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敗血症の概念,疫学,診断,治療

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敗血症の概念,疫学,診断,治療
37
山梨医科学誌 30(2),37 ∼ 45,2015
総 説
敗血症の概念,疫学,診断,治療
原 間 大 輔,中 尾 篤 人
山梨大学医学部免疫学講座
要 旨:敗血症(sepsis)は,感染症あるいはその疑いによって生じる全身の炎症反応と,一連の
症候群である。殊に重症敗血症(severe sepsis)/ 敗血症性ショック(septic shock)では高い死亡率
が報告されており,集中治療領域では非常に重要な位置を占める病態である。2020 年までには重
1)
症敗血症の発生率が 100 万例,2050 年にはその倍になると見込まれている 。罹患者の増加が懸
念される一方で,ガイドラインの策定や優れた初期治療法の提唱など進歩の著しい分野でもある。
敗血症において重要な位置を占める炎症反応・抗炎症反応のメカニズムが明らかになるとともに,
様々な新規の治療介入なども試みられている。今回,敗血症の概念,病態生理,治療法に関して,
新旧の知見を交えて紹介する。
キーワード 敗血症,敗血症生存キャンペーン指針,集中治療,炎症反応
Ⅰ.敗血症の概念と診断
合同で行われた会議で,敗血症が初めて,
「全
身性炎症反応症候群(SIRS)を伴う感染症」
近 代 的 な 医 学 の な か で, お そ ら く も っ と
と定義され,その後現在まで最も多く用いられ
も 古 い「 敗 血 症 」 と い う 定 義 は,1914 年 に
る表現となった 。同会議では,SIRS の診断
Schottmuller が提唱した「微生物が局所から血
基準として体温,脈拍,呼吸数,白血球数の 4
流に侵入し,病気の原因となっている状態」で
項目に基準を設け,これらのうち二つ以上を満
ある。この定義では,敗血症とは菌血症を原則
たす場合とした。また,臓器障害,低潅流,低
とするものであり,現在での狭義の敗血症を説
血圧を伴う SIRS を重症敗血症(severe sepsis)
明するものであったが,現在も敗血症を菌血症
とし,適切な輸液を行っても血圧低下を伴う敗
の進行した病態ととらえている人々は,医療従
血症を敗血症性ショック(septic shock)と定
事者も含め多く存在する。現在の敗血症の定義
義した。
の礎となっているのは,1989 年に Bone らが
これにより,「敗血症」自体は非常に広域な
提唱した,「敗血症症候群(sepsis syndrome)」
病態を含む定義となる。例えば,数日間発熱が
2)
3)
という概念である 。それは,「感染を契機と
あり,肺炎と診断され治療を受ける軽度から中
した,体温,脈拍,血圧など全身性の反応を示
等度の症例でも,SIRS の基準を満たすことに
すものである」という内容であり,必ずしも菌
より敗血症になりうる。死亡率の高さや,早期
血症を伴うものではないことが明記されてい
治療の必要性が重要となるのは,同時に定義さ
る。これらを受けて,1991 年の米国集中医療
れた,
「重症敗血症 / 敗血症性ショック」であり,
学会(SCCM)と米国胸部医学会(ACCP)の
敗血症の中から,いかに重症敗血症 / 敗血症性
〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地
受付:2015 年 2 月 7 日
受理:2015 年 2 月 25 日
ショックを早期に割り出し,治療を行うかが重
要視されるようになった。
重症敗血症に至る敗血症を早期に診断するこ
38
原 間 大 輔,中 尾 篤 人
とに際して,上記の定義には 2 つの大きな問題
一つにとどまっている。
があった。1 つ目は,SIRS 自体が簡便な定義
最近の話題として,2005 年に同定されたプ
であり,同時に,重症敗血症の明確な診断基準
レセプシン(sCD14-ST)が敗血症の早期診断
がなかったがゆえに,非特異的な病態のなかか
に有用という報告がある。CRP や PCT よりも
ら真の重症敗血症を診断し,治療を開始するこ
早期から血中濃度上昇がみられ,診断特異性が
との統一性を欠く状況が生じたことである。2
高く,また予後予測にも応用できる可能性があ
つ目は,SIRS の診断基準を満たすことができ
るが,未だ大規模な検証は行われておらず,今
ても,早期からの感染の診断が困難であるこ
後の報告が期待される
9,10)
。
とであった。SIRS 基準の非特異性を克服する
た め に,2001 年 に SCCM,ACCP, ヨ ー ロ ッ
