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INSTITUTE OF REGIONAL VITALIZATION STUDIES 東洋大学地域活性化研究所 研究所便り NEWS LETTER No.27 CONTENTS お知らせ 欧州の鉄道改革 ―上下分離、オープンアクセス、 「地域化」の現状― 観察者の自分/埋め込まれている自分 板倉町の観光についての所感 研究員一覧 I M P R I N T「研究所便り」発行日2007年7月30日 発 行 者 東洋大学地域活性化研究所 編集代表 長濱 元(国際地域学部 教 授) 編集担当 高品 知典(生 命 科 学 部 講 師) 執筆協力 長濱 元(国際地域学部 教 授) 堀 雅通(国際地域学部 教 授) 稲生 信男(国際地域学部 准教授) 宮内 敦夫(国際地域学部 教 授) お知らせ 所長/長濱 元 I N F O R M A T I O N 《平成19年度の活動が始まりました。》 19年度を迎え新メンバーも加わり、運営委員会も新体制となって、新しい活動が始まり ました。運営方針は下記のとおり18年度の方針をそのまま引き継いでいますが、地域との 連携をさらに深めながら、活動の幅を広げていくこととしています。19年度の事業につい ては、活動の具体的対象地域を板倉町近隣の藤岡町、北川辺町などに拡大して研究・イベ ントなどを実施する事業が増加したことが特徴です。 ①研究者・地域に開かれた、オープンな研究環境を実現する。 運営方針 ②産・官・学・民の連携を図り、地域の活性化を促す。 ③世界に開かれた、情報発信基地を目指す。 ④学部・学科などの枠組みを越えて、学際的な共同研究プロジェクトを推進する。 東洋大学の研究所研究費で実施する研究所内プロジェクト研究は、18年度に引き続き2年 度目を迎える「利根川・渡良瀬川流域 研究~河道変 遷と地域 社会~(研究代表者:松浦茂 樹)」、および19年度に新規に採択された「市町村の連携による地域資源の活用と地域活性化 に関する研究(研究代表者:長濱元)」の2つの研究が進められます。 また、今年度地域活性化研究所が予定している事業活動は以下のとおりです。 1.体 験 学 習 講 座 ————————————————————————————— 代表者 長 濱 元(国際地域学部 教授) 「渡良瀬遊水地の良さを引き出す活用法」 (新規採択研究所研究関連事業) (時期未定) 2.公 開 講 座 ————————————————————————————— 代表者 中 挾 知延子(国際地域学部 教授) 「地域の再発見と観光文化資源のアピール ~大陸を越えた小学生 たちによる地域活性化のための意見交換と提言~」 20年2月上旬 3.公開実 験 講 座 ————————————————————————————— 代表者 高 品 知 典(生命科学部 講師) 「親子で学ぶ身近な地元野菜の素晴らしさ ~味覚と食感の実験マジック~」11月上旬 4.調理実習評価会 ————————————————————————————— 代表者 小 池 鉄 夫(国際地域学部 教授) 「板倉キャンパス周辺の野菜を中心とした食材を使用した料理・サー ビス等の研究発表」12月中旬 INSTITUTE OF REGIONAL VITALIZATION STUDIES その他、18年度までの研究・活動実績を継続・発展させていくための企画や、19年度に新たな 研究・活動を開始する企画を募集中です。良い企画があれば取り上げて検討したいと考えていま すので、ぜひお知らせ下さい。 また、本研究所では学外の県・市町村、地域活性化に関する研究・活動をしている民間団体 (民法法人、NPO法人等)との共催事業、連携事業(共同研究、後援等)も行っています。巻末 の「研究員主要専門分野」に関するテーマを取り上げることは可能ですので、どうぞお気軽にお問 い合せ下さい。 なお、19年度の運営体制は下記のとおりです。 〈研 究 所 長〉———————————————————————————— 長濱 元(国際地域学部) 〈運営委員会メンバー〉———————————————————————————— 薄木三生、中上光夫、小池鉄夫、中挾知延子(以上、国際地域学部) 高品知典、岡崎渉(以上、生命科学部) 小瀬博之(工学部) また、今年度から新たに国際地域学部国際観光学科の堀雅通教授および森下晶美講師が所員 に加わりました。