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コ ミ ュ ニ ケー シ ョ ン エ ラー の 回避術

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コ ミ ュ ニ ケー シ ョ ン エ ラー の 回避術
明日の医療経営を考える
No.
*HZL:[\K`9LWVY[
病 院
「SBAR」
で正確な情報共有を目指す
社団法人 山梨勤労者医療協会 甲府共立病院(山梨県・甲府市)
医療の現場で重要な
「指示ミス防止」
を図るため
エビデンスに基づき標準化された伝達手法を活用
*HZL:[\K`9LWVY[
診療所
確実な伝達手段を全職種で検討し実践
医療法人 健心会 えんどうクリニック(福島県・会津若松市)
伝達事項は文書にする。連絡ノートやカルテの
記入欄、付箋など「目に留まる」工夫で情報を共有
連載〈第6回〉医療者の道 トップの視点
◉ 日南町国民健康保険 日南病院
院長 高見 徹
超高齢社会の 地域医療 を実践
「TEAM APPROACH」特集テーマ一覧
指示ミス防止には、まず的確な報告を !!
「SBARカード」付き
︻特 集︼
コミュニケーションエラーの回避術
九州大学 大学院医学研究院
基礎医学部門
医療経営・管理学講座 教授 荒木 登茂子
医 療 ミス 防 止のた めの 伝 達 力 を 磨 く
総論 医療現場に求められる的確な伝達力
総論
general remarks
医療現場に求められる
的確な伝達力
組織的対応事例に学ぶコミュニケーションエラー対策
1 はじめに
医療現場では迅速で的確な状況
判断と情報伝達が重要である。判断
や伝達の失敗は(自殺や訴訟も含め
て)患者の生命の危険や疾病の重症
化につながり、ひいては医療従事者
&RQWHQWV
が安心して働ける環境を損なう。
医療現場における多くの失敗は、
医療従事者個人の不注意によって生
九州大学 大学院医学研究院
基礎医学部門
医療経営・管理学講座 教授
荒木 登茂子
7RPRNR$UDNL
じるというよりも、システム自体(その
もの)の問題やシステム運用のまずさ
しかし、伝え手と受け手との間で
によって引き起こされる。
は常にギャップが生じる。このギャッ
失敗の予防には、コミュニケーショ
プは当初は小さなものでも、介在する
ンの当事者である患者・医療従事者・
人が多くなればなるほど大きくなる。
医療組織が一体となって、
「状況を的
しかし、スイスチーズモデルが示す損
確に判断して伝達するための有機的な
失
(事故)の矢印は、どこかの段階で
システム」
を構築する事が必要である。
ギャップや失敗を防御すれば、修復
できる。これが組織の修復力であり、
2 伝達方法の明確化と
チーム内での情報の共有
コミュニケーションは、伝え手(情
報やメッセージの伝達)
と、受け手(取
得と解釈)の相互作用で成立する。
コミュニケーションの当事者(スタッ
フ・患者)で構成する組織全体が作り
出していくものである。
3 医 療 におけるコミュニケー
ションのギャップの事例
(誤伝達・曖昧な情報・情報の誤解など)
【図1】スイスチーズモデル(Reason 2000)一部改変
組織の修復力
Hazards :
危険性
(要因)
事例① 放射線治療のカレンダーを
ナースセンターに取りに来た患者に、
同姓の別の患者の治療カレンダーを渡
してしまった。
2012 通巻19号
発行日
発行人
発行所
制 作
表紙・デザイン
印 刷
2012年 7月
三好 克明
第一三共株式会社
メディカルクオール株式会社
有限会社 オセロ
株式会社 誠文堂
⇒対策:姓名や生年月日を患者自身に
Losses : 損失(事故)
申告してもらい、確認する。
general remarks
【表1】SBAR
SBAR:緊急時のコミュニケーションスキル
ナース「間違い防止のためにお名前と
⇒対策:SBAR
生年月日をお聞きしています。姓名を
緊急時のコミュニケー
お願いします。」
ションスキル(表1)
患者
「中村○子です。放射線治療のカ
最初:報告・連絡の趣旨
レンダーを取りに来ました。」
「中○さんの状態とインス
ナースセンターや検査室には、
「間
リンの投与量について、気
違い防止のために名前と生年月日、
になる状況の報告です。」
必要な事柄を尋ねる」旨の貼り紙を
状況 Situation
する。患者にも周知し、協力を依頼す
:問題となる状況
(口頭やパンフレットでの患者参加・
る。
患者教育)
「夕食前に低血糖症状が
出て、患者さんが体調不良
ある医療従事者は、自分が患者と
を訴えておられます。」
して手術を受ける際に、
「私は○村で
背景 Background
す。今日右肺の手術を受けます。」と繰
:状況を理解するための背景
り返しスタッフに伝えていた。患者参
「 イノレット30R 注毎食 前
加は、治療に関する患者の主体性を
投与の指示が出ています。
」
高めることにもつながる。
判断 Assessment
最初:報告・連絡の趣旨
状況 Situation: 問題となる状況
背景 Background: 状況を理解するための背景
判断 Assessment: 問題についての考えや判断
提案 Recommendation:対処についての具体的な提案
【表2】CUS
CUS:不安を言葉にする
C:I am Concerned
私は気がかりです
U:I am Uncomfortable 私は不安です
S:This is Safety issue
これは安全の問題です
【表3】伝達・指示のコミュニケーションのポイント
❶論理的に筋道をたてて話す。
❷情報は5W1H(Why, Who, What, When, Where, How)
やSBARを意識して伝える。
❸曖昧な表現を避ける。
❹図表などを用いて分かりやすい情報にする。
❺口頭での伝達+可能な限り簡潔な文書。伝聞による
情報のズレや伝達漏れや記憶の変容を予防。
❻相互関係の潤滑油としての言葉を添える。
「患者さんの事で気になる事がありま
:問題についての考えや判断
す。
」
「患者さんも落ち着かれると思い
「診てもらう」という言葉を医師は「入
院する」という意味で用いたが、母親は
「診察を受ける」事と思った。
「患者さんは、
この前とは薬が違うよう
ます。
「
」有り難うございました」
…など)
な気がすると言っておられます。原因
また、患者の安全のために自分が
ははっきりしませんが、薬剤の種類か
不安に思うことや気がかりになること
⇒対策:医療者の曖昧で多義的な言
投与量のどちらかが原因かもしれな
を伝える方法 CUS(表 2)は、相手に
葉使いを控える。分からない事は、患
いと不安です。」
受け入れられやすい。
者にも口頭やメモで伝えてもらうよう
提案 Recommendation
確認のコミュニケーションとしては、
に口頭や文書で依頼しておく。
:対処についての具体的な提案
①患者確認:相手に名前を名乗らせ
医師「お子さんは、小児科に入院して
「前回入院時の薬剤と投与量を調べて
る、②薬剤の確認:
(アルマールとア
事例② ( 産科 病棟の新 生 児 室で)
治療してもらおうと考えています。今
みました。
確認を宜しくお願いします。
」
マリールなどの)間違いが生じやすい
から小児科に移って、お子さんはその
医療現場では、
「正確性」、
「明確
言い方を改めて「違う言い方」をする、
まま入院になります。」
性」、
「簡潔性」を持つ的確な情報の
③伝わらないと感じた時には再度伝
伝達が必要である。
「5 W1Hでの必
える
(Two Challenge Rule)
、
④TPOP
要事項のチェック」
、
「緊急時のコミュ
(Time 時・Place 場所・Occasion 場合・
ニケーションであるSBAR」
「起承転
Person 相手)
を考慮した伝達ルート
結の構成のチェック」を活用する。
を考える(例えば、相手が他事に気を
「簡潔性」は、潤いが犠牲になり双
取られていない時を選んで伝える)が
方に不愉快な感情が生まれる事も
基本である。医療安全のためという
多い。導入・感謝の言葉を添える事
目的を再確認して、きちんと伝える事
が否定的なニュアンスを払拭する。
を組織全体の取り組みにする事が望
(情報の多義性を避ける。数値で表現す
る工夫:しばらく→10 分、時々→1か月に
1回、少し→小匙に半分、
など)
事例③ 入院時「イノレット30R 注、
毎食前投与」の指示あり。夕食前に低
血糖の症状が出現したためインスリン
一時中止。看護師が「イノレット30R
注」に疑問を持ち、前回入院時のカル
テを参照したところ、
「イノレットR 注、
昼食前投与」であった。
(
「3 分程お時間をいただけますか?」
まれる。
(表 3)
総論▶ 医療現場に求められる的確な伝達力 3
【表4】問題解決のためのアサーションDESC法
情報伝達の際のコミュニケーショ
ンのズレは医療事故の原因の一つで
ある。どんなに注意していても思い込
みやズレは生じる。その時にこそ、組
織としての修復力が力を発揮する。
3 組織の修復力を高める
職場風土
・E(Express、Explain、Empathize)
:表現、説明、共感
対処しようとする状況や相手の行動に対する共感といきさつの説明や自分
の気持ちの表現、建設的に明確に穏やかに表現
・S(Specify)
:特定の提案
相手に対する具体的で現実的な対処法(小さな行動の変容)の提案
・C(Choose)
:選択
提案に対する反応を予測し、複数の提案や修正案を提示(内容は具体的で
実行可能で脅威を与えないもの)
医療現場は医師を核とする縦系列
E(表現、説明、共感)
:自分の見間違
メンバーの力を引き出して伸ばす事が
の専門職の組織である。医師や管理
いかもしれないので、
出来るコミュニケーション力も必要と
職に対する自由な発言を控える傾向
S
(特定の提案)
:先生にもう一度フィ
なる。このようなリーダーは、相手を頭
がある一方で、専門職の自信やプライ
ルムを見ていただけたらと思います。
ごなしに否定せず、機嫌を損ねず、周
ドや互いの遠慮もコミュニケーション
C(選択):気になるのはこのあたりで
囲との双方向の自由なコミュニケー
の阻害要因のひとつである。これに
すが。見ていただいて良かったです、
ションを展開する。縦系列の組織の
よって生じる対立や不満は大きいが、
有り難うございました。
中で、
リーダーに対して、
あるいは互い
抑え込まれて表面化しないことも多
医師や管理職に対する遠慮や抵抗
に発言しやすい風土を作るためには、
い。このしわ寄せは、患者ないしは医
などの権威勾配の解消は、組織にお
影響力を持つリーダーが成熟したコ
療従事者自身に向かい、結果として
けるコミュニケーション改善の重要な
ミュニケーションのモデルになるのが
医療事故や医療不信、医療者の不満
ポイントである。
最も効果的である。
の鬱積やメンタルヘルスの悪化をも
コミュニケーション力がある医師
たらす。また組織の効率性や生産性
や管理職とは、技師が異常を見つけ
の低下につながりかねない。
たときに、
「有り難う。よく見つけられ
事例④ 主治医が気付かなかった異
常をレントゲンフィルムに見つけた放
射線技師。レントゲンフィルムでの異常
を伝えると機嫌が悪くなる医師がいて、
とても指摘しにくいとの事であった。
⇒対策:技師は他の話しやすい医師
4
・D(Describe)
:描写
対処しようとする状況や相手の行動の客観的な描写、事実の提示
5 望ましいリーダーの成熟した
コミュニケーションモデル
たね。」と言える医師である。このよう
感情や行動レベルで人間関係を扱
な医師なら、技師も「頑張って腕を磨
う交流分析では、個人の観察可能な
こう」と、仕事に張り合いが持てる。
行動を5つの自我状態(CP−厳しい
私、NP−優しい私、A−考える私、
FC
4 望ましいリーダーとなる医師や
管理職のイメージ
−自由な私、AC−合わせる私)に分
類している。この 5つの自我状態に加
に伝えて間接的に主治医に伝わるよ
組織におけるリーダーの機能は、
えて、「自我状態を内外の刺激に応じ
うにする、主治医のプライドを損ねな
①配慮:メンバー相互に生じる緊張
て適切に切り替える力」 であるPC(透
いように言い方を考える、主治医の機
やストレスを緩和し、人間関係を有効
過性調整力)
がある。
嫌の良い時を見計らう、などの工夫を
に保つよう働きかける行動をとる
家庭の統率を図るときには批判的
していた。
このような場合には、
「問題
②体制作り:メンバーの様々な関心
な親が、調和を図るときには保護的
解決のためのアサーションDESC 法」
や行動を集団目標の達成のために一
な親が必要であるように、組織の運
を用いると適切なコミュニケーション
方向に向けて動員し、効果的に統合
営には TPOPに合わせた「全ての自
が取りやすい。
(表 4)
するような行動をとる
我状態」が必要である。リーダー機能
:フィルムに少し気になる部分
D(描写)
そして、相手を尊重して話に耳を傾
と自我状 態を関連させて考えると、
がありましたが、いかがでしょうか?