Ⅱ.診断に対するガイドラインの位置づけ
パ集中医療学会(ESICM),米国胸部疾患学
会(ATS),外科感染症学会(SIS)で集まった
現在,全世界的に用いられている重症敗血
International Sepsis Definitions Conference で
症 / 敗血症性ショック治療のガイドラインとし
定義の再検討が行われ,SIRS に代わり生体反
て,Surviving Sepsis Campaign(SSC)によっ
応を細かく評価する新しい診断基準が発表され
て 策 定 さ れ る,Surviving Sepsis Campaign
4)
た 。
Guidelines(SSCG) が あ る。SSC は,5 年
感染症の診断に関しては,古くから白血球数
間 で 重 症 敗 血 症 の 死 亡 率 を 25 % 減 ら す こ
と C 反応性蛋白(CRP)が指標として多く用
と を 目 的 と し,2002 年 に SCCM,ESCIM,
いられてきた。しかしこれらの数値は,手術な
International Sepsis Forum の合同カンファレ
どの生態的な侵襲に対しても上昇することがあ
ンスにより合意・開始された,国際的なキャン
り,感染に対する特異性に乏しかった。そこ
ペーンである。現在,SSC により,敗血症に
で,白血球数や CRP に代わり,全身の炎症反
対する啓蒙活動や,診断精度の向上,治療方法
応に伴い放出されるサイトカインやタンパクが
の改善などを目的とした,様々な角度からの敗
細菌感染症診断のバイオマーカーとして有用と
血症に対するアプローチが行われている。
され,多くの検討がなされている。具体的に
その一環として,2004 年に世界初の重症敗
は,腫瘍壊死因子(TNF)-α や,インターロイ
血症 / 敗血症性ショックの管理指針を示したガ
キン(IL)-6,プロカルシトニンなどがあげら
イドラインである SSCG2004 が発表され,そ
れている。中でも,プロカルシトニンに関して
の 後 も 2008 年,2012 年 と, お お よ そ 4 年 ご
は,ほかのバイオマーカーと比較しての特異度
とに改定が得られている。その最新版となる
が高く
6,7)
,敗血症診断・予後予測に期待がか
SSCG2012
11)
では,副題として“International
けられた。しかし,プロカルシトニンの敗血症
Guidelines for Management of Severe Sepsis
診断に対する感度・特異度はさほど高くなく,
and Septic Shock”とあり,重症敗血症 / 敗血
十分な信頼性を持つには至らないとする意見も
症性ショックに対するガイドラインであること
8)
あり ,現時点での敗血症に対する感染症診断
が強調されている。敗血症の定義は新たに「全
に決定的なバイオマーカーは存在しない。
身症状を伴う感染症,あるいはその疑い」と改
また,バイオマーカー単独の評価ではなく,
訂され,これまで用いられてきた「SIRS」と
体温,脈拍,呼吸数,白血球数,CRP,SOFA
いうキーワードは除外され,感染に関しても,
score の 6 項目を組み合わせてスコアリングし,
疑い症例であれば敗血症と定義できることと
感染症の罹患を予測する infection probability
なった。これまでの敗血症の診断基準で指摘さ
5)
score も考案された 。しかし有用性を疑問視
6)
する報告もあり ,あくまで参考とする手段の
れていた問題点を改善し,特異性を保ち,よ
り早期の重症疑い例に対する診断,治療を意
39
敗血症について
表 1.SSCG2012 における敗血症を疑わせる所見
Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, Annane D, Gerlach H, Opal SM, et al. Surviving sepsis
campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit
Care Med. 2013; 41: 580–637 より引用,一部改変
識した定義となっている。SSCG2012 内の診断
Ⅲ.頻 度
基準には 2001 年の SCCM/ESICM/ACCP/ATS/
SIS による基準を一部改編されたものが採用さ
敗血症に関する疫学的なアプローチは,主に
れた(表 1)。表に示す通り,診断項目は 20 以
管理が行われる ICU を対象としたものが多く
上に渡り,SIRS の基準と比較すると診断にお
みられる。わが国においては,2000 年から厚
ける煩雑さが増すことは否めない。定義からは
