148 HIV 感染症患者の心理的支援
1 カウンセリングを利用する / しないは、患者との話し合いで決定する。
2 話し声が外にもれず、面談中に人の出入りがない、個室を用意する。
3 最初の顔合わせのときには、医師や看護師から患者にカウンセラーを紹介する。
4 カウンセラーは、カウンセリングの場で話されたことが外部にもれないことを保証し、守
秘義務を徹底する。医療者間の情報の共有については、共有の範囲を示して了解を得る。
なお、カウンセリングの利用は患者本人に限らず、家族 ・ パートナーに混乱や心理的な苦痛が
みられる場合には導入を検討する。
6
カウンセラーの連絡先
相談室にはカウンセラーが常駐しており、患者、家族・パートナーへ随時カウンセリングを行
える体制をとっている。医療者、NGO からの相談や他機関へ赴いてのカウンセリング依頼にも
応じている。料金は不要。
相談室:加藤 朋子(内線 7025)
→ p206「24. 相談室について」参照
7
精神科医との連携が必要な場合の連絡先
HIV 感染判明や病状の進行を契機に精神神経症状が出現したり、感染判明以前から抱えてい
た精神疾患が悪化する場合があり、精神科医との連携は重要である。
精神科神経科外来医長:朴 秀賢(内線 5774)
(受診手続きについては、精神科神経科外来受付へ連絡(内線 5774)。予約が必要。)
8
電話相談
エイズ電話相談は、相手と顔を直接合わせず、しかも匿名で相談できることから、主な感染経
路である性行為に関する話題などについても具体的に相談しやすいという利点がある。そのため
予防・啓発の役割が大きく、現在、院内の他に、地方自治体、保健所、エイズ予防財団、NPO
などで行っている。
HIV 感染症患者の心理的支援 149
9
各保健所・保健センター エイズ専用電話
道立保健所(支所)のエイズ専用電話
受付時間/平日(月曜~金曜)9:00~17:00
渡
(
島
木
(
古
内
森
0138-47-9166
上
川
0166-46-5264
)
01392-2-3444
名
寄
01654-3-7711
)
01374-2-6654
富
野
0167-22-4799
留
萌
0164-43-8200
江
差
01395-2-2475
八
雲
01376-2-3328
(
今
金
江
(
別
石
狩
千
倶
(
知
余
市
岩
岩
(
)
見
由
仁
)
(
良
天
塩
)
01632-2-3535
01378-2-3640
北
見
0157-24-4123
011-383-3449
稚
内
0162-32-3336
0133-74-0242
(
歳
0123-22-1199
(
安
0136-22-2279
網
走
0152-43-0995
0135-23-3104
紋
別
01582-4-1926
)
内
0135-63-1680
沢
0126-25-6632
)
(
浜
頓
利
別
尻
遠
軽
帯
)
01634-2-0525
)
01638-4-2247
)
広
01584-2-3108
0155-21-6399
01238-3-2290
(
新
得
)
01566-4-3666
滝
川
0125-24-3666
(
広
尾
)
01558-2-5500
深
川
0164-22-6105
(
本
別
)
01562-2-2108
室
蘭
0143-22-1009
牧
0144-35-7474
浦
河
01462-2-7377
根
静
内
01464-3-3200
中
苫
小
釧
(
路
標
茶
標
)
0154-22-0820
01548-5-1415
室
01532-4-5586
津
01537-2-8022
なお、札幌市の各区役所保健福祉部、小樽市、函館市、旭川市の各保健所でもエイズに関する
相談に応じている。
札
幌
中
央
011-552-8120
札
幌
南
011-583-8120
幌
西
011-613-8120
札
幌
北
011-756-8120
札
札
幌
東
011-723-8120
札
幌
手
稲
011-683-0812
幌
清
田
011-885-8120
市
0134-22-3110
館
0138-32-1539
札
幌
白
石
011-862-8120
札
札
幌
厚
別
011-894-8120
小
札
幌
豊
平
011-816-8120
市
市
011-26-8120
旭
川
150 HIV 感染症患者の心理的支援
樽
立
函
<エイズ電話相談窓口・情報サイト>
窓口組織
電話番号など
北海道庁・保健福祉部保健医療局
健康安全室感染症グループ(エイズ)
011-231-4111
各保健所・保健センター エイズ専用電話
別表参照
NPO 法人 レッドリボンさっぽろ
0120-812-606(フリーダイヤル、携帯
可、火曜日 、19:00~22:00)
はばたき福祉事業団北海道支部
0800-800-3662(フリーダイヤル、火・
水・金曜日、10:00~16:00)
0120-177-812(フリーダイヤル、月~
金 曜 日、10:00~13:00、14:00~
17:00)
携帯電話からは、03-5259-1815
エイズ予防財団
http://www.jfap.or.jp/
エイズ予防情報ネット
http://api-net.jfap.or.jp/
HIV 検査・相談マップ
http://www.hivkensa.com/
HIV 感染症とカウンセリング
http://www.hivandcounseling.com/
■参考文献■
1 Buckman,R.:死にゆく人と何を話すか、上竹正躬訳、メヂカルフレンド社、1990
2 Dilley,J.W.,Pies,C. & Helquist,M.:AHP エイズ ・ カウンセリング ・ ガイド―共に歩むす
べての人々のために―、矢永由里子訳、HBJ 出版局、1994
3 兒玉憲一、一円禎紀:性的パートナー告知を促す HIV カウンセリングの技法と倫理に関して、
心理臨床学研究、15-1、pp98-103、1997
4 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業多剤併用療法服薬の精神的、身体的負担軽減
のための研究班:HIV 診療における外来チーム医療マニュアル(第1版改訂)、2006
5 仲倉高広:HIV 医療とカウンセリング、北海道大学病院 HIV 感染対策委員会編、平成 19
年度北海道 HIV/AIDS 医療者研修会記録集、pp85-90、2008
6 新潟大学医歯学総合病院感染管理部編:伝えたい、学びたい HIV カウンセリング、平成 20
年度関東 ・ 甲信越地方ブロックエイズ対策促進事業における調査研究事業、2009
7 野島一彦、矢永由里子編:HIV と心理臨床、ナカニシヤ書店、2002
8 矢永由里子:医療と心理臨床―HIV 感染症へのアプローチ―(シリーズ日本の心理臨床2)、
誠信書房、2009
9 財団法人エイズ予防財団:カウンセリング活用の手引き―HIV 検査や治療にたずさわる方
へ―、2007
(HIV 相談室 加藤 朋子 2011.08)
HIV 感染症患者の心理的支援 151
17 HIV 感染症患者の看護
1
HIV 感染症患者を担当する看護師の役割
HIV 感染患者の看護として、患者が療養生活と治療を両立できるようにセルフケア支援が求
められている。HIV 感染症の治療効果が発揮され、患者が QOL を維持しながら自己のライフス
タイルを構築していけるよう、治療方法や療養生活に関して患者の意思決定への支援が重要であ
り、下記に示す。
① 初期においては感染説明(告知)に伴うショックや動揺などの危機状態への支援
② 服薬治療開始から継続、合併症予防などへの支援
③ セルフケアマネジメントを行い、QOL を維持した長期的な療養生活への支援
④ セクシャリティなど性(セクシャルヘルス)に関する問題への支援
HIV 感染症の診断に伴う心理的反応は多様である。衝撃の大きさは個々の状態によって異な
り、病気に対してどのようなイメージ、情報をもっているかにより左右される。そのため、看護
師は、患者の心理面や管理状態をアセスメントし、知識や技術が確かなのか、情動面で安定して
いるのか明確にして支援していく必要がある。「その人のことを最も知っているのは、その人自
身であり、人は自分のことを自分で決める力を持っている」ため、その人の持っている力(強み)
をより強化する。あるいは潜在する力を引き出す支援と療養生活への見通しを立てて自己決定を
支える支援が看護師に求められる。そのため、HIV 感染症患者を担当する看護師には下記の役
割が求められる。
① 患者の身体的・心理的・社会的背景を総合的に把握する
② 患者の療養生活上の目標を共有し、セルフケアを実践し継続できるよう支援する
③ HIV 感染患者の治療方法や療養生活に関して、医療チームが効果的に協働してい
くための調整を行う。
2
初診時の支援
 コミュニケーションへの配慮
初診時の医療者や医療機関の第一印象が、その後の患者と医療者間の信頼関係に影響し、患
者の療養経過を左右すると言われている。初診時の対応で信頼関係を損なうと、それ以降の受
診中断や生活支援が進まなくなる可能性があることから、特にコミュニケーションに配慮した
対応をする。「少なくとも、次の受診につながる」「今後の療養生活についてある程度の見通し
が立てられる」支援が初診時には重要である。
152 HIV 感染症患者の看護
 診療環境とプライバシーの保護への配慮
① 診察や説明、面談をする場所は、プライバシーが保て、患者が十分に感情を表出で
きる個室が望ましい。
※個室での対応は、密室になるためスタッフへの危機回避対策を整備し、緊急対応で
きるようにする。
② 患者から知り得た情報がチーム内で共有が必要と判断された場合、患者に「情報を
伝える目的、誰に、どの様な内容を伝えるか」について了解を得た上で、情報をチー
ム内で共有する。
3
HIV 検査時・陽性結果説明時・陰性結果説明時の支援
 HIV 検査時の支援
HIV 検査を実施する際は、受検者や患者が検査目的を理解し、同意を得て実施する。HIV
検査希望者の同意書は、本人の希望であるため不要である。
術前・検査時・妊娠時等の感染症検査に関しては、検査目的等について書面を用いて説明後、
病院規定の同意書(感染対策マニュアル <各種書式>8)感染症検査承諾書)に署名を得る。
P 164「感染症検査同意書」参照
 陽性結果説明時の支援
HIV 検査結果が陽性の場合、本人に検査結果を医師が伝える。
尚、本人の承諾なく、家族やパートナーなどに説明しないことが原則である。
① HIV 感染結果説明にあたっては、患者の性格傾向・精神状態を観察しながら、患
者が HIV/AIDS に対して持っている情報やイメージを把握し、サポートする人の存
在や HIV 感染の事実を受けいれる準備状態をアセスメントする。
② HIV 検査結果の意味・HIV 感染症・AIDS の概略を説明し、正確な情報理解を支
援する。
③ 医師の検査結果説明時、看護師は、患者が HIV/AIDS に対して持っている情報や
イメージ、説明の受けとめ、理解状況を確認する。
④ HIV 陽性結果の説明を聞き、その後に生じる心理的状況(不安、恐怖、絶望、孤
独など)をアセスメントし、疑問あるいは葛藤などの心理社会的問題に対して患者自
身が適切な選択ができるよう意志決定のプロセスを支援する。
⑤ 説明直後は、正常な判断力が低下する場合が多いので、人生を決めるような決定や
行動を取らないように説明する。
⑥ 家族・パートナーへの感染の説明及び性行為相手の HIV 抗体検査を考えていける
ように支援する。
⑦ 心理面への対応は、患者の感じている病気に対する感情や思いを受けとめ、慢性疾
患のひとつで治療効果が有ること、独りではないこと、医療者が支援していくことを
伝える。
HIV 感染症患者の看護 153
⑧ 相談室の利用方法・連絡先や次回の受診日・方法の理解を確認し、必要な支援を得
られることが可能と伝える。
⑨ 検査結果を聞いた後、不安が強い、突発的な行動につながる可能性がある場合、専
門職(精神科医やカウンセラー)に依頼・相談し危険回避できるよう適切な対応につ
ながるよう調整する。
⑩ 患者に、相談できる専門職や陽性者支援団体など利用可能な関係機関の情報を伝え
る。
 陰性結果説明時の支援
HIV 検査受検者は HIV 感染への関心度が高い状況と考えられる。検査結果説明時にリスク
行為や性感染予防行動を考えられるような行動変容の機会を設ける。HIV 検査結果が陰性で
あっても過去の性行為が安全であることを証明したわけではない。検査結果を誤解しないよう
情報提供や性感染症予防行動を具体的に考え実践していけるような振り返りをする機会が重要
といえる。
※ HIV 抗体検査希望者・感染不安を持つ人への支援
相談室では、HIV 検査の問い合わせや、感染不安を持つ人などの電話・面談相談などに
応じている。北大病院で抗体検査を希望される場合は、相談室のスタッフが事前に面談をし
て、検査説明や受診調整・カウンセリングなどを行っている。直接来院して総合案内などで
検査を希望される場合も、相談室(内線 7025、PHS83351・83352)に連絡があれば、同
様に対応可能である。
4
セルフケアへの教育的支援
患者が療養生活に必要なセルフマネジメントを的確に実践できるよう、病状や治療、日常生活
の注意点など患者個々の理解度に応じて教育的支援を行う。
 学習支援
HIV/AIDS に関する正確な知識を習得し、自己管理能力を育成する
学習内容
①ヒトの免疫システム
⑧合併症の予防・治療(日和見感染症・
② HIV 感染症と AIDS の違い
長期合併症など)
③病気の経過
⑨2次感染予防(セーファーセックス)
④検査データの見方
⑩定期受診の必要性
⑤ HIV 感染症治療の開始基準・作用・副
⑪緊急時・相談時の連絡先・連絡方法
作用
⑥服薬自己管理
⑫社会資源・制度利用
⑬専門職利用
⑦日常生活の注意点
 日常生活への支援
体力を維持し免疫力を保ち、自分や他者への感染に注意した生活を過ごせるよう日常生活の
留意点について説明し実践できるよう支援する。
154 HIV 感染症患者の看護
①基本的な生活
●
規則的な生活のリズムが整えられる
●
休息や睡眠が十分にとれる
●
ストレスを貯めない。ストレス発散方法を獲得する。
●
外出時のマスク、外出後の含嗽等一般的な感染予防行動がとれる。
②食事
●
栄養のバランスを考え食事を規則的に摂取する。
●
生肉、生魚、卵はサルモネラや細菌、寄生虫がいることがあるため十分加熱する。
●
無農薬野菜等は、寄生虫がつきやすいため、よく洗い適切に調理する。
●
外食は栄養が偏りがちになるため、外食で不足している食品を補うこと、同じ料理
を続けて取らないよう工夫する。
③嗜好品・代替療法
●
適量のアルコールは、食欲を増す効果があるが、過度になると、肝機能障害の要因
になることがあり注意する。
●
喫煙は呼吸器感染症に罹りやすくなるため、禁煙へつなげる。
●
代替療法の中には、抗 HIV 療法の効果が低下するものがあるため、使用希望時は
医療者に確認する。
④ぺットの飼育
ペットを飼うことで生活が充実するが、ペットの健康管理に注意する。日和見感染
症を防ぐにはあらかじめペットの病原体のチェックしておく。
●
ペットの排泄物に直接触れないよう、ビニール袋を使用する。
●
餌を口移ししない。
●
ペットに触れた後は、手洗い・うがい励行をする。
⑤出血時の対応
血液を介して他人が感染しないための対処行動がとれる。
●
出血を伴うケガは、ガーゼなどで傷口を自分で押さえ止血する。傷口は消毒して清
潔なガーゼで保護する。
●
血液の付着したガーゼ等は自分でビニール袋に入れて処分(燃えるごみとして)する。
⑥定期通院・専門外来受診
自分の健康状態把握や治療のタイミングを逃さないために定期受診の必要性を説
明し通院が継続できるよう支援する。
●
受診調整が可能であることや患者の状況に合わせた予約外受診や救急外来受診時
の対応を説明する。
●
眼科定期受診の継続は、サイトメガロウイルス網膜炎等の早期発見治療のため必要
となる。(免疫データにより受診頻度を決める)
●
婦人科定期受診は、子宮頸癌等の早期発見のために1年1回は実施する。(免疫や
細胞診のデータにより受診頻度を決める)
⑦他科・他施設への受診
●
主治医から紹介(紹介状)をうけ、患者が安心して必要な診療が受けられるよう受
診調整する。他科受診の方法や流れについて説明する。
●
初診で他科受診時は、特にプライバシーへの配慮など必要に応じて受診科へ依頼する。
HIV 感染症患者の看護 155
⑧緊急・体調変化時の対応
●
体調の変化や緊急時は、医療者に連絡相談できるよう、具体的な連絡先・連絡方法
がわかり行動できるよう、説明する。
●
通院医療機関以外に受診する場合や救急車利用時は、「HIV 感染で通院しているこ
と」
「通院医療機関との連携が図れること」を救急隊員に伝えることで適切な対応
が可能となることを説明する。
⑨他者への感染防御
●
他者への感染予防行動(体液に直接触れない対応を自分自身がとれる)が分かり実
施できる。
●
髭剃り、歯ブラシ、ピアスなどの共有をさける。
●
インシュリンや血液製剤注射で使用した注射器や針は、専用容器に入れ病院で廃棄する。
●
血液が混入している体液汚物は水洗トイレに流せる。血液で汚染された生理用品の
処理は、ビニール袋に入れて結んで指定の場所に破棄する。
●
他者のものと一緒の洗濯は可能である。しかし、衣類に血液等の体液付着時は、水
洗い後、塩素系漂白剤(ハイター等)キャップ一杯を3リットルの水に入れ、30
分浸した後、通常通りに洗濯する。
⑩予防接種
●
免疫力が低下している場合、予防接種を受けることで感染予防や症状の軽減につな
がるメリットがあるが、免疫力が低下している場合は、ワクチンそのものが病気を
引き起こす原因になることがある。予防接種については主治医に必ず相談する。
●
生ワクチンはしない。
●
インフルエンザは流行2ヶ月前に実施の有無を医療者に相談する。
●
水痘・麻疹などに罹患している人と接した場合は、医療者に相談する。
⑪薬物使用
●
麻薬注射の回し打ちによる注射器・針の共有により、薬剤耐性ウイルスの感染リス
クがあり、更に、B型・C型肝炎の感染リスクも高まる。性行為時の薬物使用では、
冷静な判断が妨げられ、無防備なセックスにつながりやすく、他の性感染症の感染
リスクも高まる。そのため、薬物を使用している場合は、具体的な対応方法を相談
するよう説明する。
●
生活リズムの乱れは服薬が不規則になり治療効果や服薬継続に影響する。
●
薬物依存がある場合、身体的、精神的に影響を及ぼし、身の回りに様々な不利益が
生じやすい。離脱希望や自分では判断行動できない場合など、精神科や専門機関の
紹介と今後について一緒に考えることが可能なことを伝える。
<相談・資料入手先>
・ダルク(ドラッグ アディクション リハビリテーションセンター) 03(3844)4777 HP http://jcca.client.jp/
・北海道ダルク 011(221)0919 http://h-darc.com/
・アジア太平洋地域アディクション研究所(アパリ)
03(5830)1790 HP http://www.apari.jp/npo/
・精神保健福祉センター http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/center.htm
・北海道立精神保健福祉センター 相談電話 011(684)7000
156 HIV 感染症患者の看護
 サポート者形成への支援
HIV 感染症に関する誤解や偏見はいまだに社会に根深く存在し、患者自身も HIV に関して
偏見をもち病気に向き合えずにいることがある。周囲に HIV 感染を伝えてサポートを受けて
いる患者は受診中断率が低いともいわれている。患者本人がサポート者を必要とするか否かを
確認し、対応する必要がある。
① 患者自身が病気に向き合えるよう支援する。
② 告知する対象者や時期など選定し自己決定できるよう支援する。
5
心理面への支援
(本マニュアルの「16 HIV 感染症患者の心理的支援」を参照)
HIV 感染判明後は、HIV 感染症に対する社会の偏見、本人の間違った情報に由来する心理的
問題や危機的状態などが考えられる。
HIV 感染患者の長期療養が可能となり、就労や療養の負担、長期服薬の疲弊、うつ病等精神
疾患発症など長期療養生活に伴い問題になってきている。そのため、HIV 感染症患者が安心し
て療養生活と治療継続ができるよう、心理面に配慮したチームでの患者支援が求められる。
6
性生活への支援
初診時、医療者が性に関する相談に対応することを患者に伝え、性行動の振り返りや情報提供
を行う。感染経路やパートナーへの感染を防ぐため、体液が直接触れないようにするなどの性感
染症予防について正確な知識を医療者と患者の両者が持つ。感染リスクを減らせるような具体的
な方法を、患者や配偶者、セックスパートナーと共に考えられるよう支援する。また、HIV の
治療が安定している場合も、性感染症予防行動が継続できているか、繰返し定期的に支援してい
く。
① セーファーセックスについて
患者の性生活に応じて、2次感染予防行動が確実に行動できるように、感染経路や
感染リスクの高い行為、具体的な予防方法が考えられ行動できるよう性に関する話が
できる場を設ける。感染予防の基本はセーファーセックスといわれ、コンドームの使
用はひとつの方法である。
●
コンドームを正しく使用できるよう、保管方法・装着時の注意・使用後の処理等は具
体的に説明する。
●
性行為の種類(膣性交・肛門性交・フェラチオ・クンニリングス・リミング)に応じ
た感染予防方法・注意点の説明をする。
●
リスク行為に気がついた場合の対応について説明し、感染リスクを低減する行動が可
能であるか確認する。
●
性行為により、HIV 感染以外に STD(性感染症)、HIV 薬剤耐性ウイルスなどに感
染する可能性があるのでセーファーセックスの支援を継続する。
HIV 感染症患者の看護 157
② 家族計画について
家族計画は、妊娠・避妊を含めて説明する。挙児希望の有無は、パートナーと相談
し人生設計していけるよう情報提供支援をしていく。
●
HIV 感染者の生殖補助医療として人工授精や体外受精などの方法があることを伝え
る。
7
服薬支援
 抗 HIV 薬治療開始までの支援
抗 HIV 薬服薬開始後は、生涯にわたり服薬継続が必要であり、アドヒアランス維持が治療
効果に重大な影響を及ぼす。服薬治療効果を持続するためには、正確な時間に、正確な量を、
飲み忘れずに 95%以上の服薬率を継続する必要がある。
服薬開始後は、原則は服薬を中断できないため、服薬開始前に充分話し合い、患者のライフ
スタイルに応じた服薬方法や服薬時間を決められるよう支援する。
① 治療開始の選択は患者自身が納得して意志決定できるよう支援していく。
② 高額な医療費が必要なため、経済的負担は服薬継続中断の要因にもなる。社会制度
利用し経済的な準備を事前に整えられるよう支援する。
③ 患者のライフスタイルに応じた服薬時間を決めてシュミレーションを行い、患者自
身が服薬開始へのイメージ化が図れるよう支援する
 抗 HIV 薬治療開始後の支援
抗 HIV 薬服薬のアドヒアランス低下は、抗 HIV 薬の治療効果を減弱させる。不十分な薬剤
血中濃度が持続することで、耐性ウイルスを容易に出現させてしまう。また、抗 HIV 薬は下痢、
食欲不振、嘔吐などの副作用が高頻度に出現するために服薬継続が困難になる場合が多い。そ
のため、効果的な服薬継続が可能となるように、服薬状況や副作用への対応状況を確認し確実
に服薬継続できるよう支援する。
抗 HIV 薬治療開始から半年以上経過すると服薬継続できた自信や自己効力感が得られ意欲
が維持できる。反面、長期服薬への精神的疲弊も考えられる。ライフイベントや生活環境の変
化を考慮し、服薬継続できるよう定期的に支援していく。また、抗 HIV 薬の長期服薬による
合併症や副作用(乳酸アシドーシス・肝機能障害・高血糖・糖尿病・リポジストロフィー・骨
代謝異常・腎機能障害・心血管疾患など)が報告されており、身体的症状の変化や検査データー
の推移に注意し、定期検査を実施し副作用への対処行動がとれるように支援していく。
 日和見感染症の予防・治療内服への支援
CD4 陽性リンパ球数が 200 を下回ると、様々な日和見感染症発症の危険性が高まる。患者が、
日和見感染の予防と早期発見の知識をもち、免疫状態や身体観察を行い異常時の対応が確実に
実践できるように支援する。
158 HIV 感染症患者の看護
 未治療で経過観察していく患者への支援
HIV 感染症「治療の手引き」の改定に伴い HIV 治療の開始時期は年々早まる傾向にある。
HIV 治療開始基準に満たない場合は、定期的に血液検査を実施し経過観察する。免疫状態の
把握により治療開始のタイミングを逃さないように、定期受診の必要性を説明し、受診継続で
きるように支援する。
8
在宅療養支援
HIV 感染症が慢性疾患となった療養の過程で、エイズ後遺障害・精神疾患・運動障害などに
より介護支援を必要とする患者が増加している。しかし、障害などにより生活上の支援や服薬管
理の支援などが必要であるが、介護や支援が得られず、受け入れ施設も限られている状況にある。
このような現状から、在宅療養支援を導入する際は、
① 患者や家族の意思を確認
② 受け入れ施設との調整や地域の他職種へ協力依頼を早期から行っていく
③ ソーシャルワーカーや訪問看護ステーション、地域医療連携支援センターなどと連
携を図り、患者が安心して在宅療養生活ができるよう支援していく。
9
外国人に対する療養支援
 言葉の壁による意思疎通の確保
患者の診療時、意思の疎通が日本語で可能かどうかを判断する。不可能な場合は、正確な情
報提供、不安の軽減、理解度の把握目的で通訳を確保することが重要である。その際、患者の
プライバシーに十分配慮し、医学用語などの通訳ができる人材を患者の同意を得て依頼する。
患者と医療者の会話が可能な状況を準備し、患者自身の治療についての意見、サポート状況、
経済基盤、母国での医療事情療養環境等を踏まえ、今後の診療方針を選択決定できるよう支援
する。
① 通訳派遣依頼先(札幌):エスニコ(NPO 法人)011-640-2825
② 資料入手先:東京都(たんぽぽ英語版パンフレット)エイズ予防財団 ACC(患
者ノート英語版)対訳語集(ルイ・パスツール研究所 宇野勝子)等
③ 外国人支援団体:
・CHARM(チャーム:移住民の健康と権利の実現を支援する会)06-6354-5961
・SHARE(シャア:国際保健協力市民の会)03-5807-7581
・港町診療所(沢田医師)045-435-3673(月・火・金)等
HIV 感染症患者の看護 159
 滞在資格と医療福祉制度
① 滞在資格があり、国民健康保険・社会保険に加入している場合、障害認定制度申請
条件が整えば外国人でも制度利用可能である。
② 無保険外国人にとって、医療にアクセスすることは言葉や医療費の問題などから
ハードルが高くなりがちで重症化して発見される場合がある。オーバーステイや健康
保険を持っていない場合、医療費負担が困難な場合があり、確認したうえで個々への
対応が必要である。
③ 医療機関では、無保険外国人患者に健康保険取得が可能か否か検討する。また、各
種医療助成制度の活用<結核予防法・精神保健法・入院助産制度・自立支援医療制度
(育成医療)・労働保険>などを検討する。
自治体により保障されている制度で、医療費補填事業・旅行病人及び旅行死亡取扱
法などがあり自治体に確認する。(北海道は旅行病人及び旅行死亡取扱法の保障制度
なし)保険取得可能性が無く、治療継続不可能と判断した場合には、その事実を患者
に伝え、医療機関ができることを明確にし、帰国手続きが円滑に行われ、適切な医療
機関へつながるよう支援する。
参考文献:札幌市 . くらしのガイド Handbook for Daily Life.札幌市役所:
http://www.city.sapporo.jp/kokusai/handbook/file/ja-al1.pdf
10 チーム医療
生涯にわたり療養生活していくためには、経済的基盤形成や心理、社会的問題など広域にわた
る支援が求められる。HIV 感染症医療では、医師・看護師・カウンセラー・ソーシャルワーカー・
薬剤師など多職種が患者に関与する。
HIV 感染症患者を担当する看護師は、関係者間のカンファレンスで情報共有し、多職種がチー
ムとして協働していけるようコーディネートの役割を担う。
11 社会保障制度・サービス
(本マニュアルの「22 医療福祉制度のてびき」を参照)
医療費などの経済面について、初診時から相談し、制度利用等の検討を行い経済基盤の安定を
図っていく。
身体障害者手帳、高額療養費申請制度など、利用可能な制度を MSW と連携を図り経済的な不安
がなく受療できるよう支援する。
12 感染予防と消毒
消毒という点で HIV を特別視する必要はなく、B型肝炎ウイルスの消毒方法に準じて行う。
 検査・治療・処置時の留意点
医療従事者の血液、体液曝露による感染者は、わずかであるが報告されている。その大部分
が針刺し事故である。皮膚や粘膜が汚染されることは、針刺し事故よりも多いと考えられるが、
160 HIV 感染症患者の看護
物理的バリアー作用や、血液内に入りにくいことから、感染性は針刺し事故による感染より低
いと考えられる。そのため血液・体液・排泄物・臓器などの取り扱いは、適切に処置をするこ
とで感染を防止できる。
① 感染予防具使用基準
観血的処置の有無により医療処置からみた防御レベル(表1)Ⅰ~Ⅳに分類する。
② 注射針の取り扱い
針刺し事故の大部分はリキャップの際に発生している。そのため、リキャップはせ
ず針専用コンテナに廃棄する。また動脈採血時などリキャップを必要とする場合は片
手操作かキャップスタンド等を用いて危険を避ける工夫をする。
③ 採血
スタンダードプリコーション(標準予防策)に基づき、手洗い後、手袋着用する。
使用した駆血帯や採血用枕が血液で汚染された場合は、70%エタノールで拭きとる。
④ 手術室等での鋭利なメスや器具の取り扱い
直接の手渡しを避け、一度トレーを介して受け渡しを行う。他は手術室のマニュア
ルに準ずる。さらに防御レベルに準じ対処する。
⑤ 救急蘇生
急変時患者の状況を判断して、防御レベル(表1)に準じ対処する。人工呼吸は
mouth to mouth を避け、救急蘇生バックや人工換気装置を使用する。
⑥ 内視鏡検査・血液透析・特殊検査
スタンダードプリコーションで防御レベル(表1)に準じ対処する。検査部・光学
医療診療部のマニュアルに準ずる。
 消毒について
HIV は現在用いられている消毒薬の指定濃度よりも、はるかに低い濃度でかつ短時間で不
活化される。そのため、日常の医療器材の消毒方法で十分効果が認められる。血液や体液で汚
染された物は、拭き取った後エタノールを十分な量の散布又は噴霧する。
① 消毒は温度・濃度・浸漬時間を守る。( 表2参照 )
② 有効な消毒方法は、煮沸、消毒薬に浸漬・清拭・噴霧・散布、焼却。
③ 有効な消毒薬は表2参照。
 感染性廃棄物について
① 廃棄物を増やさないために、膿盆など使わずに感染性廃棄容器・赤ビニール専用袋
に直接捨てられるように処置や検査の場に準備する。
② 患者が自分でできる場合は、ビニール袋(小)を渡しておき、体液に汚染された廃
棄物をビニール袋に入れ、汚染・廃棄物はバイオハザードマークが明示されている感
染性廃棄容器にいれる。
HIV 感染症患者の看護 161
 結核発病について(北大病院感染対策マニュアル参照)
HIV 患者は免疫能の低下により既感染が再燃する場合が多い。また初感染でも発病の危険
が高いと言われている。
① HIV 患者に発熱、咳嗽など呼吸器感染の症状が出現した場合は結核も疑い、個室
隔離をしたうえで検査診断を進める。
② 喀痰塗抹陽性の場合は結核病棟への隔離が必要だが、患者の状態により転院が難し
い場合があり、院内感染防止対策に順じて対応していく。
※結核予防法に関した手続きは別項参照。
※看護については北大病院看護基準「HIV/AIDS 患者の看護」に準じる。
 針刺し事故時の対応(本マニュアル「21 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応」を参照)
針刺し事故後、感染不安などの相談は、HIV 相談室のカウンセラーや HIV 担当看護師、精
神科医師などが対応可能である。
表1 医療処置からみた防御レベル
レベルⅠ
非観血的医療行為(血液・体液に触れない日常業務)
特別の防御必要なし
レベルⅡ
小規模な観血的医療を伴う医療行為
ゴ ム 手 袋 着 用、 必 要
(採血・注射・点滴・点滴抜針等)
時マスク、ゴーグル、
患者の血液や体液に接触する医療行為(ルンバール・
ガウン
肺生検・肝生検・皮膚生検・マルク等)
レベルⅢ
ゴ ム 手 袋、 マ ス ク、
中規模以上の観血的診療を伴う医療行為
ゴ ー グ ル、 必 要 時 ガ
(内視鏡検査・CV カテーテル挿入・胸腔ドレナージ等)
ウン
レベルⅣ
大規模な観血的診療を伴う医療行為
(手術・血液透析・分娩等)
大量出血による室内汚染のある患者及び精神・神経症
状、痴呆などにより自分で清潔を保てない患者に対す
る医療行為
ゴ ム 手 袋、 マ ス ク、
ガ ウ ン、 靴 カ バ ー、
ゴーグル、キャップ
表2 HIV 汚染物消毒法の具体例
対 象
消毒薬
濃 度
消毒時間
備 考
手指
区別する必要なし
食器
区別する必要なし
電子体温計
器具器材
(内視鏡)
便座
消毒用エタノール
フタラール
グルタラール
消毒用エタノール
70~80%
清拭
0.3%
5分以上 浸漬
70~80%
清拭
30 分以上 浸漬
尿器
次亜塩素酸ナトリウム
(ピューラックス6%)
0.1%
リネン寝具
次亜塩素酸ナトリウム
(ピューラックス6%)
