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偏光分光観測に基づく 共生星の 軌道面傾斜角と質量の推定
偏光(分光)観測による連星の 研究の現況 (review+α) 磯貝 瑞希(広島大学宇宙科学センター) 2007年 7月12日 HDSゼミ 内容 イントロダクション(連星、偏光について) 偏光(分光)観測による連星の研究 連星の散乱モデル イントロダクション (連星、偏光について) 連星について 連星 = 重力的な束縛を受けている天体のペア 分類 共通固有運動連星 実視連星 分光連星 観測 食連星 スペックル連星 X線連星 連星について 連星 = 重力的な束縛を受けている天体のペア 分類 ロッシュローブ 分離系 幾何学的関係 半分離系 接触系 http://www.daviddarling.info/encyclopedia/ R/Roche_lobe.html 可視域の偏光 互いに直角な振動面を 持つ光の強度が同じ 偏光とは? = 無偏光 光の強度に偏りがある = 偏光 Wikipedia 「偏光」より 特定の振動面を持つ光が卓越 = 偏光 普通の恒星 = 無偏光 偏光の種類 楕円偏光 N 卓越した光の強度と振動面の時間変 化によって三種類に分類される。 ・楕円偏光 ・円偏光 ・直線偏光 W 強度・振動面ともに時間変化 N N 円偏光 直線偏光 W 強度は一定で振動面のみ時間変化 W 振動面は一定 ストークスパラメータ(q, u) u 偏光度P 2×偏光方位角PA q 偏光度P、偏光方位角PAとストークス パラメータq,uとの関係 P = √(q2 + u2) PA = ½ arctan (u/q) 連星の偏光 単体星と同じ、連星自体が偏光を起こすわけではない ・散乱 星周物質または光球 での散乱 ・磁場 連続光:サイクロトロン放射 輝線/吸収線:ゼーマン効果 偏光の原因 単体星と異なるのは、偏光に時間変動が見られる点 単体星・連星の偏光の違い 普通の恒星 星間雲 星間偏光 恒星+星周エンベロープ + 固有偏光 星間偏光 ごく近傍の星周構造がわかる 連星+星周エンベロープ + 固有偏光(時間変動) 星間偏光 偏光 ・散乱 ・磁場 散乱体の性質、空間分布 ・散乱断面積 性質(種類、組成など) ・偏光方位角 空間分布 磁場の強さ、方向 θ ・磁場に平行な放射:円偏光 ・磁場に垂直な放射:直線偏光 どちらのケースにおいても、偏光は見る角度に依存する 電子 偏光 散乱体の性質 その空間分布 偏光観測 系のジオメトリー 連星軌道パラメータ 磁場の性質 散乱体の運動 偏光分光観測 連星軌道パラメータ 磁場の性質 偏光(分光)観測による 連星の研究 連星の偏光観測 1960年代から精力的に行われるようになった。 偏光観測が行われた天体の論文数によるランキング(221/862): 激変星 Polar (AM Her型) Wolf-Rayet連星(WR+O) X線連星 spot連星 (RS CVn, BY Dra) 激変星(Polar+IP以外) 共生星 前主系列連星 Algol型 W Ser型 Be連星 ...... 65 26 23 17 14 11 12 9 8 3 磁場 磁場 連星の偏光分光観測 1977年に初、90年代から活発に行われた。 偏光分光観測のランキング(65/74): 激変星 Polar (AM Her型) 共生星 Wolf-Rayet連星(WR+O) spot連星 前主系列連星 激変星(Polar+IP以外) 超新星 Be連星 W Ser型連星 ...... 19 12 7 4 4 3 3 2 2 磁場 Raman散乱輝線 磁場 各天体の偏光観測 1. Polar (AM Her) http://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/objects/cvs/ cvstext.html 半分離系 強い磁場(~107ガウス)を持つ白色矮星とロッシュ ローブと満たす伴星(晩期型主系列星)との連星 強い磁場のために、降着円盤が形成されず、伴星から の質量は白色矮星が作る磁力線に沿って流れる。 