生労働省を主体として院内感染対策サーベイラ
SIRS という文言はなくなったものの,今後も
ンス(JANIS)が行われており,ホームページ
敗血症を疑うスクリーニングとして SIRS 基準
上で ICU における敗血症の頻度が 2007 年まで
は一定の有用性をもつものと思われる。
報告されている
12)
。それによると,ICU での
敗血症の頻度は 0.5 – 1.4%となっている。また
日本救急医学会の sepsis registry による,国内
40
原 間 大 輔,中 尾 篤 人
の多施設で行われた ICU 内の重症敗血症につ
カンジダ 43%,アシネトバクター 40%などが
いての報告では,2010 年から 2011 年にかけて
ある。
4.3%の頻度であることが報告されている
13)
。
これらの報告を比較すると,敗血症の頻度が重
Ⅴ.予 後
症敗血症の頻度より低いことになってしまう
が,これは JANIS のサーベイランスが,ICU
新規治療法はいくつも報告されているもの
入室から 48 時間以上経過した患者を対象とし
の,現在もなお高い死亡率が報告されている。
ており,さらに熱傷患者は除外していることな
Angus らの研究では,米国では 1,000 人当たり
どが要因と思われる。
3 人の重症敗血症の発生があるとしており,そ
海外での ICU を対象とした敗血症の頻度は,
の死亡率は 28.5%となっている。これに基づく
ヨーロッパ 24 カ国で行われた疫学研究の報告
と,米国では年間に 215,000 人が死亡している
があり,37.4%であったとされている
14)
。日本
1)
計算になる 。
の報告と海外の報告には大きな差があるが,こ
日本では,大規模な疫学研究の結果がないが,
れは,死亡率でも同様の結果を示しており,日
死亡統計によると敗血症の死亡者数は平成 24
本の疫学上の問題として,純粋に SIRS を伴う
年で 11,474 人,平成 14 年が 6,083 人となって
感染症のみが敗血症として考慮されており,悪
おり,10 年間で約 2 倍の増加がみられる。前
性腫瘍などの基礎疾患を有する SIRS/ 敗血症が
述の罹患率と同様,基礎疾患があっての敗血症
含まれていない可能性を示唆するものとなって
関連死亡の場合,これに含まれない可能性があ
いる。
る。そのため,日本の敗血症死亡者は死亡統計
上の数値以上であることが見込まれる
Ⅳ.感染源と原因菌
16)
。
臓器不全と死亡率の相関は,1 臓器不全で
は 21.2 % だ が,2 臓 器 で は 44.3 %,3 臓 器 で
敗血症の感染経路としては肺炎,尿路感染症
64.5%,4 臓器不全では 76.2%と報告されてい
が多く,腹腔・腸管感染症,血流感染を含め
る 。臓器別にみた予後では,予後不良のもの
ると 80%以上とされる。近年のわが国の ICU
から腎臓,循環器,呼吸器の順に多いとされる。
においては,肺炎,尿路感染,腹腔内感染の
予後予測に関しては,様々な因子が研究されて
み で 重 症 敗 血 症 の 75 % を 占 め る 結 果 と な っ
いるが,多臓器不全の重症度判定に用いられる
13)
1)
。感染の原因菌としては,大腸菌を
SOFA score や APACHE II スコアなどは重症
主とした腸内細菌群 34.4%,黄色ブドウ球菌
敗血症においての予後予測に関わる因子として
30.1%,緑膿菌 28.7%,コアグラーゼ陰性ブド
挙げられ
ウ球菌 19.1%,カンジダを主とした真菌 17.1%
上記のような多くの因子を用いる方法の他
となっている。黄色ブドウ球菌のうち,60%は
に,肥満患者は低体重の患者と比較し,敗血症
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)であ
性ショックに至る割合や,死亡率が低いといっ
ている
るとされている
15)
。
た報告
13)
17)
,様々な報告で用いられている。
や,血中のトロポニン T の定量的な
また,特に血流感染の原因菌としては,コア
評価が予後予測に繋がるといった報告もあり,
グラーゼ陰性ブドウ球菌,大腸菌が特に多く報
様々な角度からの予後予測が行われている
18)
。
告されているが,これらの死亡率はそれぞれ
20%,19%であり,他の原因菌と比較し,必ず
Ⅵ.敗血症のメカニズムと病態
しも高くない。血流感染の有無は必ずしも予後
と直結しないことが考えられる。原因菌のな
敗血症の主体は,感染,またはその疑いを契
かでも特に死亡率の高いものは,緑膿菌 77%,
機とした,全身性の炎症反応である。感染源と
41
敗血症について
図 1.敗血症の病態・SIRS と CARS について
