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分野・組織の壁を超えた データ駆動型 イノベーションへの挑戦

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分野・組織の壁を超えた データ駆動型 イノベーションへの挑戦
ド
リ
ブ
ン
データ駆動型イノベーション創出戦略協議会
中間取りまとめ
分野・組織の壁を超えた
ド リ ブ ン
データ駆動型イノベーションへの挑戦
2014 年 10 月 31 日
ド リ ブ ン
データ駆動型イノベーション創出戦略協議会
(事務局:経済産業省)
目
次
1
はじめに ...............................................................................................................................................................................3
2
データの利活用を巡る経済社会的な背景 ...................................................................................................5
2.1
データの利活用を促す環境の整備 ...............................................................................................................5
2.2
データ利活用の重要性の高まり .....................................................................................................................6
2.2.1
事業運営の効率化(プロセス・イノベーション)...................................................................................................6
2.2.2
潜在需要を喚起する新商品・サービスの開発・提供(プロダクト・イノベーション) .....................8
2.2.3
社会課題への対応(ソーシャル・イノベーション).................................................................................................9
2.3
海外の動向 ................................................................................................................................................................ 10
2.3.1
外国政府及び国際機関の取組 ................................................................................................................ 10
2.3.2
海外企業の取組 ................................................................................................................................................. 12
2.4
我が国の状況 ........................................................................................................................................................... 13
2.4.1
IT・データ利活用に対する認識 ................................................................................................................. 13
2.4.2
従来の取組及び先進的な取組の萌芽 ...................................................................................... 14
2.5
3
IT・データの利活用の普及・拡大に向けた今後の方向性 .................................................... 16
ド リ ブ ン
データ駆動型イノベーションにより実現される経済社会像及びその担い手 .................... 18
ド リ ブ ン
3.1
データ駆動型イノベーションにより実現される経済社会像 ................................................... 18
3.2
データ駆動型イノベーションの担い手 ............................................................................................ 19
ド リ ブ ン
3.2.1
人材 ............................................................................................................................................................ 19
3.2.2
企業・産業 ............................................................................................................................................... 19
3.2.3
事業者間の関係及び産業構造 ..................................................................................................... 20
4
想定される課題 ........................................................................................................................................... 22
1
4.1
データ保有する組織の課題 ................................................................................................................ 22
4.1.1
組織内における課題 .......................................................................................................................... 22
4.1.2
他者に提供する際の課題 ................................................................................................................ 22
4.2