18年度末に定年退職された佐々木宏茂元教授と進藤敦丸元教授は、客員研究 員として引き続き研究を継続されることになりました。新たな所員メンバーについては板倉キャン パス以外の学部のメンバーの拡大を望んでいますので、それらの学部の教員が参加し易い研究・ 活動テーマを模索していきたいと考えています。皆さんからのご提案を積極的に検討・採用してい きたいと考えています。 地域活性化研究所ホームページ http://irvs.itakura.toyo.ac.jp 夏の渡良瀬遊水地 INSTITUTE OF REGIONAL VITALIZATION STUDIES 欧州の鉄道改革 ―上下分離、オープンアクセス、 「地域化」の現状― 国際地域学部国際観光学科 教授 堀 雅通 欧 州 連 合(European Union : EU) の市 場 統 合を契 機 に、欧州の交通市場は、ダイナミックな構造変化に直面してい 歴史的ともいうべき機構改革に取り組んでいる。欧州の鉄道改革は、 EU共通鉄道政策の「指令」 (directive)が提示する上下分離(separation of infrastructure and operation)とオープンアクセス(open access)を民営化とともに鉄道 改革の中心テーマとしている。いうまでもなく、EU共通交通政策の基本理念は、公正かつ自由 な競争的市場の創設にある。交通政策を一元化、単一化し、交通機関の自由競争を促進する ことで、効率的な市場システムの創設が図られる。その結果、域外国に対するEUの経済競争 力が強化される、というものである。 そのような政策理念の下、欧州の鉄道改革は、まず上下分離によって線路事業を公共的領域 に、輸送事業を企業的領域に分けた。企業的領域の輸送事業は市場機構に委ね、オープンア クセスを導入するなど、可能な限りの規制緩和と自由化を進める。一方、線路事業は公共的領 域とし、運営責任を公的機関に委ねた。その場合、単に公的規制、公的助成を行うのではなく、 インセンティブ規制の導入など、市場メカニズム重視の政策を展開している(表1参照)。例えば、 採算性がなくても社会的に必要なサービスの提供は、当該地方政府の判断と意思決定に委ね、 公的な費用負担を担保した。いわゆる 「地域化」(regionalization)である。一方で輸送事業 者の選定を免許入札制 (franchise bidding)にするなど競争原理の導入を図っている。なお、 「地 域化」とは、地域交通サービスの運営責任を地方政府に移管することであり、地方分権化の一 種といえる。 フランクフルト中央駅(ドイツ)に停車中の高速鉄道 ICE(インターシティ・エクスプレス) INSTITUTE OF REGIONAL VITALIZATION STUDIES ミュンヘン・リーム貨物駅 ド ( イツ に ) 停車中の貨物列車 る。そうした市場にあって、EU各国の鉄道は、1980 年代以降、 以上のような制度導入により、厳しい財 政難に陥っていた欧州の鉄道は、線路費用 ・ ・ の負担から解放(free)され、一方で鉄道 ・ ・ 線路が開 放(open)された(オープンアク セス)。奇しくも日本語にいう二つのカイホウ がEU共通鉄道政策の制度的基盤となって いる。現在、EU各国は、鋭意、規制緩和、 自由化を進め、交通市場の国際化、ボーダ レス化への対応を図ろうとしている。その結 果、共通交通政策の目標である公正かつ自 キングスクロス駅(イギリス)に停車中の都市間急行列車 IC(インターシティ) 由な交通市場システムの創設が可能となる。そのような政策展開から、鉄道の上下分離とオープ ・ ・ ンアクセス、 「地域化」は、交通政策上、極めて重要な機能と役割を果たそうとしている。 「地域 からなるヨーロッパ」ともいうべき EU の交通市場政策の今後の展開が注目される。 注)写真はいずれも本学国際地域学部非常勤講師 小澤茂樹氏提供によるもの 表 1 欧州主要国における鉄道改革の現状 地域・国名 上下分離、オープンアクセス、 「地域化」の概要 EU 1991 年、「指令」 により上下分離を義務付け、オープンアクセス の実施を勧告する。 スウェーデン 1988 年、国鉄 ( 旧 SJ) を鉄道庁 (BV) と新 SJ に分離する。路線 を幹線と支線に分け、支線を県に移管し、「地域化」を実施する。 2001 年に新 SJ を分割・民営化する。