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技術開発促進事業終了報告書 - 地球環境産業技術研究機構

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技術開発促進事業終了報告書 - 地球環境産業技術研究機構
平成 14 年度∼16 年度
地球環境保全関係産業技術開発促進事業
京都議定書目標達成産業技術開発促進事業
技術開発促進事業終了報告書
多
糖
類
を
用
い
た
の
生
開
分
解
性
発
<公開版>
平成17年3月
I−25
RITE−宇治第2研究室
吸
水
材
Ⅰ.まえがき
1.吸水性樹脂について
吸水性樹脂(Super Absorbing Polymer)は約30年前に開発され、紙おむつにおける尿吸収量を
飛躍的に増大させることに大きく貢献したポリマーである。世界的にその利便性と快適性からその
用途は紙おむつやナプキン類などの使い捨て衛生用品が約90%を占め、ペット用トイレ、土壌保
水材、食品の鮮度保持剤、ドリップ吸水材、人工雪などの用途がある。この樹脂は現在国内だけ
でも年間9.5万トン以上も出荷されており、今後は老人人口の増加や感染症予防の観点による
医療機関での大人用紙おむつの使用増加が見込まれている。また中国を始めとする東南アジア
やアフリカでの子供用紙おむつや生理用品使用の急激な増加から世界的にも1∼3%/年の需
要増加が見込まれており、地球的規模で使用量が更に増加すると見込まれている。
しかしながら現在使用されている吸水性樹脂(主にポリアクリル酸塩架橋物)は、そのモノマー
が石油を原料とし、アセチレンやプロピレンを経由しながら多大なエネルギーを投入して合成され
ており、さらに吸水性樹脂の製造工程においても高エネルギーを要して製造されている。
2.生分解性吸水性樹脂について
ポリアクリル酸塩架橋物のような非生分解性の吸水性樹脂を含む衛生用品はコンポスト化やフ
ラッシュ(トイレに流す)して処理することができず、土壌に埋め立て処分しても半永久的に残留す
るため環境中に廃棄することができない。このため現在国内では使用後衛生用品の95%以上が
焼却処理されており、高含水率になった使用後衛生用品を焼却炉に投入すると炉内温度の急激
な低下を招いて炉材の劣化を促進したり、不完全燃焼を招くという問題を有している。これらを多く
投入する焼却炉では重油などの補助燃料を投入して高温燃焼を維持させているようである。
近年、ポリ乳酸などの生分解性樹脂の開発が急速に進み、使い捨て衛生用品においても吸水
性樹脂以外の部分(フィルム、スパンボンド、面ファスナー、接着剤、ゴムなど)は生分解性を有す
る素材が揃ってきている。コスト的な問題や機械的な問題はあるものの、これらを用いて技術的に
は「生分解性使い捨て衛生用品」を生産することは可能となってきている。しかしながら唯一、生
分解性吸水性樹脂が未開発であり、このために「生分解性使い捨て衛生用品」は実用化されてい
ない。
生分解性吸水性樹脂としては納豆のネバネバ成分であるポリグルタミン酸の架橋物や、化学合
成されたポリアスパラギン酸架橋物、或いはポリビニルアルコール架橋物、デンプン架橋物など
が候補として考えられているが、未だに実用化されていない。カルボキシメチルセルロースをエピ
クロルヒドリンで架橋して成る吸水材が過去に発売された経緯もあるが、1980 年に架橋剤の毒性
問題により販売が中止されている。
ある衛生材料メーカーのアンケートでは「使用済み衛生用品をトイレに流したい」との質問に43.
8%が「流したい」と回答している。再生可能資源から構成され、省エネプロセスで製造可能な生
分解性吸水性樹脂の開発が待ち望まれている。
1
Ⅱ.技術開発の概要
我々は、再生可能資源でありアレルゲンとして認識され難い植物性多糖類をベースポリマーとし、
これを安全性の高い多価金属イオンなどで架橋して吸水性樹脂として開発することを目的として
いる。
使用後には土壌中の微生物によって分解されるのでコンポスト化や埋め立て処分が可能で、ト
イレなどから下水中に入っても下水処理場や屎尿処理場で活性汚泥や消化汚泥で生分解される
ような安全性の高い生分解性吸水性樹脂(以下、生分解性吸水材)を生産できる技術を確立し、
従来の石油原料由来の非生分解性吸水材を代替する素材を提供し、地球温暖化ガス排出量の
削減や廃棄物処理問題を緩和する方法を提供することを本技術開発の最終目的としている。
本吸水材は再生可能資源である植物由来多糖類のグアガム(ポリガラクトマンナン)やセルロー
ス誘導体をベースポリマーとし、多価金属イオンにて架橋してなるものである。このためポリマー
重合の必要はなく、また架橋反応も常温で進行するため非常に省エネルギー製造プロセスである。
これらを用いて架橋剤の種類や架橋量、架橋条件、ゲルの脱水方法、乾燥方法などを最適化し、
液体吸収性能をコントロールすることで目的に適した性能を達成させることができる。
平成 14 年度及び 15 年度前期はグアガムをベースとした血液吸収用吸水材の性能改善とスケ
ールアップテスト及び安全性や生分解性を中心に研究開発を行った。平成 15 年度後期から 16 年
度は、セルロース誘導体を用いた血液吸収用及び、グアガム誘導体を用いた尿吸収用吸水材の
開発を行い、性能の最適化、コスト削減のためのアルコール使用量削減、安全性及び生分解性
試験、スケールアップ試験などを実施した。
Ⅲ.技術開発の内容
1.基本製造技術の確立
1−1.血液吸収用吸水材の開発
◎グアガムをベースとした血液吸収用吸水材の開発
【目的】
我々はグアガムをホウ酸イオンやチタンイオンなどで架橋し、乾燥することによって優れた血液
吸収性能を発揮でき、従来の非生分解性吸水材の代替となる可能性が高いことを見出した。そこ
で生理処理用品における血液吸収性能(吸収速度、繰返し吸収性、荷重下保液量)の向上を目
的として、ゲル化時のグアガム固形分濃度、界面活性剤や架橋剤添加量、架橋条件、脱水・洗浄、
乾燥条件などを検討した。
【方法】
基本的な吸水材の作成方法は、多糖類を水や界面活性剤、架橋剤を含む水に投入して均一に
ゲル化させ、これをアルコールと共に破砕し、固液分離して固形分を熱風乾燥すればよい。必要
に応じて、固液分離まえに表面架橋剤を添加して、吸水材粒子表面近傍をさらに架橋する。
血液用吸水材の評価において、血液吸収速度は吸水材に 5 倍量血液を滴下して完全に吸収さ
2
れるまでの時間を測定する。(1 回目速度)次いで、さらに数分後に再度 5 倍量血液を滴下して吸
収速度を測定する。(2 回目速度)なお、2 回目は開始から 300 秒以上経過した場合は 300 秒オー
バーとし、その時点での血液吸収状態を A:95%以上は吸収済み、B:80−95%は吸収、C:50
−80%を吸収している、D:50%以上は吸収されていない、として目視判断する。荷重下保液量
の測定は吸水材に一定量の血液を吸収させ、数分後に規定された荷重を上から掛けて、吸水材
内に保持された血液量を測定する。無荷重下保液量は多量の血液に吸水材を添加し、一時間後
に吸水材を回収して余分な血液を遠心除去し、保持された血液容量を測定する。
【グアガムとは】
グアガムはインドやパキスタンなどで生産される一年生マメ科植物であるグアの種子から種皮を
除いた部分を粉砕したものである。一般的な馴染みは薄いが、その高い増粘性から麺類のつな
ぎやケチャップやタレ類のトロミを付加するために用いられたり、食物繊維としての作用から便通
