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社会貢献型ファンドの運用スタイルをめぐって

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社会貢献型ファンドの運用スタイルをめぐって
NFI リサーチ・レビュー
2008 年 9 月号
*** 論
文 ***
社会貢献型ファンドの運用スタイルをめぐって
~ 国内株式の一般型ファンドとの比較検証 ~
資産運用研究所
--------------------------------------------
要
呂
潔
約 --------------------------------------------
近年、企業の社会的責任(CSR)を意識した経営者、社会的責任投資(SRI)を意識し
た個人投資家および機関投資家が増えるにつれ、環境問題、社会問題、倫理問題をテーマ
にした社会貢献型ファンドの台頭が顕著になっている。
社会貢献型ファンドの投資意義について熱い議論が交わされている。多くの欧米の先行
研究では、社会貢献型ファンドの投資機会には制約があっても、一般の株式ファンドとの
比較では、パフォーマンス上、統計的に有意な差は確認できないことが示されている。一
概に一般の株式ファンドと社会貢献型ファンドで、いずれのパフォーマンスが勝っている
と決定づけるには難しい状況にある。投資家にとっては、パフォーマンスの良さも重要で
あるが、より重視すべきところは、社会貢献型ファンドの組成の際の CSR の評価を行うプ
ロセスであろう。すなわち、同じ株式投資でも、明確な CSR 評価の基準、プロセスがあれ
ば、そのファンドへの投資が社会貢献につながる可能性がある。そして、このような投資
は社会貢献をしている当該企業へを応援することにもなるのである。
本稿では、運用会社を同じくする社会貢献型ファンドと一般のアクティブ型株式ファン
ドとを比較し、定量的な手法でそれぞれの運用スタイルの差異について検証した。分析の
結果、いわゆる社会貢献型ファンドは、運用会社の中で、一般の株式ファンドと必ずしも
運用スタイルが異なるとは言えないことが示唆された。環境ファンドも例外ではない。
今回、検証の対象とした社会貢献ファンドの多数が TOPIX をベンチマークないし参考
指数としており、今後、社会貢献ファンドが一般の株式ファンドと運用スタイルの一因と
なっているのかについて、さらに検討してゆきたい。
日興フィナンシャル・インテリジェンス
NFI RESEARCH REVIEW
SEPTEMBER 2008
目
次
1. はじめに
2. 社会貢献型ファンド
2.1
社会貢献型ファンドのタイプ
2.2
分析対象ファンドの特徴
3. 一般型ファンドとの比較検証
3.1
検証目的
3.2
運用スタイルの比較検証方法とデータ
4. 分析結果
4.1
リターンの比較
4.2
運用スタイルの比較
5. おわりに
1.はじめに
7 月に北海道で開催されたサミットの後も、環境問題への関心はますます高まってい
るようだ。環境問題に限らず、包括的に社会的責任とはどういう問題なのかを考えるべ
き時を迎えている。投信業界でも、このテーマに関連するファンドも増える傾向にある。
環境保護、発展途上国支援に貢献する商品が相次いで登場しているほか、信託報酬の一
部を開発・環境団体に寄付する投資信託も目につく。
CSR を積極的に意識して活動を行っている企業にとっては、社会に対する貢献度が
正しく評価されることが必要である。最も期待すべきことは、今後 CSR への取り組み
を積極的に行う企業が増えることだろう。
しかし、評価する基準について、国内においては、まだ統一した指標がない。本誌の
同号に掲載している佐藤(2008)では、多数ある評価機関の中で、ファミリー、雇用、環
境等さまざまな角度で SRI、CSR 評価が行われていることが示されている。しかし、
CSR への取り組みが優れている企業に投資を行っているファンドを評価する適当なパ
フォーマンス指標がないのが実状である。
Nikko Financial Intelligence,Inc.