け、目標に向かって共同作業を行い、 「①体制作り」にはCP,「②配慮」には
コミュニケーションエラーの回避術
general remarks
【図2】望ましいリーダーのコミュニケーションモデル
【親の自我状態】
P:親
一部改編
【個人の自我状態】
CP:Clitical Parent(批判的な親)
NP:Nurturing Parent(保護的な親)
【リーダーの機能】
CP:厳しい私
NP:優しい私
体制作り
配慮
CP NP
望ましい
リーダーモデル
5つの自我状態を
切り替える能力
A
A:考える私
客観性
FC:自由な私
AC:合わせる私
ゆとり、癒し、潤滑油
調和
【子どもの自我状態】
C:子ども
FC:Free Child(自由な子ども)
AC:Adapted Child(順応する子ども)
=
【大人の自我状態】
A:大人
PC:Permeability
Control Power
透過性調整力
FC AC
7 まとめ
NP、
「③組織の客観的な把握」には
われていました…。」
A、
「④組織のゆとりや癒しなどの潤
それに対 するリーダーの対応は
リーダーシップをとる管理者や医師
滑油」には FC、
「⑤調和」には AC が
様々だ。
(以下、便宜的分類)
の成熟したコミュニケーションは他の
必要である。
(図2)
A:内心ムッとして「聞きたい事があれ
医療従事者を育み、組織を相互交流
ここで望ましいリーダーをイメージ
(権威
ば、さっさと聞けばいいのに。
」
が可能な目標追求型にする力がある。
してみよう。リーダーは全ての自我状
型)
情報伝達におけるコミュニケーショ
態とPCを豊かに持っている。組織を
B:
「こちらから聞きたい事がないか、
ンギャップを修復する力を高めるため
客観的に捉えており、厳しさと優しさ
(受容型)
尋ねてみましょう。
」
の組織風土の改善は、リーダー(トッ
を兼ね備えてうまく使い分けている。
C:
「時間が取れないのは確かです。
プ)が率先して良いコミュニケーショ
必要に応じて自由にふるまい、時には
聞きたい事を○さんにメモにしてもら
ンモデルになる事が最も有効である。
我を抑える。このようなリーダーがい
(客観行動型)
いましょう。」
専門職がそれぞれの知識や技術を出
れば、相互のコミュニケーションは円
D:
「患者さんに聞きたい事がないか、
し合い、
「全体が部分の総和以上」
に
滑で、組織全体の雰囲気は自由で活
スタッフ全員が気をつけて尋ねてみま
なる時に、
構成員のやる気や自信が高
気に満ちたものになる。受容し長所を
(組織参加型)
しょう。
」
まり、組織全体が成熟する。
認めながら客観的な目標設定も指示
E:
「患者さんに
“尋ねたい事カード”
するために、部下のやる気を引き出し
(組織行
を作って渡してみましょう。
」
て共に目標を追求できる。このような
動型)
リーダーは周りを魅きつけ、組織を変
F:
「患者さんだけでなくスタッフも
化させる力を持つ。
思うことがあれば、それが伝わるよう
な仕組みを作りましょう。意見ばかり
6 どのような人をリーダーに
選べば良いか?
ではなく、
“嬉しかったカード”
“こ
、 うし
てもらいたいカード”
“疑問カード”
、
…
参考文献
○相馬孝博監訳 患者安全のシステムを創る 医学
書院 2006
○ TeamSTEPPS:Nationaal Implementation
http://teamstepps.ahrq.gov/(20120610)
James Reason Human errors: models and
management BMJ 2000,320;768-70
○国立国語研究所「病院の言葉」委員会:
「病院の
言葉を分かりやすく‐工夫の提案‐」
平成 21年
○平木典子:アサーショントレーニング 日本精神技
術研究所 2002
○杉田 峰康:医師・ナースのための臨床交流分析入
門 医歯薬出版株式会社 2000
○桂戴作・新里里春・水野正憲:PCエゴグラム 適
性科学研究センター 1997
○荒木正見・荒木登茂子 医療コミュニケーション
日本医療企画 2010
リーダーである医師や組織に対す
(組織行動型)
勿論私も活用します。」
る患者の苦情や意見は、直接的・間接
リーダーのコミュニケーション力に
8ZWN QTM
的(ご意見箱など)にスタッフに届け
より、患者の一言に対しても、個人的
九州大学 大学院医学研究院
基礎医学部門 医療経営・管理学講座 教授
られることが多い。スタッフからの苦
な感情の表出から組織的な行動変容
荒木 登茂子(あらき・ともこ)
情や意見を受け止める時に、リーダー
へのきっかけまで、様々な対応が引き
や組織の顔が出てくる。
出される。
名古屋大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻 修了
九州大学医学部附属病院心療内科 臨床心理士
2001年∼九州大学大学院医学研究院 医療経営・管理学講座 教授
スタッフ「先生、先ほど○さんが先生
周りのリーダーはどの対応が多い
には尋ねにくいと帰り際にちらりと言
だろうか?
著書 論文:
「場所論と癒し」
(ナカニシヤ出版.2002)
、
「 高齢者
のこころと食の支援」
(化学同人.2009)
、
「医療コミュニケーショ
ン」
(日本医療企画.2011)
、
「専門職スタッフのストレスケア」総
合ケア 第17巻第2号 43-7.2007.2、
「医療現場におけるリスク
コミュニケーション」安全医学 7-1.2011
総論▶ 医療現場に求められる的確な伝達力 5
&DVH6WXG\5HSRUW
社団法人 山梨勤労者医療協会 甲府共立病院(山梨県・甲府市)
医療の現場で重要な「指示ミス防止」を図るため
エビデンスに基づき標準化された伝達手法を活用
2004年に医療安全管理室を設置した甲府共立病院。専従と
して配された医療安全管理者は、自分の目で現場の状況を確
認したいと、院内パトロールを開始する。以来、多職種連携・
全員参加で着々と安全管理の体制整備が進められていくのだ
が、責務を引き継いだ後任の専従者は、
「それでもミスが起き
る」ことへの対策として、情報の伝達力強化が必要だと痛感し、
「SBAR」を用いた伝達手法の標準化に取り組む。そして現在
の専従者は、壁にぶつかれば「基本に返る」ことをモットーに、
コミュニケーションエラーの防止、安全管理のレベルアップを
Check Point !
正確な情報伝達・共有を可能とするために
■ 医療安全は、人権を守るためだと、繰り返し職員に周知
徹底する
■「多職種講師によるテーマ別医療安全学習会」の開催で、
全職員が医療安全に関わっていることを自覚してもらう
■ 有用な伝達ツールを職員に普及し、活用を図る
■ 職員が制作・出演したビデオで、伝達力を向上させるこ
とへの関心を高める
目指している。その実際を取材した。
医療現場を横断的に把握する看護師長が専従の
医療安全管理者となり、院内パトロールを開始
院長
大畑 和義 氏
「医療安全に積極的に取り組む意識が、チームとして醸
成されていることの重要性を、職員には繰り返し伝えます」
甲府共立病院は甲府地区二次医療圏にあって、二次救
医療の安全性を高める上で「伝達力の向上」は必須
急医療を担っているが、
「救急車の
受け入れ台数が一番多い」という。
当院は、前身の診療所時代から一貫して「貧富によって
生命の尊さが差別されてはいけない」を基本姿勢に、地域
医療に取り組んできました。従って、医療を受けるという
「医療権」も、人間の基本的な権利だと考え、誰もが等しく、
安心して安全な医療を受けられる病院としての充実を図っ
ています。
医療安全ということでは、2004 年の日本医療機能評価
「体制強
機構の認定*を受ける際、その準備段階で、更なる
化」の必要を感じました。そこで 04 年、当院の医療安全を
牽引する専門部署として医療安全管理室を設け、看護師長
を専従の医療安全管理者として配置しました。
以後、各部署のセーフティーマネージャーと連携し、各専
門職域で培ってきた安全文化を内包する、当院として「安
全を志向する風土」の醸成に努めています。同委員会が企
画し、当院の職員であれば誰もが参加できる「多職種講師
によるテーマ別医療安全学習会」等は、職種間の相互理解
を深め、医療安全面でも協力関係を築く機会として、成果
を上げています。
医療の質・安全を左右する伝達力の向上ということでは、
必要な情報を的確に伝える伝達手法の共有が欠かせませ
ん。職員間のコミュニケーション力を高める意味からも、同
院としての標準化を推奨しています。
院長の大畑和義氏は、全ての人を平
等に診る同院としては、当然の姿勢
だと説明。だからこそ患者や職員の
人権を守る意味からも、
「医療安全
6
コミュニケーションエラーの回避術
小口 久美子 氏
は、第一義的課題」だと明言した。
医療安全管理室が設置された 2004 年、専従の医療安
全管理者として看護師長・小口久美子氏が就任している。
「当時、手術部位を間違える、患者を取り違える、あるい
は危険薬の静注など、医療事故の報道が相次いでいまし
た。当院としても、医療安全の管理をレベルアップさせるた
め、専従体制を敷くことにしたのです」
それまでも、事務職員が医療安全を担当していたのだ
が、専従ではなかったため、活動が十分にできる環境では
なかった、と大畑氏は当時を説明する。
「組織横断的に現場をよく把握している、看護師長が専
従の適任だと判断しました」
*現在は、バージョン6.0(2010.1.15∼2014.10.17)
看護師長
【表1】医療安全への取り組み
1984年
看護部門における事故報告制度の発足
1997年
院内医療事故対策委員会の設置
1999年
リスクマネージャーを看護部門から複数選出
2000年
リスクマネージャーを他職種に拡大
全職員対象の院内インシデント研修会開催
職場リスクマネージャーの活動交流
2003年
リスクマネージャーの名称を、予防を重視する意味で
セーフティーマネージャーに変更
を基礎情報としながら、現場で何がどのように起きている
2004年
医療安全管理室設置 専従担当者を配置
院内パトロール実施
のか、事故に発展する可能性のある因子はないのかを自分
2008年
多職種講師によるテーマ別医療安全学習会を定例化
同院における医療安全管理者の主な業務には、①医療
安全管理委員会の会議で中心的役割を担う、②インシデン
トレポートの集計・対策立案に向けての組織的な活動、医
療安全に関する情報発信、
教育研修の企画・運営等がある。
加えて小口氏は、インシデントやアクシデントのレポート
で確認するため、院内パトロールを開始する(表1)
。
「医療安全管理者としては、ゼロからのスタートでした。
理対策の周知徹底、各職場におけるリスクの把握・分析・
ですから、各現場のセーフティーマネージャーあるいは職
対処・評価、
現場の医療事故防止を任とする「セーフティー
員との新たな関係構築の必要もありました」
マネージャー委員会」
。これらの委員会が両輪となって、医
療安全が推進されていくが、小口氏からバトンを受けて
医療安全管理体制が十二分に機能するためには
職種・職員間のコミュニケーション強化が重要
2007年、看護師長・望月富士穂氏が
それまでも現場では、例えばインシデントの原因を究明
「テーマとしたのは、これまで以上
し、
対策を立て、
実践していた。
しかし、
ミスは起きてしまう。
に風通しの良い風土づくりでした」
小口氏自身も、そのことを病棟勤務で実感していた。だ
小口氏等の尽力により、すでに組
からこそ現場と協力して危険因子を徹底的に洗い出し、俯
織的に機能している医療安全管理
瞰的・組織横断的な視点から、方策の標準化を図って継続
体制とは別に、望月氏が着目したの
的に取り組む必要がある、と考える。
は、職種・職員間の「コミュニケーション力の向上」
だった。
医療安全管理者に就任する。
看護師長
望月 富士穂 氏
「その前提として、医療安全に対するベクトルを全職員
が同じくできるよう意識づけをしていくこと、加えて現場が
協力しやすい環境整備をすることが必要でした」
「多職種講師によるテーマ別学習会」
によって
職種間の相互理解・交流・連携強化を図っていく
04 年秋に開かれた第 1回の医療安全管理委員会では、
同院の医療安全への取り組みは1984 年、看護部で「事
