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米国における危機管理に関する教育(研修)について
May 2014 米国における危機管理に関する教育(研修)について (1)はじめに 平成 26 年 2 月、米国における低頻度激甚災害に対するリスクマネジメントに関する現地調査 を行いました。その一環として、連邦緊急事態管理庁(FEMA)を訪問し、大規模インシデント 対応の調整・管理を行うシステムである国家事態管理システム(National Incident Management System/NIMS)及び事態指令システム(Incident Command System/ICS)等のヒアリング調 査を行うとともに、FEMA の中で危機管理教育を担当する緊急事態管理研究所(Emergency Management Institute/EMI)を訪問し、教育プログラムの調査を行いました(写真-1、2)。 ここでは、これまであまり紹介されることがなかった米国における危機管理教育について、そ の概要を紹介します。 写真-1 国立危機管理訓練センター(National Emergency Training Center) 写真-2 EMI でのヒアリング調査 (2)EMI における危機管理教育プログラム EMI は、民間防衛プログラム(Civil Defense Program/CDP)における訓練を行う民間防衛 職業大学校(Civil Defense Staff College/CDSC)の教育機能を引き継ぐ機関として、FEMA の 設立とともに作られました。 EMI は、ワシントン DC から北に約 75 マイル(120km)離れた場所にある国立危機管理訓練 センター(National Emergency Training Center/NETC)の中にあり、この施設は、やはり FEMA の機関である米国消防管理庁(United States Fire Administration/USFA)、国立消防 大 学 校 ( National Fire Academy / NFA ) 、 現 地 人 員 運 営 部 ( Field Personnel Operation Division/FPOD)、サテライト調達事務所(Satellite Procurement Office/SPO)と EMI が共 同で使用しています。 ここでは、FEMA スタッフ、連邦政府の危機管理担当者やそのパートナー、州政府や地方政府 の危機管理担当者、ボランティア組織を対象とした訓練、教育が行われており、専門家を集めた 国家レベルでの会議の主催なども行われています。 EMI では数多くの教育プログラムが準備されています。2014 年度は 1,000 を越えるプログラ ムの提供が予定されており、そのカタログが HP 上(下記アドレスを参照)で公開されています (http://training.fema.gov/EMICourses/docs/FY14%20Catalog.pdf)。 このうち、パソコンを利用して独習できる教育プログラム(Independent Study Course)が約 300 コースあり、米国市民権を持つ人であれば誰でも受講が可能になっています。 災害に対するリスクアセスメントに関連する主な教育プログラムとしては、下記のプログラム などが提供されています。この中で最も基本的な教育プログラムは「IS-0395 データベースを活 用 し た リ ス ク ・ ア セ ス メ ン ト ( FEMA Risk Assessment Database (Independent Study Courses))」です。これもパソコンを使って各自で独習するプログラムとなっており、このプロ グラムを修了しなければ「E0296 リスク・アセスメントへの複合災害評価法(Hazus)の適用 (Application of Hazus Multi-Hazard for Risk Assessment (Resident Courses))」などの次の ステップとなる座学研修が受けられない仕組みとなっています。 <リスクアセスメント> ・ IS-0395 FEMA Risk Assessment Database (Independent Study Courses) ・ E0296 Application of Hazus Multi-Hazard for Risk Assessment (Resident Courses) <大規模災害対応> ・ E900 - IEMC: All Hazards Preparation and Response (全ハザード) ・ E905 - IEMC: Hurricane Preparedness and Response (ハリケーン) ・ E910 - IEMC: Earthquake Preparedness and Response (地震) <HAZUS> ・ E174 - HAZUS-Multi-Hazard for Earthquake (HAZUS-MH は、地震、洪水、ハリケ ーンによる損失可能性を評価するためのモデルを含む標準評価手法) (3)ISC における「共通言語」 米国の災害対応の大きな特徴として、災害現場・事件現場などにおける標準化されたマネジメ ント・システムである事態指令システム(ICS)が挙げられます。この ICS に関する学習プログ ラムも 66 プログラム(2014 年度)が提供されており、毎週 15 程度の自治体を対象にした研修 2 に加えて、年間に 5 つ程度の州を対象にした出張講習も行われています。 これらのプログラムには、ICS 全体を学習するものの他に、災害現場での各レベルの現場指揮 官(Incident Commander)を対象とするものがあります。これらを受講したことで大きな効果 があった具体的な事例として、アラバマ州のタスカルーサを襲った大規模な竜巻災害において、 事前に市長を含めた関係者が EMI で研修を受けていたことで適切な対応が図られたことが紹介さ れました。 