改善を目的とした健康食品などに幅広く用いられている。グアガムの主成分はポリガラクトマンナ
ンと呼ばれる多糖類であり、ポリガラクトマンナンは分子中にカルボキシル基などのアニオン性基
を有していないため、ノニオン性である。アニオン性を多く有するポリアクリル酸などは水を 1000
倍以上吸水できるが、生理食塩水のようなイオンを含む水は 40 倍程度しか吸水できない。これは
逆に尿を吸収した後のアニオン性吸水材をトイレなどに廃棄すると、周囲の水によって塩濃度が
希釈され、瞬時に膨潤してしまい配管つまりなどを引き起こす原因になりうると我々は考えた。ノ
ニオン性のグアガムではそのような再膨潤はないため、使用後にトイレに流しても配管詰まりを引
き起こす心配はない。
図1 ポリガラクトマンナン構造式
【結果と考察】
基本条件の検討
血液吸収速度や繰返し吸収能を向上させるためにはゲル化時のグアガム固形分濃度を高める
ことが有効であるが、あまり固形分濃度を高めすぎると荷重下保液量が低下した。(図2、3)
3
そこで固形分濃度を15wt%として諸架橋条件についての検討を行った。また血液は白血球や
血小板などの固形分を多く含む粘液であり、 撥血性の抑制 や ゲルブロッキングの抑制 といっ
た課題がある。全ての吸収性能レベルをアップするためにはこれらの課題解決とコスト低減も含
めての最適化が必要であった。
200
160
7
6
140
保液量(g/g)
血液吸収速度(sec)
8
1回目
2回目
180
120
100
80
60
5
4
3
2
40
1
20
0
0
9
15
23
9
固形分濃度(wt%)
15
23
固形分濃度(wt%)
図2 固形分濃度が血液吸収速度に与え
図3 固形分濃度が荷重下保液能に与え
る影響
る影響
その結果、固形分濃度 15wt%においては吸収速度と荷重下保液量のバランスの取れた吸水材
ALC-209 を得た。なお内部架橋時に固形分に対して1%添加する界面活性剤についても 30 種程
度のスクリーニングを実施したところ、スルホコハク酸系の界面活性剤を用いると血液吸収速度と
荷重下保液量の両方が向上することを見出した。
表1 生分解性吸水材の血液吸収性能
吸水材評価
1回目(sec)
血液吸収速度
2回目(sec)
荷重下保液量(g/g)
対象品
180
>>300
4∼5
ALC-209
105
165
7.5∼8.5
対象品:ポリアクリル酸系血液吸水材(市販品、非生分解)
固形分濃度アップの検討
ALC-209 において市販の吸水材を上回る血液用吸水材が作成できたが、製造効率アップや脱
水溶媒用アルコールのコスト削減の観点などから、固形分濃度をさらに高める検討を行った。しか
しながら、やはり吸収速度は改善されるが荷重下保液能が低下する傾向にあり、容易に固形分
濃度を高めることはできなかった。
そこで固形分濃度を23wt%とした条件で荷重下保液能の向上を図るため、界面活性剤の種類
や内部架橋量の再検討を行った。架橋量を低減すると吸水量は向上うする傾向にある。これはゲ
4
ル内の架橋点が減り、網目でイメージされるネットワークがより広がりやすくなることからも容易に
想定できる。内部架橋量(ホウ酸イオン及びジルコニウムイオン)を低減してゲル作成を試みたと
ころ、グアガム粉末の増粘速度が著しく速くなってしまい、均一なゲル作成が困難になってしまうこ
とが判明した。そこで架橋剤液のpHを強アルカリ側に調製してからグアガム粉末と混合する方法
に変更したところ、pH によってグアガム粉末の増粘が抑制され、均一なゲル作成が可能となり、
ALC-209 よりも 1 回目吸収速度に優れ(20 秒以内)、同程度の荷重下保液能を有する吸水材を得
られることが判った。
基本条件の再検討
界面活性剤についても新たに数種類を入手し再検討を行ったところ、ヤシ油由来ノニオン性界
面活性剤(MUC)とポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸系アニオン性界面活性剤(ESB)を3:
7∼5:5で混合することにより荷重下保液能と吸収速度が共に改善できることが分った。
4 0 .0
4 0 .0
LSS
LSS
ESB
ESB
1回目血液吸収速度(s)
1回目血液吸収速度(s)
荷重下保液量(g/ g)
荷重下保液量(g/ g)
1 0.0
1 0.0
9.5
9.5
3 0 .0
3 0 .0
9.0
9.0
2 0 .0
2 0 .0
8.5
8.5
1 0 .0
1 0 .0
LSS
LSS
ESB
ESB
8.0
8.0 0
0
0 .0
0 .0
20
40
60
80
1 00
2 0MUC混合率(
40
6%)
0
80
1 00
MUC混合率( %)
0
0
30
50
60
70
100
30
50
60
70
100
MUC混合率(%)
MUC混合率(%)
図4 2 種類の界面活性剤の混合による血液吸収性能の改善効果
またゲルの最終pHが荷重下保液能に与える影響について検討したところ、ゲル最終pHが7.8
付近の時に荷重下保液能が最も高くなることが判明した。これはホウ酸イオンとガラクトマンナン
における架橋の強度がpH依存性を有するためと推測される。
11.0
11.0
10.0
10.0
7 .3
7.5
7.7
7.9
8.1
8 .3
7 .3
7.5
7.7
7.9
8.1
8 .3
9.0
9.0
8.5
8.5
荷重下保液量 (g/g)
荷重下保液量(g/g)
無荷重下保液量 (g/ g)
無荷重下保液量(g/ g)
12.0
12.0
9.0
9.0
13
13
12
12
11
11
10
10
9
9
8
8
7
7
6
6
ゲル強度( X10 ,000dyn/cm2)
ゲ ル強度( X10 ,000dyn/cm2)
13.0
13.0
8.0
8.0
7.5
7.5
7.0
7.0
6.5
6.5
6.0
6.0
7.0
7.0
最終ゲルpH
最終ゲルpH
7.4
7.4
7.8
8.2
7.8
8.2
最終ゲルpH
最終ゲルpH
図5 最終ゲルpH が荷重下保液量に与える影響
5
8.6
8.6
以上の結果、ラボスケールにおいてはRT−8(ALC-209 の架橋条件を一部変更したもの)と同
等の血液用吸水材 ALC-511 が作成可能であった。しかし中規模生産設備での製造検討において、
グアガム添加前水溶液のpH をアルカリ性に調整する方法を実施してもグアガムの増粘が早く、
固形分濃度15wt%以上のゲルを均一に作成することが非常に困難であることが判明した。
また ALC-209 やRT−8などのグアガムをベースとした血液吸水材を社外求評した結果、①粉末
状態では良好な性能を発揮できるが、模擬製品形態で評価すると必ずしも優位な性能が発揮さ
れないこと、②グアガムの架橋に伴う黄色着色が好ましくない、などの欠点が明らかになり、実用
化のためには大幅な性能改善と、着色の低減が必要となった。
表2 血液用吸水材の性能比較(馬血を用いて評価)
血液用吸水材評価
固形分濃度(wt%)
1回目(se c)
吸収速度
2回目(se c)
荷重下保液量(g/g)
市販ポリアク
リル酸塩系
−
180
>>300
5.5
ALC-209
グアガム系
RT- 8
ALC- 511
セルロース 誘導体系
BPS-37 2
15.0
130
180
7.7
15.0
90
120
8.4
23.0
17
54
8.5
10.0
10
>>300
17.5
図6 グアガム系吸水材粉末と吸水材粒子の SEM 画像(300 倍)
