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12月の為替相場展望
Forex Monthly ~12 月の為替相場展望~ 2016 年 11 月 29 日作成 マーケット金融ビジネスユニット 為替セールスチーム <お問い合わせ先> 本レポートについてのご照会は、弊社営業担当者までお申し付けください。 【11 月の振り返り】月初、ドル/円は 105 円付近から始まると米大統領選挙の報道に左右される展開。選挙前に世論調査でトランプ候補が一時クリントン候補を逆転した ことなどからドル/円は一時 102 円半ば付近まで下落したが、堅調な 10 月米雇用統計やクリントン候補のメール問題に関する疑惑が払拭されたことを受けて再び開票前 に 105 円近辺まで値を戻した。注目の米大統領選挙は事前予想に反しトランプ候補勝利の可能性が高まると、急速にリスクオフの展開となりドル/円は一時 101.19 円ま で下落。しかし、米下院だけでなく上院も共和党が過半数を獲得したことで流れが反転、トランプ次期政権の積極的な財政政策期待が高まると、米金利の大幅上昇とと もにドル/円は 106 円を越えて高値を更新し続けた。月後半にかけても、トランプ氏の大規模な財政政策への期待が継続しリスクオンの流れ。予想上回る小売売上高な どの堅調な米指標のサポートも加わり、米金利が 2%前半まで上昇する一方、日銀が初の指値オペを通告し円金利の上昇を抑えたことで日米金利差拡大期待からドル /円は急速なペースで上昇すると節目の 110 円を突破。その後も、米耐久財受注が予想を大幅に上回ったことに加え、11 月 FOMC 議事録が 12 月米利上げを裏付け る内容となったことでドル買いが勢い付くと、ドル/円は一時 113.90 円まで上昇。足元は調整の動きも入り 112 円を挟み揉み合いとなっている。(レートは 11 月 28 日まで) 【ドル/円相場変動要因】 ① 11/1:米 大統領選支持率、トランプ氏がクリントン氏をリ ード(46%:45%)-ABC・WP→ドル売り ② 11/2:米 米 FOMC:「現状の政策据え置き」、10 月米 ISM 非製造業景気指数 54.8(予想 56.0)→ドル売り ③ 11/4:米 10 月非農業部門雇用者数 16.1 万(予想 17.3 万 前回分修正 15.6 万→19.1 万)、10 月失業率 4.9% (予想 4.9%)、10 月平均時給(前月比)0.4%(予想 0.3%)、FBI 長官「クリントン氏メール問題調査の結論は 変わらず」→ドル買い ④ 11/7:米 大統領選:クリントン氏の支持率 44%、トランプ 氏は 41%-BN 世論調査 →ドル買い ⑤ 11/9:米 「米大統領選、トランプ氏が勝利」、「米上院、 共和党が過半数制する」、米 10 年債金利が節目の 2%を 上抜け→一時ドル売りも財政拡大懸念による米金利急 上昇を受けてドル買い加速 ⑥ 11/10:米 ブラード・セントルイス連銀総裁:「12 月は利 上げに妥当なタイミング」→ドル買い ⑦ 11/15:米 10 月小売売上高(前月比)0.8%(予想 0.6%) -コア売上 0.8%(予想 0.4%)→ドル買い ⑧ 11/17:日 日銀、初の指値オペを通知、1-3年と3-5 年→円金利低下、円売り 米 イエレン FRB 議長発言:「利上げは比較的早期に適 切になる可能性」 、10 月消費者物価指数(前月比) 0.4%(予想 0.4%)→ドル買い ⑨ 11/18:米 ブラード・セントルイス連銀総裁:「12 月の利 上げ支持に傾いている」、カプラン・ダラス連銀総裁:「緩 和政策の一部を近い将来に解除する用意ある」、ジョー ジ・カンザスシティ連銀総裁:「早期の利上げを支持」→ ドル買い ⑩ 11/22 : 米 10 月 中 古 住 宅 販 売 件 数 5.6 m ( 予 想 5.44m)、11 月リッチモンド連銀製造業指数 4(予想 0) →ドル買い ⑪ 11/23 : 米 10 月 耐 久 財 受 注 ( 前 月 比 ) 4.8 % ( 予 想 1.7%)、FOMC 議事録:「利上げは比較的早期に適切 になると大半が判断」「12 月利上げは当局の信頼性にと って重要と⼀部が指摘」→ドル買い 11/ 25:113.90 112.50 110.50 ⑪ 108.50 106.50 ① ⑦ ② ⑧ ⑨ ⑩ 104.50 ⑥ 102.50 ③ ④ ⑤ 