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2 クリーンエネルギー車のエネルギー フローに沿った現在及び将来の効率
日産の調査研究から 2 クリーンエネルギー車のエネルギー フローに沿った現在及び将来の効率 武石 哲夫・小林 紀 温暖化防止への対応などの方策として、現行車の改善の ほかハイブリッド化や燃料電池の活用などが期待されてい る。このような異なるエネルギーやシステムを利用する自 動車間でエネルギー効率や CO2 排出を比較するには、走行 段階だけでなく、エネルギーの生産や輸送まで遡った評価 が必要となる。本稿では代表的なクリーンエネルギー車に ついて、エネルギーフロー全体から見た効率、燃費および CO2 排出についての評価を紹介する。 表1 検討の考え方 1.はじめに 温暖化防止への対応などを背景に、米国のPNGV (Partnership for a New Generation Vehicles)、欧州の3 リッターカー、日本の高効率クリーンエネルギー自動 車プロジェクトなど、高効率でクリーンな自動車の開 発が各国で行われている。それぞれの燃費は現行車の 2倍∼3倍を目標においている。この目標を達成する 候補としてハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池 自動車(FCV)などが挙げられている。 本稿ではこれらの代表的なクリーンエネルギー自動 車について、エネルギーフロー全体から見た効率、燃 費、C O 2 排出などを検討し、将来の自動車の方向を 探ってみたい。 ●検討車種 乗用車。ただし航続距離などの性能をクリーンエネルギー車と 現行車で等しくなるように仕様設定して比較していない。 ●評価モード 10・15モード ●検討対象の時期 現在∼近未来(2000年頃)および(2010年頃)の二時点で評 価する。 ・将来については、その時点で最良の技術を想定し評価する。 ●エネルギーの製造段階の効率 各種報告書をもとにまとめた。現在∼近未来ケースから将来ケ ースで見直したのはメタノールの転換効率のみ。発電段階につ いては現状のままとした。 ●走行段階の効率 ・ガソリン車およびディーゼル車の現在の効率は参考文献1)に よる。 ・ガソリン車およびディーゼル車の将来の効率はエンジンの直噴 化や無段変速機等により50%向上すると仮定した。 ・オットーサイクルのCNG車、メタノール車の車両効率は、ガ ソリン車と同等とした。 ・電気自動車と燃料電池自動車はモーターの効率向上、ハイブリ ッド電気自動車はモーターと内燃機関の効率向上を見込んだ。 ・電気自動車、ハイブリッド電気自動車、燃料電池自動車のエネ ルギー回生は現在∼近未来ケースで20%、将来ケースで30% と仮定した。 2.考え方 異なるエネルギーやシステムを利用する自動車間 で、エネルギー効率やCO2排出を比較することになる ので、走行段階だけでなくエネルギーの生産、輸送な どを含むエネルギーフロー全体で評価する。検討の考 え方を表1に示す。自動車の性能やエネルギー製造技 石油 99 採掘 95 99 G90,D95,発電99 海上輸送 精製 輸送 給油 15 ガソリン車走行 18 ディーゼル車走行 36 発電 97 石炭 採掘・微粉化 98 海上輸送 34 発電 41 発電 88 採掘・液化 天然ガス 64 採掘・変換 98 海上輸送 98 海上輸送 メタノール(米国) 22 HEV走行 94 送変電 89 充電 総合効率(%) 13 16 ガソリンEng発電 18 同量の一時エネルギーで 走行可能な距離 =燃費(ガソリン車=1) 一定距離の走行あたりの CO2排出量 (ガソリン車=1) 買電 22 化石燃料平均 24 47 76 90 水素製造 貯蔵 99 ガス化 輸送 FCV走行 98 圧縮 93 輸送 81 EV走行 術に関して、現在ケースと将来の効率向上を盛り込ん だ将来ケースの二時点を想定し、ガソリン車をベース に他の自動車を見ていく。今回の想定では、現在の 28 15 天然ガス車走行 13 15 給油 メタノール車走行 9 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 倍 5.EV,HEV,FCVはエネルギー回生を20%とした。 注) :1.ガソリン車走行、 ディーゼル車走行の効率は自動車工業会の推定による。 6.EVの重量増加は300kgとし、 自動車の燃費悪化は20%とした。 2.□の上の数値は各段階でのエネルギー効率で、右表の総合効率は各段階の数値の積。 