なる細菌やウイルス,真菌には各々が含有する
助長し,敗血症のさらなる悪化を引き起こす
病原体関連分子パターン(PAMPs)が存在する。
という病態が考えられている。このような状
敗血症における炎症反応は,PAMPs をリガン
態を,SIRS に対して代償性抗炎症反応症候群
ドとして認識する,Toll 様受容体(TLR)や
(CARS)呼ぶことが提唱されている (図 1)。
19)
NOD 様受容体(NLR)などのパターン認識受
Ⅶ.初期治療と EGDT について
容体(PRR)によって主に引き起こされること
が明らかとなってきている。PRR がリガンド
と結合することにより,下流のシグナルが活性
重症敗血症 / 敗血症性ショックは,末梢循環
化され,その結果,内因性炎症反応物質として
不全,凝固・線溶異常,心機能障害をメインと
知られるインターロイキン(IL-1β ,IL-6)や,
して,ショックを引き起こし,臓器灌流を低
TNF-α な ど の 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン が 放 出 さ
下させ,多臓器不全へと至る。重症敗血症 / 敗
れる。
血症性ショックの治療成績の向上,予後改善
敗血症ではこれらの炎症性サイトカインの放
のためには,循環動態の安定化が第一の課題
出制御がかからず,過剰な産生によるサイトカ
となる。そのために,初期治療として現在世
インストームと呼ばれる状態が引き起こされ
界的に用いられている治療方針に early goal-
る。その結果,血管内皮細胞の障害に伴う末梢
directed therapy(EGDT) が あ る。EGDT と
循環不全,多臓器不全や,凝固・線溶系の破綻
は,中心静脈圧,平均動脈圧,中心静脈酸素飽
による DIC への発展,心機能障害によるショッ
和度の 3 つのパラメータの目標値を設定し,そ
クに陥ることが病態として考えられている。
れらすべての項目を ICU 入室までの 6 時間以
炎症性反応の一方で,抗炎症性の反応が同時
内に達成することを目標とするものである(図
期から引き起こされることも明らかとなってい
2)。これらを用いた結果,従来治療群の 28 日
る。過剰な炎症性サイトカインの産生が,制
死亡率が 46.5%であったのに対し,EGDT 群
御性 T 細胞の増加や,IL-10 などの抗炎症性サ
は 30.5%と死亡率の低下に寄与したと報告さ
イトカインの過剰放出を引き起こすことによ
れた
り,生体が免疫抑制状態に陥り,感染の遷延を
報告が多く寄せられ
20)
。その後,EGDT の有効性を裏付ける
21,22)
,SSCG にも日本版
42
原 間 大 輔,中 尾 篤 人
図 2. EGDT プロトコール
Rivers E, Nguyen B, Havstad S, Ressler J, Muzzin A, Knoblich
B, et al. Early goal-directed therapy in the treatment of severe
sepsis and septic shock. N Engl J Med. 2001; 345: 1368–77. よ
り引用,一部改変.
の敗血症治療ガイドラインにも推奨度の高い,
Grade1C,Grade1A として扱われることとな
り現在に至る
11,23)
。
心静脈酸素飽和度などの指標は必ずしも必要で
ないことが示された。しかし,重症敗血症 / 敗
血症性ショックといった病態に即時対応のでき
一方で,EGDT に対して必ずしも有用でな
る施設や,十分にトレーニングを受けた医療ス
いという意見もみられる。代表的なものに,
タッフがいつでも適切な初期治療を行える環境
2014 年の 3 月に報告された ProCESS trial
24)
が
は限られており,EGDT は今後も一定の有用
ある。米国の 31 施設の救急外来で敗血症と診
性をもつものと考えられる。
断された患者に対して行われた治療を,EGDT
EGDT の評価に関しては,ProCESS trial 以
群,EGDT のような高度なモニタリングを用
外にも,
ARISE trial
いない治療群,救急・集中治療専門医による治
た大規模な臨床研究が進行中であり,これらの
療群の 3 群に分けて比較を行ったところ,60
評価も待たれる。
25)
や ProMISe trial
26)
といっ
日後の死亡率では,3 群間に有意な差を認めな
かったというものである。これにより,熟練し
Ⅷ.抗菌薬について
た救急・集中治療医の管理は,EGDT と比較
し遜色のないものであること,平均動脈圧や中
循環動態の安定化とともに,感染源のコント
43
敗血症について