データを利活用したい組織の課題 .................................................................................................. 23
4.2.1
組織内における課題 .......................................................................................................................... 23
4.2.2
他者のデータを利活用する際の課題 ......................................................................................... 23
4.3
異なる組織をつなぐプラットフォーマーに関する課題 ............................................................. 24
5
課題への対応策の方向性 ................................................................................ 25
5.1
事業者間 の連携に係る対応策 ......................................................................... 25
5.1.1
成功事例づくりと啓発・普及 ......................................................................................... 25
5.1.2
データの民間取引を円滑に進めるための環境整備 ................................................. 25
5.2
事業者と消費者の関係に係る対応策 ........................................................................... 26
5.3
データを安全にかつ適切に利活用するための法制度等の整備 ................................ 27
5.4
担い手の 育成・発掘に係る対応策 ................................................................................ 29
5.5
場作り ................................................................................................................................. 29
2
1
はじめに
近年のITの発展は目覚ましく、スマートフォン等の情報端末だけでなく、自動車、家電等、
様々な製品がインターネットに接続されるようになる中、ITを活用し、多種多様なデータを取
得することが可能となっている。また、ITインフラの充実、クラウド技術の普及、情報処理技
術の高度化等によって、それらの大量のデータを効率的に集積し、ビジネスでの利活用に
向けた分析を行う環境も整備されつつある。その結果、「情報爆発 1」とも呼べるほど、社会
全体におけるデータの量が加速的に増大し、それらを有効に利活用したイノベーションに対
する期待が高まっている。
喜連川優「情報爆発のこれまでとこれから」
こうした中、既に、国内外では、「データプラットフォーマー 2」と呼ばれる事業者を中心とし
て、自社が保有するデータに加え、他社が保有する、あるいは、社会全体に存在するデー
タである「ビッグデータ 3」を利活用することによって、新規性のあるビジネスモデルを構築し、
新たな価値を創出しながら、競争力強化を図っている事例が見られる。
1
2
3
喜連川優「情報爆発のこれまでとこれから」(電子情報通信学会誌 Vol.94, No.8, 2011)
(https://www.ieice.org/jpn/books/kaishikiji/2011/201108.pdf)
分野・組織を超えたデータの共有・利活用を行う際に、連携の媒介となるプレイヤーのことをデー
タプラットフォーマーと定義。
(第 4 回 新産業分科会, 資料 4 経済産業省提出資料)
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/sinsangyou/dai4/siryou4.pdf)
ビッグデータの明確な定義はないが、一般的には、データ量(Volume)
、発生頻度(Velocity)、多
様性(Variety)がビッグデータの 3 大特徴と言われている。
3
少子高齢化や人口減少に伴う労働投入のマイナス寄与等によって、中長期的な成長力
の低下が懸念される我が国では、生産性を高めること、即ち、事業の効率化を進めること
(プロセス・イノベーション)、及び、高付加価値の商品・サービスを生み出すこと(プロダク
ト・イノベーション)を通じて、新たな需要を喚起することが重要である。その際、IT・データは
極めて有益なツールとなりうる。
このため、我が国においても、IT・データを有効に利活用したイノベーション創出の取組
ド リ ブ ン
を加速することを目的として、2014 年 6 月、産学官の関係者が集う「データ駆動型イノベー
ション創出戦略協議会」を立ち上げた。
この協議会では、我が国におけるIT・データの利活用の現状を踏まえつつ、それらを利
活用したイノベーションを促進する観点から、「分野・組織を超えた複数の者による連携」と
いうコンセプトを打ち出した。その上で、多種多様なデータを複合的に組み合わせることに
よって、高い付加価値を生み出すために必要になる事項や、それを支える政策対応につい
て、議論・検討を重ねてきた。
4
データの利活用を巡る経済・社会的な背景
2
2.1
データの利活用を促す環境の整備
近年のネットワーク技術、情報処理技術等の進歩によって、大量のデータを集め、蓄積
し、それを分析することによって、イノベーションを進めやすい環境が整ってきた。
具体的には、データ処理速度の向上、データ分析技術の高度化に加え、インターネット
やスマートフォンの普及、ストレージ 4容量の増加、センサーの微細化・低コスト化、SNS 5の
普及、IoT(Internet of things 6)の進展等によって、広く経済社会に存在する、相当なボリュ
ームの多種多様なデータを迅速に取得・蓄積した上で、それらを適切かつ効果的に分析し、
マーケティングを始めとするビジネス活動の高度化につなげることが容易になっている。
IT インフラ、クラウド技術、情報処理技術の高度化で多種多様な情報・データの集積・分析が可能に
4
5
6
コンピュータの主な構成要素の一つであり、データを永続的に記憶する装置のこと。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)
。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にす
る手段や場、趣味や嗜好、出身校といったつながりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供する
サービスのこと。
コンピュータ等の IT 機器だけでなく、経済社会に存在する様々なモノに通信機能を持たせ、インタ
ーネットに接続する、あるいは、相互に通信させることにより、自動認識や自動制御等を行うこと。
5
大量、かつ、多種多様なデータを多頻度で利活用することによって、事業効率の改善、
新しい商品・サービスの提供、さらには、社会課題の解決を効率的かつ効果的に進めるこ
とができる環境が整備されてきている。
2.2
2.2.1
データ利活用の重要性の高まり
事業運営の効率化(プロセス・イノベーション)
近年、経済のグローバル化が進展し、新興国とのコスト競争が激化する中にあって、我
が国の事業者・産業が国際競争力の維持・向上を図っていくためには、商品・サービスの
