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Ⅱ. イギリスにおける留学生支援: 支援の現場から考える

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Ⅱ. イギリスにおける留学生支援: 支援の現場から考える
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Ⅱ. イギリスにおける留学生支援 : 支援の現場から考え
る
高橋, 彩
北海道大学留学生センター紀要 = Journal of International
Student Center, Hokkaido University, 16: 6-17
2012-12
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/52740
Right
Type
bulletin (article)
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JISC16_001_2.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
g
イギリスにおける留学生支擁-支援の現場から考える 1)
高橋
彩
. (まじめに
1
)の高 等教 育は 、世 界各 国か らの 学生 を引 きつ け百 先進 国に お
イギリス 2
008年のイギリ
いてはアメリカに次いで、多くの留学生を受け入れている。 2
616人に 対
1,
7
スの 官学 生受 入れ 数は 、同 年の アメ リカ の留 学生 受入 れ数 6
5人で ある (文 部科 学省 2010: 5)。
8
5
し415,
イギリ スはか つて強 大な国 力を背 景に多 くの植 民地を 擁する 「大英 帝国 J
とし て繁 栄し 九近 代に おい ては 民主 主義 と資 本主 義を 進展 させ 百国 際的 な
政治 @経 済の 中心 的存 在と して 発展 して きた 。ま た九 オッ クス フォ ード 大
学百ケンブリッジ大学等百歴史的に著名な学問の府があるだけでなし近
年の 世界 の大 学ラ ンキ ング 上位 に入 る大 学を 多く 有す る質 の高 い高 等教 育
の提 供国 とな って いる 。さ らに 可国 にお ける 主な 使用 言語 は国 際的 な共 通
言語 でも ある 「英 語J であ り百 言語 的に も現 代の 国際 教育 市場 で有 利な 位
置に ある 。イ ギリ スは 百歴 史@ 文化 的に 留学 先国 とし ての 魅力 を有 し百 か
つ国際 的な教 育市場 におい て一定 の評価 を与え られて いる。
しか し可 近年 の高 等教 育市 場の グロ ーバ ル化 の中 では 人気 の高 い留 学先
としての地位に甘んじることなし留学生獲得への動きもリードする国で
ある 。プ リテ ィッ シユ @カ ウン シル によ る戦 略的 で国 際的 な英 国文 化@ 教
育の 発信 とと もに 百英 国留 学の ブラ ンド とし ての EducationUKとそのウェ
プサ イト での 教育 機関 の詳 細な 情報 提供 等を 通し た積 極的 な留 学生 誘致 を
) が、英 国は魅 力ある 留学先 である だけで なく九
8
0
0
2
行っ てい る。 田中 (
これら のプロ モーシ ョン活 動にも 力を入 れてい ること を F留学 交流 J 誌 上
で論 じて いる よう に九 日本 にお ける 留学 生受 入れ にお いて も学 ぶべ き点 が
多い。
この よう に百 人気 のあ る留 学先 とし て一 定の 地位 があ り、 かっ 留学 生受
入れに も熱心 な国に おいて 百受け 入れた 後の留 学生は どのよ うに考 えられ 、
対応 可支 援さ れて いる ので あろ うか 。本 稿で は九 留学 生受 入れ の先 進国 と
してのイギリスにおける留学生受入れに対する国レベルでの姿勢につい
て九 そし て大 学の 現場 レベ ルで の態 勢に つい て百 いく つか の大 学に おけ る
留学 生支 援の 状況 を参 考に しな がら 百そ の特 徴を あぶ りだ そう とす るも の
- 6-
である。
ι イギリスの留学生受入れ政策と「韻学経験の麓」
イギリス の国レベ ルでの積 様的な留 学生獲得 の歴史は 長くはな い。多方
面で国の 財政支出 が厳しく 見直され たサッチ ャ一政権 下では、 増大する !日
植民地か らの留学 生への財 政負担に 対し百イ ギリスと EC (現在 EU) 以
外からの 学生によ る教育経 費の全額 負担が打 ち出され たが百ブ レア政権 下
では百社 会@経済 のグ臼ー パル化に よる国際 競争への 対応や留 学生がも た
らす経済 効果への 注目があ り百積極 的な留学 生受入れ 政策が出 された( 奥
村 2011)。具体的には百 PrimeM
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e (以下 PM 1) 第 1期
(2000年 ~2005 年)で大学への留学生 50 , 000 人増が百
PMI 第 2 期 (2006
年 ~2011 年)には留学生 100 , 000 人増が掲げられた 3) 。
イギリス の留学生 政策の推 移を論じ た奥村 (
