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Title 性格類型による学習者の個別性 - TeaPot
Title Author(s) Citation Issue Date URL 性格類型による学習者の個別性(日中韓3か国合同ジョイ ントゼミ(北京)) 申, 恩浄 大学院教育改革支援プログラム「日本文化研究の国際的 情報伝達スキルの育成」活動報告書 2008-03-31 http://hdl.handle.net/10083/35137 Rights Resource Type Departmental Bulletin Paper Resource Version publisher Additional Information This document is downloaded at: 2017-03-30T22:49:49Z 申 恩浄:性格類型による学習者の個別性 性格類型による学習者の個別性 申 恩 浄 要 約 今までの学習者要因に関する研究は、学習動機や学習目的などのように同じ属性を持っているグループ間の特性として捉えてきた。 それゆえ、学習結果や外国語を習得していく過程の特性が学習者によってどのように異なっているかについて多く論じられていなかっ た。また、学習者要因研究の多くが認知的要因と関連する研究であったため、学習者の内在的特性が分かる理論的な土台が備わってい なかった。 従って、本稿では、今までの学習者要因研究を再考察し、性格類型論的な観点から学習者の学習への動機づけや学習ストラテジー使 用傾向を考察してみた。その結果、授業への動機づけや学習ストラテジーの使用傾向などが学習者の持つ性格類型的特性と非常に関連 していることが分かった。それゆえ、日本語学習のための効果的な方法を論ずる際、まず、学習者ごとにその内在的な特性による学習 への特性が存在していることを理解する必要があると思う。 【キーワード】 学習者要因、動機づけ、学習ストラテジー、性格類型 1.はじめに まった。 同一の学習環境の中で同じインプットが与えられて 第二言語習得研究での学習者要因研究は大きく情意 も、それぞれの学習者の習熟度に異なりが出るのは、 的な要因と認知的な要因に分けられて行われてきた。 学習内容を理解し、運用する学習者の内的な要因が学 情意的な要因としては、自我尊重(self-esteem)、抑 習者によって違うのに起因すると想定される。それゆ 圧(inhibition) 、冒険試し(risk-taking) 、不安(anxiety) 、 え、最近の第二言語習得研究でも学習者要因重要性に 感情移入(empathy)、動機(motivation)があり、認 ついて強調され始めた。第二言語学習過程を全般的に 知的な要因としては言語適性、知能、認知スタイル、 理解することにおいて、学習者要因が重要な要素であ 学習スタイル、学習ストラテジーなどが挙げられる。 り、学習者の認知的な適性や動機、性格なども学習結 しかし、Brown(2000)では、情意的な要因と動機な 果に影響を及ぼしている。(Ehrman & Oxford, 1995) どを学習者の性格的な要因というカテゴリーの中で捉 しかし、学習そのものだけに研究の焦点を当ててい えているのが特徴である。 る以上、学習者中心の外国語教育の理論は、限界を持 しかし、このように各領域に含まれている学習者要 たざるをえない。このような議論も主に英語教育を中 因が独立して学習者の習熟度に作用しているわけでは 心とした外国語分野で行われ、日本語教育分野では学 ない。例えば、各領域内の要因間、即ち、情意的な要 習者要因に関する研究が多く見当たらない。学習スト 因の中で自我尊重と抑圧、冒険試しと自我尊重、感情 ラテジーに関する研究はいくつか報告されているが、 移入と外向性、授業への動機づけと性格類型がお互い 日本語学習者の学習ストラテジー使用傾向の分析に留 に影響している。認知的な要因の中では、認知スタイ まった研究が多く、学習者の認知的または情意的な特 ルと学習スタイル、学習スタイルと学習ストラテジー 性が学習ストラテジーの選択においてどのように相互 の間に相関関係が存在していることが分かった。この 作用しているかまで深く考察しなった。 ような祖間関係が同じ領域内だけでなく、他の領域の 従って、学習者の個別性をより内在的な側面から調 要因とも相関関係があろのが分かった。例えば、学習 べるため、学習スタイルやストラテジーに学習者の認 動機が学習ストラテジー選択に及ぼしている影響や、 知的な特性や性格的な要因がどのように関わっている 性格と学習スタイルとの相関関係がそれである。この かについて質的調査を行った。 