高付加価値化とともに、事業運営の効率化を通じたコスト削減の取組が求められる。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、少子高齢化や人口減少の影響により、
我が国の生産年齢人口は 1995 年の 8,717 万人をピークとして減少に転じ、2030 年の生産
年齢人口は、1995 年のピーク比 23%減の 6,700 万人になると見込まれている 7。こうした生産
年齢人口の減少は、労働投入のマイナス寄与として、中長期で見た我が国の成長力の下
押し要因となる。このため、生産性(労働生産性又は全要素生産性)の向上を図ることが重
要な課題となっている。
我が国の生産年齢人口の推移・推計
こうした課題に対応するためには、事業の現場において、事業運営の高効率化を進める
7
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 24 年 1 月推計)」
(http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/gh2401.pdf)
6
ことが必要である 8 。IT・データを利活用することによって、個人の経験や勘に頼ってきたノ
ウハウの定式化やM2M 9の活用による生産効率の改善が期待できるだけでなく、安全なオ
ペレーションの確保に資するスマート・ファクトリー 10の普及につながることも期待される。
○
全国のコンビニやスーパー等に製品を提供する山崎製パン株式会社(東京都千代田
区)は、大量の受注情報をリアルタイムで一元管理して分析することによって、勘や経
験に基づく予測に頼らず、受注した数量に見合う生産を可能にした結果、製品廃棄ロ
スを約 40%減少させ、コスト削減を実現したとされている。 11
○
千葉県と宮城県にグリーンルーム(工場)を持つ株式会社みらい(東京都千代田区)
は、栄養価の高い野菜を効率よく生産・提供することを目的とし、センサーにより、環
境を完全にコントロールする取組を進めた結果、露地物と比較して、面積効率を 50 倍
に高めるとともに、農薬を使用せず安全・安心、かつ、栄養価の高い野菜の生産を可
能としたとされている。 12
○
オムロン株式会社(京都府京都市)は、草津事業所において、ビッグデータを活用し
てプリント基板を実装する工場の生産効率を高めるサービスを導入した。そのシステ
ムでは、加工機や検査機器から逐次データを集めて日本マイクロソフト株式会社(東
京都港区)のサーバーに送り、富士通株式会社(東京都港区)がデータを分析する。
実証実験では、時間あたりの生産性を 20%増産することが可能になり、今後は、食品
や電子機器メーカーで、実際に導入することが予定されている。 13
8 この他、労働投入のマイナス寄与という課題に対しては、たとえば、女性や高齢者の就労円滑化に
資する環境を整備する対応策も必要である。
9 Machine to Machine(マシーン・ツー・マシーン)
。人間が介在することなくネットワークを介して
機器同士が互いに情報をやり取りすることにより、自律的に高度な制御や動作を行うこと。
10 工場内にある機器をネットワークでつなぐことで、データを収集・可視化し、工場の効率改善(例
えば、エネルギーの最適化)につなげる工場のこと。
11 日経ビッグデータ
「山崎製パンのビッグデータ活用の一端が明らかに、製品廃棄ロスを約 4 割削減」
2014 年 7 月 30 日
12 株式会社みらい
ホームページ(http://miraigroup.jp/technology/)
13 富士通株式会社
ホームページ(http://pr.fujitsu.com/jp/news/2014/04/22.html)
7
2.2.2
潜在需要を喚起する新商品・サービスの開発・提供(プロダクト・イノベーション)
需要面から見ても、人口減少は、国内市場の縮小を通じて、成長力の下押し要因となる。
また、消費者の価値観・ニーズが多様化する中にあって、従来の「大量生産・大量消費」を
前提とするビジネスモデルを継続させることは困難であり、今後は、消費者の潜在需要を
喚起する魅力的な商品・サービスを開発・提供すること、そして、その嗜好に訴求するマー
ケティング活動を実施することが一層重要になる。
その際には、消費者との直接的なコミュニケーションを通じて得られる顧客のセグメント
情報(年齢、性別、年収、家族構成等)だけでなく、消費者のネット上の行動等から間接的
に得られる細かいデータ(購買履歴、趣味嗜好等)や、SNS から得られるデータが、消費者
の多様なニーズにきめ細かく対応する商品・サービスの開発、ブランド戦略を含め、想定さ
れる消費者に対象を絞り込んだ効率的かつ効果的なマーケティングにとって、有効なツー
ルとなりうる。
○
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(東京都渋谷区)は、車載器からの走行デー
タを受信することによって、顧客の走行距離に応じた保険料を算出することを可能にし
た。これにより、走行距離の少ない顧客に対して保険料を割り引くことができるようにな
り、顧客満足度を高めることに成功したとされている。 14
○
カタリナマーケティングジャパン株式会社(東京都港区)は、消費者の購買データを
POSシステム 15 と連動して瞬時に解析した上で、「この消費者に最適なお買物提案・商
品提案」を割り出し、レジでの会計時において、レシートに打ち出されるクーポンに、割
引等の有益な情報を記載するサービスを提供している。購買する可能性を持つ消費者
を絞り込み、効率的かつ効果的なマーケティングを実施しているとされている。 16
○
株式会社JR東日本ウォータービジネス(東京都渋谷区)では、年間 2 億件にもおよぶ
販売データを活用して、個々の自販機ごとにスピーティな販売分析を行うことなどによ
日経 BP ビッグデータ・プロジェクト編「ビッグデータ総覧 2013」
POS(Point of sale)システム:店舗において、商品販売情報を記録し、集計結果を在庫管理やマ
ーケティング材料として用いるシステムのこと。
16 ダイアモンド・オンライン plus (http://diamond.jp/articles/-/11412)
カタリナマーケティングジャパン株式会社 ホームページ(http://www.catmktg.co.jp/)
14
15
8
り、売切れ率を全体平均で 0.5%以下の水準とすることを実施するとともに、駅の特性を
考慮した需要予測と商品配置等により、売上を増加させたとされている。 17
2.2.3
社会課題への対応(ソーシャル・イノベーション)
我が国は、他の主要先進国や新興国に先駆けて、未曾有のペースで進む少子高齢化に
直面している。また、2011 年に発生した東日本大震災を契機として、電力の安定供給の確
保を始めとするエネルギー問題への対応も求められている。さらに、防災・防犯を始めとす
る安心・安全の確保や、人口減少に伴う地域コミュニティの持続可能性に対する国民の関
心も高まってきている。
このように、かつての経験・知見を活かすことが難しく、また、大きなコストを伴う社会課
題に対し、適切に対応するためには、客観的なエビデンスに基づき、社会の変革を進めて
いくこと(ソーシャル・イノベーション)が重要であり、その観点からも、IT・データ(例えば、医
療情報、電力利用情報、インフラの安全性関する情報等)は、有効なツールとなりうる。
○
ソニー株式会社(東京都港区)は、薬局で調剤された薬の履歴等に関するデータをク
ラウドサーバー上に管理する「電子お薬手帳」サービスを、神奈川県川崎市と横浜市
4 区(青葉区、都筑区、鶴見区、港北区)内の薬局向けに展開している。この仕組みで
は、個人の服用履歴が管理され、複数の医療機関で薬が処方された場合を含め、医
師や薬剤師が薬の重複や飲み合わせのチェックを行う際に利用されている。重複検
査の回避を通じた患者の負担軽減や医療費の効率化等に寄与することが期待されて
おり、また、匿名化されたデータは、学術研究にも貢献しているとされている。 18
