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ROSEリポジトリいばらき (茨城大学学術情報リポジトリ) Title Author(s) Citation Issue Date URL 北バンクーバー Cheakamus Centre におけるサケ学習につ いて : サケ学習の実際と今後の展開についての一提案 伊藤, 孝; 大辻, 永 茨城大学教育学部紀要(教育総合)(増刊号): 505-521 2014 http://hdl.handle.net/10109/12018 Rights このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作権者に帰属 します。引用、転載、複製等される場合は、著作権法を遵守してください。 お問合せ先 茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係 http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号(2014)505 - 521 北バンクーバー Cheakamus Centre におけるサケ学習について サケ学習の実際と今後の展開についての一提案 伊藤 孝 *・大辻 永 ** (2014 年 8 月 8 日 受理) A Salmon Study in Cheakamus Centre, North Vancouver, Canada Winter Season Program of Salmon Study in the Cheakamus Centre Takashi ITO * and Hisashi OTSUJI ** (Received August 8 , 2014) はじめに 日本において,地域の河川へサケの回帰を復活させる活動,特に市民による「カムバックサーモ ン運動」の盛り上がりは,高度成長期などに汚れてしまった河川の「環境浄化キャンペーン」に加 え,「自然回帰」の機運の盛り上がりによるものと捉えられてきた(高橋 1990)。 カムバックサーモン運動の成果もあり遡上数が増え,身近な存在となったサケは,学校教育の 素材として数多く取り入れられている。その扱い方は時代・地域によって異なり,例えば北海道 東部の場合,地域の産業である水産業をベースとした水産教育的なものに端を発し,その後の社 会環境や教育を取り巻く状況の変化を反映し,環境教育的なものに移り変わっていった(野呂ほか 2001)。 北海道教育大学釧路校では,「サケを素材とした教材の開発や学習プログラムの立案と実践(こ こではこれらをまとめて「サケ学習」と呼称する)」に関する研究を永年にわたり多様な側面から 行ってきている。例えば,高嶋ほか(1997)による,根室管内の小中学校におけるサケ学習の概 要紹介をはじめ,総合的な学習としてのサケ学習のプログラム開発(野呂ほか 2001), サケのライ フスタイルに基づいたサバイバルゲーム(すごろく)の開発(高嶋・奥山 2009)など,特に小学 校における教材化とその実践に関して多数の研究報告がある。大学においては,教職希望の学生を 対象として,自然観察体験の一環としてサケ学習の活用例を紹介している(齋藤ほか 2002)。さら に,海外におけるサケ学習の動向の一例として,カナダ・ブリティッシュコロンビア州の小学校で 実践されている Salmonids in the Classroom に基づいた教育プログラムの詳細,現地(バーノン市) *茨城大学教育学部人間環境教育教室(〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1; Human Environmental Education, College of Education, Ibaraki University, Mito, Ibaraki, 310-8512 Japan) **茨城大学教育学部理科教育教室(〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1; Science Education, College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan) 506 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号 (2014) 小学校での教育実践の様子が紹介されている(野呂ほか 1999)。 一方,生態系に関する研究動向の一つとして,陸と海を切り離し別個に取り扱うのではなく,そ のつながりに注目する研究が増加してきたことが挙げられる。例えば,陸域に森林が存在すること が,海の沿岸域の生態系維持に重要な働きを担っていること(例えば,松永 1993,2010),逆に, 海で大きく成長した膨大な数のサケが川に遡上することが,森林の維持に貢献していること明確に なりつつある(例えば,Helfield and Naiman 2001, 2002, Reimchen et al. 2003)。後者については, 日本においても,柴谷(1992)や室田(1995)などで論じられてきたが,安定同位体を用いた研 究により,植物におけるサケ起源窒素の寄与率など定量的な議論が可能となっている。 