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月経周期が健常女性の睡眠と直腸温リズムに及ぼす影
博士(医学)本間裕士 学位論文題名 月 経 周 期 が 健 常 女 性 の 睡 眠と 直 腸 温 リズ ム に 及 ぼす 影 響 学 位 論 文 内 容 の要 旨 従来より様々な精神疾患で月経周期に関連した症状の変動を見ることが矢[ られている。し・かしながら、健常女性において月経周期が夜間の睡眠ならぴ に 生体1ノズ ムにど のように影響を与えているかに関しては、現在なお一致し た 見 解 は 得ら れ て いない 。そこ で、 恒常環 境下に おいて 健常女 性の 1 月 経贋 期 内 に お ける 各 種 の生理 学的指 標の 測定を 行い、 終夜睡 眠中に おけ るd波帯 域 近傍の 睡眠徐 波の変 動を周 波数 解析を 用いて 調ベ、 直腸温リズムの変化と 併せて検討した。 3力 月 以上 に わ た る 事前 の 基 礎 体 温 表の 記 録 か ら 、月 経周期 が規 則的( 2 6日 -36日 ) で 、 基 礎 体 温 が 二 相 性 を 示 す こ と が 確 認 さ れ て い る 18歳 か ら 19歳 の 健 常 女 性 11名 を 対 象 と し た 。 温 度 、 湿 度 を 一 定 に 保っ た 住 居 型 実 験 室 内 にて 、 各 被検者 に個室 を割 当て、 連続5週に わたっ て毎 週金曜 日の 夕 方 か ら 月曜 日 の 朝まで の3日間ず つ生 活させ 、夜間 眠気を 感じ た時点 で就 床 し、翌 朝本人 が自然 覚醒し た時 点で起 床する ように 指示して睡眠覚醒時刻 を 記 録 さ せた 。 実 験室入 室中は 、被 験者全 員の直 腸温を 5 分 間隔 で測定 し、 ま た 、 第 1夜 か ら 第 3夜 ま で は 終 夜 ポ リ グ ラ フ を 記 録 し た 。 実験期 間中記 録され た基礎 体温 表から 、低体 温相を 月経期と卵胞期、高体 温 相 を 黄 体前 期 と 黄体後 期とに 分け て検討 したが 、5回の実 験室 入室期 間中 に こ の 4つの 期 の いず れかが 一度も 含ま れなか った者 、及び 実験 中に健 康上 の 問 題 が あっ た 者 が4名、脳 波記録 にア ーチフ んクト が混入 し周 波数解 析に 不 適 当 な 者が 1名 いた 。この ためこ れら の被験 者のデ ータを 除外 し、直 腸温 リ ズ ム の 検討 は 7名 の デー タ に つ い て 、周 波 数 解 析 はe名の デー タにつ いて 行った。 終夜ポ l ノ グラフ は北大方式の携帯型脳波記録装置を用いて行い、C 3 ・A2 、 C4-A1、 Cz ― A2、 Pz― A1 の 脳 波 4チ ャ ンネ ル と 、 眼 球運 動2チャ ンネ ル、オ t ガ イ 筋 電 図1チ ャ ン ネ ル、 心 電 図 1チ ャン ネ ル を ア ナロ グテ ープ に記録 した 第 2夜 目 のC3-A2の 脳 波 信号 に オ フ ラ イン で 12.5Hzの高 周波 フイ ルタを かけ サ ン プ リ ング 周 波 数 62. 5Hzで A/ D変 換し た 。 変 換 後の 信号 にハ ミング 窓を 適用して、5 1 2ポイントごとに高速フーリェ変換を行い、0 . 5 -1 . 0Hz 、1 .0 ―1 . Hz、1. 5-2 .0 Hz、2. 0-2 . 5 Hz の4 周波数帯域について毎分の平均のバワーデン シ テ イ ー (PD) 値 (単位 :肛V’/ Hz ) を計算 した。 次に視 察で 脳波の 波形 に ア ー チ フん ク ト の 混 入が 認 め ら れ る部 分 の PD値 を除 外し た上 で、入 眠時 か ら 覚 醒 ま で の 一 晩 の 全 PD値 と 各 NREM睡 眠 中 の 平 均 の PD値 を 求 め た 。 