ような要因間の相互関係を見れば、学習者の学習過程 から内在的な要因に起因する特性の傾向が見える。ま 2.第二言語習得における学習者の要因研究 た、学習スタイルの場合は、その概念の定義によって 学習者要因研究は、1970年代に人本主義の登場に 情意的な要因として分類されうると思われるので、既 より既存の万能的な教授法に対する批判が起こり、絶 存の学習者要因の分類を他の側面から再分類する必要 対的な教授法から折衷的な教授法への変化を通じて始 が求められている。 170 日中韓 3 か国合同ジョイントゼミ(北京) 3.第二言語習得における性格要因研究 4.性格類型と学習への動機づけ Brown(2000)では、性格的な要因の中で学習者の 支配的な精神機能(主機能)というのは、学習者の 情意的な領域を捉えているのが特徴であるが、これ 学習への動機づけを理解することにおいて非常に重要 は、学習者の内在的な側面である性格の役割に重きを な概念である。Jung の性格類型論では、すべての精神 活動が 4 つの範疇−感覚的な認識、直感的な認識、思 置くことと考えられる。 性格というのは、個人の行動の原因と結果を説明る 考的な判断、感情的な判断の中のいずれかに分類され 場合、総体的な特性だと見なされている。人間がどの る。この 4 つの機能の中で無意識の内に優先され、行 ように学習し、何を学習するのかについて、個別性を 動として現れるのが主機能である。 Gordon Lawrence(1997)によれば、感覚機能が主 表しているので、個人の反応と学習結果を理解するの に重要な学習者要因になり得る。 機能である学習者は、授業で何か実際的な経験を求め 第二言語習得研究で今まで行われてきた学習者の る傾向があり、学習内容が日常生活での活用の価値が 性格的な要因に関する研究は、70年代から始まった ないと感じれば、学習への動機づけが難しくなると述 が、主に内向性や外向性という人間の性格の限られた べている。その反面、直感機能が主機能である学習者 一面だけを取り上げている。また、性格を測定する方 の場合は、授業の際、理論的な説明より想像力を生か 法上の問題もあり、80年代の研究からは同じ要因に関 せるタスク活動に取り込む傾向があると報告されてい しても一貫した結果が見られなかった。90年代から る。しかし、この研究結果が日本語を習得していく段 は、性格の外向性のみならず、内向性が認知的・学問 階でどのような一貫性を見せているかについての研究 的な言語能力の発達と正の相関関係を持っているとい はまだ見当たらない。 う調査結果が報告されている。特に90年代からは、学 習者の性格の特性を測定するのに C.G.Jung の性格類 5.性格と学習スタイル及びストラテジーとの関係 型論に基づいて開発された MBTI(Myers-Briggs Type 学習者の性格と学習スタイルや学習ストラテジーと Indicator)が多く使われるようになった。 の関係については、シュメックによるモデルが挙げら れる(図 1 参照) Jung は、人間は、同じ事物を見ていても、それぞ れ異なる判断をし、その判断に基づいて行動している 学習ストラテジーには総合的な学習計画や方法とそ が、人間の判断と行動の基底には一貫した特性が存在 れに関連する具体的な学習計画・方法が含まれてい していると主張した。また、周囲の状況や情報を認識 る。その中には場面にとらわれないで総合的な学習ス して判断する過程が人によって異なるので、人間行動 トラテジーを一貫して用いる傾向も見られるが、これ の多様性が生じると説明している。MBTI には、⑴エ は、「学習スタイル」を反映していると見なされる。 ネルギーを得る方向(趣味や関心の方向)、⑵情報の 学習スタイルは、学習の際、好んで用いられる認知活 収集(認識機能:ものの見方)、⑶結論に到達(判断 動の様式・方法である。図 1 では、個々の具体的な学 機能:判断の仕方)、⑷外界との関係づけ(外界への 習計画、方法の集合体が「学習ストラテジー」を表し 接し方)に対してそれぞれ 2 つの対極の機能がある。 ており、さらにそのような学習ストラテジーを場面を Ehrman & Oxford(1995)では、学習者の学習への 超えて一貫して使用していることが「学習スタイル」 動機づけや学習ストラテジーの使用傾向を調べるのに と考えられる(辰野、1997)。 この性格類型(MBTI)が非常に関連していることを つまり、個人の学習ストラテジーを見れば、そこに 明らかにした。 は学習スタイルを反映する一貫性があると思われる。 その一貫性がパーソナリティーに起因していると見た しかし、第二言語習得研究における性格要因に関す ことは注目すべきである。 る研究は多くない。