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大震災を克服した女川原子力発電所 リーダーから

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大震災を克服した女川原子力発電所 リーダーから
inside WANO
T H E M A G A Z I N E O F T H E W O R L D A S S O C I AT I O N O F N U C L E A R O P E R AT O R S
第20冊
大震災を克服した女川原子力発電所
2012年
第2号
4
リーダーからリーダーシップを学ぶ
8
inside
インサイドWANOは、
世界原子力発電事業者協会により、
協会員のために発行されます。
contents
編集者
クレア・ニューウェル
WANOロンドン事務所
E-mail: [email protected]
Chairman’s editorial 3
編集委員
WANO総括事務局長
ジョージ・フェルゲート
モスクワ総会を見据えて
アトランタセンター事務局長、
デーブ・ファー
Plant story 4
大震災を克服した女川原子力発電所
モスクワセンター事務局長、
ミハイル・チュダコフ
Feature 6
パリセンター事務局長、
イグナシオ・アラルース
WANOに働く
東京センター事務局長
白柳 春信
Member story 8
リーダーからリーダーシップを学ぶEDFエナジー社
WANOロンドン事務所
Cavendish Court
11–15 Wigmore Street,
London W1U 1PF
United Kingdom
Tel: +44 (0)20 7478 9200
Fax: +44 (0)20 7495 4502
From the top 11
インドの原子力の将来を保障
Feature 12
継続的改善の重要性
WANOアトランタセンター
700 Galleria Parkway SE
Suite 100
Atlanta, GA 30339-5943
USA
Tel: +1 770 644 8602
Fax: +1 770 644 8505
WANOモスクワセンター
Ferganskaya 25
Moscow 109507
Russia
Tel: +7 495 376 1587
Fax: +7 495 376 0897
WANOパリセンター
8 rue Blaise Pascal
92200 Neuilly-sur-Seine
France
Tel: +33 1 46 40 35 55
Fax: +33 1 46 40 35 53
WANO東京センター
〒201-8511
東京都狛江市岩戸北2-11-1
Tel: +81 (0)3 3480 4809
Fax: +81 (0)3 3480 5379
People story 14
原子力安全を求める旅
ご存知でしたか?
地域センターとロンドン事務所に対するWANO内部評価の日程は: アトランタセンター2012年
3月26日-30日、パリセンター2012年 5月21日-25日、東京センター2012年 7月 9日-13日、モス
クワセンター2012年11月 5日- 9日、ロンドン事務所2012年11月26日-30日。プロジェクトチー
ムは、EDFエナジーのマット・サイクス氏を筆頭に下記のメンバーを含む。
マニュエル・イバネス(WANOロンドン事務所)
ジーン・サンピエール(WANOアトランタセンター)
ヤン・ベンス(WANOパリセンター)
イストバン・ラドノティ(パクシュ原子力発電所)
スチュアート・シードハウス(OPGオンタリオ発電)
デビッド・ウェンチュン・リン (台湾電力)
土橋義和(WANO東京センター)
白柳春信(WANO東京センター)
ジャン=ポ-ル・ジョリー(EDFフランス電力)
エド・レズニック(WANOアトランタセンター)
デビッド・クラブツリー(WANOアトランタセンター)
アナトリー・チュカレフ(WANOモスクワセンター)
この評価についてもっとお知りになりたい方はWANO東京センタ
ーへご連絡下さい。
表紙
参加者とチームメンバーをコ
ーチするメンターを務めたヒ
ンクリー・ポイントのピート
・エヴァンス発電所長
2
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
Copyright © 2012 World Association of Nuclear Operators (WANO). All rights reserved. Not for sale or for commercial use.
chairman’s editorial
ローレン・ストリッカー
WANO議長、
モスクワで開催される
2013年隔年総会に
備える
モスクワ総会を見据えて
残
す と こ ろ あ と 1年 に な っ た 第 12回
2012年原産大会で講演するWANO議長
WANO隔年総会(BGM)は、
2013年5月19日、ロスエネルゴア
トムとWANOモスクワセンターが主催してモス
クワ始まる予定です。この総会は、WANOが
24年前に設立された時に使われたのと同じホテ
ルで開催されることもあり、重要な隔年総会にな
るはずです。来年のこの総会には、ミハイル・チ
「2013年の
隔年総会の際には
設立総会の開催地を
再訪することに
なりますが、
これは立ち止まって
回想する機会では
ありません。」
ローレン・ストリッカー
WANO議長
ュダコフ氏、アナトリー・キリチェンコ氏、オレ
グ・サラエフ氏など、1989年のWANO設立
総会に出席したWANOのOBも何人か出席する
ことになっています。
設立総会の開催地を再訪することになります
が、この隔年総会は、立ち止まって回想する機会
もしWANOが会員のニーズを満たしていない
ではありません。ポスト福島委員会が出した勧告
場合には、私たちは、そのギャップを埋めるため
の進捗状況を測り、同時に、私たちWANOの中
に必要なことを行い、WANOの実効性を高める
核業務である原子力安全に焦点を当て、心血を注