0.1%
床テーブル
消毒用エタノール
162 HIV 感染症患者の看護
30 分 浸漬
汚染したリネン類はビニール袋に
入れ感染(+)と記載後、提出可
噴霧 清拭
表3
種 類
収 納 容 器
収 納 物
液 状、 泥 状 の プラスチック製専用容器
もの
(耐貫通性容器)バイオハ
ザードマーク
「赤色」
・血液、血清、血漿、体液、血液製剤等の
液状または泥状のもの
・血液等が付着した注射筒
・破片ガラスくず類
・検査等に使用した試験管、シャーレ等
・病理廃棄物
・血液又は、汚染物が付着したもの
・鋭利なもの
固形状のもの
赤ビニール製専用袋
バイオハザードマーク
「橙色」
・血液又は、汚染物が付着した紙オムツ、
ガーゼ、紙くず、繊維くず等容器を破損
させない固形状のもの
鋭利なもの
赤シャープスコンテナ
バイオハザードマーク
「黄色」
・針、メス等鋭利なもの
■参考文献■
1 CDC ガイドライン.
2 HIV 治療の手引き.
3 エイズ患者の看護 日本看護協会出版会.
4 エイズ・クオリティケアガイド 日本看護協会出版会.
5 セルフケアブック HIV/AIDS 看護研究会資料.
6 北大病院医療事故防止対策マニュアル:リスクマネージメント委員会(2011 年).
7 北大病院感染対策マニュアル:感染制御部(2011 年).
8 慢性期看護論 [ 第3版 ] ヌーベルヒロカワ発行.
9 HIV Q & A[ 改訂版 ] 医療ジャーナル社.
(看護部 渡部 恵子、江端 あい、成田 月子、 大野 稔子、大沢 修子、福島 洋子、2011.08)
HIV 感染症患者の看護 163
北海道大学病院 病院長
感染症検査同意書
当院では、患者の皆様の健康状態をできるだけ正確に知り、治療や検査をお互いの信頼
と安全の上に実施したいと考えております。そのために、手術、処置、検査(内視鏡検査、
血管造影検査など)の前や妊娠時に、皆様に感染症の検査をうけていただいております。
症状もないのにと疑問に思われるかもしれませんが、知らないうちに何かの感染症にか
かっていることがあります。また、普段は活動していなくても、手術による体力低下や薬
の影響がきっかけとなり深刻な病気を起こす細菌やウイルスがあります。これらを前もっ
て知ることは,あなたの治療方針を決めるうえで非常に大切です。また、それは医療従事
者への感染を防ぐのにも役立ちます。
通常、検査する項目は、細菌、肝炎ウイルス、エイズウイルス(HIV)
、梅毒トレポネー
マ、ヒト T 細胞白血病ウイルスなどですが、医療上の必要に応じて項目の一部を省略した
り他の項目を追加する場合があります。
検査結果につきましては、プライバシーの保護を厳守いたします。ご同意いただけない
場合、感染症がある場合を想定して対応させていただきます。
この趣旨をご理解いただき、下記に同意の有無とご署名をお願いいたします。
説明医師氏名
㊞ (直筆の場合は印不要)
下の□のどちらか当てはまる方にチェック(✓ )を付けてください。
□ 私は感染症検査の必要性を理解し、検査を受けることに同意します。
□ 私は感染症検査に同意しません。
署名年月日
平成
年
月
日
本人 署名
㊞ (直筆の場合は印不要)
代諾者 署名
㊞ (直筆の場合は印不要)
本人との関係 (
164 HIV 感染症患者の看護
)
18 外科領域での安全対策
1
外科系 HIV 感染症患者に対する一般的取り扱い
 血液や浸出液などに直接触れることのないように注意し、医療行為のレベルによっては、適
宜、グローブ、予防衣、マスク、ゴーグルなどを着用する(表1、2)。
1 通常の診察などの非観血的な医療行為では、防御用具は不要である。
2 生検、ルンバール、内視鏡検査などの小規模な観血的治療・検査を伴う医療行為では、グ
ローブの着用が必要である。
3 中規模以上の観血的治療を伴う医療行為、つまり、手術をはじめ、血液などの飛沫や
骨粉の飛散する可能性の高い場合などでは、グローブ、予防衣、マスクなどの着用を
はじめ、眼の防御にゴーグルが必要となる。
 可能な限りデイスポーザブルの器具を使用することが望ましい。使用後は廃棄が原則である
が、各種処置後その器材によっては、消毒後の再使用が可能である。
 陽性患者の手術部での除毛は最低限とする。脱毛剤も適宜用いる。また、手術処置を行う場
合は、関係各部署に陽性である旨を通知する。
 陽性者の血液・体液などで手、指などが汚染された場合には、直ちに流水で十分に洗い、消
毒用エタノールで清拭する。
表1 外科系医療行為の内容による危険度のレベル分類
レベル
医 療 行 為
具 体 的 医 療 行 為
Ⅰ
非観血的医療行為
通常の診察
Ⅱ
小規模な観血的治療・検査を伴う医療行為
生検・ルンバール内視鏡検査など
Ⅲ
中規模以上の観血的治療を伴う医療行為
手術
表2 HIV 感染症から医療者を保護するための防御用具
レベル
グローブ
ガウン
マスク
ゴーグル
Ⅰ
不 要
不 要
不 要
不 要
Ⅱ
要
必要時
必要時
必要時
Ⅲ
要
要
要
要
2
手術室の管理上の対策
 手術患者はあらかじめ抗 HIV 抗体を測定しておく。緊急手術例などの検査未施行患者の手
術には有感染症患者の手術と同様の体制で手術を管理する。
 限定された区域を汚染域として使用し、汚染の拡大を防止する。
 汚染域に入る場合には、グローブ、予防衣、マスク、ゴーグルなどとともに、足カバーを着
用する。
 必要最低限の人数が手術に関係するものとし、手術中の出入りは制限する。
外科領域での安全対策 165
 手術室の機器は必要最低限とし、可能な限りデイスポーザブル製品を使用する。
 メス、針など鋭利な器具の受け渡しは、一度トレーなどにおいて間接的に行う。
 血液・体液の高度の飛散が予測される手術では、手術台、その他の備品は必要に応じて防水
性のシートで覆う。
 汚染域の外に出る場合には、グローブ、予防衣、マスク、ゴーグルをはじめ足カバーや、そ
の他血液、体液の付着した可能性のあるものはすべて脱ぐかあるいは取りはずす。
3
手術機器・手術用具等の汚染物への対策
 汚染物の取り扱いは必ずグローブを着用して行う。汚染した手袋で他の物に触れ汚染を拡大
することのないよう注意する。
 WHO は熱、次亜塩素酸ナトリウム、グルタラール(グルタラールアルデヒド)、ホルムアル
デヒド、エタノールなどの処理が感染性不活性化に有効であると提唱している。加熱処理が可
能なものは、洗浄しオートクレーブで滅菌する。オートクレーブが使用できない器具はグルコ
ン酸クロルヘキシジンアルコール(マスキンTMなど)、次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンTMな
ど)
、グルタラール(サイデックスTM、ステリハイドTMなど)などに 30 分以上浸漬する。
 使用後の手術器械類は、防水性の容器に密閉して、熱または薬剤処理を行った上で、一般洗
浄を行う。ウオシャーステリライザーによる処理、または2%グルタラール(サイデックス
TM
、ステリハイドTMなど)あるいは有効塩素 0.5%次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンTMなど)
30 分浸漬が有効である。北大病院手術部では、B型肝炎やC型肝炎感染症手術後同様、ウォッ
シャーステリライザーまたはウォッシャーディスインフェクターにて洗浄後 93℃ 10 分間の
熱処理を行う。
 使用後の光学器械類は、加速化過酸化水素(アクセルTMなど)に 10 分以上浸漬後洗浄する。
 使用後のデイスポーザブル製品は、色で明確に区別した防水性の袋に入れて密封し、焼却処
理する。院内焼却が出来ない時はオートクレーブまたは薬剤消毒の後、廃棄物として処理する。
注射針、メス刃、縫合針などは別途、専用容器にいれ、オートクレーブ処理後廃棄する。
 吸引ビンには約半量の2%グルタラール(サイデックスTM、ステリハイドTMなど)あるい
は有効塩素1%次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンTMなど)をあらかじめ入れておき、30 分以
上放置したあとで流水とともに流す。北大病院手術部では、デイスポーザブル製品を使用して
いるが、吸引後、薬液で固着した上で廃棄する。
 血液、組織片などで汚染した床、壁、機器などの表面はぬぐい取った上で、2%グルタラー
ルサイデックスTM、ステリハイドTMなど)あるいは有効塩素1%次亜塩素酸ナトリウム(ミ
ルトンTMなど)を浸漬する。
 再使用する麻酔器具は、熱または薬剤処理する。
 手術野の汚染は、消毒用エタノールで十分清拭し、手術創は閉鎖的に被覆する。ドレーンの
先端など開放創からの血液分泌物による周辺への汚染がおこらぬよう十分注意をする。
 使用した手術室は、ジクロルイソシアヌル酸ナトリウム製剤(プリセプトTMなど)で清拭
する。有効塩素、0.1%次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンTMなど)あるいは2%グルタラール
サイデックスTM、ステリハイドTMなど)も用いられる。北大病院手術部では、安定化過酸化
水素(スタビルTMなど)を用いている。
166 外科領域での安全対策
4
救急部での HIV 感染症取り扱い
 感染の有無が不明な患者が少なくないので、常に医療従事者の HIV 感染防止体制で望む
(1. 外科系 HIV 感染症患者に対する一般的取り扱い、2. 手術室での HIV 感染症患者管理上の
対策の項に準ずる)。mouth-to-mouth の人工呼吸を避けアンビューバッグ、ジャクソンリー
スなどを準備しておく。
 機器、用具の汚染物への対策。
■参考文献■
1 厚生省保健医療局エイズ結核感染症課:HIV 感染症診療の手引き、中央法規出版、東京、
1994 年
2 河崎則之:医療機関における感染予防対策。日本臨床 51 巻 ( 臨時増刊 )。上銘外喜夫編、
HIV 感染症・AIDS。1993 年、p512-516.
3 前田洋助、服部俊夫:医療現場での HIV 感染者をめぐる諸問題、服部俊夫編、エイズ研究
の最先端。 羊土社、東京、1993 年、p150-160
4 河崎則之:小外科処置法で気をつけるべき点はどういう点ですか ?、山田兼雄、松田重三編、
エイズ診療 Q&A。医薬ジャーナル社、大阪、1993 年、p115-116
5 Ernest R. Greene, Jr., Thomas Janisse:第3章、AIDS 患者の麻酔管理、Thomas Janisse
(ed.)、AIDS 患者の麻酔と疼痛管理、東興交易医書出版部、東京、1996 年、p115-116
(北大病院手術部で使用している薬剤は 2011 年9月現在のものである)
(大岡 智学、佐藤 直樹 2011.09)
外科領域での安全対策 167
19
検査・輸血部領域での安全
対策と検査項目
血液などの体液は、HIV だけでなく種々の病原体に感染するチャンスを含んでいる。HIV よ
りも強い感染力と消毒に対する抵抗性を持つB型肝炎ウイルスに対する感染予防対策が院内感染
予防の基準である。
基本的には、1血液などの体液が体に触れないようにグローブや予防衣で防御し、2検査材料
や廃棄物で環境を汚染しないように注意を払い、3汚染された可能性のある環境や体の部分を適
切な消毒剤で消毒し、4事故時には直ちに適切な処置を行うことである。感染予防に必要なディ
スポ製品や消毒液などを常備し、一般的な注意を守れば、検査に際して HIV 感染事故が起きる
ことを予防できる。
1
検体検査
 全ての検体に共通する一般的注意事項
1 検査用に採取した血液、体液などは全て感染源となり得るものと考え慎重に取扱う。
2 血液採取など血液に直接触れる恐れのある操作にはグローブと予防衣(白衣)を着用し、
検査室を出る時はそれらをとる。グローブの着用は、手に皮膚病変や創がある場合は特に重
要である。
3 採血後は針刺し事故防止のためにリキャップはしないで専用コンテナに廃棄する。血液の
付着した針を持って動作中に腕などを針で引っかくような事故が多いので、動作時は周囲に
注意を払い、必要時には周囲に注意を喚起する。
4 汚染された手指やグローブまたは医療材料等で周囲を汚染しないよう注意する。
5 検体が飛沫やエアロゾルの形で飛散する操作は避ける。
6 ピペットは口で吸引しない。
7 検査終了検体の廃棄の際は全てオートクレーブする。
8 一日の作業終了後、汚染の可能性のある場所に 80%エタノールを噴霧する。
 HIV 感染者検体を含む感染性検体の取り扱い上の注意
1 検体を取り扱う際にはバーコードラベルに記されている感染情報を確認する。
2 採血後の針は専用コンテナに廃棄する。採血管に付着した血液は直ちに 80%エタノール
を浸した脱脂綿で拭き取る。
3 尿はフタ付きカップに採取する。
4 検体の運搬は二重のビニール袋またはジッパー付きビニール袋にいれて万一容器が破損し
ても飛散しないようにする。
5 検体の取り扱い時には、ディスポグローブ、予防衣、必要に応じてマスクやゴーグルを着
用する。遠心機周辺は最も感染事故の起きやすい場所であることに留意する。
6 検査後の検体を保存する場合、施錠できる冷蔵庫または冷凍庫を用いる。不要となった検
体は速やかにオートクレーブ後焼却する。
7 検査機器からの廃液は次亜塩素酸ソーダを加えて消毒する。消毒の目安は一般に血液の色
の消えるまでとし、一昼夜置いた後に処理すれば間違いない。
8 器具、予防衣、マスクなどはなるべくディスポーザブルを用い、オートクレーブ後焼却する。
再使用するものはオートクレーブするか、出来ないものは消毒剤を選び消毒後に処理する。
168 検査・輸血部領域での安全対策と検査項目
9 使用後の測定機器は機種ごとに指定された濃度の次亜塩素酸ソーダを数回流し、その後水
洗する。機器周辺の汚染が考えられる場合には 80%エタノールを噴霧しておく。
10)床、テーブルが汚染された時には、0.2%次亜塩素酸ソーダ溶液を浸したペーパータオル
で覆い、20-30 分後にふき取って水洗する。
2
生理検査
HIV については、空気感染、唾液感染、接触感染などの心配は不要で、外来では一般の患者
との間で不必要な区別を設けてはならない。このことは HIV 感染者の精神的ケアの面から大切
である。
しかし、重症患者の生理検査を病室で行う場合は、患者を日和見感染から予防する意味で、
術者は定められた予防衣、グローブ、マスクを着用する。機材の消毒の都合から、事前に病棟/
外来と検査室とが電話で連絡をとりあって HIV 感染者の検査スケジュールを組む必要があるが、
この際にはプライバシー保護に注意する。
 呼吸機能検査
1 使用する測定機器を他の患者と区別する必要はない。
2 マウスピースは通常使用している紙製ディスポーザブルを用い、使用後はオートクレーブ
後焼却する。
3 唾液吸着用特殊フィルター(マウスピースと蛇管の接続部)は使用後に次亜塩素酸系消毒
剤で消毒する。
4 蛇管は HIV 感染者専用のものを用意し、使用後は次亜塩素酸系消毒剤で処理する。
5 測定機器の周辺が汚染された可能性のある場合には 80%エタノールを噴霧する。
6 ベッドや椅子の汚染が考えられる時は、0.2%次亜塩素酸ソーダ溶液を浸したペーパータ
オルで覆い、20-30 分後にふき取り水洗する。
 脳波検査
1 患者の頭部に出血(病変、外傷)がない限り、マスク、グローブは着用しない。
2 器具の処置;
①使用後の電極は流水で充分洗い、80%エタノールで消毒する。
②汚染した脳波計などの機器は 80%エタノール噴霧か 80%エタノールを浸したガーゼで清
拭する。
③ベッド、椅子などに関する消毒は呼吸器検査と同様。
 心電図検査
1 脳波検査に準ずる。電極は使用後、流水洗浄、80%エタノール消毒する。皮膚病変のあ
る患者の場合には、一般の皮膚病患者と同様にディスポシートの交換を行い、使用後のシー
トはオートクレーブ後焼却する。
 筋・神経検査
1 実施には術者はグローブを着用する。手指を傷つけないように細心の注意を払う。針電極
は電極のみを切断し、注射針に準じて専用コンテナに廃棄する。
2 神経伝達速度検査に用いる電極はディスポーザブルのものとし、使用後は専用コンテナに
廃棄する。
3 その他は脳波検査に準じる。
 事故時の対応(21 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応の項参照)
1 手指などが汚染されたら直ちに流水で充分に洗浄する。水洗と 0.2%次亜塩素酸ソーダ溶
検査・輸血部領域での安全対策と検査項目 169
液(80%エタノールも HIV には有効であるが、B型肝炎ウイルスには充分ではない。)に
よる消毒とを併用することはより有効である
2 眼に血液が飛んだ時には、ポリビニルアルコールヨウ素剤の点眼と多量の水による洗浄を
行う。点眼用ポリビニルアルコールヨウ素剤は、精製水または食塩水で4~8倍に希釈して
作る。ポリエチレン製容器内では効力が下がるのでポリプロピレン容器に入れて、希釈後は
冷蔵庫に保管する。
3 口腔粘膜に血液等が触れた場合には、多量の水で洗浄し、ポリビニールピロリドンヨウ素
剤で消毒する。ヨウ素剤の使用後、中和の必要がある場合には亜硫酸水素ナトリウム液(1
~2%)を用いる。
4 針刺し事故が発生したら、直ちに血液をしぼり出し、傷口を 0.2%次亜塩素酸ソーダ溶液
または 80%エタノールで充分に消毒する。米国における医療従事者の感染事故の大半は針
刺し事故によるものである。
5 事故が発生した場合には直ちに所属長へ報告する(21. 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露
時の対応の項参照)。
3
HIV に関連する感染症の検査
 検査項目
対 象
検査内容、測定方法
HIV1+2 抗体・抗原
スクリーニング検査
HIV-1 抗体精密測定
確認検査
HIV-2 抗体精密測定
確認検査
HIV-1 RNA 定量
確認検査・ウイルス量測定
遺伝子検査室
HIV 薬剤耐性検査
遺伝子型検査
遺伝子検査室
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー室
酵素免疫測定法
生化学検査室
培養、同定
細菌検査室
カンジダ抗原
血清検査室
リンパ球サブセット
(CD4 陽性細胞絶対数測定)
β2ミクログロブリン
カンジダ
院内検査
クリプトコッカス
培養、同定
クリプトスポリジウム
顕微鏡検査
アスペルギルス
培養
非定型抗酸菌
培養
適用
細菌検査室
培養、同定、感受性
結核菌 DNA-PCR
培養、同定、感受性
MAC DNA-PCR
抗酸菌
抗抗酸菌抗体
三菱
サルモネラ
培養,同定,感受性,血清型別細菌検査室
細菌検査室
170 検査・輸血部領域での安全対策と検査項目
保険適用
血清検査室
顕微鏡検査
コクシジオイド
結核菌
検査室 依頼先
院内検査
カリニ
顕微鏡検査
病理部細胞診検査室
一般細菌
培養,同定,感受性
細菌検査室
真菌症
(1-3)- β -D- グルカン
サイトメガロウイルス
CMV 抗体 IgG、 IgM
単純ヘルペス(HSV)
HSV 抗体 IgG、 IgM
三菱
VZV 抗体 IgG、 IgM
血清検査室
帯状ヘルペス(VZV)
適用
VZV-DNA-PCR
EBV-DNA-PCR
EB ウイルス(EBV)
EBV-DNA 定量
HHV6
HHV6-DNA-PCR
SRL
適外
CMV 抗原アンチゲネミア
C7HRP : SRL、 C10、 C11 : 三菱
適用
CMV-DNA-PCR
SRL
適外
トキソプラズマ
トキソプラズマ抗体 IgG、 IgM
BML
適用
単純ヘルペス(HSV)
HSV-DNA-PCR
SRL
適外
ラミブジン耐性
外部委託検査
血清検査室
HBV 検出
ダイレクトシーケンス
HCV genotyping
SSP RT-PCR、 ダイレクトシーケンス
HCV 1b ISDR 解析
ダイレクトシーケンス
サイトメガロウイルス
1 保険適用項目はオーダリングシステムからオーダしてください。
2 CD4 陽性細胞絶対数測定は、HIV 陽性患者のみに実施している特殊検査です。リンパ球
サブセットをオーダしてから、「CD4 絶対数追加」等のコメントを入力してください。
3 HIV 薬剤耐性検査は薬剤変更を目的とした場合、保険適用となります。測定には1~2
週間が必要です。結果を急ぐ場合は遺伝子検査室に連絡をお願いします(藤澤、5714)。
各検査項目の問い合わせは
▼血清検査室:山下直樹副技師長(5714)
▼遺伝子検査室:藤澤真一副技師長(5714)
▼フローサイトメトリー室:早坂光司副技師長(5711)
▼細菌検査室:秋沢宏次副技師長(5715)
▼外部委託検査:検査・輸血部総合受付(5709)
▼病理部細胞診検査室:丸川活司副技師長 (5716)
 保険適用外検査項目の説明
▼各種ヘルペスウイルス DNA の検出
CMV、EBV、HHV6、VZV、HSV-1、HSV-2 の DNA を検出する検査である。対象材
料は血清中の遊離ウイルスであるが、CMV、EBV、HHV6 は血球も対象としている。
▼ラミブジン耐性 HBV 検出検査
ラミブジン(3TC)服用の HIV/HBV 複合感染者ではラミブジン耐性 HBV が出現する
可能性がある。本検査は HBV の遺伝子配列の変異からラミブジン耐性を推測する検査であ
る。
検査・輸血部領域での安全対策と検査項目 171
▼ HCV genotyping
HCV のインターフェロン感受性は HCV のタイプと関係がある。1型(1a、1b)は抵抗
性、2型(2a、2b)は感受性であるが、HIV/HCV 重複感染患者では複数タイプの感染や
希なタイプ(1a、3- 6等)の感染が多い。serotyping ではこれらの判定ができないため、
genotyping による判定が有用である。
▼ HCV subtype 1b ISDR 解析
HCV subtype 1b はインターフェロン抵抗性であるが、HCV 遺伝子の ISDR(Interferon
sensitivity determining regeon)の変異数が多いほど感受性であることが報告されている。
 北大病院検査・輸血部での HIV 検査フローチャート
スクリーニング検査
HIV-1 抗原+HIV-1/2 抗体同時検出
(-)
*非感染
(+)または保留
HIV-1 WB
HIV-1 RNA
判定
+
+
感染
保留
+
-
+
保留
-
-
-
HIV-2 WB
(-)または保留
対応
急性感染
3~4週間後に WB 陽性を確認する
HIV-2 感染疑い
HIV-2 WB を実施
2週間後スクリーニング検査
から再検査を推奨
(-)
非感染
(+)
*
HIV-2 感染
感染リスクがある、急性感染期を疑う症状がある場合は確認検査の実施
を推奨し、陰性の場合でも感染リスクがある場合は期間をあけて再検査
WB:ウエスタンブロット法
HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン 2008 を参照
■参考文献■
1 HIV 院内感染予防対策指針、北海道大学医学部附属病院 HIV 等特殊感染委員会、1992
2 HIV 医療機関内感染予防対策指針、厚生省、1989
3 HIV 治療マニュアル、HIV 感染者発症予防・治療に関する研究班、1995
4 HIV 感染症治療の手引き 第 12 版、HIV 感染症治療研究会、2008
5 HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン 2008、日本エイズ学会、2008
(検査・輸血部 清水 力、吉田 繁、藤澤真一 2011.07)
172 検査・輸血部領域での安全対策と検査項目
20 病理診断領域での安全対策
1
AIDS 患者病理材料の取り扱いの注意事項
・HIV 感染検体と明示する
・ホルマリン固定(大きなものには割を入れる)
1 迅速凍結診断
・技師は手袋・マスク着用のもと HIV 汚染用クライオトームを使用して切片を作製する
・切片作製後はホルマリン噴霧にてクライオトームを消毒する
・迅速診断(ゲフリール)に使用した組織の残りはすみやかにホルマリンにいれて1週間程
度放置し、通常の過程を経て廃棄する
2 生検病理診断
・ホルマリン固定が充分になった後プロセスする ( 1週間程度 )
・通常のプロセスに準じて行う
・ホルマリンの浸透をよくするために大きな臓器では割を入れる
3 細胞診
・技師は手袋・マスクを着用し、慎重に遠心機・サイトスピンを使用して細胞診プレパラー
トを作製する
・使用済みの容器類はオートクレーブして通常通り廃棄する
 一般的事項
臨床サイドからは必ず HIV 感染検体であることを院内感染対策マニュアルに従って事前に
通知されるはずであるが、仮に徹底されなかった場合にはその旨要望を行う。検体そのものは
赤マジック HIV と大書きする。一方、細胞診・迅速診断(ゲフリール)以外の通常の組織検
体については基本的にホルマリンにつけて提出する。
 細胞診
遠心機・サイトスピンは使用後充分消毒する。操作は手袋・マスクを着用し慎重に行う。
 迅速診断 ( ゲフリール )
クライオトームは通常業務とは別途のものを使用する。操作は手袋・マスクを着用し慎重に
行う。
 ホルマリン固定臓器
原則的に通常の操作で安全であるが、ホルマリン固定を1週間程度かけ充分に行った後に病
理学的検索を開始する。大きな臓器の場合はホルマリン中で適当な割を入れ固定時間の短縮を
はかるのが良い。
 汚染容器などの消毒・廃棄
細胞診・組織診のプロセスに用いられた容器などはまとめてオートクレーブして廃棄する。
このためにオートクレーブは AIDS 用のクライオトームと近傍の場所に設置する。オートク
レーブ後は一般の廃棄としてよい。
 万一事故が起こった場合の対処(「21.針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応」の項 P 177 参照)
最も重大な行為は誤って深い切り傷をつけてしまった時である。このような時は受傷者は速
病理診断領域での安全対策 173
やかに業務から離れ落ち着いて消毒する。血液を極力押し出し、創部を 70%アルコールや 0.5%
次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒液で消毒し、専門医師に連絡して指示を仰ぐ。感染対策マネー
ジャーにも連絡する。特に細胞診プレパラート作製時には針刺し事故に注意する。万が一針刺