◎セルロース誘導体をベースとした血液吸収用吸水材の開発
【目的】
グアガムをベースとした血液用吸水材に対しては更なる大幅な性能改善と着色低減が課題とな
ったが、グアガムをベースとして用いる限りこれらの課題を解決することは非常に困難であると判
断し、新たなベースポリマー(多糖類)と架橋剤(多価金属イオン)の組み合わせを再検討した。
なお、セルロース誘導体は分子内にアニオン性基を有するがその数はポリアクリル酸などに比べ
てはるかに少なく、塩濃度によって吸水能は若干影響を受けるものの、トイレに廃棄しても著しく
再膨潤するようなことはない。
【方法】
6
ベースポリマーは多糖類を用いること、架橋は室温で反応が進行すること、架橋剤は安全性が
高く食品添加物に用いられていること、架橋しても着色が生じないこと、荷重下保液能が 15g/g 以
上であること、などを条件として、数種類の組み合わせを選択し、同一条件で吸水材を作成して評
価した。
【結果と考察】
基本組成の検討
検討の結果、食品添加物として広く用いられるセルロース誘導体をアルミニウムイオンで架橋し
た吸水材 BPS-372 がグアガムをベースとした吸水材よりも明かに高い荷重下保液能を有してい
ることを見出した。(上記表2参照)
セルロース誘導体のグレード(1%時の粘度、置換度など)や架橋量、架橋条件などについて検
討を行ったところ、
・1%時の粘度の高いセルロース誘導体を用いれば 2 回目吸収速度は 100∼150 秒程度、荷重下
保液能は 15g/g 程度であるが、無荷重下保液能は 18∼20g/g 程度である。
・1%時の粘度の低いセルロース誘導体を用いれば無荷重下保液能は 20∼22g/g 程度であるが、
全体的なゲル強度が低下傾向となるためゲルブロッキングを起こしやすく、2 回目吸収速度が非
常に遅く(300 秒オーバー)なる。
・1%時の粘度が中間的なセルロース誘導体を用いれば、無荷重下保液能は 25g/g と最も高くな
り、2 回目吸収速度も 200 秒程度であるが、荷重下保液能が 10g/g 程度になる。
という結果が得られた。また固形分濃度は 14wr%がほぼ限界であり、それ以上の固形分濃度アッ
プは保液能を著しく低下させた。
血液用吸水材については決められた評価方法がなく、メーカーで独自の液体、方法、指標を用
いて評価しており、要望される吸水材の性能も一定ではない。このため、本研究では「高粘度セル
ロース誘導体を用いた 2 回目吸収速度と荷重下保液能に優れる吸水材」と「中粘度セルロース誘
導体を用いた無荷重下保液能に優れた吸水材」を並行して検討を進めた。
含水アルコール廃液の再利用プロセスの検討
コスト削減のためには優れた吸収性能を維持しつつ、アルコールの使用量を削減することが必
要である。そこで、洗浄工程(破砕後に固形分離したゲルを再度、IPA に浸し脱水効率を高める工
程)で排出される低含水率の IPA 廃液(以後、洗浄ろ液と称する)を再利用するプロセスを検討し
た。(図7参照)なお、セルロース誘導体は中粘度のものを用いている。
7
1サイクル目
純IPA
純IPA
ゲル破砕
ゲル
表面架橋
乾燥前ゲル
洗浄
2サイクル目
ろ液-①
ろ液-②
純IPA
ゲル破砕
ゲル
表面架橋
ろ液-③
3サイクル目
乾燥前ゲル
洗浄
ろ液-④
純IPA
ゲル破砕
ゲル
表面架橋
乾燥前ゲル
洗浄
ろ液
ろ液
図7 洗浄ろ液(低含水アルコール廃液)の再利用プロセス
3サイクル目までの検討の結果、洗浄ろ液を再利用することにより、破砕時に用いる IPA 量を大
幅に低減することができることを確認した。従来、吸水材1kgを得るためには20.1L の IPA を使
用していたが、洗浄ろ液再利用プロセスを用いることにより10.3L にまで低減できた。(固形分濃
度は 12wt%で検討)また、本プロセスの2サイクル目及び3サイクル目で得られた吸水材は、1サイ
クル目(純 IPA のみを使用)で得られた吸水材とほぼ同等の性能を有しており、無荷重下保液量
は約 25g/g であった。
図8 セルロース誘導体系吸水材粉末と粒子の SEM 画像(300 倍)
【まとめ】
血液用吸水材のベースポリマーをグアガムからセルロース誘導体に変更することで、保液能の
8
大幅な改善が可能となり、白色の吸水材を得ることができた。セルロース誘導体の1%時におけ
る粘度はセルロース誘導体の分子量に依存していると思われるが、高粘度のものを用いると 2 回
目吸収速度と荷重下保液能に優れた吸水材となり、中粘度のものを用いると無荷重下保液能に
優れた吸水材が得られる。また洗浄工程での低含水アルコール廃液を再利用することにより、ア
ルコール使用量を大幅に削減することが可能であった。
1−2.尿吸収用吸水材の開発
◎グアガムをベースとした尿吸収用吸水材の開発
【目的】
衛生材料用途に使用される吸水材では尿吸収(紙おむつ)に用いられる用途が大半を占める。
紙おむつ用途では1g当たりの吸収性能が 35∼40g/g 程度を目標となる。グアガムをベースポリマ
ーとした吸水材が尿用吸水材として実用化レベルに至るかどうかを見極めることを目的として検
討を行った。
【方法】
基本的な吸水材の作成方法は前述の通りである。なお、吸水量及び吸水速度の評価は下記の
JIS法に従った。
・JIS K 7223-1996
高吸水性樹脂の吸水量試験方法 :Testing method for water absorption capacity of super
absorbent polymers
・JIS K 7224-1996
高吸水性樹脂の吸水速度試験方法 :Testing method for water absorption rate of super
absorbent polymers
【結果と考察】
固形分濃度を 15wt%としてホウ酸イオンとチタンイオンなどで架橋したRT−10を作成し、他社
求評を実施した。しかしながら、RT−10は特に保水能が低く、また粒子が黄色に着色しているこ
とが障害となり、実用レベルに至っていないと判定された。(吸水量 33g/g、保水量 23g/g、吸水
速度 85 秒)ちなみに、ポリアクリル酸塩系吸水材では吸水量は 45∼50g/g、保水量は 35∼40g/g、
吸水速度は 30 秒程度である。
◎グアガム誘導体をベースとした尿吸収用吸水材の開発
【目的】
尿用吸水材についても、グアガム以外の組み合わせを再検討し、グアガム誘導体とジルコニウ
ムイオン及びチタンイオンを用いて架橋したものが比較的優れた吸水能を有し、白色に近い外観
9
を得られることを見出し、性能改善を目的とした検討を行った。なお、これと並行してアルギン酸塩
とバリウムイオンからなる組み合わせについても検討を行ったが、固形分濃度を 6wt%以上にアッ
プすると顕著に保液能が低下してしまうことから検討を断念した。
【結果と考察】
固形分濃度を 12wt%としてグアガム誘導体系吸水材の作成条件を最適化したところ、吸水量が
35∼38g/g、保水量が 30∼33g/g、吸水速度が 40∼60 秒程度のものを得ることが可能であった。
【まとめ】
尿用吸水材についてもグアガム系はポリアクリル酸系吸水材の約50%程度の性能であり、黄
色着色しているため実用化には至らなかった。グアガム誘導体からなる吸水材はアクリル酸塩系
吸水材に比べると性能は低いものの、グアガム系よりも性能は優れており、白色であるため実用
化の可能性はあると思われる。
1−3.フィルム状吸水材の開発
【目的】