全職員参加型の医療安全管理体制が同院の方針として決
故報告制度」をスタートさせたことに始まる。
制度が定めら
定する。最初の取り組みは、全員参加によるKYT(危険予
れたことで看護部では、事故防止への理解の共有、加えて
知訓練)活動だった。まずは、現場の危険因子を多職種の
協力・支援という部署内での連帯感もアップしていた。
専門的な視点・経験を通して洗い出すためである。
そうした看護部としての実績もあって望月氏は、自らに
各職 場には主任以 上の職員から選出されたセーフ
課したテーマである「組織的なコミュニケーション力の向
ティーマネージャーが配され、医療安全管理者と連携して、
上」に、意欲的に取り組んでいく。
現場の安全管理の任にあたっている。
「医療安全は、全職種の協力がなければレベルアップは
「セーフティーマネージャーは 22人ですが、コミュニケー
望めません。従ってセーフティーマネージャーを核とする各
ションは当初からスムーズでした」
職場での取り組みと同様に、チーム医療という視点から多
小口氏は、誰をも平等に診る同院だからこそ、
「職種同
職種が連携しての取り組みも重要です」
士の対等性も高く、そのことが組織としての医療安全への
構成員である各専門職が、相互理解を深める中で、チー
取り組み・連携強化にも生かされた」と振り返る。
ムの一員として有機的に協力する。
そのためにはまず、
「安
同院全体の安全管理対策や医療事故防止に関する課
全管理にも、
全部署・職員が関与している」と実感してもら
題を審議する「医療安全管理委員会」
。職員への安全管
う工夫が必要だ、と望月氏は考えた。
■ 社団法人 山梨勤労者医療協会 甲府共立病院
7
【表2】多職種講師によるテーマ別医療安全学習会(例)
講 師
(青字は
「安全テーマ」)
内 容
●ME機器を知る「呼吸器・輸液ポンプの知識を習得し不安解消!」
臨床工学技士
『輸液ポンプ・シリンジポンプ』
(講義&実践)
『人工呼吸器の取り扱い注意点』
(基礎編・応用編)
●心電図モニターの安全管理「ヒヤリ・ハット事例から学ぼう」
『心電図モニタリングテクニック』
臨床検査技師
●輸血インシデント防止「異型輸血は命取り!規則と手順きちんと守って施行して」
『輸血療法について』
(基礎、安全な取り扱い、緊急対応)
理学療法士
●転倒転落防止
『安全なトランスファー』
(基本・実技)
『正しい抑制帯の使い方』
薬剤師
●危険薬を知る
『院内使用されている危険薬、
あなたはいくつ言えますか?』
●麻薬の正しい取り扱い
『法律から実践まで』
●インスリンミス防止
『インスリンを危険薬剤と認識して』
(インスリン療法)
安全なトランスファー
(実技)
「多職種講師によるテーマ別学習会」では、テーマによって
は、外部から専門職を講師として迎える。例えば、「心電図
モニターの安全管理」など医療機器に関することであれば
機器メーカーに依頼する、など。良質な医療の提供、医療安
●県内唯一の被ばく低減施設認定病院として
「なになに、なるほど、放射線」 全は、決して院内だけで完結するものではないことの周知・
臨床放射線技師
『放射線検査を安全に行うための基礎知識』
(被ばく、防御、妊娠と放射線)
再確認にもなっている。
第一弾として望月氏は、
「多職種講師によるテーマ別医
果もあって、職種間のコミュニケーションは確実に良くなっ
療安全学習会」
(以下、学習会 表 2)を企画する。
ていた。しかし、ミスは起きている。何故か。早川氏等は、
「専門職を講師とする学習会を定期的に開催すること
その一因として職員同士、例えば医師と看護師との間での
で、他職種に対する理解を深め、職種間の交流が図られる
「正確に情報を共有するための伝達
ように、さらには連携意識が高まるように努めました」
力」が弱い、
ということに着目する。
学習会は予告をし、全職種に受講を呼びかける。学習会
「看護師によるインシデントレポー
が終われば、そのたびに使用したパワーポイントなどの資
トの中に、例えば
『医師に報告をし
料を院内 LANに掲載する。院内のパソコンであれば、参
て、指示に従ったが、結果的にインシ
加できなかった職員も含め「誰もが、いつでもどこでも学
デントがあった』
『医師からのスムー
副院長
医療安全管理委員会委員長
習・再確認できる」
ようにした。
ズな指示受けができなかったため、
早川 秀志 氏
「受講者には受講証ラベルを発行しますが、年間の最多
患者さんの治療のスタートが遅れ
受講者は、医療安全研修会で表彰します。表彰は、本人の
た』といった内容もありました」
モチベーションを高める効果だけでなく、全職員が勉強会
循環器病棟に長く勤務し、集中治
に
『参加したい』
と思ってもらえるための工夫、
更なるチーム
療室も経験している望月氏は、チー
ワーク・安全文化を醸成する一環にもなっています」
ム医療におけるコミュニケーション
エラーが患者の予後に影響すること
「状況」
「背景」
「評価」
「提案」の4つの要素を簡潔に
伝える「SBAR(エスバー)」の報告手法を院内普及
8
を痛感していた。
主任看護師
和知 えり子 氏
当時、救急外来に勤務していた主任看護師・和知えり子氏
「何よりも大切なのは、日頃のチームワークです。それが
も、自分も含め看護師は、医師への伝達で「どうすれば、必
無ければ、
マニュアルは単なるツールでしかありません」
要なことを簡潔に伝えられるか」で悩み、医師も「連絡の意
副院長で、医療安全管理委員会委員長の早川秀志氏
図がわからない」
、
といった状況が少なからずあったという。
は、そう断言する。医療安全に関するマニュアルはほぼ
スムーズな伝達、正確な情報共有をスキルアップできる
揃っているという早川氏だが、
「整備できているのに何故、
何か良い方法はないか、望月氏等は思案する。
十分に活用できないのか、インシデントやアクシデントが
そんな折、日本医療機能評価機構が主催するフォーラム
起きてしまうのか」、そこが一番の関心事だという。
に出席した早川氏が、
「SBAR」
と出合う。
「多職種講師によるテーマ別医療安全学習会」等の成
「フォーラムで、
『SBARを活用した報告事例』
のビデオを
コミュニケーションエラーの回避術
&DVH6WXG\5HSRUW
【図】SBARカードに記された
「良い例」の手順
写真 SBARカード
SBAR(エスバー)∼シンプル 効果的に報告∼
① 状況(S:Situation:シチュエーション)…… ◆患者に何が起きているか!?
例) 階病棟の (自分の名前) です。
患者さんのお名前は です。 才 (性別) です。
患者さんが の状態なのでコールしました(不眠・不穏など懸念を伝える)
。
② 背景(B:Background:バックグラウンド)…… ◆患者の臨床的な背景・状況は何か!
例) さんの入院の目的は (知っている範囲で簡潔に) です。
呼吸・循環・意識レベル・症状・外見(ぱっと見た感じ)等の異常所見を伝える。
血圧は 。脈拍は 。呼吸は 。体温は です。
☝異常所見に関連したバイタルサインのみ伝える。必要なければ省略可。
③ 評価(A:Assessment:アセスメント)…… ◆私が考える問題は何か!
例)とりあえず結論を伝える。
私は、 の恐れ、疑いがあると思います(心臓・呼吸・感染・中枢)
原因はよくわかりませんが、 と心配です。
SBAR の活用においても、伝え手・受け手の双方が、お
互いの状況への気遣いを忘れてはならない。
杉田医師もコメントしているように(P.10 囲み)
、報告に
あたっては、「緊急でご相談したいことがあるのですが、
よろしいですか」など、まず受け手が即座に相談に応じ
られる状況かどうかを確認する。
また受け手は、伝え手の急場を察し、誠意ある対応を心
がける。
医長・杉田貴仁氏が
④提案(R:Request:リクエスト)…… ◆私の提案はこれ!
例)
「薬を出して下さい」
「すぐに診察して下さい」
「後でよいので診て下さい」など。
担当し、ビデオにも
出演している。早川
観たのですが、当院でも有用だと思いました」
氏が「SBARを全職員に普及したい」
SBARによる報告は、最低限必要な要素を以下の「S」
という話をしたところ、杉田氏のほう
「B」
「A」
「R」に整理し、順を追って伝達をする、というもの。
から参加を申し出たそうだ。
外科 医長
杉田 貴仁 氏
S=Situation 状況(患者に何が起きているか !?)
「医師としても、看護師等、他の職
B=Background 背景
(患者の臨床的な背景・状況は何か!)
種との正確な情報伝達・共有が決して満足のいくものでは
A=Assessment 評価
(私が考える問題は何か !)
なく、お互いの伝達力を高める必要性を感じていたので
R=Request 提案(私の提案はこれ !)
しょう。医局にも普及したい、という思いもあったようです」
制作されたビデオは医療安全研修会で放映され、日頃
標準化された伝達手法を組織で共有していれば
受け手も伝え手の正確な伝達をサポートできる
の伝達方法について振り返るとともに、
SBARにのっとっ
同院では2010年度の上半期、
「接遇・コミュニケーション」
研修後も閲覧できる環境を整えた。
「良い例」の手順(図)
に重点を置いた研修会を開催しているが、その一環として
は名刺サイズのカードに印刷され、職員が名札ケースに入
SBARを取り上げ、ビデオに報告事例を収録し、全職員の
れて携帯し、活用しやすいようにも工夫している(写真)。
伝達力向上に役立てている。
「最近の医局では、看護師等からの報告で必要な伝達
「SBARは米国海軍において生まれた、重要な情報を正
要素が欠けていれば、医師が看護師に欠けた要素を質問
確・迅速に伝える手法だと言われています。その手法は、医
する、といったこともやっています」
療現場でも有用だと実感しました。伝え手と受け手の情報
早川氏は、
SBAR が医局にも普及し「SBARを構成する
共有を、レベルアップできる手法だと言えるでしょう」
という。
4つの要素については、医師も把握している」
そう説明する和知氏は当時、セーフティーマネージャー
「受け手側も、連絡内容に SBARの 4つの要素が含まれ
でもあり、
ビデオにはナビゲーターとして登場する。
ているかを意識しながら聞くからこそ、不足する要素を瞬
ビデオの内容は、看護師から医師への「電話報告」例だ
時に指摘できるのではないでしょうか」
が、
「ダメなパターン」
(3 事例)と「良いパターン」
(1事例)
受け手が伝え手の正確な情報伝達をサポートする。
それ
を職員が熱演している。シナリオ(P.10 囲み)は、外科の
も、チームワークだと言えるだろう。
た伝達を学習する。また、ビデオは院内 LANに掲載され、
■ 社団法人 山梨勤労者医療協会 甲府共立病院
9
「当院には、患者さんのためになることは職種を超えて
実践する、という伝統があります。SBARは一つの伝達手
段ですが、全員に活用されてこそ、
『人権を守る』うえからも
十二分な効果が期待できると思っています」
副事務長
杉浦 春光 氏
SBARの学習は新人教育の一環として望まれるが
各職場に合った工夫で定着を図っていきたい
2011年に就任した現在の医療安全管理室の専従師長・
以前、医療安全を担当していた副
深田久子氏は、
「困ったときには、いつでも前任の2人に相
事務長・杉浦春光氏は、
「治療、服薬
談できるのが強み」
だと話す。
など、医療は安全管理を前提として
「医療安全の管理体制ということでは、すでに素晴らし
患者に提供されるべきもの」と説明
いものができていますから、私はその体制をしっかりと維
する。だからこそ、
「不適切な処置が
持していくのが責務。上手くいかない場合や分からないこ
成されないように、情報伝達におい
とがあれば、
『基本に立ち返る』
ことで問題を見つめ直すよ
ても標準化が必要」
なのだと語った。
うにしています」
囲み シナリオ(看護師から医師への
「電話報告」例 ∼ダメなパターン・良いパターン∼ 一部改編)
●ダメなパターン
1
看護師:401号室の▽○△先生の患者さんで、心筋梗塞とかがある
人で、あっ、今回は腹痛で入院したんですけど、便も出てい
ないんですよねぇ……。今も、お腹を痛がっていて……
医 師:ちょっと待って。今、大事なICをしているんだけど……。
待てそうですか?