し事故が発生したときも切り傷と同様落ち着いて対処する。
感染してしまう事態に対処するため事故直後の受傷者血清と1、2、3、…6ヶ月後の血清
をペアーにして保存しておき、生検業務による感染の証拠とすることは後の保障・労災の適用
などに重要である。
誤って感染の恐れのある行為をした場合は速やかに AZT などを服用し初期ウイルス量増加
のピークを極力抑える努力が必要である。このような努力によって、万が一感染が成立した場
合でも発症時期を遅らせることが期待できるからである。感染成立のチェックは抗 HIV 抗体
に加え HIV 特異的な RT-PCR を用いる。後者は鋭敏な検査法であるが、現在感度は 75%で
あるので注意を要する。この時は患者の HIV 型が既知であればそれを参考にしたプライマー
設定を行う。
2
AIDS 患者の簡易剖検マニュアル
 一般的事項
病理解剖従事者が扱う患者血量は一般的に臨床従事者の扱う血液量にくらべ著しく多い。
従って AIDS 患者の病理解剖では一般の臨床的処置に比べ病原体の周囲への汚染・病理解剖
従事者への感染機会は多い。このような危険性をはらんだ病理解剖を行うにあたって主治医は
解剖により明らかにしたい疑問点を明示し、病理側はそれらに重点をおいた簡潔・明快な病理
解剖を行うべきである。この時病理解剖を遂行する者は通常の病理解剖にも増して一層の慎重
な対応が必要であることはいうまでもない。AIDS 患者の病理解剖に際しては次の一般的事項
を遵守して行う。
病理解剖は業務時間内に限定して行う。解剖遂行者が充分注意力を保ちながら丁寧な業務を
行うことを可能にするためである。また必要な人員を確保できるからである。また患者が死
亡した直後の解剖を避け、少なくとも死後数時間の経過のあるものについて剖検を行う。HIV
感染者の病理解剖は病理学講座・病理部のスタッフで行う。二講座・一部門のスタッフは当番
月に関わらず協力して解剖を遂行する。
 病理解剖方法
1 病理解剖従事者の準備
剖検を行う者は通常の解剖時に使用する術衣に着替えたうえ、ディスポーザブルのフード
付きガウンを重ね着する。肘までの手袋を付ける。メスを用いる者は金属メッシュ製の手袋
をその上に付ける。術場の長靴を履き、その上にディスポーザブルの長靴カバーを付ける。
粘膜を露出してはならない。解剖見学者もウイルス汚染を受ける恐れがあるため主治医およ
び最低限数の医師が解剖従事者と同様の装備で作業領域外周で待機し必要に応じて作業領域
に入る。この時見学者は剖検従事者の作業を妨害することがあってはならない。通常の服装
での剖検の見学は原則として許可しない。エアロゾール感染や万が一の血液・体液飛沫によ
る感染の危惧があるからである。
2 剖検室の準備
簡易剖検はいわゆる乾式で行い、ウイルス汚染された体液を未消毒のまま一般排水に流さ
ないようにする。この目的を実現するため、解剖室の作業領域にはオートクレーブ可能な防
174 病理診断領域での安全対策
水シート ( 実験台用作業紙 ) を敷き詰める。大量の 70%アルコールまたは2~-5%次亜
塩素酸水を搬入しておく。解剖後のオートクレーブのためにあらかじめ脱イオン水など必要
なものを搬入しておく。HIV 感染者解剖用の解剖器具が一セット揃えてあるのでそれらを
使用し、通常解剖の器具と混合しない。なお、剖検は感染対策剖検室を使用する。
3 剖検手技
剖検従事者がなるべく大量の血液に接しないようにするために病理解剖をいわゆる
Virchow 方式にて行う。この方法は Rokitansky 方式に比べ臓器相互の位置関係の把握が
やや難しいという欠点がある一方、血液に暴露する機会を最小限にできるという利点をもっ
ている。メスによる切開時に流出する血液はできるだけ消毒液の充分染み込んだガーゼ等に
よって拭き取りながら剖検を行う。消毒液を満たした容器を用意しその時点で使用していな
い解剖器具を浸しておく。解剖器具を必要に応じてその容器から取り出し使用する。臓器重
量は原則的に測定しない。また剖検室での臓器の肉眼写真は撮影しない。これは器具への不
必要な汚染を避けること、及び作業領域を不必要に拡大しないためである。臓器のサンプリ
ングは最少量に抑える。肺は全て灌流固定し割をいれない。骨削りはウイルス汚染体液がエ
アロゾール状態で飛散し剖検従事者・見学者・周囲環境への影響が少なくないのでこれも最
小限度に止める。骨削りが避けられない場合はカバーをかぶせて削るが、慎重に行う必要が
ある。サンプリング等で取り出した臓器は不必要に放置せず、速やかに充分量の 10%ホル
マリン液に入れて固定する。
4 剖検後処理
剖検終了後の遺体の修復は通常通り病理技官が縫合を含めて慎重に行う。この時遺体周辺
にメス刃やハサミが絶対残っていてはいけない。遺体の修復にあたっては特に体液の漏出の
予防に留意する。このため切開創にはテーピングを行う。遺体の切開創のある部分をテーピ
ング後ビニールで覆う。装束は医師・技官が協力して着用させる。葬儀係りはディスポーザ
ブルの手袋を装着して、以降の処置を行う。解剖器具及び金属メッシュ手袋はメス刃・はさ
みなどで傷を受けないように留意して小型のオートクレーブに入れ完全に消毒し、規定の部
位に保存する。オートクレーブの終わった刃などは通常通り破棄してよい。血液成分は過剰
量の次亜塩素酸に入れ最低一週間後排水する。次亜塩素酸の最終濃度が 0.5%を割らないよ
うに留意すれば HIV に対する消毒効果は万全である。この時血液成分の入った次亜塩素酸
のバケツは剖検室から出してはならない。床に敷き詰めた防水シートは大型のオートクレー
ブにいれて消毒し廃棄する。同様にディスポーザブルの術衣も大型のオートクレーブで消毒
後廃棄する。これに続いて長靴カバー・手袋も消毒する。
 感染の恐れのある事態が起きてしまった時の対処(「21. 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露
時の対応」の項参照)
最も重大な行為は誤って深い切り傷をつけてしまった時である。このような時は受傷者は速
やかに病理解剖から離れ落ち着いて消毒する。血液を極力押し出し、70%アルコールや 0.5%
次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒液で消毒する。針刺し事故を予防するために剖検室には注射
針を入れない。注射針は金属メッシュ製の手袋を容易に突き抜けるからである。万が一針刺し
事故が発生したときも切り傷と同様落ち着いて対処する。不幸にして感染してしまう事態に対
処するため事故直後の受傷者血清と1、2、3、…6ヶ月後の血清をペアーにして保存してお
き、
病理解剖業務による感染の証拠とすることは後の保障・労災の適用などに重要である。誤っ
て感染の恐れのある行為をした場合は速やかに AZT などを服用し初期ウイルス量増加のピー
クを極力抑える努力が必要である。このような努力によって、万が一感染が成立した場合でも
病理診断領域での安全対策 175
発症時期を遅らせることが期待できるからである。感染成立のチェックは抗 HIV 抗体に加え
HIV 特異的な RT-PCR を用いる。後者は鋭敏な検査法であるが、現在感度は 75%であるの
で注意を要する。この時は患者の HIV 型が既知であればそれを参考にしたプライマー設定を
行う。
3
感染対策剖検システムを用いた剖検マニュアル
 一般的事項
「2.AIDS 患者の簡易剖検マニュアル、一般的事項」に準ずる。
 病理解剖方法
1 病理解剖従事者の準備
「2.AIDS 患者の簡易剖検マニュアル、1」病理解剖従事者の準備」に準ずる。
2 剖検室の準備
200liter までの水を使用し湿式で行う。大量の 70%アルコールまたは2~-5%次亜塩
素酸水を搬入しておく。汚染水が直接下水へ流入し環境を汚染することを防止するためオー
トクレーブしてから一般下水へ流す。オートクレーブ容量が 200liter である。このため感
染対策剖検システムの使用マニュアルに則り、オートクレーブ電源・主電源などの必要なス
イッチを予め入れる。病理解剖従事者は導線に沿って着替えを済ませ剖検室に入る。剖検器
具は感染対策剖検システムに備え付けのセット一式を使用する。剖検台に次亜塩素酸水など
の消毒液を必要量はっておく。
3 剖検手技
「2.AIDS 患者の簡易剖検マニュアル、3) 剖検手技」に準ずる。
4 剖検後処理
剖検終了後の遺体の修復は病理技官が縫合を含めて慎重に行うが、外科手術などで用いる
ステイプラーの使用を検討してもよい。この時遺体周辺にメス刃やハサミが絶対残っていな
いように留意する。これ以後は「2.AIDS 患者の簡易剖検マニュアル4)剖検後処理」
に準ずるが感染対策剖検システムを使用する剖検では防水シートを床に敷かないのでシート
の消毒・廃棄は必要ない。なお感染対策剖検システムにおいては剖検後の室内消毒にはホル
マリンくん蒸行うのでくん蒸開始時には室内に絶対解剖従事者その他の者が入っていないこ
とを確認する。
 感染の恐れのある事態が起きてしまった時の対処については「2.AIDS 患者の簡易剖検
マニュアル感染の恐れのある事態が起きてしまった時の対処」に準ずる。
(病理部 久保田 佳奈子 2011.09)
176 病理診断領域での安全対策
21
針刺し・切創及び皮膚・
粘膜曝露時の対応
HIV 感染の可能性のある針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露が発生した場合には、すみやかに
以下の対応をするとともに原因の究明と再発の防止に努める。
1
曝露状況における対処法
曝露状況に応じて早急に以下の対処を行う。
1 血液あるいは体液に接触した場合
①健康な皮膚・粘膜の場合
直ちに流水で十分洗浄するのみでよい。
②損傷のある皮膚・粘膜の場合
針刺しの場合の対応に準ずる。
③口腔に血液あるいは体液が入った場合
多量の水とポリビニールピロリドンヨウ素剤(イソジンガーグル)で含嗽する。
④目に血液あるいは体液が入った場合
精製水あるいは生理食塩水で4~8倍に希釈したポリビニールアルコールヨウ素剤(PA・
ヨード)による点眼消毒と水による洗浄をする。
⑤針刺し事故
流水で十分に洗浄し、消毒用エタノール等で消毒する。
針刺し後の処置
以下のマニュアルは、HIV 診療を安全に行うためのものです。万が一針刺し事故が起こった
場合、感染予防のための予防薬服用がスムーズに行われるよう作製したものです。作製に当って
は、米国の CDC から報告されたガイドライン(2005 年9月改訂版)と、国立国際医療センター
病院にて作製されたもの (2007 年7月改訂版 )、および厚生労働科学研究班による抗 HIV 治療
ガイドライン (2009 年3月改訂版 ) を参考に一部改変しました。
その1
まず最初に、下記のステップ1、ステップ2に従い曝露状況の評価をしてください。
ステップ 1【曝露のタイプについての評価】
A.経皮的な曝露
 軽度:非中空針による浅い傷など
 重度:中空針による針刺し
肉眼で血液付着が確認できる針・器具による針刺し・切創
血管に刺入された針による針刺し(例えばカテラン針や、サーフロのような太さの
もの)
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 177
深い針刺しなど(例えば、IVH の穿刺針や、透析時のバスキャスのような太いもの)
B.粘膜や傷のある皮膚への曝露
 少量:2~3滴の血液・体液など
 大量:大量の血液・体液飛散など
ステップ2【感染源の感染状況の評価】
A.感染源が HIV 陽性
 クラス1:無症候性 HIV 感染症あるいは血中ウイルス量低値(< 1500copies/ml)
 クラス2:症候性 HIV 感染症、AIDS、HIV 初期感染、血中ウイルス量高値
B.HIV の状況不明の感染源(HIV 感染の検査が不可能な死亡した患者の血液・体液などによ
る曝露)
C.感染源不明(廃棄箱の中にあった針による事故などで誰の検体かわからないときなど)
D.感染源の HIV 陰性が確認されている
その2
以上のステップ1、ステップ2より曝露状況と予防投薬について
以下に従って評価して下さい。
曝露のタイプで
A.経皮的な曝露 表1
B.粘膜や傷のある皮膚への曝露 表2
表1 経皮的な HIV 曝露後予防についての推奨
感 染 源 の 感 染 状 況
曝露のタイプ
軽度
重度
HIV 陽性
HIV 陽性
HIV 感染状況
クラス1
クラス2
不明の感染源
基本投与を
拡大投与を
予防投与なし
予防投与なし
推奨
推奨
(*注)
(*注)
拡大投与を
拡大投与を
予防投与なし
予防投与なし
推奨
推奨
(*注)
(*注)
感染源不明
HIV 陰性
予防投与なし
予防投与なし
表2 粘膜曝露や傷のある皮膚への HIV 曝露後予防についての推奨
感 染 源 の 感 染 状 況
曝露のタイプ
少量
多量
HIV 陽性
HIV 陽性
HIV 感染状況
クラス1
クラス2
不明の感染源
基本投与を
基本投与を
予防投与なし
予防投与なし
考慮
推奨
(*注)
(*注)
基本投与を
拡大投与を
予防投与なし
予防投与なし
推奨
推奨
(*注)
(*注)
178 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応
感染源不明
HIV 陰性
予防投与なし
予防投与なし
(*注)
HIV 陽性患者由来と考えられる場合には基本投与2剤による予防投与を考慮する。「予防投与
を考慮」という指示は、予防投与が任意であり、曝露を受けた人と扱う医師との間においてなさ
れた自己決定に基づくものであることを示す。もし予防投与が行われ、その後に HIV 陰性とわ
かった場合には、予防投与は中断されるべきである。
その3
内服予防が必要と判断されるか、判断に迷う場合には委員会が指定する
下記担当医師に連絡し、 内服予防を行うか否か、行う場合の薬剤について(表3)相
談する。
* 委員会が指定する担当医師と連絡先
氏 名
役 職
診療科等
医 局
連絡先
藤 本 勝 也
助 教
血液内科
 7214
PHS 82323
遠 藤 知 之
助 教
血液内科
 7214
PHS 82331
近 藤 健
講 師
血液内科
 7214
PHS 87045
夜間などで、上記医師が不在時は 12-2NS(内線 5795、5796) に血液内科当番医師を問い合わ
せたうえで連絡する。
表3 予防投与開始時の選択薬
【基本投与】TDF/FTC(or TDF+3TC)または、AZT/3TC(or AZT+FTC)の2剤
併用
代替として ABC/3TC の2剤併用
【拡大投与】上記の基本投与2剤に DRV+RTV を加えた4剤併用
代替として LPV/RTV、ATV+RTV、FPV+RTV、EFV のいずれかを加
えた3~4剤併用
【推奨されない薬剤】NVP、DLV、ddI+d4T
・感染源となった患者の HIV が、薬剤耐性を獲得していると判明している場合は、上記の限り
ではなく、感受性のある薬物の投与を考慮する。
・曝露を受けた人が慢性B型肝炎または HBV キャリアの場合は、FTC および 3TC の投与は避
けた方がよい(針刺し後フローチャート説明参照)。
略名
一般名
商品名
分類
AZT
ジドブジン
レトロビル
NRTI
3TC
ラミブジン
エピビル
NRTI
FTC
エムトリシタビン
エムトリバ
NRTI
TDF
テノホビル
ビリアード
NRTI
TDF/FTC
テノホビル + エムトリシタビン
ツルバダ
NRTI
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 179
d4T
サニルブジン
ゼリット
NRTI
ddI
ジダノシン
ヴァイデックス
NRTI
ABC
アバカビル
ザイアジェン
NRTI
ABC/3TC
アバカビル + ラミブジン
エプジコム
NRTI
LPV/RTV
ロピナビル + リトナビル
カレトラ
PI
ATV
アタザナビル
レイアタッツ
PI
RTV
リトナビル
ノービア
PI
FPV
ホスアンプレナビル
レクシヴァ
PI
DRV
ダルナビル
プリジスタ
PI
SQV
サキナビル
インビラーゼ、フォートベイス
PI
EFV
エファビレンツ
ストックリン
NNRTI
NVP
ネビラピン
ビラミューン
NNRTI
ETR
エトラビリン
インテレンス
NNRTI
RAL
ラルテグラビル
アイセントレス
INSTI
NRTI 核酸系逆転写酵素阻害剤
NNRTI非核酸系逆転写酵素阻害剤
PI
プロテアーゼ阻害剤
INSTI インテグラーゼ阻害剤
その4
HIV 抗体陽性もしくは強く陽性が疑われる患者を扱った針を自分に刺してしまい、
担当医師と連絡が取れない場合には、以下の針刺し事故後フローチャートに則り行動す
る。
大至急、抗 HIV 薬の入っている箱を見つける
抗 HIV 薬の保管場所:
薬剤部調剤室
180 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応
5685、5686
箱の中には、以下のものが入っている
①針刺し事故後フローチャート
②妊娠反応用キット(1回分)
③抗 HIV 薬(1回分)
④本人用:服用のための説明文書とチェックリスト
女性はまず、妊娠反応を調べる
HIV 抗体陽性もしくは非常に強く陽性が疑われる患者
の医療行為時に針刺し等をした
男 性
女 性
妊娠反応を調べる
陽 性
陰 性
ス タ ー ト
NO
服用の自己判断ができる
YES
30 分以内に責任者と相談できた
NO
YES
自己決定
できるだけ早く抗 HIV 薬を服用する(ただし、何か食べてからの服用が望ましい)
。
TDF/FTC
(ツルバダ)1錠、DRV(プリジスタナイーブ)
2錠、RTV(ノービア)
1錠
24 時間以内に責任者と相談できた
YES
NO
初回内服の 24 時間後、TDF/FTC(ツルバダ)1錠、DRV(プリジスタナイー
ブ)2錠、RTV(ノービア)1錠を再度服用する。
以降責任者が見つかるまで 24 時間おきに同じ薬剤を服用する
責任者 連絡先
藤本勝也 PHS 82323、遠藤知之 PHS 82331、近藤健 PHS 87045
夜間などで、上記医師が不在時は 12-2NS(内線 5795、5796) に血液内科当番医師を問い
合わせたうえで連絡する。
*公務災害の申請手続きがあるので、責任者の指示を受けた後、速やかに病院総務課労務管
理係(内線 5616)まで申し出てください。
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 181
針刺し後フローチャート説明
⒈ 可能な限り早期に HIV 抗体、HBs 抗原、HCV 抗体をチェックする。
同時に血清 1ml を‐20℃以下(可能なら‐80℃)で保管する。以後は、HIV 抗体に
ついて、1カ月後、3カ月後、6カ月後に検査する。HCV との重複感染例では 12ヶ月
後にも HIV 抗体検査を行う。
⒉ 標準的な薬剤の服用方法を以下に示す。この3剤は薬剤部調剤室に保管されている。
1 TDF/FTC(ツルバダ錠:300/200mg)1錠 /1X、食後
2 DRV(プリジスタナイーブ錠:400mg)2錠 /1X、食後
3 RTV( ノービア錠:100mg) 1錠 /1X、食後
針刺し後の有効な予防のためには第1回目の服用が最も大事である。したがって、第
1回目には必ず3剤を服用する。また、できるだけ速やかに(少なくとも1~2時間以内)
第1回目を服用する。ただし、
DRV は食後に内服すると約 30%血中濃度が上昇するため、
基本的には何か食べてからの内服が勧められる。菓子パン1個またはおにぎり1個程度
でも充分と考えられるが、食べるものがないときは、空腹時であっても抗 HIV 薬を服用
することを優先させる。時間的余裕がなく、責任者と相談できないときには服用につき
自己決定を行う。服用する場合の投与期間は、1カ月とする。各薬剤の注意事項を以下
に示す。
 TDF/FTC:腎機能障害(Ccr<50ml/min)がある場合、TDF の減量が必要となる。
また TDF 自体による腎障害の副作用も報告されているため、腎疾患、腎機能障害を有す
る場合には TDF の使用は避け、他剤への変更を考慮すべきである。また TDF、FTC は
共に抗 HBV 活性を有す薬剤であり、6ヶ月以上 FTC を投与された慢性B型肝炎患者に
おいて、FTC 中止後に 23%で肝炎が悪化したとの報告がある。1カ月以内の短期服用
後における肝炎悪化の報告はないが注意は必要である。むしろ感染リスクが低いと考え
られる場合には、慢性B型肝炎または HBV キャリアの方は TDF/FTC の服用は避ける
方がよいと考えられる。
 DRV+RTV:下痢が出現する可能性があるが、症状のひどい場合にはロペミンなどの
止痢薬を併用する。また、10%程度に皮疹が出現するため、皮膚に異常をきたした場合
はすぐに連絡する。投与前に肝機能異常が認められる場合は、肝機能をさらに悪化させ
る可能性がある。また、RTV の CYP3A4 の阻害作用により他の薬剤濃度を上昇させる
ため、以下の薬剤を使用している場合はその薬剤を中止するか、DRV+RTV の服用は避
ける。また下記薬剤以外にも用量の調整が必要な薬剤があるため、併用薬剤のある場合
には内服前に必ず責任者に相談し、内服の可否、用量調整の必要性を確認する。
併用禁忌薬剤:抗不整脈薬(アンカロン、硫酸キニジン、タンボコール、プロノン、
ベプリコール)
、抗高血圧薬(カルブロック)、睡眠薬(ハルシオン、ドルミカム、ユー
ロジン、メンドン、ベノジール、ダルメート)、向精神薬(オーラップ、ロナセン、セル
シン、ホリゾン)、片頭痛治療薬(カフェルゴット、クリアミン、ジヒデルゴット、レルパッ
クスなど)、勃起不全治療薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)、血管拡張薬(レバチオ、
アドシルカ)、抗真菌薬(ブイフェンド)、子宮収縮薬(メテルギン)、NSAID(フルカム、
フェルデン等)、抗結核薬(リファブチン)
⒊ 対象者が女性の場合、妊娠に注意する。妊婦に投与した場合の安全性、特に妊娠初期
での胎児への安全性は確認されていない。従って、妊婦が服用を決意するには十分な自
己決定が不可欠である。
(HIV 感染の危険性(感染リスクは 0.3~0.5%)と、母子への
薬の危険性の比較衡量)。
対象者が妊娠していなかった場合にも、針刺し後は予防薬服用の有無にかかわらず、
感染していないことがほぼ確定できる針刺し後3カ月目の検査結果がわかるまでは、相
手及び妊娠した場合の胎児への感染回避の目的から避妊する。さらに、予防薬を服用す
る対象者に対しては少なくとも薬剤服用中は、妊娠した場合の胎児への薬剤の影響を避
けるために避妊が必要である。
182 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応
2
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露発生時の連絡体制
HIV 感染の可能性のある針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露が発生した場合には、針刺し後フロー
チャートに従って対応した後、以下の連絡体制・手順に従う。
1 HIV 感染症対策委員会(以下「委員会」とする)が担当する。
2 被災職員は所属の長を通じ、委員会に連絡する。
3 委員会は、当該職員及び公務災害担当の総務課職員掛(以下「担当掛」とする)に、委員
会の指定する受診科及び担当医師を通知する。
4 当該職員は、担当掛に申し出て公務災害の受付手続きを行った後、受診科において担当医
師の診察を受ける。
5 担当医師は、当該職員のカルテを作成し、すみやかに当該職員の診察及び検査等を行い、
針刺し事故も含む医療行為による HIV 感染の危険性の低さ、抗 HIV 薬投与の必要性と予防
効果、HIV 抗体検査の意義・必要性、今後のフォローアップ体制などについての正確な情
報を提供し当該職員の不安の軽減をはかる。
6 さらに、抗 HIV 薬の予防投与について、その感染予防効果、副作用等について十分に説
明する。以後副作用等の出現に注意しながら経過を観察する。
7 担当医師は、当該職員に検査結果を伝えるとともに、以後1、3、6ヵ月後に HIV 抗体
検査を実施して経過を観察する。
8 この間、プライバシーの保護、当該職員の精神的援助にも十分に配慮し、必要があればカ
ウンセリングや精神科医の援助を考慮する。
9 さらに、HIV 抗体陽性となった場合は、新たな公務災害の対象となるため、担当掛に連絡、
公務災害認定の申請をし、担当掛は公務災害認定申請の手続きを行う。
10) 担当医師、担当掛をはじめとする関係者は当該職員のプライバシーの保護と必要に応じた
健康管理が実施されるように十分配慮する。
* 委員会が指定する担当医師と連絡先
氏 名
役 職
診療科等
医 局
連絡先
藤 本 勝 也
助 教
血液内科
 7214
PHS 82323
遠 藤 知 之
助 教
血液内科
 7214
PHS 82331
近 藤 健
講 師
血液内科
 7214
PHS 87045
*上記担当医師の一人に必ず連絡をとる。
*夜間などで、上記医師が不在時は 12-2NS(内線 5795、5796)に血液内科当番医師を問い合
わせたうえで連絡する。
*総務課職員掛( 5616)
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 183
3
HIV に感染している職員への対応
HIV は通常の日常生活では感染の可能性がないため、感染職員本人にとって業務に支障があ
る症状がない限り、通常の業務に従事することは差し支えない。しかし、必要に応じて適切な指
導を行うとともに、従事する業務の範囲など、業務上の指導を行うものとする。
HIV 曝露発生時の対応略図
被災職員
曝露発生
針刺し後フローチャートに従う
(連絡)
(連絡)
所属の長
HIV 感染症対策委員会
(受診科・医師を連絡)
(受診科・医師を連絡)
(公務災害受付手続)
受 診
担当医師
(検査・薬投与)
定期的に受診
担 当 掛
(診断書)
(公務災害手続)
担 当 掛
担当医師
(検査・薬投与)
最終受診
担当医師
(診断書)
治 癒
(公務災害治癒手続)
184 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応
担 当 掛
4