ために行動するつもりです。私はすべてのWAN
いでいるかを測る機会でもあります。
O会員が、今後とも評価チームにWANOに対し
新しいコミットメント
て批判的なコメントを寄せていただきたいと思っ
ています。WANOの実効性を確保するために、
原子力発電産業は、「福島事故後」という大きく
会員の継続的な関与が不可欠だからです。私は、
変わってしまった環境で事業を行っています。こ
WANOのすべてのプロジェクトに、ボランティ
れは、原子力安全という基本に対する私たちのコ
アとして参加したり貴重な時間を割いたりして、
ミットメントを一新することを要求します。これ
あれほど多大な支援を惜しまなかった会員の皆様
には、WANOの中核となるピアレビュー、技術
に、深く感謝しております。
支援交換、運転経験、専門技術開発という4つの
プログラムをさらに強化すること、それに緊急時
過去を振り返らない
対応などの新しい重要な分野をWANOの業務に
2012年中にWANOプロジェクトチームが実
組み入れる仕事が含まれます。
施する作業は、2013年の隔年総会で行われる
WANOは、基本的な事項もますます重視する
議論の重要なたたき台になります。私たちは深釧
ようになっています。インサイドWANOの本号
で、次の総会でポスト福島委員会が出した勧告の
が発行される頃には、運転員の基本事項を取り扱
実施進捗状況をご報告すると約束しましたので、
ったSOERの作成が計画されることになってい
その約束を果たさなければなりません。ただし次
ます。福島の事故をうけて、また、将来も原子力
回の総会では、私たちが達成した成果ばかりでは
発電産業の安全パフォーマンスを確保するため
なく、今後の計画についても話し合う予定です。
に、「基本に立ち返る」ことの重要性を真摯に認
識しなければなりません。
引き続き未来を見据え、課題の多い将来に備え
ることによって、WANOはますます強力で実効
WANOはまた、全地域センターとロンドン事
性の高い組織になるはずです。モスクワで来年、
務所を評価するなど、組織として会員の基本的な
皆さんとお会いできることを楽しみにしてい
ニーズを満たしているかどうかを確認するための
ます。
作業を増強しています。
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
3
plant story
大震災を克服した
女川原子力発電所
2
011年3月11日午後2時46分、観
女川原子力発電所の電源ユニット(PSU)
測史上国内最大規模の地震が東日本地域
を襲った。震源は太平洋岸に位置する女
川原子力発電所から130kmの海中と推定され
ている。
この巨大地震の震源域は長さおよそ
500km、幅およそ200kmに及び、最大震
度7の揺れをもたらした。女川原子力発電所では
「女川原子力発電所は
巨大な津波と地震を
安全に切り抜けました
…これからはその知恵を
先人から次世代に
引き継ぐことが
私たちの使命です。」
渡部孝男
上級執行役員
女川原子力発電所長
震度6の揺れが観測された。
この地震は高さ10mを超える大津波を引き起
こし、東日本地域に壊滅的な被害をもたらした。
市街地や集落全体が津波で流され,自治体機能ま
で喪失する地域もあった。
女川原子力発電所の冷温停止
地震発生当時、女川原子力発電所は、1号機と3
踏まえ敷地の高さを決定しました。更に、法面防
号機は通常運転中であり、2号機は起動中であっ
護工や建物の耐震工事など、常に先見的な備えを
た。すべての原子炉が、地震発生時の設計に基づ
してきました。その積み重ねがあったからこそ今
いて自動的にトリップした。地震発生から45分
回の災害にも対処することができたのだと確信し
後、高さ13mの津波が女川原子力発電所の敷地
ています。」
を襲った。
地震により、1号機のタービン建屋地下1階高
圧電源盤の火災が発生した。その後の津波によ
女川原子力発電所は太平洋岸の牡鹿半島の中心部
に位置している。巨大地震と津波は集落や幹線道
クが倒壊した。海水が地下トレンチを通じて2号
路を破壊し、女川原子力発電所は避難住民ととも
機の原子炉建屋地下3階の補機冷却熱交換器室に
に孤立した。住居を失った近隣の被災住民は発電
流入したことにより、非常用補機冷却系統B系の
所に避難した。
外部電源は,全5回線のうち、1回線が確保さ
本来セキュリティ等の観点から一般市民が原子
力発電所に立ち入ることは容易ではなかったが渡
れ、津波は女川原子力発電所の敷地高さ13.8
部発電所長は、人道的な見地から避難民を受け入
メートルに達することはなく、前述以外の海水流
れることを決定した。地震発生から3日後までに
入は確認されなかった。全号機の残留熱除去系と
プラントは360人を超える避難民を受け入れ
燃料プール冷却系は適切に機能しており、翌朝ま
た。発電所を避難所として運営するため、食糧や
でに冷温停止となった。
必需品の調達を仙台にある本店に依頼し、ヘリコ
女川原子力発電所の渡部孝男所長は、当時を振
プターで搬入してもらった。
り返ってこう説明する。「災害の発生後ただちに
避難民には、高齢者や子供、妊婦の方もいた
緊急対策室に担当所員が参集しました。建屋の一
が、協力会社の方も含めて所内で働いている全員
部で火災や浸水が発生しましたが、所員は協力し
が自主的に積極的に対応した。この状況はすべて
あってことにあたりました。定期的に実施してい
の避難民が他の避難所に移動するまでの3か月間
る非常時に対する訓練のおかげで、適切かつ確実
継続した。
な方法で状況に対処することができました。」
渡部所長は続いて、このような災害に備えて
女川が以前から行っていた対策について説明し
ます。
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
近隣住民が発電所に避難
り、港湾に設置されていた1号機の重油貯蔵タン
ポンプモータ等が使用不能となった。
4
「我々の諸先輩は、専門的知見や歴史的教訓を
女川原子力発電所の
渡部孝男発電所長、
プラントがいかに
2011年3月に起きた
大震災を乗り越えたかを
説明する
女川原子力発電所
女川原子力発電所の制御室
発電所の安全対策