看護師:よくわかんないですけど、待てるか聞いてきます(そのまま
病室に行ってしまう)
医 師:ちょっと、看護師さん?
※コメント
相手の状況を考慮して、相談しましょう。
必要なことを簡潔に述べ、要望を伝えましょう。
●ダメなパターン
2
看護師:401号室の▽○△先生の患者さんで、心筋梗塞で入院して、
緊急でPCIをして、腎臓も悪くて、その後CHDFを回したりし
た方なんですが……
医 師:なんだか大変そうな人だなあ……。それで? 外来中なん
だけど、すぐに診察したほうがいいのかな?
看護師:いえいえ、明日退院なんですが、眠れないって言っていて
医 師:え? 心筋梗塞で治療中じゃないの?
看護師:もうそれは良くなってます
医 師:ええっ……、じゃあ◇◇◇を1錠、飲んでもらって下さい
看護師:分かりました。指示入れといて下さいね
※コメント
過去のことは簡潔に述べ、現在の状況をしっかり伝えましょう。
●ダメなパターン
3
看護師:今日、腹痛で入院した方がとても痛がっているんですけ
ど。冷や汗もかいているかも……
医 師:えっ? 入院した病名はなんですか?
看護師:ちょっと待って下さい(電子カルテを調べ始める)
原因は、これから調べるみたいです
医 師:バイタルはどうですか?
看護師:今から測ってきます
※コメント
患者情報を整理し、バイタルサインが必要なときは、測定して
から相談しましょう。
10
コミュニケーションエラーの回避術
●良いパターン
看護師:8階病棟看護師○○ですけど、今よろしいでしょうか?
医 師:はい、なんでしょう?
看護師:患者さんのお名前は、△△□□さん、55歳女性です。患者
さんが腹痛を訴えているのでコールしました
医 師:それで?
看護師:この方は腹痛精査のために、今日の午後入院されました
が、原因は精査中です
意識は清明、血圧160/96、脈拍100回、体温36度5分、
呼吸は速くありません
既往歴は、心筋梗塞と虫垂炎の手術歴があります
原因はわかりませんが、ひどく痛がっています
手術歴もあるので絞扼性イレウスも心配です
診察をお願いします
医 師:わかりました。すぐに行きます
※まとめのコメント
こんにちは。外科の杉田です。
皆さんは普段から、上手に報告や相談
ができていますか?
よく分からないから全部報告しちゃえ
とか、何をどう相談したらいいのか相談したいとか、思っ
ていませんか?
人に上手に相談することって、難しいですよね。
そんなあなたにはこれ、SBAR(エスバー)です。
この通りに相談したら誰でも上手に報告、相談ができる優
れものです。
患者さんの状態を評価し、自分の考えをまとめて、相談の
目的を明らかにしてからSBARを使って報告しましょう。
今回のビデオでは、医師と看護師のやり取りを例に挙げま
したが、それ以外の職種間でも有効です。
また、SBARには取り上げられていませんが、相手の状況を
最初に確認することも大切なマナーですので、ぜひ気をつ
けてみてください。
緊急を要するときは、緊急である旨を最初に伝えるなど、
アレンジしてもいいでしょう。
それでは、さようなら。
&DVH6WXG\5HSRUW
医療安全管理室 専従師長
深田 久子 氏
医療安全の管理体制は、
どんなに
「患者さんが入院した際、
対応した職員が即座に、
その方
整っていたとしても、インシデントや
に適した転倒・転落対策のプログラムが作れるようにと取
アクシデントは起きるだろう。ならば
り組みました」
常に基本に返って見直し、不十分な
また、KYTの外部研修に参加した最初のメンバーでも
取り組みをチェックして、やるべきこ
あるが、
「患者さんを守るだけでなく、職員も守る。誰一人
とを徹底するとの認識だ。
として犠牲者にしてはいけない」という研修の理念に共感
SBAR普及も現在は深田氏を核と
し、以来、そのことが全職員の共通認識になればという思
して展開している。従って、現状把握や更なる普及・定着に
いで、医療安全活動に取り組んでいる。
対しても、関係者の情報・アドバイスには真摯に耳を傾け
医療安全を標準化するためのマニュアル、また伝達手法
ているという。
としての SBAR。これらはツールとして有用でも、活用する
小口氏は、産婦人科病棟にいた当時、新人看護師に対
職員にチームワークがなければ成果は期待できない。
する一通りの病棟教育を終えた 9月頃、ビデオ制作された
深田氏の「基本に返る」とは、突き詰めれば、同院の基本
SBARのシナリオを現場の状況に合わせてアレンジし、研
姿勢に立ち返り、
「患者と職員を守る医療安全」
への取り組
修を行っている。
みをレベルアップすることではないか。当然、そのためのア
早川氏も、SBARの研修は「正確な伝達」ということで、
プローチは医療安全管理者、セーフティーマネージャーの
「医局の新人教育にも役立っている」と話す。
みでできるものではない。
こうした情報を踏まえ深田氏は、各専門職での新人研修
全職員参加型の医療安全管理委員会が、十二分に機能
に組み込んでもらうための働きかけを行っている。
することである。それが、同委員長の早川氏が言う
「日頃の
「新人看護師であれば、6月くらいからの研修が理想だ
組織を統括する大畑氏が言う同院の
チームワーク」
であり、
と思っています」
「第一義的課題」
といえるのだろう。
新人を一堂に会しての研修は難しい。各職種には「院内
同院の「SBAR普及への取り組み」は10 年2月、山梨医
LANに掲載されたビデオを各自が観てスキルアップする」
療安全研究会のポスターセッションで最優秀賞を受賞し
よう指導してもらう一方、可能であれば「各職場に合ったオ
た。前年には「転倒・転落予防対策改定前後の比較」
で、同
リジナルを工夫して、SBARの定着を図って欲しい」と、多
じく最優秀賞を受賞している。
2 年連続の快挙は、同院の
職種・全部署での定着を期待している。
組織をあげた医療安全への取り組み姿勢が高く評価され
た証左といえる。
マニュアルや伝達手法を有用なものにするには
多職種によるチームワークの強化が欠かせない
2005 年 か ら10 年 ま で、セ ーフ
ティーマネージャーの任にあったリ
ハビリテーション室室長・山田洋二
氏も、多職種・全員に、
医療安全に対
する共通認識を醸成していくために
リハビリテーション室室長
山田 洋二 氏
は、SBARの普及など、具体的な取り
組みを組織横断的に地道に続けて
いくことこそ効果的だと考える。
病院基本データ
■名称/社団法人 山梨勤労者医療協会 甲府共立病院 ■所在地/山梨県
甲府市宝 1丁目9-1 ■開院/ 1961年 ■病床数/ 283 床 (一 般 ) ■職員
数/ 420 名 ■診療科目/内科、神経内科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内
科、糖尿病内科、腎臓内科、人工透析内科、小児科、外科、消化器外科、乳腺外科、
山田氏は当時、転倒・転落の対策チームを軌道に乗せる
呼吸器外科、整形外科、心臓血管外科、小児外科、産婦人科、精神科、救急科、リ
ために尽力した一人だ。
診断科、臨床検査科、
歯科、歯科口腔外科
ハビリテーション科、放射線診断科、耳鼻咽喉科、眼科、麻酔科、泌尿器科、病理
■ 社団法人 山梨勤労者医療協会 甲府共立病院
11
&DVH6WXG\5HSRUW
医療法人 健心会 えんどうクリニック(福島県・会津若松市)
伝達事項は文書にする。連絡ノートやカルテの
記入欄、
付箋など「目に留まる」工夫で情報を共有
医療機関の激戦区・会津若松市にあって、えんどうクリニックは
1日の平均患者数が130人を超える有床診療所である。同院で
は、遠藤剛院長と職員が心を一つにチーム医療を展開。患者に
は「安心して任せられる」と評される。多忙だからこそ求められ
る迅速で正確・確実な情報伝達では、
「人は必ずミスをする」の
視点に立って、全職員による様々な工夫が実践されている。ま
た、同院独自の院内事故防止対策マニュアル(現在は12項目)
を全員参加で作成するなど、医療姿勢や安全管理の情報共有
にも努めている。同院の取り組みを紹介する。
Check Point !