NFI リサーチ・レビュー
2008 年 9 月号
2. 社会貢献型ファンド
2.1 社会貢献型ファンドのタイプ
日興フィナンシャル・インテリジェンス(以下、NFI)では、目論見書本文に銘柄選
択基準の一つに社会貢献と判断できるような記述がある場合に、当該ファンドを社会貢
献型ファンドに分類している。2008 年 6 月末時点において、42 本の社会貢献型ファン
ドがあり、その内訳は図表 1 の通りである。投資先は国内に限定タイプ、グローバル
投資タイプ、多資産クラスの商品を対象とするタイプと様々である。
図表 1 社会貢献型ファンドの本数および規模
分類名
ファンド数(本) 総資産額(億円)
国内株式
グローバル株式
複合
総計
26
11
5
42
1,751
205
90
2,046
株式以外に外債や REIT の運用商品を取り入れたり、「分配型」や「分散型」の仕組
みも採用したりするファンドもあり、社会貢献型ファンドの投資手法および評価基準を
一般型のファンドと区別するのは容易ではない。したがって、今回は国内株式にのみ投
資する社会貢献型ファンドに絞って、これらのファンドの運用面の特徴を探ってみたい。
2.2 分析対象ファンドの特徴
NFI のファンド分類により、国内株式に限定して投資する社会貢献型ファンドを付
表 1 にまとめた。パッシブ運用 2 本を除けば、ベンチマークあるいは参考指標として
TOPIX を利用しているアクティブファンドが 24 本ある。その中で、同じマザーファ
ンドあるいは同じポートフォリオを通じて組成されるファンドが複数存在しているた
め、実際に 1 年以上の分析対象となるファンド数は 15 本に絞られる。
また、各ファンドの直近の運用レポートによれば、TOPIX33 業種のうち、輸送用機
器、電気機器、銀行業、化学という時価総額の大きい業種に投資しているファンドが多
い。一方、鉄鋼業、食料品、海運業、サービス業、医薬品にも比較的高いウェートで投
資しているファンドもある(図表2)。
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SEPTEMBER 2008
業種
図表 2 対象ファンドの組入れ上位 5 業種
輸送用機器
電気機器
銀行業
化学
卸売業
機械
証券、商品先物取引業
小売業
鉄鋼
食料品
海運業
医薬品
サービス業
陸運業
保険業
不動産業
非鉄金属
電気・ガス業
情報・通信業
倉庫・運輸関連業
繊維製品
石油・石炭製品
精密機器
水産・農林業
鉱業
建設業
空運業
金属製品
パルプ・紙
その他製品
その他金融業
ゴム製品
ガラス・土石製品
0
3
5
8
10
13
15
ファンド数
この 15 本ファンドの設定来のパフォーマンスはどうなっているだろうか。ファンド
の運用期間が異なるため、2008 年 6 月末時点の基準価格を 10000 と設定し、各ファン
ドの分配金再投資ベースでのリターンの時系列データを指数化したのが図表 3 である。
比較のため、太い点線が TOPIX の指数化値である。図表 3 から以下のようなことが指
摘できる。
(1) 基準価格 10000 を起点とすれば、上方部にある曲線の任意の位置から直近まで
のパフォーマンスはマイナスとなり、逆の場合はプラスとなる。ファンド設定の
タイミングにより、設定来から 6 月末時点までのパフォーマンスに差が開いてい
る。
(2) 2000 年前後では、立ち上がったファンド数は少ないが、TOPIX との乖離がはっ
きり見られる。
(3) 2007 年後半からは 15 本のファンドが TOPIX とほぼ同じような動きとなってい
る。特に、サブプライムショック以降、ドローダウンの傾斜およびその後の回復
もほぼ同じような動きをしている。
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2008 年 9 月号
図表 3 対象ファンドのパフォーマンス (2008 年 6 月末=10000 として指数化)
15000
13000
11000
9000
7000
5000
99/09
01/11
04/01
06/04
08/06
実際、TOPIX との連動性をみるため、下記の単回帰分析を行った。図表 4 の結果か
ら見ると、市場ファクターのエクスポージャーBM と決定係数 R2 では、ファンド H、
ファンド I とファンド N がやや低いが、他の社会貢献型ファンドが TOPIX との連動性
がかなり高く、説明力も高いことがわかる(ただ、ここでは、各ファンドそれぞれの設
定来の時系列データを用いて回帰分析を行ったため、ファンド間での比較は適切ではな
い)。
Ri ,t = α i + β iBM RtBM + ε i ,t
ここで、 Ri ,t
: ファンド i のt期の超過リターン
RtBM : TOPIX のt期の超過リターン
αi
: ファンド i のアルファ
ε i,t
: 残差項
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図表 4 対象ファンドの TOPIX との連動性
NO.
