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貧困プロファイル
要約
ラオス人民民主共和国
2003 年 3 月
国際協力銀行
貧困プロファイル
ラオス(要約)
第1章 ラオスの貧困概況
1.1
貧困と不平等の測定
ラオスにおいては、貧困指標ならびに不平等指標の測定に有効な調査として、1992/93 年、
1997/98 年に実施されたラオス支出消費調査(LECS I および LECS II)がある。本プロファ
イルにおいては、これらのデータおよびそれに基づく既存の貧困分析を踏まえて、ラオス
の貧困についての分析ならびに考察を行う。
貧困ライン
ラオス政府は、2002 年に、Kakwani らによる LECS I および LECS II に基づく貧困分析を
参考にして、食糧支出と非食糧支出の合計によって貧困ラインを定義している。このうち
食糧支出に関しては、国際機関の定義や他のアジア諸国の例に習って、1 人当たり 1 日に
最低限必要なカロリー摂取量を 2,100 kcal とし、貨幣換算している。Kakwani らは、ラオ
ス国民の代表的な食生活形態に基づいて食糧バスケットの品目内訳を設定し、地域別(ビ
エンチャン市、北部、中部、南部)および都市・農村別に、2,100kcal に相当する食料支
出額を推定し、これを食料貧困ラインとしている。非食糧支出額に関しては、地域別と農
村・都市部別に特定された食糧貧困ライン上の者が消費する非食糧支出額の平均値を適用
している。
1997/98 年の LECS II によると、貧困ラインは、都市部で 20,597 キップ、農村部で 19,718
キップとなっている。また地域別には、ビエンチャン市で 22,613 キップ、北部の都市部
で 19,550 キップ(農村部 17,253 キップ)、中部の都市部で 20,751 キップ(農村部 19,991
キップ)、南部の都市部で 19,476 キップ(農村部 19,015 キップ)となっている。
貧困指標
ラオスにおいては、世帯の総支出が貧困ライン未満の者を貧困者と定義している。全国レ
ベルで見ると、ラオスの貧困者比率は、1992/93 年(46.0%)から 1997/98 年(39.1%)に
かけて約 7 ポイント低下した。貧困ギャップ比率は、1992/93 年(11.2%)から 1997/98 年
(10.3%)と若干低下がみられただけで、二乗貧困ギャップ比率は変化していない。した
がって、1992∼1997 年にかけて、貧困者比率は改善したものの、貧困ライン未満にある
支出階層の支出レベルの向上にはつながらなかったとみられる。
都市部・農村部の貧困格差は、1997/98 年の貧困者比率で見ると、都市部で 22.1%、農村
部で 42.5%である。また、貧困ギャップ比率は、都市部で 4.9%、農村部で 11.4%となって
いる。これらの貧困指標は、1992/93 年から低下したが、都市部・農村部でほぼ同率で低
下したことから、その格差は著しいままである。
貧困の地域間格差は、1997/98 年の貧困者比率で見ると、ビエンチャン市が 13.5%、北部
47.3%、中部 39.4%、南部 39.8%となっている。一方、貧困ギャップ比率は、ビエンチャ
ン市が 2.8%、北部 13.9%、中部 9.7%、南部 10.0%となっており、二乗貧困ギャップも同
じような地域格差を示している。1992/93 年に比べると、貧困者率は全国で低下してきた
が、その低下率は、ビエンチャン市の年間 13.5%に対して、中部、南部では 3.6%、北部
では 2.1%に留まっている。また、貧困ギャップ比率および二乗貧困ギャップ比率に関し
ては、ビエンチャン市、中部、南部において低下したが、北部では増加している。北部で
は、最も貧困率が高いうえ、貧困の深度、重度とも悪化しており、貧困の地域間格差は拡
大している。
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貧困プロファイル
ラオス(要約)
不平等指標の推移
全国レベルの不平等指標を見ると、ジニ係数は、他のアジア諸国に比較して高くはないも
のの、1992/93 年(0.34)から 1997/98 年(0.38)に増加している。また、同期間に下位 10%