別の視点で,耳石標識法や遺伝的系群識別法など,海に下る前のサケの生まれ故郷を識別する手 法も大きな発展を見せ,サケの生活史がこれまでよりも明瞭にトレースできるようになってきた(例 えば,浦和 2000,2001,帰山ほか 2013)。 今回,茨城大学大学院教育学研究科の平成 25 年度後期授業「サステイナビリティ教育演習 III」 の引率としてカナダ・ブリティッシュコロンビア州の Cheakamus Centre(図1)を実際に訪れ, フィールドの特徴を生かしたサケ学習を参与観察する機会を得た。ここではその概要を紹介すると ともに,近年の森と海をつなぐ生態学的な研究,およびサケの生活史研究の成果も踏まえ,カナダ, 日本で実現可能なサケ学習の今後の展開についての方向性も提案したい。 サステイナビリティ教育演習 III について 茨城大学では平成 21 年度から新しい大学院教育プログラム「サステイナビリティ学教育プログ ラム」が開始され,平成 22 年度末には第一期の修了生が輩出された。茨城大学大学院教育学研究 科の開講授業「サステイナビリティ教育演習 III」は,この「サステイナビリティ学教育プログラム」 に位置付く1単位の専門科目である。また,平成 22 年度からは第2期中期目標・中期計画期間に 入り,そこでは「研究・教育の国際化」が組み込まれている。本授業はこの方向性に準ずるもので もある。 本授業では,将来の勤務校において,地域に根ざした環境教育(学習,活動)を計画,実施する 際,リーダーシップを発揮し,環境教育に関連する教科学習や地域学習の目標,内容を計画,実施, 評価できるようになるための素地を養うことを目標としている。また,現場や地域に根ざしながら も,広い視野に立って教育活動を創造,牽引する,俯瞰的な視野と国際性を有した高度な実践力の ある教育者の育成に資するものである。 上記の目標を達するため,事前・事後学習を交え,海外の先進的な環境教育の施設・プログラム を視察することにより,広い視野から我が国の実践を見る視点を得て,環境教育の根源的な原理を 振り返る機会を持つことを目的としている。 これまで平成 22 年,平成 24 年に実施しており,それぞれの参加状況は8名,7名である。平 成 22 年実施分に関しては,受講学生の演習参加前から参加中,そして帰国後までの心的変化を詳 細に記載・考察した丸山(2012)の報告がある。 今回報告する平成 25 年度実施分のスケジュール概要は以下の通りである。 伊藤・大辻:ブリティッシュコロンビア州におけるサケ学習の一例 507 平成 25 年 11 月 25 日(月) (午前)Norgate Community School を訪問し,first nation(原住民)が7割を占める状況下での教 育実践について視察 (午後)Simon Fraser University において,探究に重点を置くサステイナビリティ教育に関する授 業を見学後,学生とも交流 平成 25 年 11 月 26 日(火) (午前)Norgate Community School を再度訪問 (午後)University of British Columbia(UBC)の文化人類博物館にて,先住民の文化を見学 平成 25 年 11 月 27 日(水)~ 29 日(金)(午前) (終日)Cheakamus Centre(旧 North Vancouver Outdoor School)で行われているサステイナビリ ティ教育に関係する実践を視察(本報告) 平成 25 年 11 月 29 日(金) (午後)Britannia Mine Museum にて,バンクーバー周辺の巨大銅鉱山における鉱害史を学習 平成 25 年 11 月 30 日(土) (午前)Squamish Lil’wat Culture Centre にて,先住民文化について見学 (午後)まとめ Cheakamus Centre の概要 平成 25 年 11 月 27 日(水)~ 29 日(金)午前中の演習の場となった Cheakamus Centre につ いて概説する。Cheakamus Centre(北緯 49.819189 度,西経 123.154013 度,2170 Paradise Valley Rd., Squamish, British Columbia, Canada)は North Vancouver School District 所属の機関の一つで あり,野外活動教育プログラムを各種提供している場である。1969 年の設立であり,永年 North Vancouver Outdoor School(NVOS)という名称で呼ばれてきた。2012 年に経営母体がリステル・ カナダ社に移るに伴い現在の名称に変わり,プログラムの内容も一部修正され,また結婚披露宴の 場の提供などより広範囲のサービスを提供できる体制となっている。 Cheakamus Centre では,現在,小学生の向けの Outdoor School のプログラムとして,Cultural Systems と Natural Systems の二本立ての構成となっている。