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熱の異常輸送をめぐって
熱の異常輸送をめぐって 齊藤圭司 慶應大学物理学科 熱 と 物理学 熱力学 平衡状態における熱に 関する現象論 統計力学 熱力学を再現できるように 出来ているミクロな理論 平衡熱力学 カルノーの理論 絶対零度の存在 可逆、不可逆の概念 クラウジウスの定理 エントロピーの概念 Q S= T 統計力学と情報論の接点 シラードの熱機関 悪魔は情報を得ることで、ピストンに仕事をさせる。 kB log 2 kB T log 2 非平衡へ (今日の話題) 1) 熱はどう伝わるか? (エントロピーの拡散) 2) 情報はどう伝わるの? 3) 非平衡系では熱力学はあるの? ••• 目次 1. 線形非平衡現象 2. 熱拡散現象について 3. 異常輸送のミクロメカニズム: 確率モデルの導入 4. 厳密解 5. まとめ 1. 線形非平衡現象の基礎 ♦ 粒子、熱: 拡散方程式に従って拡散 x (t) 2 c t ♦ 拡散方程式、フーリエ則、フィック則 -粒子拡散- (x, t) =D t 2 (x, t) x2 -熱拡散- T (x, t) = t c フィック則 J(x, t) = フーリエ則 2 T (x, t) x2 J(x, t) = D (x, t) x T (x, t) x 2. 今日の話題:熱拡散現象について ♦ 熱拡散 TL TR フーリエ則 T (x, t) = t c 2 T (x, t) x2 J(x, t) = T (x, t) x ♦意外に理解されていない “It seems there is no problem in modern physics for which there are on record as many false starts, and as many theories which overlook some essen8al feature , as in the problem of the thermal conduc8vity of nonconduc8ng crystals” R. Peierls (1961) フーリエ則の意味するところ J= T (x) x ♦ 熱が拡散方程式に従って拡散する。(正常拡散) ♦ 熱流は温度のこう配に比例して流れる。 → 温度プロファイルは線形になる。 T (x) = x(TL ♦ 熱流のサイズ依存性は 熱伝導度は示強的 TR )/N + TR 1/N J := (TL J TR )/N const. でも、フーリエ則は意外にも破れる := (TL 例1:カーボンナノチューブ J TR )/N N 0.22 例2:グラフェーン ♦ Few-Layer Graphene ♦Crossover from 2D-3D behavior Balandin et al., Nature (2010) (熱)輸送現象には種類分けが必要 TL TR Le1 reservoir Right reservoir N := (TL J TR )/N N 弾道的輸送 (Ballistic Transport) 局在現象 (Localization) フーリエ則 (Fourier’s law) 0< <1 異常輸送 (Anomalous Transport) 理論的なアプローチ: 歴史 ♦ 調和格子モデル ♦ 不純物効果 ♦ 非線形効果(Fermi-Pasta-Ulam model) 調和格子モデル N H= =1 p2 + 2m Rieder, Lebowitz, and Lieb (1967) N 1 =1 k (x 2 +1 x )2 1. 温度勾配が形成されない 2. 熱伝導度はサイズに比例して発散 : 弾道的輸送 = (TL J TR )/N N : =1 不純物効果 Matsuda, Ishii (1972) N H= =1 p2 + 2m N 1 m =1+ =1 k (x 2 +1 x )2 or 1 1. 有限の温度勾配が形成 2. 熱伝導度は消失 : 局在 N : = 1/2 非線形効果(Fermi-Pasta-Ulam model) N H= =1 p2 + 2m N 1 =1 k (x 2 +1 x )2 + 4 (x +1 x )4 Lepri et al. PRL (1997) Dhar PRL (2001) Aoki, Kusnezov PRL (2001) Narayan, ramaswamy PRL (2002) Mai, narayan, Dhar PRL (2007) Saito, Dhar PRL (2010) … 1. 有限の温度勾配が形成 2. しかし熱伝導度はべき発散 : 異常輸送 N : ln N 0< <1 非線形効果 + 高次元 3D KS, Dhar PRL (2010) 異常輸送は低次元では普遍的に現れる。 3次元では正常輸送。 3. 異常輸送の現象論 ♦ 低次元系では、熱輸送は異常輸送 特徴1: 熱伝導度がサイズに対してベキ発散。 特徴2: 温度プロファイルが、非線形。特に両端付近で異常。 2 1D 特徴3: 温度の拡散が拡散方程式とは別。 Ti 1.75 1.5 1.25 1 0 0.25 0.5 i/N 問い: 異常輸送現象では、熱はどのように拡散しているか? フーリエ則に相当するものは何か? ミクロな拡散とマクロな熱流、温度プロファイルの関係は? 0.75 1 現象論的確率モデルの導入 ♦ 確率モデル: 粒子が熱の固まりとして考える。 正常輸送では、熱の固まりがブラウン運動 ↓ 異常輸送では熱の固まりがレビーウォーク 正常拡散 vs. レビーウォーク - 1次元の拡散 : ウォーカーが着地して向きをランダムにかえるまでの時間 ( ) ← 確率 n ♦正常拡散(ブラウン運動も含む): x2n 1 (t) = 0 ♦レビーウォーク : x2n < t c ( )= c 1 to (1 + t/to ) 2 < x2n 1 (t) = 0 x2 (t) c t3 +1 , 1< <2, c x4 (t) c t5 粒子浴を入れたレビーウォークモデル x=0 x=L L ♦ ダイナミクス 時間τで粒子が着地する確率 ( )= 1 to (1 + t/to ) +1 , 1< <2, 時刻t、場所xで着地する粒子密度 t Q(x, t) = 0 1 dt Q(x 2 vt , t t ) (t ) + P (x, t) = 0 1 dt Q(x 2 ♦ 境界条件 Q(x) = Ql x < 0 Q(x) = Qr x > L dt 0 時刻t、場所xでの粒子密度 t t vt , t t) t (t ) + 0 1 Q(x + vt , t 2 1 dt Q(x + vt , t 2 t ) (t ) t) (t ) = d t (t ) , ( ) 4. 厳密解 ♦ (密度)温度プロファイルの特徴 ♦ 熱流のサイズ依存性 ♦ その他、カレントゆらぎなど 密度(温度)プロファイル ♦密度(温度)プロファイル x , ,1 + , ) 2 2 2 L P (x) = BF (1 B = (Ql 超幾何関数 ( ) 1 L 2 ( /2) Qr ) ♦ レビーウォークモデル vs. FPU chain レビーウォークモデル FPU chainの熱伝導 2 1D 1.75 0.8 Ti P (x)/h⌧ i 1 L = 128[vto ] L = 1024[vto ] L = 8192[vto ] Exact 0.6 0.5 0 0.25 1.5 1.25 1 0.5 x/L 0.75 1 0 0.25 0.5 i/N 0.75 1 熱流のサイズ依存性 ♦ 熱流のサイズ依存性 -異常輸送現象を再現- J (Ql Qr ) L 1 =2 , . cf. ミクロの拡散とマクロな熱の振る舞いがつながる x2 (t) t3 c ♦ フーリエ則に相当するもの -熱の流れを支配する基礎方程式は非局所的- J= 1 2 Cf. フーリエ則 J= T (x) x L 0 dx (|x dP (x ) x |/v) . dx (t) = dt t d t ( ) 5. まとめ ♦ 異常輸送現象は 低次元では 普遍的に現れる。 ♦ 異常輸送を記述する、ミクロなメカニズムとしてレビーウォークを考えた。