層の消費シェアは減少している一方で、上位 10%層の消費シェアが増加していることが、
ローレンツ曲線の推移からも読み取れる。全国的にジニ係数が悪化しているが、特に北部
の都市部、農村部において顕著であった。これは、インフラの整備状況により、市場への
アクセスに格差が生じ、その結果、経済成長の分配に影響したものと考えられる。
1.2
社会経済指標の測定
基礎インフラストラクチャーへのアクセス
安全な水へのアクセスは、都市・農村間で格差が大きい。1997/98 年の安全な水へのアク
セスが確保されていた人口比率は、ビエンチャン市 89%、都市部 77%、農村部 45%であっ
た。これは、都市部では住居内の水道栓や井戸が比較的普及しているのに対して、農村部
では表層水に依存している割合(32.7%)が高い結果である。地域間格差も著しく、特に
北部の中国、ミャンマーとの国境地帯では、表層水に依存している割合(43.9%)が最も
高くなっている。貧困層が多い地域において、安全な水へのアクセスが限定されており、
全国的に貧困層は非貧困層よりも安全な水へのアクセスが低くなっている。また、衛生施
設に関しては、アクセスが確保されていた人口比率は、2000 年に、全国で 37.3%、都市
部で 67.1%、農村部で 19.0%となっており、特に農村部で衛生面のリスクが高いと考えら
れる。
電力については、国内に石油資源を持たないため、ほとんどが水力発電に依存している。
国内の農村電化は遅れており、電化率がビエンチャン市で 100%、全国の都市部で 91%で
あるのに対して、農村部では 19%に留まっている。地域格差も著しく、特に、北部や南
部の農村部で電化率が低い。これらの地域では、小規模水力発電、ディーゼル発電や車の
充電器を使用できる場合を除いて、ほとんどが石油ランプなどを使っている。また、貧困
層の電化率は、非貧困層と比べると半分以下に留まっている。ラオス政府は、農村電化を
食糧増産、農業・その他産業の促進、ひいては生活水準の向上の観点から重視しており、
対策プログラムを実施している。
交通については、90%を陸上交通に依存しているため、道路インフラの重要性が高い。し
かし、道路網の密度は他の近隣諸国と比較しても低く、道路の整備が遅れているうえ、雨
期には通行不可能な道路が多い。特に、北部の山岳地帯では道路の整備が進んでおらず、
地域間格差が生じている。貧困層と非貧困層の道路へのアクセスの格差は、乾期にはあま
り見られないが、雨期になると拡大し(貧困層 38%、非貧困層 62%)
、貧困層の経済活動
に影響を及ぼすと考えられる。こうしたことから、ラオス政府は、道路整備を貧困削減の
ための優先事業としている。また、バスなどの定期的な公共交通機関へのアクセスが確保
されているのは、全国人口の 50%程度ほどに留まっており、特に、北部と南部では、40%
程度と低くなっている。貧困層の公共交通機関へのアクセスは、非 貧困層の半分程度であ
り、その格差は拡大傾向にある。
産業構造と雇用機会
ラオスの産業構造において、都市部を中心にサービスセクターの拡大が進んでいるもの
の、依然として、農業セクターが GDP の 50.8%、全雇用の 85.5%以上を占めている。メ
コン河流域を中心とした一部の平野部では、灌漑施設導入などによって農業生産性が向上
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貧困プロファイル
ラオス(要約)
しており、市場指向型農業への移行が見られるが、大部分の地域では、伝統的な自給自足
型農業が営まれている。自給自足型農業がみられる地域では、道路や灌漑設備が整備され
ておらず、生産性が低い。特に、北部の山岳地帯で営まれている伝統的な移動式焼畑農業
は、近年の人口圧力により休耕期間が短縮され、土壌劣化や浸食により生産性が低下する
などの問題を抱えている。これらの自給農業者にとっては、貧困状況が厳しくなっている
と見られる。
教育
教育は、貧困削減のための重要な要素である。ラオスの教育水準は 1990 年代に飛躍的な
向上をみせ、2001 年の純就学率は、初等教育(6~10 歳)で 80%、前期中等教育(11∼13
