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アメリカン・ソサエティ・オブ・エイジング(全米エイジング協会) 発行
「エイジング・トゥデイ」
2007年1・2月号(隔月刊)
AGING TODAY, XXXVIII, PAGES5-6, January-February 2007
c 2007 American Society of Aging, San Francisco, California;
Copyright○
www.asaging.org
ハッピー・エルダー株式会社では、ASAから翻訳掲載の許可を受けて、
最新の会報から、興味深い記事をご紹介いたします。
認知力の研究プロジェクト「CDC 脳の健康推進イニシアティブ」
ナンシー・オルドリッチ
保健所など公共保健機関が推進するキャンペ
ーンで、「ソファをおりて、体を動かそう」といった
呼びかけを、見かけたことはありませんか。これま
で気にとめていなかった人は、別の観点から専門
家の意見に耳を傾けてみるとよいかもしれませ
ん。
体をアクティブに動かすことで心臓血管の危険
因子が減少し、同時に脳の健康も維持できます。
脳の認知力を維持するために、さらに有効な方法
があるようです。
「歳をとると知的能力が衰えるのは避けられな
い」というのが、従来の固定観念でした。ところが、
この長年にわたる考えが間違っていたことが、最
近明らかになったのです。
研究結果を見直したところ、認知力を維持する
ためには生活スタイルの変革が効果的だとわかり、
公共保健機関が注目しています。この分野の研
究はまだ十分とは言えないものの、体重・血圧管
理、適度な運動、地域社会との関わりなどを取り
入れた生活が、脳の健康維持に役立つことが報
告されています。すでに多くの人が、体と心の健
康のために始めていることばかりです。
「心臓にとってよくないことは、脳にもよくないこ
とになる。」とジョン・ホプキンズ医科大学認知神経
科学科 マリリン・S・アルバート学部長は言ってい
ます。
健康な認知力とは
「認知が健康であるとは」の統一定義は、まだ存
在しません。全容を説明するため、研究者たちが
知恵を絞っている段階です。なかでも最近の出版
物で、米国国立健康研究所1ほか大学研究機関が
参加するイニシアティブ CEHP(認知力と感情の
健康推進プロジェクト)2が、積極的な「認知力の健
康」の定義を述べています。
「健康な認知力とは、単に疾病がないという状
態ではない。認知力の『多面構造』そのものが、維
持され、発達を続けていくこと。」(CEHP 分析委員
会ヒュー・H・ヘンドリー委員長)
「そうした認知力の『構造』があってこそ、高齢者
の社会参加、目的意識の継続、自立、身体機能
の回復などが可能になる」と、ヘンドリー教授は説
明しています。同教授はインディアナ大学加齢研
究所の精神医学教授で、教授が率いる CEHP チ
ームは、2006年1月アルツハイマー協会機関誌3
に「アルツハイマー症と認知症」と題する論評を発
表しています。
認知障害とは、記憶力、言語理解力や会話能
力、物事を認識する能力の問題と絡み合っていま
す。認知力の低下は、加齢に伴う衰えのほか、軽
い認知障害、そして認知症の患者に見られます。
症状はそれぞれに異なり、必ずしも特定の疾病の
進行段階とは限りません。認知力を維持している
1
NIH: National Institutes of Health
CEHP: Cognitive and Emotional Health
Project
3
The Journal of the Alzheimer’s Association
2
Copyright 2007 ASA,
1
ハッピー・エルダー株式会社
高齢者の多くにも、情報処理速度の低下、軽い記
憶障害といった症状が見られることは事実です。
興味深い話をご紹介しましょう。認知症でなか
った高齢者の脳を病理解剖すると、アルツハイマ
ー症や認知症患者と同じ病変が見受けられる場
合があるそうです。なぜ微細な脳の変化の影響を
受ける人と受けない人がいるのか、その理由はま
だ解明されていません。一部の研究者は、教育
