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各種外用抗真菌薬の in vitro 抗真菌活性の測定

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各種外用抗真菌薬の in vitro 抗真菌活性の測定
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日皮会誌:117(2)
,149―152,2007(平19)
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各種外用抗真菌薬の in vitro 抗真菌活性の測定
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南條 育子1) 古賀 裕康1)2) 坪井 良治2)
要
旨
わが国で医療用として使用されている外用抗真菌薬
11 剤について,表在性真菌症の起因菌である皮膚糸状
菌(Trichophyton rubrum および Trichophyton mentagro-
Trichophyton mentagrophytes)ならびに Candida albicans
に対する in vitro 抗真菌活性を標準化微量液体希釈法
で測定し,薬剤の特性を比較した.
材料および方法
phytes)ならびに Candida albicans に対する in vitro 抗真
アゾール系薬剤のルリコナゾール(LLCZ:純度
菌活性を標準化微量液体希釈法で測定し,薬剤の特性
99.7%)
,ラノコナゾール(LCZ:純度 99.4%)および
を比較検討した.その結果,各菌種に対する抗真菌活
塩酸ネチコナゾール(NCZ:純度 94.5%)
,ベンジル
性は薬剤の構造分類により差がみられ,テルビナフィ
ア ミ ン 系 薬 剤 の 塩 酸 ブ テ ナ フ ィ ン(BTF:純 度
ン,ブテナフィンおよびリラナフタートの活性は,皮
100%)
,アリルアミン系薬剤の塩酸テルビナフィン
膚糸状菌に対して強く,C. albicans では弱かった.一
(TBF:純度 99.8%)ならびにモルホリン系薬剤の塩
方,アモロルフィンやアゾール系薬剤のケトコナゾー
酸アモロルフィン(AMO:純度 97.5%)は日本農薬
ル,クロトリマゾール,ミコナゾール,ネチコナゾー
(株)で合成・精製された原末を,またチオカルバミン
ル,ビホナゾール,
ルリコナゾールおよびラノコナゾー
酸系のリラナフタート(LNF:純度 99.6%)はポーラ
ルは C. albicans に対してより強い活性を示した.これ
化成工業(株)にて合成・精製された原末を用いた.
ら薬剤の中で,ルリコナゾールおよびラノコナゾール
ア ゾ ー ル 系 の 硝 酸 ミ コ ナ ゾ ー ル(MCZ:純 度
では,皮膚糸状菌に対しても極めて強い活性がみられ,
100%)
,ビホナゾール
(BFZ:純度 99% 以上)
,ケト
最も活性の強いルリコナゾールでは,白癬の主要病原
コナゾール(KCZ:純度 99% 以上)およびクロトリ
菌である T. rubrum に対する MIC 範囲が≦0.00012∼
マゾール(CTZ:純度 99.6%)は Sigma 社より試薬
0.00024µg!
ml に及んだ.これらの試験結果は,皮膚真
を購入した.薬剤は dimethylsulfoxide(DMSO)に溶
菌症の治療にあたって,外用抗真菌薬を選択する際に
解し,
実験系における DMSO 最終濃度が 1% になるよ
有用な情報になると考えられた.
う調製した.試験菌株は,独立行政法人製品評価技術
はじめに
基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門
(NBRC)
,帝京大学医真菌研究センター(TIMM)ある
各種皮膚真菌症を治療するために外用抗真菌薬を選
いは American Type Culture Collection(ATCC)より
択する場合には,
起因菌に対する in vitro 抗真菌活性は
分 譲 を 受 け,当 施 設 で 継 代 保 存 し た T. rubrum,T.