印象的であったのが ICS の特徴である「共通言語」に関することで、例えば、トラクターなど の災害対応車両について、各々がどのような仕様やサイズを指すのかを共通の概念として扱える ように規定しており、関係機関の間で状況認識に相違が生じないよう、対応にあたって用いる言 葉や概念が統一されています。 現状の教育プログラムには「共通言語」を直接教育するプログラムは無いものの、各プログラ ムを通じて幅広い組織に属する担当者が共通言語を習得できるようになっており、この共通言語 の学習効果により、例えば、災害等により住民避難用のバスが必要となった場合、現地から単に 「バスを派遣して欲しい」と伝えるのではなく「○○人を避難させるためのバスを派遣して欲し い」という具体的な避難者数を伝える伝達方法が徹底されています。 これらの一つ一つは小さなことですが、情報が輻輳して混乱が生じやすい災害現場では大変重 要なことです。 (4)おわりに 以上、今回調査した EMI で実施されている危機管理に関する教育の一部を紹介しましたが、特 に、地域の危機管理対応に関係する関係機関が複数集まって受講する枠組みが地域の危機管理対 応力の向上に寄与していると思料され、今後日本でも同様の取り組みが重要であると思います。 謝辞 最後になりますが、今回の調査実施に際し、UJNR 米国側部会委員(TC/G 作業部会長)であ る運輸省連邦道路庁(DOT/FHWA)主席橋梁エンジニアの Phil Yen 博士には、FEMA をはじめ とする米側諸機関の訪問アレンジに多大なご協力をいただきました。ここに記して深く感謝いた します。 (前国土技術政策総合研究所 危機管理技術研究センター地震防災研究室 (現 3 木村祐二) 国土交通省中部地方整備局道路部道路管理課) 米国における災害対応・危機管理に関するフレームワーク -UJNR チャンネルを通じた日本語翻訳版の公開- UJNR Panel Update「UJNR 便り」2013 年 7 月号で米国における危機管理対応のためのフレ ームワークを紹介させていただきました。米国の連邦政府が行う災害対応・復興は、1988 年に制 定された「スタフォード災害救助・緊急事態支援法」に基づき実施されます。フレームワークは、 ハリケーン・カトリーナを含む過去の災害経験を踏まえて改訂されてきたもので、代表的なもの としては、「国家災害対応枠組(NRF、2008 年 1 月)」などがあります。NRF は、国家がどの ように危機・ハザードに対応するかを示すガイドラインであり、ローカルな事象から大規模なテ ロ攻撃や破壊的な自然災害に至る事件・事故・災害を管理・対応するための権限とベストプラク ティスが示されています。2012 年 10 月にニューヨークを襲ったハリケーン・サンディに際して も、この NRF に基づいて対応がなされています。 一連のフレームワーク資料を図-1、図-2 に示します。これらの情報は、UJNR 米側部会委員で ある運輸省連邦道路庁本省(FHWA)主席橋梁エンジニアの Phil Yen 博士および同安全担当部 長の Dan Ferezan 氏より提供いただいたものです。 このたび、UJNR 米側部会委員である FEMA の Michael Mahoney 博士を通じ、UJNR チャン ネルの活動の一環として、本フレームワークの日本語版の公開について、出版元である FEMA の 了解が得られました。事務局で作成した全体で約 500 頁超の和文直訳版の資料ですが、少しでも 参考になればと考えています。なお、公開は、日本語の再チェック後、7月末を予定しています。 図-1 米国の災害対応に関する一連のフレームワーク(番号は図-2 との関係) 4 1 2 図-2 5 6 8 8 3 4 7 8 9 米国の災害対応に関する一連のフレームワーク(番号は図-1 との関係) 5 新委員(アソシエートメンバー)のご紹介 現在、UJNR 事務局では、本省並びに各メンバー機関等の人事異動等に伴う平成 26 年度の委 員の委嘱更新手続きを進めております。ご協力のほどありがとうございます。 ここでは、新しいアソシエートメンバーにつきましてご紹介させていただきます。 アソシエートメンバーは、「名誉委員(日本側部会長経験者)と、部会活動に貢献の大きかっ た元国内部会委員及び元作業部会委員で部会長が指名すること(第 120 回国内部会)」とされて おります。UJNR の国内のメンバー機関からの推薦に基づき日本側部会長に指名いただきました。 このたび、(株)東京ソイルリサーチ 大川 出取締役(前建築研究所主席研究監)に新たにア ソシエートメンバーに就任いただくことになりました。大川委員は、長年 UJNR 合同部会の委員 としてご貢献をいただくとともに、作業部会 A:強震動の作業部会委員及び部会長を務められ、 合計4回の「日米動的相互作用ワークショップ」の開催に対し主幹事としてリードいただくなど、 UJNR における地震動研究分野の日米間の交流の発展に大きくご貢献をいただきました。 アソシエートメンバーに就任いただくとともに、アソシエートメンバーからの委員として国内 部会にも参画いただくことになりました。 今年度も、引き続きよろしくお願いいたします。 平成 26 年度 UJNR 活動予定カレンダー 1.平成26年度(調整中):UJNR耐風耐震構造専門部会第45回合同部会(コア会議)、米国 2.平成26年秋(調整中):作業部会G「第30回日米橋梁ワークショップ」(30周年)、米国 3.平成26年秋(調整中):作業部会D「日米風工学ワークショップ」、米国 参考:平成26年9月:NIST主催「International Symposium on Disaster Resilience」、米国 UJNR Panel Update「UJNR 便り」発行 UJNR 事務局:(独)土木研究所構造物メンテナンス研究センター 連絡先:〒305-8516 つくば市南原 1-6 TEL:029-879-6773 運上茂樹(ウンジョウ)、入山素子(イリヤマ)、岡田玲子(オカダ) *)関連するワークショップ等の開催予定・開催報告など、UJNR 耐風耐震構造 専門部会内で共有したい有用情報がありましたら事務局までご連絡ください。 6