○
埼玉県と本田技研工業株式会社(東京都港区)は、それぞれが保有する道路交通に
関するデータを相互に交換し有効活用するため、「埼玉県とHondaの道路交通データ
提供に関する協定」を締結している。カーナビから得られる走行データを分析し、急ブ
レーキが多発している箇所を特定した上で、県が安全対策を実施するという取組を行
株式会社 JR 東日本ウォータービジネス ホームページ
(http://www.jre-water.com/20140522teamacure.pdf)
18 ソニー株式会社
ホームページ
(http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201308/13-094/)
17
9
ってきた。県内で 160 か所の安全対策を実施された結果、急ブレーキが約 70%、人身
事故も約 20%減るなどの効果が上がったとされている。 19
○
東日本高速道路株式会社(東京都千代田区)は、東京大学、北海道大学と共同で、
橋梁点検で取得した変状画像等の各種データをシステムに登録すると、瞬時に過去
の点検データを検索し、類似の事案を確認することができる新たな橋梁点検支援シス
テムを開発した。これにより、点検者は、損傷内容の評価を過去の事案を参照しなが
ら、円滑に進めることが可能となる。また、スマートフォンとGPS機能等を活用すること
により、点検技術者が作業する位置の過去情報が自動的に取得できることから、点検
員は、その場所の変状内容などを確認しながら、点検を効率的に進められる。 20
海外の動向
2.3
2.3.1
外国政府及び国際機関の取組
近年、欧米では、IT・データを利活用したビジネスの創出に向け、政府がビジョンを示す
など、データをイノベーションにつなげることの重要性に対する認識が高まってきている。
○
米国では、2012 年 3 月に、オバマ政権が、大規模で複雑なデータを最大限に活用し、
国家の喫緊の課題を解決することを目的として、ビッグデータを取扱うためのツールや
技術の向上に関する研究に投資する、「Big Data R&D Initiative 21」を発表した。これを受
け、6 つの政府機関(National Science Foundation 、National Institutes of Health 、
Department of Defense 、Defense Advanced Research Projects Agency等)が、それぞ
れR&Dプロジェクトを開始した。また、2014 年 5 月には、ホワイトハウスが、政府と民間
企業がどのようにビッグデータの便益を最大化し、かつ、リスクを低減するかについて、
19
埼玉県 ホームページ(http://www.pref.saitama.lg.jp/site/room-seisaku/seisaku-025.html)
東日本高速道路株式会社 ホームページ
(http://www.e-nexco.co.jp/pressroom/press_release/head_office/h26/0115/)
21 OBAMA ADMINISTRATION UNVEILS “BIG DATA” INITIATIVE: ANNOUNCES $200
MILLION IN NEW R&D INVESTMENTS
20
(http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/big_data_press_release_final_2.pdf)
10
具 体 的 な 政 策 提 言 を 行 う レ ポ ー ト 「 BIG DATA: SEIZING OPPORTUNITIES,
PRESERVING VALUES 22」を発表した。
○
EUでは、第 7 次研究枠組計画(FP7)のプロジェクト「BIG(Big Data Public Private
Forum)」が進められている。BIGでは、ビッグデータについて「革新的な技術が、巨大な
量のデータ利用の際に現れる固有の問題を解決するための代替策を提供する新たに
出現した領域であり、情報を再利用し、価値を引き出すための新たな方法を提供する」
とし、早期に現れた一連のビッグデータ・テクノロジーの採用を促進するとともに、政策
及び規制問題に関する既存の障壁を打破し、ビッグデータに関連した持続可能な産業
コミュニティを形成することを目指すとしている。また、ビッグデータとデータ経済に関す
る課題を話し合うための場として、「欧州データ・フォーラム」が開催され、産業界、学
界、政策立案者のための出会いの場として機能している。欧州データ・フォーラムで
は、多くのデータ産業において、イノベーションと競争を推進しているのは中小企業であ
るとして、特に、中小企業に焦点を当てた、議論が行われており、その内容は、新たな
データ・ビジネス・モデル、技術的イノベーションから、データの社会的な側面にまで渡
っている。 23
○
OECD(経済協力開発機構)のビッグデータに関する報告書 24 においても、「部門間の
ド リ ブ ン
データ連鎖及びデータ利用は、データ駆動型イノベーションの推進力であり、本報告書
における多数の事例によって浮彫りにされてきた社会経済的利益の源である。(中略)
部門横断的なデータ連鎖とデータ利用により生じる便益は、データへの自由なアクセス
が大きな経済的利益をもたらし得ることを示唆している」とされ、組織・分野を超えたデ
ド リ ブ ン
ータ利活用によるデータ駆動型イノベーションの重要性に言及している。
22
(http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/docs/big_data_privacy_report_may_1_2014.pdf)
なお、次世代パーソナルサービス推進コンソーシアム、一般社団法人情報処理学会及び一般財団日
本情報経済社会推進協会では、
「BIG DATA: SEIZING OPPORTUNITIES, PRESERVING VALUES」
の仮訳を作成、公開している。
(https://www.coneps.jp/product.html)
23 「欧州のビッグデータ利活用とサイバーフィジカルシステムの研究開発・標準化動向の調査」
NICT 欧州連携センター, 2013 年 3 月 28 日
(http://www.nict.go.jp/int_affairs/int/4otfsk000000osbq-att/re130328.pdf)
24 Exploring Data-Driven Innovation as a New Source of Growth Mapping the Policy Issues
Raised by "Big Data" (http://www.oecd-ilibrary.org/)
11
2.3.2
海外企業の取組
欧米では、IT 関連企業を中心に、データの利活用に係る先進的な取組が行われている。
特に、米国では、データを利活用することが競争力の源泉になりうることに着目した企業
が、他社が有する多種多様なデータを迅速に利活用できるよう、企業買収によって、当該
他社をそのまま取り込み、高次のイノベーションにつなげようとする動きも見られる。
○
米国のNetflix社は、ユーザーの視聴履歴を分析し、視聴者が好むコンテンツを独自
に製作するといった新たなビジネスモデルを確立している。 25
○
米国のGoogle社は、2014 年 1 月、スマートサーモスタット等を製造しているNest社を
32 億ドルで買収し 26、情報提供者とネットワークでつながる家庭向けのオンラインサービ
ス・プラットフォームを構築し始めている。
Google の報道資料と Nest とのサーモスタット
○
ドイツ政府が推進する「Industry 4.0(ドイツ語ではIndustrie 4.0)」プロジェクト(IT・デー
タを利活用し、生産現場内外のモノやサービスを連携させることによって、新たな価値・
ビジネスモデルを生み出すことを目的とする産学官の技術戦略)に、Siemens社、BASF