や教養、社会や余暇活動への参加などが、認知
力の『蓄積量』と関連があると見ています。たとえ
ば、「神経学と神経科学の最新報告書」42004年9
月号で、N.スカーミアス氏が次のように述べてい
ます。
「認知症に関与する病理変化が引き起こる際、
認知力の『蓄積量』が能力低下の歯止めとなると
思われる。また高学歴の人ほど精神的刺激を求
める傾向があると、アルバート氏が指摘している
が、過去の学歴ではなく、精神面でアクティブで
あり続けることが大切ではないか。」
国立老化研究所5の研究によると、認知症や似
たような症状を招く要因が約10項目あるそうです。
精神的苦痛、身体的疾病、投薬、栄養障害、社会
的・文化的制約、アルコール依存症などで、なか
には改善できる項目もあります。
2005年6月に開催された「認知症予防国際会議
」(アルツハイマー症協会後援)の「認知と感情の
健康プロジェクト」のテーマに取り上げられまし
た。
「心臓疾患のリスクは、同時に認知力低下のリス
ク」と述べるのは、前述インディアナ大学ヘンドリ
ー教授です。「高血圧症は認知力低下を招く可能
性が高いので、高血圧の治療は認知症予防につ
ながる。」
ヘンドリー教授は、次の説も述べています。
「様々な生活スタイルを分析したところ、認知力低
下の予防策としてもっとも有効なのが運動との結
果が明らかになった。」しかし、他の科学者は、こ
の説を特定するにはデータがまだ十分でないと
言います。
さらにヘンドリー教授は CEHP の研究に基づき、
うつ病と心理的要因に何らかの関連があると示唆
します。精神面のサポートや社会ネットワークを通
じて、うつ病やストレスを予防・軽減することで、認
知力低下を予防できるそうです。しかし一方で、
「健康的な生活を送っていても、認知力が低下す
ることがある」と、同教授は警告します。
心臓、そして脳にとってよい食生活を送ることは
大切ですが、栄養と認知力の関連性は複雑すぎ
るので、はっきりとした結論を導きだすことは難し
いと、多くの科学者は見ています。ラディツカ氏に
よると、「心臓の健康のためによい生活と食生活が、
栄養面で認知力に何らかの関連があるということ
しかわかっていない」そうです。
8
認知力の健康維持
「明らかになってきたのは、高血圧と糖尿病が
後年になって認知症を引き起こすリスクを高める
可能性が高いこと。さらに、運動不足、社会への
不参加、高コレステロール、喫煙なども、リスク要
因となる」と、慢性病予防・健康促進国立センター6
成人地域健康部門 疾病管理予防センター健康
管理高齢化研究部のデービッド・サーマン医師は
説明します。研究者たちは、社会参加や地域との
関わりが重要だと信じていますが、この分野の研
究はまだ十分とは言えません。
「認知力の健康維持には、運動と社会参加、そ
して心臓血管と密接な関係がある食生活、これら
が極めて重要だということははっきりしている」と、
サウス・カロライナ大学加齢研究所研究所7ジェー
ムズ・N・ラディツカ所長は述べています。これは、
公共保健機関の役割とは
「認知力の健康維持に公共保健機関が携わる
のは、今がよいタイミング」と、サーマン医師は言
います。「認知力の低下を招く条件と要因につい
て、私たちは理解を深めたからだ。特にブーマー
世代が高齢化を迎える今、その重要性をますます
強く認識している。もうひとつ重要なことは、予防
手段がわかってきたことだ。」
「私たちは次の段階に進みつつある。NIH や他
の機関の研究から得た知識を、地域社会での実
践に移していっている。こうして、アメリカ人の日
常生活を変えていきたい」と、CDC9(疾病管理予
防センター)健康管理・加齢研究部門リンダ・A・ア
ンダーソン主任は言います。
4
Current Neurology and Neuroscience
Reports
5
National Institute on Aging
6
National Center for Chronic Disease
Prevention and Health Promotion
7
University of South Carolina Office for the
