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はり治療室の窓から 146 はり師 堀口隆 如月 話すことが癒すこと 阪神淡路大震災から 17 年。東日本の大災害や原発事故と重なり、今年の1月 17 日を 特別な思いで迎えました。 いま、当時のわたしの健康コラムを読み返しています。震災後の9月から、近所の 仮設住宅の「ふれあいセンター」へ月に1回出向き、希望者にはりやあん摩の治療 ボランティアを行いました。不自由な仮住まいの人たちと気楽なおしゃべりをしながら の 30 分ほどの触れ合いでしたが、話題がお互いの恐怖の被災体験になることも。住み 慣れた土地を離れた人たちは「やっと園田の町に慣れました」とか、 「もとの病院へバス を乗り継いで通っています」とか、仕事から帰宅しても「やれやれ、自分の家に帰って きたという気がしません」などとおっしゃっていました。また、仮設住宅には一人暮ら しの人が多く、夜がさびしいとも話しておられました。2年余りの活動でしたが、延べ 250 人もの人たちと触れ合い、語り合いました。阪神間でのいろいろな取り組みは東日 本大震災の被災者対策に取り入れられています。災害時救急医療活動、仮設住まいの人々 への声かけ、相談活動、その他いろいろなボランティア活動などなど、阪神淡路大震災 で生まれ育った活動が広く行われています。 さて、わたしは阪神淡路大震災の2週間後から治療を再開し、患者さんたちと共通の 体験を分かち合いながら治療をさせていただきました。特に一人暮らしの人には震災の 打撃が大きく、心のおびえが身体の異常となって現れていること、生活の立て直しの心 配によるストレス反応が心にも身体にも現れていることが、治療室でも仮設住宅の治療 でも読み取れました。1年が過ぎ、2年が過ぎても、不安とおびえで心身に変調を きたして医者通いをしたり、わたしの治療室へみえたりする人が何人もいました。 ところで、 「二人は一人に優る」と聖書にあります。現代は高齢化が進み、一人暮らし の世帯が増えています。阪神淡路大震災後、仮設住まいのお年寄りの孤独死が大きな ニュースになりました。東日本大震災の被災地でも同じような事態が起きています。 人は一人では生きていけないといわれます。二人寄れば顔を見合わせ、言葉を交わし 合うことができます。いまの世の中、「独りが気楽」という人もいるようですが、 何か事があれば声を掛け合い、言葉を交し合える家族がいればどんなにか心強く、 安心できるに違いありません。 阪神淡路大震災を体験し、後期高齢者になったいま、「話すことが癒やすこと」だと、 日々、実感しています。 「2012年2月・鍼灸柔整新聞より」