社、BMW社、Daimler社、Bosch社等が参加している。 27
25
26
27
The New York Times「Giving Viewers What They Want」2013 年 2 月 24 日
(http://www.nytimes.com/2013/02/25/business/media/for-house-of-cards-using-big-data-to
-guarantee-its-popularity.html)
グーグル ホームページ(https://investor.google.com/releases/2014/0113.html)
「欧州のビッグデータ利活用とサイバーフィジカルシステムの研究開発・標準化動向の調査」
NICT 欧州連携センター, 2013 年 3 月 28 日
(http://www.nict.go.jp/int_affairs/int/4otfsk000000osbq-att/re130328.pdf)
12
○
風力発電設備を手掛けるデンマークのVestas Wind Systems社は、気象観測施設や
気象衛星のデータを蓄積して分析。顧客である電力会社等に対し、最大の発電効果が
得られると予測できる風車の設置場所の情報を提供している。気象データは、米国、英
国、日本の気象観測施設から 6 時間ごとに送信され、地球上で合計 3 万 5000 か所の
気象観測点からデータを収集している。同社は、予測の精度を上げることによって、顧
客に対し、風力発電設備について、より詳細なROI(投資対効果)の情報を提供すること
を目指すとしている。 28
2.4
2.4.1
我が国の状況
IT・データ利活用に対する認識
我が国では、一部のIT関連企業を除き、総じて、データ利活用の意義や重要性に係る認
識は高くないとされている。
「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析 29」(一般社団法人電子情報技術産業
協会及びIDC Japan株式会社(東京都千代田区)の共同調査。(2013 年 10 月))によれば、I
Tの動向に関し、ビッグデータについて、「聞いたことがない/あまりよく知らない」と回答し
た企業は 42.6%(米国では 2.1%)となっている。また、データを「会社全体で利用している」と
回答した企業は 6.0%(米国では 32.5%)、「いくつかの部門で利用している」と回答した企業は
12.5%(米国では 40.2%)に止まっている。
28
29
日経 BP ビッグデータ・プロジェクト編「ビッグデータ総覧 2013」
(http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/page/detail.cgi?n=608)
13
我が国のIT投資の状況を米国と比較すると、投資総額の名目GDP比は遜色ない水準と
なっている一方で、その目的は、業務の効率化を中心としている。 30 IT投資が、必ずしも、
新規製品・サービスの開発や提供の迅速化を通じて、企業・産業の「稼ぐ力」につながって
いない実態が窺われる。
2.4.2
従来の取組及び先進的な取組の萌芽
大量の多種多様なデータを取得・蓄積し、分析することによって、新たな価値を創出しう
る環境が整いつつある中、経済産業省は、2012 年 6 月、産学官の関係者で構成する「IT融
合フォーラム 31」を設立した。「Evidence Based Society」の実現とともに、要素技術やコンテ
ンツを集めた全体システムの開発・実証の支援を行ってきた。
こうした中、我が国においても、IT関連企業やものづくり産業やサービス産業の分野で、
先進的な取組を行う企業が出始めている。
政府は、「日本再興戦略 32」(ともに 2014 年 6 月 24 日に改訂版を閣議決定。)において、
組織の壁を超えたデータの共有等により、新たな価値が創出される環境の整備を進めるこ
とを決定した。今後は、官民が一体となった取組が強化される中で、IT・データを利活用し
たイノベーションが更に促進されることが期待されている。
なお、IT・データの利活用は、一部の大手IT関連企業に限られた課題ではない。データ
の種類としては、ウェブサービスで収集される検索履歴やSNS等の非構造化データが注
目されており、IoT が広がる昨今においては、自動車、家電製品、ヘルスケア機器等の様々
なモノに搭載されるセンサーから取得される画像、音声、位置データ等、様々なデータが収
集されるようになっている。また、工場やオフィスといった事業の現場においても、様々な機
社団法人 電子情報技術産業協会「日米 IT 投資比較分析調査報告書」2007 年 1 月
(http://home.jeita.or.jp/is/committee/solution/hokokusyo/07-kei-01samari.pdf)
31 データから価値を生み出す取組を我が国において活性化させていくことが喫緊の課題であることを
認識し、多種多様なデータが大量に生まれる社会において、目指すべきグラウンドデザインを描くと
ともに、その具体的な課題の設定とアクションプランの策定を行い、さらには、そのアクションを強
力に推進する場として設立されたもの。
・ IT 融合フォーラム有識者会議 Kick-Off Statement
(http://www.meti.go.jp/committee/summary/ipc0002/pdf/029_04_02.pdf)
・ 我が国情報経済社会における基盤整備(融合新産業創出に向けた動向調査事業)報告書
(http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2013fy/E002820.pdf)
32 「日本再興戦略」改定 2014 –未来への挑戦–
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdf)
30
14
器にセンサーが設置されており、それらの業務に付随したデータが、事業運営の効率化や
付加価値の創出につなげられるケースも出てきている。
このように、ものづくり産業やサービス産業、そして、創業後間もないITベンチャーを含め、
幅広い事業者がデータに接し、それを利活用できる状況にあっては、それらが個々の組織
内に死蔵されず、分野や組織の壁を超えて多くの事業者間で共有され、有効に利活用され
れば、新たな価値創出や競争力強化につながることが期待される。
○
関西エリアを中心に約 80 店舗の店舗を展開しているがんこフードサービス株式会社
(大阪府大阪市)は、店舗内で接客に当たる従業員にセンサーを付け、従業員の行動
を計測することによって、その行動パターンを可視化し、導線分析等を行っている。これ
により、店内のオペレーションが改善され、効率化が進んだ結果、経常利益率が 10 ポ
イント増加したとされている。 33
○
グローバルに事業を展開している、株式会社小松製作所(東京都港区)は、建設機械
から得られる位置情報や稼働情報を活用して建設機械が故障する前に異常を検知し、
最適なタイミングで保守等のアフターサービスを行うことによって、ハードの製造・販売
から「ハード+サービス」のビジネスモデルへ移行しているとされている。 34
33
34
日経 BP ビッグデータ・プロジェクト編「ビッグデータ総覧 2013」
日経 BP ビッグデータ・プロジェクト編「ビッグデータ総覧 2013」
15
○
埼玉県川越市のバス事業者であるイーグルバス株式会社は、自社バスを「走るセン
サー」に変え、乗客を1人も乗せずに運行している区間や利用者が増えている停留所
など、路線バスの採算改善に直結する情報を可視化し、それらのデータを分析した。こ
れにより、大手事業者が撤退した後のバス路線を蘇らせ、バスの利用者数を前年比で
増加に転じさせたとされている。 35
○
ITを活用し、全国各地の鮮魚を飲食店に販売するベンチャー企業である八面六臂株
式会社(東京都新宿区)は、独自アプリを開発し、産地と飲食店との間の流通コストを削
