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オイラーの連分多項式

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オイラーの連分多項式
1O08
トポロジカルイ ンデックス と整数論
細矢治夫
お茶の水女子大学(名誉教授)
1. ト ポ ロジ カ ルイ ンデ ッ クス
筆者は 1971 年に、炭化水素の炭素原子骨格のトポロジー的な特徴を数学的に特性化したトポロジカルイ
ンデックス Z(TopIx Z と略称)を提出し [1]、以後長年にわたり、飽和炭化水素の熱力学的諸量と分子のト
ポロジカル構造の間の構造活性相関や、不飽和共役炭化水素のπ電子構造(芳香属性)と分子のトポロジ
ーの間の関係について解析を続けて来た。ところが最近、この TopIx Z が初等数学、特に整数論の基本的諸
概念や問題と密接な関係のあることが判明したので、現在はもっぱらこのことに重心を置いた研究を行っ
ている。ここでは、その中のいくつかについて紹介する。
2. Z の定 義 とオ イラ ー の連 分 多項 式
グラフ G の中で、互いに隣り合わない (disjoint) k 本の辺 (edge) を選ぶ組合せの数を非隣接数 p(G,k)
(non-adjacent number) と定義し、その総和を TopIx Z と定義する。
" n / 2#
ZG =
(1)
$ p(G,k)
k= 0
一方オイラーは、n 個の正の整数の組 (x1, x2,
, x2)に対して、次のように漸化的に continuant(連分多項
式)を定義した
[2]。
!
K0 () = 1, K1 (x1) = x1 , K2 (x1, x2) = x1 x2 + 1,
Kn (x1, x2,
xn) = xn Kn–1 (x1, x2,
,
xn–1) + Kn–2 (x1, x2,
xn–2)
(2)
またこの Kn は次のような行列式で表されることも知られている。
x1 1 0 0 L
"1 x 2 1 0 L
0 "1 x 3 1 L
Kn =
M
O
0
"1 x n"1
0
0
0
M
1
L L
xn
0
0
"1
(3)
連分多項式は連分数の計算を効率よく行うためにオイラーが考え出した概念なのだが、Kn の値を得るた
!
めには、(2),(3)の何れを使っても、漸化的な計算を1方向に進めるアルゴリズム以外は知られていない。
ところが、オイラーのこの連分多項式は、次のような毛虫グラフ (caterpillar graph) の TopIx Z に他ならない
x1–1 x2–1
xn–1–1 xn–1
caterpillar graph Cn(x1, x2, ... , xn)
ことが証明された [3]。あらゆるグラフに対して TopIx Z は定義されているのだから、連分多項式という概
念は TopIx Z に包含されていることが分かる。更に有用な漸化式の適用で計算の簡略化も示した。
3
ペル 方 程式 と ピタ ゴラ ス の三 角 形
ディオファントスの不定方程式の中で、次のようなものをペル方程式という。
2
2
x –Dy =N
(N=± 1, 4, etc.)
(4)
非平方の正の整数 D のもとで、正の整数解 x と y を求める問題だが、このペル方程式の解の多くは、ある
系列のグラフの TopIx Z になっていることが示された [4]。その例を左下に示す。
x2–Dy2=N
!"#$%
12 – 5 ! 12 = – 4
(m, n)
(2, 1)
(5, 2)
(12, 5)
(29, 12)
a
3
21
119
697
b
4
20
120
696
c
5
29
169
985
"
32 – 5 ! 12 = 4
42 – 5 ! 22 = – 4
72 – 5 ! 32 = 4
112 – 5 ! 52 = – 4
&'()*+
Z : ",-
./0()*+
Z : *12345-
a, b : fk = 5 fk–1 + 5 fk–2 – fk–3
a
c
c : fk = 6 fk–1 – fk–2
b=a±1
三辺が全て整数の直角三角形はピタゴラスの三角形 (Pythagorean triple, PT) と呼ばれている。その中で三
辺が互いに素であるものを既約 (primitive) PT という。既約 PT にはいろいろな系列が知られているが、
<<全ての既約 PT の3辺は、毛虫グラフ、しかも鏡映対称をもった SymCat (symmetrical caterpillar)
の TopIx Z として表される>>
ことが証明された [5]。その1例を右上にあげる。これは足(leg)の差が1という有名な系列である。
4
整数 論 のそ の 他の 問題 へ の展 開
紙面が尽きたので詳しくは書けないが、TopIx Z を使うことによって整数論の様々な概念や問題の解釈が
容易になったり、それらの間の数学的関係が明瞭になったりすることが示されている。そのうちの二つの
定理を下に示す。
<<任意の既約有理数は二つの毛虫グラフの TopIx Z の比として表される>>
<<任意の互いに素な二つの自然数からできる一般化フィボナッチ数列を TopIx Z にもつ毛虫グラフの
系列を描くことができる>>
[1] H. Hosoya, Bull. Chem. Soc. Jpn., 44, 2332 (1971).
[2] R. L. Graham, D. E. Knuth, and O. Patashnik, Concrete Mathematics, Addison-Wesley, Reading, MS (1989).
[3] H. Hosoya, Natl. Sci. Rept, Ochanomizu Univ., 58 (1), 15 (2007).
[4] H. Hosoya, ibid., 57 (2), 35 (2006).
[5] H. Hosoya, ibid., 59 (2) 15 (2009).
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