ファンド
α
αのt値
β BM
β BMのt値
R2
1
ファンドA
-0.001
-1.297
0.993
45.366
0.952
2
ファンドB
-0.001
-0.399
1.094
38.232
0.937
3
ファンドC
0.000
0.460
1.017
60.723
0.989
4
ファンドD
0.000
-0.061
0.967
20.682
0.945
5
ファンドE
0.001
0.588
1.006
32.119
0.956
6
ファンドF
-0.004
-1.804
0.902
19.247
0.920
7
ファンドG
0.000
-0.138
0.990
26.290
0.949
8
ファンドH
0.001
0.795
0.873
26.444
0.872
9
ファンドI
0.004
1.313
0.885
15.086
0.860
10
ファンドJ
-0.001
-0.515
1.022
41.508
0.944
11
ファンドK
-0.001
-1.179
0.967
47.420
0.957
12
ファンドL
0.000
0.065
1.002
47.747
0.979
13
ファンドM
0.000
0.201
1.062
35.838
0.961
14
ファンドN
0.000
-0.205
0.850
27.237
0.891
15
ファンドO
0.000
0.033
0.970
16.573
0.942
3. 一般型ファンドの比較検証
3.1
検証目的
投資の流動性を考慮すれば、時価総額ベースでの上位の業種あるいは銘柄が選ばれる
のは予想外ではない。しかし、社会貢献型ファンドの投資のプロセスを考えれば、
通常、
成長性や収益性など財務的評価を加味するとともに、社会的責任度の評価が高いと判断
された企業群から銘柄選択やウェートの決定を行うことは、一般の株式ファンドと異な
る点であると考えられる。
本稿では、同じ運用会社が国内株式のアクティブ型ファンドを運用する場合に、社会
貢献型ファンドとそうでないファンドとの間に、明確な運用スタイルの差異があるかに
ついて検証する。
3.2
運用スタイルの検証方法とデータ
一般の株式ファンドといっても、パシッブ運用あるいは特定の業種などに限定するフ
ァンドも含まれている。そこで、まず社会貢献型ファンドを運用している運用会社から、
株式一般型ファンドを選定するにあたって、以下の項目の一つでも抵触すれば排除した。
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2008 年 9 月号
(1)1 年未満のファンド。
(2)特定のスタイルのファンド:
業種限定、地域限定、小型株中心、インデックス運用等。
(3)6 月末時点で 2 ヶ月以内に償還する予定のあるファンド。
(4)外国の金融資産も投資可能な対象として明記しているファンド。
さらに、異なるファンドであっても、マザーファンドが一致する場合、検証結果に偏
りが生じる可能性があるため、複数ファンドから 1 本に絞る作業を行った。その際、
資産規模が大きいファンドを選別した。これは運用の制約が少ないと考えられるからで
ある。
運用会社の規模によって、ファンド数が限られるケースがある。実際、社会貢献型フ
ァンド 15 本を組成した運用会社のファンドを集計したところ、12 社の運用会社のうち、
1 社は比較できるファンドがなかった。残り 11 社では、運用会社の規模により、比較
できるファンド数にはバラツキがあった。多いところでは、20 本以上あるのに対して、
少ない場合は 1~2 本に限られていた。ただ、今回分析の目的は、同じ会社内のファン
ドの運用スタイルに違いがあるか検討することであるため、ファンド数による影響はほ
とんどないと考えられる。
本稿では、社会貢献型ファンドの運用スタイルについて検証することが目的であるた
め、月次リターンを用いて、下記のローリング重回帰分析を行い、両グループの 3 フ
ァクター要因に対するエクスポージャーを推測し、そのスタイルの推移をみる。ここで、