今回訪れた晩秋から初冬において提 供していたのは,前者に属するものとして Big House, 後者として今回主に紹介する Salmon(サケ 学習)に加え,Farm Study,Forest Art,Walk of Wonder などがある。 Big House はこのブリティッシュコロンビア州南部の海岸地域で最初に生活したネイティブカナ ディアンの生活様式を体験するプログラムである。森のなかに再現された彼らが住んでいた家 Big House のなかやその周辺で,当時の生活を実感できるよう工夫されている。また,森のなかを歩い て Big House へ移動する途中,獲物に近づくときに歩き方やサケの捕まえるときの罠の仕掛けなど, 狩りの仕方についても学習する。 508 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号 (2014) 伊藤・大辻:ブリティッシュコロンビア州におけるサケ学習の一例 509 Farm Study では,Cheakamus Centre 内にある小屋のなかで,飼われているヤギ・ブタ・ニワト リなどと触れあう体験ができる。またこの小屋で生まれたニワトリの受精卵をライトで透かし,卵 のなかにいるヒナを観察するなど,受精から孵化するまでの過程についても学ぶ。最後に,これ らの動物の恵みと我々が口にする食べ物の関係についても紹介される。Forest Art はその名の通り, 森にある様々な自然物を素材として,実際に芸術的な表現をする試みである。Walk of Wonder は 実際に森の中を歩いて,主に植物について学ぶ体験である。ワークシートなども活用して様々な種 類の植物の特徴を理解していく。また,ネイチャーゲームなど遊びの要素を取り入れ,食物連鎖な どについても学ぶ。 Cheakamus Centre におけるサケ学習 Cheakamus Centre には,サケ関連施設として,孵化場と Dave Marshall Salmon Reserve が設置さ れている(図 2)。孵化場には,採卵・採精・受精・孵化・飼育というサケの採取から稚魚の放流 まで一連の過程を行うことができる専門の設備と学習室が設けられている。学習室には,サケの種 類,性別,生態,分布範囲等に関する各種ポスターが掲示されてあり,そのポスターを見てまわる だけで,サケの基本について学ぶことができる。 サケの遡上・産卵の場の提供という視点で整備された Dave Marshall Salmon Reserve は,チャ ネルや池の発達する Cheakamus River 右岸に発達した広大な州である。これらのチャネルは Cheakamus River に繋がり,川を遡上したサケがチャネルに入り込めるよう工夫されている。実際, 11 月末のこの時期大量のサケが遡上している(図 3)。また,チャネルにはサケを生け捕りにでき るようトラップが仕掛けられている(図 2B,図 4)。併せて,チャネルを遡上するサケや周りの自 然を安全に観察できるよう遊歩道や橋などが設けられている(図 2B,図 4)。 以下では,これら環境・設備を活用したサケ学習に焦点を当て,参与観察した結果について記述 する。なお,ここで紹介するのは筆者らが体験した 2013 年 11 月末の時点で,二泊三日小学校低 学年向けに提供されているプログラムについてである。 1)初日・二日目の実習(平成 25 年 11 月 27 日および 28 日) 体験していく学習プログラムのローテーション上,初日・二日目にサケ学習が割り当てられた班 の児童は,以下のような点を学び・体験していく。 学習室での学び 学習室において,サケの種類の見分け方,特に,この時期に遡上している Chum(和名:サケ もしくはシロザケ,学名:Oncorhynchus keta)と Coho(和名:ギンザケ,学名:Oncorhynchus kisutsh)について,雌雄の見分け方(身体の大きさ,口の大きさ,色鮮やかさなど),現在大量の サケが川に遡上している意味,雄間の雌の奪い合いの様子,産卵・放精の様子,受精から孵化まで の過程,天然における孵化の割合と Cheakamus Centre 内の孵化場における人工孵化の割合の比較 などについて学ぶ(図 4-A)。講師からの一方的な説明ではなく,疑問に思った点は挙手の上,質問・ 確認できるような雰囲気のなか学習が行われていた。 Dave Marshall Salmon Reserve での観察 510 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号 (2014) 講師の指導のもと,全員で Reserve 内の遊歩道を歩きつつ,チャネルを遡上し産卵の機会を探 るサケの様子や無数のサケの死骸,遊歩道に転がるサケの死骸などを観察した(図 4-B,C)。なお, 遊歩道に転がるサケには熊などにより頭部と卵部分のみ食べられたものが多く存在した。 チャネルの体験歩行とサケの捕獲 一旦学習室へ戻り,長靴に履き替えた上で,チャネルに入り,河床を歩く体験をした(図 4-D)。 小学校低学年の児童は,友達どうしで助け合ったり,補助に付いたカウンセラーの高校生に手を取 られつつ,遡上するサケになった気持ちで上流へ向かった。そして,サケのトラップ付近まで歩き, 再び陸に上がった。 続いて,三人一組を作り交代でトラップ内に入り,ネットなどを使いつつ,皆で力をあわせてサ ケを捕獲した(図 4-E)。