HEV,FCVについては重量増加による影響は考慮していない。 3.EVのCO2排出量は日本の電源構成による。 4.HEVはシリーズタイプとする。 図 1 エネルギーフロー、総合効率、燃費、CO2(現在∼近未来) 10 ディーゼル車の走行の効率はガソリン車の1.2倍とし、 将来それぞれに直噴エンジン等の新技術が導入された 場合も相対的な関係は変わらないと仮定した。 3.結果 図1に現在ケース、図2に将来ケースを示す。 エネルギーフローの図で□の上にある数値は各段階で のエネルギー効率を示し、総合効率はこれらの数値の 積となる。総合効率の右にあるグラフで燃費、 CO 2 は、総合効率をベースに電気自動車 (EV) の重量増加や EV、HEV、FCVのエネルギー回生を考慮している。燃 費は同量の一次エネルギーで各車が走行可能な距離、 CO2は一定の距離を走行するときに排出される量でと もにガソリン車を1とした相対値で示している。 なおHEVは車輪をモーターのみで回すシリーズタイ プを対象としている。HEVなどでは電池重量などの具 体的な仕様によって評価が異なってくるのであくまで も参考値として見ていただきたい。 3-1. 現在∼近未来 HEV、EV、FCVの燃費性能は、ガソリン車に対し2 倍前後のポテンシャルを示している。CO 2 もHEV、 EV、FCVで半分以下に減少する。 現行のガソリンエンジンをベースにハイブリッド化 することにより高効率でクリーンな自動車となる。 天然ガス自動車(CNGV)は走行の効率をガソリン車 と同等と仮定しているが、このときCO2はガソリン車 の約7割に低減される。 3-2. 将来 車と位置づけられる。エネルギー源としては今回対象 とした水素のほかメタノールも考えられている。これ らのエネルギーは太陽電池やバイオマスなどのよりク リーンな再生可能エネルギーから製造することもで き、FCVは究極のクリーン自動車とも考えられてい る。ただし、ガソリン車の燃費が直噴エンジン等の新 技術の採用などにより向上することが期待されるの で、相対的な倍率は低くなる。今回想定した性能向上 では、将来のガソリン車およびディーゼル車の燃費ポ テンシャルは、現在のガソリン車のそれぞれ1.5倍、1.8 倍になる。ディーゼル車の排気、騒音・振動などの改 善が重要なポイントとなる。 HEVはエンジン発電が買電の効率と同等か、さらに 上回る可能性が示された。 4.今後に向けた期待 FCVなどのクリーンエネルギー車の性能向上ととも に、それらと競うように従来からあるガソリン車や ディーゼル車も向上していく。そして、時代の要求に 応じて適材適所で使われていくことが望ましい。 一方、高効率・クリーンエネルギー車の普及には、性 能向上と同時にコスト低減が不可欠であり、コスト低 減のための研究開発の推進が一層重要となる。 今後も新技術の動向などに注目し、将来の自動車の 方向性についての検討の充実を図っていく。 〈参考文献〉 1) 自動車のCO2排出検討会、自動車技術会 学術講演会 前刷集, No.996, 1996-10 将来的にもFCVは、効率が最も高くクリーンな自動 石油 99 採掘 95 99 G90,D95,発電99 海上輸送 精製 輸送 給油 23 ガソリン車走行 27 ディーゼル車走行 36 発電 97 石炭 採掘・微粉化 98 海上輸送 34 発電 41 発電 88 採掘・液化 LNG 天然ガス 70 採掘・変換 98 海上輸送 98 海上輸送 メタノール(米国) 30 HEV走行 94 送変電 89 充電 24 ガソリンEng発電 25 同量の一時エネルギーで 走行可能な距離 =燃費(ガソリン車=1) 一定距離の走行あたりの CO2排出量 (ガソリン車=1) 買電 25 化石燃料平均 27 50 76 90 水素製造 貯蔵 99 ガス化 輸送 FCV走行 98 圧縮 93 輸送 86 EV走行 総合効率(%) 19 29 23 天然ガス車走行 19 23 給油 メタノール車走行 15 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 倍 4.EV,HEV,FCVはエネルギー回生を30%とした。 注) :1.□の上の数値は各段階でのエネルギー効率で、右表の総合効率は各段階の数値の積。 5.EVの重量増加は300kgとし、 自動車の燃費悪化は20%とした。 2.EVのCO2排出量は日本の電源構成による。 HEVについては重量増加による影響は考慮していない。 3.HEVはシリーズタイプとする。 図 2 エネルギーフロー、総合効率、燃費、CO2(将来) 自動車交通 1998 11