ローリング期間は 12 ヶ月としている。
使用したファクター指標(*式)は東証一部、二部、ジャスダック 3 市場の銘柄で
構成された全市場での各分類グループによるリターンである [中嶋(2006)参照] 。
Ri,t = α i + βiBM RtBM + βiHMLRtHML + βiSMBRtSMB + ε i,t
ここで、 Ri ,t
・・・
(*)
: ファンド i のt期の超過リターン
RtBM : 全市場のt期の超過リターン
RtHML : 全市場小型ポートフォリオと大型ポートフォリオの
t期のリターンの差
SMB
t
R
:
全市場高 B/P(PBR の逆数)ポートフォリオと
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低 B/P ポートフォリオのt期のリターンの差
αi
: ファンド i のアルファ
ε i,t : ファンド i のt期の残差
4. 分析結果
4.1
リターンの比較
各運用会社における社会貢献型ファンドと一般の株式ファンドの運用スタイルを見
る前に、両者のリターンベースでの差異を確認する。直近 18 ヶ月間の月次リターンの
累積差およびその累積差の標準偏差を計算し、図表 5 にまとめた。
図表 5 に示すように、各社会貢献型ファンドの比較可能なファンド数は異なるが、
同じ会社内の他ファンドに比べて、18 ヶ月の累積差の最大値は、ファンド G を除けば、
すべての社会貢献型ファンドがプラス値となっている。平均値からも 14 ファンド中 9
ファンドで同じ会社内の他ファンドの平均利回りを上回っていることがわかる。他ファ
ンドとの月次リターンベースでのブレ度合い(標準偏差)では、ファンド F がやや高いほ
か、全体の平均水準は年率で約 4%~6%の範囲内である。
図表 5 月次リターンベースでの比較(期間:2007 年 1 月~2008 月 6 月)
NO.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
ファンド
ファンドA
ファンドB
ファンドC
ファンドD
ファンドE
ファンドF
ファンドG
ファンドH
ファンドI
ファンドJ
ファンドK
ファンドL
ファンドM
ファンドN
ファンドO
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比較ファ
ンド数
10
23
23
24
24
11
2
3
3
8
0
1
6
2
4
累積差
標準偏差
High
Low
Ave
High
Low
Ave
8.1%
10.3%
14.2%
5.4%
6.9%
1.0%
-3.9%
20.9%
9.2%
8.4%
1.2%
4.0%
9.0%
9.5%
-3.7%
-9.4%
-5.5%
-11.6%
-10.2%
-10.6%
-7.8%
6.4%
-5.3%
-1.6%
1.2%
-14.1%
2.2%
-4.0%
-0.1%
0.2%
4.1%
-0.2%
1.2%
-7.1%
-5.9%
13.6%
1.9%
4.2%
1.2%
-5.9%
5.6%
2.7%
2.4%
3.6%
3.9%
2.7%
2.6%
5.2%
2.3%
1.8%
1.4%
1.6%
1.9%
5.6%
2.2%
1.7%
0.7%
0.6%
0.6%
0.9%
0.7%
1.6%
1.4%
1.1%
0.6%
0.6%
1.9%
0.6%
1.7%
0.9%
1.2%
1.4%
1.5%
1.5%
1.5%
2.6%
1.8%
1.4%
1.1%
1.1%
1.9%
1.8%
1.9%
1.3%
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2008 年 9 月号
4.2
運用スタイルの比較
ローリング回帰の結果により、市場ファクター(BM 係数)、規模ファクター(SMB
係数)
、BP ファクター(HML 係数)3 ファクターのエクスポージャーの推移をグラフ
に示した。図表 6 の各グラフで、社会貢献型ファンドを点線で、一般の株式ファンド
を実線で描いた。