歳)で 50%、後期中等教育(14~16 歳)で 25.6%となっている。しかし、これらの指標は
周辺国に比べて低く、いっそうの基礎教育の拡充と質の向上、教師の育成などが課題と
なっている。
貧困層、非貧困層の教育指標には格差が見られ、成人識字率で、それぞれ 57.1%、74.5%、
平均学校就学年数で、それぞれ、3.0 年、4.8 年となっている。また、学校へのアクセスが
確保されているのは、貧困層で 43.0%、非貧困層で 55.6%となっている。
教育サービスの普及は、都市部に比べて農村部で低い。また、北部と南部の州で特に低く
なっており、貧困指標の高い地域と一致している。これらの地域では、退学率や留年率も
高くなっている。全国の村落のうち 85%に小学校が設置されているものの、すべてのカ
リキュラムを指導できる教員が確保できないため、学年が上がるにつれて、教育へのアク
セスが低下することに起因している。
保健
基礎的な保健水準は、過去 20 年で大きく向上したが、近隣諸国と比較すると依然として
低い。特に、乳児死亡率(82.2/千人)、妊産婦死亡率(530/10 万人)などの指標が非常に
高くなっている。乳幼児死亡率が高い原因は、新生児破傷風、マラリア、下痢などの感染
症や栄養不良にある。妊産婦死亡率が高い原因は、助産婦の介助なしで自宅で行われる分
娩の比率が 86.1%と高いことなどが挙げられる。保健指標の水準は、特に農村部や北部地
域で低くなっている。
病院へのアクセスが確保されているのは、貧困層で 84.2%、非貧困層で 95.7%となってお
り、格差が見られる。その他の医療施設や医療従事者へのアクセスに関しても、貧困者の
方が低い。保健医療施設へのアクセスは、都市・農村格差、地域格差が著しい。保健セン
ターが 4km 以内にある人口比率は、都市部で 78%であるのに対して、農村部で 54.7%、
中部・南部で 74∼75%であるのに対して北部で 38%となっている。また、病院が 4km 以
内にあるのは、都市部で 70%であるのに対して農村部で 21%、中部・南部で 47∼48%で
あるのに対して、北部で 14%となっている。保健医療施設の整備が遅れているこれらの
地域では、伝統的医療法などを含む民間療法に依存している。
1.3
ラオスの貧困の特性
貧困の要因
本報告書では、Kakwani らによる LECS II の分析結果を参考に、全国の世帯の支出水準(世
帯の支出/貧困ラインの割合)と社会経済指標との相関性を検証した。
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貧困プロファイル
ラオス(要約)
支出水準と有意な相関関係を示したのは、世帯規模(負:p<0.01)、世帯規模の 2 乗(正:
p<0.01)、0-6 歳の子供がいる世帯(負:p<0.01)、世帯主が女性の場合(負:p<0.01)、世
帯主の年齢(正:p<0.05)、世帯主の年齢の 2 乗(負:p<0.05)である。そのほか、世帯
主の就学年数(正:p<0.01)、世帯主が雇用者(正:p<0.01)および自営業者(正:p<0.01)
の場合、モーターバイク、トラクター、ボートなどの資産へのアクセス(それぞれ、正:
p<0.01)、薪(正:p<0.01)、水道栓(正:p<0.05)、道路(正:p<0.1)へのアクセスなど
が、支出水準と有意に相関している。
ラオス固有の貧困層
ラオス固有の貧困層として、「少数民族」、「土地配分による貧困層」、「アヘン中毒者を持
つ世帯」があげられる。
少数民族:ラオス固有の貧困層として、チベット・ビルマ族、モン・クメール族、ホン・
ミエン族などの少数民族が挙げられる。ラオスの人口は、民族・言語グループに基づき大
きく 4 分類することが可能で、人口に占める割合が多い順に、タイ・カダイ族(67%)、
モン・クメール族(24%)、ホン・ミエン族(8%)、チベット・ビルマ族(3%)となって
いる。貧困者比率は、多数民族のタイ・カダイ族に比較すると、少数民族のチベット・ビ
ルマ族、モン・クメール族、ホン・ミエン族で著しく高くなっている。教育水準について
も、タイ・カダイ族の識字率が 72.8%と高いのに対して、チベット・ビルマ族で 0.7%、
ホン・ミエン族で 26.5%、モン・クメール族で 36.9%と低い。これらのことから、ラオス