女川原子力発電所は、福島第一発電所の事故が被
災した状況を踏まえ、津波により「交流電源供給
機能」、「原子炉施設冷却機能」、「使用済燃料
プール冷却機能」の3つの機能が喪失した場合で
あっても、炉心損傷および使用済燃料の損傷を防
止するための取り組みを行っている。
緊急時の電力供給を確保するため、非常用ディ
ーゼル発電機の代わりとなる高圧電源車および大
容量電源装置を高台に配備している他、津波浸水
への対応強化として防潮堤の設置や建屋扉の防水
対策なども実施している。更には緊急事態に備え
た対策への対応能力強化を図るための訓練を実施
し、定期的な評価結果を踏まえて必要に応じた措
置を講じていくこととしている。
今後は「さらなる安全性の向上」に向け、様
々な選択肢の中から適切な対策を見極め対応して
いく。
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
5
feature
WANOに働く
冷
戦中は、何隻もの原子力潜水艦が世界中
WANOコミュニケーション戦略に取り組むマクギー氏
の海を席捲し、乗員120名ほどの艦艇
を攻撃し合いました。こうした乗組員の
うちの二人、一人のロシア人と一人のアメリカ人
が数十年後、WANOロンドン事務所で肩を並べ
て、運転経験セントラルチーム(OECT)で共
に働くことになりました。
元潜水艦乗組員で原子力発電産業で38年間の
「外国で働くチャンスは
生涯で一度きり、
上司から
『あらゆることを
吸収してきなさい。』
と言われました。」
岡本幸治
運転経験(OE)
技術プログラムマネージャー
WANOロンドン事務所
経験を持つミハイル・イサエフ氏は、2年間の派
遣予定で2011年1月末にロンドン事務所に赴
任しました。かつての冷戦の「敵」と共に働くこ
とになったことは、派遣がもたらした驚くべき貴
重な経験の一つです。
貴重な機会
SOERをレビューする岡本氏とイサエフ氏
イサエフ氏は、ロンドンに赴任する前の22年
間、WANOモスクワセンターのアドバイザーを
務めていました。運転情報セントラルチーム
(OECT)の技術プログラムマネージャーのポ
ジションに立候補して採用され、妻とともにロン
ドンへ移りました。この派遣はプライベートでも
仕事の上でも、貴重な体験になりました。
「派遣は、私の職業経験をさらに深める機会を
与えてくれました。様々な運転経験のプロダクツ
に関する仕事をすることは、私が本当にやりたか
ったことでした。」イサエフ氏は言います。「ロ
ンドンに転居したおかげで、この国に留学してい
る娘の近くに住み、自分の英語力を磨くことがで
きるようになりました。」
す。「一般的に、原子力発電所のエンジニアが働
族に異文化を体験させるという機会は、最近
く場所は、自分の属する発電所かユニットに限ら
OECTに加わった岡本幸治氏にとっても極めて
れます。しかし、WANOのスタッフは世界各国
貴重なものでした。岡本氏は3年間の滞在予定で
の原子力発電所の安全のために働いており、とて
2011年7月、家族とともにロンドンに赴任し
もやりがいのある仕事だと思います。このこと
ました。
は、原子力エンジニアにとって素晴らしい経験
岡本氏は長い間、WANOロンドン事務所で働く
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
の知識を得たいと思います。」と岡本は言いま
別の言語を学び、グローバルな環境で働き、家
国際的な視野を身につける
6
「他の国の過酷事象管理について、もっと多く
です。」
岡本氏の幼い子供を含めた家族も、外国に住む
という経験を楽しんでいます。「私の家族全員が
ことを希望していました。18年前に派遣元の会
英語を学び始めました。」と彼は言います。「今
社に勤め始めたときから、WANOの活動に関心
では車の中で皆が英語の歌を歌っています。娘は
を持っていました。国際的な環境で働くことに強
公園で遊ぶのも気に入っています。私がロンドン
い熱意を持ち、派遣メンバーに選ばれたときは大
生活でもうひとつ気に入っているのは、パブで一
変興奮しました。
杯やることです!」
ロンドン事務所駐在の
3人の派遣職員が、
英国に住みWANOで
働く意味について
インサイドWANOに
語る
SOERに取り組むイサエフ氏、
氏は言います。「WANOは原子力を推進する機
関ではなく、原子力安全を推進する機関であり、
OECTで働く岡本氏
そこが慣れ親しんだ部分とは違っていて、興味深
い点です。WANOではきっとコミュニケーショ
ンについてより多くを学び、それを出資者の管
理業務と良好な関係の構築に役立てられると思い
ます。」
経験を最大限に活用
派遣はまさに経験と知識の双方向の交換であり、
イサエフ氏、岡本氏、マクギー氏の皆が強調した
のは、心を開いてロンドン滞在中にできるだけ
多くを学びたいという熱意が大切だということ
です。
「外国で働くチャンスは一生で一度きりでしょ
うから、上司からは『あらゆることを吸収してき
言葉の壁の克服
なさい。』と言われました。」と、岡本氏は言い
派遣職員が他の国へ転居する際に、多くの課題に
ます。「WANOロンドン事務所や地域センター
直面することは容易に理解できます。WANOは
に派遣されることを考えている人は皆、なんらか
すべての派遣職員と家族が、なるべく早く容易に
の不安を抱えていると思います。それでも、
新しい環境に適応できるようにあらゆる取り組み
WANOで働くという経験は大変価値あるもの
を行っています。それでも、すぐには克服するこ
です。」
とのできない問題がいくつかあります。イサエフ
マクギー氏もこれに賛同します。個人の能力を
氏の場合、最大の課題はネイティブスピーカーの
高め、仕事上もプライベートでも成長することの
英語を理解することでした。
大切さを強調します。
イサエフ氏は、派遣を検討している人すべて
会が訪れたらそれをつかみとるのです。居心地の
ーの英語を聴く練習をするように勧めます。南ア
いい場所に留まっていては成長することはできま
フリカのEskom社からWANOロンドンに派
せん。」とマムギー氏は言います。
「私がここを去る頃には、WANOと貴重な経