後 者は、 同時に 行った 国際判 定基 準によ る20 秒 ごとの 視察判定の結果をもと -8 4― に し て 計 算 し 、 そ の う ち 第 1、 第 2、 第 3周 期 に つ い て の NREM睡 眠 中 の 平 均 の PD値 ( PDnl、 PDn2、 PDn3) を 検 討 に 使 用 し た 。 統 計 学 的 検 定 に つ い て は 、 脳 波 の PD値 に 関 し て は 対 数 変 換 に よ り 正 規 化 し た 上 で Greenhouse-Geisserで 補 正 し た 重 複 測 定 分 散 分 析 を 適 用 し た 。 直 腸 温 は 、 2日 目 の 正 午 か ら 3日 目 の 正 午 ま で の 24時 間 の デ ー タ に お い て 、 加 算 平 均 値 と 最 小 自 乗 法 に よ っ て 求 め ら れ た 振 幅 、 位 相 に つ い て 、 4期 の 間 で Friedman検 定 を 行 っ て 検 討 し 、 危 険 率 5% 未 満 で 有 意 差 が 認 め ら れ た 項 目 に 関 し て は 、 Tukey法 に よ る 多 重 比 較 を 行 っ た 。 7名 の 月 経 開 始 目 か ら 実 験 室 入 室 日 ま で の 期 間 ( 平 均 値 土 標 準 偏 差 ) は 、 月 経 開 始 日 を 0、 開 始 前 日 を − 1、 前 々 日 を − 2. . と 表 示 す る と 、 月 経 期 ; 1. 3土 1. 6、 卵 胞 期 ; - 20.1土 2.3、 黄 体 前 期 ; -13土 2.3、 黄 体 後 期 ; − 6土 2 .3で あ っ た 。 終 夜 脳 波 の 一 晩 を 通 じ て の 全 PD値 は 、 1.5― 2.0 Hz、 2.0− 2.5 Hz帯 域 で 、 卵 胞 期 が 他 の 期 に 比 べ て 有 意 に 高 値 を 示 し て い た 。 ま た 、 0.5− 1.0 Hz、 1. 0− 1. 5 Hzヽ 及 び 1.5-2.0 Hz帯 域 で 、 各 月 経 周 期 と PD nl∼ P Dn3と の 間 で 有 意 に 交 互 作 用 が 認 め ら れ た 。 す な わ ち 、 月 経 期 、 卵 胞 期 、 黄 体 前 期 で は PDn2に 比 較 し て PDn3が 有 意 に 低 値 を 示 し た の に 対 し 、 黄 体 後 期 で は 有 意 差 が 認 め ら れ ず 、 特 に 0.5― 1.0 Hzと い っ た 遅 い 帯 域 で は 、 PDn1∼ PDn3が ほ と ん ど 同 じ 値 を 示 し て い た 。 な お 、 2.0 -2.5 Hz帯 域 で は 各 月 経 周 期 間 の 差 は な く 、 P Dnl、 P Dn2、 P Dn3の 順 に 有 意 に PD値 が 減 少 し て い た 。 直 腸 温 の 各 月 経 周 期 ご と の 24時 間 の 平 均 値 は 黄 体 後 期 で 他 の 期 よ り 0.12 ∼ 0.18℃ 高 く な っ て い た が 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 振 幅 は 、 低 温 相 に あ た る 月 経 期 ヽ 卵 胞 期 が そ れ そ れ 0.33℃ 、 0.38℃ な の に 比 較 し 、 高 温 相 に あ た 期 ヽ 黄 体 後 期 で は そ れ そ れ 0.29℃ 、 0.23℃ と 低 振 幅 で 、 4期 の 間 で る黄 体 前 が め 有意 差 ヽ 認 体 ら れ 、 特 に 黄 体 後 期 が 卵 胞 期 に 比 較 し 有 意 に 低 振 幅 で あ っ た 。 これ は わ 黄 た 後 期 で は 夜 間 の 直 腸 温 が 他 の 期 と 比 較 し て 高 値 で あ る こ と に よ る と 思 れ 。 頂 点 位 相 に 関 し て は 、 4期 と も 午 後 5時 前 後 の 約 40分 間 に 集 中 し て お り 、 4群 間 で 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 例 月 経 周 期 に 伴 う睡 眠 変 動 が 何 に よ っ て も た ら さ れ て い る か は 不 明 で あ る 。 