では、少数民族が貧困者である可能性が高いと考えられる。
土地配分による貧困層:ラオスでは、1989 年以降、国民に土地の占有権と使用権が認め
られたが、その結果、非効率で不公正な土地配分を招き、農村の貧困の要因となっている。
土地の占有・使用権の導入は、当初、村の住民による参加型土地利用計画の策定を通して
森林の不法栽培を防ぐ目的があったが、現在は、移動型の焼畑農業従事者を定住化させる
目的に変化してきている。しかし、プログラムの実施にあたって、行政官により実施方法
が統一されていないことから、配分される土地の面積や生産性が異なることが多く、水へ
のアクセスなどにも格差がある。そのため、不公正な土地配分を避けて移住し、新たな場
所で焼畑を再開するケースも多く見られる。その結果、十分な休耕期間を経ずに米を栽培
するために土壌劣化や侵食が発生し、さらに収量が減少し、自給をすることも困難な状況
に陥るなど、貧困層がさらに貧しくなるという悪循環をもたらしている。
アヘン中毒者を持つ世帯:ラオスは、世界でも有数のケシ栽培国である。ラオス政府は
1998 年にケシ栽培を禁止したが、2000/01 年の栽培面積は全国で 17,255ha であったとされ
ている。地域別には、北部で 15,086ha、中部で 2,169ha となっており、アヘン中毒者も北
部・中部に集中している。アヘンは、貧困層にとって収入源になる一方で、アヘン中毒者
を発生させ、労働力を失わせるなど、貧困の原因を作り出している。
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貧困プロファイル
ラオス(要約)
第2章 ラオス政府の取り組み
2.1
貧困問題を取り巻く経済環境
マクロ経済政策:市場経済化と安定化政策
ラオスでは、1975 年の社会主義革命以降、中央集権的な計画経済体制の導入が図られた
が、1980 年代、旧ソ連の体制移行と外国投資主導による ASEAN 諸国の経済成長に影響
され、新経済メカニズム(NEM: New Economic Mechanism)を導入し、市場経済化を促す
ことになった。NEM 導入以降、1990 年代後半までマクロ経済は安定成長基調にあったが、
財政面では、社会主義的な体質が残り、財 政赤字の悪化や、対外債務の依存が強まるなど
の問題を抱えていた。市場経済化を決定づけたのは 1997 年の ASEAN 加盟であり、ラオ
スは域内自由貿易を目指す AFTA に加盟し、2015 年を目処に、段階的な関税撤廃に合意
した。
1997 年の ASEAN 加盟直後にアジア通貨危機が勃発すると、影響を受けたラオスは、安
定した自国経済の発展と、貿易自由化を両立して進めるにあたって、多くの課題に直面す
ることになった。財政・金融政策を効果的に発動できず、為替の下落やインフレの急上昇
を招いた。2000 年までに、緊縮財政が功を奏し、マクロ経済は安定化し始めているが、
国内経済基盤が脆弱であるラオスにとって、関税引下げによる税収の減少や、輸入拡大に
よる貿易赤字の悪化が懸念されている。そのため、税制改革や、国内産業の育成、競争力
の強化が必要とされている。
経済成長と所得配分
過去 10 年間のラオス経済は、アジア通貨危機の影響を受けながらも、実質 GDP 成長率
5.7%を達成した。ラオスの高成長を支えたのは、ASEAN 諸国の高成長に牽引された、商
業および運輸・通信を中心とするサービス部門である。また、タイや米国などからの外国
投資に支えられ、製造業の伸びも顕著であった。しかし、これらの高成長部門は、市場へ
のアクセスがよい都市部に限定されており、国民の大多数が居住する農村部への波及効果
はほとんど見られなかったといえる。GDP シェアで 50%以上を占める農業部門は、灌漑
の整備や機械化などの近代化が進んでおらず、過去 10 年間の実質成長率は 4.4%と経済全
体の成長率を下回っている。
1992/93 年と 1997/98 年のデータを基に、Kakwani らが行った経済成長と貧困に関する分
析によれば、この時期のラオスの経済成長は、貧困率および貧困ギャップ比率の改善に貢
献しているが、同時に不平等の度合いが増したことから、経済成長による貧困削減への効
果は、理論値よりも減じられている。地域別に見ると、経済成長による不平等の悪化は貧
