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日本経済を支えるもの<新産業
2012年6月12日 神奈川新聞 掲載 「日銀 支店長の目」 [テーマ]日本経済を支えるもの<新産業> 先月、横浜支店に着任しました。前任地の前橋は群馬県の県庁所在地で、今は緑に恵 まれた落ち着いた街ですが、その昔は、工場が立ち並ぶ一大生糸産地でした。群馬県内 には、官営富岡製糸場も当時の姿で残されています。その開設は1872(明治5)年。この 年、新橋-横浜間に鉄道が通っています。ともに文明開化の象徴です。 横浜-八王子間のJR横浜線、八王子-高崎間のJR八高線は、群馬、長野、山梨など で生産された生糸を横浜の港まで運ぶために敷設されたそうです。 その横浜港の開港100周年を記念して設けられたのが、山下公園近くのシルク博物館。 生糸の生産に関わる道具・機械やパネルが多数展示され、シルクの歴史から将来の技術 展望までをも知ることができます。 私が訪ねた日に開かれていた企画展の目玉は、ブライダル産業で知られる桂由美氏が デザインしたシルクのドレス。パリのコレクションへの出展作など、世界水準の作品がずら りと並んでいます。一口にウエディングドレスと言っても、作り手の発想と技次第で、さまざ まに表情を変えることに気づかされました。 展示の最後は、軽やかさと華やかさが際立つ純白のドレス。「ものづくり日本大賞」という コンテストで総理大臣賞を得たという、世界一薄いシルク地で作られた作品です。雰囲気 の違いは、新技術の成果です。 今日、日本の経済を支えるのは、素朴な生糸といったものではありません。素材に付加 価値をつける斬新なデザイン、最先端の技術、社会の変化を捉えた新たなサービスといっ たものです。生糸が主要な産品であった時代、現在の経済の姿を想像することはできなか ったでしょう。同様に、今後も予想を超える変化を遂げるはずです。 県内では、製造業の海外移転の影響が懸念されますが、他方で研究開発拠点の立地 が相次いでいるほか、自然エネルギー、老人介護施設などの新たな産業が拡大していま す。 そこにみられるダイナミズムは、全国的にも際立ったものです。日本の明日の経済をリ ードする動きとして、注目していきたいと思います。 日銀横浜支店長 竹 澤 秀 樹