100.50 11/1 11/3 11/7 11/ 9:101.19 11/9 11/11 11/15 11/17 11/21 11/23 11/25 11/29 11 月 EUR/USD 1.0518-1.1300 1.1400 ⑤ ① 11/ 9:1.1300 ② 1.1200 1.1000 ③④ ⑦ ⑧ (1) (2) ⑩ ⑪ 1.0800 1.0600 11/ 24:1.0518 1.0400 11/1 11/3 11/7 11/9 11/11 11/15 11/17 11/21 11/23 11/25 11/29 11 月 EUR/JPY 113.78-120.15 121.00 120.00 11/ 25:120.15 119.00 (1) (2) 118.00 117.00 【ユーロ変動要因】 (1) 11/18:欧 ドラギ ECB 総裁:「今後も責務の範囲内で あらゆる手段を活用」「かなりの不確実性が残ってい る」→ユーロ売り (2) 11/21:欧 ドラギ ECB 総裁:「金融政策による支援継 続、インフレ目標達成に必要」→ユーロ売り 11 月 USD/JPY 101.19-113.90 114.50 ① ⑩ ② 116.00 ⑦ 115.00 114.00 113.00 ⑪ ⑧ 11/ 9:113.78 ③ ④ ⑤ 11/3 11/9 11/11 11/15 11/17 11/21 11/23 11/25 11/29 112.00 11/1 11/7 (出所:Bloomberg) 1 ■ 12 月の予想レンジ USD/JPY EUR/USD EUR/JPY 11 月の見通し回顧 109.00~115.00 1.0300~1.0900 115.00~121.00 11 月の当方予想レンジは、ドル/円 102.50~107.00 円、ユーロ/ドル 1.0700~1.1100 ドル、 ユーロ/円 113.00~117.00 円。ドルは、年内利上げ観測や米大統領選でのクリントン候補の勝 利を受け、リスクセンチメントの改善を背景に堅調推移を予想。円については、日銀追加緩和 観測が後退する中、本邦の材料への注目度は低下しており、市場のリスクオン・オフの動向に 左右されやすいと予想した。ユーロは、域内景気に力強さが見られない中、引き続き低水準で の推移が見込まれる欧州主要国金利などを背景に上値の重い展開を見込んだ。 実際の 11 月の月間レンジは、ドル/円:101.19-113.90 円(11/28 終値現在:111.92 円)、ユ ーロ/ドル:1.0518-1.1300 ドル(11/28 終値現在:1.0616 ドル)、ユーロ/円:113.78-120.15 円 (11/28 終値現在:118.72 円)。 ドル/円は当方の予想に反し、米大統領選で予想外の勝利を収めたトランプ氏への経済対 策への期待感から、ドル全面高となり 10 円超の大幅上昇となった。 月初 104 円台前半で推移していたドル/円は、米大統領選の世論調査でトランプ氏がヒラリ ー氏を逆転したことや、米 10 月 ADP 全米雇用報告が予想を下回ったことで、102.55 円まで下 落。米 10 月雇用統計はヘッドラインこそ弱かった(結果:16.1 万増、予想:17.3 万増)ものの、 過去 2 ヶ月分が上方修正されたことや、コミーFBI 長官の「クリントン氏メール問題調査の結論 は変わらず」との発言に、米大統領選に対する不透明感が払拭、その後も世界的な株高をサ ポートにリスクオンとなり、クロス円の上昇と共にドル/円は 105 円台を回復。しかし注目の米大 統領選において、予想外にトランプ氏勝利の可能性が高まると、急速にリスクオフの展開。ドル /円は日経平均株価が前日比 1,000 円超の大幅安となる中、開票前の 105 円近辺から一時 101.19 円を示現した。ただ、米下院だけでなく上院も共和党が過半数を獲得となると流れが反 転。米金利大幅上昇に伴いドル買いが強まり、ドル/円はストップロスオーダーを巻き込みなが ら、107 円手前まで一気に値を戻した。 後半に入ると、トランプ次期政権の積極的な政策が米インフレ率を押し上げるとの見方から 米金利が一段と上昇。日米金利差の拡大を背景にドル/円は 107 円台に乗せると、トランプ氏 の財政刺激策への期待感や連日最高値更新となった米国株式市場を背景に 108 円台を突 破。