他の医療機関での、針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応について
北海道大学病院は北海道エイズブロック拠点病院であり、他の医療機関(保健所・クリニック
など)での針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応相談や受診相談を受けています。
Ⅰ.感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の連絡が、当事者もしくは施設担当者から連絡があっ
た場合
Ⅰ-1.月~金曜日 8:30~17:00 の時間帯(平日)の問い合わせ
* HIV 相談室もしくは血液内科医師に連絡
感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の状況確認(本マニュアル・針刺し・切創及び皮
膚・粘膜曝露事故時における対処法の項参照)
◆来院し、針刺し事故の検査及び治療を実施する場合
↓
*血液内科担当医師は、感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の状況を確認し、受診が必要
であれば HIV 担当看護師もしくは内科外来看護師に来院することを伝える。
*感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の対象者(患者)の血液があれば持参することを伝
える。
血液内科の初診手続き その際、労災の可能性があることを医事課窓口に伝える
(受診者の施設事務に労災か否かを後日確認後、支払い請求のため)
↓
<診察>
↓ *事故発生後、2時間以内に HIV 感染予防薬内服が望ましい。
(緊急時は、薬剤部の針刺し事故対応 BOX を取り寄せ予防薬内服可能)
<採血>
↓ *検査結果後、予防内服の有無を決める
<会計>
*受診者の施設事務に労災か否かを確認後、受診施設へ支払いを請求のため保留。
Ⅰ-2.上記以外の夜間・休祭日の時間帯の問い合わせ
事務当直に他施設から問い合わせがくる
事務当直から 12-2 病棟当直医師(PHS 82340)に連絡し「他施設から感染性針刺し・切創
及び皮膚・粘膜曝露の対応相談」の問い合わせが来ていると連絡。
連絡を受けた医師は、血液内科担当医師に連絡し対応を依頼する
*血液内科担当医師は、感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の状況を確認し、受診が必要で
あれば事務当直に来院すること、診察場所を伝える。
*感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の対象者(患者)の血液があれば持参することを伝える。
事務当直は、救急部・検査部へ受診の連絡。必要書類(トップシート、針刺し・血液感染汚染
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 185
事故連絡票、針刺し・血液感染汚染事故に係る血液の緊急検査申込書)の準備。
当事者が来院後、事務当直窓口にて受診手続き後、必要書類を渡す。
↓
救急部にて診察、採血、処方等
↓
事務当直で手続き。終了(会計は後日)
医事課外来窓口に外来基本カード、針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故連絡票・検査伝票を
提出
*夜間休日に受診した場合、「針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故連絡票」「検査伝票」は事務
当直者が、トップシートと共に救急部に届ける。
*「針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故連絡票」「検査伝票」が不足した場合は、相談室
7025 に連絡し補充する。
*事務当直連絡先:011 - 706 - 5610
186 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応
2011 年8月改訂
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故連絡票
◆他の医療機関職員の針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故の場合、本連絡票を使用する。
医療機関名称:
所 在 地 :
連 絡 先(電話番号):
患者番号(被曝露者):
氏 名:
生年月日:
◆備 考
*医事課外来係長が窓口になるので「受診時」「会計時」に連絡する。
*労災保険の適応については、個々のケースで異なる場合がある。診療費用は、検査結果不明時
は当日の支払いは保留扱いとし、後日請求をする。
*検査結果判明の場合は、医事課外来係長へ会計時に結果を伝える。
①受傷部位の縫合、消毒、洗浄等の処置は、労災保険の適用となる。
②抗 HIV 薬の予防内服は、被曝露者の検査結果に関わらず労災保険の適用となる。
③抗 HBs 人免疫グロブリン及びB型肝炎ワクチンの接種は、労災保険の適応となる。
④血液検査は、労災保険の適用となる。
⑤被曝露者の血液検査は、労災保険の適用外となり自費となる。
◆針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故の被曝露者への医療行為時の注意点
①抗 HIV 薬の処方は院内処方にする
②被曝露者の検体は、
「針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故に係る血液の緊急検査申込票」
に必要項目を記載し、コピーの1部を医事科に提出する。
③「針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故に係る血液の緊急検査申込票」に検査結果記入後、
被曝露者の外来カルテに貼付する。
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 187
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故に係る血液の緊急検査申込書
申込年 月 日:平成 年 月 日 時 分
申込者 所属部署:
氏 名:
感染対策マネージャー
または部署責任者氏名:
結果連絡先(内 線):
(FAX):
患 者
被 災 者
氏名
氏名
ID
生年月日
血液検査項目
検査結果
HBs-Ag(抗原)
S/N
HBs-Ab(抗体)
血液検査項目
HBs-Ag(抗原)
S/N
HBs-Ab(抗体)
mIU/ml
mIU/ml
HCV-AB(抗体)
HCV-AB(抗体)
S/CO
S/CO
HIV-Ab(抗体)
S/CO
HBe-Ag(抗原)
S/CO
HBe-Ab(抗体)
%
検査結果
HIV-Ab(抗体)
S/CO
GOT IU/L
GPT IU/L
*血液検査結果は、+-及び値を記入のこと。
北海道大学病院 検査部
188 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応
附)本人用:服用のための説明文書とチェックリスト
【TDF/FTC+DRV+RTV】
以下、チェックリストに従い感染予防のための服薬についての説明文書を良く読み、服用の意
義、注意点等について確認して下さい。
チェック欄 □
□服用の意義
針刺し事故などで HIV 汚染血液に暴露された場合の感染のリスクは、最も高い場合でも 0.3
~0.5%とされており、B型肝炎やC型肝炎の同じ様な事故の場合と比べて感染のリスクが低い
ことは知られています。しかし、低いとはいえこの数字は感染リスクは0%ではなく、1,000 回
の事故につき3~5人は感染するということを意味しています。しかも、今のところ感染が成立
してしまった場合、治癒できるような治療法は確立されておりません。しかし一方、感染直後に
抗 HIV 薬である AZT を服用することで感染のリスクを約 80%低下させうることが示されまし
た。今回奨めている2剤であればさらに効果的であろうと考えられます。予防服用により 100%
感染を防げるわけではありませんが、予防服用を強くすすめる理由はこのためです。服用の意義
を理解し、次に進んで下さい。
□服用に当たっての注意点
感染予防の効果をあげるためには、事故後できるだけ早くできれば1~2時間以内に予防薬を
服用する必要があります。このため専門家に相談できる前に自己判断で服用を開始せざるを得な
い場合もあります。どうしていいかわからない場合、妊娠の可能性がなければ、とりあえず第1
包目を服用する事をすすめます。ただし、DRV は食後に内服すると約 30%血中濃度が上昇する
ため、基本的には何か食べてからの内服が推奨されています。菓子パン1個またはおにぎり1個
程度でも充分ですが、食べるものがないときは、空腹時であっても抗 HIV 薬の服用を優先させ
ることをすすめます。
□妊娠の可能性のある場合
大至急妊娠の有無を調べて下さい。今回の予防薬については、妊娠初期の胎児に対する安全性
は確立されておりません。妊婦の場合、責任医師と大至急服薬について相談して下さい。
□予防服用される抗 HIV 薬の注意点及ぴ副作用
「TDF/FTC」ツルバダ
TDF と FTC という2種類の核酸系逆転写酵素阻害薬の合剤で1日1回、食事に関係なく内
服可能です。
副作用:
1 下痢、吐き気、鼓腸や腹痛などの消化器症状と頭痛が 10%以下の方に起きますが、症状
は比較的軽く、ほとんどの場合継続して服用が可能です。
2 頻度は高くありませんが TDF による腎障害の報告があります。むくみや体重増加、筋肉
痛が出現した場合には速やかに責任医師に連絡をとって下さい。また既に腎疾患がある方や
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 189
腎機能が低下している方では、腎障害が進行する可能性があり、TDF の服用は避けるべき
と考えられるため責任医師と相談して下さい。
注意点:
TDF、FTC は共にB型肝炎ウイルスを抑制する効果があり、FTC は欧米で慢性B型肝炎の治
療薬としても使用されています。慢性B型肝炎患者が FTC を半年以上服用してから中止後、肝
炎が悪化することがあり、その中で激症化し肝移植を必要とした例もありました。従って、この
薬剤を服用する前には、必ずB型肝炎ウイルス感染の有無を調べる必要があります。1カ月以
内の短期服用後における肝炎悪化の報告は今のところありませんが、慢性B型肝炎または HBV
キャリアーの方は TDF/FTC の服用について責任医師と相談して下さい。
「DRV+RTV」プリジスタナイーブ+ノービア
DRV(プリジスタナイーブ)はプロテアーゼ阻害薬で、1日1回、食後に内服する薬剤です。
RTV(ノービア)は、DRV の血中濃度を上昇させるための薬剤で1日1回、食後に内服する薬
剤です。
副作用:
1 消化器症状:下痢、吐き気や腹痛などの症状がみられ、中等度以上の下痢が約 20%の人
にみられます。ひどい場合にはロペミン等の止痢剤をもらってください。
2 皮疹:約 10%の人にみられます。重症化することがあるので、皮膚に異常が出た場合は
責任医師に相談してください。
3 長期の服用により高脂血症(特に高トリグリセライド血症)、高血糖、肝機能異常などの
副作用が現れますが、中止することにより回復します。短期服用の場合には心配ありません。
注意点:
以下の薬剤を服用している方は、DRV+RTV と一緒に内服するとその薬の濃度が上昇するの
で、その薬剤を中止するか、中止出来ない場合は DRV+RTV の服用は避けるべきです。また下
記薬剤以外にも用量の調整が必要な薬剤があるため、常用している薬剤のある方は内服前に必ず
責任医師に相談して下さい。また、他院に行く時も、併用禁忌薬リストを必ず持参するようにし
て下さい。
併用禁忌薬剤:抗不整脈薬(アンカロン、硫酸キニジン、タンボコール、プロノン、ベプリコー
ル)
、抗高血圧薬(カルブロック)、睡眠薬(ハルシオン、ドルミカム、ユーロジン、メンドン、
ベノジール、ダルメート)、向精神薬(オーラップ、ロナセン、セルシン、ホリゾン)、片頭痛治
療薬(カフェルゴット、クリアミン、ジヒデルゴット、レルパックスなど)、勃起不全治療薬(バ
イアグラ、レビトラ、シアリス)、血管拡張薬(レバチオ、アドシルカ)、抗真菌薬(ブイフェン
ド)
、子宮収縮薬(メテルギン)、NSAID(フルカム、フェルデン等)、抗結核薬(リファブチン)
□チェックリストに従い感染予防のための服薬についての説明文書を読みました。予防服用の重
要性を理解し、予防服用フローチヤートに従い服薬を開始します。
□:はい □:いいえ
190 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応
「*上記以外の薬剤を選択する場合」
2005 年欧米の最新針刺し事故時の対応マニュアルでは、上記の薬剤の他にも推奨された投与
薬剤があるため、緊急時以外には、個々のケースにおいて他の組み合わせも可能となります。
平成 年 月 日
名前: ■参考文献■
1 厚生省保健医療局疾病対策課 結核・感染症対策室:HIV 医療機関内感染予防対策指針、
厚生省、1989
2 白幡 聡:院内感染対策、木村哲、山本直樹編、AIDS/HIV 感染症の最新ガイド、南江堂、
1993
3 医療事故後の HIV 感染防止のための予防服用マニュアル(2007 年 7 月改訂版)
http://www.acc.go.jp/clinic/hari/07_01.PDF
4 Updated U.S. Public Health Service Guidelines for the Management of Occupational
Exposures to HIV and Recommendations for Postexposure Prophylaxis. MMWR Vol.
54. No. RR-9, September 30,2005
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5409a1.htm(英文本文)
http://csws.tokyo-med.ac.jp/csws/tokyohivnet/prevent/index.html(日本語解説)
5 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の
課題を克服する研究班編.抗 HIV 治療ガイドライン.2011 年3月
6 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の医療体制の整備に関する研
究班編 . 診断と治療ハンドブック 第二版(2006 年3月改訂版)
(血液内科 遠藤 知之 2011.08)
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 191
22 医療福祉制度のてびき
1
はじめに
この 「 医療福祉制度のてびき 」 は、HIV 感染症の方が医療機関に受診する時、または生活を
していく上での経済的負担を軽くするために利用できる、社会制度について紹介している。
さらに制度の詳細を知りたいとき、あるいは制度の利用にあたって不明な点は、MSW まで相
談すること。
2
医療福祉制度の種類
医療費軽減のために
Ⅰ医療保障
①医療保険
雇用されている方と家族が
加入する「被用者保険」と
それ以外の方が加入する
「国民健康保険」がある
高額療養費
保険証を使ってかかった
医療費の一定額以上が後
日払い戻しされる制度
高額医療費貸付制度
高額療養費相当分の払い
を免除したり、一部を融
資する制度
任意継続
被用者保険の被保険者が
退職後も資格を2年間継
続できる制度
社会生活をおくるために
Ⅱ所得保障
身体障害者手帳
一定の障害の状態にあるときに、
手帳を申請することで受けられる。
交付後に様々なサービスや助成
が受けられる制度
⑤自立支援医療
指定医療機関で所
得・課税に応じた
医療費の助成が受
けられる制度
⑥重度心身障害
者医療
各自治体が行って
いる制度
傷病手当金
被用者保険の被保険者が
病気のために仕事をする
ことができず、給料支給
されないなどの場合に手
当金が支給される
雇用保険
・交通費の割引
・自動車の補助
・税の控除・軽
減
・居宅生活への
支援
仕事を探している状態で
公共職業安定所で決めら
れた期間と金額を受給で
きる制度。一定期間保険
に加入していなくてはい
けない
必要に応じてホー
ムヘルプなどが受
けられる
障害年金
・就労の支援な
ど
年金に加入していた人が
所定の条件(年金の支払
い状況)を満たした場合、
障害の程度に応じた額が
受けられる
生活保護
血友病の場合
②特定疾病療養
③小児慢性特定疾
患治療研究事業
④先天性血液凝固
因子障害治療研
究事業
国民の最低限度の生活を保障する制度
血友病の場合
□医療扶助
□調査研究事業
□健康管理支援事業
現物支給で無料に
なる
□生活扶助
□住宅扶助
生活にかかる経費
の保障
血液製剤による感染
者、二次・三次感染
者が対象
※制度の利用には HIV 陽性者自身の意思による自己決定が前提である。
(ただし、この中に記されているすべての制度を使えるとは限らない。また、どうしても使わ
なければならないわけでもない)
192 医療福祉制度のてびき
3
医療費負担を軽減する制度
医療費を軽減する制度は、医療保険制度と血友病に関わる医療助成制度、生活保護による医療
扶助、そして「身体障害者手帳」の交付による公費負担医療がある。
 血友病及び血友病類似疾患に対する医療助成
②:特定疾病療養(長期高額疾病)
治療期間が長く、高額の治療を続けて行う必要のある血友病、血液製剤投与に関係する
HIV 感染症(二次・三次感染を含む)の方は、医療費の自己負担上減額が 10,000 円になる。
※入院時の食事療養費は助成なし。
申請先 加入している健康保険の窓口に「特定疾患療養受給証」の交付申請を行う。
③:小児慢性特定疾患治療研究事業
20 歳未満の血友病および類縁疾患の患者さんが対象。医療費は入院時の食事療養費を含
め、入通院とも無料。
申請先 住民票のある地域を管轄する保健所に 「 小児慢性特定疾患受給者証 」 の交付申請
を行う。
④:先天性血液凝固因子障害等治療研究事業
20 歳以上の先天性血液凝固因子障害、もしくは血液凝固因子製剤の投与による HIV 感染
症の方が対象。医療費は入院時の食事療養費を含め、入通院とも無料。
申請先 おおむね住民票のある地域を管轄する保健所に 「 先天性血液凝固因子障害等受給
者証 」 の交付申請を行う。
条件:いずれかの①医療保険に加入していること
③小児慢性特定
疾患治療
研究事業
②の 1 万円を
助成
①の自己負担分
②特定疾病療養 (3割自己負担)を
1万円まで軽減
①健康保険
20歳未満
7割給付
④先天性血液
凝固因子障害等
治療研究事業
②特定疾病療養
①健康保険
20歳以上
医療福祉制度のてびき 193
 二つの公費負担医療
医療保障の中で抗 HIV 治療に必要な公費負担医療には、自立支援医療(更生医療)と重度
心身障害者医療の2種類がある。免疫機能障害で「身体障害者手帳」を取得している方の、医
療・等級・所得等の状況により対象が定められる。
なお、身体障害者手帳の等級と所得の状況によって補助される金額が異なるものもあるので、
これらを把握した上で選択する。
⑤自立支援医療(更生医療)
(事業開始 昭和 29 年7月)
障害者自立支援法 第 58 条
(国庫負担事業)
補助率 国1/ 2 市町村1/ 4 道1/ 4
⑥重度心身障がい者医療費助成
(事業開始 昭和 47 年4月~)
自治体医療給付事業補助要綱等
(道補助事業)
補助率 市町村1/ 2 道1/ 2
平成 18 年4月より更生医療・育成医療・精
神通院医療が統合され〈自立支援医療〉に移
行。
身体障害者手帳をもっている方の福祉の向
上を図るために、医療費の一部を助成する
制度。
対象者 免疫機能障害で身体障害者手帳の
交付を受けている 18 歳以上の方。(18 歳未
満は「育成医療」)1~4級
対象者 身体障害者手帳の交付を受けてい
る、1・2級・内部障害3級の方。
給付範囲 抗 HIV 療法、免疫調整療法、そ
の他合併症の予防や治療等の HIV 感染に対す
る医療に限られる。
自己負担額 医療費の定率 1 割負担。1ヵ
月あたりの自己負担上限額があり、前年度の所
得・市町村民税に応じて表1の限度額を負担。
給付範囲 医療保険の対象範囲。
自己負担額 住民税非課税の場合初診時
一部負担。課税世帯は原則、医療費の 1 割
負担。さらに上限がもうけられ、1か月の
自己負担限度額がある。
道は、外来 12,000 円 入院 44,400 円
(市町村によって対象者を拡大している場合
がある。)
札幌市 は一医療機関につき
外来 3,000 円 入院 44,400 円
注 意 自立支援医療(更生)の利用は、 注 意 医療保険の医療が前提。所得制限
知事等から指定を受けている医療機関・調剤 があり利用の対象外になる方がいる。
(表2)
薬局に限られる。
生活保護者は対象外。
申請手続きには医師による意見書が必要。
受給者証の有効期限は最長 1 年。継続して受
給を希望する場合は、課税証明書などを添え
て自立支援医療継続の手続きが必要。医療保
険の利用が前提。生活保護を受けている方も
対象。
194 医療福祉制度のてびき
表1 自立支援医療 自己負担上限月額区分
自己負担
上限月額
所得区分の内容
生活保護世帯
0円
市町村民税非課税世帯で、本人所得が年間 80 万円以下の方
2,500 円
市町村民税非課税世帯で、本人所得が 80 万円を超える
もしくは、市町村民税(所得割額)が2万円未満の方
5,000 円
市町村民税(所得割額)が2万円以上 20 万円未満の方
10,000 円
市町村民税(所得割額)が 20 万円以上の方
20,000 円
表2 重度心身障がい者医療の所得制限
扶養人数
所得限度額
給与収入に換算した目安
0人
628.7 万円
840.7 万円
1人
653.6 万円
868.4 万円
2人
674.9 万円
892.1 万円
3人
696.2 万円
915.7 万円
利用できる制度と申請の時期
初診
経過観察
服薬開始
高額療養費
(貸付含む)
1ヶ月の医療費が一
定額を超えればいつ
でも利用できます
3級以上の身障手帳があ
り、
所得制限をクリアした
場合に利用できます
重度障害者医療
身体障害者手帳
エイズを発症しているか、
4週
以上の間をあけて2回の検査
の結果が出て、認定の基準を
満たせばいつでも申請ができ
ます
自立支援医療
身障手帳取得後、もしくは申請中
で、
HIV 薬などの治療が始まる場
合に利用できます
 身体障害者手帳について
身体障害者福祉法では「身体障害者手帳を所持している方」を援護の対象と規定している。
手帳はサービスを受けるためのパスポートで、何らかのサービスを受ける場合にその該当者で
あることを示す。
手帳は身体障害者福祉法に定める程度の障害がある、本人(または保護者)の申請によって
交付される。HIV 感染者の障害認定は1~4級まであり、障害名は「免疫機能障害」
医療福祉制度のてびき 195
申請手続きの手順
手帳の取得を希望する本人が主治医に障害認定の希望を伝える。
主治医が認定の条件と本人とデータ等を照らし合わせ、これに合致する場合申請となる。
「指定医」である医師が「診断書」を記入できる。身体障害者診断書・意見書を指定医
に依頼する。
手帳の交付申請に必要な書類は市町村(身体障害者福祉担当)にある。市町村の身体障
害者福祉担当窓口に、身体障害者診断書・意見書、身体障害者手帳交付申請書、写真(縦
4cm、横3cm の上半身のもの)
、印鑑をもって申請する。申請は本人でなくて代理の
方でも可。郵送でもよい。
手帳が交付されると自宅に市町村の身体障害者福祉担当から連絡がある。
受け取り時に、医療助成の関係で健康保険証や印鑑などが必要な場合がある。(市町村
によっては少しずつ内容や対応が異なります)ご希望があった場合は手帳を郵送するこ
とも可能。
身体障害者手帳の交付
身体障害者手帳の「障害程度等級認定基準」
「 免疫機能障害 」 の障害認定は1~4級まであり、エイズを発症(AIDS 診断のための指標疾
患参照)しているか、4週以上間隔をおいて実施した連続する2回の検査結果が、認定基準を満
たす場合に交付される。
認定方法は、13 歳以上と 13 歳未満で認定基準が異なる。
● 13 歳以上の方の場合
1級
1.CD4 陽性リンパ球数が 200/μ
ℓ以下で表3の6項目以上に該当する状態
2.回復不能なエイズ合併症のため介助なくしては日常生活が不可能な状態
2級
1.CD4 陽性リンパ球数が 200/μℓ以下で表3の3項目以上に該当する状態
2.エイズ発症の既往歴があり表3の3項目以上に該当する状態
3.CD4 陽性リンパ球数に関係なく表3の1から4までの1つを含む6項目以上に該当す
る状態 3級
1.CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以下で表3の3項目以上に該当する状態
2.CD4 陽性リンパ球数に関係なく表3の1から4までの1つを含む4項目以上に該当す
る状態
4級
1.CD4 陽性リンパ球数が 500/μ
ℓ以下で表3の1項目以上に該当する状態
2.CD4 陽性リンパ球数に関係なく表3の1から4までの1つを含む2項目以上に該当す
る状態
196 医療福祉制度のてびき
表3 検査所見・日常生活活動制限
1.白血球数について 3,000/μℓ未満の状態が4週以上の間隔をおいた検査において連続して
2回以上続く
2.ヘモグロビン量について男性 12g/㎗未満、女性 11g/㎗未満の状態が4週以上の間隔を
おいた検査において連続して2回以上続く
3.血小板について 10 万/μℓ未満の状態が4週以上の間隔をおいた検査において連続して2
回以上続く
4.ヒト免疫不全ウイルス -RNA 量について 5,000 コピー/ml 以上の状態が4週以上の間隔を
おいた検査において連続して2回以上続く
5.
1日1時間以上の安静臥床を必要とするほどの強い倦怠感および易疲労感が7日以上ある
6.健康時に比して 10%以上の体重減少がある
7.月に7日以上の不定の発熱(38℃以上)が2か月以上続く
8.
1日に3回以上の泥状ないし水様下痢が月に7日以上ある
9.