また,順番を待ちきれない児童のなかには,再びチャネルに戻り,チャ ネルで直接サケの捕獲も試みるものもいた。捕獲したサケは一旦河川水の入ったプラスチックボッ クスの中に入れておき(図 4-F),その後,雌雄別に孵化場内のいけすに移す。 2)最終日の実習(平成 25 年 11 月 29 日) ローテーション上,最終日の午前中にサケ学習があたっている班の児童のみ,これまでと異なる 実習を行った。ここでは,初日・二日目に実際に児童が生け捕りし,いけすに入れておいたサケを 用いつつ,以下の実習を行った。 学習室での学び 学習室での学びの前半は,初日・二日目のそれと同様である。そのあと,Egg Take と呼ばれる 学習についての解説がはじまった(図 5-A)。具体的には,雌のサケから卵を取り出すまでの過程, 伊藤・大辻:ブリティッシュコロンビア州におけるサケ学習の一例 511 また雄のサケから精子を取り出すまでの過程が,順を追って説明された。また,具体的にどの部分 が児童に手伝ってもらえるものであるか示された。 Egg Take について Cheakamus Centre で Egg Take と呼ばれる学習は,具体的には,雌のサケから卵を,雄のサケか ら精子を取り出し,それらを混ぜて受精に至る過程である。これらの過程で,雌ザケの頭を棍棒で 殴打する,ナイフでエラの脇を切り血液を抜く,などの場面もある。その旨あらかじめ述べ,見た くない児童については,学習室に戻ってよい,という連絡を行った(実際に二三名の児童がその場 を離れ,学習室に戻った)。 まず,いけすのなかから雌を一匹取り出した。利き手ではない方で,雌ザケの尾を持ち,利き 手で持った棍棒でサケの頭部をなぐった。気絶した雌ザケを,作業台に頭部を下にして固定(図 5-B)し,専用のナイフでエラ脇を切り,充分に血液を抜く。血液が充分に抜けたあと,エラ脇の ナイフの切り口また口にペーパータオルを丸めて詰め,作業中,血液が垂れないようにした。その あと,ペーパータオルで,身体の水分をぬぐった。この状態となったら,作業台から雌ザケを外し, 水平にサケを固定しながら,指で腹部を押して,卵をしぼり出した。そこで出てくる卵は児童がボー ルを持ってそれらを受けた(図 5-C)。その後,徐々に肛門付近からナイフで切り開き,卵を絞り 出した。さらに,ナイフで切り口を大きくし,指や手が入る大きさになった時点で,別の児童の手 を借り,徐々にお腹から卵を取り出し,最終的には,すべての卵を掻き出した。 この卵を取り出した雌ザケは,さらに解剖し,心臓,エラなどを児童に示した(図 5-D)。また, これらの雌ザケは冷凍保存し,白頭ワシが Cheakamus Centre 付近に翌年再び渡ってくる時期に餌 として供する,ということである。 次に,いけすから同じ種類のサケの雄を一匹取り出した。先程と同様,児童を一人選び,講師と 向かい合うかたちで座らせ,ビーカを持たせた。講師は雄ザケを暴れないように,しっかりと固定 し,やはり腹部を押して,精子を絞り出し,それを対面に座った児童がビーカで受けた(図 5-E)。 この過程を二匹の雄ザケで行い,それぞれ別々にビーカで採取した。 続いて,取り出した卵が入ったボールに,二匹分の精子を入れ,ゆっくりかき混ぜた(図 5-F)。 それに,水を数 100cc 加え,30 秒ゆっくり数えながら,同じ児童がかき混ぜた(図 5-G)。この水 512 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号 (2014) 図 4 Cheakamus Centre におけるサケ学習の様子,A: 講師によるサケに関する説明。この時点で遡 上しているサケの種類・雌雄の見分け方,産卵行動の特徴などについての解説があった。参加児 童は自主的に挙手し,疑問点を質問していた。B: チャネル沿いの遊歩道を散策,C: 散策途中,所々 で自然の見方の解説がなされていた。ここで示したのは熊に食べられたサケの死骸の特徴につい て説明されている様子,D: 長靴に履き替え,チャネルのなかを散策。途中,無数のサケを目にす ることになる。講師に加え,二名の高校生カウンセラーが補助をし,児童が水のなかを歩く補助 を行っていた。E: 児童三名が一組となってトラップのなかに入り,サケを生け捕りしている様子。 F: 生け捕りされたサケは雌雄別に一旦プラスチックボックスのなかに入れ,その後,いけすのな かに移された。 伊藤・大辻:ブリティッシュコロンビア州におけるサケ学習の一例 513 514 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号 (2014) 図 5 Egg Take と呼ばれるサケ学習のなかのプログラムの様子,A: 講師による Egg Take の過程に 関する説明。卵・精子を取り出し,受精にいたるまでの説明がなされた。参加児童が役割を担え る部分についてもこのとき明確に示された。B: 頭を殴打し動かなくなったサケを作業板の上に固 定した様子,C: 生け捕りしておいた雌ザケから卵を取り出している様子。ボールを持っているの は参加児童の一人。D: 卵を取り出したあとのサケを解剖している様子。取り出したあとの心臓が 脈打つ様子を確認しているところ。