Study of Aging
Copyright 2007 ASA,
8
International Conference on Prevention of
Dementia
9
Centers for Disease Control and Prevention
2
ハッピー・エルダー株式会社
前述のサウス・カロライナ大学ラディツカ所長に
よると、「心臓や血管疾患の典型的要因は、認知
機能の低下に関連するということが明らかになっ
てきた。そして脳疾患としてもっとも有名なアルツ
ハイマー症と血管疾患に関連がある可能性も出て
きた。」
研究者たちは、動物を使った研究によって生活
スタイルが脳に与える影響のメカニズムをつきと
めました。マウスを使い、栄養管理された食生活、
規則正しい運動、脳に刺激となる活動などの条件
を変えて、実験を行っています。
的に増やすことができる」と、ブラウン研究員は述
べています。
「地域の公共機関が先導して、高齢者の意識向
上キャンペーン、運動施設へのアクセス改善、地
域内の運動への公的サポートを実施するべきだ。
さらに、個人の行動や生活パターンの改善に向け
た戦略を立案し、実際に運動に取り組む際のアド
バイスやサポートを行うとよいだろう。」
ブーマー世代は、定年後の様々な計画を持ち、
第二第三のキャリアに就く人も多いため、特に運
動に対する意識づけが必要です。アルツハイマ
ー症協会医療科学部門ウィリアム・シーズ副部門
長は、次のことを強調します。「自分の夢や計画を
実現させるためには、認知力の健康が不可欠。皆
さんの世代が直面する最大の危機、それは長生
きをしてアルツハイマーを発症する人が多いこと
かもしれない。」
ブーマー世代の意欲を引き出す
では、ブーマー世代が心臓や血管疾患のリスク
を減らすための意欲を引き出し、定期的な運動や
社会活動に携わるにはどうすればよいでしょうか。
公共保健機関が発信するメッセージは、特に目新
しい内容でないにも関わらず、実際には大勢の人
が注目しています。ASA (全米加齢協会)がインタ
ーネット上で発信する健康促進情報「よく生きる、
長く生きる」に、次の文章があります。「今後予測さ
れる高齢者の増加、さらに65歳以上の成人の8
8%が少なくともひとつは慢性疾患を抱えている
事実をふまえ、高齢者の運動不足はもはや個人
の問題ではなく公共保健の課題となっている。」
CDC が作成したこのウェブサイト(www.asaging.
org/cdc/index.cfm)の目的は、高齢者に関わる専
門家を対象に、認知力・うつ病・そのほか脳の健
康についての教育情報を提供することです。ウェ
ブサイトには、75歳以下の女性の2人に1人、男
性の3人に1人が、まったく運動を行っていないと
の結果が掲載されています。
健全な認知力を維持するための運動は、どの
程度の頻度・内容・時間が必要なのか明らかでは
ありません。しかしながら、ウォーキングやサイクリ
ングなどの有酸素運動、あるいは有酸素と筋力ト
レーニング運動の組み合わせにより、認知力が向
上することは明らかです。
CDC 栄養・運動部門デビッド・ブラウン行動科
学上級研究員は、公共機関が提供する健康プロ
グラムで高齢者の運動を推進することができると
言います。ひとりひとりの関心や必要性に応じた
幅広い種類の運動プログラムを提供し、なおかつ
安全面のサポートも行えば、高齢者は自分の運
動能力への自信を取り戻してもっと体を動かすは
ずです。
「こうした活動には地域のサポートが欠かせな
い。データに基づく指導を行えば、運動量を効果
Copyright 2007 ASA,
ナンシー・オルドリッチは、メリーランド州シルバー
スプリング市「エイジング・オポチュニティーズ・ニ
ュース」10編集者。本稿は ASA 疾患管理予防セン
ターのメディア・プロジェクトの一環で、ウィリアム・
F・ベンソン氏がプロジェクト・マネージャーと編集
委員を兼任。完全版(各団体の連絡先や出典を掲
載)は、ウェブでごらんいただけます。
www.asaging. org/media/cdc.cfm.
脳の老化現象
通常の認知力の衰えと、軽度な認知機能障害
や認知症はどう違うのでしょうか?