1日に2回以上の嘔吐あるいは 30 分以上の嘔気が月に7日以上ある
10.表4に示す日和見感染症の既往がある
11.生鮮食料品の摂取禁止等の日常生活上の制限が必要である
12.軽作業を越える作業の回避が必要である
表4 日和見感染症
1.口腔カンジタ症(頻回に繰り返すもの) 2.赤痢アメーバ症 3.帯状疱疹
4.単純ヘルペスウイルス感染症(頻回に繰り返すもの) 5.糞線虫症
6.伝染性軟属腫 7.その他
等級早見表
HIV に感染していて、
診断時に 13 歳以上の人
回復不能なエ
イズ合併症のた
め介助なくして
は日常生活がほ
とんど不可能な
状態
エ イズ 発 症 の
既往があり、表
3の項目に3~
5項目該当する
ひと
1 級
2 級
左の項目に
該当しない
表 3 のうち1か
ら4の項目有
表 3 のうち1か
ら4の項目無
表3の項目数
CD4 200 以下
1 2 3 4 5 6~
4級
2級
1級
CD4 200 以下
1 2 3 4 5 6~
4級
2級
1級
表3の項目数
表3の項目数
CD4 201~500
1 2 3 4 5 6~
4級
2級
1級
CD4 201~500
1 2 3 4 5 6~
4級
3級
表3の項目数
CD4 501 以上
1 2 3 4 5 6~
× 4級 3級 2級
CD4 501 以上
表3の項目数
医療福祉制度のてびき 197
診断・意見書 記載方法の注意点
身体障害者診断書・意見書 ① 障害名 「免疫機能障害」 を記入 ⑤ 総合所見 将来再認
定が要の場合は、再認定の時期を記入
(自立支援医療)更生医療要否意見書 障害名 「免疫機能障害」、 医療の具体的方針 「免
疫機能障害に対する薬物療法」を記入
4
生活保護制度
生活保護制度の概要
 目的
さまざまな理由によりお金を稼ぐことが出来なくなったとき、最低限の生活を保障しお金を受
給できるのが生活保護制度です。国が憲法 25 条(生存権)に基づき全ての国民を程度に応じ保
護します。また被保護者の自立の助長を図ることを目的としています。
 対象者
資産、能力等すべてを活用した上でも、生活に困窮する者を対象としています。
※各種の社会保障施策による支援、不動産等の資産、稼働能力等の活用が保護実施の前提に
なります。また、扶養義務者による扶養などは、保護に優先されます。
外国籍の場合は、永住ビザや日本人の配偶者ビザなどの定住性のあるビザを持っている場合
は生活保護を利用することができます。
困窮に至った理由は問いません。
 保護の内容
保護は、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助及び葬
祭扶助から構成されています。
※医療扶助及び介護扶助は、医療機関等に委託して行う現物給付を原則とし、それ以外は金
銭給付が原則です。
最低生活費は、地域や年齢で細かく決められています。家賃・医療費・介護費を別にした生
活費が札幌市 20~40 代1人暮しで 79,940 円です。さらに 11 月~3月には冬季加算とし
て 23,250 円。12 月には期末手当として 13,540 円が加わります。身体障害者手帳を取得し
ていると身体障害者手帳2級で 26,850 円加算されます。
 保護の申請と決定
保護は申請を基づいて開始することを原則としています。要保護者、その扶養義務者、その
他同居の親族としています。一方、保護の実施機関は、要保護者の発見、市町村長による通
報があった場合は、適切に処置をとらなければならないとしています。
 保護の実施機関
保護を実施するための原則として、居住地主義をとっています。これは住民票のある自治体
ではなく現在住んでいる居住地の保護実施機関が決定を行うということです。またこれによ
りがたい場合には現在地保護、急迫保護、施設入所保護などの特例があります。
198 医療福祉制度のてびき
 保護受給に至る手続
申請による場合
事前の相談
保護の申請
・生活保護制度の説明
・生活福祉資金、障害者施策等
各種の社会保障施策活用の可
否の検討
保護費の支給
・預貯金、保険、不動産等の資
産調査
・扶養義務者による扶養の可否
の調査
・年金等の社会保障給付、就労
収入等の調査
・就労の可能性の調査
医療機関への
入院、保護施
設等への入所
職権による場合
行き倒れ等
急迫保護
(職権保護)
医療機関への
入院、保護施
設への入所
事後の要否判定
・預貯金、保険、不動産等の資
産調査
・扶養義務者による扶養の可否
の調査
・年金等の社会保障給付、就労
収入等の調査
 保護の要否の判定と支給される保護費
厚生労働大臣が定める基準で測定される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に
満たない場合に保護を適用します。最低生活費から収入を差し引いた差額を保護費として支
給します。
※収入:就労による収入、年金等社会保障の給付、親族による援助、交通事故の補償等を認定。
最 低 生 活 費
収 入
収 入
保護が適用さ
れないケース
保護が適用さ
れるケース
支給される保護費
収入としては、上記のほか預貯金、保険の払戻金、不動産等の資産の売却収入等も認定する
ため、これらを使い尽くした後に、初めて保護適用となります。
 保護適用後の調査及び指導
世帯の実態に応じ、年2~12 回の訪問調査を行います。
収入・資産等の届出を義務付け、定期的に課税台帳との照合を実施します。
労の可能性のある者への就労指導を行います。
 審査請求及び再審査請求
保護の決定や停止、廃止に対して不服のある者は、都道府県知事に対して、取り消し申し立
て(審査請求)をすることができます。この申し立てに対し都道府県知事は 50 日以内に裁
決をしなければなりません。また、この裁決に不服のある者は厚生労働大臣に対して、再審
医療福祉制度のてびき 199
査請求をすることができます。
審査請求後の行政処分に不服がある場合。処分の取り消しを求める訴訟を起こすができます。
 被保護者の義務
生活保護の費用は国民の税金によって賄われています。被保護者は最低生活の給付が与えられ
る一方で義務も課せられます。
①譲渡禁止:保護を受ける権利を譲り渡すことができないことです。
②生活上の義務:常に能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図りその他生活の維持、向上に
つとめなければならないとされています。
③届出の義務:収入、支出その他生計の状況が変わったとき、または住所、家族の構成に異動
があったときは、すぐに、福祉事務所長に届け出なければならないとされています。
④指示等に従う義務:生活の維持や向上に関して必要な指導や指示に従う義務があります。こ
の指導や指示に従わなければ保護を停止、廃止されることがあります。
⑤費用返還義務:緊急などの理由で、資力があるにもかかわらず保護を受けたときは、すみや
かに、受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還し
なければならないとされています。
 各種扶助
▽生活扶助 衣食その他の日常生活の重要を満たすために必要なものです。個々人に必要な衣食
は第一類として支給され、その人の年齢層ごとに異なります。光熱水費は世帯の人数によって
変わる第二類として支給されます。第一類と第二類の合計がその世帯の生活扶助になります。
又、1か月以上入院する場合は、第一・二類の代わりに入院患者日用品費が支給され、介護
保険施設に入所している人には、介護施設入所者基本生活費が支給されます。(加算の形で、
個人、または世帯の状況に応じて支給される扶助費には次のものがあります。期末一時扶助、
被服費、入学準備金、家具計器費、移送費、ひとり親世帯就労促進費など。)
▽生業扶助 高校入学の費用や世帯の就労自立のために必要な経費を支給します。技能習得、生
業に必要な資金、器具や資材を購入する費用が対象となります。
▽住宅扶助 敷金、礼金、家賃、賃貸契約更新の費用、家屋の補修費、改修費、他に住宅の維持
のため、必要なものが対象となります。
▽医療扶助 けがや病気が必要な際、生活保護指定医療期間で給付が受けられます。予防接種は
対象となりません。
▽介護扶助 介護保険法に規定する要介護及び要支援状態にある者を対象者としています。介護
保険が適用される場合には保険給付が優先となります。介護施設におけるユニット型個室・ユ
ニット型準個室・従来型個室は、原則として利用を認めておりません。
 保護施設
▽救護施設 身体・精神上著しい障害があるために日常生活を営むのに困難な要保護者を入所さ
せ、生活扶助を行うこととしています。
▽更生施設 身体・精神上の理由により療養及び生活指導を必要とする要保護者を入所させて、
生活扶助を行うこととしています。
▽医療保護施設 医療を必要とする要保護者に対して、医療の給付を行うこととしています。
▽授産施設 身体・精神上の理由または、世帯の事情により就業能力の限られている要保護者に
200 医療福祉制度のてびき
対して、就労または技能の習得のために必要な機会および便宜を与えて、その自立の助長をする
こととしています。
▽宿泊提供施設 住宅のない要保護者の世帯に対して住宅扶助を行うことを目的としています。
■参考文献■
1 東京ソーシャルワーク編.How to 生活保護(介護保険対応版)―暮らしに困ったときの生
活保護のすすめ.東京,現代書館,2007,223 P.
2 厚生労働省 生活保護と福祉一般.
〈http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/seikatuhogo.html〉,(参照 2009- 7-31).
(HIV 相談室 ソーシャルワーカー 富田 健一 2011.07)
医療福祉制度のてびき 201
23 HIV 感染症とインターネット情報
1
インターネット上のオンラインマニュアルについて
このマニュアルの全項目をインターネット上でも公開しており、当院の HIV 感染症対策委員
会が管理している北海道 HIV/AIDS 情報のホームページで閲覧できます。
【北海道 HIV/AIDS 情報 http://www.hok-hiv.com/】
また HIV/AIDS に関する情報を提供する国内・海外の主なサイトについて「3.HIV/AIDS
の関連サイト」で紹介しています。
なお、HIV/AIDS の情報は日々進歩しています。マニュアルの記載内容は執筆時の情報に基
づいており、他のサイトもすべての情報が最新とは限りませんので、ご確認の上ご利用下さい。
2
北海道 HIV/AIDS 情報(http://www.hok-hiv.com/)について
北海道大学病院 HIV 感染症対策委員会が管理している HIV/AIDS についてのホームページ。
このサイトは、HIV/AIDS に関する情報や、北海道内の相談窓口・検査・エイズ治療拠点病
院などについての情報を提供すること、また北海道内を中心とした研修会などのお知らせをする
ことを目的に開設した。
HIV 感染から治療までの HIV の基礎知識や一般の方・医療従事者向けの情報を掲載、また、
今年度より歯科の項目も追加された。
【一般の方の項目】
「相談窓口のご案内」、「検査に
ついて」、「受診について」、「歯科
治療について」
【医療従事者の項目】
「研修会等のご案内」、「検査の
ススメ・結果説明について」、「カ
ウンセリングの活用について」
、
「針刺し事故の対応について」、
「歯
科治療について」
なお HIV 感染症対策委員会が発
行している以下の冊子もダウンロー
ドが可能。
 HIV 感染症 診断・治療・看護
マニュアル(医療従事者向け)
本マニュアルを電子ファイル
へ移行したもの。HIV に関する総論及び各論、AIDS 関連症候群の診断と治療、HIV 感染
症に使用される薬剤の使用法と副作用等について掲載。
202 HIV 感染症とインターネット情報
 HIV・HCV 重複感染症 診療ガイドライン(医療従事者向け)
HIV・HCV 重複感染症について、その特徴、治療に関する知見などを解説。
 HIV・HCV 重複感染患者さんの手引き(一般の方向け)
その他、北海道大学病院のスタッフ紹介や相談室利用案内、汚染事故時の対応についてなど
を掲載しています。
北海道大学病院のホームページにもリンクが貼られており閲覧可能。
①病院 TOP ページ上、「医療関係者の方へ」⇒「HIV 関連マニュアル」
②病院 TOP ページ左下、「北海道ブロックエイズ治療拠点病院」のページから
3
HIV/AIDS の関連サイト
 日本語サイト
・独立行政法人 国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター
「センターのご案内」
「一般・患者さん向け」
「医療従事者向け」
「関連サイト」
「研究班報告」
「厚生労働省関連情報」などのコンテンツがある。また、e-ラーニングもある。
URL:http://www.acc.go.jp/accmenu.htm
・独立行政法人 国立病院機構 仙台医療センター・東北ブロック AIDS/HIV 情報ページ
HIV 検査や HIV の基礎知識、診療・受診のご案内や Q&A など。患者さん向けに「薬の部屋」、
「栄養管理の部屋」、「外来看護の部屋」、「カウンセリングの部屋」など多くの情報がある。
URL:http://www.tohoku-hiv.info/
・関東甲信越 HIV/AIDS 情報ネット
「HIV/AIDS 関連ニュース」、
「研修会のお知らせ」、
「関東甲信越ブロックの拠点病院一覧」
などのコンテンツがある。また冊子「制度のてびき」の PDF 版をダウンロードできる。
URL:http://kkse-net.jp/
・エイズ治療北陸ブロック拠点病院
「診療案内」
「相談案内」
「HIV/ エイズの基礎知識」「検査案内」「サポート体制」などの
コンテンツがある。
URL:http://www.ipch.jp/aids/
・独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター・HIV/AIDS 先端医療開発センター
「診療案内」を始め、
「HIV 感染症基礎知識」「抗 HIV 薬情報」についての文書、「近畿エ
イズ治療拠点病院一覧」などが掲載。また「HIV 診療のためのリソース」や「血友病関連情報」
など豊富なコンテンツがある。
URL:http://www.onh.go.jp/khac/
・中四国エイズセンター
「病気の知識」
「HIV 抗体検査について」「HIV/AIDS 関連文献」「エイズ関連出版物」な
HIV 感染症とインターネット情報 203
どが参照できる。また「社会福祉制度」
「心理カウンセリング」についてのコンテンツもある。
更にイベントカレンダーやエイズ関連用語集など様々な内容が掲載されている。
URL:http://www.aids-chushi.or.jp/
・独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター・AIDS/HIV 総合治療センター
医療やケアに関する情報の他、HIV/AIDS 検査・相談窓口、拠点病院についての案内、
AIDS/HIV 総合治療センターについてや研修のお知らせ等が掲載されている。
URL:http://www.kyumed.jp/kansensho/
・厚生労働省・エイズ治療薬研究班
この研究班の供給する薬剤の情報とその入手方法など、この研究班からの情報と厚生労働
省からの情報がインターネットを通じて広く一般に公開されている。
URL:http://labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhw/mokuji.htm
・財団法人エイズ予防財団
設立趣旨や事業内容について、エイズ予防の戦略研究などの情報がある。
URL:http://www.jfap.or.jp/
・エイズ予防情報ネット(API-Net)
エイズに関する基礎知識や最新の動向、エイズに関する予防・啓発など様々な情報が掲載
されている。
URL:http://api-net.jfap.or.jp/
・HIV 検査・相談マップ
全国のエイズ検査を受けられる施設について検索することができる。検査イベント情報や、
HIV・エイズや HIV 検査についてのなどの Q&A もある。
URL:http://www.hivkensa.com/
・日本エイズ学会
エイズと HIV に関する諸問題の研究の促進、会員相互の交流および知識の普及と啓発を
図ることを目的として日本エイズ学会があります。エイズ学会に関する詳細情報が掲載され
ている。
URL:http://jaids.umin.ac.jp/
・HIV/AIDS 看護研究会(JANAC)
HIV/AIDS 看護に携わる看護職が、より実践的な情報をより実践的な場で更に質の高い
看護を提供できるようにすることを目的として設立されました。今後情報交換としての場に
とどまらず、これから HIV/AIDS 看護が進むべき方向性を探求し、年々進歩する治療とと
もに、具体的な看護の手法を開発することを目指しています。
URL:http://www.janac.info/
204 HIV 感染症とインターネット情報
・HIV マップ
HIV /エイズについて不安に思ったとき。セイファーセックスについて知りたいとき。
検査してみようか迷っているとき。陽性という結果を受け取ったとき。あなたの身近にいる
人が悩んでいるとき。このサイトは、一人ひとりが自分なりのリアルな現実に向き合うこと
を応援しています。
URL:http://www.hiv-map.net/
・
「HAND」北海道の HIV/ エイズ情報 HIV&AIDS Navigation for Doumin
社会福祉法人はばたき福祉事業団が運営しているサイト。HIV・エイズの基礎知識および
最新の動向、全国の検査・相談窓口、拠点病院、関連イベントなど多数の予防・啓発情報を
紹介。
URL: http://hiv-hand35.jp/
 海外サイト (English Website)
・Joint United Nations Programme on HIV/AIDS(UNAIDS)
国連合同エイズ計画のホームページ。Date & analysis から世界の HIV/AIDS の流行状
況を確認できる。
URL:http://www.unaids.org/en/
・World Health Organization(WHO)
世界保健機関のホームページ
URL:http://www.who.int/en/
・HIV in Site
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の HIV 総合情報サイト。
URL:http://hivinsite.ucsf.edu/
・JOHNS HOPKINS POC-IT guide
ジョンズホプキンス大学の HIV 総合情報サイト。
URL:http://www.hopkinsguides.com/hopkins/ub
・AIDSinfo
DHHS ガイドラインなどを掲載。
URL:http://www.aidsinfo.nih.gov/
・Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
HIV/AIDS A-Z Index がある。また、
「Basic Information」
、
「Statistics and Surveillance」
など様々な分類から情報を絞り込むことができる。
URL:http://www.cdc.gov/hiv/
(HIV 相談室 田村 恵子 2011.08)
HIV 感染症とインターネット情報 205
24 相談室について
平成8年3月の HIV 訴訟原告団との和解から、政策医療としてエイズ診療体制整備が進めら
れた。本院においては平成9年4月相談室を設置し、専門職を配置し精神的支援など患者支援に
活動開始した。
北海道エイズ治療ブロック拠点病院である本院は「北海道内のエイズ医療の水準の向上、地
域格差の是正を推進していく」
「エイズ医療においてチーム医療が円滑に機能するよう支援す
る」役割が求められる。そのため、エイズ医療専従の専門職(HIV 担当看護師 カウンセラー
MSW 情報担当者 薬剤師(兼任))を配置しチームで活動している。
HIV に関する相談窓口として利用可能な場として院内外に周知されている。具体的には、
HIV 検査相談、針刺し事故時の対応、患者の転院や診療施設紹介、個別症例相談などを実施し
ている。北海道内の医療体制整備の役割として拠点病院 HIV 担当の専門職間の連携やケアの充
実や教育を目的とした研修会や連絡会議も実施している。
また、相談室では、医師と専門職が集まり週1回カンファレンスを実施している。カンファレ
ンスでは、通院患者の情報共有や個別ケースの検討、研修会等の企画運営や、院内外の課題の検
討にチームとして取り組んでいる。
1
相談室の役割
①HIV 感染患者の療養支援・家族 / パートナー支援
②病気や療養生活についてなど情報・資材提供(患者 / 家族・院内外の医療者等)
③HIV 検査希望者の受検相談・検査実施
④電話相談(感染不安・診療施設紹介・情報提供など)
⑤HIV 感染患者・家族 / パートナーの心理的支援、カウンセリングの実施
⑥社会資源の紹介や制度利用相談
⑦HIV 感染判明後から医療機関受診までの支援
⑧予防啓発活動(HIV 検査相談 サークルさっぽろ 講演など)
⑨北海道内の HIV 担当者・関係者の連携と教育
⑩拠点病院との連携・調整(研修会 / 連絡会議の実施・個別ケース相談)
2
相談室利用について
在室時間 8:30~17:00
個別相談 9:00~16:00
ダイヤルイン 011-706-7025
メールアドレス:[email protected]
*HIV 担当看護師・カウンセラー・MSW・情報担当は月~金在室
*原則事前予約が必要だが、予約状況により対応可
*相談はプライバシーが守られる個室対応
*1回の相談時間は 30 分~60 分程度
*相談室の利用のみ(診察を受けない)の場合、料金は不要
206 相談室について
*北大通院患者以外でも利用可能
<相談依頼方法>
①HIV 担当看護師への連絡は、相談室(内線 7025、PHS83351/83352)に直接電話をする。
②カウンセラー・メディカルソーシャルワーカー(MSW)への連絡
◆院内・院外の場合:相談室(内線 7025)へ直接電話連絡可。
(院内の場合、電話連絡後、病院情報管理システムより入力をお願いします)
◆院内の場合:病院情報管理システムの院内手紙(電子コメント)を用いて連絡依頼。
電子コメント→ HIV 相談室→カウンセリング依頼・メディカルソーシャルワーカーへの相
談依頼のコメント入力後、内容確定し送信する。
3
HIV 担当看護師の役割
看護師の役割として、患者が QOL を維持しながら療養生活と治療が両立でき、自己のライフ
スタイルを構築していけるよう支援していくことを大切にしている。「患者の身体的・心理的・
社会的背景を総合的に把握しセルフケアを実践できるように支援する」「治療方法や療養生活に
関して患者が意思決定できるように支援する」「患者の療養上の目標を共有し、医療チームが効
果的に協同し包括的医療が提供できるようチームをコーディネートしていく」ことを実践してい
る。また、北海道ブロックエイズ拠点病院の担当看護師として、道内の拠点病院や、他の医療機
関との連携調整、情報提供、個別相談など HIV に関連する道内の医療向上の一端を担い主に以
下のことを実践している。
①療養生活支援
②他科・他施設受診時連携支援
③カンファレンス開催などチーム医療の調整役
④医療関係者への HIV 最新情報の提供、HIV 学習会・研修会・連絡会議の企画運営
4
カウンセラーの役割
HIV に感染し生活を送る中で、患者はさまざまなストレスを体験する。一度の大きなストレ
ス負荷がかかる場合もあれば、小さなストレスが積み重なっていく場合もある。カウンセラーは、
患者が HIV という病を抱えることで生じる心理社会的影響を緩和し、患者自身がよりその人ら
しい生き方を選択していけるように、臨床心理学的な視点から支援を行っている。以下に主な役
割を記す。
① HIV 感染に伴う心理的支援(陽性結果告知時、生活や人間関係上の問題、服薬開始時等)、
不眠、抑うつ感、不安など精神状態のアセスメント
②家族・パートナーの支援
③医療スタッフとの協働
④派遣カウンセラーとの協働(保健所での検査における陽性告知時)
⑤相談室以外でのカウンセリング実施(在宅・他院入院患者支援)
⑥道内の中核拠点病院、拠点病院のカウンセラーに対し、専門職研修の企画運営
相談室について 207
5
メディカルソーシャルワーカー(MSW)の役割
生活上のニーズを知識と技術と倫理観を使い患者とともに考え支援を行う。患者の抱えるニー
ズを生活歴、家族関係、社会環境、文化、価値観からトータルに理解する。また、患者の自己実
現と自己決定を尊重し、権利擁護及び代弁をおこなう役割をもつ。
①医療費が心配な場合、「医療助成制度」を活用
例 高額な医療費のときには、高額療養費
身体障害者手帳の医療費助成
②生活費が心配な場合、「年金や手当金」を活用
雇用保険、傷病手当金、障害年金、生活保護
③福祉サービスが必要な場合、「身体障害者福祉制度」を活用
例 福祉施設入所・施設利用に関する相談には身体障害者更生施設、援護施設への入所手続
き方法や情報提供を行う。
自宅での生活をつづけるためには日常生活用具の給付、住宅設備改善費の給付、ホーム
ヘルプサービスの利用について情報提供する。
④学校や職場での社会生活上の悩みの相談
⑤制度利用上の秘密漏えいへの不安の相談
⑥人関係における悩みの相談
⑦北海道 HIV 担当ソーシャルワーカー向け専門研修の企画及び主催
6
情報担当者の役割
HIV/AIDS に関する情報の収集・管理・提供を主に行う。患者データベースなど様々なデー
タの管理を行い、ホームページや刊行物などを通じ最新情報を関係者へ提供する。また院内外に
おける研修会・講演会などの開催協力や、HIV/AIDS 関連研究班などの調査事項への協力を行う。
①患者データベースなどのデータ管理とデータシステムの構築・運用とその分析
②Web サイト【北海道 HIV/AIDS 情報】や各種刊行物の管理・作成とこれらを用いての情報
提供
③研修会・講演会などの開催協力
④HIV/AIDS 関連研究班等の調査事項への協力・研究費管理
(HIV 相談室 渡部 恵子、富田 健一、加藤 朋子、田村 恵子、 江端 あい、成田 月子、大野 稔子、 2011.08)
208 相談室について
25 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の
添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
ページ
レトロビル
210
ヴァイデックス EC
211
エピビル
212
ゼリット
213
コンビビル
214
ザイアジェン
215
エプジコム
216
ビリアード
217
エムトリバ
218
ツルバダ
219
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
ビラミューン
220
ストックリン
221
レスクリプター
222
インテレンス
224
プロテアーゼ阻害薬(PI)
クリキシバン
225
インビラーゼ
226
ノービア
228
ビラゼプト
230
カレトラ
231
レイアタッツ
233
レクシヴァ
235
プリジスタ
237
インテグラーゼ阻害薬(INI)
アイセントレス
239
侵入阻害薬(CCR5 阻害薬)
シーエルセントリ
240
北海道大学病院抗 HIV 薬採用リスト(2011 年8月時点)
抗ウイルス薬 209
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) ジドブジン(zidovudine)(AZT、ZDV)
商 品 名
レトロビル
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (1987 年 10 月)
規格単位
1カプセル中 100mg
用法・用量
他の抗 HIV 薬と併用して、1日量 500~600mg を2~6回に分服。症状により
適宜減量
警 告
本剤の投与により骨髄抑制があらわれるので、頻回に血液学的検査を行うなど、
患者の状態を十分に観察すること。
禁 忌
・好中球数 750/mm3 未満又はヘモグロビン値が 7.5g/dL 未満に減少した患者
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・イブプロフェン投与中の患者
注 意
・好中球数 1,000/mm3 未満又はヘモグロビン値が 9.5g/dL 未満に減少した患者
では、好中球、ヘモグロビン値がさらに減少することがある。
・腎または肝機能障害のある患者では、高い血中濃度が持続するおそれがある
・ビタミン B12 欠乏患者では貧血が発現するおそれがある
・高齢者
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・イブプロフェン(ブルフェン等):血友病患者において出血傾向が増強すること
(併用注意)
がある。
【併用注意】
・本剤の毒性作用が増強;ペンタミジン、ピリメタミン、スルファメトキサゾール・
トリメトプリム合剤、フルシトシン、ガンシクロビル、インターフェロン、ビ
ンクリスチン、ブンプラスチン、ドキソルビシン
・投与間隔を適宜あける;プロベネシド
・本剤の最高血中濃度が 84%上昇する;フルコナゾール、ホスフルコナゾール
・本剤の最高血中濃度が 27%減少し AUC が 25%減少;リトナビル
・本剤の全身クリアランスが約 2.5 倍増加し、AUC が約 1/2 減少;リファンピシン
・血中フェニトイン濃度が約 1/2 に減少;フェニトイン
・サニルブジンの効果が減弱;サニルブジン
・in vitro において本剤の効果が減弱;リバビリン
・本剤の AUC が 33%上昇;atovaquone
主な副作用
再生不良性貧血、赤芽球癆、汎血球減少、貧血、白血球減少、好中球減少、血小
板減少、うっ血性心不全、乳酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂
肪肝)、てんかん様発作、膵炎、食欲不振、腹痛、嘔気、頭痛など
210 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) ジダノシン(didanosine)(ddI)
商 品 名
ヴァイデックス EC
販売会社
ブリストル・マイヤーズ
(承認年月) (2001 年3月)
規格単位
1カプセル中 125mg
1カプセル中 200mg
用法・用量
通常成人には、ジダノシンとして以下の用量を1日1回食間に経口投与する。
体重 60kg 以上:400mg 体重 60kg 未満:250mg
警 告
本剤の投与により膵炎があらわれることがあるので、血清アミラーゼ、血清リパー
ゼ、トリグリセライド等の生化学的検査を行うなど,患者の状態を十分に観察す
ること。
禁 忌
・膵炎の患者[膵炎を増悪させることがある。]
・本剤に対する過敏症の既往歴のある患者
注 意
・膵炎の既往歴のある患者では再発することがある
・末梢神経障害又はその既往歴のある患者では症状を増悪または再発させること
があるので、減量、休薬もしくは中止を考慮すること
・腎障害のある患者では、本剤の消失半減期が延長し、副作用が強くあらわれる
おそれがあるので、投与量を調節するなど慎重に投与すること(重篤な腎障害
(CCr < 10mL/ 分)のある体重 60kg 未満の患者には本剤の投与は適さないた
め他の治療法を用いること)
・肝障害のある患者では肝障害を増強することがある
相互作用
【原則禁忌】
(併用禁忌) 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
(併用注意) 【併用注意】
・副作用を増強することがある;ペンタミジン、アルコール、スルホンアミド、
ザルシタビン、抗結核抗生物質、H2 受容体拮抗剤、副腎皮質ステロイド剤、サ
リドマイドなど
・本剤の AUC が増加し、副作用を増強する可能性がある;ガンシクロビル、アロ
プリノール
・本剤のリン酸化を促進し、副作用を増強する可能性がある;リバビリン
・本剤の AUC と Cmax が上昇し、副作用が増強する可能性がある;テノホビル
ジソプロキシルフマル酸塩
【その他の注意】
・本剤とヒドロキシウレアが併用された HIV 感染患者で、死亡を含む重篤な膵炎、
肝障害及び高度の末梢神経障害が発現したとの報告がある
主な副作用
膵炎、乳酸アシドーシス、肝障害、門脈圧亢進症(非肝硬変性も含む)網膜色素脱失・
視神経炎、発作・痙攣,錯乱、ミオパシー、低換気症、アナフィラキシー様反応、
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、急性腎不全、汎血球減少症、横
紋筋融解症、脳血管障害・脳出血、下痢、悪心、血清アミラーゼ上昇、体脂肪の
再分布/蓄積など
抗ウイルス薬 211
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) ラミブジン(lamivudine:3TC)
商 品 名
エピビル
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (150mg(1997 年2月)、300mg(2003 年9月))
規格単位
1錠中 150mg
1錠中 300mg
用法・用量
1日量 300mg を1日1回(300mg ×1)又は2回(150mg ×2)
警 告
・膵炎を発症する可能性のある小児の患者(膵炎の既往歴のある小児、膵炎を発
症させることが知られている薬剤との併用療法を受けている小児)では、本剤
の適用を考える場合には、他に十分な効果の認められる治療法がない場合にの
み十分注意して行うこと。これらの患者で膵炎を疑わせる重度の腹痛、悪心・
嘔吐等又は血清アミラーゼ、血清リパーゼ、トリグリセライド等の上昇があら
われた場合は、本剤の投与を直ちに中止すること。
・B型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B型慢性肝炎
が再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意するこ
と。特に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・膵炎を発症する可能性がある小児の患者