2
0
1
1
)は
百 PMI第 2期に
おいては 百留学生 の満足度 を向上さ せること を目指し 百出願か ら学業の 修
了まです べての過 程を包含 する留学 生活の質 の向上に も重点が 置かれた こ
とを指摘 している 。留学交 流の「量 」と同時 に「質 J に関心が 置かれた こ
とが百第 2期の政策 の一つの 特徴とな っている 。
では百イ ギリスが 重視する 「留学経 験の質 J4)とは、ど のような もので
あろうか 。ブリテ ィッシユ @カウン シルによ ると「出 版@ピザ 申請手続 き
から可学 業の修了 まで
1
留学環境のクオリティをすべての過程で保証す
るJ 5
)というも のだが百 留学生支 援という 観点から 留学にお ける学生 生活
の質を考 える際司 イギリス の高等教 育の現場 ではどの ような状 況下でこ れ
が論じられているのだろうか。
日本にお ける留学 生支援で は九奨学 金や宿舎 等百経済 的@物理 的な支援
が注目さ れ百国費 留学生へ の支援や 私費留学 生への奨 学金制度 九宿舎建 設
への補助 金等百様 々な政策 がとられ てきた。 一方古学 生生活を 支える人 的
な支援に も関心が 注がれ百 「留学生 10万人計画 J の下での 溜学生数 増大に
対し百国 立大学に おいて留 学生支援 を行う教 職員が配 置された 。一定数 以
の留学生 を受け入 れる国立 大学に設 置された 「留学生 センター 」では刊
日本語と 日本の社 会@文化 について の教育と ともに九 留学生の 生活@修 学
上の指導助言を行う教員が配置された(横田@白こと 2004:60-61)0
しかし百 その留学 生支援を 担当する 教職員の 職務の範 囲や位置 づけ可専
門性は漠 然として 百唆味で あり
(横田@白こと 2004:58-62)百これら の職務
- 7-
に携わ る関係 者の間 で議論 が続い ている 6)O 「専門性J への間 いは百 学生
生活の 質を支 える諸 活動に は何が あり百 それに 誰が百 どのよ うに関 わるか
という議論でもある。
.
3
学経験の質
イギリ スでは 百高等 教育市 場にお ける学 生獲得 競争を 背景に 九学生 の経
) へ の 関 心 が 高 ま っ て い る o Morganによる と「学
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験 (
生経験 の質 J は九「学問上の責務を中心にすべての学生生活の局面(例えば九
)0
Morgan2012: 1
アカデミック百社会的可福祉九支援等)を含んでいる J (
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Morgan~こ与、漏集された Impγo叩!lLg t
) は百その副題が示す通札高等
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Guide1
教育機 関の教 職員向 けの実 践的な 「ガイ ド」で あり百 最初の 問い合 わせや
入学百 到着@ オリエ ンテー ション から中 間オリ エンテ ーショ ン百卒 業や支
援スタ ップ@ 教員の サポー ト古学 生によ るフィ ードパ ックま で百現 場の各
場面に おける ケース @スタ デイを 含む実 践に役 立つ事 例とア ドバイ スが示
されている。
) はす
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1
owley (
しかし 百この 動きは 決して 新奇な もので はない 。 R
0年代に 出版さ れた高 等教育 のマネ ジメン トに関 する本 の一章 で九
9
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でに 1
0年代に 高等教 育
9
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1
学生支 援サー ピスに ついて 論じて おり百 執筆者 自身 1
のマネ ジメン トに関 する本 の中に 学生支 援サー ピスの マネジ メント に関す
) と
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6:1
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る一章が含まれるべきであることは重要である J (
述べて いる。 この本 の編者 も百章 の導入 部分で 「学生 生活の 他の部 分にお
いてバ ランス が悪い 百ある いは問 題を生 じる場 合古学 びはめ ったに 成功し
) と述べ ており 百提供 する授 業を中 心とし た狭義
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6:1
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l句 1
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ない J (
の教育 や学問 だけが 高等教 育を支 えるも のでは ないこ とを示 してい るの。
ここに は百教 育の空 間を個 人の人 生にお ける幅 広い学 びの機 会とし て捉え