見に賛成です。「アクセント、アクセント、アク
験を分かち合っているはずです。あらゆることを
セント」アフリカ訛りを矯正するのが転居の次の
学ぶ用意があり、自分の知識も分かち合えば、世
最大のチャレンジになっています。
界にお返しをすることになります。何らかの形
マクギー氏それまで、Eskomの出資者の管
理を担当するシニア・アドバイザーを務めてお
レラート・マクギー
コミュニケーション
及びP&TD担当
技術プログラムマネージャー
WANOロンドン事務所
「自分の人生の限界を決めないでください。機
が、ロンドンに到着する前にネイティブスピーカ
遣されたばかりのレラート・マクギー氏もその意
「自分の人生の限界を
決めないでください。
機会が訪れたら
それをつかみとって
ください。
居心地のいい場所に
留まっていては
成長することは
できません。」
で、どこかで、あなたが誰かの人生を向上させる
ことになるのです。」
り、1年間の派遣期間中の現在は、コミュニケー
ション・チームで働いています。彼女は
Eskomに戻る際には大きな利益をもたらすと
思われるコミュニケーションのスキル向上のチャ
ンスに飛びつきました。
「専門知識としては沢山のことを学んでいます
が、まず第一に、自分の考え方を変えねばなりま
せんでした。私のWANOでの目標は、コミュニ
ケーションの部分にあり、Eskomではそれほ
ど重視していなかった部分です。」と、マクギー
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
7
member story
リーダーからリーダーシップを学ぶ
EDFエナジー社
こ
の2年の間、小規模ではあるが多忙なチ
原子力リーダーシップ・アカデミーの参加者たち
ームが、EDFエナジー原子力発電会社
社内でリーダーの行動に大きな変化をも
たらしています。
イアン・モス学長が率いる原子力リーダーシッ
プ・アカデミー(Nuclear Leadership Academy:
NLA)は、高いパフォーマンスを示したリーダ
ーの運転経験とリーダーシップのスキルを活用し
「原子力リーダーシップ
アカデミーは、
リーダーの統率力が
事象と喪失の主因である
と特定した、同社の
全発電所を対象とした
WANOピアレビューの
レビュー結果に
対処する措置として
生まれました。」
イアン・モス
原子力リーダーシップ・
アカデミー学長
EDFエナジー社
て、業務内容に関係なく他の社員にもそうした能
力を開発するようにしむける戦略的イニシアチブ
です。
原子力リーダーシップ・アカデミーの構想は、
リーダーの統率力が事象と喪失の主因であると特
定した、同社の全発電所を対象としたWANOピ
アレビューのレビュー結果に対処する措置として
善是正措置に係わるオペレーショナル・リスクを
生まれました。また、今後10年間に発生する定
低減し(実施済み)、また、緊急時変更に関する未
年退職や新設発電所への異動に伴い、約30%の
処理案件の低減にもアカウンタビリティの訓練を
リーダーが失われる可能性があるため、その対策
活用しています(現在進行中)。」
でもあります。
差別化するべき主要要素
リーダーがリーダーシップとは何かを
教える
NLAは、各レベルの原子力リーダーの様々なニ
NLAのもうひとつの重要な側面は、リーダー自
ーズに応える4つのプログラムで構成されていま
身がリーダーシップについて教える点です。ライ
すが、2年前の開始以来、その周囲には目に見え
ンマネージャーは、プログラムに出席する候補者
て明らかなエネルギーがあります。これまでに
を選び、受講開始前の包括的な説明と評価から、
800名を超える参加者がこのプログラムを受講
プログラム実施期間中とその後のアクション・ラ
しており、78%のリーダーが、年末までに一つ
ーニング・ワークに至るまで、グループに関わり
以上のプログラムに出席する予定です。
ます。
EDFエナジー社は、NLAの中心になってい
現場のシニアマネージャーが専属のメンター
るある主要な要素が、これを他のリーダーシップ
となり、学習期間を通じて各グループに配属さ
訓練プログラムとは違ったものにしていると考え
れます。
ています。
発電所長、ユニット所長、それに各プロセスの専
います。伝統的な「ソフトスキル」とリーダーシ
門家が、さまざまなプログラムの多くのモジュー
ップのテーマが網羅される一方で、それらは原子
ルを指導するように訓練されます。
力という枠組みのなかで提示され、EDFエナジ
その中には、当直引継ぎの有効な開始方法、オ
ー社の業務に対する適用性が高いものになってい
ウ ブ リ ー・ ダ ニ エ ル ズ の ABCモ デ ル ( Aubrey
ます。
8
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
原子力発電エグゼクティブチームのメンバー、
何よりもまず、原子力に明確な焦点が当たって
Daniels ABC Model-積極的な強化がもたらす力
既にアカデミーに参加したキース・トーマス氏
について)、マイ・リーダーシップ・ストーリー
は、プログラムのある分野が役に立ったと述べて
(上級管理職自身がリーダーシップを身に着けて
います。「エンジニアリングのプログラムでは、
きた経験談)などがあります。彼らは原子力発電
アカウンタビリティの訓練が効果的に行われてい
産業における自らの経験と知識だけでなく、この
ます。私たちは、担当がまだ指定されていない改
ビジネスに対する情熱や熱意も教室に伝えます。
イアン・モス学長、
EDFエナジー社の
革新的な原子力
リーダーシップ・
アカデミーの
成功について語る
ジャネット・ホグベンEDFエナジー社人的組織及びブラ
ンドパフォーマンス担当チーフ・オフィサーからイノベー
ション賞を授与されたイアン・モス・アカデミー学長
原子力リーダーシップ・アカ
デミーのプログラム
導入プログラム
各サイトで実施される5日間のプログラム。評価センターの原則を模範とした
シナリオベースのプログラム。原子力発電分野の新リーダーが基本的なリーダ
ーシップスキルを身に着けられるよう立案されている。このプログラムに出席