正確な情報伝達・共有を可能とするために
■ 連絡ノート・付箋など伝達手段を決め、全員が活用
する
■ 指示ミス防止・待ち時間短縮のため、看護師や事務職
員は「指示棒」をカルテに挟む
■ 事故防止マニュアルは「原因志向型」の内容とする
■ 問診表や患者アンケート、インシデントレポートなども
正確な情報収集のツールと位置づけ、有効に活用
良質な医療を実践するには、全職種が横断的に
正確な情報を伝達・共有するシステムが必要
院長
遠藤 剛 氏
「『患者さんの命は、職員全員で預かっている』という自
覚が、一番大切です」
えんどうクリニックの院長・遠藤剛氏は、医療者としての
心得をそう明言する。同クリニックの職員は15人
(看護師
良質な医療に職員の伝達力向上は欠かせない
当院は1994 年11月の開院ですが、当初から始業前には
8人、事務職員4 人、厨房担当者 3人)
。始業前の朝礼には
看護師全員と、他の各部署からは最低 2人が出席し、前日
必ず、全職種が出席する朝礼を行っています。
申し送りだけ
の反省や申し送り、
新たな注意喚起、
また院長からのタイム
ではなく前日を反省し、必要な情報を全職員が共有して、
リーな医療情報の提供等が行われる。出席者は、朝礼の
その日の職務に臨む。
それは、
「安心とまごころの医療」を
モットーに、
「納得のいく診療」と「分かり易い医療」を実践
内容を所属部署の全スタッフに伝える。正確な情報伝達・
するという、当院の基本姿勢を日々再確認する場でもあり
共有をもって、
1日の業務が開始される。
ます。
情報の共有ということでは、皆が知恵を出し合い、伝
しかし、
同院は有床診療所である。
交代勤務の看護師も
達力の向上にも努めています。
現在の外来患者数は、
1日平均130人以上ですが、開院当
いる。各部署での伝達とは別に、全職員が閲覧できる連絡
日は19人。
うち10人は親戚でした。開院前の 6 年間、私は
ノート(写真1)に朝礼の内容が簡潔に記載され、その日
竹田綜合病院に勤務していました。心の隅にあった「大病
院に勤務していた」のだからという期待は見事、
初日に崩れ
の申し送り事項等を把握できるようになっている。朝礼に
去ります。
当院を必要としてくれる患者さんを、
ゼロから増や
欠席した看護師の場合は、まず連絡ノートに目を通した上
していかなければいけない、
と痛感したものです。
で、その日の業務開始までの状況変化等を把握する。それ
当院を信頼して受診いただくには、私の目指す医療に対
し、職員全員がベクトルを同じくするための教育と、正確な
は、クリニックでの業務、あるいは患者状態を「連続したも
情報共有のためのスキルアップが最重要課題だと考えまし
のとして正しく伝達する」ためである。
た。
その上で、保険薬局とも協力関係を築き、多職種がお互
朝礼に各部署から最低 2人が出席するのも、部署の他
いの専門性を理解し心を一つにして、自分の家族同様に、
患者に寄り添う。
のスタッフに伝達し、スタッフ全員が正しく情報共有するた
快活な職員に接する患者さんは
「元気をもらえる」
と言っ
めである。
てくれますが、私は職員と患者さんが両輪となって、私の目
指す医療を牽引してくれていることに感謝しています。
一方で遠藤氏は、
「全部署が横断的に指示ミスや伝達ミ
スの防止を支援し合う」ことも必要だと考えている。
12
コミュニケーションエラーの回避術
写真1 連絡ノート
ある日の朝礼風景
朝礼での内容が簡潔に記載されている連絡ノート
(写真左)。朝礼で伝え
たいことは、全スタッフが付箋に記入して指定の場所に貼っておく。朝礼
時には、
その付箋を確認しながら伝達することで、漏れ防止になっている。
【表1】院内事故防止対策マニュアル
◇2001年完成(2000年より作成開始)
「ボートに例えれば、私がコックス(舵手)。当院の看護
師、事務職員、厨房担当者が、一本ずつ持ったオールを全
1)麻酔事故 2)輸液事故 3)注射事故 4)検査事故(付録
「内視鏡の洗浄法」) 5)院内感染(付録「消毒方法、針刺し事故
発生マニュアル」) 6)与薬事故 7)患者誤認
◇2003年完成
員、同じ力で漕ぐイメージです」
コックスの指示で、全員が的確にオールを漕がなけれ
ば、目的遂行は叶わない。安全管理もその範疇にある。
「安全管理で、まず自覚しておくべきは、
『人は必ずミスを
8)転倒・転落事故(付録「転倒・転落予防チェックリスト
(アセス
メントシート)」) 9)放射線事故(「一般撮影」
「胃透視検査」
「下
部消化管撮影」)
◇2005年完成
10)食中毒 11)事務 12)個人情報保護
する』。
『明日は我が身』かもしれないということです。また、
全員でミスを共有する精神が大切です」
遠藤氏は、医療安全面では職員を教育・育成すること
が、第一の重要な使命だという。
院長・看護師が医療事故の可能性を7項目に分類し、
全職員で「院内事故防止対策マニュアル」を作成
1999年に起きた大学病院での手術患者取り違え事件に
鑑み、同院は 2000 年、リスクマネジメント委員会を発足さ
せた。
【表2】
「院内感染」
(院内事故防止対策マニュアル)
トラブル
事故防止対策
・創部の観察(出血、臭い、滲出液、浮腫等)
・創部の洗浄(消毒方法 消毒方法の項を参照)
1. 術後創感染
・術前検査結果の把握(糖尿病の有無等)
(創部治癒遅延) ・栄養状態
・バイタルチェック
・術後の検査結果の把握(MRSAの有無等)
・患者の既往歴の把握
・感染症の有無の把握
・感染症の患者カルテに印をつける
2. 二次感染
●ウイルス感染 ・感染者処置時 手袋着用
・汚染物の適切な処置(消毒方法 消毒方法の項を参照)
●梅毒
・二次感染の可能性がある場合は責任者へ報告
※事故発生マニュアルに準ずる
*1
「有床診療所 として当院を開設して以来、
『病院で起き
ることは診療所でも起きる』と、実感
3. 針刺し事故
していました。患者数も増加の一途
でしたから、当院としての安全管理
・リキャップ時はキャップを手に持たず、片手で
すくい上げる
・点滴静脈内注射施行時は、バットを使用する
・針捨て時、専用容器へ入れ、十分に確認する
・手術時、術者と介助者のタイミングを合わせる
・針刺し時、責任者へ報告
※事故発生マニュアルに準ずる
を標準化する時期だと痛感したの
4. 点滴中の感染
※「2)輸液事故」の6.感染の項に準ずる
です」
同年 7月、遠藤氏と看護師による
カンファレンスで、実際に起こり得る
看護副主任
飯塚 浩美 氏
「ヒヤリハットなど過去のデータから、担当項目に該当す
る有用事例を抽出し、防止対策を具体化しました。それを院
医療事故について話し合われ、7 項目に分類する。
長との数回にわたるカンファレンス、また全職員にフィード
その各項目を看護師が一人ずつ担当し、その後、全職
バックしての検討を経て、
マニュアルに仕上げていきました」
員が参加する形で院内事故防止対策マニュアル(以下、マ
院内感染
(表2)等を担当した看護副主任の飯塚浩美氏
ニュアル)
(表1)を作成した。
は、当時を振り返る。
*1 同院では通常の外来業務の他に、
内視鏡検査および処置、X線検査、局所麻酔や腰椎穿刺下の各種手術、
入院治療も行っている。
■ 医療法人 健心会 えんどうクリニック 13
【表3】
「事務」
(院内事故防止対策マニュアル)
事務
1 利用者本位であること。マニュアルはわかりやすく、親しみやす
いものにする
カルテの出し忘れ、
出し漏れ
2 誰もが実施できる
(ベテランから新人まで)
出し違い
(人違い)、ID ミス
3 時間が短縮される
(点検項目が多くても、無駄な時間が省ける)
会 計
インプットミスで会計を間違っ
てしまう。
また、会計で患者さん
を待たせてしまう
4 精度が向上する(点検方法が同一であれば、精度は向上し均質
化する)
処方された
薬のインプ
ットミス
調剤薬局の疑義照会で未然に
事故を回避できたとしても、イ
ンシデントに値する
カルテ
患者さんの信頼
を損なうミス
紛失
相手を間違えて返却、返却忘れ
保険証
生命への危険性
が高いミス
【表4】マニュアル作成の基本姿勢
今までの事務におけるインシデントレポートは、
「生命への危
険性が高い場合」、または「患者さんの信頼を著しく損なう可
能性のある場合」に出していた。しかし、その一歩手前でイン
シデントレポートを書き、食い止めたい。
レポートを書くことにより、その時のことを思い出し、どうすれ
ば早い段階で食い止めることができるか、改善に結びつける
手段としたい。
5 安全性が担保できる
※「原因志向型」のマニュアルであることも、特性のひとつ。
「何故、起きた
のか」
「どこに問題があったのか」
「どうすれば再発防止できるのか」。全
員で検討をし、必要があればマニュアルの見直し、修正となる。
「基本を守り行動することで、看護業務の事故防止が可
能だと気づきました。ヒヤリハットの多くは、日々の忙しさ、
また仕事への慣れから、手順を省く
(省略エラー)、思い込む(思い込み
エラー)ことで発生していたのです」
【図1】インシデントレポート(例)
2001年に7 項目のマニュアルが完
インシデントレポート(給食用)
成。03 年には、
新たに「転倒・転落事
提出日: 年 月 日
3
2
部署名 給食
患者氏名
氏 名
37 病 名
(男・女)
大腸ポリープ
106号室
◇ 年 月 日 時 分
△
18 2 28 18 00
18 2 28 19 00
◇ 年 月 日 時 分
△
18 2 28 19 00
◇ 年 月 日 時 分
△
18 3 ▽
1 8 00
◇ 年 月 日 時 分
印
年齢
発生場所
発生した日時
発見した日時
処理を開始した時刻
上司に報告した時刻
事故の種類
配膳ミス
事故発生の
経過
ミスに気づかず、いつものように配膳し、患者さんも食札が
自分のものだったため、食事内容に気づかずに食べた。
食事が違っていた事を、ナースが検温時に患者さんとの会話によって発見した。
事故の危険度
生命の危険 □きわめて高い □高い □可能性あり
□低い □ない
患者の信頼 □大きく損なう □少し損なう □影響ない
発生時の
自分の健康状態
(精神的・身体的)
事故原因の
考察
良好だったと思われる
・休み明けだったため、患者さんを把握できていなかった
・病名・食種が記載されているボードの見間違い
今後の対応策
ボードの見間違いのないように二重に確認する
その後の患者
の反応
特に問題にされてはいない
故」
「放射線事故」が、05 年には「食
中毒」
「事務(表 3)
」
「個人情報保護」
看護師
鈴木 弘美 氏
が追加され、現在は12 項目をベースに、安全管理の徹底
が図られている。
ヒヤリハットが起きると、インシデントレポート(図1)を
ベースに対策を検討、
マニュアル見直しにも生かしている。
事務も厨房も有機的な患者支援をするために
部署内だけでなく診療所業務の全体像を把握
遠藤氏にとって、
マニュアル作成の基本姿勢は5つ(表4)。
「実効性があるのは当然です。
だからこそ、
誰もが実践で
きて成果が上げられるものを目指しました」
診療と同様、安全管理もレベルアップは当然であり、そ
のための研鑽は組織として積む必要がある。しかしスター
トは、
誰もが納得して取り組めるものでなければならない。
「担当看護師が整理したものについて、院長と質疑応答
「マニュアル作成は安全管理を標準化するだけの作業
を繰り返します。必要に応じ外部研修にも参加させてもら
ではありませんでした。私の医療に対する姿勢、そして当
いましたが、院内では気づかなかった視点や新たな情報な
院の全職種による有機的な連携の重要性を、関係者全員
どをスタッフと共有して、
マニュアルにも反映させました」
で再確認する作業にもなりました」
作成を通し、全職員が各項目における医療安全の基本
有機的な連携は、役割分担のみを意味しない。構成メン
を再確認できたという。看護師の場合は、
「看護基準」や
バーが同様に全体像を把握していなければならない。
それ
「看護手順」を各人が再確認をする機会にもなっている。
14
は診療所の全体像であり、
各部署の全体像である。
それは、輸液等のマニュアルを担当した看護師の鈴木弘
「事務の場合、
『受付』から『会計』までの業務をローテー
美氏も同様だった。
ションで担当します。
全員が、
同様にこなせるためです」
コミュニケーションエラーの回避術
&DVH6WXG\5HSRUW
囲み1 医薬連携における伝達力
そのためには、院長からの指示等
「必要な情報はどんな
クリニックとは忌憚のない迅速な質疑応答で
コミュニケーションエラー防止に努めています
些細なものでも全員に伝える」ことが基本となる、と事務主
開局して12 年目ですが、先生とは
任の小沼貞子氏は説明する。
当初、幾度となく診療姿勢や薬局像
「例えば当院は院外処方ですので、保険薬局(囲み1)か
らの疑義照会も、受けた人間がその内容を他の事務職員
等、徹底的に話し合いました。
そのお
陰で、お互いを理解した医薬連携が
可能になったと思います。
に伝えます。自分のミスや院長から
薬剤師は処方箋から患者情報を
の注意、患者さんについて気づいた
読み取るのですが、併せて先生の治
ことも情報共有します。必要があれ
じ視点で個々の患者支援ができるよ
ば他の職種にも伝えます」
うにと心がけています。当然、疑義照
療方針を読み、できるだけ先生と同
の給食担当が異なるため、磯川氏が
田中 政俊 氏
会等、
疑問や確認は迅速に連絡をしてクリアにします。
栄養士の磯川文子氏は、厨房も同
様だという。厨房では、午前と午後
みずき薬局
店長
管理薬剤師
また、先生に治療方針を確認した場合などは、当局のス
事務主任
小沼 貞子 氏
タッフ全員に伝達し、
意思統一を図ります。
先生が常に言われることでもありますが、
「疑問は後に回
すな」を当局のスタッフにも徹底しています。直後の患者さ
厨房としての情報共有を統括する。
んの処方箋にも同様の疑問が生じる場合があるからです。
クリニックの内外に関わらず、患者本位の医療を質高く実