有用な情報となる.しかし,標準化された測定法によ
mentagrophytes および C. albicans の各 10 株である(表
り市販薬剤の in vitro 抗真菌活性を同一条件下で比較
1)
.薬剤の最小発育阻止濃度(MIC)は,微量液体希
検討した報告は少ない.そこで本研究では,昨年発売
釈法を用いて測定した.すなわち,皮膚糸状菌につい
されたルリコナゾールを含め,わが国で使用されてい
ては日本医真菌学会提案の方法1)に従った.C. albicans
る医療用外用抗真菌薬 11 剤について,
表在性真菌症の
については,M27-A2 法2)を基本とし,発育指示薬 Ala-
起因菌である皮膚糸状菌(Trichophyton rubrum および
mar BlueTM(和光純薬工業(株)
)
を用いた終末点の判
定3)を行った.皮膚糸状菌および C. albicans のいずれの
1)
日本農薬株式会社総合研究所
東京医科大学皮膚科学講座
平成 18 年 9 月 12 日受付,平成 18 年 11 月 20 日掲載
決定
別刷請求先:
(〒586―0094)大阪府河内長野市小山田
町 345 日本農薬株式会社総合研究所 古賀 裕康
2)
測定においても,Alamar BlueTM の実験系における添
加濃度は 10% とし,皮膚糸状菌は 27℃ で培養 3∼5
日後,また C. albicans は 35℃ で培養 1∼2 日後に,570
nm における吸光度をマイクロプレートリーダーで 2
波長測定(OD570―595nm)した.試験は 2 連で行い,測定
150
南條
育子ほか
表 1 使用菌株
分類
菌種
菌株番号
T.me
nt
a
gr
o
phyt
e
s
皮膚糸状菌
TI
MM1
814,TI
MM1
815,TI
MM1
816,TI
MM2
789,ATCC18748
NBRC5467,NBRC5807,NBRC5808,NBRC6203,NBRC6204,
T.r
ub
r
um
カンジダ
NBRC5466,NBRC5809,NBRC5810,NBRC5811,TI
MM1
189,
NBRC9185,TI
MM1
822,TI
MM1
823,TI
MM1
824,TI
MM1
830
C.a
l
b
i
c
a
ns
NBRC0197,NBRC0579,NBRC0583,NBRC0588,NBRC1061,
NBRC1269,NBRC1270,NBRC1385,NBRC1386,NBRC1389
表 2 皮膚糸状菌および C.al
bi
cans に対する各種外用抗真菌薬の i
nvi
t
r
o 抗真菌活性
MI
C(μg/ml
)
菌種
(使用株数)
C.a
l
b
i
c
a
ns
(1
0
)
T.me
nt
a
g
r
o
p
h
y
t
e
s
(1
0
)
T.r
ub
r
um
(1
0
)
TBF
範囲
2
~8
LNF
BTF
AMO
> 16
> 16 0.
063
~4
CTZ
NCZ
MCZ
KCZ
BFZ
≦ 0.
0039 0.
016
0.
016 ≦ 0.
002 0.
25
~ 0.
031 ~ 0.
063 ~ 0.
063 ~ 0.
016 ~ 1
LCZ
0.
031
~ 0.
25
LLCZ
0.
031
~ 0.
13
幾何平
均値*
3.
2
32
32
0.
23
0.
012
0.
039
0.
029
0.
006
0.
71
0.
073
0.
055
MI
C90
4
> 16
> 16
2
0.
016
0.
063
0.
063
0.
0078
1
0.
13
0.
13
範囲
0
.
0
0
2
0.
0039 0.
0078 0.
031 0.
016
~ 0.
031 ~ 0.
063 ~ 0.
063 ~ 0.
25 ~ 0.
5
幾何平
0.
01
0.
019
0.
027
0.
14
0.
09
均値
0.
13
~4
0.
47
0.
00098 0.
00049
~ 0.
0039 ~ 0.
002
0.
0017
0.
0011
MI
C90
0.
016
0.
031
0.
063
0.
25
0.
25
0.
13
2
1
範囲 0
.
0
0
2
0.
002
0.
0039 0.
016 0.
031
≦ 0.
0078 0.
031 0.
016
~ 0.
0078 ~ 0.
016 ~ 0.
031 ~ 0.
031 ~ 0.
063 ~ 0.
031 ~ 0.
25 ~ 0.
13
1
0.
0078
~ 0.
25
0.
0039
0.
002
0.
00024 ≦ 0.
00012
~ 0.
00098 ~ 0.
00024
幾何平 0
.
0
0
37
均値
0.
028
0.
0004
MI
C90
0.
0049
0.
25
0.
063
0.
25
0.
031
0.
073
0.
13
0.
13
0.
037
0.
13
0.
031
0.
031
0.
017
0.
0078
~4
0.
11
0.
031
0.
016
0.
051
0.
13
0.
016
0.
016
0.
027
Tr
i
c
h
o
p
h
y
t
o 範囲 0
.
0
0
2
0.
002
0.
0039 0.
016 0.
016
≦ 0.
0078 0.
031 0.
016
~ 0.
031 ~ 0.
063 ~ 0.
063 ~ 0.
25 ~ 0.
5
~ 0.
13 ~ 2
~1
ns
p
p
.
(2
0
)
幾何平
0.
0062 0.
0097 0.
017
0.
061 0.
068
0.
031
0.
22
0.
14
均値
MI
C90
0.
0078
0.
01
0.
016
0.