加齢に伴う通常の認知力の低下は、脳の縮小と
神経細胞の活動の変化が原因だというのが、科学
的見解です。こうした衰えは認知症とはまったく別
のもので、日常生活や社会性を損なうことはありま
せん。多くの高齢者は、軽い衰えにうまく適応・対
処しながら毎日の生活を送り、社会性を維持して
います。
「高齢者の認知力低下は、ある特定の認知プロ
セスに限られていることが、多くの研究によって明
らかになった」と、インディアナ大学加齢研究所ヒ
ュー・C・ヘンドリー教授は述べます。
「言語的認知力は損なわれないのに、特定の
語群が思い出せないといった症状は健康な高齢
10
Aging Opportunities News
3
ハッピー・エルダー株式会社
主な研究ハイライト
者にも見られる。認知機能の一部の領域では、老
若の差がまったくない。」
高齢者の脳の健康について、最近の主だった研
究を集めました。
軽度の認知機能障害
神経細胞が死滅するに伴い、軽度の認知機能
障害(MCI: mild cognitive impairment)、すなわち
認知障害や記憶障害が表れる場合があります。
MCI の患者数はアルツハイマー症の3∼4倍で、
同年代に比べて記憶力が低下しているにも関わ
らず、言語、理論的思考、問題解決、車の運転な
どの能力があまり損なわれないのが特徴です。
MCI の高齢者は日常生活を普通に送ることができ
る一方で、会計や経理、行事の運営、意思決定な
どができません。MCI にかかっているかどうか、連
続的な神経心理学テストで診断できるとヘンドリー
教授は言います。MCI 患者の認知力の衰えは、
時間の経過とともに表れるからです。
MCI 患者が全員、必ず認知症に移行するとは
限りませんが、他の成人に比べてリスクが高いこと
は事実です。65歳以上の MCI 患者の約40%が、
3年以内に認知症を発生したという調査報告もあり
ます。
脳細胞がたくさん死滅しないと、認知症は発生
しません。認知症は単独の病気を指すのではなく、
知的社会的機能や日常生活の低下をきたす脳障
害が複数組み合わさった状態のことです。記憶、
言語、認識、論理的思考、判断といった能力のう
ち、2つ以上が欠落すると、医学的に認知症の診
断が下されます。
原因として、脳脊髄液が脳にたまる正常圧水頭
症、甲状腺機能異常、特定のビタミン欠乏などが
あります。高齢者がうつ病になると、認知症と似た
症状を呈する場合もあります。アルツハイマー症
協会の推測によるアルツハイマー症患者は全米4
50万人。人口調査に基づく予測では、2050年ま
でに患者数が1200万∼1600万人に増加する見
込みです。
アルツハイマー症協会のルウィン・グループ11
が2004年に実施した、米国の高齢者向け医療保
険制度「メディケア」の分析調査によると、65歳以
上の人口が13%に満たないにも関わらず、アル
ツハイマー症が受給対象の34%を占めていま
す。
(ナンシー・オルドリッチ執筆)
11
● ウォーキングなどの運動を取り入れた生活に
よって、認知機能を維持。 R.アボット調査、
J.ウーヴ研究。「米国医療協会発行学会誌」
Journal of the American Medical
Association (JAMA) 2005 年 9 月 22/29 日
号より。
● 肥満とアルツハイマー症や認知障害との関
連性。 M.キヴィペルト、「神経科学の記録」
(Archives of Neurology) 2005 年 10 月より。
● 社会との関わりが認知力の衰えを防止。
米国加齢研究所(National Institute on Aging)
の資金で運営されているシカゴ健康加齢プロ
ジェクト(Chicago Health and Aging Project)
より。
● 若いときをすごした家庭や地域の社会・経済
水準の高さが、高齢になってからの認知力と
関連。ただし、アルツハイマー症発生率や認
知力の低下率との関連性は見られない。
R.S. ウ ィ ル ソ ン 、 「 加 齢 の 実 験 的 調 査 」
(Experimental Aging Research) 2005 年 10
月 、 お よ び 「 神 経 科 疫 学 」
(Neuroepidemiology)2005 年 6 月より。
● 記憶力トレーニング、詳しくは「自立して活発
な高齢者向け先進的認知力トレーニング
(ACTIVE: Advanced Cognitive Training for
Independent and Vital Elderly)」を臨床試験
で使用したところ、最低でも5年間効果が持
続。F.W.アンヴァーザグトほか、JAMA2006
年 12 月 20 日号より。
● 喫煙によるリスク増大、特に知能低下や認知
症の原因になるという最近の報告。米国神経
科学障害・脳卒中研究所(National Institute
of Neurological Disorders and Stroke)による
と、喫煙によってアテローム動脈硬化(動脈内
に血小板が蓄積される)やその他の血管のリ
スクが高まり、同時に認知症のリスクも増大。
(ナンシー・オルドリッチ調べ)
Lewin Group
Copyright 2007 ASA,
4
ハッピー・エルダー株式会社
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