ポリアクリル酸系の非生分解吸水材は大半が粉末状で使用されており、一部で繊維状のものが
市販されているが、フィルム状の吸水材は存在しない。これはアクリル酸系ではその製造プロセス
でフィルム化が困難であるためと予想される。一方で、デンプンフィルム(オブラート)やプルランフ
ィルム(口腔清涼用可食フィルム)は実用化されており、水溶性の多糖類フィルム自体は珍しいも
のではない。セルロース誘導体は様々な粘度を有する製品が市場に存在することから、セルロー
ス誘導体をアルミニウムイオンで架橋したフィルム状吸水材が開発できるのではないかと考え、検
討を行った。フィルム状吸水材は市場に存在しないことから新たな用途を開拓できる可能性があ
る。
【方法】
セルロース誘導体を水に溶解して流動性のあるゾルを得る。必要に応じて遠心分離などで脱泡
し、ガラスや PP などの基板上に流延し、厚みを整える。これを一度乾燥してセルロース誘導体フィ
ルムを得、基板に接触していない片面からアルミニウム水溶液を均一に噴霧し、再度乾燥する。
【結果と考察】
アルミ架橋量の検討
名刺サイズにてセルロース誘導体フィルムを作成し、重量当たりのアルミ架橋量が数段階にな
るアルミ水溶液を噴霧してフィルム状吸水材を得た。得られたフィルムの厚みは 15μm程度であ
り、適度な可とう性を有した透明なフィルムであった。生理食塩水吸水能を測定したところ結果、
約 35g/g(A4 サイズ換算で 75-85g/枚)であり、24 時間浸漬したまましでも吸水量は特に増加せ
10
ず、フィルム状ゲルが崩壊するようなこともなかった。なお、噴霧によってアルミが担持されている
理論量の 50∼60%が実際のフィルムに含有されていることが ICP 元素分析結果から明らかになっ
た。これはハンドリング上の問題と思われる。
フィルムの厚みの検討
フィルムの厚みが吸水能に与える影響を検討した結果、7∼28μmの範囲では厚みに応じて
吸水量が増加するものの、吸水後ゲルの状態に変化(厚くなるとゲルが溶解するなど)はみられ
なかった。
フィルム状吸水材の引張り強度
フィルム状吸水材をインテスコ試験機にて引張り強度などを測定したところ、表3に示した結果を
得、PE フィルムよりも引張り強度が高く、PI フィルムよりも伸度が低いことを確認した。
表3 セルロース誘導体フィルム状吸水材の基本物性
フィルム種類
フィルム
厚み(μm)
セルロース誘導体
フィルム状吸水材
PETフィルム
PEフィルム
PCフィルム
PIフィルム
インテスコ試験
引張強度
(MPa)
伸度(%)
弾性率
(MPa)
24.0
51.2
2.2
3,993
25
25
25
25
176
20
98
274
120
400
140
9
ND
ND
ND
ND
【まとめ】
フィルム状吸水材は作成方法が容易で、透明性、可とう性を有し、引張り強度が PE 以上のフィ
ルムであるが、伸度が低いため基板上で作成することが好ましい。A4 サイズなら 1 枚当たり 75∼
100g の生理食塩水を吸水することが可能であることから、コンマコーターなどでセルロース誘導体
のフィルムさえ連続的に製造することができれば実用化は可能と思われるが、具体的な用途開発
が今後の課題である。
2.生分解性速度制御方法の検討
【目的】
生分解性吸水材といえども、それを含む製品を装着中に吸水材が分解を始めてしまってはなら
ない。このため、生分解性吸水材の生分解速度を制御(遅延)することが必要であることから遅延
効果のある抗菌剤のスクリーニングを目的として実験を行った。
【方法】
11
数種類の無機系抗菌剤や天然物系抗菌剤を含有させたグアガム系吸水材を作成し、ヒト尿を
一定量吸収させて密封し、室温にて放置してその分解挙動を目視判定にて6段階評価した。なお、
無機系抗菌剤(カルシウム系、銀系、亜鉛系)についてはグアガムに対して2wt%、天然物系抗
菌剤(ヒノキチオール、カテキン)については非常に高価であるためコスト的に無機系抗菌剤と同
額になる 0.01wt%の含有量とした。
【結果と考察】
結果、天然物系抗菌剤についてはその濃度においてはほとんど効果は見られず、50∼90時
間で液状化した。無機系抗菌剤では 2wt%の添加により無添加時に比べて30時間以上の分解遅
延効果が認められた。 無機系の中では銀系のものが遅延効果が高かった。
3.安全性試験及び生分解性試験
3−1.血液用吸水材の安全性試験
【目的】
ナプキンのような生理処理用衛生用品は厚生労働省によって管理される医薬部外品に該当し、
その安全性は厳しく管理されている。このため生理処理用品に用いる血液用吸水材は少なくとも
厚生労働省が定める8つの安全性試験(急性経口毒性、一次皮膚刺激性、累積皮膚刺激性、膣
粘膜刺激性、眼刺激性、皮膚感作性、変異原性及びヒト一次皮膚刺激性試験)をクリアしなけれ
ばならない。一方、紙おむつはい医薬部外品ではなく雑貨類として扱われるため安全性試験項目
は規定されていないが、尿用吸水材の安全性が確立されていることはCSRやコンプライアンスを
持ち出すまでもなく必要不可欠な条件である。
開発中の多糖類から成る吸水材の動物に対する安全性試験を基礎グレード(非GLPレベル:主
に尿用吸水材に対して)と高次グレード(GLP同等の信頼性基準レベル:血液用吸水材に対して)
に分け、逐次、安全性を確認しながら開発を行う。また架橋量によって安全性が影響を受けない
かなども確認する。
【方法】
動物安全性試験はいずれも外部の専門機関に依頼して実施した。各試験方法は個別に記載し
ないが、樹脂類の安全性を評価する一般的な方法である。なお、本血液用吸水材は新しい医薬
部外品原料に該当するため、動物の搬入、飼育及び実験条件、建物などが厳密に管理された信
頼性基準付きレベルでの試験である。
【結果と考察】
◎グアガムをベースポリマーにした吸水材の安全性
グアガムをベースポリマーとしてホウ酸イオン、ジルコニウムイオン、チタンイオンで架橋した血
液用吸水材であるRT−8について、表4に示すような動物試験を実施し、RT−8が非常に安全
12
性の高い吸水材であることを確認した。なお、皮膚光感作と皮膚光毒性試験は必須8試験項目で
はないが安全性確認のため追加した試験である。
表4 グアガム系吸水材 RT−8の安全性試験結果
試験項目(GLP)
マウス経口急性毒性
ウサギ一次皮膚刺激性
ウサギ累積皮膚刺激性
ウサギ膣粘膜刺激性
ウサギ眼刺激性
モルモット皮膚感作性
モルモット皮膚光毒性
モルモット皮膚光感作性
ヒト一次皮膚刺激性(10名)
変異原性( Ames)
RT−8
2,000 mg/kg以上
無刺激
無刺激
無刺激
無刺激
陰性
陰性
陰性
無刺激
陰性
◎セルロース誘導体をベースポリマーにした吸水材の安全性
セルロース誘導体をベースポリマーとして、アルミニウムイオンとチタンイオンで架橋した血液用
吸水材であるRT−15について、表5に示すような信頼基準レベルでの動物試験を実施した。な
お、ヒト一次皮膚刺激性試験のみが未実施である。眼刺激性試験において、投与 1 時間後に全例
で軽度の結膜の発赤、軽度の分泌物が 2 例に認められたが 24 時間後には消失した。また投与 1
時間後に全例の下眼瞼結膜内に検体の残留が認められたが 24 時間後には消失した。Draize 法
による評価点は3.3であり、この結果、「極めて弱い刺激性」であると判定されたが、吸水ゲルの
強度がRT−8などに比べて高いため、物理的な刺激に起因する結果と思われる。
表5 セルロース誘導体系吸水材 RT−15の安全性試験結果
