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第 10 章 英国における環境関連組織の現況と課題調査 - C-faculty
第 10 章 英国における環境関連組織の現況と課題調査 -ポーツマス大学経済学部ならびに環境デザイン管理学部と ワイト島観光局での実態調査報告(2007/3/8-3/14) 中央大学経済学部教授 10.1 薮田雅弘 目的と課題 英国におけるグリーンツーリズムを通じた地域開発,地域計画のあり方に関する実態調査を行 なうために,表記の調査を企画・遂行した.昨年度のカナダにおけるグリーンツーリズムの展開 調査に加えて,今回の英国ワイト島調査等によって,地域の開発・発展を如何に持続可能なもの にするのか,その方法を巡って,持続可能な観光開発と地域のあり方についての機知を得ること を目的に調査を行なった.課題は,ワイト島という島嶼であるが故に閉鎖体系にある特定地域に おいて,どのような管理・運営が行なわれているのかという点である.また,ワイト島と密接な 関係にある(対岸にある)ポーツマス大学は,地域開発や環境デザインに関する研究を行なって おり,とくに大学院でエコツーリズム専攻をもっている.そうした大学の地域に対して果たすべ き役割を軸に,あるべき大学の姿を模索することもまた今次調査の目的である. 10.2 スケジュールの設定 今回調査については,極めて限られた期間設定の中で調査を行なう必要があった.とくに土曜 日,日曜日をはさむ日時設定は当初避けようと考えたが,調査者の大学の都合によってやむなく 本日程のように調査せざるを得なくなった.当然ながら,土日は,役所ならびに大学は完全に休 みであって,それを除くスケジュールでの二つの学部,観光局への調査訪問となった.限られた 日程ではあったが,十分な意見交換,議論が出来たと考えている.また,観光調査という目的も 幸いし,土曜日および日曜日を利用して,ワイト島を含む二つの観光地を実態調査することが出 来た.他の一つは,コッツウオルズ地方である.20 年前筆者が英国ロンドン大学滞在中には,あ まり観光地として知られていなかった地方であるが,いまや英国内でも周知の観光地となった理 由を探るべく出かけた.ロンドンの西方,バスで 2 時間あまりのコッツウオルズ地方は,かつて 繊維産業で栄えたが,重工業による産業革命の波に取り残され,その結果,蜂蜜色の壁をもつ古 い伝統をもつ家並みが残り,最近,ロンドンの喧騒を逃れる人々やリタイアした人々のあこがれ の地になっているという.たしかに,古きよき伝統をもち芸術の香りもする自然豊かな田舎町で はあるが,課題もいくつか散見された.当地の観光開発に関しては,①観光地化される傾向によ って伝統が見せかけのものになっている点-つまり,居住者というよりも観光客のための街づく りになっている傾向,②車を中心としたコントロールが困難で,町によっては混雑や安全上の課 題が生じている点,③全体として,観光地価格が高騰している問題,④高齢者の観光客にとって は困難な状況が見受けられる(交通,情報)問題,など多くの課題があるように見受けられた. 116 特に,英国では,伝統的に 20 世紀の早い時期に設定されたバカンス法のもとで,2 週間という 長い期間の休暇をとることが権利として確立しており季節的な集中が指摘されてきたが,最近で は,休暇の分散化などがあり,観光のありかたも短期滞在型になりつつあるという.この意味で も,観光サービスの需要者および供給者の変質が生じつつあることは疑い得ない.ゆったりとし た滞在型ではなく,一定の目的に特化し,家族で享受するサービスも変化しているという.後述 するワイト島における観光開発も同様であって, 一般的な傾向として危惧されるべき点である(ワ イト島観光局の人によれば,コッツウオルズに比してはるかに優れた点が多くあるということに なるが,たしかに人気があることと,実態が伴うことは別の問題であるように思われる). 10.3 基本的な調査事項と調査対象のまとめ ここでは,今回の主目的であるワイト島における持続可能な観光と地域計画の関係に絞ってま とめておく. ワイト島における観光を含む持続可能な発展にむけた地域計画は,Isle of Wight ‘Area of Outstanding Natural Beauty Management Plan’ 2004-2009 という報告書でまとめられている.まず, その概要をまとめ,その上で持続的な観光開発をめぐるヒアリング調査の結果を示そう. 