ロールと,速やかな抗菌薬の投与が敗血症の管
方で,CARS に対する試みも複数報告されてい
理には必須とされる。特に抗菌薬治療に関して
る。免疫抑制状態に対して,顆粒球を刺激し,
は,SSCG では重症敗血症と診断された 1 時間
免疫賦活化を図ることを目的とした G-CSF の
以内の適切な抗菌薬の投与開始を推奨してい
製剤である fligrastim の投与は感染症患者の合
る
11)
。抗菌薬投与開始が遅れることにより予
併症発生率や死亡率に対する影響を認めなかっ
30)
後が悪化するという報告があり,特に 1 時間と
た
いう数値に関しては,Kumar らが 2006 年に報
を刺激することが知られている GM-CSF は免
告した後向きコホート研究で,敗血症性ショッ
疫抑制状態にある敗血症患者に投与することで
クと診断された患者に対して,1 時間以内に
人工呼吸器装着時間の短縮や,APACHE Ⅱス
適切な抗菌薬投与がなされた場合の救命率が
コアの改善,ICU の在室期間,入院期間の短
79.9%であったのに対し,投与開始が 1 時間遅
縮を認めたという報告
れるごとに救命率は 7.6%低下し,死亡のオッ
対する介入の有効報告はなされない一方で,免
ズ比も有意に上昇することが示されたことに由
疫抑制状態に対するアプローチには一定の有効
来している
27)
。
。その一方で,顆粒球とマクロファージ
31)
がある。炎症反応に
性が期待されている。
抗菌薬の選択が適切に行われることも重要で
基礎的な研究も同様に,炎症,抗炎症それぞ
ある。前述した研究でも,あくまで抗菌薬が適
れに対してのアプローチが試みられている。炎
切に選択されることが前提とされており,病原
症に対しては,PRR を介した炎症反応に対す
体,感染部位などの推定や,薬剤感受性に対す
るアプローチなどが行われている。例えばマウ
る評価が適切に行われることが重要である。
スを用いた LPS 投与による敗血症 モデルに対
Ⅸ.新規治療法における臨床的・基礎的な知見
ることで,炎症性サイトカインの低下が見られ,
し,経口的に ω -3 脂肪酸を含む食餌を投与す
敗血症の症状が改善したという報告
32)
や,大
新規治療法においては,様々な角度から治療
腸菌由来物質で小胞体ストレスを惹起すること
的なアプローチが試みられている。ここでは,
で炎症性サイトカインを減少させ,死亡率を低
主に敗血症の主病態と考えられる炎症や抗炎症
下させたといった報告
性反応のメカニズムをターゲットとした最近の
抗炎症性のメカニズムに対しては,T 細胞機
研究を紹介する。
能を抑制する共刺激分子の PD-1 が注目されて
33)
などがみられる。
臨床的なアプローチとしては,2000 年代に
いる。PD-1 欠損マウスは腸管結紮・穿刺によ
入り,敗血症の全身炎症反応のメカニズムが明
る腹膜炎を引き起こしたモデルにおいて炎症サ
らかになるとともに,それらをターゲットとし
イトカインの減少と,死亡率の低下がみられる
た多くの治療薬の開発,治療効果判定が試みら
報告
れてきた。炎症性サイトカインである TNF-α
の投与が,生存率の改善を認めたとの報告
をターゲットとした抗 TNF-α 製剤を使用する
がある。
34)
や,CLP モデルに対する抗 PD-1 抗体
35)
ことで全身の炎症をコントロールする試みも行
われたが,製剤使用群は,血中 TNF-α の値は
Ⅹ.おわりに
速やかに低下するものの,治療予後には関与
しないことが明らかとなっている
28)
。同様に,
SSC が組織され,そこから初めてガイドライ
PRR のひとつである TLR-4 のアンタゴニスト
ンが発表されてから約 10 年が経過した。1991
である eritoran も,投与効果がなかったこと
年∼ 1995 年の期間で 46.9%だった重症敗血症
が示された
29)
。
SIRS に対する新規治療薬試験が行われる一
の 28 日死亡率は,2006 年∼ 2009 年の期間で
は 29.2%と大幅な減少を認めた
36)
。SSC の掲
44
原 間 大 輔,中 尾 篤 人
げた 5 年間で重症敗血症の死亡率を 25%減少
させるという数値目標は達成されてはいない
が,SSCG の策定や,EGDT の浸透などをはじ
めとした重症敗血症 / 敗血症性ショック治療の
質の向上は確実であるといえる。多くの基礎・
臨床研究も進行しており,今後も治療に対する
継続的な発展が望まれる。
Ⅺ.謝 辞
本論文を投稿するにあたり,ご校閲を頂きま
した山梨大学医学部救急集中治療学講座教授の
松田兼一先生に深謝いたします。
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