(1)社会貢献型ファンドと一般の株式ファンド
社会貢献型ファンドと一般の株式ファンドの運用スタイルが異なるかという点につ
いて、運用会社によってばらつきがあることがわかる。
図表 6-1 の上下 2 社の推移の例を見ると、ファンドNの運用会社では、実線の一般の
株式ファンド 2 本と比べて、点線で表した社会貢献型ファンドは、3 つのリスクファク
ターともエクスポージャーの推移が異なる動きをしていることがはっきり見える。一方、
ファンド H の運用会社では、3 リスクファクターに対して、社会貢献型ファンドは、3
本の一般の株式ファンドのうち、ある 1 本のファンドとはほぼ同じ水準で推移してい
ることが見える。実際、そのファンドのリターン系列を用いて計算すると、両ファンド
の相関係数 0.97 という結果が得られた。もし社会貢献型ファンドが一般の株式ファン
ドと変わらないスタイルで運用されているなら、実際 CSR 的なスクリーニングを行う
意義が薄れてしまう。
(2)TOPIX をベンチマークとするファンド
(1)のファンドHの運用会社で見られたようなスタイルの類似性が起こる原因の一
つにベンチマークの問題があるのではないか。そこで、同じ会社のファンドでも、
TOPIX を意識して運用するタイプとそうではないタイプを比較する。ここで、ファン
ド M とその会社の TOPIX ベンチマーク群と非 TOPIX ベンチマーク群について、運用
スタイルを見たものが図表 6-2 である。社会貢献型のファンド M は明らかに TOPIX
ベンチマーク群のファンドと似たような動きをしている。すなわち、SRI、CSR によ
るスクリーニング指標を重視することより、TOPIX を意識した運用が行われていると
言えるだろう。
そもそも社会貢献型ファンドが TOPIX をベンチマークにして評価すべきかどうかに
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ついては疑問がある。現状、国内で利用可能な社会的責任指数はモーニングスター社の
MS-SRI 指数と、FTSE 社の日本株のみで構成された FTSE4 Good Japan Index のほ
か、東証のカスタマイズ指数 TOPIX 1000 CSR がある。TOPIX 1000 CSR については
詳細な情報が開示されていないが、前 2 者の両指数はいずれも TOPIX と 0.95 以上の
相関性を持つ。この要因として、TOPIX の時価総額上位の大型企業のほうが CSR 評
価を受ける際、中小企業よりアンケートやインタビュー等の対応の体制が整備されてい
ることが考えられる。
(3)環境ファンドと CSR ファンド
環境の視点あるいは社会の雇用等 CSR 問題の視点から社会貢献型ファンドを組成す
る際、これらの問題に取り組む企業を評価する基準がそもそも違うはずである。実際、
今回分析対象ファンドの中、異なるテーマで 2 本社会貢献型ファンドを運用している
会社が 3 社ある。同じ会社内でも社会貢献型ファンドの中での違いがあるか検証して
みた。
ここで、図表 6-3 に環境ファンドを点線にし、実線は CSR ファンドを表している。
ファンド B、ファンド C の運用会社に比べて、ファンド D、ファンド E 社の HML フ
ァクター、SMB ファクターに対するエクスポージャー、そして銘柄選択能力を意味す
るαの推移の連動性は高いことが見られる。これはファンド D、ファンド E 社の環境
と CSR 問題に対する評価基準に大きな違いがない可能性があると示唆される。
5.おわりに
本稿では、同じ運用会社が運用する国内株式の社会貢献型ファンドと、一般のアクテ
ィブ型株式ファンドの運用スタイルに関する定量分析による比較を行った。分析の結果、
運用会社によって、社会貢献型ファンドの運用スタイルは必ずしも一般の株式ファンド
と異なるとは限らないことがわかった。さらに、同じ会社での環境ファンドと CSR フ
ァンドも同じような結果が見られる。
さらに、現状では、多くの社会貢献型ファンドがベンチマークを TOPIX としている