ると同 時に百 大学の 運営上 の成功 のため に九そ の空間 を構成 する学 生個人
の「経 験J に注目 すると いう視 点が見 えてく る。
eは百留 学生向 けのイ ギリス の大学 留学に ついて の著作 の中で 九イ
d
百y
ギリス の大学 では退 学率の 高さが 大学の 名声や 国内ラ ンキン グに関 わる問
題であ るため 百問題 を防ぐ ために 様々な 学習@ 生活支 援が発 達して いると
)0 前
4
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2:1
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してお り古学 生支援 サーピ スの利 用を促 してい る (
述した ように 百イギ リスに おける 留学生 政策に おいて も「留 学経験 の質 J
- 8-
が
MI第 2期 に お い て 注 目 さ れ た 。 イ ギ リ ス で は 百 「 留 学 経 験 の 質 J 議
論の背景に百高等教育における学生の経験の質への認識について一定の蓄
積 が あ っ た 。 そ こ で 論 じ ら れ る 「 留 学 経 験 の 質J と は 百 留 学 者 個 人 の 留 学
を 通 し た 幅 広 い 「 学 びJ の満足度の向上であると同時に、 国にとっては百
さらなる留学生獲得とイギリスの留学先としてのイメージの向上に関わる
議論であったと考えられる。
で は 百 そ の 「 質J は ど の よ う に 支 え ら れ 、 留 学 生 支 援 担 当 者 は そ こ に ど
のようにかかわっているのだろう か。
UKCISAは PMI第 2期 に お い
て 百 留 学 経 験 の 質 を 推 進 す る つ ー ダ ー と し て の 役 割 を 担 っ て い る 8)。 こ の
機関はイギリスにおいて留学生に関する研究九調査百関係業務に携わる担
当者への研修や九アドボカシー活動を行い九国際的に活動する大学や他の
高等教育機関百留学生関係機関がメンバーとなっている針。当機関は百留
経 験 の 質 の 向 上 に 対 す る 諸 活 動 を 行 っ て い る が 10)百 そ の 活 動 の ー っ と
PMI第 2期 に お け る 留 学 生 サ ー ビ ス の 向 上 を 検 証 す る た め 五 留
) を発表
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生支援の担当者に状況調査を行い可その調査結果 (
して九
した。
この調査からは百
PMI第 2期 に お い て 目 指 し た 留 学 経 験 の 質 の 向 上 が
回答者に概ね肯定的に捉えられてお仏政策が現場である程度実現されて
いることがわかる。ここで筆者が注目したいのは調査項目である。そこに
は 経 験 の 「 質J を 構 成 す る も の と 仮 定 さ れ る 要 素 が 示 唆 さ れ て い る と 考 え
られるからである。
調 査 で は 百 「 事 前 ( 出 発 前 ) の 情 報J が ど の よ う な 媒 体 で な さ れ て い る
か百言語やスタデイ@スキルに関する事前の教育の提供状況可在学中の提
供状況等が取り上げられている。これは百そこに入学した学生が百どのよ
う な 「 学 習 と 学 生 生 活J を イ メ ー ジ で き る の か と い う こ と と 関 わ っ て い る
と考えられる。また九オンラインでの情報提供百ソーシャル@ネットワー
ク@サイトの利用等も開いている。ここからは九時代の趨勢と学生日線の
支援の提供が九「質 J に関連付けられていることが見え てくる。
ただし百「質 J は 豊 富 な リ ソ ー ス を 背 景 に 支 え ら れ て い る わ け で は な い
という姿も見える。言語やスタデ イ
e
スキル支援は百大学では百課程入学
4%で九
前についてはすべての留学生に無料で提供されているのはわずか1
0%で あ る 。 こ こ か ら は 百 サ ー ビ ス が 無
在学中でも全留学生無料は回答の7
条件@無尽蔵の支援ではなし提供する「商品」としての教育の一部であ
- 9-
ることにつながっているという捉え方ができるのではなかろうか 11)。
また百「あなたの機関では留学生に対する専門的な支援やアドバイスが
J という聞いに対する選択肢に
どの部署で提供されているか(複数回答)
は百「国際オフィス百学生サーピス、留学生アドバイザリー@サーピス市
スチューデント@ユニオンのアドバイスセンタ一、エラスムス学生担当オ
フィス百各部局@チュ…タ一首レジストリ
1
2
)可その他」となっており、
留学生に対する専門的な支援がこれら多様な部署の混合により提供されて
いることが示されている (UKCISA2011:1
1
)。ここからは可留学生の専
門担当かどうかに関わらず各専門部署@事務組織での対応が想定されてお
り百部局や教員はその一部にすぎないことが見えてくる。
さらに
1
学生の評価についても質問しており百留学生のフォーカス@グ
ループがあるか百満足度調査を行っているか等の選択肢がある。留学生の
学生生活を評価する方法やツールにも関心が示されていることからは九
「顧客」としての学生へのまなざしが伺える。
奥村 (
2
0
1