さらに米 10 月小売売上高速報が予想を上回り、前回値も上方修正されたことからドル買 いが強まりドル/円は 109 円台に乗せると、11 月末の OPEC 総会での減産同意の思惑に WTI 原油先物が反発したことや、さらなるドル買い圧力に 6 月以来となる 110 円台を示現。その後も ドル買いの流れが継続する中 111 円台に乗せると、予想を大幅に上回った米 10 月耐久財受 注の結果を受けて米金利上昇に伴うドル買いが加速、ストップロスオーダーを巻き込みながら ドル/円は 112 円台まで上昇。さらに、11 月 FOMC 議事録が 12 月利上げを裏付ける内容とな ったこともドル買いを継続させ、じりじりと値を上げる中、一時 113.90 円まで上昇した。 月末にかけては、本邦輸出企業の円買い需要も根強く、日経平均株価も反落する中で、ドル/ 円は 111 円台前半まで反落したものの、足元は OPEC 総会での減差合意期待もあり、WTI 原 油先物が反発する中、112 円台後半まで回復している。 ユーロは当方の見込み通り、月を通して上値重い展開となった。 前半は、米 10 月 ADP 全米雇用報告の弱い結果や、クリントン氏のメール問題の捜査再開を 背景に、米大統領選への不安拡大を背景とした世界的なドル安の流れを受けて上昇基調とな り、1.09 ドル台後半で推移していたユーロ/ドルは、1.11 ドル台後半まで上昇。その後は、ドル 買い地合いの中やや軟調気味に推移するも、米大統領選でトランプ氏の勝利が確実視される とリスクオフの動きに、一時 1.1300 ドルまで急上昇。ただその後反転急落となり、米金利上昇を 背景としたドル買いに 1.09 ドルを割り込んだ。 後半に入ると、トランプ氏の大型減税やインフラ整備といった大規模な財政刺激策への期 待感からドル買い圧力が強まると、ユーロ/ドルは 1.07 ドル台まで下押し。その後イタリア、ドイ ツの長期金利上昇に一時 1.08 ドル台まで反発するも、ドル買い地合い継続の中 1.07 ドルを割 り込み、1.06 ドル台前半まで下落。その後、予想を大幅に上回った米 10 月耐久財受注を受け てドル買い優勢となる中、ユーロ/ドルは一時 1.0518 ドルまで下値を切り下げるも、月末にかけ てはドル/円が反落する中、1.07 ドル手前まで小幅ながら反発している。 一方ユーロ/円は、月を通して堅調な推移となった。 米大統領選で、予想に反してトランプ氏の勝利が確実視されると、リスク回避の動きが急速 に強まり、116 円台前半で推移していたユーロ/円は一時 113.78 円まで下落。ただ、その後は トランプ氏の大規模な財政刺激策への期待から、ドル円が値を戻す動きに連れ、ユーロ/円も 反転上昇。月末には 6 月以来となる 120 円台を回復している。 (文責: 山下) 2 12 月の相場見通し ドル見通し 12 月のドルは、トランプ新大統領の政策期待に伴う米金利、米株上昇基調継続と、決算期 末・年末を控えたドル買い需要に引き続き堅調推移を予想する。但し、FOMC 後の米金利上 昇一服の可能性やドル高牽制発言による調整売りの可能性に警戒したい。 <米大統領選後のマーケット、リスク動向等> 11 月 8 日に実施された米大統領選挙では大方の予想を覆し、共和党トランプ候補が勝利。 各州の投開票結果でトランプ氏優勢の見方が強まるに連れ、市場はリスクオフの動きとなり、 金利低下、株価下落、円などの所謂安全通貨買いの初期反応となった。しかしながら、英 EU 離脱時の経験から市場の様子見姿勢が強まっていたこともあってか、トランプ氏当選確実とな ると相場は徐々に落ち着きを取り戻す展開。さらに、同日行われた連邦議会選挙で、下院だ けでなく、民主党が過半数を占める可能性も取り沙汰されていた上院でも共和党が過半数を 確保する結果となったことや、トランプ氏の勝利演説が協調を促す内容となり過激な発言は見 られなかったことから、市場のリスクオフの動きは一気に反転することとなった。 トランプ氏が掲げる企業・家計に対する減税やインフラ投資、規制緩和などの政策、および 大統領所属政党と議会多数派が同一となる「ねじれ」解消による政策実現性の高まりが景気 拡大につながるとの見方から、米国株を中心に株価が反発(NY ダウは 19,000 ドル台へ上昇 し、高値を更新)。また、景気拡大期待とトランプ氏の政策実施で財政赤字が拡大することへ の警戒感から、米金利も長期・超長期ゾーン中心に大幅上昇に転じている。 