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Renewable Energy World 2016(その3)

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Renewable Energy World 2016(その3)
情 報 報 告
ウィーン
Renewable Energy World 2016(その 3)
2016 年 6 月 21 日 か ら 23 日 に か け 、 欧 州 の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 市 場 に 関 す る 会 議
Renewable Energy World 2016が、イタリア・ミラノで開催された。主催者はPennWell
社(米国)である。
今回は、艀に大容量の発電設備を搭載した移動式発電所であるパワーバージの動向に関
する講演を報告する。
1. パワーバージ~移動式発電プラントの今後の展望と制限~
Steffen Kartenbender氏、RWE Technology International社(ドイツ)
1.1 RWE Technology International社について
RWE Technology International社は主に鉱業、火力発電分野でのエネルギーインフラの
課題の解決に取り組むエンジニア、専門家から構成される国際企業である。2009年に同社
は南東欧市場での移動式発電プラントの投資プロジェクトを実施している。同社のコアビ
ジネスは顧客のエネルギー資産の構築法と運用法についてアドバイスを提供することであ
る。
同社のサービスはプロジェクトの構想から実施に至るまでの全ての面でのバリュー・チ
ェーンを対象としており、保守・メンテナンスも含まれる。
1.2 移動式発電プラント
電力は今日の世界において重要な要素である。電力は現代社会の基礎であり経済発展し
ていく上で欠かすことはできない。安定で信頼性の高い電力供給を確保することは産業の
成長、経済の安定に繋がる重要な要素の一つである。一方、不安定な電力ネットワークは
停電や電力不足を引き起こす可能性があり、大きな経済的損失の原因となる可能性がある。
移動式発電プラントは電力不足が発生している場所へ移動し、電力供給を行うことができ
るため、地域の電力グリッドを安定化させることができる。
パワーバージ(移動式発電プラント)は以下の特性を有している。
・建設を9か月以内に完了することが可能(電力設備の企画・設計から生産開始までに要す
る時間に依存)
・所望の設備と試験手順を有する造船所で組立てが可能
・大規模発電プラントの建設が技術的に難しい国へ信頼性の高い電力供給が可能
・設置場所を必要とせず、電力を必要とする場所に移動可能
・建設中の発電プラントが竣工するまで、代替手段として電力供給することが可能
1.3 浮体式発電プラント
浮体式発電プラントは1940年代に既に実用化されている。浮体式発電プラントは近代的
な発電技術と海洋工学技術を兼ね備えている。このプラントでは、ディーゼルエンジンや
ガスタービンが艀(barge)と呼ばれる浮体式プラットフォーム上に取り付けられている。そ
のため、この種のプラントはパワーバージと呼ばれている。パワーバージは係留地面から
接続された高電圧グリッドを介して発電した電力を供給する。
1.4 非従来型の発電方法
移動式発電は大規模発電企業のRWE社によって研究が行われている新たな革新的な発電
方法である。技術自体は世界中で使用されているものの、欧州においてはこの技術は非常
に珍しい存在である。欧州諸国は安定した電力供給により利益を得てきたが、RWE社は、
移動式発電プラントによる電力供給について、以下の点を注目している。
・東地中海と黒海に接している多くの国は今後の経済成長が予測されているが、現在の
発電容量不足により経済成長が制約されている状況である。従って、様々な新たな発
電方法の導入が望まれている。陸上での新たな発電プロジェクトの計画と実施に要す
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情報報告 ウィーン
る期間を埋合わせるために移動式発電プラントの利用がされている。移動式発電プラ
ントは新たな発電所や風力発電施設が竣工するまでの代替プラントとして電力を供給
することができる。
・電力不足はパワーバージを導入することで対処することができる課題と考えられてい
る。特に南欧、中東欧及びアフリカの国々は夏季には空調システムの稼働により多く
の電力需要が発生している。また、北欧や東欧諸国は冬季に暖房のために電力需要が
高まっている。パワーバージはこれらの季節的な電力需要のサイクルに柔軟に対応す
ることができる。
・世界的な電力企業が新規プロジェクトやターゲット市場を開発する際にパワーバージ
