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たんすに眠る着物が新たな需要を生み出す ~リサイクルきものショップ

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たんすに眠る着物が新たな需要を生み出す ~リサイクルきものショップ
現場 から
たんすに眠る着物が新たな需要を生み出す ~リサイクルきものショップ「たんす屋」~
〈訪問先〉東京山喜株式会社 代表取締役社長 中村 健一 さん
訪日外国人数が過去最高を更新し,日本文化への熱いまなざしが注がれている。ところが,日本の生
活文化に根ざした伝統的産業は,ライフスタイルの変化に伴う需要の低迷によって非常に厳しい状況に
ある。着物市場も同様で,年間売り上げは1981(昭和56)年の1兆8000億円をピークに,今や3000
億円を下まわっている。そのようななか,リサイクル着物を武器に市場拡大をはかり,業績をのばして
いるのが「たんす屋」だ。運営会社の東京山喜株式会社社長 中村さんにお話を伺った。
■リサイクル着物で潜在需要を掘りおこす
業者に卸すというコンバーターの役目を果たしていまし
「たんす屋」では,ご家庭のたんすに眠っている着物を
た。しかし,供給過多の時代にあっては,多種多様な消
買い取り,リファイン(丸洗い,殺菌・抗菌・消臭加工,
費者のニーズに対応した商品を届けられなくなっていた
検針,プレス)工程を経て,すぐにお召しいただけるコ
ことが露呈したのです。
ンディションとリーズナブルな価格で提供しています。
ところが,着物業界では同様の流通システムの転換は
着物への関心は年々高まっており,若い女性を中心に
まったく進みませんでした。当社がせっかく海外で生産
着物を着たい,買いたいという方は非常に多くいらっし
したリーズナブルな着物も,問屋をいくつも介する昔の
ゃいます。ところが,着物にはたくさんの面倒があり,
ままの流通システムに乗り,そのよさが消費者に伝わら
なかなか購入にはつながりません。その筆頭が,「着物
ない状態が続きました。そこで,仲介業者としてではな
ってお高いんでしょう…」という既成概念です。たとえ
く直接お客様に着物を届けるべく,比較的うまくいって
興味があろうと,100万円をこえる製品を目にしてしま
いた海外工場も手放し,小売業への転換を決めました。
うと,いくらそれがよい着物だとしても容易に買う気に
とはいえ,それまでの得意先と同じ商売をしても競合
はならないのが実情です。
するだけです。とくに,小売業者は高い着物を買ってく
その価格という問題を解決する手段がリサイクル着物
れる特定少数の購買層に繰り返し販売することで利益を
です。日本のご家庭には約40兆円分,8億点もの着物と
得る傾向が強く,新規に顧客を獲得することは困難でし
帯が埋蔵されているという調査があります。当社はその
た。そこで,着物をリーズナブルに提供し,着物を着た
内年間65万点の着物を買い取り,きちっとリファインし
くても手が届かなかった層の潜在需要を顕在化する戦略
たうえで「たんす屋」オリジナルの商品として販売して
をとりました。また,それまで暗い・くさい・きたない
います。新品の着物1セットの価格帯は,通常およそ20
の3K事業といわれた古物商に,自社で企画・生産して
万円ですが,当社の着物デビューセットは1万円から,
自店舗で売るというSPAのアイデアをもち込みました。
小物を含めたお客様1人あたりの購入単価は8000円とな
つまり,古着を「たんす屋」というレーベルの商品の原
っています。従来の着物市場全体が年間延べ150万人に
材料として加工することで,つねに変化する消費者のニ
着物を売っているのに対し,当社では1年間に65万人の
ーズに的確にこたえることを可能にしたのです。
お客様が,70万点の着物や帯を購入されています。潜在
需要を掘りおこすことに成功しており,単価の低さにも
■
「着物スイッチ」をオンにする
かかわらず,年々増収増益を続けています。
最近では,日本文化を体験したいという外国人観光客
