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STDP学習則によって得られるシナプス 強度分布の多様
STDP学習則によって得られるシナプス 強度分布の多様性に関する一考察 東京工科大学 黒川弘章 • STDP(Spike-timing dependent synaptic plasticity)によ る学習(Bi et.al.,1998) – シナプス可塑性を説明する生理学的な知見の一つ – LTP/LTD(長期増強/長期抑圧)の根拠と考えられる学習則 • 1000個程度のシナプス結合を持つ細胞を想定し、STDP による学習を適用すると、特徴的なシナプス強度分布が 得られる(Song et.al.,2000) – 数値実験により示された – スパイクの入力頻度に依存して異なるシナプス強度の分布が得 られる – 両極に分布→勝ち組シナプスと負け組シナプス • 得られるシナプス強度分布はどのように決まるか – 競合の様にも見える – 仕組みとしては競合とは言えない • STDP学習則によって得られるシナプス強度分布 は偏微分方程式で記述できる(加藤ら,2001) – スパイクの入力頻度は確率として定義される – Song et.al.の数値実験の結果を解析的に説明できる – 得られるシナプス強度分布は、スパイク頻度のみに依 存するか? • 生体における神経回路網の学習では – 学習は安定である – 学習結果には多様性がある • 何に対して多様性があるのか→環境、内在するパラメータ • 入力頻度により得られるシナプス強度分布に変化が見られ る(Song et.al,2000, etc) • 学習を特徴付けるパラメータに着目して多様性 を示す – パラメータ → • シナプス強度の最大値 • STDP学習則におけるシナプス強度の変化率 – シンプルスパイキングニューロンを用いて数値実験 STDP学習則の論点 • 従来の研究に於いて、 – 学習環境の変化による獲得形質の変化 • スパイクの入力頻度 – STDP学習則によって得られるシナプス強度分布の解析的な説明 – STDPを誘導する仕組みの生化学的視点からの解明 • 課題 – 学習パラメータの変化によるシナプス強度分布の多様性 • 膜コンダクタンスの最大値、変化率 – – – – 学習の経過に伴うシナプス強度分布の変化 STDP学習則による機能発現モデル 学習の収束安定性 学習自体の安定性、頑強性 • どこまで崩れてもSTDPと言えるか • 数値実験、条件等 – 入力層ニューロン1000個が1個のニューロンにシナプ ス結合を介して接続 – 一定の確率で入力層へスパイクが到着 – Simple Spiking Neuron(SSN)を利用 – 1000個のシナプス結合にSTDP学習則を適用 数値実験モデル模式図 • Simple Spiking Neuron(SSN) – E.M. Izhikevich, 2003 ‒ 生化学的意味付けを無視しているが、膜電 位の振舞いを良く再現するモデルとして知 られている dv = 0.04v 2 + 5v + 140 " u " I dt du = a(bv " u) dt if v > threshold, then v # c, u # u + d ! • STDP学習則 Bi et.al.による培養細胞 による実験結果 これ以外にもスパイク タイミング依存のシナ プス増強/抑圧パタ ーンが報告されている Bi et.al.,1997より引用 • STDP学習則 更新側 gnew = gold + gm " F( #t) 学習曲線 ! + $ "t ' - A+ exp&% # + )( if "t < 0 F ("t ) = , -*A exp$&*"t ') if "t > 0 #* ( % . * "t = t pre # t post ! ! 数値実験結果 gnew = gold + gm " F( #t) • 加法的更新則 • A=0.05,初期値:最大コンダクタンスの半分,t=50000 ! gm=0.1 gm=0.16 gm=0.18 gm=0.2 膜コンダクタンスの最大値により得られる分布が異なる gmを大きくしていくと全てのシナプス強度が最大値近辺に集中する • 加法的更新則 gnew = gold + gm " F( #t) • A=0.05,初期値:一様,t=50000 ! gm=0.1 gm=0.12 gm=0.18 gm=0.22 初期値の与え方とは関係無く、シナプス強度分布は様々なパターンを示す STDP学習則によるシナプス強度の変化のようす 加法的更新則, A=0.05,任意の10個のシナプスを抽出,t<4000 上段:初期値最大値の半分 下段:初期値一様 gm=0.2 gm=0.18 gm=0.16 gm=0.22 gm=0.18 gm=0.12 gnew = gold ( F ("t ) + 1) • 乗法的更新側 • A=0.05,初期値:最大コンダクタンスの半分,t=50000 ! gm=0.1 gm=0.16 gm=0.2 gm=0.22 ガウス分布の様な分布しか得られないと言われていたが gmの値によっては他の分布も得られることが分かる STDP学習則によるシナプス強度の変化のようす 乗法的更新則,任意の10個のシナプスを抽出 A=0.05, 初期値最大値の半分,t<4000 gm=0.1 gm=0.16 gm=0.2 gm=0.22 • 総当たりで計算した結果→表 – 連続的な変化と突然の変化 • パラメータとして膜コンダクタンスの最大値、 STDP学習則の更新率を変化させることにより、 いくつかのシナプス強度分布が得られる • 学習の進行に伴って、どのようにシナプス強度分 布が得られているのか? • 学習の進行による分布の変遷 乗法的更新則,A=0.3,gm=0.2 乗法的更新則,A=0.1,gm=0.2 時間 乗法的更新則においてピークの変遷が見られる 乗法的更新,A=0.1,gm=0.2,t<2000,任意の10個のシナプスを抽出 左:初期値一様 右:初期値最大値の半分 全体的に最大値の方向へ更新された後抑圧が始まる →Post-synaptic cellの発火率が影響している? • 学習が進行する間のシナプス強度分布の変遷に着目 • 最大値付近に多く分布するパターンから最小値付近に多 く分布するパターンへ変遷する – 直接学習則とは関係の無い膜コンダクタンスの最大値が、分布 に影響を及ぼす理由の一つと考えられる • ただし、大まかな分布への収束は見られるが厳密に収束 しているわけではない シナプス強度の収束の様子 任意の10個のシナプスを抽出,t<10000000 加法的更新則,A=0.1,gm=0.2,初期値一様(左)0.1(右) 乗法的更新則,A=0.1,gm=0.2,初期値一様(左)0.1(右) ほぼ値が動かない状態に達する場合も多いが、 図のように厳密には収束していないケースもある まとめ • SSNを用いた数値実験の妥当性を示した • STDPにより獲得されるシナプス強度分布の多様性を示 した – 加法的更新、乗法的更新の双方に於いて多様性が観測される – ある種のパラメータに依存して得られる形質が変化することを示 した • 膜コンダクタンスの変化率 • 膜コンダクタンスの最大値 – 大きくなる程。。。 • 分布が極端に偏る明確な閾値が存在する – Post-synaptic cellの発火頻度が影響? まとめ • 学習の進行に伴うシナプス強度分布の変化を示した。 – 特定の条件下では特徴的な変化が見られる – 厳密には収束しない • →解析的に分布を求めることは困難か? • 課題 – Post-synaptic cellの発火率とシナプス強度分布の関係 – 曲線による変化率近似の妥当性 – STDP学習によって得られる神経回路の機能的意義