3−2.尿用吸水材の安全性試験
【目的】と【方法】は3−1.で記述
【結果と考察】
尿用吸水材としてはグアガム誘導体をチタンイオンで架橋したRT−11について下記の安全性
試験を実施し、基本的な安全性を確認済みである。
13
表6 グアガム誘導体系吸水材 RT−11の安全性試験結果
3−3.生分解性試験
◎グアガムをベースポリマーにした吸水材の生分解性
好気下水中生分解性試験(OECD301C)
【目的】
河川などの好気下水環境中に生分解性吸水材が廃棄された場合に予測される生分解性を標
準法で確認しておき予測する。
【方法】
試験は微生物源として標準活性汚泥を 30mg/L になるように用い、吸水材の生物化学的酸素消
費量(BOD)を閉鎖系酸素消費量自動測定器(BODマノメーター)で連続測定し、生分解度(%)
を算出した。なお基準物質としてはアニリン、試験温度は25℃±1℃、試験用量は 300ml とし、基
礎培養液としては無機培地を用いた。
【結果】
ALC-209 で使用した界面活性剤成分を変更したグアガム系血液用吸水材RT−6について
OECD301C に準拠した生分解度試験(水中好気下)を行い、その結果、10 日間で60%以上
の分解度、28日間で90%以上の分解度であることを確認した。試験開始3日目までは
やや分解が遅いものの、この分解速度は無処理のデンプンの分解速度とほぼ一致し、金属
イオン架橋によるグアガムの生分解性への影響はほとんどないと考えられた。
14
生分解度(%:対ThOD)
生分解度(%:対ThOD)
100
100
80
80
60
60
40
40
試 験方 法 :BOD測 定
B0
Om
Dg
測/L
定
検試
体験
濃方
度法
::
10
0泥
m g /L
微検
生体
物濃
源度
::
活1
性0汚
活m
性g汚
汚微
泥生
濃物
度源
::
30
/L泥
3 0 m lg /L
培汚
養泥
量濃 度
::
30
培
養
量
:
3
0
0
試 験温 度: 25℃ ml
試 験温 度: 25℃
20
20
0
図9
グ ア ガ ム系 SAP
デグ
ンア
プガ
ンム 系 S A P
セデ
ルン
ロプ
ーン
ス
セルロース
00
7
0
7
14
14
試験期間(日)
試験期間(日)
21
21
28
28
グアガム系吸水材RT−6の好気下水中生分解度試験
嫌気下水中生分解性試験(ISO11734)
【目的】
下水浄化槽や屎尿処理場嫌気消化汚泥に吸水材が投入された場合、嫌気条件下で速やかに生
分解されるかどうかを確認する。
【方法】
密閉容器に試料又は対象サンプルを入れ、脱気液体培地と嫌気性汚泥を入れて密封し、35℃
にて 60 日間放置する。分解されることで二酸化炭素とメタンガスが発生するので、その内圧の上
昇にて発生ガス量を計算し、また経験値から試料の分解度を算出する。
【結果】
RT−6は60日間でほぼ100%分解されることを確認した。
嫌気下生分解率(%)
嫌気下生分解率(%)
120
120
100
100
80
80
グアガム系SAP
グアガム系SAP
セルロース
セルロース
60
60
試験方法:ISO11734
試験方法:ISO11734
検体濃度:89.6mgC/L
検体濃度:89.6mgC/L
微生物源:嫌気汚泥
微生物源:嫌気汚泥
汚泥濃度:Unknown
汚泥濃度:Unknown
培養量
:250ml
培養量 :250ml
試験温度:35℃
試験温度:35℃
40
40
20
20
0
00
0
10
10
20
20
30
30
40
40
培養期間(日)
培養期間(日)
50
50
60
60
図10 グアガム系吸水材 RT-6 の嫌気下水中生分解試験
15
◎セルロース誘導体をベースポリマーにした吸水材の生分解性
好気下水中生分解性試験(OECD302C)
【目的】と【方法】は前述と同じであるが、検体と微生物濃度が OCED301C とは異なる。
【結果】
セルロース誘導体系血液用吸水材である RT-13及び14の28日後の好気下水中生分解度は
23.3%であった。RT−13と14の分解度の差はベースに用いたセルロース誘導体の置換度に
起因するものと思われる。RT-13 では DS が 1.3、RT-14では DS が 0.7 程度のセルロース誘導体
を用いており、置換度が高いセルロース誘導体を用いると生分解度が遅いことを確認した。
グアガム系吸水材に比べると分解度が低い様に思えるが、実用化の際には特に問題にはなら
ないと考えている。分解速度が遅いことは製品の使用中は吸水材が分解すること無く安定してい
るということである。
コンポスト化試験(ISO14855/JIS K6953)
【目的】
好気下水中生分解性試験では分解度が低かったため、コンポスト化試験を実施して分解到達
点を確認する。
【方法】
自治体都市固形物廃棄物のコンポストを 2 ヶ月間培養して調整(外部試験機関)したコンポスト
を58±2℃、暗所、通気(切り返し頻度:1 回/週)、全乾燥固形物量45%、揮発性固形物含量3
5%、pH7.3、C/N 比17、200gを用い、46 日間コンポスト化を実施。発生する二酸化炭素を電
位差自動滴定装置で定量し、ブランク(検体無添加群)との差を算出した。CHN 組成から理論二
酸化炭素発生量を算出して、これらの数値から生分解度を算出した。陽性対照としてセルロース
微粉末を用いる。
【結果】
好気下水中生分解度試験を行った RT-14 の一部組成変更検体(置換度が 0.86 のセルロース誘
導体に変更、内部架橋アルミ量も低減)である RT-15 を用いてコンポスト化試験を実施した。46 日
間で平均生分解度は21.9%であった。
16
100
生分解度(%)
80
60
陽性対照
RT−15
40
20
0
0
3
6 10 14 17 21 26 31 35 39 46
経過時間(日)
図11 セルロース誘導体系血液用吸水材 RT−15のコンポスト化生分解試験
陽性対照はセルロース粉末
【まとめ】
これらの生分解試験の結果、セルロース誘導体をベースにした生分解性吸水材は容易に生分
解されないことが確認された。これは生理用品などに使用する場合、むしろ製品が使用中に分解
されず、分解によってベタツキやゲルブロッキングが発生することなどを回避できるという点で好
ましい結果と見ることができる。
◎グアガム誘導体をベースポリマーにした吸水材の生分解性
好気下水中生分解性試験(OECD302C)
【結果】
グアガム誘導体系の尿用吸水材 RT-16 では74.1%、RT-17 では84.7%であり、いずれも良
好な生分解度を示した。RT−16とRT−17はチタン架橋量が異なるが、むしろ架橋量の多いRT
−17の方が生分解度が高かったため、架橋量は分解度に影響を与えないと判断される。セルロ
ース粉末よりは生分解速度が遅いものの、セルロース誘導体の置換度に比べてグアガム誘導体
の置換度はかなり低いため、あまり影響を受けないものと思われる。
【まとめ】
グアガム誘導体をベースにした吸水材の場合は紙おむつなど製品への長時間装着中に分解が
始まってしまい、使用者に不快を与えてしまう可能性があるが、セルロース粉末よりは遅いため装
着時間を制限すれば問題はないのではないかと思われる。
4.製造技術の検討
17
4−1.グアガムをベースポリマーにした尿用及び血液用吸水材製造技術の検討
【目的】
下羽根式ミキサー、ゲル定量切り出し装置、破砕機、攪拌槽、遠心分離装置、乾燥機などを用い