困率の高い北部地域で特に高く、貧困ラインから乖離の激しい極貧層に対しては経済成長
のプラスの影響よりも不平等の悪化というマイナスの影響のほうが大きかったといえる。
都市および農村のそれぞれにおける経済成長の「分配」の状況をみると、貧困層の間では、
農村部よりも都市部において不平等を悪化させやすい。
農村の経済構造と貧困
マクロ経済の成長が、貧困層の間で不平等を悪化させ、極貧層へ対するマイナスの影響が
大きかった要因は、貧困層の大半が属する農村の経済構造にある。農村に住む人々の生活
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貧困プロファイル
ラオス(要約)
は、米の自給自足が中心で、基本的に貨幣を介さない物々交換で行われることが多い。こ
うした農村の経済構造は、マクロ経済成長の効果が農村経済の向上につながりにくい原因
となっている。これらの農村の多くでは、道路や灌漑などのインフラが未整備であること
が多く、実態のある貧困削減を実現し、成長の分配を広く農村部に広げていくには、孤立
した農村経済の市場へのアクセスを向上させる必要がある。
ラオスの農業セクターは、国家経済の中で非常に大きいものの、これまでラオス政府から
「インフォーマルセクター」として位置付けられてきた。農村での雇用機会、収入源など
の状況は把握されておらず、貧困削減としての所得向上および雇用対策は行われていな
い。さらに、農業民営化の一環である土地配分が効果的に行われなかったため、農地が非
効率に細分化されてしまうなどの問題も生じており、農村の所得獲得機会の拡大に結びつ
いていない。今後は、農村の多様性に配慮しつつ、インフラ整備を含め、実効性のある農
業セクターの構造改革を進めていくことが求められる。
2.2
貧困問題をめぐる諸政策
国家開発計画における貧困削減政策の位置づけ
ラオスでは、1996 年の第 6 回人民革命党党大会において、2020 年へ向けた国家開発の長
期目標が採択され、これに沿って 5 ヵ年ごとに国家社会経済開発計画(NSEDP)が策定
されている。しかし、生産統計や労働統計が未整備なことや、計画立案に必要な人材が不
足しており、開発ニーズに即した計画策定は困難な状況にある。また、地方分権化が進め
られているものの、効率的な地方分権制度の構築が遅れており、問題を抱えている。
1996 年に採択された国家開発の長期目標には、2020 年までに「後発開発途上国」(LDC:
Least Developed Countries)から脱却することが掲げられ、この目標の達成は、「公平な経
済成長による貧困撲滅」をもたらすとされている。長期目標に向けて、段階的な市場経済
への移行過程が採択され、この中で 8 つの国家優先プログラムが決定されている。NSEDP
2001∼2005 では、2005 年までに GDP 成長率を 7.0∼7.5%とし、一人当り GDP を 500~550
ドルに引き上げることを目標としている。
政府予算と公共支出
ラオスの政府予算は、経常予算と開発予算の 2 つに大別される。開発予算は計画・協力委
員会(CPC)によって、毎年、公共投資プログラム(PIP)として策定され、経常予算は
財務省によってまとめられるが、両予算の調整が制度化されていないために、財政赤字な
どの原因となっている。他方、地方分権化に伴って、各州からのボトムアップ型の予算策
定が進められているが、国家レベルでの予算がきちんと策定されておらず、地方自治体の
ニーズとの調整が行われていない。また、財政の地方分権化についても制度化が遅れてい
るため、州レベルの税収、中央への歳入移転などに関する問題が残っている。こうした課
題は、開発プロジェクトの実施を遅らせ、プロジェクトの実効性を低下させる一因となっ
ている。
政府歳出の配分は、農業、工業、運輸・通信を含む経済セクターが最も大きなシェアを占
め、教育支出などを含む社会セクターは減少傾向にある。PIP の資本支出においても、経
済セクターが最も大きなシェアを占めているが、社会セクターの割合が増加傾向にある。
貧困撲滅が政策目標として掲げられたのを反映して、農業・農村開発や教育分野への支出
は増加しているが、財源はドナーからの援助資金に依存しているのが現状である。