トランプ新大統領決定後の市場環境は警戒されたリスクオフではなく、リスク選好の動きとな るなか、12 月の利上げは確実視される状況。新大統領の政策への期待感がインフレを押し上 げるとの見方から、来年以降の FRB の利上げ織り込みが進んでいることがドルの上昇につな がっている。後述するが、これまでは来年も年 1 回程度の緩やかな利上げにとどまるとの見方 がコンセンサスとなっていたが、サプライズとなった大統領選結果を受けて FRB の今後の金融 政策の転換を見込む動きとも言える。当面はトランプ新大統領がこれまでの暴言等を抑え、現 実路線に舵をきる動きが継続すると見ており、米金利上昇基調に伴うドル買いの動きは継続 すると予想する。 一方で、足元のドル高進行スピードは急激であり、製造業をはじめとする米企業には重石と なる面も大きい。現状は米政府サイドや産業界から目立ったドル高牽制の動きは見られていな いが、トランプ氏自身や新政権での財務長官に指名される人物等からドル高牽制の発言が出 てきた場合は、これまでのドル買いの調整が入る可能性が高く、注意が必要だ。新政権の為 替政策や公約として掲げられた景気対策等の実現性については依然不透明であり、2017 年 1 月 20 日の新大統領就任までに明らかになる財務長官をはじめとする閣僚等の人事に加えて、 大統領就任演説、一般教書、予算教書等が今後の注目材料となろう。 リスクセンチメントは米大統領選を通過したことによる不透明感払拭や、中国経済に対する懸 念の後退によるコモディティ価格の上昇、欧州金融機関の財務懸念後退等で改善しており、 対円でのドル上昇をサポートしている。リスク選好の動きは目先継続しやすいと見るが、11 月 30 日に予定されている OPEC 総会での減産合意の有無や、12 月 4 日のイタリア国民投票の 結果次第で欧州各国の反 EU 派が勢いを増すとの懸念が増大する可能性には留意しておき たい。 需給面では、12 月末の米国企業決算を控えたリパトリ(本国への資金還流)に伴うドル買い や、ドル調達ニーズの高まりがドルを下支えしよう。 <米金融政策> 11 月 1 日~2 日に開催された FOMC では、市場予想どおり政策金利(FF レート)の誘導目 標レンジを 0.25-0.50%で維持することが決定された。前回反対票を投じたボストン連銀ローゼ ングレン総裁は賛成に回ったが、カンザスシティ連銀ジョージ総裁及びクリーブランド連銀メス ター総裁は前回に続き、誘導目標の引き上げ(0.50-0.75%)を主張し反対票を投じている。声明 文では追加利上げについて「さらなる根拠を待つ」というスタンスは据え置かれたが、前回 FOMC から利上げに向けてさらに前進したことが示された。 声明文第 1 段落での経済の現状認識は、「経済活動の拡大は今年前半に見られた緩やか なペースから加速した」と前回の判断を踏襲。 個別項目では、労働市場について「堅調」と前回の「均して見れば堅調」からやや上方修正さ れた一方、「力強く増加している」とされていた個人消費については GDP の個人消費減速を背 景に「緩やかに増加している」とやや下方修正された。 また、インフレ動向について、依然目標を下回っているとしつつも、「今年初めからやや上昇し ている」という表現が追加された。また、マーケットベースのインフレ期待についても、「上昇し た(have moved up)」という表現が追加されている。 第 2 段落での経済の先行き見通しに関しては、リスクは「おおむね均衡したとみられる (appear roughly balanced)」との表現が維持された。第 3 段落での今後の金融政策についても 「さらなる根拠を待つ」と前回同様の表現が維持され、政策金利据え置きの理由が示された が、「政策金利を引き上げる根拠は引き続き強まった(has continued to strengthen)」との表現 が加わり、次回 FOMC での利上げを示唆する内容と言える。 大半の予想通り、大統領選を翌週に控えるなか、市場の利上げ織り込みもほとんど無く利 3 上げは見送られた格好だが、予想外のトランプ新大統領決定にも、市場は足元リスク選好的な 動きとなっており、市場の織り込みもほぼ 100%となっていることから、12 月の利上げはほぼ確 実だろう。 筆者はこれまで「利上げペースが来年以降も緩慢との見方に変化が無い限り、大幅なドル 高は見込みづらい」としてきたが、トランプ新大統領による景気対策がインフレを後押しし、 2017 年以降の利上げペースが加速するとの見方が米金利上昇につながっている。