がお土産に着物を買われるケースも増えています。ロン
■昔ながらの着物流通への違和感
ドン,パリ,ドバイ,北京,モントリオールなど,海外
もともと当社は百貨店や呉服店などの小売業者に着物
から定期的に買いつけに来る業者さんもいます。着物の
や帯を卸す問屋業を営んでいました。しかし,バブル崩
潜在需要は,日本だけでなく世界中に眠っているのです。
壊以降,消費者の価値観の変化に伴い,高価な着物はな
私は,どなたの背中にも「着物スイッチ」があると考
かなか売れなくなってしまいました。そこで,コストの
えています。今まではたくさんの面倒があり困難だった
低い中国での工場経営を始め,安価で質の高い着物の製
ものの,「たんす屋」の着物であれば誰のスイッチでも
造,卸を通じて消費者のニーズにこたえようとしました。
オンにできると確信しています。そして,着物の裾野を
ちょうどそのころ,ユニクロに代表される商品の企画
広げていくことで,ゆくゆくは高価な着物をお召しにな
から販売までを一貫して行うSPA(製造小売)型の企業
る方も増え,着物業界全体が活性化していくことを期待
がアパレル業界を席巻し,従来型の問屋は立ち行かなく
しています。これからも「着物スイッチ」をオンにする
なってしまいました。確かに問屋業は,需要が旺盛な時
ためのざまざまなサービスを展開し,無尽蔵にある着物
代には,資金力を生かして産地から商品を仕入れ,小売
の潜在需要を掘りおこしていきたいと考えています。
現代社会へのとびら❖2016年度2学期号
18
現場 から
インタビューはp.18
たんすに眠る着物が新たな需要を生み出す ~リサイクルきものショップ「たんす屋」~
■従来の着物業界の流通システム
仕立て業者
原材料(生地・染料)
を仕入れて染色・加工
を経て着物を仕上げる
・下絵
・糊置き
・引染
・蒸し
…etc
それぞれ専門の
職人が行う
小規模分業
の製造工程
染物産地
織物産地
白生地産地
産地
■需要を掘りおこす「たんす屋」のしくみ
たんすに眠る
着物
すぐに着られ
る状態,リー
ズナブルな価
格で販売
今まで着物を買
わなかった層の
需要を創出
多工程化により,以下の構造的問題が顕在化
しているとの声もある
・リードタイム(全ての工程が完成するまで
の期間)の長期化
・高コスト化
・製造側で消費者のニーズを把握できない
・生産者が小売価格を把握できない
〈経済産業省「和装振興協議会配布資料」を元に作成〉
■今後着物を着用する意向のある女性があげる問題点
0
たんす屋
5
どこで購入すればよいかわからない
リファイン
15
20
(%)
25
(複数回答)
価格がわかりにくい(販売価格,最終
仕立て上がり価格が表示されていない)
価格が高い
商品価値に合った価格設定になって
いるのかわからない
気に入ったデザインが見つからない
どのような小物類をそろえればよい
かがわからない
どういうときにどのような着物を選
べばよいか(格)がわからない
消費者
10
気軽に入れる店がない
流通経路
の短縮
全国の店舗
製品を仕入れて小売
店に届ける(複数の
問屋を仲介するケー
スも多い)
消費者
前売り問屋
(卸)
製造問屋
染匠
小売り
(呉服店・百貨店)
染色・加工
生地や反物の状態で販売。
仕立て上がった状態のプレ
タ着物の販売も増えている
20代
30代
40代
50代以上
着こなし方がわからない
着付けができない
手入れの方法がわからない
着物のことを相談できる人がいない
〈経済産業省「和装振興研究会配布資料」を元に作成〉
■着物の面倒を解決する「たんす屋」の取り組み
⃝価格が高い,わかりにくい
➡リサイクル着物や新品のプレタ着物に値札をつけて販売
⃝着付けができない
➡催事でワンコイン着付けレッスンを開催
▲外国人観光客に人気のレンタル着物(東京:浅草)
現代社会へのとびら❖2016年度2学期号
⃝着る機会がない,どこに着て行っていいのかわからない
➡購入者に「お店に見せに来てください」と伝え,着る機会を演出
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