13
0.
25
~ 0.
13 ~ 2
~1
0.
055
0.
66
0.
5
1
1
1
0.
00049
0.
0002
0.
00024
0.
00024 ≦ 0.
00012
~ 0.
0039 ~ 0.
002
0.
0009
0.
0005
0.
002
0.
002
TBF:テルビナフィン ,
LNF:リラナフタート ,
BTF:ブテナフィン ,
AMO:アモロルフィン ,
CTZ:クロトリマゾール ,
NCZ:ネ
チコナゾール ,
MCZ:ミコナゾール ,
KCZ:ケトコナゾール ,
BFZ:ビホナゾール ,
LCZ:ラノコナゾールおよび LLCZ:ルリコナ
ゾール
*:MI
Cが設定濃度以下となった場合(≦ a)はその濃度(a)を,設定濃度より大きくなった場合(> b)はその次の濃度(b×2)
を用いて計算した.
値の平均を代表値とした.菌の発育を,
発育コントロー
ルの測定値の 80% 以上阻害する最小薬物濃度を MIC
結果および考察
とし,その幾何平均値を算出するとともに,試験株数
現在国内で医療用に使用されている外用抗真菌薬
の 90% の株の発育を阻害する濃度
(MIC90)
を求めた.
は,抗生物質を除けば 5 系統 17 剤に及ぶが,今回は各
各試験の測定精度は,推奨される quality control
(QC)
系統より比較的使用頻度の高いとみられる 11 薬剤を
株と標準薬剤を用いて管理した.皮膚糸状菌では T.
選択した.皮膚糸状菌(T. rubrum 10 株と T. mentagro-
mentagrophytes ATCC18748 に対する TBF の MIC,ま
phytes 10 株の計 20 株)と C. albicans(10 株)について
た C. albicans では C. parapsilosis ATCC22019 に対する
得られた各薬剤の MIC を表 2 にまとめた.またそれら
フルコナゾール(和光純薬工業(株)
)
の MIC が許容範
の成績をもとに MIC 幾何平均値および MIC 範囲を比
囲内であることを確認した.
較して図 1 に示した.アリルアミン系の TBF,チオカ
外用抗真菌薬の in vitro 抗菌活性
図 1 各種外用抗真菌薬の i
nvi
t
r
o抗真菌活性.
表 1の成績をもとに Tr
i
c
h
o
p
h
y
t
o
n属 2
0株(T.r
ub
r
um
1
0株,T.
me
nt
a
g
r
o
p
h
y
t
e
s1
0株)および C.a
l
b
i
c
a
ns1
0株
に対する幾何平均 MI
Cと MI
C範囲を図示した.
151
図 2 各種外用抗真菌薬の皮膚糸状菌に対する i
nvi
t
r
o抗真菌活性.
ub
r
um 1
0株および T.me
nt
a
表 1の成績をもとに T.r
g
r
o
p
h
y
t
e
s1
0株に対する幾何平均 MI
Cと MI
C範囲を
図示した.
ルバミン酸系の LNF およびベンジルアミン系の BTF
は皮膚糸状菌に対して強い活性を示したが,C. albicans
経 路 上 の 標 的 部 位 は 異 な る4).合 成 経 路 上 流 の
に対する MIC は 2µg!
ml 以上となり活性は弱かった.
squalene epoxidase を阻害するアリルアミン系,チオ
モルホリン系の AMO は,C. albicans に対して上述の
カルバミン酸系およびベンジルアミン系では皮膚糸状
薬剤群より強い活性を示したが,MIC 範囲は広かっ
菌に対して強い活性を示したが C. albicans には抗菌活
た.これらと比較してアゾール系薬剤は C. albicans に
性が 弱 く,一 方,下 流 の lanosterol 14α-demethylase
対してさらに強い活性を示す傾向があり,この系統の
を標的とするアゾール系では,抗真菌スペクトラムに
中 で は KCZ に 最 も 強 い 活 性(MIC 範 囲:≦0.002∼
広がりがみられ,特に C. albicans に対する作用が強く
0.016µg!
ml)がみられた.皮膚糸状菌に対しては,ア
なった.さらに下流の sterol reductase および sterol
ゾール系の CTZ,NCZ,MCZ,KCZ およ び BFZ の
isomerase を標的としたモルホリン系ではアゾール系
MIC90 はいずれも 0.1µg!
ml 付近に分布し,薬剤間の差
と大きな差はみられなかった.
