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ソブリン・ワールドカップ二次予選の行方
リサーチ TODAY 2011 年 12 月 1 日 ソブリン・ワールドカップ二次予選の行方 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 11月23日にドイツの国債入札で札割れが生じて以来、ドイツの長期金利にも上昇する不安が生じてい る。また、日本でも長期金利が上昇し、1%を上回る状況になった。 ■図表:日米独の10年物国債利回りの推移 (%) (%) 2.4 5.0 日本 米国(右目盛) ドイツ(右目盛) 2.2 4.5 2.0 4.0 1.8 3.5 1.6 3.0 1.4 2.5 1.2 2.0 1.0 1.5 0.8 08/1 1.0 08/7 09/1 09/7 10/1 10/7 11/1 11/7 (年/月) (資料)Bloomberg 最近、一部の投資家の間で発行主体がデフォルト危機に直面したときには、国債は社債よりも「保証 が弱い」との見方が生じている。それは、国家については倒産法制が十分でないのに対して、民間クレジ ットには倒産法制等の制度が存在するからだ。過去、デフォルトを生じさせた国家はいくつもあったが、 担保で回収された国債は少なく、その国の資産が売却されて国債の返済に充当されたこともなかった。 さらに、今回の欧州債務問題の拡大過程では国家の場合、CDS市場でも、十分にヘッジが利かない状 況が明らかになった。一方、格付け機関はこれまでソブリン物には比較的高めの格付けを付し、その体 系がバーゼルも含めた規制体系にも活用されてきた。 これまで国債は投資理論において「リスクフリー」商品として投資の基点と位置づけられてきた。しかし、 今日の投資環境の難しさは、国債のクレジット商品化のプロセスが止まらないことで、投資の基本概念自 体が改めて問われていることにある。筆者は、今日の国家は、国債市場での評価を懺列に取り合うゲー ムである「ソブリン・ワールドカップ」に参加しており、そのゲームでの最も有力な競争力の源は経常収支 であると議論してきた。ただし、足元では同時に、政治のガバナンスも有力な評価ポイントとして求められ 1 リサーチTODAY 2011 年 12 月 1 日 るようにもなっている。実際に、欧州では政治の空白が長期化したベルギーで金利が上昇し、ユーロ圏 のガバナンスへの不信からドイツでも金利上昇が生じた。一方、英国の金利は安定した状況にある。 ■図表:ベルギー、ドイツ、英国のCDSスプレッド推移 200 (bp) (bp) ドイツ イギリス 400 ベルギー(右目盛) 150 300 100 200 50 100 0 10/4 10/6 10/8 10/10 10/12 11/2 11/4 11/6 11/8 11/10 0 (年/月) (資料)Bloomberg 筆者はかねてから、日本のように政府債務が1000兆円を超えるような国の国債が暴落しないで済んで きたのは、日本の国民が国債や政府に対して暗黙裡に抱く信任に依存すると考えてきた。 ■図表:日本の投資家が抱く暗黙の信任 ① 日本はいずれ成長軌道に戻る ② 経済成長路線に戻れば政府はそこで増税の租税高権を行使する決断を行う ③ 政府には決断を実行できるガバナンスが存在する (資料)みずほ総合研究所 これまで野田首相が消費増税への前向きな姿勢を示してきたことは、上記に示した図表の②と③の項 目への信任を高め、政府の財政規律維持への一定の姿勢(市場への愛)を示すものであると市場関係 者は受け止めてきた。ただし、その信認が実現するか否かが改めて問われている。 「ソブリン・ワールドカップ」の一次予選では経常収支が注目され、その観点から日本は「勝ち組」にな っていた。ただし、「ソブリン・ワールドカップ」の二次予選では、政治のガバナンスも有力な評価ポイント になっている。今後は、この点からも日本がどのように評価されるかに改めて注意が必要であろう。先週 来の日本国債の金利上昇は、グローバルに見て市場のモードがやや楽観に戻ったことを受けたものであ ろうが、同時に日本政府の財政規律への意識に市場が警鐘を鳴らした面もあるだろう。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2