概 10.3.1 要 上記の AONB の管理・運営に関する概要は以下の様である. □ AONB は,固有の特性を持つ景観の混合体である.2000 年の田園地域および交通権利法(The Countryside and Rights of Way Act;CRoW Act)は,英国及びウエールズにおける AONBs の管 理および保全にとって多大な貢献を与えた. □ 2002 年に,IoW カウンシルと田園地域庁(the Countryside Agency)によってワイト島 AONB パ ートナーシップが設立された. □ IoW における AONB の管理・運営プランは,現況を分析し,直面する脅威を明らかにするこ とで,2025 年のビジョンを提供しそのために必要とされる政策を提示することである. □ IoW における AONB の管理・運営プランは,関係する全ての人がなすべき必要な事項を与え る. □ 2025 年の目標像としては, ① 重要で価値ある景観であって,人々が生活し仕事し訪問することに価値が見出されうるこ と ② 自然的歴史的な環境や景観の情報に基づく意思決定や政策が,IoW の特性を保全し強化す ること ③ 農業や森林管理が AONB の中心であって,地域の加工施設や市場が所得を生み,AONB の保全強化をもたらす農業や用地管理を持続可能なものにすること ④ 習慣,伝統および方言や地方名称の存続が地域の生活の質や訪問者の体験の質を向上させ ること ⑤ AONB に配慮され導入される新たな技術が経済的社会的便益をもたらし特別の環境質を 117 もたらすこと ⑥ 公共交通機関や自動車以外の交通機関の利用,ならびに地域内での財サービスの利用が私 的な自動車利用を抑制すること ⑦ 経済的便益が持続可能な観光や事業活動によって直接に地域にもたらされること などの点が挙げられている.さらに,以下に幾つかのポイントを示す. □ AONB は,国立公園および田園地域アクセス法(the National Parks and Access to the Countryside Act,1949)により規定されており,イングランドおよびウエールズにおいて,景観が将来世代 のために保全に値するとみなされる場所は 41 箇所ある. □ AONB に関する法規上の義務:国家計画政策要綱(Government Planning Policy Guidance)によれ ば,地方政府当局は地域の美しい自然を保全するよう地方計画を立案し開発規制を行なわな ければならない. □ CoRW Act は,あらゆる政策当局と法律に規定された AONB と関係する遂行者に対して義務 を課し,プロセスを立案し,地方当局や保全部署に対して AONB の管理計画を策定し定期的 にレビューする責務を求めている □ 管理計画(Management Planning)が必要な理由は,法的な要請とともに,あらゆる関係団体が長 期的なビジョンをもって行動する機会を与え,人々の態度や行動を変化させる教育的な手段 として有用である点にある. □ IoWのAONBは 1963 年に制定され 41 地域のうち 14 地域 189km2(島の約半分)が承認された . 10.3.2 AONB プロジェクトから AONB パートナーシップへ 次に計画主体の変遷についてまとめれば,以下の表のようになる. Year 1992 The AONB Project 1992-1998 AONB および田園地帯管理サービス(AONB and Countryside Management Service)の設立 /AONB 管理計画策定のための連携諮問委員会(Joint Advisory Committee)設置 1994 AONB 管理計画および景観評価の完成および公表 /AONB の景観質と地域の保全と整備に関わる諸問題に焦点をあてた計画 /幅広いパートナーのもとで,如何に目標を実現させるかを示した革新的なプロジェクトの提示 ⇒計画は法的な裏づけを持たず,プロジェクト資金の優先順位の変化に対して脆弱であり,かつ,具体的な 行動計画やモニタリングのメカニズムおよび評価を欠いていた点も弱かった. 1995 1996-8 IoW 委員会が統一組織として設置される 具体的プロジェクトの実行継続(Community Environment Project,Island Chines Project など) /AONB プロジェクトに対する資金提供終了 Year The AONB Project 1992-1998 2000 田園地帯および交通権利法の制定.2004 年 4 月までに,新たな AONB 管理計画の策定および適用を IoW 委 員会に義務付け /IoW の AONB 管理にむけた田園地域庁および IoW 委員会の新たなパートナーシップの形成 118 2002 IoW の AONB パートナーシップ結成のもとで,田園地域庁と IoW 委員会の両者からの資金提供 /AONB に直接利害をもつ多くの地方,地域および国家組織および個人を代表する独立した組織 /このパートナーシップによって AONB 管理計画と政策に関する調整機能が確保された 2003 AONB 管理プランに関する審議会開催 /IoW の AONB パートナーシップに関する最初の年次レビューの公表 このようにして形 成 さ れ た IoW の AONB パートナーシ ップのスタッフが AONB ユニットを構 成し,4 人のコアメ ンバーと 8 人の諮問 委員からなる運営委 員 会 (Steering Committee)が中心と なる.