する参加者は、リーダーシップ/マネジャーの立場にあるか、まもなくそうなる
NLAでのチームワークによる作業
予定の者とする。
原子力リーダーシップ・プログラム(NLP)
アカデミーの旗艦プログラムはサイトをベースに、4~6か月間の期間で行わ
れる。1週間のモジュール3つで構成されている。アクション・ラーニング・ア
サインメントが間の週に行われる。このプログラムは、原子力発電所の運転に
ついての知識、業務とリーダーシップのスキルを網羅し、原子力安全ポリシー
においてリーダーシップ能力を発揮する行動をとれるよう考案されている。
ネクストレベル・リーダープログラム(NLL)
これはINPOと共同で設計され、INPOのNLLプログラムに基づいてい
る。NLPと内容は全く異なっているが、その4週目とみなされており、運転
上の意思決定プロセスに通常関与する各グループのより上級のメンバーを対象
に、NLPが終了してから約1年後に行われる。これは、各サイトの参加者を
集めて本部で行われるプログラムで、さらに戦略的な原子力発電の原則に焦点
を当てている。発電所長とユニット所長による終日に及ぶ指導と、原子力部門
参加者たちは、上級管理職のこうした支援がコ
ースの成功には不可欠であると口をそろえます。
参加者の一人、アンドリュー・バセット氏によれ
ば、上級管理職による「経験の共有」はリーダー
シップのツールに実際の応用例を示してくれま
す。「特にリーダーの皆さんが過去の失敗経験
を誠実に共有してくれたおかげで、私だけがリ
ーダーシップの問題に直面しているわけではない
ことを認識しました。彼らの経験と私が学んだ
ツールはリーダーとしての私の成長に役立つで
しょう。」
これまでにユニット所長とプログラムのメンタ
の役員クラスのメンバーが教える複数のモジュールで構成されている。
原子力リーダーシップ・プログラムのエクサレンス
エクサレンス・プログラムは、1週間の宿泊をともなうモジュール4つで構成さ
れる。本社が直接運営し、12か月間にわたって行われる。内容はさらに戦略
的で、より幅広く業務と原子力発電産業に焦点を当てている。候補者がもっと
実行力のある原子力リーダーになることができるような課題を与え、さらに成
長させる仕組みになっている。対象は、より高い地位にあって高いパフォーマ
ンスを達成した参加者、または将来上級管理職に昇進する予定の者としてい
る。プログラムには、フランスの発電所へのベンチマーキング旅行が含ま
れる。参加者は、事前にNLPとNLLの両方に参加経験があることが期
待される。
ーを務め、現在は発電所長であるマーティン・ピ
アソン氏の解説によれば、「私はチームとともに
プログラムを経験したユニト所長として、取るに
足りない些細な事柄よりは、より深い組織として
の問題を議論したと思います。教室で生まれる意
欲、熱意とリーダーシップによって、私自身にも
意欲が生まれ、私もレベルを上げなければならな
いことに気づきました。」
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
9
member story
さまざまなレベルで学ぶ
実地演習とネットワーキングはコースの重要な要素
プログラムの各グループを構成している縦割りの
組は、さまざまな職能分野のさまざまなレベルの
マネジャーやリーダーが共に学び、互に学び合う
ことを意味します。
これによってグループ内でメンタリングや方向
付けを行うことが可能になります。
これと対になっているのは、継続的に学習する
という原則です。アカデミーのプログラムの大部
分はサイトで行います。30%は教室で、70%
はアクション・ラーニング・グループ活動とメン
タリングを通じて職場で行われます。
「このプログラムはネットワークを構築する優
れた機会になります。」とヘイシャム2号機から
参加したポール・クイン氏は言います。「そのネ
ます。中にはパフォーマンスが著しく改善した例
ットワークはまだ生きています。今でも互いの問
もあります。たとえばトーネス発電所では、保守
題について話し合い、皆で協力して解決策を探し
ス ケ ジ ュ ー ル の 遵 守 ( あ る 例 で は 60%か ら
ています。私自身は、リーダーとしての関与をま
96%へ)、エンジニアリング関連の是正措置報
すます深めておると感じています。このプログラ
告書の未処理案件は80%削減、ワーク・エン
ムは私に強さを与えてくれ、私がリーダーを務め
ジニアリング・グループの成果の10%改善、
てもよいということ、そして、リーダーシップは
作 業 管 理 の 生 産 性 で は 30%の 改 善 が み ら れ
活用することのできる私の貴重なスキルであるこ
ました。」
とを信じさせてくれました。」
NLAがもたらした活気は、EDFグループの
トーネス発電所のディビッド・ユールズ作業管
他の施設だけでなく他の部門の注目も集めていま
理課長は、アカデミーに参加したリーダーと、彼
す。NLAチームは最近英国のイノベーション賞
らが計画した作業の達成度との間に明らかな関
を受賞しましたが、今後も引き続き、刺激を受け
連があることに気付いた、と言います。「私は
た卒業生たちの継続的な開発をその基盤としてリ
プログラムのカリキュラムの中で部下からより多
ーダーシップ開発のための多忙なプログラムを拡
くを引き出す方法について理解を深め、おかげ
大していきます。
で部下たちのチームはより多くの作業を仕上げて
います。」
明らかな成果
このような証言は、イニシアチブがその目的を達
成していることの明らかな証拠であり、参加者た
ちは明らかな変化を示しています。トーネス発電
所のポール・ウィンクル所長は、プログラムに
既に参加した者に具体的な成果がでるのを見て
います。
「どの参加者も習得したスキルを利用した結
果、自らの業務に違いが生まれたことを証明する
ような話をすることができます。」と、ウィンク
ル所長は言います。「改善の実例はたくさんあり
10
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
原子力リーダーシップ・アカデミーの詳細につい
ては、[email protected]にメ