「連絡事項は、その場でメモをと
践するには、関係職種での正確な情報共有が欠かせませ
り、伝えたい相手が必ず見る場所に
ん。それは地域医療の充実を図る上でも重要です。前提と
貼ります」
なるのは伝達力。疑問の迅速なクリアも伝達力にかかって
います。
それはロッカールームの扉、タイム
カードあるいは献立表(写真 2)等で
当局の伝達力向上を図るだけでなく、スタッフが
「患者に
栄養士
磯川 文子 氏
ある。連絡事項がないかの確認は当然だが、連絡漏れを
防ぐ意味で「必ず見る場所」に貼っている。
寄り添う医療者」の心を学ぶ上でも、忌憚のない質疑応答
をさせていただけるクリニック、
先生には感謝しています。
写真2 献立表に貼った注意喚起の付箋
「確認ということでは、例えば食事伝票の記載が間違っ
ていると思っても、勝手に修正はしません。必ず、記載した
本人に確認をし、
ミス防止に努めます」
「間違っている」と思ったことが自分の「勘違い」や、自分
に伝わっていない「伝達ミス」の可能性もあるからだ。
「ダブルチェックの意味からも、勝手な判断はしません」
指示漏れミス防止に威力を発揮する
「指示棒」、
カルテの職員記入欄は院長等への伝達に効果
写真3 指示棒
確認、ダブルチェック、そして的確な伝達、正しい情報
の共有ということでは、カルテに挟みこむ「指示棒」
(写真
3)も活躍している。指示棒は、5cm×30cmほどの薄いプ
レートで、例えば「急ぎたい人」
「外傷」
「熱が高い」や「経鼻
「採血GTF」
「CF」といった検査名など、事務職員
GTF*2」
と看護師がそれぞれ必要な指示棒をカルテに挟んで伝達
をする。
「受付時に、患者さんが何を目的に来られたかが分かれ
ば、待ち時間の間にできることは済ませるようにします」
指示棒は項目ごとに色分けされている。看護師の使用する指示棒
の場合、「胃カメラ」(青 )、「大腸検査」(黄 )など。
「レントゲン」は、
特に検査を間違ってはいけないので蛍光色の緑、痔の治療の場合
は、
「ヘモ*」の文字の書かれたピンクの指示棒となっている。
職員への注意喚起、指示ミス防止だけでなく、他の患者に知られたく
ないような項目では、口頭指示をしなくて済む配慮にもなっている。
*hemorrhoidsの略記
*2 GTF: gastrocamera with fiberscope、
CF : colonofiberscope
■ 医療法人 健心会 えんどうクリニック 15
写真3 外来用カルテの工夫
職員記入欄
「院長はよく『木を見て森を見ず』とならないように、
『全
体をみるように』と言います。事務でいえば、待合室全体に
※職員記入欄への記入者は、必ず押印する。同様に処置や看護、検査予約を
した者も押印する。責任の所在を明確にするためと、ミス防止の意識づけの
ため、情報の発信源を明確にするためである。そのため、職員の胸ポケットに
は必ず印鑑が入っている。
また、カルテに記載するだけでなく、同様の内容を付箋に記入して同欄に貼っ
ておくこともある。継続して記載内容に対する注意が必要な場合など、新しい
カルテになっても、その付箋を移動させることで、対処の継続ができる。その
場合も、新しいカルテにも記入され、漏れのないようにする。
※治療や検査予約後に一旦、カルテを手元に戻して欲しい職員(例えば看護
師や事務職員)は、
カルテの表紙にその旨と名前を記した付箋を貼っておく。
予約や記入もれの再確認、確認したいことがあるなどの理由からだが、付箋を
貼っておけば会計が終わったあとでも必ずその職員の手元に戻ることになる。
これも、
ミスなく医療行為を終えるための伝達力である。
目配り気配りをしていれば、長く待たせている患者さんに
も当然気づくからです」
小沼氏は、そうして気づいたことも職員が情報共有し、
改善に結びつけることで、同院としての標準化、レベルアッ
プが図られているという。カルテにも、患者を思いやる「気
づき」から生まれた職員記入欄(写真 3)がある。
「カルテの『既往症・原因・重要症状・経過等』
『処方・手術・
処置等』は院長が記入しますが、その間の空欄には、全職
員が患者情報として伝えたい連絡事項を書き込みます」
囲み2 問診表の工夫と配慮
飯塚氏は、患者の訴えや受付時の「気づき」、あるいは
新患問診表は14 問で緑の紙。胃腸系は15 問でオレンジ色の
紙。直腸・肛門に関連した問診表は、患者への配慮から「新患
「実は数日前に他院を受診していた」など、院長に伝えたい
質問表」となっている。質問は 20 問、黄色の紙。
ことを記入するという。
その他にも検査用の問診表など色別に一目で判断出来る仕様
また、日に100人以上を診療する同院ではあるが、問診
となっている。
また問診項目の細分化について、遠藤氏は、
「細かな問診で、約
表の質問項目は多い(囲み2)。それは患者だけでなく、
「私
7 割の疾患は見当がつく」と、その重要性を強調する。
たちのため」でもあると鈴木氏は言う。
「外来の初診時だけでなく、検査前や入院時にも、感染
小沼氏は、指示棒が患者の待ち時間短縮にも威力を発
症やアレルギー、症状などを詳しく聴き取り、記入するよう
揮しているという。
こんな事例もある。
になっています。詳しい情報の伝達は、感染防止や麻酔で
「点滴後会計」の指示棒が挟まったカルテが会計に回っ
のリスク回避の一助となるなど、結果として的確な診療を
てきた。入職して間もない事務職員は、その患者の顔を覚
サポートできるからです」
えていない。そのため、点滴が終了したにもかかわらず会
的確な診療に欠かせない地域連携ということでは、保
計を長く待たせてしまった。
険薬局に対しても配慮がなされている。
その反省に立ち、点滴時、点滴バッグと一緒に「点滴後
「例えば『授乳中』
『妊娠何ヵ月』
『○○は禁』
『△△の薬
会計」の札と点滴中の患者の名札を点滴スタンドにかける
で吐気あり』など、個人情報には細心の注意を払って、処方
ようにする。点滴が終了すれば、2 枚の札が会計に回る。事
箋に消せる鉛筆書きや付箋を使って伝達します」
務職員は「名札を見たら名前を呼ぶ」ことで、スムーズに会
小沼氏は、スペシャリストとしての薬剤師の判断を仰ぐ
計を促すことができるようになった。
意味でも、
情報提供は欠かせないという。
【表5】合同カンファレンス(院内勉強会としての実施例)
●テーマ:医療スタッフのための職場のコミュニケーションづくり
●実施日:2011年
10/7
1. コミュニケーションの概念
2. 患者さんが医療機関に求めるもの
10/20 3. 医療機関での情報の流れ
4. 医療機関の組織の特性
11/4
16
コミュニケーションエラーの回避術
5. 医療機関のメンバーの特性
6. 縦割り組織の特性
11/11
12/9
7. 個々人の能力について
8. 職員も顧客として考える
9. 職員同士の情報交換
10. 患者さんの目線で情報の流れをチェック
12/16 11. 患者さんの都合は、病院の不都合
12. まとめ
&DVH6WXG\5HSRUW
【表6】アンケート項目(入院患者 ※匿名)
❶ 談話室のご利用にあたって設置してほしいものは?
*例えば(雑誌・新聞など)
囲み3 健康セミナー
月1回、木 曜日の18 時
30 分から開かれる。開院
時 か ら782 回 を 数 える。
❷ 職員、看護師等の対応はいかがだったでしょうか?
出席者は平均20 ∼25人。
大変良かった ・ 普通 ・ 悪かった
お気づきの点をお聞かせ下さい
無料。
「 患者さんは、相談
❸ 医師の対応はいかがだったでしょうか?
お気づきの点をお聞かせ下さい
あっても、我慢している方
❹ 健康セミナーについての感想・ご意見をお聞かせ下さい
た、他の患者さんに知られたくない」といったことも理由と説
したいことや質問などが
がいらっしゃいます」とい
う遠藤氏は、一方で「看護師や事務職員に聞かれたくない。ま
❺ 食事の味付けはどうだったでしょうか?
しょっぱい ちょうど良い うす味
❻ 食事の量はどうだったでしょうか?
多い ちょうど良い 少ない
明する。
「私は、そうした様子を察知するように努め、
『外来で言えな
いことがあれば、健康相談で個別に話を聞きます。何でも相談
してください』と、
伝えます」
健康相談では、前半はテーマを決めて参加者に情報提供す
る。後半は、
相談者と1対 1で話をする。
❼ 当クリニックのメニューで美味しかった物は?
遠藤氏は、
「胃の具合の悪い理由は、実は嫁姑関係にあった」
と分かることもあると、傾聴の大切さを指摘する。一方で、
「最
❽ 食事についてお気づきの点がありましたらお聞かせ下さい
❾ その他、当クリニックについて良かったこと、改善点がありまし
たらご記入下さい。お気づきの点をお聞かせ下さい
その御意見を参考に、より良いクリニックにしてゆきたいと
思います
善の治療を行うためには、先端医療を勉強し、病診・診診連携
も含めて治療に生かすスキルアップが必要ですが、加えて患者
さんの機嫌、顔つき、歩き方などから状態を推察し、何の目的
で受診したかを即時に的確に判断することも臨床ではとても
大切なことだと思っています」。
「患者像の共有、その上での的確な服薬指導。保健薬局
分も日によって異なるでしょう。
全員がそういったことにも配
では、処方箋が唯一の情報源ですから、できるだけ補足的
慮し、全体をみながら個々人と向き合うことで、初めて最新
な情報提供も怠らないようにしています」
で正確な把握ができ、
伝達すべき情報となるのです」
従って同院では、インシデントレポート同様、患者アン
正確な情報伝達・共有は、日々の変化を感受し
改善を図る組織風土があって初めて可能となる
ケート(表 6)や健康セミナー(囲み 3)も、正確な情報収
同院では、院長からの口頭指示の際、受ける側は必ずメ
的確に伝えるのが伝達力。その上で成り立つ、質の高い安
モをし、
復唱する。
疑問・質問があれば、
その場で聞き、
先の
心とまごころのチーム医療を、
同院は提供している。
集に欠かせない要素となっている。正確で、必要な情報を
ばしにしない。
「多忙であれば、指示・伝達を忘れることもあります。そ
れを防止するには、伝達手段を明確にし、全員で実践する
しかありません」
それは遠藤氏にとって「院内事故防止対策マニュアル」
といった文章化されたことの実践だけを意味しない。
「メ
モにして伝達をする」、
「全員で情報を共有する」、あるいは
「合同カンファレンスで解決策を探る、レベルアップを図る
(表 5)」といった、同院としての一貫した取り組み姿勢を
風土として育成していくことも意味している。
しかし、取り組みは決して杓子定規になってはいけな
い、
と念を押す。
「すべては日々変化します。患者さんや職員の体調や気
クリニック基本データ
■名称/医療法人健心会 えんどうクリニック ■所在地/福島県会津若松市
一箕町亀賀藤原417-3 ■開院/1994年11月 ■病床数/10床 ■診療科目
/外科、肛門科、胃腸科、内科
■ 医療法人 健心会 えんどうクリニック 17
療者 道
の
トップの 視 点
7 R S , Q W H U Y L H Z 第
6回
「生活自立障害の高齢者を支援する」
過疎の町から、都市でも実践が必要な
“地域医療”のダイナミズムを伝えたい
大学の医局から1年間派遣された日南病院は、高齢化した過疎の町に
あった。そこで高見氏は高齢社会における、より良い地域医療への先
鞭ともいえるチャレンジを目の当たりにする。やがて、いずれは都市で
も必要となる生活自立障害の高齢者を支援する方策を、同院の取り組
みから学ぼうと決意する。それは来るべき超高齢社会で、いずれの地
域においても求められるコミュニティ創出の実践でもあった。
日南町国民健康保険 日南病院(鳥取県・日野郡)
院長
36歳のときに大学の医局から派遣された病院で
高齢社会に必要な地域医療・ケアの実際を知る
高見 徹 氏
Tohru Takami
支えていけるのだろうか、
と考えるようになっていた。
「超高齢社会の日本の医療はどうあるべきか。日本に、
「医師になろうと決めたのは、郷里へ戻ることになったか
そのような医療を学べる地域はあるのだろうか。将来の医
らです」
療環境に対する不安と同時に、
医療者として今、
出来ること
高見氏が東京大学医学部の保健学科に在籍していたと
は何かを考えていました」
きのこと、
30 歳の兄がくも膜下出血で他界。厚生省(現・厚
1985 年、高見氏は 36 歳のとき、鳥取大学の医局から日
生労働省)所管の国立公害研究所(現・国立環境研究所)
南病院へ1年間の派遣となる。そこには運命の出会いが
に就職が決まっていたのだが、家庭の事情から郷里に帰
待っていた。
る決心をする。
郷里での就職を考えたとき、高見氏を動かしたのは亡き
兄への思いであった。
「郷里に戻るのであれば、医師になっ
18
病棟に向かう感覚で実践される訪問診療を見て
在宅療養患者を支える出向く医療が重要と実感
て戻りたい」と、鳥取大学医学部を受験。
「運よく合格した」
当時の日南病院は、県の指導による「診療所への規模
と謙遜するが、専攻は内科で循環器疾患を選択している。
縮小」
を回避し、
日南町唯一の病院として、
高齢化した過疎
「主に高血圧関連の疾患を研究していました」
の地域に望まれる医療提供体制の構築をスタートさせた
東大時代には、厚生省所管の人口問題研究所などでの
時期だった
(囲み1)
。
実習を通じ、日本における将来の人口動態などにも関心を
「当時の職員はすでに、
『町の道路は病院の廊下、各家庭
強めていた。
は病院のベッド』
を合言葉にしていました」
「世界に先駆けて体験することになる超高齢社会。高齢
町全体を同院の対象エリアとした地域包括医療・ケア
者が安心して暮らせるために、日本はどのようなコミュニ
の実践ということで、職員はベクトルを同じくしていたので
ティを構築していくのだろう、
と思いを馳せたものです」
ある。同院の取り組みに対し、超高齢社会での医療の在り
医療者を目指してからも、
その思いは変わらなかった。