を え ば 、 性 ホ ル モン の 変 動 が 脳 内 で の ニ ュ ー ロ ス テ ロ イ ド の 生 合 成 等 に 影 響 で 及 ぼ す こ と に よっ て 中 枢 性 の 効 果 を も た ら し て い る と 仮 定 す る こ と は 可 能 え あ る が 、 そ の 究明 に は 生 化 学 的 な 研 究 の 発 展 を ま た な け れ ば な ら な い と 考 従 ら れ る 。 一 方 、 直 腸 温 1jズ ム の 変 化 の 機 序 に 関 し て は 、 基 礎 体 温 に 関 す る ぴ 来 の 報 告 か ら 類推 可 能 で あ る 。 高 温 相 に お け る 基 礎 体 温 の 上昇 の 一因 に は、 介 ogesterone¥estrogen丶 及 び そ の 代 謝 産 物 等 が ニ ュ ー ロ ン の 活 動 性 の 変 化 を あ し て 体 温 の セ ット ポ イ ン ト を 上 昇 さ せ る こ と が 関 係 し て い る と い う 報 告 が モ る 。 性 ホ ル モ ンは 一 日 中 分 泌 さ れ て い る こ と か ら 、 基 礎 体 温 上 昇 が 性 ホ ル 述 ン によ る 体温 のセ ッ ト ポ イ ン ト の 上 昇 を 介 し て の 作 用 と 考 え る な ら ば 、 前 が し た よ う な 直 腸 温 1jズ ム の 変 化 も 同 様 に 、 性 ホ ル モ ン の 作 用 に よ る 可 能 性 期 伴 眠 ある。 せ よ ヽ 今 回 ヽ 周 波 数 解 析 を 用 い る こ と に よ つ て 月 経 周 明 に にう睡 た いずれに 期 が明らかになり、また、直腸温りズムの変動がより 確伴なつ 神 徐波の変動 とはヽ生理的及び病態レベルにおいて、女陸の月経周 に ぅ精 。このこ眠の変化を解明するのに役立つと朗待される。 症状や睡 学位論文審査の要旨 主 査 教 授 小 山 司 副査 教授 本間研一 副査 教授 藤本征一郎 学位 . 論文 題 名 月経周 期が健 常女性の睡眠と直腸温リズムに及ぼす影響 学位論 文の概容は 以下の通り であった。 月 経 周 期 が 規 則 的 て 、 基 礎 体 温 が 二 相 性 を 示 す こ と が 確 認 さ れ て い る 18歳 か ら 19歳 の 健 常 女 性 11名 を 、 温 度 、 湿 度 を 一 定 に 保 っ た 住 居 型 実 験 室 内 に て 連 続 5週 に わ た っ て 3日 間 ず つ 生 活 さ せ 、 実 験 室 入 室 中 に 、 直 腸 温 を 5分 間 隔 で 測 定 し 、 ま た 、 第 1夜 か ら 第 3夜 ま で は 終 夜 ポ リ グ ラ フ を 記 録 し た 。 基 礎 体 温 表 か ら 、 低 体 温 相 を 月 経 期 と 卵 胞 期 、 高 体 温 相 を 黄 体 前 期 と 黄 体 後 期 と に 分 け て 検 討 し た 。 周 波 数 解 析 は 、 第 2夜 目 の C3- A2の 脳 波 信 号 に 高 速 フ ー リ ェ 変 換 を 行 い 、 0.5 -1.0 Hz、 1.0-1.5 Hz、 1.5 -2.0 Hz、 2.0-2.5 Hzの 4周 波 数 帯 域 に つ い て 毎 分 の 平 均 の バ ワ ー デ ン シ テ イ ー ( PD) 値 を 計 算 し 、 入 眠 時 か ら 覚 醒 ま で の 一 晩 の 全 PD値 と 、 第 1、 第 2、 第 3周 期 に つ い て の NREM睡 眠 中 の 平 均 の P D値 ( PDnl、 PDn2、 PDn3) を 検 討 に 使 用 し た 。 7名 の 月 経 開 始 日 か ら 実 験 室 入 室 目 ま で の 期 間 ( 平 均 値 土 標 準 偏 差 ) は 、 月 経 開 始 日 を 0、 開 始 前 日 を ー 1、 前 々 日 を -2--と 表 示 す る と 、 月 経 期 ; 1. 