企業や組織か らなる諮問機関 (Advisory Group) やオープンフォーラム(Open forum)のほかに,計画管理,小額の基金ならびに開発規制・計画を 策定するワーキンググループがある.観光に関して言えば,IWT(ワイト島観光)が諮問機関に 加わっており主要メンバーの一つになっている(上図参照) . 10.3.3 IoW の AONB 管理計画(Management Plan)の主要目的と構造 (管理計画の目的) IoW における管理計画の目的は以下のようなものである. ① AONB の特質を明らかにすること ② AONB を変化させ影響する問題を明確にすること ③ 他の国・地域および地方の優先順位に鑑みて AONB の将来ビジョンを総合的に提示するこ と ④ ビジョン実現するための特定の目標について優先順位をつけること ⑤ 遂行すべき事項に関して何が必要で誰がいつしなければならないかを判定しつつ,パート ナーやステークホルダーの役割を明示すること ⑥ 目標や行動がどのようにして図られレビューされるかについて明確にすること ⑦ AONB とその目的に関するプロファイルを作成すること (管理計画の構造) 戦略 Strategy = AONB の重要性を認知し,AONB の場所と人々に関する政策と政策目標を提示 119 ⇒ Statement of Significance and Policies & objectives より具体的には,「景観は,自然的かつ文化的な異なる環境の複合体が相互に作用し認 知される結果生じる.視覚的な知覚のみならず,音や臭覚あるいは触感,記憶,観念なら びに感情を介して呼び起こされるものである.景観は人と場所との関係によって規定され る」ものであることから,まず,「AONB と場所」について,景観特性,地球遺産,野生 生物および歴史的環境の4つの側面から,それぞれの現状と問題点が指摘され,政策およ び政策目標が提示されている.また,「AONB と人々」については,暮らしと仕事,交通 と輸送,農業と林業および来訪と楽しみ(観光)の 4 つの側面から,現状分析,課題・問 題点の指摘がなされ,政策および政策目標が提示されている.明示された政策および目標 の各項目については識別記号が付されている. 例えば,観光に関しては Visiting と Enjoying の頭文字をとって VE とし,後述するよう に VE1,VE2 のように,政策分野と政策目標が抽象的なかたちでまとめられている. 実行 Delivery=政策遂行のための具体的な行動計画とモニタリングと評価ならびに説明 ⇒ Action Plan Monitoring and Account 戦略の項でまとめられた政策目標の実行項目については,基本期間が今期の場合 2004-2009 年の 5 年間であり,少なくとも5年毎に AONB 管理計画をレビューし公表する という法で定められた義務に対応しており,この期間に関する行動計画が明示されている. 10.3.4 IoW における観光に関する AONB 管理プランについて (IoW の観光概要) ワイト島観光の概要は次のようである. □ 島の観光業は GDP の 28%を生み出し,ハイシーズンには雇用の 25%を生み出す □ 2002-3 年の年間観光客は 257 万人で,海外からは 15 万 5 千人.国内では Hampshire からの来 訪が最も多く,日帰りで全体の 51%,宿泊で 15%となる(近いと日帰り客が多い).