新大統領 就任後の政策実行の行方次第では、市場の織り込みが一段と強まり、ドル買いが加速する可 能性は否定できない。とはいえ現状の 2017 年度の利上げ織り込みは、大統領選前の年 1 回 から、既に年 2~3 回の水準に上昇しており、トランプラリーには期待先行の感も否めない中、 FOMC 後はいったんポジション調整の動きが強まりやすいと見ており、ドル買いの勢いは一服 すると考えている。 <米経済> 10 月の非農業部門雇用者数は前月比 16.1 万人増と、市場予想(17.3 万人増)を小幅に下 回ったが、8 月・9 月分で合計 4.4 万人の上方修正が入っており、完全雇用に近づく状況で堅 調な増加ペースが続いていると言える。失業率は 4.9%と市場予想通り前月から小幅低下した が、労働参加率の低下が主因でありポジティブとは言えないものの、平均時給は前年比+ 2.8%と前月(同+2.7%)から一段と加速し 2009 年 6 月以来の伸び、非自発的失業者数も 3 か月ぶりに低下するなど、雇用の質改善も継続している。堅調な労働市場が米経済をサポー トする状況に目先変化は無いようだ。 10 月の小売売上高は、前月比+0.8%と 2 か月連続の増加、振れの大きい業種(自動車・建 材)を除いたコア小売売上高も同+0.8%と非常に堅調であり、8 月の天候不順等を背景にした 米個人消費の停滞は一時的で、底堅い労働市場等を背景に個人消費が米経済を支える構 図が継続していることを示している。さらに、消費者マインドは、11 月のミシガン大消費者信頼 感指数(確報)が 93.8 と前月から上昇。大統領選挙を控えた先行き不透明感がマインド押し下 げにつながっていたことや、大統領選後の株価上昇が一段のマインド改善につながりそうなこ とからも、短期的には個人消費を一段と押し上げる可能性もありそうだ。 企業部門についても、改善が続いている。10 月の鉱工業生産は前月比横ばいにとどまった ものの、公益部門の低下が要因であり、製造業・鉱業は 2 か月連続上昇と堅調。10 月の耐久 財受注も、前月比+4.8%と市場予想(同+1.7%)を大きく上回る結果となっている。10 月ISM 製造業景気指数も 51.9 と前月から改善し、2 か月連続で 50 を上回る内容となっている。しかし ながら、夏場にかけてのドル高一服が製造業の持ち直しにつながった面は大きいと思われ、 足元の急速なドル高が、製造業をはじめとする企業業績に重石となることには注意が必要だ。 今後発表される経済指標で、製造業の景況感等の低下が示されてくれば、米利上げペースは 限定的とのこれまでの見方が再燃し、米金利低下を通じてドル安につながる局面が年明け以 降顕在化する可能性は高いと考える。 総じて、米経済は堅調であり、目先は相対的なファンダメンタルズの強さや利上げ正当化に よる他の先進国との金利差拡大観測がドルをサポートする構図は続くと見るが、中期的な持続 性には今後の新大統領の政策など不透明な部分によることも大きいことは認識しておきたい。 円見通し 円については、米国をはじめ他国との金利差拡大観測や需給面での円買い一服、リスク選 好の動きから円売り優勢の展開を予想するが、米FOMC後の月後半にかけては、金利上昇 一服からポジション調整に警戒したい。 10 月 31 日~11 月 1 日の日銀金融政策決定会合では、現状の政策維持が決定された。黒 田日銀総裁や数名の審議員が政策の据え置きを示唆していたこともあり、市場の予想通りの 結果に反応はほとんど見られなかった。日銀は 9 月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩 和」いう新たな枠組みを導入、①総括的検証でじっくりと緩和強化に取り組む姿勢を示したこと や、②サプライズ型から市場との対話重視姿勢に転換していると見られることで、今後 も会合毎に追加緩和期待や思惑で市場が振れる場面は減少しよう。 一方、日銀は 17 日、欧米金利の上昇に連れた円金利上昇に対し、9 月に導入した新 たな枠組みの手段としての「指し値オペ」を通知した。通知自体の効果もあって、円金 利の上昇は一服、実際指し値オペへの応札は無かった(金融機関等は市場実勢で国債を 売却するほうが有利な水準となるため)。