そ
様、都市でも有用な高齢者支援体制を学ぶことができる
れどころか何らかの疾患を抱える多くの高齢者を、日本は
と直感した高見氏は1年後、
「必ず戻ってきます」と当時の
コミュニケーションエラーの回避術
院長・安東良博氏に約束をし、
大学へと戻っている。
1993 年、高見氏は安東氏の招聘に応じる形で鳥取大
表1 超高齢社会の医療分類
高度先進医療
検査・診断・治療に高度の技術を要する医療
一般医療
一般的な病気の診断・治療をする医療
先進地域医療
生活自立障害の高齢者を地域で支える医療
学の医局を辞し、同院の副院長に就任する。町は以前と大
きく変化していた。
かつての町は、
「家では看られないから、
病院に入院させて欲しい」という風土だった。
それが「困っ
たときは病院が面倒をみてくれるのだから、家で看ますよ」
という、
住民と同院に信頼と連帯の意識が育っていた。
「その変化に、今日では院是にしている
『町は大きなホス
ピタル』なのだと実感したものです」
【囲み1】
◉日南病院の再生
在宅療養であっても、医療者は病棟のベッドに向かう感
覚なのだ。それは「ホスピタル」の枠を超え、患者・家族、そ
して保健・福祉関係者、さらには町の行政が一体となった、
コミュニティとしてのあるべき高齢者支援体制を展望する
1981年、日南病院は常勤医の確保が難しい危機的状 態
だった。その同院に鳥取県から、自治医科大学一期生の梶井
英治氏 * が派遣される。当時の院長は入院中だったので、常勤
医は副院長と梶井氏のみ。梶井氏は初日、院内を案内されて
いたとき、
「患者の容体がおかしい」
との看護師の訴えで、スー
ツ姿のまま診療をする。以来、梶井氏は内科医の専門にこだ
端緒でもあったという。
わらず、検査から麻酔、手術、また軽度のけがの処置もする。
「生活自立障害の高齢者をコミュニティとして支援する
やがて
「外科医のような内科医」
「日南病院で検査をすれば治
『先進地域医療(表1)
』といえるものが、
『高度先進医療』
してくれる」と評判になり、患者が増え、診療所への規模縮小
『一般医療』と同様に充実し、住民を包み込み、支えるトラ
の話は消えた。
82 年、鳥取県の健康増進施設の所長だった安東良博氏 **
イアングルな関係が形成されなければ、安心して地域で暮
が町長等の説得に応じ、院長に就任する。
らせる超高齢社会にはならないだろうと予見しました」
安東氏には糖尿病の研究者になる夢があった。しかし、同
院に隣接する町の保健センター所長も兼任するという条件に
超高齢社会を支える新たなコミュニティ創出へ
地域力向上に向けたアドバイスが今後の使命
日南町は中国山地のほぼ中央に位置する。面積は約
340 平方㎞だが、約 90%は山林で、地形は大きく3 つの谷
*1
*1
に分かれている。人口は 5,282人 、世帯数 2,055 、高齢
化率 46.9%*1.2。同院以外に、同町には 2 医科診療所、1歯
心を動かしている。予防から健康づくり、治療までのトータル
な視点で患者・家族、
地域 (日南町 )と向き合っていくという同
院のスタンスは、安東氏の院長就任時にその萌芽をみたのだ
ろう。
当時 50 床(一般病床)のベッドは、長期入院患者が多く
を占めていた。安東氏は手始めに「来院あるいは入院のでき
ない日南町の在宅患者」の実態把握を、保健師を中心として
実施する。
83 年には実態に即した訪問診療を開始。
84 年には訪問看
護がスタートする。
科診療所があるが、いずれも医師が高齢となっている。
訪問診療を開始して間もない頃、安東氏は
「先生に診ても
「当院は一般病床 59 床、療養病床40 床
(31床は介護型)
らいたくない」という女性患者と出会う。理由は、
「長く風呂
ですが、その他に院外病床としての位置付けで、在宅で寝
に入っていないので、先生に申し訳ない」というものだった。
入浴などの公的な福祉サービスがない時代である。安東氏
たきり高齢者が 70人、また ADL の低下で通院ができない
はまず、在宅患者に風呂に入ってもらおうと、看護師等とも協
高齢者が 70人。常時、140人の在宅療養患者を看る体制を
力し、折りたたみ式の簡易浴槽を携え、寝たきり高齢者宅を
回っている。やがて親身な訪問診療・看護は、安心して在宅療
整備しています」
養ができると、日南病院での長期入院患者の減少を促すこと
その上で、訪問診療は年間約 2,000 件、訪問看護は年
*3
間約1,500 件の実 績を有している 。移動距離は1日で
100kmを超えることもあるが、結果として平均在院日数は
2010 年度、
10.5日*4 となっている。
「生活自立障害の高齢 者を地域で支えることを目的
になる。
85 年、高見氏の同院への派遣は、そんな在宅療養患者の
ニーズに応える同院の、新たな地域医療へのチャレンジが開
始されて間もない頃のことだった。
* 現・自治医科大学地域医療学教授、同大学地域医療学センター長
** 日南病院は 2005 年、地方公営企業法全部適用となり、安東氏は事業管理
者に就任、現在に至る
とした、先進地域医療の提供体制を整え実践する。その
*1 2011.10.1現在
(鳥取県年齢別推計人口)
*2 2011.10.1現在。
日本の全国平均は 23.3%
(総務省「人口推計」
)
*3 日南町病院事業改革プラン∼「町は大きなホスピタル」
促進計画書∼(2009 年 3 月 日南町)
医療者の道・トップの視点
19
【囲み2】
◉先進地域医療の3 段階
地域医療は、第1 ∼ 3 段階を連続させ繰り返し実践すること
で、状況変化に対応し、またコミュニティとしての充実を図っ
ていくことができる。
第 1段階 地域の実情を把握
・
「何処で誰が、
どのように暮らしているか」を把握する
・保健・医療・介護・福祉のハードとソフトを把握する
・情報は、
地域包括支援センターに集める
・保健・医療・介護・福祉の関係者が情報を共有して地域づく
りの核になる
・第1段階は、現在のコミュニティの在り様をしっかり把握す
ることが重要
・早い段階から、
行政との連携を図っていく
※日南町では、保健師が中心的な役割を果たした
第 2 段階 ニーズに応える実践
・第1段階を受けて、保健・医療・介護・福祉の関係者、行政が
連携し、
行動を起こす
・どの様な行動を起こさなければならないかは、第 1段階が
しっかりできていれば、地域が教えてくれる
※百の地域があれば、百通りの地域医療があると考える
のは、
この段階でのこと
第 3 段階 新たなコミュニティの形成
・ 第 2 段階での実践を通し、住民の理解と協力を得ることが
できれば、自ずと地域にコミュニティとしての変化が現れる
・ 住民、保健・医療・介護・福祉の関係者、行政の連携がで
きあがる。行政のトップには、継続して地域づくりの先頭に
立ってもらう
※日南病院では町三役と「地域づくり」について月1回、意
見交換をし、総力戦のできる体制が完成・維持されて
いる
療養病棟における日常生活支援風景
しかし、それは日南町だけの成果であってはならないと
高見氏は強調する。
「
『百の地域があれば、それぞれの特性を考慮した百通
りの地域づくりがある』という認識を持っていると、よその
『地域づくり』をケーススタディすることは難しいでしょう。
しかし、何処であろうと日南町と同様に『地域として総力戦
を戦う』ことができるのだ、というアドバイスを発信してい
く必要があると考えています。
近い将来、都市においても地
域力の向上、
コミュニティの再構築が必要となるでしょう」
高齢化率46.9%の日南町の包括的医療・ケアから
先進地域医療のタイナミズムを理解して欲しい
日本の高齢化率の推計では、2055 年に40.5%となって
いる。高齢者1人を支える生産年齢人口は、15 年で 2.3人、
25 年で 2.0人。
55 年だと1.3人の推計となる*6。支えきれる
ものではない。
しかし、
日南町の高齢化率は、
日本の平均よ
りもはるか高値を示している。
副院長に就任当時、高見氏が見据えたのは日本の30 年
実践には医療だけでなく保健・福祉の関係者、地域住民、
先、50 年先の姿ともいえる高齢化率の高い同町にあって、
そして行政のトップが、そのための『地域力』向上というベ
生活自立障害の高齢者を地域で支えられるかということ
クトルを同じくする必要があります」
であった。
つまり、地域を挙げて取り組まなければ地域力の向上は
1997年、同院の院長に就任した高見氏は、前院長の意
叶わないと断言する。それは、超高齢社会を支える新たな
思を継承し、
強力に先進地域医療の充実に邁進する。
コミュニティ創出への総力戦でもあるのだという。
そして現在、同町においては生活自立障害の高齢者を
その覚悟は、町内の 65 歳以上の実数が減少に転じ、過
支えるために今後「やるべきことも大方は見えている」とい
疎化に拍車のかかる懸念のあった 2003 年、同町が単独
う。課題は高見氏の意思を継承する後継者、また同町のコ
*5
町政を決断した ことにも表れているのではないだろう
ミュニティを担う次世代が育ってくれること。加えて、先進
か。高見氏等の尽力で包括医療・ケアの体制充実、新たな
地域医療のダイナミズム(囲み2)を、いかに分かりやすく
コミュニティ創出に向け、地域として総力戦を戦おうとする
説明し、他の地域にも理解してもらうか。各地域での先進
風土が醸成されていたことが、単独町政選択の誘因にも
地域医療の実践に結びつけてもらうか、
だという。
なっているように思われる。
実践には連続する3 段階のステップを踏む必要がある、
*4 日南病院
「年報(2010 年度)」 *5 日南町過疎地域自立促進計画
(計画機関 :2010.4.1 ∼ 2016.3.31 日南町)
*6 高齢社会白書(2011年版 内閣府)
20
コミュニケーションエラーの回避術
表2 ◉日南病院の使命
と高見氏は考えている。
「まずは、何処に誰がどのように生活をしているかを把
握する(第 1段階)。次に、その人たち個々のニーズに対し、
どのようなアクションを起こせば、その人たちが安住でき
るかの具体化を検討し、行動する(第 2 段階)。そして、アク
ションを継続することで、求められるコミュニティづくりを
●住民と一緒になって育成し、支えてきたコミュニティを守り
続ける
●コミュニティづくりをする医療(先進地域医療)を、今後の高
齢化する都市に伝える
●経験を活かして、今後高齢化する近隣の都市をバックアップ
する
●医師、研修医、保健師、医学生、看護学生などの教育を通し
て、都市のコミュニティ医療を担う人材を少しでも多く育成
する
促していく(第 3 段階)」
生活自立障害の高齢者の現状把握ができれば
ニーズが見え、優先すべきアクションが決まる
た同院。
その実践で得たものをいかに他の地域で生かして
同町と都市とでは当然、住民のニーズも異なってくる。例
「例えば
『都市におけるコミュニティづくりは難しい』と
えば、同町と同じ面積を有する福岡市は人口148 万人強。
いった声をよく耳にします。そうかもしれません。しかし問
日南町での住民のニーズに応えるアクションとは内容が異
題は
『難しいか難しくないか』ではなく、
『やるのかやらない
なって当然だろう。人口の規模からすれば、8,000 ∼ 1万人
のか』だと思います。
私たちは、そのための啓発・支援を惜
程度のエリアに分割してのアクションが妥当かもしれない。
しまず、
やっていかなければならないと自覚しています」
しかし、それはあくまでステップの第 2 段階での話。先進
「凛」の文字は高見氏だけでなく、同院スタッフ全員の責
地域医療は「第 1 ∼ 3 段階が連続し繰り返されることで、
務に対する心根、
「日南病院の使命」
(表 2)遂行への覚悟
充実が図られる」ことを理解する必要があるという。
を表しているのだろう。
もらうか。
「どの地域にあっても、第 1段階の現状把握がしっかり
とできれば、おのずとニーズが見えてきます。現状把握の情
報は、例えば地域包括支援センターなどに集約し、関係職
種が役割分担したアクションを具体化します。最終的には
住民も含め、地域全体の理解と協力を得ていくというプロ
セスを重ねる中で、自治体が先進地域医療の充実に向け
た地域力の醸成を促していくことです」
日南町でも地域力の醸成で最初の変化がみられるまで
には、高見氏が 1年間の派遣で同院に勤務した当時から、
副院長として同院に戻るまでの約 8 年を要していた。
「都市であれば、
もっと時間はかかるでしょう」
しかし地域力の向上は、第 1 ∼ 3 段階の連続・繰り返し
を忍耐強く志向し、醸成し続けるしかないという。
都市における対策が急がれる。高見氏は、
「リタイアすれ
ば、のんびりと土いじりでもして暮らしたい」
と笑ったが、優
8ZWNQTM
先するのは「先進地域医療のダイナミズムを都市に伝え、
1949 年 鳥取県西伯郡大山町(旧中山町)生まれ。1976 年 東京大学医学部保健学科卒、
1982 年 鳥取大学医学部医学科卒、同年 鳥取大学医学部第 1 内科入局。同助手を経て
1993 年 日南病院副院長。1997 年より現職。日南町保健センター長、鳥取県西部医師会
理事、全国国民健康保険診療施設協議会 副会長。
一日でも早い実践を促すこと」だと明言した。
今年 4月に病院として50 周年を迎えた同院の入口には
「凛」の墨書が飾られている。超高齢社会を迎える日本に
求められる先進地域医療、
コミュニティづくりを実践してき
高見 徹(たかみ・とおる)
日南町国民健康保険 日南病院●基本データ
○所在地:鳥取県日野郡日南町生山 511-7 ○病床数:一般病床 59 床 療養病床
40 床(うち介護型31床、
医療型 9 床) ○診療科目:内科、小児科、外科、整形外科、
眼科、
耳鼻咽喉科
医療者の道・トップの視点
21
「TEAM APPROACH」特集テーマ一覧
本誌は、良質な医療の提供に欠かせない環境整備をテーマとしています。貴院における、より良質な
医療提供の、お役に立てれば幸いです。
No.