外国から は米国とフランスからがそれぞれ 19%,13%と多く,日本からは1%である. □ IoW の観光市場調査(2002)によれば,①AONB はワイト島の一番の見所であること,②33%は 一年前にも訪れているリピーターであり,過去の来訪経験者では 80%が再来訪ということ, ③半数の人が IoW の来訪前に観光案内かインターネットで情報を得ているということ,④海 岸,散歩,アトラクションへの訪問といった活動内容も,来訪前に計画されていること,⑤ 調査対象者は主に南東地域の人々であったこと,などが特徴点である. □ SEAONB(South East AONB)の調査(2002/3)によれば,①自炊の宿泊施設が中心であるが,テン トやトレーラの設置利用数は計測されていない,②AONB 内の商業施設の利用者は大半が旅 行者であり稼働率は 71%と高い,③AONB の認知度に関する質問については,64%の人は自 分がどの AONB にいるかを知っているものの,正しい名称を言えたのは 8%に過ぎなかった, ということである. (IoW の観光に関する諸課題) 120 AONB の観光がもたらす課題として,以下の9点が挙げられている. ① 自然環境や歴史的環境への影響 ② 田園地帯へのアクセス手段としての車への依存⇒駐車場管理や渋滞問題,車の非利用者の 排除問題など ③ 騒音や侵入を伴うリクリエーション活動とその影響 ④ 私有地への不法侵入や被害の発生 ⑤ 身障者のアクセス機会の制限 ⑥ 交通ネットワークの公共の権利に関する戦略上のギャップ ⑦ AONB のレジャーやレクリエーション目的での利用状況に関するデータ不足 ⇒来訪者の嗜好や経験に関する情報がない ⑧ 持続可能な観光とレクリエーション活動の潜在力の拡張⇒伝統的な旅行シーズンの拡張 ⑨ AONB の指示内容が IoW の環境質と一般的に関連性がないこと⇒IoW の景観の質は,地域 や国レベルで知られて入るものの,それらが直接国の AONB の指示と関連しているわけで はない. (IoW における管理プランの内容) ◎持続可能な観光のための関連諸団体 上に挙げた 9 つの項目のように,観光発展によって経済社会にプラスの影響があるが,環境面 などマイナスの影響もある.こうした点を踏まえ,持続可能な観光の展開に向けてすでに多くの 関連団体が目標実現に向けた活動を行なっている.代表的なものは以下のようである. 関連組織・団体 活動内容 企業活動に関連して持続可能なアプローチの採用を促進する Green Island Award Officer AONB 内の観光について宿泊基準や広告基準など最善の来訪者情報を提供する SEAONB(東南地域 AONB) 環境プロジェクトに対する自発的払い戻しスキーム Gif to Nature 散歩,サイクリング,乗馬,海岸遊歩道,年間に 2 週間設定されている散歩フェ IoW Public Rights to Way Network スティバル(Walking Festival)の推進を図る ポケットマップ,AONB ガイド,食事ガイド,近くにある(on your doorstep)AONB IoW tourism Round the Island Cycle Route ガイド,などのマーケッティングの促進 主として小さな道路のネットワークの作成 ◎政策戦略の構造 先述したように,政策目標の構造は,観光分野に関して言えば以下の表にまとめられる. VE1 政策分野 政策目標 ◎AONB の保全と強化が持続可能な観光資源の潜在能 ●パートナーは,AONB 内でへのアクセスやレクリエ 力を高めることを認識し,そのための行動支援を当該地 ーションが景観の保全と強化に繋がるよう行動する. 域への潜在的インパクトに対する適切な理解に基づい ●全ての人々に対して,AONB に対する持続可能な観 121 VE2 て行なう.(政策認知 Awareness) 光とアクセスの機会を推進する. ◎AONB を訪問し楽しみを享受する人々が,その重要 ●全ての人々が AONB の複合性や価値および管理の重 性,景観特性や複合性を認識し,これらの質を保全し強 要性をよく理解して責任ある景観の享受ができるよう 化するために責任ある行動をとるようにする.(モニタ にする. リングと記録 Monitoring & Recording) ●持続可能な観光地として AONB を市場化する. ◎政策実行の内容 各政策分野に対して,政策認知とモニタリングと記録についての行動計画と実現内容 (Outputs)が明示され,さらに,中心となる(全てではない)パートナー,目標期間,さらに, AONB ユニットの役割(遂行,関与および推奨の三段階)が示されている.観光に関しては, 上記の VE1,VE2 に関してのみに限定すれば,全部で 17 の行動計画がある.そのうち代表的な ものを列記すれば下の表のようなものがある. 