しかしながら、日銀が円金利の上昇を抑える 姿勢を見せたことで、今後も円金利の上昇は抑制されやすい一方、米国を中心に世界的 に金利が上昇基調にあるなか、金利差拡大観測が円売りに作用する状況が継続しやすい だろう。 また、市場のリスク選好の動きが反転しリスクオフが強まった場合にも、①短期政策金利引き 下げ、②長期金利操作目標の引き下げ、③資産買入れの拡大、④マネタリーベース拡大ペー スの加速(9 月会合で日銀が列挙したもの)等の日銀の追加緩和策への期待が円買い抑制に 寄与すると思われ、日本の金融政策は総じて円売りをサポートし続けると考える。 4 需給面では、想定為替レートを円高方向に引き下げた輸出企業等のヘッジが年度内中心 に相応に進んだと見られ、また急激な円安進行で状況を見守りたいとの姿勢も強まりそうで、 円買い需要は一服しそうだ。また、買い遅れ感のある輸入企業や、暖房需要に伴うエネルギ ー代金支払い等の円売りが見込まれ、実需筋のフローはやや円売り優勢の展開を予想する。 一方、投機筋のポジションは依然として円買い超(IMM投機筋の円買いポジションは、11 月 22 日時点でネット 10,900 枚の円買い超)となっており、直近ピーク(9 月 27 日時点:ネット 68,892 枚の円買い超)から大きく縮小。米 FRB の利上げ余地は限定的との見方や、市場のリ スクオフ地合いが強まりやすいとの見方を背景に構築された中長期的な円買いポジションも、 相応に調整されたと見ており、損切りを巻き込んだ円売り進行スピードは、今後限定的になると 考える。グロスの円売りポジションは大きく増加(9/27:28,540 枚→11/22:60,283 枚)してきて おり、短期的なポジション調整(円買い方向)のリスクには注意しておきたい。 テクニカル面をみると、ドル/円は年明け以降レジスタンスとなっていた日足一目均衡表の雲 が前月からサポートに転換。ダブルボトム(8/16 安値:99.55 円、9/27 安値:100.09 円、その間 の高値:104.32 円を上抜け)形成後、7 月高値の 107.49 円をあっさりと上抜け、4 月高値の 111 円台後半も突破しており、2 月後半から 3 月初旬に上値を抑えられた 114 円台半ばを伺う展開 となっている。同水準や心理的な節目となる 115 円、中長期的な指標となる週足一目均衡表 の雲上限(現状 115 円台前半。12 月中旬にかけ 112 円台前半へ切り下がる)がレジスタンスと なるか注目される。 (文責: 西田) ユーロ見通し 12 月のユーロ/ドルは、引き続き上値重い推移を予想する。 ユーロ圏景気に力強さが見られない状況下、欧米における金融政策スタンスの違いを背景 とした米独金利差拡大傾向からユーロの上値は重いだろう。今後も、ドラギ ECB 総裁がこれま で指摘している鈍い構造改革ペースがユーロ圏の景気回復の足かせとなる他、重債務国を中 心としたデフレ懸念もユーロ安要因である。ハード・ブレグジット懸念の高まりを受けた英ポンド の不安定な動きや世界経済の減速リスクも中長期的なユーロ安材料としてなお意識されよう。 欧州銀行の財政問題が今後改めて注目されることとなれば、市場全体のリスクメント悪化から ユーロ売りに拍車がかかりやすいだろう。テクニカル面(後述)からもユーロ/ドルは下値不安が 残っており、現状水準からは上下を繰り返しながらも徐々に下値トライの展開を予想する。 一方で、米利上げについては既に完全に織り込まれていることから、現状水準からのドル高 一辺倒の動きも想定しづらい。イベント前後のポジション調整局面ではこれまで買い進まれた ドルの調整売りも見込まれ、同局面では相対的にユーロがサポートされやすいだろう。なお、 ユーロの IMM ポジションは足下ショートが積み上がっていることから(後述)、特にイベント前 等、重要チャートポイント付近(1.04 ドル台半ば)でのユーロの買戻し圧力にも留意が必要だろ う。 一方ユーロ/円は、引き続き日欧の大規模な金融緩和環境継続が見込まれることから方向 感は出にくいものの、世界的に底堅さを維持している株価動向等が下支え要因。ただ、上述し たユーロ安圧力から 120 円台では上値の重い推移となろう。 11 月は ECB 理事会の開催はなかったが、10 月開催分の議事要旨によれば「将来の金融政 策措置について金融市場で過度の期待を起こさないように留意」することで一致したことが明 らかとなった。また、物価安定見通しに対する検証は時期尚早で、プラート ECB 理事は「(基調 的なインフレは)確固として上向く明らかな兆候が引き続き欠けている」と指摘した。 