・腎機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するので、減量するかまたは投
与間隔を延長すること
・高齢者
・妊婦・授乳婦
・小児等
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・本剤の AUC が 43%増加し、全身クリアランスが 30%、腎クリアランスが
(併用注意)
35%減少したとの報告がある;スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤
・本剤とザルシタビン両剤の効果が減弱;ザルシタビン
主な副作用
赤芽球癆、汎血球減少、貧血、白血球減少、好中球減少、血小板減少、膵炎、乳
酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)、横紋筋融解症、ニュー
ロパシー、錯乱、痙攣、心不全、下痢、嘔気、腹痛、嘔吐、食欲不振、体脂肪の
再分布/蓄積、肝機能検査値異常、末梢神経障害、血中尿酸値上昇、高乳酸塩血症、
発疹、トリグリセライド上昇・血清コレステロール上昇、血糖値上昇など
212 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) サニルブジン(sanilvudine)、別名スタブジン(stavudine)(d4T)
商 品 名
ゼリット
販売会社
ブリストル・マイヤーズ
(承認年月) (1997 年7月)
規格単位
1カプセル中 15mg
1カプセル中 20mg
用法・用量
成人:以下の量を1日2回 12 時間毎
体重 60kg 以上:1回 40mg 体重 60kg 未満:1回 30mg
投与に際しては、必ず他の抗 HIV 薬と併用すること。
警 告
・本剤の投与を受けた患者で、急性の四肢の筋脱力、腱反射消失、歩行困難、呼
吸困難等のギラン・バレー症候群に類似した経過及び症状が認められており、
これらの多くの症例は乳酸アシドーシス発現例に認められ、死亡例の報告もあ
る。本剤投与中は、全身倦怠感、悪心・嘔吐、腹痛、急激な体重減少、頻呼吸、
呼吸困難等の乳酸アシドーシスが疑われる症状、あるいはギラン・バレー症候
群に類似した症状に注意し、異常が認められた場合には、投与を中止するなど
適切な処置を行うこと。
・末梢神経障害があらわれることがあるので、四肢のしびれ・刺痛感・疼痛等の
症状が認められた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
禁 忌
本剤に対し過敏症の既往歴のある患者
原則禁忌
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
注 意
・本剤は他に適切な治療法がない場合にのみ使用し、本剤の投与はできる限り短
期間とすること
・末梢神経障害またはその既往歴のある患者
・肝障害のある患者
・腎障害のある患者では半減期が延長し副作用が強くあらわれるおそれがあるの
で、投与量及び投与間隔を調節するなど慎重に投与すること
・膵炎またはその既往歴のある患者
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・本剤の効果が減弱するおそれ;ジドブジン
(併用注意)
主な副作用
乳酸アシドーシス、末梢神経障害、膵炎、急性腎不全、錯乱、失神、痙攣、皮膚
粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、肝不全、下痢、悪心・嘔吐、血清アミラー
ゼ上昇、LDH 上昇、糖尿病、高脂血症、高血糖、尿酸上昇、体脂肪の再分布/蓄
積(後天性リポジストロフィー、脂肪組織萎縮症、胸部、体幹部の脂肪増加、顔面・
末梢部の脂肪減少、クッシング様外見、野牛肩)、脂肪肝、AST 上昇、ALT 上昇、
Al-P 上昇、ビリルビン上昇、肝腫大、血清クレアチニン上昇、感染、悪寒・発熱、
頭痛、白血球減少、好中球減少、貧血、ヘモグロビン減少、血小板減少、大赤血球症、
咳など
抗ウイルス薬 213
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) ジドブジン(zidovudine)
・ラミブジン、別名:アジドチミジン(azidothymidine)
(AZT・3TC)
商 品 名
コンビビル配合錠
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (1999 年6月)
規格単位
1錠中(ジドブジン 300mg、ラミブジン 150mg)
用法・用量
1回1錠(ジドブジン 300mg、ラミブジン 150mg)を1日2回
警 告
・本剤の有効成分の一つであるジドブジンにより、骨髄抑制があらわれるので、
頻回に血液学的検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。
・B型慢性肝炎を合併している患者では、ラミブジンの投与中止により、B型慢
性肝炎が再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意
すること。特に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
・好中球数 750/mm3 未満又はヘモグロビン値が 7.5g/dL 未満の患者
・本剤に対する過敏症の既往歴のある患者
・イブプロフェン投与中の患者[出血傾向が増強したとの報告がある ]
注 意
・好中球数 1000/mm3 未満またはヘモグロビン値が 9.5g/dL 未満の患者では、
好中球数、ヘモグロビン値がさらに減少することがある
・ビタミン B12 欠乏患者では貧血が発現することがある
・膵炎を発症する可能性のある患者
・肝機能障害のある患者では、ジドブジンの高い血中濃度が持続するおそれがある
・高齢者
・妊婦・妊娠している可能性のある婦人
【併用禁忌】
相互作用
(併用禁忌) ・本ジドブジンと併用した場合、血友病患者において出血傾向が増強することが
ある;イブプロフェン
(併用注意)
【併用注意】
・ジドブジンの毒性作用が増強されることがある;ペンタミジン、ピリメタミン、
スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤、フルシトシン、ガンシクロビル、
インターフェロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ドキソルビシン
・ジドブジンの全身クリアランスが約 1/3 に減少し、半減期が約 1.5 倍延長;プロ
ベネシド
・ジドブジンの最高血中濃度が 84%上昇;フルコナゾール、ホスフルコナゾール
・ジドブジンの最高血中濃度が 27%減少し、AUC が 25%減少;リトナビル
・ジドブジンの全身クリアランスが約 2.5 倍増加し、AUC が約 1/2 減少;リファ
ンピシン
・血中フェニトイン濃度が約 1/2 に減少、または上昇するとの報告;フェニトイン
・サニルブジンの効果が減弱;サニルブジン
・in vitro において本剤の効果が減弱;リバビリン
・ジドブジンの AUC が 33%上昇;atovaquone
・ラミブジンの AUC が 43%増加し、全身クリアランスが 30%、腎クリアランス
が 35%減少;スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤
・ラミブジンとザルシタビン両剤の効果が減弱;ザルシタビン
主な副作用
再生不良性貧血、赤芽球癆、汎血球減少、貧血、白血球減少、好中球減少、血小板減少、
乳酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)
、
膵炎、
横紋筋融解症、
ニューロパシー、錯乱、痙攣、てんかん様発作、心不全、平均赤血球容積(MCV)
増加、嘔気、頭痛、倦怠感・疲労、肝機能検査値異常、高血糖、重炭酸塩低下、
CK 上昇、トリグリセライド上昇など
214 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) アバカビル硫酸塩錠(abacabir sulfate)(ABC)
商 品 名
ザイアジェン
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (1999 年9月)
規格単位
1錠中アバカビルとして 300mg
用法・用量
他の抗 HIV 薬と併用して、1回 600mg を1日1回、または1回 300mg を1日2回
警 告
・過敏症:海外の臨床試験において、本剤投与患者の約5%に過敏症の発現を認
めており、まれに致死的となることが示されている。本剤による過敏症は、通常、
本剤による治療開始6週以内(中央値 11 日)に発現するが、その後も継続して
観察を十分に行うこと。
・皮疹、発熱、胃腸症状(嘔気、嘔吐、下痢、腹痛等)、疲労感、倦怠感、呼吸器
症状(呼吸困難、咽頭痛、咳等)等、このような症状が発現した場合は、直ち
に担当医に報告させ、本剤による過敏症が疑われたときは本剤の投与を直ちに
中止すること。過敏症が発現した場合には、決してアバカビル製剤(本剤又は
エプジコム錠)を再投与しないこと。
・呼吸器疾患(肺炎、気管支炎、咽頭炎)、インフルエンザ様症候群、胃腸炎、又
は併用薬剤による副作用と考えられる症状が発現した場合あるいは胸部 X 線像
異常(主に浸潤影を呈し、限局する場合もある)が認められた場合でも、本剤
による過敏症の可能性を考慮し、過敏症が否定できない場合は本剤の投与を直
ちに中止し、決して再投与しないこと。
・患者に過敏症について必ず説明し、過敏症を注意するカードを常に携帯するよ
う指示すること。また、過敏症を発症した患者にはアバカビル製剤(本剤又は
エプジコム配合錠)を二度と服用しないよう十分指導すること
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝障害患者
注 意
・肝機能障害患者
・高齢者
・妊婦・妊娠している可能性のある婦人
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・本剤の代謝はエタノールによる影響を受ける。本剤の AUC が約 41%増加した
(併用注意)
が、エタノールの代謝は影響を受けなかったとの報告あり。本剤の安全性の観
点から、臨床的に重要な相互作用とは考えられていない。
・methadone の ク リ ア ラ ン ス が 22 % 増 加 し た こ と か ら、 併 用 す る 際 に は
metahdone の増量が必要となる場合があると考えられる。なお、アバカビルの
血中動態は臨床的意義のある影響を受けなかった。
主な副作用
過敏症(皮疹、多形紅斑、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、口腔潰瘍、呼吸困難、咳、咽頭痛、
急性呼吸促迫症候群、呼吸不全、頭痛、感覚異常、リンパ球減少、肝機能検査値異常、
肝不全、筋痛、筋変性、関節痛、CK 上昇、クレアチニン上昇、腎不全、結膜炎、発熱、
嗜眠、倦怠感、疲労感、浮腫、リンパ節腫脹、血圧低下、粘膜障害、アラフィラキシー)
、
膵炎、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)
、中毒性表皮壊死症(Lyell 症
候群)
、乳酸アシドーシスおよび脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)など
抗ウイルス薬 215
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) アバカビル硫酸塩(abacavir sulfate:ABC)、ラミブジン(lamivudine:3TC)
商 品 名
エプジコム配合錠
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (2005 年1月)
規格単位
1錠中アバカビル 600mg、ラミブジン 300mg
用法・用量
1回1錠(ラミブジンとして 300mg、アバカビルとして 600mg)を1日1回
警 告
・過敏症:海外の臨床試験において、本剤投与患者の約5%に過敏症の発現を認
めており、まれに致死的となることが示されている。本剤による過敏症は、通常、
本剤による治療開始6週以内(中央値 11 日)に発現するが、その後も継続して
観察を十分に行うこと。
・皮疹、発熱、胃腸症状(嘔気、嘔吐、下痢、腹痛等)、疲労感、けん怠感、呼吸
器症状(呼吸困難、咽頭痛、咳等)等このような症状が発現した場合は、直ち
に担当医に報告させ、本剤による過敏症が疑われたときは本剤の投与を直ちに
中止すること。過敏症が発現した場合には、決してアバカビル製剤(本剤又は
エプジコム錠)を再投与しないこと。
・呼吸器疾患(肺炎、気管支炎、咽頭炎)、インフルエンザ様症候群、胃腸炎、又
は併用薬剤による副作用と考えられる症状が発現した場合あるいは胸部 X 線像
異常(主に浸潤影を呈し、限局する場合もある)が認められた場合でも、本剤
による過敏症の可能性を考慮し、過敏症が否定できない場合は本剤の投与を直
ちに中止し、決して再投与しないこと。
・患者に過敏症について必ず説明し、過敏症を注意するカードを常に携帯するよ
う指示すること。
・B型慢性肝炎を合併している患者では、ラミブジンの投与中止により、B型慢
性肝炎が再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意
すること。
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝障害患者
注 意
・膵炎を発症する可能性のある患者
・肝障害患者
・高齢者
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
相互作用
(併用禁忌)
(併用注意)
・ラミブジンの AUC が 43%増加し、全身クリアランスが 30%・腎クリアランス
が 35%減少したとの報告がある;スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤
・両剤の効果が減弱するとの報告がある;ザルシタビン
・アバカビルの AUC が増加したが、エタノールの代謝は影響を受けなかったとの
報告がある
・methadone の ク リ ア ラ ン ス が 22 % 増 加 し た こ と か ら、 併 用 す る 際 に は
metahdone の増量が必要となる場合があると考えられる。なお、アバカビルの
血中動態は臨床的意義のある影響を受けなかった。
主な副作用
過敏症、赤芽球癆、汎血球減少、貧血、白血球減少、好中球減少、血小板減少、
膵炎、乳酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)、横紋筋融解症、
ニューロパシー、錯乱、痙攣、心不全、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、
中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)、下痢、嘔気、腹痛、嘔吐、食欲不振、体脂肪
の再分布/蓄積、肝機能検査値異常、末梢神経障害、血中尿酸上昇、高乳酸塩血症、
発疹、トリグリセライド上昇・血清コレステロール上昇、血糖値上昇など
216 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(Tenofovir Disoproxil Fumarate:TDF)
商 品 名
ビリアード
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (2004 年3月)
規格単位
1錠中 300mg
用法・用量
1回 300mg(テノホビルジソプロキシルとして 245mg)を1日1回
腎機能障害のある患者では本剤の血中濃度が上昇するので、腎機能の低下に応じ
て、次の投与方法を目安とする(外国人における薬物動態試験成績による)。
クレアチニン
クリアランス(CLcr)
投与方法
50mL/min 以上
本剤1錠を1日1回投与
30~49mL/min
本剤1錠を2日間に1回投与
10~29mL/min
本剤1錠を1週間に2回投与
血液透析の患者
本剤1錠を1週間に1回投与注)
又は累積約 12 時間の透析終了後に本剤1錠を投与
注)血液透析実施後
CLcr が 10mL/min 未満で、透析を行っていない患者における薬物動態は検討
されていない。
警 告
B型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B型慢性肝炎が
再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意すること。
特に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・腎障害のある患者(中等度及び重篤な腎機能障害のある患者では、本剤の血中
濃度が上昇する)
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・併用剤による有害事象を増強するおそれ、併用剤の減量考慮示唆;ジダノシン
(併用注意) ・併用剤の治療効果が減弱するおそれ、また、本剤による有害事象を増強するお
それ;アタザナビル硫酸塩
・本剤による有害事象を増強するおそれ;ロピナビル/リトナビル
・併用剤又は本剤による有害事象を増強するおそれ;アシクロビル、バラシクロ
ビル塩酸塩、ガンシクロビル、バルカンシクロビル塩酸塩
主な副作用
腎不全又は重度の腎機能障害(腎機能不全、腎不全、急性腎不全、近位腎尿細管
機能障害、ファンコニー症候群、急性腎尿細管壊死、腎性尿崩症又は腎炎等)、膵炎、
乳酸アシドーシス、悪心、下痢、無力症、疼痛、頭痛、腹痛、嘔吐、鼓腸、消化不良、
錯感覚、浮動性めまい、発疹、食欲不振、体重減少、後天性リポジストロフィー、
骨障害、CK 上昇、血中トリグリセリド増加、血中アミラーゼ増加、AST 増加、
ALT 増加、好中球数減少、尿糖、血中ブドウ糖増加など
抗ウイルス薬 217
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) エムトリシタビン(emtricitabine:FTC)
商 品 名
エムトリバ
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (2005 年3月)
規格単位
1カプセル中 200mg
用法・用量
1回 200mg を1日1回
腎機能障害のある患者では本剤の血中濃度が上昇するので、腎機能の低下に応じ
て、次の投与方法を目安とする(外国人における薬物動態試験成績による)。
クレアチニン
クリアランス(CLcr)
投与方法
50mL/min 以上
本剤1カプセルを1日1回投与
30~49mL/min
本剤1カプセルを2日間に1回投与
15~29mL/min
本剤1カプセルを3日間に1回投与
15mL/min 未満
本剤1カプセルを4日間に1回投与
血液透析の患者
本剤1カプセルを4日間に1回投与
透析日に投与する場合は、透析後投与
警 告
B型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B型慢性肝炎が
再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意すること。
特に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
腎障害のある患者(中等度及び重篤な腎機能障害のある患者では、本剤の血中濃
度が上昇する)
相互作用
(併用禁忌)
(併用注意)
主な副作用
乳酸アシドーシス、下痢、悪心、腹痛、消化不良、嘔吐、無力症、疼痛、浮動性
めまい、頭痛、不眠症、異常な夢、錯感覚、発疹、高脂血症、AST 増加、ALT 増加、
血中アミラーゼ増加、CK 増加、白血球減少症など
218 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) エムトリシタビン(emtricitabine:FTC)、テノホビル ジソプロキシルフマル酸
塩(Tenofovir Disoproxil Fumarate:TDF)
商 品 名
ツルバダ配合錠
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (2005 年3月)
規格単位
エムトリシタビン 200mg、フマル酸テノホビル ジソプロキシル 300mg
用法・用量
1回1錠(エムトリシタビンとして 200mg 及びフマル酸テノホビル ジソプロキ
シルとして 300mg を含有)を1日1回
腎機能障害のある患者では、エムトリシタビン製剤及びテノホビル製剤の薬物動
態試験においてエムトリシタビンとテノホビルの血中濃度が上昇したとの報告が
あるので、腎機能の低下に応じて、次の投与方法を目安とする(外国人における
薬物動態試験成績による)。
クレアチニン
クリアランス(CLcr)
投与方法
50mL/min 以上
本剤1錠を1日1回投与
30~49mL/min
本剤1を2日間に1回投与
30mL/min 未満
又は血液透析患者
本剤は投与せず、エムトリシタビン製剤及びテノホ
ビル製剤により、個別に用法・用量の調節を行う
警 告
B型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B型慢性肝炎が
再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意すること。
特に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
腎障害のある患者(中等度及び重篤な腎機能障害のある患者では、本剤の血中濃
度が上昇する
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・併用剤による有害事象を増強するおそれ、併用剤の減量考慮示唆;ジダノシン
(併用注意) ・併用剤の治療効果が減弱するおそれ、また、本剤による有害事象を増強するお
それ;アタザナビル硫酸塩
・本剤による有害事象を増強するおそれ;ロピナビル/リトナビル
・併用剤又は本剤による有害事象を増強するおそれ;アシクロビル、バラシクロ
ビル、ガンシクロビル、バルカンシクロビル
主な副作用
腎不全又は重度の腎機能障害(腎機能不全、腎不全、急性腎不全、近位腎尿細管
機能障害、ファンコニー症候群、急性腎尿細管壊死、腎性尿崩症又は腎炎等)、膵炎、
乳酸アシドーシス、悪心、下痢、疲労、頭痛、皮膚色素過剰、血中アミラーゼ増加、
CK 増加、血中トリグリセリド増加、AST 増加、好中球数減少、ALT 増加、血尿
など
抗ウイルス薬 219
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名
(略号) ネビラピン(nevirapine:NVP)
商 品 名
ビラミューン
販売会社
日本ベーリンガーインゲルハイム
(承認年月) (1998 年 11 月)
規格単位
1錠中 200mg
用法・用量
1日1回 200mg を 14 日間。その後、維持量として1日 400mg を2回に分服
警 告
・中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、
過敏症症候群を含め、重篤で致死的な皮膚障害が発現することがある
・肝機能障害:本剤の投与により、肝不全などの重篤で致死的な肝機能障害が発
現することがある
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者、本剤の投与により重篤な発疹、又
は全身症状を伴う発疹が発現した患者、重篤な肝機能障害のある患者、本剤の投
与により肝機能障害が発現した患者、ケトコナゾール(経口剤:国内未発売)を
投与中の患者、経口避妊薬を投与中の患者(避妊を目的とするホルモン療法も含む)
注 意
・肝機能障害又はその既往歴のある患者
・腎障害又はその既往歴のある患者
・HIV プロテアーゼ阻害薬を投与中の患者
・CD4 値 が 高 く( 女 性;250/mm3 以 上、 男 性;400/mm3 以 上 )、 血 漿 中 に
HIV-1RNA が検出される(概ね 50copies/mL 以上)患者あるいは抗レトロウ
イルス剤による治療経験がない患者
・女性の患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
・小児等
・高齢者
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・次の薬剤の血中濃度が低下し、本剤の血中濃度が上昇;ケトコナゾール(経口剤;
国内未発売)
(併用注意)
・本剤が経口避妊薬の血中濃度を低下させるおそれがある;経口避妊薬(避妊を
目的とするホルモン療法も含む)
【併用注意】
・併用剤の血中濃度が低下;HIV プロテアーゼ阻害薬(インジナビル、サキナビル、
リトナビル、ホスアンプレナビル)
・本剤の定常状態における最低血中濃度が上昇;CYP3A 酵素阻害剤(シメチジン、
マクロライド系抗生物質、イトラコナゾール)
・リファンピシンとの併用で定常状態における本剤の、リファブチンとの併用で
定常状態における併用薬剤の薬物動態が変化する;CYP3A 酵素誘導剤(リファ
ンピシン、リファブチン)
・本剤の代謝が促進され血中濃度が低下するおそれ;セイヨウオトギリソウ含有食品
・併用薬剤の血中濃度又は本剤の血中濃度が変動するおそれ;他の CYP3A 酵素
で代謝を受ける薬剤
・血液凝固時間が変化することがある;ワルファリン
主な副作用
中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、
過敏症症候群、肝炎、肝機能障害、黄疸、肝不全、顆粒球減少、うつ病、幻覚、錯乱、
脱水症、心筋梗塞、出血性食道潰瘍、全身痙攣、髄膜炎、アナフィラキシー様症状、
嘔気、発疹、班状丘疹性皮疹、発熱など
220 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名
(略号) エファビレンツ(efavirenz:EFV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
ストックリン
MSD
錠剤(2008 年4月)
規格単位
1錠中 200mg
600mg
用法・用量
600mg を1日1回
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・トリアゾラム、ミダゾラム、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン、ジヒド
ロエルゴタミンメシル酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩及びエルゴメ
トリンマレイン酸塩を投与中の患者
・ボリコナゾールを投与中の患者
注 意
・肝障害のある患者
・B型、C型肝炎感染の既往のある患者あるいはその疑いのある患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) (併用禁忌)
(併用注意) ・次の薬剤の代謝が抑制され、重篤または生命に危険を及ぼす可能性;トリアゾ
ラム、ミダゾラム、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン、ジヒドロエルゴ
タミンメシル酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、エルゴメトリンマレ
イン酸塩、ボリコナゾール、
(併用注意)
・併用薬剤の AUC 及び Cmax が減少;インジナビル
・併用時高頻度の臨床的有害事象及び臨床検査値異常が;リトナビル
・併用剤の AUC 及び Cmax が減少。併用するプロテアーゼ阻害剤がサキナビル
のみの場合、本剤との併用は推奨されない;サキナビル
・併用剤の AUC 及び Cmax が減少。本剤の用量を増量;リファンピシン類
・本剤が併用剤の薬物動態に有意な影響を及ぼす;クラリスロマイシン
・併用剤との相互作用の可能性は十分に検討されていない;経口避妊薬
・本剤の代謝が促進され血中濃度が低下;セイヨウオトギリソウ含有食品
・併用剤の AUC、Cmin が減少;ホスアンプレナビル
・併用剤の曝露量が減少;アタザナビル
・併用剤の AUC、Cmax が減少;アトルバスタチン、プラバスタチン、シンバス
タチン、マラビロク
・本剤と併用剤の AUC、Cmax 及び Cmin が減少;カルバマゼピン
・併用剤の AUC、Cmax 及び Cmin が減少;イトラコナゾール、ジルチアゼム
主な副作用
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、多形紅斑、肝不全、頭痛、インフ
ルエンザ様症候群、疼痛、嘔気、嘔吐、下痢、消化不良、めまい、不眠、集中力障害、
疲労、発疹、斑状丘疹性皮疹、紅斑など
抗ウイルス薬 221
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名
(略号) メシル酸デラビルジン(delavirdinemesilate:DLV)
商 品 名
レスクリプター
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (2000 年2月)
規格単位
1錠中 200mg
用法・用量
1回 400mg を1日3回
警 告
・本剤は他の抗 HIV 薬との併用で HIV-1 感染症の治療に用いられるが、治療を実施
する根拠がある場合に限られる。臨床試験におけるマーカーの変動に基づいて
適応をこのように設定した。本剤+ジダノシンの併用投与とジダノシン単独投
与を比較した治験において、生存状況又は AIDS に特有の臨床事象の発生率に本
剤による臨床効果が認められなかった。
・本剤を単独投与すると、急速に耐性ウイルスが出現する。したがって、本剤は
必ず他の抗 HIV 薬と併用投与すること。
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
・リファンピシン、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴタミン酒石酸塩、
ミダゾラムを投与中の患者
注 意
・肝機能障害のある患者では、高い血中濃度が持続するおそれがある
・高齢者
・小児等
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・本剤の AUC が約 100%低下する;リファンピシン(リファジン、リマクタン、
(併用注意)
アブテシン等)
・併用剤の血中濃度が著しく上昇し、重篤あるいは生命に危険を及ぼすような事
象が起こる可能性;ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩(ジヒデルゴット)、エル
ゴタミン酒石酸塩(カフェルゴット、クリアミン)、ミダゾラム(ドルミカム)
【併用注意】
・併用剤の血中濃度が上昇し、本剤の血中濃度が低下。安全性、有効性及び薬物
動態に基づく併用投与時の投与量の目安は確立されていない;HIV プロテアー
ゼ阻害剤(アンプレナビル、ネルフィナビル)
・併用剤の血中濃度が上昇;インジナビル
・併用剤の血中濃度が上昇。安全性、有効性及び薬物動態に基づく併用投与時の
投与量の目安は確立されていない;リトナビル
・ロピナビル・リトナビルの血中濃度が上昇するおそれ。安全性、有効性及び薬
物動態に基づく併用投与時の投与量の目安は確立されていない;ロピナビル・
リトナビル
・併用剤の血中濃度が上昇。安全性、有効性薬物動態に基づく併用投与時の投与
量の目安は確立されていない;サキナビル
・併用剤の血中濃度が著しく上昇するので、併用剤を減量するなど用量に注意す
ること;クラリスロマイシン
222 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相互作用
(併用禁忌)
(併用注意)
・併用剤の血中濃度が著しく上昇するおそれがあるので、併用剤を減量するなど
用量に注意すること;ジアフェニルスルホン、エルゴメトリンマレイン酸塩、
メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、ジヒドロエルゴトキシンメシル酸塩、ア
ルプラゾラム、トリアゾラム、抗不整脈薬(キニジン等)、カルシウム拮抗剤(ジ
ヒドロピリジン、ニフェジピン)、アンフェタミン系製剤(メタンフェタミン)
・併用剤の血中濃度が著しく上昇するおそれ。INR のモニタリングを行いながら、
併用剤を減量するなど用量に注意すること;ワルファリン
・併用剤の血中濃度を上昇させるおそれ;シルデナフィル
・併用剤及び本剤の血中濃度が上昇するおそれ。併用剤の血中濃度が低下するお
それもある;ボリコナゾール
・本剤の血中濃度が著しく低下し、併用剤の血中濃度が著しく上昇する;リファ
ブチン
・併用剤は本剤の血中濃度を著しく下げるおそれ;抗痙攣剤(カルバマゼピン、フェ
ノバルビタール、フェニトイン)
・本剤の作用が減弱するおそれ。1時間以上の間隔をあけて投与すること;アル
ミニウム又はマグネシウムを含有する制酸剤
・本剤の作用が減弱するおそれ。本剤との長期併用投与は推奨できない;H2 受容
体拮抗剤(シメチジン、ファモチジン、ニザチジン、ラニチジン)、プロトンポ
ンプ阻害剤
・両剤の AUC が約 20%減少するため、両剤の投与間隔は1時間以上あけること;
ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(ジダノシン)
・本剤の血中濃度が上昇;フルオキセチン(国内未発売)、ケトコナゾール(経口
剤国内未発売)
・本剤の代謝が促進され血中濃度が低下するおそれがあるので、本剤投与時はセ
イヨウオトギリソウ含有食品を摂取しないよう注意すること;セイヨウオトギ
リソウ(セント・ジョーンズ・ワート含有食品)
主な副作用
スティーブンス・ジョンソン症候群、発疹、食道炎、胃腸出血、非特異性肝炎、膵炎、
貧血、好球減少、汎血球減少、血小板減少、錯乱、ニューロパシー、テタニー、嘔気、
下痢、嘔吐、頭痛、疲労、ALT 増加、AST 増加、班状丘疹状皮疹、瘙痒症など
抗ウイルス薬 223
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名