これは、性格と外国語が結びつく 理論的な土台がないのに起因すると思う。 6.性格類型と日本語学習との関係 韓国で日本語を専攻している大学生158名を対象に パーソナリティー → 学習スタイル → 学習ストラテジー 学習ストラテジー → → (総合的) (具体的) 図1 学習結果に影響する学習スタイルの理論的なモデル(辰野、1997に基づく) 171 学習結果 申 恩浄:性格類型による学習者の個別性 して性格類型分布を調べてみた結果、外向型(41.4%) いて自分の想像力に依存していることが分かった。 よ り 内 向 型(58.86%) の 割 合 が 多 く、 感 覚 機 能 従って、性格類型の傾向性を理解することを通じて (65.19%)を主機能としている学生のほうが直感機能 その性格類型の好む学習状況と学習スタイルが推測で (34.31%)を主機能としている学生より 2 倍ぐらい多 きる。さらにいい学習結果が得られるように学習スタ いということが分かった。 イルを調節していくことが重要であろう。また、日本 この結果から韓国の日本語専攻者は、具体的な例文 語学習の効果を高めるためにどのような学習ストラテ を直接見ることや聞くことによって抽象的な概念を学 ジーが有効なのかを提示する前に学習者自信が自分の 習することを好み、教師の統御のない状況より教師の 内在的な特性による学習傾向を理解することが重要で 指示の中で個人的な学習を好むということが分かっ あると思う。これに対して、Ehrman らは、自分の生 た。それゆえ、彼らは、グループ活動が多く要求され 来の性格類型と関連のある学習方法、その対極の機能 る学習状況では、自分の実力を十分発揮しにくい傾 と関連のある学習方法をどれほど積極的に活用させて 向があると予測できる。また感情機能(38.61%)よ いくかによって学習の習熟度が決定されると述べてい り思考機能(61.39%)を使っていることから、友好 る。 的な教室の雰囲気も重要であるが、それよりも論理構 造が明確な説明や教師の客観性が感じられる授業の雰 7.今後の課題 囲気が学習への動機づけに重要な要因になりうると思 今後、性格類型的な特性が日本語を学習していく過 う。 程でどれぐらい持続的なものであるかを調べるため さらに、被験者の中で10名を対象にして学習ストラ に、学習ストラテジーの使用傾向を日本語能力別に調 テジーの使用傾向や意欲を感じるようになる学習状況 査する必要があると思う。そして、今回の調査結果が に対して個別的にインタビュー調査を行った。彼らが 主にインタビューを中心とした質的調査に基づいてい 日本語を学習する際にどのような学習ストら手時を選 るので、これから学習者の学習スタイルや学習ストラ 択するか、学習対象にどのようにアプローチするか、 テジーを測定する方法も多角的に考慮すべきであると 課題をいかに解決するかなどを調べた結果、性格類型 思う。また、学習者要因の構成体系を明らかにするた によって学習スタイルや授業への動機づけに非常に影 めには、それぞれの因果関係や相関関係を多様な観点 響を与えていることが分かった。学習ストラテジーの から調べる必要がある。 使用傾向も学習者の性格類型と深く関わっていること が分かった。例えば、主機能が直感機能であり、判断 する際に思考機能に依存している認識型の学習者の場 参考文献 合、文法を勉強する際に文法項目でストーリを作って 辰野千寿(1997)『学習方略の心理学−賢い学習者の育て 暗記したことや会話練習の際に自分と関連のある場面 方』、東京、図書文化社 Brown. H. D ( 2000 ) Principles of language learning and を想像しながらその場面で使われそうな表現を中心 teaching 4th ed. White Plains, NY: Pearson Education. として練習したことなどを述べた。Gordon Lawrence Ehrman & Oxford (1995) Cognition plus: Correlates of language (1997)は、直感機能が主機能である学習者の場合、 日常的なことを嫌がり、規則に従うより自分で規則を 作る傾向があると主張しているが、今回の調査でも直 learning success. The Modern Language Journal, 79, 67-89 Gordon Lawrence (1997) Looking at Type and Learning Styles Center for Applications. 感機能が主機能である学習者は全般的な学習活動にお しん うんじょん/同徳女子大学大学院博士課程・お茶の水女子大学大学院研究生 [email protected] 172