先日の米大統領選の結果は ECB の今後の金融政策に直接的には影響を与えず、今後の 政策はユーロ圏の経済指標と金融環境次第となろう。この観点から言えば、次の重要イベント はイタリアにおける憲法改正を問う国民投票(12/4)であり、否決となった場合には金融環境逼 迫のリスク要因となる可能性があり注目(否決の場合、次回 12 月の ECB 理事会において現状 17 年 3 月までとされている資産購入プログラムの延長もありうる)。尤も、これまで懸念されてい た買入れ規則については、ここもとの債券利回りの上昇によって買い入れ対象債券不足問題 は解消されたため、ECB にとって時間的猶予ができたと言えよう。コンスタンシオ ECB 副総裁 による最近のコメント「ECB は緩和的な政策姿勢を維持へ」にもあるように、必要であれば追加 緩和を実施するという ECB のスタンスには変化はみられないものの、これまでで既に十分な緩 和が行われたとの見方もある。足元、過度のデフレ懸念は後退していること等から、当面 ECB は現在の金融政策を維持すると予想する。 ユーロ圏の景気は緩やかな回復基調を維持しているものの、そのペースはなお緩慢であ る。16 年 7-9 月期 GDP 成長率(一次速報)は、前期比+0.3%と大幅に鈍化した 4-6 月期 から横ばい。プラス成長はなんとか維持しているものの、今年 6 月の英国の EU 離脱決定前か らユーロ圏内の景気回復が足踏み状態となっていたことが示されており、今後の懸念材料と言 えよう。 主な経済指標を項目別にみると、まず生産は、9 月の鉱工業生産が前月比▲0.8%(7 月: 同+1.8%)とマイナスに転換したが、前年比ベースでは+1.2%(8 月:同+2.2%)とプラス圏 5 を維持した。消費関連は、11 月の消費者信頼感指数(一次速報)が▲7.8 と先月の▲8.0 から 小幅ながらマイナス幅が縮小。英 EU 離脱はユーロ圏経済にとっても不透明要因であるもの の、マインド指標は一段の悪化とはなっていない。一方、9 月小売売上高は、前月比▲0.2% (8 月:同▲0.2%)と軟調だったものの、前年比ベースでも+1.1%(8 月:同+1.2%)と横ばい 圏を維持した。雇用関連は、9 月の失業率が 10.0%と前月(10.0%)から横ばい。物価につい ては 10 月の消費者物価指数が前月比で+0.2%(9 月:同+0.4%)とプラス幅が縮小した。原 油価格は 10 月に月間でマイナスに転換したものの、11 月以降も伸び悩んでおり今後のユーロ 圏のインフレ動向に与える影響に引き続き注目したい。 テクニカル面をみると、ユーロ/ドルは足下、直近 1 年間の大きなレンジ(1.05-1.15 ドル)下 限近辺での動きとなっている。下サイドは 2015 年以降、1.04 ドル台半ばで 2 回サポートされて おり、同水準での攻防に注目。11 月はここまで米金利大幅上昇を背景としたドル高の動きに 値幅をともなって下落した。ユーロ/ドルは今年 6 月以降、サポートされていた 1.0850-1.09 ド ルを割り込んだ後、下向きの流れが鮮明となっており、昨年 3 月以来の 1.05 ドル割れも視野に 入ってきている。月足でみると、6 月の英 EU 離脱決定後は値動きに方向感は見られず膠着し ていたが、11 月は米大統領選後のドル買いに大幅下落(月間値幅:800pt 弱)となり、2 ヵ月連 続で比較的大きな陰線となりそうだ。なお週足は、11 月は月後半にかけて陰線が連なった後、 寄引同時線となっており、今後の値動きには留意が必要。日足は米大統領選前につけた 1.11 ドル台半ばから 10 営業日連続で陰線となった後、一旦足踏み状態となっている。 なお、通貨オプション市場ではユーロ/ドルの 1.05 ドルのプットのうち、12/15 期限が 2.1 億 ユーロ相当、12/22 期限が 1.05 億ユーロ相当となっている(11/22 時点の DTCC 報告)。 ドルインデックスは、米大統領選のタイミングで上下するも 200 日移動平均線(現状 96 近辺) をサポートに、鬼門であった 100 レベルをついに上方ブレイク。このままドルインデックスの堅 調推移が続けばユーロ/ドルの上値抑制要因としてワークしよう。 ただ、オシレーター系のチャートである RSI をみると、ユーロ/ドルは現状 32 近辺(11/29 時 点)と売られ過ぎの状態。