減。売り手都合だった鮮魚流通を買い手都合に変え、契約飲食店を増やしている。従
来の発注は、ファクスや電話で行われていたことから、扱える品数が限られ、情報の円
滑な更新も困難であったが、同社は、「八面六臂アプリ」という鮮魚取引専用のシステム
を開発してiPadに組み込み、契約飲食店に無償貸与。これにより、数千種類の食材をタ
イムリー 36に提供することが可能となった。
○ 広島県呉市では、2010 度から、国民健康保険の被保険者レセプト電子データに基づ
き、ジェネリック医薬品に変えると削減できる金額を示した差額通知を被保険者に送付
し、被保険者がその通知を処方箋窓口で提示すると、必要なジェネリック医薬品が処方
されるという取組を行っている。これにより、同市における年間の医療費は 1 億 1 千万円
弱削減されたとされている。 37
2.5
IT・データの利活用の普及・拡大に向けた今後の方向性
主要先進国では、官民の連携の下、IT・データの利活用の取組が加速している。一部の
先進的な取組を行う事業者には、大量の多種多様なデータの掛け合わせが、高次のイノベ
日経ビッグデータ「イーグルバスがセンサー活用で赤字路線を再生、1 分・1 キロ単位で収支を改善」
2014 年 2 月 18 日
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/bigdata/20140217/259878/)
36 八面六臂株式会社ホームページ(日経ビジネスオンライン)
(http://hachimenroppi.com/pressroom/media/media_20140414.html)
37 厚生労働省 「ジェネリック医薬品使用促進の先進事例に関する調査報告書」
(分割版:呉市におけ
るジェネリック医薬品使用の取組)
(http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/kouhatu-iyaku/dl/03_10.pdf)
35
16
ーションを生み出しうることに着目し、迅速かつ効率的にデータを集めるため、M&A を進め
る動きも見られる。
他方、我が国では、一部の事業者を除き、自社が保有するデータを死蔵させているとい
われている。「多量」、「多様」、「多頻度」であることが、エビデンスの確からしさを高めること
に鑑みれば、自社保有のデータを自ら有効に利活用することはもとより、それを有効に利
活用できる他社に提供することによって、データを提供する者と利活用する者、そして、そ
れを仲介するプラットフォーマーが、それぞれ「Win-Win の関係」を構築しながら、経済社会
全体として、イノベーションの創出を促進するという、新たなエコシステムの確立を目指して
いくことが求められる。
17
ド リ ブ ン
データ駆動型イノベーションにより実現される経済社会像及びその担い手
3
ド リ ブ ン
3.1
データ駆動型イノベーションにより実現される経済社会像
これまでに記述した現状認識の下、この協議会の参加メンバーやアドバイザーである有
ド リ ブ ン
識者との議論を通じて共有されたデータ駆動型イノベーションにより実現することが期待さ
れる経済社会像は、概ね以下のとおりである。
○
多くの国民にとって、「Traceability(履歴確認可能性)」、「Predictivity(予見性)」及び
「Accessibility(利用・接触可能性)」が確保され、安心・安全、信頼性及び利便性が向
上した経済社会。
・ Traceability(履歴確認可能性):商品の流通、消費者の行動等、様々な事象の履歴が
つながること。これによって、安心・安全とともに、新たな価値が生み出されることが期
待される。
・ Predictivity(予見性):様々な場面での将来予測の精度が高まること。これによって、
計画的な消費活動や設備投資・事業運営が行えるようになることを通じて、民間需要
が持続的に成長することが期待される。
・ Accessibility(利用・接触可能性):老若男女、国籍等を問わず、誰もが、様々なデータ
に容易にアクセスすることが可能になること。これを通じて、潜在的な需要が喚起され、
あるいは、多様性(Diversity)が高まることを通じて、新たなイノベーションが断続的に
生み出されることが期待される。
○
消費者と事業者、国民と行政のコミュニケーションが活発化することによって、それぞ
れの間に信頼が醸成され、より良い商品・サービスの提供を受けるために、消費者・国
民が自らのデータを安心して提供できる、そして、そのことが国民生活の質を高めると
いう「好循環」が実現する経済社会。
○
分野・組織の壁を超えてデータが共有されること、またそれによって、ITベンチャーも
交えた異業種のコラボレーションが生まれることによって、革新的なビジネスモデルや、
我が国及び諸外国が直面する社会課題の画期的な処方箋が生み出される経済社会。
18
ド リ ブ ン
データ駆動型イノベーションの担い手
3.2
この協議会の参加メンバーやアドバイザーである有識者との議論を通じて共有された、
ド リ ブ ン
ド リ ブ ン
今後、データ駆動型イノベーションの促進を担う、あるいは、データ駆動型 イノベーションに
よって実現される経済社会を担う者のイメージは、概ね以下のとおりである。
これらの担い手には、法令の遵守及び消費者のプライバシーに配意しつつ、データの利
活用とそれに基づくイノベーションの創出に向けて、それぞれの有する知見を活かし、ある
いは、求められる役割を果たすことが期待される。
3.2.1
人材
○ 消費者や顧客、市場の潜在的な需要や経済社会が直面する課題を見出せる者。この
ような者には、以下に関する能力が求められる。
・ 消費者や顧客と接する現場や市場を深く観察することによって隠れたニーズを発掘す
ること(フィールド・アナリティクス 38)。
・ 消費者や顧客、市場の動向を分析・解析することによって隠れたニーズを発掘するこ
と(データ・アナリティクス38)。
○ 発見した需要に対応する価値や課題への対応策を画期的な発想で生み出し、それを
ビジネスとして成立させる仕組みを構築・実現する(サービス・ビジネスモデル・デザイン38)
力を有する者。
○ イノベーションを創出する際に必要となる技術・知見を有し、あるいは、それを誰が有し
ているのかを把握できる者。
○ 消費者や顧客、市場の潜在的な需要や経済社会が直面する課題を見出せる者と、需
要に対応する価値や課題への対応策を生み出せる者を橋渡しできる者。
3.2.2
38
企業・産業
「産業構造審議会情報経済分科会人材育成WG報告書」2014 年 9 月 14 日
(http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/jouhoukeizai/jinzai/pdf/report_001_00.pdf)
19
○ 自らの事業を通じて既にデータを保有しており、それを開放し、自らの事業が属する分
野とは異なる分野に属する他の事業者の利活用につなげようとするプレイヤー。
○ 他の事業者が保有するデータについて、当該他の事業者を買収すること等を通じて、
そのデータを内製化し、利活用することによって、新たなビジネス・価値を創出しようとす
るプレイヤー。
○ 他の事業者が保有するデータについて、当該他の事業者から直接取得し、あるいは、
仲介者を通じて取得し、利活用することによって、新たなビジネス・価値を創出しようとす
るプレイヤー。データの保有する者とそれを利活用しようとする者が連携し、「協働」のプ
レイヤーとなるケースもありうる。
○ データを保有する事業者とそれを利活用する事業者の間で、データ取引の仲介を行う
プレイヤー。こうしたデータ取引の仲介という新しい分野では、ITベンチャー等のプレイヤ
ーが、保有者のデータの内容の見える化、データの適切な利活用に向けたアイデアの提
供など、コンサルティング・サービスを提供するケースもありうる。
3.2.3
事業者間の関係及び産業構造
ド リ ブ ン
分野・組織の壁を超えたデータ駆動型 イノベーションが促進される経済社会における事
業者の関係は、突き詰めれば、以下の姿が想定される。