1
) と寺倉 (
2
0
0
9b) は可先行研究をもとに可イギリスの政策
を「顧客モデル J 理念に照らして論じているが、筆者の考察からも「顧客」
としての学生育「商品 J としての教育というスタンスが確認された。そこ
では百「教育 J は狭義の授業を中心とした教育ではなし「官学J という教
育@生活体験全体を対象とする教育空間のことになる。それは百留学希望
者が「イギリス留学Jへのイマジネーションを膨らまし百自らの進路とキャ
リアを検討する事前の情報収集の段階から始まって、留学経験後のフィー
ドパックまで続く。
その幅広い「学びJ の空間を支えるのは百大学内の様々なアクターであ
る。そこには教員や学部だけではなし学生支援の様々な専門部署が入る o
UKCISAの調査からは百「質 J を構成する要素としての専門部署による教
育空間への貢献が読み取れる。ここからはイギリスにおいて可大学がその
組織全体として留学経験の質を保証あるいは支えていくという姿勢が見え
てくる。
4 日本か
イギリスの関学生支擁の特徴-ケースか f
うの考察
「留学総験の質 J を支える大学の現場では何が行われているのであろう
か。以下はイギリスにおける三つの大学のケースより、その支援の状況に
ついて共通した特徴を考察したものである。調査対象は可グラスゴ一大学百
- 1
0-
ロンドン大学ロイヤル@ホロウ ェイ、インペリアル@カレッジ である。い
ずれも各校のウェブサイト上で の情報収集と訪問調査での関係 者への面談
により行った 13)。
000人の
1年に設立された歴史ある大学であり、 23,
5
4
グラスゴー大学は 1
学生を擁する大規模大学である 14)。ロンドン大学ロイヤル@ホロ ウェイ
は百ロンドン大学のカレッジの一 つであり研究重点型の総合大学で 、 9000
000人のフ
4,
人超の学生を擁している 15)。インペリアル@カレッジは約 1
ルタイムの学生が在籍する理系 中心の大学である 16)。これらの大学は、
すべていわゆる
1日大学J であり、(職業教育を主とするの ではない)伝
'
統的な大学教育を提供している 17) 。三大学とも 100~120 カ国以上からの
学生を受け入れている国際的に開 かれた大学である。
イギリスでは九日本とは異な
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入学前の通常の居住地により外 国人学
) かどうかを捉えるため可ここで は各校のいわ
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生 (
ゆる「外国人留学生数」を示す ことができないが百グラスゴー 大学で、
UK.E U圏外からの学生が 13.3%18)可ロイヤル@ホロウェイで約 20%問、
インペリアル@カレッジ 30%20)といずれも外国人学生比率が高 い。各校
の状況については可ウェブサイ ト上の情報と現地での担当者へ のインタ
ビューにより調査した 21)。
イギリスの大学の留学生支援と留 学生を取り巻くイギリスの状況に は、
日本の留学生支援の視点から見て 百大きく二つの特徴があると言え る。
つは可留学生支援や関連サーピ スが百主に事務組織によって支 えられ
ていることである。国際オフィ スなどの国際的な部署が、入国 管理関係の
アドバイス可学生の福利厚生等様 々な留学生支援を組織している。 このよ
うな専門のオフィスー名称は多 様であるがーは、(少なくとも 筆者が訪問
した大学では)新入留学生のオリ エンテーションを組織、主導し、 多様な
(全学の)学生支援を紹介している。
これは百おそらくイギリスにお ける大学の構造と分業の組織的 構造が反
映されているものであろう。筆者が訪問により知り得た範囲では、教員は、
部署の長として可あるいは関連 するところに存在することはあ っても、留
学生支援の主要な運営に携わっ ていなかった。これは、教育と それ以外の
実務的な業務-学生サーピスを 含むーの間に比較的明徳な境界 線が存在す
ることを示唆している。
さらに可留学生支援@サーピス は例外的あるいは特別なものと みなされ
13・4
114
ているのではなく 百全学の学生支援 @サーピスの一部 とみなされている 。
訪問した大学にお いては百留学生オ リエンテーション は国際関連のオフ ィ
スが他の(全学 の)学生関連オ フィスの協力を 得て有企画百運 営されてい
た。例えば百一つの大学でのオリエンテーションでは百ボランテイア可チャ
プレンシー(礼 拝所人地域の警 察等可様々な学 内外のサーピス 提供者@
協力者の代表者 より活動の簡単 な紹介が行われ ている。これら は可集中的
な百あるいは専 門の、しかしも ちろん全学生が 利用可能な学生 へのサーピ
である。
カウンセリング は大学が提供す る専門的で全学 的なものの中で も特徴的
なサーピスであ る。訪問した三 大学ともカウン セリングの専門 家がサーピ
スを提供する部 署をもち百それ は留学生を含む 全学生に利用可 能なものと
して設置されてい た。国際関係のオ フィスは百必要に 応じて九留学生担 当
がカウンセリン グを必要とする 学生を紹介する 百あるいはカウ ンセリング
を含む様々な学生 サーピスへの「ハ ブ」として機能し ている。カウンセ リ
ングについては英 語以外の言語で利 用できるところも あ
k
多様な学生へ
の対応が全学的に認識されている。