AM UMa (Ferrario et al. 2003) ・偏光観測による研究 1970-1980年代: 円偏光観測 磁場測定 1980年代~ : ・ X・紫外・可視サーベイ観測で新たに発見さ れた候補星の円(直線)偏光観測による同定 ・偏光分光観測による磁場強度測定 各天体の偏光観測 各天体の偏光観測 Robert et al. (1990) V444 Cyg 2. Wolf-Rayet連星 分離系 大質量星の進化が進み、膨張した水素の外層 が放射圧で吹き飛ばされた天体。 青色巨星。 WR星のおよそ40%がO型星との連星をなす。 Robert et al. (1995) ・偏光観測による研究 ・恒星風の等方性の調査 ・質量放出率の推定(食) Robert et al. (1990) ・軌道面傾斜角の推定 食付近の偏光の変動 各天体の偏光観測 各天体の偏光観測 3. X線連星 半分離系・分離系 中性子星とロッシュローブを満たした普通の星からなる連星 → 高質量X線連星、低質量X線連星、Be/X線連星 (早期型超巨星、 晩期型MS、 早期型MS) Cyg X-1 偏光の変動 Dolan & Tapia (1989) ・偏光観測による研究 ・軌道面傾斜角の推定 主星の質量の推定、正体の 特定(例: Cyg X-1) Dolan & Tapia (1989) ・星周構造(円盤とジェットと の関係) Nagae et al. (2006) 各天体の偏光観測 4. 激変星(Polar, IP以外) 半分離系 白色矮星と晩期型MSとの近接連星。 outburst → 新星、反復新星、矮新星、新星状変光星に分類。 軌道周期は数時間程度。 ・偏光観測による研究 ・新星・反復新星のoutbusrt時の観測 質量放出 V1494 Aql: Kawabata et al. (2001) ・新星状変光星の偏光分光観測 輝線形成領域 Dhillon and Rutten (1995) V1315 Aql Dhillon and Rutten (1995) 各天体の偏光観測 各天体の偏光観測 5. 共生星 Mira AB の HST image 分離系 晩期型巨星(主にM型)と高温度な矮星 からなる連星 0.“578 軌道周期はおよそ1-2年から数10年 Karovska et al. 1997 d~130pc Harries & Howarth (2000) ・偏光観測による研究 ・固有偏光サーベイ SY Mus Raman輝線の変動 Schulte-Ladbeck (1990) ・固有偏光の時間変動サーベイ Brandi et al. (2002) ・Raman輝線の変動を用いた軌道面傾斜角 の推定:数例 e.g. Harries & Howarth (2000) 各天体の偏光観測 6. 前主系列連星 前主系列星(Herbig Ae/Be星, T Tauri星)からなる連星 ダストエンベロープに覆われている事が多い。 Manset et al. (2005) AK Sco 偏光の変動 ・偏光観測による研究 ・偏光の時間変動 星周構造 ・昇交点位置角の推定 連星誕生シナリオ Monin et al. (1998) 各天体の偏光観測 7. W Ser型連星 半分離系 ロッシュローブを満たす(超)巨星(主星)とB型MS(伴星)の連星 L1点を通過して、主星から伴星 への激しいガス移動あり。 伴星の周り には高温で密度の高い厚いガス円盤がある。 Piirola et al. (2006) ・偏光観測による研究 ・偏光の時間変動 星周構造(主星→伴星へのガス流) Piirola et al. (2006) ・輝線の偏光 伴星周りのガス円盤 β Lyr: Hoffman et al. (1998) 各天体の偏光観測 偏光分光観測の利点 輝線が偏光していない場合: WR星 CQ Cep Harries and Hilditch (1997) 星間偏光の見積もり 輝線が偏光している場合: 共生星 AG Dra ikeda et al. (2004) 輝線形成領域の情報 偏光分光観測の利点 ・Raman輝線 λ6825、7082のケース: OVI λ1032、1038 輝線の中性水素原子による 散乱。 