(1)企業買収等により、特定の事業者・グループ内で様々な分野のデータ利活用が行われ
る垂直的な展開が行われる姿。
(2)事事業者間で水平的な展開が行われ、ビジネス課題ごとに、多種多様なメッシュ状の
連携が行われる姿。
(1)については、一般に、実現に当たって複雑な手続が必要であり時間やコストを要す
るものの、データが共有されるだけではなく、データを保有する事業者とそれを利活用する
事業者の人材の交流が起こりやすく、それぞれの立場における知見や経験が融合しやす
いことから、実現後のデータ利活用の成功の可能性が大きく、「稼ぐ力」を高めることが期
待される。
20
(2)については、一般に、データを保有する事業者とそれを利活用する事業者の人材の
交流は限定的であるものの、多種多様な事業者間の連携が可能であることから、市場に
即応した価値を創出できる可能性が大きく、「稼ぐ力」を高めることが期待される。
「稼ぐ力」を高めるためには、対応すべきビジネス上又は社会課題に応じて、適切な形で
データの共有・利活用を進め、それをイノベーションに結び付けることによって、新たな価値
を創出していくことが重要である。
21
想定される課題
4
分野・組織の壁を超えたデータの共有という新たな連携を構築する上で、「想定される課
題」として、協議会参加メンバーやアドバイザーである有識者との議論を通じて共有された
事項は、概ね以下のとおりである。
4.1
データ保有する組織の課題
4.1.1
組織内における課題
○ 保有するデータを把握できていない。
○ 保有するデータの価値に気づいていない。
○ 組織内ですら、保有するデータを共有・利活用できていない。
○ 保有するデータが、将来における有効な利活用を視野に入れた形で、適切に管理さ
れていない(現場で、体系化されないデータが放置されている、あるいは、データが、
イノベーションのツールではなく、オペレーションのツールになってしまっている等)。
○ 保有するデータが本来誰のものかはっきりしないため、自らの組織のデータとして、
安心して利活用又は提供できない。
○ 経営者が、データを他者に提供することの意義を理解していない。自社での囲い込
み文化から抜け出せていない。
4.1.2
他者に提供する際の課題
○ データを誰に提供すればよいかわからない。提供する相手が見つからない。
○ データの価値を引き出し、他者につないでくれる者(触媒となる機能を有する者)を見
つけられない。
○ データを提供しようとする場合、どのようなフォーマットで、あるいは、どのような契約
で取引を行えばよいかわからない。
22
○ データを提供することの便益・リスクや、それらを管理する方法がわからない。
4.2
データを利活用したい組織の課題
4.2.1
組織内における課題
○ 組織内又は組織外のどこに、どのようなデータがあるのかわからない。
○ データの価値を引き出すためのアイデアが不足し、あるいは、データを利活用するノ
ウハウがあっても、それを実際のビジネスモデルにつなげられない。
○ 経営者が、他者のデータを利活用することの意義を理解していない。
4.2.2
他者のデータを利活用する際の課題
○ 他者のデータを利活用することの便益・リスクや、それらを管理する方法がわからな
い。データの価値がわからず、どの程度の対価を支払うべきかわからない。
○ 自らにとって有益なデータの所在がはっきりしない中、イノベーションのツールとなり
うるデータに対し、思い切った投資を行うことについて、理解が得られない。
○ 法律等の制度が不明確であり、消費者とのトラブルを懸念し、他者のデータを利活
用することを躊躇してしまう。
○ 消費者とのコミュニケーション不足により、データを利活用することによって、消費者
が受けられる便益等を十分に伝えられていない。その結果、消費者が安心して、自ら
のデータを提供できない。
○ データを利活用できる者が育っていない、あるいは、組織内に存在していても、その
者が埋もれている。
○ データを利活用できる者に対して、十分な活躍の場を提供できていない。また、それ
らの者を適切に評価する方法が確立されていない。
23
○ 公共データの民間開放(オープンデータ)が、量(開示の範囲)と質(データのフォーマ
ットが不統一、語彙が統一されていない等)の両面から、充実していない。使いたいデ
ータがあっても入手できない、あるいは、入手しても使えない。
4.3
異なる組織をつなぐプラットフォーマーに関する課題
○ 保有するデータを他者に提供する事業者や他者のデータを利活用しようとする事業
者が少なく、データの流通市場が小さい。
○ データ取引の仲介という新たな分野を担う事業者は、創業後間もないITベンチャー
が多く、また、現時点では、データ取引の市場規模も限られており、仲介というビジネ
スモデルの不確実性が高いことから、必要になる資金調達や設備投資が困難。
○ データを保有する事業者から信頼を得られず、そのデータを出してもらえない。
○ 他者のデータを利活用しようとする事業者から信頼を得られず、取引の相手として認
めてもらえない。
○ 契約、値決め、フォーマット等、取引に必要なツールが標準化されておらず、円滑な
仲介が困難。
24
課題への対応策の方向性
5
「4 想定される課題」への対応策の方向性は、以下のとおり。当面の課題については、
対応可能な取組から順次着手する一方で、中長期的な課題については、先行する対応策
の状況・結果等を踏まえながら、協議会参加メンバーのうち、当該課題に大きな関心を有
する者を中心として、引き続き、検討を行う。
5.1
事業者間の連携に係る対応策
分野・組織の壁を超えたデータの共有・利活用を促進するためには、事業者の意識改革
に加え、制度的な環境整備や、データ取引を仲介する役割を担うITベンチャーの支援等、
多岐に渡る課題に対し、タイムリーに対応していくことが必要である。産官学で構成する協
議会を中心として、具体的なプロジェクトを通じ、それぞれの対応策の整合性を確保しつつ、
検討・具体化を進める。
5.1.1
成功事例づくりと啓発・普及
(1)協議会を通じ、イノベーションのツールとして、データを利活用する事業者の先駆的
な取組事例(失敗事例を含む)を発信する。これにより、データを利活用するイノベー
ションに向けた気運醸成とともに、広く消費者や経営者に組織・分野を超えたデータ利
活用の意義について、理解促進を図る。
(2)民間が担い手となり、オープンデータ利活用の成功事例を共有し、課題ごとにアイデ
アを検索できる仕組みを構築・運営することにより、企業や自治体が持つ具体的な課
題解決に資する。
5.1.2
データの民間取引を円滑に進めるための環境整備
(1)データの種類・保有者、取引に備え開示することが期待される項目やそのフォーマッ
ト、課題の設定のあり方等、分野・組織の壁を超えたデータの利活用を円滑に進める
ために必要な環境・条件に関し調査を行い、協議会参加メンバー間で共有するととも
に、広く関係者に情報提供を行う。
(2)分野・組織の壁を超えたデータ利活用を行う際に必要となる、
25
① データ取引に係る契約の雛形
② データの所有権及びそれに係る責任の所在
③ データ取引に関わる各組織が講ずるべきセキュリティ対策のあり方
について、それぞれ関係する有識者の協力を得て、考え方を整理・公表する。
(3)協議会参加メンバーを中心として、データ取引を仲介するITベンチャーやデータ利活
用のスキルを有する専門人材の参画を得つつ、ソーシャル・イノベーション 39の創出に
向けたプロジェクトを組成する。その上で、例えば、エネルギー使用の合理化、高齢者
の見守りサービス、地域資源を活かした観光振興等の分野等において、社会課題の
解決に資するモデル・プロジェクトについて、実証の取組を支援する。
(4)全国各地の1万超の世帯にHEMS 40を導入し、一般家庭一戸当たりのコストを低減さ
せるとともに、様々なサービス事業者がそこから得られるデータを利活用できる情報基
盤を構築する。当該報基盤を用いてエネルギーマネジメントを実施する中で、データ処
理、セキュリティ等に係る課題に対応しながら、システムの標準化を進める。加えて、