(略号) エトラビリン(Etravirine:ETR)
商 品 名
インテレンス
販売会社
ヤンセンファーマ
(承認年月) (2009 年1月)
規格単位
1錠中 100mg(錠剤)
用法・用量
通常、成人にはエトラビリンとして1回 200mg を1日2回食後に経口投与する。
投与に際しては、必ず他の抗 HIV 薬と併用すること。
警 告
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
高齢者
相互作用
(併用禁忌)
(併用注意)
・併用薬剤の血中濃度を低下させることがある;アミオダロン、ベプリジル、ジ
ソピラミド、フレカイニド、リドカイン(全身投与)、メキシレチン、プロパフェ
ノン、キニジン
・本剤の CYP3A4 誘導作用により、併用薬剤の代謝が促進される;シルデナフィ
ル、バルデナフィル、タダラフィル
・本剤の CYP2C19 阻害作用により、併用薬剤の代謝が阻害される;クロピドグ
レル
・併用薬剤の血中濃度を上昇させることがある;ジアゼパム、エチニルエストラ
ジオール、ノルエチステロン等、ジゴキシン
・本剤の血中濃度が低下し、本剤の効果が減弱することがある;カルバマゼピン、
フェノバルビタール、フェニトイン、セイヨウオトギリソウ(St. John's Wort、
セント・ジョーンズ・ワート)含有食品、リファンピシン、リファブチン、デ
キサメタゾン、ラニチジン
・本剤の血中濃度が上昇することがある;オメプラゾール、フルコナゾール
・相互の血中濃度に影響を及ぼすことがあるので、併用する場合には必要に応じ
て本剤又は併用薬剤の投与量を調節するなど注意すること;クラリスロマイシ
ン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ボリコナゾール、アトルバスタチン、
シンバスタチン、フルバスタチン、ワルファリン、シクロスポリン、タクロリ
ムス
主な副作用
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、肝炎、腎不全、急性腎不全、横紋
筋融解症、下痢、悪心、嘔吐、発疹、疲労、貧血、血小板減少、高トリグリセリ
ド血症、高コレステロール血症、食欲不振、高脂血症、糖尿病、異脂肪血症、不
眠症、不安、睡眠障害、頭痛、末梢性ニューロパシー、錯感覚、ニューロパシー、
傾眠、高血圧、腹痛、鼓腸、上部腹痛、腹部膨満感、胃炎、胃食道逆流性疾患、便秘、
口内乾燥、口内炎、寝汗、脂肪肥大症、皮膚乾燥、痒疹など
224 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) 硫酸インジナビルエタノール付加物(indinavir sulfate ethanolate:IDV)
商 品 名
クリキシバン
販売会社
MSD
(承認年月) (1997 年3月)
規格単位
1カプセル中インジナビルとして 200mg
用法・用量
1回 800mg を8時間毎、1日3回空腹時(食事1時間以上前又は食後2時間以降)
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・アミオダロン塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ピモジド、エ
ルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、メチル
エルゴメトリンマレイン酸塩及びエルゴメトリンマレイン酸塩を投与中の患者
・リファンピシンを投与中の患者、
・エレトリプタン臭化水素酸塩、アゼルニジピン、ブロナンセリン、シルデナフィ
ル(レバチオ)及びタダラフィル(アドシルカ)を投与中の患者
・アタザナビルを投与中の患者
・バルデナフィルを投与中の患者
注 意
・肝硬変による肝機能不全患者
・腎機能異常のある患者
・血友病及び著しい出血傾向を有する患者
・腎結石の発現防止のため、1.5L/ 日の水分を補給すること
・本剤は吸湿性があるため、専用の容器にて保存し、常時乾燥剤を入れておくこと
【併用禁忌】
相互作用
(併用禁忌) ・次の薬剤の代謝が抑制され、重篤な又は生命に危険を及ぼす可能性;アミオダ
ロン塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ピモジド、エルゴ
(併用注意)
タミン酒石酸塩・無水カフェイン、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、メチル
エルゴメトリンマレイン酸、エルゴメトリンマレイン酸塩
・本剤の代謝が促進され、血中濃度が 1/10 以下に低下する;リファンピシン
・次の薬剤の代謝が阻害され血中濃度が阻害され血中濃度が上昇する;エレトリ
プタン臭化水素酸塩、ブロナンセリン、シルデナフィル、タダラフィル
・本剤と併用剤ともに高ビリルビン血症が関連;アタザナビル
・併用剤の AUC 及び Cmax が単独投与と比較して増加し、t1/2 が延長する;バ
ルデナフィル
【併用注意】
・2時間以上の間隔あけて投与する;ジダノシン(カプセル剤を除く)
・本剤の血中濃度が上昇;イトラコナゾール、ミコナゾール、デラビルジン
・本剤の血中濃度が低下し併用剤の血中濃度が上昇;リファブチン
・本剤もしくは併用剤の血中濃度が上昇;HIV プロテアーゼ阻害剤(サキナビル、
リトナビル、ネルフィナビル)
・本剤の血中濃度が低下;デキサメタゾン、フェノバルビタール、フェニトイン、
カルバマゼピン、エファビレンツ、ネビラピン、エトラビリン
・本剤の代謝が促進され血中濃度が低下;セイヨウオトギリソウ含有食品
・併用剤の血中濃度が上昇;シルデナフィル(バイアグラ)
、タダラフィル(シアリス)
、カ
ルシウム拮抗剤(フェロジピン、ジルチアゼム、ベラパミル)
、トラゾドン塩酸塩、ジヒ
ドロエルゴトキシンメシル酸塩 シンバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン
主な副作用
腎石症、出血傾向、肝炎、肝不全、貧血、溶血性貧血、腎不全、水腎症、間質性腎炎、
腎盂腎炎、
アナフィラキシー様反応、
皮膚粘膜眼症候群
(Stevens-Johnson 症候群)
、
血糖値の上昇、糖尿病、膵炎、狭心症、心筋梗塞等の冠動脈疾患、乳酸アシドーシス、
白血球減少、脳梗塞、一過性脳虚血発作、嘔気、嘔吐、消化不良、高ビリルビン血症、
高脂血症、脱水、血尿、腎機能障害、紅斑、血管炎など
抗ウイルス薬 225
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) メシル酸サキナビル(saquinavirmesilate:SQV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
インビラーゼ
中外製薬
カプセル(1997 年9月) 錠剤(2006 年9月)
規格単位
1カプセル 200mg
用法・用量
1錠 500mg
サキナビルとして1回 1000mg を1日2回、リトナビルとして1回 100mg を1
日2回、同時に、食後2時間以内
警 告
禁 忌
・本剤又はリトナビル製剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝機能障害のある患者
・QT 延長のある患者
・低カリウム血症又は低マグネシウム血症のある患者
・ペースメーカーを装着していない完全房室ブロックの患者
・次の薬剤を投与中の患者:アミオダロン、フレカイニド、プロパフェノン、ベ
プリジル、キニジン、トラゾドン、ピモジド、エルゴタミン製剤、シンバスタ
チン、ミダゾラム、トリアゾラム、リファンピシン、バルデナフィル、アゼニ
ルジピン含有製剤
注 意
・血友病の患者及び著しい出血傾向を有する患者では突発性の皮下血腫や出血性
関節症が増加したとの報告
・中等度の肝機能障害のある患者では血中濃度が上昇するおそれ
・重度の腎機能障害のある患者
・重度の徐脈等の不整脈、心疾患(虚血性心疾患、心筋症等)のある患者[QT 延
長や心室性不整脈を起こすおそれ]
・高齢者
・本剤とリトナビルは食後2時間以内に同時に服用すること
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・重篤又は生命に危険を及ぼすような心血管系の副作用のおそれ;アミオダロン、
(併用注意)
フレカイニド、プロパフェノン、ベプリジル、キニジン、トラゾドン、ピモジド
・併用剤の血中濃度が増加し、急性麦角中毒を起こすおそれ;エルゴタミン製剤
・併用剤の血中濃度が増加し、横紋筋誘融解症等のミオパシーを起こすおそれ;
シンバスタチン
・併用剤の血中濃度が増加し、持続的又は過度な鎮静、呼吸抑制を起こすおそれ;
ミダゾラム、トリアゾラム
・併用剤が代謝酵素(CYP3A4)を誘導するため、本剤の AUC が減少したとの
報告がある;リファンピシン
・併用剤の血中濃度が増加するおそれ;バルデナフィル、アゼニルジピン含有製
剤
【併用注意】
・本剤の AUC 及び Cmax が増加;デラビルジン、アタザナビル、ロピナビル・
リトナビル配合剤、エリスロマイシン、オメプラゾール等
・本剤又は併用剤の AUC 及び Cmax が低下;エファビレンツ
226 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相互作用
(併用禁忌)
(併用注意)
・本剤の AUC が減少;ネビラビン
・本剤の AUC が増加;インジナビル、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フル
コナゾール、ミコナゾール、グレープフルーツジュース
・本剤及び併用剤の AUC が増加;ネルフィナビル
・本剤と併用剤の AUC が減少;ホスアンプレナビル
・併用剤の血中濃度が増加するおそれ;リドカイン、ジソピラミド、アミトリプ
チリン、イミプラミン、リファブチン、アルプラゾラム、クロラゼプ酸、フル
ラゼパム、ジアゼパム、フェロジピン、ニフェジピン、ニカルジピン、ジルチ
アゼム、ベラパミル、アムロジピン、ニソルジピン、アトルバスタチン、シク
ロスポリン、タクロリムス、CYP3A4 の基質となる薬剤(キニーネ、フェンタ
ニル、ミルタザピン、テムシロリムス等)、P 糖蛋白の基質となる薬剤(アジス
ロマイシン、ジゴキシン、ダビガトランなど)、シルデナフィル、タダラフィル
・併用剤の血中濃度が変化するおそれ;ワルファリン
・本剤の血中濃度を低下させるおそれ;フェニトイン、フェノバルビタール、カ
ルバマセピン、デキサメタゾン、ニンニク含有製品、セイヨウオトギリソウ
・本剤及び併用剤の AUC、Cmax が増加;クラリスロマイシン
・本剤の血中濃度が増加するおそれ:ストレプトグラミン系抗生物質(キヌプリ
スチン・ダルホプリスチン)
・低用量のリトナビルの使用により、併用剤の全身暴露症状が報告されている;
フルチカゾン、ブデソニド
・本剤(600mg)を食事とともにこの薬剤(150mg1 日2回)と併用した場合に、
食事のみの場合と比較して、AUC が 67%、Cmax が 74%増加したとの報告が
ある;ラニチジン
・併用剤の血中濃度が低下するおそれ;エチニルエストラジオール
主な副作用
自殺企図、錯乱、幻覚、痙攣、失調、多発性脊髄神経根炎、頭蓋内出血、脳出血、
脳血管発作、膵炎、腸管閉塞、腹水、重度の肝機能障害、黄疸、肝炎、門脈圧亢進、
硬化性胆管炎、高血糖、糖尿病、糖尿病の悪化、汎血球減少症、溶血性貧血、白
血球減少症、血小板減少症、好中球減少症、血栓性静脈炎、出血、末梢血管収縮、
進行性多巣性白質脳症、灰白髄炎、急性骨髄芽球性白血病、腫瘍、皮膚粘膜眼症
候群(Stevens-Johnson 症候群)、急性腎不全、腎結石症、チアノーゼ、喀血、無
力症、多発性関節炎、末梢性ニューロパシー、味覚異常、頭痛、下痢、悪心、嘔吐、
腹痛、鼓腸、上腹部痛、アミラーゼ増加、便秘、消化不良、腹部膨満、軟便、貧血、
皮膚乾燥、瘙痒、発疹、湿疹、ALP 増加、ALT 増加、高ビリルビン血症、AST
増加、リポジストロフィー、高トリグリセリド血症、食欲不振・減退、疲労、発熱、
体重減少など
抗ウイルス薬 227
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) リトナビル(ritonavir:RTV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
ノービア
アボットジャパン
錠剤(2011 年3月) リキッド(1998 年9月)
規格単位
1錠中 100mg
用法・用量
1mL 中 80mg(1瓶は 240mL)
投与初日は1回 300mg を1日2回食後
2、3日目は1回 400mg を1日2回食後
4日目は1回 500mg を1日2回食後
5日目以降は1回 600mg 1日2回食後
本剤の吸収に影響を与えるおそれがあるので、本剤を噛んだり砕いたりせずその
まま服用すること。
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・次の薬剤を投与中の患者:キニジン硫酸塩水和物、ベプリジル塩酸塩水和物、
フレカイニド酢酸塩、プロパフェノン塩酸塩、アミオダロン塩酸塩、ピモジド、
ピロキシカム、アンピロキシカム、エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴタ
ミンメシル酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイ
ン酸塩、エレトリプタン臭化水素酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、シルデ
ナフィルクエン酸塩(レバチオ)、タダラフィル(アドシルカ)、アゼルニジピン、
リファブチン、ブロナンセリン、ジアゼパム、クロラゼプ酸二カリウム、エス
タゾラム、フルラゼパム、フルラゼパム塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム、
ボリコナゾール
注 意
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・不整脈、血液障害、血管攣縮など重篤又は生命に危険を及ぼす可能性;
(併用注意) ・キニジン硫酸塩水和物、ベプリジル塩酸塩水和物、フレカイニド酢酸塩、プロ
パフェノン塩酸塩、アミオダロン塩酸塩、ピモジド、ピロキシカム、アンピロ
キシカム、エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴ
メトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、エレトリプタン
臭化水素酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、シルデナフィルクエン酸塩、タ
ダラフィル、アゼルニジピン、リファブチン、ブロナンセリン
・過度の鎮静や呼吸抑制の可能性;ジアゼパム、クロラゼプ酸二カリウム、エス
タゾラム、フルラゼパム、フルラゼパム塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム
・併用剤の血中濃度が低下したとの報告がある;ボリコナゾール
228 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・併用剤の血中濃度が上昇するおそれ;フェンタニル、フェンタニルクエン酸塩、
(併用注意)
リドカイン塩酸塩、リドカイン、エリスロマイシン、カルバマゼピン、イトラ
コナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、キニーネ、カルシウム拮抗剤、
タモキシフェンクエン酸塩、トレミフェンクエン酸塩、ブロモクリプチンメシ
ル酸塩、シンバスタチン、アトルバスタチンカルシウム水和物、ロバスタチン(国
内未発売)
、クラリスロマイシン、シクロスポリン、タクロリムス水和物、エベ
ロリムス、デキサメタゾン、シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル、ゲフィ
チニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、イリノテカン塩酸塩水和物、ビンカアルカ
ロイド系抗悪性腫瘍剤、アルプラゾラム、サルメテロールキシナホ酸塩、フル
チカゾンプロピオン酸エステル、ブデソニド、ロスバスタチンカルシウム、ロ
ペラミド塩酸、ジゴキシン、トラゾドン塩酸塩、インジナビル硫酸塩エタノー
ル付加物、ネルフィナビルメシル酸塩、その他の HIV プロテアーゼ阻害剤、マ
ラビロク
・併用剤の血中濃度に影響;ワルファリンカリウム
・併用剤の血中濃度低下のおそれ;テオフィリン、エチニルエストラジオール、
エストラジオール安息香酸エステル
・併用剤の Cmax 及び AUC 低下のおそれ;ジドブジン
・本剤の血中濃度上昇のおそれ;フルコナゾール、ホスフルコナゾール、キヌプ
リスチン・ダルホプリスチン、デラビルジン
・本剤の血中濃度減少のおそれ;リファンピシン、セイヨウオトギリソウ含有食品、
ネビラピン
・併用剤の Cmax 及び AUC 上昇;サキナビルメシル酸塩
・本剤の AUC 低下のおそれ;タバコ
・本剤及び併用剤の血中濃度上昇のおそれ;エファビレンツ
・アルコール反応を起こすおそれ;ジスルフィラム、ジアナミド、メトロニダゾー
ル等
・本剤の溶出性が低下;ジダノシン(腸溶性カプセル剤を除く)
主な副作用
錯乱、痙攣発作、脱水、高血糖、糖尿病、肝炎、肝不全、過敏症、出血傾向、悪
心、下痢、嘔吐、腹痛、消化不良、食欲不振、鼓腸、口渇、げっぷ、潰瘍性口内炎、
異常感覚、頭痛、めまい、傾眠、不眠、不安、口周囲感覚異常、味覚倒錯、知覚
過敏、無力症、発熱、疼痛、多汗、体重減少、肝機能検査異常、咽頭炎、咳、発疹、
そう痒、血管拡張、高脂血症、筋肉痛、斑状丘疹性皮疹など
抗ウイルス薬 229
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) ネルフィナビルメシル酸塩(nelfinavir mesilate:NFV)
商 品 名
ビラセプト
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/ 中外製薬、鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (1998 年3月)
規格単位
1錠中 250mg
用法・用量
1回 1250mg を1日2回、または1回 750mg を1日3回食後(必ず食後に服用)
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対して過敏症の既往歴がある患者
・テルフェナジン、
シサプリド、
トリアゾラム、
ミダゾラム、
アルプラゾラム、
ピモジド、
バッカク誘導体、アミオダロン及びキニジン硫酸塩水和物を投与中の患者
・リファンピシンを投与中の患者
・エレトリプタン臭化水素酸塩を投与中の患者
・エプレレノンを投与中の患者
注 意
・肝機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するおそれ
・血友病及び著しい出血傾向を有する患者
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・次の薬剤の代謝が抑制され、重篤または生命に危険を及ぼす可能性;テルフェ
(併用注意)
ナジン、シサプリド、トリアゾラム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ピモジド、バッ
カク誘導体、アミオダロン、キニジン硫酸塩水和物
・本剤の血中濃度が 20~30%に低下;リファンピシン
・エレトリプタンの血中濃度が上昇する可能性;エレトリプタン臭化水素酸塩
・エプレレノンの血中濃度が上昇する可能性;エプレレノン
【併用注意】
・本剤及び併用剤の血中濃度が上昇;インジナビル、サキナビル、ボリコナゾール
・本剤の血中濃度が上昇;リトナビル
・本剤の血中濃度が上昇、併用剤の血中濃度が変動;アンプレナビル
・本剤の血中濃度が上昇し併用剤の血中濃度が低下;デラビルジン
・本剤の血中濃度が低下;オメプラゾール、セイヨウオトギリソウ含有食品
・本剤の血中濃度が低下し、併用剤の血中濃度が上昇するため、併用剤を半量以
下に減量する;リファブチン
・併用剤の血中濃度が低下;エチニルエストラジオール又はノルエチステロンを
含む経口避妊薬
・本剤の血中濃度低下、併用剤の血中濃度が変動;フェノバルビタール、フェニ
トイン、カルバマゼピン
・併用剤の血中濃度が上昇する可能性;シルデナフィル、シンバスタチン、アト
ルバスタチン、タクロリムス、シクロスポリン、エベロリムス、フルチカゾン、
トラゾドン
・併用剤の血中濃度が約2倍に上昇との報告がある;アジスロマイシン
主な副作用
糖尿病、血糖値の上昇、出血傾向、下痢、嘔気、腹部膨満感、腹痛、嘔吐、鼓腸、
消化不良、食欲不振、後天性リポジストロフィー、頭痛、脱力感、眩暈、発疹、
瘙痒感、感覚異常など
230 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) ロピナビル・リトナビル(lopinavir・ritonavir:LPV・RTV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
カレトラ
アボット ジャパン
リキッド(2000 年 12 月) 錠剤(2006 年9月)
規格単位
1錠中ロピナビル 200mg リトナビル 50mg
用法・用量
(1瓶は 160mL)
1mL 中ロピナビル 80mg リトナビル 20mg
ロピナビル・リトナビルとして1回 400mg・100mg(2錠)を1日2回、又は
1回 800mg・200mg(4錠)を1日1回経口投与する
(錠剤は食事に関係なし、リキッドは食後に内服)
体重 40kg 以上の小児にはロピナビル・リトナビルとして1回 400mg・100mg(2
錠)を1日2回投与できる
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・次の薬剤を投与中の患者:ピモジド、エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴ
タミンメシル酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレ
イン酸塩、ミダゾラム、トリアゾラム、バルデナフィル塩酸塩水和物、シルデ
ナフィルクエン酸塩、タダラフィル、ブロナンセリン、アゼルニジピン、ボリ
コナゾール
注 意
・肝機能障害のある患者では高い血中濃度が持続素するおそれがある。また。B
型肝炎、C型肝炎、トランスアミナーゼの上昇を合併している患者では肝機能
障害を増悪させるおそれがある。
・血友病および著しい出血傾向を有する患者では突発性の出血性関節症をはじめ
とする出血事象の増加が報告されている
・器質的心疾患及び心伝導障害(房室ブロック等)のある患者、PR 間隔を延長さ
せる薬剤(ベラパミル塩酸塩、アタザナビル硫酸塩等)を使用中の患者〔本剤
は軽度の無症候性 PR 間隔の延長が認められている〕
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・不整脈のような重篤なまたは生命に危険を及ぼすような事象を起こすおそれ;
(併用注意)
ピモジド
・血管攣縮などの重篤なまたは生命に危険を及ぼすような事象を起こすおそれ;
エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴメトリンマ
レイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩
・過度の鎮静や呼吸抑制を起こすおそれ;ミダゾラム、トリアゾラム
・低血圧などの重篤な又は生命に影響を及ぼすような事象をおこすおそれ;バル
デナフィル塩酸塩水和物、シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル
・併用剤の血中濃度上昇;ブロナンセリン、アゼルニジピン
・リトナビルとの併用でボリコナゾールの血中濃度が低下したとの報告がある
抗ウイルス薬 231
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相互作用
(併用注意)
(併用禁忌) ・併用剤の血中濃度上昇のおそれ;シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル、
(併用注意)
シンバスタチン、アトルバスタチンカルシウム水和物、ロスバスタチンカルシ
ウム、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ジヒドロピリジン骨格を有する Ca
拮抗剤、リファブチン、サルメテロールキシナホ酸塩、ダサチニブ、ニロチニ
ブ、ビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍剤、クラリスロマイシン、シクロスポリン、
タクロリムス水和物、エベロリムス、トラゾドン塩酸塩、フルチカゾンプロピ
オン酸エステル、ブデソニド、フェンタニル、フェンタニルクエン酸塩、アミ
オダロン塩酸塩、ベプリジル塩酸塩水和物、リドカイン塩酸塩、キニジン硫酸
塩水和物、フレカイニド酢酸塩、プロパフェノン塩酸塩、ジゴキシン、テノホ
ビル、インジナビル、サキナビル、マラビロク
・併用剤の血中濃度低下のおそれ;エチニルエストラジオール、エストラジオー
ル安息香酸エステル、ジドブジン、アバカビル硫酸塩、ホスアンプレナビル
・併用剤の血中濃度に影響を与える可能性;ワルファリンカリウム
・併用剤の血中濃度上昇、本剤の血中濃度低下のおそれ;ネルフィナビル、アン
プレナビル
・本剤の血中濃度低下のおそれ;セイヨウオトギリソウ含有食品、リファンピシン、
カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、デキサメタゾン、ネビ
ラピン、エファビレンツ
・本剤の血中濃度上昇のおそれ;デラビルジン
・アルコール反応を起こすおそれ(リキッド服用時)
;ジスルフィラム、ジアナミド、
メトロニダゾール等
主な副作用
高血糖、糖尿病、膵炎、出血傾向、肝機能障害、肝炎、徐脈性不整脈、多形紅斑、
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、頭痛、下痢、嘔気、腹痛、嘔吐、
アミラーゼ上昇、鼓腸、肝機能検査異常、ビリルビン値上昇、血小板減少、好中
球減少、総コレステロール上昇、トリグリセライド上昇、ナトリウム低下、ナト
リウム上昇など
232 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) アタザナビル硫酸塩(Atazanavir Sulfate:ATV)
商 品 名
レイアタッツ
販売会社
ブリストル・マイヤーズ
(承認年月) (2003 年 12 月)
規格単位
1カプセル中 150mg
用法・用量
1カプセル中 200mg
通常、成人には以下の用法用量に従い食事中又は食直後に経口投与。投与に際し
ては必ず他の抗 HIV 薬と併用すること。
1.抗 HIV 薬による治療経験のない患者
・アタザナビルとして 300mg とリトナビルとして 100mg をそれぞれ1日1回
併用投与
・アタザナビルとして 400mg を1日1回投与
2.抗 HIV 薬による治療経験のある患者
・アタザナビルとして 300mg とリトナビルとして 100mg をそれぞれ1日1回
併用投与
警 告
禁 忌
注 意
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝障害のある患者
・次の薬剤を投与中の患者:リファンピシン、イリノテカン塩酸塩水和物、ミダ
ゾラム、トリアゾラム、ベプリジル塩酸塩水和物、エルゴタミン酒石酸塩、ジ
ヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴ
メトリンマレイン酸塩、シサプリド、ピモジド、シンバスタチン、ロバスタチ
ン(国内未発売)
、インジナビル硫酸塩エタノール付加物、バルデナフィル塩酸
塩水和物、ブロナンセリン、プロトンポンプ阻害剤、セイヨウオトギリソウ
【原則禁忌】
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
・心伝導障害(房室ブロック)のある患者
・軽度~中等度の肝障害のある患者
・血友病及び著しい出血傾向を有する患者
・高齢者
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・本剤の血中濃度が低下するおそれ;リファンピシン、プロトンポンプ阻害剤、
(併用注意)
セイヨウオトギリソウ
・併用薬剤の副作用を増強するおそれ;イリノテカン塩酸塩水和物
・過度の鎮静や呼吸抑制を起こすおそれ;ミダゾラム、トリアゾラム
・重篤な又は生命に危険を及ぼすような事象を起こすおそれ;ベプリジル塩酸塩水
和物、エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴメトリ
ンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、シサプリド、ピモジド
・有害事象が増強するおそれ;塩酸バルデナフィル水和物
・ミオパシー等が起こる可能性;シンバスタチン、ロバスタチン(国内未発売)
・併用での非抱合型高ビリルビン血症に関する試験が行われていない;インジナ
ビル硫酸塩エタノール付加物
抗ウイルス薬 233
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・併用剤の血中濃度が上昇するおそれ;アミオダロン、キニジン、リドカイン、
(併用注意)
三環系抗うつ薬、ワルファリン、ジルチアゼム、マラビロク、ダサチニブ水和
物
・本剤の血中濃度が低下し、併用剤の血中濃度上昇のおそれ;テノホビル、ネビ
ラピン
・本剤の血中濃度が低下するおそれ;エファビレンツ、ホスアンプレナビル、エ
トラビリン
・併用剤の血中濃度上昇のおそれ;サキナビル、リトナビル、フェロジピン、ニフェ
ジピン、ニカルジピン、ベラパミル、シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィ
ル、アトルバスタチン、ロスバスタチン、シクロスポリン、タクロリムス、テ
ムシロリムス、エチニルエストラジオール、ノルエチステロン又はノルゲスチ
メートを含む経口避妊薬、ブプレノルフィン塩酸塩、リファブチン、トラゾドン、
ケトコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ボセンタン水和物等
・本剤及び併用薬剤の血中濃度上昇のおそれ;クラリスロマイシン
・本剤の血中濃度が上昇するおそれ;リトナビル
・本剤の吸収が抑制される可能性がある;ジダノシン(緩衝剤が処方されている
錠剤)、制酸剤、緩衝作用を有する薬剤、H2 受容体拮抗剤
主な副作用
重度の肝機能障害、肝炎、糖尿病、糖尿病の悪化及び高血糖、出血傾向、QT 延長、
心室頻拍、房室ブロック、皮膚粘膜眼症候群、多型紅斑、中毒性皮疹、頭痛、疲労、
悪心、腹痛、嘔吐、下痢、消化不良、アミラーゼ上昇、リパーゼ上昇、黄疸・黄疸眼、
総ビリルビン上昇、ALT 上昇、AST 上昇、好中球減少、ヘモグロビン減少、CK
上昇、発疹など
234 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) ホスアンプレナビルカルシウム(Fosamprenavir Calcium Hydrate:FPV)
商 品 名
レクシヴァ
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (2005 年1月)
規格単位
1錠中 700mg
用法・用量
 抗 HIV 薬の治療経験がない患者
・ホスアンプレナビル1回 700mg とリトナビル1回 100mg をそれぞれ1日2
回併用投与
・ホスアンプレナビル1回 1400mg とリトナビル1回 100mg 又は 200mg を
それぞれ1日1回併用投与
・ホスアンプレナビル 1 回 1400mg を1日2回投与
 HIV プロテアーゼ阻害剤の投与経験がある患者
ホスアンプレナビル1回 700mg とリトナビル1回 100mg をそれぞれ1日2
回併用投与
警 告
禁 忌
・本剤の成分あるいはアンプレナビルに対して過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝障害患者
・肝代謝酵素チトクローム P450(CYP)3A4 で代謝される薬剤で治療域が狭い
薬剤(ベプリジル塩酸塩水和物、シサプリド、ピモジド、トリアゾラム、ミダ
ゾラム、エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン等)を投与中の患者
・バルデナフィル塩酸塩水和物を投与中の患者
・リファンピシンを投与中の患者
注 意
・肝機能障害のある患者
・血友病患者
・スルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者
・高齢者
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・併用剤の血中濃度が上昇し、不整脈の重篤な又は生命に危険を及ぼすような事
(併用注意)
象が起こる可能性がある:シサプリド、ピモジド
・併用剤の血中濃度が上昇し、生命に危険を及ぼす不整脈が起こる可能性がある;
ベプリジル塩酸塩水和物
・併用剤の血中濃度が上昇し、末梢血管攣縮、虚血等の重篤な又は生命に危険を
及ぼすような事象が起こる可能性がる;ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エ
ルゴタミン酒石酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマ
レイン酸塩
・併用剤の血中濃度が上昇し、過度の鎮静や呼吸抑制等の重篤な又は生命に危険
を及ぼすような事象が起こる可能性がある;ミダゾラム、トリアゾラム
・併用剤の血中濃度が上昇し、併用剤の関連する事象(低血圧、失神、視覚障害、
持続勃起症等)の発現が増加する可能性がある;バルデナフィル塩酸塩水和物