オープンアクセスを導入。 ド ツ 1994 年、ドイツ連邦鉄道 (DB) と東ドイツ国鉄 (DR) を統合した後、 ドイツ鉄道株式会社 (DBAG)、鉄道庁 (EBA)、鉄道清算機構 (BEV) に分割する。さらに DBAG を線路会社と3輸送会社に分割する。 地方交通線の運営を州に移管し、「地域化」する。全路線をオープ ンアクセスとする。 イ ギ リ ス 1994 年、国鉄 (BR) をレールトラック (RT)、鉄道規制庁 (ORR)、 25 の旅客鉄道会社 (TOC)、車両リース会社などおよそ 100 の企 業に細分化・民営化する。貨物輸送をオープンアクセスとする。 フ ラ ン ス 1997 年、国鉄 ( 旧 SNCF) を線路公社 (RFF) と輸送事業のみ行う 新 SNCF に分割する。地方交通線の運営を ( イル・ド・フランス 圏を除き ) 地域圏(=行政単位)に移管する(「地域圏化」)。貨物 輸送の一部をオープンアクセスとする。民営化は実施せず、公社 に留める。 イ 注 1)EU 共通政策では民営化など所有権の変更に関わる問題は原則として取り上げないこととなっている。 注 2)スウェーデンの EU 加盟は 1995 年であるが、同国は加盟前から EU の共通政策理念を先取りする形で先駆的な鉄道政策、 鉄道改革を実施していった。 INSTITUTE OF REGIONAL VITALIZATION STUDIES 観察者の自分 埋め込まれている自分 国際地域学部国際地域学科 准教授 稲生 信男 経営学には組織論の一分野として「組織間関係論」という領域がある。これは、組織と組織 の間で起こっている現象を説明し分析しようとするものである。組織間関係論の歴史はあたらし く、50年程度のものである。 バーナード以来の現代組織論では、組織の境界は明確なものであることが前提とされ、その なかで人間の行動が合同して、組織現象が説明されるものとされてきた。古くは、マックスー・ ウェーバーの官僚制論にさかのぼるが、いずれにしても、組織の「中」の現象を解析する努力が 行われてきたわけである。 しかし、次第に、組織と組織が離合集散を繰り返す現象―企業の合併や買収のように―が増 加するにしたがい、実務を追いかけるかたちで組織の殻を破ることが、理論的に求められるよう になったことが組織間関係論の起こりである。経営学だけでなく、社会学や経済学からも注目 を集めており、実に多くの視座から分析が行われている(専門的には組織間関係の分析視座を 「パースペクティブ」とよぶ)。 このような組織間関係論は、実は、私のような、学界と実務界の間を放浪(?)する者にとり、 実にしっくりくるのである。現在、組織間関係論を用いて行政中心のパートナーシップ現象を分 析しようとしているところである。 私は、もともと公共経営を専門としているが、この分野では、行政組織を中心とするものの、 利害関係者との関係をどのようにマネジメントするかがきわめて重要である。利害関係者は、議 員、住民はもちろん、NPO、企業など幅広く複雑である。しかも、行政改革のなかで、どのよ うに多様な当事者間のパートナーシップを行うかが、理念ではなく、実際的問題として提起される。 わかりやすい例では、公民連携のパートナーシップである PFI(Private Finance Initiative) や市場化テストがある。PFI は、比較的公共事業的色彩が強いものの、市場化テストでは、さ まざまなソフトなサービス自体に競争原理を入れるものであり、原理的には適用幅が広い。ただ、 行政は発注者側にとどまり、契約後は、原則モニタリングすることが重要となる。つまり、発注 するまでが、これらのパートナーシップの重要な段階になることとなる。そして、その場面に、私 が何らかのお手伝いをさせていただくわけである。 従来の公共主催の委員会や審議会は、行政の作った資料を事実上「追認」するものが多かっ たように思う。しかし、このようなパートナーシップタイプの審査会は、まさに、プロジェクト・ メイキング力が問われる。議論は真剣であり、私も微力ながら、金融的な部分について助言さ せていただいている。 もうひとつは、自治体の資金調達でのパートナーシップがある。私はある政令市で、当該自治 体の発行する地方債の投資家や、引受金融機関を集めた研究会などの司会役を仰せつかってい る。自治体サイドからは、行政のビジョンや財政状況を明らかにすることはもちろん、起債戦略 などの紹介を行う。