ので、本当の CSR 評価が十分に反映されているとは言い難い。SRI、CSR に関する明
確で且つ統一的な基準が必要ではないかと考える。
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一方、今回の分析は社会貢献型ファンドを、通常のグロース/バリュー、あるいは大
型/小型といった運用スタイルにより定量的分析を行った結果に過ぎない。助言会社あ
るいは運用会社自身が行った CSR 評価のプロセスについて、定性的な視点からも深く
掘り下げ、さらに、SRI、CSR 評価が共通の独自ファクターを有するかどうか、今後
の研究課題にしたい。
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図表 6-1 社会貢献型ファンドと一般の株式ファンドの比較
ファンドN社
2.0
1.5
BM係数
1.0
1.5
0.5
0.0
1.0
-0.5
0.5
-1.0
-1.5
0.0
1.5
1.0
HML係数
20
期間
50
80
20
0.04
SMB係数
期間
50
80
α
0.02
0.5
0.00
0.0
-0.5
-0.02
-1.0
-1.5
20
期間
50
80
-0.04
20
期間
50
80
ファンドH社
2.0
1.5
BM係数
1.0
1.5
0.5
0.0
1.0
-0.5
0.5
0.0
-1.0
-1.5
20
50
期間
1.5
80
SMB係数
1.0
0.04
0.02
0.5
20
50
期間
80
20
50
期間
80
α
0.00
0.0
-0.5
-0.02
-1.0
-1.5
20
Nikko Financial Intelligence,Inc.
HML係数
50
期間
80
-0.04
NFI リサーチ・レビュー
2008 年 9 月号
図表 6-2 TOPIX をベンチマークとするファンド間の比較_
ファンド M 社
TOPIXベンチマーク群
2.0
1.5
BM係数
1.0
1.5
0.5
1.0
0.0
-0.5
0.5
0.0
1.5
1.0
HML係数
-1.0
-1.5
2
14
期間
26
38
2
0.04
SMB係数
0.02
0.5
0.0
14
期間
26
38
α
0.00
-0.5
-0.02
-1.0
-1.5
2
14
期間
26
-0.04
38
2
14
期間
26
38
非TOPIXベンチマーク群
2.0
1.5
BM係数
1.0
1.5
0.5
0.0
1.0
-0.5
0.5
0.0
HML係数
-1.0
-1.5
2
14
期間
26
1.5
38
SMB係数
1.0
2
0.04
14
期間
26
38
α
0.02
0.5
0.00
0.0
-0.5
-0.02
-1.0
-1.5
2
14
期間
26
38
-0.04
2
14
期間
26
38
日興フィナンシャル・インテリジェンス
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図表 6-3 環境ファンドと CSR ファンドの比較
ファンドB & ファンドCの運用会社
2.0
BM係数
1.5
1.0
HML係数
0.0
-0.5
0.5
1.5
1.0
0.5
1.0
0.0
1.5
-1.0
-1.5
0
10
期間
20
0
30
0.04
SMB係数
10
期間
20
30
20
30
α
0.02
0.5
0.0
0.00
-0.5
-0.02
-1.0
-1.5
0
10
期間
20
30
-0.04
0
10
期間
ファンドD & ファンドEの運用会社
2.0
1.5
BM係数
0.5
0.0
1.0
-0.5
0.5
-1.0
-1.5
0.0
1.5
1.0
HML係数
1.0
1.5
3
8
期間
13
0.04
SMB係数
8
期間
13
3
8
期間
13
α
0.02
0.5
0.0
0.00
-0.5
-0.02
-1.0
-1.5
3
Nikko Financial Intelligence,Inc.