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社会政策の貧困層への影響
貧困層への影響が大きいと見られる社会政策としては、「教育における戦略ビジョン
2020 年」、「保健戦略 2020 年」が挙げられる。
「教育における戦略ビジョン 2020(The Education Strategic Vision Up to the Year 2020)」は、
ラオス教育省とドナー間で、今後の教育分野支援を検討する基礎戦略として策定された。
長期的目標としては、国民の基礎教育へのアクセスの向上、初等教育および前期中等教育
の就学率の向上および識字率の向上が掲げられている。基礎教育へのアクセスが限定的な
ことに加えて、教育水準の地域間格差が大きいことが課題となっており、通える範囲に学
校がない村落に対する小学校建設に注力している。戦略目標の達成のためには、十分な教
員の確保、少数民族・女子の就学率の向上、教育省および地方教育行政機関の計画策定能
力、実施能力の向上が課題となっている。
「保健戦略 2020 年(Health Strategy up to the Year 2020)」は、2020 年までに国民すべてに保
健サービスを提供することを掲げた国家目標の達成に向けた基本概念、中長期の保健目
標、優先プログラムなどを含む、保健分野の基本開発戦略である。現状では、保健戦略の
目標を達成するための具体的なアクションプランを策定し、実施することが強く求められ
ている。
貧困削減に向けての政策的枠組み
ラオスでは、コンセンサスに基づく政策策定が目指されており、州・郡・村レベルの行政
機関や大衆組織の参加が重視されている。CPC は、PRSP 中間報告書(I-PRSP)を 2001
年 3 月にまとめた。I-PRSP では、貧困の状況、貧困削減政策の枠組み、貧困削減の優先
分野、最終版 PRSP の検討過程がまとめられている。ここでは、地方自治体のレベルで的
確な貧困モニタリングが行えるよう提言され、貧困の指標については、1997/98 年の LECS
から Kakwaniらが算出したものを参考にすることが言及されている。PRSP 最終報告書は、
国家貧困撲滅計画(NPEP)として、今後実施すべき具体的な貧困削減のプログラム及び
プロジェクトを盛り込んだものとなる予定である。2003 年 3 月に公式に発表される予定
であるが、作業の進捗は遅れている。
2.3
貧困削減プログラム
麻薬規制プログラム(Drug Control Programme)
ラオス政府は、アヘン生産が、貧困の原因であり、貧困の結果でもあるとして、アヘン生
産から他の農産品への転換を図るアヘン規制プログラムを行っている。アヘン生産は北部
の貧しい農村の現金収入源となっているが、ラオスでは、年間 123t と推定されるアヘン
生産のうち、57%が国内で消費されており、そのうち 40%はアヘン中毒者により消費さ
れている。このため政府は、アヘン生産を公式に禁止し、2000 年から UNDCP の支援を
受けて、麻薬規制プログラムを実施している。現在、2006 年までにアヘン生産を撲滅す
ることを目標とし、インフラ整備などを通じて代替的な収入源の確保を行っているほか、
コミュニティでの啓蒙活動、中毒患者のリハビリテーション、法尊守の徹底などに取り組
んでいる。
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貧困プロファイル
ラオス(要約)
マイクロファイナンス
ラオスでは、農村部に資金需要が存在しながら、貧困層の零細な生産・商業活動を支援で
きる金融システムが存在しない。これは、農村での平均借入額が約 300 ドルと小額である
一方で、管理コストが割高なことが原因である。このため、これまでに政府の農業普及銀
行(APB: Agricultural Promotion Bank)支援をはじめ、ドナーや国際 NGO が様々なマイク
ロファイナンス・プロジェクトを支援してきた。現在、これらのマイクロファイナンス機
関が、財政的に自立性を高めることが重要な課題となっており、ADB や UNDP などのド
ナーが中心となって、人材・資金支援を行っている。