投資家や金融機関のある種「冷酷な」目線にさらされながら、自治体は、もっ とも効率的な資金調達法(起債額、時期、新しい金融商品開発)を探し出さなければならない。 住民との付き合いとは全く異なった、厳しい市場の洗礼を受ける。 このような行政を核とするネットワークあるいはパートナーシップは、歴史は浅いものの、財政 的に厳しい自治体が資金調達をするうえで重要なツールと思う。 「市場」というと聞こえはいいが、 中味はよくわからない。このような市場を相手に、どのように自治体がアカウンタビリティを果たし、 低コストの資金調達を行うのか。そのためには種々のソフトなネットワーク構築とマネジメントが 重要である。そして、ネットワークをどのように組織間関係論は説明できるのだろうか。従来の 行政学との親和性をどこに求めていくのか。 このような行政をめぐる組織間関係のなかに、本来客観的に観察する立場の自分がいる。観 察しつつ、自分も「埋め込まれている」。それが妙に興味をそそるのである。 INSTITUTE OF REGIONAL VITALIZATION STUDIES 板倉町の 観光についての所感 国際地域学部国際地域学科 教授 宮内 敦夫 地域活性化研究所は、大学の所在地である板倉町 から町の観光事業開発について調査研究を依頼され昨 年それを終えたところです。ここでは、私の体験的なこ とを記して、町の観光策の一端を考えてみたいと思います。 先の5月の連休をはさんだ2週間ぐらいの間に 1,000 人を超す方が私の住む寺の牡丹を見に来られました。遠くは群馬県の前橋や藤岡、沼田 の方から来られた方もたくさんおられました。それは、上毛新聞(群馬の地方紙)が3回にわた り掲載してくださったので、それを見て来られた方々です。マスコミの威力の大きさを痛感しました。 小寺の境内の裏に地続きで1,000 坪ほどの私有地があります。陸田として稲作をしておりまし たが、少しばかりの農地では費用と労力に見合わないので、それを止めて植木を植えようと思い ました。古いパワーショベルを入手して地形を作り、そこに檀家から梅の古木やツゲや松などを いただき植え込みました。この寺の本山は牡丹で有名な奈良の長谷寺ですので、牡丹園にしよう として、平成11年から毎年 100 株単位で増やして今 1,000 株程になりました。レンガの廃材を もらい中国風の丸門を作ったりして少しずつ庭作りをしました。今、7割くらい終わったところです。 この間、手伝ってくれた友人や教え子や弟、一人ではできないところを無料奉仕してくれた出入り の職方、多くの方の汗の結晶です。こうしてできた牡丹園ですが、数年前よりようやく楽しんでも らえるようになりました。 自分の趣味で作ったものですが、もしかして板倉町の観光の一助になればよいがという気持ち があります。今年一般公開して多くの鑑賞者を迎えましたが、その体験から町の観光に関して次 のようなことを感じました。 点から線へ 春の板倉町は緑さわやかな自然でいっぱいです。観光スポットもいくつかあります。しかし、 現時点では「点」としての観光スポットで、線で結ばれた観光スポットではありません。観光客に 次のスポットに寄ってもらえるよう案内をする必要があります。この季節は、すぐ隣の館林市のつ つじヶ丘公園、茂林寺、野鳥の森の芝桜には何十万人もの観光客が来ます。町内には、雷電神社、 学問の神様の高鳥天満宮、谷田川水郷公園の揚げ舟、実相寺の天井画、性信上人の宝福寺な ど見どころがたくさんあります。これらを観光資源として活用するためには、観光マップが必要で す。それを各スポットに置くことにより、観光客は次の地点に流れて行くと思います。道しるべとし てのルート案内も必要です。せっかくのお客さんをこのまま帰すのはもったいないと感じました。 観るもの・食べるもの・買うもの 観光地は、観るもの・食べるもの・買うもの(土産)が3点セットです。こういうものを観光マッ プに含ませる必要があります。板倉は川魚(特にナマズや鯉料理)で有名です。お土産を買うと き ら り ころとしてとりあえず農産物販売所「季楽里」などを紹介する必要があります。観光スポットに臨 時の販売所を仮設するのも一手だと思います。 町の観光振興は、小さなことを積み重ね、関係者・機関が団結して努力を継続することから始 まるものだと思います。 INSTITUTE OF REGIONAL VITALIZATION STUDIES