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Spear and Shield –Show-down No One Has Ever
TOPICS 「 ほこ×たて 世界で誰も見たことがない対決SHOW 」 金属VSドリル 第4弾対決取材報告 ㈶ 素形材センター RIMCOF 東北大学研究室 三 浦 晴 子 2011 年秋、新たな挑戦者が名乗り出た。名古屋に君臨するドリルの王者、奇跡は起きるか !? 世紀の対決「最強ドリル」VS「最強金属」が今ここに始まる。 1.「ほこ×たて(ドリル VS 金属)」対決 SHOW 2011 年 9 月 28 日、愛知県豊川市のオーエスジー ㈱ 内のグローバルテクノロジーセンター(GTC)で、フ ジテレビ「ほこ×たて ∼世界で誰も見たことがない 対決 SHOW ∼」の番組テーマである「絶対に穴のあ かない金属 VS 絶対に穴をあけることが出来るドリル」 の対決が行われた。 写真 1 クロスエンドドリル 今回は第 4 弾となる戦いであり、過去に三度の対戦 ともにドリルの挑戦を退け「最強金属」の勝利という 工具である。先端の十字のスリットと“ヘリカル加工” 結果で終わっている。当素形材センターは前回第三 というドリルが螺旋を描きながら開孔して行く加工方 戦から取材をしており、「最強金属」の強さを目の当 法を採用することで切削油を十分に供給すると同時に たりにした。今回の挑戦者であるオーエスジー ㈱ は、 加工時のドリルの損傷を低減できるという。さらに、 この対決用に新たにドリルを東京工科大学福井雅彦教 コーナ部を R 形状に加工することでドリル負荷を分散 授と共同開発して「最強金属」に挑戦する。その対決 でき、硬い材料への抜群の威力が期待できる。開発者 の様子を報告する。 である大澤氏は“自身の身体はドリルの一部。材料に 触れれば穴を開けられるかすぐに分かる !! 数種の想定 2.第 4 弾対決 !! 「絶対に穴のあかない金属」と「絶対に 穴をあけることができるドリル」 材料でトライして既に穴を開けてきた。絶対に自信は ある !!”と言い放ち「超硬合金」に挑んだ(写真 2)。 過去に三戦全勝を収めている「たて」は日本タング ステン ㈱ 製のタングステンカーバイド「NWS 超硬合金」 (以下、最強金属)である。原子力発電所の壁材料にも 用いられ、絶対に穴の開かない最強金属として自負さ れる材料であることは前回も紹介した。同社の中川内 氏は過去の対戦実績を基に次なる対戦者のドリル素材 を予想し、その都度材料を調合して対決に臨むという。 今回は 50 mm 角、厚さ 20 mm の超硬合金で対戦に挑む。 これに対し挑戦者である「ほこ」はオーエスジー ㈱ 製 のクロスエンドドリル(写真 1)で、直径 20 mm のドリ ル先端にはダイヤモンド粒子を電着させた対決用特殊 写真 2 最強金属を確かめる大澤氏 Vol.52(2011)No.11 SOKEIZAI 67 TOPICS 3.対決の行方 貫通にドリルが耐えられるか !? それとも最強金属がド 超硬合金、ドリル各々を対決用装置、立型マシニン リルの侵入をはね返すのか !? 開発両者の勝負を見守る 表情は真剣そのものである。再戦から既に 10 分以上 グセンタ(オークマ ㈱ 製 MB−46VAE)に装着した後、 が経過した。約 2 mm 程度開孔が進行するもののそれ ゴングの音と共に勝負が始まった。最強金属に接触し 以上は急に遅くなった。何故だ !? ドリルへの負荷はま たドリルが高速回転すると、間もなく切削油供給が始 だかかって無い筈だが何が原因か ? その後、さらに 3 まり、回転によって切削油が装置内部に散乱する。ド 分程度経過して、またも“バンッ”と衝撃音が鳴る。 リル先端が最強金属表面の開孔部を探しているかのよ 1 戦目と同じ音のように聞こえたが、再び最強金属が うに滑っている。これがヘリカル加工という螺旋加工 割れたか !? それともドリルに異常が生じたか !? 装置 方法の特徴のようだ。2 分程度経過した後に切削油の 停止後に確認すると金属が割れ、ドリル先端も摩耗の 飛散方向が一定となりドリルが金属表面を捉えた。装 跡が残っており 1 戦目と同様な結果だ。対戦の結果は 置操作パネル上の開孔侵入度が確実にカウントし始め …。「この勝負は引き分け、対戦両者、日を改め再び る。3 分経過した時点でドリルが 0.7 mm 程度侵入して 対戦する !!」との判定が下ると一斉にどよめきと同時 いるのが確認できた。その後は 1 分間に 1 mm のペー に暖かい拍手で包まれた。開発両者は相手の手強さが スでドリルが侵入していく。この侵入ペースに従えば 滲み出た表情をしており、次回の対決では決着をつけ 約 20 分で貫通すると予測される。2.5 mm 程度侵入し る意気込みを見せ、最後に固い握手を交わし対戦を終 た時点で大澤氏より「これではまずいな…」の一言が。 えた(写真 4)。 ドリルの侵入速度に対し回転数が足りず過剰な負荷が 掛かり始めているという。勝負を見守り緊張が高まる 中、突然“バンッ”という鈍い衝撃音が鳴った。何か ら発せられた音なのか !? 一斉に周囲がどよめき渡り、 間もなく装置が停止した。最強金属がドリルによって 数ミリ程度開孔しており、さらにその中心から放射状 に割れていた(写真 3:左)。またドリル先端もダイヤ モンド粒子がほぼ摩耗していた(写真 3:右)。本勝負 はドリルが最強金属を貫通して初めてドリルの勝利と なるのだが、対戦の判定は ?? 番組の指針で再び両者 のスペアにより 2 戦目を実施することが決まる。ゴン グの音で再戦が始まる。開孔中の負荷を低減するため ドリルの侵入速度を先ほどの 20 % に抑え、さらに回 転数は 2 倍以上の 10,000 回転で臨んだ。1 戦目と同様 写真 4 次なる対戦の決着を約束する両者 に数分後にはドリルが最強金属表面に開孔し始める。 侵入速度と回転数を変更したことでドリルの負荷は相 当抑えられたが、1 mm を開孔するのに 8 分もの時間 4.おわりに を要した。順調に進行したとしても貫通までには 3 時 「 ほ こ × た て ∼ 世 界 で 誰 も 見 た こ と が な い 対 決 間 !!!!! 近くかかるものと予想される。長時間におよぶ SHOW ∼」の番組では様々なテーマで“ほこ”と“たて” の対決を実施し、実際にはどちらが強いのかを検証し ていく番組である。「金属 VS ドリル」は特に人気の対 決であり、その第 4 弾となると注目度は極めて高い。 また、今回の挑戦者が中京地区のドリルメーカであっ たことから西日本を中心に前回より多数の新聞社、雑 誌社が集まった。各社記事掲載のために情報収集に必 死であった。今回の対決が次回再戦となったことから この対決の注目度はさらに増すであろう。今後も対決 の行く末を見守って行きたい。 今 回 の 取 材 の 様 子 は 10 月 16 日( 日 )フ ジ テ レ ビ 19 : 00 ∼放送された。 写真 3 対戦後の金属とドリル 68 SOKEIZAI Vol.52(2011)No.11