ールでお問い合わせ下さい。
from the top
プラバト・クマール博士、
WANOに加盟した
新会員BHAVINIの
設立について説明する
インドの原子力の
将来を保証
イ
ンド原子力省(DAE)は2004年、
BHAVINIの夜景
新会社Bharatiya Nabhikiya Vidut Nigam
Limited(BHAVINIの略で知られ
る)を設立しました。新会社は、高速増殖炉
(FBR)の建設と運転を目的としています。
BHAVINIの設立はDAEの戦略的な取り
組みであり、現在一号炉を建設中の高速増殖原型
炉(PFBR)の開発に商業的な原則を確保する
「原子炉の
すべての機器を
インド国内で
製造できたことで、
このプロジェクトが
真の国家プロジェクトに
なったことを
極めて喜ばしいと
思っています。」
プラバト・クマール博士
プロジェクト・ダイレクター
BHAVINI
ものです。
この事業はプロトタイプ(原型炉)ですが、プ
ロジェクトの方法は商業用原子力発電所の建設と
同じ水準で行っています。
重要なステップ
参加したことで急速に改善しています。エンジニ
PFBRの建設は、インドの野心的な三段階の原
アがグローバルな慣行を理解するようになってか
子力発電開発計画にとって重要な一里塚のひとつ
ら、プラントの維持と建設プロセスは改善され、
です。このプロジェクトは最終的に、インドでさ
良好な状態にあります。
らにいくつかの高速増殖炉を建設する可能性につ
ながることになるでしょう。
BHAVINIのエンジニアは、異物除去
(FME)などの問題についてWANOの情報か
PFBR用の機器は、厳格な規格に合格しなけ
ら大きな恩恵を受けています。私たちはWANO
ればなりません。インドの製造業は、必要な機器
の運転指標を、発電事業者の継続的改善を促す強
の製造上の課題を受け入れ、その過程で、技術的
力なツールであると認識しています。また、
能力を大きく向上させました。
WANOが高速増殖炉の運転指標を策定するに際
BHAVINIの職員も、原子炉のすべての機
し、BHAVINIのチームがお手伝いすること
器をインド国内で製造できたことで、このプロジ
ができると思いますし、このような相互作用はお
ェクトが真の国家プロジェクトになったことを極
互いの利益になると確信しています。
めて喜ばしいと思っています。
BHAVINIのPFBRプロジェクトは順調
炉心の機器の許容誤差がきわめて微小であり、
に最終ゴールに向けて進んでおり、インドの将来
溶接構造物の規格が厳しいことを考慮して、
のエネルギーを保障する道を開きます。こうした
BHAVINIは、原子炉機器の組み立てを外部
インドの重要な取り組みに、WANOは引き続き
に委託せず、自社の専門知識を活用して実施する
積極的な役割を果たしてくれます。
ことを決めました。
BHAVINIチームの熱意は行動の端々に見
て取れます。すべての活動において高い質を維持
する努力をするのが習慣になり、私たちは、職員
の行動と決定に質の高さが反映される環境を作り
出したことを誇りに思います。
WANOに加入
BHAVINIは、プロジェクトの中では建設期
とみなされる試運転のごく初期の段階から、
WANOの会員になることを決めました。
BHAVINIの職場環境は、WANOの活動に
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
11
feature
継続的改善の重要性
バ
ラコボ原子力発電所はロシア最大の原子
た。このレビューは、グローバルな原子力安全に
力発電所の一つです。4ユニットが、ヴ
対するWANO会員の連帯責任を形成する重要な
ォルガ河畔のサラトフ地域に位置してい
部分を構築するとともに、福島の事故を受け、安
ます。プラントの建設は、ソヴィエト連邦が特別
に開発・実施した技術と工法を駆使して1970
年代に開始されました。
1号機の試運転は1985年に開始、4号機は
「ピアレビューの
総括報告会では、
バラコボ発電所の
良好事例10件が
特定され、
これらは他のプラントの
仲間と共有されます。」
V.N.ベッソノフ
バラコボ原子力発電所技師長
察し、文書を調査し、職員にインタビューを行い
ソヴィエト連邦の崩壊後に完成しました。199
ました。ピアレビューチームとプラント職員との
総括報告会では、バラコボ発電所の良好事例10
で試運転を開始したのです。
WANOとのパートナーシップ
バラコボ原子力発電所は、1993年にWANO
件が特定され、これらは他のプラントの仲間と共
有されます。
「ピアレビューの結果は、プラントの運転上の
安全性と信頼性のさらなる向上のために有用であ
に門戸を開いたロシアで最初の発電所で、その年
ると確信しています。」と、このピアレビューの
にプラント初のピアレビューが実施されました。
チームリーダーであり、チェコ共和国デュコバニ
プラントの管理層は、外国の発電所の経験につい
ー原子力発電所の所内安全性レビュー検査官を務
て詳しい情報を得、そこから学んだ教訓を発電所
めるヤロスラフ・ヴォクレク氏は述べました。
の作業習慣に取り入れたいとの強い希望を持って
「私たちのチームは、プラント職員と建設的な議
いました。
論ができたことを嬉しく思います。」
その後、バラコボ原子力発電所は、2003年
ピアレビューではしばしば、13件から28件
と2011年の二回、WANOピアレビューを受
の改善可能事項(AFI)が特定されることがあ
けました。発電所はまた、技術支援ミッションを
りますが、バラコボの所員たちは今回、チームが
数回招請しましたが、その際の対応に主要な役割
指摘したのが9件のAFIだったことに勇気づけ
を果たした所員は、WANOチームの専門家とし
られました。
し活躍しています。このことは、コンツェルン・
学習点
ロスエネルゴアトムとバラコボ発電所の管理層
ピアレビューのフィードバックの中で最も有用な
が、運転上の安全性を継続的に改善する取り組み
部分は、改善可能事項に関する専門家の観察で
に深く関与していることを示しています。
「WANOピアレビューはプラントにとって非
常に重要です。」と、バラコボ発電所のヴィクト