3土 1. 6、 卵 胞 期 ; − 20.1土 2.3、 黄 体 前 期 ; ー 13土 2.3、 黄 体 後 期 ; ー 6土 2.3で あ っ た 。 終 夜 脳 波 の 一 晩 を 通 じ て の 全 PD値 は 、 1. 5ー 2.OHz、 2.0-2.5 Hz帯 域 で 、 卵 胞 期 が 他 の 期 に 比 べ て 有 意 に 高 値 を 示 し て い た 。 ま た 、 0.5− 1.0 Hz、 1.0-1.5 Hz、 及 び 1. 5− 2.0 Hz帯 域 で 、 各 月 経 周 期 と P Dnlt PDn3と の 間 で 有 意 に 交 互 作 用 が 認 め ら れ た 。 す な わ ち 、 月 経 期 、 卵 胞 期 、 黄 体 前 期 で は PDn2に 比 較 し て PDn3が 有 意 に 低 値 を 示 し た の に 対 し 、 黄 体 後 期 で は 有 意 差 が 認 め ら れ ず 、 特 に 0.5 -1.0 Hzと い っ た 遅 い 帯 域 で は 、 PD` n1∼ PDn3が ほ と ん ど 同 じ 値 を 示 し て い た 。 な お 、 2.0-2.5 Hz帯 域 で は 各 月 経 周 期 間 の 差 は な く 、 PDnl、 PDn2、 PDn3の 順 に 有 意 に PD値 が 減 少 し て い た 。 直 腸 温 の 各 月 経 周 期 ご と の 24 時間の平 均値は黄体 後期で他の 期より叭1 ∼n1℃高 くなってい たが有意差 は認められ なかつた 。振幅はヽ 低温相にあ たる月経2 、卵8期が それそれ叭 邨℃ヽ叭3 ℃なのに比 較し、高 温相にあた る黄体前期 、黄体後期 では胞れそ れ叫2℃、 m2℃と8 振幅でヽ4 れ そ 頂 期の間で 有意差が認 められ、特 に黄体後期 が卵胞期に 比較9有意 に3振幅低 あったoこ の でし は 黄 後期 夜 腸温 が 期期 比較し 低よ で 思われ 。 変 、 体 では 間の直 て高 値。 るこ と る た 意他の ら 点 相 関し ヽ で有 認と れな あ にに と ヽ従来 他 触 、 伴 位 に ては 4群間 差は かつ た 上の 結 関 の 研 者 報告 異 して 係 まめ 考月経 以 果や し 温リズ の 経 。 ム 直 化究機の と性とのモ 同に関の関 でれヽいた 寺察を周期 にかう睡眠 変動 直腸 浩 の開序 表はホル名 ン等との前 につれて 沢 加え た に てヽ及 F 係 質 が 。 周公と発 腸温26ム の聴衆の関 行わい、 問 一敦 授 ら実験 条件旺つい 敦授かび、 期 直 リズ の変化 につ て あつ た ついで 藤本 一郎 ら 腸温の平均値に月経周期による有意差がなかった理由、検定に用いた統計法、夜間または 起床時の直腸温の月経周期による有意差の有無、黄体期で直腸温リズムの振幅が低下する 理由、ブ口ゲステ口ン以外の体温上昇作用を有するステ口イドの有無などについて質問が あった。さらに本間研一教授から、高速フーリ工解析を用いた徐波の解析で得られた所見、 黄体後期で夜間の直腸温の低下が減少する生理学的機序、月経周期に伴う睡眠徐波と直腸 温リズムの変動の因果関係、黄体後期に夜間の直腸温の低下が減少することと精神症状と の因果関係などについての質問があった。最後に主査より学位論文の結果からどのような 臨床的発展が期待できるか、及び自覚的睡眠感との関係に関する質問があった。これらの 質問に対して、申請者は概ね妥当な解答を行なった。 本研究の結果は、月経周期に伴う睡眠徐波と直腸温リズムの変動を明らかにするもので ある。また、今後、生理的及び病態レベルにおいて、女性の月経周期に伴う精神症状や睡 眠の変化をさらに解明するのに役立つことが期待される。 審査員一同は、これらの成績を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに 充分な資格を有するものと判定した。