なお,
LLCZ および LCZ
はみられなかった.一方,LLCZ および LCZ では皮膚
は,化学構造にジチオラン環を導入することで優れた
糸状菌に対して極めて強い活性が認められた.表 2 で
抗真菌活性が見出された化合物であり5),そのような
得られた成績をもとに,皮膚糸状菌のうち,T. rubrum
構造上の特徴が皮膚糸状菌に対する強力な活性を与え
と T. mentagrophytes に対する各種薬剤の活性を比較
たものと推察される.
して図 2 に示した.薬剤の活性に応じて両菌種に対す
一般に,外用抗真菌薬の治療効果には,抗真菌活性
る MIC はほぼパラレルに低下したが,LLCZ および
に加えて皮膚角層での薬物動態も関係するとされる.
LCZ では,白癬の主要病原菌である T. rubrum に対す
従って in vitro 抗真菌活性の強さだけで一概に外用薬
る活性がより強くみられる傾向にあった.最も活性の
の有効性を論ずることは出来ないが,病原菌に対する
強かった LLCZ の T. rubrum に対する MIC 範 囲 は≦
基本的な効力を見積もる上では重要な成績である.一
0.00012∼0.00024µg!
ml と極めて低く,かつ狭い範囲に
方,臨床使用されている薬剤の原末は市販入手できな
分布した.
いものも多く,本研究においても使用した 11 剤の内 7
今回試験した 11 剤はいずれも真菌のエルゴステ
剤を自家合成することではじめて比較することができ
ロール生合成を阻害するが,薬剤の系統によって合成
た.各種薬剤の抗真菌活性を再現性の高い手法で,か
152
南條
育子ほか
つ同一条件下で比較した今回の成績は,皮膚真菌症の
治療にあたって薬剤を選択する際に有用な基礎情報に
謝辞:リラナフタート原末をご提供頂いたポーラ化成工
業(株)医薬品開発研究部にお礼申し上げます.
なると考えられる.
文
1)篠田孝子,久米 光,福島和貴ほか:日本医真菌学
会標準化委員会報告(1995∼1997 年)提案,糸状
菌の抗真菌薬感受性試験法,真菌誌,40 : 239―257,
1999.
2)National Committee for Clinical Laboratory Standards : Reference method for broth dilution antifungal susceptibility testing of yeasts ; Approved
standard M27-A2, 2nd. ed, NCCLS, 2002.
3)Pfaller M.A. and Barry A.L. : Evaluation of a novel
colorimetric broth microdilution method for anti-
献
fungal susceptibility testing yeast isolates. J. Clin.
Microbiol., 32 : 1992―1996, 1994.
4)山口英世著:病原真菌と真菌症
(第 3 版)
,南山堂,
東京,2005, 133―140.
5)Niwano Y, Ohmi T, Seo A, Kodama H, Koga H,
Sakai A : Lanoconazole and its related optically
active compound NND-502 : Novel antifungal imidazoles with ketene dithioacetal structure, Curr.
Med. Chem-Anti-infective agents, 2 : 147 ― 160,
2003.
In vitro Antifungal Activities of Clinically Available Topical Antifungal Drugs
Yasuko Nanjoh1), Hiroyasu Koga1)2)and Ryoji Tsuboi2)
1)
Research Center, Nihon Nohyaku Co., Ltd., Osaka, Japan
Department of Dermatology, Tokyo Medical University, Tokyo, Japan
2)
(Received September 12, 2006 ; accepted for publication November 20, 2006)
Eleven topical antifungal drugs clinically available in Japan were examined in vitro for their minimum inhibitory concentration(MIC)against Candida albicans and dermatophytes of the genus Trichophyton using standardized broth micro-dilution methods. The antifungal spectrum and activity of each drug was related to its
chemical structure. Terbinafine, butenafine, and liranaftate had high activity levels against the Trichophyton
spp., but rather low ones against C. albicans. On the other hand, amorolfine and the azole drugs such as luliconazole, lanoconazole, neticonazole, clotrimazole, bifonazole, miconazole and ketoconazole showed greater potency against C. albicans. Among the drugs tested, luliconazole and lanoconazole exerted the most potent antifungal effect against the Trichophyton spp. The MIC of luliconazole against T. rubrum, one of the major causes
of dermatomycoses, was in the range of ≦0.00012-0.00024µg!
ml.
The results obtained in this study will help physicians make the most appropriate choices from among
the various topical antifungal remedies available for the treatment of superficial fungal infections.
(Jpn J Dermatol 117 : 149∼152, 2007)
Key words : In vitro, MIC, Topical antifungal drugs, Candida albicans, Dermatophytes
Fly UP