3
8
期間
13
-0.04
NFI リサーチ・レビュー
2008 年 9 月号
付表 1
(2008 年 6 月末時点)
1
モーニングスターSRIインデックス・オ
ープン
20040730
20.53
2
3
4
5
野村日本SRI(社会的責任投資)イン
デックスファンド(確定拠出年金向け)
日興エコファンド
年金積立 エコファンド
エコ・パートナーズ
20040730
19990820
20011031
20000128
0.12
252.63
3.85
19.75
ベンチマーク/
参考指数
モーニングスタ
ー社会的責任
投資株価指数
モーニングスタ
ー社会的責任
投資株価指数
TOPIX
TOPIX
TOPIX
20041203
20060309
20040520
20040720
20050812
34.52
399.99
63.94
0.49
15.48
TOPIX
TOPIX
TOPIX
TOPIX
TOPIX
11
三菱UFJ SRIファンド
ダイワ・エコ・ファンド
ダイワSRIファンド
DC・ダイワSRIファンド
日本SRIオープン
AIG/ひろぎん 日本株式CSRファン
ド
20050428
4.43
TOPIX
12
AIG/りそな ジャパンCSRファンド
20050318
90.42
TOPIX
13
20071220
0.06
TOPIX
14
15
AIG日本株式SRIファンド<DC>
AIG-SAIKYO 日本株式CSRファン
ド
損保ジャパン・グリーン・オープン
20050318
19990930
21.35
198.58
TOPIX
TOPIX
16
損保ジャパンSRIオープン
20050325
14.69
TOPIX
17
18
エコ・ファンド
UBS 日本株式エコ・ファンド
フコクSRI(社会的責任投資)ファンド
(確定拠出年金専用ファンド)
19991022
19991029
39.56
23.23
TOPIX
TOPIX
20040427
32.65
TOPIX
20061208
5.63
TOPIX
20040227
20060612
20031226
23.26
65.98
367.45
TOPIX
TOPIX
TOPIX
住信SRIマザーファンド
住信SRIマザーファンド
住信SRIマザーファンド
24
25
しんきんSRIファンド
すみしん DCグッドカンパニー(社会
的責任投資)
住信 日本株式SRIファンド
住信 SRI・ジャパン・オープン
STAM SRI・ジャパン・オープン(SMA
専用)
朝日ライフ SRI 社会貢献ファンド
-
-
損保ジャパンSRIマザ
ーファンド
エコ・ファンド・マザーフ
ァンド
-
しんきんフコクSRIマザ
ーファンド
しんきんフコクSRIマザ
ーファンド
20070216
20000928
4.73
36.64
TOPIX
TOPIX
26
中央三井社会的責任ファンド
20061130
12.27
TOPIX
住信SRIマザーファンド
-
中央三井SRIマザーフ
ァンド
NO
6
7
8
9
10
19
20
21
22
23
ファンド名
設定日
純資産
(億円)
マザーファンド
モーニングスターSRI イ
ンデックス・オープン マ
ザーファンド
モーニングスターSRI イ
ンデックス・オープン マ
ザーファンド
エコマザーファンド
エコマザーファンド
-
三菱UFJ SRIマザーフ
ァンド
-
ダイワSRIファンド
ダイワSRIファンド
日本SRIマザーファンド
-
AIG ジャパン CSR マザ
ーファンド
AIG ジャパン CSR マザ
ーファンド
分析
対象
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
日興フィナンシャル・インテリジェンス
NFI RESEARCH REVIEW
SEPTEMBER 2008
参考文献
Fama,E.and French,K.[1993],”Common risk factors in the returns on stocks and
bonds,” Journal of Financial Economics 33(1),3-56
Michael Schroder[2005],”Is there a Difference? The Performance Characteristics of SRI
Equity Indexes,” Centre for European Economic Research,Discussion Paper
No.05-50
Rob,B, Kees,K and Roger,O.[2004]”International evidence on ethical mutual fund
performance
and
investment
style,”
Journal
of
Banking
&
Finance
29(2005),1751-1767
佐々木隆文(2004)、
「企業の社会的責任と企業パフォーマンス」
、年金レビュー夏季特別号
(2004/08)
五月女季孝(2007)、「日本の公募 SRI ファンドの現況」、野村 FUND MANAGEMENT 2007
夏季号
中嶋幹(2006)、
「SRI ファンドのパフォーマンス」
、年金レビュー(2006/12)
佐藤拓人(2008)、
「国内 SRI ファンドの公開情報に関する調査」、NFI リサーチ・レビュー
(2008/9)
Nikko Financial Intelligence,Inc.
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