E:生け捕りしておいた雄ザケから精子を取り出している様子。 ビーカを持っているのは参加児童の一人。F: 二匹の雄ザケから取り出した精子を C で取り出した 卵にかけ,まぜている様子。G:数 100cc の水を加え,30 秒間カウントダウンをしながらかき混ぜ ている様子。H:孵化槽に移し終了。 を注いだ後の 30 秒間のみが受精のチャンス,とのことである。これらの精子と混ぜ合わせた卵は, 短時間のうちに色が変化し,硬くなっていく。最後に,それらを孵化場内の孵化槽に移した(図 5-H)。 残りの時間は,初日・二日目の児童と同じく,長靴を履き,実際にチャネル内を歩く体験学習を 行った(図 4-D)。 サケ学習を参与観察した日本人大学生・大学院生の感想 ここでは,茨城大学教育学部・教育学研究科の受講生が,毎日継続的に付けていた日記から,サ ケ学習に関する記述の一部を抜粋し,Cheakamus Centre で行われているサケ学習が,日本人の大 学生・大学院生の目にどのように写ったかということを述べたい。この日記は,いわゆる通常の個 人的な日記ではなく,引率の教員が後で閲覧することを伝えた上で,記述を促していたものである。 また,先に述べたように,最終日(11/29)の午前中には Egg Take という活動が児童向けに行われ たが,Cheakamus Centre 側の配慮で,その前日の夕方,全く同様のプログラムを,茨城大学から 参加した学生 6 名・教員 2 名を対象に行って頂いていた。そこでは,図 5 で示した児童の役割の みでなく,講師役についても体験することができた。以下,児童向けに行われた二種類プログラム, 茨大参加者向けに行われたプログラム,それらを参与観察し,かつ自ら体験した感想を併せて記述 する。 1)自分自身の気持ちの状態を素直に表現 参加学生の感想は様々な視点から述べられていた。一つは,そもそも授業参与した学生がサケ学 習未経験者であり,素朴に自分自身の気持ちの高まりを述べている箇所があった。例えば, 「川を泳ぐサーモンを橋の上から観察していると 5 ~ 6 匹泳いでいて,これから捕らえに行くの かと思うとワクワクした」(受講生 A) 「川辺には相当な数の死んだ鮭があり,かなりのインパクトがあった」(受講生 B) 「なにより子どもたちが捕らえるのが上手で手伝いいらずだったが,網の中でビチビチ跳ねる サーモンを見ていると,私も子どもたちと同じように興奮した」(受講生 A) 「表面のぬめりとか,手の中で動く感じとか,重さとか,全部が初めての体験で,ひたすらビビ るしかなかった。頭でわかっているつもりでも,実際にやってみるとパニックになっちゃう 伊藤・大辻:ブリティッシュコロンビア州におけるサケ学習の一例 515 ことってあるもんなんだなあ・・・というのが一番の印象」(受講生 C) 「脳と切り離され,血すら通っていないのに,10 分以上動き続ける心臓は,何ともいえず神秘 的であった」(受講生 B) など,新しいことに接する際の素直な気持ちの高揚などを表現していた。 2)友人の反応について 上のような素直な自身の気持ちだけでなく,同じプログラムに日本から参加している学生の発言 が大きく心に刻み込まれている様子が見られた。 「途中サーモンが大量に死んでいる所があって,○○君が「これがもし人間だったらと思うと生 きているサーモンはどんな気分なんだろうと思うね」と言った。(受講生 A) 「○○さんが「サーモンのメスは死んじゃうんですね。残酷ですね」と言っていたのがとても心 に残った。」(受講生 A) 3)チャネルとその周囲の様子について このように気持ちが高揚しつつも,冷静に周囲の観察を行い,チャネルとその周囲の様子を精緻 に述べている箇所がある。 「上流は完全に閉じられており,魚の習性をよく利用しているワナだった。」(受講生 A) 「川には無数のサケの死がいが転がっていた。死がいによっては動物に噛まれたり,つつかれた ような跡のあるものもあった。」(受講生 D) 「実際に川をみて気付いたが,卵が流れているのをいくつか見かけ,卵を産めずに死んでしまっ ているサケもいた。数を多く産み,生き残りがまた次の世代へ,という魚のシステムを垣間 見ることができた。」(受講生 D) 4)参加児童の反応に関する記述 また,教員志望の大学生・大学院生が多いということも反映してか,プログラムに参加している 児童の反応に関する記述が目立った。 「実際にサーモンを捕まえるとなると,子どもたちもテンションが上がっているのが目にみえて 分かった。」(受講生 A) 「めちゃめちゃ長い長靴で川を上っていくのはかなり大変で,子どもたちが転ばないよう見守る のも一苦労」(受講生 C) 「川沿いの道へ出てみると早速サケの死体が。子どもたちも驚いていて,興味津々な子や嫌がっ ている子など様々な反応を見せていた。」(受講生 E) 「川の中に入って歩いたが大人でも歩きづらかったので,子どもはもっと歩きづらいだろうとお もった。」(受講生 F) 「びしょびしょになりながらも,一生懸命つかまえていた。」(受講生 F) 「子どもたちが一生懸命サーモンを捕まえてる姿はなんともたくましかった。」(受講生 C) 「「順番だから替わって」と言われ残念そうに上がって交代」(受講生 B) 「捕まえた時の雌雄の区別は,お腹を押して出てくるもので判断していた。