政策分 行動 実現内容 期間 野 ットの役割 IoW の観光客増大へ向けたマーケッ パンフレットの印刷 ティングの一部として IWT と他の団 観光戦略としての AONB 体との協働による AONB の推進 観光客向けの AONB 情報 IoW 散歩フェスティバルにおいて フェスティバルの主パートナーとなり AONB の重要性に焦点を当てる AONB の情報を発信する AONB 内での持続可能な土地利用を アドバイスサービス,ガイダンス,全体農 実践する 業プラン,法令 モニタ 既存のデータベースのパートナーシ 存在するデータの恒常的交換,AONB 研究 リング ップメンバー間での共有,GIS の利用 体制,AONB-GIS データベースならびに と記録 とデータ配信 成果報告書 AONB 内での土地利用と気候の潜在 コンピュータ解析,および研究報告書 認知 AONB ユニ 的変化とその保全ならびに強化に対 2004 関与 2004 遂行 2004-5 推奨 2004-5 遂行 2005-6 遂行 2005 関与 2007 関与 2004-5 関与 2006 遂行 2006 遂行 するインパクトのモデル化調査 保全と 強化 AONB 内での規制を受けていない活 化石堀,運搬できる古代遺跡,オフロード 動に対する法令の整備 走行,マウンテンバイク AONB に関する伝統,習慣,方言, AONB の ABC,AONB 地名ガイド,AONB 地名に関する研究 特有の伝統的祭りや習慣の再燃 AONB 内の海ゴミを管理するプロジ タスクグループの立ち上げ,問題管理のた ェクトの調査 めの実現可能性調査 地域経済と観光を土地管理や農業部 研究報告書ならびにプロジェクト展開 門とリンクさせるプロジェクトの研 究および展開 行動計画でのモニタリングと記録に 現在の活動状況,それらの AONB 内での 122 基づいてレクリエーションや観光に インパクトや管理,ならびに環境収容能力 関する AONB の環境収容力を判定す と景観特性の関連性の報告 る 10.4 IoW における持続的な観光開発に関する調査について 今回の調査は,3節でまとめた IoW における AONB の管理・運営の課題がどのようなもので あって,どのように解決しようとしているのかを明示することにある. Mr.Nigel Smith, Head of Tourism Services Isle of Wight Steve Balmire, Project Coordinator, Green Tourism Awards Agenda21 Office 制度的側 IoWT(ワイト島観光局)は,機関としては,基本的には New Port にある City Council の部局 面 である.財政も市の運営であり所属する 40 名の人材についても役人であってボランティアな どの参加者はいない.もちろん,3節で示したように,国や他の行政機構および企業や NPO とは密接な関係を持っている.ヒアリングで対応していただいたグリーンツーリズム賞アジ ェンダ21事務所の Balmire 氏も Council の職員である. 主たる役 IoWT について言えば,管理部門,マーケッティング部門,IT 部門などの各部門での役割分 割 担がある.3節で示したように,観光開発が主であって,他の部門によるグリーンツーリズ ムの促進方向と相まって,相互の協力体制のなかで運営が行なわれている.スミス局長の話 では,傾向的に観光開発がグリーン化の方向に向かっているとのことである.観光開発の面 では,Walking Festival は大変有名で,島の東西26マイルを走破するこのイベントには,1 万人以上の参加者がある.このとき,参加者はグリーンフラッグを用いるが,これは景観の 解説や歴史的な役割など,とくに地元の小中学生の参加者たちを含めて,環境や歴史学習の 意味が込められているという. 持続可能 今現在,すでに 101 の企業や団体がグリーンツーリズム賞を獲得し,現在も増え続けている な観光開 という.賞を授与することで,環境への配慮行動が社会的に認知されるとともに,企業活動 発 の評価が便益の増大に繋がるというポジティブな側面が強調されている.また,Gift to Nature の活動では,ピーク期に訪問する観光客に 1 ポンドの寄付を募り毎年ごとに定められる特定 の環境保全活動に充てられ効果を発揮している.観光案内に関しては,国レベルの blue-badge ガ イ ド と い う 資 格 が あ る が , 島 内 で は , 数 は ま だ 少 な い も の の Welcome-walker や Welcome-Cyclist といった認定を行なっている. 他方,Public Right to Way については,公共通行権というわが国では聞きなれない権利であ るが,人や自転車,馬などの通行権を一義的に与えたもので,島内では 500 マイルにおよぶ Path が設定され,通行可能な交通手段ごとに分類,分離され,ネットワーク化されており, 大変詳細な地図が作られている. これに関連して現在最も問題となっているものに,AONB 内での規制を受けていない活動 に対する法令の整備問題である.