HEMSを導入した世帯の声を反映したプライバシー上の対応策を検討することによって、
消費者が安心できる電力利用データの利活用環境を整備する。
(5)政府、独立行政法人、地方公共団体等は、民間の利活用に適したフォーマットで、そ
れぞれが保有するデータの公開に努める。また、個々のデータについて、用語・構造
の統一等、データ間の連携を可能とするための共通語彙基盤を整備する。
(6)消費者にとって利便性が高いオンラインサービスを安全・安心に提供する上で、各事
業者が持つ消費者のID情報を第三者による信頼の付与の下で安全に連携させ、利活
用することを可能とするスキームを構築する。
5.2
事業者と消費者の関係に係る対応策
プライバシーに対する国民の意識が高まる中、データのうち、パーソナルデータ 41を利
活用しようとする場合には、関係法令を遵守することはもとより、データを提供する国民・
39
40
41
社会・経済問題を解決し、社会や組織のあり方を変えるイノベーティブな考え方や仕組みの
こと。
ホームエネルギーマネジメントシステム
「個人情報の保護に関する法律」
(個人情報保護法)に規定する「個人情報」にとどまらず、
位置情報や購買履歴等、広く個人の行動・状態等に関する情報のこと。
26
消費者とのコミュニケーションを密にし、それらの十分な理解を得るよう努めることが必要
である。このため、事業者が国民・消費者との適切なコミュニケーションを促進するため、
以下の対応策を講ずる。
(1)国民・消費者が、データを利活用する事業者のサービスの内容やプライバシーとの
関係について十分に理解し、想定外の利活用に当惑する、あるいは、不安に感じるこ
とのないよう、経済産業省は、2014 年 3 月、消費者への情報提供・説明のあり方を示
す「評価基準」を取りまとめた。現在は、外部専門家の協力を得て、この基準を踏まえ、
事業者からの相談に応じているところ 42 、その運用体制の継続・充実を図るとともに、
民間事業者と連携した認証の仕組みの導入についても、併せて検討を行う。
(2)事業者のニーズが大きいオンラインサービスにおけるパーソナルデータの取扱いに
関し、消費者の意思確認と同意取得手続の諸手続き(分かり易いプライバシーポリシ
ー等の記載方法)の在り方について検討する。モデル的な手法として、その結果を公
表し、関連する事業者に活用を促すとともに、民間の主体が中心となって、それを国際
標準化することを目指す。また、必要に応じ、オフラインサービスについても、同様の
対応を検討する。
(3)協議会参加メンバーである事業者が中心となり、それぞれが、上記の基準や規格を
適切に活用しながら、消費者とのコミュニケーションを密にすることを対外的に宣言す
ることを通じて、その理解増進を図る「運動」を展開する。
5.3
データを安全かつ適切に利活用するための法制度等の整備
情報・データの種類やそれらの利活用の方法、プライバシーに対する意識が時代とと
もに変化していく中で、保護すべき情報・データの範囲や事業者が遵守すべきルールが
あいまいになり、事業者が消費者とのトラブルを懸念し、データの利活用を躊躇する事態
が発生していると指摘されている。
このような状況を踏まえ、個人情報保護法については、2015 年の通常国会に改正法
案が提出される予定であり、個人の権利利益の保護とデータ利活用による新事業創出
42
経済産業省「消費者に信頼されるパーソナルデータ利活用ビジネスの促進に向け、消費者へ
の情報提供・説明を充実させるための「基準」を取りまとめました」
(http://www.meti.go.jp/press/2013/03/20140326001/20140326001.html)
27
の促進という、二つの課題の両立を図る観点から、必要な対応が講じられるよう所要の
働きかけを行う。「パーソナルデータの利活用に関する 制度改正大綱」(2014 年 6 月 24
日)のうち、本協議会で特に注目するのは下記項目。
Ⅱ 制度改正内容の基本的な枠組み
1 本人の同意がなくてもデータの利活用を可能とする枠組みの導入等
パーソナルデータの利活用により、多種多様かつ膨大なデータを、分野横断的に活用する
ことによって生まれるイノベーションや、それによる新ビジネスの創出等が期待される。この
際、目的外利用や第三者提供に当たって、本人の同意を必要とする現行法の仕組みは、
事業者にとって負担が大きく、「利活用の壁」の一つとなっている。そこで、個人の権利利益
の侵害を未然に防止するために本人の同意が必要とされている趣旨を踏まえつつ、パーソ
ナルデータの利活用を促進するために、現行法の規律に加え、新たに一定の規律の下で
原則として本人の同意が求められる第三者提供等を本人の同意がなくても行うことを可能
とする枠組みを導入する。具体的には、個人データ等から「個人の特定性を低減したデー
タ」への加工と、本人の同意の代わりとしての取扱いに関する規律を定める。
また、医療情報等のように適切な取扱いが求められつつ、本人の利益・公益に資するため
に一層の利活用が期待されている情報も多いことから、萎縮効果が発生しないよう、適切
な保護と利活用を推進する。
(中略)
Ⅲ 基本的な制度の枠組みとこれを補完する民間の自主的な取組の活用
1 基本的な制度の枠組みに関する規律
(1) 保護対象の明確化及びその取扱い
パーソナルデータの中には、現状では個人情報として保護の対象に含まれるか否かが事
業者にとって明らかでないために「利活用の壁」となっているものがあるとの指摘がある。
このため、個人の権利利益の保護と事業活動の実態に配慮しつつ、指紋認識データ、顔認
識データ等個人の身体的特性に関するもの等のうち、保護の対象となるものを明確化し、
必要に応じて規律を定めることとする。
また、保護対象の見直しについては、事業者の組織、活動の実態及び情報通信技術の進
展等、社会の実態に即した柔軟な判断をなし得るものとなるよう留意するとともに、技術の
進展や新たなパーソナルデータの利活用のニーズに即して、機動的に行うことができるよう
措置することとする。なお、保護の対象となる「個人情報」等の定義への該当性について
は、第三者機関が解釈の明確化を図るとともに、個別の事案に関する事前相談等により迅
28
速な対応に努めることとする。
5.4
担い手の育成・発掘に係る対応策
データの共有・利活用によるイノベーションを担う、具体的な人材像を検討するとともに、
産学官の適切な役割分担の下、その育成・発掘を進める。また、データ取引を仲介するベ
ンチャー企業等の担い手の育成・支援に取り組む。
(1)協議会の参加メンバーの参画を得て、それを推進する人材像や求められる「標準スキ
ル」を検討する。また、そうした専門人材を育成するために、大学、事業者、公的機関(情
報処理推進機構等)が果たすべき役割について、検討・公表する。
ド リ ブ ン
(2)データ駆動型イノベーションを担う人材が組織内のどの部門において、どのように活躍
しているのか、具体的な事例を取りまとめ、公表する。
(3)データ取引の仲介の役割を担うプラットフォーマーを育成するため、専門家の協力を
得て、データを保有する者又は他者が保有するデータを利活用する者とのマッチング
や、そうしたプラットフォーマーが取り扱うデータの標準化等の支援策を講ずる。
(4)自らはデータを保有しないが、データを利活用したビジネスのアイデアを有するITベ
ンチャーが、組織・分野を超えてデータを取得して「成功事例」を創出するため、データ
を保有する者等とのマッチング等の支援策を講じ、そうしたITベンチャーの活躍・可能
性を広く社会にアピールする。
ド リ ブ ン
5.5
データ駆動型イノベーション創出戦略協議会の在り方
ド リ ブ ン
2014 年 6 月に、経済産業省が事務局となって設立したデータ駆動型イノベーション創出
戦略協議会について、事業者間の情報共有やデータ取引のマッチングを促進する場として、
どのような組織の在り方が望ましいか、民間の組織体との連携や協議会の体制強化を含
め、引き続き、検討する。
以
29
上
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