てラボで得た知見を元に中規模(10kg/日)のスケールアップを行い、ラボ品と同等の吸水材を
得る条件を確立する。
【方法】
下記のイメージ図に相当する装置を用いて各種条件の検討を行った。
水+界面活性剤
グアガム粉末
+内部( Zr, B)
架橋剤液
アルコール
③破砕・脱水
表面( Ti )
架橋剤液
①ムース化→②ゲル化
④表面架橋
生分解性SAP
⑥乾燥
⑤分離・洗浄
図12 生分解性吸水材の製造フローイメージ図(膨潤架橋法)
下羽根式ミキサーによるゲル作成の検討
【目的】
下羽根式ミキサーを用いてグアガム系ゲルを作成する場合、ゲルの加温が必要である。ゲルは
多数の気泡を有しているため熱伝導効率が悪く、また昇温や降温にも時間を要する。予め架橋剤
水溶液を加熱しておくことで、昇温と降温に要する時間を短縮できないかどうかを検討する。
【結果と考察】
膨潤架橋法では界面活性剤を用いて適度に起泡させた架橋剤液にグアガム粉末を投入する。
この方法では予め架橋剤が存在するのでグアガム粒子が膨潤する前にその粒子表面を表面的
に架橋されてしまうため増粘が遅延されるとともに、泡のためにそのゲルに流動性が付与されて
おり均一な攪拌が容易である。これを長時間放置或いは加熱放置することにより徐々に表面架橋
されたグアガム粒子が膨潤し、スポンジ状の均一な内部架橋ゲルを得ることが出来る。
本方法の欠点としては「ムース状ゲルを加熱する場合において、ムース状ゲルは多くの気泡を
18
持っており、この気泡がミキサーからの熱伝導を著しく低下させてしまい、昇温と降温に非常に長
い時間が掛かる」という問題があった。(表7参照)ラボでは熱風乾燥機内でゲルを昇温して所定
時間加熱し、終了時には外部に取り出して自然冷却する方法を用いているが、プラントのミキサ
ーではゲルの厚みが厚いため簡単には昇温、降温できない。従来は「ムース状ゲルを室温で作
成し、これを50℃に昇温、2時間処理後に室温まで冷却する」という方法を、「50℃温水を用いて
ムース状ゲルを作成し、2時間処理後、ミキサー羽根で粗破砕して外気と強制接触させ冷却する」
という方法に変更できないかどうかを検討した。
その結果、仕込水温 50℃からスタート(グアガム投入)する場合では昇温時間を約 15 分(実質
的に循環温水を昇温する時間のみ)に大幅短縮することが可能であった。(表8)ただしこの場合、
架橋剤やグアガムの投入により水温が若干低下するため、ジャケット温度を 60℃程度にしておく
ことが好ましい。また 50℃温水に架橋剤を投入することでグアガムとの反応前に架橋剤が分解し、
吸水材の性能が低下することが懸念されたが、本法で作成した内部架橋ゲルを用い、その後、ラ
ボにて表面架橋処理などを行って得た吸水材の性能面では特に問題はないことを確認した。
表7 ミキサー仕込み水量とムース状ゲルの昇温までの必要時間(室温スタート時)
仕込水量
(L)
初期水温
(℃)
ムース状物50℃まで
昇温必要時間(min)
3.00
4.52
5.66
8.5
17.0
15.9
16.2
16.1
152
122
230
255
表8 室温、30℃、50℃スタート時におけるムース状ゲル昇温開始までの必要時間
仕込水量
(L)
初期水温
(℃)
温水循環装置
昇温必要時間(min)
ミキサージャケット
設定温度(℃)
グアガム
投入温度(℃)
ムース状物50℃までの
再昇温必要時間(min)
合計所要
時間(min)
3.00
3.00
3.00
5.66
5.66
5.66
17.0
16.1
16.1
16.2
15.7
16.2
20
14
20
14
35
55
35
60
30
50
30
50
152
57
40
230
60
0
152
77
54
230
80
14
【まとめ】
ミキサー内の初期水温を予め加温することにより、ゲルの加熱に要する昇温、降温時間を大幅
に短縮することができた。
内部架橋加熱時間の再検討
19
【目的】
中規模プラントスケールにおいてゲルの加熱時間は生産性に大きく影響する。加熱時間の短縮
が可能かどうかを検討する。
【結果と考察】
ラボにおける内部架橋加熱時間について「50℃においては長時間加熱する方が荷重下保液量
は向上するが、一方で撥血性が生じてしまうため 4 時間程度が好ましい。」との結果を得ていた。
一方、プラントにおいては加熱処理時間を短縮した方が生産性も向上するため、加熱時間の短縮
を検討したところ、表9に示すように加熱時間は 30∼60 分程度と短い方が速度、荷重下保液量と
も性能が向上した。
この結果は先のラボでの結果とは相反する。吸水材サンプルを作成する場合、ラボとプラントで
は生産効率やコスト、機械装置の都合などで表10に示したような点(ゲル作成温度、脱水溶媒種
類、固液分離方法、乾燥方法など)が大きく異なるため、これらが影響しているものと考えられる。
プラントにおいては独自の条件を再検討する必要がある。
表9 内部架橋ゲル加熱処理時間が吸収性能に与える影響
内部架橋条件
加熱温度
加熱時間
50℃
10min
50℃
30min
50℃
60min
50℃
90min
50℃
120min
馬血吸収速度A100121
1回目
2回目(Aまで)
35
140
35
150
28
160
30
170
40
150
撥血性
荷重下保液量
(g/g)3mi
H2
H2
H2
H2
H2
7.53
7.85
7.74
7.27
6.17
表10 ラボとプラント製造における各工程の相違点
工程
ゲル作成
ゲル破砕
破砕溶媒
固液分離
乾燥
ラボ
室温
バッチ式
エタノール
減圧ろ過
80℃/VD
プラント
50℃
連続式
メタノール
遠心分離
40℃/AD
またミキサーより後段にはゲルフィーダー(定量ゲル切り出し装置)、石臼式破砕機、表面架橋タ
ンク、遠心分離器を用い、現在これらの諸条件を検討しているところであるが、ほぼ3kg/日の製
造条件を確立した。
【まとめ】
ラボスケールでの実験とプラントスケールでの実験では装置上の相違があり、ラボ条件をトレー
スできない場合がある。ラボ条件をベースとしながらも性能優先としてプラント独自の条件を再検
20
討していく必要性を確認した。
固形分濃度アップの検討
【目的】
ラボスケールで検討していたグアガム固形分濃度を23wt%に高めた条件で血液用吸水材製造
の検討を少量規模製造設備を用いて行った。
【結果と考察】
架橋剤pHの調製や新たな界面活性剤などを用いてラボと同等の性能を有する吸水材の製造を
試みたが、均一なゲル作成が非常に困難であり、スケールアップは成功しなかった。
グアガム固形分濃度が15wt%であれば、中規模生産設備を用いてラボと同等の性能を有した
血液用及び尿用吸水材を約10kg/日レベルで製造できる条件を確立した。一方、固形分濃度
が10wt%以下の場合には、ゲルが粘着性を有するため定量的な切出しが困難になり従来の設
備では製造できないが、保有の別装置などを組み合わせて用いることにより、約5kg/日レベル
で製造できることを確認した。
4−2.セルロース誘導体をベースポリマーにした血液用吸水材製造技術の検討
高粘度セルロース誘導体を用いた検討
【目的】
セルロース誘導体系吸水材を中規模プラントスケールにてスケールアップし、ラボと同等の性能
が得られるかどうかを検討する。
【結果】
中規模プラント設備を用いて血液用セルロース誘導体−アルミ系吸水材の試作試験を実施した。
高粘度セルロース誘導体を用いてスケールアップを行ったところ、下羽根式ミキサー内でスムー
ズに均一なゲルが得られ、溶媒破砕、表面架橋、洗浄も問題なく行えた。合計3回の試作試験を