基本的には,現在は,Code とよばれるゆるい勧告がなされ 123 ているが,英国の伝統では,まず,勧告がなされ,それが効かない場合に,法律による強い 規制が行なわれるという.南西部のグリーンロードは,かつて車で通行しない旨の勧告が行 なわれていたが,現在では全面禁止されているとのことであった. 観光客などの正確なデータを把握することは,グリーンツーリズムを計画するための基本 的なポイントである.観光データの正確な把握はやはり困難であるようであるが,島嶼の特 性を活かしてより正確な把握が試みられている.また,GIS についてはようやく自然環境の 動向把握や管理・運営に利用されようとし始めたところである. IoW は,Balmire 氏によれば,英国で初めてフットプリントの計測が行なわれた場所である という.ロンドンの大学との共同作業ということであったが,こうした計量的な側面の重要 性も早くから認知されている点は評価に値する. 観光地共通の環境問題に,waste(ごみ)の問題がある.IoW では,他の地域同様に,domestic なごみについては,Council によって充分なリサイクルが実行されているものの,必ずしも住 民の人々のゴミに対する意識が高いわけではない.ゴミ箱を多く設置することで,散乱する ゴミ問題は解決するが,観光客自身がゴミの削減を意識するような仕組みにはなっていない. 人々の参 グリーンツーリズムの最も重要な要素の一つは,言うまでもなく地元の人々の参加である. 加 西北部の岸辺の護岸壁再生プロジェクトについては,公共の関連機関の参画はもとよりであ るが,地元の人々の熱意ある参加があるという.子供からお年寄りまで,住民主導で進んで いる. 10.5 ポーツマス大学におけるエコツーリズム発展のポジションについ て ポーツマス大学は,大学院修士課程にエコツーリズム専攻を設置しており,その意味で,地域 計画の策定や地域における教育のあり方,また人材排出に関して調査を行なった.とくに,エド ワード教授は,地域開発(森林および森林公園の保全)に関して第一人者であり,また,コモン プールの管理・運営をその理論的枠組みにすえている点で,調査者と方法論を同じくするもので あり,その点でも興味ある意見を伺うと同時に意見交換もできた. University of Portsmouth, Department of Economics,Portsmouth Business School:Dr. Dave Clark, Assistant Director Dr Alexandros Apostolakis, Associate Professor 議 論 一 般 クラーク氏は,地域経済の専門家であってエコツーリズムの専門家ではないが,とくに, について ビジネススクールからの視点で,観光開発の可能性について意見交換をおこなった.経済 学部としては,公開講座の形で地域との連携をもってはいるものの,とくに地域連携を図 る仕組みがあるわけではない.氏は,ハンプシャーにおける経済開発と環境保全について の調査報告書をまとめたばかりであり,①観光開発の重要性,②地域の実態に合わせたあ 124 らたな産業展開の可能性,③環境保全が地域の活性化に繋がることの重要性とその認知, が重要であるという. 他方,アポストラキス助教授は,文化経済学の専門家である.地域における観光や地域 発展に関する文化の保全・強化の必要性を論じたうえで,英国における文化政策の弱体性, あるいは文化による観光開発側面の脆弱性を指摘された.元々,文化については,米国の ように公共のファイナンスではなく寄付行為などが支えている部分,逆にフランスのよう に行政が支えている方式があるが,英国の場合はいずれも不十分であり,公共政策に脆弱 性があるという.調査者自身も,文化的側面の重要性は承知しており,今後の重要な課題 であるという認識をもった. その他,英国の地域政策やわが国におけるエコツーリズムの展開状況を説明し意見交換 を行なった. University of Portsmouth, School of Environmental Design & Management Professor Victoria Edwards カ リ キ ュ エコツーリズムの MScコースができてほぼ 10 年が経つ.おおむね10-20名程度の学 ラム 生が所属する大学院のコースであるが,半数は海外からの学生である(筆者が参加した授 業については,国内参加者ですでに Salisbury の Council で働いている Part-time の学生もい るが,ロシア,台湾,オランダなどの学生もいた).