を利用する可能性がある。パワーバージはどのような顧客でも注文することができる。
従い、RWE社はパワーバージの受注を通じて新たな顧客との関係を構築することがで
きる。パワーバージを利用する際、収益が見込めない場合は利用を停止し、容易に曳
航することができる。これにより供給側と需要側双方のリスクを低減することができ、
将来のプロジェクトでのパワーバージ利用の信頼性を向上させることができる。
既存のほとんどのパワーバージプロジェクトは、少ない建設期間と、移動性よりもむ
しろ完成品(ターンキー式)での引渡しができる点に注目が集まっていた。この特徴は、
パワーバージの主な強みであり、必要な時に電力を供給できる“動く電力資産”とな
ることができる。
1.5 パワーバージの歴史
最初のパワーバージは第二次世界大戦中に建造されていたが、その後世界で普及するま
でに数十年の期間を要した。1990年代に多くの南アメリカ及び東南アジア諸国が深刻な電
力不足となり、その際短納期での発電設備の納入が行われ9ヶ月以内でのパワーバージの完
成が可能となった。需要に応じてパワーバージは30MWから100MWの発電容量を搭載する
ことができる。
パワーバージに搭載される発電設備として、当初はディーゼルエンジンが広く使われて
いたが、やがてガスタービンが用いられるようになった。2000年には世界最大のパワーバ
ージがインドで就役している。このコンバインドサイクル発電を採用したパワーバージの
出力は220MWである。今日では燃料として天然ガスを用いたディーゼルエンジンと選択触
媒還元脱硝装置(SCR)を利用することにより厳しい排出基準を満たすことができる。
出典:Renewable Energy World 2016、Steffen Kartenbender氏講演資料、RWE Technology International社
図 1 世界最大のパワーバージ(Tanir Bavi Power 社(インド)所有)
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1.6 世界におけるパワーバージ
現在、少なくとも60から80隻のパワーバージが世界で稼働している。60年以上の歴史の
中で、パワーバージの信頼性と堅牢性が証明されてきた。1940年代に建造された最も古い
時代のパワーバージでさえ、現在エクアドルで電力を生産しており、長期的な利用が可能
である。
また、米国のニューヨークもハドソン川にあるパワーバージから電力を得ている。ニュ
ーヨークは頻繁に停電に悩まされているが、新たな発電所を建設する十分な土地が確保で
きていない。このように、浮体式の発電設備は用地を確保できない場所にとって非常に適
した発電方法である。
また、フィリピンは500以上の島々から成り、それらの多くは主電源網に接続されていな
い。このような場合、パワーバージは島に電力を供給する理想的な手段となる。また、パ
ワーバージを島から島へ移動させ電力供給を行うことができる。
洪水多発地域ではパワーバージはターンキー方式で建造され直接目的地へ出荷すること
ができるため、遠隔地への電力支援を行いやすいという利点もある。
※注記:青で着色された国はパワーバージを所有していることを示し、世界で少なくとも合計60隻以上のパワーバージが利用さ
れている。
出典:Renewable Energy World 2016、Steffen Kartenbender氏講演資料、RWE Technology International社
図 2 世界のパワーバージの普及状況
1.7 設計と建設
MAN社やWärtsilä(バルチラ)社、GE社といった発電事業で有名な多くの企業も移動式発
電プラントの建設経験を有している。発電ユニットは納入の前に試験が行われ、造船所で
組立てられる。全体の設計と建設は独立船級協会により監督される。ドイツロイド船級協
会やノルウェー船級協会といった機関は、国際的な船級規則と排出基準が守られるよう検
査・確認と行っている。
【船級協会】
船舶と水運に関連する設備の技術上の基準を定めるとともに、設計段階から就役後に渡って設備が基準
に従っているか確認を行い、航海の安全を促進する非政府組織。
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グリッド接続用変圧器
吸入空気冷却コイル
排気筒
ガスタービン
制御設備
出典:Renewable Energy World 2016、Steffen Kartenbender氏講演資料、RWE Technology International社
図 3 パワーバージの主要設備
1.8 エンジン燃料
パワーバージへの燃料の補給の際、燃料の選択は通常現場での利用可能性に依存する。
パワーバージは海の近くに配置されることが多いため、燃料は別の船により供給されるこ