不発弾除去プログラム
現在ラオスには、ベトナム戦争時に投下された多くの不発弾が残り、多数の死傷者が出て
いることから、人的損失を引き起こしているうえ、農村開発に関連するセクターで大きな
障害となっている。これが直接的にも間接的にも貧困の原因となっていることから、
UNDP や UNICEF などのドナーが支援し、不発弾除去プログラム(UXO プログラム:
Unexploded Ordnance Decontamination Programme)が実施されている。全国 15 州で不発弾
が確認されており、特に南部と中部の 8 州に集中している。現在、UXO プログラムは、
プログラム自体の長期的な持続性を重視する時期に入っており、主にラオス国内の人材・
能力育成に重点が置かれている。
森林活用型農業開発プロジェクト
焼畑農業が盛んな北部の農村では、人口の増加によって、食糧需要が増加し、焼畑の休耕
期間が短縮する傾向にある。耕地の過剰な利用は、農業生産性の低下や環境悪化などの問
題を引き起こしている。これは、自給自足型農業で生計をたてている貧困層に悪影響を及
ぼすため、これまでに、焼畑農業の常畑化プログラムが実施されてきた。しかし、従来の
プログラムは、農業に重点を置いており、その他の農村資源が適切に活用されてこなかっ
たことが指摘されている。代替策として計画された「森林活用型農業開発」は、単なる焼
畑農業の常畑化だけでなく、灌漑水を使って、水田や果樹栽培を導入し、水資源や森林資
源の利用を最大化させ、持続性を高めるために計画されたコミュニティー・ベースの参加
型プロジェクトである。タイにおいて、同プロジェクトを成功させた経験を持つ国際 NGO
によってパイロットプロジェクトが実施されており、ラオスでも適用可能か注目されてい
る。
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貧困プロファイル
ラオス(要約)
第3章 貧困削減に向けた国際協力
3.1
援助の概況
援助額・重点分野の推移と主要ドナー
ラオスの純援助受取総額は、1990 年代前半に約 1.4 億ドルから約 3.3 億ドルに増加し、こ
れはラオス GDP の 15%∼18%を占める規模であった。1997 年のアジア通貨危機の影響を
受けた後、援助額はやや低下傾向を示しているが、ラオスの経済成長が鈍化したことから、
GDP に占める割合は逆に増加している。
1990 年代前半の援助は、主に、運輸やエネルギーセクターからなる経済インフラ分野へ
向けられ、社会インフラへ分配される割合は減少傾向にあった。1998 年以降、日本を除
くすべてのドナーが援助額を削減し、日本は総援助の 40%を占めるトップドナーとなっ
ている。援助分配の構成も変化し、1998∼1999 年には、経済インフラの占める割合が減
少する一方、主に医療保健、教育、水・衛生、政府・市民社会支援などの占める割合が急
増している。
ラオス援助の主要なドナーは、ADB、WB、日本のほか、IMF 、UNDP、WFP、スウェー
デン、ドイツ、フランス、オーストラリア、そして国際 NGO などがある。いずれの主要
ドナーも、貧困削減を支援しており、そのための技術協力や資金援助を実施している。1990
年代の後半には、UNDP がコーディネーションを努める円卓会合(RTM:Round Table
Meeting)や国連国別チーム(UNCT: United Nations Country Team)会合が開催されるなど、
政府・ドナー間の協調体制が本格化した。貧困削減に向けての協調体制は、RTM を拡大
したラウンドテーブル・プロセス(RTP 2000-02)が中心となっている。
3.2
貧困削減に向けた取り組み
国際機関
国際通貨基金(IMF):IMF は WB や ADB と連携しながら、PRSP を基盤として、ラオス
の貧困削減に取り組んでいく方針である。2001 年 3 月に I-PRSP が完成すると、4,000 万
ドル相当の PRGF 融資を行うことを決定した。PRGF の目標は、「マクロ経済安定政策と
公正な経済成長による貧困削減」であり、具体的な重点分野は、i) 税制改革などを中心
とした財政引き締め、ii) 国営商業銀行のリストラクチャリングを初めとする金融セク