お腹を押させてもら うと勢いよく精子が飛び出してきて皆で驚いていた。」(受講生 B) 「気絶される時や,エラを切り,血抜きをする場面では目をそらす子もいた。しかし,それ以外 の場面では,子どもたちはしっかりと○○さんの作業を見ていた。さわがしくなり過ぎる場 516 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号 (2014) 面もなく比較的落ちついていた。」(受講生 E) 「エラを切って血を流す時以外は,ほとんどの子どもが高い興味を示し,積極的に参加しようと したり,写真を撮ったりしていた」(受講生 D) 「精子を取り終えた Coho を川へ逃がす時に,サーモンが泳ぎ始めず,死んでしまったかのよう に見えたときがあった。その際に,一人の男の子が“I am sorry”と言っていたのがとても 印象に残っている。サーモンの命を大切に思い,死なせてしまったことに罪悪感を感じてい たのだと思う。」(受講生 E) 「(サケを)川に戻してもまったく動かず,子どもたちは“Sorry, salmon”とも言っていた」(受 講生 B) 「ナイフを見せたり,サケのお腹を裂く動作を○○さんがすると,目をおおう子どももいた。」 5)貢献できたことへのうれしさ これも教員志望の学生ということを反映してか,参与観察のみではなく,サケ学習のプログラム の運営自体に何かしらの貢献ができたということに充実感を感じた姿が表現されていた。 「本来であれば高校生のカウンセラーが 2 人付くはずなのだが,午後は付かないため,いろいろ お手伝いもした。ブーツの中に水が入ってしまったため,替わりのものを持ってきたり,雨 具を持ってきたり。」(受講生 B) 「カウンセラーがいなかったので,お手伝いを頼まれたのだと思うが,いなかったおかげで,こ うして授業に参加することができてとてもうれしかった」(受講生 E) 6)サケの命の扱いに関する疑問・混乱 サケ学習の一連の流れのなかで,特に Egg Take の部分に関しては,特に生命倫理の観点から疑 問を持ち,混乱している様子が読み取れた。これに関する記述が最もボリュームも多い。 「でも,卵を人工的に取り出さなければメスも生きていられたわけで,サーモンの数を増やすため にサーモンを殺すということになるのだな,と考えた。これはどのように考えるのがよいのだ ろうか。悩む所である。元々,数が減ってしまったのは人間の乱獲が原因だろうから,数を増 やすために受精を手伝う・助けるのは当然である,と考えるのは人間のエゴにも感じるし,責 任を取る意味でも必要なことにも感じる。しかし,そこでメスを殺す必要があるのか。元々, メスは卵を産むと死んでしまうものなのだろうが。私には知識がないので分からないが,食物 連鎖のバランスを崩してしまったのは人間だし,自然のバランスを壊したのも人間なのだから 責任を取る必要はあると思う。しかし, サーモンが死んでからも動く心臓を見ても思ったが, 「い のちってなんなんだろう」と考え続けないといけないな,と思った。 」 (受講生 A) 「おけから,とってきたサーモン(♀)をとり,まず棒で殴打し,気絶させる。このとき残酷す ぎて,言葉にならなかった。」(受講生 F) 「自分が今まで体験していないことを見て,感じることができてよかった。しかし,作業が私に は残酷に思えた。ここまでして,子どもたちに見せる必要があるのか,また人の手で親のサー モンを殺し,人工授精をしてサーモンを保護する必要はあるのか,などいろいろと疑問も浮 かんできた。」(受講生 F) 「動物実験で動物を苦しめるようなことを止める風潮がある中で,アウトドアスクールに参加す る子どもたちの親はこのサーモンの活動に対してどのような印象を持っているのか聞いてみ 伊藤・大辻:ブリティッシュコロンビア州におけるサケ学習の一例 517 たかった。サーモンの活動を通して,少しだけ生命倫理的な投げかけを子どもたちにできれ ば,相乗効果でより考える機会が与えられるのではないか。」(受講生 B) 「みんなの手から手へとサケのまだ動いている心臓が渡されていく様は,なんとも不思議な光景 だった。」(受講生 D) 「カナダの自然を守る手段として,サケの人工授精を行っているのかもしれないが,何のための サステイナビリティなのかはよくわからなかった。人間が自然をいじくりまわしているとい う印象を持たないような前後の学習が必要だと感じた」(受講生 D) など,この活動をどう理解すべきであるか悩んでいる様子が見て取れる。もちろん,この点に一つ の正しい答えはないのであるが,実際に教師として,「いのち」について扱う際,単純な扱いを疑 問なしに行うことはできなくなったはずである。少なくとも,異文化間における「いのち」の扱い に違いがあることを,肌で学んだことは大きな経験と言えるであろう。 海洋—森林間の物質循環・生態系の視点を取り入れたサケ学習の方向性 晩秋から初冬かけて,この地を訪れる者が目するのは,川を遡上する無数のサケとその膨大な数 の死骸である(図 3B)。海で成長し成魚となったサケが生まれた川に遡上し,そこで死に絶え,分 解後に栄養塩となり,渓流域の一次生産に大きな影響を及ぼすことは,1970 年代に示されている (Richey et al. 1975)。