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
専門家チームは、バラコボ原子力発電所のパフ
ォーマンスを10の主要分野で検討し、作業を観
3年、ロシア初の原子力発電ユニットがバラコボ
て他の原子力発電所で行われるプログラムに参加
12
全性の強化に特に焦点を当てました。
す。これによって職員は、第三者の立場から客観
的に発電所の運転を捉え、どの分野のパフォーマ
ンスを改善すべきかを知ることができます。
ル・イゴレヴィッチ・イグナトフ所長は言いま
レビューワーのコメントは徹底的に検討され、2
す。「レビューの結果は、安全性の確保に係わる
011年12月、このWANOピアレビューの結果と
プラントのパフォーマンスだけでなく、ロシアの
して実施すべき措置に関し、二つの指示が出されまし
原子力発電産業全体の中でのパフォーマンスの評
た。今日現在、措置の大部分は完了しています。
価につながります。経験豊富な海外の仲間たちが
例えば、レビューワーは、プラントのさまざま
実施するピア·レビューは、運転上の安全性を高め
な分野であまりにも多くの方針が効力を持ってお
るうえで重要な手段を講じることを可能にしてく
り、職員はその内容を把握することすら困難にな
れます。」
っていると指摘しました。このような状況は最終
2011年ピアレビュー
所の管理層と職員が主要な目標に注意を集中でき
2011年9月と10月、9カ国の専門家がバ
るよう、所内の管理方針は9件から5件に減らさ
ラコボ原子力発電所のピアレビューを実施しまし
れました。
的に、適切な手順に従う能力に影響します。発電
2011年の
バラコボ原子力発電所
ピアレビューの結果と
教訓
バラコボ原子力発電所はロシア最大級の原子力発電所の一つ
化学の分野でバラコボは、二次系にエタノール
アミンを注入する水化学を初期に導入しました。
バラコボ原子力発電所の制御室
これは、機器の浸食・腐食の大幅な削減に貢献
しました。放射線防護や火災防護、緊急時対応
や作業安全の分野でも効率的な行動が観察されま
した。
エクサレンスを求めて
バラコボ発電所のビクトール・イグナトフ所長
は、WANOピアレビュー実施後、チームに感謝
して言います。
「私たちは非常に貴重な情報を得ました」と。
「提案やコメントはすべて、発電所の安全性改善
に役立てるため、詳細に分析し、これからの作業
計画に活用します。発電所の安全性を改善するも
バラコボ原子力発電所のタービンホール
う一段高い対策は、チームの支援を得て策定され
ました。」
バラコボ発電所はWANOに対し、フォローア
ップ・ピアレビュー実施のために強力な専門家チ
ームを派遣するよう要請しました。レビューのフ
ィードバックを評価する実際的な取り組みを行
えば、発電所は継続的に改善を続けられるから
です。
バラコボ原子力発電所は、「ロシアのベストプ
ラント」賞を9回受賞しており、今年は5年連続
で「ロシアの環境保護活動のリーダー」という名
誉ある賞を受けました。
バラコボ原子力発電所の最大の目標は、最小コ
ストで最大の発電量を提供すること、それに環境
と調和した無条件の運転上の安全性を確保するこ
との二本立てにあります。
良好事例
またピアレビューの間に、職員たちはWANOの
専門家が、プラントのパフォーマンス向上を目指
した、一連の効率的な組織とプロセスの刷新を指
摘したことに喜びました。保修分野の良好事例の
中で、チームは保修計画と管理システムが改善さ
れていること指摘しました。
このシステムは、発電所が保修スケジュールの
品質と効率を改善し、作業の状況分析と保修期限
の最適化を図ることを可能にしました。
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
13
people story
原子力安全を求める旅
1
989年5月にモスクワで開催されたW
ANO設立総会で、初代議長に選出され
ジム・エリス氏は、原子力発電産業のエクサレンス追求を
導いた。
たゴーリングのマーシャル卿は述べまし
た。「私たちは、立ち止まったままでいてはなり
ません。改善するか、さもないと、自己満足に陥
ってしまいます。私たち全員が改善を決意しなけ
ればなりません。あのような事故が起きたこと
で、私たちは協力し合うことを約束することにな
「グローバルな
原子力発電産業の
多くの要素に係る
すべての人々の心に
係りの初めの日から
強力な原子力安全文化が
埋め込まれることが
最も重要です。」
ジェームズ・O・エリス・Jr
総裁兼最高経営責任者
米国原子力発電運転協会
(INPO)
りました。世界のすべての国々の人々は、私たち
がその約束を実行することを期待する権利を持っ
ています。これ以外には、受け入れ可能な代替策
は一切存在しません。」
これはWANOの創立者の一人の言葉ですが、
昨日話された言葉といっても通用します。ここで
いう事故とはもちろん、原子力発電産業に変化を
もたらしたスリーマイル島とチェルノブイリで起
パフォーマンスを向上させるための継続的な取り
きた事故を指しています。
組みであれ、福島第一事故後の対応であれ、気象
私たちは今日、福島第一で何が起きたのか、な
に影響を与えるようなその他の事象、あるいは運
ぜそのような事故が起きたのかを学び続けなが
転上の課題への対処であれ、それはひとつの旅な
ら、23年前に初めてした約束を一新し、強化
のです。
し、促進すべき時がきています。世界が注視して
います、そしてマーシャル卿が率直に述べたとお
それは終わりのない旅です。最高水準の原子力安
を知る権利を持っているのです。
全と運転上のエクサレンスを達成することは、個
私たちの最優先事項
産業として、私たちにとっては常に最も重要な課
別には専門家として、また総体的にグローバルな
私は原子力発電というグローバルな産業の中で、
題です。これで十分良い、ということはありませ
INPOの総裁兼CEOの職を務めてきました
ん。達成した目標は、さらに引き上げねばなりま
が、この間に組織や物事の進め方の変化、パフォ
せん。私たちには文化や国による違いはあります
が、自己満足という共通の敵に立ち向かうため、