このような留学 生支援の組織構 造や態勢は教育 言語と日常生活 言語がど
ちらも英語のた め可能であると 考える。イギリ スの大学では可 通常留学生
は応募@入学手続 き上九英語能力を 証明することが要 求される。よって 五
受入れ大学は当 然のこととして 標準のサーピス を英語で提供す ることがで
きる。これは有 国際化する日本 の大学と大きく 異なる点であり 九日本の大
は英語やと日本 語で教授される コースや百その 他様々なコース に(博士
課程から学部課 程まで)現地語 である日本語を 必ずしも話さな い学生の受
入れを百時として 想定しなければな らない。
文化的可福利厚 生的活動可家族 への支援の提供 は百大学によっ てさまざ
まであった。こ れは百その大学 の留学生の状況 九留学生担当部 署の位置づ
けや期待される 業務内容にもよ るようだ。しか し五訪問したす べての大学
が留学生の福祉に 関心五を持ってお り百自らのサーピ スを広げ百発展さ せた
いという希望を持っていた。
イギリスの留学生 支援には課題が無 いわけではない。 UKCISAの調査や
筆者の調査から 百留学生の入国 に関する増大す る事務作業が留 学生サーピ
ス部暑の重荷に なっていること がわかった 22)。その業務量が もたらす負
荷をめぐり百関 係者の間では留 学生支援の今後 の発展に影響す るのではな
2
- 1
いかという懸念がある。
しかし古前述したようにイギリスにおける学生経験の質の向上を背景に
した留学経験の質への注目は可留学生支援への現場の取り組みの推進力と
して作用していると思われる。また百留学経験の質への注目は百国際的教
育市場の競争において重要な要素の提案でもあり百新しい概念の発信であ
る。このことは可留学生受入れにおける先駆者として九高等教育における
イギリスの国際的地位をさらに強固なものにするだろう。
広おわりに
今回の調査からは百イギリスの大学では百非教員スタッフを中心にした
専門の担当による専門集中型の留学生支援が行われている状況が見えてき
た。また百イギリスの留学生支援の背景には可「留学経験の質」という考
え方があり百各専門の部署がそれぞれの担当業務を通して百個人の経験を
広義の教育空間とのインタラクションの中で捉えるという全人的な教育に
貢献する態勢が見えてくる。しかし百同時に「顧客 J としての「学生」と
いう教育市場の経済的な競争原理の中で学生支援を行う厳しい側面もあ
る
。
イギリスは「英語呂」であるという点で可その「経験の質」を比較的提
供しやすい状況にあると考えられる。複数言語で提供することが必須では
ない場合百専門の資源に支えられた全学の学生支援@サーピスを利用する
ことができる。これは百留学生に標準的な学生サービスがすでに保証され
ていることにもなる。日本のように生活言語の違いを補完する様なサービ
スに力を注がなければならない国から見ると百有利な状況である。
しかし、これは同時に百自国の高等教育を世界的な「標準 J として捉え
がちになる危険性も苧んでいると言えるのではなかろうか。イギリスの高
等教育機関が今後も世界の高等教育市場の主導的な地位を維持するために
は
1
言語や文化の壁 を乗り越えようとしている留学生の力を生かし百学生
A
の多様性を積極的に取り込んでいくような留学生支援をさらに意識する必
要があるだろう。
謝辞:
本調査にご協力いただきましたグラスゴ一大学百ロンドン大学ロイヤ
ル@ホロウェイ百インベリアル@カレッジと UKCISAの関係者の皆様に厚
- 1
3-
く御礼申し上げます。また、本文中ではとりあげませんでしたが可エジン
パラ大学のご担当者様には書面での調査に快く応じて頂きました。有難う
ございました。
:
E
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j
1)本稿は百国際 本部勉強会「グ ローパル時代の 留学生教育を考 えるム
北海道地区留学生担当教職員連絡会議フ。レセッション「海外の留学生
支援から学ぶ」における報告をもとに執筆したものである。
2) 本稿では百「イギリス J は「グレートブリテンおよび北アイルランド
連合王国」を指すものとして使用する。
3) P M1第 1期百第 2期の政策の概要と特徴については百 UKCISAサイ
9b) 参照。
0
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)古寺倉 (
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九奥村 (
eを留学経験と訳した。
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4)本稿で、は i
5)ブリティッシユ@カウンシル
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註
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11日アクセス確認)
12月口
2年 ロ
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(
6)この問題は古田立大学留学生指導研究協議会でも取り上げられ百その
1特集 留学生指導の専
ジャーナルにも特集として掲載されている (
-40ページ)。なお九