1990 年代前半,日本においても,サケの遡上が海から陸への物質・エネル ギーの移動を担っていることが,主にエントロピー学の観点から提示されていた(柴谷 1992,室 田 1995)。 近年,安定同位体生態学の発展に伴い,遡上したサケが河川水中の一次生産を増加させ,陸の動 物の栄養源となっていることに加え,河川周辺の森林の成長にまで影響を及ぼしていることが明ら かとなった(Helfield and Naiman 2001, 2002, Reimchen et al. 2003)。すなわち,遡上したサケが熊 などの大型哺乳類に捉えられ食い散らかされたり,河川中の死骸が増水などにより打ち上げられた りしたものが分解され,河畔植生の窒素源となり,その川の周りの森を豊かに保つことに寄与して いる。遡上したサケが河畔の森林の成長に寄与していること,すなわちサケと森林の繋がりは,カ ナダでは,文字通り“Salmon Forest”(Suzuki et al. 2006)等の子ども向けの絵本として紹介され ている。 日本においても,一般向けの啓蒙として,NHK ドキュメンタリー(2003 年 1 月 13 日放送,地球! ふしぎ大自然スペシャル「海が巨木の森を作った~カナダ西海岸に見た命の環(わ)~」)などとして, サケと森の関係についてエッセンスが放送されている。ただ,日本,特にサケの遡上が豊富に見ら れる北海道においては,更新世後期から完新世の火山灰上に腐食層が発達しており,森林は窒素に 枯渇してない。そのため,サケが遡上する河川の河畔の植生においても,サケ起源窒素のシグナル は不明瞭である(例えば,柳井ほか 2006)。最終氷期まで厚い氷床に覆われ岩盤がむき出しになっ たカナダと新しい火山灰層に覆われた北海道で,土壌発達や森林の制限元素に大きな違いが生ずる という点で興味深い。熊の有無や生息数の多少にかかわらず,日本では「サケが森を育てる」とは 言えないようである。 518 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号 (2014) 一方,豊かな森林がそれを流域に持つ海岸の生態系に大きな役割をはたしていることは広く認識 されつつある(松永 1993,2010)。そもそも科学的な理解がされる以前から,日本の漁師の間には, 「魚付き林」という言葉が伝承され,海の漁業資源保護に陸の森林が一役買っていることが直感的・ 経験的に理解されていた。 松永は,北海道沿岸に見られる海岸の白化現象と陸の森林の貧困の関連性を見出した。具体的に は,豊かな森林から河川を通して海に供給されるフルボ酸鉄が,沿岸域の生物生産に重要な役割を はたしていることを明確に示した(例えば,松永 1993,2010)。このような科学的な裏付けも得て, 海の漁業資源保護の目的で陸の森林を保全する,という動きは大きな展開を見せ,例えば宮城県気 仙沼市では「森は海の恋人運動」(畠山 2006)として活況を呈している。 Cheakamus Centre では,ここで紹介したような近年の科学的な成果も踏まえた学習プログラム の開発・実践が可能であろう。豊かな森が残り,そこには熊を頂点とする食物網が保存されている。 森を流域に持つ河川は湧き水も豊富でサケの産卵・孵化の環境として最適である。またその森林か ら供給されるフルボ酸鉄は,バンクーバー島周辺の膨大な量のケルプ(kelp)の海を維持する。また, その豊かな海で成長し,幼魚となったサケは,外洋へと旅を開始する。成魚となったのち,また生 まれ故郷の川へと遡上し,そこで産卵をするとともに,森の動物たちの餌となる。喰い散らかされ 河畔に放置されたサケの死骸は,やがて森を維持する栄養となる。Cheakamus Centre のチャネル 沿いの遊歩道で容易に目にすることができる大量のサケの死骸は,このように,「陸から海,海か ら陸」への物質・エネルギーのループを直感的に理解することを助けるだろう。 このような「陸から海,海から陸」への物質・エネルギーのループに注目した,いわゆる「森里 海連環学(京都大学フィールド科学教育研究センター 2007)」的な発想に立った学習プログラムの 展開は,小学生のみならず,高校生以上のプログラム,もしくは大人向けの教養講座等として,大 きなポテンシャルを持っていると思われる。 日本の場合,成魚となり故郷に向かったサケのほとんどが海の段階で捕獲されてしまっている。 また北海道の極一部を除き高度に都市化されてしまい,熊がサケを捕り,それを河畔で食い散らか す,という環境は望むべくもない。加えて,先に述べたように,日本の森林は窒素に枯渇していな い。このように,様々な状況から「海から陸」へのループを実感しにくく,どうしても「森から海」 の一方的な繋がりの方が強調されてしまう。日本におけるサケ学習の教育実践では,最後のまとめ の段階で,カナダなど現在の自然環境や地史が異なるところに遡上する場合と比較し,その違いに 気付かせるということは重要であろう。サケの遡上数が多く,その死骸も大量に放置されている北 海道においては,新しい流れもできつつある(中川 2013)。河原に転がるサケの死骸に小中学生が タグをつけ,それらがどのように変化していくかをモニターしていく試みがなされ,効果を上げつ つある。