しかし他方、最も重要で全く変わらないことも
有志連合として協力し合う必要があります。運転
あります。私がINPOに属するようになるずっ
経験の共有や国際的に学んだ教訓を生かすこと
と以前に基本事項として定められ、私が退いたず
で、習得できることは数多くあります。私たち
っと後にも永続的に積み重ねなければならないこ
は常に一段上のレベルに到達し続ける必要があ
と、つまり、「原子力安全」が常に私たちの最優
ります。
先事項でなければならないということです。今日
50年近く前、当時の米国大統領ジョン・F・
そして明日、グローバルな原子力発電産業の数多
ケネディは、人類の月面着陸という野心的な宇宙
い部分に係るすべての人々の心に、係りの最初の
探査を目指すことについて話しました。「...その
日から、強力な原子力安全文化が埋め込まれるこ
課題は、私たちが進んで受け入れようとしている
とが最も重要です。
ものであり...そして、私たちが勝ち取ろうとして
私たちは、複雑で要求の多い世界に住んでいま
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
有志連合
り、私たちが今後どのように約束を守っていくか
ーマンスの変遷や改善を見てきました。
14
とができ、また守らなければならない事柄です。
いる課題である...」 同じように、私たちも原子
す。原子力安全を最優先事項として受け止め続け
力安全のエクサレンスを達成するという課題を喜
ることは容易ではありませんが、私たちが守るこ
んで受け入れなければなりません。そして、これ
退任するジム・エリス
INPO総裁兼CEO、
原子力安全の将来に
ついて見解を述べる。
多数の講演やプラント訪問の際のエリス氏のメッセージは
明確だった。「私たちのグローバルな産業の成功が持続す
るかどうかは、私たち全員が日々原子力安全に焦点を当
て、注意を払うかどうかに直接関わっている。」
模索し続けるかどうかです。例えば、どの分野が
注意を要するか、解決策を見つけるには、そして
望む結果を達成するにはどうすればいいかを絶え
ず模索し続けるのです。 これらはすべて、継続
的なエクサレンスの追求を意味します。私たちは
皆、原子力の専門家として、私たちが何者である
か、そして、私たちの国、私たちの会社、私たち
の同僚と自分自身に対して行った、あるいは行う
と約束した、または実行可能であると約束した事
柄について、静かに考える時間を持つ必要があり
ます。
業種は違いますが、明確なビジョンをもってい
たスティーブ・ジョブズが、かつて言ったことが
あります。「人には、それほど多くの事をするチ
ャンスがあるわけではありませんから、一人一人
が本当に優れていなければなりません。人生とは
そうしたものだからです。」
原子力エネルギーは私たちの人生であり、私た
ちが行うことは無数の他の人々の生活に影響を与
えます。世界は、その繁栄、成長、そして向上を
私たちに頼っています。私たちは、エクサレンス
を達成する責任、そして義務を負っています。
だからこそ、もう一度、そして常に、やるべき
ことをやりましょう、そして今、やりましょう。
皆さんのご健闘をお祈りします。
を勝ち取らなければなりません。一産業として私
たちが行っていることは、重要すぎるほど重要で
す。私たちは失敗することができません。何故な
ら世界が私たちに依存しているからです。
原子力安全の継続を私たちの最優先事項とする
ことは、皆で共有する旅でもあります。福島第一
での事故は、それが世界のどこで起きた事象であ
っても私たちすべてに影響を及ぼしうるようなグ
経歴:
ジェームス・O・
エリス·Jr
ジェームス・O・エリス·Jrは
2005年から2012年まで
INPO総裁兼CEOを務めた。
また、WANO理事会理事と
WANOアトランタセンター
理事会の副議長も務めた。
2012年5月に引退した。
2004年、エリス提督は
海軍における39年に及ぶ
錚々たるキャリアを、
米国戦略軍司令官として
終えた。
米国海軍兵学校を
1969年に卒業し
数多い任務のなかには、
原子力空母
USSエイブラハム・
リンカーンの艦長も含まれる。
航空宇宙工学と航空システム
の修士号を持つ。
米国海軍の原子力
トレーニングを修了、
海軍の原子力推進プラントの
運転と保守管理の資格を持つ。
現在は、
ロッキード・マーティン社、
レベル3
コミュニケーションズ社、
インマルサットPLC社
の取締役を務める。
ローバルな産業に、私たちが属していることを明
確に示しています。これはありのままの事実であ
り、また同時に、私たちのグローバルな産業を
構成している諸企業、関係する支援機関、国々
の間の特有の連携と共有する義務とを思い起こ
させます。
私たちの責任は終わらない
私たちのグローバルな産業の成功が持続するかど
うかは、私たち全員が日々、原子力安全に焦点を
当て、注意を払い続けるかどうかに直接関わって
います。つまり、いつもより良い仕事のやり方を
INSIDE WANO: V20–NO2–2012
15
WANOは2年ごとに、原子力発電産業又は会員原子力発電所の
優れた運転に特別な貢献をした個人を表彰する
WANO原子力功労者賞を授与しています。
全地域センターの代表者によって構成される
独立した選考委員会が、候補者リストから受賞者を選考します。
現在、候補者の推薦を受け付けています。
WANO会員が運転する原子力発電所の良好な運転に貢献
またはこれを支援する仕事をした個人が受賞対象です。
原子力発電事業者を支えるどのインフラ部分への貢献でもかまいません。
WANOを通じて行った貢献も審査の対象となります。
候補者の推薦締切日は2012年11月26日です。手続の詳細はWANO
会員ウェブサイトに 掲載されています。WANOロンドン事務所のリック・
ヘイリー([email protected])に ご連絡下さっても結構です。WANO原
子力功労者賞は、ロシアのモスクワで2013年5月19-21日に開催さ
れる第12回WANO隔年総会の場で授与されます。
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