・アンプレナビルの Cmin 及び AUC を低下させるため、本剤の作用が減弱する;
リファンピシン
抗ウイルス薬 235
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・併用剤の AUC が 193%上昇;リファブチン
(併用注意) ・本剤の血中濃度が低下;CYP3A4 酵素誘導剤(フェノバルビタール、フェニト
イン、カルバマゼピン、エファビレンツ、ネビラピン)、ラルテグラビル
・併用剤の血中濃度が上昇;リドカイン、アミオダロン塩酸塩、キニジン硫酸塩
水和物、三環系抗うつ剤、シクロスポリン、タクロリムス、rapamycin、ワルファ
リン、カルシウム拮抗剤、シンバスタチン、アトルバスチン、lovastatin、ジア
ゼパム、フルラゼパム、アルプラゾラム、クロラゼプ酸二カリウム、ケトコナゾー
ル、イトラコナゾール、エリスロマイシン、クラリスロマイシン
・本剤及び併用剤の血中濃度が変化;HIV プロテアーゼ阻害剤(インジナビル、
サキナビル、ネルフィナビル、アタザナビル、ロピナビル・リトナビル、)、デ
ラビルジン
・併用剤の血中濃度が上昇し、併用剤に関する有害事象の危険性が増加する可能
性;シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル
・併用剤の血中濃度が低下;経口避妊薬(エチニルエストラジオール、ノルエチ
ステロン等)、パロキセチン塩酸塩水和物
・本剤の血中濃度が低下;セイヨウオトギリソウ含有食品、デキザメタゾン
主な副作用
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、高血糖、糖尿病、出血傾向、横紋
筋融解症、筋炎、筋痛、CK(CPK)上昇、発疹、瘙痒、頭痛、下痢、悪心、嘔吐、
腹痛、肝機能検査値異常、高脂血症、疲労など
236 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) ダルナビル エタノール付加物(Darunavir Ethanolate:DRV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
プリジスタ錠 300mg、プリジスタナイーブ錠 400mg
ヤンセンファーマ
プリジスタ錠 300mg(2007 年 11 月)、プリジスタナイーブ錠 400mg(2009 年
9月)
規格単位
1錠中 300mg
用法・用量
1錠中 400mg
プリジスタ錠 300mg
・通常、成人にはダルナビルとして1回 600mg とリトナビル1回 100mg をそれ
ぞれ1日2回食事中又は食直後に併用投与する。投与に際しては、必ず他の抗
HIV 薬と併用すること。
プリジスタナイーブ錠 400mg
・通常、成人にはダルナビルとして1回 800mg とリトナビル1回 100mg をそれ
ぞれ1日1回食事中又は食直後に併用投与する。投与に際しては、必ず他の抗
HIV 薬と併用すること。
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・トリアゾラム、ミダゾラム、ピモジド、エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン、
エルゴメトリン、メチルエルゴメトリン、バルデナフィル、ブロナンセリン、
シルデナフィル、タダラフィル、アゼルニジピンを投与中の患者
・低出生体重児、新生児、乳児、3歳未満の幼児
注 意
・肝障害のある患者
・血友病患者及び著しい出血傾向を有する患者
・高齢者
・スルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者
相互作用
【併用禁忌】
(併用禁忌) ・本剤及びリトナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、これらの薬剤の代
(併用注意)
謝が阻害される:トリアゾラム、ミダゾラム、ピモジド、エルゴタミン、ジヒ
ドロエルゴタミン、エルゴメトリン、メチルエルゴメトリン、バルデナフィル、
ブロナンセリン、シルデナフィル、タダラフィル、アゼルニジピン
【併用注意】
・これらの薬剤の肝薬物代謝酵素誘導作用により、本剤の肝代謝が促進される:
リファンピシン、セイヨウオトギリソウ含有食品、フェノバルビタール、フェ
ニトイン、デキサメタゾン
・本剤及びリトナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、これらの薬剤の代謝
が阻害される:リファブチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、プラバス
タチン、サルメテロール、シルデナフィル、タダラフィル、クラリスロマイシン、
カルバマゼピン、アミオダロン、ベプリジル、リドカイン(全身投与)、キニジ
ン、シクロスポリン、タクロリムス、Ca 拮抗剤(フェロジピン、ニフェジピン、
ニカルジピン等)、フルチカゾン、ボセンタン
・本剤及びリトナビルの P- 糖蛋白質阻害作用により、併用薬の血中濃度が上昇す
ることがある:ジゴキシン、コルヒチン
抗ウイルス薬 237
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相互作用
(併用禁忌)
(併用注意)
・リトナビルの肝薬物代謝酵素誘導作用により、これらの薬剤の肝代謝が促進さ
れる:経口避妊剤(エチニルエストラジオール、ノルエチステロン等)
・機序不明:セルトラリン、パロキセチン、ロスバスタチン
・本剤及びリトナビルとこれらの薬剤の CYP3A4 に対する阻害作用により、相互
に代謝が阻害される:イトラコナゾール、ケトコナゾール、ボリコナゾール
・本剤及びリトナビルの肝薬物代謝酵素に対する阻害作用により、血中濃度に変
化がおこることがある:ワルファリン
・リトナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、本剤の代謝が阻害される:リ
トナビル
・本剤及びリトナビルとこれらの薬剤の CYP3A4 に対する阻害作用により、血中
濃度に変化がおこることがある:ロピナビル / リトナビル、サキナビル
・本剤及びリトナビルとインジナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、相互
に代謝が阻害される:インジナビル
・リトナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、マラビロクの代謝が阻害され
る:マラビロク
主な副作用
中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑、肝機能障害、黄疸、急性膵炎、
過敏症、高トリグリセリド血症、食欲不振、高コレステロール血症、高脂血症、
糖尿病、高血糖、頭痛、下痢、嘔吐、悪心、腹痛、膵酵素増加、鼓腸、腹部膨満、
消化不良、肝酵素増加、発疹、そう痒症、体脂肪の再分布 / 蓄積、血管浮腫、筋肉痛、
疲労、無力症、白血球数減少、好中球数減少、好中球絶対数減少、リンパ球数減少、
部分トロンボプラスチン時間延長等
238 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
インテグラーゼ阻害薬(INI)
一般名
(略号) ラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium:RAL)
商 品 名
アイセントレス
販売会社
MSD
(承認年月) (2008 年6月)
規格単位
1錠中 400mg
用法・用量
通常、成人にはラルテグラビルとして 400mg を1日2回経口投与する。本剤は、
食事の有無にかかわらず投与できる。なお、投与に際しては、必ず他の抗 HIV 薬
と併用すること。
警 告
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・併用により本剤の血漿中濃度が低下する可能性がある(UGT1A1 の強力な誘導
(併用注意)
剤:リファンピシン等)
主な副作用
スティーブンス・ジョンソン症候群、横紋筋融解症、ミオパチー、過敏症、腎不全、
肝炎、胃炎、陰部ヘルペス、頭痛、AST(GOT)上昇、ALT(GPT)上昇、総
ビリルビン上昇、CK(CPK)上昇など
抗ウイルス薬 239
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
侵入阻害薬(CCR5 阻害薬)
一般名
(略号) マラビロク(Maraviroc:MVC)
商 品 名
シーエルセントリ
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (2009 年1月)
規格単位
1錠中 150mg
用法・用量
・通常、成人にはマラビロクとして1回 300mg を1日2回経口投与する。なお、
投与に際しては必ず他の抗 HIV 薬を併用し、併用薬に応じて適宜増減すること。
本剤は、食事の有無にかかわらず投与できる。
CYP3A 阻害剤又は CYP3A 誘導剤と併用する場合には、下表を参照し、本剤の
用量調整を行うこと。1回 300mg、1日2回を上回る用法・用量での有効性及び
安全性は確立していない(投与経験がない)
併用薬
本剤の用量
以下の強力な CYP3A 阻害剤(CYP3A 誘導剤の有無を問わない)
:
・プロテアーゼ阻害剤(tipranavir/ リトナビルを除く)
150mg
・デラビルジン
1日2回
・イトラコナゾール、ケトコナゾール、クラリスロマイシン
・その他の強力な CYP3A 阻害剤
(nefazodone、
テリスロマイシン等)
tipranavir/ リトナビル、ネビラピン、ラルテグラビル、あらゆ
る NRTI 及び enfuvirtide 等のその他の併用薬
300mg
1日2回
以下の強力な CYP3A 誘導剤
(強力な CYP3A 阻害剤の併用なし)
:
・エファビレンツ、エトラビリン
600mg
・リファンピシン
1日2回
・カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン
腎機能障害(CLcr < 80mL/min)があり、強力な CYP3A4 阻害剤を投与してい
る患者では、腎機能の低下に応じて、次の投与間隔及び投与量を目安に投与する
こと。ただし、これらの投与間隔の調節に対する有効性及び安全性は確立されて
いないため、患者の臨床症状等を十分に観察すること。
併用薬
クレアチニン クリアランス
< 80mL/min
強力な CYP3A4 阻害剤を併用しない時又は 投与間隔の調節は必要ない
tipranavir/ リトナビル併用時
(300mg を 12 時間毎)
240 抗ウイルス薬
ホスアンプレナビル / リトナビル併用時
150mg を 12 時間毎
強力な CYP3A4 阻害剤の併用時:サキナビ
ル / リトナビル併用時
ロピナビル / リトナビル、ダルナビル / リ
トナビル、アタザナビル / リトナビル、ケ
トコナゾール等
150mg を 24 時間毎
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
警 告
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・重篤な心疾患又はその既往歴のある患者
・肝機能障害のある患者又はB型・C型肝炎の患者
・腎機能障害(CLcr < 80mL/min)のある患者
・起立性低血圧の既往歴がある患者又は降圧作用を有する併用薬の投与を受けて
いる患者
相互作用
【併用注意】
(併用禁忌) ・これらの薬剤は CYP3A4 の代謝活性を阻害するため、本剤の血中濃度が上昇す
(併用注意)
るおそれがある:アタザナビル、アタザナビル / リトナビル、ロピナビル・リ
トナビル配合剤、サキナビル / リトナビル、ダルナビル / リトナビル、ネルフィ
ナビル、インジナビル、ホスアンプレナビル / リトナビル、HIV プロテアーゼ
阻害剤(tipranavir/ リトナビルを除く)+エファビレンツ又はエトラビリン、
HIV プロテアーゼ阻害剤(tipranavir/ リトナビルを除く)+リファブチン、デ
ラビルジン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、クラリスロマイシン、テリ
スロマイシン、nefazodone
・これらの薬剤は CYP3A4 の代謝活性を誘導するため、本剤の血中濃度が低下す
るおそれがある:エファビレンツ、エトラビリン、リファンピシン、カルバマ
ゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、リファンピシン+エファビレンツ、
セイヨウオトギリソウ含有食品
主な副作用
心筋虚血、肝硬変、肝不全、肝酵素上昇、肝機能検査異常、肺炎、食道カンジダ症、
胆管癌、骨転移、肝転移、腹膜転移、汎血球減少症、好中球減少症、リンパ節症、
幻覚、脳血管発作、意識消失、てんかん、小発作てんかん、痙攣、顔面神経麻痺、
多発ニューロパシー、反射消失、白内障、呼吸窮迫、気管支痙攣、膵炎、直腸出血、
筋炎、腎不全、多尿、皮膚粘膜眼症候群、貧血、不眠症、浮動性めまい、味覚異常、
頭痛、咳嗽、便秘、腹痛、消化不良、悪心、鼓腸、発疹、疲労など
抗ウイルス薬 241
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
北海道大学病院抗 HIV 薬採用リスト(2011 年8月時点)
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
商品名
一般名
略号
含有量
院内採用
レトロビル
ジドブジン
ZDV、AZT
100mg
○
125mg
×
○
200mg
×
○
150mg
○
300mg
×
○
15mg
×
○
20mg
×
○
ヴァイデックス EC
エピビル
ゼリット
ジダノシン
ラミブジン
サニルブジン
院外専用
ddI
3TC
d4T
ザイアジェン
アバカビル
ABC
300mg
×
○
ビリアード
テノホビル
TDF
300mg
×
○
エムトリバ
エムトリシタビン
FTC
200mg
×
○
コンビビル配合錠
ジドブジン /
ラミジン
AZT/3TC
AZT:300mg
3TC:150mg
×
○
エプジコム配合錠
アバカビル /
ラミブジン
ABC/3TC
ABC:600mg
3TC:300mg
○
ツルバダ配合錠
テノホビル /
エムトリシタビン
TDF/FTC、
TVD
TDF:300mg
FTC:200mg
○
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
商品名
一般名
略号
含有量
院内採用
院外専用
ビラミューン
ネビラピン
NVP
200mg
×
○
200mg
×
○
ストックリン
エファビレンツ
EFV
600mg
○
レスクリプター
デラビルジン
DLV
200mg
×
○
インテレンス
エトラビリン
ETR
100mg
○
242 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
商品名
一般名
略号
含有量
院内採用
院外専用
クリキシバン
インジナビル
IDV
200mg
×
○
200mg
×
○
インビラーゼ
サキナビル
SQV
500mg
×
×
100mg
○
80mg/mL
×
×
250mg
×
○
LPV:200mg
RTV:50mg
○
LPV:80mg
RTV:20mg/mL
×
○
150mg
○
200mg
○
700mg
○
300mg
○
400mg
○
ノービア錠
リトナビル
RTV
ノービア内用液
ビラセプト
ネルフィナビル
NFV
カレトラ配合錠
ロピナビル /
リトナビル
LPV/RTV
カレトラ配合内用液
レイアタッツ
レクシヴァ
アタザナビル
ホスアンプレナビル
ATV
FPV
プリジスタ
ダルナビル
DRV
プリジスタナイーブ
インテグラーゼ阻害薬(INI)
商品名
一般名
略号
含有量
院内採用
院外専用
アイセントレス
ラルテグラビル
RAL
400mg
○
院外専用
侵入阻害薬(CCR5 阻害薬)
商品名
一般名
略号
含有量
院内採用
シーエルセントリ
マラビロク
MVC
150mg
○
(薬剤部 原田 幸子、植田 孝介 2011.08)
抗ウイルス薬 243
26 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の
添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
ページ
ヴァイデックス小児用散
245
エピビル内服液
245
ザイアジェン内服液
246
ゼリット内服液
246
トリジビル錠(NRTI の合剤)
247
レトロビル シロップ
247
レトロビル静注用
248
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
ビラミューン シロップ
248
アトリプラ錠(NRTI と NNRTI の合剤)
249
プロテアーゼ阻害薬(PI)
アプティバス カプセル
249
ビラセプト内服散
250
融合阻害薬(FI)
フューゼオン注射用
250
厚生労働省・エイズ治療研究班が供給する薬剤リストが以下のアドレスに掲載されていますの
で、ご参照下さい。
これらはエイズ治療薬研究班 班長、東京都新宿区西新宿6-7-1、東京医科大学病院 臨床
検査医学科 内、エイズ治療薬研究班 主任研究者 福武 勝幸 教授より提供されます。
TEL:03 - 3342 - 6111[内線 5086]、FAX:03 - 3340 - 5448
http://labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhw/mokuji.htm
HIV 感染症治療研究会のホームページからも抗 HIV 薬一覧を参照することができます。
http://www.hivjp.org/guidebook/index01.html
米国 FDA が承認した抗 HIV 薬については以下をご参照下さい。
http://www.hivandhepatitis.com/hiv_and_aids/hiv_treat.html
剤形が異なるものについては、【警告】【禁忌】【副作用】【相互作用】などに関して省略してい
ますので、必ず内服薬の項を参照して下さい。
244 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) ジダノシン didanosine(略号:ddI)
商 品 名
ヴァイデックス小児用散 Videx pediatric powder for oral solution
販売会社
Bristol-Myers Squibb
規格単位
[原末]:2g または 4g のジダノシンが4または8オンスの容器に充填されている
(国内未発売)
用法・用量
生後2週間~8ヵ月:1回 100mg/m2、生後8ヵ月以上:1回 120mg/m2 を
1日2回、朝・夕食 30 分以上前あるいは食後2時間の空腹時に服用する。生後2
週間までは薬物動態が変化しやすく、適正量を決められない。
調製する際には、精製水を用いて 20mg/mL とする。これに制酸剤(Mylanta®)
を加えて 10mg/mL 溶液として患者に配布する。これを冷蔵庫内にて保存する(保
存期間 30 日)。服用の前には溶液をよく振り混ぜるように指導すること。
そ の 他
ヴァイデックス EC カプセル参照
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) ラミブジン lamivudine(略号:3TC)
商 品 名
エピビル内服液 Epivir oral solution
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[内服液]:ボトル:240mL(10mg/mL)(いちごバナナの風味)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
1回 150mg を1日2回か、1日1回 300mg を他の抗 HIV 薬と併用して内服する。
小児:生後3カ月~16 歳までは1回 4mg/kg(最大量は1回 150mg)を1日2回、
他の抗 HIV 薬と併用して内服する。
そ の 他
エピビル錠参照
国内未販売薬 245
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) 硫酸アバカビル abacavir sulfate(略号:ABC)
商 品 名
ザイアジェン内服液 Ziagen oral solution
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[内服液]:ボトル:240mL(20mg/mL)(いちごバナナの風味)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
過敏症を注意するカードと服用ガイドを処方の都度、患者に手渡すこと。
成 人:1回 300mg 1日2回か1日1回 600mg を、抗 HIV 薬と併用して内服
する。
小 児:生後3カ月以上の小児には1回 8mg/kg(最大量は1回 300mg)を1日
2回、抗 HIV 薬と併用して内服する。
そ の 他
ザイアジェン錠参照
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) サニルブジン sanilvudine、別名:スタブジン(stavudine:d4T)
商 品 名
ゼリット内服液 Zerit for oral solution
販売会社
Bristol-Myers Squibb
規格単位
[ 内服液]
:ボトル:200mL(果物風味)(1mg/mL、なお、水で溶解する前は粉)
(国内未発売)
用法・用量
成 人:体重 60kg 以上は1回 40mg、60kg 未満は1回 30mg を 12 時間毎に1
日2回、内服する。
新生児:出生から生後 13 日までは1回 0.5mg/kg を 12 時間毎に内服する。
小 児:生後2週間~体重 30kg 未満では1回 1mg/kg を 12 時間毎に内服する。
体重 30kg 以上では成人に準ずる。
そ の 他
ゼリットカプセル参照
246 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号)
硫酸アバカビル、ラミブジン、ジドブジン(合剤)
abacavir sulfate, lamivudine,
zidovudine(略号:ABC、3TC、AZT)
商 品 名
トリジビル錠 Trizivir tablets
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[錠]
:1錠中、アバカビルとして 300mg、ラミブジン 150mg、ジドブジン 300mg
を配合(国内未発売)
用法・用量
過敏症を注意するカードと服用ガイドを処方の都度、患者に手渡すこと。
成人と青年:1回1錠を1日2回、服用。
本剤は量が固定された錠剤であるため、体重が 40kg 未満の青年には推奨しない。
また、クレアチニンクリアランスが 50mL/min 以下である患者のように投与量を
調節する必要がある患者、肝障害のある患者にも処方しないこと。
そ の 他
ザイアジェンカプセル、エピビル錠、レトロビルカプセル参照
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) ジドブジン zidovudine(略号:AZT)
商 品 名
レトロビル シロップ Retrovir syrup
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[シロップ]:ボトル:240mL、10mg/mL(イチゴ風味)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
他の抗 HIV 薬と併用し、1日 600mg を分服する。
生後4週間から 18 歳までの小児
用法・用量
Body Weight (kg)
Total Daily Dose
4 to < 9
9 to < 30
30
24mg/kg/day
18mg/kg/day
60mg/day
Dosage Regimen and Dose
b.i.d.
t.i.d.
12mg/kg
8mg/kg
9mg/kg
6mg/kg
300mg
200mg
母子感染:
妊婦(妊娠 14 週以降)に対しては、陣痛が始まるまでは1回 100mg を1日5
回経口投与し、陣痛から分娩までは静注製剤を投与する。
新生児に対しては、出産後最初の 12 時間までに投与を開始する。投与量は
2mg/kg を6時間毎に投与し、これを生後6週間まで続ける。内服できない場合
は静注製剤を投与する。
そ の 他
レトロビルカプセル参照
国内未販売薬 247
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名
(略号) ジドブジン zidovudine(略号:AZT)
商 品 名
レトロビル静注用 Retrovir I.V. infusion
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[注]:200mg/20mL バイアル
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
5%ブドウ糖注射液に 4mg/mL 以下になるように希釈する。
1mg/kg を1時間以上かけて点滴静注する。これを1日5~6回投与する(1
日量 5~6mg/kg)
。
経口投与が可能になった段階できりかえる。
1回 100mg 4時間毎の内服と1回 1mg/kg 4時間毎の静注がほぼ等価である。
母子感染:
妊婦に対しては、陣痛が始まるまでは経口投与を行い、陣痛から分娩まではま
ず 2mg/kg の量を1時間以上かけて点滴静注し、その後 1mg/kg/hr の投与速度
でへその緒をクランプするまで継続して点滴静注する。
新生児に対しては、出産後最初の 12 時間までに投与を開始する。投与量は、
1.5mg/kg を 30 分以上かけて6時間おきに点滴静注する。経口投与が可能になっ
た段階で切り換える。
そ の 他
レトロビルカプセル参照
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名
(略号) ネビラピン nevireapine
商 品 名
ビラミューン シロップ Viramune Oral Suspension
販売会社
Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals, Inc.
規格単位
[シロップ]:ボトル:240mL(10mg/mL)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
成 人:最初の 14 日間は1日1回 200mg を他の抗 HIV 薬と併用して内服す
る。(この導入期間で発疹の頻度を減らすことができる。)その後、1回
200mg を1日2回、内服する。
小 児:生後 15 日以上の小児には最初の 14 日間は 150mg/m2 を1日1回内服
し、その後 150mg/m2 を1日2回内服する。
シロップは軽く振ってから服用すること。経口用注入器や計量カップを
用いること。特に1回服用量が 5mL 以下の場合には経口用注入器が望ま
しい。計量カップを使用する場合は水で徹底的にゆすぎ、それを患者に
服用させること。
投与前に肝機能を含む臨床検査値を測定し、投与中は適当な間隔で測定
を行うこと。
そ の 他
ビラミューン錠参照
248 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
+核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)の合剤
エファビレンツ、エムトリシタビン、フマル酸テノホビル ジソプロキシル(合剤)
一般名
(略号) efavirenz、emtricitabine、tenofovir disoproxil fumarate(略号:EFV、F TC、
TDF)
商 品 名
アトリプラ錠 Atripla tablets
販売会社
Bristol-Myers Squibb & Gilead Sciences
規格単位
[錠]
:1錠中、エファビレンツ 600mg、エムトリシタビン 200mg、テノホビル
300mg を配合(国内未発売)
用法・用量
1日1回1錠を空腹時に内服する。就寝前に服用すれば、神経症状の耐容性を改
善する可能性がある。
そ の 他
ストックリン錠、エムトリバ錠、ビリアード錠参照
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) チプラナビル tipranavir(略号:TPV)
商 品 名
アプティバス Cap Aptivus capsules
販売会社
Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals, Inc.
規格単位
[軟カプセル]:250mg
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
1回2カプセル(500mg)をリトナビル 200mg と共に1日2回服用する。
警 告
リトナビル 200mg との併用で、致死的あるいは非致死的な頭蓋内出血が報告さ
れている。また、同様な併用で肝炎や肝不全になり、死に至った例もある。慢性
B型肝炎の患者やC型肝炎を併発している患者は肝毒性の危険性が増大するので
特に注意が必要である。
禁 忌 症
・中等度または重度(Child Pough 分類BまたはC)の肝障害のある患者
・主に CYP3A で代謝される薬剤または強力な(potent)CYP3A の誘導剤
主な副作用
下痢、悪心、発熱、倦怠感、頭痛、嘔吐など
国内未販売薬 249
※各薬剤の製品添付文書(2011 年8月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名
(略号) メシル酸ネルフィナビル nelfinavir mesylate(略号:NFV)
商 品 名
ビラセプト内服散 Viracept oral powder
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
用法・用量
[散]:ボトル:144g(50mg/g)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
成 人:1回 1,250mg を1日2回あるいは1回 750mg を1日3回、食事と共に
内服する。
小 児(2~13 歳)
:1回 45~55mg/kg を1日2回あるいは1回 25~35mg/
kg を1日3回、食事と共に内服する。錠剤を服用できない小児には内服
散を与える。内服散は少量の水、ミルク、調合乳、豆乳あるいは補助食
品に混ぜても良い。一度、混合したら、その全量を内服する必要がある。
混合後、すぐに服用しない場合は冷蔵庫に保管し、6時間以内に使用す
ること。酸味のある食物やジュース(例として、オレンジジュース、り
んごジュース、りんごソース)は苦みを出すため、混合に適さない。散
剤の入った元瓶に水などを混合すべきでない。
融合阻害薬(FI)
一般名
(略号) エンフューヴィルタイド enfuvirtide(略号:ENF)、T-20
商 品 名
フューゼオン注射用 Fuzeon for Injection
販売会社
Trimeris, Inc. and Hoffmann-La Roche Inc
規格単位
[注]:108mg/V(1.1mL の注射用水で溶解した時、90mg/mL となる)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
1回 90mg(1mL)を1日2回、皮下投与する。他の抗 HIV 薬と併用する。
6歳以下の小児に対する投与量のデータはない。6~16 歳の小児には1回 2mg/
kg(上限 90mg)を1日2回、皮下投与する。
警 告
注射部位の異常:痛み、不快感、硬結、紅斑、小節、嚢胞、掻痒、および斑状出
血などを発症する、患者の9%が鎮痛剤を必要としたか、日常生活が制限された。
肺炎:細菌性肺炎の増加傾向が見られた。肺炎の兆候を慎重にモニターする必要
がある。リスクファクターとして、最初から CD4 の値が低い、初期のウイルスに
よる大きな負荷、静脈を用いた薬物投与、喫煙、肺疾患の既往歴が挙げられる。
過敏症状:再投与により再発の恐れあり。発疹、発熱、吐き気、嘔吐、寒気、硬直、
低血圧、および血清肝臓トランスアミナーゼの上昇などが個別に発症、あるいは
併発する。他に免疫の複合反応、呼吸窮迫性腎炎、およびギランバレー症候群も
報告されている。過敏症状の兆候がみられた場合はすぐに投与を中止し、医師の
診察を受けるべきである。過敏症状がみられた場合は再投与してはいけない。
(薬剤部 原田 幸子、植田 孝介 2011.08)
250 国内未販売薬
付録 HIV 感染症診断後の届出
平成 10 年9月に成立し、翌年4月から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する
医療に関する法律」(通称:感染症法)により、後天性免疫不全症候群は五類感染症に分類され、
全数把握の対象となっている。感染症法第 12 条第1項(医師の届出)には、「医師は、……7
日以内にその者の年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都
道府県知事に届け出なければならない。」と規定されている。従って、後天性免疫不全症候群(HIV
感染症と含む)と診断した医師は、上記の規定に従い、別添の様式に必要事項を記載して届出を
行わなければならない。
付録 251
252 付録
A I D S と 診 断 し た 指 標 疾 患 該 当 す る 全 て に ○
付録 253
HIV 感染症 診断・治療・看護マニュアル 第8版
平成 23 年 12 月発行
発行責任者
北海道大学病院 HIV 感染症対策委員会
委員長代行 遠藤 知之
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