死んだサケが他の動物に補食されたり,また微生物に分解されている過程を理解でき,ま さに「海から陸」への命のつながりを実感できる試みと言えよう。 サケの渡りの視点を中心としたサケ学習の方向性 浦和(2000,2001)の総説にあるように,1980 年代中盤以降,耳石標識法や遺伝的系群識別法 伊藤・大辻:ブリティッシュコロンビア州におけるサケ学習の一例 519 など,サケの起源を識別する手法は,新たな展開を見せている。サケの耳石標識法は格段の進歩を 見せ,米国,カナダ,ロシア,日本などの孵化場における耳石標識魚放流数は増加の一途を辿って いる。その結果,これまで曖昧であった降海後の回遊経路,成長のパターン,母川回帰率などが極 めて明確に把握できるようになった。また,それに留まらず,孵化事業が近傍河川の野生資源へ及 ぼす影響の評価・各孵化場魚の貢献度評価等,生態学・資源管理など様々な視点での研究・応用が 可能となっている(浦和 2001)。 遺伝的系群識別法についても,各国研究者の協力によりアジアから北米まで主要な地域集団を網 羅するする 77 集団の 20 遺伝子座についてデータベースが構築されている(浦和 2000)。その成果 を生かし,例えば,日本系サケについては,以下のように,降海後の回遊パターンが推定されるま でになった(図 6: 浦和 2000)。すなわち,沿岸域を離れた養魚はオホーツク海の南部に 11 月まで 滞在したのち,北西太平洋に移り最初の越冬をする。その後 6 月までにベーリング海へ移動する。 11 月頃に南下して北東太平洋に移動ののち越冬する。未成魚は季節ごとにベーリング海と北東太 平洋を繰り返し移動しつつ成長する。成熟したサケはベーリング海を離れ,9 ~ 12 月に日本沿岸 の母川に遡上する。 ここで一部を紹介したように,サケの生活史は,カナダ産・日本産を関わらず,近年かなり明確 に復元されており,両国において,その成果を教材として活用できる状況になっている。一匹のサ ケが,その生活史のなかで,数 1000km 以上の旅をして,また母川に戻ってくるということ自体, 自然の驚異の一つと言えるだろう。川に遡上しているサケを目にする機会を得た際,図 6 に示した ような地図も併せて示しその移動の経路に想いをはせる機会を持たせることは,児童・生徒の地理 的概念の醸成という点からも重要であると考える。 あとがき カナダ・ブリティッシュコロンビア州において,永年小学生向け環境教育実践の実績がある 520 茨城大学教育学部紀要(教育総合)増刊号 (2014) Cheakamus Centre で実施されているサケ学習を参与観察した結果を簡潔に紹介した。本論文で扱っ たように,Cheakamus Centre で実施されているサケ学習では,採卵にあたり雌ザケの頭を殴りつ けて殺す際,その場面を敢えて児童の目の前で行っているが,それは日本人からすると大いに違和 感を感ずるところだろう。今回紹介した,参与観察した日本人大学生・大学院生の感想文においても, その点の記述が最も多く,混乱に充ちていたということもそれを示唆している。日本の小学校にお いて行われているサケ学習の多くは,受精した卵をもらい受け,学校内で孵化させ,稚魚がある程 度成長するまでの過程を観察し,最終的には川へ放流,という流れである。そういう意味で,「死」 「いのち」という,理科の単元以外のデリケートな問題に触れる必要がなく,教師としてはとても 扱いやすい教材といえるだろう。サケ学習において,孵化・飼育・放流という流れが日本中に広く 普及した理由と言えるかもしれない。このサケ学習におけるカナダと日本における「死」「いのち」 の扱いかたの違いはカナダと日本の文化の違いを反映したものと思われる。 今回は教室を離れ,外部の教育施設である Cheakamus Centre で行われているサケ学習を扱った。 先に述べたように,野呂ほか(1999)では,1990 年代にブリティッシュコロンビア州の小学校で 実施されていた Salmonids in the Classroom に基づいた教育実践の様子が紹介されている。これが 現在どのように変化し,Cheakamus Centre での実践内容と教室での学びがどのように関連づけら れているかという点は重要であり,今後の調査課題としたい。 謝辞 本研究は,概算要求特別経費「気候変動対応型社会のための適応イノベーション研究」(研究代 表者:三村信男)の一部を使用して実施した。記して感謝致します。 Cheakamus Centre の Rob Harden 氏,Shelley Hansen 氏は,我々がサケ学習の参与観察すること を快くお認め頂いた。また,Kate Keogh 氏には Cheakamus Centre の活動方針等レクチャー頂いた。 リステルカナダの副社長上遠野和彦氏には,現地調査の際の宿泊等,便宜をはかって頂いた。 茨城大学大学院教育学研究科の授業「サステイナビリティ教育演習 III」の受講生として参加し た草地美由紀,延岡梓生,直井裕紀,戸田雅彦,江口雄太の各氏,また,教育学部の授業「地球科 学演習」の一環で参加した野澤春菜氏に感謝致します。 引用文献 畠山重篤.2006.森は海の恋人,文藝春秋,234p. 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