門性 J [J留学生交流@指導研究J 第12号 (2009入 5-
日本の留学生政策全般については寺倉 (2009a) 参照。
) も1990年代は政府のイ ニシアテイブ
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7) P
もあり、 S Dの重要性が認識されていたことを論じている。
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8) h
1日アクセス確認)
2月1
2年 1
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(
) に記載されている。
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2
9) UKCISAの組織紹介がUKCISA (
) 活動は奥村 (2011: 4) でも紹介されて おり五調査研究 だけでなし
0
1
パイロットプロジェクトの奨励とその普及等も行っている。問団体は
PMI第 2期の活動について 'PMIStudentExperienceAchieven1ents
) で報告している。
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2006-2011' (London百2
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) と高等教育 (
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) 調査では継続教育 (
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) で分けており百ここで示した数値は高等教育についての
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割合である。
) 学生登録の専門部署。
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) エジンパラ大学は日程が合わなかったため紙面で質問への回答を依頼
した。ここでは参考情報として扱 う。
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) 高 等 教 育 改 革 に よ り 1990年 代 に ポ リ テ ク ニ ク 等 が 「 大 学J に 昇 格 し
た。これらの「新大学 J と対比して用いられている。イギ リスの大学
改革については秦 (
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) 参照。
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) 訪問調査は 2011年 9月に実施した。
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奥村圭子 (
け 入 れ へ の 示 唆- J ウェブマガ ジン
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1年 4月号 Voし1
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pp.1-7
英国留学の 魅力とプリ ティッシユ @カウンシ ルのプロモ ー
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田中梓 (
2月号 Voし20 pp.14-17
008年1
留 学 交 流J 2
ション活動 J U
我が国における留学生受入れ政策一これまでの経緯
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倉憲一 (
0万人計画 Jの 策 定JUレファレン ス J2009年 2月
と『留学生 3
pp.27-47
留学生受入れの意義一諸外国の政策の動向と我が国
9b) r
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2
寺倉憲一 (
009年 3月
へ の 示 唆J Uレファレン ス J 2
pp.51-72
) U変わりゆく イギリスの 大学J 学 文 社
1
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秦由美子 (
我が国の留学生制度の概
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文部科学省高等教育局学生@留学生課 (
要一受入れ及び、派遣 J
横田雅弘
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) U留 学 生 ア ド パ イ ジ ン グ - 学 習 @ 生 活 @ 心 理 を
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白ごと悟 (
いかに支援 するか J ナカニシヤ 出版
プリティッ シユ@カウ ンシル
ウェブサイ ト
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