特集テーマ
1
安全管理の実態
2
病院の評価を高める
3
08診療報酬改定後のサバイバルプラン
4
元気な病院 「職員満足度」で差がつく、これからの病院経営。
5
病院を変える 「QCサークル活動」を病院改革に生かす
6
CSの視点 「患者満足」を医療経営に生かす
7
患者と医療者のための コンフリクト マネジメント
8
9
10
11
12
「院内暴力」への対応 円滑な医療提供の実現をめざして
医療従事者のメンタルヘルスケア 良質な医療提供を確かなものにするために
患者の安心を育む「医療安全」
第五次医療法改正の実践
「リスク感性」を磨く 医療現場でのKYT活用術
病医院の質を高める 「医療者の接遇力」
13
「医療安全」の工夫 「患者・家族はパートナー」の実践に学ぶ
14
モチベーション・アップ術 医療機関活性を担うスタッフ力
15
在宅療養を支援する 地域に根ざした医療機関の使命とは
16
開放型病床の活用術 患者のトータルケアを可能にする病診連携
17
コ・メディカルパワー 薬剤師の専門性を活かす
18
患者に寄り添うチームケア 認知症が疑われるケースの対応術
冊子を希望される方は、弊社医薬情報担当者にお申し付けください。
22 「TEAM APPROACH」
特集テーマ一覧
SBAR(エスバー)カード
※貴院にお ける「伝達力の向上」にお役立てください。
甲府共立病院(P.6 参照)で実際に活用されている「SBARカード」は、職員間の「正確な報告」、
結果としての「指示ミス防止」という、コミュニケーションエラーの回避に成果を上げています。
【使い方】
報告は、最低限必要な内容を4つの要素に整理し、
順を追って伝達します。
①状況(S:Situation:シチュエーション)
②背景(B:Background:バックグラウンド)
③評価(A:Assessment:アセスメント)
④提案(R:Request:リクエスト)
切り取り線
SBAR(エスバー) ∼シンプル 効果的に報告∼
①状況(S:Situation)…… ◆患者に何が起きているか!?
SBAR(エスバー) ∼シンプル 効果的に報告∼
①状況(S:Situation)…… ◆患者に何が起きているか!?
切
※り取って、あるいはコピーをしてご活用ください。︵一部改編︶
例)
(部署名) の (自分の名前) です。
例)
(部署名) の (自分の名前) です。
患者さんのお名前は です。 才 (性別) です。
患者さんのお名前は です。 才 (性別) です。
患者さんが の状態なのでコールしました(不眠・不穏など懸念を伝える)。
患者さんが の状態なのでコールしました(不眠・不穏など懸念を伝える)。
②背景(B:Background)…… ◆患者の臨床的な背景・状況は何か!
②背景(B:Background)…… ◆患者の臨床的な背景・状況は何か!
例) さんの入院(来院)の目的は (知っている範囲で簡潔に) です。
例) さんの入院(来院)の目的は (知っている範囲で簡潔に) です。
呼吸・循環・意識レベル・症状・外見(ぱっと見た感じ)等の異常所見を伝える。
呼吸・循環・意識レベル・症状・外見(ぱっと見た感じ)等の異常所見を伝える。
血圧は 。脈拍は 。呼吸は 。体温は です。
血圧は 。脈拍は 。呼吸は 。体温は です。
☝異常所見に関連したバイタルサインのみ伝える。必要なければ省略可。
☝異常所見に関連したバイタルサインのみ伝える。必要なければ省略可。
③評価(A:Assessment)…… ◆私が考える問題は何か!
③評価(A:Assessment)…… ◆私が考える問題は何か!
例)とりあえず結論を伝える。
例)とりあえず結論を伝える。
私は、 の恐れ、疑いがあると思います(心臓・呼吸・感染・中枢)
私は、 の恐れ、疑いがあると思います(心臓・呼吸・感染・中枢)
原因はよくわかりませんが、 と心配です。
④提案(R:Request)…… ◆私の提案はこれ!
例)
「薬を出して下さい」
「すぐに診察して下さい」
「後でよいので診て下さい」など。
SBAR(エスバー) ∼シンプル 効果的に報告∼
①状況(S:Situation)…… ◆患者に何が起きているか!?
原因はよくわかりませんが、 と心配です。
④提案(R:Request)…… ◆私の提案はこれ!
例)
「薬を出して下さい」
「すぐに診察して下さい」
「後でよいので診て下さい」など。
SBAR(エスバー) ∼シンプル 効果的に報告∼
①状況(S:Situation)…… ◆患者に何が起きているか!?
例)
(部署名) の (自分の名前) です。
例)
(部署名) の (自分の名前) です。
患者さんのお名前は です。 才 (性別) です。
患者さんのお名前は です。 才 (性別) です。
患者さんが の状態なのでコールしました(不眠・不穏など懸念を伝える)。
患者さんが の状態なのでコールしました(不眠・不穏など懸念を伝える)。
②背景(B:Background)…… ◆患者の臨床的な背景・状況は何か!
②背景(B:Background)…… ◆患者の臨床的な背景・状況は何か!
例) さんの入院(来院)の目的は (知っている範囲で簡潔に) です。
例) さんの入院(来院)の目的は (知っている範囲で簡潔に) です。
呼吸・循環・意識レベル・症状・外見(ぱっと見た感じ)等の異常所見を伝える。
呼吸・循環・意識レベル・症状・外見(ぱっと見た感じ)等の異常所見を伝える。
血圧は 。脈拍は 。呼吸は 。体温は です。
血圧は 。脈拍は 。呼吸は 。体温は です。
☝異常所見に関連したバイタルサインのみ伝える。必要なければ省略可。
☝異常所見に関連したバイタルサインのみ伝える。必要なければ省略可。
③評価(A:Assessment)…… ◆私が考える問題は何か!
③評価(A:Assessment)…… ◆私が考える問題は何か!
例)とりあえず結論を伝える。
例)とりあえず結論を伝える。
私は、 の恐れ、疑いがあると思います(心臓・呼吸・感染・中枢)
私は、 の恐れ、疑いがあると思います(心臓・呼吸・感染・中枢)
原因はよくわかりませんが、 と心配です。
④提案(R:Request)…… ◆私の提案はこれ!
例)
「薬を出して下さい」
「すぐに診察して下さい」
「後でよいので診て下さい」など。
SBAR(エスバー) ∼シンプル 効果的に報告∼
①状況(S:Situation)…… ◆患者に何が起きているか!?
原因はよくわかりませんが、 と心配です。
④提案(R:Request)…… ◆私の提案はこれ!
例)
「薬を出して下さい」
「すぐに診察して下さい」
「後でよいので診て下さい」など。
SBAR(エスバー) ∼シンプル 効果的に報告∼
①状況(S:Situation)…… ◆患者に何が起きているか!?
例)
(部署名) の (自分の名前) です。
例)
(部署名) の (自分の名前) です。
患者さんのお名前は です。 才 (性別) です。
患者さんのお名前は です。 才 (性別) です。
患者さんが の状態なのでコールしました(不眠・不穏など懸念を伝える)。
患者さんが の状態なのでコールしました(不眠・不穏など懸念を伝える)。
②背景(B:Background)…… ◆患者の臨床的な背景・状況は何か!
②背景(B:Background)…… ◆患者の臨床的な背景・状況は何か!
例) さんの入院(来院)の目的は (知っている範囲で簡潔に) です。
例) さんの入院(来院)の目的は (知っている範囲で簡潔に) です。
呼吸・循環・意識レベル・症状・外見(ぱっと見た感じ)等の異常所見を伝える。
呼吸・循環・意識レベル・症状・外見(ぱっと見た感じ)等の異常所見を伝える。
血圧は 。脈拍は 。呼吸は 。体温は です。
血圧は 。脈拍は 。呼吸は 。体温は です。
☝異常所見に関連したバイタルサインのみ伝える。必要なければ省略可。
☝異常所見に関連したバイタルサインのみ伝える。必要なければ省略可。
③評価(A:Assessment)…… ◆私が考える問題は何か!
③評価(A:Assessment)…… ◆私が考える問題は何か!
例)とりあえず結論を伝える。
例)とりあえず結論を伝える。
私は、 の恐れ、疑いがあると思います(心臓・呼吸・感染・中枢)
私は、 の恐れ、疑いがあると思います(心臓・呼吸・感染・中枢)
原因はよくわかりませんが、 と心配です。
④提案(R:Request)…… ◆私の提案はこれ!
例)
「薬を出して下さい」
「すぐに診察して下さい」
「後でよいので診て下さい」など。
原因はよくわかりませんが、 と心配です。
④提案(R:Request)…… ◆私の提案はこれ!
例)
「薬を出して下さい」
「すぐに診察して下さい」
「後でよいので診て下さい」など。
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