行った結果、2回目速度にややバラツキがあるものの、荷重下保液能はほぼ安定して 15g/g の吸
水材が得られた。なお、2 回目吸収速度はややバラツキ(180∼300 秒)があるため固液分離や乾
燥条件などを再検討する必要がある。
中粘度セルロース誘導体を用いた含水アルコール再利用プロセスの検討
【目的】
アルコール使用に伴うコスト削減を目的として洗浄ろ液(低含水アルコール)を再利用することが
可能かどうかをプラントレベルで検討する。
【結果と考察】
21
ラボスケールで作成した1∼3サイクルで得た吸水材を比較すると、サイクル数が増加するに連
れて荷重下保液量が低下傾向であったが、無荷重下保液量についてはバラツキなのか低下傾向
なのか判断できなかった。
一方、中規模プラントスケールで得られた吸水材ではサイクル数が増えるに連れ、荷重下保液
量は低下傾向が見られ、無荷重下保液量についてはラボ品と同様に判断できない状態であった。
本法が使用可能であれば吸水材1kgあたり 20.6 倍の IPA を使用していたものが 10.3 倍にまで低
減できるようになる。表中の再 IPA は前サイクルにおける洗浄ろ液(低含水率 IPA 廃液)を示す。
表11 中粘度セルロース誘導体を用い、含水アルコール廃液再利用プロセスを組み込んだ血液
用吸水材製造方法の検討
スケール
馬血吸収性能
荷重下
2回目
保液量
(s)Sまで
(g/g)3mi
サイクル数
ゲル破砕
溶媒
溶媒
使用量
(L/kg-SAP)
1回目
(s)
1
純IPA
20.6
16
>>300 B-C
15.1
25.5
2
再IPA
10.3
16
>>300 B-C
14.5
24.9
3
再IPA
10.3
17
>>300 A-B
14.0
23.9
4
再IPA
10.3
19
>>300 A-B
13.6
25.5
5
再IPA
10.3
20
>>300 A-B
13.9
23.6
1
純IPA
20.6
21
>>300 B-C
15.3
23.8
2
再IPA
10.3
23
>300 A-B
14.1
22.1
3
再IPA
10.3
24
>300 A
14.3
24.3
2
再IPA
10.3
19
>>300 A-B
13.3
24.9
3
再IPA
10.3
24
>>300 A-B
13.2
21.9
ラボ
プラント
無荷重下
保液量
(g/g)60min
4−3.グアガム誘導体をベースポリマーにした尿用吸水材製造技術の検討
スケールアップテスト
【目的】
ラボ品と同等性能の吸水材が同一条件で作成可能かどうかを検討し、必要があれば条件の一
部を変更する。
【結果】
グアガム誘導体を用いてラボ条件をベースに中規模スケールアップを検討したが、予備検討の
結果、やや表面架橋量を増加する必要があることが明らかとなった。そこでラボ条件を一部変更
し、表面架橋量を増加して吸水材を作成したところ、やや保水量は低いが同等の吸水材を得るこ
とができた。
22
表12 グアガム誘導体系吸水材のプラント試作試験
生食吸水性能
スケール
固形分
濃度
(%)
吸水量
(g/g 60min)
ラボ
プラント
12
12
38.5
36.2
保水量
(g/g)60m
31.9
27.2
吸水後
ゲル状態
Voltex
吸水速度(s)
良好
良好
42
53
上清置換法を用いた固液分離状態改善方法の検討
【目的】
グアガム誘導体ゲルはIPAとの破砕の際、含水IPAを再吸収してしまいゲル化する傾向がある。
このため、プラントにおいては遠心分離機による固形分離が困難になっていた。
そこで「固液分離工程前に破砕液の固形分を自然沈降させ、その上澄みをデカンテーションで
除去し、代わりに新しいIPAを加えてから固液分離を行う」という方法についてラボスケールにて
予備検討する。
【結果】
本方法を採用することで、IPA使用量を増やすことなく濾過性を向上させることができた。
新IPA添加
ゲル
破砕用IPA
洗浄用IPA添加
固液分離
ゲル破砕
洗浄
固液分離
上澄み除去
図13 グアガム誘導体吸水材製造工程における上清置換法
次いで、中規模プラントスケールにて検討したところ、本法を用いることによりスムーズな濾過
が可能となり、結果としてラボと同等の性能を有する吸水材を得ることが出来た。ただし、プラン
トでの操作が煩雑になるため、工程の省力化が必要と思われる。
表13 上清置換法を用いたグアガム誘導体系吸水材のプラント試作試験
スケール
固形分
濃度(%)
溶媒使用量
(L/kg吸水量
SAP)
(g/g 60min)
生食吸水性能
保水量
吸水後
(g/g)60m
ゲル状態
ラボ
12
20.8
38.9
32.5
プラント
12
20.8
38.2
34.2
含水IPA廃液(表面架橋工程後ろ液と洗浄ろ液)の再利用の検討
良好
良好
Voltex
吸水速度(s)
49
55
アルコール使用量そのものを単に低減すると性能が低下した。このため、図14に示したように、
表面架橋後ろ液(ろ液−①又は③)を次サイクルの破砕工程(IPA-①)に、洗浄ろ液(ろ液-②又は
23
④)を次サイクルの表面架橋工程(IPA−②)に再利用する方法を検討した。固形分濃度は14%。
得られた吸水材のゲル強度がやや弱いものの、本法を用いることにより吸水能を低下させるこ
となく、IPA 使用量を固形分に対して12.3倍まで低減できることが判った。(表14)
1サイクル目
IPA
表面架橋
ゲル破砕
ゲル
2サイクル目
IPA-①
3サイクル目
IPA-①
ろ液-①
IPA-②
IPA-③
表面架橋
ろ液-③
IPA-②
IPA-③
表面架橋
上清廃棄
ろ液-②
乾燥前ゲル
洗浄
上清廃棄
ゲル破砕
乾燥前ゲル
洗浄
上清廃棄
ゲル破砕
ゲル
ゲル
IPA
IPA
ろ液-④
乾燥前ゲル
洗浄
ろ液
ろ液
図14 表面架橋後ろ液と洗浄ろ液を再利用する吸水材製造プロセス
表14 表面架橋ろ液と洗浄ろ液の再利用によって得られた吸水材の性能
サイクル
1
2
3
溶媒使用量
(L/kg吸水量
SAP)
(g/g 60min)
21.5
12.3
12.3
40.0
44.2
44.8
生食吸水性能
保水量
吸水後
(g/g)60min
ゲル状態
39.0
41.8
42.3
やや弱い
やや弱い
やや弱い
Voltex
吸水速度(s)
42
43
43
IPA 使用量をさらに低減できる余地があると考え、図14の洗浄用 純 IPA(IPA−③)量を削減し、
IPA 使用量を固形分に対して10.4倍まで削減した。結果、表15に示すように大幅な性能の低下
は認められず良好な吸水材を得ることが出来た。また、2サイクル目のろ液を再利用した3サイク
ル目においても同等のグアガム誘導体系尿用吸水材を得られることを確認した。
本サイクルを組み込むことによってアルコール使用量を大幅に削減でき、コスト低減に繋げること
ができた。
24
表15 表面架橋ろ液と洗浄ろ液の再利用及び洗浄用 IPA 低減によって得られたグアガム誘導体
系尿用吸水材の性能
サイクル
溶媒使用量
(L/kg-SAP)
1
2
3
17.8
10.4
10.4
吸水量
(g/g 60min)
生食吸水性能
保水量
吸水後
(g/g)60m
ゲル状態
36.5
38.2
36.9
34.3
34.2
33.0
良好
良好
良好
Voltex
吸水速度(s)
49
50
58
【まとめ】
グアガム誘導体系吸水材においても、セルロース誘導体系吸水材と同様に、洗浄ろ液などの含