第 3 セメスターまであるが,各セメ ス タ ー 毎 に , (1)Ecotourism Issues, Tourism Operation, Planning Sustainable Tourism Development, (2)Tourism Policy, Fieldwork, Research Method, (3)Thesis,のカリキュラムとなっ ている.とくに,持続可能な観光開発計画やフイールドワークについては,実際の事案に 即した学習が行なわれている.最後のセメスターでは,4 ヶ月間,国内や自国に返っての 研究が行なわれ修士論文としての成果が問われることになる. カナダの調査時も感じたことであるが,様々な分野を背景にもつ学生にとって,共通の 言語がなく,経済学や計量経済学についても,必要な部分については指示あるいは講義が 行なわれているものの,ある種の不十分さがあるという. 卒業後は,観光に限らず,むしろ地方の Council の環境政策に従事する役人か,観光サ ービス業方面に進路がある. 地 域 と の 地域とのリンクとしては,具体的には,ポーツマス市や近郊の New-Forest と呼ばれる英国 リンク で最もあたらしい国立公園,あるいはスコットランドでの森林における環境面での管理・ 運営問題について,地元自治体や NPOs との協働が行なわれている.もちろん,IoW にお ける Greening Program の作成に関しても関与しているということである.大学あるいは学 部としての関係性はそれほど強くなく,公開講座などによる住民参加などが主となってい る. エ コ ツ ー コモンプール財からエコツーリズムなどの環境管理問題を見た場合,理論的な限界性とし リ ズ ム と て,コモンプール財の個別性や観光のもつ多面性があるという.前者については,コモン 125 コ モ ン プ プール財を複合財として取り扱うことに限界があるという指摘であり,後者については, ール 観光地としての管理問題は比較的取り扱いやすいが,実際の観光については,道程などが 含まれており,その管理・運営問題を総合的に把握する必要があるという.また,教授は, 観光地でいくらグリーンであっても,道程で車や飛行機を使えば,むしろ観光をしない方 がグリーンではないかという.これらは再考を要する重要な指摘である. 教授が調査したカリブ海の島嶼では亀の保全問題があるが,海岸が私的に所有されてい る財であるために,事実上の管理が困難であるという.財産権の問題がある場合である. わが国でもそうしたケースでコミュニティボンド方式で共同所有にする場合があること を説明したが,英国では,もちろん National-Heritage の伝統があり,スコットランドでは, Community-Bill といった仕組みがあるという. エ コ ツ ー やはり最も重要なファクターは人であるという点でも意見の一致をみた.これに関連し リ ズ ム に て,スコットランドの方が,イングランドよりも多くの点で,環境保全やグリーンツーリ と っ て 重 ズムに関連した意識・政策が進んでいるという.一つは,スコットランドの独立に際し, 要な要素 自然環境や文化に関するブランドが必要であったということ,さらに,経済社会がツーリ ズムに関してより依存的であるということである. 課 題 の 多 最後に,現時点でグリーンツーリズムの展開上多くの課題や問題点を抱えている地域をと い地域 いたところ,先述の New-Forest 地方が挙げられた.とくに,100 万人の来訪者に関して, 車のコントロールとキャンプサイド,ゴミの管理に関して重大な問題があるという.残念 ながら対策の立案についてはいまだ不十分であり,これからということであったが,この 点で言えば,地域にもよるが,わが国のほうが進んでいる事例もあると考えられる. 10.6 おわりに 以上記したように,今回の調査では,英国においてもわが国共通の課題があり,それに対峙す るためのプランニング-とりわけ,IoW における AONB(Area of Natural Beauty)の管理について は,その構造,目標へ向けた実現可能な施策の体系など参考になる部分も大きかった.なお,大 学の関与については,個人的な関係によって,地域や政府組織との協働作業はあるものの,必ず しも恒常的かつ制度的に整備されていない面もあるように思われた.この点は,わが国において も,また中央大学においてむしろ先進的な取り組みが進んでいるといってよい.この点を説明す るとむしろ関心をもたれるぐらいであり,その意味では,こうした取り組みを進めながらも,地 域の厚生水準向上のためにも,一つの手段としてあるべきエコツーリズムないしはグリーンツー リズムの発展が待たれるところであろう. 126