高温度な電離星+豊富な中性水素ガスの両方を併せ 持つ天体からのみ検出 3p 2P 2s 2S Lyα (1216) Lyβ (1025) OVI 1032,1038 1s 2S 準安定準位 Raman輝線 小まとめ 偏光(分光)観測でよく行われている研究 ・星周構造 ・磁場の強度 ・連星の軌道面傾斜角・昇交点位置角 連星の散乱モデル 連星の散乱モデル 1978 Rudy & Kemp 軌道面に対称な分布の自由電子エンベロープを伴う連星 偏光の時間変動 Stokes平面上で楕円を描く 楕円の離心率 軌道面傾斜角に依存 星周領域のサイズ、形状、位置 によらない。 連星の散乱モデル 1978 Brown, McLean & Emslie (以下BME) 任意の空間分布の自由電子エンベロープを伴う連星 軌道位相に対するStokes 曲線のFourier解析 軌道面傾斜角 空間分布のモーメント積分 昇交点位置角 BMEモデルの仮定: ・円軌道 ・点光源 ・散乱体の分布は連星系の回転に対して不変 ・光学的に薄い(1回散乱のみ考慮、τは無視) 連星の散乱モデル 1978 Brown, McLean & Emslie (以下BME) 軌道パラメータの推定方法: 1. 観測データを以下の式でfitし、係数を得る Q(λ) = q0 + q1 cosλ + q2 sinλ + q3 cos2λ + q4sin2λ U(λ) = u0 + u1 cosλ + u2 sinλ + u3 cos2λ + u4sin2λ 2. 得た係数を右の式に代入 1次の係数、2次の係数から それぞれ独立にiを推定可能。 低次の Fourier解析 連星の散乱モデル 1978 Brown, McLean & Emslie (以下BME) 軌道パラメータの推定方法: 3. さらに、右の式に代入する ・昇交点位置角 ・空間分布のモーメント積分 に関連したパラメータ を得る 連星の散乱モデル BMEが予測する偏光の変動 ・分布が軌道面に対して 対称 非対称 軌跡は楕円 2次の成分のみ 1次の成分が 現れる。 連星の散乱モデル BMEが予測する偏光の変動 軌道面上で連星を結ぶ 軸対称+ 軸に対して線対称 軌道面上で連星を結ぶ 軸対称+ 軸に対して軸対称 λ2は0 φ=0は長軸上 楕円の焦点=原点 星間偏光が容易に 求められる。 連星の散乱モデル 1978 Brown, McLean & Emslie (以下BME) tanλ1 = γ2/γ1 tanλ2 = γ4/γ3 G = (γ12 + γ22)0.5 H = (γ32 + γ42)0.5 BMEからの拡張 BMEの仮定はかなり制限が多い。 仮定が成り立たない天体に適用できるよう、様々なモデル の改良が行われた。 1982 Brown et al. 楕円軌道 1982, 1983 Simmons 共平面の仮定を除く 1次、3次の成分が現れる 任意の散乱メカニズム(球対称は 保持:Mieなど) 特殊なケースとして、BMEと同じ式を導出 BMEからの拡張 1994 Fox 有限サイズの光源 散乱体の掩蔽がなければ、BMEの結果と変わらない。 1996 Wood モンテカルロ法による多重散乱 1回散乱よりも強い偏光を作り出せるケースがある。 BMEからの拡張 --散乱モデル-2000, 2001 Manset & Bastien 散乱前後のτを考慮。数値計算モデル。自由電子、ダスト粒子 τが大きくてもBMEの推定法は使用できる。 ダスト粒子 1次の成分が現れる。 Manset & Bastien 2002, 2003 T Tauri連星 68%の連星 およそ20天体の観測 固有偏光@766nm > 0.5% これらの天体の多くが、測光・分光ではダスト存在の証拠なし まとめ 連星周囲の星周構造(散乱体の性質、空間分布)についての情 報を得る上で、偏光観測は非常に重要。 → 様々なタイプの連星で偏光観測が行われている。 特に軌道運動と相関した偏光の時間変動からは、軌道面傾斜角、 昇交点位置角を得ることが出来る。 ← 連星をなす星それぞれの「質量」を求める上で、 軌道面傾斜角が必要。 → BMEは単純だが強力な推定法。 観測手法の向上 と 更なる理論モデルの進展 ⇒ より詳しい情報を得ることにつながる