水アルコール廃液を再利用し、性能を低下させないで吸水材を作成することが可能であった。
5.技術開発成果の概要
5−1.グアガムをベースとした血液用及び尿用吸水材について
・固形分濃度 15wt%において市販のポリアクリル酸塩系血液用吸水材よりも優れた性能を有する
ALC-209 を得た(1 回目血液吸収速度が 105 秒、2 回目吸収速度が 165 秒、荷重下保液能が 7.5
∼8.5g/g)
・2 種類のアニオン系及びノニオン系界面活性剤を混合して使用することにより、荷重下保液能や
吸収速度を改善できることを見出した。
・ゲルの最終pH を7.8付近に調整することにより荷重下保液能をアップでき、これらを元に固形
分濃度を 23wt%にまで高めた血液用吸水材 ALC-511(1 回目血液吸収速度が 17 秒、2 回目吸収
速度が 54 秒、荷重下保液能が 8.5g/g)を得た。
・ALC-511 はラボスケールでは作成可能であったが、プラントスケールでは均一なゲル化が困難
でスケールアップすることができなかった。
・グアガム系吸水材 RT-8 は信頼性基準付きレベルでの安全性試験10項目をクリアし、好気下及
び嫌気下での生分解性も非常に早いことを確認した。
・ゲル加熱時間を大幅に短縮できたことから、固形分濃度 15wt%以下であれば中規模プラントを用
いて10kg/日での製造が可能となった。
・血液吸収用グアガム系吸水材は市販のポリアクリル酸系非生分解性吸水材よりも吸収性能は
優れるものの、模擬製品形態での社外求評ではその性能を発揮することができなかった。また
架橋に伴い黄色に着色していることから衛生材料用途には不適当と判断された。
・尿吸収用グアガム系吸水材は市販のポリアクリル酸系吸水材に比べて吸水量、保水量が共に
低いレベルであり、また黄色着色があることなどから実用化できなかった。
・銀系や亜鉛系の無機抗菌剤を吸水材当たり 2wt%添加することにより、微生物による分解速度を
30 時間程度遅延させることが可能であった。
25
5−2.セルロース誘導体をベースとした血液用吸水材
・セルロース誘導体をアルミニウムイオンで架橋して成る吸水材は白色であり、いずれの原料も食
品添加物であることから血液吸収用吸水材としての可能性が高いと思われる。
・高粘性セルロース誘導体を用いた吸水材は 2 回目吸収速度は 100∼150 秒程度、荷重下保液
能は 15g/g 程度であるが、無荷重下保液能は 18∼20g/g 程度であった。
・低粘性セルロース誘導体を用いた吸水材は無荷重下保液能は 20∼22g/g 程度であるが、全体
的なゲル強度が低下傾向となるためゲルブロッキングを起こしやすく、2 回目吸収速度が非常に
遅く(300 秒オーバー)なった。
・中粘性セルロース誘導体を用いた吸水材は、無荷重下保液能は 25g/g と最も高くなり、2 回目吸
収速度も 200 秒程度であるが、荷重下保液能が 10g/g 程度になった。
・固形分濃度は 14wt%がほぼ限界であり、それ以上の固形分濃度アップは保液能を著しく低下さ
せた。
・洗浄ろ液(低含水率アルコール廃液)をゲル破砕溶媒として再利用することにより、吸収性能を
低下させることなく、吸水材1kg当たりのアルコール使用量を20.6倍から10.3倍に半減する
ことが可能であることを中規模プラント試験において確認した。このとき得られた吸水材の荷重
下保液量は 13∼15g/g、無荷重下保液量は 22∼25g/g である。
・中粘性セルロース誘導体を用いて作成した RT-15 は信頼性基準付きレベルでの安全性試験6
項目をクリアした。唯一、眼刺激性試験において「極めて弱い刺激性」と判定されたがこれは物
理的な刺激が起因していると推測している。
・生分解度は置換度に影響を受け、置換度が 0.7 程度のセルロース誘導体で作成した吸水材の
好気下水中での生分解度は23.3%(28 日間)、コンポスト化試験では21.9%(46 日間)であっ
り、分解速度は遅いものの製品使用中における安定性が示された。
・中規模プラント設備を用いて10kg/日レベルの製造が可能であることを確認した。
5−3.グアガム誘導体をベースとした尿用吸水材
・グアガム誘導体をジルコニウムイオンやチタンイオンで架橋して成る吸水材は、白色に近いこと
から衛生材料用途への可能性が示唆された。
・固形分濃度は 12wt%がほぼ限界であり、作成条件をラボスケールで最適化したところ、吸水量
は 35∼38g/g、保水量は 30∼33g/g、吸水速度は 40∼60 秒程度であった。
・中規模プラント設備を用いた検討で、ゲルが含水アルコールを再吸収し固液分離を悪化させるト
ラブルが発生したが、上清を廃棄してアルコールを追添加する方法で解決できた。
・洗浄ろ液(低含水率アルコール廃液)などをゲル破砕溶媒として再利用することにより、吸収性
能を低下させることなく、吸水材1kg当たりのアルコール使用量を20.8倍から10.4倍に半減
することが可能であることを中規模プラント試験において確認した。このときの吸水材の生理食
塩水吸水量は 36∼38g/g、保水量は 33∼34g/g、吸水速度は 49∼60 秒であった。
26
・グアガム誘導体から成る吸水材は非 GLP レベルの安全性試験において経口急性毒性、一次及
び累積皮膚刺激性試験、膣粘膜刺激性試験を実施し、いずれも陰性(経口急性毒性は
2,000mg/kg 以上)であることを確認した。またその好気下水中での生分解性は未修飾のグアガ
ム系吸水材やセルロース微粉末よりは遅いものの、良好であった。
5−4.フィルム状吸水材
・セルロース誘導体を水に溶解し、基板上にキャストして乾燥後、上からアルミニウムイオンを含
む架橋液を噴霧し乾燥する方法で「生分解性を有するフィルム状吸水材」が容易に作成可能な
ことを見出した。
・得られたフィルム状吸水材は適度な可とう性と透明性を有し、引張り強度は一般的なポリエチレ
ンフィルムよりも高かったが、伸度がポリイミドフィルムよりも低いものであった。
・フィルム状吸水材はおよそ 33g/g(A4 サイズ1枚当たり 75∼100g/枚)の生理食塩水吸水能を
有し、24時間浸漬しても溶解するようなことはなかった。
6.あとがき
平成16年度をもって3年間の技術開発を終了し、今後は衛材メーカーやトイレタリーメーカー、
農園芸資材メーカーなどへの求評を中心に活動する予定である。また中規模製造設備での試験
結果を参考に大規模製造設備へのスケールアップも計画し、事業化のタイミングを図っていく予
定である。ただし、実用化にはさらに大幅なコスト低減を行う必要があると思われ、製造プロセス
も含めた検討の継続が必要と思われる。
27
技術開発促進事業終了報告書<公開版>の取扱いについて
本報告書は、参加企業の研究報告を目的に作成したものです。このため報告書の
内容について引用等をされる場合には、参加企業及びRITEの許可が必要ですので、
ご連絡いただくようお願い致します。
連絡先
①企業名:ユニチカ株式会社、担当者の部署:中央研究所
開発1グループ、
役職:グループ長、名前:川中 聡、連絡先:TEL 0774-25-2232、FAX 774-25-2350
②財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)
研究企画グループ研究公募チーム
TEL 0774-75-2302
FAX
0774-75-2314
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