ター改革、iii) 民間セクターの活性化、iv) 公共投資管理の向上、となっている。
世界銀行(WB):WB は、PRSP の完成まで、1999 年 3 月に作成したラオス国別支援戦略
(CAS 2000-01)に基づいて支援を行う方針である。WB の支援目的は、i) マクロ経済安定
化と構造改革、ii) 経済成長への復帰、iii) 社会サービスの普及とインフラ整備、iv) 潜在
的生産力の実現である。また、これらの目標達成のために具体的な優先分野として、保健、
教育セクター、 農村開発、天然資源管理などを掲げている。また、貧困削減を目的とし
た貧困削減基金プロジェクトを実施している。
アジア開発銀行(ADB):ADB はラオス政府と長・中・短期目標について合意する「貧困
削減パートナーシップ合意」を結んでおり、「コミュニティーレベルで貧困層の参加と機
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貧困プロファイル
ラオス(要約)
会を広げることによって達成する貧困削減」を目標に、ラオス支援政策を立てている。具
体的には、i) 持続的な経済成長、ii) 包括的(inclusive)な社会開発、iii) グッドガバナン
スを掲げ、農村開発、人的資源開発、環境管理、民間セクター育成、地域経済統合、ガバ
ナンスと人材育成、などに支援の重点を置いている。また、ADB は 2000 年に参加型貧困
調査(PPA)を実施し、農村の貧困層、国家公務員、統計局の職員、大衆組織、そして学
識経験者との協議を通じて、 貧困要因や政策案の評価を行っている。ADB は、幅広いド
ナーと協調融資の機会を話し合うなど、ラオスのドナー協調において、中核的な役割を果
たしている。貧困削減を目的として、焼畑農業の常畑化(Shifting Cultivation Stabilization)
プロジェクトを実施している。
国連開発計画(UNDP): UNDP のラオス支援は、貧困削減を主要目的とし、i) ガバ
ナンス、ii) 生計と環境、iii) 開発資源確保・ドナー協調、iv) 不発弾撤去、の 4 分野
に重点を置いている。UNDP の支援政策は、他の国連機関と同様に、人権の尊重を基本
アプローチとしており、これは貧困削減のアプローチにも反映されている。また、政府と
ドナーの協調を円滑にするため、RTP や UNCT 会合などのコーディネーションに力を入
れており、ADB とともにドナー協調において中核的な役割を果たしている。
二国間援助機関
国際協力事業団(JICA):JICA のラオス援助は、i) 人材育成、ii) 基礎的人間ニーズの充
足、ⅲ) 農林業の振興、ⅳ) 社会・産業基盤としてのインフラとエネルギーを優先分野と
している。 これまでに、ラオス政府の「総合農業開発マスタープラン」や「保健マスター
プラン」策定を支援してきた。また、2002 年には、「経済政策支援」の中で貧困削減政策
作成への支援を行っている。
スウェーデン国際開発庁( SIDA)
:SIDA は、ラオス国別開発協力戦略( CSDC 1999-03)
を作成し、支援目標に、i) 貧困削減と格差是正のための持続的な成長、ii) 民主主義
の発展と人権尊重、を掲げている。主に農村の貧困削減に重点をおき、道路と天然資
源セクターに重点を置くとしている。そのほか、UNDP と協調して法制度整備の支援プ
ログラムや、不発弾除去のための支援を実施している。
NGO
ラオスの短い歴史の中で市民社会の発達は限定的なものに過ぎず、ラオスの国内 NGO の
活動はあまり活発ではない。一方、ラオスには、憲法で公認されている「大衆組織」とよ
ばれる団体が NGO を代替して、大規模な草の根活動を展開している。大衆組織は、PRSP
の策定過程において市民参加を促進するための中核的な枠組みとして位置付けられてい
る。その他、国際 NGO は、1986 年に新経済メカニズム(NEM)が採択されてから急激
に増加し、1999 年の援助総額は 1,200 万ドルとなっている。国際 NGO の中には市民参加
や自立支援を促進するために、現地の人材育成を行い、現地化を進める傾向が見られる。
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