投機筋の IMM 先物ユーロネットショートポジションも直近(11/22 時 点)で 119,000 枚と約 1 ヵ月前(10/18 時点:約 109,000 枚)とほぼ変わらずではあるものの、比 較的高水準であり、ポジション調整に伴うユーロの買い戻し余力は留意しておきたい。 一方ユーロ/円は、今年 10 月まで 3 ヵ月間程度 115 円を中心としたレンジ内で方向感を喪 失していたが、上向きの流れに反転。ただし、RSI がやや買われ過ぎ状態(11/29 時点:65 台 半ば近辺)に接近しているため、ここからは調整局面入りを想定。一目均衡表(週足)の雲下限 に抑えられ、120 円手前では上値も重くなるだろう。 上記のようなユーロ圏の固有材料に加えて、今後も米国の追加利上げ時期に関する思惑が ドルの方向性を左右し、結果としてユーロの動向に影響を与えるだろう。メインシナリオは 12 月 の利上げであり、これがドル高を通じて相対的にユーロ/ドルの圧迫要因となる構図に変化な しとみている。次回 12 月はトランプ氏当選後初めての FOMC であり、今後発表される米雇用 統計(12/2)等の米重要経済指標に大きな注目が集まろう。ただし、金利先物市場では、現 状、12 月の利上げ確率が 100%(11/28 引け時点)となっており、ポジションの傾き具合からし ても米経済指標の大幅な下振れはドルの調整下落に拍車をかけることとなりそうだ(リスクシナ リオ)。 (文責: 石川) ■ 想定されるドル円のリスク要因 【 ドル安/円高 要因 】 トランプ期待の剥落や米経済指標悪化となった場合の今後の利上げ織り込みの低下 米当局者からのドル高牽制 本邦輸出企業のヘッジ需要 欧州の反 EU 派拡大や金融機関財務問題への懸念の高まり 英国 EU 離脱に伴う先行き不透明感 中国・新興国経済への懸念やテロなど地政学的リスクの高まりによるリスク回避再燃 【 ドル高/円安 要因 】 米金利上昇基調継続による金利差拡大 米企業決算期末、年末に伴うドル買い需要 米国と他国との金融政策の方向性およびファンダメンタルズ相違(ドル優位) テクニカル面でのドル/円上昇期待 企業の M&A 等の直接投資や、年金・生保等の外物投資に伴う円売り需要 リスクオフとなった場合の日銀追加緩和期待再燃 消費増税先送りも加わり、日本の政府債務の膨張への警戒感が招く「日本売り」 6 【Weekly】ドル/円チャート(週足) 125.86 113.90 105.45 103.74 100.76 99.00 93.75 86 77.13 RSI (出所:Bloomberg) 【Monthly】ドル/円チャート(月足) 125.86 124.14 110.67 86 101.67 99.00 86 75.32 RSI (出所:Bloomberg) 7 【Weekly】ユーロ/円チャート(週足) 149.79 145.67 126.08 118.74 109.30 94.12 RSI (出所:Bloomberg) 【Monthly】ユーロ/円チャート(月足) 169.97 145.67 149.79 139.26 112.08 109.30 94.12 RSI (出所:Bloomberg) 8 【Weekly】ユーロ/ドルチャート(週足) 1.3995 1.3711 1.2740 1.1715 1.1616 1.2042 1.0457 RSI (出所:Bloomberg) 【Monthly】ユーロ/ドルチャート(月足) 1.6040 1.5145 1.4940 1.3995 1.3670 1.2329 1.1876 1.2042 1.1640 1.0457 RSI (出所:Bloomberg) 9 【Weekly】ドルインデックスチャート(週足) RSI (出所:Bloomberg) 【Monthly】ドルインデックスチャート(月足) RSI (出所:Bloomberg) 本資料は当マーケット金融ビジネスユニット 為替セールスチームの見解を記したものであり、当社としての見通しと は必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保 証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投 資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上 げます。 10