とが多い。加えて、港湾地域にいることにより、輸送費が節約でき、より良い価格で燃料
供給を行うことが可能となる。
1.9 パワーバージの移動
浮体式発電プラントと陸上発電プラントの最も大きな違いは、浮体式発電プラントには
移動能力が備わっている点である。パワーバージは自己の推力は有していないため、短距
離の移動では、他の船に曳航される必要がある。長距離では、重量物運搬用の半潜水艇を
用いて移動することができ、このような船を用いることでパワーバージは地球上の任意の
場所に数週間で到達することができる。
(a)タグボートによる曳航(5,000km 以内)
(b)重量物運搬船(12,000km 以内)
メリット:タグボートはどの港にも寄港可能
デメリット:天候からの影響大
メリット:天候からの影響小
デメリット:重量物運搬船の長期間の予約が必要
出典:Renewable Energy World 2016、Steffen Kartenbender氏講演資料、RWE Technology International社
図 4 移動距離の違いによる目的地までの移動手段
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1.10 近年のパワーバージの動向
(1) クルーズ船からの排ガス量の削減目的での利用
ハンブルク港で2015年5月にLNG Hybrid Bargeプロジェクトが開始された。Becker
Marine Systems社により建設され、Hummelと名付けられたそのパワーバージは港に停泊
するクルーズ船に7.5MWの電力を供給している。その主な目的は直接電力供給することで
化石燃料の利用を低減し、排出量を削減することである。効果は非常に大きく、排出され
る窒素酸化物を80%、二酸化炭素を20%削減することに成功している。これによりパワー
バージは好景気に沸くクルーズ船業界に持続可能なソリューションを提供している。
Becker Marine Systems社はこの取組みにより“Seatrade Cruise賞”を獲得した。
(2) パワーバージの量産
トルコを拠点に活動するKaradeniz社は世界で唯一パワーバージを量産している企業で
ある。同社は製造するパワーバージの合計容量を2GWまで増加させる計画をしている。各
パワーバージの設備容量は45MWから500MWである。この事業の主な目的は中東、アフリ
カ及びアジアに安定な電力供給をもたらすことである。2013年の夏には同社の10番目のパ
ワーバージ“Orhan Bey”がレバノンに納入された。
1.12 欠点と制限
現在ではKaradeniz社を除き世界でパワーバージを量産している世界的な企業は存在し
ていない。ほとんどのパワーバージは個別の顧客向けに製造された受注品である。重要な
課題として、パワーバージを運用するためのライセンスの獲得と保持が挙げられる。多く
の国ではこの種の事業は地上と海上の両方で配備されるビジネスと見なされる。そのため、
納入先の港に寄港時、法律面で問題が無いか、個別に確認が行われる必要がある。従い、
納入先での環境、パワーバージの係留、ビジネスに関する複雑な制限事項を満たす必要が
ある。また、場合によってはパワーバージの移動が問題となることもある。その場合には
他の係留地の調査や地域の産業パートナーの調査、地域の系統連系要件の調査といった調
査チームが必要となる。
1.13 経済的な見込み
現在の地上設置型の発電プラントと比べ、パワーバージはディーゼルエンジン及び開放
サイクルガスタービンの熱効率が40~42%であるため総発電コストの点で不利である。
経済的な観点から、この不利な点については以下の3つ措置を介して補償することができ
る。
・短工期である利点の活用
・移動式発電プラントの所有者登録を行うことによるリスク回避
・製造拠点の分散によるリスク回避
結論として、パワーバージは地域の発電施設の建設が完了するまでの代替電力として最
適のソリューションである。また、パワーバージは再生可能エネルギーの発電量の不安定
性を補うための補助電源としても機能することができる。従い、パワーバージの発電容量
を増加させることにより予期せぬ事態のリスク回避をすることができる。発電プラントの
移動性はドイツの再生可能エネルギー転換政策(German Energiewende)のような大きな変
化が生じた場合でも多くのビジネスチャンスを作ることができる。
(参考資料)
・RWE Technology International社、Steffen Kartenbender氏講演資料
・RWE Technology International社ホームページ
(http://www.rwe.com/web/cms/en/216480/rwe-technology-international/)
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